第 24 話。 げんたは一体何を言いたいんだ。
「あんちゃん。」
「げんたも久し振りですねぇ~。」
源三郎が言う様に、げんたも久し振りでお城に入った。
「あんちゃん、オレこの頃戦死した兵隊さんの夢ばっかり見るんだ。」
源三郎も直ぐに分かった、げんたの命を救う為自らの身を捧げた兵士の事で有る。
「私もですよ。」
「えっ、あんちゃんも見るのか。」
「当然ですよ、私も今まで何度と無く侍が切り殺されたのは見た事が有りますよ、ですが其れは侍同士の切り合いで、でもあの時は全く次元が違いましたからねぇ~、私とげんたは江戸、いいえ東京へ向かう途中で、私もあの時まで殆どと言っても良いのですが連合国の外側で起きて要る戦の状況を知らなかったのです。」
源三郎は田中の報告で有る程度の事は知っており、だが現実を見れば幕府軍と官軍は各地で壮絶な戦の最中で、しかも戦に敗れた幕府軍の残党が野盗となり行く先々で略奪と残酷な殺しを行ない、野盗が通り過ぎた村々は全てだと言っても過言では無い程死体の山で、野盗と化した幕府軍の残党数十人と戦い、連合国の兵士一人がげんたの命を救った。
「あんちゃんの言う事は分かってるんだ、だけどオレはあの兵隊さんの顔を忘れる事が出来ないんだ。」
「私もですよ、ですがあれが戦なんですよ、敵方を先に殺さなければ確実に我々が殺されるのです。」
源三郎は野洲の侍だ、侍同士の切り合いでも相手を先に殺さなければ我が身が危ない。
其れはどんな手法を取ってでも確実に敵方の息の根を止める、其の事が最も大事で有り、侍達はその為に日頃より武道の修業を行なって要る。
「総司令。」
工藤と吉田が入って来た。
「そうだ丁度良かった、工藤さんに聴きたい事が有るんだけど。」
「何をでしょうか。」
「兵隊さんが連発銃を撃つ時なんだけど、どんな格好で撃つんですか。」
「どんな格好で撃つとは。」
「敵に向けて撃つ時の格好なんだ、立ったままで撃つのか、其れとも座って撃つのか其れが知りたいんだ。」
「技師長、私が説明しますので。」
吉田が説明すると、工藤も勿論説明は出来る、だが吉田は日頃から連合国軍兵士に対し敵軍、其れは今まで幕府と言う強大な組織と力を持っていた武士集団で、武士集団と農民や町民達と言った弱者が寄り集まった集団、其れが官軍で有り農民や町民達を武士集団と互角に、いや互角以上に戦う為に戦闘訓練を行なっていた中心的人物が吉田で、工藤も吉田の説明ならば安心出来ると思い。
「吉田の説明ならば納得して頂けると思います。」
実はげんたよりも源三郎の方が知りたいと思って要る。
確かにあの時、兵士達の射撃姿勢は全員が同じで無くバラバラと思える姿勢で撃っていたと思い出した。
「私も聴きたいのですよ、実はあの時兵隊さん達は同じ様な姿勢では無く、全員が違う姿勢で撃っていたと思うのです。」
「総司令、技師長、実は全員が何もバラバラの姿勢で撃っていたのでは無いのです。」
「えっ、本当なんですか。」
「兵士全員が同じ姿勢で撃つ事は敵軍から見れば相手方は訓練が行き届いて要るが自軍からの集中攻撃で全滅させる事が出来ると思われるのです。」
「オレは素人だからよく分からないんだけど、何で同じ姿勢で駄目なんですか。」
「実に簡単な話しでして、狙いを定めるのが簡単で、ですが全員がバラバラの様な姿勢で撃つと一体何処に狙いを定めれば良いのか分からないんです。」
「ふ~ん、でも敵方にすれば大きな的から狙えば簡単だと思うんだけどなぁ~。」
「技師長は多分お忘れだと思うのですが、兵士達は数発撃つと姿勢を変えていたと思いますよ。」
「えっ、其れって本当なんですか、オレは全然知らなかったんだ、あんちゃんは覚えてるのか。」
「私もはっきりとは覚えておりませんが、確かに吉田さんの申される様に兵隊さん達が変えていたようにも思うのです。」
「自分は何も全員が同じ姿勢で撃つ事は駄目だとは考えておりません。
ですが実のところこの方法ならば敵軍からは狙い撃ちされる可能性が有るのです。」
「そうか、オレも分かったよ、敵は同じところに狙いを定めればいいんだ、ふ~んそうか成る程なぁ~。」
げんたは一体何の為に聞くんだ、源三郎はげんたが考えて要る事を知らない。
「其れともう一つ聴きたいんだけど、兵隊さんって身体に何も付けて無いんですか。」
「えっ、今何て言ったんですか、兵隊さんは身体に何も付けて無いってのかって聞こえましたが。」
源三郎はげんたの質問の意味が理解出来なかった。
其れは侍も同じで日頃から着物だけで、何故其の様な事を聴くんだ。
「げんたは何故其の様な事を聴くのですか、私も以前は侍でしたので侍は着物以外何も着ておりませんよ。」
「オレだって其れくらいの事は知ってるよ、だけどあの時兵隊さんの身体に何本もの矢が刺さったんだぜ、オレは何で兵隊さんは何も付けて無いのか、其れが不思議だったんだ。」
「成る程ねぇ~、ですが侍も普段から着物以外は何も着ておりませんよ。」
