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闇の帝国    作者: 大和 武
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 第 14 話。新たに考案した物。

 さぁ~今日からは参号潜水船が係留された状態で訓練が開始で有る。


「小川少尉、今日から訓練開始ですが、分隊は。」


「はい、第二、第三分隊の予定をしております。」


「分かりました、其れで全員は身軽でしょうか。」


「はい、全員余計な物は持っておりません。」


「では、浜に向かい出立。」


 吉田が先頭になり、小川と二個分隊が速足で浜へと向かった。


「元太さん、大丈夫ですか。」


「オラはもう大丈夫ですが、源三郎様、人様に教えるって本当に難しいですねぇ~。」


「其れが当たり前なのですよ、誰でも自分自身は分かって要るから他の人達も直ぐに分かるだろうと思うのです。

 ですが其れが大変な間違いでしてね、ですからと言って今度は自分自身が理解する為に余計な事までも考え、其れが頭の中で混乱するのでは無いかと思うのです。」


「そうでしたよ、オラも自分が分かったから他の人達も直ぐに分かると思ったんです。」


 元太が苦労した事は無駄では無かった。


 其れが訓練方法の変更と言う事に成ったのだが、果たして元太自身も理解出来ているのか、元太自身も分からない。


「まぁ~考え様によっては元太さんが教える事に対し苦労された結果、当分の間ですが海に出るのではなく、係留された状態での訓練が行なえるのですからね、苦労も決して無駄では無かったと思いますよ。」


「でもオラも考えますよ、教え方もですが、オラは本当に潜水船の事が分かってるのかって。」


「其れは問題では無いと思いますよ、参号潜水船が大きいと分かっておりましたがね、実際に操船するとなれば動き方が全く違うのですから、ですが一度経験されたのですから今度は大丈夫ですよ。」


「でもオラは全然自信が無いんですよ。」


 元太は教える事に自信が無いと言う、だが元太は漁師で海には詳しく、その元太に教えて貰わなければ一体誰が海の事を教えると言う。

 浜には多くの漁師が居る、だが元太が出来なければ他の漁師には到底無理な話しだ。


「まぁ~元太さん、これからはのんびりと教えて頂いても宜しいですからね。」


「でも、官軍が。」


「官軍の事は考える必要は有りませんよ。」


 源三郎が頼れるのは鈴木でも上田でも無い、この浜の漁師で有りその中でも元太以外には考えられ無い。


「まぁ~元太さん、私も鈴木も上田もおりますからね安心して下さいね。」


「はい、分かりました。」


 だが元太の返事は何故か弱々しい。


「あんちゃん。」


「げんた、早いですねぇ~。」


「そうなんだ、今日親方と四号船の打ち合わせをするんだ。」


「えっ、もう四号船を造り始めるのですか。」


「そうだよ、だけど其の前に親方と打ち合わせをしてからなんだ。」


 参号潜水船の建造が当初予定より大幅に遅れ、げんたと親方が問題の解決に向け打ち合わせに入ると言う。


「参号潜水船に何か問題でも有ったのですか。」


「其れが分れば話は簡単なんだ、だけどなぁ~。」


 やはり何か問題が有ったとしか考えられ無いのだろうか。


「分かりましたよ、私も後程参りますのでね。」


「うん、分かったよ、じゃ~ね。」


 げんたの表情を見る限り余り深刻には考えていない様に思える。


「吉田中尉、潜水船ですが本当に海の中に潜ったんですか。」


「勿論ですよ、私も初めて経験しましたがね、官軍でも正かと思うでしょうからねぇ~。」


「小川少尉はどうでしたか。」


「私はまだ海の中に潜ったと言う実感が無いのです。

 でも元太船長の動きで海の中に潜っていると思うのです。」


「船長だけが外を見ておられますのでね、船長の動きにも他の者達も注意が必要だと言われましたよ、

まぁ~私の話しよりも潜水船に乗れば分かりますよ、当分の間は潜水船で湾内に出る事よりも自分の身

体に覚えさせる事の方が大事だと思いますよ。」


 第二、第三分隊の兵士はどの様な訓練が行われるのか不安げな表情で有る。


 だが今日からの訓練は潜水船は係留状態で行われ兵士達が思う様な不安は無い。


 お城を出た第二、第三分隊は半時程して浜に着いた。


「オレは海を見るのは初めてなんだ。」


「え~、じゃ~お前は何処なんだ。」


「オレの家は山の奥に在って、小さな川が流れているだけなんだ。」


「実はなぁ~オレもなんだ、其れにしても海って大きいなぁ~。」


「そうだけど、其れにしてもこの匂いって一体なんだ。」


「これがなぁ~磯の香って言うんだ。」


「お前は海を知ってるのか。」


「勿論だ、わしは漁村で生まれたから、でも久し振りだなぁ~この潮の香りは何て言っていいのか分か

らないんだ。」


 吉田が連れて来た兵士の殆どが農村や漁村の出身で各人が生まれ故郷を思い出して要る。


「でも、わしの村は早くに軍に焼き払われたんだ。」


「えっ、軍って幕府軍なのか。」


「いや違うんだ、実は官軍なんだ、わしはあの時山に行って薪木を集めていたから何も知らないんだ、でも帰って来ると村は焼き払われ殆どが殺されてたんだ。」


「だけど何で官軍って分かったんだ。」


「其れがなぁ~まだ何人か生きてたんで、其れでその人に聴くと侍では無いって、今まで見た事も無い兵隊だって分かったんだ。」


「そうなのか、実はなぁ~オレもなんだ。」


 分隊の兵士達は心の中で何時かは必ず親兄弟や村人達を殺した官軍に対し仇を討ちたいと願って要る。

 其れが思わぬ方向から官軍の軍艦に攻撃を加えると言う話に官軍の軍艦を沈めてやるのだと密かに誓ったので有る。


「吉田中尉、潜水船って一体何処に有るんですか、浜には小舟だけですよ。」


 兵士達は浜に洞窟が有るとは知らされていない。


「まぁ~何も急ぐ事は有りませんよ。」


「中尉、総司令が其れと元太船長に鈴木様と上田様もご一緒です。」


「第二、第三分隊は整列、総司令に対し。」


「まぁ~まぁ~吉田さん、宜しいですよ、其れよりも元太さん、鈴木様、上田様もお願いしますね。」


「はい、第二、第三分隊は元太船長、鈴木殿、上田殿に対し敬礼。」


 驚いた元太と鈴木、上田は慌てて礼をした。


「総司令、本日から訓練に入ります。」


「まぁ~まぁ~吉田さん、余り窮屈には考えないで、皆さんも余り神経質にならないで下さいね、今日からは元太船長、鈴木、上田の三名が厳しく、いいえ、優しく教えてくれますので、分からない事が有ればその場で聞いて下さいね、元太船長ものんびりと教えて上げて下さいよ。」


「元太船長、宜しくお願いします。」


「オラも今日からは皆さんと一緒ですから、其れよりも皆さんはお互いが仲間だと言う事だけは忘れない様にして欲しいんです。」


 分隊の兵士達も元太が漁師だと分かり少し安心したので有る。


「鈴木殿、何か有るでしょうか。」


「いいえ、私は別に御座いません。

 皆さんも初めてしょうが、我らも同じ様なものですからね、皆さん、お互い元気を出して行きましょう。」


「では行きますよ、お~い、頼むよ。」


「元太、オラ達は何時でもいいよ。」


「よ~し、じゃ~皆さんはあの小舟に乗って下さい、今から洞窟に行きますんで。」


「え~、洞窟に行くんですか。」


「そうですよ、その中に参号潜水船が係留されておりますのでね。」


「だけど洞窟の中って暗いって聞いてますが。」


「皆さん、私が何も言って無かったのですが、其れはもう大きな洞窟でしてね、中は皆さんが思って要る様な暗い所では無く松明やかがり火で明るいので心配は無いですよ。」


「中尉、本当ですか、今の話は。」


「まぁ~此処に比べると少し暗いですが、其処では大勢の人達が仕事をされておりますよ。」


 吉田中尉は事前に説明をせずにいた、其れが兵士達にとっては不安だと言うので有る。


「では行きましょうか、源三郎様も行かれるのですか。」


「勿論、私も参りますよ、先程げんたも行きましたのでねぇ~。」


「分かりました、ではオラの舟に。」


 元太の舟には源三郎、鈴木、上田が乗り、吉田達もその後に続き洞窟へと向かった。


「鈴木様も上田様も暫くはこの訓練が続きますが、宜しくお願いしますね。」


「はい、勿論で私達も当分の間は訓練に参加させて頂きたく思っております。」


 そして、兵士達を乗せた小舟は次々と洞窟に入って行く。


「わぁ~洞窟ってこんなにも大きいのか、でも中は思った以上に明るいなぁ~。」


「そうだなぁ~、オレは中は暗いと思ってたから、其れにしても大きな洞窟だなぁ~。」


 洞窟の奥へと進んで行く。


「えっ、あれは。」


「潜水船ってこんなに大きな船だったのか。」


 兵士達は最初の事をすっかり忘れており、どの兵士も洞窟も潜水船を見ていたはずで有る。


 元太を始め、源三郎も鈴木、上田が上陸しその後兵士達も次々と上がって行く。


「全員整列、本日から係留された状態で訓練を行なうが、潜水船内が暗闇になっても慌てる事無く、全ての事が出来る様になって欲しい、では第二分隊は残れ、元太船長、宜しくお願いします。」


「鈴木様、上田様、先に入って下さい。」


「はい、了解しました。」


「皆さん、少し聴いて欲しいんです。

 この浜ではみんなが仲間で、その仲間が一生懸命造った潜水船で仲間の為にも、そして、みんなの家族の為にも、オラもですがこれからは本気でやりますのでみんなも本気になって下さい、お願いします。」


 元太は改めて吉田達に頭を下げた。


「元太船長、我々もこれからは一生懸命に訓練に励みますので間違ったりすればその場で注意して頂いても宜しいので宜しくお願いします。」


「ねぇ~親方、あの人達も大変ですねぇ~。」


「そうですねぇ~、わしらは潜水船を造るだけで後の事はあの人達に任せる事に成るんですがね、これからはわしらも気合を入れてみんなが安心して乗れる潜水船を造らなければならないと、今改めて思いましたよ。」


