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闇の帝国    作者: 大和 武
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 第 19 話。 連合国に新たな脅威が。

 山賀を出立した若様と上田、鈴木、そして、綾乃を含め、家臣の妻達と農民、町民の女性達は二日後野洲に到着した。


「義兄上、皆様をお連れ致し、只今、到着致しました。」


「若様が自らで誠ご苦労様です。

 上田様も鈴木様もこの度は無理をお願い致しました。」


 源三郎は若様と上田、鈴木に頭を下げた。


「皆さんの協力で何とか無事にお役目を果たす事が出来、私達も一安心で御座います。」


「さぁ~さぁ~皆さん、良くぞ野洲に着て頂き、源三郎、改めてお礼を申し上げます。」


 源三郎は農民と町民に頭を下げた。


「あの~源三郎様、私達の。」


「はい、今皆さんを呼びに行っておりますのでね少しお待ち下さいね。」


 女性達全員が何やら落ち着かない様子だ、其れも仕方が無い女性達は自分達の亭主や兄弟はお城で待って要るものと思っており、其れが誰もいない、暫くして元官軍兵と言うのか大江の国の領民で有る歩兵が大広間に入って来た。


「あっ、およし。」


「あんた。」


「よね。」


「わぁ~。」


 と、女性達は一斉に立ち上がり男達の元へと駆け寄り。


「父ちゃん、本当にあんたなのか。」


「うん、オラだ、本当にオラだよ。」


「あんた、生きてたの。」


「オレは生きてるよ、ほらなっ、手も足も有るよ。」


 野洲にやって来た最後の女性達の全員が再会し、誰の眼にも涙が溢れ、其れは嬉し涙で、綾乃達も家臣の妻達もその様子を見て貰い泣きして要る。


「ねぇ~、あんた本当に奇跡が起きたんだね。」


「うん、本当に奇跡だ、オレ達大江の国の者が生き残っただけでも奇跡なのに、今母ちゃんと会えるなんて、これが奇跡じゃ無いって一体誰が言うんだ。」


 野洲の大広間では最初の時と同じくらいの大騒ぎとなり、源三郎達は何も言う必要は無い。


「源三郎様、この度は誠に有難う御座いました。

 私は何とお礼を申し上げて良いのか分からないのです。」


「綾乃様、私は何もしてはおりませんよ、これはねぇ~、皆さんが日頃からご主人や兄弟に会いたいとの執念が実ったのだと思いますよ。」


 源三郎はニコニコとして要る。


「其れで、お伺いしたいのですが。」


 綾乃は源三郎が何を聴きたいのか直ぐ分かった。


「大江のご家中と領民の人達とは一緒では御座いませぬので上田様も鈴木様も大変気にされておられましたが、私は家臣が別の部隊に配属されたと伺っております。」


「そうでしたか、私も其れを聴き一安心で御座います。」


「其れで今後の事なのですが。」


「綾乃様、其れはねぇ~皆さんが決める事でして私が申す事では有りませんのでね、其れよりもご家中の奥方様ですが、どの様にされるのでしょうか。」


「実は私も其れが一番危惧しております。」


「やはりそうでしたか、これは私の考えですが、我々の連合国には大勢が、其れも綾乃様と一緒に来られた人達もですが、其れ以前にも大勢の官軍兵が来られましてね、其れと連合国にも大勢の領民が居られるのですが、皆様の協力で全ての人達に読み書きを教えて頂け無いかと思って要るのですが、この話しは何も無理にとは申せませんので。」


「誠に有難う御座います。

  私からお話しをしますが、出来る事ならば源三郎様からお話しをして頂ければ、私としましても幸いで御座います。」


 綾乃は安心した、以前ならば武士の家族ならば衣食住に困る事は無かった。

 だが今は連合国と言う別の国に救われ、連合国には連合国の政が有り、連合国の一員と生きて行くならば連合国の政に従わなければならないと考えて要る。


「私で宜しければお話しをさせて頂きますが、今暫くお待ち頂きたいのです。」


 源三郎は廊下の雪乃に目で合図した。


 山賀から来た女性達と主人や兄弟達に夕食が用意されたと言っても、やはり今はおむすびと漬け物、そして汁物だけだ、其れでもこの人達にとっては戦死したはずの身内と再会した事の方が大きくおむすびで有ったとしても人生の中では最高の食べ物に違い無い。

 其れよりも野洲には上田から阿波野、松川からは若殿と斉藤が、そして、山賀からは若様と吉永が来ており、更に菊池からは高野も来る事になって要る。


「大江藩ご家中の奥方様、宜しければお話しが有るのですが。」


 大江藩家中の奥方達は何故歩兵だけが救われたのかも分からず、若しも家臣達だけが殺されたのかと考えており、源三郎が話をすると言うので大広間を出、別の部屋へと移った。


「皆様方の中には何故歩兵だけが連合国に入ったのかを知りたいと思われて要る様なので、私が今から詳しく説明させて頂きます。」


 源三郎はその後詳しく説明した。


「皆様がお聞きになりたいので有れば、私がお答えしますのでどの様な事でもお聞き下さい。」


「今お話しを伺い致しましたが、何故に歩兵だけを救われたので御座いますか。」


「其れはですねぇ~、実は私の配下の者が官軍の大部隊が連合国方面に進軍して要るとの情報を得、其れで配下の者が詳しく調べたところ、歩兵が五千人、その他正規軍と思われる騎馬軍が五百、大砲が数十問と判明したのです。」


「ですが、その大部隊が連合国を攻めると何故分かったのでしょうか。」


「其れはですねぇ~、皆様も気付かれておられるでしょうが、菊池から山賀には一千五百名の元官軍兵が駐屯して要るのです。

 元官軍兵ですが、官軍の司令部に対し不満を持つ当時は少佐ですが、その少佐が五百名と共に野洲の山に入られ、事情をお聞きしますと我らとは戦をするつもりは無く、少佐達は表向きは戦死扱いで、まぁ~簡単に申しますと官軍を脱走されたのです。」


「えっ、官軍を脱走されたのですか。」


「其の通りでしてね、その次には少佐を慕う当時の大尉と少尉が一千名の兵士と共に脱走し山賀の山から入られたのです。

 今は各国に駐屯して要るのですが、正規の中隊長や小隊長とは別に歩兵の殆どが農民さんでした。」


 源三郎は相手が農民や町民達ならばこれまで説明する事も無いが、其処はやはり武士の妻や子女で有り、この者達が納得するまで説明する必要が有ると。


「ですが、何故ご家中の皆様方が警戒され無いのですか。」


 やはりと思うだろう、今は家臣達が全員警戒の任務に就いて要るが、当時は誰も山を警戒する者はおらず、各国の藩主達も正か狼の大群が生息する今の連合国の山に登って来るとは考えもしなかった。


 その後、源三郎は何故家臣が警戒もせずにいたのかも説明し、更に海岸では大規模な洞窟の掘削工事が始まり、領民も家臣達もがその工事に就いて要ると説明した。


「源三郎様、先程申されました配下のお方ですが、ご家中の方ならば侍で侍の姿ならば、仮にご浪人の姿でも官軍の正規軍から見れば侍だと、若しも浪人の姿をした幕府の者だと知れば容赦なく殺されるのでは御座いませぬか。」


「配下の者は立派な我が野洲の武士でして、日頃から他国に向かわれておりますが、その姿は僧侶で僧衣はぼろぼろ、髪と髭は伸び放題でその者が戻って来る時ですが、最初の頃、菊池の警戒に入って要る兵士ですら侍だとは分からず、野洲の門番でも全く気付く事は有りませんでした。