「じゃ~聞くけどお城の中に有る物はなんだ、あれは見世物なのか。」
「見世物と言いますと侍の甲冑の事ですか。」
「そうだよ、オレは甲冑を付けて戦に行くと思ってるんだけど。」
「我々連合国軍の訓練では実弾射撃よりも射撃姿勢を重要視して要るのです。」
「射撃姿勢を重要視するとはどの様な意味なのでしょうか、出来れば具体的に説明して頂きたいのです。」
「承知致しました、では説明させて頂きます。」
吉田はその後、何故実弾射撃よりも射撃姿勢が重要なのかを詳しく説明した。
「吉田さんが申されました射撃姿勢が重要だと、ですが実弾射撃訓練も重要ではないのでしょうか。」
源三郎は実弾射撃の訓練の方が重要だと考えて要る。
「では少しお話しを変えさせて頂きます。
確かに総司令も私も以前は侍で御座いましたが、侍は子供の頃より剣術の修業に励んでおります。」
工藤も吉田も元は有る藩の侍で、彼らも子供の頃より剣術の修業は大切だと考えて要る。
「確かに吉田さんの申されます通りですねぇ~、ですが子供の頃の修業は修業とは名ばかりで最初の頃はただ只管相手に打ち込むと言うのが。」
「確かに其れも修練の一つで御座います。
ですが其れは一般的な方法でして、総司令は型も重要だと考えておられたのでは御座いませんか。」
源三郎は子供の頃を思い出していた、一般の道場では相手に対し打ち込むのが重要だと考え、型よりも打ち込みに重きを置いていた。
「確かに私は型も大事だと考えております。」
「勿論、剣術と鉄砲の扱い方は違います。
其れよりも官軍の、いや連合国軍の兵士の殆どが侍では無く農民でその人達に剣術の修業はこうですよと説明しても理解する事は出来ません。
私は其れよりも自分や仲間の命を守るにはどの様な方法が良いのか、その方法を説明する事の方が最善だと考えたのです。」
工藤も吉田も元々は侍だ、だが連合国軍の兵士の全員と言っても過言では無い程農民や町民達でその様な人達に剣術を教授したところで何の意味も無い。
其れよりも自分と仲間の命を守るにはどの様にすれば守る事が出来るのか、その方法を教える事の方が大事で有ると考えたので有る。
「工藤中佐と私は兵士達に自分と仲間の命を守る方法を考えたのです。」
「ほ~兵隊さん達がお互いの命を守る方法をですか。」
源三郎はあの時以外連発銃を用いた戦争と言うものを見た事も無く、あの時見た連発銃の威力を目の当たりに見たのが初めてで有る。
「総司令ならば侍や野盗が何故刀を振りかざして突撃して来るのか想像出来ると思うのですが、官軍の戦法は有る意味で兵士達に突撃命令を出しますが、その相手が今までの侍ならば至近距離での白兵戦となり侍側に有利で、ですがあの時官軍の兵士が敵方となり一斉射撃が始まりました。
今までならば敵方の官軍が有利ですが工藤中佐が考案された方法ならば例え官軍が敵方で有っても当方の被害は数人の負傷者だけで終わるのです。」
確かにあの時は一人の兵士が戦死したが他の兵士はかすり傷さえも無かった。
連合国軍兵士の撃ち方は正確で官軍兵は次々と倒れ、最終的には狼の大群に襲われ全員が餌食となった。
「確かにあの時、我が連合国軍の兵隊さんに撃たれ次々と命中したのは私も見ておりましたが、では何故連合国軍の兵隊さんから戦死者が出なかったのですか。」
大昔から戦には必ず犠牲が付き物で自軍も敵軍も多くの犠牲、其れが戦死者で官軍でも今まで幕府軍との戦で多くの戦死者を出して要る。
だが工藤が引き得る部隊では殆ど、いや今回の兵士が最初の戦死者で、だが何故今まで戦死者が出なかったのか、其れが不思議でならない。
「其れが誠ならば不思議でならないのですが、何故ですか。」
「戦には戦死者は当たり前だと官軍の上層部は考えておりましたが、私は味方の其れも他の部隊からは犠牲者が出たとしても我が部隊からは犠牲者は出さない方法、其れが先日総司令がご覧になられた戦法です。」
工藤は他の部隊は別として我が部隊からは戦死者は出したくはない、だが一体どの様な作戦を講じれば戦死者を出さなくて済むと言うのだと連日考え、其れで考えた方法が三者一体と言う方法で有る。
「工藤さんの申されますのは理想では御座いませんか、戦と言うのは必ず敵、味方の関係無く戦死者が出るものだと私は思っております。」
「私も最初はこの様な考え方は極限の理想だと思いました。
ですが兵士達に説明して参りますと、兵士達はお互いの顔を見ながら自分と仲間の命を守る事が出来るならば訓練をさせて下さいと言って来たのです。」
何と工藤が兵士達に話すと大賛成だと言うので有る。
「ですが今まで連発銃の発射音は聞こえておりませんが。」
「私も最初中佐殿から話しを伺った時には実弾射撃の訓練になると思っておりましたが、中佐殿の考えは何も実弾射撃だけが訓練では無いと、実弾射撃よりも三人の兵士がどの様な状況下の戦でも生き残れる事が大事で有ると、その為には三人の兵士がありとあらゆる状況を想定し全てを習得しなければならないと申されて要るのです。」
