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闇の帝国    作者: 大和 武
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第 15 話。新型爆弾の威力。

 山賀の断崖絶壁で五合と一升の徳利に火薬を詰め、最初の爆薬の実験が行われる当日の早朝、野洲の大手門からげんたと銀次の二人は馬に乗り山賀へと向かった。


「なぁ~銀次さん、あんちゃんは何か特別な用事が出来たのかなぁ~。」


「オレも同じ事を考えてたんだ、だってお殿様もご一緒だと言う事は用事と言うよりも何か大変な事でも有ったのかなぁ~って思ってるんだ。」


「あっそうだ、山賀の若様は姉~ちゃんの弟だぜ、若しかすれば若様に何か有ったのかもなぁ~。」


「だけど奥方様はお城に居られるんだぜ。」


「あっ、そうか、じゃ~一体何が有ったんだ。」


 源三郎だけが山賀に向かうのは理解は出来る、だが殿様も一緒となれば話は違ってくる。

 げんたや銀次がどの様に考えても理解出来るはずが無い、正か自分が頼んだ五合と一升の徳利に火薬を詰め爆破実験が行われるとは夢にも思っていない。


「なぁ~げんた、山賀に着けば分かるんだから今は早く行く様になっ。」


「うん、分かったよ。」


 その後二人は上田を過ぎ松川に入り。


「なぁ~げんた、少し休みを取るか馬も水が欲しいだろうから。」


 二人は松川に入った小川の畔で少しの休みを、馬も十分に水を休みを取ったと見え元気を取り戻した。


「じゃ~行こうか。」


 今度は少し早く走り出し、松川から山賀のお城までは少し離れている。


 そして、山賀に入ったのが丁度昼過ぎで有る。


「ドッカ~ン。」


 其れは突然大きな爆発音で。


「銀次さん、今の音は。」


「オレも驚いてるんだ、だけど一体何処だろう。」


「もう松川から山賀に入ったはずだからなぁ~。」


「そうなんだ、其れにしても物凄い音だなぁ~、えっ、正か若しかそんな事が。」


 げんたは工藤から聴いたよりもまだ半年以上の日数が有ると思っており、そして、またも。


「ドッカ~ン。」


「わぁ~物凄い音だ、さっきの数倍は有るよ。」


「だけど、一体何処なんだ右も左も森だよ、音が聞こえた方には行けないしなぁ~。」


 銀次は爆発音が気になり何としても確かめたいと、だがまたも。


「ドッカ~ン。」


「今度の音は少し違うぞ、さっきの音はだけど正か官軍が山賀を攻撃してるんじゃないだろうなぁ~。」


「この道は一本道で両方は森なんだぜ、でもなぁ~。」


 森に入る事だけは避けて要る、高い山には狼の大群が住んでおり、連合国の人達ならば誰でも知って要る。


 高い山に狼の大群が住んで要ると言う事はこの森にも狼の大群が住んで要ると、その為連合国の人達は普段殆ど森の中には入ると事は無い、その様な時最後の爆発音が聞こえた。


「ドドドッカ~ン。」


 と。


「わぁ~まただよ、銀次さん。」


「この音もさっきとは違うなぁ~。」


「急いで行こうよ、これは大変な事に成ってるかも知れないから。」


「よしげんた飛ばすぞ。」


 げったと銀次は目の色を変え山賀のお城へと馬を飛ばすので有る。


 その少し前。


「ドッカ~ン。」


「何と恐ろしい音じゃ、余の身体が揺さぶられたぞ。」


 げんたが聴いた最初の爆発音で野洲の殿様も他の殿様方も凄まじいばかりの爆発音の衝撃に身体が揺れたと。


「お殿様方、今は五号徳利で御座います。

 此方に来て頂ければ今粉々になった岩石が海の方へ飛び散っております。」


 お殿様方が崖の前に来ると白い煙がもうもうとし、海の上には無数の砕け散った岩石の破片が次々と落ちて行く。


「では次は一升徳利で御座いますので今よりも少しお下がり下さい。」


 其の時。


「ドドドカッ~ン。」


 と、五合徳利の数倍以上の衝撃音と今度は強烈な地響きが起きた。


「何と凄まじい音だ先程とは比べものにならない爆発音ではないか。」


 菊池の殿様も上田の殿様も何と表現して良いのか分からない程の衝撃を受けた。


「吉田中尉、今の爆発で崖は崩れませんか。」


 阿波野が心配するのも無理は無い、地面が揺れ、崖が崩れ落ちると考えても不思議では無い。

 それ程までにも凄まじい衝撃音でお殿様方も今まで経験した事が無いと言いたいのだろうが、まだ爆薬は未だ二個残っている。


「では、次は別の所で御座います。」


 吉田はさすがに平然とし、其れは戦場を何度も経験した彼らには幾ら大きな爆発音でも平気で有る。

 其れは敵からの攻撃では無く、今は爆破の試しで誰もが被害に遭う事は無いと分かって要る。


「ドッカ~ン。」


 と、三個目でげんたが聴いた別の爆発音で、現場からは白煙がもうもうと上がり、崖の上まで白煙が届き。


「何とこの上まで白い煙が上がって来るとは、う~ん、其れにしても恐ろしい音じゃ、源三郎、この様な物一体誰が考えたのじゃ、正かとは思うが。」


「殿、その正かでげんたで御座います。」


「まぁ~何と恐ろしい技師長じゃ、この様な物を一体何処で使うのじゃ。」


 野洲の殿様は知って要る、だが他のお殿様方は何も知らない、だからあえて知らない振りをしたのだ。


「技師長が考案されたのですか、う~ん、其れにしても何と恐ろしい物を。」


 斉藤は驚いて要るが、げんたが松川に来て窯元と相談して要る事は知って要る。


「何と潜水船の次はこの様な恐ろしい物を考えたと申されるので。」


「はい、多分、げんた自身もこんなにも強力な物になるとは考えてはいなかったとは思います。」


「其れで一体この物を何処で使わるおつもりなのですか。」


「上田様、軍艦にで御座います。」


「えっ、官軍の軍艦に使われるのですか、この様な物では一個で軍艦は沈む事は間違いは御座いませぬ

なぁ~。」


「はい、私もこれ程にも威力の有る物とは考えておりませんでした。

 最初軍艦の舵を壊せるだけで十分だと考えておりましたので、今申されました様に一個で軍艦は沈む事は間違いは御座いませぬ。」


 最後の爆発が起きる少し前、山賀に駐屯して要る中隊は何も聞かされておらず、中隊の全員が大急ぎで崖へ駆け付けると。


「うん、これは馬の。」


「あっ、あれは第五中隊では。」


「小川少尉、第五中隊には知らせて無かったのですか。」


「はい、申し訳御座いません。

 私もあれ程にも凄まじい爆発音がするとは考えもしておりませんでしたので知らせる事も無いと勝手に判断致しました。」


 第五中隊は若しも時を考え全員が馬で駆け付けるので早い。


「中隊、止まれ。」


「中隊長、済まぬ。」


「中佐殿、一体何が起きたので御座いますか。」


「申し訳無い、実は今日この崖で有る試みをしており、小川少尉が中隊長へ連絡するのを忘れていたと。」


「中佐殿、その試みとは先程の爆裂音の事でしょうか。」


「爆裂か、これは良い名だ、ではこれからは爆裂弾と呼びましょうか。」


 源三郎は咄嗟に名付けた、だが騒ぎは中隊だけに収まらず、その爆発音は山賀の城下まで届き、城下の領民達は大騒ぎになって要る。


「中隊長、まぁ~その様な訳で何事も無いので。」


「ではあの方々は。」


「各国の殿様方と責任者の方々ですよ。」


「分かりました、其れでは私達は戻り警戒の任務に就きます。」


「そうか、其れで少し聴きたいのだが今まで山賀の山を越えて来た者は有りませんか。」


「はい、今のところは、ですが今の爆発音は物凄く大きいので若しもの事を考えまして警戒は厳重になると思います。」


「そうですか、では大変ですが宜しく頼みますよ。」


 第五中隊の中隊長は山賀の山には警戒を強め無ければならないと考え任務に戻って行く。


「オレは野洲のげんたって言うんだけどあんちゃんは。」


 山賀の門番は驚いて要る、突然現れたかと思うと。


「あんちゃんとはどなた様でしょうか。」


「野洲の源三郎様ですよ。」


「あ~そのお方で有れば今日の朝から各藩のお殿様方と海の崖に。」


「えっ、海の崖って。」


 げんたは海には必ず浜が有るものだと思って要る。


「山賀の海には浜は無いので全て高い崖になってるんですよ、その崖で何やらを、でも私も其れ以上の事は分かりませんので。」


「じゃ~、その崖って何処に有るんですか。」


「お城の裏側を抜けると一本道が有るのでその道を行くと崖に出ますよ、でも一里は有りますよ。」


「げんた、行くぞ。」


 げんたと銀次は再び馬に乗り源三郎が行ったと言う崖を目指し馬を飛ばして行く。


 その頃、城下では領民達が騒ぎ出し。


「お~いみんなお城に官軍が攻撃して来たって。」


「えっ、お城に、じゃ~崖をよじ登って来たのか。」


 何と官軍が崖を登りお城を攻撃していると、まぁ~飛んでも無い噂が、だがあの爆発音が城下の者達までも驚かせ、お城が攻撃されていると噂が飛び交ったので有る。


「お~い、みんな若様を助けに行くぞ。」


「そうだ、オレ達の若様だ、官軍なんか怖く無いぞ、行こうぜ。」


 二人が三人に、やがて十人、二十人と膨れ上がり、百人、二百人と膨れ上がった領民達はお城へと向かった。


 北側の空掘りを抜けると一本道で馬を飛ばせば一里は直ぐだ。


「あんちゃ~ん、あんちゃ~ん。」


「えっ、あの声は正か。」


 源三郎が驚くのも無理は無い、げんたと銀次が馬を飛ばしてやって来た。


「あんちゃん、大丈夫なのか、何処も怪我は無かったのか。」


「一体どうしたと言うのですか、そんなに慌てて。」


「あんちゃんこそ官軍が来たのか。」


「えっ、官軍があ~先程の爆裂弾の音ですか。」


「何だ、その爆裂弾って。」


 げんたが考え、山賀の正太達が作った爆裂弾の爆発音を官軍が攻めて来たと勘違いしたので有る。


「げんたが考えた爆裂弾ですよ。」


「えっ、オレが考えたって、あんちゃん、オレがそんな物を考える訳が無いぜ、オレは松川の窯元さんに、えっ、正かあれが出来たのか。」


「そうですよ、だから私が名を爆裂弾と付けたのですよ。」


「ねぇ~源三郎様、その爆裂弾って一体何ですか。」


 銀次は初めて聞く名で、其れも考案したのがげんただとは思わなかった。


 其の時丁度崖の下から分隊長と数名の兵士が上がって来た。


「中佐殿、あの威力は私も経験した事が有りません。」


