第十四話 光
「あー……疲れたっす」
「俺もだな。右手、ちょっとやけどしたぞ」
「うお、兄貴の防御を抜いたんすか? マジであの子すごいっすね」
彼らは、うずくまるリルにまるで注意を向けていない。リルの傷は、軽傷の部類だ。まだまだ動ける。戦える。その身を振り絞れば、あがける。
だが、そんなことをしないだろうと判断を下している。
リルの心が折れていると思っているのだ。
そして実際、リルの心は折れていた。
もう何もできないと諦めてうずくまるリルを、ヒィーコはヘドでも見るかのように蔑視する。
「それに比べて、どうしようもないお貴族様っすね。こんなんが冒険者を名乗ろうだなんて考えていただなんて、反吐が出るっす。……今からでも、ぼっこぼこにしませんか?」
「するわけないだろうが。腐っても貴族だぞ。お前の貴族嫌いは知ってるがそれとは話が別だ。これは依頼だ。保護対象を必要以上に傷者にしてどうすんだ。馬鹿かてめえは」
「……そっすね」
乱暴にたしなめるギガンに、ヒィーコはしぶしぶ頷く。そこには年相応の不服そうな顔があったが、目上の人間の、何より信頼できる相手の言葉を素直に受け入れる。
それから少し離れたところで倒れているコロを指さした。
「あっちで倒れてるコロっちはどうするっすか?」
「ああ、それは……って、おい。なに勝手に愛称付けてんだお前は」
「いや、あれっすよ。死闘を繰り広げたもの同士にしかわからない絆が芽生えてるんすよ。あたし、このお貴族様は死ねばいいぐらいには思ってるっすけど、あの子とは仲良くしたいっす」
「やかましい。くだらないこといってないで担いでいってやれ。巻き込まれただけだってのに、気絶してる間に魔物に襲われて死なれたら目覚めが悪い」
「はいっす」
「よし。じゃあ行くか。……おら、こい。お前は立てるだろうが」
「……」
肩を乱暴につかまれたリルは、うつろな目で見上げる。抵抗する気力は起きなかった。引きずられるまま、なされるがままだった。
もう、やめよう。
そう思った。
冒険者なんて、もうやめよう。
痛い目にあわされ、平民から見下されるほどに落ちぶれた。最悪のところまで没落した。踏みつけられてズタボロになった自尊心を抱えて、リルはそう思った。
自分は頑張ったではないか。迷宮にも来た。探索をした。魔物だって倒した。順調に、冒険者の道を歩んでいたのだ。
なのに邪魔をされる。
周囲の誰もが自分を阻害する。なぜだか自分の思い通りに動かない。
ここで諦めるのは、自分のせいじゃない。いつだって自分を理解しない周りが悪いのだ。どこに行っても自分を押しつぶそうとする周りが悪いのだ。何もかも、自分の周囲が悪なのだ。
だから、ここであきらめるのは全部周りのせいで、リル自身はなに一つ悪くな――
「……ちげえよ」
不意にギガンがうなった。
「勘違いすんな。お前がやったことなんて、俺たちにとっちゃ当たり前なんだよ」
必死に、この段になっても自分の心を繕うために言い訳をしていたリルの胸にぐさりと言葉が突き刺さった。
「迷宮に来るのも、迷宮を探索するのも、魔物を倒すのも冒険者としての最低条件だろ。なにをしなくても生きてられる世界にいたから、少し何かをはじめたくらいで頑張った気になってるのかもしれねえけど、それだけだ。実際、お前はいま自分で諦めたじゃねえか」
言い訳しようのないほど的確な言葉に、リルはますます追い詰められる。膝を抱えて頭を押さえて泣き出したくなるくらい、どうしようもない気持ちになる。
もう二度とこんなところにはこないと、ギガンが狙った通りの決意を固める。
それを見て取ったギガンは目を細める。
「ま、自分の分際をわきまえたんなら、これからは少しはあの嬢ちゃんを見習って必死になって――」
「……まだ、です」
