第 21 話。 山賀の、いや連合国の領民の為に。
「義兄上。」
「若。」
若様は吉永にも吉田にも麓へも行かせて貰えず、不満が溜まり、いや落ち込んで要る。
「私は誰からも行かせて頂けず、私は今はもう不満で、不満が今にも爆発しそうで、何故行かせて頂け無いのでしょうか。」
若様の気持ちは分かる、だが今若様に若しもの事が有れば山賀で行なって要る大工事が止まる事も考えられ、其れを吉永は知って要る。
「山賀では若の存在が大きいのです。
若に若しもの事が有れば、山賀で行われて要る工事が止まる事も考え、吉永様も吉田少佐も止められておられるのです。」
「では前線の兵士の命は別なのでしょうか。」
「命に別は有りませんですよ、ですが兵士は領民の為にと戦っておられ、其れが結果的に兵士が戦死されたのです。」
「其れは私も分かりますが、でもその為に多くの兵士が戦死されたのです。
山賀と言うよりも、連合国では義兄上が総司令官となられ、兵士も領民も義兄上の為にと申されて要ると思うのです。」
「確かに私は連合国では総司令官ですが、私は一か所の戦場に留まるよりも全ての戦場に出向き兵士を励ますのが私の任務なのです。
若しも私が山賀だけに留まり、他の戦地に行かなかったとすれば山賀以外の兵士達は源三郎は山賀だけが一番大事で、他の戦地では戦死しても良いと思って要るんだと、若しも其の様な事にでもなれば一体どの様になると思われますか。」
総司令官としての任務は他の戦地に向かい、兵士達には直接声を掛ける、兵士達にすれば総司令官から直接声を掛けられた其れだけでも十分なのだと考えて要る。
「若と私の立場は違うのですよ、私は連合国と言う五か国を、ですが若は山賀を見て頂かなければならないのです。」
「では義兄上は山賀は私が中心にならなければならないと申されるので御座いますか。」
「正しく其の通りでして、私も最初は吉永様を中心にと考えておりました。
ですが若が城下の人達から信頼を得られ、其れが結果的には北の空掘りの洞窟で発見され、鉄になる土と、燃える石までもが発見され、今は採掘と言う大きな工事にも入る事が出来たのです。」
若様と呼ばれる松之介は持ち前の行動力で城下の領民の心を掴んだ。
「その若に若しもの事が有れば、領民の気持ちは落ち込み誰も工事には来なくなりますよ。
其の様な事にでもなれば一体誰が工事に就いてくれると思いますか、吉永様も吉田少佐も分かっておられますから若に行くなと申されたのです。」
若様は暫く考え
「私が間違っておりました。
私はよ~く考え、これからは領民の為に尽くします。」
「若、これからがもっと大変ですよ。」
「よ~く存じております、其れで先程吉田少佐から報告を受けまして、中隊長と小隊長の一名と中隊の半数以上が戦死され、特撰隊からの戦死者は居られませんが、十数名が重体で二十名程が重傷です。」
何と言う事だ、其れでは中隊は機能が止まったも同然で無いのか。
「其れでは中隊は維持出来ないのでは有りませんか。」
「中隊長を選出しなければならないので吉田さんに相談しようと思って要るのです。」
「お任せしますので、其れで野盗ですが今はどの様になって要るのでしょうか。」
「此方側の麓から中腹に掛けて千五百人程の遺体が散乱して要ると思われますが、狼も未だ相当数がおり、其れに猪の大群でおりますので。」
「今度は猪ですか。」
「猪は狼よりも有る意味では凶暴で、其れにまぁ~しつこくて簡単には引き下がりませんからねぇ~。」
「考え方に寄っては猪は狼よりも相手にはしたく無い獣ですねぇ~。」
「まだ数日待たなければ山に入る事も出来ませんので。」
「まぁ~其れも仕方が有りませんが、其れよりも負傷者は。」
「今は一応城下の旅籠やお店で傷の手当をし、重傷者以外はお城で看護する様に考えております。」
「若、出来るだけの治療をお願いしますね。」
「勿論で、其れと今後の事に付いても兵士の望みを聴き、出来る事は全て致しますので。」
「山賀の事は全てお任せ致しますので、宜しくお願い致します。」
松之介に任せ野洲へと帰路を急ぐが、今回はと言うより幕府軍の残党が組織化され以前の幕府軍以上に強力な野盗になって要る。
今回は運良く撃滅、いや本当のところは狼の大群が連合軍を応援した様にも思え狼に助けられたとも言うべきなのかも知れない。
早急に対策が必要だと痛感しおり、今までは源三郎の考え方で全てが上手く行ったがこれから先は工藤に吉田を加え、斉藤、阿波野、高野も加え皆で協議しなければならないと考え、先ず松川に入り、斉藤に話し、明くる日は上田に寄り阿波野にも伝え野洲を通り越し菊池の高野にも伝え、野洲には三日後に戻って来た。
「要約戻って来たのか。」
「殿、山賀が大変な事になっております。」
と、その後殿様に山賀の状況を詳しく説明した。
「殿、山賀、松川、上田、菊池、其れに工藤さんと吉田さんも加え、今後の事を協議したいのです。」
「余は何も申さぬ、源三郎の思い通りにやるのじゃ、全ては領民の為じゃからの~。」
その数日後、若様、松之介と吉永が来た。
「義兄上。」
「若、如何されましたか。」
「若と二人で相談に寄せて頂いたのです。」
「あっ、そうでしたねぇ~、本日皆様方が来られ協議する様になっておりまして、ですが山賀は未だ。」
「山賀は高木達に任せて有りますので。」
「其れでは少しは片付いたのでしょうか。」