 我々ですら分からない者が、幾ら官軍の正規軍だとしても見破る事は先ず不可能なのです。

 其れにその者は戦死された者達を弔っており、その姿は官軍も幕府軍の者達も知っておりますので簡単に部隊に入る事が出来るのです。」


「ではそのお方は僧侶となられたのですか。」


「いいえ、僧侶では有りませんよ、今でも私の配下として何処かで探って要ると思いますが。」


「源三郎様、今、何処かでと申されましたが、そのお方から文を届くので御座いますか。」


「いいえ、文は有りませんよ、全て戻られてから私に報告されますので。」


「では、若しもそのお方が殺される事も有るのでは御座いませぬか。」


「まぁ~其れも仕方が有りませんねぇ~、ですが配下の者は忍びの心得も有り、剣術は達人ですから余程の事が無ければ殺される事は無いと思っております。」


 やはり武士の妻達だ、農民や町民達ならば其処までは聴く事も無いが、納得出来るまで聴きたいのだろうと源三郎は思い、妻達の疑問に全て答えて要る。


「ではそのお方が戻られてから五千人の大軍が攻めて来ると聞かされたので御座いますか。」


「其の通りですよ。」


 源三郎が余りにも簡単に答え、綾乃も何故其れまで簡単に話す事が出来るのだと不思議でならない。


「源三郎様は何故其の様なお話しを簡単に申されるので御座いますか、私ならば少しは秘密にする内容が有ると思うのですが。」


「まぁ~其れが普通だと思いますが、綾乃様も皆様方も私の申しております内容は連合国の領民も知っておりますよ。」


「えっ、領民も知って要るのですか、でも何故領民が知って要るのですか、お国のご家中の方々が話されるのですか。」


「いいえ全て私が話しておりますのでね、其れはねぇ~、私が秘密にすれば何れ知られた時に領民は私に対して不信感を持ち、その為に領民の協力が得られず工事も進める事が出来ないのです。」


「では、連合国の領民は源三郎様を知っておられるのですか。」


「勿論ですよ、私は野洲の城に居るよりも、浜か城下の何処かにおりますので。」


「源三郎様、先程のお話しで歩兵が五千人だと、でもその歩兵の殆どが農民や町民だと知られましたが、何故正規軍だけに狙いを定められたのですか、普通ならば最初は誰でも良いのでは御座いませぬか。」


「皆様、我々の連合国の軍隊と申しましても、元官軍兵が一千五百で家臣が五百足らずですよ、ですが、その全てを菊池の隧道の外側に配置すれば山を登って来るやも知れぬ官軍は戦もせず悠々と攻め込んで来る事に成り、その様になれば連合国は簡単に壊滅させられるのです。

 ですから我々は弓の使い手と菊池の中隊だけで防衛しなければならず、其れで正規軍の指揮官だけに狙いを定めたのです。」


「ですが若しも失敗すればどの様な事に成るのですか。」


「官軍は五千の大軍で大砲が数十問、騎馬軍が五百ですよ、そんな相手に僅か数百名で戦をして勝つと思われたのでしょうが、私はこの戦は大馬鹿者が考える大博打でしてね、だから官軍の指揮官だけに狙いを定めると一か八かの戦いだと私が最後の決断をしたんです。」


「其れで作戦が成功し歩兵だけを受け入れられたのですか。」


「其の通りで、我々は何も官軍の兵士だと言っても、その殆どが農民さんと町民さんだけで、その様な人達を私は殺す事は出来ないのです。

 ですが、五千人もの歩兵を助けると言うのは大変な決断だった、これは間違いは有りません。」


「源三郎様、私達が山賀の山を登って来た時ですが、中隊長様がこの山には狼の大群が生息しており、一刻も早く逃げなければ狼の餌食になると聞いたのですが、其れは誠なのですか。」


「勿論、間違いは有りませんよ、あの時は官軍の正規軍に対し放った矢と、中隊の兵士が連発銃で撃ちましたが、正規軍の全員がその場で戦死したとは思って無いのです。

  其れで歩兵に貴男方が生き残りたいので有れば我々の仲間の言う通りに動き、一刻でも早くその場から離れろと伝えないさいと。」


「では怪我をされた官軍の正規軍ですが。」


「仕方が有りませんが、狼の大群に襲われ全員が餌食になったと思いますよ。」


「えっ、何故其の様な残酷な事が出来るのですか。」


 家臣の妻達が思うのも当然だろう、一気に殺されなければ狼の大群に襲われれ噛み殺され地獄の苦しみを味わい狼の餌食に、その後は森に住む動物達の餌をなり、残るは骨だけに。


「何故に残酷なのですか、貴女は官軍がどの様な事をして要るのかご存知なのですか、勿論幕府軍もですが、官軍も村々を襲い、女性は犯され、年寄りはその場で殺し、食べ物は略奪し、最後には女や子供を家に閉じ込め火を放ち村を焼き払う、貴方はその様な行為が残酷では無いと申されるのか。」


 家臣の妻達は武士ならば決してその様な残酷な行為はしないと思って要る。


「源三郎様は何故ご存知なので御座いますか。」


「連合国に逃げ込んだ元官軍兵も元々は農民さんが殆どで、更に山の向こう側から来られた農民さんも官軍も幕府軍と同じだと、特に官軍の正規軍は幕府軍の侍よりも残酷だと、私は農民さんから直接聞いたのです。

 農民さん達が何故作り話をする必要が何処に有ると思いますか、私が何故この様な話しを皆様方にするのか分かりますか。」


「源三郎様、何故で御座いますか。」


 綾乃は分かって要る、だが大江の家臣の妻達はその意味が分からないだろう、と源三郎は思って要る。


「実は、今回、官軍兵の一部ですが家族と再会するとは、私もですが誰も考えもしなかったのです。

 私はねぇ~、其の時一瞬若しや我々が殺したのは大江の家臣では無かっただろうかと、若し全員が大江の家臣ならば家族から見れば私は仇だと言われても仕方が無いと、ですが戦と言うのは敵を殺さなければ反対に我々が殺されるのです。

 私は何時でも死ぬ覚悟は出来ておりますが、最後の決断は私がしたので全ての責任はこの私が受けま。他の者は私の決断に従っただけなのです。」


「皆様、例え戦死された官軍の正規軍が大江のご家中だとしても、私は源三郎様には反対に感謝したいのです。

 私の父も領民だけは何としても助けてくれと、申しておりました。」


 綾乃は涙を拭う事もせず家臣の妻達に訴えた。


「綾乃様、私も源三郎様には感謝したいと思います。

 私の主人は大江の侍です、大江の侍ならば死に際も心得ておられと思います。

 例え官軍の中に私の主人がおられ戦死されたとしても、領民は助かり主人は今頃天国で、正しく其の通りだと申されて要ると思います。」


 大江の家臣が一体何処で戦死したのか、其れは今となっては調べる方法も無い。


「皆様、誠に有難う御座います。

 其れで皆様方にお話しするのは今後の事で、皆様方の中には大江の国に戻りたいと考えておられるお方も居られると思います。

 私は何も其の方々を無理に引き留めは致しません、ですが我々は其の方々を大江の国まで送る事は出来ないので其れだけはご承知願いたいのです。」


 家臣の妻達は何も言わず、源三郎の話しを静かに聴いて要る。


「其れは何故だか分かって頂けますか、我々は連合国の領民を守ると言う大切な任務が有るのです。

 其れは元官軍兵にも同様の説明をさせて頂いております。」


「源三郎様、若しも私が残りたいと申しましたら、私は何を致せば宜しいので御座いますか。」


「小百合様、何れの国でも家臣の妻か娘さんならば読み書きは出来ると思うのです。

 私は連合国の領民には全員が読み書きが当たり前になって頂きたいのです。」


「読み書きならば私も教える事は出来ますが、其れは私達全員が行うのでしょうか。」


「いいえ、連合国ではどの様な仕事に就いて頂いても宜しいのです。

 其れは領民も同じでして、例えば今五千人の元官軍兵ですが、元が農民さんだから農作業に就いて下さいとは申しません。 何が出来るのでは無く、どの様な仕事に就けば皆の為に成るか、其れだけで何も制約は無いのです。」


