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闇の帝国    作者: 大和 武
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 第 13 話。参号船の完成と訓練開始。

 幕府軍数百名が狼の大群に襲われ全滅し、野洲の城下でも久し振りに何時もの静けさを取り戻し、浜の洞窟では参号船の建造が進められて要る。


「親方。」


「う~ん。」


 と、親方も何かを考えて要る様子で。


「なぁ~銀次さん。」


「一体どうしたんですか。」


「いゃなぁ~銀次さんも分かってると思うんだ、船の。」


 あれから三か月も経つと言うのに参号船の船体が完成するどころか船体の半分も出来ずにおり、だが銀次は何も言えない。

 弐号船の倍以上が参号船で銀次達も手伝うのだが、今頃になって親方は何かを考えて要る。


「オレ達にも出来る事が有ったら何でも言って下さいよ。」


「いゃ~本当に有り難いんだけど、わしはげんたに言った約束が。」


「げんたも分かってるんですよ。」


「わしは何か分からないんだ、参号船を造り出してから進み方が遅いんだ。」


「何ですか、親方の言う進み方って。」


「其れが分からればいいんだなぁ~。」


 親方は何故遅れて要るのか其れが分からないと、銀次にすれば大工の親方が分からないものを銀次達素人が分かるはずが無いと思って要る。


「参号船造りが遅れてるんですか。」


「そうなんだ、わしの経験から考えると参号船は今頃出来上がっても不思議じゃないんだ、だけど未だ半分も造れてないんだ、其れが何故かわからないんだ、この調子だと壱年経っても二隻が造れるのか、わしも自信が無くなってきたんだ。」


 親方は相当深刻に考えて要る。


「なぁ~親方、オレは素人だから怒らないで欲しいんだ。」


「わしはそんな事は思って無いから何でも言って欲しいんだ。」


「船体に使う原木ってこんなにも太いし長いから、オレ達が数十人掛かりで運んでるけど、太くて長い原木を何個かに分けるって出来ないんですか。」


 銀次達が山から切り出した原木は直径が一尺以上で、長さが五十尺、いや、物によっては七十尺も有り、だが船体の大きさと言えば百五十尺も有り、七十尺の原木だけでも二本が必要で七十尺も有る原木を一体何人で担ぐのだ。


 銀次は其れを何本かに分けてはどうだろうかと提案する。


「わしも何とかして早く完成させたいんだ、良かったら教えて下さいよ。」


 もう親方は必死だ。


「オレなんかが教えられる事は無いんですよ、オレも色々と考えてたんですが、親方達が少しでも楽になる方法は無いかって。」


「わしもなんだ、だけどどう考えても分からないだ。」


「話しは変わるけど、船を造る時最初から全体を、う~ん、何て言ったらいいのか分からないだけど、だけど今度の潜水船って物凄く大きいから中に使う柱も太くて長い、だから物凄く重いんだ、其れでオレは何とか分割出来ないかって考えたんだ。」


「分割って一体。」


「家を建てる時でも全部の柱は一本物で作らないと駄目なんですか。」


「えっ、全部一本物って、いや別にいいんだ繋ぎの部分さえ頑丈に出来れば、だけど潜水船は。」


「繋ぎの部分がしかっかりと出来ればオレは造れると考えたんんですよ、だって山にですよ半町も有る大木なんて無いんですよ。」


「其れは分かるよ、あっそうか、わしらは最初から一本物で無ければ駄目だと思ってたんだ、銀次さんの言う通りそんな半町も有る大木なんて無いから繋ぎの部分が大事だって、そうか、其の方法が有ったんだ。」


「同じ分割するんだったら最初から分割して其れから繋ぎ合わせる方法で行けると思うんだ。」


「だけど幾ら分割したって船は大きいんだ、どんな方法で運ぶんだ。」


「船を造る前に船が全部入る大きな櫓を作って、運ぶ時の事も考え大きな滑車と長くて丈夫な縄で吊り下げるっての出来ないんですか。」


 何と銀次は大胆な方法を考えた、潜水船を分割して造り出来次第繋ぎ合わせると、その為には大きな櫓を組み、分割して造られた潜水船を吊り下げて運びつなぎ合わせると言う方法だ。


「親方には悪いんだけど、オレは今の参号船を一度解体して先に大きな櫓を組み、其れから分割の方法で潜水船を造ってはどうかなぁ~て思うんですよ、今同じ遅れてるんだから別の方法を試して見ても。」


「有難う、じゃ~その方法でやって見るよ。」


「オレの様な素人が偉そうな事言って。」


「そんな事はいいんですよ、わしらも銀次さん達がいなかったら其れこそ大変な事になってたんですよ、わしは銀次さんにお礼を言いますよ、銀次さん本当の有難う。」


「申し訳無いです。」


「銀次さんが考えた方法ですが潜水船を分割するんですが、一体何分割くらいで考えてるんですか。」


「潜水船の大きさが半町でしょう、半町を。」


 銀次はこの後、親方に詳しく説明し。


「よ~く分かりましたよ、わしは今から直ぐ図面を作り直しますので、銀次さん達は原木の切り出しをお願い出来ますか。」


「勿論で、オレ達に任せて下さいよ、取り合えず五十本を切り出し、先に櫓を組み上げましょうか。」


「じゃ~櫓が組み上がまでに図面を書き上げますので、宜しく頼みます。」


 話しが決まれば動き出すのは早い。


「お~いみんな済まないが参号船を一度解体してくれ、其れから新しい方法で潜水船を造るから。」


「分かりましたよ、オレ達も今から勝負に出ますからね。」


 大工達が集まり、半分近く出来た参号船の解体が始まり、親方は図面を書き直し始めた。


 銀次の提案は船の造り方の既成概念を根本から覆した方法で、其れはげんたが考えた船は海の上を進むもので、海の中に潜る事は不可能だと言われており、其れをげんたは潜水船と言う今まで誰も考え付かなかった船を考え造った。


 其れが今の銀次の頭にも浸透し大きな船は分割した方法で造り繋ぎ合わせると言う方法で有る。


 洞窟内では船の解体は直ぐ始まり、大木が数本運び込まれ加工され十数日後には櫓の組み上げが行われ、潜水船は数か所で分割方式で造る作業が始まった。


 銀次達も加わり急を聞いた、家臣達が原木運びに加わり、新しい方法で造り始めた潜水船の一部が出来上がり移動は吊り下げられ次々と繋ぎ合わされ始め、最初の日から三十日で半分以上が繋がり、其の二十日後には参号船の船体が完成した。


