白亜紀の生き残りか!? ライオンに迫る巨大な影
シダの茂みから飛び出してきた押田に、僕は声をかけようとした。だが、奴はまた茂みの中へ戻っていった。
ずっと押田を見つめていたうさぎ先生はじっとしていられないようで、車を飛び出して奴を追う。全く、熱血教師なのか、はたまた恐れを知らないのか……。茂みの向こうには何がいるかわからないのに。
うさぎ先生が心配になった僕も含めて、車内に残っていた全員が茂みの中へまっしぐら。シダを腕で払いのけて茂みを30歩くらい進むと、開けた場所に出た。その先で蠢いているのは2つの影ーー。
「なっ、なんだこれはーっ!」
僕はあまりの巨体に腰を抜かしてびっくり仰天する。目の前で押田ライオンと恐竜が対峙していたからだ。それも本物のティラノサウルスレックス。押田は7メートルはあろうかという相手の脚をなぜかナックルダスターをはめて殴っている。
一方、恐竜は一切ダメージを受けていない様子で、よだれをたらしながら押田を見つめている。それから、恐竜は微動だにしなくなった。まさか、眠っているんじゃないだろうな。
だが、その考えは甘かった。急に恐竜は大開口した。押田ライオンに鋭利な牙が迫る!
「押田君、逃げなさい!」
突如、手裏剣が舌に突き刺さり、立ったまま悶える恐竜。しかし、せっかく助けてもらったにも関わらず、押田は顔をしかめている。
「うさぎ、何しに来やがった! 俺はお前の面なんか見たくもねえっ」
「助けてあげたのに悪い子だねっ、ムチで叩くわよ!」
「お願いします! ……いやいや、さっきのは嘘だっ、叩くな。お前が余計なことをしてくれたからミソノがいなくなったんだぞっ。どうしてくれるんだ!」
「ごめんなさい。あのときのあたしは、悪いことをしてるあなたをどうしてもムチでしばきたかったので……」
押田はなぜか犬のように舌を出していて、息づかいも荒い。さらに、犬の芸である『おまわり』のように、うさぎ先生の前で四つんばいになり回っている。
「って、なにを犬の真似させとんじゃーっ! ぶっ殺すぞっ」
「あなたが勝手にしたんでしょ!」
2人の会話に水を指すかの如く、恐竜は再び押田に向けて大口を近づける。
「そうはさせないわよっ、忍法・火遁の術!」
もはや何でもアリ、うさぎ先生は口から火を噴いた。煉獄のごとき、猛々しい業火が恐竜の顔に命中した!
恐竜の顔面から噴煙があがるーー。次第に煙は晴れていく。
恐竜はのけ反ったまま動かない。悔しそうな顔をしている押田と、満面の笑みを浮かべているうさぎ先生。ともに恐竜に背を向けた。
ーーそのときだった。突然しっぽが揺れ動き、押田は吹き飛ばされてしまう。そして、よりにもよって僕の方に飛んできた! 衝突し、押田ライオンにのしかかられていて動けない。それなのに押田は、
「男とくっつきあう趣味なんてねえぞ!」
と、僕の腹を踏みつけてきた。頭に来た僕は、
「そもそも、のしかかられたら動けないだろ! たまには、うさぎ先生の言うことを聞いてここから立ち去れっ」
「うるせえ、俺はあの恐竜と戦っていたんだ! もうこれ以上負けたくねえんだよっ」
「なに言ってるんだ、お前はアホか!? あんなでかいやつに勝てるわけないだろ。ほら、みんなで逃げるぞ!」
僕が催促していると、うさぎ先生がこっちに走ってきた。
「だめだ、あいつにはあたしの忍術が通用しない。せっかく、調教のいいカモかと思ったのに」
「恐竜すら調教する気だったのかっ」
うさぎ先生は諦めた様子で膝をついている。彼女に変わって恐竜に突撃したのはやはり押田だ。どこまでバカなんだ? しかし、恐竜は押田を無視してこりすの前まで走り、立ち止まった。それから、人間1人分はありそうな右足をあげた。こりすを踏みつぶすつもりだと瞬時に計算処理した僕は、恐竜の臭そうな足元まで移動した。
「ハッ、ハルディさん。来てくれたです、のねっ!」
「ああ、今助けるからな」
僕はこりすを抱き抱えて逃げようとしたが、足が降り下ろされた。しまった、もう逃げられない。「伏せろ」とこりすに言うと、僕は迫り来る恐竜の足を受けとめた。だけど、これダンベル何個分の重さだ? とてつもなく重くて、腕が軋みちぎれそうだ。でも、ここで諦めたら、僕のみならず素直に伏せてくれているこりすもおせんべいだ。だが、文字通り手も足も動かない。このまま潰されてしまうのか―ー?