「あの~源三郎様、私は針仕事が好きなのですが。」


「勿論ですよ、皆様方も私の着て要る物が不思議だと思われるでしょうが、これが私の仕事着で殆どの者は日常作業着で過ごされておられますので直ぐ手直しが必要でしてねぇ~、連合国の女性達には何時も無理をお願いしており、私としましては心苦しいのです。

 連合国では多くの女性には手直しの仕事に就いて頂いて要るのですが、其れでも人手不足と言うのが現状で御座います。」


「源三郎様、誠に申し訳御座いませんが。」


「皆様方のお住まいですね、大工さん達にも無理をお願いし、今五千人分の家と皆様方のお住まいも建てなければならないのですが、大工さんだけではとても無理でして、元官軍兵の人達にもお手伝いをお願いしておりますので皆様方は家が出来るまでこの城でお仕事をして頂きたいのです。」


「では私達はどのお国に参れば宜しいので御座いますか。」


「これは私の考えなのですが、皆様方が出来る事ならば菊池から山賀まで別れて頂ければ幸いなのですが、其れは皆様方で相談して決めて頂きたいのです。」


「皆様方、源三郎様は後の事は私達にお任せ頂けると思います。

 私は出来る事ならば野洲のお城を起点にして私達の知らない菊池や上田、松川もお訪ねし、其れから決めては如何ででしょうか。」


 綾乃は家臣の妻達を纏め、仕事も住む所も決めたいと考えて要る。


「綾乃様、私も大賛成ですよ、後は皆様方で話し合いをされ、其れから決めて頂ければ、私はこれ程嬉しい事は御座いません。」


 源三郎と家臣の妻達の話し合いを若殿や若様と吉永達は何も言わず聴いており、その後、若殿達は無理を言わず、挨拶と自国の紹介をするだけで終わるが、その頃になると妻達から若殿達に色々と質問が出され、若殿達もたじたじだが時々笑い声も出、妻達もやっと連合国に残りたいと言う様な話も出、源三郎は何故かほっとしたので有る。


 源三郎は部屋を出、大広間に入ると、先程まで大騒ぎをしていた農民達も静かになり、話す内容も現実に戻ったのか顔付きが先程とは違い皆が真剣な顔付きで話し合って要る。


「皆さん、大変お待たせ致しましたねぇ~、其れよりも皆さん如何されたのですか。」


「あの~源三郎様、オラ達はこれから一体どうなるんですか。」


「えっ、どうなるとは、何故ですか、皆さんは何処かに、いや大江の国に戻られるのですか。」


「源三郎様、オラはもう戦は嫌なんで、だから大江には戻りたくはないんです。」


「オラは此処に残ってもいいんですか。」


「勿論ですよ、其れに連合国ではねぇ~、皆さんが一番必要でしてね。」


「オレは町民ですが、此処で仕事は出来るんですか。」


「はい、勿論ですよ、我々の連合国ではね、仕事は自分で決めるんですよ、農作業でも漁師さんでも大工さんでもまだ他に色々な仕事が有りますのでね。」


「じゃ~左官の仕事も有るんですか。」


「ほ~左官の仕事ですか、其れならば人手不足でしね、大歓迎させて頂きますよ。」


 彼らは今菊池から山賀まで続く山の麓に狼の侵入防止の為の柵や池作りに入っており、その柵や池が完成すれば仕事も無くなると思って要る。


「皆さんは今柵や池作りをされておられますが、これだけの物を作り完成すれば仕事は終わりだと思われて要るでしょうが、でも柵や池は絶えず何処かで壊れていないか見回りが必要でして、その見回りされる人達も必要でしてね、柵や池の補修も必要なんですよ、其れにも大勢の人達にお願いしなければならないのです。」


「オラは農民ですが、連合国では年貢はどうして納めるんですか、オラは未だ作物も作ってませんので年貢を納める事が出来ないんです。」


「皆さん、我々の連合国では年貢は必要有りませんよ、ただ連合国ではお米や麦など収穫すればお城や城下の米問屋に有ります倉庫に集め、必要な穀物類は其処から届ける事になっておりますのでね何も心配される事は有りませんよ。」


「でも毎年豊作とはならないんですよ、不作の年も有るんですが、不作の年にはオラ達は食べる事が。」


 やはり農民だ豊作になれば大量の年貢を納め、だが不作ともなれば年貢どころか自分達の食べる穀物さえも無く、では一体どうするとのだと思うのも当然な事だ。


「皆さん、連合国では仕事に就いて頂ければ食べる事は出来るのです。

 ですが仕事にも就かずに居られると食べる事は出来ないのです。

 でも我々が仕事を決める事は有りませんから、其れと特に農民さんは不作でも食べ物は届きますのでね心配は有りませんよ。」


「だったら元は農民だから農民に戻る事も無いんですか。」


「そうですよ、先程も言った様に柵の補修や池の補修もしなければなりませんので、でも皆さんは連発銃を持つ兵隊に戻る必要は有りません。

 其の任務は各国の侍が、まぁ~今は侍では無く兵士として各国で警戒の任務に就いておりますのでね、其れよりも今は皆さんが住まれる家を建てねばならず、先にそのお手伝いをお願いしたいのです。」


「じゃ~オレ達の家も出来るんですか。」


「でもねぇ~皆さん全員が住む為に必要な家を建てるのは未だ数年は掛かると思いますよ。」


「オレはやりますよ、少しは大工の仕事も出来ますので。」


「ほ~大工さんですか、其れは有り難いですねぇ~、まぁ~其の様な事は皆さんが自分で決めて欲しいんです。

 でも当分の間は柵と大小の池、そして、家を建てる事が一番大事でしてね、ですが今夜は皆さんはゆっくりとして下さいね、そろそろ陽も暮れてきますのでね。」


 元官軍の兵士も妻や娘達と再会し安心したので有ろう、其れに武家の妻達もやっと安心出来る。

 だが山では危険が迫っていた、山に入った猟師が向こう側から登って来る幕府の残党、いや残党では無く、今は野盗の集団で菊池の隧道にも数百人が、更に別の野盗が、野洲、上田、松川の山を登って来る。


 更に山賀では幕府の残党数百人が登り始めた。


「キャ、キャ、キャ。」


「あれは若しや、分隊で確認を他の者は迎え撃つ準備に入って下さい。」


 山賀では小川が早くも迎え撃つ準備に入った。


「隊長、幕府の残党で数百人規模です。」


「では他の小隊にも伝えて下さい。」


 数人の兵士が別の小隊へと連絡に向かった。


「総司令は。」


「今大広間で。」


 工藤はこの数日、自ら菊池から山賀までの猟師達と連絡を取り合っており、その工藤が大広間に入って来た。


「総司令。」


「やはりですか。」


「今回は官軍では無く、幕府軍崩れが野盗になり、菊池から松川に至る山を登って来ており、今は人数も分かりませんが、特撰隊が迎え撃つ準備も整っております。」


「今申されましたが特撰隊とは一体どの様な部隊なのですか。」


「申し訳御座いません、私が勝手に名前を付けまして、各藩から特別に選ばれた部隊でして、これを名付けて特撰隊と。」


「ほ~其れは何とも素晴らしい名ですねぇ~、其れで今の状況ですが。」


「今は何処からも登っては来ておりません。

 ですが、今回は今までに無い状況になると思われます。」


「そうですか、今丁度各国より来られておりますので、執務室に参りましょうか。」


 源三郎と工藤が部屋を出ようとした時。


「源三郎様、オラも行きます。」


「えっ、何故ですか、貴方が行かれる戦では有りませんよ。」


「源三郎様、オラはオラ達の為に行くんです。

 オラは源三郎様のお陰で母ちゃんと会えたんですけど、今度は母ちゃんを守る為に行くんです。

 其れにオラは連発銃も使えるんで、源三郎様が駄目だって言っても絶対に行きますからね。」


「源三郎様、オラも行きますよ、源三郎様は連合国の領民の為にって言ってられるんです。

 オラは源三郎様が駄目だって言われても、絶対に行きますからね、母ちゃん、オラは行くよ。」


「あんた、其れでこそ大江の、いや連合国の男だ、若しもあんたが戦死したってオラは泣かないよ、オラはみんなに自慢してやるんだ、オラの父ちゃんは連合国で一番の男だって。」