「高木も他の者達も今回は運が良かったと、ですが今後の事も有りますので一度総司令にご相談して置きたいと思いましたので。」
「吉永様、実は私も同じ事を考えておりました。」
「総司令。」
「斉藤様。」
「義兄上。」
「えっ、若殿もで御座いますか。」
「実は斉藤様からお話しを伺い、父上からも行けと申されましたので。」
「左様で御座いますか、分かりました。」
その後、阿波野、高野も到着し、工藤、吉田も加わり協議が始まった。
話しは変わり、幕府の鎖国政策は二百数十年間も続くが、其れは外国との貿易交渉も断ち切る事で確立し決定する事が出来た。
だが世界は違った、世界は日本が何時までも欧米諸国の激烈な市場開拓な動きに対し閉鎖的で有った。
だが有る事件を切っ掛けに方針を緩め、漂流して来た外国船に薪木と飲料水、食料を与える様にと緩める事になった。
其れでもまだ開国はせずに、その後に起きたイギリスと清国との間で起こったアヘン戦争の状況が伝えられると、幕府も外国への認識を改めざるを得なくなり、アヘン戦争で清国は敗れ、イギリス、フランス、アメリカなどの資本主義の列強諸国に対し門戸を解放した。
清国の開国に寄り東アジアの広大な大陸の市場を獲得した欧米列強は取り残された鎖国の日本に開国を求めて来た。
其の中でもオランダは鎖国中の日本が交渉を持つ欧米諸国で唯一の国で世界の情勢を日本に伝える事の出来る立場で有り、幕府には鎖国政策の危険を説いたが幕府は世界の大勢を感じながらも開国する勇気が無かった。
日本に開国を迫るべくアメリカ艦隊が出港した。
艦隊司令官は言わずと知れたぺルリで黒船と呼ばれた軍艦の出現で日本の上下を震撼させ、更に北からはロシアが西からはイギリス、フランスが、そして東からはアメリカがそれぞれ東アジアへの進出を競いその勢力が日本に及ぶが、当時の日本はまだ世界の大勢から取り残され厳しい封建制度の下に有り二百数十年間もの鎖国の状態を続けていた。
話しは戻り、野洲の執務室には若殿達が集まり。
「皆様方もご存知の通り先日大勢の野盗が菊池から山賀まので連合国に対し攻撃を仕掛けて来ましたが、其の全てが失敗に終わりました。
私は何れの時が来れば幕府の残党か野盗が大勢押し寄せて来るとは思っておりましたが、其れがあの大軍で、私は今後も野盗か官軍が押し寄せて来ると考えております。」
「ではやはり山賀の警戒は重要だと考えておられるのですか。」
「私はあのか弱い女子供が山賀の山を登ると言うのは大変な問題でして、今後も野盗、若しくは官軍が来ると思われます。」
「松之介、山賀ではどうだったのだ。」
「山賀では多くの戦死者と怪我人が続出しましたが、やはり最後は狼の大群が、あっそうでした、義兄上、私は大変な事を忘れておりました。」
「何を忘れておられたのですか。」
「其れが山賀の鍛冶屋さんが一合手投げ弾と言う恐ろしい武器を作られました。」
「その一合手投げ弾とは一体どの様な武器なのでしょうか。」
「以前技師長が考えられました五合弾を、あれを一合徳利の大きさで作り火薬を詰め導火線に火を点け敵軍に投げるのです。
手で投げるのですから大砲と違い、どの方向にも投げる事が出来、大砲を小型にしたと思って頂ければ宜しいかと思います。」
「若様、手投げ弾の威力ですが。」
「手投げ弾一個で五人や六人は一度に吹き飛ばされました。」
「えっ、一個で五~六人が吹き飛ぶんですか。」
「正太さんも投げたと言っておりましたので、其れで私の判断で大量に作って下さいと。」
「火薬を入れると危険ですので器だけでも十分かと思います。」
「承知致しました、戻りましたら私が話をして置きます。」
「若、中隊と中隊長の事ですが。」
「私も何とかせねばと考えて要るのですが。」
「確か中隊の半分が戦死され、中隊長も戦死されたとお聞きしておりますが。」
「其れに今後の事を考えますと、中隊長の選出と中隊の再編が必要だと考えております。」
「工藤さん、私も若様の申される通りだと思いますが如何でしょうか。」
「私も異存は有りませんので、其れでは今吉田少佐の部隊より二個中隊を回し、残った中隊の兵士を二分しては如何でしょうか。」
工藤の考えは源三郎も吉田も同じで有る。
「工藤さん有り難い、中隊は小川大尉が隊長として就任して頂ければ尚更宜しいかと思うのですが。」
「勿論で、私も吉田も小川大尉ならば満足で御座います。」
「大佐殿、自分も大賛成で御座います。」
工藤も吉田も小川大尉に任せるならば大賛成だと。
「大佐殿、私が選んでも宜しいのでしょうか。」
「勿論だ、だが兵士達の意見も見く様にな。」
「勿論で、実は私が行きたいのですが、多分、大佐殿は許しては頂け無いと思っておりましたので。」
源三郎もだが、他の出席者からも賛成だと頷いて要る。
「ですが小川さんも負傷され、その傷も未だ治ってはおりませんが。」
「阿波野様、軍隊と言う所は上官の命令は絶対でして階級が一つ違うだけでも雲泥の差で、まぁ~これは命令で無くても小川の事ですから、其れこそ大喜びしますよ、其れよりも小川の事ですから責任は全て自分に有ると、多分今も責めて要ると思うのです。」
「吉田さんの言われると通りだと私も思います。
其れで工藤さん、今後の事ですが中隊の他に今各国より特撰隊が見回りと警戒を行なっておりますが、私は特撰隊の人員も増やしたいとのですが、如何でしょうか。」