「オレも同じですよ、また最初の頃の気持ちに戻って造りたいですねぇ~。」


「其れにしても源三郎様は大変だなぁ~、銀次さん、わしは源三郎様のお身体が心配ですよ。」


「そうですよ、オレ達にとっては源三郎様は命の恩人ですから、オレ達の事で源三郎様にご迷惑が掛からない様にしなければならないですからねぇ~。」


 銀次は改めて源三郎の存在は大きいと思って要る。


 源三郎がいなければ今頃はどの様になっていたのか分からなかったのだ。


「吉田さん、本当は入り口を閉めるんですが、閉めたと考え訓練を始めます。」


「全て元太船長にお任せします。」


「はい、では皆さん今から詳しく説明しますのでよ~く聞いて下さい。

 其れと分からない事が有ればその場で聞いて下さいね、分からないままで訓練を続けますと、実際、海に潜った時に慌てて大事故に繋がり下手をすると乗組員全員が水死しますのでね。」


 説明役には鈴木と上田に任せ、元太は潜水鏡の前に立った。


「では、今から始めます。

 今元太船長の横に有るのが潜水鏡と言って。」


 鈴木は全員に理解出来る様にと難しい言葉使いでは無く優しい言葉使いで説明を始めた。


 吉田も小川もだが分隊の兵士達は真剣な顔付きで聞いて要る。


「中尉、みんなも真剣ですねぇ~。」


「小川、話しは後で。」


 吉田も真剣に聴かなければならないのだと、小川に口止めをした。


「あの~宜しいでしょうか。」


「はい、どの様な事でしょうか。」


「今の説明では船長の動きをよく見る様にと言われましたが、でもその意味が分からないんですが。」


「では説明しますのでね、まず今は敵軍の軍艦を探して要ると思って下さい。

 そして、今、船長は船の進行方向から左に少しずつ身体が横に向いております。」


 元太は鈴木の説明に合わせ左方向へと変えて行き左に変えたところで停まった。


「この時船長は敵の軍艦を発見しました、と、皆さんも想像して下さい。」


 元太も動きを止め。


「ちょい左、もうちょい左。」


「ちょい左、よ~そろ。」


「今、上田が言いましたが、上田も船長の動きが止まったのを確認しております。」


「よ~しもど~せ。」


「戻しま~す、よ~そろ。」


「この操作は船長が前方の少し左に敵の軍艦を確認しましたのでこれからその軍艦に向け近付くのですがね、これからが難しいので、先程の話しに戻りますが、皆さんが敵を発見した、其の時ですが目を離しますか。」


「いゃ~正かオレでも敵の軍艦を確認する為に少し動きますよ。」


「其れと同じでしてね。」


 海は広く遠くに発見してもその船が敵の軍艦なのか廻船問屋の船ならば見逃したところで問題は無い。

 だが軍艦ともなれば沈めるか、其れとも航行不能にしなければならないので有る。


「先程、船長が左方向に動き途中で停まり、左方向へと指示を出し、上田も其の前に左へ向ける判断は出来ており直ぐ左に向けましたが、船長の動きを見ておらずに指示だけを待つと少しですが反応が遅れ、其れが後々軍艦を見逃す事も有るのですよ。」


「じゃ~潜水鏡を見る人は其のままでずっ~と見てるんですか。」


「今はその方法だけで他の方法が見付からないのですが、貴方は何か考え付かれたのですか。」


「いゃ~オレは素人ですから、其れに余計な事を言えば怒られますので。」


「いいえ、我々も素人ですよ、私には考え付かない事でも貴方が思われた事で改良する事も出来るのです。

 其れに私は何も余計な事だと思いませんからね、我々は皆さんの質問や意見に反論する事よりも前向きに考えたいのです。」


「オレは素人なんで潜水船の事は分からないんですが、潜水船って何時も潜ったままなんですか。」


「いいえ、この洞窟に係留された状態ですが、洞窟を出る時は潜りますので、其れが何か。」


「だったら何処まで沈んで要るんですか。」


 兵士は素人だと言うが、元太も今の状態が普通だと思っており、兵士の話は何を言いたいのか分からない。


「何処まで沈んでいると言われましたが、外側に線が有り其処まで沈ませているのです。」


「オレはさっき言われた事とは関係が無いかも知れませんが、潜水船が敵の軍艦を探す時ですが入り口から身体を出して探せないかなぁ~って思ったんです。」


「えっ、入り口から身体を出して軍艦を探すのですか。」


 鈴木もだが源三郎は思いも依らない話に驚き、分隊の兵士達は本気になっていると感じたので有る。


「済みません、オレは余計な事を考えてました。」


「いいえ、今の意見ですが、何故その様に思われたのですか。」


「本当にいいんですか、後で怒られないですか。」


「勿論ですよ、何故、我々が起こる必要が有るのですか、皆さんも疑問が有れば聴かせて下さいね。」


「じゃ~さっき言われたんですが、船長が敵の軍艦を探す為に長い事潜水鏡を覗くって、でも船長の動きを他の人も見るって、こんなのは長い事は無理だと思ったんです。」


「お前、そんな事を言ったら後で。」


「いいえ、宜しいんですよ、そうですねぇ~、元太船長は潜水鏡を覗いた状態で敵の軍艦を探すのは大変でしょうか。」


「其れはもう大変で、本当に辛いですよ、何時も覗いてるんですから身体も目も其れに頭まで疲れて後は何もしたくない程ですから。」


 元太も潜水鏡を覗き敵の軍艦を探すのは大変辛いと言う。

 兵士の意見で四号船の改良に繋がるとは、この時、鈴木も上田も、更に源三郎さえも考えはしなかった。


「敵の軍艦を発見するまでは入り口から身体を出してと言う事は潜水船を浮上させた状態になるのですか。」


「オラは別に其れでもいいと思うんです。」


「我々も全く考えておりませんでしたが、一度、技師長に提案して頂ければと思うのです。」


「そうですねぇ~、私も今申された様に常時潜っている必要は無いと思うのです。

 仮にですが軍艦を発見したならば直ぐに潜れば軍艦に発見される事は無いと思います。

 貴方の意見は一度相談す価値は有ると思いますよ、貴重なご意見、誠に有難う御座いました。」


「船長、今一度試しては如何でしょうか。」


「オラも大賛成ですよ、其れが出来るんだったら潜水鏡は潜った時だけでいいと思いますんで。」


「では、私が入り口から身体を出して何か言いますので、上田殿操作してくれるか。」


「よ~し、任せてくれ。」


 上田は操縦席を動かず、鈴木が入り口から身体を出し。


「右前方、船を発見。」


「右へ方向変えよ。」


「右へ方向変えま~す、よ~そろ。」


「ちょい右。」


「ちょい右、よ~そろ。」


「よ~し、右前方に船で~す。」


「潜行用意。」


 鈴木は船内に戻り蓋を閉めた。


「前方に大型の船、よ~し其のまま、其のまま。」


「前方の大型船に、よ~そろ。」


 潜った事を確認した元太は潜水鏡を覗き。


「源三郎様、オラはこの方法がいいと思います。」


「やはりねぇ~、元太船長も楽になりますか。」


「勿論ですよ、だってさっきとは全然違いますから、オラは鈴木様の指示で操作する上田様に伝えるだけですし、其れに鈴木様が入ってから潜水鏡を覗きますので本当に楽になりました。」


「分かりました、では元太船長、訓練方法を変更しましょう、吉田さんも小川さんも宜しいでしょうか。」


「私に異論は御座いません、同じ入り口から見るので有れば一人よりも二人の方が尚宜しいのでは御座いませんでしょうか。」


「ですが大丈夫でしょうか。」


「大丈夫だと思います。

 分隊長を除けば丁度十名で分隊を二つの班に分けても大丈夫だと思いますが、分隊長はどうですか。」


「私は大賛成です。

 部下、いいえ、分隊の皆がその方法が良いと言うので有れば、私に異論は御座いません。」


「では一度試して見たいのですが、如何でしょうか。」


「勿論ですよ、皆さんの考えた方法を試す事も大事ですからねぇ~。」


「オレはみんなで試したいんですが。」


「其れも良い事ですよ、では二つの班にまぁ~其処は適当に分けて一度試してみましょうかねぇ~。」


 分隊長は適当に分け、最初の班が開始するので有る。


「何時でも宜しいですよ、一度、皆さんの思う通りに試して下さい。」


 入り口は狭いが其れも仕方が無い、当初、この様な目的で作られたのでは無い。


「あの~入り口が狭いので上に出ても宜しいでしょうか。」


「勿論ですよ、皆さんの好きな様にして頂いても宜しいのでね。」


 鈴木も上田も何かが変わるだろうと、源三郎もこの方法は良いと思い、分隊の班がどの様な方法を持ち得るのか期待して要る。


「船長、右前方に大型の船を発見しました。」


「分かりました、では潜りますので中に入って下さい。」


「はい、承知しました。」


 彼らも初めてなので分からないのだろうが、元太や鈴木の文言は実に簡単で有ると源三郎は思った。


「今の文言は長いと思いますよ、右前方に大型船発見、とこれで良いと思います。

 其れと船長は分かりましたでは無く、潜行せよ、これだけで良いのです。」


「何故でしょうか。」


「其れはねえ~、潜水船では文言は簡単で良いのです。

 はい承知しましたよりも了解、其れだけで通じますのでね。」


「でも、相手が。」


「其れはねぇ~、潜水船内では陸上と違い空気が少ないと言うよりも外から取り入れておりますのでね余計な文言は必要無いと言う事なのです。

 其れに簡単な文言でも他の人達にも伝わりますので、仮に上官だたとしても了解、其れだけで十分に通

じますので、其れこそ余計なやり取りで若しも、若しもですよ、此方が先に発見する前に大型船、

其れが敵の軍艦で、先に発見され大砲を撃ったとすれば潜水船は一瞬で粉々になり全員が戦死する事も考え無ければなりませんのでね。」


「じゃ~、船長の指示で動くのですか。」


「勿論ですよ、潜水船の運航に関しては船長が全ての指示を出しますのでね。」


「はい、よ~く分かりました。」


「皆さんも同じですよ、船長の役目は安全確実に運航させる事で軍艦に接近するまでと、今度はまぁ~言い方は悪いですが、逃げる時も全て船長の指示が最優先しますのでね。」


「鈴木殿、では船長と言うのは乗組員の生死を握って要ると言っても過言では無いのですか。」


「私はその様に思います。

 目的の軍艦に接近するまでは船長が、そして、目的の軍艦を仕留める決断を出すのは分隊長の責任だと思っておりますが、でも其れは今の話でその先の事は私もはっきりお答えは出来ないのです。

