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闇の帝国    作者: 大和 武
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 第 22 話。世の中の大激変。

「総司令。」


「これは高野様に阿波野様、早速来て頂き申し訳御座いませぬ。」


「其れよりも書状では山賀から菊池まで石垣の通路を作ると。」


「正太さんの提案で丁度後藤さん達も来られまして、其れで話しが思うよりも早く進みました。」


「では山賀から菊池までの城壁を築くのですね。」


「まぁ~そう言う事になりますねぇ~、でも本格的な工事の前に作業員用の宿舎と賄い処を作らねばならず、其れで書面に認めたのです。」


「私も大急ぎで木こりと大工達に説明を終わり、道具の積み込みが終わり次第出立します。」


「上田も同様でお昼が過ぎれば出立すると聞いておりますが、其れにしてもこれは大変な工事になるのでは御座いませんか。」


「其れも仕方が御座いませぬ。

 あの時は野盗でしたが、今度は官軍が来るやも知れず、官軍は野盗とは比べものにならない程の組織力で訓練も中途半端では無く、若しも官軍の大軍が山賀に侵入する事にでもなれば山賀は簡単に陥落し、松川も同じで、幾ら連合軍が元官軍兵だと申しましても所詮農民さんや町民さんの集まりなので官軍の本隊が相手ともなれば無理だと思います。」


「其れは私も同じで、菊池の特撰隊と中隊ですが、先日も野盗の攻撃で兵士達と特撰隊とが話し合いをされ、野盗若しくは官軍からの攻撃にも対処すべきだとして、彼らの考えで監視任務に就くと、其れに関して私は何も反対する必要も無いと考え全てを任せる事に致しました。」


「其れで十分だと思いますよ、私達が指示を出すのでは無く兵士同士で考えて行く事が大事です。」


 源三郎も反対する必要も無いと。


「では山賀に向かう作業員ですが。」


「其れは工藤さんに任せて有ります。

 今回は野盗の攻撃を受け、工藤さんが連れて来られました中隊長と多くの兵士が戦死され、次の攻撃には部下の犠牲者を少しでも減らしたいと申され、工事には五千人の中から派遣したいと其れで今頃は兵士達に説明されて要ると思います。」


 其の頃、工藤は兵士達に説明を始めていた。


「皆さんにお話しが有りますので集まって下さい。」


「なぁ~何か有ったのかなぁ~、大佐が話しが有るってよ~。」


「ああ、多分あの時野盗が襲って来たからオレ達にも配置に就けと言う話だと思うんだ。」


「そうだなぁ~オレもそうだと思うよ。」


 兵士達も戦闘配置に就くものだと思って要る。


「先日、菊池の隧道からと山賀には千五百の野盗が攻め込み駐屯しておりました中隊の兵士の半分と中隊長が戦死され、小川大尉も大怪我された事は知っておられると思います。」


「大佐、オラも山賀に行くんですか。」


「皆さんが配置に就くのでは有りません。

 其れよりも山賀から菊池まで城壁を築く事になったのです。」


「じゃ~オレ達は戦に行くんじゃないんですか。」


「そうですよ、皆さんの戦は城壁を築く事でして。」


「ねぇ~大佐、その城壁って大きいんですか。」


「其れが私も詳しい内容は分かりませんが、後藤さん達が測量された後に指示が有りますので工事に就いて頂きたいのです。」


「その工事って何時から始めるんですか。」


「其れよりも皆さん総司令からのお願いで何としても城壁を早く完成させたいので皆さんの協力が必要だと申されておられますが、皆さん如何でしょうか。」


「大佐、オラはやりますよ。」


「オラもだ、源三郎様がお願いされてるんだから。」


「大佐、池も作るんですか。」


「勿論ですよ、完成すれば皆さんに田畑を耕して頂けると思っておりますので。」


「じゃ~その城壁はオレ達を守る為に作るんですか。」


「総司令は皆さんの為だと、私もあれだけ大勢の野盗が襲って来るとは思って無かったんです。

 皆さんを含め領民を守る為にと申されておられます。」


「じゃ~オレ達も領民なんですか。」


「勿論ですよ、其れで無ければあの時皆さん全員を助けると思いますか。」


「そうだなぁ~、やっぱりあの時に助けられたんだ、だから此処の兵隊さんは官軍の指揮官だけを狙ったんだ。」


「よ~し、オラも行きますよ、もう帰る家も無いからなぁ~。」


 彼らが故郷に帰ったとしても、果たして家が、いや家族は無事なんだろうか、官軍が本当に食料を届けてるのか其れも怪しいもので、其れよりも連合国に居れば安心では無いだろうかと考えるのが普通で有る。