「銀次さん、本当に有難う、わしは助かったよ。」


「いゃ~そんな事は、でもこんなにも上手く行くとは思って無かったですよ。」


「わしはねぇ~、今度ばかりは目が覚めましたよ。」


「目が覚めたって、一体どう言う意味何ですか、オレは何も言って無いのに。」


「いゃ~其れが大いに有るんですよ、わしは大工の考え方、銀次さんは全くの素人の考え方で、銀次さんは素人だからって言ってましたがね、わしもですが、大工でも他の仕事でもですね、数十年、いや数百年も同じ仕事が続くと今の方法が正しいと、その方法しか出来ないんですよ、だってわしらはその方法しか無いって勝ってに思い込んでたんですよ。」


 銀次は首を傾げ親方の言う意味が分かっていない。


「ねぇ~親方、オレは親方の言ってる意味が全然分からないんですよ。」


「船の底は丸い形だって一体誰が決めたんですか。」


「えっ、そんな事突然言われてもオレはそんな事は知らないですよ。」


「わしらもだが其れが当たり前だって思ってたんですよ、船の底が丸いのは。」


 銀次は目の前に出来上がった参号船を見た。


「えっ、じゃ~この形は親方が考えたんですか。」


「まぁ~ねぇ~。」


 銀次が見た参号船は五角形の形をして要る。


「銀次さんは鋸は使えると思うんですよ。」


「此処では誰でも鋸は使えますよ。」


「其れなんですよ、銀次さん達は全員が鋸は使える、だけど其れは直線には切れるけど、半円に切る事は簡単じゃないんだ。」


「オレは大工の仕事は専門じゃ無いんですよ、半円に切れって言われてもねぇ~。」


「其れなんですよ、わしは出来る、だけど曲がりを付けて切るのは誰にでも出来る事じゃ無いんですよ、だったら誰にでも切れるのはって考えた時直線だったら切れる、其れだったら直線の船底が有っても不思議じゃ無いと思ったんですよ。」


「親方は其れでオレ達にも手伝って言ったのは直線の船を造る為だったんですか。」


「同じ曲がりの物を造るってのは誰にでも出来る仕事じゃ無いんですよ、だけど銀次さんにもお願い出来るのは直線に切ってくれって、其れだったら本当の素人でも出来るんですよ、まぁ~最後の仕上げはわしらがしますからね、其れで考えたのがわしら大工は仕上げを、銀次さん達には直線に切って貰う、これだったら銀次さんの言う分割方式でやればひょっとすると早く造れるんじゃ無いかって思ったんですよ。」


 銀次から言われるまで気持ちばかりが焦り、最初の計画よりも大幅に遅れ、其れが大きな悩みとなっていた。


 其れと言うのも船と言うものは丸みを付けなければならないと考え、その丸みを出す為には原木を同じ様な角度の付いた曲げ方に切り、削らなければならない。


 親方の下で働く大工達は誰も腕の良い職人だが、其れでも日数ばかりが掛かりこの調子ならば参号船はおろか、四号船、五号船は何時になれば完成するのだと。


 約束と言うより官軍の軍艦は一年後、いやどの様に遅くとも一年半後までには連合国の沖を通過し佐渡に着き、金塊を略奪する事に成る。


「底の部分ですが。」


「三角のところには砂袋を置ける様に三尺四方で間切りを付けるんですよ、そうすれば砂袋は動く事も無いし、その所には風車型と水車型に繋がる鉄の棒を入れ、最初に動かす為の足踏み機もその場所に付ければ上のところには船を動かす人間だけで余計な物は無いので少しは楽に成るかって思ったんですよ。」


「でも親方って物凄いですよ。」


「いゃ~其れも全部銀次さんのお陰なんですよ。

 わしは銀次さんに言われたんで、其れから考え方を変えたんですから。」


 今までの考え方を改め既成概念を取り払う事で今まで悩んでいた事が嘘の様に消え、其れからは次々と色々な方法が頭に浮かぶ様になった。


「その考え方ってげんたのですか。」


「そうなんだ、げんたが考えた潜水船って、わしもだけど今まで船は海の中に潜るって事を考えた人間は何処にもいないと思うんだ。」


「オレ達もですよ、オレは船は海の上に浮かぶものだとばかり思ってたんですが、海の中に潜るって聞いた時には驚くよりも、げんたって奴は気が狂ったと思いましたからねぇ~。」


「其れが普通なんですよ、でもねげんたには其の前に話しが有って、源三郎様から最初に作れって言われたのが水の中で息が出来る様な物をって。」


「じゃ~潜水船を考える事になったのが潜水具なんですか。」


「わしはげんたから話しを聞いたから間違いは無いんだ。」


「でも源三郎様も水の中で息が出来る方法は無いかって考えておられたんですねぇ~。」


 げんたが潜水船を考案する前に、源三郎から水の中で息が出来る方法を考え作れと、其れが後々潜水船と言う誰もが考え付かなかった船を考案する事になった。


「わしらが考える事を源三郎様ってお方は考えておられるんだ、わしも今までの様にこれは絶対に無理だとは考え無いで別に何か方法が有る様に考えなければ、次に何を考え作れって言うのか分からないですよ。」


「だけど親方、オレ達の頭でげんたの言う事を理解するのも大変なんですよ。」


「其れはわしも分かりますよ、でもねぇ~、げんたの言う通りの物を作ろうとすれば今までの考え方じゃ全く理解出来ないんですよ、まぁ~今度の潜水船でも何かを考えてると思うんですがね。」


 親方の言う事に間違いは無い、山賀の帰りに松川に寄り、げんたは窯元に特別な焼き物を頼んでいた、其れがどの様な物なのか松川から届けられ現物を見せられても、銀次には全く理解出来ないだろう、だが未だ届かない、その物が届けられれば潜水船の動き方も変わって来るのは間違いは無い。


 果たしてげんたは一体何を頼んだのだ、親方と銀次が話の途中げんたが来た。


「わぁ~出来たんだ、物凄いなぁ~、あっ。」


 げんたも驚いた、潜水船の形が変わって要る。


「面白い形になったなぁ~。」


「げんたは不思議だと思うのか。」


「いいや、オレは別に形にはこだわって無いんで、形が四角形でも三角でもいいんだ。」


 げんたが驚いたのは形では無く、参号船建造が途中で変更になり、其の参号船が思っていたよりも早く完成したからだ。


「思った以上に早く出来たんだねぇ~。」


「そうなんだ、わしが悩んでる時に銀次さんのお陰で思ったよりも早く造れたんだ。」


「この船だけど、オレが松川に行った時、窯元に無理を頼んだ物が有るんだ。」


「そうかあの時長い事掛かって話してたのが新しい物なのか。」


「まぁ~ねぇ、話すよりも物が届いてからが楽しみなんだ。」


「まぁ~げんたの事だわしらが今更驚いたところで、なぁ~銀次さん。」


「そうですよ、何時もの事だからねぇ~。」


「其れよりも中を見たいんだけど。」


「いいよ、今度の潜水船はわしが考えたんで中を見たら驚くよ。」


 親方は自信を持って要る、其れは発想の転換とも言うべき作りだと言いたいのだろう。


「わぁ~これは凄いや、親方有難う、オレはこんな潜水船を考えてたんだ。」


「どうだげんた気にいったか。」


「あ~勿論だ、最高だ、じゃ~親方はこの方法で四号船と五号船も造るのか。」


「其れは勿論だ、この方法だと銀次さん達にも手伝って貰え、わしらは最後の細かい作業だけで、其れが終われば直ぐに組み立てに入れるから、今までの造り方よりも早いし、頑丈な造りにもなるんだ。」