 皆さんも今全ての事を理解するのは無理だと思いますが、何度も繰り返しているとその内に分かる様になりますのでね、ではもう一度同じ要領で行なって下さい。」


 分隊の第一班はその後何度も繰り返し、次は第二班が訓練に入った。


 第二班は第一班の訓練を見ており大きな失敗も無く、其れでも何度も繰り返した。


「元太船長、この方法が宜しいですねぇ~。」


「はい、オラも良かったと思います。

 其れに皆さんも真剣にされ、オラも満足してますよ。」


「では分隊を交代させて頂き、其の時に今の方法を教えて頂きたいのです。」


「はい、其れに私も思った以上に良かったのでは思います。

 では、分隊は下船し交代します。」


 分隊の兵士達は潜水船から降り、吉田も降りた。


「この入り口に何か適当な物が有れば其処で監視出来るのでしょうか。」


「私も此処に囲いの様な物が有れば潜らずとも監視が可能になると思われます。」


「遠眼鏡が有れば尚宜しいかと思うのですが、大型船を発見してから確認の為に遠眼鏡が有れば直ぐに分かりますので。」


「遠眼鏡ですか、う~ん、確か殿が。」


「私もこの場所に二名配置される事で前後左右を監視出来ると思います。」


 あの兵士が提案した事は別の意味で良い方法へと向き出した。


「第二分隊、潜水船に乗る前に説明をします。」


 吉田はこの後兵士が提案しその方法を採用すると詳しく説明した。


「ですから君達が少しでも疑問に思った事、こんな事を考えたなど色々有れば申し出て下さい。

 私もですが、総司令と言うお方はどの様な意見や提案でも聴いて下さり、私や小川少尉より貴方方の意見を待っておられますのでね、分かりましたか。」


「中尉殿、総司令はオレ達兵士の話しでも聴いて下さると言われるのですか。」


「勿論ですよ、私が嘘を言ってると思うのならば先の分隊に聴いても宜しいですよ。」


「本当だよ、あのお方はオレ達の事を大切に思って下さってるんだ、まぁ~心配するなって、鈴木様も上田様も、其れに元太船長も優しく丁寧に教えて下さるから。」


「如何ですか、本当でしょう、さぁ~訓練を開始しますので乗り込んで下さい。」


 交代した分隊が乗り込み訓練開始となった。


「なぁ~、オレみんなに相談が有るんだけど。」


「なんだよ~、相談って。」


「オレ達は今潜水船で訓練したけど待ってる間にこの場で練習してはどうかなぁ~って思ったんだけどなぁ~どうだろうか。」


「そうだなぁ~、今は何もする事も無いし、わしはいいと思うんだ。」


「オレもだ同じ事を考えてたんだ、今だったらまだ覚えてるから、みんなでやろうぜ。」


「オレも賛成だ。」


 最初に訓練を行った分隊が復習を始めた。


「じゃ~、オレ達の班から始めるから何か有ったら言って欲しいんだ。」


「分かったよ、何時でもいいぜ。」


 その頃、別の分隊は潜水船内で鈴木の説明を受け。


「では今から訓練を開始します、第一班は決められた位置に就け。」


 第一班は乗る前に吉田から説明を受け動きは速かった。


「訓練開始。」


 鈴木の号令で訓練が開始された。


「やはりこの方法が正解の様ですねぇ~、皆さんは良く統制されておられますので、今後の訓練に正式に採用します。」


「総司令、有難う御座います。」


 吉田も小川もほっとした。


 その後、訓練は午前中続けられ、潜水船内での訓練が終わった班は岸壁の上でも同じ様に練習して要る。


「吉田さん、皆さんは大変素晴らしいですねぇ~。」


「何か有りましたでしょうか。」


 吉田も小川も船内での訓練だけを見ており、岸壁の上でも訓練を続けている事は知らなかった。


「船内での訓練は終わられましたが岸壁の上でも同じ様に訓練と申しましょうか、練習と申しましょうか、先程も行われておられましたよ。」


「えっ、では降りてからでも反復練習をしているのですか。」


「私は外で練習されておられる声が聞こえておりましたので、よ~く分かりましたよ。」


「でも私は全く気付きませんでした、でも大変良い事だと思います。」


「私も大事な事だと思いますよ、あの様に全員が積極的に行って頂けるので有れば大丈夫だと思います。」


「源三郎様。」


 銀次が呼んで要る。


「銀次さん、何か。」


「源三郎様、もうじきお昼なんで、皆さんと一緒にお昼のご飯でも思いましたので。」


 銀次達は源三郎と兵士達の昼食を作って要る。


「銀次さん、有難う、では此方の訓練が終わり次第参りますので。」


「じゃ~お待ちしてますんで。」


「吉田さん、銀次さん達が皆さんの昼食を作ってくれましたので終わりましたら来て下さい。」


「はい、有難う御座います。」


 この浜の人達は相手が誰で有ろうと関係無く接してくれる、これが本当なのだと吉田は思った。


 間も無く兵士達の訓練が終わり、銀次達が居るところへと行くと。


「さぁ~これがオレ達洞窟での食事なんで皆さん食べて下さいよ。」


「銀次さん、有難う。」


「いゃ~オレ達が作ったんで浜のお母さん達とは違うけど、まぁ~その辺は辛抱して下さいよ。」


「さぁ~みんな食べて午後からの訓練も頑張って下さいね。」


 源三郎の傍にはげんたが美味しそうに食べている。


「う~ん、これは旨いですよ。」


 兵士達の顔は喜び溢れている。


「我々は司令部を離れた頃から一般の人達からは変な眼で見られていたのです。」


「何故ですか、皆さんは倒幕の為に戦に加わったので無いのですか。」


「勿論、上層部が言っておりまして、この人達も幕府に対しては反感を持っておりましたので倒幕には大賛成でした。

 我々の仲間、いや元仲間ですが訪れた村々や城下で略奪や暴行を犯していたのです。

 工藤中佐も吉田中尉もですが我々には全く知らず村々や城下で聞かされたのです。」


「やはり幕府だけでは無かったのですか。」


「実は私も元は有る藩の武士で確かに幕府の横暴は目に余るものが有ったのは事実です。

 ですが官軍の中には今までの幕府以上に、其れはもう言葉では表現出来ない程で村々は焼き払い、

少しでも逆らう者が居ればその場で殺し、中佐殿は何度も上層部に対し意見したのですが全てが水の泡でして、中佐殿は上層部から反感を持たれ左遷されたのです。」


 その様な話しは今に限った事では無かった。

 同じ様な事が大昔の武家社会でも何度となく行われ、反抗すれば其れこそ二度と表舞台に出る事は出来

なかったので有る。


「貴方方お二人は工藤さんと共に左遷させられたのですか。」


「中佐殿は元々船大工の家柄で異国で造船技術を学ばれたのです。」


「左様で御座いましたか、其れで軍艦を。」


 工藤は異国の造船技術を学び其れを官軍の軍艦に応用したので有る。


「まぁ~我々もげんたの潜水船が完成すれば官軍は大変な驚きになるでしょうねぇ~、皆さんも訓練は大変だとは思いますが、無理をされ事故で大怪我をされないようにして下さいね。」


「あの~。」


 彼は訓練方法を変える切っ掛けとなる提案した兵士で有る。


「オレの言った事が良かったんですか。」


「勿論ですよ、私達はどなたからの提案でも受けますよ、但しですが後ろ向きでは駄目ですが、前向きな提案ならば今回の様に採用しますからね。」


「そんな事今まで無かったんですよ、中尉や少尉はいいと言ってくれるんですが、その上の人達は全て上層部で決めるって、そうですよねえ~、中尉。」


「彼が言うのは本当で、中佐殿も了解され上層部の承諾を得ようとしますが、全てが却下されるのです。」


「何故、却下するのですかねぇ~、私は全く理解出来ませんが。」


「官軍では全て上層部が正しく、兵達の言う事は全て間違っていると。」


「なぁ~あんちゃん。」


「げんたの潜水船は官軍の上層部ではどの様に判断するのでしょうかねぇ~。」


「あんちゃん、そんなの簡単だぜ、子供の考えた事など出来るはずは無いって。」


 げんたも兵士達の話を聴いて要るので潜水船は夢物語だと答えるだろと源三郎も思って要る。


「まぁ~あんちゃんは並みの人間じゃ無いって事なんだ。」


「私は並みの人間では無いのですかねぇ~。」


 源三郎も苦笑いをしている。


「だって、オレの家に来てだぜ、其れも突然海の中で息が出来る物を作ってくれって言うんだぜ。」


「えっ、技師長の家にですか。」


「そうなんだ、オレはお客さんの注文を聴いてから作るんだけど、あんちゃんは何を作れって言うのか分からないんだ、吉田さんも分かるでしょう、突然来て海の中で息が出来る物を作れって、だけどあんちゃんも分かって無かったんだからなぁ~、あの時には。」