「ですが菊池の人員を減らすのは防衛上厳しいと思います。」
高野は今回だけは何とか野盗からの攻撃を防ぐ事は出来たが、次に官軍が大軍で攻撃を仕掛けて来れば今の人員では防ぎ様が無く、これ以上人員を減らす事だけは反対なのだ。
「私は何も菊池から減らす事は考えてはおりませんよ。」
「ですが、今特撰隊の人員を。」
「高野様、今の菊池から人員を減らす事は出来ないのです。
其れよりも、野洲、上田、松川の各隊から十人か十五人程を山賀の特撰隊と合体し、其れから二分隊にすればと思ったのですが。」
「私も菊池を減らさずにと思い方法を考えておりましたが、今の方法ならば菊池隊は減らさずに山賀には二分隊出来ますねぇ~。」
「阿波野様、斉藤様、野洲、上田、松川は比較的恵まれて要ると申せば誤解を招きますが、私は菊池から山賀までを見回りましたが、菊池には連合国で唯一の隧道の出入り口が有り隧道の出入り口ならば一個中隊だけでも十分に防ぐ事は可能だと考えております。
ですが、問題は山賀の山を女性だけで登って来られたと言う事実です。」
「私は今まで山賀には狼の大群がおり、其の大群が要るのを過信しておりました。」
「其れは何も吉永様だけでは御座いませんよ、私も野盗が攻めて来るまでは山に住む狼の大群が幕府の残党も官軍も退けてくれておりまして、ですが野盗は狼に襲われる事も無く山を登り、そして我が連合国に侵入し攻撃を仕掛けて来たのです。」
「これは私の誤った解釈かも知れませぬが、若しも、若しもですが、山賀の山を登って来た女性達の中に野盗の手先の者が。」
「私は何も解釈が間違って要るとは思いませんが、ですが狼に襲われる危険を犯してまでも野盗の手先になる必要が有るとは思えないのです。」
「私も不思議でならないのですが、女性達は狼の大群でいると知っていたのでしょうか、勿論、我々は狼の大群が要る事は知っております、でもあの女性達は狼が要るのを知っていたとは考えられ無いのです。」
若様は綾乃達が野盗の手先だとはどうしても考えられ無いと、だが綾乃達は山賀の山を登り、入ったのは間違いは無い。
「女性達ですが全員が無事だったのですか。」
「そう言えば、数人が狼の餌食になったと聞きましたが。」
「数人の女性ですか、其れで其の女性達のご主人は。」
「そう言えば、助かった女性達の誰もが其の女性達の話しはしておりませんでした。」
やはり女達は野盗の手先だったのか、助かった女性達は数人の女達が狼の餌食となり犠牲になったんぉは知って要るはずだ、だが誰も女達の話しはしない、それどころか女達の存在は無かったかの様だ。
「ですが一体どの様の方法を用いて知らせるのでしょうか。」
「そうですねぇ~、若しもその女達が野盗の手先ならば、若、私も分からないですよ。
ですが何故野盗は我々連合国を知っていたのでしょうか、私はそちらの方が気に成るのですが、 女達が手先だったとしても野盗は全滅したのですから。」
狼の餌食になったとされる数人の女達が野盗の手先だと、其れは問題では無い、問題なのは何故野盗が連合国の存在を知ったのか、其れが問題だと言うので有る。
「私も以前、高い山の向こう側には山が海まで迫り数か所の漁村が有るだけだと聞いておりました。」
工藤も官軍が持って要る情報で山の向こう側には平地も少なく、山が海に迫っていると、だが旅人はこの地を訪れており、此処には静かな城下町が有る事を話す事も無かったのだろうか。
「そうでしたねぇ~私も工藤さんにお話しを伺うまでは連合国の存在は有る程度は知られて要ると思っておりましたので、其れに綾乃さん達は父上から話しを聞かれ、ですが其の話しに信憑性も無く、ただ信じるしか無かったと聞きました。」
「私は綾乃さんが作り話をしているとは思えないのです。」
「松之介、私も綾乃さんの話しは嘘では無いと信じて要る、だが何故、女性だけで国を出立、官軍にも幕府軍にも知られる事も無く山賀に来れたのだ、私は其れが不思議でならないんだ。」
「兄上は綾乃さん達を疑っておられるのですか。」
竹之進も綾乃達を疑いたくはない、だが現実に国を出て、山賀に入るまで一度も官軍や幕府軍、其れに野盗に見付からずに来た、其れが何とも不思議でならないのだと、悪く考えれば国を出る前から通じて要る者がおり、山賀に入るまでは無事に行かせる約束をしていたとも考えられるので有る。
「兄上は綾乃さん以外の女性を疑っておられるのですか。」
「私は何も綾乃さんを疑って要るのではない、だがよ~く考えて見るんだ、女性達は国を出立し山賀に入るまでは官軍にも幕府軍にも見付かっていないんだ、一人ならば木立に隠れる事も出来るが、あれだけ大勢の女性が、其れも殆どが農民や町民達なんだ、其れが見付かる事も無かったとは誰が考えても不思議だとしか考えられ無いんだ。」
「私も若殿が申される通りだと思いますよ、我々侍でも辺りを警戒しなが行きますよ、でも農民や町民達が果たして警戒しながら行く事が出来るでしょうか。」
「う~ん、ですが。」
松之介は綾乃達の作り話では無いと、其れは吉永も十分に分かって要る。
確かに綾乃が作り話を話す必要も無い、其れに農民や町民達が野盗の手先になるとは考えられる事は無い、だが一体誰が野盗の手先となったのだろうか。