工藤が考えたと言う三者一体とは三人の兵士が敵軍に対しどの様な状況下に有ったとしても三人の兵士が生き残る事が出来るならば他の兵士も生き残れる事が可能だと言う、だが果たして三人の兵士が生き残ったとしても他の兵士達も同様に生き残れる事が出来るのだろうか。
「吉田さんの申されます事は私も理解出来ますよ、ですが三人の兵士が生き残ったとしても他の兵士も生き残れると言う確証は有るのでしょうか。」
何も工藤が考えた訓練方法を批判して要るのでは無く、吉田の説明不足なのか、其れが知りたいのだ。
「私の説明不足で御座います。」
やはり吉田の説明不足だ。
「私から改めて説明させて頂きます。」
工藤も吉田の説明不足だと気付き、源三郎に詳しく説明した。
「やはりそうでしたか、工藤さんが考えられた方法が生き、今まで戦死者が出なかったのですね。」
「はい、私も此処まで成功するとは思いもしなかったのです。」
「ではあの兵隊さんは自らの命を犠牲にしてげんたを、いや技師長を助けたられたのですね。」
「はい、其れは確かだと思います。
私や吉田が戦死しても代わりの者はおります、ですが技師長の代わりになれる様な人物はいないと、其れは常々兵士達にも話しをしておりましたので。」
工藤も源三郎と同じ考え方で、戦と言うものは必ず戦死者は出る。
工藤も吉田も其の事に対し百も承知して要るはずで、常日頃からげんたと言う技師長は連合国の宝だと、その宝物だけは自分の命を掛けてでも守らなければならないと話して要る。
その結果一人の兵士が身を投げ出し技師長の命を救ったので有る。
「工藤さんのお話しを兵隊さん達は真剣に受け止められていたのですね。」
「ですが、正まかと思いましたが、あの兵士は我が部隊の中でも存在感の有る兵士でしたから。」
「工藤さんもご存知なのですか。」
「其れは勿論です、私も何度か彼と話し合いしており、部隊の中では小隊長、いや中隊長以上に存在感が有り、私は何度も昇進を進めたのですが、彼は其れはもう大変な頑固さでして受け入れて貰えず、自分は一兵卒の方が気楽ですと言って引き受けて貰えなかったのです。」
普通の兵士ならば昇格する事を望むが、彼だけは昇格するのを断ったと言う。
「ですが何故ですか、普通ならば大喜びだと思うのですがねぇ~。」
「私も其の様に思うのですが。」
今更戦死した兵士に昇進を断った理由が聞けない。
「では工藤さんはあの兵隊さんが何故昇進を断れたのか理由は聞いておられないのですか。」
「其の通りでして、正かあの様な形で戦死されるとは考えておりませんで、今は大変後悔しております。」
自らが考えた方法よりも、常に話していた事で兵士が戦死した、其れが一つの慰めになると思って要る。
「ですが工藤さんが常日頃より兵隊さん達に話されていた事でげんたの命が救われたのです。
其れだけでも良かったと思わなければ、あの兵隊さんは浮かばれないと思いますよ。」
「総司令からその様に申して頂けるだけで、私も少しですが気持ちが楽になります。」
げんたは侍が甲冑を付け戦に行った姿を見た事は無い、だが野洲のお城の中には数十体もの甲冑が有り、過去には甲冑を付け戦に行った事は想像出来る。
「オレは侍が甲冑を付け戦に行った姿を見た事は無いよ、だけどそんな事はオレにだって想像出来るんだ、侍が戦に行く時には甲冑を付けるのに、兵隊さんはなんで何も付けないのか、其れが分からないんだ。」
工藤も吉田も今の今までげんたに言われるまで考える事も無かった。
確かにげんたの言う様に侍は甲冑を付け戦場へと向かう、だが兵士達の身体には何も付けていない、それどころか薄手の軍服だけで有る。
「工藤さんや吉田さんは兵隊さんの命をどう思ってるんだ、あんちゃんだって同じだぜ。」
源三郎も工藤も更に吉田も何も言えず、工藤や吉田は何も兵士の命を軽んじて要るのでは無く、だが官軍の時も今も兵士の命を守る為の鎧などは考えもしなかった。
「実を申しますと、今技師長から申されるまで考えもしておりませんでした。」
「オレはねぇ~、工藤さんや吉田さんが悪いって言ってるんじゃ無いんだ、オレはあの時、兵隊さんが自分の命を引き換えにオレの命を救ってくれたと思ってるんだ、其れでオレは。」
げんたの頬に一筋の涙が流れ、其れはあの時げんたを助けた兵士の姿を思い出したのだろう。
「オレはなぁ~悔しいんだ、何でオレの為に兵隊さんが死ぬんだって。」
「其れは違うと思いますよ、あの兵隊さんはげんただけを助けたとは思わないのです。
げんたは連合国の宝ですよ、兵隊さんはねぇ~げんたの命と一緒に連合国の全員を助けたと、其れはねぇ~げんたに色々な物を考え作って欲しいと、其れが有れば連合国の人達は助かるんだと、兵隊さんは我が命を捨て連合国の人達を助けて欲しいと、只、其れだけだと思いますよ。」
何も言い訳を言ったのでは無く、多分、あの兵士は其の様に考え咄嗟的にげんたを救ったのだと言う。
「技師長は何かを考えておられるんですか。」