 其れからは大江の農民や町民達全員が行くと大騒ぎになった。


「そうだ、オレは今からみんなに言ってくるよ。」


「よ~し、オラも行くよ。」


「オレ達も行くぜ。」


 あれよあれよと言う前に大広間の男達は城を飛び出して行く、外はそろそろ陽も暮れると言うのに。


「源三郎様、オラの父ちゃんは今まであんな事するとは思って無かったんです。

 でも今日は父ちゃんに惚れ直しましたよ。」


「うん、オラもだ、父ちゃんがあんな男気の有るとは思わなかったんだから。」


「私もよ、あれが本当の男だよ、だって今までは何をするにしてもびくびくしてたんだもの、其れがあんな顔で、あ~私も惚れ直したよ。」


「皆さん、本当に宜しいんですか、今回は大変危険ですよ。」


「源三郎様、オラはあの人を誇りに思いますよ、若しもこれで戦死したって私は悲しい事なんか、そうだ、みんなでおむすびを作ろうよ。」


「私もやるよ、だってあの人が頑張ってるんだよ、私にも出来る事が有るんだからってね。」


 話しを聞き付けた若殿達が大広間に飛び込んで来た。


「義兄上、今聞きましたが、野党が来ると。」


「鈴木様、上田様、今米蔵に。」


 だが其の前に鈴木も上田も大広間から飛び出して要る。


「源三郎様、お二人と数人の若いご家中が数俵を賄い処に運ばれ、賄い処でも動き始めております。」


 雪乃は工藤の話しの途中で手配したので有る。


「総司令、私は直ぐ戻り手配に入ります。」


「私もで御座います。」


 と、高野と阿波野も動き。


「どなたか居られませんか。」


 だが執務室には誰もおらず、其れもそのはず、彼らが城下に向かった事を源三郎は知らなかった。


「義兄上、明日夜明け前に私も戻ります。」


「若、私にお任せを。」


 吉永が山賀に戻ると。


「総司令、我々にお任せ下さい。」


「工藤さん、何としても、其れよりも元官軍の。」


「承知致しております、今の特撰隊は総司令がご存知の方々では御座いませぬ。

 各駐屯地で元の歩兵から色々な話しを聞き、特撰隊は元のご家中では無く、我が連合軍でも選ばれし者達でして、連合軍の中でも最強の精鋭部隊ですから大丈夫で御座います。」


「ですが、私は心配であの人達はやっと奥さんと再会したのですよ、其れが何故に。」


 其の頃。


「お~いみんな聞いて欲しいんだ。」


 彼らが向かったのは吉田の部隊で。


「何だ、えっ、あんた達は。」


「オレ達は菊池の外で、まぁ~其れよりも大変なんだ、今聞いたんだけど菊池から山賀の山の向こう側に数千人の野盗が集まり連合国を攻撃するって。」


「えっ、其れは本当なのか、我々は何も聞いていないぞ。」


「其れが、今お城に工藤さんってお方が来られ源三郎様に話されてたんだ。」


 農民達は源三郎と工藤の会話を話すと。


「えっ、大佐殿だ、少佐殿は大佐殿から聞かれたんですか。」


「いいえ、私は何も聞いておりませんが、でも貴方方はもう歩兵では無いと聞いておりますよ。」


「少佐殿、オレは連合国の人達の為に行くんですよ、源三郎様も駄目だって言われるんですが、でもオレは行きたいんですよ。」


「そうだ、オラもだ、オラは今まで命令されてたけど、今度は違うんだ、これはオラ達の為なんだ。

 其れに敵の奴らは野盗だ、オラは野盗がどんなに恐ろしいか知ってるんだ、あいつらは人間じゃないんだ、其れに此処の子供達の為にも行くってオラが決めたんだ、だから誰が止めてもオラは行くぞ、絶対に行くんだから。」


 彼らはほんのさっき妻達と奇跡の再会を果たした元官軍兵で、だが今度は誰の為でも無いと、今度は自分達と連合国の人達の為だと、その為には命を捨てる覚悟は出来て要るんだと言う。


「みんな、オレは今まで官軍の命令で幕府の奴らと戦って来たんだ、だけど今度は違うんだ、オレは死んでもいいんだ、オレの母ちゃんも今度は許してくれると思うんだ。」


「オラもだ、オラは源三郎様が駄目だって、だけど数千人の野盗を五百人のお侍だけで守るなんて絶対に無理なんだ、オラが死んでもオラの母ちゃんはオラの事は自慢出来るんだ、みんなの為の戦死だって。」


「分かったよ、今度ばかりは少佐殿の命令は受けませんよ、オレもやるから、みんなはどうだ。」


「よ~し、オレも行くぜ。」


「わしもだ。」


「私も参加したいのですがねぇ~。」


「えっ、少佐殿がですか、でも何でですか。」


「私も仲間に入れて下さいよ、ね、この通りお願いしますよ。」


「お~い、みんな少佐殿も行きたいって。」


「まぁ~仕方ないか、だけどオレは軍隊の兵隊として行くんじゃないんだ、オレはみんなの為にだ、奴らを血祭りに上げてやるんだから。」


「吉田。」


「大佐殿。」


「今度ばかりは少佐も負けですねぇ~、其れで作戦ですが。」


「大佐殿、オレ達に任せて下さい。」


「みんな、有難う、其れであんた達には悪いんだが、山賀に行って欲しいんだ。」


「山賀ですか、じゃ~今から直ぐ準備だ、荷車に弾薬を積んでくれ、其れと連発銃もだ、え~っと弾倉は一人三本でいいぞ、じゃ~準備が終わり次第、あっ提灯が。」


「オレが手配するから、何人かで城下に行くぞ。」


 数人の兵士が城下へ向かったが一体何処に行くと言うのだろうか。


「皆さん、何も有りませんが、おむすびです。」


「わぁ~嬉しいなぁ~。」


「何でお前が喜ぶんだ。」


「お前は今のお方が一体誰だと思ってるんだ、雪乃様だぞ、雪乃様がオレの為にって。」


「お前は本当にバカだなぁ~、雪乃様はなぁ~オレ達におむすびを、わぁ~雪乃様が握ったおむすびだ、うん、これは本当に旨いぞ。」


「まぁ~お前も一緒だ、雪乃様はなぁ~オレ達の為に作って下さったんだぞ。」


「あの~雪乃様って。」


「そうか、あんた達は知らなかったのか雪乃様は源三郎様の奥方様で、松川藩のお姫様なんだ。」


「オラ、こんなに綺麗な人って初めてだ。」


「そんなの当たり前だ、雪乃様は連合国一の美人なんだ、だけど其れだけじゃないんだ雪乃様は本当にお優しいお方で、オレ達の。」


 雪乃はニコニコとしながら話しを聞いて要る。


「皆様、其れよりもお身体は大切にして下さいね、皆様に若しもの事が私は本当に悲しいですから。」


「わぁ~なんてお優しいお方なんだ、あっ、其れよりもオラ達は。」


「そうだ、みんな行くぞ。」


「お~。」


 と、男達は雄叫びを上げ走って行く。


「少佐、オレは此処の人達の為に行きますよ。」


「皆さん、今度は大変厳しいですよ、私も覚悟して行きますのでね。」


「少佐、オレは奴らは絶対に入れませんからね、オレが死んでも絶対に入れないで下さいよ。」


「勿論、私もですよ、例え私が死んでも一人も入れては駄目ですからね。」


「お~い提灯だ。」


「よ~し、みんな行こうぜ。」


 吉田も今度は戦死を覚悟し山賀へと向かった。


「お~い大変だ、みんな集まってくれ。」


「な~んだお前達か、其れで一体何が有ったんだ、オレ達はこれから晩ご飯なんだぜ。」


「其れも分かってるよ、まぁ~其れよりも話しを聞いて欲しいんだ。」


 元官軍兵は暮れ六つも過ぎ、今から夕食だと言うので食事の準備に入っており、だが話しを聞くと。


「だけどなぁ~オレ達はもう兵隊じゃないんだぜ、連合国には警備隊が見回りしてるって聴いてるぜ。」


「其の話しは聞いてるよ、だけどオラ達は連合国に残るって決めたと思うんだ。」


 彼は必死で説明するが。


「其れはあんた達の母ちゃんが見付かったからでオレには何も関係無い話だよ。」


「オラはなぁ~、オラの母ちゃんだけの為に戦うんじゃないんだ、あんたは独り身だから分からないけど、あの小さな子供が奴らに殺されてもいいのか、オラは野盗がどんなに恐ろしいか知ってるんだ、あいつらはなぁ~小さな子供でも平気な顔して殺すんだ、其れに女の人は何人もの奴らに犯されてか殺されるんだぞ、其れでもいいのか。」


