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切り裂き魔2


 ミリアーナ・ゼルゼンが死体を操れるのは、もちろん魔法のおかげだ。

 元は一流にして清廉な剣士だったのが、魔剣に魅入られた。

 彼女の現在と過去を語り比べる時には、誰もが肩を落としてそう語る。

 かつて生者だった頃、彼女が魔法として顕現させたのは一本の剣だった。

 取り扱う主すら腐らせる魔剣。バジリスクの吐息の毒性をはるかにしのぐ呪いを秘めた魔剣は、持ち主すらも腐らせる諸刃の剣だった。

 当時、すでに一流の剣士としての栄達を欲しいままにしていたミリアーナに、そんな剣は必要なかった。やっと顕現した己の魔法とはいえ、敵だけではなく自分の命を蝕むような呪いの一品。そんなものに頼るのは剣士じゃないと、むしろどうしてこんなものが自分の魔法なんだと彼女は不服そうにしていた。

 ミリアーナは身一つただの剣一本で迷宮を潜る猛者だった。

 だが、運命は彼女に魔剣を掴みとる道を敷いた。

 それを振るえば死ぬと分かっていてなお魔剣を手に取ったのは、五十階層の階層主の逆走を食い止めるための窮地に陥った時だった。

 強大無比にして、確固たる意志を持った魔物クワエル。

 強靭な甲殻に全身を包み、頭にそそり立つ角をハサミと操る巨大な彼を止めるのは『天秤』の全戦力を費やしても不可能と思える闘いだった。『レベル五十未満が、五人以下』という正規の討伐条件が夢物語でしかないと思い知らされるほど、五十階層主は圧倒的に『天秤』というクランを蹂躙し、地上に向かった。

 それゆえに生前の彼女は、味方を助けるために命をむしばむ魔剣を振るってクワエルを切り殺し、窮地を切り抜けた。

 ミリアーナの尽力により五十階層主が塵となった時に、彼女の仲間は元気に動いていた。

 死体となって、ミリアーナと共に戦っていた。いつの間にか、ミリアーナは死体となった仲間と一緒に戦っていたのだ。

 その時の彼女の気持ちを知るものはいない。その段階で、ミリアーナはまだ確かに生きていた。激闘の傷と魔剣の呪いに蝕まれて半死半生になっていたが、確かに生者だった。

 五十階層主を討伐し、死んだ仲間を引き連れて帰った彼女に、知り合いは一様に慰めの言葉をかけた。英雄たちが死んでしまったと涙した。もう助かるはずもない傷を負った死にかけのミリアーナを見て惜しんだ。

 そんな中、ミリアーナはきょとんと一言。


「どうしたの、みんな。私たちは、ここにいるじゃない」


 衣服は破れ、二度と直らぬ傷に包帯を巻き、死んでも切り殺し続けた狂剣士は、そう言って穏やかに笑った。

 冒険者でありながら町の治安を維持するクラン『天秤』のマスター、ミリアーナ・ゼルゼンが狂ったと、世界が知った瞬間だった。

 ほどなくして、彼女は自分の魔法であり、顕現させ続けている魔剣の呪いによって生体的には死んだ。死んで、なおも仲間の死体と共に動き続けていた。

 死体の中で唯一思考能力を残した彼女は、仲間の死体と共に町の治安を守り、迷宮に潜り続けた。彼女は、腐った仲間を引き連れ戦った。誰に何を言われようとも、決して仲間との死別を認めようとはしなかった。

 一緒に、戦っている。

 そうして、いつの間にか七十七階層を素通りし、八十階層台も踏破しつつある。皮肉なことに、攻略のペースは全滅する前の『天秤』より明らかに上がっていった。

 いまでは九十階層にまで到達するような勢いだ。あるいは百階層まで至ってしまうのではと、人は噂していた。



 ***



 墓地に、一つの死体があった。

 それは、どこからどう見ても死体だった。

 当然、心臓は動いておらず、血液が流れていない肌には紫色の死斑が浮かんでいる。清らかに美しい顔の半分を、また全身のあちらこちらを緩く隠す包帯の隙間からは、死んでからずっと治らず腐り続けていく傷跡が覗いていた。青色の目の瞳孔は開ききって瞬きすることはなく、さらりとした髪は金糸の飾りのように風に吹かれて揺れるだけだ。