吉田もげんたの事だ、何の考えも無しに言ったとは思っていない。
「そうなんだ、オレの命を助けてくれた兵隊さんは自分の命と引き換えにして、他の兵隊さんの命を助ける道具を考えて欲しいって言ってる様に思ったんだ。」
「兵士の命を守る為の道具を考えろとですか。」
「そうなんだ、其れでさっき聞いたんだ。」
「兵士の命を守る道具ですか。」
「其れが直ぐに分かったら、オレは何も聞かないぜ。」
「ですが兵士は戦には必ずと言っても良い程何処かの戦場で戦死すると思いますが。」
「其れはオレも分かってるんだ、だけどオレは何か出来ないか、あの時からずっと兵隊さんも事ばっかり考えてるんだ。」
げんたは相当深刻に考えており、兵士が戦場で戦死する、其れを少しでも減らしたいと、だがどんな方法で兵士の命を守る事が出来るのか、あの時以来考え込んで要る。
「私も吉田も何時でも戦場へ向かうだけの覚悟は出来ており、我々連合国の人達の為ならば何時戦死したとしても決して総司令や技師長を怨むものでは御座いません。」
「だけど兵隊さんが全員戦死したら一体どうなるんだ、あんちゃんがどんなに強いって言っても敵の全員を切るのは絶対に無理なんだぜ、兵隊さんと侍が全員戦死したら、オレや母ちゃんは、其れにねぇ~ちゃん達は一体どうなるんだ、なぁ~工藤さん何とか言ってよ。」
兵士全員が戦死するなどとは今の今まで想像すらしておらず、げんたの問いに答えすら出来ないので有る。
「私は今の今まで連合国の兵士全員が戦死するとは考えてもおりませんでした。
確かに技師長の申されます事は可能性は無いとは申せませんが、連合国の兵士全員が戦死する事にでもなれば後は想像を絶する事態になる事は間違いは御座いません。
ですが今の我々にはどの様な方法を用いて兵士の戦死を減らす事が出来るのか、これは早急に答えを出さなければなりませんねぇ~。」
工藤も要約気付いたのだろうか、源三郎はと言うと先程から目を閉じ考え込んで要る。
「なぁ~あんちゃん、オレも考えて見るからね。」
「私も考えますが、余り無理はしないで下さいよ、今げんたに若しも事が有れば、其れこそ連合国は大変な事になりますからねぇ~。」
「其れは分かってるよ。」
「私も、いや連合国兵士の全員で考えて見ますので。」
「オレも分からないから連発銃を貸して欲しいんだけど。」
げんたも実は何の為に連発銃が必要なのか分からないと思って要るが。
「総司令、お持ちしました。」
執務室も奥に有る倉庫には連発銃が保管されており、其処から一丁の連発銃を持って来た。
「其れで弾は。」
「オレは別に弾は要らないんだぜ、じゃ~オレは帰って考えるから。」
げんたは連発銃を肩に掛け浜へと戻って行く。
「技師長は相当深刻になっておられますねぇ~。」
「確かに工藤さんの申される通りですねぇ~、私もげんたが正かあれ程にも深刻に考えて要るとは思っても見なかったですから。」
「我々兵士が戦で戦死する事は覚悟の上です。」
「私も以前は野洲の家臣でお家の為ならば死は覚悟しておりました。
ですがげんたは侍でも無く、兵隊でも有りませんよ、そのげんたが私と共に江戸、いや東京へ参る途中に起きた事件でしてね、私は侍ですから矢を打ち落とす事は出来ますが、げんたに其の様な事が出来るはずは有りません。」
源三郎は一刀流の達人で野盗が放つ数十本の矢を悉く打ち落とした。
だがげんたは町民で源三郎の様に飛んで来る矢を打ち落とす事は出来ない。
「我々兵士は技師長が考えておられる様な事は一度も考えた事は無いのです。」
「げんたにすれば初めて連合国を出た途端の出来事で、しかも兵士が命を落としてまでげんたを守ったのです。
げんたは兵士の命も何とかして守りたいと考えて要ると思うのです。」
源三郎は日頃からげんたや銀次達には命は大切だと話しており、げんたにすれば兵士だから戦死は当然だとは考えていない、それどころか兵士も同じ人間だ、同じ人間で有る以上は命を大切にして欲しいと考えて要る。
「工藤さん、吉田さん、げんたはあの兵隊さんの戦死を無駄死にはしたく無いと考えて要るのです。
私もげんたの考え方に賛成ですよ、この先もどんな敵が現れかも知れないのです。
敵を葬る事も大事ですが、その為に我が軍の兵士が戦死するのは当然では無く、出来る事ならば負傷で終わらせたいので、その為にも全員で何か良い方法は無いか考える事も大事ではないでしょうか。」
「私も考えさせられました、兵士だから戦死は当然だと、其れが今までの官軍の考え方でして、ですが先程技師長が申された様に若しも連合国の兵士全員が戦死する事にでもなれば、後は我々が想像すら出来ない程の惨状が待ち受けて要ると思うだけでも恐ろしいです。」
吉田もげんたの言葉を深く受け止めて要る。
一方、げんたは直ぐ浜に戻らず駐屯地へと向かった。
「げんたって言うんだけど、中隊長さんか小隊長さんは居ないですか。」
「げんたと申されますと技師長さんですか。」
「うん、そうだよ。」