「其れでは分隊長、皆様方にご報告して下さい。」


「はい、了解しました。」


 分隊長は殿様方の前に進み。


「先程試しました爆薬。」


「分隊長、爆裂弾と命名されましたので。」


「はっ、では先程の爆裂弾の威力を報告致します。」


 分隊長は合計四個の爆裂弾の威力を詳しく報告すると。


「何じゃと、五合徳利の爆発で直径が五尺以上の大きな穴が開いたと申すのか。」


「はい、ですが、一升徳利ではその三倍、いや五倍以上の大きな穴が、更に奥行も五尺以上の深さまで行き、爆裂弾一個で軍艦は沈む事は間違いは御座いませぬ。」


「う~ん、其れにしてもこの爆裂弾は大変な威力を発揮すると思いますねぇ~。」


 上田の殿様も余りにも強烈な威力に驚きよりも呆れ表現のしようが無いのだろうか。


「分隊長の意見としては五合徳利の方が良いのか、其れとも一升徳利の方が良いのか判断出来ますか。」


「使い方に寄っては五合弾でも十分だと思います。

 硬い岩石があれ程にも破壊されるのですから軍艦ならば五合爆裂弾で十分かと思います。」


「ですが、相手は軍艦ですから。」


「お言葉を返す様で申し訳御座いませぬが、官軍はこの爆裂弾を知りません。

 其れともう一つは五合弾と一升弾では重さも五合徳利の数倍有り、其れを海上で動く軍艦に取り付けるには軽い五合弾でも大変危険だと考えます。」


「まぁ~源三郎、その論議は後にしてじゃ分隊長、後二回の爆裂弾の威力はどの様で有ったのじゃ。」


「はい、二回の内一回は崖の下と申しまして、崖の真下に石ばかりの所に設置し、最後は別の所に設置し爆破したのです。

 最初は五合弾で最後が一升弾で五合弾の爆破では直径が五尺以上、深さは二尺以上の大きな穴が開きました。

 最後の一升弾では数倍以上の大きな穴が開き、両方とも大変な威力が有る事は間違いは御座いませぬ。」


「あんちゃん、オレと銀次さんが山賀の領地に入ったところで音が聞こえたんだ、其れと何か分からないんだけど地面が動いてた様な気分だったんだ。」


「オレもですよ、あの道から此処に来るまでどれだけ離れてるかオレは分かりませんが、特に二回目の時には馬も驚きましたからねぇ~。」


 げんたも銀次もあの場所からは一里以上も離れており、その場所で其れだけの体感すると言う事は分隊長が言う様に五合弾の爆発でも官軍の軍艦には十分過ぎる、いや大損害か沈没させる事が出来ると源三郎はこの時確信したので有る。


「ではお殿様方、一度お城に戻り改めて論議したいと思うのですが如何で御座いましょうか。」


「余は其れで良いぞ。」


 野洲の殿様は早くも馬に乗りお城へと向かい他の殿様方も続いて行く。


「お~い門番さん、あれ~お城は。」


「なぁ~門番さん、官軍が攻めて来たんじゃないのか。」


「そうだよ、さっき物凄い音が聞こえて、オレ達は官軍がお城を攻めて来たと思って。」


「あ~先程の爆発音ですか、あれはねぇ~若様と他の国からもお殿様が来られ崖の方で何か知らないが試みをされて要る音ですよ。」


「だけど一体何を試してるんだよ、で若様は大丈夫なのか。」


「私もねぇ~其れ以上詳しい事は知りませんのでね。」


 大手門も騒ぎを聞き付けた家臣達が出て来た。


「お侍様、さっきの大きな音ですが一体何が有ったんですか、オレ達は若様が心配で来たんですよ。」


 今は山賀でも若様松之介はすっかり城下の領民達とも仲良くなり領民達は若様の心配をしてお城まで駆け付けて来たので有る。


「皆さん、若様は大丈夫ですよ、其れに若様以外に各藩からもお殿様が来られておりますので。」


「ねぇ~お侍様、あの大きな音は何ですか。」


「う~ん、これは困りましたねぇ~、実は私も詳しくは知らないのでね、ですが若様は本当に大丈夫ですからね、皆さんも安心して下さいよ。」


「そうかお侍様も詳しい事は知らないのか、まぁ~若様が大丈夫だと言う事が分ればオレ達はいいんですがね、じゃ~オレ達は帰りますからね。」


「皆さん、私から若様にお伝えしますよ、ご城下の皆さんが大変心配されておられましたとね。」


 家臣達は知って要るがその全てを話す必要は無い。

 領民達も家臣の話しに納得したのか城下へと引き上げて行く。


「なぁ~あんちゃん、オレは山賀の若様にお願いが有って来たんだ。」


「ほ~げんたが若様に頼み事ですか。」


「オレじゃ~無いんだ、銀次さんが新しい方法を考えたんだけどね、その方法には山賀で作って欲しい物が有るんだ、其れでお城に行ったらあんちゃんはお殿様と山賀に行ったって聞いたんで二人で馬を飛ばして来たんだぜ。」


「では余程大事な要件だと思いますがげんた、銀次さん、先程も聞かれた思いますがお殿様方と爆裂弾の論議が終わり次第お聞きしますのでね其れで宜しいでしょうか。」


「うん、其れでいいよ。」


 馬を連ねお殿様方が山賀のお城へと入って行った。


「皆様方、本日は誠に有難う御座いました。」


 若様松之介は爆破実験が一応成功したと安堵し少し緊張感も解れた様子で有る。


「では少しお休み下さいませ。」


「若様。」


 先程城下の領民に話しをした家臣だ。


「何か有ったのですか。」


「別に大した事では無いのですが、ご城下の者達数百人が参りまして。」


 家臣は若様に大手門での出来事を話すと。


「そうですか、城下の人達が私を心配されているのですか、其れは大変嬉しいですねぇ~。」


「はい、其れで後日お話しをして頂きたいと、ですが私は返答を避けたのですが其れで良かったので御座いましょうか。」


「勿論ですよ、其れで十分ですよ。」


「松之介、領民にも知らせるのか。」


「叔父上様、今考えて要るのですが何か良い策でも御座いませんでしょうか。」


「う~ん、これは大変難しい話しじゃのぉ~、皆様方ならば如何なされますでしょうか。」


「私はこの最ですから城下の者達にも知らせては如何かと思うのです。

 城下の者達は若様が心配で大勢が来たと言う事は城下でも若様が大事なお人だと、其れならば尚更安心させる上でもお話しをされても問題は無いと私は考えます。」


 菊池の殿様も今では領民を安心させる為には領民に話をしており、其れが結果的には領民が安心し、殿様を始め家臣達への信頼を得て要る。


「野洲様、私も同じで菊池様の申される通り領民が安心すると言う事は領民は家臣達に対しても大きな信頼感を得ており結果的には領地内で起きた事は直ぐ家臣達にも報告が入ると、私も今では家臣を通じ領民にも知らせております。」


 上田の殿様も同様だと言うので有る。


「松之介、領民にも話すのじゃ、皆様方も賛成されておる。」


「はい、皆様方、誠有り難きお言葉、私も出来る限り早く城下の人達に説明致します。」


 だが其れは何も山賀に限った事では無い。


 松川でも家臣を通じ領民にも伝えており、若様の気持ちも分からぬ事は無いが爆裂弾の実験だと説明する事の方が余程大変だと源三郎も理解して要る。


「皆様方、先程のお話しの中で分隊長は五合弾でも十分だと申されておられましたが、皆様方のご意見は如何で御座いましょうか。」


「私も分隊長の申されました五合弾で十分では無いかと思うのです。

 確かに五合弾と一升弾では中味の火薬は倍だと思われます。

 ですが潜水船を軍艦の舵に近付けると言うのは簡単では無く、更に何時も波が穏やかだとは限らないと思うのです。

 此処はやはり取り扱いの良さも考えなければならないのでは御座いませぬか。」


「分隊長、今のお話しですが如何でしょうか。」


「はい、先程は陸の上、しかも程よい穴が有り、我々は穴に入れるだけですが、潜水船を浮上させ舵に取り付けると言うのは至難の業では無いかと思うので御座います。」


 上田の殿様も理解して要る様子で海と言うのは年中穏やかでは無い、少しの風でも波が立ち、爆裂弾を軍艦の其れも舵に取り付けると言うのは言葉では簡単だが取り付けるのは潜水船に乗って居る兵士の役目で導火線に火と点け、直ぐさま潜水船は潜らなければならない。


 更に現実の問題として連合国には大きな船は無く、さぁ~この問題をどの様にして解決すれば良いのだ。


「私は兵士の立場から考えますと確かに大損害を与えるには一升弾を、ですが兵士としては出来る限り小型で取り付けにも楽な方を考えますと、五合弾と考えるのです。」


 分隊長も真剣に考えて要る。


 官軍の軍艦を沈めたいと願うので有れば一升弾が良いと、だが兵士が自ら取り付けるとなれば小型の五合弾でも十分破壊力は有り、例え沈める事が無理だとしても航行不能にする事は間違いは無い。


 最初に考えた源三郎も軍艦を沈める事までは考えておらず、航行不能にさせれば乗って居る兵士達は不安で果たして何処に向かうのかも知れない状態になれば兵士達は戦闘意欲も無くなり其れで十分だと。


「私は先程の試みで岩と言う頑丈な物が粉々になり想像以上に大きな穴があき、では軍艦ではどの様になるのかを考えたのです。

 確かに五合弾の威力は恐ろしい程でどの様に考えても軍艦の後部に大損害を与えます。

 私の想像ではその部分から海水が入ると考え遅かれ早かれ軍艦は沈没すると思われます。」


「では何れにしても軍艦は沈むと申されるのですか。」


「はい、其れは間違いは御座いません。」


「皆様方、如何でしょうか、分隊長は五合の爆裂弾で十分だと申されておられ、私も先程の結果大きな岩石が深く抉られ想像以上の大きな穴が開くと聴き、五合弾で十分だと考えます。

 ですが全てを五合弾一個では少し不安が残りますので五合弾を二個取り付ければ宜しいかと存じますが

皆様方は如何で御座いましょうか。」


 源三郎は一升の徳利の爆裂弾は取り扱い上不便だと考え、五合弾を二カ所取り付けを提案した。


「五合弾を二カ所、同じ所に二個取り付ける方法ならば一升弾を使うよりも一層の効果が有ると思います。」


 分隊長も源三郎の提案に大賛成で有る。


「よ~し、これで決定の様じゃのぉ~、余も小型を二個使う方が兵士の負担も少なると思うのじゃ。

 分隊長は兵士を代弁したと考えるのじゃが如何かな。」


「はい、殿様の申されます通りで御座います。

 私は分隊長の立場よりも実際取り扱う兵士の立場で考えましたので、皆様方には大変申し訳無く思っております。」


「良いのじゃぞ、源三郎は何時も申しておる、全て現場の意見を尊重するとな、分隊長もこれからは一人の兵士の立場で物事を考えて欲しいのじゃ、なっ、そうで有ろう源三郎。」