「ふ~ん。」


 げんたが早くから考えてた方法と同じ様な方法だ。


 銀次達は原木を切り、仕上げは親方達大工が行ない、直ぐ組み立てる事が出来るのだと。


「切り出しは。」


「木こりさん達には同じ様な太さを選んで切り倒してくれって、後は仲間が枝落とし運ぶのはお侍様達が行ってくれるから、その分オレ達は他の仕事が出来るんだ。」


「よ~し、次は四号船と五号船だ、其れが終わり次第上田に向かうぞ。」


「じゃ~やりますかねぇ~。」


「上田も同じ方法で造るから。」


「親方に任せるよ、銀次さん達は五号船の目途が付いたら上田に。」


「そうだ上田の木こりさん達とも話しをする必要が有るんだ。」


「じゃ~誰かに上田へ行って貰う事に、そうだ、だったらあんちゃんに頼む事にするよ。」


「其れじゃ~親方、オレ達は。」


「あんちゃん。」


「げんた、良いところに来ましたねぇ~。」


「何か有ったのか。」


「いいえ、ほんの少し前ですが松川の窯元さんがね、これをげんたに渡して下さいと。」


「やっと出来たのか、オレはこれを待ってたんだ。」


「これは一体なんですか、何に使うのですか、私は全く分かりませんので。」


「これはなぁ~、潜水鏡に使うんだぜ。」


「えっ、潜水鏡にですか、ですが何故焼き物が必要なのですか、其れに。」


「あんちゃんでも分からないのか、二本の筒が大事なんだ。」


「えっ、ですが、簡単には抜けないですよ。」


「其れでいいんだ、うんいいんだ、よ~しこれで出来るぞ。」


 げんただけが納得し、源三郎は全く理解出来ない。


「ですが、何故二つの筒が必要になるのですか。」


「じゃ~簡単に説明するからね。」


 源三郎に詳しく説明を始め、源三郎も説明の途中で分かったのだろう。


「では上と下には太い竹を使うのですね。」


「其れでね。」


 と、又も説明が始まり、源三郎は何度も頷いた。


「あんちゃんも分かったのか、其れでこの隙間の無いところには牛の脂を塗り込み、筒の中で火を点けると陶器は熱くなり脂が少しづつだけど隙間に入って行くんだ。」


「私も分かりましたよ、脂が隙間を埋め、海水が入らないのですね。」


「やっぱりなぁ~、さすがにあんちゃんだ、直ぐに分かるんだからなぁ~、オレはなぁ~、まぁ~いいか。」


「ですが最初に見た時には全く分かりませんでしたからねぇ~。」


「多分、窯元さんが一番苦労したのは二つの筒を隙間の無い様に作る事だと思うんだ。」


「其れは確かだと思いますねぇ~、ですがその僅かな隙間から海水が滲み出て来ますが。」


「だから牛の脂を使うんだ、脂は冷えると固まるから、まぁ~絶対にとは言えないけど、多分海水は滲む程度で入って来る事は無いと思うんだ、これが成功すると潜水鏡を何処に向けても見えるんだぜ。」


 げんたは弐号船までの潜水鏡は前方しか見えず、後方から来るで有ろう軍艦の姿は見えない、後方が見ないと言う事は、若しも軍艦に乗り上げられる様な事にでもなれば潜水船の中に海水が流れ込み乗務員全員が水死する、乗務員を守る為に考え付いた繋ぎの物で有る。


「オレは今から潜水鏡作りに入るぜ。」


「分かりましたが余り無理をしない様にして下さいね。」


「うん、分かってるよじゃ~な。」


 げんたは焼き物で作られた二個の筒を大事そうに持ち浜へと戻って行く。


 其の頃、浜では鍛冶屋も色々と改良を加え参号船の内部で水車型と風車型の取り付け工事に入って要る。


 参号船に作られた大小様々な歯車を太い樫の木と鉄の棒数本が置かれ目印を付けた船体に穴を開ける作業に入り、数人の鍛冶屋は慎重に作業を進めて行くが、水車型の直径が一尺五寸、厚みが二寸も有り一人では持ち上げる事も出来ない。

 銀次達も手伝いに入るが、今度の作業は慎重にも慎重を期さねばならず、船体に穴を開け水車型と風車型の鉄棒を通し牛脂を入れ、歯車と歯車の噛み合わせなど行われ失敗する事は出来ない。

 空気の取り入れ口は左右の上部に穴を開け、これは乗組員全員の生死を決めると言っても良い。

 銀次達も自然と手に汗を握る作業が続くが、其れでも数日で終わった。

 参号船の建造に入ってから六十日が経っており、親方達も銀次達も、其れに鍛冶屋も今まで一番大きな潜水船を完成させ、今はほっと一安心で明日はいよいよ参号船を岸壁から海に降ろし、試験航海で野洲の湾内を一周する予定で有る。