「分かりました、少しお待ち下さい。」
駐屯地の入り口に居る兵士は驚きの様子で、連合国には技師長と呼ばれる人物が今まで駐屯地に来たことも無かった、其れが突然来たのだから無理も無い。
「小隊長殿、技師長が来られました。」
「えっ、技師長が来られたんですか。」
「はい、今入り口に来られ中隊長か小隊長を呼んで欲しいと。」
「分かりました、私が行きますので、其れと中隊長にも報告して下さい。」
「お入り下さい。」
「有難う、じゃ~。」
と、別の兵士がげんたを案内し駐屯地の中へと入った。
「技師長ではないですか。」
「あの時の兵隊さんですか。」
彼は源三郎とげんたの護衛に就いた第一小隊の兵士で有る。
「一体どうされたんですか。」
技師長、げんたが駐屯地に来たと、其れは直ぐ駐屯地中に広まり兵士達が集まって来た。
「お待たせしました。」
「あっ、あの時の小隊長さんだ。」
第一小隊の小隊長もげんたを覚えて要る。
「此処では何ですから中佐殿の執務室へ。」
「えっ、工藤さんの。」
「宜しいんですよ、中佐殿は何も申されませんので。」
駐屯地には工藤の為に執務室が建てられて要る。
「まぁ~お座り下さい。」
げんたと小隊長が椅子に座り。
「技師長が駐屯地に来られるとは何か訳でも有ると思うのですが。」
「そうなんだ、オレはあの兵隊さんのお陰で今こうして生きてるんだけど、其の話しよりもオレが聴きたいのは兵隊さんがどんな格好で撃つのか、其れが知りたいんだ。」
「えっ、どんな格好で撃つって言われるのですか。」
「そうなんですよ、オレがあの時に見たんだ、二又を過ぎた時に官軍が来た時なんだ。」
小隊長が負傷し隧道へ戻る時に官軍兵と撃ち合い、其の時の連合軍兵士が取った射撃姿勢で有る。
「あの時、連合軍兵士が取った射撃姿勢ですか。」
「官軍兵が撃つ格好と連合国軍の兵隊さんが取った格好が全然違う様に見えたんだ。」
「あの射撃姿勢の事ですか。」
連合軍兵士が取った射撃姿勢がげんたは違うと見た、何故、連合軍兵士が負傷、いや戦死者すら無く、今は敵となった官軍兵を連合軍兵士が撃ち次々と命中させて行く、其れが不思議でならないと考えて要る。
「あの射撃姿勢は中佐殿が考えられた方法なんですよ。」
「中佐殿って工藤さんですか、でも何で工藤さんが考えられたんですか。」
「中佐殿はご自分で今の連合軍兵士を集められたんです。
確かに戦争と言うのは敵軍もですが味方からも戦死者や負傷兵が多数出るのは間違いは有りません。
ですが中佐殿は自ら頭を下げ兵士にされたんです。
我々の頃の官軍は兵士を人間としてでは無く鉄砲の弾と同じ様に考えてたんですよ。」
「鉄砲の弾って、だったら、えっ、そんな馬鹿な事が。」
げんたは工藤達がいた頃の官軍の実態を聞かされ絶句した。
其れは正かと思う様な話しで、げんたが聞いた話しとは全く違うので有る。
「中佐殿が何故官軍から脱走、いや離脱する事になったのか、其れを知らなければ我が軍の三銃士の話しを聞かれても理解出来ないと思いますよ。」
その後、小隊長は工藤が何故官軍を離脱したか、其れは官軍に取っては知られたくない裏話で有る。
「ふ~んそうだったのか、小隊長さんがさっきの三銃士の話しなんだけど、工藤さんが考えられたって聞いたんだけど。」
「中佐殿が考えられた方法ですが、我々はその呼び名を三銃士と名付けたんです。」
「其れは工藤さんも知ってるんですか。」
「いいえ、中佐殿には知らせておりませんので、あくまでも我々だけの呼び名ですから。」
小隊長は工藤にも報告していないと言う三銃士とは。
「技師長が来られたと聞きましたが、一体何用でしょうか。」
中隊長が執務室に入って来た。
「中隊長殿。」
「小隊長、其のままで宜しいですからお話しを続けて下さい。」
小隊長は座り直し、話しを続けた。
「確かに中佐殿が考えられたのは間違いは有りません。
ですが現場で兵士達を鼓舞したのは熊源さんなんです。」
「小隊長さん、熊源さんって一体誰なんですか。」
げんたが熊源と聞いたところで知る訳が無い。
「技師長の命を助け戦死した兵士です。」
「えっ、あの兵隊さんが熊源さんって言うんですか、オレは何も知らなかったんで、でも何で熊源さんが兵隊さん達を鼓舞されたんですか、オレは軍隊の事は知りませんが、オレの知ってるのはオレ達の様な町民よりもあんちゃんが先頭になって動いたからオレ達も動いたんで、なのに何で一人の兵隊さんが先頭になって動いたんですか。」
げんたにすれば源三郎の様に上層部の者が動くと言うのは理解出来る、だが一人の兵隊が先頭になる事が信じられないと言う。
「実は熊源さんと言うのは自分の叔父でして、官軍の、いや以前は藩でも指折りの戦術家として藩の上層部からも全幅の信頼を得る人物でして熊田源一と言うのです。」
「でも何でそんな人が小隊長さんや中隊長さんになれなかったんですか。」
