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嘘つき戦姫、迷宮をゆく  作者: 佐藤真登
三章

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第五十三話

 リルの所有するアパートは、そこそこ規模の大きいものだ。

 敷地面積も広く部屋数も多く、つくりもなかなかしっかりしている。そこの最上階にして最上位となれば、二人暮らしをしてもまったく問題のないスペースがある部屋となる。

 その自室のベッドの上で、リルはそわそわとコロの帰りを待っていた。


「お嬢様。落ち着いてください」

「お、落ち着いていますわよっ。ななななんですの、わたくしが挙動不審みたいな言いぐさは!」

「……ああ、そうですね、はい。なんでもありませんでした」


 呆れ気味のアリシアに言い返すリルに、ちっとも落ち着いた様子は見られない。きょろきょろと自分の部屋の様子を確認し、なぜか自分の姿を時々手鏡で確認し、手持無沙汰なのが不安なのか枕を胸にギュッと抱いている。

 実はリル、コロを追い出してしまってから今日まで、意地を張り通して部屋に呼び戻していなかった。リルはコロのいない一人暮らしを続けていたのだ。

 そのコロが、今日リルの部屋に帰ってくる。

 実に一週間ぶり以上である。

 コロは宿暮らしをして時々アリシアと連絡を取っていたが、リルは意地を張ってコロとの連絡をシャットアウトしていた。カニエル戦での時こそ、決戦前で昂っていたためいつも通り以上に接することができたが、こうして部屋に迎え入れなおすとなるとまた別種の緊張がそこにあった。


「アリシア。部屋は誰かを招いても大丈夫な状態ですわよね」

「大丈夫ですよ」

「わたくしも、その、格好とか変ではありませんわよねっ」

「……はい。普通です」

「普通っ? このわたくしが美しくないとでもいいますの!?」

「…………はいはい。お嬢様はいつものようにお美しいですよ」


 半年以上一緒に住んでいたコロが戻ってくることに、なんでそんな緊張しているのか。リルのそわそわする気持ちがさっぱり理解できないアリシアは、いつも通り以上にめんどくさいリルを適当にあしらう。

 カニエルの討伐は無事に終わり、祝勝会も終わった。コロは『栄光への道グローリア・ロード』への勧誘を断るために、クルクル同伴でそちらへ向かって帰りは別になったが、その後にリルの部屋に戻ってくることになっていた。


「普通にすればいいじゃないですか。一緒に戦って、宴会までしたあとなんですよ? 何をいまさら緊張することがあるんですか」

「だって……」


 アリシアの問いに、素直でないリルはぶすりとして言葉を濁し、胸に抱いたクッションをひときわ強く抱きしめる。

 一週間を挟んでリルの家に戻ってくるコロを迎えるにあたって、リルはひとつやるべきことを決めていた。

 今度こそ、ちゃんと謝るのだ。

 リルがコロを追い出した時の一方的な口論。もちろん、あの時は折れるべきではなかった。リルがリルとしてあるために、あの叱責は必要だったと今でも思っているし間違ったとも思っていない。

 でも、コロにひどい言葉を叩きつけたのは確かなのだ。

 だから、そのことに対しては謝ろうと心に決めていた。そのために新しいぬいぐるみも作った。たたきつけるように渡した、リスのぬいぐるみではなく長い耳を持ったウサギのぬいぐるみだ。カニエル討伐から宴会までの短期間で必死になって作ったこれを手渡して、あの時はごめん、これからもよろしくと伝える。そうやって、万が一にもわだかまりを残さないようにしたかった。

 自分より目下の者への謝罪。なにを隠そう、生まれも育ちも高貴でプライドの塊みたいなリルにとっては初挑戦の難題である。

 だからこそコロとの顔合わせにどきどきと心臓を跳ねさせて緊張しているリルに、そんなことを伝えられていないアリシアはぽつりと一言。


「お嬢様は恋人の帰りを待つ乙女なんですか?」

「お黙りなさい」


 見当違いのことを言い始めたアリシアに、リルは枕を投擲。アリシアは投げつけられた枕を受け止める。


「なんども言いますが、大丈夫ですよ。いつも通りに迎えて、おかえりなさいと言ってあげれば、コロネルさんは普通に笑ってくれます。お二人の仲なら、それだけでいいんですよ」

「……ふんっ。わかってますよわよ」


 見かねたアリシアの忠告に、リルも冷静さを多少取り戻す。

 そうだ、と思う。

 だってコロだ。コロは、いつだって自分のことを信じてくれる。受け入れてくれる。リルがコロを信じるくらいに、コロはリルを信じてくれているはずだ。

 だから、今回だって大丈夫だ。

 まだかな、とリルはコロを待ち続けた。

 少しくらい遅くなってもいい。ちゃんと仲直りをして、一緒のベッドで寝転がっておしゃべりをして、また明日からヒィーコも含めて三人で冒険に出掛けるのだ。

 まだかな、まだかな、早くこないかな。ちょっと遅いぞ、コロ。

 そう心の中で念じながら、自然と急く気持ちをなだめる。

 当たり前に来るはずの明日を無条件に信じるリルは、無邪気にコロを待ち続けた。




 その晩、コロは帰ってこなかった。




 そうして次の日、リルは戸惑った顔のセレナからある事実を聞かされることになる。

 あの祝勝会の帰り、コロはクルクルを伴って王都で二番手のクラン『栄光の道グローリア・ロード』を訪問。そしてクグツと面会し、加入を承諾。

 リルが一番に信じる妹分のコロは、何の相談もなく別れの一言もなくパーティーから脱退したのだった。



三章がこれでお終いとなります。


かっこいいカニを描きたかった三章でした。

なろうの蟹と言えば、エターナルに足を突っ込んでおられるペンタであらせられます。デンザロス・デンザロス・ペンタレシア。ええ、まだ更新待ってますがなにか?

日本昔話的には、妖怪、蟹坊主。これは普通の悪者。

世界的に有名なのだと、ヘラクレスにつぶされたカニ。蟹座のカニのお話は、よくよく考えるとすごくいい話。あの蟹は、友達のためにかなわぬ敵に挑んだかっこいいカニでした。


自分でもどうしたというような更新ペースでしたが、更新のたびにいただける感想も含めて、反応があるというのは嬉しいものです


次の四章は、コロが準主役になってくれるはずです。二章、三章と途中参加のヒィーコを優遇していた分の盛り返しですね。もちろん、ヒィーコも同じくらい目立つ予定ですが。

とはいえ主役はもちろんリルです。章ごとにリルが成長していく物語であることだけは絶対的にぶれることはないでしょう。

これからも男の子のロマンをリルたちに詰め込む作業を続けていきたいと思いますので、お付き合いいただけたらこれ以上に喜ばしいこともありません。

よろしくお願いいたします。

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【書籍情報ページ】

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――作者の他作品――
全肯定奴隷少女:1回10分1000リン
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――完結作品――
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