「では、総司令の注文は無茶だと言われるのですか。」


「無茶どころか、オレもさっぱり分からないんだ、だってオレは海を知らないんだぜ。」」


「まぁ~まぁ~、げんたは其れでも潜水具を作ったのですかねぇ~大したものですよ。」


「オレはなぁ~客の注文を断った事は無いんだ、オレにも意地が有るからなぁ~。」


「あ~其れで後日三個を作って欲しいと言った時、私が驚きの余り腰を抜かす程の物を作ると言ったのが潜水船でしたからねぇ~、さすがにげんたですねぇ~。」


「なぁ~んだ、あんちゃんは本当に驚いて無かったのか面白く無いなぁ~。」


「いゃ~、私もあの時は本当に驚きましたよ、ですが腰は抜かしませんでしたがね。」


「よ~し、今度は本当にあんちゃんの腰が抜ける物を作るからなぁ~、楽しみにしてるんだぜ。」


「あ~そうでした、四号船の事と今の参号潜水船の事で話が有るのです。」


「えっ、まただ、あんちゃんは何か企んでるのか。」


 吉田や小川も呆れているが、其れよりも兵士達が驚いて要る。


 相手は総司令だと言うのにまるで兄弟の様な会話をしているに聞こえるので有る。


「私は何も企んではおりませんよ、其れよりも出入り口の上に何か囲いの様な物を作って欲しいのですがねぇ~やはり無理ですかねぇ~。」


「え~、一体なんだその囲いって、何で出入り口の所に囲いが入るんだよ。」


「銀次さん、親方を呼んで来て欲しいのです。」


「分かりました直ぐに行きますので。」


 銀次は源三郎がまたも新しい物を考えて要ると思って要る。


「其れはねぇ~。」


 源三郎が説明を始めた。


「うん、分かったよ、だったら今の参号潜水船にも要るのか。」


「はい、その通りですよ。」


 其の時。


「源三郎様、新しい物を考えたって銀次さんが。」


「私が考えたのでは有りませんよ、あちらの兵隊さんが考えたのです。」


「分かりました、其れで一体何を作るんですか。」


「今もげんたに説明しておりましたが、ではもう一度説明させて頂きます。」


 源三郎は親方にも詳しく説明した。


「よ~く分かりましたよ、じゃ~参号船の内側から工事に入りますので。」


 何とも早い決断だ、だが参号船は今訓練に使用されている。


「ですが参号船は訓練に使われておりますよ。」


「其れは心配有りませんよ、必ず潜水船で行なわれなければならないと言う事では有りませんので、其れよりも兵隊さんの意見を聞いて頂きたいのです。」


「じゃ~後で聴きに行きますんで。」


「申し訳有りませんが宜しくお願いします。」


「はい、では後で。」


「吉田さんと小川さん、其れと先程の兵隊さんとで親方に説明して下さい。

 訓練と言うよりも此処でも練習は可能だと思いますので。」


「はい、承知致しました。

 では、我々三名が親方に説明させて頂きます。」


 この様にして昼から親方と数人の大工、其れに説明役として吉田ら三名が残り、後の兵士達は岸壁の上

で各班に分かれ練習に入った。


「源三郎様の言われた内容をもう一度説明して欲しいんですが。」


「分かりました、先程訓練に入ったのですが。」


 その後、吉田が説明し親方も必要だと分かり。


「う~ん、其れにしてもこれは内と外の補強が要るなぁ~。」


「その囲いですが木材の加工も必要ですよ。」


「そうですねぇ~、普通の木材を使うよりも水が当たる所は三角にして其れと余計な木材は使わず腰の高さまで囲いを作るか。」


「じゃ~親方、わしらは木材の加工に入りますので。」


 浜の大工は答えを出すのが早い。


「木材の加工に数日は掛かりますのでその間は使えますから。」


「そうですか、ではお願いしますね。」


「親方の話しと兵隊さんの話しから囲いの中に潜水鏡を入れてはどうかなぁ~。」


「オレも同じ事を考えてたんだ、もっと太い竹を囲いに付けてその中に潜水鏡を入れると潜水鏡も自由に動きが出来ると思うんだ。」


「では四号船からはその方法で造って下さい。」


「あんちゃん、分かったよ。」


「其れでお話しは終わりですか。」


「はい、そうですが其れが何か。」


「いゃ~余りにも簡単なので私はもっと込み入った話しになると思っておりましたので。」


「まぁ~何時もこんなものですよ、其れに基本は変わりませんのでね。」


「はい、では私も練習に戻りますので。」


 話は少し戻り、げんたが松川の窯元に依頼した五合と一升徳利の試作品が出来上がり、窯元は野洲のげんたを訪れた。


「げんたさんはおられますか。」


 げんたは丁度源三郎のところにおり。


「はい、この門を入り左に建物が有り其処に居られますので、どうぞお入り下さい。」


 大手門の門番は源三郎やげんたに用事が有ると簡単に入れ、其れ以外は一度家臣に確認の上で入る事が出来るので有る。


「あの~。」


「あっ窯元さん、あんちゃん、オレが無理を言った松川の窯元さんだよ。」


「窯元さん、げんたが大変なご無理を申し上げ誠に申し訳御座いません。」


 源三郎が頭を下げると窯元は驚いた。


「いゃ~わしも今まで多く徳利を作りましたが、げんたさんの注文は特別でしてねぇ~、げんたさんこれがご注文の徳利ですが如何でしょうか。」


 窯元が徳利をだすと。


「う~ん、オレの考えた通りの徳利だよ、窯元さん、本当に有難う。」


 この窯元は実は加世の父親で有る。


「少しお待ち下さいね、誰か加世殿を呼んで下さい。」


「源三郎様、加世は今お役目の最中では。」


「窯元さん、別に宜しいですよ、実家では有りませんが此処は誰に対しても公平ですからね。


 源三郎は父娘の対面も久し振りだと知って要る。


「其の前に窯元さん、今からのお話しは非情に重要ですのでよ~く聞いて下さいね。」


「はい、私もこの様な特別の徳利を作るには何か訳でもあると思っておりましたので、どの様な事で御座いますか。」


「では今からお話ししますので。」


 源三郎は窯元に詳しく話すと。


「はい、承知致しました。

 私も松川の窯元として意地が有りますので、今のお話しはよ~く分かりました。

 私はこれを持ち帰り改良を加えましてまたお持ちすれば宜しいのですね。」


「その必要は有りませんので同じ徳利を数個作って頂きまして山賀の若様に届けて頂ければ其れで宜しいかと思います。」


「源三郎様、あっ。」


 加世と雪乃が来た、加世は何も知らされず源三郎が呼んで要ると聴き、雪乃は何か他に目的が有ると感じたのか一緒に来たので有る。


「あっ、姫様。」


 窯元も驚いた、加世は有れ以来家族にも行き先は伝えておらず、正か野洲に居るとは考えもしなかった。


「まぁ~まぁ~、加世殿も窯元さんも余り深刻に考えないで下さいね、雪乃殿は私の妻ですので、今は何も関係は有りませんのでね。」


「加世、本当なのか。」


「はい、お父様、誠で野洲では雪姫様では無く、雪乃様として源三郎様の奥方様になられました。」


「その様な訳でして、窯元さん、今夜は此処にお泊りされ加世殿と久し振りにお話しをされては如何でしょうか、其れと此処では何を話されも大丈夫ですよ。」


「源三郎様の御気遣い、私は何とお礼を申し上げて良いか分かりません。」


「加世殿も今日のお役目は終わりにされても宜しいのですよ。」


「はい、誠に有難う御座います。」


 窯元も加世も源三郎の気遣いに大変感激した。


「其れで結果が良ければ数十個作って頂く事に成るやも知れませんのでね。」


「其れは勿論で御座いまして、何個でもお作りさせて頂きますので。」


「お話しは終わりに致しましょうか、雪乃殿、後の事は宜しくお願いします。」


「はい、全て承知致しました。

 さぁ~加世様参りましょうか。」


「では源三郎様、失礼致します。」


 雪乃は加世と窯元を案内して行く。


「う~ん、これは私の思った以上の物が出来た、後は山賀の若様に。」


 松川の窯元と加世はその夜遅くまで話し込んでいたが明くる日早朝満足した表情で帰って行った。


 その後、窯元は数種類の徳利と外側の焼き物を作り山賀の大手門に。


「あの~、私は松川の窯元で。」


「はい、伺っておりますので少しお待ち下さい。」


 山賀の門番は若様に知らせると同時に窯元を案内しその行った先は野洲と同じで大手門近くの建物には若様とご家老様、更に正太と数人の仲間が居た。


「私は。」


「窯元さん、堅苦しい挨拶は抜きにしましょうよ。」


「はい、でも。」


「此方が松川の窯元さんで、義兄上のご依頼で数種類の徳利を作り本日持って頂きました。」


 窯元は大変な驚き様で正か源三郎が書状を届けていたとは思いもしなかった。


「若様とお呼びさせて頂いても宜しゅう御座いますか。」


「勿論ですよ、私は皆さんからもその様に呼ばれておりますのでね、其れで窯元さん、持参して頂いた焼き物ですが拝見させて頂きたいのです。」


「若様、これで御座います。」


 釜本と数人の職人が大事そうに箱を開けると。


「お~、これは何と素晴らしい徳利ですねぇ~。」


「誠にで御座いますなぁ~。」


「正太さん、これに溶けた鉄を入れると出来ますねぇ~。」


「でも何かもったいないですよねぇ~、こんな素晴らしい徳利を。」


「まぁ~ねぇ~、ですが連合国にはこの徳利が必要なんですよ。」


 若様もご家老様も正太と同じ事を思って要る。


 確かに松川の窯元が作った徳利の焼き物に溶けた鉄を流し込むとはもったいない話で有り、それ程にも素晴らしい徳利の焼き物で有る。


「其れで正太さん、何時頃作りに入る事が出来ますかねぇ~。」


「今日から窯に火を入れれば明日の朝からでも流し込む事も出来ると思いますが。」


「では、其の予定で始めて下さい。

 其れで窯元さんにも立ち会って頂きましてどの様な物が出来るのかを見届けて頂きたいと思うのですが如何でしょうか。」


「若様、勿論で御座います。

 私も実を申しますと気になりますので、是非とも拝見させて頂きたいので御座います。」


「では、その様に手配しますので、其れと窯元さん、現場と申しましょうか、正太さん達が鉄を作る所も見て頂きたいと思いますので宜しければ今からでも参りましょうか。」


 若様とご家老様、其れに正太達に窯元と数人の職人と一緒に城内から北の空掘りへと向かうが窯元と職人達は驚きの連続で、正かお城の地下から北側の空掘りに行けるとは考えもしなかった。


「窯元さん、この抜け道はねぇ~義兄上が見付けられたのですよ。」


「あの~申し訳御座いませんが今申されました義兄上様とは一体どなた様で御座いますか。」


 窯元は何も知らなかったと言うよりも加世は一切話して無かったので有る。


「あ~、野洲の源三郎様ですよ。」


「えっ、源三郎様ですか。」


「そうですよ、源三郎様は私の姉上と夫婦になられましたのでね。」


「えっ、では雪姫様の弟君様で御座いますか。」


「まぁ~ねぇ~その通りで。」 


 松川藩の雪姫は誰でも知ってはいるが、竹之進や松之介と言う弟君が居る事は知ってはいても顔は知らなかった。


「申し訳御座いません。

 知らぬ事と申せ大変失礼な事をお聞き致しまして。」


「いゃ~窯元さん、何も其処まで気にされる事では有りませんよ、加世殿も知っておられましたがお話しも出来なかったのだと思いますからねぇ~。」


 窯元も恐縮している。


「まぁ~其れよりも此処から先が空掘りですから。」


「えっ、あっ。」


 さすがの窯元も大変な驚き様で窯元ならば焼き物の専門家で鉄を作り出す窯を見れば良いところも悪いところも分かるのではと考えた松之介だ。


「若様、大変申し訳御座いません。

 私は焼き物の専門家では御座いますが、この様な造りは初めてなので一体どの様な造りになっているのかも知らないので御座います。」


「勿論、私も承知致しておりますので、まぁ~其れよりも見て頂けるだけでも宜しいのでは有りませんか。」


「はい承知致しました。

 其れで若様、この黒い石の様な物ですが一体。」


「あ~これですか、これがねぇ~我々は燃える石と呼んでおりましてねぇ~。」


「えっ、若様、この黒い石が燃えるので御座いますか。」


 窯元は一体何度驚けば良いのだろうか、窯元は木炭ならば知って要る、だが燃える石とは今まで聞いた事が無かった。


「う~ん、其れにしても私には全く理解が出来ないので御座います。

 突然、石が燃えると申されましても。」


「まぁ~ねぇ~窯元さんの申される事が本当ですよ、其れよりも見て頂ければよく分かると分かると思いますよ。」


 若様もご家老様も、更に正太達も笑って要る、だが若様もご家老様も同じで最初石が燃えると聞いた時、正かあの硬い石が燃えるなどとは考えもしなかった。


 同じ石でも普通山や道端に転がっている石が燃えるのではなく、空掘りから海側に向かって掘り進めている現場から搬出された黒々とした石だけでその他の石は燃えるはずも無い。


