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ライオンの本性と崩壊

「黙ってないで答えやがれっ! なんでてめえだけ三人一組なんだよ、クソロボット」


 押田ライオンめ、吠えるならサバンナで吠えとけ。


「うるさいな、奇数で二人一組なら必ず1人余るだろ。だから、うさぎ先生が許可してくれたんだ。悪いか?」


「スカしてんじゃねえよ、スケベロボット! 言っとくが、この間は負けてねえからなっ。俺が負けるときは死ぬときだけだっ!」


 とか言いつつ拳を僕につき出してきた。相変わらず血の気の多いやつだ。


 しかし、そんなことを考えていた僕は避け損ねた。腹にヒットし、悶え苦しむ僕。


 ……それをうさぎ先生の隣で見ている本物の僕。間一髪、うさぎ先生の『変わり身の術』のおかげで腹が穿たれることはなかった。それにしても、本物の忍術を使えるうさぎ先生が恐ろしい。僕は思わず問うた。


「先生、なんで忍術なんて使えるの?」


 すると、うさぎ先生の両目が光り、


「この日のために、三重県の伊賀まで修行をしに行ったのよ」


「じゃあ、その服は修行着かな?」


「いや、これはおみやげで買ったの」


「どうせ、コスプレの店でしょ」


「今はそんな悠長に話してる場合じゃないわよ。押田君があなたに迫って来るわよ」


「……先生、今ごまかしたな」


「えっ、聞こえなかった」


「いや、先生、助けて!」


「しょうがないわね。忍法……」


 で、出るか忍法!


「忍法、鋼鉄のムチ(アイアンウイップ)! これぞ、愛のムチよっ」


 結局ドS技じゃん! ムチは押田の大事なところを打擲(ちょうちゃく)した。ご愁傷さま、押田君。さっきまでライオンだった彼は、借りてきた猫のようにおとなしくなり、うずくまっている。チンピラを束ねるボスらしくない不様な姿だ。さらに、泣いているのか「くぅっ、くっ、くぅっ」と蚊の鳴くような声でうめいている。ライオン時のレベルが100だとしたら、今は1くらいなので、雲泥の差だ。


 仲間であるチンピラたち4人は、今日で世界が終わってしまいそうなほど蒼白い顔。まあ、ボスが泣いているんだからケンカは敗けだもんな。


 あっ、押田が立った。いまだにうめいているので、僕は泣きっ面を見てやろうとライオンの顔をのぞいた。


 なぜか、笑っている。


「くぅっ。くっくっく。なっ、なんてすばらしい、いや凄まじいムチだ。くっくっく、このやろう。バカうさぎめっ。カイカンウイップ……アイアンウイップとか武器出すの卑怯だろっ、うっくっくっく」


 うさぎ先生、獲物を見つけたライオンのように獰猛(どうもう)な笑みを浮かべている。もうどっちがライオンでウサギなのかわからない。いや、ドSな時点でうさぎ先生はうさぎではないんだろうけど。


「くっそーっ。バカうさぎがっ! ダスターでその服に風穴をあけてやるっ」


 突然ライオンに戻った押田はいきり立っている。どうやら、女性に手を挙げるという暴挙に出るつもりらしい。


 うさぎ先生のお腹めがけてライオンは拳をつきだしたーー。しかし、アイアンウイップに手を叩かれ、ライオンは再び猫になった。


 おぞましい押田の顔がえびす顔に変貌する。嬉しそうな押田ライオンの胸をムチが打擲した。次に脚を打つ。続いて脇腹、腕、手、足に連続ヒットする。普通ならHPが0になってダウンするほどの壮絶な打擲の応酬だったが、押田はいまだに立っている。ヘラヘラしながら。


「エヘヘッ、このまま屈辱的な負けを味わう。それもまたいいぜぇ!」


「押田君、まだほしいのね。それなら、お望み通り、何度でもうちすえてあげる!」


「先生、お願いします!」


 とうとう押田が本性を現しちゃったよ。


 僕が辺りを見回すと、唖然としている様子の生徒、笑い転げてる生徒など反応は様々だ。一方、チンピラたちの反応は……笑っている。


 だけど、唯一顔をしかめている人がいる。ミソノだ。


「忍ってドMだったのね! しかも、うさぎと相性良さそうだしっ」


 ミソノは腕を組ながら嫉妬心を口にした後、SとMがいる禁断の楽園へ向かった。


 さすがにやりすぎなほど背中にムチを入れて喜ぶうさぎ先生。そして、嬉しそうな奇声をあげてるドM男の前までたどり着いたミソノ。


「きもい」


 ミソノは一言吐き捨て、


「うさぎ、あたし帰るから。後は変態同士楽しんでなさい!」


 ミソノは遠足で歩いた道を引き返していった。


 ちょっと押田がかわいそうになった僕は、後方からそっとうさぎ先生に近づいた。そして、両腕を伸ばして彼女のお腹を押さえつける。


「ちょっと、うさぎ先生! 急ぐんじゃなかったのかよっ。そろそろやめておきなよ」


「なによハルディ君っ。あたしの快感タイムを邪魔する気なの!?」


 腰をふって暴れだすドS女王。その姿はなかなかセクシーだ。いや、見とれている場合かっ! 止めなくてはっ。腰より両腕を捕まえなくては!