「私も皆さんに直ぐ答えを出せとは申せませんので、今日はじっくりと考えて下さい。

 明日私は山賀に向かいますので。」


「大佐が山賀に行くんですか。」


「菊池から木こりさんと大工さんで工事に就かれる人達の為の宿舎と賄い処を建てる事になりましたので。」


「じゃ~オレも一緒に行きますんで。」


「まぁ~今はじっくりと考えて下さい。

 其れと我々連合国では仕事に就かれると食べる事は出来ますが、仕事に就かないと食べる事が出来ませんのでね、その辺りもよ~く考えて欲しいんです。

 私の話は終わりますのでね、皆さん宜しくお願い致します。」


 話しは簡単で連合国に残りたいので有れば仕事に就きなさいと、ただそれだけで有る。


「源三郎様。」


「お忙しいところ吉田様には大変申し訳御座いませぬ。」


「いいえ其の様な事は、其れでお話しと申されますのは。」


「其れなんですが、山賀から菊池までの街道に賄い処を建てる方向で進んで要るのですが、どの様な建物が良いのか分からず、吉田様の意見をお伺いしたいと思いまして。」


「五千人以上だとお聞きしましたが、我々の様な城勤めの者では詳しい事は分かりませんので、城下の飯屋か旅籠に聴かれては如何でしょうか。」


 城勤めの賄い処では五千人分の賄いは分からないが、城下の旅籠や飯屋に聴けば分かるのだと。


「左様ですか、では鈴木様と上田様、大川屋に参りましょうか。」


 源三郎は鈴木と上田を伴い城下の大川屋へ向かった。


「あ~らまぁ~源三郎様じゃ~ないですか、お久し振りですねぇ~、其れで何処かに行かれるんですか。」


「ええ、そうなんですよ、今から大川屋さんにね少し用事が有りましてね。」


 源三郎も久し振りに城下に行くと、城下の人達は久し振りに見る源三郎に気軽に声を掛けて来る。


「大川屋さんにも久し振りですからねぇ~。」


「源三郎様、少々お待ち下さいませ。」


「いゃ~今日は番頭さんに賄い処の事をお聞きしたいと思いまして、お忙しいところ誠に申し訳御座いませんが教えて頂きたいのです。」


「まぁ~此処では何ですのでどうぞ此方へ。」


 大川屋の番頭は何か有ったのかと冷や汗を感じて要るが、源三郎と鈴木と上田は番頭の部屋に入った。


「其れで先程のお話しですが賄い処の事だと。」


「番頭さん、実はですねぇ~。」


 と、源三郎は大工事の為に五千人分の賄いが必要だと説明すると。


「えっ、五千人分もの賄いですか。」


 番頭も正かと言った表情で唖然として要る。


「其れも街道筋に家を建てるのですが、何か良い方法が無いかと思いましてね、番頭さんのお知恵を拝借出来れば思いまして寄せて頂いたのです。」


「其れで有れば私よりも板前と女中達の方が詳しいと思いますので、少しお待ち下さい。」


 番頭は部屋を出ると丁稚に何かを伝えた。


「源三郎様、遅くなり申し訳御座いません。」


 と、大川屋の店主が冷や汗を掻きながら飛んで来た。


「店主殿、実は今番頭さんにご無理を聴いて頂いておりまして。」


「いいえその様な私どもに出来る事ならばどの様な事でも申し付けて下さいませ。」


 店主も源三郎が来ると言う事は余程の事だと分かって要る。


「店主殿、実はこの度の事は私達では解決出来ませんので、其れで皆さんの協力無しでは

不可能だと思いまして、其れで今日寄せて頂いたのです。」


「失礼します。」


 と、大川屋の板前と女中頭が入って来た。


「源三郎様、大川屋の板前と女中頭で何でもお聞き下さい。」


「左様ですか、お二人共、大変お忙しいところ誠に申し訳御座いませぬ。」


 源三郎は何時もの様に板前と女中頭に頭を下げた。


「えっ、何でお侍様が板前に頭を下げられるのですか、頭を上げて下さい。」


「いいえ、私は何も分かりませんので、其れで今番頭さんにお願いをしましてね、私は大変有り難いと思い、ただ其れだけの事ですよ。」


「お侍様、其れで私に用事とは。」


「板前さんにお聞きしたいのですが、五千人分の食事を作る事は可能でしょうか、其れも毎日なのですがね。」


「え~今何と言われましたか、五千人分の食事を毎日作れるかって、お侍様、御冗談はやめて下さいませ、そんなの私一人では絶対に無理ですよ。」


 板前は自分が五千人分の食事を作るのだと思ったのだ。


「申し訳有りません、私の説明不足で誤解を招いたと思っております。

 実は板前さんならば五千人分の食事を作るには何人の人達が必要なのか、其れを教えて頂きたいのです。」


「お侍様。」


「板前さん、私は源三郎と申しますので、これからは源三郎とお呼び下さいね。」


「源三郎様、五千人分の食事を作るのは可能ですが私ならば五千人の人達を分けます。」


「分けると申しされますと。」


「源三郎様も私どもに何度か来ておられますので其の時に見ておられると思いますが、私どもの旅籠ではお部屋毎に食事を作るんです。」


「私も少し分かりましたよ、人を分けると言う意味が。」


「やはりさすがで御座いますねぇ~、其れに家を建てるとお聞きしましたが。」


「私は五千人以上の人達が工事に就いて頂けると考えておりますので、一軒に何人が入れば良いのか、其れすらも分からないのです。」


「其れならば、私で宜しければ考えたいと思うのですが。」


「店主殿、誠に有り難いお話しで、私は何とお礼を申し上げて良いか分かりませぬ、板前さん、この通りで、何とかお知恵を貸して頂きたいのです。」


 源三郎は改めて大川屋と板前に頭を下げたので有る。


「頭を御上げ下さいませ、私は源三郎様の為ならば命などは。」


「店主殿、命は大事ですよ、私の事よりも領民の為に良い策を考えて頂きたいのです。」


「板前さん、源三郎様と申されますお侍様は常に領民の為だと申され、その様なお方で、私もこれからは源三郎様の申されておられます領民の為に捧げます。」


「誠に有り難きお言葉、源三郎、この身に代えても工事は必ず完成させます。」


 大川屋の店主も番頭も源三郎の決意を改めて知った。


 明くる日の早朝、大川屋と番頭は数人の丁稚を伴い後藤達を追い山賀へと向かった。


「なぁ~後藤さん、今度の工事だけど一体どんな工事になるんですか。」


「総司令と言うお方は相手が農民とか町民とか関係無く、良い提案ならば採用して下さるんですよ。」


「其れはオラも分かってますよ、でもあの時はもう怒られるって思ったんですよ。」


「確かに以前の官軍ならば相手にするどころか、農民兵の分際で何を申してるんだって相手にもしてくれなかったと思うんです。」


「だけど源三郎様は反対に申し訳無いと言われたんで、其れでオラの方がびっくりしてるんですよ。」


「源三郎様と言うお方は特別なお方だと私は思っています。

 正太さんの提案で私も考えたんですが、柵と城壁造りなんですが岩石を山の斜面に並べ積み上げると言うのは大変難しい工事でしてね簡単ではないんですよ。」


「じゃ~石は積み上げれないんですか。」


「ええ、そうなんですがね。」


 と、後藤はニヤリとするが、吉三は困ったと言う顔をして要る。


「ねぇ~後藤さん、何でニヤッとするんですか、オラは出来ない工事だって思ったんで。」


「ええ、確かにね、普通の方法ならば山の斜面に岩石を積み上げるのは大変難しい工事でして、特に連合国の山ではねぇ~困難が予想されるんです。」


 後藤は菊池でも経験しており、菊池では一町か一町半も山に向かうと斜面は急勾配になり、山の木に手で支えるか、大木の根本に足を置かなければ身を置く事も出来ず、それ程までに連合国側の斜面は急勾配で、その様な急斜面に柵を作り、兵士が移動する為の通路を作ると考えた者は一体何を考えたのだと、柵よりも城壁を築き上げるのは其れこそ大変難工事になると。

 だが後藤は何か秘策でも有るかの様な顔付きで有る。


「なぁ~後藤さん、その城壁って本当に造れるんですか。」


「まぁ~私に任せて下さい、其れよりも斜面が急になる所に杭を、其れと山側ですが一町程登って杭を打ち込んで欲しいんですよ。」


「えっ、斜面が急になる所に杭を打ち込めって、斜面を一町も登った所にも杭を打ち込むって、簡単言いますけどねぇ~。」


「私も十分理解しておりますよ、ですがよ~く考えて考えて欲しいんですよ、下と上の杭の間に有る大木は切り倒すんですよ。」


「じゃ~、切り開いたところは急斜面になりますよねぇ~。」


「そうなんですよ、柵の中の急斜面は転げ落ちるか、其れとも戦死して転げ落ちるかだけでしてね、柵や城壁を築く事も大変ですが、山から侵入して来る野盗や官軍は山を登る時は何時狼の大群に襲われるかも知れず、例え山の頂上に着き、下りに入っても突然開けた所に来ると、まぁ~下ると言うよりも転げ落ちると言う表現が妥当だと思いますよ、開けたと思った途端に身体を支える大木が有りませんので、まぁ~十人中八人か九人は転げ落ちて来ますので連合軍の兵士は撃つ事も無いと思います。」


「じゃ~山賀の兵隊さんは大丈夫なんですか。」


「其れは私にも分かりませんよ、敵も必死ですからねぇ~。」


 後藤が考えた城壁とは一体どの様にして築き上げて行くのだろうか、其れは山賀に入らなければ分からないが、何れにしても難工事になる事だけは確かで有る。


 一方、源三郎の命を受けた田中はボロボロの僧衣を纏い一年掛かりで日本中を回り、後数日で菊池の隧道まで言う所まで帰って来た。


 幕府は倒れ、新政府が誕生して元号も明示と改められ、だが新政府が誕生したからと言って全てが制定され全てが順調に進んで要るのでは無い。


 朝廷は大政奉還を認めたが、倒幕派は幕府勢力を完全に壊滅させる為王政復古を宣言し、やがて其れが大きな戦が鳥羽伏見から戊辰戦争に発展し、その後、幕府のお城は無血開城し、東北と蝦夷地でも新政府により鎮圧され内乱も要約収まり、これで幕府勢力は完全に滅び王制を中心とした政権が誕生した言うのは表向きで、其れよりも連合国は日本中で今何が起きて要るのかも全く情報と言うものが入って来ない。

 だが連合国は別に外部との接触を拒否しているのでは無く、やはり目前に有る高い山が原因なのか、この数年間と言うものは全くと言っても良い程人の往来が無く、世間と言うよりも日本の各地で起きて要る事件なのか、戦なのか全く伝わって来ない。