「熊源さんと言う人物ですが、中佐殿が何度も昇進して欲しいと申されたのですが、熊源さんはどんな理由を聞かせれたとしても昇進する事を望みませんと全てを拒否され、その後は一兵卒として兵役を全うされたのです。」
「小隊長さんになったら色んな事が優遇されるって聞いたんですよ、其れなのにオレは全然わからないよ。」
「其れは何も技師長だけでは有りませんよ、我々もですが兵士達も理解出来ないと言うのです。
普通の兵士ならば早く昇進する事を望みますが、熊源さんが戦死され、何故昇進を拒んだのか今は解明する事も出来なくなったんです。」
「一人の兵隊さんだけが先頭になっても無理だと思うんだけど、でも何で三銃士ってのが出来たんですか。」
「その部分が一番大切でしてね、中佐殿が申されました三者一体になるって事が一番最初に理解されたのが熊源さんなんです。」
「だったら熊源さんは何時も工藤さんの話しを聞かれてたんですか。」
「其の通りでして、この部屋で中佐殿のお話しをお聞きするのですが、我々の一番後ろで熊源さんだけが聞かれて要るんです。」
普通の部隊では考えられ無い、一兵卒の分際で士官達だけで行われる会議と言うのか話の中に入って聞く事など許される事では無い。
だが工藤の考え方は違う、幹部の会合に兵士が入り聞く事を認めており、だが現実は熊源以外の兵士は誰人として聞く事は無く、其れはやはり幹部の話しの内容は理解が困難なのか、だが熊源と言う人物は官軍に入る以前の藩では戦術家だとして多くの信頼を得ており、其れには何事に関しても上層部の考え方を聞く必要が有ると思っていた。
「オレも工藤さんの話しを聞くんですが、オレは別に工藤さんの話しは難しいとか思った事なんか無いんだけどなぁ~。」
「其れは技師長だけですよ、中佐殿も申されておられましたが技師長の話しは全く理解出来ないと申されるのですから、我々が聞いたところで一体何をお話しされて要るのか、いや其れ以前の問題だと思います。」
「オレの話ってそんなに難しいのかなぁ~。」
確かにげんたの話を最初に聞いた者は一体何の事を話して要るのか全く理解出来ないと。
「だけど中隊長さんや小隊長さん達だけの話しに兵隊さんが入って聞く事は普通の事なんですか。」
部隊長の吉田もげんたの話しを最初に聞いた時には全く理解出来無かったと中隊長や小隊長達に話しており、それ程にもげんたの話しは難しいのだろうか。
「其の前にですが、部隊長の吉田大尉が申しておられましたが、吉田大尉が技師長のお話しを聞いた時には一体何を言われて要るのか全く理解出来無かった、其れと同じで中佐殿の話しを一般の兵士が聞かれても全く理解出来ないと思って要るのです。」
「そんなに工藤さんの話しは難しいんですか。」
「我々は普段から聴いておりますので別段難しいとは思いませんが、やはり其処は熊源さんだけは別格だと申しましょうか、藩で長年戦術を模索されておられたのが良かったのだと思いますねぇ~。」
やはりげんたが考えた通りだった、熊源と言われる人物は藩の中で日頃から戦術を考えており、戦術と言っても素人が思う程簡単では無く、何故ならばありとあらゆる場面を想定しなければならない。
げんたが考案した潜水船にしても、げんたは最初から造れたのでは無く、其の前に源三郎から依頼された潜水具作りに何度も失敗し、其れが潜水船造りに生かされたので有る。
「じゃ~熊源さんは何を考えられたんですか。」
「確かに中佐殿が申されました三者一体と言う戦法は言う事は簡単ですが、実際に行うとなれば簡単ではないんですが熊源さんは一人の兵士の立場で考えられたんです。」
「へぇ~一人の兵士の立場でねぇ~、其れでどんな方法なんですか。」
げんたは熊源が考えた方法を早く知りたいのだ。
「簡単に説明しますと、一人は立ち木を利用し、次の一人は座り膝に銃を持つ手の肘を就け、最後の一人は身体を伏せた状態で射撃を行うのです。
其れが三者一体と言う攻撃方法ですが、熊源さんはその方法を更に別の方法で幕府軍との戦では一人の戦死者も出なかったのです。」
「今の話の中で立ち木を利用し立ったままで撃つ人や座って自分の足の膝を利用し撃つ人、其れに身体を伏せて撃つ兵隊さん、でも何で別々の方法で撃つんですか。」
げんたにすれば何故バラバラの状態で撃つのか分からない。
「三人の中で一番重要な役目を持つのが立ち木を利用する兵士なんですよ。」
「えっ、何で、オレから見れば立ち木に隠れても敵から見れば何処に隠れてるのか直ぐに分かると思うんだけどなぁ~。」
「正しく其の通りでしてね、ですが見方を変えれば立ち木を利用すると言う方法で敵軍の位置を探る事が一番の目的なのです。」
戦で勝利する為には敵軍の位置や武器の種類を知る必要が有り、普通は敵軍の位置を探る為には斥候を出すが、其れでも直近になれば少人数にまでなる事が有り、少人数の敵軍を知る為には多少の犠牲を承知で戦に望まなければならない。
中隊長は熊源が提案した方法を採用するが、其れは一体どの様な方法なのだ。
「でも三人だけで大勢の敵をやっつける事が出来るんですか。」
