これが、いじめの辛さか
玄関先に立っている押田ライオン一匹と、ミソノ、そしてチンピラたちの計4人。
僕が悪者たち一人ひとりに目配せをしていると、押田ライオンが僕に触れそうなほどニヤけた面を突きだした。
「よう、ロボット。ここで何をしている。もしかして、引龍の代わりにいたぶられに来たのか?」
「違う、いじめをっ、や、やめさせにきたんだっ!」
や、やっぱりライオン怖い。で、でも勇気を出して言ってやった。
しかし、押田ライオンは全くビビっていないみたい。それどころか、胸ぐらを掴まれてしまった。
「へっぴり腰のくせに調子こいてんじゃねえよ! ロボットは人間に服従するものだろうがっ。逆らってんじゃねえっ!」
殴られた。有機物の拳にしては鈍い痛みだ。それをこらえつつライオンの手を見ると、先端にトゲのついたナックルダスターが妖しくギラついている。
「フフ、この改造ナックルのトゲは鋼鉄のお前にも効くだろうが! 口から流れてる赤い液体は血か、それともオイルか」
胸ぐらを掴まれたままトゲのパンチ3連発。地面に放り投げられ、コンクリートの床に激突する。
僕は一矢報いようと立ち上がろうとするも、10本もの足に踏みつけられなす術がない。腕や脚だけではなく、心も折れそうだ。
苦痛、僕はそれを身をもって悟る。これがいじめなのだと。引龍が学校に行きたくなくなるわけだよ。
普段はかわいいけど、ほくそ笑んで醜い顔になったミソノに踏まれている。スレンダーな脚やスカートの中がいくら見えたって嬉しくない。
いつも引龍は一人きりで被虐にうち震え、苦汁をなめていただろう。
僕は無力だ。何もできず殴られ蹴られるだけだ……。
「……もう、やめてください」
突如、コオロギの音のような弱々しい声が聞こえてきた。体に相当なダメージを負った僕はセーフモードを使って声の主を探る。
「……彼は関係ない。やめっ、やめて」
引龍が助けに来てくれたのか。あんなに怯えていたのに、勇気を出してーー。
でも逃げろ。とても太刀打ちできるような相手ではない。ターゲットはそもそも引龍なんだぞ。
ほら、ライオンが獲物を見つけたときみたいに鋭利な牙を引龍に突き出してきた!
僕に背を向けている引龍は大丈夫なのか確認したいけどできない。なぜなら、体が動かないからだ。その時、押田ライオンの哄笑が聞こえた。
「あっはっは、ビビってやんの! 寸止めだ。あっさりとお前をぶっ殺しても面白くないからな。いつものように、じわりじわりいたぶってやんよ」
「あ、ああ……。だっ、誰かっ、勇利君、先生、助けて……」
引龍は沈痛な面持ちで僕の方にかけ出してきた。
それにしても、エリーザたちは何をしているのだろうか? 部屋から一向に姿を現さない。
しかし、すぐにその疑問は解消された。いや、なぜうさぎ先生1人なんだという疑問は残る。
「証拠はしっかりとスマホのカメラに収めたわよ。これを学校側に送信するだけで、あなたたち5人の停学は決定! 押田君、引龍君から離れなさい」
「誰が離れるかっ! 教師が制服なんか着やがって。そんなに学校に染まり、身を捧げたいのか、このドMがっ!」
「いえ、これは教室で騒いでいる生徒たちを悩殺するアイテム。あたしはドSよ。それより、3年生の大事な時期に停学はまずいわよね。内申に響くわよ」
「強気だな、うさぎよ。それなら、送信される前にスマホをぶっ壊すだけだ!」
両手を掲げてうさぎ先生に襲いかかるライオン。まさにうさぎを捕らえるライオンだ。
だが、うさぎ先生のステータス、『すばやさ』と『瞬発力』は本物のうさぎ並みに高い。ライオンの突撃を避け、共用廊下を駆けていく。いじめっ子全員が彼女の追尾を開始した。
嵐が去った後の静寂。相当な深手を負った僕の意識はだんだん薄らいでいく……。