「まぁ~何れ分かると思いますので、其れよりも皆様、今回は無事に切り抜ける事が出来ましたが、先程も申しました様に今後の事を考えれば、私は菊池よりも山賀に防衛戦を敷かなければ、我々の連合国は壊滅するやも知れません。」
連合国に入ったで有ろう密偵の捜索よりも山賀の防衛力を高める事の方が重要だと考えて要る。
「その件に関しましても私と吉田が中心となり進めて行きたいと思って要るのです。」
「ですが工藤さんが山賀に向かわれますと、他の防衛にも支障をきたす事になりかねませんですよ。」
工藤の事だ、今回簡単に侵入した事に責任を感じ、自らが最前線に出向くだろうと源三郎は考え、針を刺したので有る。
「承知致しました。
吉田は兵士達には十分理解させてくれ。」
吉田も源三郎と同じ考えで有ったが、今の状況では小川が頼りだと考えて要る。
「私も先程から考えていたのですが、確かに兵力の増強も必要だと理解しております。」
「阿波野様は何か秘策でも考えておられたのですか。」
「私は別に秘策だと思わないのですが、山賀の頂上付近一帯に簡単には入れない様な頑丈で高い柵を作っては如何でしょうか。」
其れは源三郎も考えていた、今は狼から農民を守る為の柵を作っており、其れと同様の柵が必要だと。
「其れは確かに重要だと思いますねぇ~、工藤さん、吉田さん柵作りの作業員を守る為に兵士を増員しましょう、高野様は菊池の隧道の警戒に、阿波野様、斉藤様は今より山賀の防衛戦を築く事に全力を挙げて頂きたいのです。」
「では太く長い釘が大量に要りますねぇ~。」
「其の通りで、正太さんにお願いして下さい。
其れと各国に居られます木こりさん達を集めましょう。」
「山賀に寝泊まり出来る場所は。」
「山賀の城をその場所として利用します、若、其れで宜しいですね。」
「勿論で御座います。」
今は余計な家を建てる暇など無い、山賀から松川までの柵を作る事の方が先決で有り、何時次の野盗か官軍が山賀の山を登って来るかも知れず、其れまでには何としても完成させなければなら。
「では内側には警戒用に小屋も作り、其れが出来れば狼からの攻撃も防げると思います。」
「吉田さん、小川さんは未だ治って居られないと思いますので、暫くは陣頭指揮を。」
「了解しました。」
「皆様、今日、全てを決める事は出来ませんので、私が随時見回りと致しますので、何か有れば其の時にでも申し出頂きたいのです。」
「私と吉永様は直ぐ戻りますので。」
「これから暫くは大変ですが、全ては連合国の領民の為です。
皆様も当分は大変だと思いますが、何卒宜しくお願い致します。」
源三郎は改めて全員に頭を下げた。
「我々にお任せ下さい、其れよりも総司令も少し休んで頂きたいのです。」
「いえ、私ならば大丈夫ですよ、其れよりも領民の方が大切ですので。」
吉永は源三郎が相当無理をして要ると分かっており、だが今の源三郎に休めと言っても絶対に休む様な男では無いと確信して要る。
「ですが、総司令を頼りにされて要る領民が大勢居られるのです。
総司令の事ですから絶対に休みは取られないと分かっております。
ですが我々の事よりも領民の事を考えるならば今は少しでも宜しいので休んで頂きたいのです。」
やはり吉永だ、源三郎には普通の言葉は通じない、ならば領民の為にと言えば、源三郎の事だ領民の為ならば仕方無いと思うで有ろうと。
「吉永様、誠に有難う御座います。」
「私が見回りをしますので、先程も私は山賀行きを考えておりました。
ですが総司令は行くなと、私は総司令の代わりに見回りをしたいのですが、皆様は如何でしょうか。」
「工藤さん、本当に有りがたいです。」
「そうして下さい、我々も総司令として野洲で居られるならば安心しますので。」
「私も大賛成で、義兄上が見回りをされますと、私も探す必要が有り、其れよりも野洲に居られるとその様に余計な時を掛ける事も無く野洲に来るだけで済みますので。」
「我々に任せて野洲で待機して下さい。」
もう此処まで来ると幾ら頑固者の源三郎でも諦めるしかない。
「私は皆様のお言葉に甘えさせて頂き、此処に残らせて頂きますが、皆様何時でもお待ちしておりますので宜しくお願い致します。」
そして、今回の話し合い、いや協議も終わり、高野達は明日には自国に戻って行く。
「源三郎様。」
「雪乃殿ですか。」
「皆様にお任せされては如何で御座いましょうか、皆様は相当ご無理をされて居られ何時倒れられ、其の様な事態にでもなれば源三郎様を慕われて居られる領民さん達が悲しまれるので御座いませんでしょうか、私も皆様と同じ気持ちで御座います。」
「雪乃殿、私は。」
「私は余計だと思われますでしょうが、お叱りを覚悟で申し上げさせて頂きます。」
雪乃は立場も考えながら源三郎の存在がどれ程重要なのかを話したので有る。
「雪乃殿、私は皆様に感謝しなければなりませんねぇ~。」
「全てをお一人でなさろうと、でも其れはとてもでは御座いませんが無理だと、其れは源三郎様も十分にお分かりだと思っております。」
雪乃の話しに時々頷き、だが一切反論はしないそれ程までに雪乃に対する信頼は厚い。
「私は源三郎様のお身体が心配なので御座います。
皆様も其れは同じだと思いますが、今は以前とは比較にならない程大切なお身体で源三郎様が思われる以上に連合国の皆様には大切なお身体だと私は思っております。」
最初、野洲を幕府から上納金を増やせと、ただ其れだけの事を阻止すべく殿様、いや野洲の筆頭家老で有る父から命を受けた。
