いざ進めや道中 目指すはアパート
ホームルームが終わると、相変わらず教室内は絶叫の坩堝だ。そんな中、僕に近づいてきた人がいる。
今や、すっかり生徒たちに溶け込んでいるうさぎ先生だ。まさか、SMの時間を始めるつもりじゃないだろうか?
その懸念はすぐに払拭。
「ねえ、竹内君って押田君にいじめられてるの?」
一方、うさぎ先生は懸念を払拭できない様子だ。
「さる筋から得た情報によれば間違いない、と」
「やっぱり。押田君も金ヶ崎さんもいろいろあったらしいのよ。前に二者面談でプライベートな悩みを告白してきたわ。とにかく、みんな鬱屈して荒れてるの」
「なるほど。やはり、人間には完全な悪はいないんだな」
「でも、いじめは悪いこと。竹内君の心をズタズタに引き裂いて青春の謳歌を妨げ、一生忘れることのできない傷となってしまうみたいなの……」
「いじめは人の人生を台無しにするんだな……。先生、僕竹内君の家に行ってみたいっ。彼を励ましてあげたい!」
「ええ! 高校3年生は就職に進学と大事な時期。あたしも教師として捨て置けないわ!」
「夕方に行こう! エリーザにお願いして、車出してもらうからっ」
頷くうさぎ先生。服装は生徒でも、その瞳には教師としての熱意が宿っている気がした。
カラスが鳴く放課後。『竹内引龍助け隊』として彼の家に赴くのは、僕ハルディ、うさぎ先生。そして、うちあけてくれた勇利。
勇み足で教室を飛び出した僕たちは、『廊下を走るな』という貼り紙をスルーしつつ、電光石火の早業で階段まで駆けぬけた。
階段を上り降りしている多数の生徒を避けつつ、玄関までノンストップで踏破した。
バーコード頭が確認できなかったので、校長には見つからなかった。
生徒玄関にて靴を履き替える2人を見て、人間は不便だと思う。一方、ここに靴を置いているうさぎ先生のなりきりぶりには感心した。
「ハルディ君、なにボーッとしているの? もしかして故障かな」
そう言うと、うさぎ先生はどこからともなくインパクトドライバーとスパナを持ってきたので、僕は焦る。
「か、考え事してただけだよ。動かないのも省エネだし」
「なんだ、勘違いさせないでよ。せっかく、直してあげようと工具持ってきたのに」
ドSなあなたはなにをしでかすかわかったものじゃないよ!
立ち止まってそう思っていると、再びドライバーの音がした。耳障りだ、車に乗るため、駐車場へ走って行こう!
独走! 学校東の生徒玄関から、南側にある職員玄関前の駐車場までトップをキープしながら走り続けた。
ふりかえると、人間の2人は息を切らしながら必死に僕を追いかけている。そして、うさぎ先生は制服で走っているため、めくれそうになるスカートを必死に押さえている。
よし、スカートの中身を想像しよう……。またドライバーの音がっ! そうか、後ろを向いて走ってるからおかしいと思われたんだろうな。
前を向くと、おあつらえ向きにエリーザの赤いスポーツカーが駐車場に停まっている。
まるで社長のお出迎えじゃないかと快感を感じ、「ごくろう」と言いつつ車内に乗りこむ。
「ちょっとハルディ! あたしはあなたの召し使いじゃないのよ」
僕が調子に乗ったから、エリーザはご立腹の様子だ。
「いやいや、エリーザは運転ができる優秀なロボットだよ!」
「あら、ハルディも気の利いたことが言えるようになったのね」
破顔するエリーザ。とりあえず、機嫌は直ったみたいだ。
しかし、遅れて乗ってきた2人は、「待ってくれてもいいじゃん」と口を揃えてがなる。今度は彼らの機嫌とりをするハメになりそうだ……。
車は人間ナビである勇利の指示に従って進んでいる。
「引龍の住むアパートは、学校からそう遠くない。まずはこの信号を右に曲がるんだ」
急いでいるときに限って、信号は赤のまま。交差点はずっと青で、学生たちが往来している。
「ねえ、早く変わってよ!」
信号はビビったのか、すぐに変わった。苦労して機嫌を直したのに、またうさぎ先生がイラついている。
それでも、勇利は怖じる様子もなく冷静な口調で、
「右折後、二つ目の信号を左折すればアパートだ」
さすが、優秀なエリーザは聞き返すことなく進んでいる。僕がそう考えながら窓の外を眺めていると、またドライバー音がした。
「うさぎ先生、しつこいっ! 故障じゃないっ」
僕の怒りも沸点に達したが、エリーザに「ついたよ」と言われると一気に感情がクールダウン。
なぜなら、辛い思いをしている引龍を是が非でも助けたいという衝動が怒りを呑みこんだからだだ。




