切り裂き魔
野良犬が多くたむろっている町は例外なくロクな場所ではない。
一匹や二匹の痩せ犬がみじめに徘徊しているのならば可愛げもあるし憐みも覚えるが、肉付きが良い野犬が群れを成しているようなところとなれば最悪だ。
飢え死にをしそうな人間のにおいを嗅ぎつけて、弱って食えそうならば死ぬのを待たずに襲ってくる。そうして人の味を覚えれば、小さな子供や独り歩きしている女を狙うようになっていく。
普通はそうなる前に処理されるのだが、貧民区まで来るとそんな凶暴な野犬の群れが放置されているところもある。
逆説的に言えば、行政と治安機構がまともな町は、野良犬に限らず人間の害になるものは排除されている。
男が足を踏み入れた町は後者の部類で、通りに野犬など一匹もいないような町だった。
よほど治安維持に熱心なのか、普通は目の届かない裏路地から貧民が集まるような外側まで、きれいさっぱりしている。
だというのに入っただけでも町全体の雰囲気が死んでいるのがよくわかった。町全体が葬式の真っ最中のような雰囲気は、男に男はたくましい首を傾けた。
「なんだぁ。ここまで惨めに暗い町は久しぶりだな」
本来、ここはもっと活気があってもおかしくない。
なにせ、史上で三番目に五十階層以下が解放された町だ。半世紀以上も昔の英雄、イアソンのように正規の討伐ではない。三十年近く前から始まるようになった魔物の暴走。五十階層を逆送した階層主を、本来より優位な条件とはいえ討伐せしめたのだ。
そうして誕生した、世界で三カ所しかない五十階層より下の迷宮に挑める町だ。貴重な資源を求めて、あるいはさらなるレベルを上げるためにもっと人が集まってしかるべきだ。
それでなくとも一目見て治安のよいと分かる街だ。実際、五十階層が解放される前に一度、男はこの町に訪れていた時はもっと活気があった。
だというのに、いまや町全体が死んだように静まり返っている。
「クワエルの奴を倒したクラン『天秤』がいるだろうに、ここまで町が陰気になるたぁ、なにしてんだ?」
暗い雰囲気に気後れすることもなく男は町に入る。
町中に制服を着た三人組が歩いていた。あの揃いの制服には見覚えがある。冒険者のくせして町の自警団の立場におさまっているこの町最大のクラン『天秤』の連中だと目を向けて、眉を上げた。
「ほお?」
それは、男をして驚愕を隠せないような者たちだった。制服を着た巡回の三人組は、外から来たにも関わらず一切の違和感がない男を気に留めることなく通り過ぎる。
男は、にやにや笑って驚くべき三人組を見送る。男も相当な強面だが、それでもあの三人のインパクトには劣るなと認めた。目にも鼻にも刺激的すぎる連中だったのだ。
いったい、この町で何が起こってるのか。
不思議に思ったが、男にはそんなことよりも大切なことがあった。
「ははっ。まずは酒だよ酒」
人並み外れた巨漢に、背中に大剣、腰に双刀。いかにも怪しげな男は、それでも誰にも違和感を覚えさせることなく町に入り込んだ。
***
この町には、不気味なほど静かな墓地があった。
別に裕福な墓地ではない。迷宮に挑む、身寄りもないような冒険者たちの共同墓地で、管理者がいるようにすら見えないさびれた墓地だ。
夜の墓地で二人組の男たちが穴を掘っていた。
都の片隅にぽつんと置かれている墓地。そこで穴を掘っているのは、こんな夜中にまで熱心に働いている墓守、というわけではないではない。
墓荒らしである。
「なあ、やっぱまずいんじゃねえか」
「いまさら何うだうだ言ってんだ」
二人の表情は明るくない。二人して目を血走らせている。罰当たりなことをしているという自覚はあるのだ。そして、万が一気がつかれたらという恐怖がある。
