空席の理由は美女と野獣のしわざ
第三章~学校でもネットでも起こるいじめ~
※この章では、リアリティを出していじめの問題提起するために、ショッキングなシーンがあります。ご了承の上、お読み下さい。
家政婦が自首して事件は解決しても、僕は休むことなく登校。
今日はすんなりと教室までたどり着けた。やはり、みんな椅子ではなく、机に腰かけてお喋りしているのでやかましい。
そうだ、この時間のため耳栓を持ってきたんだった。さっそく使おう。
ーー装着。わははっ、サイレント! 僕は無敵だっ。よし、このまま名奉行・うさぎ先生が来るまで耐えて、鎮めてもらおう。
……静かだ。これで、落ちついて教室内を見渡せるな。
それにしても、左側の一番後ろの席はなんでいつもあいているのだろう?
むっ、右肩に感触が。もしやハエだな。
僕は体を揺すって追い払うも、また触感がハエを捉えた。
「ええい、うっとおしいハエだな!」
右肩に鉄の平手打ちが炸裂、手応えあり! ハエよ、僕は無敵だっ。
しかし、なぜか僕の目の前に勇利が転がってきて、人差し指を押さえて悶えている。
慌てて耳栓を外し、「どうした」と尋ねると、
「何がハエだよっ。僕の人差し指だっ……」
「そ、そうか。でも、わざわざ人差し指で肩を叩かなくても。ハエの感触だった」
「相変わらず口が悪いな」
「ごめん、つい……」
「ま、まあ、その……」
「どうした? 勇利」
「母親の借りもある。今回だけは大目にみてやる」
「勇利こそ素直じゃないじゃないか!」
「うっ、うるさいっ。そっ、そんなことより僕の悩みを聞けっ!」
「勇利は欲張りだなぁ。自分で解決できないのか?」
僕が嘆息していると、勇利はポケットからスマホを取りだし、
「あー、もしもし。機島さんのお宅ですか。実は、ハルディさんが学校…で…」
「わ、わかった。聞くからやめて。スクラップになるからっ!」
恐ろしい奴だ。モアイはただでさえ、僕をスクラップにしようとしているのに。
「左端の一番後ろの席があるでしょう」
「ああ、いつも空席だったから、ちょうど気になっていたところだ」
「あそこは僕の友人、竹内引龍の席だ。彼は、教室の真ん中の机上であぐらをかいている押田忍、奴の隣の机上にいる金ヶ崎美飾乃、その2人と向かい合い立っている3人の手下、坊主頭、ツンツン頭、ツーブロックの計5人からいじめにあっていた」
「なるほどな」
「引龍は登校拒否に。でも、僕にも相談してくれなくて……。所詮、ゲーム友達だからだろうか?」
僕は頷いてみたものの、いじめってなんだ? でも、勇利は真剣な顔をしているから、聞くのも恥ずかしいし……。後でこっそりエリーザにヘルプだ。
それにしても、押田忍ってゴツいな。体も鉄でできてそう。無機質っぽい。茶髪ロングで目が細い、まるでライオンじゃないか!
僕と押田の視線がぶつかった。まるで、蛇に睨まれた蛙というより、ライオンに睨まれた雪だるま。
そして、ライオンが吠えた!
「なんだ、お前!? ガン飛ばしてんじゃねえよっ」
「あっ、そのっ、ごめんなさい……」
ものすごい迫力、さすがライオンだ。
まあ、顔だけ番長の勇利も強面具合では負けていないけど。
次に僕が視線をロックオンしたのは、金ヶ崎美飾乃。第一印象はスカート短かっ、胸でかっ。すっかりエロボットになってしまった僕の照準はそこばかり。
金髪で鼻筋の通ったキレイなお姉さんって感じだ。
また押田に視線を戻す。僕のこと好きなのかってほど凝視しているじゃん!
「おい、ロボット! お前俺の彼女をガン見してんじゃねえぞっ。ぶっ殺されてえか!!」
押田だって僕をガン見してるじゃないか! なんて考えてる場合じゃない。押田が立った。でかいし、息巻いてこちらに向かってきた!