だが今は連合国と言う野洲の五倍、いや其れ以上巨大になった国の最高司令官で有る。
源三郎には心から信頼出来る仲間が居るのだと。
「皆様は何事に置いても全て源三郎様を信頼されておられるのです。
皆様をご信頼されて要るとは思いますが、私は何故其処までご自分を責められるのか、其れが分からないのです。」
「雪乃殿、勿論、私は皆様を信頼しておりますよ、ですが其れよりも私自身の目で確かめなければ私自身が納得出来ないのです。」
源三郎と言う人物は誠に困った性格の持ち主だ、全てを納得したいのだと、いやそうでは無い、全てを把握したいのだと、だが其れは余りにも無理が有る。
「全てを把握するのは余りにも無理では無いでしょうか。」
「私も分かって要るのですが、これは私の性格なのでしょうかねぇ~。」
「でもその様なご無理を重ねられますと、何れはお身体が悲鳴を上げ、大事な時には。」
「私も今後は出来る限り気を付けますので。」
「余計なお話しを申し訳御座いません。」
「いいえ、その様な事は有りませんよ、私も自分では分かって要るつもりだったのです。」
そして、明くる日の早朝、松之介と吉永は馬を飛ばし山賀へと、高野達も急ぎ国へと戻って行く。
工藤と吉田も早朝から動き始めた。
「少佐殿、其れは命令ですか。」
「いや、命令では無いんだ。」
「何故ですか、何故命令されないんです、時には命令して欲しいんです。」
「実は総司令からは命令では無く、兵士には納得して貰って下さいと。」
「戦には戦死するのは覚悟で行くんですよ、其れに山賀の中隊長も戦死され、中隊の半分が戦死されたんでしょう、だったらオレは命令される方が楽ですよ。」
「ですが山賀の駐屯は今までの様な戦では無く、敵は一番恐ろしい狼の大群で、其れに何時官軍や野盗の大軍が攻撃して来るかも知れず、常に神経を使い警戒するのですよ。」
「オレは此処の人達がどれだけ親切で優しいか知ってるんですよ、其れにオレはもう家に戻る事も出来ないんですよ、其れだったらオレは此処の人達の為に行きますよ。」
「オレも行きますよ。」
「みんな有難う、其れよりも別の任務も有るんですが、山賀に狼の侵入を防ぐ為の柵を作るんですが、部隊の全員で行って頂きたいんですが、宜しいでしょうか。」
「まぁ~オレ達に任せて下さいよ。」
「そうですよ、オレ達に任せるのが一番なんですからね。」
「オレは絶対に行きますからね。」
その後、昼前には部隊の全員が行くと決まった。
「では明日の朝に。」
「未だ昼ですよ、昼飯を食ったら行きましょうよ。」
「そうだよ、早い方がいいんだから。」
「よ~し、みんな早く食べて準備入ろうぜ。」
吉田は其れ以上何も言わず、兵士達に任せた。
「後藤さん、お話しが有るのですが、宜しいでしょうか。」
「高野司令、急用で御座いますか。」
「お話しは執務室でしたいと思いますが。」
「分かりました、直ぐに参らせて頂きます。」
後藤は吉三と数人を連れ、高野の執務室に入った。
「まぁ~皆さん座って下さい。」
後藤達が座ると高野は本題に入り、詳しく話すと。
「では、菊池や野洲を後回しにし、山賀に柵と池の測量を行うのですね。」
「野洲や上田、松川も急ぐのですが、今回野盗の攻撃を受け、山賀からは多くの戦死者と怪我人を出し、其れで今後の事も考え山賀には二重の防衛戦を築く事になったんです。」
「えっ、二重の柵を作るのですか。」
「其れで後藤さん達は山の麓の測量と柵作りと池を、我々は頂上近くに丸太で柵を作りたいのです。」
「では測量が終わり次第、柵と池を作り始めるのですが。」
「山賀から松川へと進めて頂きたいのです。」
「高野様の頼みだ、其れよりも此処の人員を集中すれば何とかなりますよ。」
「この工事は大急ぎで掛かりましょう、明日の朝、我々測量部隊は山賀に向かいますが、吉三さんは道具の準備に、話しは私がしますので。」
後藤達測量部隊は早速準備に入り、次の朝、菊池を出立し山賀へと向かった。
「大変な事になったんですねぇ~。」
「我々は連合軍と野盗の戦は知りませんでしたが、昨日の話しでは山賀は大損害を受けたと思います。」
「だったら、次は官軍が攻めて来るんですか。」
「私は分かりませんが、高野司令も工藤大佐も相当急がれておられると思います。」
「山賀の次は。」
「山賀が終われば松川に入りますが、其れよりも山賀の国は菊池の数倍も大きいと聞いておりますので、其れに山賀でも穀物を増産すると聞いております。」
「でも大変ですねぇ~、だけどオラはやりますよ、源三郎様もオラ達の為だって言って下さって。」
「皆さんもこれからは今まで以上に大変ですが、みんなで協力して行きましょう。」
後藤達は数日後には山賀に着くのだが。
「高木さん、正太さんを呼んで下さい。」
山賀に戻った若様も動き出し、若様の表情が何時もより険しいと感じ大急ぎで北の空掘りへと向かい、暫くすると。
「若様、大急ぎの用事って何ですか。」
正太は息を切らせて飛んで来た。
「鍛冶屋さんですが、今は。」
「若様の指示で一合手投げ弾の器を作ってますよ。」
正太は今更何を聴くんだと言う顔をして要る。
「正太さんも野盗が大勢侵入した事を知っておられますねぇ~。」
「そんなの勿論ですよ、オレは。」
「其れで正太さん、これからは連合国として今後の事も考えなくてはなりません。