「はい、私は何も申し上げる事は御座いませぬ。

 工藤さん、吉田さん、これからは大変ですが、此処におられます殿様方も現場主義と申せば怒られるやも知れませぬが、出来る限り現場の兵士から色々な意見を聞いて頂きたいのです。」


「殿様方、総司令、今のお言葉全ては領民の為にと、私は解釈致しました。

 これからも第一戦で戦う兵士達の意見を聴き、これからも難題が多く発生すると思いますが、より一層肝に命じまして任務に励ませて頂きます。」


「私は部隊に戻って兵士全員に今のお話しを聞かせ、全員が前向きな考えをするように伝えます。」


「よ~し、これで決まりじゃ、其れで宜しいかな。」


 菊池の殿様も上田の殿様も異存無しと頷いて要る。


「ではと言いたのじゃが、技師長、一体何が有ったのじゃ、今日は全ての殿様と他の者達は全て責任有る役目に就いて要る者達じゃ、技師長は大事な話しが有るのではないのか。」


 やはりだ、野洲の殿様は分かっており、げんたが馬を飛ばして来ると言うのは余程の事なのだ。


「うん、だけど。」


「何も心配は要らぬぞ皆が協力しなければならないのじゃぞ、げんたが一人で解決出来ぬ事も有るのじゃ、その為には余も他の殿様方も協力を惜しまぬぞ。」


「げんた、殿様が申される通りですからね。」


「うん、分かったよ、でも今日はオレが考えた事じゃないんだ、銀次さんが考え、大工の親方も他の人達

もみんなでやろうって決まったんだ。」


「銀次さん、ではどの様な作りなのかお話しをして頂きたいのです。

 技師長や銀次さんの提案は我々にも大いに関係して来ますのでのね。」


「はい、オレ、あっ。」


「何時もの調子で良いのじゃ、げんたも何時もと同じじゃからのぉ~。」


「はい、ではオレは野洲の洞窟でげんたが考えた潜水船建造の手伝いをさせて貰ってます銀次と申します。

 野洲のお殿様も知っておられると思いますが参号船を海に出す時の事を。」


「うん、余も傍で見ておったが、あれは大変じゃ、其れに大変危険と伴っておる。」


「はい、其れでオレはみんなが事故に遭わない様に出来ないか考えたんです。」


「う~ん、これは確かに大問題じゃ、大きな事故が起きれば大変じゃ、では銀次が考えた方法を話せ。」


「はい、オレは。」


 銀次はその後、殿様方や高野達を含め全員が分かる様に詳しく説明した。


「そうで有ったのか、其れで山賀に飛んで来たと申すのか。」


「叔父上様、山賀は銀次さんの申されます車と鉄の板を作る事に全面的に協力させて頂きます。」


「松之介、良くぞ申した、銀次、其れで他には。」


「はい、でも俺は簡単に考えただけで、オレよりもげんたの方がもっと詳しく話をすると思います。」


 銀次は今身体全体が震えて要る。

 源三郎を命の恩人と思い、それ以上に野洲の殿様も山賀の若様も全面的に協力すると言うので有る。


 その様な事は以前では全く考えられ無い話で、更に銀次は島帰りだ、其れは犯罪人で有ると野洲の殿様も知って要る。

 だが今の連合国の人達は例え島帰りで有っても本人の努力次第では話を聴いてくれる、そして、全員で協議してくれる、其れが今の連合国で有る。

 銀次は殿様方が恐ろしく見えるのだろうか、其れとも簡単に話を聴いてくれると言うが理解出来るのだろうかと。


「げんた、銀次さんの考えた方法だけど、其れは菊池や上田でも共通するのですか。」


「うん、そうだよ、だって野洲の洞窟じゃ~四号船と五号船を造ると其れ以上は泊める所が無いんだ。

 だから残りの最低でも六号船と七号船は菊池か上田、其れとも松川の洞窟で造る事に成るんだ、だから両方にも同じ台が必要になるんだ。」


「其れは大きく頑丈に作らなければならないのでしょうか。」


 高野も参号船がどれだけの重量が有るのか知らない。」


「そうなんだ、親方は参号船の造りは三寸板の二重張りで造ったんだ、だから柱も太いんだ、だから物凄く重いんだ。」


 三寸板の二重張りとなれば普通の倍、いや三倍以上の重みが有る。


「何故、それ程まで頑丈に造る必要が有るのですか。」


 斉藤は軽い方が造る大工達も楽だと考えて要る。


「最初は同じ様に思ったんだ、だけど参号船の大きさから考えるとオレが考えた以上に水の力が強いんだ。

 参号船を完全に沈めるんだ、オレは水なんかって思ってたんだ、だけど親方は水の力は人間の考える以上に強いんだって、中の人達を守れるだけの強さが無いと中の人達は恐ろしさで船を動かす事も出来ないって。」


「斉藤様、参号潜水船の長さは半町も有りますので少しでも弱い所が有ればその箇所から破損と言うより、下手をすれば潜水船の中に海水が入り沈没するのです。

 親方は乗組員の安全を考え頑丈な造り方をされたと伺っております。」


「では潜水船の重さに耐えるだけの台を作らなければならないのですか、う~ん、其れにしても実に大変な工事に成りますねぇ~。」


「今、野洲では下の台を作り直してるんで、其れが終われば上の台なんだ、でも上の台と下の台は別々の作りになるって親方が、其れで考えたのが銀次さんの言う車輪を使う方法なんだ。」


「技師長、では車輪の大きさですが。」


 阿波野も色々と考えては要るが、げんたが考える先の事までを考えられる人物は今の連合国には居ない。


「オレは直径が五寸って考えてるんですよ、だって其れよりも大きくなれば、下の台はもっと頑丈に造らないと駄目なんだ。」


「先程も言いましたが平らな鉄の板ですが何処に使うのですか。」


「鉄の車なんだぜ、下の台も木で作って有るんだぜ、幾ら木が強いって言っても鉄には負けるんだよ、其れに潜水船の重みで鉄の車が船台にめり込むともっと危ない事に成るんだ、だから鉄の板で道を作り、其の上を台車が動く、之だったら完成した潜水船を出す時にも楽に出来るんだぜ、あんちゃんはもっと考えてくれよ。」


 げんたも源三郎も笑って要る。


 げんたは源三郎が知って要るのに何故聴くのだと、他の人達が理解出来ずに要るのだと、その為にわざと聞いたので有る、まぁ~源三郎も知っておりながら知らない振りをしたので有る。


 銀次は感心して要る、良くもまぁ~其処までの話が出来るものだと、やはりげんたも源三郎の影響を受けて要るの思うので有る。


「技師長、先程の車輪ですが何か特別な作りでしょうか。」


「う~ん、まぁ~なぁ~、特別な作りには間違いは無いと思うんだけど、上下の台は幅が有るから台の上から車が落ちるともう人間の力じゃ戻せないんだ、う~ん、オレも簡単に考えてたなぁ~。」


 げんたは何かを考え始めた。


 げんたが言う様に潜水船は大型になり想像以上に重く、潜水船の台が外れると人間の力だけでは元の位置に戻す事は不可能で有る。


「技師長、今思い付いたんですが、井戸に使う滑車の形は如何ですか。」


 高野が思い付いたと言うのだが。


「其れだ、其れだったら外れる事も無いからなぁ~、若殿、松川の窯元さんに型枠を作って貰えますか。」


「分かりました、大きさですが先程言われました五寸で宜しいのですね。」


「うん、其れでお願いします。

 其れと若様に鉄の板なんだけど同じ五寸の幅で作って欲しいんです。」


「五寸ですか、其れで厚みは。」


「上の重みに耐える為には一寸位は必要かなぁ~。」


 げんたは頭の中で考え松川の若殿、山賀の若様に頼み。


「だけど長さが問題なんだけどなぁ~、まぁ~いいか何とかなるかも、若様、幅は五寸で厚みは一寸で長さは、う~ん、長さは適当でいいよ、後は鍛冶屋さんの腕に任せればいいんだ、そうだ、若様、鉄の棒が要るんだけど、え~っと、太さは小指くらいで、之も長さは適当でお願いします。」


「鉄の棒が何故必要なのじゃ。」


「殿様、板を木で作った道と言うのか、其れに打ち付けるんだ、潜水船の重みで鉄の板が反り返らない様

にする為に要るんだ。」


「お~そうか分かったぞ。」


 銀次が提案した物はげんたによって次々と変わって行く、だが基本は銀次の提案通りで有る。


「げんた、其れだけなのか。」「うん、今はね、あっ、そうだ忘れたよ、分隊長さん、徳利なんだけど口の部分をもっと広げ反り返りも大きくするとどうなるんですか。」


「其れは使う時には便利になりますよ、火薬を入れる時もですが、縄で括り付ける時に反り返りが大きいと結ぶにも楽になりますからねぇ~。」


「窯元さんに、そうだオレが帰りに窯元さんの所に行って説明するよ。」


「其れならば私も助かりますよ、技師長から直接窯元さんに説明して頂ければ窯元さんも直ぐ分かると思いますので。」


「うん、そうするよ、あんちゃんも一緒に行くんだぜ。」


「えっ、私がですか。」


「そうだよ、だってあんちゃんは連合国の総司令官なんだぜ、だから窯元さんに説明する時にも聞いて貰う方がいいんだ。」


「源三郎、松川へ参れ。」


 げんたは源三郎と一緒に帰りたいだけで、何も説明を聴く必要も無いので有る。


「では、もう良いのか。」


「うん、銀次さんの提案は其れだけだと思うんだけどなぁ~。」


「う~ん、参ったなぁ~、げんたの頭の中は一体どの様な作りになってるんだ。」


「銀次さん、オレ様は大天才なんだぜ。」


 げんたと銀次は大笑いし殿様も笑って要る。


「一度でも宜しいので技師長の頭の中を見たいものですねぇ~。」


「ああ、いいよ、だけどその代わりに今オレの考えてる物は作れなくなるんだぜ。」


「なんじゃと、その方はまだ何かを作るつもりなのか。」


「うん、そうだよ、だってまぁ~いいか、その内にあっと驚く様な物を作るからね。」


「総司令は技師長の考えて要る物を知っておられるのですか。」


「いゃ~飛んでも有りませんよ、げんたが何を考え、何を作るのか私は全く知りませんのでねぇ~。」


 高野も知りたい、だが今げんたが説明したとしても誰も理解するのは不可能だと言う物を考えて要る。


「あんちゃん、オレが今考えてる物を説明したって誰も分からないんだぜ。」


「殿、げんたの事ですから何を作るのか私も全く分かりませぬ。 ですが、今は其の事よりも車輪と鉄の板を作り、四号船以降の潜水船を完成させる事の方が急務だと思うので御座います。」