 田中はこの一年で日本国中を周り、何処に行ってももう驚きの連続でその為か今では少々の事では驚く事も無く、それ程までに世の中が大変化を起こしたので有る。


 数日後。


「お~い、誰か分からないがお坊さんがやって来るぞ。」


「若しやそのお坊さんは多分野洲の田中様では、田中様だったら其のまま通って頂くんだ、其れと高野司令にも知らせてくれ。」


 田中はゆっくりと近付いて来る。


「私は野洲の田中です。」


 やはり田中だ、田中が帰って来たんだ。


「やはり田中様でしたか、さぁ~どうぞ、誰か高野司令に知らせてくれ。」


 兵士は大慌てで高野に知らせる為馬を飛ばして行く。


「田中様、大丈夫で御座いますか。」


「私も一年振りだと思っておりますが、でも大丈夫ですよ。」


「ですが見事なお姿で、我々でも田中様だとは簡単に分かりませんでした。」


「左様ですか、私は以前のままだと思っておりますが。」


 菊池の中隊長も呆れる程の姿だと、やはりこの一年と言うのは長いと感じて要る。


「田中様、長い間、大変ご苦労様でした。」


「高野様、私はこの間々野洲に参りたいと思いますので馬を拝借したいのですが。」


「まぁ~まぁ~田中様、その様に急がずとも私から総司令に今早馬で知らせに行かせましたので今宵は菊池でお泊り下さいませ。」


「左様ですか、ではお世話になります。」


 田中は別に急ぐ必要も無いと思っており、話しの途中で隧道を抜け菊池のお城に入った。


「高野様、湯殿の用意も整いました。」


「有難う、さぁ~田中様、湯殿にゆっくりとして下され。」


「はい、ではお言葉に甘えさせて頂きます。」


 田中は数十日振りのお風呂で、其れこそ旅のあかを落として要るのか半時以上も湯殿から出て来ず高野も少し心配になって要る。


「高野様、有難う御座いました。

 余りにも良い気持ちで、私は湯舟で遂ウトウトとしまして。」


「左様でしたか、私も余りにも長いので少し心配しておりましたが。」


「いゃ~、其れは誠に申し訳御座いませぬ。」


「田中様、僧衣ですが如何致しましょうか。」


「う~ん。」


 田中は暫く考え、其れは未だ判断が出来ないと思い。


「申し訳御座いませぬが、私の作業着と申しましょうか、僧衣を着て要る方が何故だか分かりませぬが気持ちが落ち着くと申して良いのか、安心出来るので御座います。」


「承知致しました、ですが明日もこの僧衣を着て野洲に戻られるのでしたら、今からでも洗いましても良いかと思いますが。」


「誠に申し訳御座いませぬがお願い致します、私は髭も落とさずにおりますので。」


 やはり田中にもまだ何か有るのだろうか、田中の任務は並みの人間では無理だと感じた。


「其れよりも高野様も明日ご一緒に大事なお話しが有りますので、上田の阿波野様、松川の斉藤様に山賀の吉永様にお知らせ願いたいのですが、申し訳御座いませぬ。」


「承知致しました、今から早馬を出しますので少しお待ち下さいませ。」


 高野は執務室の家臣に伝え、家臣達は直ぐ馬を飛ばして行った。


 その後、高野からは何も聞かず、田中は食事を終えると何も話さず眠りに就いた。


 そして、明くる日の早朝、高野と田中、其れに数人の家臣と共に馬で野洲へと向かい、同じ頃、上田の阿波野、松川の斉藤と若殿も出立し、山賀も若様と吉永は馬を飛ばし野洲へと向かった。


 野洲の大手門に田中が久し振りに帰って来た。


「田中様で御座いますね、源三郎様がお待ちで御座います。」


 田中と高野は源三郎の待つ執務室に入ると、其処には阿波野、若殿と斉藤が居る。


「田中様、誠に長い間ご苦労様でした。

  昨夜はゆるりとされましたでしょうか。」


「高野様のご配慮で、私は数十日振りの湯で身も心もゆるりとさせて頂きました。」


「其れは何よりで御座いましたねぇ~、其れよりも長ったですが一体どちらまで参られたのですか。」


「私は昨年の春頃野洲を発ち、最初は海岸沿いに北へと向かったのです。」


 田中は各地で戦死者と弔い、一路蝦夷地へと向かった。


「では蝦夷地にも入られたのですか。」


「はい、やはりあの地でも新政府軍と幕府軍は戦を行ない、各地で大勢の戦死者を弔ったのですが、私も途中で身の危険を感じ、まぁ~運よく蝦夷地を離れる事が出来まして、その後奥州まで行く事が出来ましたが、何れの地でも新政府軍が幕府軍を圧倒的な武力で制圧しておりました。」


「何れの地と申されましたが、それ程までに新政府軍の武力は凄まじいのですか。」


「連発銃は殆どの歩兵が持ちますが、幕府軍と言えば以前として旧態依然の戦で、まぁ~簡単に申しますと、侍一人に対し数百の歩兵が持つ連発銃が相手ですから所詮勝敗は最初から目に見えております。」


「ですが幕府軍も大砲や火縄銃を持って要るのでは御座いませんか。」


「勿論でして、ですが火縄銃が一発弾丸を発射する間に官軍の連発銃は五発も六発も発射されるので、其れに官軍兵は良く訓練された軍隊ですから、幾ら農民兵だと申しましても敵は恨みの有る幕府の侍達で其れはもう悲惨としか言い様が無かったのです。」


「では幕府軍は悉く負けたのですか。」


「全てが完敗で、あれでは戦では無く大人と子供の喧嘩で最初から決まって要るのも同然だと思います。」


「其れでは幕府軍よりも官軍を引き得る新しい組織と申しますか、次の幕府を設立するのでしょうか。」


「もう幕府と言う組織では無く、新政府と申し上げても良いと思うので御座います。」


「新政府と申しますと。」


 源三郎もだがこの日集まった高野達には全く意味が分からない。


「田中様、新政府と申されましたが。」


「左様でして、元号も明示と改められたので御座います。」


「えっ、何ですと、明示ですと、では幕府は。」


「完全に崩壊し、新政府が新しい国作りに入っております。」


「では旧幕府の者達は一体どの様になって要るのでしょうか。」


「私が各地で見ておりましたが何処の地域でも元幕府軍に関係した者達の摘発を始めており、特に地方で幕府軍に積極的に関与した旧藩主達は戦々恐々として要ると噂話が流れております。」


「田中様のお話しですと元藩主を探し出し処刑でも行う様に聞こえるのですが。」


 源三郎もだが高野達も元幕府軍に関与した藩主達を見せしめに処刑する様に聞こえたのも無理は無い。


「私も詳しくは存じませぬが、藩主達よりも藩士達ですねぇ~、殆どの藩士達は浪人となり、各地で農村や漁村を襲い、食料を略奪し暴行と殺人の繰り返しで農民や町民達は戦々恐々としております。」


「略奪と暴行殺人を行なって要ると、ですが官軍、いや新政府は取り締まりは行なっていないのですか。」


「其れが野盗と化した浪人達が余りにも多く取り締まりを行うにしても組織自体がまだ完全とは行かず、役人が駆け付けた頃には野盗は逃げ、村々は悲惨な状態で御座います。」


「其れでは余りにも惨いではないか、新政府は農村や漁村なのどの領民を守るのが目的では無かったのか。」


 田中の報告では旧幕府の藩士達が浪人となり、その者達が野盗となり各地の農村や漁村を襲い、食料を略奪し暴行と殺人を行なって要る。

 だが新政府の役人が駆け付けた時には野盗の姿は無く、襲われた村々は死体の山で村々は焼き払われ無残な姿となって要ると言う。


「新政府は一体何を考えて要るのでしょうか、我々の連合国では考えられ無いのですよ。」


 高野の思うのも当然で役人は民衆を守る為に必要だ、だが田中の話しでは新政府の役人と言うのは全く言っても過言では無い程機能していないと聞こえるので有る。


「確かに高野様の申されます通りで、ですが其れも少しづつですが機能が回復と申しましょうか、役人の人数も増え、今は警察と言う全く新しい組織を作り市中の見回りと警戒を行なって要るのです。」


「今警察と申されましたが、奉行所の間違いでは御座いませぬか。」


「阿波野様、確かに旧幕府時代ならば奉行所で御座いました。

 ですが新政府は奉行所では無く警察と言う全く新しい組織を作り、市中の見回りと警戒を行なって要るので御座います。」


 阿波野もだが、源三郎を始め斉藤や高野達も初めて聞く名で、旧幕府の奉行所と一体何が違うのだと考えるが誰もが理解に苦しんで要る。


「その警察と申されます新しい組織と旧幕府の奉行所と何が違うのでしょうか。」


「私も詳しくは存じませぬが、聞いたところによりますと、旧幕府の時代には十手持ちと言う奉行所専門の役人らしき人物が市中の見回りと情報を収集しておりましたが、警察と申します組織では十手持ちはおらず、警察では全員が同じ着物、いや制服を着ており一件して誰もが直ぐ分かるのです。」