「――あ?」
ギガンの言葉をさえぎってよろよろと立ち上がったのは、もちろんリルではない。
その美しい赤毛のように、燃え上がるような闘志を宿した声を、いまのリルが出せるはずもない。リルなんかよりずっとずっと重症を負ったコロが、立ち上がっていた。
その髪を炎に燃やし、折れた剣を杖代わりにしてよろめいて、それでもコロはリルをかばうような位置で立ち上がる。
「っ!」
「まだ立つかよ」
ヒィーコがはじかれたように槍を構え、ギガンは感嘆の声を投げかける。リルに向けられていたのとは比べ物にならないほどの警戒の視線が向けられる。
そしてリルは、立ち上がるコロの背中を愕然と見上げることしかできなかった。
信じられなかった。
自分が立てなくて、どうしてこの娘は立てるのか。自分よりずっとひどい有様なのに、どうして戦えるのか。ここまで叩きのめされて、ひどい目にあわされて何であがけるのか。
ひとつも理解できなかった。
「なんで、立てるんすか」
リルの疑問を肩代わりしたかのように、ヒィーコが問いかける。
実際、見ただけでわかるほどコロは限界を突破していた。指で押せば崩れ落ちてしまいそうなほどボロボロだった。どうして立っていられるのか不思議だった。
それでもコロは、立って、剣を構えた。
「なんでも、なにも、ありません」
リルは立ち上がったコロも背中を、直視できなかった。
もう嫌だった。才能の違いを見せつけられるかのようで、本物の努力と意思に自分の薄っぺらい装飾のもろさを証明されるようで、たぶん本当の英雄は、本物の天才というのは、自分ではなく彼女のような人間なのだと思い知らされるようで、嫌だった。
「リルドール様が見ている前で、負けたくないんです」
間違いなく傑物になるだろうコロは、うつむくリルとは対照的にまっすぐに前を見据える。
「そいつの前で負けたくない? なに言ってんすか。情けなくて弱っちくてみじめなそいつが、まだ見えないんすかっ」
「戦いで負けたからってなんですか。そんなもの、弱さだなんていわないです」
「じゃあ、なんなんすか!? あんたがいうそいつの価値はいったいなんなんすか!?」
「戦う人は強いから戦うんだと、わたしはそう思ってました。わたしは戦えるから戦うんだと、戦うしかできないから、だから戦うことにしました。他の人もみんなそうだって思ってました。でも、そうじゃなかったんです。リルドール様は違ったんです」
ヒィーコに問われて、コロは素直に思いを吐露する。
「リルドール様は、字が書ける人です。いっぱいたくさんのことを知ってる人です。身なりが良くって気品があって、お金にも困ってない人です。すごく立派な、お城みたいな家に住んでいる人です」
それはリルがこの二日でコロに見せたものの数々。リルが当然のように披露したそれは、コロにとっては初めて目にするものばかりだった。
「あの人は、そんなにもたくさんのものを持っていて、それでも戦うって決めた、すごい人ですっ。それしかできないから冒険者になったわたしなんかと違って、自分の意思で冒険者になるって決めて進んだ、とってもすごい人なんです!」
「違う……違うっす! それは全部、見せかけっす! ただの嘘っぱちで虚勢っすよ!!」
「違いませんっ。あの人は、人の前に立てる人ですっ。迷っている人を先導してくれる人ですっ。知らないことを優しく教えてくれる人ですっ。そうしてわたしに誇りを見せてくれた、わたしの憧れの人なんです!」
「そいつは、嘘つきっす。怠け者っす。他人を利用して成果をかすめ取って、自分だけが成り上がろうとする最低最悪のお貴族様で無自覚のクズっすよ!? 強いふりをして他人から搾取する、強さをはき違えた弱者っす!!」