「だけど野盗って言うけど、元々幕府のお侍だと思うんだけど。」


「あいつらはなぁ~、幕府の侍でも何でもないんだ、元が幕府の侍でも奴らは平気な顔で村を焼き払い、其れにだ焼き払われた農民や町民達、其れに渡世人までもが仲間に入ってるんだ、だから余計に恐ろしいんだ。」


「じゃ~オレは連合国の外に出るよ。」


「其れがもう遅いんだ、猟師さんの話しで数千人の野盗が攻めて来るんだ、あんたは隧道から外に出るって言うけど、奴らに捕まったら殺されるか、其れともあいつらの様に野盗の仲間に入るかなんだ。」


「みんな分かって欲しいんだ、オラは確かに母ちゃんは助けたい、だけど其の前に連合国の人達は全部殺されるんだ、其れにオラ達もだけど、オラは死んだって此処の人達、いやあの小さな女の子の為に死ぬよ、だけど其の前に奴らを一人でも二人でも殺してから死ぬよ。」


 そんなやり取りが続くが。


「もうオレはこんな奴とは話しはしないよ、オレ達は源三郎様に助けて頂いたんだ、オレは命の恩人にそんな卑怯者にはなりたくないんだ、其れよりもオレは戦死して天国で言うんだ、オレはなぁ~小さな女の子を助ける為に戦死したんだってな。」


「オラもだ、オラは卑怯者で死にたくは無いんだ。」


「よ~し、オレはやるぞ、オレは子供が大好きなんだ、あの笑顔は最高だからなぁ~。」


「よ~し、オラもやるよ、オラは卑怯者で死にたくないんだ、なぁ~其れよりも連発銃は菊池に置いて来たんだけど。」


「だったら今から取りに行こうや。」


「でもオレ達の大隊だけなのか。」


「いいや、吉田少佐が大隊を連れ山賀に向かったんだ。」


「だけど作戦はどうするんだ。」


「大隊だけど、二個中隊が松川に二個中隊は上田に。」


「じゃ~オレは松川に行くよ。」


「オレは上田にだ。」


「だったらオレ達は松川に行くから、お前の中隊は上田に行ってくれよ。」


「じゃ~野洲は。」


「オラ達が入るよ。」


「だけどなぁ~一個中隊じゃ無理だぜ。」


「だったら菊池に行って第二大隊と話しをするか。」


「だったらついでだ連発銃と弾薬も取りに行こうや。」


「よ~し、今から菊池に行こうぜ。」


 大隊の全員が菊池に向け出発したが暮れ六つともなれば辺りは暗く菊池まで松明の灯りだけで行く。


「先程のお話しですが、一体何人、いや何組と言えば良いのか分かりませんが、野盗ですが何処まで来ているのですか。」


「菊池には一千だと猟師さんから聞いております。」


「一千の野盗ですか。」


「私はどうやら旧幕府軍の連中が何処で知ったのか分かりませんが、連合国の存在を聞き付け、其の者達が野盗に成り下がり、連合国を乗っ取れば食料も豊富で一度中に這い込めば、外部からは簡単には攻め込まれないと、その様な情報を得たと思われるのです。」


「では野盗になった旧幕府軍が各地で人を集めたのでしょうか。」


「其れで無ければ今回の攻撃は無理だと私は思います。」


 旧幕府ならば連合国の存在は知って要るだろう、だが食料が豊富だと一体何処からの情報なのか。


「菊池側で一千だと、ですが野洲から松川までの山は簡単には登っては来れないと思いますがねぇ~。」


「私も其れは承知しておりますが、山賀は女性達が登って来ましたので、山賀は特別警戒が必要で先程吉田が大隊と出立しました。」


「山賀に大隊ですか、では菊池が危険ですねぇ~。」


「私も聞きましたが、中隊長は特撰隊と共に向こう側の入り口に向かうのだと。」


「向こう側に特撰隊を配置されると、ですが。」


「中隊長も覚悟は出来ております。

 若しもの時には隧道内を爆破し通行を遮断すると言っておりました。」


「ですが其の様になれば中隊長も特撰隊も全滅は覚悟しなければなりませんが。」


「勿論で、ですが其れだけの覚悟で望まなければ一千の野盗の進撃を止める事は不可能で御座います。」


 中隊長も覚悟して要ると、やはり特撰隊の全滅は覚悟しなければならないのだろうか。


「ですが何としても野盗の侵入だけは阻止しなければなりませんので。」


「奴らは何をしでかすかも分からないのです。

 中隊長もですが、我々も今回は覚悟を決めております。」


「私は理解出来ますが、菊池に迫って要る野盗ですが、野洲や上田、松川、山賀に集結して要る野盗とも共闘して要るのでしょうか。」


「私も其の様に思っておりますので作戦を考えたのですが、其れよりも正かあの人達が先陣を切るとは考えもしておりませんでして作戦を変えなければならないと思っております。」