実は義兄上の指示で山賀から松川に至る山に頑丈な柵を作る事になったんです。」
「頑丈な柵って何処に作るんですか。」
「義兄上は山の中腹辺りが良いのでは無いかと申されておられましたが。」
「柵を作るのは分かるんですが、確か以前ですが狼除けの柵を作るって聞いたんですが。」
「勿論、其れも作りますよ、其れが何か。」
「今思ったんですが、同じ作るんだったら中腹に作る柵ですが、狼除けにも使える様に出来ないかって、オレは兵隊さんと山の麓で働く人達の為に中腹よりもまだ少し下の方に作るんです。
其れで柵ですが、う~ん、何て言ったらいいのかなぁ~。」
正太も何時もより頭が冴えて要る様な気がした。
「正太さんは何か浮かんだんですか。」
「今急に思い付いたんですよ、野盗との戦で中隊長さんは戦死、其れに隊長さんも大怪我で中隊の兵隊さんの半分が戦死したんですよ、其れでオレも考えてたんですが、でもさっきまでははっきりとして無かったんですが、今若様に言われて急に頭の中に浮かんです。」
「何でもいいんですよ話しして下さい。」
正太は若様に詳しく説明すると。
「えっ、正太さん、そんなのって。」
「オレも最初は駄目かなって思ったんですよ、でも同じ作るんだったらと思ったんです。」
「分かりました、じゃ~私は義兄上にお願いしますから、正太さんは仲間を集めて下さい。」
「本当にいいんですか、オレが考えた方法で。」
「勿論ですよ、其れに正太さんは現場の事を一番良くしっておられますから、義兄上も分かって頂けると思いますよ。」
「じゃ~オレはみんなに話して来ますんで。」
「山賀を守ると言う事は連合国を守ると言う事になりますので、其れと数日後には大勢の人達が山賀に来られますのでね。」
「大勢って、でも何で来るんですか、山賀の事だったらオレ達だけで十分ですよ。」
「山賀の柵は山賀だけの柵では無いのです。
正太さんが考えられた方法を皆さんに説明して頂き、全員作るのですから。」
「分かりました、じゃ~オレは今から戻って話しますんで。」
正太は大喜びで空掘りの仲間の所へと向かった。
「正太は総司令でも考え付かなかった方法を、まぁ~良くも考えたものですなぁ~。」
「ですが考え方を変えれば同じ作るので有れば正太さんの方法で作る方が作業員を集中的に現場へ送る事が出来ますので、私は正太さんの提案を採用したいので。」
「私も大賛成ですよ。」
「私は今から野洲に向かいますので。」
「私は残りまして正太さんと。」
「吉永様、お願い致します。」
正太の考えた方法を源三郎に説明する為に野洲へと馬を飛ばし、だが正太は一体どの様な方法を思い付いたと言うのだろうか。
「我々は外に出て守りに入りたいのです。」
「中隊長、少し待って下さいよ、中隊の全員が外に出られるのですか。」
「いいえ、一個小隊が交代で外の監視に入ります。」
「では残りの小隊ですが。」
「我々もあの後中隊の全員で話し合ったんです。」
「話し合ったと言われますが、一体何を話し合われたのですか、若しや戦術では。」
「中隊の全員で向こう側の出入り口に有ります大木の上に監視所を作ったんです。」
「監視所って。」
「司令もご存知だと思いますが、出入り口の大木は高く上の方には枝も多く有りますので太く丈夫な枝を利用し数人が座れる様にし遠くまで見渡しが出来る様に作ったんです。」
「ですが、伝達の方法はどうするのですか。」
「上から下まで竹を利用し伝える様にしています。」
野盗の大軍が集結し押し寄せて来ると分かれば山賀で多くの犠牲者を出さずに済んだかも知れない。
だが幾ら早く発見出来たとしても、山賀の戦死者は出なかったと言う保証はない。
「自分は相談もせずに申し訳無いと思っております。
我々はこれから先も連合国を敵の攻撃から守りたいんで、何とか許して欲しいんです。」
高野は何も反対する必要も無かった。
其れと言うのも中隊長が、いや中隊の全員が敵の攻撃から連合国を守りたいと言う思いからだろう。
「私は勿論大賛成ですよ、これからも皆さんで考えられ十分に話し合いをされた結果、其れが最も良い方法だと結論出来たので有れば、どんどんと進めて頂いても宜しいですよ。」
勿論中隊の兵士達は大喜びで、今までならば何事に置いても上官の、其れは官軍の司令部から出された命令通りに行うだけで、だが今は全く違う、連合国内では例え農民だとしても良い提案が有れば採用され、其れが今回中隊の兵士達が考えた方法で高野は反対どころか大賛成だと、これが兵士達の気持ちもだが行動力に現れて来たので有る。
「高野司令、有難う御座います。」
「中隊の皆さん、これからも皆さんの協力が必要です。
ですが何でも全てが許さるとは思わないで欲しいのです。
皆さんも分かって頂けると思っておりますが今回は特例とします。
これからは私にも話をして頂きたいのです、ですが私は何も反対して要るのでは有りませんのでね、何事に置いても前向きな考え方は必要で、総司令も皆さんが提案された内容が前向きな考え方で有れば反対される事は有りませんのでね。」
「其れと菊池側なんですが。」
「まだ有りましたか、で、其れはどの様な事でしょうか。」
高野は何故か早く知りたいと思った。
「菊池側の出入り口ですが大木を五本立て掛けて有るんです。」
「ほ~大木と立て掛けて要るとは、私が理解出来る様に話しをして下さい。」
「方法は簡単でして。」