ついにライオンの標的になってしまい、怯える僕。
助けてエリーザ、助けて勇利、助けてモア……。いや、なんでもない。
押田の口がライオンさながら大開口した。ゴツい腕を振り上げ、僕に向けて拳をつきだしてきた!
僕は思わず瞳を閉じ、視界から押田を消す。恐怖を抱く僕に聞こえてきた声。
「さあ、みんな。席について」
うさぎ先生だ。助けて!
「チッ」
と舌打ちが聞こえたので開眼すると、押田の背中が見える。
ライオンはうさぎ先生の言うことのみ聞くようだ。
教卓に視界ロックオン! なっ、うさぎ先生っ。その格好は? 多くの男子がどよめいている。
一体、どういう意図で学校のブレザーなんか着ているのか? 首をかしげながら、いつものようにうさぎ先生の横に並ぶと、
「みんな。風のうわさだけど、ハルディ君は優秀よ。昨日、一昨日と悩める子羊たちを救ってくれたんですって。だから、あたしも今日は生徒になってお願いしちゃおうかな!」
そう言うと、先生は最後列の右奥、本日欠席しているこりすの席に座った。
確か、内向的な人間は忙しい日々が続いて疲れたら、1人になって休養しないといけないと聞いたから、こりすは充電中だ。
しかし、教壇に1人立つというのは、なんか責任重いな……。と、プレッシャーを感じていると、うさぎ先生が挙手した。
「はいはーい、先生」
「いや、先生はあなたでしょ!」
「いいからっ。……あたしのペースに合わせなさい」
うさぎ先生、さっきまで子猫のようなかわいらしい声だったのに、急にドスが効いて……。
「先生、あなたの鉄の体をムチで叩いたら、痛みを感じるんですか?」
なにそのデンジャラスな質問。
「も、もちろん、痛みは感じるよ」
なんでほくそ笑むのうさぎ先生!
「はいはーい、先生」
またうさぎ先生かよ……。
「竹内引龍君はどうやったら学校に来てくれますか?」
「さあ? はい、他に誰か質問ある人はいませんか」
その時、うさぎ先生の鋭い眼力が僕の目に突き刺さった。
「う、うさぎ先生。どうした?」
「だから、竹内引龍君のこと教えて下さい!」
「その人はよくわからないけど、いじめなるものをされてるようだから、それがなくなれば来るんじゃない?」
ロボットにしては浅学非才な僕でも、いじめというものはマイナスイメージだとわかる。しかし、なぜかさっきからライオンの視線がチクリと痛い。
「てめえ、チクってんじゃねえよ!」
ライオンが二足歩行したのは驚きだ、なんて余裕ぶっている場合じゃない。のしのしとこちらに近づいてきたよ。
教卓を挟んでにらみあう僕とライオン。やっぱり、百獣の王は迫力がある。
すぐに僕は目をそらす。野性動物の世界では、目をそらすことは敗北を意味するとエリーザが言っていた。それは人間も同じようだ。
「雑魚が、一泡ふかせてやる!」
僕は鉄拳をお見舞いしたけど、気圧されている。僕も凄みを出せたら……。そんなとき、
「ねえ、竹内君をいじめてるのって、もしかして押田君?」
「ちげえよ、うさぎ!」
「押田君、怪しいわよ。後で話があるから、放課後教室に残ってね。あっ、できれば犬のぬいぐるみを着て、背中に『私はMです』って半紙を貼っといてね」
うさぎ先生、保健体育課外授業SMの時間をおっぱじめる意図が見え見えだよ。しかも、ライオンがドM役って笑えるが、当の本人は笑えなかったみたいで、
「うるせえ、誰がドM役なんかになってやるかっ! 今日は胸糞悪いからサボるからな。ミソノ、お前ら、いくぞ!」
肩をいからせて去っていく5人。僕は胸を撫で下ろしたが、うさぎ先生は訝しげにずっと彼らを注視していた。
押田たちが退室すると、うさぎ先生は笑顔になり、ホームルームの終了の音頭をとった。