「源三郎に任せるぞ、銀次もげんたを頼むぞ。」


「殿様、任せなって、銀次さんの提案で四号船から早く造れると思うんだ。」


 だが、官軍の軍艦が完成するまで後半年を切っており、連合国が進めている五隻の潜水船が果たして半年以内に完成するのかどうか、今は早く銀次の提案した船台が完成し四号船も建造に入らなければと、源三郎は少し焦りを感じて要る。


「では皆様方宜しいでしょうか。

 何も無ければ夕餉の時刻には少し早いのですが如何で御座いましょうか。」


 松之介は夕餉には早いと思って要るが、太陽は西の山に沈み辺りは少し暗くなり始めて要る。


「のぉ~松之介、其れにしても何と恐ろしい爆裂弾じゃ、あの様な物が官軍には無いとは思うのじゃが。」


「叔父上様、私もあれ程にも破壊力が有るとは思っても見ませんでしたので。」


「のぉ~工藤殿、官軍は爆裂弾は作っておるのかのぉ~。」


「殿、先程の様な爆裂弾では御座いませぬが、官軍は火薬の入った樽を利用しておりまして、ですが破壊力は爆裂弾とは比べものにはなりませぬ。」


「義兄上、爆裂弾ですが何個作れば宜しいのでしょうか。」


「先程分隊長の報告で五合弾を少なくとも十個と考えておりましたが、其れよりも後数回何かの形で

試しが出来ないかと考えて要るのです。」


「源三郎、試しと申すが、一体何処で行なうつもりなのじゃ。」


「はい、其れも今考えて要るのですが。」


 源三郎は爆裂弾の威力を再度確認したいのだろうが今の連合国には適した場所は無く、其れでも試し

を行うとなれば、だが源三郎は大胆な方法を模索して要る。


「なぁ~げんた、相談が有るのですがねぇ~。」


 源三郎はげんたの顔を見てニヤッとした。


「えっ、あんちゃん、正か。」


 げんたは源三郎の考えた方法が読めたのだろうか。


「そうなんだ、げんたには大変申し訳ないんですがねぇ~。」


「何だとあれをやるのか、やるんだったらやれを、その代わりオレは何もしないよ、絶対にしないからなっ。」


 げんたは本気で怒ったと源三郎も分かって要る。


「一体何を申しておるのじゃ、余もじゃが他の者には全く分からぬではないか。」

 源三郎が考えた大胆な方法とは。


「殿、私は先程の試しに対し異論を申して要るのでは御座いませぬ。

 ですが、やはり本物を使わぬと本当の威力が分からないのです。」


「何じゃと、本物を使うとな、だが連合国には大型船は無いぞ、其れを一体どの様に、えっ、正かとは

思うがげんたのか。」


「はい、其れで今げんたに確認したのですが、げんたは今後二度と協力しないと。」


「源三郎、その様な事はげんたで無くとも拒否するぞ。」


「殿、私も其れは十分理解しております。」


「もうオレ帰るよ、嫌になったんだ。」


「げんた、少し待つんだ。」


 銀次はやはり分かって要るのだろうか、島帰りの自分達を源三郎に助けられ、源三郎が言うには余程の事なのかも知れない、普通ならば島帰りの者達には世間の風は冷たい、源三郎は過去の事は忘れろと、其れまでにして銀次達を迎えるとは余程の覚悟が無ければ出来ない事は銀次で無くても理解出来る。


「銀次さん、何でだよぉ~、オレは。」


「なぁ~げんた、源三郎様も分かっておられるんだ、オレもげんたの気持ちは分かるよ、だけどなぁ~げんた、何で源三郎様がげんたに謝る必要が有ると思うんだ、普通だったらそんな事一々げんたに言わずにやるよ、だけどなぁ~其れが源三郎様なんだ、オレだって同じなんだ、だけどさっきの試しだけで本当に官軍の軍艦が大損害受けると思うのか、崖は軍艦じゃ無いんだぜ、若しもだよ、若しも源三郎様の考え方が間違ったとしてもだ、軍艦が来たよ~って聴いて兵隊さんが軍艦に付け爆発させたけど何とも無かったら一体どうなると思うんだ、官軍の軍艦がこの浜に上陸してだよげんたの母ちゃんや浜の人達は一体どうなると思うんだ、げんたもだけどオレ達は反対に軍艦に乗った兵士に浜の人達全員が殺されるんだぜ。」


 げんたは銀次の話に下を向き涙を流しながら聞いて要る。


 源三郎もげんたがどの様な思いで潜水船を造ったのか、其れは誰にでも出来る事では無い、げんただから出来たのだと思って要る。


「私は義兄上のお話しを理解出来てはおりませぬが、正かと思いますが、潜水船を爆破実験の試しに使われようと考えておられるのでは御座いませぬか。」


「これは私自身苦渋の決断なのです。

 銀次さんの申される通り、断崖の岩と軍艦では全く違いますので本物の意味でどれだけの破壊力が有るのか、私はその効果を知る必要が有ると思うのです。

 破壊力も知らず軍艦に爆裂弾を取り付けたが損害をが少ないと言う事も考えられるのです。

 その様な事にでもなれば官軍兵が上陸するのは間違いは御座いませぬ。

 今は確かに大勢の兵隊さんが居られますが、軍艦には大きな大砲が備え付けられており、幾ら連発銃が有ると申しても相手が大砲ならば勝つ事は不可能だと考えればどの様な方法を講じても軍艦を沈めなくてはならないのです。


 げんた、私も本当は苦しいのですよ、だけど銀次さんが言われた様に官軍の兵達が連合国の浜に上陸すると、例え相手が女や子供だ分かっていても容赦なく大砲の弾は飛んで来るんです。


 私はねぇ~侍ですからね領民の為ならば私の命は差し上げますよ、ですがね戦と言うのは殺すか殺されるかなのです。

其れでもげんたが協力しないと言うので有れば其れも仕方ありません。

私は軍艦を沈める為には手段は選びませんよ。」


 げんたは何も言わず下を向いたままで有る。


「私も考えたのですが、潜水船を軍艦と見られるので有れば私は別の方法も有ると思うのですが如何で御座いましょうか。」


 若殿は別の方法が有ると言ったが一体どの様な方法が有ると言うのだろうか。


「別の方法とはどの様な方法なのですか。」


「私は潜水船よりも丈夫な物が有ると思うのです。

 私は原木で大きな筏を作ってはどうかと思うで御座います。」


「ほぉ~筏ですか。」


「はい、巨大な筏を作り、原木で囲いを作り其れに爆裂弾を取り付け爆破させてはと考えたのです。」


「原木だったら、そうですよもう下手な大きな船よりも頑丈ですし、原木だったら別に大工さん達の手を借りなくてもオレ達でも作れますよ。」


「私も銀次さん達に任せては如何でしょうか。

 其れに原木の破片はかがり火用にも松明にも使えますので。」


「銀次の申す通りじゃ、銀次達に任せるのじゃ、そして、野洲に帰らず松川浜で行なえば良いではないか。」


 やはりだ、げんたに見方が出来た。


 野洲の殿様も松川の若殿も、だがどうも源三郎はその様な話しが出るのを待っていた様な様子だ、だが今は其れを言う必要は無い。


 どうやら源三郎の作戦勝ちなのかも知れない。


「分かりましたよ、げんた、許して下さいね。」


 源三郎の言葉にやっと顔を上げたげんただが源三郎の顔を見ると何やら含み笑いをしている様にも。


「銀次、仲間を呼ぶのか。」


「はい、勿論で、殿様、オレ達に任せて下さい。

 だけどなぁ~あんまり頑丈に作り過ぎると困るだろうからなぁ~。」


「いいえ、銀次さん、出来る限り頑丈に作って頂きたいのです。

 其れで本当に筏が粉々になるので有れば銀次さん、大成功と言えますのでね。」


「分かりましたよ、げんた良かったなぁ~、若殿様、有難う御座います。」


「いいえ、私も義兄上が申された事も理解出来ます。

 かと言って、潜水船を爆裂弾で粉々にすると言うのも気分の良いものでは有りませんのでねぇ~。」


「じゃ~オレは今から帰り仲間を連れて来ますので。」


「銀次、何もその様に急ぐで無い、夜も更け今からでは道中が危険じゃ、明日の早朝の致すのじゃ。」


 げんたも要約機嫌が戻った様だ。


「じゃ~オレも明日帰るよ。」


「げんたも行く所が有るんだぜ。」


「えっ、もう忘れたのか、松川の窯元さんのところだよ。」


「あっ、そうか、オレは。」


「いいんだ、その代わり窯元さんとよ~く相談するんだぜ、げんたがいなくなったら連合国は官軍に滅ぼされるんだからな。」


「うん、分かったよ、あんちゃんご免な。」


「いいえ、私が悪かったのです、何も考えず皆様方には余計なご心配をお掛け致しました。」


「源三郎、もう終わった事じゃ。」


「銀次さん、松川で馬を乗り換えて下さい。」


「若殿様、有難う御座います。」


 そして、明くる日の早朝銀次は野洲へと、松川の若殿、源三郎、げんた達は松川へと向かった。


「叔父上様、あのげんたと言う人物ですが義兄上の事を。」


「松之介、げんたに父親はいない、だが今は源三郎と言う兄が出来、げんたは源三郎の事を一番大切な人物だと思って要るのじゃ、源三郎はげんたがどの様に苦労して潜水船を造ったのか全てを知っておる。」


「ですが、義兄上は潜水船を。」


「松之介、あれはのぉ~源三郎の大芝居なのじゃ。」


「えっ、大芝居ですと、何故、大芝居をする必要が有るのですか。」


「其れはじゃ、崖での試しでは菊池殿も上田殿も本当の威力が分からないだろうと考えたのじゃ。」


「ですが、あれ程の大爆発音と分隊長の説明で十分だと思うのですが。」


「松之介は分かっていてもじゃ、皆がその現場を見たのでは無い、余は菊池殿も上田殿も理解はされて要ると思う、じゃがのぉ~本当の威力を知って要るのは崖の下に居った分隊長達だけじゃ。」


