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嘘つき戦姫、迷宮をゆく  作者: 佐藤真登
五章

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第九十四話 雷霆

 セレナは戦支度を整えていた。

 とはいってもセレナはもともと無手での戦いを主とする。いつでも身ひとつで戦えるように鍛え上げていた。

 セレナの魔法である『空手』は便利だが、実のところ出力に限界がある。巨大な魔物相手を抑えるか、もしくは人間相手に手加減をするときにしか使わない。

 だから戦支度といっても、いつもとの相違点はたったの一つだけだ。

 両手につけられた、銀の神聖な輝きを放つ篭手。手の甲から肘までを鎧の覆うようになっており、それでいて手首の駆動を極力阻害しないつくりになっている。防御だけではなく、握って殴りつける部分にカイザーナックルが付いており、殺傷能力も高められている。

 かつて五十階層主を討伐したときにもらった一品。ミスリル性の籠手だ。

 ライラとトーハは魔法で武器が作りだすことができ、他の二人は愛用の武器があった。だからこそ、セレナの武器をつくることになった。冒険者を引退した後にギルドで保管してもらっていたのを、この事態で引っ張り出してきたのだ。

 武装したセレナは、胸から冒険者カードを取り出し映像の状況推移を見てほっと息を吐いた。

 追い詰められていたリル達は、ライラの登場によって窮地を脱しているように見えたからだ。

 もちろんセレナはその後のことは知らない。映像はクルック・ルーパーを映し出しており、リルのほえ声は中継されていない。ただライラがリルたちを助けてくれたんだなと、そう思っただけだ。

 王宮から移動する映像の進路。己の凶行を喧伝するかのような歩みを見たセレナには確信があった。

 あの男は迷宮から這い上がってきた。

 ならば、帰るのはこの場所からだ。

 その根拠のもと、セレナは待ち構えていた。職員は避難させた。この場に待ち受けるのは、セレナただ一人。時間がなかったのもあるが半端な戦力はいたずらに被害を増やすだけだと判断した。

 果たして、その男は入り口から堂々と入ってきた。


「よう『虐殺機関マーダーインク』のセレナ。いまからお前が遊んでくれるのか?」

「ひとつ、教えてもらえますか」


 狂人とまともに会話をするつもりはない。

 セレナが問い掛けるのは、昨日の記憶だ。


「二年前に斬り殺されたアキズカネサダを、あるいは、この三百年で不審な死を遂げた英傑を殺してきたのはあなたですか?」

「ああ、そうだぜ」


 静かにすごむセレナの問いをあっさりと肯定する。


「カネサダはいい奴だった。あいつと飲んだ酒は絶品だった。いいや、あいつだけじゃねえさ。俺が斬り殺していった奴らは、気のいいやつばっかりだった。ああそうさ。俺はあいつらを、名だたる英傑どもを、俺はこの手で叩き斬ってきた。まったく、ひどい奴だぜ」


 そうか。

 なら、死ね。


「ははっ!」


 物も言わず不意打ち気味で接敵したセレナに、クルック・ルーパーは笑って応える。

 相手の刃など恐れぬセレナの踏み込み。拳を胸元に引いて、体を小さくしつつ左右に体を振って相手の一足一刀の間合いにためらいなく踏み込む。

 クルック・ルーパーが迎え撃った。

 二刀の八相より、左から回転するような袈裟がけ。腕を返して初撃を受け流そうとセレナが手甲で触れば痺れるような衝撃が走る。外より伝わり骨の髄まで響くような斬撃。重い。片手で握ってこれとは、信じられないほどだ。受けて懐に入ろうというのは浅はかだった。己の甘さを叱咤しつつも小刻みに一歩後退。