中隊長は若しも向こう側で防ぐ事が出来ず隧道に押し寄せて来た時、菊池側の出入り口に防御用と反撃の為の盾となる大木を平時の時から立てて置き隧道に敵が押し寄せて来た、其の時大木を出入り口に倒し侵入を防ぐと言うものだ。
「ほ~其れにしてもまぁ~大胆な方法を考えられましたねぇ~、で、先程の監視所と大木の立て掛けは終わられて要るのですか。」
「はい、もう既に終わっており、向こう側では監視任務に就いております。」
「そうですか、では宜しくお願いしますね、其れと特撰隊の方々ですが。」
「特撰隊も大変だと思いますが、あの方々も班編成され夜明け前から常に三つの班が警戒に入り、一つの班が移動を利用し食事と休みを取られておられます。」
「ですが、移動では休みにはならないのでは。」
「司令、私も理解出来ないのですが、まぁ~特撰隊が決められた事ですから、私は何も申す事は有りません。
今までは各国の家臣でしたが、其れが今では其の家臣の垣根を越え連合国の為にと必死になったと言う事では無いでしょうか。」
中隊長の言う通りかも知れない、今までならば全てが藩の為、殿様の為だと、だが今は違う藩の為でも殿様の為でも無い、全てが領民の為だと、その為には戦死は覚悟の上だと。
「では特撰隊も話し合われたのですか。」
「あの日から連発銃の訓練も目の色が変わったと聞いております。」
高野は指示を出すつもりだったが、菊池に配属された中隊も特撰隊も自分達だけで考え、話し合いをし決め、其れならば何も言う必要も無く全てを任せる事にした。
「兄上は居られますか。」
「はい、只今。」
松之介は松川の執務室に入り竹之進に話すと。
「松之介、私も一緒に行く。」
竹之進と松之介、更に斉藤は直ぐ野洲へと馬を飛ばして行く。
「後藤さん、あれは。」
「何か有った様ですねぇ~。」
竹之進達が野洲に近付く頃、山賀へと向かっていた後藤達が見付け。
「吉三さん、山賀と松川のお殿様ですよ、私も何か急に胸騒ぎを感じましたよ、そうだ丁度良いところですから休みを取りましょう、皆さんは野洲の城下で休みを取って下さいね、私は野洲のお城へ向かいますので。」
「じゃ~オラも一緒に行きますんで。」
後藤と吉三は野洲のお城へと向かった。
「義兄上は。」
野洲の大手門を松之介達が通り抜け執務室へ入った。
「若、其れに若殿までも一体如何されたのですか。」
松之介達は息を切らせて要る。
「実は正太さんが思い付いたんですが。」
其処には松之介がこの世で一番恐ろしいと思って要る雪乃が居た、だがこの様な時には雪乃は何も言わない。
「正太さんは何を思い付いたんですか、まぁ~少し落ち着いてから話して下さい。」
「私はあれから正太さんを呼び大量の釘が必要だと話したんです、ところが正太さんは少し考えて同じ作るんだったら山の上では無く下の方に作れば良いと。」
「落ち着いて下さいね、我々は山の上に野盗から攻撃を防ぐ目的で高く頑丈な柵を作ると考えたのですよ、其れは勿論狼除けにも役立ちますから。」
「勿論です、正太さんは狼除けと野盗からの攻撃も防ぐ方法として山の上で無く、中腹、いやもう少し下で作れば狼と野盗の攻撃も防ぐ事が出来一石二鳥だと、私も同じ考えです。」
松之介の説明と頷きながらも聞いて要る。
「正太さんは同じ作るので有れば山の頂上では無く、中腹よりも下に、う~んそうか山の頂上に柵を作るとなれば柵を作る為の作業員も上に登らなければならず、其れに狼の大群にも注意しなければならない、だが其れよりも下の方に作れば狼が現れても逃げるだけの余裕も少しは有るかぁ~。」
源三郎は頭で考え独り言を言い、松之介も竹之進も源三郎の独り言に頷いて要る。
「あの~私は後藤と申しますが源三郎様にお会いしたいのですが。」
「どうぞ、源三郎様ならば入られて左に有る建物が有りますので其処に居られますよ。」
「有難う御座います。」
「オラ達余りにも簡単に入れたんですが、門番さんは何も聞かれなかったですが。」
「でもあの門番さんは実に良く人間を見ておられますよ。」
「えっ、人間を見てるって、どんな意味なんですか。」
「まぁ~その話しは後程にしますから、あっ、あの建物ですねぇ~。」
後藤と吉三は執務室の前に来ると、中からは何やら真剣な話し声が聞こえて来る。
「あの~私は。」
「後藤さんですね、そうだ丁度良かったですよ、まぁ~入って下さい。」
後藤も吉三も唖然とし、一体何が丁度良かったのだ二人はさっぱり意味が分からない。
「私は何を申されておられるのかも分からないのですが。」
「勿論ですよねぇ~、若、後藤さんにも説明をして下さい。
後藤さんならば何か良い策でも考えて頂けると思いますので。」
「承知致しました、では詳しく説明します。」
若様は正太が話した柵作りを説明すると。
「う~ん、少しお待ち下さい、急なお話しですので少し考えさせて頂きたいのです。」
「まぁ~ゆっくりと考えて頂ければ宜しいので。」
「源三郎様、皆様に。」
雪乃と加世、すずがお茶を運んで来た。
「雪乃殿、有難う、加世殿もすず殿も宜しければ聴いて頂きたいのです。」
源三郎は何を思ったのか雪乃達に話しを聞く様にと、暫くして。
「私達も山賀から柵作りに入るところでして、でも正太さんと申されますお方のお話しで、私の考えが纏まりました。」