「では、義兄上は本当の威力を全員にお見せしたいと考えられたのですか。」


「そうなのじゃ、げんたにも申したが、あの時は源三郎が本気で潜水船を爆破するとでも思ったのじゃろう。」


「叔父上様、私もあの時は本気だと思いました。」


「源三郎と言う男は時には皆に危機感を持たせる為には例え仲間と言えども平気で大芝居をするのじゃ。」


「ですが、何も芝居をする必要は無いと思うのですが。」


「のぉ~松之介、時には非情になり大芝居を打つ事で皆に危機感を持たせる事も必要なのじゃ、源三郎はこれからの半年間が明暗を分けると考えておるのじゃ。」


「叔父上、私も今は時との戦だと理解しております。」


「其れは良い事じゃ、だが家臣達にも理解させねばならぬぞ。」


「はい、昨日の話を肝に命じまして、家中の皆にも理解させます。」


「松之介、頼むぞ、余はのんびりと、そうじゃ行くとするか。」


「はい、父上も喜ばれると思いますので。」


 野洲の殿様も数年振りに松川に行くと、其れは松川の大殿は義理の兄でも有り、其れよりも源三郎とげんたがどの様な話しを持って行くのかを知りたいと思った。


「松之介、余は松川へ向かうぞ。」


「はい、では家中の者を。」


「その様な者は必要無い、吉永一人で十分じゃ、のぉ~吉永、そうで有ろう。」


「はい、勿論で拙者も殿のお供ならば喜んで参ります。」


「吉永様、何卒宜しくお願い致します。」


「ではその様にさせて頂きます。」


 その後、野洲の殿様は吉永と数人の家臣を伴い松川へと向かった。


「なぁ~あんちゃん、オレもあれからよ~く考えたんだけど、昨日の話しはあんちゃんの大芝居か。」


 やはりだ、げんたも見破ったのか、だが松川の若殿は本気だと思って要る。


「えっ、正かでは御座いませぬか。」


「いゃ~、げんたには負けましたよ。」


「ふ~んだ、オレ泣いて損したよ、あんちゃんの芝居に騙されて。」


「げんた、ですがねぇ~私も最初は本気だったのですよ、でもねえ~。」


「義兄上は何と言う事を。」


「申し訳有りませぬ、ですが、よ~く考えて下さい。

 昨日の試みですがどなたも爆発音は聞かれておられますが、崖の様子は分隊長の説明だけで見られてはおられないのです。」


 やはりだ、野洲の殿様の思った通りで源三郎の大芝居で有る。


 殿様の考えた通りで高さが一町も絶壁の下に行き確認した者はいない。


 源三郎は爆裂弾の本当の威力を全員に見せる事が何よりも大事だと考えて要る。


「銀次さんは野洲から仲間を連れ多分ですが松川に来ると思います。」


「ではあの森から原木を切り出し松川の浜で爆裂弾の威力を試すと申されるのですか。」


「あんちゃん、オレは上田の方がいいと思うんだ。」


「そうですねぇ~、上田ならば松川の隣で山賀からも菊池からも近いですからねぇ~、ですが銀次さんは何処の浜で筏を作るつもりなのでしょうかねぇ~。」


「あんちゃん、オレは銀次さんも直ぐには来れないと思うんだ、親方や仲間の人達にも説明が要るし。」


銀次はその頃野洲へと馬を飛ばしている。


 そして、昼頃には若殿と源三郎達は松川に着き、げんたは早速窯元のところへと向かい、銀次が提案した方法で行なう為に必要な滑車風の車輪の型枠作りを依頼した。

 窯元達も若殿が一緒で色々な話し聴き、其れは誰もが納得出来る内容で快く引き受け、型枠数十個出来次第山賀に届けると話しが決まった。


 源三郎とげんたは松川に泊まり、明くる日の早朝松川を出立し上田に向かい、上田の浜で爆裂弾の爆破の試みを行うと伝え、午後には野洲へと帰った。


 銀次が野洲に着いたのは夜も遅く、朝になってから仲間達と親方に説明に入る事にした。


「元太さん、みんなは。」


「あれから直ぐ山に入り原木を切り出して今日は加工に入るって。」


「じゃ~みんなはまだ起きて無かったんだ。」


「オラ達漁師は朝が早いのは慣れてますが、其れと親方達もまだですよ。」


「そうか、其れなら良かった、じゃ~朝ご飯の後にするよ。」


「ねぇ~銀次さん、山賀で何か有ったんですか。」


「何かどころの騒ぎじゃ無いんですよ、ドッカ~ンと。」


「えっ、何ですかそのドッカ~ンって。」


 元太は突然銀次からドッカ~ンと言われても何の事なのかも全く分からない。


「爆裂弾ですよ。」


「はぁ~何ですか、その爆裂弾って。」


 元太は首を傾げて、銀次が一体何を言って要るのかもさっぱり分からないと言う表情で有る。


「ドッカ~ンとか爆裂弾と突然言われてもオラは何の話しなのかさっぱり分からないですよ。」


「元太さん、済まないです、オレとげんたが山賀に行ったんですよ。」


 その後、銀次は元太にも分かる様に詳しく話すと。


「えっ、そんな恐ろしい物が有るんですか。」


 漁師の元太にすれば初めて聞く爆裂弾の話で大変な驚き様で顔色までも変わって来た。


「何も心配無いですよ、オレ達は爆裂弾を作るんじゃないんですよ、其れよりも、大きな筏を作らなければならないんですよ。」


「だったら、その爆裂弾を此処の浜で試すんですか。」


「えっ、正かこの浜ではしませんよ。」


 この時、銀次は何処の浜で行なうのかも聞いていなかった。


「あっ、そうだ何処の浜で試すのかも聞いて無かった。」


 銀次は笑ったが、元太は少し不安だと言う顔をしている。


「じゃ~オラ達の浜は大丈夫なんですね。」


「そんなの当たり前ですよ。」

  さぁ~一体何処の浜で試しを行うのだろうかと銀次は考えて要る。


「松川でも、いや少し遠いなぁ~、だけど菊池じゃ無理だしなぁ~、そうだ上田の浜がいい、うん、源三郎様に聴いてから決めるとするか。」


と、銀次は独り言を言って要る。


「お~い、銀次、何時帰って来たんだ。」


「うん、昨日の遅く帰ったんだ、そうだ、みんなは。」


「まだ寝てるけど何か有るのか、でも朝ご飯を食べたらまた山に入るから。」


「じゃ~其の前にみんなに大事な話が有るんだ。」


「何だ、その大事な話しって、山賀で何か有ったのか。」


「ドッカ~ンですよ。」


 元太が銀次の真似をすると。


「何だそのドッカ~ンって。」


 元太は銀次から話を聴き分かったが、銀次の仲間に分かるはずが無い。


「あら~銀次さん帰って着たの、えっ、内のげんたは。」


「お母さん、げんたは松川の若殿様と源三郎様と一緒に松川の窯元さんの所に行ってますよ。」


「え~また何か作るのかねぇ~。」


「いゃ~、今度はオレの話で源三郎様と、でもこの話をしてもねぇ~。」


「いいわよあの子の事だから別に話を聴かなくてもいいんですよ。」


 げんたの母親は銀次から話しを聞いても分からないと知って要る。


「其れよりもみんなを起こしてよ朝ご飯だからって。」


「分かりました、じゃ~直ぐに。」


 銀次は仲間と親方達を起こし今の浜では見慣れた風景で朝ご飯が始まった。


「親方もみんなもご飯が終わったら大事な話が有るんだ。」


「大事な話って。」


「まぁ~其の前に食べましょうか。」


 浜恒例の炊き出しで浜の漁師や子供達も全員で朝食を取る。


 其れは朝から賑やかで浜の人達は殆ど自宅では食事は取らず、みんなが揃ってわいわいがやがやと朝から騒がしく、子供達は食事が終わると早速遊びに入って行く。


 其れから暫くして親方達も仲間も食事が終わり。


「親方も大工さんも其れにみんなも聞いて欲しいんだ。」


 銀次はげんたと一緒に山賀に入り、山賀で起きた事を話すと。


「じゃ~その筏を作り爆裂弾の威力を試すんですか。」


「ええ、そうなんですよ、其れとオレが考えた方法なんですがね、松川の若殿様も山賀の若様も分かって下さってね、其れに今頃は源三郎様とげんたが松川の窯元さん達に説明してると思うから心配はないんですが、其れよりも筏を作る方が急ぐんですよ。」


「だったらわしらも行こうか。」


「親方には加工を頼みたいんですよ、其れでね少し教えて欲しいんですが、筏の上に囲いを作って屋根も作るって難しいんですか。」


「う~ん、そうですねぇ~難しいと言えば、だけどこれはわしのところから何人か連れて行く方がいいと思うんだけどなぁ~。」


 銀次は筏は簡単に作れると、だが上に囲いを作り屋根も付けるとなれば加工しなければならない。


「じゃ~親方頼みますよ、其れと原木の切り出しと組み立てる時にも人数が要るんだけど。」


「なぁ~銀次、その筏って大きさは。」


「う~ん、オレは有る程度の大きさは要ると思うんだ。」


「銀次さん、上の重みに耐えるだけの筏を作るんだったらそんな簡単には作れないよ、其れと組み立ては浜の上で無ければ無理だからなぁ~。」


「親方、みんなも済まん、オレは簡単に考えてたんだ。」


「まぁ~其れは仕方無いとしてだ、まず大きさを決め様か、そうだなぁ~、下は最低でも二十尺、いや三十尺の大きさは要るなぁ~、よ~し三十尺四方の筏を作り、その上に五尺四方の囲いを作り其の上に屋根を付ける、まぁ~これだったら筏は沈む事は無いと思うんだ。」


「親方、その筏ですが二つ要るんですが。」


「えっ、二って。」


 銀次は其れから爆裂弾が二種類有る事を説明し、同じ大きさの屋根付き筏が二台必要になると。


「だけどなぁ~二台となれば直ぐには作れないよ、それなりの加工も必要になるからなぁ~、銀次さん、その筏って何時までに作らなければならないんだ。」


「オレが勝手に考えてるのは上田の浜で、上田だったら野洲の隣で、其れよりも連合国の丁度中間ですから。」


「よ~し分かった、じゃ~わしらも全員で行くよ。」


 銀次は正か親方を含め大工の全員が行くとは考えて無かった。


「ねぇ~親方、全員って、でも筏ですよ。」


「なぁ~銀次さん、筏は筏でも今度の筏は単に普通の筏じゃないんだ、その何とか言う試しが成功しなかったら潜水船を造った意味が無いとわしは思うんだ、其れに銀次さんが山賀に行って筏がどうしても要るて引き受けたんだ、其れはわしらにとっても同じなんだ、同じ仲間なんだからまぁ~後の潜水船は何とでもなるよ、だからみんなで行こうや、其れがわしらの運命だと思ってだお殿様方に見て貰うんだ。」


「オレが簡単に引き受けてみんなに迷惑掛けたんだ。」


「なぁ~銀次、仮にオレでも同じ様に引き受けるぜ、だから何も心配するなって、其れにオレ達には源三郎様が後ろに居てるんだぜ。」


「よ~しこれで決まりだ、大工は道具の手入れだ、其れと銀次さんは城下に行って荷車の手配だ。」


「親方、有難う。」


「礼は要らないよ、其れよりもみんな筏を作るんだが、わしは悪い事を考えてるんだ。」


「ねぇ~親方、悪い事って一体何を考えてるんですか。」


「わしら野洲の大工が作った筏は頑丈過ぎてその爆裂弾でも簡単に壊れないって事を証明するんだ。」


「でも何の為何ですか。」


「お前は一体何年大工の仕事をやってるんだ、わしらが作るから頑丈なんだと言う事をお殿様方に見せたいんだ、わしは爆裂弾を知らないから好きな様に考えてるんだが、其れよりなぁ~野洲の大工は一流の集まりだって事をお見せするんだ。」