 源三郎も田中の説明を聴いても全てを理解出来る状況では無い。


「申し訳御座いませぬが、今申されました警察と言う新しい組織は十手持ちでは無く、同じ服装した者が市中の見回りを行なって要ると、其れは全てが同じなのですか。」


「其の通りでして、警察と言う組織の人間は誰が見ても直ぐに分かるのです。」


「今申されました警察と官軍は見分けが付くのでしょうか。」


 高野が一番に思う疑問で、其れは何も高野だけに限った事では無く、今連合国に居る工藤達元官軍兵が着て要る軍服と言う服も源三郎達も最初は驚いていた。


「其れは私では全く見分けが付かないのです。」


「何故で御座いますか、我々でも戦の時には全く別の着物に着替えるのですが。」


「確かに阿波野様の申されます疑問は私も理解出来ます。

 ですが私の見たところでは兵士が其のまま警察と言う新しい組織の任務に就いて要る様に思えるのです。」


「では官軍兵が持つ連発銃もですか。」


「正しく其の通りでして、菊池に入る数日前まで十日間ほどですが都周辺を見回りまして、幕府が崩壊する以前ならば奉行所の役人と十手持ちが市中を見回っておりましが、役人の不足と申しましょうか、都の市中全てを見回ると言うのは無理で、ですが今の警察と言うのは官軍兵と同じ服装と連発銃を持ち市中の見回りを行なって要るのです。」


 田中が言う話しが本当ならば市中での略奪や暴行殺人を犯した悪人どもには大変な脅威となる。

 幕府の時代ならば奉行所の役人が持つ刀で切り殺される事も有るが、其れは悪人と役人が至近距離で無ければならない。

 警察が持つ連発銃ならば半町先に逃げたとしても下手をすれば撃ち殺される。


「では今までの様な六尺棒で打たれるのでは無く射殺されるのですか。」


 源三郎は何故簡単に撃ち殺されるのか、例え悪人だとしても証拠と取り調べも行われず、反攻、いや逃亡すれば官軍兵が、いや警察は連発銃を撃ち、良くて大怪我、下手をすれば撃ち殺される、其れならば以前の武家社会と同じで問答無用と切り殺されるのと同じで有る。


「私も実際に目の前で捕り物を見た事は有りませんが、町民は何度も見て要ると言うので御座います。」


「では都では悪人はいないと申されるのですか。」


「高野様、全くと言う事は御座いません。

 ですが特に殺人を犯す極悪人に対しては確かに問答無用でして、市中では以前とは比べものにならない程殺人は少なくなったと民衆は申しております。」


 やはり新政府も考えたのだろう、如何なる罪を犯した者でもその場で撃ち殺すと言う乱暴な手段は取っていないで有ろう。


「浪人や野盗は取り締まりに関しては幕府の頃より恐ろしいのは警察だと思います。」


「確かにその様にも思えますが、其れにしても荒っぽいと申しましょうか、乱暴なやり方ですねぇ~。」


 田中の話しで全ての悪人がその場で撃ち殺されるのでは無いと分かりほっとしたのだ。


「今の様なやり方で民衆は安心しているのですか。」


 今の連合国とは余りにもかけ離れていると思って要る。


「確かに一部の民衆は恐れて要るのも事実ですが、大半の民衆は官軍を歓迎して要る様にも見えるのです。」


「ですが其れは表向きでは無いでしょうか、官軍の、いや警察の持って要る連発銃で恐怖心を覚えて要る様にも考えられるのですが。」


 田中は全てを目撃したのではない、其れよりも報告が余りにも衝撃的でその報告を聞いた高野、阿波野、斉藤の三名は新政府を理解出来ないので有る。


 源三郎自身も何としても理解しなければならないとは思うが、田中の報告はまだ続く。


「田中様は警察の話し以外に何か有るのでは御座いませぬか。」


 やはり源三郎だ、重要な報告はまだ多く有る、何時までも警察の話しだけを続けるのは無用な時を使うと、まだ多く報告する事が有るのだと。


「私は都では多くの新しい物ですが、その他にも多くの話しを聞いて参りました。」


「新しい物とは一体どの様な物なのでしょうか。」


「皆様方、幕府が崩壊する以前にですが江戸に近い浜に大型の軍艦が四隻も来たのです。」


「えっ、今何と申されました、大型の軍艦が四隻も江戸近くに上陸したのですか。」


 其れはれ歴史上有名なぺルリ提督が引き得る、これが世に言う黒船来航で有る。


「鎖国政策を止め、開国せよと、まぁ~幕府を脅迫したと思っても良いと思うのです。」


「では、幕府は異国の脅迫に負けたのでしょうか。」


「時の幕府は簡単に応じていなかったと思いますが、江戸の人達の話しですと黒船が来てから江戸の町は一段と騒がしくなったと聞きましたが、直ぐに鎖国は止めようとはしていなかったと思います。」


「我々の連合国は高い山のお陰と申しましょうか、幕府から上納金を増やせと通告されましたが、実のところ異国の黒船が来航したお陰かも知れないのですねぇ~。」


「総司令の申されます通りならば、そう言えば幕府からその後何の通告分も届いて無かったのですねぇ~。」


「正しく其の通りだと思いますよ、幕府は我々に通告文を送った後に黒船が現れ、我々に要求する事も忘れさせる程の大事件だと思いますねぇ~。」


「その様に考えれば通告文以降幕府からは何も申して来なかった様に思われます。」


 斉藤も思い出そうとしているが、確かに野洲を始め菊池、上田、松川にも通告文は届いたが、その後は何の通告文も、いや文さえも届いていなかった。


「幕府は黒船の対応に精一杯で我々の連合国の事までは考えられ無かったのしょうか。」


「我々は高い山の向こう側を全くと申しても良い程知らなかったのです。

 確かに幕府から上納金の増額は通告されましたが、日の本と言う国に我々と同じ様な弱小な藩を含め一体幾つの国が有るのも知らなかったのです。

 私が思う以上遥かに多くの国が上納金の増額を迫られていたと思うのですが黒船来航以前より多くの国で幕府に対する不満が爆発寸前だったと言うのも確かだと思います。」


「では黒船来航で一気に倒幕に火が点いたのでしょうか。」


「確かにその様にも考えられると思いますが、私が江戸で見た物は今までに無かった衝撃的な物でして、ですが技師長が考案されました潜水船は幕府でも異国でも知られていないと思うので御座います。」


「田中様が申されました衝撃的な物とは一体どの様な物で御座いますか。」


「其れは蒸気車と言う物なのです。」


「えっ、今何と申されましたか、私は蒸気車と聞こえたのですが。」


 源三郎も他の者達も初めて聞く蒸気車に衝撃を受けた、それはげんたが考案した潜水船以上かも知れない、いや其れ以上で有る。


「蒸気車とはどの様な物、いや機械なのですか。」


「う~ん、少しお待ち下さいませ、私も一体どの様に説明させて頂ければ理解されるのか、正直申し上げて私自身も分からないのです。」


「私達にも理解出来るのは無理だと思われる様な物なので御座いますか。」


「申し訳御座いませぬが、私は皆様方が相当理解に苦しむと思われますが、私が知り得た内容を簡単に説明させて頂きます。」


 その後、蒸気車に付いて説明すると。


「えっ、鉄で作られ、そして同じ鉄で作られた道を走ると申されるのですか。」


「正しく其の通りでして、私自身が実物を見て衝撃を受けたので御座います。」


 田中が見た物とは蒸気を利用し動く車だと言うので有る。


「う~ん、私は田中様の説明が全く理解出来ないのが誠に悔しいのです。」


「斉藤様、私も同感ですよ、ですがよ~く考えて頂きたいのです。

 げんたが考案した潜水船を最初に聞かれた時ですが、皆様方には大変申し訳御座いませんが、全てを理解されたでしょうか、この私も全くと言って良い程理解出来たでしょうか、いや全く理解出来なかったと言うのが誠で御座います。」