「やはりでしたか、後藤さんの事ですから単に狼除けの柵を作るのでは無く、別の方法も考えておられると思っておりました、其れでどの様な方法なのでしょうか。」
「私も正太さんの申される通り同じ柵を作るので有れば、狼と野盗からの攻撃もですが、今菊池から始めております大小の池と農作地の拡張も含めた工事が可能ならば一石二鳥どころか一石三鳥と考えるのですが。」
「えっ、一石三鳥ですと。」
正太の話しから思わぬところまで発展したが、若様は未だ分かっていない。
「今申されましたが、一石三鳥とは一体。」
「私は源三郎様の命により農地の拡張と狼から農民を守る為の柵を菊池から始めておりまして、その方法を少し変え、私が行なっております測量は山の麓までと、其れをもう少し山に入りまして柵と兵隊さんが移動用に石垣で道を作るのです。」
「私は未だ理解が出来ないのですが。」
「内側に兵隊さんが移動出来る様に石垣で道を作るのですよ、簡単に説明しますと。」
正太の提案を元に柵の内側に石垣を作るのだと、石垣作りには池や田畑を作る時に大量に搬出される大小の石を使い、更に土を混ぜれば石垣も丈夫に作れると言う。
「ですが、兵隊さんが移動すると成れば道幅もそれなりの広さが必要で、池や田畑を作る時に搬出させる石だけで足りるでしょうか。」
若様は岩石が不足すると、其れは後藤も同じで、だが後藤や吉三は山賀以外の国で海岸の洞窟を掘り進んで要る事は知らない。
「そうですねぇ~、私も幾ら多くの池を掘ったとしても山賀から菊池まで続く石垣作りには岩石が不足すると考えておりましたが、この岩石をどの様に調達すれば良いのかと考えますが、これだけは何とも。」
「義兄上。」
竹之進は何かを思い付いた。
「若殿は何か思い付かれましたか。」
「実は松川の洞窟ですが、洞窟から掘り出した大量の岩石の置き場所に困っておりまして、私は其の岩石を使ってはどうかと思ったのですが。」
「そうか、松川もですが、上田、野洲、菊池では海岸の洞窟を拡張していたのか、後藤さん、実はですねぇ~、我々連合国の海岸に有る洞窟を掘って要るのですが、野洲にも大量に出る岩石の捨て場所に困っておりまして、其の岩石を使うと言うのは如何でしょうか。」
「其の岩石を使いましょう、若しかすればと思っておりましたで助かります。」
「後は柵を何処に作るかと言うだけでよ。」
「其れは私が現地に入ってから考えますので、其れと石垣の高さですが、上を兵隊さんが移動出来る様に広く取りたいのですが宜しいでしょうか。」
「其れは後藤さんにお任せ致します。」
「あの~。」
「吉三さん、何か不安でも有るのですか。」
「オラは何も反対じゃないんですが、オラは其の現場で働く人達の寝る所とおまんまの。」
本格的な工事の前に作業員用の宿舎と食べる所が必要だと思っていた。
「そうでしたねぇ~、吉三さん私も反省します。
どんな工事でも人手が必要でその人達が寝る所と食堂の様な所が必要でしたねぇ~、では先に山賀から松川まで、いや上田までの宿舎と賄い処を作り、其れが完成すれば工事に入る事が出来るとおもいます。」
「申し訳ないです、オラが余計な事を言ったんで工事が。」
「吉三さんが悪いのでは有りませんよ、私達は工事ばかりを考え、一番大切な工事に就いて頂く人達の事を考えて無かったのですから。」
吉三は下を向いていたが、やはり源三郎は聞いていた通りの人物だと思った。
「私も正太さんの提案に大賛成ですよ、其れで菊池から山賀までの大工さんと木こりさんを総動員し宿舎造りと賄い処を作りましょう。
雪乃殿、加世殿、すず殿、私は賄い処の作りが分かりませんので、吉田様、そうだ山賀の賄い処の人達からも意見を聞いて頂きたいので、其れと若殿も松川の賄い処から意見を聴きたいので、雪乃殿と加世殿、すず殿も一緒に松川へ、加世殿は窯元さんに行って頂き食器が大量に必要だとお願いして下さい。」
やはりそうだったのか、雪乃、加世、すずが松川に行けば話しは早いのだ。
だが傍で聞いて要る後藤と吉三は余りにも簡単に事が進み、開いた口が塞がらず唖然として要る。
「賄い処ですが、一体何人分でしょうか。」
「まぁ~簡単に考えて五千人から六千人だと思って下さい。」
「はい、承知致しました。」
雪乃も分かって要るが、あえて聞いた。
「では山賀から松川、上田の街道に作るのでしょうか。」
「まぁ~其れだけの人数ならば街道に作るのが最も便利だと思います。
山賀が終われば次は松川へ、そして、松川が終われば上田へと続いて行き、街道ならば大量の資材も運ぶ事が出来ますので。」
「そうなれば城下の人達にもお手伝いをお願いしなければなりませんねぇ~。」
「この工事は全て領民の為で有り、その為には領民さんの協力が大事で賄いは領民さんにもお願いしなけれななりませんので、私は高野様と阿波野様に書状を認めますので鈴木様と上田様は届けて下さい。」
その後、竹之進と松之介は雪乃と暫く会話し戻って行く。
鈴木と上田は菊池、上田へと馬を飛ばして行く。
正太の提案から山賀から菊池まで続く連合国の山に狼と野盗や官軍の攻撃から守る為の柵と移動用の通路を作る事になった。
だが工事の最中に果たして野盗や官軍からの攻撃は有るのか、若しも大軍が押し寄せ攻撃されれば以前よりも多くの犠牲者を出す事に成る。
果たして何時になれば完成するのか、だが其れも今始まったばかりで、源三郎の心配事は減るどころか増えるばかりで有る。