「あの~若様、あの茶色に錆びて積み上げられた物ですが一体。」


「あ~あれですか、あれがねぇ~鉄になる原料でしてね。」


「え~鉄になる原料で御座いますか。」


 又も窯元は驚いて要る。


「あれが鉄になると申されるので御座いますか、う~ん、余りにも驚きの連続で私は何と言って良いのか分からないので御座います。」


 窯元が知って要るのは小規模なもので正かこれ程にも大掛かりだとは考えもしなかった。


「若様、今窯に火を入れましたので、まぁ~そうですねぇ~、お昼過ぎには大丈夫だと思いますが。」


「今度は初めて作りますので宜しくお願いしますね。」


 正太と仲間達はこれからが大変だと分かっており、今までは何も考えず別に形有る物を作り出していたのでは無い。


 長い棒を作り、厚さ一寸の鉄の板を数十枚、空気を送る為に川から空掘りまで繋いだ歯車を、其れが今回初めて最初から徳利と言う形有る物を作る、その為に正太と仲間達は大変な緊張をしている。


 果たして本当に作る事が出来るのだろうか、と、正太も考えて要る。


「窯元さん、今から洞窟に入って見ませんか。」


「えっ、洞窟にで御座いますか。」


 窯元は洞窟の中は狭く、誰もが立って歩く事も出来ず、更に内部はとても暗く恐ろしいと、其れと言うのも島帰りの刑にされた者達の話を伝え聞いており、洞窟の中には入りたくはないと、だが若様に言われたならば今更断る事も出来ない。


「まぁ~ねぇ~窯元さんの事ですから今まで大勢の人達のお話しを聞かれ、洞窟の中は狭く暗いと思われていると思いますが、此処の洞窟に入ると驚きますよ、中は広く、其れにかがり火と松明で明るいですよ。」


 窯元は恐る恐る若様の後ろから行くが、洞窟の入り口と言うのが空掘りの石垣が動き、其処が入り口なのだ。


「えっ、あっ、正か。」


 洞窟内に入ると中は高く広く最初入る前に考えていた洞窟の想像では無く以外と明るい、其処から少し上がって行くと突然其れは祠裏に有る別の入り口から差し込む外の明かりで洞窟内の一部が良く見える。


「如何でしょうか、窯元さんが思っておられた洞窟とは違うと思いますがねぇ~。」


「はい、私は以前島帰りの者達の話を伝え聞いておりましたので洞窟とは狭く暗く大変恐ろしいところだと思っておりました。」


「まぁ~ねぇ~其れも仕方が無いとは思いますよ、其れでね窯元さんのところで作って頂いて要ると思うのですがこの洞窟は松川まで掘り進めるのですが、洞窟の内部を補強しなければなりませんので一度山賀の洞窟を見て頂く事で何故連岩が大量に必要なのかを知って頂くのが本来の目的なのです。」


「はい、よ~く分かりました。

 ですが、これだけ大きな洞窟を松川まで掘り進めるとなれば一体何個の連岩が必要なのか、今は全然見当が付かないので御座います。」


「まぁ~ねぇ~其れは仕方無いと思いますよ、ですが一度でも現場の洞窟を見て頂くのと、全く見ていないのとでは意味合いと申しましょうか、連岩を作る時の心構えも自然と違って来ると思うのです。

 我々山賀は燃える石と鉄になる土とでこれから先色々な要望に答えて行かなければならないと思って要

るのです。

 松川では連岩と言う焼き物を大量に作って頂き、山賀から菊池までの洞窟の補強材として大量に必要だと考えております。

 更に申せば義兄上が進めておられます潜水船は山賀以外の洞窟に配備され幕府や官軍の軍艦を撃沈されると思いますよ。」


「では松川の窯元が総出で連岩を作り、それぞれの藩にお届けしなければならないのですね。」


「私はその様に思いますねぇ~。」


 窯元は改めて連岩が大量に必要だと、菊池からこの山賀に至るまで何本もの洞窟が掘られ、その内部には頑丈な補強材が必要で、その為には連岩は松川の窯元が総出で作らなければならない思うので有る。


「此方の洞窟は何処まで掘られるのでしょうか。」


「今は鉄になる土の塊が大量に搬出され洞窟内も大きく、更に数本の洞窟でも塊が出て来ておりましてね、その方向が海岸に、ですがねぇ~海岸と申しましても山賀の海には浜が有りませんので。」


「えっ、浜が無いと申されますと。」


「窯元さん、其れが全て断崖絶壁でしてね、その高さが一町以上も有りますのでね此処からは幕府軍や官軍が押し寄せて来る事は考えられ無いのです。」


「若様、今申されましたが断崖の高さが一町以上も有ると、でも浜が無ければお魚は。」


「其れは心配有りませんよ松川から毎日の様に届けて下さいますのでね、其れよりも窯元さん、鉄の徳利が出来ますれば数日の内に有る事を試しますので其れを見られてから窯元さんが改良が必要かを判断して頂きたいのです。」


「どの様な試しを行なわれるのか分かりませんが私も一応は聞いておりますのでこの目でしっかりと拝見させて頂きます。」


 窯元はどの様な試しを行なうのかも聴く事は無かった。


「申し訳有りませんが其の時には菊池から松川までの殿様と関係される方々全員が来られますので。」


「えっ、お殿様が来られるのですか。」


「そうですよ、今回の試しは連合国の運命を左右すると申しましても過言では有りませんので。」


 窯元も正かと思う様な出来事に発展するとは思いもしなかった。

 連合国の殿様と関係する人達が集まり大規模な試しを行なうのだと。


「若様、お昼ですが如何致しましょうか。」


「そうですねぇ~、正太さん達の状況を見て判断しますのでお昼は何時ものおむすびと吸い物で十分だと伝えて下さい。」


「はい、では直ぐにその様に手配致します。」


 若い家臣が賄い処へと向かった。


 山賀では日常の昼食の殆どがおむすびで、だが朝食だけはしっかりとした物を食べる事に成っており、今では定着しお昼の献立を考える事も無く其れだけ賄い処では余裕が生まれ賄い処の女中達の負担も少なくなった。