 クルック・ルーパーは追ってきた。

 隙間を埋めるような追撃。セレナは猛追を予感しながらも顔色一つ変えない。ダメージを悟らせるつもりは毛頭ない。無表情のまま構え猛攻に備える。

 双刀が、飛び跳ねた。

 竜巻の顕現かと錯覚するほどの猛烈な刃の嵐を、セレナはすさまじい体さばきでしのぐ。上下左右に決して止まらぬ剣舞の極致。セレナは己の負担を省みず、全身全霊で受けて立つ。果たして、先ほどヒィーコへの剣撃を見ていなかったらここまで反応できたかどうか。篭手で受けて払うも全てはさばけず、いくつか見逃して肌を刻まれる。

 一瞬が、永劫に感じた。

 かすめるよな刃は見逃して、深い斬撃は必ず流す。防御に徹するセレナに焦れたのか、クルック・ルーパーが決めにくる。恐ろしい精度の突きの双連撃。左の一撃をおとりに、体をひねって突き出される右が本命と読む。

 これをしのげば勝機が出る。それ単体でほとんどの武人を切り貫けるだろう刺突に対し、セレナは前に活路を見出す。身を低く、そして跳ね上げる。上下の動きでかわし通り過ぎるかと思った突きは、しかし囮だった。

 腕がかすめるのに合わせて、クルック・ルーパーの肘が折りたたまれる。刃物による刺突から撃肘への滑らかな移行。視界の外から行われていた見事な不意打ちは、セレナの予測を超えていた。それに対してとっさに首を振れた理由はセレナ自身に定かではない。本能であり、いままでの修練のたまものがセレナを助けた。

 ごづりと肉を抉った肘が、セレナの側頭部を切り裂いた。


「外れか」


 当たりだろうが。

 とっさに前蹴り。開いた間合いの外でセレナは内心で毒づき、頭から流れる血はそのままに相手を睨みつける。

 今ので決めようと思っていたのだろう。実際、まともに受ければ意識は飛んでいた。最後の肘打ちを躱せたのは奇跡に近い。

 交戦して、技量の差を察する。

 なるほど強い。少なくとも、自分よりかは。

 だが別に、セレナはここで勝つ必要はないのだ。


「しかし、いまどき珍しいよな。どこの流派までは知らねえが……それ、殺人拳だろ?」


 拳を交わしてセレナの武術の源流を見抜いたのか。クルック・ルーパーの言う通り、セレナの使うのは対人特化の兵法を叩き込まれた人を殺すためだけの武術だ。一子相伝のそれを祖父から受け継いだ。

 魔物と戦うことなど本来は考えられていない、人体を破壊することのみ追求した武術である。今の世では、無用の長物だ。人を殺すための技術を修めた武芸者など異端に他ならなかった。

 だが、それでもセレナは己の技に誇りを持っていた。積んだ修練、受け継いだ技、その歴史を受け継ぐものとしての、武術を発揮する場所を探していた。そして見つけたのは、この王都の四十四階層の手前。

 セレナはそこで一人たたずんで、四十四階層に挑む冒険者をことごとく打ち倒していた時期がある。

 それゆえの『虐殺機関マーダーインク』。

 魔物との闘争などどうでもよく、人と戦い、人に打ち勝つことこそが強さを磨く唯一の道だと思っていた。


「俺の時代には流行っていたが、人を殺すための武術がまだ廃れてねえとはな」


 会話に乗ってやる義理はないが、その言葉に、ふと思い出す。

 そういえば、セレナは三百年前に生まれたかった。

 昔、セレナは冒険者というものが嫌いだった。

 魔物と戦うなんていうことはくだらないと思っていた。それが自分の強さになると勘違いしている腑抜けが大嫌いだった。

 大陸全土が争っていた戦争に投げ込まれたかった。人同士が殺し合っていた時代を生き抜きたかった。たとえ力及ばず果てたとしても、そんな生き方ができれば後悔はなかったはずだと思っていた。