「あんちゃん、明日の朝岸壁から降す事になったんだ。」


「そうですか、大工さん達も銀次さん達も、其れに鍛冶屋さん達は大変な苦労されたと思いますが。」


「そうなんだ、鍛冶屋のあんちゃんも言ってたけどこんな大きな潜水船を造るとは考えて無かったって。」


 鍛冶屋は歯車の仕上げと水車型と風車型の、其れに空気の取り入れ装置から潜水船の大きさを想像していたが、実物の潜水船は想像以上の大きさで其れに驚いて要る。


「私も未だ見ておりませんのが、明日は殿も行かれると思いますよ。」


 其れは単に野洲だけの問題だけで無く連合国の存亡を掛けた潜水船で、城中の家臣も城下の人達も早く成功の一報を聴きたいと思うので有る。


「明日の試験航海ですが。」


「オレは工藤さん達にお願いしようと思ってるんだ。」


 其れは源三郎も望んでおり、だがやはり最終決定は技師長で有るげんたに任せた。


「オレは今から工藤さんのところに行って来るよ。」


「では私も一緒に参りましょう。」


 と、二人は大手門を出、工藤達の野営地へと向かった。


 吉田と共に来た元官軍兵一千名は大手門を出た左右に野営地を設置し、工藤も殆ど野営地に要る。


 源三郎も工藤に対し城に来る様に進めるが工藤は兵士達の事も考え断り続けて要る。


「オレはげんたって言います、工藤さんは。」


「はい、承知致しておりますのでご案内します、さぁ~どうぞ。」


 野営地の兵士はげんたも源三郎も知って要る。


「中佐殿、総司令と技師長がお見えになりました。」


「えっ、総司令が、分かりました。」


 工藤の執務室は入り口より少し中に入ったところに有る。


「総司令も技師長も呼び出して頂ければ参りましたのに。」


「工藤さん、失礼かと思いましたが、技師長がどうしてもと申しますので。」


「さぁ~どうぞ、お座り下さい。」


 工藤の執務室には全て専用の机と椅子が有る。


「其れでご用件とはどの様な事なので御座いますか。」


「工藤さん、後数日で参号船が完成するんだ。」


「其れは本当ですか。」


 工藤も参号船が完成すると聞きほっとして要る。


「だけど、参号船は今までの船とは全然違うんだ、親方達が物凄く苦労したって言ってたんだ。」


「全く違うと申されますと。」


「まぁ~其れは後で話すけど、其れよりも参号船を試して欲しんだ。」


「えっ、試すと申されますと、まだ海に入って無いと申されるのですか。」


「そうなんだ、其れに参号船と同じ型の潜水船を造るんで工藤さんが訓練してた兵隊さん達に試して貰いたいんだ。」


 工藤は正か試験航海に選抜された兵士を乗せるとは考えもしなかった。


「総司令、技師長、我々に試験航海の栄誉を与えて頂けるのでしょうか。」


「余り窮屈に考えず、其れに色々な問題点も出ると思いますが、参号船で良い結果を得たならば同型の潜水船の建造に入りたいと思うのです。」


「総司令、技師長、私は喜んで試験航海に参ります。

 当番さん、吉田中尉を呼んで下さい。」


「はい、了解しました、直ぐに。」


 当番兵は急いで吉田を呼びに、当番兵も話の内容は分かり、嬉しさも倍増した表情だ。


「其れで訓練の方は如何でしたか。」


「はい、全員が志願した兵士ですから訓練の方は大方終わりだと思います。」


「中佐殿、吉田です、お呼びだと伺いました。」


「中尉、入って下さい。」


 吉田は何時に無く緊張した様子で有る。


「総司令、今回の訓練で指揮を執りました吉田中尉です。」


「大変ご苦労様でしたねぇ~、其れで吉田中尉がこれからも潜水船の指揮を執られるのでしょうか。」


「いいえ、吉田中尉は後々の為に訓練に参加しましたので。」


「ではどなた様が指揮を。」


「はい、小川少尉と申しまして、小川に指揮を任せるならば最高だと考えております。」


「では、小川少尉も呼んで頂けますか。」


「はい、承知しました、当番さん、小川少尉を呼んで下さい。」


「工藤さんも吉田中尉も弐号船は見ておられるとは思いますが、参号船は今までよりも大きく乗組員も多く乗る事が出来ますが、私は参号船でも訓練は非情に大切だと考えております。

 勿論、皆様方が大変優秀な方々ばかりだと言う事は承知しておりますので、訓練に付いては何も心配は致しておりませんが、訓練中の事故だけは避けたいと考えておりますので何事に置いても慎重に行って頂きたいのです。」


「我々は今回の訓練については全てが初めで吉田、小川が中心になり訓練方法を考えたいと思います。」


「失礼します、小川参りました。」


「少尉、座って下さい。


 総司令、小川少尉で御座います。」


「ご貴殿が潜水船の総指揮を執られるのですね。」


「はい、中佐殿から指名を頂き、私は大変な栄誉だと思っております。」


「少尉、まぁ~余り緊張されずにね。」


 小川少尉は大変な緊張をして要る、其れはやはり潜水船と言う今まで誰も指揮を執った事が無い特別な船で恐ろしい程の責任を感じて要るのだろう。


「少尉、今もお話しをしておりましたが訓練中の事故だけは起こさない様にお願いします。

 其れと参号船は大きな潜水船のですが、良いところと、これは改良が必要だと思われましたら報告をお願いしたいのです。」


「はい、其れは私が責任を持って報告させて頂きます。」


「其れと、今度の潜水船の訓練方法は皆さんで考えて頂きたいのです。」


「オレは次の船も考え様と思ってるんだ、参号船の潜水鏡はね回す事が出来るから後ろも見えるんだ。」


「えっ、では潜水鏡は大切な装置で。」


「それなんだ、弐号船は回す事も出来なかったから、漁師さんが船長の役目をしてたんだ、でも今度は前も左右も後ろも見る事が出来るから、その使い方も変わって来ると思うんだ。」


「と、言う事は技師長、この訓練では潜水鏡の操作は難しいと。」


「オレは其処までは考えて無かったんだ、だけど潜水鏡を操作する人は身体を、う~ん、何て言うのかなぁ~身体も回さないと駄目なんだ。」


「小川少尉、今までとは全く違う動きになりますので早く特定する必要が有りますねぇ~。」


「私は一応全員に操作を覚えさせる必要が有ると考えて要るのです。」


「其れとね、船を操作する人もだけど、船が大きいから水車型も風車型も大きくなってるんだ。」


「では全ての操作は早めにと言う事になりますねぇ~。」


「だから、参号船の動きに慣れるまでは苦労すると考えて無理はしないで欲しいんだ。」


「操作には慎重に行う様にと、其れが大事だと言う事になりますねぇ~。」


「正直いって、今度の潜水船は大きいから左右の動きも、其れに潜る時も直ぐには無理だと思うんだ。」


 げんたが最初に造った潜水船とは比べ物にならない程の大きさで、参号船の全長が半町も有り、其の大きな潜水船の操作を習得するまでは長い期間が必要だとげんたは考えて要る。


「其れとね、水車型も風車型を繋ぐ棒は殆どが樫の木を使ってるんで、余り無理をすると硬い樫の木でもねじれて折れるかも分からないんだ。」


「技師長、宜しいでしょうか、樫の木ですが太さは分かりますか。」


「え~っと、多分だけど親方は五寸の樫の木を使うって言ってたから、余程の無理を掛けないと折れる事は無いと思うんだ、其れに全部床下に有るから兵隊さんは中で動く事も出来ると思うよ。」


「五寸の樫の木は余程の力を加えないと折れる事は有りませんが、我々も十分過ぎる程慎重に操作訓練を行います。」


「小川さん、有難う、其れと砂袋だけど、床下は細かく仕切って有るから前から後ろまで丁寧に置いて欲しいんだ、適当に置くと潜水船が潜る時、浮き上がる時に砂袋が動く事も有るんだ。」