だがそれでも、彼らはもう耐えきれなかった。
「いまは見回りの時間だ。あいつのいない隙になんとか奴らの死体さえ焼いて減らしていけば、どうにかなるはずなんだよ……!」
「そうかもしれないが……」
いま男たちが追い詰めた様子で穴を掘っているのは、五十階層主の逆走を止めたのと引き換えに丸ごと全滅したクラン『天秤』の死体が埋蔵された墓だ。数年前に発生した五十階層主の逆走。町一つを滅ぼすような災害を、この町に昔からあるクランが防ぎ切ったのだ。
彼らは全滅したが、奇跡的なことに、この町を救った英雄達の死体が戻ってきた。
そう。
丸ごと全滅したというのに、彼らは五十階層主を止めた。
一人残らず死んだのに、死体が戻ってきている。
その意味を、この町にいる人間は残らず思い知らされていた。
「うだうだ言うのは止めだ。これ以上、この町に――あ?」
むしろ自分に言い聞かせるような男の言葉が止まった。
彼の胸から、鋭い刃が伸びていた。信じられないと言った表情で、自分に刺さった剣のもとを見る。
「いやぁねぇ。死んだって、住みかを荒らされるのはいい気分じゃないのよ?」
精緻な文様が描かれたあまりにもまがまがしい剣。その持ち主は、裸体を包帯で隠した美女である。
肌の色は明らかに血の気が通っていないほど青白く、雑に巻いた包帯からは、ぞっとするような傷口が癒えることなくのぞいている。
死んでもなお艶やかで美しい骸が、人を突き刺した魔剣を握り、夜に微笑む。
「あなたも死んでみれば、今の私たちのいやぁな気分、きっとわかってもらえるわ」
「え」
痛みを感じたのは一瞬もなかったはずだ。生者には扱えない魔剣に刺された男の身体が瞬く間に腐り落ちる。
墓地の地面から這い出た美女は、妖艶に笑った。
「ね? 死んでからこそわかるものもあるのよ?」
墓荒らしの男たちとて、冒険者として活動している。
だが、目の前のそれはあまりにも違った。魔剣を持った包帯女は、墓荒らしが戦ったことのあるどんな魔物よりもおぞましかった。
「み、ミリアーナ・ゼルゼン……!」
「うふふ、そうよぉ。私たちの墓地を荒らすなんておバカさんね。私たちのクラン『天秤』は、この町の秩序の代行者よ? その拠点を荒らそうなんて、すごぉーく、おバカさん」
「な、なんで……いまは、あんたの見回りの時間じゃ……!」
「あらあら。見回りのシフトは時々ランダムにしてるのよ。ふふっ。あんまりにもきちんとしたら貴方みたいに隙を狙う人がいるんだから、規則性なんてつくるわけがないじゃない」
「ゆ、ゆるして、出来心だったんだぁ!」
もはや弁明の余地もない。計りきれない実力差を悟った男は、地面にへばりついて救いを求める。
ミリアーナと呼ばれた包帯女はうーんと可愛らしく頭を悩ませる。
「あら、そんなに謝られると悩むけど……ねえ、みんな? どうする?」
「へ? みんなって他には誰も……」
夜の墓地である。男と包帯女の他、周囲には人っ子一人いない。だが疑問の答えはすぐに出た。
「……!」
ぼこりぼこりと、地面から腐った腕が湧いて出てきたのだ。
そのうちの一本が、男の足首を掴む。
「ひぃっ」
「ああ、そうよね。やっぱり許せないわよね」
「た、たす、ひっ、あぁああ!」
湧き出た無数の腕が、男を冷たい地面の中へ引きずりこんでいく。力の限り抵抗するが、それがどれだけ無駄なことか。彼らは死んでいるが、生きていた時にはこの町でも随一の実力者だった。墓に眠る死骸は、アンデッドとして叩き起こされても力強かった。
「あああ、ああああああああああ許してぇあああああ!」