「確かに総司令の申されます通りで、私もあの時、船が海の中を潜るとは全く理解出来なかったのを覚えております。」


 高野もげんたが考案した潜水船の話しを聞いた時には全く理解出来なかったと言う。


「う~ん、確かにあの時、技師長の説明を聞きましたが全く理解出来なかったのを思い出しましたよ。」


「高野様も阿波野様もですが、皆様が卑下される事は有りませんよ、実はですねぇ~、私もげんたの説明が全く理解出来なったのですからねぇ~。」


「えっ、総司令、今のお話しは誠ですか。」


「本当ですよ、ですから、田中様の説明を聞かれて理解出来なかったとしても何も恥じる事は無いと言う事ですよ。」


「確かにあの時、技師長の説明を聞きましたが全く理解出来なかったですからなぁ~。」


 斉藤も納得した。


「其れで蒸気車を覚えておられますか。」


「勿論で御座います。」


「では蒸気車の絵を描いて頂けますか。」


 田中は傍に有る紙に蒸気車の絵を描き始めたが、田中自身も余りにも衝撃が大きく一生懸命に思い出そうとしている。


「う~ん、あれは確か。」


 と、時々呟きながらも必死で描いて要る。


「其の様に無理をなさらずとも宜しいのですよ。」


「ですが、私は皆様方に一刻でも早く理解して頂きたいのです。」


 その後、田中は四半時程の時を掛け蒸気車の絵を描いたので有る。


「ほ~これが田中様の申されます蒸気車で御座いますか。」


「成る程ねぇ~、これが蒸気車と言う物ですか、では大きさと言うのは分かるのですか。」


 斉藤は大きさを知りたいと、其れは斉藤だけでは無かった。


「蒸気車と言うのは大きいのでしょうか。」


「私が見た蒸気者は多分模型だと聞かされ本物はその数十倍、いや数百倍もの大きさで幅が十尺くらいで、長さがう~ん、五十尺は有ると聞きましたが。」


「え~そんなにも大きいのですか。」


「其れでは重さも相当思いのでしょうねぇ~。」


「其れは勿論だと思いますよ、全てが鉄で作られておりますので其れに蒸気車の後ろには大量の薪木と水を積んだ貨車も連結されております。」


 源三郎も少しづつだが蒸気車を理解し始めた。


「今申されました蒸気車ですが連合国で作る事は可能でしょうか。」


「えっ、蒸気車を作るのですか。」


 田中以外の者達は源三郎の突飛な思いに驚かされたが、田中は何時もながらの事だと驚きもしない。


「私は外観だけは見ておりますが、蒸気車本体がどの様な作りになって要るのか全く知らないのです。」


 田中が言うのも無理は無い。


「幾ら技師長でも蒸気車を作れるとは思わないのですが。」


「勿論、私も承知しておりますよ、ですが何としても作りたいと考えて要るのです。」


「総司令は何故それ程までに蒸気車が必要だと思われるので御座いますか。」


 斉藤はまだ気付いていないのかも知れない。


「菊池から山賀まで歩きますと、どれ程の時が掛かると思いますか。」


「えっ、時と申されましても、う~ん。」


「皆様方、菊池から山賀まで蒸気車で結ぶとどの様になるでしょうかねぇ~。」


 源三郎は以前から菊池から山賀へ兵士や物資が多く運べる方法は無いか、有ればどの様な方法が有るのかを考えており、今は馬を飛ばす方法が一番早く、だが山賀で収穫された穀物はやはり荷車が主力で有る。


 其の様な事を考えて数年が経過した頃田中の報告で蒸気車なる物を知った、だが蒸気車の構造はと言うと、田中も全く知らないと言う。


 幾らげんたが天才だと言っても蒸気車を作る事は今の段階では不可能に近いと源三郎も高野達も十分に理解して要る。


「総司令は何かお考えでも有るのでしょうか。」


「いいえ、私も田中様の報告で思い付いただけでして、まだ何も考えてはおりませんが、蒸気車が作れるので有れば山賀で収穫された穀物、特にお米を菊池や野洲に届ける時に利用出来ると考えたのです。

 山賀では豊作が続いておりますが、各地で収穫された穀物や野菜など、其れに山賀へは菊池で獲れた魚も運ぶ事も出来るのです。」


「私も山賀へ参りまして長い間だと思いますが魚を食した覚えが無いのです。」


 吉永も野洲で生活していた頃は毎日とはならずとも数日置きには魚を食べる事が出来た、だが山賀に来てからと言うものは生の魚は無理だとしても干物でしか、其れも殆ど食べた覚えが無いと言う。


「吉永様も魚を食べたいと思われるでしょうねぇ~、私は山賀の領民にも魚を食べて頂きたいのです。

 その為に必要な物が蒸気車では無いでしょうか。」


「ですが蒸気車と言うは簡単に作る事が出来るとは思えないのですが。」


 吉永もげんたが考案した潜水船が簡単に出来たとは思っておらず、尚更、全てが鉄で作られて要ると言われる蒸気車が簡単に作れるとは考えていない。


「私も直ぐに作れるとは考えておりません。

 ですが田中様の報告を聴きますと、陸ではこの先も蒸気車が大量の物資を運ぶ手段になると考えます。」


 源三郎は今の今まで荷物を運ぶのは主に荷車で有り、馬や牛を、いや人間が押し引き運ぶ、だが果たして一台の荷車がどれだけの荷物を運べると言うのだ、其れが蒸気車が出来れば一台の蒸気車で大量の物資を運べると考えた。


「蒸気車ですが、今も模型は展示されて要るのでしょうか。」


「其れは私も分からないで御座います。」


 田中は江戸で見たが果たして今でも模型が展示されて要るのか分からないと言う。


「若しも、若しもですよ、蒸気車を作るとなれば内部の作りが分からなければ作る事は大変困難を極めるのでは御座いませんか。」


「斉藤様が危惧されるのも私は十分に承知致しており、其れでお聞きして要るのです。」


 源三郎が田中に求めたのは何か別の意味が有るのではと、斉藤は考えたので有る。


「私も物資が大量に運べるので有れば作りたいと願っております。

 松川で作って要る連岩もですが、松川の浜で上がる魚を山賀にも届けたいと考えたのです。」


「其れだけでは有りませんよ、菊池から野菜、野洲の漬け物など全ては思い出せないのですが何も物資だけに限らないと思うのです。

 人も同じだと思うのですよ、例えば山賀の山向こうから大勢の官軍兵が登って来たと考えて下さい。

 其の時には山賀には兵士が少なく応援が必要だと、ですが菊池、野洲、上田、更に松川から大軍を送るにしても菊池や野洲からは直ぐには着けない無いのです。

 何も兵士だけを送る為に蒸気車を作りたいと願って要るのでは御座いません。

 私は菊池から山賀までに至る蒸気車が有れば多くの物と必要とされる人材も送り届ける事が出来ると考えて要るのです。」


「私も今のお話しは大賛成で御座います。

 山賀で収穫された穀物が今は届くまで数日も掛かるのですが、蒸気車で有ればどれ程物資を運ぶ事が出来るのか分かりませんが、数時で松川から菊池まで届くと考えますと領民も大いに助かると思うのです。」


 菊池も野洲も穀物の不作が続き、山賀から穀物が届かなければ領民は悲惨な状況下に置かれるのは誰の目から見ても間違いは無かった。


「私も蒸気車が必要だと考えております。

 ですが今も蒸気車が展示されて要るのか、其れが分からないのです。」


「確かに田中様は江戸に参られ蒸気車の模型を見られた申されました。

 私はねぇ~、蒸気車の展示は江戸だけでは終わらないと考えて要るのです。」


「何故で御座いますか、何故江戸だけで終わらないと思われたのでしょうか。」


「其れはですねぇ~、新政府は幕府を倒し新しい日の本を作ろうとして要ると思うからで、

更に異国も日の本に対し開国を求めて要るので有れば自国の最先端の技術を見せ付ければ日の本は直ぐにでも開国すると考えたのだと思います。」


 やはり源三郎が言う事が本当なのかも知れない。


 旧幕府に大型の軍艦四隻で江戸の真近くに迫る、だが幕府は何も出来ず、其れが火付け役となり倒幕へと一層邁進する事に成る。


「其れでは黒船来航が倒幕への足掛かりとなったので御座いますか。」


「いいえ、私は以前より煙がくすぶっていたと思います。

 ただ其れが倒幕派にはこれで幕府は倒せると言う神風が吹いたのだと考えられます。」


「倒幕派に神風が吹いたと申されるのですか。」


「其れが現実となって表れたのではないでしょうか、確かにこの数百年間と言うものは武家社会が農民さんに漁民さん、更に申せば領民さん達を苦しめてきたのです。

 領民さん達にすれば全ての侍が憎いと思って要るのは間違いは有りませんよ。」


「では我々の連合国でも同じなのでしょうか。」


「う~ん、其れは大変難しい問題ですねぇ~、確かに今では連合国の領民さんからは大きな不満と言うものを直接聞く事は有りませんが、全ての領民さんが何の不満も無いと言う事は考えられ無いのです。」