「小川少尉、潜水船の操作も大変ですが、技師長は事故を懸念されておられる、其の事は全員に周知徹底し、申される事は必ず守る事です。

 我々の責任で事故は起こさない、これが全てですからね。」


「私は最初簡単に考えておりましたが、其の全てを頭の中から消し、全員に伝え必ず守る事に致します。」


「小川さん、オレは潜水船の中に海水が入らない様にと親方にもお願いしたんだ、造り方は問題無いと思うんだけど、最初に潜った時、潜水鏡と風車型、水車型と空気の取り入れ口も含めて全部を見て欲しいんだ。」


「はい、其れは最初だけでなく常に見る様に心掛けて置きます。」


「工藤さんも乗られるんですか。」


「はい、私が最初に乗る予定にしておりますが総司令はのられるのでしょうか。」


「いゃ~其れがねぇ~、技師長からは乗るなと言われましてね。」


「えっ、技師長がですか、何故なのでしょうか。」


「だってあんちゃんが乗っても意味が無いんだぜ。」


 源三郎も分かって要る、潜水船に乗ると言う事になれば全体を掌握する者が居なくなると、其れでは連合国の総司令となった意味が無いとげんたは考えて要る。


「意味が無いと申されましたが、何故でしょうか、私は総司令にも潜水船の性能を知って頂く為にも一度は乗って頂く必要が有ると思うのですが。」


「じゃ~反対に聞くけど、殿様だって同じ様になるよ、だけど殿様やご家老様が潜水船の性能を知る必要が有ると思うのか、オレはそんな必要の無い人が乗る事は反対なんだ、だってその人達の為にだよ砂袋を増やしたり、減らしたりする余計な仕事が出来るんだぜ、オレもだけど、大工の親方は悩んで、悩んで造ったんだ、あんちゃんは全体を見るんだったら潜水船の性能を知る事よりも他にもっと大事な仕事が有るとオレは思うんだ、だから潜水船に乗る人は直接関係する人以外は乗らないで欲しいんだ。」


「では私も乗れない事になるのでは。」


「工藤さんは連合国軍隊の全体を見る人だとオレは思ってるんだ、だけど吉田さんは別の意味で乗る必要が有ると思うんだ、なぁ~そうだろう吉田さん。」


 げんたの発言は源三郎も同じで有るとの考えであり、其れに今から限られた日数で潜水船の操作方法の全てを身体に覚えさせなければならない。

 参号船が完成するまで当初予定していた日数を過ぎ、果たして残りの潜水船が予定の期日までに完成すのか今は分からない状態で、げんたの言う様に余計な人物を潜水船を体験する為に乗せるだけの余裕は無い。

 げんたは吉田が潜水船に乗り訓練を受ける必要性を知っており、げんたはこの五隻だけで潜水船の建造を終わらせるつもりは無く、菊池から松川までの洞窟に潜水船を配備する予定まで考えて要る。


「実は私が考えておりましたのは、菊池から松川まで全ての洞窟に潜水船の配備が可能になった時の為にと思いましたので。」


「私も吉田中尉と同じで何れは吉田中尉が指揮されると考えております。」


「私の考えの先を技師長が考えていたのです。

 確かに私が潜水船に乗った所で意味は無いと思います。

 其れに官軍の事も考えねばなりませんので、私もですが技師長の言う様に体験だけをしたいと思う者に乗るだけの余裕が無いと無いと思いますよ。」


「総司令、私もよ~く分かりました、技師長の言われる事が最もだと思います。

 吉田中尉は技師長が申される通り特別訓練を受け、大隊の全員に知らせ次の候補を募って下さい。」


「有難う御座います、小川少尉、期日が迫っており訓練に付いては厳しくと言う事では無く、全五十名が一刻も早く全ての操作を習得出来る方法を考えて下さい。

 私は中尉としてで無く、特別訓練生として参加させて頂きます。」


「はい、了解しました。」


「小川少尉さん、聴きたいんだけ訓練に入る時だけど一回に何人が乗るんですか。」


「えっ、何人と申されますと、私は出来るだけ多くの人数をと考えておりますが。」


「じゃ~聞くけど全部で何人居るんですか。」


「はい、五十五名ですが。」


「じゃ~十一人か。」


「技師長、何か有るのでしょうか。」


「少尉さん、潜水船にはねぇ~砂袋を積むんだぜ。」


「はい、其れは知っておりますが。」


「十人と指揮をする人が一人でと言う事は、まぁ~いいか、其の時に苦労するんだね。」


 げんたの問い掛けに小川は答える事が出来ず、其れよりもげんたは其れ以上何も言わずに要る。


「小川さん、今技師長が聞いた意味が分かりませんか。」


「はい、申し訳有りません。」


「技師長はねぇ~、砂袋を積み込む作業が有ると言って要るのですよ。」


「はい、其れは私も存じておりますが。」


「ではお聞きしますが、五十名の振り分けは終われているのですか。」


「いいえ、其れが未だですが。」


 源三郎はげんたが言う砂袋を積み込む作業が意外と手間が掛かると知って要る。


「工藤さん、吉田さん、小川さんもよ~く聞いて下さいね、砂袋を積み込む作業は貴方方が思う以上に手間が掛かるのですよ、其れに今度の潜水船は大きいので今まで以上に手間が掛かるのです。

 技師長はその手間を出来るだけ省く事を言って要るのです。

 参号船に積み込む砂袋は大きい物で十貫目、小さい物でも一貫目も有るのです。

 其れを均等に置かなければならないのですよ、今小川さんは乗組員の振り分けも未だだと申されましたが今からでも人員の振り分けをする様にして下さい。

 其れと、参号船に乗り砂袋の数量も書き残す事ですよ、此処まで私が話すと分かって頂けると思いますが工藤さん、如何で御座いましょうか。」


「よ~く分かりました、少尉、分かりましたか、直ぐ人員の振り分けを行ない、後日参号船に乗り目印のところまで沈める為の砂袋を積み込む時には若しもの事を考え丁寧に置く様に、これは全員に徹底して下さい。」