助けを求めて叫ぶ男を、女性は慈愛の笑みで見送る。
「大丈夫よ。さっきの人もあなたも仲間になるだけだから。墓荒らしなんていけないことをしたんだもの。私たちのクラン『天秤』に入って、きっちり更生しましょう? それで、この町を守るの、。うふ、うふふ、うふふふふふ!」
ミリアーナ・ゼルゼン。
昔に五十階層の逆走を切り抜けた時、多大な貢献を残したクラン『天秤』のクランマスターにして、たった一人の生き残りの死者。
「さて、今日も見回りに行きましょうね」
軽やかに歩き、彼女は新たに加わった死体をも引き連れ町を出た。
血の通わない、青白い肌。包帯の下からのぞく、治ることなく腐り続けていく傷口。見るからに死体の彼女だが、死んだところでミリアーナのやるべきことは変わらない。
昔からこの町の治安維持は、ミリアーナがクランマスターを勤めるクラン『天秤』の仕事だと決まっているのだから。
***
大陸の各所で『クルック・ルーパーが出る』と噂が立ち始めたのは、ここ最近のことだ。
近頃、大陸のあちこちで切り裂き魔による人殺しが横行していた。しかもただの人殺しではない。どれもレベル八十を超えるような猛者に限って狙って殺されるのだ。
イアソンが百階層で消息を絶って半世紀余り。まだまだ五十階層以下が解放されている迷宮は少ない。五十年経って、ようやく七十七階層を超える冒険者が出てきたという状況だ。
そんな中でレベル八十以上の人間を殺せるとなれば相当容疑者は絞られるのだが、実際には全く見当もついていないのだ。
そこから伝説の大悪党が犯人だなどと言われ始めたが、無論、犯人がクルック・ルーパーなどと本気で信じている人間などいない。
半世紀前にクルック・ルーパーが消息を絶って、もはや半ば伝説となっている時分だ。だれぞが大悪党の首魁を挙げたという話はついぞなく、いつの間にか消え去ったからこその伝説。とはいえ、悪行の最盛期の当時で四十を過ぎていた男が消えて五十年である。亡霊ならばまだしも恰好がつくが、大悪党がいまなお生きて人を殺しまわっているのならば、御年九十歳の連続殺人鬼かと笑い話になっている。
退屈を紛らわすためなら、他人の生き死になんて平気で肴にして酒を飲むのが人間だ。
この町の酒場でも同じこと。誰よりも無責任な酔っ払いどもが集まるなか、白髪だらけの老人がバカバカしいと顔をしかめていた。
「馬鹿らしい。こんな辻斬りが、あの悪魔の仕業のはずがねえだろうが」
「へえ、伝説の大悪党は現役の連中をいじめないってか? お優しいねえ!」
「馬鹿かてめえは」
けっ、と吐き捨てるのは、六十も半ばの爺さんだった。
若い頃にクルック・ルーパーとイアソンの一戦を一目見たことがあるんだというのが自慢の種で、よくこの酒場で管を巻いている。酒が切れると手の震えが止まらなくなるようなもうろくじじいで、一日中酒場の一席を陣取って若者に絡むのが生きがいとなっている。
若者への説教が趣味の老体としては、いつもは自慢にしているクルック・ルーパーが笑い話になっているのが面白くないのだろう。
「あの人でなしがよぉ、殺し相手にこだわるわけがねえ」
その言葉に、なるほどと納得する空気が流れる。
男も女も老人も子供も王も平民も敵も味方もなく殺しつくしたからこその大悪党だ。欲望を満たすために殺すのではなく、ただ殺すために世界を駆けまわった悪鬼である。唯一、彼を退けることができたのは、イアソンのみ。そんな悪党が、今更腕自慢なんてするわけがないだろうと、老人の弁には意外な説得力があった。
「なんだよ、じいさん。あんた適当なほら吹きかと思ったが、意外と本当に昔、会ったことがあるのか?」