「では私達も領民に嫌われて要るのでしょうか。」


 斉藤は何故か松川の領民から嫌われて要るのではないかと考えて要る。


「斉藤様は何故其の様に考えられるのです、我々の連合国では領民の皆さんが今の私達を嫌って要るとは思えないのです。

 其の証にですよ、何故あれ程までに領民さんが応援して下さってるのでしょうか、我々を本気で嫌って要るのならばあれ程までに応援はされないと思うのですが。」


 源三郎は勿論だが、菊池の高野、上田の阿波野にしても同じで、斉藤になると松川では若殿に負けない程の人気で有る。


「蒸気車ですが、私は何としても実現したいと思っております。

 其れで如何でしょうか、私が今一度都に参りまして蒸気車の模型が展示されて要るのかを確かめたいと思うのですが。」


 江戸で見たが果たして都にも同じ蒸気車が展示されて要るかを調べて見ると言う。


「直ぐにとは申せませぬのが今一度確かめて頂きたいのです。」


「ですが例え都に蒸気車の模型が展示されて要るとしましても内部の構造までは調べる事は出来ませぬのでは御座いませぬか。」


 吉永の言うのも当然で有る。


「正しく吉永様の申されます通りで、蒸気車の絵でどの様な物なのか分かりましたが、蒸気車の作り方と申しましょうか、内部の構造を詳しく示した様な書き物は有るのですか。」


「う~ん、書き物で御座いますか。」


 腕組みし頭を左右に何度も動かし思い出そうとし、源三郎達はその間何も聞かずじ~っと田中を見て要る。


「余り深刻になり考えて頂く事は御座いませんよ。」


「ですが蒸気車が有れば山賀から菊池へ、菊池から山賀へ物資や人達を運ぶには最高の乗り物だと申され、私は連合国と言う安全な場所におり、田中様、お一人が危険な任務に就かれ誠に申し訳無いと思って要るので御座います。」


 斉藤は申し訳無いと頭を下げるが、田中自身は其の様な事は考えていないと言う。


「私は今の任務に就かせて頂き、今まで感じた事が無い程に嬉しさなので御座います。」


 田中は今の任務が危険だとは感じていないと言う。


「何故で御座いますか、西に東にと幕府や官軍の動向を調べておられるのです。

 これが何故に嬉しさを感じておられるのでしょうか、私は全く理解出来のですが。」


 阿波野も田中が最も危険な任務、其れが田中は最高に嬉しいと感じて要る情報収集、いや幕府と官軍に対する偵察任務なので有る。


「総司令も皆様方も直ぐにお分かりにはならないと存じますが、私が何故危険では無いと感じて要ると申しましょうか、其れは私が着て要る僧衣で御座います。

 私の姿はボロボロの僧衣と頭もですが髭も伸び放題で誰から見ても汚く見えるので御座います。」


「う~ん、確かに隧道から来られました時には田中様だと知っておりましたのですが、知らない元官軍兵達は驚きの表情をしたのを思い出します。」


「ですが田中様は危険では無いと申されますが、何故で御座いますか、れっきとした野洲の

ご家中で御座いますよ、幕府軍の中には侍だと見破る侍も要ると思うのですが。」


 田中の普段を知って要る源三郎も吉永も確かに野洲の家臣だと知って要る。


「任務は情報収集で御座いまして、大事な情報を集める為には敵の懐に飛び込むのです。」


「では幕府軍を見付ければ幕府軍に飛び込むですか。」


 忍びの心得も有り、僧侶が持つ杖には刀が仕込まれ、だが今までは使う必要も無かった。


「左様で、私の姿は何処から見ても僧侶ですので、私は何時も平静を保ち必ず聞く事が有るのです。」


 敵軍と思われる幕府軍でも官軍と遭遇しても必ず聞く事が有ると言う、だが一体何を聞くと言う、高野も阿波野も首を傾げて要る。


「お姿は確かに僧侶の姿ですが、何も危険な場所に参られる必要も無いと思うのですが、其れよりも一体何を聴かれるので御座いますか。」


「実に簡単な話しでしてね、拙僧は雲生と申しますがこの近くで戦が有った聴きまして、拙僧は戦死されましたお方の弔いをしたいと思い参ったので御座います、と、この様に申しますれば殆どの方々は何も申されずに戦死者のところへと案内して頂けるの御座います。」


 成る程、やはり田中だ、相手が戦死者を弔って要る僧侶ならば幕府方も官軍方も余計な事を聴く必要も無く、雲生と名乗り武士や兵士の弔いを行ない、其れが終わると必ず何かの食べ物と少々の金子を受け取れる。

 更に運が良ければ時には幕府軍の、時には官軍の情報を、反対も有り、其の時には必ず敵方の情報を聴かれるが殆どが作り話で、だが幕府軍も官軍も信用すると言う。


「田中様は何れかのお寺で修業されたのでしょうか。」


 源三郎も吉永も知っており、だが高野や阿波野も斉藤は野洲の家臣で有り、僧侶の修業は行なっていないと思って要る。


「斉藤様、正かで御座いますよ、私は何も僧侶になる為の修業は行なってはおりません。

 実を申しますと、総司令から最初の任務の命が下りました時、城下のお寺に参りましてご住職に古い僧衣が有れば譲って頂きたいと申しましたところ、ご住職は気持ち良く承諾して頂き、其の時、僧衣と一緒に古い経典をお借りしたのです。」


「えっ、経典をですか、ならば弔いの時には大変役立つのでは御座いませぬか。」


「正しく其の通りでして、私は其のお陰で危険に遭遇する事も無かったので御座います。」


 侍の姿で情報収集と言う任務に就く事は無理が生じ、敵方の情報もだが、例え城下に上手く侵入したとしても領民からは何も得る事は出来ない。

 特に今の連合国の様な国では城下の領民は家臣の顔は知っており、見知らぬ侍が何かを聞き出す事は不可能に近く、下手をすれば自らの命を危険に晒す事に成る。


 余程の理由が無い限り頭も髭も落とす事は無く、野洲に要る時には経典を読み、どの様な時にでもスラスラと言える様にと経典の中味を全て暗記する様にと、更に住職にも教えを受けており、それ程にも情報収集を成功させる為に大変な努力を注ぎ込み、危険な任務に入って行く。


「皆様方、田中様は情報収集は大変危険な任務だと承知しておられるのです。

 僧衣と経典は野洲のお寺の住職からお借りし、野洲に居られました時には経典を何度も見直され、全て暗記され、時にはお寺に参られご住職より教えを受けておられるのです。」


「其れでは誰が見ても本物の僧侶では御座いませぬか。」


「幕府軍も官軍の中にも寺に関する仕事をされておられた方も要るのではないかと思うのですが、私はその様な方々に決して見破られてはならないと思っております。」


「う~んそれ程にも情報収集と言う任務が大変だと考えておりませんでした、私はそれ程までにご苦労された情報は疎かには致しませぬ。」


「確かに高野様の申されます通りで、私も今日からは改めて見直す事に致します。」


「皆様方、それ程までのご気遣いは無用で御座います。

 今は私の天職だと思っておりますのでご心配には及びませぬ。」


「では世の中と申しましょうか、向こう側では大変な変化となって要るのでしょうか。」


「其れは勿論で、私も数年間、何度と無く向こう側を見て参りましたが、余りにも変化が激しく、その変化に付いて行く事は大変だと考えて要るので御座います。」


 源三郎の命を受け、何度も山の向こう側に行き、時の幕府軍の情報収集に努めており、田中自身も世の中の激変には大変な苦労をすると言う、だが幸いなのか、連合国では激変とは全く無縁の様な地域で其れが今後どの様にすれば良いのか源三郎達は考えなければならないと思うので有る。