「了解しました、各小隊長には全て確認する様に伝えます。」


「工藤さん、大変ですが、全て基本ですのでね、其れも乗組員の命を守る為ですから。」


「後程、私が全員に申し渡しますので。」


「あんちゃん、帰ろうか。」


「はい、分かりましたよ、工藤さん、吉田さん、小川さん、色々と注文ばかりですが、全ての事を宜しくお願いします、では私は戻りますので。」


 源三郎とげんたはお城へ戻り、其の二日後。


「げんた、全部完成したよ。」


「有難う、鍛冶のあんちゃんも今度は大変だったと思うけど、これからも頼みます。」


「わしらは二日程休んでから次の四号船に取り掛かるよ。」


「今からあんちゃんに知らせに行って来るけど、そうだ、今から四日目の朝に船を降ろしたいんだけど。」


「其れでいいよ、銀次さん達も協力してくれるから大丈夫だよ。」


 参号船を洞窟内の岸壁から海上に降ろす時が四日目の朝と決まり、お城の源三郎のところへと向かった。


「う~ん、残り四隻か、だけど本当に出来るのかなぁ~。」


 げんたは参号船が完成するまでの日数を考えると、野洲で二隻、上田で残りの二隻を造らなければならない、工藤が言った期日までに五隻が完成出来なければ官軍の軍艦は佐渡に行く事に成る。


 果たして其れまでに五隻の潜水船は完成するのだろうか。


 そして、四日後の早朝。


「源三郎、参るぞ。」


 殿様は未だ夜明け前だと言うのにまるで子供の様だ。


「殿、余りのも早う御座いますよ、他の者達の準備を御座いますので。」


「何じゃと、未だ終わっていないと申すのか。」


「はい、左様で、父も未だで御座います。」


「源三郎、余は潜水船に乗るぞ。」


「いいえ、其れはなりませぬ。」


「何故じゃ、何故に余は乗れぬと申すのじゃ。」


「私も断られました。」


「何じゃと、源三郎もか、一体誰が断ったのじゃ、正か。」


「殿、その正かの技師長で御座います。

 技師長は私が乗っても意味が無いと、其れは実に簡単に言われまして。」


「何じゃと、意味が無いと申すのか、源三郎、意味が無いとは一体どの様な事なのじゃ。」


「潜水船に乗れるのは潜水船を操作する者だけで、他の者達はどの様な理由が有っても駄目だと申しまして、工藤さんも断れました。」


「う~んまぁ~技師長の申す事も分からぬ事は無いが。」


「殿、仕方が御座いません、其れに今度の潜水船は大型で技師長は五十名の兵士が訓練する為に、今は余計な時は無いと、私も其の意見には賛成でして、兵士達にはこれから過酷な訓練が待ち受けており、潜水船を熟知するには今からでも遅いと考えられますので、殿は洞窟内に参られても参号船を見るだけで辛抱願います。」


「う~ん、源三郎も乗せて貰えぬとは辛いのぉ~。」


「殿、ですが一番乗りたいと思って要るのがげんた本人でして、本人が乗れないのですから、我々は諦めるしか御座いません。」


「よし分かったぞ、じゃが、げんたと言うのは誠天才じゃのぉ~、あの様な船を考え付くとは。」


「はい、今のげんたは多分ですがもう別の事を考えて要る様にも思えるのです。」


「何じゃと、もう別の事を考えて要ると申すのか、う~ん、で、一体何を考えて要るのじゃ。」


「殿、げんた、いや技師長の頭の中を見たいと思いますが、今何を考えて要るのか、私にも話しては貰えないので御座います。

 工藤さんも技師長は恐ろしい頭脳を持って要ると申されております。」


「工藤も相当な頭脳を持って要るのでは無いのか。」


「其れは素晴らしいと思いますが、その工藤さんでさえも潜水船と言う発想は全く無かったと、船が海の中に潜ると言う事が最初は理解出来なかったと申されて要るのです。」


「其れで恐ろしい頭脳を持って要ると申したのか。」


「左様で、私も近頃は時々げんたが恐ろしく感じる時が有るので御座います。


「その様に言われると、最初に会った時の事じゃが、余の顔を見ても平然としておったわ、あの時の事を考えて見ると何か布石が有ったのかのぉ~。」


「私も分かりませんが、技師長が次に何を考え、何を作りだすのか、其れを楽しみして要るので御座います。

 父も間も無く来ると思いますので、暫くの間。」


 殿様は何時しか潜水船に乗る事を忘れたのか、其れよりも次に何を作り出すのか、其れが楽しみだと。


「お~そうで有ったのぉ~、余はすっかり忘れておったは。」


 源三郎の執務室には何時もより早く家臣達が集まり、やはり誰もが潜水船を見たいのだろう。


「殿、如何致しましょうか。」


「何がじゃ。」


「今日、潜水船を見れると誰もが何時もより早く登城しておりますが。」


「う~んこれは困ったのぉ~。」


「如何されたので御座いますか。」


「お~権三か、遅いでは無いか、余はもう。」


「総司令、殿様、お早う御座います。」


 工藤も早く来た。


「工藤さん、大変申し訳御座いませんが、今日の。」


「お任せ下さい、私も承知致しておりますので、先日、第二中隊の中隊長には警戒を頼むと。」


 さすが工藤も分かっていた、野洲の家臣達は今まで領民の為と必死で役目を続けており、今日、新型の大型潜水船が進水式で海の上に降ろされると、一目でも見たいと、其れは人間の心理で有ろう、今日は中隊に任せるのだと。


「其れは有り難いです、野洲の家臣も今まで辛抱して来ましたので、今日だけは許して頂きたく思うので御座います。」


「私も中隊の全員が分かっておりますので何卒ご心配無く。」


「工藤さんは来て頂けるのですか。」


「はい、私も勿論行かせて頂きますので。」


「技師長が言う様に工藤さんは連合国軍隊の司令官ですので、潜水船に乗れずともどの様な船なのかだけでも見て頂きたいのです。」


「総司令のお気遣い誠に有り難い事で、私も船体と内部だけでも拝見させて頂きたいと思っておりますので嬉しく思います。」


「殿、では参りましょうか。」


「分かったぞ、では参るとするか。」


 殿様とご家老様、其れに源三郎、工藤と、更に家臣の殆どがお城を出、浜へと向かう。


「余は最初の潜水船は知っておるが、今度の潜水船とはそれ程にも大きいのか。」


「長さが半町も有りますので、殿もですが見た者の全員が圧倒されると思うので御座います。」


「何じゃと、長さが半町も有るとな、源三郎、その様な巨大な潜水船が誠海の中に潜る事が出来ると考え

られると思うのか。」


「私は技師長を始め浜の人達を信じておりますので心配は致しておりませぬ。」


「う~ん、其れにしてもじゃ、長さが半町も有る潜水船を見るのも余は初めてじゃ。」


 野洲もだが菊池、上田、松川や山賀と言ったところの誰もが知って要る舟と言えば漁師が使う小舟で連

合国の沖を通る船がどれ程の大きさを持って要るのかさえも知らない。


「薩摩でも大きな船は造られているとは思うのですが、半町も有る様な船は有るのでしょうか。」


「私の知るところでは二十間くらいの船は有るとは思いますが、半町と申されましても正直想像が出来ないので御座います。」


 やはり薩摩でも大きな船は無いのか、だが其れは工藤が知らないだけで実際には半町も有る軍艦は存在

していた。


「吉田中尉、これからの訓練ですが考えておられる以上に困難を極めると思いますよ。」


「半町も有る巨大な潜水船を操船すると言うのは簡単では無い様に思うのですが。」


 吉田は頭で想像はしているが実物の潜水船を見た時には自信を無くすのではないだろうか、其れは小川少尉が引き得る五十名の隊員も今ひしひしとと感じており、あれ程にも訓練が待ち遠しいと言ってた隊員達は何も語らず静かに歩いて要る。