「ああん? あたぼうだろうが、若造が。てめえ、そこそこの歳みてぇだが、年上になんて、口の……きき、かた……」
からかうような言葉に、老人はとうとう呂律でも回らなくなったのか突然黙り込む。さらに悪酔いでもしたのか青ざめて、突然ぶるぶる震えはじめた。
酒を飲まなければ正気じゃいられないと自慢するような老人である。なにかの拍子に酔いが切れたのかと心配されることもなく話は進んでいく。
「でもよぉ。もしクルック・ルーパー様がレベル八十越えのやつを殺して回ってるってんなら、どうせならあいつを殺してくれねえかな」
「ああ……あいつか。ほんと、何とかならねえもんかな」
「役人どもも見て見ぬふりだからな、あいつには」
「ん? 誰のことだ」
「は? 決まってんだろうが」
推理も何もなく、無責任な話題は移り変わる。そんな酔っぱらいどもの話の中で、ポツリと一人の女の名前が出た。
「『天秤』のクランマスター、ミリアーナ・ゼルゼンだよ」
その名前に場の雰囲気が沈鬱なものに成り下がる。
ミリアーナ・ゼルゼン。
それは、この町でもはや禁忌となり果てた人間の名前だ。
ミリアーナは明確に犯罪者とされているわけではない。決して悪党でもない。むしろ、彼女の人間性は善性のものだ。かつてはこの町で一心に羨望と憧れを集めていた。
それも、とうに腐り果てた栄光だ。
不意に鼻が曲がるような悪臭が漂ってきた。
仮にも飲食店にあるまじき、肉が腐った匂い。見るよりも早く激臭で知らせる存在に、今度こそ空気が凍り付く。
「あら、私の話?」
話の人物、ミリアーナ・ゼルゼンが現れた。
服すら纏うことを止めた包帯姿。異様な格好した三十手前の美女だ。爛熟しきった肢体と美貌を持つ女性だが、包帯からのぞく痛々しい傷口は男の劣情を著しく削ぐ生々しさがあった。
彼女は、一人ではなかった。
ミリアーナの周囲には多くの取り巻きがいる。そしてその取り巻きは、一人残らず死んで腐っていた。
「い、いや。この町の外の話だよ。この町の守護者のあんたらには、まったく関係ないさ」
「ふふっ。町の外のお話には興味があるわ。私たちにも、聞かせてくれない?」
引きつった周囲の反応に構わず、死体を引き連れたミリアーナが、なんのためらいもなく席に混ざる。
腐りかけの死体から、白骨化したものまで。増えた客人に、店内全員の顔が蒼白になった。
「い、いや、あんたらに聞かせるような話じゃねえよ。は、ははっ。なあ?」
「お、おう。そうだよ。へ、へへへ」
「あら、そう? ……ね、まさかだけど」
うすら笑いを張り付ける男たちの顔を、柔らかく笑ったミリアーナの美貌がのぞき込む。
「『天秤』の私に聞かせられないような、悪だくみだったりする?」
その問いかけに対する反応は劇的だった。
この町に置いて代々築き上げてきた功績でもって、自警団でありながらある程度の裁量権を与えられたクラン『天秤』。そのマスターである彼女は、犯罪者を裁く権限を与えられている。特に粗暴な犯罪者を自分のクランに入れて更生させる、というのは『天秤』が慣習的に行っていたことで、多くの若者を更生させていった彼らの行いは支持されていた。
だが、いまのミリアーナが行う『更生』は、まったく意味が違っている。
いまの彼女は『更生』と称して、いま引き連れているような自分の『仲間』を増やしているのだ。
「いやっ! そそ、そんなことじゃねえよ!!」
「そうっ。本当に大した話じゃねえんだ! なんでも、クルック・ルーパーが辻斬りをしてるなんていう、くっだらねえ噂さ!」
「それだけだっ。誓って本当に!」
「あらら、そんな噂があるのね。クルック・ルーパー……それは、こわいわね」