 墓地に相応しくあるその死体は、不可侵性の彫刻のようにも、声に出せないほどおぞましく冒涜的な置物のようにも思える。

 ミリアーナ・ゼルゼンは、そんな、ぞっとするほど美しい死体だった。

 思考を形作る生体電流すら流れていないのだから、いまの彼女に思うことなど許されるはずもない。

 だが彼女は、まるで生者のように振る舞いこの町を歩くのだ。

 費やした修練の全てを、生まれ持った才能の欠片すら残さず、掲げて通し貫いた信念を丸ごと、それらを合わせたミリアーナ・ゼルゼンという形をした魂すらも捨てて捧げたがゆえ、彼女は死んでも仲間と共に歩いて、戦っている。

 その日は、静かな夜だった。

 空に月すら見えない新月の夜。かつてクラン『天秤』の拠点があり、いまでは建物を均して墓地になったそこに入った侵入者を察知して、ミリアーナは視線を向けた。

 墓地に、一人の男が立ち入っていた。


「あら」


 ミリアーナは目を瞬かせ、次いで輝かせた。


「あら、あらら、あらあらあら」


 迷いなく近づいてくる男の立ち姿を見て、ミリアーナはころころと鈴を転がすように笑う。

 素晴らしい戦士がそこにいた。

 まるで闘神の化身だった。剣を持つものが一度は夢見るような理想の体現者。天性の強い体を限界まで鍛え上げ、精神を鋼よりしなやかに固くした無双の姿。だというのに彼に徳や善は一切見当たらない。全身に絡みつく悪意と血の匂いは、常人ならば息を詰まらせて死んでしまいかねないほどの圧迫感でもって対峙する人間に押し寄せている。自分がとっくの昔に息をするのを止めていることに、ミリアーナはささやかながら感謝した。

 そうでなくては、己の存在を隠すことを放棄した男を微笑んで迎えることはできなかっただろうから。


「そう。私にもとうとう死神が迎えに来たのね」

「よう、すまねえな、見くびって」


 死神はミリアーナに対して旧友にでも会うかのように片手を上げて挨拶し、軽く謝罪をする。


「五十階層主の奴を煽る前には、一応その上にあるところは下調べをしててなぁ。正直、クワエルに勝てるような奴らはいねぇと思ったんだよ。この町の奴らは、全員死ぬに違いねえってな。だが、あんたは生き残った」