「浜の人達は知っておられるのでしょうか。」


「勿論ですよ、全員が知っておりますが誰も驚いてはおられませんよ。」


「何故で御座いますか、浜の人達が何時も見ておられるのは漁師さん達の小舟でその様に巨大な潜水船は

見ておられないと思うのですが。」


「工藤さんもですが吉田さん、小川さん、浜の人達はねぇ~誰でも洞窟に行く事が出来ますので、まぁ~

そうですねぇ~一部の人達以外は驚きもされないと思いますよ。」


 特に浜の女性達は洞窟内で作業している大工達や銀次達の食事を作りに殆ど毎日洞窟に出入りしており半町も有る巨大な潜水船を見慣れ、その人達でさえも驚かされたのはげんたが最初に造った潜水船で誰もが船と言うのは海の上を進むものだと、其れがげんたの発想で海の中に潜る事が出来る潜水船でそれ以来野洲の浜では潜水船と言う船に対して誰もが自然と言うのか今では潜水船は当然の様に思って要る。


 その様な会話をしていると浜に着いた。


「あらまぁ~お殿様もご家老様も一緒に来られたよ。」


 げんたの母親も今ではすっかり浜の人になって要る。


「あんちゃん。」


「お~これは技師長では。」


「えっ、何でお殿様が。」


「余は参号潜水船を見に来たのじゃ、何も乗せてくれとは申してはおらぬわ。」


「お殿様も乗ってもいいよ、だけど中の装置だけは触らないようにね。」


 げんたも分かって要る、お殿様もご家老様も、其れに工藤も内部だけでも見たいだろうと。


「余も乗れるぞ、源三郎も乗るのじゃ。」


「はい、ですが其の前に。」


「うん、分かっておるぞ。」


「浜の皆さん、今日はお世話になりますよ。」


「源三郎様、じゃ~お昼もですか。」


「はい、申し訳御座いませんがお願いしたいのです。」


「皆の者、済まぬ、余が無理を言って来たのじゃ、おせい昼餉じゃが。」


「はい、承知しておりますがあれで御座いますね。」


「おせい、分かったのか。」


「はい、お任せ下さいませ、浜のお母さん達も分かっておりますので。」


 浜の女性達は殿様が来ると分かっており早くから準備に入って要る。


「では今から洞窟に参りますが、鈴木様と上田様、其れと元太船長は最初に乗って下さい。

 小川少尉と隊員の全員も洞窟に参ります。

 殿、ご家老も一緒で御座いますが、ご家中の皆様は誠に申し訳御座いませぬがこの浜から潜水船が浮上

した時に見えますので浜から見て頂きたいのです。」


「何故皆が行けぬのじゃ。」


「殿、本当は我々も洞窟には行けぬので御座いますよ、洞窟の中には資材や道具が所狭しと置いて有りま

すので、ですが技師長の計らいで参る事が出来るので御座います。」


「何じゃと、それ程までに洞窟内は狭いのか。」


「殿そうでは御座いませぬ、技師長は次の四号船と五号船の建造の準備で大量の材料が必要だと、技師長もですが、親方も銀次さん達も四号船の建造に入って要るのです。」


「何故じゃ、何故に次の潜水船の建造に入るのじゃ、少しは休まねば余は皆の身体が心配じゃ。」


「大変失礼とは存じますが、技師長は官軍の軍艦が全て揃うまでに潜水船を五隻完成させたいと思って要るので御座います。」


「それ程までに事態は切迫しておるのか。」


「左様で御座います。

 私も何とかせねばと思って要るので御座いますが、今の私に出来る事は五十名の兵士全員が参号船を自由自在に操れる様に訓練を行なう事しか出来ず、その訓練も期日との戦いなので御座います。」


「う~ん、其れにしてもじゃ大変な事態になっているとは聞いておったが、正か其処まで迫っているとは、余の不覚で有った。

 技師長や大工達には大変申し訳無い事を致した。」


 殿様も事態が切迫している事に驚きの様子で有る。


「さぁ~皆さん乗って下さい。」


 お殿様もご家老様も、其れに源三郎も小舟に乗り、工藤達も次々と乗り洞窟内へと向かった。


「お~い、もう直ぐお殿様達が来られるぞ~。」


「お~、分かった。」


 洞窟内では銀次達が少しでもと片付けを行なって要る。


「お~い、お殿様の舟が入るぞ。」


 お殿様達を乗せた小舟が洞窟に入ると、その後次々と入って来た。


「お~、何と大きな潜水船じゃ。」


「殿、私もこの様に大きな潜水船だとは思っておりませんでした。」


「権三、余も驚いておるのじゃ、この様な大きな潜水船が誠潜るのか。」


「あんちゃん。」


「大変大きな潜水船ですが本当に潜るのですか。」


「なぁ~あんちゃん、今頃何を言ってるんだよ、オレ様が考えたんだぜ、其れに親方達だって、銀次さん

達も必死になって造ってくれたんだ、だからオレは絶対に出来ると思ってるんだ、潜る事が出来なかったらオレ達の責任じゃないんだ。」


「分かりましたよ、私が悪かったのです。」


「まぁ~あんちゃんの事だからなぁ~、本当はお殿様が聴きたかったと分かってるんだ。」


 何と言う事だ、げんたはお殿様の考えて要る事までも分かって要る。


「工藤さん、この船を操るのは本当に難しいよ、ただ大きいだけじゃないんだ。

 元太あんちゃん、鈴木のあんちゃんも上田のあんちゃんも大変だけど最初に乗って欲しいんだ。」


 元太もだが鈴木も上田も大変な緊張をしており、何もお殿様やご家老様がおられるからでは無い。


 最初に乗った壱号船に比べると数十倍も大きく、内部の装置も大幅に変わって要ると聞いており、果たして上手に操縦出来るのだろうかと不安ばかりが募るので有る。


「技師長、何か伝える事でも有るのでしょうか。」


「うんそうなんだ、じゃ~今から言う事だけは守って欲しいんだ。

 まず砂袋は丁寧に、そしてしっかりと置いて欲しいんだ、砂袋を置くと所は細かく仕切って有るけど、其れでもこれだけ大きな船になると丁寧に置いて無かったら此処の入り江から外に出た時荒い波の影響で動くと下手をすれば潜水船は転覆する事も有るんだ、すると中に乗ってる人は外に出れないから全員が死ぬ事に成るからね、これだけは絶対に守って欲しいんだ。」


