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恋の花は二度咲く?

 僕は今、こりすとともに保健室を飛び出した。教室へ帰るためにーー。


 走りつつも、なぜかまたこりすは両手で胸を覆っている。僕は病気を疑い心配になったので、尋ねてみた。


「ところでこりす。今日はやたらと胸を覆っているけど、具合でも悪いの? さっきも保健室に行ったんでしょ」


「ひゃいっ。こここっ、これは、むむむ、むね、ふ、ふくらんできてっ、はずかしっ……」


「こりす、落ちついて。どうしたの?」


「い、いえっ、なんでもないです! 大丈夫、です」


 僕は首を傾げながらも、校長室前と職員室前を通過し、左手の階段を上る。こりすも後ろからついてきている。




 僕たちは教室に戻った。するとーー。


「……あれっ? ……ハルディさんと木中さんって、そういう関係なんだ」


 予想していたとはいえ、おとなしい引龍に言われるとは意外だった。しかし、僕は開き直る。


「家族なんだから一緒に帰るものだろ! 勘違いするなよ」


 引龍は頷いて引き下がった。


 僕はこりすの『末永くよろしく』という意味を考えながら、教卓に立っている。隣には、ナース服のうさぎ先生。僕は席についたこりすを見つめていると、目が合った。微笑んでいる彼女。かわいい。でも僕がエッチな奴だと知ったら引かれるだろうか? じっと見つめていると恥ずかしくなってきたので、僕は目をそらした。


 目の移動先はたまたま押田の顔だった。彼の目の下にはクマができている。眠れていないのかな? いつもなら、こうやって奴を見つめていると、『ガン飛ばしてんじゃねえよ』と面倒くさい闘争心をむき出しにしてくる。しかし、今日は言わない。うーん、大丈夫だろうか?


「ちょっと、ハルディ君。聞いてる? ねえ」


「えっ、あっ、うさぎ先生。どうしたの?」


「いやいや、どうしたじゃないでしょ。ホームルーム終わりのあいさつは、ハルディ君がする約束だったでしょう」


「あっ、ごめんなさい。えー、コホン。起立。礼。これでホームルームを終わります」


 あいさつ中も押田は座ったままだった。




 ナース服なのにスパルタなうさぎ先生が退出して、教室が騒がしくなった。押田もミソノと一緒だった時は、大いに騒いでいたのに。僕は押田ライオンの下へ行った。


「おい、押田。最近ちゃんと眠れているか? 目の下にクマがあるぞ」


 しかし、返事がない。僕は押田の肩に手を置いて、


「元気ないけど、大丈夫か?」


 心配だった。でも――。


「うるせえな、ほっとけ!」


「いや、そんな言い方はないだろ。疲れているなら、帰って休むといい」


「余計なお世話だ!」


 つっぱった言い方で突っぱねる押田。


「じゃあな、ロボット。俺は胸くそ悪いから帰るぜ」


 やっぱり帰るのね。でも、このまま帰すと無断早退になってしまう。


「待て、早退届けを出してから……」


「お前がうさぎに伝えときゃいいだろうがよ!」


 押田は荒れてる様子で、僕は久々に胸ぐらを捕まれた。でも、すぐに手を離した押田ライオン。その後、彼は手提げ鞄を手にし教室を後にした。やっぱり放っておけない。がむしゃらに教室を飛び出した僕。フラフラと廊下を歩いている押田に、後ろから声をかけた。


「最近やたらと早退が多いけど、家で何をしているんだ?」


 完全に無視された。でも、くじけない。


「今のうちに、きちんと将来のことを考えておかないと、後悔することになるぞ」


 急に振り返った押田に、再び胸ぐらを捕まれて苦しい。


「余計なお世話だって言ってんだろ! 彼女いたことないてめえに、俺の気持ちがわかるかっ。ああっ!?」


 僕は気圧されて、自信なく答える。


「わからない……」


「わからねえならほっとけ! もう俺に近づくなっ。目障りだ!」


 せっかく心配してやってるのに、なんて言い草……。


 僕は思わず、「傷ついた!」と叫んでしまった。続けて、


「僕はお前の将来が心配だ。それなのに……」


「てめえは俺の親かよっ! それに、言葉だけじゃあ信用できねえ」


「心配してなければ、お前はあのとき恐竜に食べられていたはずだ」


 舌打ちする押田ライオン。獰猛(どうもう)な猛獣のような押田の顔から、精気が抜けていった。僕の胸ぐらもようやく自由を得る。肩の力が失われた押田は、僕に背を向けた。そして、呟く。