 それにしても、うさぎ先生の体は左右に激しく揺れてふりこのようだ。しかし、すぐに立ち止まって押田にムチを入れだした。うさぎ先生の両腕を押さえる好機到来だ!


 よし、捕まえたぞっ。それにしても、激しく揺れるな。……バストだ。巨大シュークリームに触れている錯覚を覚える。エラーを起こして腕ではなく、胸を掴んだ失敗作な僕のプログラムを初めて肯定できる。


 うさぎ先生は直立不動で過呼吸、そして笑顔だ。僕の胸が高鳴る。


「ねえ……、ハルディ君。提案していいかな?」


「ど、どうしたの?」


「君が触ってから15秒経過してるの。15回ムチ打ちの刑ってのはどう?」


「こ、これは事故だ。間違いだよ」


 僕はとっさに胸から手を離した。


「ハルディ君、お仕置きよっ。忍法・鋼鉄のムチ(アイアンウイップ)!」


 こうなったら、ジャパニーズトラディショナルディフェンスで対抗するしかない!


「白羽取り!」


 なんと、破れかぶれだったつもりが偶然ムチを両手で挟むことに成功した。一陣の風か吹く。膠着(こうちゃく)状態だ。


 ムチムチな体のうさぎ先生はムチに力を入れている様子はない。もしや、彼女はストレスを緩和し、うつがやってくるのを退ける成分、セロトニンで脳内が満たされているのでは? その影響で冷静になっているかもしれない。本で読んだんだ、多分そうだ。


 うさぎ先生の口の端が歪んだ。でも、彼女の視線は僕には注がれていない。その視線を辿ると、ライオンの怖い顔。一方、うさぎ先生は笑顔だ。やっぱり、ドMの押田は叩かれたいのか、ドSの女王に近づいていく。


「何か言いたそうね?」


 と、不敵な笑みを浮かべるうさぎ先生に押田ライオンが一喝する。


「おい、ミソノはっ、俺の彼女はどこへいった!? ま、まさか俺の情けない姿を見て、愛想尽かしちまったんじゃねえだろうなっ」


 うさぎ先生は黙っている。まさしく押田ライオンの言う通りだったが、彼女は真実を告げない。ドSの女王はさっきとはうって変わって真顔だ。


 今度は僕の方に押田ライオンがよってきた。ライオンに胸ぐらを捕まれ、苦しい。


「こら、ロボット! 俺の彼女がいねえんだよっ。お前知らねえか?」


(それが人にものを聞く態度か)


 僕は思いつつも、真実を告げるのは酷だからと黙秘を貫いた。ライオンは何も言わない僕にイライラしているのか、胸ぐらを掴んだまま前後に揺らしてくる。苦しいのでちょっと喋りたくなったけど我慢する。


 エリーザ、こりすが「離して」と叫んでくれている。その他生徒たちも騒いでいるから、まるで3年1組にいる気持ちだ。


「あははっ、押田よ、ざまあみろ。お前はフラれたんだよ。この変態DQNが!」


 聞き覚えのない声が真実を告げてしまった。さらにたくさんの声が続く。


「押田、今までさんざん悪いことをしてみんなに迷惑かけてきたからバチが当たったんだよ!」


「押田君って変態だったんだね。キモーい」


「おい、引きこもりの引龍以上にキモい男だぞ。押田は!」


 なんか、すごい恨まれてるのね……。わら人形の赤い糸をといたら地獄へ流されるくらい……。生徒たちがやじった影響で胸ぐらから手は離れたが、地に手をついてうなだれる押田に哀愁を感じた。僕は彼の肩に手を乗せ、


「大丈夫か? 人は皆違うって聞いたことがある。ドMでも、お前の個性じゃないか。無個性よりは人間味があって愛着がわくぞ」


 だが、押田は僕の手をはねのけた。


「気休めを言うなっ! 人間はSの方が強いだろうがっ。ドMな時点で敗けなんだよっ、Sにしごかれる運命だっ!」


 僕は無知だから言い返せない。


「俺は何事にも負けたくないんだよっ! でも、お前に負け、うさぎにも負けた。ミソノにも本性がバレた。もう、プライドがズタズタなんだよっ!!」


「なんでだよ。なんでそこまで勝つことにこだわる?」


「うるせえ、お前には関係ないだろ! もう俺に話しかけるなっ。ほっとけ!!」


 ライオンはものすごいスピードで山のふもとの方へ去っていってしまった。

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