「ふふっ、いやねぇ。私たちは、こうしてみんな戦い続けているわ。クワエルにも勝って、この町を守り抜いたの」

「ああ。あんたらを見くびっちまったことに関しては、反省してもしきれねえ。そうだよなぁ。想いってのは死に際に輝くこともあるんだよ」


 死臭と腐臭をまき散らす夜の墓地で、男と女は穏やかに会話を交わす。

 二人には、一目見て通じ合うものがあった。


「あなた、お名前はなんていうのかしら?」

「クルック・ルーパーだ」

「そう。私は、ミリアーナ・ゼルゼンよ」

「知ってるよ。いい名前だな。生まれの名と、成人の命名。どっちの名付け親も、愛とセンスがあったんだろうな」

「ふふっ。そういうあなたの名前も素敵よ。とっても、あなたらしいと思うもの」


 クルック・ルーパーの名を驚くこともなく受け入れ、自分の名を告げる。

 疑問はなかった。実際、目の前の人物ほどまがまがしい存在を、ミリアーナは他に知らない。


「なあ、ミリアーナ」

「なにかしら、クルック・ルーパー」

「お前は正しい」


 突然の保証に、きょとんとかわいらしく首をかしげる。


「なんのお話?」

「お前の想いのすべてだ。死んでも生き残り、この町をはいずりまわっていること。その全てさ」

「ああ……そんなこと」


 ミリアーナは口元を緩める。


「ふふ、みんなの悪口を聞いたのね。いやよね。あんなに口さがなくしゃべってるのに、聞かれてないと思ってるんですもの」

「ああ。つまんねえ話ばっかりだった。自分の愚鈍さと薄情さを棚に上げてベラベラと、正気だとは思えねえぜ」

「そうよねぇ。みんなおかしいのよ。私のことを狂ってるだ、みんなが死んでるだ。ねえ?」


 慈愛のこもった笑みで、言う。


「私たちが死んでるから、なんなのかしら?」


 この町の住人はミリアーナ・ゼルゼンのことを勘違いしている。誰もが、仲間の死を認められないから彼女は狂ってしまったのだ勘違いしている。あるいは、彼女が死んでしまったからこそ、遺った魔法に突き動かされた異端者だと思っている。

 だが、違うのだ。


「不思議なのよね。私が五十階層主を倒して戻ってきたときにね、みんな泣いたのよ。少しずつ腐っていく私を見てね、慰めの言葉をかけるのよ。死んだ仲間を見てね『苦労したな。ゆっくり眠れよ』なんて、もう何もかもが終わったみたいなことをいうの。変よね? すごく、変よね」


 彼女は仲間が死んでいることくらい、知っていた。己の死を認めていた。けれども、死んでいるからといって関係ないのだ。

 だから彼女は笑みを崩さず主張する。


「死んでるから、みんなと別れろって? 私達が死んだから、この町を守るのを止めろって? 嫌よ。そんなのはありえないわ。死んだくらいでみんなと離れるだなんて、絶対にありえないわ。一時の慰めの言葉と、コップ一杯にも満たない涙をこぼしたくらいで私たちに――『天秤』の功績に報いたなんて、思われたら困るわ」


 それは、穏やかながらも壮絶な笑みだった。


「私たちは、昔からこの町を守ってきたわ。そして、これからも。それは、死んだことくらいじゃ変わることじゃ、ないのよ」

「そうだ。まったくもって、その通りだ」

「そう。私は間違ってないわ」

「ああ、間違ってないぜ。なぜなら――」

「ええ、なぜなら――」

『――人の死を忘れる、この世界が狂ってるから』


 唱和した真実に、男と女は笑いあう。

 二人の間には、共通する絶対の真実があった。


「世の中、薄情者ばっかりで困るわよね。死は、私たちを分かつことなんてできないの。私たち『天秤』とこの町のみんなの関係を、死が分かつことなんてできないのよ。この町のみんなは、そんなこともわからないんですもの」

「はっはっは。いやいや、わかるぜ、ミリアーナ」


 人の死を忘れろと囁く周囲。親しい人物の死を思い出に変える行為。忘却という慰めを絶対に許せないという想い。死が人の終焉だと諦める周囲に対する激怒。

 クルック・ルーパーは、親友の死を忘れた人民を虐殺した。

 ミリアーナ・ゼルゼンは死んだ仲間を引き連れ戦い続けた。

 彼と彼女にとって、死は離別ではないのだ。


「なあ、ミリアーナ。あんた、階層主にならねえか? いまよぉ、百層の権限が空いているんだ」

「あら? なんの話か分からないけど、ダメよ」


 男の誘いに、彼女は自分の魔剣を取り出した。

 命を腐らせる魔剣。こんなものがなくても彼女は一流の剣士であった。鍛え上げた技で一流の剣士であることが誇りであったこともあった。

 そんなものは、とっくの昔に腐り果てた。

 死んで腐り続けて、それでも彼女を突き動かす想いは一つなのだ。


「私たちは、この町を守らなければいけないもの」


 彼女は死んでもこの町を守りたかった。

 だから、死んでもこの町を守っていた。

 ミリアーナの真実は、それだけなのだ。

 

「だからあなたみたいな悪い人の甘言は、聞けないの。詳しい話を聞く必要もないわ」

「……はっはっは。そうかい。なら仕方ねえな」


 死と生の境界がなくなっても、彼女はこの町にある悪事を許さなかった。その想いなく魔法が暴走しているだけならば、とっくの昔にこんな町はすべて死者へと変わっていたはずだ。