「その試しと申されるますのは何時頃の予定で御座いますか。」


「そうですねぇ~、ご家老、菊池が一番遠くですので如何でしょうか。」


「書状が届くのが早くても二日後としまして、菊池様は多分馬で来られますが、源三郎殿の予定も考えまして十日後では如何でしょうか。」


「十日後ですか、分かりました。

 窯元さん、今お聞きの通りで今日を含め十日後と言う事で。」


「分かりました、では私は一度戻りまして先程拝見させて頂きました洞窟と他の事も含め松川の窯元全員に説明したいと思うので御座いますが。」


「勿論ですよ、窯元さんにお任せ致します。」


「松川の窯元さん達も実情を余り知らない者もおると思いますので、一日早ければ其れだけ連岩も多く作れお届け出来ると思いましたので。」


「大変有り難いお話しで、私としましても大助かりで御座います。

 では先に松川の兄上に書状を認めますので松川に戻られますればお渡し願いたいのです。」


「若様、勿論で御座います。

 其れとお願いが有るのですが宜しいで御座いましょうか。」


「勿論ですよ私に出来る事ならばどの様な事でもお聞きしますよ。」


「その当日ですが他の窯元も寄せて頂きたいと申し出が有れば如何致しましょうか。」


「勿論、宜しいですよ、窯元さんには大変なご無理を申し上げますが何卒宜しくお願い致します。」


「私も大変嬉しく思います。」


「では、私が認めますので少しお待ち願いますね。」


 若様とご家老様、其れに窯元達の一行は一度城内に入り窯元達は昼食を取り、若様は松川の若殿に書を

認め、窯元に渡し職人達と共に松川へと戻って行った。


 若様が認めた書状は数日の内に全て届けられ、野洲の源三郎にも届いた。


「拙者は山賀の。」


「源三郎様で有れば執務室におられますので、どうぞお入り下さいませ。」


 野洲の門番は余計な事は聴く事は無い。


 其れと言うのも源三郎の指示で殆どの者達は直ぐ執務室に入る事が出来る。


「拙者は山賀の。」


「はい、どうぞ其のままお入り下さい。」


「有難う御座います。

 実は若様から総司令宛てに書状が。」


「左様ですかでは早速拝見させて頂きます。」


 源三郎は松之介からの書状を読み。


「山賀からの書状ですが特別製の徳利が完成したので十日後に山賀の断崖で試すので火薬を手配して下さいとの事です。」


「では完成したのですか、其れは誠に嬉しい知らせで御座いますねぇ~。」


「私も嬉しいですよ、其れで火薬の樽を数個と、其れよりも荷車と同行する兵士ですが。」


「私も大砲に火薬を詰めるのは知ってはおりますが今度は全く別の方法で器事爆破させますので兵士達も少し戸惑うのではないかと思うので御座います。」


「兵士全員が火薬の扱い方を知っておられるのですか。」


「いゃ~其れは多分知らないと思いますが、吉田中尉は如何ですか。」


「私が知る限りでは誰も知らないと思います。

 大砲を運ぶだけの命令を受けたもので御座いまして、兵士達は火薬の扱い方は知らないと思います。」


「では分隊長全員と各分隊から三名を選び同行させて下さい。」


 今更爆破は出来ないとは言えない。


 分隊長全員と兵士三名は現地で爆薬を設置しなければならず、其れは現実の問題として発生した。


「分かりました、吉田中尉、我々も今更爆破させる事は出来ませんとは言えませんので、分隊長には私が説明するので直ぐ呼んで下さい。」


「はい、了解致しました。」


 吉田は大急ぎで隊に戻って行く。


「今回の試しは我々連合国の運命を決めると言う大事な任務です。

 兵士の選考には十分なる御配慮をお願いします。

 其れと兵士にはこの試しは大変な危険を伴いますのでより一層の理解をさせて下さい。」


「はい、承知致しました。

 私もうっかりしており、全て私の責任で御座います。」


 工藤自身も正かの話で吉田が連れて来た兵士達は連発銃の扱い方は知って要るが兵士達は火縄銃の様に火薬を詰めるのではない弾を込める方式でその為火薬の扱い方は知らない。


「中佐殿、分隊長の全員が集合しました。」


「分かりました、では分隊長先程山賀の若様から書状が届き。」


 工藤は書状の中身を説明し、十日後には特別製の徳利を使った爆弾の試みを行うと、其れには徳利に火薬を詰め導火線を繋ぎ点火すると言う重大な任務が有ると言う。


「今回の試みは連合国の運命を握っており失敗は官軍の軍艦を爆破出来ないと言う事になりどの様な方法を使ってでも爆破を成功させなければならないのです。

 ですが不運な事に兵士達の中には爆破を経験した者がおらず、全て私の責任で御座います。」


「中佐殿、私は以前の部隊で数度経験しております。」


 一人の分隊長が経験者だと分かり。


「えっ、其れは本当なのか、いゃ~其れにしても事実ならば私は助かりましたよ。」


 工藤もほっとし胸を撫で下ろした。


「其れでは君がみんなに教えて頂けますか。」


「其れで少しお聞きしたいのですが、先程申されました五合と一升の徳利ですが、お話しでは断崖絶壁で試されるとの事ですが、その断崖の下に下りる事は可能でしょうか。」


「私も現地を見ていないのではっきりとした事は言えないですが、何か有るのでしょうか。」


「鉄の徳利で有れば陶器の様に粉々にはならず、鋭い破片となり四方に飛び散りますので、出来るならば絶壁の中に入れ爆破させなければ付近に居られる方々が巻き込まれ大怪我をする可能性が有ります。」


「私も火薬の爆発力は想像以上で有る事は知っております。

 更に今回は特に各国のお殿様方も来られるので有れば危険を回避しなければならないと思います。」


 大砲の威力も知らず、分隊長の話を聴くと徳利は鉄で作られたとは言え溶けた鉄を徳利の型に流し込み作られた物で爆発の影響でどんな鋭利な破片となり、何処まで飛び散るのかも分からない。


「確かに申されます通りだと思います。

 ですが高さが一町以上も有る断崖絶壁を降りると言うのは大変な危険を伴うのでは有りませんか。」


「確かにその通りだと思いますが、ですが若しも事故が起きれば大変な事態になりますのでどの様な方法でも考えられると思うのです。

 例えば上から下まで届く縄梯子を作り、昇り降りする兵士の身体に縄を巻き昇り降りする事も出来ると

思うのですが。」


「そうですねぇ~、確かにその方法も考えられますねぇ~、では工藤さん、検討して頂きたいのです。

 私は何も分かりませんので皆さんで意見を出され一番良い方法を考え採用して頂きたいのです。」


 今回余計な事は発言せずに工藤達に任せる事にした。


「総司令、有難う御座います。

 吉田中尉、早速検討に入って下さい。」


「はい、了解しました。

 中佐殿、火薬ですが何樽持って行けば良いのでしょうか。」


「そうですねぇ~、最低でも二回は試みますので、二樽、いや三樽は必要ですよ、其れと導火線も、総司令は山賀へは馬で参られので御座いますか。」


「私は其のつもりで考えております。」


「兵士達はその数日前に出立致しますが。」


「工藤さんに全てをお任せ致します。」


「では吉田中尉、選考と準備を早急に終え、十日後の前には山賀に着く様に準備に入れ。」


「了解しました。」


 吉田は直ぐ小川と分隊長に指示を与え、分隊長達は隊に戻り準備に掛かった。


「さっきも分隊長が申しておりましたが鉄製の徳利に火薬を詰め爆発させるのですが、私は火薬の分量よりも徳利が爆発の威力で四方に飛び散る事を考え下に降り絶壁の中に埋め込む方法を考えて要るのです。」


「徳利に火薬を詰め爆破すれば大変な破壊力を持って要ると考えておられるのですか。」


「その通りでして、火薬だけの爆発よりも数倍は有ると考えております。」


「実を申しますと火薬の威力ですがね、お恥ずかし話ですが全くと言っても良い程知らないのです。」


 火薬の爆発は強力だと知っては要る、だが本当はどれ程の威力が有るとは知らなかった。


 では何故軍艦に舵に取り付け爆破させる事を思い付いたのだ。


「えっ、では総司令は余りご存知無しで軍艦の舵を爆破させる事を考えられたのですか。」


 工藤は呆れて要る、あれ程にも見識の高い源三郎が火薬の威力を知らないと今まで考えもしなかった。


 其れと言うもの野洲もだが連合国はこの数十年間と言うもの大きな戦の経験が無い、其れでも火薬の威力だけは知って要る言う。


「でも一応の知識は猟師さんからは伺っておりましたので、まぁ~ねぇ~、私は軍艦の舵が損傷すれば少しだけでも航行には支障をきたすだろうと単純に考えただけでしたので。」


 まぁ~知らないと言うのは本当に恐ろし事だ、工藤は幾度の戦の中で火薬の爆発力は何度も経験し、恐ろしさは嫌と言う程味わっている。


「私は野洲に来るまでは何度となく幕府軍と戦を行ない火薬の爆発力は嫌と言う程知っておりますので、

ですが今回鉄製の徳利に火薬を詰め爆破させるというのは初めてでして、今までは火薬の入った樽を爆発

させておりまして其れだけでも十分に威力は有りました。」


「では鉄製の徳利に火薬を詰めるというのは。」


「私も考え付か無かったです。」


「ではげんたは何を考えて徳利の入れ物を作らせたのか分かりませんねぇ~。」


「私は技師長が次に一体何を考え付くのか全く想像も出来ないのですが。」


「いゃ~私もですよ、この頃げんたは何を考えて要るのかもさっぱり分かりませんからねぇ~。」


「失礼します、中佐殿。」


 吉田が駆けこんで来た。


「中尉、何か。」


「私と同行する兵士達ですが準備が終わり次第出立したいのですが。」


「そうですねぇ~、山賀での準備期間も必要でしょうから、総司令、如何致しましょうか。」


「宜しいと思いますよ、では私が山賀の若様に書状を認めますので其れをお持ち下さい。」


「総司令、有難う御座います。」


 吉田は山賀を知らず、山賀で爆破実験を試みするにしても現地を知らなければ危険を伴うと考えた。


 そして、数日後、吉田と小川、分隊長と十数人の兵士、荷車には数樽の火薬、その他の資材を積み一路山賀へと向かった。


 数日後には菊池の殿様と高野、駐屯して要る中隊からも十数人が同行し山賀へと、野洲からも殿様と工藤を含め数名の家臣と共に山賀へと出立し、その後、菊池の殿様方と合流し、最後には松川の若殿と斉藤を含め十数人が合流し山賀へと向かった。


 源三郎達が野洲を出立した事を知らない洞窟の現場ではげんたを含め何かを話し合っている。


「参号船を降ろす時ですが、何か別の方法でも有ればいいと思うんですが。」


 銀次の仲間も色々と考えて要る。


「わしも参号船を楽に降ろす方法を考えてるんですがね、その方法が分からないんですよ。」


 親方も分からないと言う、今の方法は台の下に丸太を並べており、太い縄で船を括り付けており何時縄が切れるかも知れないという危険な状態で有った。


「オレが考えた方法なんですが、下の台はそのままですが、その台の上に組み立て用の台を作ればいいと思うんですが。」


「えっ、組み立て用の台って、じゃ~その台の上で潜水船を造るんですか。」


 傍にはげんたも腕組みをし考えて要る。


「そうなんですよ、まぁ~オレの考えてる方法なんですがね、オレが考えたんですから期待されると困るんですけど。」


「その方法で一度台を作って見ますよ、でもなぁ~台に車を付けると言う事は下の台に鉄の板が有ればもっといいんだがなぁ~。」


「ですがねぇ~上の台に付ける車ですが木で作っても大丈夫なのかオレは分からないんですよ。」


「そうだなぁ~、確かに銀次さんの言う通りかも分かりませんねぇ~、台は頑丈な作りが要るし、其れに潜水船の重みで壊れるかも分からないんですよ。」


「なぁ~銀次さん、その車って鉄で作ればいいと思うんだ。」


 げんたは簡単に鉄で作れと言ったが、野洲には材料が乏しい。


「鉄の車を作るって、じゃ~野洲の鍛冶屋さんに頼むのか。」


「山賀の若様に頼むんだ。」


「じゃ~山賀で作るって、えっ。」


「そうだよ、山賀には鉄を作る現場が有るんだ、其れに潜水船はまだまだ少ないんだぜ、隣の菊池と上田でも潜水船を造るんだったら一体何個の車が要ると思うんだ、同じ作るんだったら最初から同じ車を作る方法がいいと思うんだけなぁ~。」


「よ~し、銀次さん、其れで作ろうや。」


「だけど、オレは余り自信がないんだけどなぁ~。」


「そんなのどうにでもなるよ、わしは銀次さんが考えた方法がいいと思うんだ。」


「だったら明日の朝早く山賀に行こうよ、馬で行けば夕刻近くまでには着けるんだからね。」


「えっ、馬で行くのか。」


 銀次は正かと思った、其れも潜水船を造る専用の台を作ると言った為に、だが其れが潜水船を簡単に降ろす方法なのかも知れない。


「なぁ~銀次さん、今此処で考えても仕方が無いんだ、わしらは下の台を頑丈に作るのと上の台の加工に入るからね。」


 親方はもう既に構想は纏まり出して要るのだろうか、げんたは作らなければ何も前に進まないと思って

要る。


「オレ、あんちゃんに言ってくるよ。」


「じゃ~わしらは下の台を頑丈に作るよ、まぁ~銀次さん、あんまり深刻に考えない事だよ。」


「分かりましたよ、じゃ~行きますよ。」


 銀次の思い付きだったのか、だが現実の問題を考えれば銀次の提案は大きな変化をもたらす話しで有る。


 その頃、げんたはお城へと走っていた。


「お~い、みんな聞いてくれ、参号船を造った台なんだが、さっきも銀次さんと話し合ったんだがこの台

を頑丈に作って其の上に潜水船を造る為の専用の台を作る事に成ったんだ。」


「この上に専用の台を作るんですか。」


「そうだ、だけどこの台の上に専用の台と潜水船を造るには下の台が弱いんだ、この上には十倍以上も重い潜水船が乗るんだから頑丈に作り変えるんだ。」


「で、親方何時までですか。」


「明日の朝、銀次さんとげんたが山賀に行き其処で話をするんだが、まぁ~直ぐには帰って来ないとわしは思ってるから、まぁ~日数を考えるよりも頑丈な台を作る事を考えてくれよ。」