 工藤は軍人としての作戦を考えて要る。

 だが其の前に野洲に着た元官軍兵が動き出し、工藤は作戦の変更を余儀なくされ、だが余りにも急な話しでさすがの源三郎でも直ぐには思い付かない。


 その後、源三郎も工藤も必死で考えるが時だけが過ぎて行く。


 其の頃大隊の兵士達は松明の灯りを頼りに菊池へと急ぎ、夜の五つ半には部隊の野営する地に着いた。


 だが夜の五つともなれば野営地は静まり返って要る。


「お~い、誰か起きて要るのか。」


「誰だこんな刻限に、えっ。」


 数人が外を見ると其処には大勢の歩兵がおり。


「一体どうしたと言うんだ、あんた達は野洲に行ったはずだが。」


「皆さん、何が有ったんですか。」


 後藤が起きて来た。


「後藤さん、大変なんだ。」


 彼が後藤に話をした。


「えっ、では今頃野盗は。」


「山の向こう側だと思うんですが、でも何時此処に攻めて来るかも分からないんです。」


「皆さん、一体どうされたんですか、こんな刻限に。」


 中隊長は大勢の声と松明の灯りで異変を感じたのだろうか。


「中隊長は知っておられたのでしょうか、野盗が攻めて来るって。」


「皆さん申し訳無い、実は私も大佐殿から伺いましたので、今から私と特撰隊とで向こう側に向かう事に。」


「ですが特撰隊だけど防ぐ事は出来るのでしょうか。」


「其れは私も分かりませんが、若しもの時には隧道内を爆破し遮断すれば野盗の侵入は防ぐ事が出来ます。」


「其れでは中隊長と特撰隊は。」


「私ならば覚悟しておりますので。」


「じゃ~中隊長は戦死されるつもりなんですか。」


「例え我々が戦死しても隧道を爆破すれば誰も連合国に入る事は出来ず、連合国の領民は助かりますよ。」


「中隊長、そんなって絶対に駄目ですよ、絶対に駄目ですからね。」


「中隊長が戦死したら一体誰が菊池を守るんですか、そんなのオラは出来ないですよ。」


「そうですよ、中隊長はこれからもオラ達を守って欲しいんです、で無かったら安心して農作業が出来ないんですからね。」


 中隊長は嬉しかった、これ程までに彼らは自分を必要として要るんだと。


「皆さん、有難う、私は嬉しいですよ。」


「なぁ~後藤さん、野盗って菊池から山賀の山を登って来るんだ、でも山賀には吉田少佐が夕刻大隊が向かったんで、何かオレ達に出来る事を考えて欲しんですよ。」


 後藤も必死で考えるが、余りにも突然の事で直ぐには思い付かない。


「だけど一体どうすればいいんだ。」


 その後も後藤は腕組みし考えるが。


「う~ん、何か方法が有るはずだ。」


 其れでも暫くして。


「あっ、若しかして有れが。」


「なぁ~後藤さん、オラも考えたんだ、オラ達は農地を拡げるんだったと思うんだけど。」


「吉三さん、其れですよ、その方法が有りますよ。」


「オラ達の仕事が役に立つんですね。」


「少しお聞きしたいのですが、半町、若しくは一町先の的に連発銃の弾は当たりますか。」


「まぁ~普通ならば一町でも無理は有りませんが、半町ならば確実に、えっ、正か。」


「その正かでしてね、私は源三郎様が農地を拡張し食料を増産したいと申され、今菊池から山賀までの測量を開始したところでして、農地を拡張する為には山の麓まで大木を切り倒す必要が有るのです。

 其れで切り倒した大木ですが兵士の盾になると思うんですが。」


「でも一町の広さを切り倒すには。」


「私は何も一町も必要無いと思うんです。

 大木は兵士の盾にするんですから半町も大木を倒せば野盗は身を隠す所も有りませんので我が軍の兵士は大木を盾にして敵の野盗を狙い撃ちに出来ると思うんですが。」


「ですが今からでは間に合いますかねぇ~。」


「そんなの我々全員が掛かればきっと出来ますよ。」


「なぁ~後藤さん、だけど木こりさんは。」


「何も木こりさんだけで無くても我々が斧や鉈でも木は切り倒す事は出来ますよ。」


「じゃ~斧と鉈で半町の広さで木を倒して行くんですか。」


「其れでね、第一大隊は連発銃と弾薬を取りに来られたと思います。

 連発銃と弾薬を持ち帰り次は城下に行き城下から斧と鉈を集め木を切り倒し、今の畑と麓近くに並べるんです。」


「そうか、分かりましたよ、では今から取りに行きましょう。」


「お~い、第一大隊は連発銃と弾薬を受け取り次第戻るぞ。」


「よ~し、みんなで行くぞ。」


 と、第一大隊は中隊長と一緒に菊池のお城に向かい、後藤は第二大隊と菊池の城下に向かった。


「なぁ~後藤さん、第一大隊だけど人数が少ないと思うんだ。」


「第二大隊は隧道も有りますので、其れよりも皆さん夜も遅いので城下の人達には丁寧に説明して下さいね、夜が明ける前に山に入り一斉に切り倒し並べて行きますので。」


「でも其れで本当に間に合うんですか。」


「私は大丈夫だと思いますよ、野盗は重装備で、其れに奴らは狼を警戒しながら登るんですから、まぁ~頂きに着くのは早くてもお昼の九つでしょうから、其れから直ぐに下ったとしても奴らは下りでも狼が何時襲って来るかも知れないと警戒するのですから、予定でも一時か、いや一時半は遅れますので我々が心配する事も無いと思いますよ。」


 城下に入ると大隊の兵士達は民家の人を起こし半時程で斧や鉈を集め部隊に戻って来た。


「皆さん、明日は七つ半には出立し山に入りますので、今は少しでも休んで下さい。」


 一方、第一大隊はお城の倉庫から全員の連発銃と弾薬を受け取り、野洲、上田、松川へと向かった。


 菊池の城下でも動き始めた。


「ねぇ~あんた、さっきの兵隊さんの話しじゃ山の向こう側に野盗が大勢集まり、私達を襲うって。」


「でもオレ達には何も出来ないけど、兵隊さんは山の木を切り倒すって。」


「でも大木なんでしょ、兵隊さんだけで大丈夫なのかねぇ~。」


「オレが明日の朝早くお城に行ってくるよ。」


「そうだねぇ~、私も何も出来ないけど、みんなと話しして見るわよ。」


 この様な会話は城下の領民達でされて要る。


「中隊長。」


「高野司令。」


「先程、大隊の兵士達とすれ違いましたが。」


「司令、あの人達はどんな事をしても野盗は入れないと戦死を覚悟され、私はどうにも出来無いのです。」


「其れは仕方有りませんねぇ~、其れよりも隧道の爆破は駄目ですよ、総司令が申されておられます、特撰隊の全滅だけは避けて下さいと。」


「先程もあの人達からも同じ事を言われました。」


「では、私は殿に報告しますので。」


 高野は城内に消えた。


「なぁ~オラ達は斧や鉈は持ってないよ。」


「じゃ~今からみんなで城下に行って斧や鉈を借りに行くしかないよ。」


「だけど今からじゃ夜中だよ。」


「今更そんな事を言ってる場合じゃないんだ、みんなで行って頼むんだ。」


「よ~し、決まった、行くぞ。」


 野洲に戻って来たのは夜中で、其れでも上田と松川へも向かって行く。


 野洲に戻った兵士達は夜中の城下に入り領民には丁寧に説明し斧や鉈を借り受け、駐屯地に戻って来た。


「みんな雑炊だよ、食べてね。」


 男達は静かに戻って来たつもりだが駐屯地には妻達が雑炊を作ってくれていた。


「有り難いよ。」


「ねぇ~、本当に大丈夫なの。」


「うん、菊池に残った大隊の兵士達もやるって言ってくれたんだ。」


「そうなの、でも良かったわ、其れで明日は早いの。」


「そうなんだ、全員が夜の明ける前に山に入って木を切り倒す事になったんだ。」


「じゃ~やっつけられんるんだね。」


「そんなの当たり前だ、オレ達は絶対に奴らを入れないって決めたんだから。」


 同じ様な会話がされて要るが、もう直ぐ夜も明けるだろう。


「じゃ~私達は今からお城でおむすびを作るからね。」


 妻達はお城へと向かった。


 そして、数時後東の空が少し明るくなる頃兵士達が連発銃と弾薬を、其れに斧や鉈を乗せた荷車と共に山へと向かい、野洲の中隊とは別の中隊は上田と松川へ向かった。


「では皆さ~ん、切り倒しを始めて下さい。

 大木を並べる人は大木が倒れる時が一番危険ですから離れて下さいね。」


 各中隊の兵士達は斧や鉈で大木の切り倒しに入った。


 其の頃には木こり達も参加し作業は急いで行く。


 一方で、各城下の領民達も動き始めた。


「お~い、みんな聞いて欲しいんだ、山の向こう側から野盗がオレ達の連合国を攻撃するんだ、兵隊さん達は山に入り大木を切り倒して野盗の侵入を防ぐ作業の入ったんだ、其れでオレは切り倒された大木を運びたいんだけどみんなも行って欲しいんだ。」


「オレは行くぜ。」


「オレも行くよ、なぁ~みんなで行こうよ、オレ達の為に兵隊さんだけが命懸けで行かれてるんだ。」


「よ~し、みんなで行こうぜ、そうだ、城下の荷車も持って行こうか、何かの役に立つと思うんだ。」


 其れは菊池だけで無く、野洲でも上田でも松川でも同様で連合国の領民が力を合わせ野盗から守るんだと朝早くから動き出した。


 一方、山賀では猿軍団が野盗の動きを監視して要る。


「隊長さん、大勢の野盗が集結してますよ。」


「今分かるだけで何人くらいでしょうか。」


「ざっとですが千人はおりますねぇ~。」


「千人の野盗ですか、其れで動きは。」


「其れよりもオレ達が不思議に思ってるんですが、狼の動きが読めないと言うよりも、さっきからも見てるんですが、数頭は見付けたんですが一体何処に隠れてるのかも分からないんです。」