「皆様方、私は今後十年、いや数年は我が連合国の存在を知られるとは考えておりません。

 ですが新しい政府は今までの幕府と同じ様に考える事は出来ないと思うのです。」


「えっ、正か、総司令は我々の連合国の存在は知られると考えておられるのでしょうか。」


 高野もだが、阿波野も斉藤も正かと言う表情をして要るが吉永だけは理解して要る様子で有る。


「幕府と言う存在はもう過去だと考え忘れて頂きたいのです。

 私の中ではもう二度と幕府の様な武家社会は戻って来ないと思います。

 其れと言うのも、田中様の報告では異国を知らずこの数百年間我が連合国もですが鎖国したお陰で日の本は世界からは取り残されていたと思うのです。」


 源三郎も頭の切り替えが必要だと思うが、高野も阿波野達もまだ当分の間は思い悩むで有ろうと、それ程までに世の中は激変したので有る。


「ではこの数年で世の中は大きな変化を遂げると考えねばならないのでしょうか。」


「我々の連合国は高い山のお陰で数百年間も戦にまみえる事も無かったのです。

 其れが幸いしたのか領民は静かに安定した生活を営む事が出来ましたが、向こう側では異国から軍艦が、其れも鉄で作られた軍艦で、更に蒸気車と言う物まで発明されたのです。

 我々が好むと好まざるに関係無く変化を遂げており、我々の連合国の存在は何れの時が来れば知られる、其れならば我々が向こう側に向かい出来る限りの事を吸収する事が大事だと考えて要るので御座います。」


 何と源三郎は向こう側に出向き、多くの事を吸収しなければならないと考え、だが高野達は正かと思って要る。


「何故で御座いますか、私はまだ世の中が落ち着いてはいないと考えており、その様な時何も無理をしてまでも向こう側に出向くと言うのは余りにも危険では御座いませぬか。」


「確かに私は今まで無理は駄目だと、無理はするなとお願い致しておりましたが、其れも全て過去の話しで、私も田中様の報告を聴くまでは、これ程にも世の中が激変して要るとは考えもしなかったのです。

 其れに一番驚いて要るのは私自身でして、ですが何時までも世の中の激変に驚いて要るばかりでは連合国の領民を守る事は出来ないと思うのです。

 其れならばと考えたのが我々が向こう側に出向き世の中の出来事を我々が吸収する方が良いと考えたので御座います。」


 と、源三郎は言うが、実は余り深くは考えておらず、何をどうの様な方法を持って吸収すれば良いのかも考えていなかった。


「う~ん、其れにしても何時もながら総司令のお考えには驚かされますなぁ~。」


 吉永も苦笑いしているが、吉永自身も田中の報告で何時までも連合国と言う器の中だけでは世の中の激変に取り残されると考えており、かと言って吉永にも策は考え付かない。


「お~げんた、久し振りですねぇ~。」


「其れであんちゃんは。」


「今、執務室で吉永様や高野様達が集まられ田中様とお話しをされて要ると思うんだ。」


「分かったよ、有難う、じゃ~なっ。」


 何時もの様にげんたは執務室へと向かった。


「あんちゃん。」


 執務室に入ったげんたは雰囲気が何時もと違うと感じた。


「げんた、久し振りですねぇ~。」


「なぁ~あんちゃん、何か有ったのか。」


 げんたはやはり何かを感じ取って要るんだと源三郎は思い。


「そうなんですよ、実はねぇ~今田中様から重大なお話を伺いましてね。」


 田中から聞いた内容を話すが、げんたは源三郎が思った以上に驚きもせず、むしろ何かを考えて要る様子で。


「なぁ~あんちゃんは山の向こう側に行くのか。」


 やはりげんたは源三郎の思った以上の答えを出し、源三郎は何としても新しい政府の政を、更に田中が言う新しい物がどれ程有るのかを知りたいので有る。


「私も今その方法を考えて要るんですがね、何も考えられ無いんですよ。」


「オレは難しい事は考えてないんだ、其れよりも誰が何処に行って何を調べるか其れが最初だと思うんだけどなぁ~。」


 げんたは何時ものを源三郎ならば必ず決めると、だが源三郎に何の動きも無いと思ったのだろう。


「げんたは一体何を考えてるんですか。」


 源三郎は不思議でならなかった、何時ものげんたならば蒸気車と言う今までに聞いた事が無かった物に興味を示す、だが今日のげんたはその様な素振りも無い。


「いゃ~別に、なぁ~其れよりもさっきの蒸気車ってオレが考えるのか。」


 やはりだ、げんたも少しは興味は有ると。


「其れがねぇ~、田中様のお話しでも構造が分からないので作り様が無いのですよ。」


「さっきの話しだけど、オレはもっと簡単に考えた方がいいと思うんだ、だってあんちゃんも吉永さん達も山の向こう側に出た事が無いんだろう。」


 確かにげんたの言う通りで山の向こう側に行ったのは田中と農夫の三平だけで、他の者達で出た事も無いと言うのが本当なのだ。


「正しく其の通りで、確かに私も吉永様も、其れに皆様方も同じだと思うんですよ。」


「そうだ、あんちゃんも工藤さんや吉田さんに聴いたらどうなんだ、あの人達だったらもっと詳しく知ってると思うんだけどなぁ~。」


「いゃ~さすがにげんたですねぇ~、私も其処までは考えておりませんでしたよ。」


 何時もの源三郎ならば有り得ない話しで、田中の報告を聞くと直ぐ工藤を呼ぶと言うのに、だが今日の源三郎に其処までは思い付かなかったと言うのが本当で、それ程にも田中の報告が余りにも衝撃的だと言う事にほかならないので有る。


「どなたか、工藤さんと吉田さんを呼んで下さい。」


 執務室に常駐する若い家臣達は、田中の報告で世の中の激変に驚くと言うよりも、一体何がどの様になったのかさえも分からないと言う表情で執務室を飛び出して行く。


 執務室に残った源三郎達は工藤と吉田が来るまでは誰も話さず静か待って要る。


「総司令、お呼びで御座いますか。」


 と、工藤と吉田が飛び込んで来た。


「工藤さんも吉田さんもお忙しいところ誠に申し訳御座いませぬ、実は先程田中様から。」


 と、源三郎は田中から聞いた新しい政府の話しをすると。


「私も総司令に命を助けて頂き数年が経過しておりまして、その後の詳しい動きに付きましては全く知らないのです。」


「まぁ~其れは仕方が有りませんねぇ~、何も工藤さんの責任では有りませんのでね。」


「誠に申し申し訳御座いませぬ。

 ですが、私も以前聞いた事が有りまして、異国では蒸気車や蒸気船が作られ今まで以上に大量の荷物と人を運ぶ事が出来る様になったとか。」


 工藤は長崎で官軍の軍艦の基本設計を行なっており、其の時、外国から新しく作られた物を見て知っており、だが今日の今まで必要も話す事も無かったと言うよりも忘れていたと言うのが本当なのかも知れない。


「では少しお聞きしたいのですが、工藤さんは長崎で官軍の軍艦を造られておられた様ですが、その頃にも異国から新しい物が入って来てたのですか。」


「其の通りで、私は何も隠すつもりは無かったのでして、今の今まで忘れておりました。」


「まぁ~其れも仕方が有りませんねぇ~、あの時から今日まで我々も必死でしたので、工藤さんが忘れたのも納得しなければなりません。

 其れで長崎で見られたか、更に聞かれたものに付いてお話しをして頂きたいのですが宜しいでしょうか。」


「総司令、皆様方、私の知る限りですがお話しをさせて頂きます。」


 工藤は長崎で見聞きした事を思い出しながら話すので有る。


「では異国では何十年も前から新しい物を考え、作られているのですね。」


「左様で御座いまして、先程の蒸気車も蒸気船も特に蒸気船と言う新式の船は数十隻が入港しております。」


「えっ、数十隻もが長崎の港に来て要ると言う事は、異国は何カ国有るのでしょうか。」


「私の知る限りでは数十カ国以上にも及ぶのでは無いかと思われます。」


「何ですと、数十か国にも及ぶと、う~ん、それ程にも世の中は大きいのか。」


 吉永は余りにも衝撃的な話しに絶句した様にも見える。


「其れにしても日の本と言う国は異国から見れば大変遅れた国だと言う事なのか。」


 もう今の源三郎では考える事も出来ない程で、余りにも外国との、特に工業面での格差は考える事が出来ない。

 官軍が外国の技術を導入すれば、げんたが考案した潜水船は数年以内に建造されるかも知れないと。


「異国の技術を修得するには何処に、やはり長崎に向かえば宜しいのでしょうか。」


 確かの源三郎の考え方に間違いは無いだろう、だが其れは幕府が鎖国政策を行なっていた時代で、その幕府も今は壊滅し新しい政府が江戸、いや、今は改名され東京となり今では簡単に長崎へ行く事が出来る。