 そんなミリアーナの想いに、クルック・ルーパーが双刀を引き抜いた。


「ふふっ、あなたは私が死んでも忘れないでいてくれるかしら?」

「さあなぁ。あんたらはすげえ奴だから、俺がやられちまうかもしれねえぞ?」

「ふふっ。思ってないことを言う男はきらぁい」


 ミリアーナはわざと舌足らずに言って、自分の魔法である魔剣を構える。魔剣の動きに合わせて、地中から数え切れない死体が湧いて出た。

 仲間と一緒に、ずっとこの町を守りたい。

 そんな想いからできたにしてもは、あまりにもまがまがしくねじくれた魔剣。きっとミリアーナは、この魔法を発現させたときに薄々気が付いていたのだ。

 自分たちでは、絶対にいつか迷宮のどこかで死ぬと。

 だから自分を腐らせ、仲間の死体を動かす魔剣なんてものが生まれた。仲間と自分が死んでも、ずっと一緒にいるために。

 自分が生きているのか、死んでいるのか。自分の意思が生前と変わらず残っているのか、それとも魔剣にこびりついた想いに突き動かされているだけの操り人形なのか。

 もうそんなこと、ミリアーナ自身でもわからなかった。


「ははっ。あんたらのことをすげえと思ってるのは本当さ」

「でも、やられる気はないんでしょう?」

「そりゃそうだな。しまったぜ。年頃の娘っ子ならともかく、あんたみたいないい女に適当なホラを吹いちゃ、そりゃ叱られるわな。悪かった。あんたらはすげえが――イアソンには、到底及ばねえ。だから、俺に殺されろ」

「……ふふっ、いやぁよ」


 相手の構えた双刀の刃。魔を払うミスリル合金の輝きは、ミリアーナの天敵だ。魔剣の力で動いている仲間とて、あれに切り払われたら動けなくなってしまうだろう。もちろん、ミリアーナもだ。

 仲間を引き連れて、迷宮に潜って挑戦して。生きて、生きて、生きて、死んで、それでもこの町を守り続けて。

 そして、みんなと一緒にここで眠るのだろう。


「さぁ、戦いましょう」


 これが救いになると、ミリアーナもよくわかっていた。



***



「ミリアーナ・ゼルゼンが死んだらしい」


 町中にある酒場で出た話に、ほっとしたような空気が流れる。


「あの死にぞこない、とうとう墓に潜ったのか」

「墓場でくたばっていたところを発見されたんだとさ。死体はきっちり焼いて、骨も念入りに砕いたってよ。お似合いの死にざまだぜ」

「わからねえぞ。あいつのことだ。今度は亡霊になって魂だけで這いずりまわってもおかしくねえさ」

「冗談。獄卒にはしっかり捕まえていて欲しいね。二度とあんなバケモノを出さないで欲しいぜ」

「でもよぉ」


 解放感から思い思いの心中を吐露する中、ふと、誰かが呟いた。


「誰が、ミリアーナのやつを殺したんだ?」


 しん、と沈黙が落ちる。

 ミリアーナ・ゼルゼンは紛れもなく一流の冒険者だった。狂う前ですら、一流の剣士。皮肉なことにその腕前を捨て魔剣で死体を指揮するようになってからは、一人で一つのクランの戦力を誇るという隔絶した実力者になっていた。

 狂気のるつぼにさまよいながらも、誰の手にも負えない墓守。

 殺した相手が死体の仲間に加わる魔剣士。手を出せば被害が出た分、相手の戦力が増える。行政府ですら干渉を諦めた彼女を、誰が討滅したのか。


「……クルック・ルーパーだ」


 ぽつりとつぶやいたのは、白髪の老人だった。

 闊達な酒飲みだった彼はここ数日で、すっかりやつれていた。憔悴に比例して、依存するように酒の量も増えている。目の焦点は合わずにさまよい、いくら酒を飲んでも、彼の体の震えは収まることがなかった。