「よ~く分かりましたよ、オレ達大工の腕の見せ所って事ですね。」


「そうだ、爆裂弾が強いか、野洲の大工が作った筏が頑丈か、まぁ~此処はわしら野洲の大工の意地の見せ所って事だ、お前達も分かったか。」


「お~。」


 大工達の雄叫びに。


「よ~し、オレ達もやるぜ。」


 銀次達の仲間も雄叫びを挙げた。


「そうだ、かすがいは何本有るんだ。」


「え~っと、今確か百本は有ると思いますが。」


「よ~し其れで十分だ、其れとノミは長い物と幅広を研ぐんだ。」


「親方、オレ達は今から城下に行ってきます。」


「そうだ、お城に何台か有ると思うんだ。」


「分かりました。」


 銀次達は手分けしお城と城下へ荷車を取りに向かった。


 親方達と銀次達が筏作りの準備が終わり、明日の朝野洲を出発する事を決めたその日の午後、源三郎とげんたが浜に戻って来た。


「お~い、げんただ、其れに源三郎様もだ。」


「銀次さん、準備は終わりましたか。」


「はい、其れで明日の朝上田に行く事に成ったんですが。」


「なっ、あんちゃん、オレの言った通りだろう。」


 げんたは自慢そうに鼻を鳴らし。


「えっ、げんたどうしたんだ。」


「銀次さんが上田に行くって言ったらあんちゃんは松川だって言ったんだ。」


「そうか、源三郎様、オレは。」


「上田の殿様と阿波野様にはお願いして置きましたので大丈夫ですよ。」


 やはり、源三郎は上田の殿様に伝えてくれていた。


「源三郎様、有難う御座います。

 オレは何も考えずに戻って来ましたんで。」


「まぁ~其れも仕方有りませんよ、あの時の状況を考えれば、其れよりも何人行かれるのですか。」


「わしら野洲の大工全員と銀次さん達も全員が行く事に決まりまして。」


「えっ、ではどなたも残られないのですか。」


 源三郎は予想はしていた、銀次の話を聴いた親方の事だから大工全員で行くだろうと。


「そうですか、其れで計画ですが出来たのでしょうか。」


「其れは上田に着いてから考えますので、まぁ~一応大きさだけは決まりましたので。」


「そうですか、其れで大きさですが。」


「はい、一応三十尺四方で筏の上に囲いを作り屋根を付けると言う方法を考えました。

ただ、わしはその爆裂弾って言うんですか、銀次さんから聴いても一体どんな物か知りませんので。」


「其れがねぇ~、爆裂弾と言うのは物凄い破壊力を持っておりましてね、山賀に有る絶壁の崖に大きな穴を開ける程ですからねぇ~、其れはもう大変な物ですよ。」


「えっ、でもその崖って土なんですか、其れとも岩なんですか。」


「其れがねぇ~崖の上から真下まで殆どが岩でしてね、岩石の崖に大きな穴が開いたんですよ。」


「源三郎様はその穴を見られたのですか。」


「いいえ、全て分隊長の報告でしてね、分隊長も別に大袈裟な話をしたとは思っておりませんので。」


「う~ん、其れにしても岩石の崖に大きな穴が開くとはなぁ~、これはわしの考えが甘かったか。」


 親方も銀次の話しは作り話とは思っていない、だが、今源三郎から聞かされ親方が考えて要る以上の破壊力だと言う事が分かったので有る。


「銀次さん、明日の朝で宜しいので私の執務室に寄って下さい。

上田の殿様宛の書状を認めて置きますのでね。」


「はい、有難う御座います。」


「では、私は城に戻りますのでね、親方、宜しくお願いします。」


 源三郎は親方達に頭を下げ、城へと戻って行った。


「げんた、四号船は銀次さんの方法で台が完成するまで少しお預けだ。」


「うん、まぁ~其れも仕方無いなぁ~、オレ少し疲れたから家に帰って眠るよ。」


「げんた、気を付けるんだぜ。」


 げんたは強行軍で少し疲れたのだろう、其れにしても次々と問題が起こり四号船の建造は当初の予定より大幅に遅れ、果たして源三郎が考えた五隻の潜水船は予定の期日までに完成するのだろうか、お城に帰る途中でも相当深刻に考えて要る。


 だが今の現状を考えて見れば其れも仕方が無いと、かと言って爆裂弾の試しを今更中止にしても結果は対して変わらない、後は試しが終わり松川で作られた型枠通りの車輪が早く完成し上下の台も完成する事を願うばかりで有る。


 そして、翌日の朝、銀次は仲間達よりも早く浜を発ち源三郎の執務室へと向かい、源三郎から書状を受け取るとその足で上田へと向かった。


 銀次は速足で野洲を出て二時も経つ頃上田へと入った。


「お願いしま~す、私は野洲の銀次と言います。

阿波野様にお取次ぎ願います。」


 銀次は阿波野を知って要る、だが何時に無く緊張して要る。


「はい、伺っておりますので其のまま左のあの建物に阿波野様がお待ちで御座います。」


「はい、有難う御座います。」


 銀次は上田の大手門を入り、左を見ると阿波野の執務室が見えた。


「あの~、銀次と申しますが、阿波野様は。」


「やぁ~銀次さん、お待ちしておりました、さぁ~どうぞ。」


 阿波野も源三郎と同じで優しく接してくれる。


「はい、お久し振りで御座います。」


「銀次さん、何時もの様にして頂いて宜しいですよ、疲れるでしょうからねぇ~。」


「はい、有難う御座います。」


「銀次さん、総司令の書状は後程拝見させて頂きますのでね。」


「えっ、でも。」


「宜しいんですよ、多分総司令の事ですから銀次さん達の指示通りで行なって下さいと書かれておられると思いますのでね、其れよりも親方さん達は。」


「はい、もう間も無く着くと思いますので。」


「そうですか、其れと木こりさん達と上田の大工、我が藩からも参加させて頂きますのでね。」


「はい、有難う御座います。

オレが余計な事を言ったばかりに皆様方には大変迷惑を掛けて申し訳有りません。」


「其れは違うと思いますよ、何れ上田の洞窟でも潜水船を造らなければなりません。

ですが、あの時、銀次さんが提案しなければ私達ではどうにもならなかったのですからね。」


「あの~、わしらは野洲から。」


「はい、伺っておりますので、はいって左の建物のおられますよ。」


 上田の門番も野洲から大工を初め大勢が来ると聞かされおり余計な事も聞く必要は無い。「有難う御座います。

お~い、みんな行くぞ。」


 親方達大工と銀次の仲間が十数台の荷車を引き上田の大手門を括り、銀次の待つ建物へと向かった。


「阿波野様、どうやら親方達が着いた様です。」


「大勢の様ですねぇ~。」


「はい、野洲から全員で御座います。」


「えっ、其れでは野洲には誰も残っていないのですか。」


「はい、オレ達は筏を早く作り、源三郎様が言われた試みを成功させ、其れから四号船に取り掛かる為に全員行くと決めたんです。」


 野洲の大工を含め洞窟で潜水船建造に携わって要る全員が上田に来ると言う事は今回の試みはどの様な事があっても成功させたいと願って要る源三郎の気持ちがこの人達に伝わって要ると阿波野も感じた。


「あの~、お~銀次さん。」


「親方早いですねぇ~。」


「いいえ、みんなが早く行くんだって、まぁ~みんなは源三郎様の気持ちを知って要るからなぁ~。」


「親方さんですか。」


「はい、今度はお世話になります。」


「いいえその様な事は、私も総司令の申されております試みをどの様な事があっても成功させたいのです。


「はい、其れはわしらも同じで御座います。」


「親方さん、其れでもう直ぐ上田の大工さんと木こり、其れと家臣の数人が来ますので事前の打ち合わせと申しましょうか。」


「銀次さん、お話しはしたのか。」


「いいえ、オレもさっき着いたばかりでまだ何も話して無いんですよ。」


「阿波野様。」


 其れは上田の家臣数人と大工に木こり達が来たので有る。


「さぁ~さぁ~皆さん入って下さい。」


 家臣達が入って行くと。


「阿波野。」


「殿。」


 親方達は正か上田の殿様が入って来るとは思わすにいたので。


「はっ、ははぁ~。」


 と、言って土下座しようとすると。


「皆さん、その様な事は必要有りませんのでね、さぁ~お座り下さい。」


 其れはまるで野洲の殿様と同じで、銀次や親方達は驚きもしないが、上田の大工や木こりは一体どうすればいいんだ、驚きと緊張で何も出来ないと言う表情をして要る。


「銀次、久し振りじゃのぉ~。」


「はい、お殿様もお元気で何よりで御座います。」


 上田の大工や木こり達は殿様が町民を知って要る事事態に驚きは隠せない。


「お殿様、今回は全員で参りましたので皆様方には大変なご迷惑だと思いますが宜しくお願い致します。」


「銀次、宜しいですよ、阿波野頼みますよ、今回の試みは失敗は許されないのでねぇ~。」


「殿、私達も万全を期して成功させたいと考えております。」


「では、私が居れば皆の邪魔になるで有ろうから、後は銀次達とよ~く詰めて下さい。」


 殿様は其れだけを言うと部屋を出て行った。


「では皆さん、打ち合わせをしたいのですが、親方からお話しをして下さい。」


 阿波野は親方と銀次達に任せるのが最も良い方法だと考えており、其れは野洲での経験で何も分からない者が余計な話しをすれば早く完成する物が遅れ、その遅れが後々尾を引く事に成ると分かって要る。


「はい、じゃ~わしから説明させて頂きます。」


 親方は今回の筏作りには上田の浜の漁師達にも協力して貰いたいと阿波野に伝え、そして、大工には仕事の内容を初め、木こり達には山で間伐材が有れば十分だと、更に家臣達には何れの日には上田の洞窟でも潜水船の建造が始まるので大工と協力し洞窟内に作業場を作る為に整地し、板を敷き詰めて欲しいと詳しく説明した。


「親方、では今回作る筏は後日何かに使わるのですか。」


「源三郎様のお話しでは多分粉々になるだろうから洞窟内のかがり火や松明に使用する為に回収する様にって言われておられました。」


「承知しました、其れで銀次さん達と木こりで山に入られるのですか。」


「オレ達は野洲でも数十回山に入り、間伐材を集め、親方の指示で決められた長さと皮を剝き、大工さんが加工に入られる様に準備して置きましたんで今回も同じ方法でやろうと思ってます。」