「三銃士と言うのは何も一組だけでは無いのですよ、部隊の全てが三銃士でなんですよ。」
「えっ、だったら全員が三銃士の役目が出来るんですか。」
「ええ、正しく其の通りでしてね、熊源さんが実に見事な方法で全員が出来る様になったんです。
今までは中隊長や小隊長が声を出して敵軍の位置を伝えてたんですが、熊源さんが考えた方法と言うのは、先ず三人の内、先頭を行く者が立ち木に隠れた時に敵軍の位置や人数を確認すると残りの二人に対し手で方角と人数を知らせるんです。」
「じゃ~声も出さずに知らせる事が出来るんですか。」
「はい、正しく其の通りでしてね、二人は手の動きで敵の人数と位置が分かるんです。」
「そうか、その方法だったら敵に見付かる事も無いんだ、じゃ~攻撃の方法も変わるんですか。」
「其の通りでして、例えば正面に二人、右側に三人、左側にも三人が居ると思って下さい。
立ち木に隠れた兵士が手で合図し他の兵士が別々の敵に攻撃する事が出来るんです。」
三者一体と言うのは自軍よりも多くの敵が居たとしても敵軍に知られる事も無く敵軍に勝つ事が出来ると言うので有る。
「う~ん、だけど何かが足りないなぁ~。」
腕組みし何やら考えて要る。
「何かが足りないと申されましたが、一体何が足りないのですか。」
中隊長はげんたの言う何かが足りないと言う意味が分からない。
「さっきも中隊長さんが言ったと思うんだけど、その方法で今まで一人も戦死者が出て無いって。」
「其れは間違いは有りません。」
「だけどこれからも絶対に無いっては言えないと思うんだ。」
「確かに其の様に申されますと、私も確信が有りませんが、今はこの方法が一番安全だと思うのです。」
「じゃ~、少し別の事を聞くけど、何で兵隊さんは何も付けて無いんですか。」
「えっ、何も付けて無いって、ですが侍も何も付けておりませんが。」
「侍はお互いが刀でやるんだぜ、だけど兵隊さんは敵が撃つ鉄砲の弾とか矢が飛んで来るんだ、熊源さんも飛んで来た矢が刺さって戦死したんだ、オレは飛んで来る鉄砲の弾や矢から兵隊さんの命を守りたいと思ってるんだ。」
「えっ、兵隊の命を守るって申されるんですか、ですが戦には戦死と言うのは必ず来ると思うのです。
我々も戦死と言うのは覚悟しておりますので。」
「オレはもう誰にも戦死して欲しくは無いんだ、中隊長さんだって本当は戦死はしたく無いと思ってるんだ、だけど軍人だから戦死は仕方が無いって思ってるだけなんだ。」
中隊長は何も言えずに要る。
「工藤さんだって、小隊長さんだってみんな同じ様に思ってるはずなんだ。」
「ですが其れが戦ですよ、今までは幕府軍が相手でしたから戦死する事も無かったんです。
ですがこれから先は官軍が我々の敵として相手する事になるのです。
技師長が申されました様に、本当は自分も戦死だけは望んではおりません。
ですが官軍が相手となれば我々も戦死するのは確実なんですよ。」
やはりだ、中隊長は何も戦死を望んではおらず、小隊長も頷いて要る。
「だったら少しでも戦死しない方法を考えるべきだと思うんだけどなぁ~。」
「どの様な方法を用い戦死者を減らす事が出来るので有れば、私は何でも致します。
ですが私は戦で敵軍だけを殺す事を考えて要るのです。」
中隊長は敵軍となる官軍を相手となれば多くの戦死者は覚悟しなければならないと、中隊長も自軍の戦死者を減らす方法は無いか考えるのが自分に与えられた役目だと言うのだ」。
げんたも中隊長の役目も大事で有ると分かっており、其れならば別の方法は無いか考え始めた。
「連発銃の弾って一寸くらいの木の板は撃ち抜くんですか。」
「えっ、一寸厚の板をですか、まぁ~半町までならば撃ち抜く事は可能ですが、其れが何か。」
中隊長は一瞬、げんたが何を聴きたいのか分からないと言う表情をして要る。
「半町か、そんなにも近いのかう~ん。」
げんたは驚きもせず、何かを探して要る様にも見える。
「だったら鉄の板だったらどうなんですか。」
「鉄の板ですか、鉄板と申されましても分厚い物から薄い鉄の板まで有るのですが。」
「う~ん、だったら厚みが一分くらいの鉄板だとしたらどうですか。」
「厚みが一分ですか、まぁ~其れならば、例え半町先から撃たれても致命傷にはならない思います。
ですが、私も其れならば絶対に大丈夫だと言えるだけの自信が無いのです。」
中隊長にすれば正か鉄板を其れも厚みが一分の鉄板を連発銃で撃つと一体どうなるのか今まで考えた事など無く、げんたの発想に驚きは隠せない。
「う~ん、やっぱりなぁ~、鉄板だったら連発銃の弾でも大丈夫なのか、よ~しオレが考えて見るよ。」
一体何を考えると言う、中隊長も小隊長も全く分からないと言う表情をして要る。
「技師長は一体何を考えておられるんですか。」
と、小隊長は聞くが。
「まぁ~オレが考えるから、物が出来るまでの楽しみにして置いてよ。」
げんたは薄笑いをして要る。