「お前に心配される筋合いはねえよ。でも……、1人で帰んのもつまんねえから、職員室まで付き合え」


 ユキダルマシンの僕は、大きな顔のせいで隠れている首を縦にふった。それから、ライオンの後をついていく。




 三階から一階まで続く階段を、カモの親子のように連なって歩く僕ら。でも、言葉は交わさない。


 押田の背中も見飽きた頃、ようやく一階にたどり着いた。職員室はすぐ右だ。職員室前に校長の背が見える。また男の背中かよ。……って、職員室からいきなり飛び出してきたミニスカート。しかも、彼女は押田と接触事故を起こしてしまう。地に伏す。いや、巨乳に顔を埋める押田ライオンは苦しそう。あお向けに倒れている金髪女子。押田が上体を起こすと、彼女も頭をあげて警報アラームのような叫び声をあげた! 職員室から血相を変えて飛び出してきたのは、ナース服のうさぎ先生だ。彼女は押田がミソノを押し倒している光景に、驚いている様子で、


「あれっ、押田君とミソノさん。結局仲直りしたのね! それにしても、いくら愛が再燃したからと言って、学校の、それも職員室の前でのお楽しみはいただけないな」


「ちっ、違うっ。あたしはこんな変態なんかと仲直りした訳じゃない! こいつが勝手にあたしの胸に飛び込んできて……」


 目と口を大きく開いて弁明しているミソノから、必死さが伝わってくる。一方、押田も黙っていられなかったようだ。


「おい、ふざけんなよ! いきなら飛び出してきたのはお前だろ。『廊下を走るな』って貼り紙がしてあるだろ」


「なによ、あたしと付き合っていた頃は、『ルールなんて破るためにあるもんだ』なんて言ってたくせに。今はコタツに入った猫みたいに丸くなってしまったの?」


「なってねえよ、てめえが走ったのが悪いって言ってんだ! 歩いてりゃぶつからなかっただろうがっ」


「だったらあんたも気を付けなさいよ! 一方的にあたしだけ悪者にしないでよっ。あんたにも非があるわよ、お互い様でしょ!」


 何この夫婦喧嘩は。僕もうさぎ先生も棒立ちだ。そして、いつまでもくっつきあったまま言い合う2人。


「押田君、せめて、ミソノさんのお腹からその体をどけてからケンカしなさいよっ。乙女の体をなんだと思っているの?」


 咳払いした後に、ゾッとするほど低い声をあげたうさぎ先生。2人は赤面しながら立ち上がり、互いに距離をとった。


(意外に初心(うぶ)だなこの2人)


 と僕が思っていると、再びうさぎ先生が物申す。


「あなたたち、よりを戻してほしいの」


「誰がこいつと!」


 押田とミソノは息をぴったり揃えた。絶妙なコンビネーションで繰り出された言葉に、驚いた様子の2人。この2人、やっぱり馬が合うんじゃないだろうか。現に2人は見つめあっているし……。って、なんか2人とも顔が怖い……。これは、視線のふれあいじゃない。にらみ合いだ!


「なによ変態! 真似しないでよっ」


「そっちこそ真似すんな、ガサツ女!」


 口論はすぐに終わった。ミソノが押田の頬を平手打ちしたからだ。まずい、恐ろしい顔をしている押田ライオンは何をするかわからない! ……というのは杞憂だった。目をへの字にして、嬉しそうに頬をさする押田。その口からは、「うへへっ」と怪しい笑い声が漏れている。ミソノが言うように気持ち悪さは否めない。しかし、ドMは生まれつきだろうから、誹謗中傷に負けずに生きてほしい。僕は嬉しそうな押田を見つめてそう思う。そんな同情を寄せている僕とは違い、ミソノは「キモい」と吐き捨てた。そして、校長室前にある職員玄関の方へかけていった。僕がミソノの後を追うと、彼女は上靴のまま飛び出していった。


「くっそーっ、あのガサツ女。本気でビンタしやがって! 許さんぞ」


 押田も玄関に現れた。正気を取り戻したらしく、ドSっぽい猛獣の形相になった押田ライオン。かろうじて姿が見える距離を走っているミソノを、追跡し始めた。追いつけるはずないのに……。そう諦念を抱いている僕もお人好し、いやおロボ好しだ。やはり、彼らを放っておくことはできないので、押田の後を追う。僕の隣には、いつの間にかナース姿のうさぎ先生がいる。果たして、三重に連なった追いかけっこはどうなるのか?

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