 そんな風に感じていた自分を、負かしてくれた人達がいた。


「私のことなんて、どうでもいいでしょう」


 下らぬ雑談に興じるクルック・ルーパーに一言だけ返す。


「ライラさんがくれば、それでおしまいです」

「はっ。信頼してるねえ」


 返答の必要すら感じない。あまりにも当然なことだ。

 だというのに、クルック・ルーパーはさえずるのだ。


「少なくとも俺は、あいつよりかはまだお前のほうが見込みがあると思ってるぜ?」


 ほざけ。

 セレナから相手の死線に踏み込み、戦闘が再開される。

 再び繰り広げられる闘争は、やはりセレナが劣勢だ。まだまだ戦闘を開始して、ほんの数分しかたっていない。だというのに、この時間の濃密さはどうだろうか。いま見える情報など、過去のことでしかない。見て、聞いて、感じて嗅いで味わった五感すべてで現在から先を視る。常に、先に先に、いまより前に。過去は踏破して、先へ。未来を読み誤れば一瞬でなます切りになるような死闘にセレナは没頭する。

 クルック・ルーパーの剣舞の一瞬の間隙に、攻勢に移る。拳から貫手へ。指先分伸びたリーチで心臓をえぐりとろうという一撃は半身になってかわされ、脇を締められ絡め取られる。

 構わず突き進んだ。

 セレナは抜き手をねじる。抑えられたままだ。無理な駆動に、まず手が壊れる。肉の筋がちぎれて骨の関節が悲鳴をあげて砕ける。ましてやクルック・ルーパーは妙手である。この程度で離すわけがない。

 だが、ここは迷宮だ。

 王国マルクスの間。魔物がでない場所ではあるが、それでも迷宮なのだ。セレナは冒険者カードの治癒機能を発動。読み切られて抑え込まれたセレナの力に、治癒し再生する力が加わる。

 それは、クルック・ルーパーをして予想外の使い方だったのだろう。


「お?」


 初めて意表を突かれたという顔をする。

 拮抗が、崩れた。締め付ける力を、再生とねじる力が上回る。セレナの抜き手がぎゅるりと唸り、相手の脇腹をえぐり取る。


「……はは!」


 肉をこそぎ落とされて、狂人はなぜか嬉しそうに笑う。

 セレナは稼いだ時間で間合いを切り、この戦闘で初めて魔法を使う。

 現れるのは『空手』と呼ばれる無色透明の大きな掌。使い勝手はいいもののおおざっぱな攻撃しかできないこれが、この相手に通じるとは最初から思っていない。

 だから、それで身を包んで防御に回す。

 なんのための防御か。簡単だ。その答えを出すように、かつん、と音を立てて床にぶつかったのは雷霆だ。

 ライラ・トーハの雷を鋼鉄に変えた、雷霆。それがセレナとクルック・ルーパーの二人の間に投げ込まれ、元の熱量を解放する。

 雷鳴が鼓膜を叩き、網膜を焼き尽くす紫電がギルドをいっぱいに満たした。


「さっきぶりね、クルック・ルーパー」


 追いつきざまに雷霆を投げ放ったライラが、ゆっくりとギルドに入る。

 深層の魔物であろうと蒸散させるライラの手加減なしの雷撃。わかって『空手』を防御にしのいだセレナはともかく、クルック・ルーパーはただの生身で雷撃を耐え抜いた。耐え抜いたが、しかしそれは耐えただけだ。まぎれもない直撃。いくらミスリルの輝きで多少の減衰はあろうとも、あれだけの攻撃を浴びせられて、何の不調も起こさないはずがない。

 クルック・ルーパーはなぜか己の傷を治さない。冒険者カードは飾りで治癒機能がないのか、あるいは管理者になった弊害でもあるのか。

 ライラの黒瞳が、傷ついたクルック・ルーパーを射抜く。


「諦めて投降しなさいよ、クルック・ルーパー」

「諦めろなんてふざけるなよ、ライラ・トーハ」


 二対一で挟み撃ちになったこの状況。

 ライラという英雄の降伏勧告に、クルック・ルーパーという悪党は媚びることなどしない。雷を浴びた余波でぶすぶすと全身から煙をあげながらも、クルック・ルーパーはくつくつとのどを鳴らす。