「あいつだ……あいつがやったんだ。それ以外に、ありえねえ……!」


 うわごとのように呟く老人に、酒場の男たちは顔を見合わせる。

 何言ってんだ、この爺さんは。自分で言ってることが変わってるぞと、そんな笑いが起ころうとした時だった。

 酒場にいた人間のほとんどが、唐突に斬り殺された。

 笑った顔のまま首が転がり落ち、あるいは心臓を貫かれかれて席から転げ落ちる。誰もが自分がいつ、どうして死んだかもわからずに命を終える中、唯一生き残ったのは、酒ですら酔えなくって震える老人だった。

 その老人は、目で追えないほどの早業で周囲の人間が斬り殺されたことに驚くよりも、その場に現れた男に恐怖した。


「よお」

「ひぃッ!」


 たったの一瞬で酒場にたむろっていた十数人を切り殺した男は、血だまりの中を気にした風でもなく歩き、老人の隣に腰かける。


「久しぶりだな、()()。ああ、別に口のきき方に気を付ける必要なんてないぜ。好きに話せよ。なぁ?」

「あ、ああァ、クルック・ルーパー……。ま、まさか、俺を殺しに……?」

「それこそまさかだな。葬式の帰りに酒を飲みに寄っただけだよ。悪いが、あんたのことは名前も顔もさっぱり覚えてなくてなぁ。どこのどいつだったんだか……ダメだな。思い出せねえぜ」

「や、やっぱりあんたがミリアーナ・ゼルゼンを……やったのか?」

「ああ、いい女だったぜ。おかげで今は、久しぶりに誰でもいい気分なんだよ。くだらねえよな、まったく。今更だぜ。金輪際、期待なんざしねえと思ったのによぉ……クソが。これだから嫌になるぜ」


 血の滴る刃を片手にぶら下げたまま、史上で一番罪深い男があからさまに不機嫌そうな仕草で酒を煽り、立ち上がる。


「まあ、いいさ。どうせあと、二百年とちょっとだ。たった、それだけだ」


 それだけ言って、男は立ち去った。

 この世に実在していることが間違っているような己の違和感を隠すことなく、抜き身の刃をさらしてゆっくりと歩き、誰にも止められるはずもなく町を出た。



 ***



 ミリアーナ・ゼルゼンの死亡が確認され、その遺体を徹底して処分した日は、長く町を守ってきたクラン『天秤』が名実ともに消失した日だった。

 その知らせはあっと言う間に住民の間に伝わり安堵させたが、そんなことを吹き飛ばすかのように町で大量虐殺が起こった。

 ミリアーナ・ゼルゼンが斬り殺され遺体が処分された墓場から道なりに続く死体。帰り道で途中に酒場に立ち寄って、町を出る検問所まで。通りがかって出会ったすべてを切り殺したというような無差別な辻斬りだった。

 唯一の目撃者で生き残った老人は著しく精神を失調しており、一週間もしないうちに衰弱死をした。

 ただ、死に際に一言。


「クルック・ルーパーが、やったんだ……」


 うわごとのようにつぶやかれた言葉は、不思議と世界に広まった。

 あの伝説の悪党ならばやりかねない。あの伝説の大悪党の仕業ならば仕方ない。こんなことをするのは、あの伝説の悪党だけだ。

 それ以後、未解決の凶悪な事件は、これからずっと彼の仕業となって語られる。

 強者の辻斬りはこれからも続く。そして人の世で、悪意と悪事は絶えることなどない。

 そうして人は、恐怖を酒の肴にする。

 世代を超える人斬りは捕まることなく、クルック・ルーパーの亡霊は、いつの時代、どこの都市にも恐怖を刻んだ。


リルの話との温度差ぁ……


あ、二巻が明後日、発売です。

新キャラに美少女二人と怪物一匹が増えたのはいいとして、名前ありのおっさんが一人増えたことに関してはお詫びのしようもなく申し訳なく思ってます

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【書籍情報ページ】

シリーズ刊行中!

――作者の他作品――
全肯定奴隷少女:1回10分1000リン
全肯定奴隷少女によるお悩み相談所ストーリー

――完結作品――
ヒロインな妹、悪役令嬢な私
シスコン姉妹のご令嬢+婚約者のホームコメディ、時々シリアス【書籍化】
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