「私が思いますには確かに幕府が存在していた頃は長崎と言う所が唯一異国の窓口でして、異国からは医術を始め、其れは誰もが驚く程のものが入って来ておりました。

 ですが田中様の情報では今は江戸を中心としたところに集中して入って来て要ると考えられるのです。」


「総司令、皆様方、申し訳御座いませぬ、今は江戸では無く東京と改名されております。」


「左様ですか、もう江戸と言う地名は無く、東京と改名されて要るのですか。」


「あんちゃんは何で驚かないんだ。」


「何を今更驚く必要が有りますか、我々もですが、日の本と言う国はこの数百年間と言う長い間鎖国を続け、其れが結果的に異国では新しい機械が発明され、今頃になり日の本と言う国に押し寄せて要るのですよ。」


「我々も新しい機械を導入しなければ官軍に攻め込まれば簡単に連合国は壊滅すると思われます。」


「私も今其れを考えて要るのですが、若しも官軍が新式の蒸気船を導入し改造し軍艦としたならば、我々の連合国は数日の内に壊滅させられるのは間違いは御座いませぬ。

 其れに対抗する為には一刻も早く導入しなければなりませんが、仮に、仮にですよ田中様が申されました蒸気車を購入したとしても一体どの様な方法で我々の連合国に運ぶのですか、其れが一番の問題で、其れに大きく重い蒸気車を運べば連合国の存在は直ぐ官軍に知られると考えねばならないのです。」


「なぁ~あんちゃん、オレと一緒にその東京ってところに行かないか。」


「えっ、今何と言いましたか、私とげんたの二人で江戸、いや東京の行くのですか。」


 げんたの事だ、今何を考えて要るのか分からないが蒸気車を見たいと言うのだろと源三郎は考えており、其れは吉永も同じで、だが高野も阿波野、斉藤は違って要る。


 彼らは田中の話しを聞き、まだ新しい政府が全てを掌握して要るとは考えておらず、今下手に動けば源三郎の命が危険だと思って要る。


「総司令は正か江戸、いいえ東京に参られるおつもりで御座いますか。」


 高野は自分が行きたいと考えて要る。


「飛んでも御座いませんよ、総司令は我が連合国では無くてはならないお方で、総司令に若しもの事が有れば、一体どなたが総司令の代わりをなされるのですか。」


「いゃ~これは参りましたねぇ~、私は一体どうすれば宜しいでのしょうかねぇ~。」


 とは言いながらも源三郎はニヤリとし内心東京へ行く気が満々で有る。


「オレは高野さんや阿波野さんの言う事も本当だと思うんだ、だけど今度だけは今までとは全然違うんと思うんだけどなぁ~。」


「誠にその様で御座いますぞ、今までならば私も総司令を止めておりましたが、今回だけはお止め致しませぬので、総司令、何卒拙者もお供にして頂きたいのです。」


「えっ、吉永様も東京に参られるおつもりなのですか、では私もご一緒させて頂きます。」


 若様も是非行きたいと、更に。


「私もお願い致します。」


 若殿までもが一緒に行くのだと言い出し、そうなれば全員が行くのだと言いかねないと源三郎は思い。


「えっ、吉永様も若様に若殿までもが参らるのですか。」


 源三郎は吉永の考えて要る事は分かっており、吉永は何としても行くと言うだろうと。


「ですが、吉永様は連合国に残って頂きたいのです。其れに工藤さんもですよ。」


 源三郎は突然工藤には行くなと。


「えっ、何故で御座いまますか。」


 工藤も内心は分かって要る、其れと言うのも工藤は野洲に入るまでは官軍の将校で、若しも東京に行く途中で官軍の将校にでも発見される様な事にでもなれば、その場で撃ち殺される可能性があり、其れは連合国にとっては大切な人材を失う事に成る。


「工藤さんも十分承知されて要ると思いますよ、ほんの数年前までは官軍の将校で、今連合国におられる兵隊さん達も知っておられるのです。

 若しも、若しもですよ東京に着くまでに、いや東京に着いてでも官軍の将校に発見される事にでもなれば、間違い無く銃殺刑にされますよ、その様な事にでもなれば、我が連合国にとっては重要な人材を失う事に成るのですからね、其れだけは分かって頂きたいのです。

 その様な訳ですから、私よりも工藤さんは連合国から出て行かれる事は出来ませんので、其れと吉永様は私の考え方を一番ご存知だと考えておりますので東京には向かわれる事は出来ませぬ。」


「まぁ~総司令も申される通りですから仕方は有りませんがねぇ~、拙者よりも工藤さんは出て行く事は無理だと思いますよ。」


「では吉永様は諦めらるのですか。」


 工藤は源三郎の言う事は理解しており最初から無理だと分かって要る。


「では我々がお供出来るのでしょうか。」


 高野、阿波野も斉藤も俄然表情が変わった、其れは若しかすれば自分達が東京に行けると考えたので有ろう、其れは当然で、確かに高野達は重要な人物に間違いは無い、だからと言って彼ら以外の者が今回の役目を果たす事は不可能に近いと、源三郎は考えて要る。


「ですが、東京に参られるにしても直ぐにとは出来ませぬので、今一度作戦と申しましょうか、今一度考えなければならないと思っております。」


 田中も今行くと決めたところで色々な問題が有ると考えて要る。


「確かに申されます通りで、この問題は少し日数を掛け考えては如何でしょうか。」


 田中も直ぐ東京に行くのは無理だと考えて要る。


「如何でしょうか、私は何も急ぐにとは考えず、此処はじっくりと作戦を練られても遅くはないと思うので御座いますが。」


 吉永も同じ考えで、源三郎も田中と工藤、更に吉田から東京と官軍、更に新政府の実情を聞いたからでも遅くはないと考えたのでは。


「ではこの問題は後日にでも作戦を考えましょうか、そうでした、田中様、何か助言でも御座いますか。」


「では簡単に申し上げますので、東京までは四日から五日は掛かりますので、其れよりも今日から髪の毛もですが、髭は落とさない事で、其れと着物は今着られております作業着で宜しいかと思います。」


「ねぇ~、何で着物は今のままでいいんですか。」


「簡単な話しでしてね、総司令も石川殿も吉川殿は誰が見ても何処かのご家中ですよ、其れが侍姿で東京に入れば直ぐ官軍に発見され、全てを話せと言われ、若しも下手な返事でもすれば官軍の恐ろしい拷問が待っており、全てを白状させるのです。」


「田中さん、拷問って。」


「技師長、軍隊と言うところは恐ろしいところでしてね、少しでも嘘だと分かれば其れはもう想像絶する手を使い白状させるのです。

 多分ですが、幕府でも行なった事が無い程の拷問で。」


「でも何で其処までして調べるんですか。」


 げんたは軍隊が何故其処までして調べる必要が有るのか分からない。


「げんたも子供では有りませんので、お話しをして頂いても宜しいですよ。」


「総司令、皆様方、其れに技師長にも聴いて頂きましょう。」


 工藤は官軍の行う拷問で今まで耐え抜いた侍はいないと、其れまで官軍の拷問は恐ろしいのだと。


「だったら刀はもっと駄目なのか。」


「勿論ですよ、今は幕府も壊滅し表面上侍は存在しないのです。」


「だったら何も持た無いで行くんですか。」


「う~ん、其れは難しいですねぇ~。」


「脇差ならば問題は有りませんよ、其れと木剣ですねぇ~若しも官軍兵や警察に質問されても木剣は我が身を守る為には必要だと言う事が出来ますので。」


「それ程までに東京と言う所は厳しく取り締まりを行なって要るのですか。」


「ええ勿論で御座います。

 幕府が壊滅したと申しましても全ての野盗は捕まえられてはいないので、官軍は少しでも怪しい侍を見付ければ捕まえ、尋問し、若しも官軍の意に思う答えでなければ拷問が待って要るのです。

 総司令が東京に向かわれるので有れば、私の申しました通りにして頂きたいのです。」


「ではこの問題は後日作戦を練る事に致しましょうか。」


 そして、この日の田中の報告は終わり、源三郎を残し、執務室を出て行く。


「う~ん、其れにしても余りにも衝撃的な話しばかりだ、だが何としてでもこの荒海を乗り越えなければ連合国の未来はない。」


 源三郎はこの夜を自宅にも帰らず、一人考えて行く。







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