深夜2時の電話 1
枕元の携帯の振動で目が覚めた。
バイブ音の長さからしてメールだろう。よくそんな短い音で目が覚めたものだ。
頭はまだ半分寝たままの状態で、手探りで携帯を手繰り寄せた。眼鏡を外したままの薄ぼんやりした状態で、なんとなく画面を見る。こういう時は画面の大きいスマホの方がいいかもしれないなぁ。でもやっぱりこの無駄なデザイン性の高さは捨てがたいし。寝起きの頭で考えながら画面をよく見ると、思いがけず電話の着信を知らせるメッセージが出ていた。
「あれ、さっきの、メールじゃなくて、電話…?」
覚醒しない頭でとりあえず声に出してみる。うん。電話の着信だよね。着信は、1時すぎ。今は、と思って携帯を再度確認すると、2時。明け方というよりは夜中といった時間帯。着信を残していった相手はやっぱり彼。
「でもなんでこんな時間に…今日、誕生日とかじゃないよね?」
誕生日当日、日付が変わってすぐに電話!なんていかにも彼がやりそう。でも1時間も経ってから電話してくる?そもそも誕生日じゃないし。
回らない頭で考えながらふと気づく。
あ、やっぱりさっきメールも来てたんだ。
電話掛けたけど起きなかったからメールくれたのかな。
そんなことを思いながら私はメールを開いた。
『里香、ごめん。本当なら直接言わなきゃいけないことなんだけど…』
そんな文面で始まったメールには、とても寝起きの頭ではついていけない内容が書いてあった。
『里香のことは本当に愛してた』
『ごめん、別れてほしい』
うん。寝起きじゃなかったとしてもついていけない内容だったな。そんなことを冷静に考えてしまう自分がいる。
だってだって。そんなこと考えでもしないと。今にも息が止まりそうなんだもの。
「…は…ぁっ…」
知らない間に呼吸を止めていた自分に気付く。本当に息止めてどうするの、私。そう思いながらも何度も何度も一通のメールを読み返してしまう。けれど、何度読んでも書いてあることは変わらない。
でもきっと大丈夫。だって前にもそうやって電話が来たことあったもの。その時だって、「別れてほしい」って言いながら、ちょっとしたらすぐ「やっぱり好きだ」って電話が来たんだもの。そう。あの時と一緒。
そう思いながらも、震える手でリダイヤルのボタンを押す。大丈夫大丈夫。そうだよ。あの時だって。
「あ…メール見たんだけど…」
大丈夫大丈夫。
「なんで?ねぇ、私がなにかしたんだったら謝らせて。悪い所があったら直すから」
大丈夫。
「なんでそんなこと言うの」
…大丈夫?
「だって今までだって何度もそうやって言ってたじゃない」
だって、さっきのメール。
「ねぇ…お願いだから…」
『里香のことは本当に』
「嘘って…言ってよぉ…」
『愛してた』って、書いてあったよね。
本当は、見た瞬間に気付いてた。
もう彼の中では、私のことは「元カノ」になってるんだろうなぁってこと。