「じゃ~、今四号船の材料を作り始めてるんですが。」


「この台が完成してから四号船に取り掛かる事に成ると思うんで台に使える材料を作って欲しいんだ。」


「手分けしてやりますけど、下の台ですが、もう少し長く作っては駄目ですかねぇ~。」


 浜の大工達も潜水船を造るにも色々と考え、潜水船を造る時にでも後々の事も考えて要る。


 其れが今では良い結果に結び付いて要る。


「少し長く作るって。」


「わしらもただ潜水船を造るだけでは駄目だと思ってるんですよ、後々の事も考えなければ満足する潜水船を造る事は出来ませんから。」


「よ~し分かったよ、お前達の思う通りにやってくれ。」


「まぁ~、オレ達に任せて下さいよ。」


 親方も大工達が真剣に考えており全てを任せる事にしたので有る。


「なぁ~みんな聞いて欲しいんだ、明日の朝早くオレとげんたの二人で山賀に行く事に決まったんだ。」


「やっぱりあの事か。」


「うん、そうなんだ、オレは思い付きのつもりだったんだが、親方も考えてたらしくて話は山賀でと言う事に成ったんだ。」


「後の事は任せろよ、だったら原木も要るなぁ~。」


「まぁ~、其れは親方と相談してから決めると思うんだ。」


「親方に聴いて原木が要るって言われたら明日の朝からでも山に行くぜ。」


「有難うよ、だけどオレは直ぐに帰って来れないかも知れないんだぞ。」


「まぁ~後の事はオレ達に任せてだ銀次は安心して山賀に行けよ。」


 仲間も銀次だけでは無くみんながお互いを助け合っており、それ程にも今は信頼関係が結ばれて要る。


「じゃ~、みんな頼むぜ。」


「お~、任せなって。」「おや、げんたさんどうしたんですか。」


 大手門の門番は源三郎が早朝に馬で出立した事も知って要るがげんたは何も知らずに来たので有る。


「うん、あんちゃんに。」


「源三郎様はお殿様と工藤さんと、他に数人の兵隊さんと今日の早朝馬で山賀に向かわれたよ。」


「えっ、あんちゃんが山賀に、だけど一体何の用事なのかなぁ~、でも殿様と一緒だとすると大事な事な

のかも知れないなぁ~。」


「そうだと思いますよ、其れに五日程前には二十人近くの兵隊さんが荷車を引いて山賀に向かわれましたからねぇ~。」


「えっ、兵隊さんもか。」


「そうだ、十日程前に山賀から来られましてね其れから何か分かりませんが兵隊さん達が慌ただしく準備されていましたからねぇ~。」


「でも何が有ったのかなぁ~、まぁ~いいか、ねぇ~おじさん馬は有るの。」


「有りますよ、でもげんたさんは何処に。」


「うん、オレも急な用事で銀次さんと二人でどうしても山賀に行かないと駄目なんだ。」


「お二人だけで山賀にですか、では明日の朝馬を用意して置きますから。」


「おじさん、有難う。」


「いいえ、いいんですよ、私から馬番さんに伝えて置きますからね。」


 門番も詳しくは聴く必要も無いと思っており、げんたが山賀で源三郎に会えば何も問題は無いのだ。


「じゃ~明日の朝早く来るからお願いします。」


「はい、いいですよ。」


 一方で早く到着した吉田達は準備を進めて要る。


「吉田様、この高さから下に行かれるのですか。」


「はい、その方が皆様方も安全だと思いますので。」


「左様で御座いますか、でもこの縄梯子で降りられるので有れば太い木に結び付け無ければなりませんが。」


「でもこの木で十分で御座いますので後は今から私と数人で降り調べに参りますので。」


「では私も一緒に参りますので。」


「えっ、若様もですか、でも其れは。」


「いいえ、この山賀では私が全て行くと決めておりますので何も心配は御座いません。」


「ですが大変危険ですので。」


「私が危険だと言う事は吉田様も危険だと言う事に成りますよ、其れにですよ今回の試しは吉田様も危険を承知で参られるのですから私も参り絶壁の下がどの様になっているのかを知る事も大事だと考えております。」


 山賀の若様松之介は少々危険で有ろうと必ず先頭になり行く。


 ご家老の吉永も今更止めても無駄だと分かっており何も言わない。


「では、私が最初に降りますので分隊長と他の者は手伝って下さい。」


 吉田の身体に縄を結び数人に支えられ縄梯子を降りて行く。


「う~ん、これは大変だなぁ~。」


 吉永も考えては要るが今回の爆破実験は連合国の運命を決定すると言っても過言では無い。


 それ程にも大事な試しなのだ。


 吉田が降りた後、若様松之介が、そして、その後分隊長が降りた。


「若様、思ったよりも此処の幅は有ります。」


「そうですねぇ~、私も初めて降りましたので、其れで吉田様は何処に。」


「う~ん。」


 と、吉田は腕組みしながら辺りも見渡して要る。


 今は引き潮で波打ち際も思った以上に広い、だが満ち潮になれば多分だが海の中に隠れるだろう、では一体何処に設置すれば良いのか考えて要る。


「中尉殿、此処に程よいと思われる岩穴が有りますが。」


 分隊長が少し離れた所に岩穴を見付けた。


「ほ~なるほどねぇ~、これはうん丁度良い大きさだ、其れに奥行きはと。」


 吉田が岩穴に手を入れると肘の関節まで有る。


「若様、これが宜しいと思います、誰か書く物は。」


「はい、私が書き留めします。」


 小川が用意していた。


「小川少尉、この穴の大きさと地面からの高さと大よそで宜しいので書き留めて下さい。」


「はい、承知致しました。」


 小川も改めて岩穴に手を入れ穴の大きさ、奥行きを調べ書き留めた。


 大変重要な事柄で爆破後に穴がどの様になったのかも書き留める事で爆発の威力も分かると言う。



「中尉殿、此処にも丁度一升徳利が入ると思われる大きさの岩穴が有りますよ。」


 その場所は先程の岩穴から少し離れた所に有り、吉田が行くと分隊長の言う通りで一升徳利が入るほど良い大きさで、小川はこの岩穴も書き留めた。


「若様、ところで何個の予定で御座いますか。」


「私は何個とは考えておりませんが一応両方で四個作りましたので、残りが二個と。」


「では、今度は石だらけの浜に。」


「吉田様にお任せしますので宜しくお頼みします。」


「小川、岩の下の石だらけの間に一個、次は浜に一個、これで全て別の所で試す事が出来ると思います。」


「う~ん、これは大変素晴らしいですねぇ~、私は其処までは考えてはおりませんでしたよ。」


「若様、其れとは別ですが、断崖絶壁は何処まで続いて要るので御座いますか。」


「実はねぇ~、私も正確には知らないのですがね、山が海の所まで行っており、此方の方が松川の方角ですがその先は見ておりませんが。」


「分かりました、では後日調べさせて頂いても宜しいでしょうか。」


「はい、勿論ですよ、何かの訳が有っての事だと思うのですが。」


「別に深い訳は無いのですが、私はこの海岸に見張り所が有れば軍艦が来た時直ぐ発見出来るのではないかと、ただその様に思っただけの事でして。」


 吉田の考え方は大切な事で特に山賀の海で最初に発見すると言う事は戦略上最も大事な事なので有る・


「吉田様、まだ先の様にも思えるのですが。」


「確かに若様の申されます通りで、まだ先の話では御座いますが、軍艦だけが官軍や幕府軍の船では御座

いませぬ。

 私が若しも海軍の司令官の立場ならば一般の廻船で航行する所と飲み水や食料が確保出来る様な場所も探す事に致します。」


 松之介は改めて軍隊と言う組織は別の考え方をしていると思うので有る。


「ですがこの海は冬には大荒れし、廻船問屋の船も殆ど通る事は有りませんが。」


「はい、勿論承知致しております。

 ですが今のお話しも大変重要でして、私としましてはどの様な船が沖を通過するのかも大事だと考えております。」


「吉田様、大変よく分かりました。

 私が知らぬ事を教えて頂き誠に有難う御座います。」


「若様、私は元官軍兵で軍隊では色々な事を教わり、今申されました様に冬場にはこの海を通る事は御座いませんが、一応念の為にと思いましたので、余計な事で申し訳御座いません。」


