深夜2時の電話 2
たくさんたくさん泣いた翌朝。晴れ上がった空。腫れ上がった私の目。もう自分でもびっくり。こんなに目って腫れるんだね。お母さんもまさに腫れ物に触るかんじで接してくれたよ。きっと聞きたかったよね。でもごめん。そこまでの余裕がないんだ。
昨日の電話で最後に言われたこと。
「直接話したいんだ。明日、朝早くに学校に来れるかな」
それを聞いて、もちろん行きたくはなかった。でも一晩考えて冷静になってしまった。
朝早くにって指定してきた時間。私のいつもの通学時間じゃない。
今まで気付いてなかったけれど、そんなことも彼は知らなかったんだなぁと気付いてしまった。もちろん家の遠い彼が遅刻ギリギリに来ることは仕方ないことかもしれないけれど、私、もしかして、そこまで興味持たれてなかったのかしら。そんなことを思って一人泣きながら笑ってしまった。
学校に近づくとどんどん憂鬱になってくる。あの時泣きながらでも笑えたのは奇跡だったのかもしれない。だって今はもう顔を上げるのさえつらい。
そう思いながら下駄箱に行くと、いつもならいるはずのない人に遭遇した。
「あれ、一之瀬君?なんでこんな時間に…」
思わず声を掛けてしまう。普段は日常会話すら少ないのに、彼と同じでいつもは遅刻ギリギリの一之瀬君がいることがあまりに驚きで。
「いや、ちょっと寝れなくて。というか内野さんは、藤沢から何も聞いてないの?」
思いがけず彼の名前が出て、心臓が跳ねたかと思うほどびくっとしてしまった。
「あの…いま藤沢君から呼ばれて教室に行くところで…」
必死で声を絞り出す。そこまで言うのがやっとだった私に、一之瀬君は「そっか。じゃあ僕は後で行こうかな」と言いつつ、教室とは反対方向に向かう。
気を遣わせちゃったなぁ。あとで説明、出来るほど私のライフが残っていればいいんだけど。そう思いつつ重たい足を引きずりながら教室に向かった。お母さんと話して、一之瀬君と話して。あぁ、私、ちゃんと人と話す能力は残ってたんだな。そんなあほみたいなことを考えながら教室のドアを開く。
「おはようございまーす」いつもの癖で言っちゃった。でもいつもいるはずのメンバーがいない。こちらは家が遠いから、遅刻するのではなくものすごく早く来ることになっちゃうメンバー。なんでいないんだろうと思っていると、「おはよう。ちょっとお願いしてしばらく戻ってこないように頼んだんだ」という声が聞こえた。
彼の席に目を向けると、そこには疲れたような顔の彼がいた。なんでそんなつらそうな顔するの?『ワカレテホシイ』って言ったのはあなたなのに。思うだけで涙があふれそうなのを必死でこらえているのは、私なのに。
後から考えると、そこで泣いておけばよかったんだと思う。
だって、彼の話は、もはや理解できないレベルに到達してしまっていたのだから。
「わざわざ来てもらってごめん。どうしても会って話をしたかった」
「実は、もう彼女がいるんだ」
「彼氏に乱暴されてる、私には藤沢君しかいないって言ってくるそいつの相談にずっと乗ってて」
「俺が支えてやらなくちゃって思って」
「だから、ごめん。里香には別れてほしい」
「全部俺が悪いんだ」
うん。わかった。あなたの脳内がお花畑なのはわかった。
なに?「彼女がいる」って。今日の午前2時頃の時点ですでに私は彼女じゃなかったってこと?予想大当たりすぎてびっくりですよ。
ただ、ただね。ちょっと気になるんだけど。
「あの…ひとつ聞いてもいいかな」
「その、彼女さんの名前。ちょっと聞いたことある気がするんだけど」
「ああ、そうだよ」
「一之瀬の、彼女のことだよ」
その情報。一之瀬君に会う前にいただきたかったです。