真・恐竜無双
恐竜の足を受けとめている僕はあまりの重さにくじけそうになる。瞳を閉じれば、いつものマイナス思考が姿を現した。僕に手を離せば楽になると囁く。
恐竜の足より先にマイナス思考に押し潰されてしまいそうだ。それに、瞳を閉じれば闇しかない。
「ハルディさん……。がんばって!」
その声は確かに僕の心に光を届けてくれた。瞳を開ければ、視界に光が差し込んで、膝に両手を置いて正座しているこりすの顔が映る。
「ハルディさん、がんばって、がんばってください!」
「ありがとうこりす。もう少しがんばってみる!」
意気軒昂した僕は、力いっぱい足を支える。こりすのおかげで不思議と力が沸いてくる。今の僕は珍しくプラス思考だ。諦めたくない。僕はこりすを必ず助ける!
膠着状態は続く。恐竜も踏みつぶしたいらしく、足に力を入れている。ますます、腕に負担がかかる。パキパキと腕の内部にある鉄の関節が悲鳴をあげている。僕はプラス思考になったはず、そう思っていた。しかし、じわりじわりとマイナス思考の波が押し寄せてくる。どうしようもできないからだ。
「ハッ、ハルディさん、しっかり!」
「ごめんよ、こりす……。もう限界だ。支えるだけでやっと。現状は変わらない」
「わ、わかりました。ハルディさんはよくがんばりました。いつも私を助けてくれてありがとう。そして、何もできないで、ごめんなさい」
「気にするな、こりす。僕は君が側にいてくれるだけでいいんだ」
「でもっ、でも私。いまだに敬語で……。ハルディさんの願いであるタメ口すら使えていなくて……」
「いいんだっ!」
「ハルディ、さん?」
「タメ口を使えない。そんな小さなことを気にしてくれるこりすの優しさが僕は嬉しい。最後に、君の優しさに包まれて、僕は笑うことができた。ありがとう……」
ついに、僕の両腕は力を失なってしまった。恐竜の足が僕たちに迫ってくる! こりすごめん、エリーザごめん、うさぎ先生ごめん、押田……。
「オラァ、恐竜! お前の相手は俺だろうがっ。シカトしてんじゃねえぞ!」
突如僕の耳に飛び込んできた押田の大喝! 恐竜の足がどんどん上昇していく。安心もつかの間、こちらにしっぽが飛んできた。僕はうつ伏せになっているこりすの上に覆い被さり、守った。
強烈なしっぽが命中した僕はシダの茂みにまで吹き飛ばされてしまったが、なんとかスクラップは免れた。
それより、こりすが気がかりだ。僕は視線を茂みからこりすへ移すと、彼女は上体を起こしている。無事で何よりだ。
こりすの隣では、恐竜と押田ライオンの第2ラウンドが始まっていた。今度はしっぽにかみついているライオン。一方の恐竜はうっとおしく感じているらしく、しっぽを左右に大きく振っている。振り落とすつもりのようだが、ライオンはかみついたまましがみついて耐えている。なぜ、ライオンはここまで勝つことにこだわるのだろう? 僕は理解に苦しんでいると、恐竜・ティラノサウルスレックスはしっぽを縦に回転させた。さすがのライオンもこれには耐えきれなかったようで、地面に吹き飛ばされて腰を強打した。悶える彼に、恐竜は開口して頭を近づける。このままでは押田が食べられてしまう。しかし、僕がいる茂みは彼から5メートルくらい離れているので、救援は間に合わないだろう。
だが、それは杞憂だった。うさぎ先生の火遁の術が、恐竜の口内へ侵入した!
「SMプレイといえばロウソクだけど、ドSともなれば火炎じゃないと満足できないの。お次はムチを味わうがいいわ!」
舌を出してヒーヒーと言っている恐竜の舌にムチが襲いかかった! それを見て押田はなぜか微笑んでいる。腰は大丈夫なのか?
さてさて、今や希望の星であるムチちゃんはとういうとーー。あっさりと噛みつかれている。肉を引きちぎるようにムチが食いちぎられ、うさぎ先生はその場にへたりこんだ。
「なっ、なんなの、こいつ……。ドS攻撃はおろか、忍術も対して効いていない。戦意喪失したわ……」
並んで膝をついているうさぎ先生と押田を恐竜は見下ろす。それから、滝の如くよだれをたらし、もうあごが外れるんじゃないかってくらい開口した。
このままでは2人が食べられてしまう。やはり、僕が助けるしかないだろう!