「いいえ、その様な事は御座いませんので、私の方こそ失礼致しました。」


「一度戻りまして、私達は徳利に火薬を詰めたいと思いますので上がりましょうか。」


 上りにも吉田が先頭になり、若様、小川と続き全員が上がって来た。


「明日はいよいよですが潮が引いてから行ないたいと思います。」


「もうそろそろ皆様方が到着されると思いますよ。」


 若様と吉田達は山賀のお城へと戻って行く。


 その頃、源三郎達も山賀のお城に到着した。


「今、若様は海の方に向かわれておられますが間も無く戻って来られると思いますのでお部屋の方でお待ち願いとう存じます。」


 野洲のお殿様と源三郎、工藤は山賀の家臣の案内で部屋に入ると、其処には既に松川の若殿、竹之進が待っていた。


「義兄上様。」


「若殿、お早いお着きで、斉藤様も。」


「私は窯元から書状を受け取りましたので。」


「竹之進、元気そうじゃのぉ~。」


「叔父上様のお元気なお姿を拝見させて頂き竹之進も安堵致しております。」


「源三郎殿。」


「上田様も大変ご苦労様で御座います。」


「源三郎殿、いよいよで御座いますなぁ~。」


「はい、私も明日の試しが成功する事を祈っております。

 今頃は先発した吉田様が明日の下見を兼ねて行かれたのだと思います。」


「ですが一体どれ程の破壊力が有るのでしょうか。」


「其れだけは私も想像出来ぬので御座います。

 ですが、我々の想像を越える事だけは間違いは無いと私は思っております。」


「う~ん、じゃがのぉ~源三郎の思う様になれば良いがのぉ~。」


「殿、実は私も一抹の不安が御座いまして、ですが吉田様や分隊長の事です必ずや大成功させて頂けるものと思っております。」


「其れで源三郎殿は明日の予定を聴いておられるのでしょうか。」


「いいえ、私は全て山賀の若様と吉田様達にお任せ致す方が良いと考えております。」


「まぁ~其れが源三郎が申す現場主義と言う話じゃのぉ~。」


「私は現場の者達に任せる事で何事も無く物事が進むものと考えております。

 其れで、高野様、阿波野様、洞窟の掘削工事は如何でしょうか。」


「菊池も順調に進み、先日からは内部で岸壁工事も開始致しております。」


「私は上田と松川に繋がる洞窟の内部ですが、今岸壁を拡げる工事が丁度半分程度が整地も終わりましたのでそのまま拡張工事と整地を続けております。」


「お二人には大変なご無理を申し上げており、私は感謝致しております。」


「松川の入り口を拡げる工事は如何致しましょうか。」


「う~ん、其れが今の悩みでして、果たして拡げる方が良いのか判断に困って要るので御座います。

 私が考えた方法としましては上田から入り松川に抜ける方法と、反対に松川から上田に抜ける方法が考えられるのですが、拡張は出来ますが若しもの事を考えますと今は其のままの状態が良いと考えて要るのです。」


 上田の入り口は狭いが、松川の入り口は殆ど外からは見えず、潜水船と言う特殊性を利用するならば、上田も松川の入り口も拡張せず内部の拡張と整地だけに留めたいと源三郎は考えて要る。


「分かりました、では今は現状のままでと言う事で宜しゅう御座いますね。」


「皆様方、大変お待たせ致しました。


 若様、松之介が戻って来た、吉田と小川も同席した。


「早速で御座いますが。」


「まぁ~まぁ~松之介、今、戻ったばかりじゃ、何も急ぐ事も有るまい。」


「はい、叔父上様、お元気で何よりで御座います。

 ですが、私も皆様方には少しでも早くお伝えしたく思っておりますので。」


「殿、若様にお任せを。」


「うん、分かった、源三郎の申す現場主義と言う話じゃのぉ~。」


「はい、その通りで御座いますので、では若様お願い申し上げます。」


「有難う御座います。

 では早速お話しをさせて頂きます。

 先程、吉田中尉殿と小川少尉殿、そして分隊長殿全員で崖を降りまして。」


「えっ、若様、崖を降りたと申されますと。」


「はい、正しくその通りで御座いますが、皆様方には私よりも吉田中尉殿からお話しをさせて頂く方が良いと思いますので、吉田中尉殿、宜しくお願いします。」


 若様も専門的な説明が必要だと思い吉田に説明役を代わった。


「はい、では其の前に私は吉田と申します。

 今は野洲で工藤中佐の下で総司令の作戦を実行する部隊に所属致しておりまして、今回の爆破実験を命ぜられました。

 其れでは只今より詳しくご説明させて頂きます。」


 その後、吉田は詳しく説明するが吉田の説明に殿様方も同行した責任者の高野達も時々は頷き、時には驚きの連続で、吉田の説明は半時以上も続いた。


「以上が本日若様のご同行を頂きまして現地の崖下での模様で御座います。」


「今のお話しは我々は直接爆発する様子は見れぬと申されるのですか。」


「はい、誠に申し訳御座いませぬが、私もこの様な爆破実験は初めて御座いますので、殿様方に若しもの事を考えますと今回の爆破実験はご辛抱願いたいので御座います。」


「叔父上様、其れは何も吉田中尉殿で無くても、私も皆様方が直接見られるのは如何なものかと考えるので御座います。」


「う~ん、じゃがのぉ~。」


 野洲の殿様はどうしても見たいのだろう、其れは何も野洲の殿様だけでは無い、殿様よりも源三郎が一番見たいと思って要る。


「殿、此処は吉田中尉に任せましょう。」


「何じゃと、だが源三郎、お主は参るつもりなのか。」


「えっ、私がで御座いますか、勿論で御座います。」


 源三郎は野洲の殿様の顔を見てニヤッとしたが。


「総司令が参られては困ります。

 其れと申しますのは爆弾の危険性がまだ何とも分かりませぬので。」


「のぉ~やはりじゃ、源三郎も行けぬのならば余も諦めるぞ、うん、源三郎が行けぬとは愉快じゃ、誠これは愉快じゃのぉ~。」


 野洲の殿様は大笑いしている。


「先程も申しましたが、今回は爆発の威力を調べるのが一番の目的で結果次第では徳利の大きさを変更する事も考えねばなりません。」


 元官軍兵で爆弾の威力は誰よりも知っており、其れは工藤も含め元官軍兵で有れば、だが源三郎を含め今の連合国の殿様や武士は誰も知らない。


「皆様方には大変申し訳御座いませぬが、実は私は火薬と言う物の破壊力を知らないので御座います。

 其れと言うのも幸か不幸か分かりませぬが、私がこの地に生まれこの方大きな戦と言うものを経験した事が御座いませぬ故、知らなかったと申しますのが誠で今回が初めてなので御座います。」


 源三郎は大きな戦では大砲を使う事も知らずに、其れでも猟師が使う火縄銃だけは知って要る。

 だが、火薬の威力を知らないのは源三郎だけでは無かった。


「確かに今源三郎殿が申される通りだと私も思います。

 実は私も全くと言っても良い程知らないので御座います。」


 菊池の殿様も知らないと言い、上田の殿様も頷き、更に若い松川の若殿も全く知らないと言うので有る。


「う~ん、よ~く考えて見ると余も全く知らぬぞ。」


 野洲の殿様でさえも知らないと、其れは連合国になる以前から目前の高い山が障害となり幕府でさえも大砲を運ぶ事が出来ず、其れよりも高い山には狼の大群が幕府軍を寄せ付けなかった言うのがどうやら本当の話しの様だ。


「総司令、宜しでしょうか。」


 工藤は何を話すのか。


「私は元官軍の兵士で、今は総司令の下で官軍か幕府軍か分かりませぬが、連合国の沖合を通る軍艦を沈める任に就かせて頂いております工藤と申します。

 私は官軍と幕府軍の戦で何度となく大砲の威力を見せ付けられております。

 大砲の弾と申しますのが一貫目、いや、其れ以上にも重いのですが、その弾丸を飛ばす程の威力を火薬と言う物は備えております。

 先程も吉田が申しました通り今回の爆破実験は私もどれ程の威力が有るのか其れを調べるのですが、多分と申せば皆様方には大変失礼かと存じますが、私や吉田が経験しました以上の破壊力を見せ付けられると思っております。」


「まぁ~それ程までに経験者が申されるので有れば、のぉ~源三郎仕方あるまいぞ。」


「はい。」


 と、返事はしたものの何とも言えない程に弱く、其れでも最初は爆弾とは一体どの様なものなのかを見たかったと言うのが本音で有る。


「では崖の上から覗く事は出来るのでしょうか。」


「多分ですが無理だと思われます。

 丁度崖の中程のところに大きな岩がせり出しておりますので崖の真下も見る事は出来ませぬが爆発の瞬間だけは耳と肌で感じる事は出来ると思います。」


「吉田中尉、先程の話で有れば崖の下の穴に入れると申されましたが高さが一町以上も有るのにその様な

爆発音が聞こえるのですか。」


「はい、其れは間違い無く皆様方に聞こえると、更に申しますと爆発で粉々になった岩石の破片が大量に飛び散る様子も御覧頂けると思います。」


「では中尉が申される様に下に降りて見ると言うのは大変な危険が伴うと申されるのですね。」


「私達は兵士で中佐殿も言っておられましたが爆発の恐ろしさは何度も経験しておりますので逃げるすべは心得ておりますが、其れでも今回だけは何が起きるのか全く予想が出来ないので御座います。」


「よ~し分かったぞ、余は崖の上で見る事に致すぞ、源三郎も納得したで有ろう。」


「殿、承知致しました。」


「其れでは皆様方明日の昼過ぎに開始致したく思いますので。」


「まぁ~其れまではゆるりといたそうでは御座いませぬか。」


「左様で御座いますねぇ~。」


 その後、殿様方は別の話に入って要る。


「お久し振りで御座います。」


「吉永様もお元気そうで何よりで御座います。」


「拙者、この山賀に入り多くの問題が有ると思っておりましたが、その問題の全てを若が直々に解決され、拙者の出る幕が御座いませぬ。」


 吉永は期待に胸を膨らませ山賀に入り自ら先頭に立ち問題の解決が出来るものと思っていたのだが、その全てをと言っても良い程若様、松之介が解決する為に不満が有るのだと。


「左様で御座いましたか、全てを若様が解決されるので吉永様は不満だと申されるので御座いますか。」


 吉永は何も不満が有るとは言っておらず、表情は不満では無く喜んで要る様にも見える。


 だが家臣達は別で以前の様にはのんびりと出来ず、反対に家臣達は少々疲れが溜まって要る様子で有る。


「いいえ、私は不満などは御座いませぬ。

 ですが家臣の中には若様の勢いに就いて行けず少々疲れが目立つ様になり、私は少しですが心配なので

御座います。」


「其れは大変で御座いますねぇ~。」


 吉永は源三郎から其れとはなしに意見をして欲しいとの口振りで有る。


 源三郎は義理の兄でも有り、源三郎の意見ならば松之介も聞かざるを得ないだろうと。


「私から時を見てお話しをしましょう、家臣が疲れると何れ大きな不満となりますので。」


「誠に申し訳御座いませぬ。

 拙者が至らぬばかりに源三郎殿にもご迷惑をお掛け致しますが何卒宜しくお願い致します。」


 吉永も少し安心したのだろうが、源三郎も少しは気が咎めるのかも知れない。


 野洲とは全く別に世界に、其れも突然筆頭家老を命ぜられこの日までは人には言えぬ気苦労が有ったことは源三郎でも察しは付く。


 殿様方の雑談は続くが、夕刻前には分隊長達も徳利に火薬を詰め込み作業も終わり、明日の午後いよいよ初めての爆破実験が行なわれるので有る。




          





         

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