「弱くても強くあろうとする姿にわたしは憧れたんです! たとえ飾りだったとして、わたしはそこに輝く光を見たんです! それは絶対に絶対です!!」
叫ぶ意思を力に変えて、コロの縦ロールに炎が再度燃え上がる。
「想いが魔法にかわるというのなら、わたしの炎は、憧憬です!」
あの時コロの前に立つ背中を見て生まれた憧憬だからこそ、コロの炎は縦ロールに宿った。
「リルドール様に憧れた想いがわたしの魔法なんです!!」
「……」
胸に強く響く言葉に、諦めていたはずのリルはうつむいてた顔を上げた。
見たことがないほどきれいなものが目に入って見えた。
燃える炎を宿したコロの縦ロールの輝きは、リルの胸を熱く焼き焦がすくらいに美しかった。
目に入って焼き付いたその光に、リルは我を忘れて見惚れた。
「戦うことしかできないバカなわたしだって、いつかは誰かの希望になれるかもしれない。誰かの光になれるかもしれない。わたしに光を見せてくれた、リルドール様みたいに! そう思わせてくれたんです!!」
あの時に見た輝く縦ロールに憧れたからこそ、コロの縦ロールの中で炎は熱く明るく燃え上がる。
「だからわたしはっ――」
「寝ろ」
「――ぁがっ」
コロの吠え声を一切の抵抗を許さない掌が押しつぶした。
ギガンの巨大な掌に、満身創痍のコロはなすすべもなく押し倒される。
「だまされてるみたいで、見てらんねえよ。嬢ちゃんは本物だ。大成する。俺が保証する。だから、いまは寝てろ」
中級中位は伊達ではない。その一撃に今度こそ完全に意識を刈り取られた。
それだけ言い残して、ギガンはコロに近づく。
「……お待ちなさい」
「あ?」
念のためコロを拘束しようとしていた二人が、ぴたりと動きを止めた。
振り返った先で、リルが立ち上がろうとしていた。よろめきながらも拳を握って、振るえる足を使って立とうとしていた。
その姿に向けられたのは、呆れと侮蔑だった。
「なんで立とうとしてるんだ、てめえは」
同じようで、先ほどコロに向けられたのとは正反対の言葉だった。
リルの行動を完全に無意味だと断じている。リルには何もできないと言っている。二人の瞳には、侮蔑と呆れのみがあった。
「誇りのため、ですわ」
「誇り? そりゃ、貴族の誇りか?」
答えたリルに、ギガンは眉をしかめる。
「そんなもん、砕いたはずだ。何も背負ったことがないお前が勘違いしてる貴人の矜持なんてものは、握りつぶしてやったはずだ。てめえは負けた。俺に負けた、自分に負けた、妹分に完敗した。自分の器を知っただろう? お前の身の程をわきまえただろう? てめえは、大した人間じゃないんだよ」
「知ってましたわ、そんなこと」
「なに?」
「自分の身の程など、己の器など、とっくの昔に、知っていましたのよ」
それは、いつの頃だったか。
リルが、自分の身の程を知った時。それはライラに負かされた日に、親に『ドール』の三文字を与えられたときに、いいや。きっと、もっと、ずっと前から知っていた。
育つにつれて、親の期待がなくなった。成長するにつれて、周りの言葉が薄くなっていた。それをずっと感じていた。一つ年を重ねるごとに自分の凡庸さに気が付いて、あるいは一つ新しいことに取り組むたびに凡庸以下の愚鈍な自分の本質に気が付かないふりをしてきた。
リル『ドール』。
人形みたいにおとなしくしていろ。そんな願いが込められた名前を持つ自分を、自身で誇れるわけがなかった。
だからコロを見て、リルは嫉妬した。その才能を利用してやろうと暗い感情にとらわれた。
でもそんな黒い染みは、さっき目の当たりにした炎で一滴残らず燃え尽きた。
「でも、あの子が、信じてくれましたの」
「は?」
「あの子が、綺麗だといってくれましたの。わたくしの縦ロールを光だって言って、炎を見せてくれましたの……ふふっ。そうですわね」