「中隊長さんも小隊長さんも忙しいところ有難う、あっ、そうだ連発銃の弾を一個欲しいんだけど。」
「宜しいですが、この部分を細い鉄の物で打つと大変危険ですので注意して下さい。」
小隊長は連発銃から一個の弾を取り出し、撃鉄の当たる部分を指し、細い鉄物で打つなと。
「うん、分かったよじゃ~な。」
と、げんたは連発銃を肩に掛け弾を持ち部屋を出て行く。
「技師長は一体何を考え、何を作るのでしょうか。」
「私にも全く想像が出来ないが、ですが兵士を守ると言われておりましたからねぇ~。」
げんたは部屋を出ると城下へと向かった。
何の為に城下へ向かったのだろうかと、中隊長は兵士を守る為の物だからと言うが、げんたは一体何を作ろうというのだ。
「お~げんたか久し振りだなぁ~、元気でやってるのか。」
「うん、オレは何時も元気だぜ、あんちゃんも元気か。」
「勿論だよ、で、げんた何を持ってるんだ。」
「あっ、これか連発銃だ、今から毛皮屋さんのところに行くんだ。」
「ほ~毛皮屋さんのところにねぇ~、で、一体何を作るんだ。」
「あんちゃんには悪いけど、其れを今説明しても全然分からないと思うんだ。」
「ふ~ん、そんなにも難しい物を作るのか、やっぱりなぁ~、まぁ~げんただったら何でも作れると思うけど、其れよりもあんまり無理するなよ。」
「うん、分かったよ、じゃ~な。」
この様なやり取りを城下のあちこちでしながらもげんたは毛皮屋へと向かって行く。
「おじさん。」
「お~げんたか久し振りだなぁ~、で今日は何の用事だ。」
「教えて欲しいんだけど、動物の毛皮って使い方で変える方がいいのかなぁ~。」
「そりゃ~そうだよ、だけど何でそんな事を聞くんだ。」
毛皮屋のおやじさんはげんたが肩に掛けて要る鉄砲を見て要る。
「連発銃を撃つ時なんだけど、さっき駐屯地の兵隊さんに聴いたんだ。」
毛皮屋のおやじにすればげんたの事だ何か大きな問題が起き、その問題を解決する為に来たんだと。
「なぁ~げんた、何が有ったのか知らないが肩に掛けた連発銃と関係が有るのか。」
「そうなんだ、其れで聞きたいんだけど、兵隊さんが連発銃を撃つと肩に物凄い力が掛かって数発も撃つと肩が痛くなるって言ってるんだ。」
「そんなにも痛いのか、じゃ~兵隊さんも大変だなぁ~。」
「そうなんだ、其れに兵隊さんはオレ達を幕府の奴らや官軍から守る為に命を掛けてるんだ、其れでオレは少しでも兵隊さんの痛みを少なくしたいと思ってるんだ。」
毛皮屋のおやじも源三郎達から幕府と官軍の話を聴いており、げんたは其の中でも大事な仕事に就いて要ると知って要る。
「げんたは毛皮を肩当てに使いたいのか。」
「そうなんだ、だけどオレはどんな毛皮がいいのかも分からないんだ、其れで教えて欲しいんだ。」
「よ~し分かったよ、だったらわしが手伝うから型を作ってくれ、数種類の型が要るぞ。」
「おじさん、有難う、オレも助かるよ。」
げんたは喜びを身体全体で表した。
「其れともう一つ教えて欲しいんだけど、頭の上に鉄を乗せると頭が痛くなると思うんで何かいい毛皮が有るといいんだけど。」
「えっ、げんた、今なんて言ったんだ、頭の上に鉄を乗せるってのか。」
「そうだよ、鉄の板を頭と同じ様な形にして頭に被せて、兵隊さんの頭を守るんだ。」
げんたは兵隊の頭部を守る為に鉄兜を作るんだと、だが鉄兜を頭に直接被せる為に頭部は鉄の重みと動きで頭部に痛みが生じると考え、少しでも痛みを和らげる為に鉄兜の内側に毛皮を付けたいのだ。
「う~んそうだなぁ~。」
毛皮屋のおやじはどんな毛皮が良いのか暫く考え。
「だったら熊がいいと思うんだ、熊の毛皮だったら毛の足も長いから兵隊さんの頭を守れると思うんだ。」
「熊の毛皮か、でも熊ってそんなにも多くいないんでしょう。」
「まぁ~そんな事は心配するな、げんたはその鉄兜って物を作ればいいんだ、わしも考えて見るから。」
毛皮屋のおやじも全面的に協力すると快く引き受けてくれた。
「其れとねぇ~。」
「未だ何か有るのか。」
毛皮屋のおやじにすればもう終わりだと思ったが、げんたはまだ有るんだと言う。
「そうなんだ、実はオレの命を助けてくれた兵隊さんが身体に数本の矢が刺さって戦死したんだ。」
「そうか、げんたは兵隊さんの命を守りたいんだな。」
城下の人達もげんたは心優しいと知っており、毛皮屋のおやじもその一人で有る。
「そうなんだ、オレは兵隊さんの身体を守る為に鉄の板で作るんだけど、毛皮を分けて欲しいんだ。」
「そうか分かった、そうだなぁ~、牛と馬の毛皮が有るんだ、げんたが要ると思う毛皮を持って行きな、それと鹿の皮は柔らかいから細くすると結ぶ為の紐に成るから、其れも一緒に持って行っていいよ。」
「有難う、じゃ~オレ浜に帰るよ、あんまり遅いと母ちゃんが心配だからなぁ~。」
「本当に母ちゃん思いだなぁ~、さぁ~早く帰ってやれよ、今頃は母ちゃんも心配してるからなぁ~。」
「おじさん、じゃ~な。」
と、げんたは連発銃と毛皮を持ち浜へと帰った。