「まさかあんたの口からそんな言葉が出てくるとはなぁ。諦めろだなんて冗談きついぜ。あんたは誰かに諦めろって言われりゃ、それであっさり諦めるのかよ」


 おもむろに、クルック・ルーパーは右と左の剣を構え、ライラとセレナをけん制する。

 ライラの雷撃を二度浴び、セレナの手刀に右の脇を抉られて、それでも驚くべきことにクルックルーパーが二人に向ける切っ先はまったくぶれていなかった。


「違うだろう? 横から誰かに口出されたくらいで止まれるもんじゃねえだろう? 思い出せよ。見たことがねえ俺ですらわかっているんだぜ? お前の相棒は――トーハはどんな時だって諦めなかっただろうがよッ」


 思わぬ言葉に、ライラが目を見開いた。


「見なくともわかることはあるぜぇ。誰に何を言われようと何がどう立ちふさがろうと、やつは諦めることはしなかっただろう? それと同じことだって、なんでわからねえんだよっ? なあ、ライラ・トーハ。時間に負けてことごとくを忘れちまうような有象無象と、この俺を! 一緒にすんじゃねえぞっ!!」


 傷ついた体とは裏腹に、クルック・ルーパーの言葉は徐々に激していく。


「この三百年間諦めなかったからこそ、今ここに俺はいるんだぜ! それをいまさら諦めろだなんて、そんなつまんねえ言葉で片づけようとするんじゃねえよッ、クソガキがァ!!」


 この言葉の強さはどういうことなのだ。

 ただの人殺しのはずが、どうしてこんなに揺るがない。命が惜しくないというだけではないすごみが言霊となって響いている。頭のおかしな気狂いが、どうしてここまで言葉で相手を圧倒できる。理由もなく快楽のために人を殺し続けて人類の害悪に堕ちたのではなかったのか。

 なぜ、こいつの言葉は決して揺るがぬ芯を感じさせるのか。

 一体こいつは、三百年もの時間の間、なにを諦めなかったのだ。


「殺し続けた三百年の悪行道! 今更言葉で収まるとでも考えたのか!? バカじゃねえのかお前らは!!」


 何が彼の琴線に触れたのか、クルック・ルーパーは激昂して怒鳴り散らす。


「この俺と戦うんだッ。命なんて捨ててかかってこいよっ、小娘ども! その胸に抱えた命よりも大切な想いがあるなら、俺に挑みかかって来いッ。なけりゃ消えうせろ! それでもやるってんなら、てめえらのそんな魔法おもい、たった二本の刃で切り裂いて、それがどれだけ薄っぺらいか俺が世界に証明してやるよ!!」


 セレナは確信する。

 クルック・ルーパーの芯はうかがい知れない。だが、こいつは投降など絶対にしない。なんのためかは知らないが、人類の害悪に堕ちて三百年人を殺し続けた怪人だ。もはや殺すしかない。痛めつけようと半死半生にしようと、おとなしく降伏するなどありえない。常人には決して理解しえない何かがこいつの中には存在している。

 セレナはライラと目を合わせる。手加減など無用。秘められている柱ごとその命をぶち壊さねばならない。絶対にこの害悪はここで排除せねばと、目と目で確認し合い


「生かして捕らえるわよ」


 え、と思った。

 無理だろう、それは。相手の強さをライラがわからないはずがないだろうに、ライラはそう言ったきり雷霆をクルック・ルーパーに向ける。

 セレナは間違いなくライラを信頼していて、ライラはセレナを信頼している。互いにその信頼にこたえるものだと信じて疑っていない。

 なのに、すれ違った。

 ライラには、クルック・ルーパーから是が非でも聞き出したいことがあった。それを、セレナは察せない。時間だ。三年、積み重なって離れた時間が心に距離を生む。

 その齟齬を、クルック・ルーパーは見逃さない。目ざとく連携の不備に気が付いた男は、にたりといやらしく笑う。


「知ってるか、ライラ・トーハ。セレナな、他のクランに勧誘されてたんだ」

 