そっと、土埃にまみれた縦ロールの感触を確かめる。
嘘ばかりの自分。くだらない虚勢を張った自分を認めてくれた人が現れたのだ。熱い言葉で、一直線に声をかけてくれたのだ。
自分の巻いた縦ロールの中に明るく輝く美しい憧憬を燃やして、まっすぐに叫んでくれたのだ。
この縦ロールが輝いていた、と。
それは、そう。
「わたくしの人生で、一番うれしかった、ですわ」
なにもないはずの自分をほめてくれた。
飾ることしかできない自分を認めてくれた。
見栄を張るだけの自分に、憧れているんだと叫んでくれた。
「なら……立ち上がれますわ」
リルは弱い人間だ。
たった一人では、あっさり折れて砕けてしまう。
でも、弱い自分一人では無理でも、傍に誰かがいるのならば。
「いくらだって、戦えますわっ……」
たった一人でも、思いを伝えてくれた人がいるなら立ち上がれる。戦える。あがいて叫んで胸を張れる。
だってリルは意地っ張りなのだ。見栄っ張りなのだ。だからこそ、自分を見てくれる人がいるのならば、限界だって越えられる。
なにより誰もが認めるまぎれもない天才が、リルに英雄というものの器を見せつけたコロが、自分を認めてくれていた。
ならば。
「わたくしは、どこまでも行けますわ!」
立ち上がったリルは、立ちふさがる二人の敵をまっすぐ見据える。
ヒィーコは、舌打ち。面倒が増えたと言いたげに顔をしかめる。
そしてギガンは、探るように。試すように問いかける。
「……何のために立ち上がった。飾りをはぎ取られたお前が立つ理由はなんだ。諦めたんじゃなかったのか? お前の中にはなにもなかったはずだ。それなのに、どうしてだ? お前が立つ目的は、お前の想いはなんだっ!」
「あの子が焚いた炎に、あの子が髪に宿した魂の輝きにっ、あの子が燃やした美しい憧憬に誓って!」
たった一人でも信じて見つめてくれるのなら、自分はきっと意地っ張りの見栄っ張りな自分のままで生きていける。虚勢も張れば強さになると、この世に示してやれる。嘘も真実にしてやれると世界に認めさせてやれる。
「あの鮮烈な髪に恥じないためにも、わたくしは立ち上がらなくてはいけませんの! 戦って、勝たねばなりませんのよ!!」
嫉妬もした。劣等感も突き付けられた。弱い自分をさらされた。自分が凡人なんだと、それ以下の卑怯者なんだと本物の天才を見て打ちのめされた。虚勢をはいだ自分はみっともないほど愚かで卑屈で小さい、ただの小娘だった。
そんな愚かな小娘を、太陽のような光が照らしてくれた。
あの髪に宿った魔法を発現させるほどの想いはリルの強がりが生んだ想いだと、コロは叫んだのだ。
何よりも気高いその炎の明かりを照り返して、何もなかったリルの心に黄金の輝きが生まれた。
「気がつきましたわ。私の武器は、この縦ロールなのだとっ。ならばわたくしは、この縦ロールを使って戦いますわ!」
自分の背中を見て、自分の縦ロールを見てコロは美しい炎を燃やしてくれた。
ならば応えるのだ。報いるのだ。太陽の光を受ける月のように、コロの縦ロールの炎にリルの縦ロールが呼応する。リルの想いに魔法が発現する。
「わたくしは、この縦ロールを武器に、世界に輝くリルドールに成り上がってみせますわ!」
リルの想いに答えて、五本の縦ロールがざわりとうごめく。憧憬の炎の移り火が、黄金の縦ロールを操る魔法となって目覚めさせる。
「……とうとう頭おかしくなったんすね」
縦ロールを武器にすると言い始めたリルに、ため息を吐いたヒィーコが至極まっとうな感想をこぼす。
まだコロの戦闘の余韻が残り高揚している彼女は、嗜虐的な笑みを浮かべた。
「魔法を発現させたみたいっすけど、よりによって髪の毛を動かすだけなんて、いかにもお貴族様らしい魔法っすね!」