 阿波野は余りにも手際の良さに感心して要る。


 やはり野洲での苦い経験が大工の親方や銀次達が何が必要なのかまで学んだのだと。


「阿波野様、其れと今回筏を試されるそうですが、わしら大工からお願いが有るんですが。」


「我々に出来る事ならばどの様な事でもさせて頂きますので申して下さい。」


「皆さんご無理をお願いしたいんですが、上田の浜に有る漁師さん達の家を全部建て替えて欲しいです。」


「あの~親方、何の為に漁師の家を建て替えるんですか。」


 彼は上田の大工で何故漁師の家を建て替える必要が有るのだと、其れこそ余計な仕事だと思って要る。


「其れはねぇ~わしらの経験なんです。

上田の大工さんにお聞きしますが、皆さんの家から浜までの距離はどれくらい有るか知っておられますか。」


「え~っと、オレ達は上田のご城下でも少し離れた所に居るんで、一里半以上有りますが。」


「一里半以上ですか、其処から毎日浜に行き洞窟に入って色々な作業を終わり、また一里半以上を歩いて帰る事は出来ますか。」


「えっ、その仕事って毎日有るんですか。」


「勿論ですよ、洞窟内を整地し厚さ一寸の板を敷き詰め潜水船を建造する為の作業場を作り、全部が出来て、其れから潜水船造りが始まるんですよ、其れに洞窟内には大量のかがり火用の薪木が要るんですよ、わしらはかがり火用の薪木を漁師さん達の家を取り壊した廃材を利用する事を考えたんですよ。」


「私も少し分かり出しましたよ、下手な厚木を使うよりもよ~く燃えるんですね。」


「阿波野様、野洲では漁師さん達の家を建て替え、其れとわしらの家も建てたんです。

 毎日我が家から浜に行き仕事が終わって帰ると家の者も大変だからって源三郎様が言われたんです。」


「では皆さんの食事ですが。」


「はい、野洲では朝は浜で全員で頂きます。

  勿論、漁師さんもですが子供達や奥さん方も浜の全員で食べ、わしらは其れから洞窟に行くんです。」


 野洲では無駄な時間を省いた、そのお陰と言うのが銀次達も浜の人達とも仲良くなり、お互いが協力出来る様になったと言うので有る。


「じゃ~何時自宅に帰れるんですか。」


「なぁ~あんた達に聴きたいんだが、今連合国がどんな状態か知ってるのか、其れにだよオレ達が何の為に上田に来てるのかあんた達は本当に分かってるのか。」


 上田の大工達は理解出来ていないと言うよりも理解する気持ちが無いと銀次は思った。


「上田のお殿様がよ~く話し合えって言って下さった意味が分からないんだったらオレが話すからよ~く聴くんだ、オレはなぁ~この通り島帰りなんだ。」


 銀次が袖を捲くると島帰りの証で有る刺青が見えた。


「オレ達全員が島帰りなんだ、だけどなぁ~野洲の源三郎様は自分達侍は領民の為にその命は何時でも捧げる、だが命を無駄にはしない、何としても幕府軍か其れとも官軍から領民だけは助けたいと、もうみんなが必死なんだ、だから野洲の大工さん達はこの数か月は自宅には帰って無いんだ、だけど野洲の大工さん達は一切文句は言わないんだ、その訳はなぁ~最後には領民だけでも助かって欲しいって、其れはなぁ~あんた達も入ってるって事なんだよ、分かったのかよえ~。」


 銀次達は島帰りで仕事も無く、だが源三郎のお陰で仕事にも就け、更に食べる物も有り、眠る所まで有り、その様な世界が今何処に有るんだと言いたいので有る。


「皆さん、今銀次さんのお話しは本当ですよ、我が殿も領民さえ助かるので有れば自分の身はどの様になっても良いと申されておられるのです。

 何故潜水船が必要なのか其れはねぇ~今官軍が強力な軍艦を造り、我々連合国の沖を通過すると言うのです。 若しもですよ上田の浜に其の軍艦が着き浜に官軍の兵隊が上陸すれば一体どの様になるか分かりますか。

 官軍の持つ強力な武器に対し我々は弓と刀だけですよ、我々が戦に勝つ事は不可能でしてね官軍の兵士達は男達は皆殺し、女は犯し、子供までも殺すのです。

 野洲で造って要る潜水船が今我々にとっては最後の砦なのです。


 銀次さんはねぇ~先日連合国のお殿様方の前で爆裂弾の試しを行う為には大きな筏が必要で自分達が作りたいんだと申されたのです。」


「なぁ~みんな爆裂弾が本当に軍艦を沈める事が出来るって事をこの上田の浜で試すんだ。

 今はなぁ~一刻でも早く筏を作りたいんだ、その試しが成功したら連合国は助かるかも知れないんだ、お殿様方はオレ達に任せるって言って下さったんだ、オレ達だって必死なんだ、本気で考えてくれよ。」


 上田の大工達は暫く考え。


「銀次さん、済まなかった、オレ達も考え直して早く筏を作りますので。」


「有難う、じゃ~木こりさん達はオレ達と一緒に山に入り間伐材の有る所に連れて行って欲しいんだ。」


「銀次さん、分かりましたよ、わしらも協力させて貰いますので。」


 やっと上田の大工達と木こり達も納得した。


「其れで一体何本要るんですか。」


「親方、何本要るんですか。」


「う~ん、筏だけならいいんだが、少し待ってくれよ他の事も考えるんで。」


親方は腕組みをし考え、暫くして。


「間伐材で十本程だけど長いのが要るんだ、後はまぁ~適当に頼みますよ。」


「その十本ですが筏の下に置く為に要るんですね。」


「うん、其れと後はコロに使いたいんで、少し細い丸太でいいんだ。」


「分かりました、其れと。」


 この後、親方は野洲と上田の大工達に説明し。


「阿波野様、原木は大量に要りますので銀次さん達が筏に使う分量を運び終えました後は上田の皆様に何とかお願いしたいんですが宜しいでしょうか。」


「其の原木は潜水船だけに使うのではないのですか。」


「潜水船を造る為には洞窟内に厚さ一寸の板を敷き詰めるんで、上田の大工さん達にお願いしたいんです。」


「では我が家中の者達も動員し運び入れます。」


「お侍様も大変だと思いますが、運ぶ本数は木こりさん達の言う通りにお願いしたいんです。」


「分かりました、では皆様方何卒宜しくお願い致します。」


 阿波野は全員に頭を下げた。


「よ~し、オレ達は木こりさん達と一度山に入って下調べをするぞ。」


「銀次、其れと荷車はどうするんだ。」


「あっ、そうかオレも忘れてよ、阿波野様、お城に有る荷車をお借りしたいんですが。」


「分かりましたよ、直ぐ手配しますので、誰か荷車を全部出して下さい。」


「わしらは浜に行きますので。」


 銀次達は木こりと数十台の荷車を引き山へと向かい、親方は上田の大工達を連れ浜に向かった。


「阿波野。」


「殿。」


「大変だが何としても頼むぞ、其れと先程の話しだが浜の漁師達もだが城下の者達に対し再度話をしてくれ、爆裂弾の威力を試すので相当大きな音が聞こえるが何事もないと話してくれ、其れとだ、今一度領民に対し、今の連合国の事もですよ。」


「殿、承知致しました。」


 早速家臣達に説明し城下へと向かい、家臣達は城下の町民達に詳しく説明を始め、阿波野は浜へと向かった。


親方と銀次達が中心となり数日後から浜で巨大な筏作りが始まり、数日掛かりで完成した。


 筏が完成した数日後、今度は山賀から爆裂弾が若様と吉永、更に山賀に駐屯して要る中隊から二個中隊が護衛し運ばれて来た。


その翌日には菊池、野洲、松川からも殿様方と高野達も上田に到着した。


「阿波野様、大変なご迷惑をお掛け致しました。」


「我々は何も出来ずにおりまして、全て親方さん達と銀次さん達にお任せてしておりましたので、其れに我々も完成した筏を見ておりませぬ。」 


「試しの予定ですが、其の前に今回試しを行う事に成っております分隊長達を現地に向かわせまして筏を見せたいと思うのですが如何で御座いましょうか。」


「承知致しておりますが、其の前に少し休まれては如何で御座いましょうか。」


 源三郎は一刻でも早く爆裂弾の威力を見たいと思って要るが、阿波野にすれば何故其れまでに急ぐ必要が有るのか理解している。


「私は何時でも宜しいのですが、工藤さんは如何で御座いましょうか。」


「私も先に現地を拝見させて頂き、その後分隊長と段取りを考えたいと思っております。」


 工藤も今回の試しが成功するか失敗に終わるのか、それ以上に爆裂弾の威力が早く知りたいので有る。


「私は今からでも参りたいのですが。」


「では私がご案内致しますので。」


「阿波野様、お願いします。

  工藤さん、分隊長も参りましょうか。」


 阿波野の案内で源三郎達は上田の浜へ向かった。


「阿波野様、此処から浜までは。」


「はい、一里も有りませんので直ぐに着きます。」


半時程で浜に着いた。


「う~ん、何とこれは物凄い大きな筏ですねぇ~。」


「いゃ~誠巨大な筏で、其れに頑丈そうな作りですが。」


「我々は詳しく見たいと思いますので。」


工藤と分隊長と兵士達は浜で作られた巨大な筏の中を見たいと、親方も相当考えて作ったと見え、太さ一尺も有る原木で作られて要る。


「この作り方は大変だったと思いますが、さすが野洲の大工さんですねぇ~。」


「其れは言えますよ、私も正かこの様な巨大な筏だとは考えておりませんでしたよ。」


「確かにそうですねぇ~、同じ作り方で有ると言う事は何度か試す事が出来ると思うで御座います。」


 上田の浜には親方達と銀次達が作った巨大な筏が数艘有る。


「最初は五合弾で試し、次は一升弾ですが、う~ん、問題は爆裂弾の威力が分かりませんので、沖の方に持って行かなければなりません。」


「爆裂弾は浜で設置し私達が一緒に沖まで行きたいのですが。」


分隊の兵士は身震いしながらも今度の試しは自分達にしか出来ないと思って要る。


「う~ん、そうですねぇ~今はその方法しか有りませんねぇ~。」


その後、分隊長と兵士達が筏に作られた小屋に入り明日予定の段取りを考えて要る。


「阿波野様、明日ですが浜の人達は。」


「はい、一応、この浜から少し離れて頂く話は出来ております。」

「今回の試しですがどの様な結果になるやも知れませぬので、私が思うにはこの頑丈な作りの筏がどの様な状態にまで破壊されるのか其れが見たいのです。」


「勿論私もで御座います。

  山賀の時にはどなた様も見られておりませんので今度ばかりは大変興味が有ると思っております。」


「総司令。」


「工藤さん、如何で御座いましたか。」


「私はこの筏を破壊するのが、何故か。」


工藤は言葉を濁した。


「私も分かりますよ、之だけの筏ですからねぇ~、荒海でも大丈夫だと思いますよ、ですが其れをあえて試すのですよ、其れで無ければこの筏を作った価値が無いと思うのです。」