 ライラは揺るがない。セレナはギルドで受付嬢をさせておくにはもったいないほどの実力と実績を持っている。勧誘程度ならよくあることだと、ライラは特に心を乱すことはなかった。

 だが、セレナはおおいに揺さぶられた。

 次の言葉が予測できたからだ。

 セレナはクランに勧誘された。今まで何度もそれを断り続けた。けれども今回、リルに誘われた時は、違った。

 そしてクルック・ルーパーの続けた言葉が、二人の信頼に突き刺さる。


「嬉しそうだったぜ」


 ライラが愕然とした。

 視線だけでセレナの顔を見て、クルック・ルーパーの言葉が真実だと知る。


「ちが――」

「いいや、違わないね」


 そこに生まれたのは、セレナとライラという共同戦線にあるとは信じられないほどのほころび。

 むろん、クルック・ルーパーはためらわない。ひび割れた信頼、空白になった意識の間隙を突いて、彼はセレナの腹腔を貫いた。


「時間ってのは残酷だよなぁ! なあ、ライラ・トーハ。セレナの奴はさぁ! ……トーハを忘れたんだ」


 見える亀裂に、刃をねじ込んでこじ開ける。

 こぷり、とセレナの喉元から黒い血がせりあがる。

 窮地から挽回するために、頭が猛烈に回転する。治癒? いいや。それを見越して彼は刃を抜いていない。ならば、抵抗を、この腹を切り裂く刃を、いいや、違う。ライラが、横合いから仕掛けてくれればその隙に。でも――なんで、ライラは止まって?


「世界に誇る英雄が死んだ損失を、仲間を失った悲しみをっ、友が死んだ痛みを! ――セレナは、忘れちまったんだ。とんでもねえ裏切りだよな」


 クルック・ルーパーの間合いに、迂闊に踏み込めないというのはあるのだろう。強力な雷撃を浴びせればセレナも巻き込まれるのも一因だ。だが、それ以上に、ライラの、信じられないという顔。裏切られたという目の色。クルック・ルーパーの一言一言にその身を撃ち抜かれたように震え、固まっている。

 そうだ。ライラは、忘れなかったのだ。決して、忘れなかった。トーハのことを、絶対に忘れるもんかと思い、己の名に連ね、絶えず迷宮の底に挑んでいた。

 痛みと失っていく血で千々に乱れる意識の中、セレナは必死にもがく。

 セレナにとって、腹を貫く刃以上にクルック・ルーパーの言葉こそが致命的だった。

 釈明しようとした。

 忘れてなんかいないと。楽しかった記憶も、失った痛みも胸にあると。だが、口を動かそうにも、腹から声が出せない。ああ、そうだ。なら、魔法で。この手を伸ばして。人を殺すために鍛えた二本の腕ではなくて、もっときれいでけがれていない手を。それがあれば、あの二人と一緒にいられると思って。そのための『空手』で。だから、その手で二人と手をつなぎたくて。でも、肝心の手は大きすぎて。うまく手をつなげないとためらったままで。


「ァぶ」


 ぐいっとひねられた傷口の壮絶な痛みに、魔法の発動が遮られる。

 流れゆく血に、体の力が失せて意識が遠のく。限界が訪れる。

 かすむ視界の中で、にたりと笑うクルック・ルーパー。自分を刺し貫く相手を無視して、セレナはライラに呼びかけようと口を開き、


「ぁ……らぃ……とぉ……」


 とっくに限界は超えていた。

 結局なにも言えず、とうとうセレナの意識は、ぷつんと途切れて闇に沈んだ。

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【書籍情報ページ】

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