「そうですか、狼の動きがねぇ~。」


 小川に狼の動きが読めないと猿軍団は言うが、今は狼の助けが無くては、とてもでは無いが野盗の攻撃を防ぐ事は出来ない。


「う~ん、何か方策は無いのか、今の人数では千人の野盗を防ぐ事はとても無理だ。


 その数日前、山賀の鍛冶屋が新たな武器を作った。


「正太さん、少し話しが有るんだけど。」


「いいよ、其れで話しは。」


「これなんだけど、見てくれるか。」


「何だよこれは、良かったら話しを聞かせてくれよ。」


「以前だけど技師長が官軍の軍艦に五合弾を付けて爆発させるって話しを覚えてると思うんだけど。」


「あれはオレもはっきりと覚えてるよ、オレも正か徳利を鉄で作る事なんか想像もしてなかったんだ、其れよりも鉄の徳利に火薬を入れる事も。」


「正太さん、オレは戦の事は分からないけど、大砲って重いって聞いたんだ。」


「オレもだ、でも大砲を運ぶのが大変で山賀には大砲は無いって、若様から聞いたんだ。」


「オレは大砲の威力は知らないけど、でも運ぶのが大変だったら、オレは持ち運びが簡単な物が出来ないかって考えてたんだ。」


「だけど、山賀に必要なのか。」


「山賀の山を女の人だけで登って来たんだよ、其れだったら官軍や幕府軍も来ると思うんだ、事実、あの後から官軍兵が登って来たけど、あの時は連合軍の兵隊さんが見事に撃退したんだ、だけどオレはこれからも来ると思うんだ。」


「そうだなぁ~、大砲って威力は物凄いと思うけど、でもこんなに高い山じゃ全然使い物にはならないと思うんだ、其れにあの時は兵隊さんも必死だったからなぁ~。」


「其れでオレはまぁ~大砲の威力には無理だけど、この手投げ弾だったら投げるのも簡単だと思うんだ、其れに連発銃とは違う使い方が有ると思って作って見たんだけど。」


「これって一号手投げ弾って言うのか。」


「そうなんだ、一合徳利だったら、まぁ~普通の大人だったら持つのも簡単だし、投げるのも簡単で。」


「そうか分かった、其れで試しはやったのか。」


「いや其れがまだんだ、其れで正太さんに聴いてからと思ったんだ。」


「じゃ~今から断崖に行って試そうや、オレは若様にも見て貰おうと思うんだ。」


「じゃ~、今五個有るんだけど。」


「其れで十分だ、オレが若様と一緒に行くから先に行っててくれ。」


 山賀の鍛冶屋は飛んでも無い武器を考え作った。


 大砲と言う武器は大変な威力で、大砲の威力を発揮出来るのは平地で有り、だが連合国の山では全く使いものにはならず、其れこそ無用の長物で、其れよりも今の連合国には連発銃と数十万発の弾丸が有り、山を登って来る官軍や幕府の残党ならば連発銃が有れば十分に戦う事は出来る、だが其れでも何か新しい武器が有ればより有効な攻撃を加える事が可能だ。


「若様、少し相談が有るんですが。」


「何か問題でも起きたのですか。」


「問題じゃ無いんですが、鍛冶屋さんがね新しい武器を考えて作ったんですよ。」


「えっ、新しい武器をですか。」


「まぁ~オレが説明するよりも、断崖に行って欲しいんですよ、今からその武器を試しますんで。」


「分かりました、どの様な武器なのか分かりませんが、百聞は一見に如かず申しますから、吉永様も一緒に参りましょうか。」


「正太さん、新しい武器ですが、どの様な物なのですか。」


「ご家老様、オレも詳しい事は分からないんですが、鍛冶屋さんの話しでは一合手投げ弾って言ってましたけど、一合徳利を鉄で作り中に火薬を入れ爆発させるって。」


「ほ~一合手投げ弾ですか、若、若しかすれば恐ろしい武器になるやも知れませぬぞ。」


「じゃ~参りましょうか。」


 若様と吉永、其れに正太の三人は鍛冶屋の待つ断崖へと向かった。


 山賀には浜が無く、端から端までは海面から高さが一町以上も有る断崖絶壁が続き、以前にも此処で五合弾の爆破実験を試みた場所で有る。


 若様達は半時程で約束の場所に着くと鍛冶屋が待っていた。


「若様、ご家老様、お忙しいのに申し訳有りません。」


「いいえ、そんな事は有りませんよ、先程、正太さんから鍛冶屋さんが新しい武器を作られ、今から試すのだと聴きましてね、私も一体どの様な武器なのかも知りたくてなりましてね、其れでその武器ですが見せて頂けますか。」


「はい、これなんですが。」


 鍛冶屋は若様と吉永に一合手投げ弾を渡した。


「ほ~これが一合徳利のえ~っと、何でしたかねぇ~。」


「はい、一合手投げ弾と言います。」


「一合手投げ弾ですか、じゃ~始めて下さい。」


「じゃ~今から始めますが、若様、オレもこの手投げ弾の威力が分からないんですよ。」


「まぁ~宜しいですよ。」


「じゃ~始めますんで。」


 鍛冶屋は手投げ弾の導火線に火を点け断崖の下に向け投げた瞬間に。


「ドッカ~ン。」


 と物凄い爆発音がした、若様と吉永、正太が崖の下を覗き込むと白煙が立ち昇り断崖の一部から岩や土が海面へと落下して要る。


「物凄い音ですが、少しやり方を変えませんか。」


 若様はやり方を変えると言うが、一体どの様な方法なのか。


「若様、どんな方法ですか。」


「手投げ弾ですから此処で火を点け下に投げるのでは無く、まっすぐ向こう側に投げて欲しいんですよ。」


「えっ、まっすぐに投げるって、そんな恐ろしい事をやるんですか。」


「そうですよ、今のやり方では爆発音だけすから手投げ弾がどの様に爆発するのかを見たいのです。」


 若様は手投げ弾の威力を知りたいのだ。


「じゃ~遠くに投げますよ。」


「其れで投げたら直ぐ伏せて下さいよ。」


「じゃ~火を点けますからね。」


 正太は手投げ弾の導火線に火を点け海に向かい遠くに投げ直ぐ地面に伏せた。


「ドッカ~ン。」


 と、空中で爆発し正太の身体の上にも一合手投げ弾の、いや爆弾の破片が落ちて来た。


「あいたたた、何でこんなところまで破片が飛んで来るんだ。」


「吉永様、何と恐ろしい爆弾でしょうかねぇ~、正太さんは思い切り遠くへ投げたと思いますが、爆弾の破片がこんな所まで飛んで来るんですから。」


「若、これは大砲以上に恐ろしい武器ですなぁ~、持ち運びが出来るのですからね、う~ん、何と恐ろしい武器なんだ。」


「手投げ弾は大砲と違いますが、官軍や幕府軍から見れば山に大砲が置いて有ると思うでしょうかねぇ~。」


「ええ、私も同じですよ、其れに大砲と違い離れても使えるのですから敵からすれば一体何門の大砲が有るのかも分からないですからねぇ~。」


「この手投げ爆弾は直ぐに作れるのですか。」


「はい、三寸くらいの竹と砂が有れば溶かした鉄を流し込むだけですから。」


「ではこの手投げ弾を大量に作って欲しんですが、でも他に何か重要な物も作っておられるのでは。」


「いいえ、この爆弾はそんなに難しい作りとは違いますんで明日から作りに入ります。」


「そうですか、では宜しくお願い致します。

 其れと、宜しければ残りの手投げ弾を預かりたいのです、義兄上にもお見せしなければなりませんので。」


「じゃ~残りが三本ですが。」


 若様は一合手投げ弾を受け取り、数日後野洲に行く予定を考えていた、だが其の前に野洲より鈴木と上田が来てあの女性達を野洲に連れて行く様にと思わぬ事態が起きたので有る。