 目の前に有る巨大な筏がどの様に破壊されて行くのか、其れが今後官軍の軍艦を沈めるだけの破壊力を備えて要る事を連合国の殿様方に見せる事により、げんたが考案した潜水船と爆裂弾が本当の意味で官軍に脅威を与えると思っており、其れが最終的には連合国の生き残る為の役に立つと言うもので有る。


 そして、明けた日の早朝から分隊長達は何度も頭の中で順番を確かめて要る。


 そして、連合国の殿様方も源三郎達も早めの昼餉を取り、上田のお城を出、浜へと向かった。


 その日は快晴で空には雲一つなく、更に運が向いて来たのか全くと言っても良い程無風状態で海は殆ど波も無く穏やかで有る。


「中隊は浜の入り口付近の警戒に入れ。」


 工藤は若しもの事を考え上田に駐屯して要る中隊に警戒に当たらせた。


「吉田中尉、準備に入れ。」


「了解しました。」


 分隊長達は早くも小舟に乗り沖へと向かった。


「よ~しオレ達の出番だ、みんな行くぞ~。」


 銀次達の仲間が一台目の筏を浜から海に入れて行く。


 巨大な筏はゆっくりと海へと、筏の前には数本の太い縄で漁師達の小舟と繋がっており、海に入った筏はゆっくりと沖へ沖へと進んで行き、やがて一町、いや一町半以上進むと小舟から縄が外され、そして、分隊長と数人の兵士が乗り込み囲いの中に五合徳利の爆裂弾を運び入れ分隊長一人を残し筏から離れた。


 小舟に乗った兵士が大きく手を振り、其れが合図なのか分隊長が筏に取り付けた爆裂弾の導火線に火を点け小舟に飛び乗り漁師は浜へと必死に漕いで行く、分隊長を乗せた小舟が筏から少し離れた時。


「ドッカ~ン。」


と、突然大音響と共に巨大な筏は木っ端微塵に吹き飛んだ。


「お~、何じゃ、何と恐ろしいのじゃ、工藤、あれは一升弾なのか。」


「いいえ、殿様、今のは五合弾で御座います。」


 其の時、木っ端微塵になった筏の破片が無数海へと落下して行く。


「源三郎、何と恐ろしいのじゃ、今のが五合弾とすれば一升弾では筏の形は無くなるので無いのか。」


「殿、私もこれ程までに破壊力が有るとは考えておりませんでした。」


 時々源三郎達が居る浜にも木片が飛んで来る。


「お~い、助けてくれ~、兵隊さんが大変なんだ。」


 浜には次々と小舟が帰って来た。


「一体どうしたんだ、あっ。」


 小舟に乗って居る兵士の背中には数十本もの木片が突き刺さっており、源三郎達は直ぐ兵士を浜に上げると。


「う~ん。」


 兵士は唸り声を上げて要る。


「おいしっかりするんだ。」


 浜の漁師達も怪我をしているが命には別条なく。


「この兵隊さんがオラを庇って。」


「大丈夫ですか。」


「うん、オラはあんな恐ろしいのは初めてだ。」


 漁師達は恐怖の余り浜に上がっても身体の震えが止まらずにいる。


「中佐殿、私はあんな恐ろしい爆裂弾だと考えておりませんでした。」


 爆発と同時に粉々になった木片が爆風で四方八方へと飛び散り小舟にも数十本もの破片が突き刺さり爆裂弾の威力を物語っている。


「源三郎、五合弾でこの威力じゃ、一升弾は止めてはどうじゃ。」


「私も殿様のご意見に賛成で御座います。

 五合弾で爆裂弾の威力は証明されたのでは御座いせぬか。」


「工藤さん、貴方は何を申されているのか分かっておられるのですか。」


「ええ、ですが。」


「何をですかでは無い、戦の最中に余りにも恐ろしいとお互いが戦を中止するとでも思って要るのか、戦とは敵を殺すか、自分が殺されるかで、その様な中途半端な考え方で軍艦を沈める事が出来るとでも思って要るか。」


 源三郎が本気で怒った。


 普段が優しい心遣いの人物だが今回だけは違う。


「其れでも貴方は軍人か、一升弾も続けて行う準備に入れ。」


 吉田も源三郎が鬼の様な形相に返事も出来ない。


「吉田中尉、出来ないのか。」


「はっ、はい。」


 吉田は返事をしたものの動けずにいると。


「銀次、私に命を預けろ。」


「はい、喜んで。」


「よ~し銀次、私が行くみんなで筏を押すんだ、其れと小舟を操れる者はいるか。」


「源三郎様、オレ達は元太さんがいない時に何度も自分達で洞窟まで行きましたから大丈夫です。」


「よ~し小舟を操れる者は筏を沖まで運べ。」


「源三郎は何をするのじゃ。」


「私は筏に乗って行く、吉田導火線を先程より長く三倍の物だ早くするんだ。」


 吉田は驚き数本の導火線を繋ぎ渡すと。


「源三郎。」


「殿、私が一升弾を爆破しますので、私が無事に戻らなければ後の事は宜しくお頼み致します。」


 源三郎は命懸けで一升弾を爆破すると言うので有る。


「お辞め下さい、私が参ります。」


「吉田、今更何を言っている、お前達は本物の軍人では無い、武士でもない、銀次命は無いと思え。」


「はい、オレも源三郎様と一緒なら本望です。

  おい野郎ども、オレ達が本気だってところをお見せるんだ、源三郎様に命を預けるぞ。」


「よ~し銀次決まった、オレ達は源三郎様に命を預けるぜ。」


 源三郎は着物を脱ぎふんどし一丁に銀次達も同じで有る。


「よ~しみんな漕ぐんだ。」


 銀次の号令で十数艘の小舟が一斉に筏を沖へと引き出し始めた。


「吉永様、義兄上は大丈夫でしょうか。」


「私は何とも申せませぬが、源三郎殿は命を捨てる覚悟の様です。」


 其れは吉永だけが思ったのでは無く、殿様方は何も言えずにいる。


「お~い源三郎、必ず戻って来るのじゃぞ。」


 殿様は大声で叫んだが、もう源三郎が聞こえる様な距離ではでない。


「私は義兄上のあの様な形相を初めて見ました。」


「竹之進、源三郎は命を捨てる覚悟なのじゃ、皆も聞くのじゃ、源三郎は何としても軍艦を連合国の浜には着かせぬ為に命を捨てる覚悟なのじゃ、余もこれからは本気で戦うぞ。」


「銀次、あの世へ行ってみんなで酒を酌み交わすぞ。」


「はい、源三郎様、オレは今本当に嬉しいんですよ、源三郎様、オレはもう。」


「銀次、いいんだ、だがなぁ~私は簡単には死なぬ、沖に行ったら私の合図で舟を漕ぎ始め筏の横をすり抜けて下さいね、其の時導火線に火を点けますので思い切り漕ぐんすよ分かりましたか。」


「はい、勿論でオレに任せて下さい。」


 銀次は筏の後から押す様に漕いで行き、其のまま暫く進むと。


「よ~し、この辺りで十分で、他の者は筏から離れて。」


 十数艘の小舟は次々と筏から離れて行く。


「よ~し銀次、筏の前に漕ぎ始めてくれ。」


 銀次は小舟を漕ぎ始め、丁度中程に差し掛かった頃源三郎は導火線に火を点け走り小舟に飛び乗った。


「よ~し銀次、思いっきり漕ぐんだ。」


 銀次は必死で漕ぎ、筏から離れて行き、半町、一町を過ぎた頃。


「ドッカ~ン。」


 大音響と共に筏は木っ端微塵に壊れ木片が四方八方へと飛んで行く。


 他の小舟に乗って居る仲間も必死に漕いでいる。


「銀次、早くだ、もっと早く漕ぐんだ。」


 銀次も必死だ、其れでも木片は飛んで来る。


 其の時、源三郎の背中に木片が刺さり。


「う。」


 源三郎の背中には数本の破片が刺さった、銀次の背中にも刺さっているが、銀次も必死だ、例え自分は死んでも源三郎だけは助けるんだと、そして、暫くすると要約逃げ切ったのか木片も飛んで来ない。


「銀次、大丈夫か。」


「はい、オレは、う。」


 源三郎は銀次の背中にも木片が刺さっているのを見ると。


「銀次、私が交わる。」


「いいえ、源三郎様、オレは大丈夫ですからこのまま浜へ。」


と、言って銀次はその場に倒れ込んだ。


 源三郎の背中にも木片が刺さっているが今の源三郎に痛みは感じていない。


「源三郎様、大丈夫ですか。」


 銀次の仲間が舟を近付け。


「オレ達に任せて下さい。」


「済まないが頼む。」


 仲間が乗り込み浜へと向かった。


「お~い、源三郎様が大変なんだ。」


 浜に居た兵士達と若様が海に飛び込み源三郎と銀次を担ぎ出した。


「源三郎様、オレは天国で、いや地獄で待ってますよ。」


「銀次、地獄ですか、嬉しいですねぇ~では私も行きますからね、待ってて下さいね。」


 源三郎と銀次は笑って要る。


「源三郎、大丈夫なのか。」


「義兄上。」


 みんなが近寄り二人の様子を見るが、源三郎は銀次の背中に刺さった木片は抜くなと。


「源三郎様、オレよりも。」


「いいんだ、私よりもお前の方が大事だから。」


「お~い、誰か漁師の家から布切れを貰ってくれ早くだ。」


「源三郎様、成功したんですか。」


 銀次は背中の傷よりも爆破が成功したかと聞いた。


「勿論ですよ、私が確認しましたからね。」


「あ~良かった、じゃ~地獄で待ってますんで。」


銀次の身体から木片を抜いて行くが其の時には銀次は気を失っている。


「源三郎、済まぬ、余は何も出来ぬ。」


「殿、全て成功で御座います。

 若様、五合弾を作って下さい。」


「はい、承知致しました、義兄上、私は。」


「もう済みましたのでね。」


「総司令、私は。」


 工藤は情けないと言う表情で有る。


「全て終わりましたので、これからは五合爆裂弾で訓練に入って下さい。」


「はい、承知致しました。」


 源三郎と銀次は無事に戻り、工藤は早速指令を出し、工藤と吉田は改めて固い決意をした。


 数日後、浜の漁師全員で海の木片を集め全て洞窟のかがり火用に使う為運んで行く。


 源三郎と銀次の傷は二十日程で治り、銀次の考えた方法で野洲の洞窟で四号船の建造に入った。

 

果たして予定の期日までに五隻の潜水船は完成するのか、野洲の大工達も銀次達も総力を上げて行く。







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