バカにしきったヒィーコの揶揄に、リルは大まじめに答える。
「その通りですわ。これ以上わたくしらしく、わたくしにふさわしい魔法はありませんのよっ。ええ、そうですわ!」
語尾を強くするリルの両腕に、前の二房のロールが巻き付いた。
ヒィーコはそれを確認しつつも槍を突き出す。魔力装甲によって強化された一撃。それがリルに向かって一直線に突き出される。いくら動こうが、しょせんは髪の毛。もし魔力によって強化されているとしても自分の槍を防げるはずがないと判断して、撃槍を突き出す。
相手をなめ切っているとはいえ、修練と実戦を重ねたヒィーコの槍は鋭く重い。さっきまでのリルでは、とても受けることなどできなかっただろう。
その槍が、振り上げたリルの腕によってはじかれた。
「控えなさいっ」
「なっ!?」
リルの腕に巻き付いた縦ロール。それがぎゅるりと回転して槍をはじき、ヒィーコの態勢を崩す。
「硬化して回転!? 髪の毛が!? んなアホな――」
「わたくしをっ!」
「――ぐっ!?」
ヒィーコの驚愕が覚めるよりも早く、隙だらけの彼女の胴体に、リルは裂ぱくの気合と共に右拳の縦ロールを炸裂させる。
「ぁ、が」
耐え切れずに漏れるうめき声。
ヒィーコの胴体にぶち込まれたロールは、回る。装甲にぶつかっても止まらず、回り、巻き込んで、砕いて、微塵になった破片をもろともに巻き込んで、回って回って回転し、何もかもを巻き込み砕く。
「誰と心得ていますのぉおおおおお!」
「ぐ、ぁっがぁぁあああああああ!?」
強固な魔力装甲を突き破り、なおも止まらない縦ロールの猛回転に耐え切れずヒィーコは吹っ飛ぶ。
弾丸のように一直線に吹き飛んだヒィーコが迷宮の壁に激突する寸前、ギガンの巨大化した掌がその体を受け止めた。
「……はっ」
一撃で気絶したヒィーコをそっと地面におろし、ギガンは獰猛に笑う。
いくらコロとの一戦で疲労した状態だったとはいえ、魔力装甲を展開したヒィーコの防御力は並ではない。それを、たったの一撃で沈めて見せた。
その威力に嘘はない。宿した魔法に濁りはない。澄み切った輝く想いがそこにはある。
「誰と心得る、と吠えやがったな」
「……ええ」
ギガンは、リルを見据える。その姿は諦めてうなだれていた先ほどまでとはまるで別人だ。
みじめな自分を焼き尽くし生まれ変わったかのようなリルを見て、ギガンは初めてリルを認めて問いかける。
「なら聞いてやろうじゃねえかっ。てめぇは誰だぁッ、名乗って見せろ!」
「わたくしは、リルドール!」
前に二本、背中に三本。豪奢に巻いた金髪の縦ロールをきらめかせ、地面の下の空の見えない地下迷宮で、飾った見栄を輝く信念と変えた少女が天地に吠える。
「艶めく髪は女の命、ドリルロールは美の結晶っ。誇りの詰まったこの髪は、すべてを巻き込み貫き通す!」
いま、ここに誓うのだ。
血を流そうと、傷を残そうと、心を削られようと、魂を抉られようと、ためらう理由にはしない。
生まれ変わるために、決してたがえぬ誓約を胸に刻むため、この世界に挑戦するために叫ぶ。
「この世に波打つ思いを束ねて巻いてっ、重ねて回して巻き込んで! 天に届いて轟いてっ! いつかは世界を支えてみせる!!」
家名の誇りは取り上げられようと、虚栄の功績をつぶされようと、それでも信じてくれた人がいる。ならばリルは、自分を信じる思いを巻き込んで、どこまでも進んでみせる。
かつて、ただの強がりでコロに向かって吐いた数々の大言壮語。自分を強く見せるための嘘八百。
それを今、あえて吠えてみせる。
「それがわたくしっ、世界に輝くリルドールですわ!!」
コロの憧れた通りの自分になるために。
その決意を実現するために、リルの縦ロールが輝き、すべてを巻き込むために動き出した。