 野洲の城内では元官軍兵の妻達も必死で有る。


「義兄上、突然に申し訳御座いません。」


 山賀より若様が突然やって来た。


「若、何か有ったのでしょうか。」


「実は山賀の鍛冶屋さんがこの様な物を作ったんですが。」


 源三郎に一合手投げ弾を見せると。


「若様、これは一体何で御座いましょうか。」


 工藤も初めて見る物で、何に使うのかも分からない。


「一体何ですか。」


「これは山賀の鍛冶屋さんが作った一合手投げ弾と言いまして、先日、山賀の断崖で試したのですが、私も吉永様もこれは恐ろしい武器に間違いは無いと。」


「これが新しい武器なのですか。」


「導火線に火を点け敵に投げる武器で、正太さんに試して貰ったんですが、半町程先に投げたのですが、其れは物凄い爆発音と暫くして正太さんが伏せた身体の上に爆弾の破片が飛んで来ました。」


「えっ、半町先に投げ、破片が飛んで来たと、こんなにも小さな爆弾の破片が半町先まで飛んで来ると言う事は投げる方向によれば連発銃よりも恐ろしい武器となるのですねぇ~。」


「大砲は破壊力は物凄いとは思いますが、大砲と言うのは非常に重く移動には大変で、其れよりも連合国の山では使い物にならないと思います。」


「若様の申されます通りだと思います。

 官軍でも大量の大砲を持っておりますが、平地ならば恐ろしい程の威力を発揮しますが、連合国に入る為には菊池の隧道か若しくは山越えで、ですが連合国の山を登るには大砲は麓に放置するしか有りませんので。」


「若、手投げ弾と言うのは直ぐ作れるのですか。」


「はい、勿論で、私もこの武器で有れば、官軍や幕府軍が登って来た時に使用すれば、敵軍は山には数十、いや数百問の大砲が有ると思うのでは無いかと考えたんのです。」


「そうか、使い方に依っては連発銃と手投げ弾で侵入を防ぐ事も可能だと言う事になりますねぇ~、若、ではこの手投げ弾ですが今回の野盗の攻撃に使用して下さい。

 其れで後日でも威力の程を知らせて頂ければ宜しいかと。」


「作り方は簡単だと言っておりますので、十本、いや二十本も出来れば使って見ます。」


「私は持ち運びが出来る小型の大砲の様だと思います。

 人間が投げるのですから近くでも遠くでも投げる事で敵軍としては未知の武器で混乱すると思うのです。」


「ほ~未知の武器ですか、まぁ~確かにその様に思いますねぇ~、大砲は大きく重いので移動は簡単では有りませんが、人間が投げるのですから一体どの方向から飛んで来るのかも分からず、突然近くで爆発するので一ヶ所で少なくても数人が倒れ戦意も落ちると、う~ん、考えるだけでも恐ろしいですねぇ~。」


 未知の武器で有る一合手投げ弾を使用すれば、山賀に来る野盗の侵入を防ぐ事も出来る。


「一合手投げ弾ですが、技師長が考えた五合弾を小さくした物で今回は野盗に使用した結果で大量に作る事も考えて要るのです。」


「其れは若にお任せしますので、其れよりも私は今回野盗が連合国を攻めて来ると思いますが、特に山賀は要注意だと考えております。

 女性だけで登って来られてのですが、女性の中で不審な者は居られませんでしたか。」


「えっ、あの女性達の中に不審者が、う~ん、ですが。」


「何故其の様に思われるのですか、女性達は危険を承知で国を出られたと思いますが。」


「工藤さん、私は別に確信が有るのでは無いのですが、女性達が到着されてからですよ、官軍の大軍、其れに今回は野盗ですから、私は何も女性達を疑ってはおりませんが、ですがやはりねぇ~。」


「そう言えば、数人が狼の餌食になりましたが、誰も犠牲になった女性の事は話されてはおりませんでしたねぇ~。」


 やはり数人の女性は官軍の手の者か、だが官軍の者ならば何故今回野盗が来たのだ。 

 余りにも不自然ではないか、数人の女性の中に官軍方と幕府軍方の両方が居たのだろうか、両方が居たと成れば今後も官軍と幕府軍の残党が攻撃して来る可能性が有ると考えねばならない。


「まぁ~今となっては調べるよりも野盗を全滅させなければなりません。

 一人でも逃せばその者が何れの時に官軍か野盗に知らせ、攻めて来る者達に我々の勢力を知られると、其の様な事も考えればどの様な方法を使ってよいので全滅させるのです。」


 やはり源三郎は今後も官軍か野盗となった幕府の残党が襲って来るに間違いは無いと。


「私も明日の朝山賀に戻ります。」


「私も戻ります。」


 若殿と若様も今回の野盗を全滅させなければならないと改めて思うので有る。


 其の頃吉田は大隊の兵士達と山賀に着き。


「小川大尉は。」


「はい、隊長は上に居られます。」


「そうですか、では皆さんは今から城下に向かい斧や鉈を借り受けて下さい。」


「少佐殿、一体何に使われるのですか。」


「これで野盗とやっつけるんですよ、野盗をね。」


「少佐殿、勿論、私も同じ気持ちですが。」


「中隊長、大尉を呼びに行かせて下さい。」


 中隊長の指示を受けた兵士が山へと向かった。


「少佐殿、隊長は野盗の侵入を防ぐ方法を探っておられるのですが、勿論、私も考えては要るのですが、今も分からずで何とかせねばと考えては要るのですが、焦りばかりでして。」


「やはりそうでしたか、では私が簡単に説明しますからね。」


 吉田は中隊長に説明すると。


「其れで斧や鉈が必要なのですね。」


「其れで木こりさんも呼んで下さい。」


「では正太さんも呼びます。」

 

 正太ならば木こりの経験者も知っており、この様な時には正太を一番に呼べば問題も早く解決出来るのだと。


 その後暫くして正太が飛んで来た。


「正太さん、木こりの経験者を知っておられますか。」


「其れだったらオレの仲間には百人以上の経験者がおりますが、でも何をするんですか。」


 吉田は正太に詳しく説明すると。


「オレが猿軍団と仲間に話して少しでも早く出来る様に考えますので。」


「何とか間に合わせて頂けると、我々も助かりますので。」


「勿論ですよ、だって出来なかったら、オレ達は城下の人達に笑われますし、其れよりも兵隊さんも城下の人達も危ないんですから、じゃ~直ぐに行きます。」


 正太に自信はない、「今から本当に出来るのだろうか、だが何としてもしなければ。」


 と、気持ちだけは焦る。


 吉田も今からでは間に合わないと分かって要る。


 今度の戦の敵は官軍でも幕府の残党でも無く野盗が相手だ、野盗には何の結束力もなく、我一番と突撃して来る。


 一人でも突破されると其処からは怒涛の様に雪崩れ込み一気に形勢は逆転し、山賀は野盗に奪われ連合国は大変な事態に落ちる。


「大隊に告げます、間も無く山の大木の切り出しが始まりますので、皆さんは協力し侵入防止の為に並べて下さい。」


「少佐、オレ達も切り倒しが出来ますのから。」


「分かりました、では今から開始して下さい。」


 大隊の兵士達は動きも早く城下から斧や鉈を借り受け山に乗り込んで行く。


 さぁ~連合国の全てで大木の切り倒しが開始され夜明け前の山の向こう側でも野盗が動き出した。


「お~い、今から登るぞ。」


「よ~し、行くぞ。」


 菊池から山賀の山の麓から一体何人の野盗が登って行くのだろうか、野盗の武器は刀と弓、其れよりも何処で手に入れたのか連発銃も持って要る。


 やはり野盗だ鉈で熊笹を切り開いて登って行くが其れでも簡単に登る事は出来ず、其れが功を奏する事に成るとは連合国の一体誰が予想したで有ろうか。


そして、運命の決戦が刻一刻と迫って来る。


 果たして連合国の運命は。


         


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