全力で潔白を訴える男たちに、ミリアーナは目を丸くして自分の仲間の死体に顔を向ける。
「でも大丈夫よ。この町には私たちがいるじゃない。五十階層主さえ打倒したクラン『天秤』が守っているもの。だから安心してね、みんな」
ミリアーナの声に、死体は動作で応える。あるいはミリアーナに賛同するように頷き、あるいは気さくに白骨化した手を振る。死体に話し掛ける自然な仕草こそが、彼女の異常を浮き彫りにしていた。
死体の連中は、出された食事をつまみ、飲み物を口に流し込む。しゃれこうべからぶちまけられて床を汚し、腐りかけの腹からボロボロと食ったものが飛び出て落ちる。
異常な光景だ。だがきっと優しく微笑むミリアーナの目には、往時の仲間と一緒に食卓を囲んでいるように見えているのだろう。
「そ、それより見回りの最中だろ?」
「お、おお。この町の正義の剣を一人占めにしたとあっちゃ恨まれちまう!」
「あらあら、嬉しいことを言ってくれるわね。そうよね。ご飯もすんだし、行きましょうね」
男たちの言葉に促されたミリアーナが立ち上がる。死体を引き連れ外に出た彼女を見送ってから、その場にいた男たちは一様に頭を抱えた。
「死体遊びのクソアマが……」
「見たか? 増えてたぜ、また」
「見覚えあるよ。確か若手の冒険者のやつだろ。耐えきれなかったんだな」
「町を死体が見回ってんだぞっ。まともな精神で耐えられるかよ!」
過去、この町で起きた五十階層主の逆走を防衛した代償にクラン『天秤』は壊滅した。
町が誇るクランの壊滅に、住民は当初、涙した。五十階層主の逆走を乗り切った安堵よりも先に『天秤』の壊滅を悲嘆した。彼らはただ迷宮に挑むだけではなく、自警団として町の治安に大きな貢献をしてきたクランでもあったのだ。
そんな周囲をよそに、唯一生き残ったミリアーナは死んだ仲間の死体を引き連れ町の治安を守り始めた。生前とまったく同じ行いを、死んだ仲間と共に死後も続ける。そんな異常なことをし始めた彼女を止められる人間はいなかった。
【レベル八十八:ミリアーナ・ゼルゼン】
彼女は、この町で最強の冒険者なのだ。五十階層を通過してからも止まることなく進み続け、いまや九十に迫るその値。まだ五十階層が解放された迷宮は世界でたったの三つ。世界の多くの冒険者が五十階層手前で足踏みをしている現状で、彼女の実力は突出していた。
この町でも、同じことだ。
もとより『天秤』自体が、この町で最大のクランだった。彼らに続くような冒険者は、一人としていない。
「ありゃ確かに、とんでもねえ女だな」
「とんでもねえですむ話かよ。誰かどうにかしてくれよ……気がおかしくなりそうだ……!」
「無茶言うな。行政が匙を投げたバケモンだぞ。手の付けようがねえんだよ」
死体を引き連れる彼女は、この町で万全の治安を維持しつづけている。皮肉にもクラン『天秤』がまともであった頃よりも、犯罪率そのものは劇的に低下している。
当然だろう。犯罪がミリアーナの目に付けば、更生と称して殺され死んでからも死体を玩弄されるのだ。
沈痛な空気の中で、ミリアーナが来る前から態度をまるで変化させない二人がいた。
一人は、うずくまって震える白髪の老人。彼はミリアーナが現れても目もくれず、ただただ一人の男の正体を知ってしまった恐怖で震えていた。
そして揺るがないもう一人は、その老人の視線の先にいた。
「はっはっは!」
酒の席になんの違和感もなく混ざっていた巨漢の男は、久方ぶりの愉悦に目を細めた。
「あんないい女を見逃してたってのなると、俺もまだまだだな」
ミリアーナが残した腐臭を気に留めた様子もなく、酒を喉に流し込んだ。