 げんたの話しはお殿様達よりも潜水船に乗る鈴木や上田、其れに選ばれた兵士達の全員が今までにない

真剣な顔付で緊張感が漂って要る。


「其れとねぇ~、今度の潜水船は歯車が前よりも大きくなってるから船の動き方も違うからね、まぁ~元

太あんちゃんや鈴木のあんちゃんと上田のあんちゃんのやり方を覚えるといいと思うんだ。

 あんちゃん、オレの話は其れだけだよ。」


「技師長、有難う御座いました。

 今、聴いての通り、砂袋は所定の位置に置く、でなければ全員が水死と言う一番苦しい死に方をする。

 これからは全員が絶えず緊張感を持って訓練に入る事です。」


「あっ、そうだ、元太あんちゃん、出口までは半水で頼むよ、其れで出来るだけ浜に近寄って欲しいんだ。

 お城のお侍や他の人達にも見せる為になんだ。」


「うん、だったら一度潜ってみんなの前で浮かぶ方がみんなも驚くと思うんだけど。」


「あんちゃんに任せるよ、其れで鈴木のあんちゃんと上田のあんちゃんは最初に乗った時と同じ方法で

やって欲しいんだ。」


「技師長、分かりました、私もその方がやりやすいので。」


「工藤さん、この船は大きいからね、最初は工藤さんと吉田さん、小川さん、其れと最初に訓練を受ける

兵隊さん達もね。」


「了解致しました。

 小川少尉、第一分隊から訓練に入るのですか。」


「はい、その通りで、第一分隊で、その後は順次代わって行きます。」


「じゃ~他の兵隊さんは砂袋の準備をして欲しいんだ、砂袋は大きいのが五貫目で小さいのが一貫目だからね、元太あんちゃん、今日は特別だから上の線からちょい上で頼むよ。」


「銀次さん、そろそろですよ。」


「よ~し、お~いみんな準備は出来たか。」


 岸壁の上で造られた参号潜水船を洞窟内の海に降ろす作業が始まる。


「親方、頼むますよ。」


「よ~し、銀次さん、何時でもいいぞ。」


「じゃ~行きますよ、げんた、其の縄を解いてくれよ。」


「うん、じゃ~行くよ、一、二の三。」


 げんたが船首と岸壁を繋いでいる太い縄を解くと巨大な参号潜水船が少し動いた。


「技師長、我々もお手伝いをしましょうか。」


 吉田は銀次達だけでは少ないと思ったのだが。


「銀次さん達に任せて欲しいんだ、あの人達はねお互いの動きを知ってるから何も心配無いんだ。」


「技師長、よ~く分かりました。

 余計なご心配をお掛けし申し訳御座いませんでした。」


「本当に大丈夫なのか。」


「我々は何も出来ませぬので、其れにあの方々は呼吸の合わせ方を知っておられると思います。」


「銀次さん、もうちょいで入るよ。」


「元太さん、分かったよ、よ~し此処からが一番大事だ、みんな辛抱してくれよ。」


 巨大な参号潜水船はゆっくりと水面に降りて行く。


「よ~し止まれ、上に向くぞ。」


「お~。」


「う~ん、其れにしても大きいのぉ~。」


 お殿様は一人で感心して要る。


 参号船は重みで船尾が下がり、船首が上がり、げんたは腕組みし潜水船の動きを見て要る。

 船体は船台の上をゆっくりと、だが確実に動いて要る。

 銀次達全員が呼吸を合わせ太い縄数十本を引き少しずつ緩めて行く。


「この作業は大変だと思いますが、私も初めてなので少し驚いております。」


「まぁ~これも仕方が無いと思いますが、何か改良する方法を考える必要が有ると思うのですが。」


「はい、正しくその通りだと私も思います。」


「官軍の軍艦はどの様な方法で海に入れるのでしょうか。」


「あの造船所では大きな設備が造られまして、う~ん、どの様に説明して良いのか大変難しいのですが、私が後程絵を描きご説明致します。

 官軍の設備とこちらとは全くと言っても良い程条件が違いますので、私はこちらの条件に合った方法を考えて見ますので。」


 工藤も浜の洞窟で初めて見る進水を改良したいと考えるので有る。


 その潜水船が四半時程も掛かり洞窟内の海に浮かんだ。


「銀次さん、誰か数人で内部の点検をお願いします。」


「よ~し、じゃ~オレと後二~三人来てくれ。」


 銀次達が船内に入り何処かに水漏れが無いか点検に入った。


 其れは最も重要な事で海水が染み出て要る程度ならば問題は無いが、其れでも銀次達は念入りに点検し、その点検作業に半時以上も掛けた。


「げんた、大丈夫だぜ、まぁ~後は潜った時にどうなるのか分からないからなぁ~。」


「銀次さん、有難う。

 じゃ~他の兵隊さんは砂袋を運んで乗組員に渡して欲しいんだ、銀次さん、数人で砂袋の置き方を教え

て欲しいんだ。」


「お~分かったよ、じゃ~行くぞ。」


 銀次と数人が乗り込み。


「兵隊さん達も今から砂袋を置いて行きますのでよ~く見てて下さいね。」


「はい、では我々もお手伝いを。」


「いや、今はいいですよ、後で一緒にやって貰いますので、げんた、何時でもいいぞ。」


「分かったよ、じゃ~初めは五貫目の砂袋を運んで下さい。」


 岸壁に残った兵士達は五貫目の砂袋を船内に運び込んで行く。


「この作業も大変じゃのぉ~。」


「私も初めてですがこの作業は大変重要だと思っております。」


「だが一体何個の砂袋を入れるのじゃ。」


「其れは分かりませぬが、漁師の元太さんが真剣に見ておられますので、殿、我々は余り話をせぬ方が良いのでは御座いませぬか。」


「うん、そうじゃのぉ~。」


 げんたにはお殿様と源三郎の会話は聞こえていない。


「この砂袋はねぇ~きっちりと置くんですよ、親方が中に仕切りを沢山作ってますが丁寧に置かなければ

駄目ですよ。」


「あの~銀次さん、この仕切りですが全てに五貫目の砂袋を置いてくんですか。」


「勿論ですよ、但し前と後ろには余り置かないんですよ。」


「何故ですか。」


「今、積み込んでいる砂袋は置いたままになりますので、少しの隙間も作っては駄目なんですよ。」


 銀次の仲間は砂袋を次々と運び入れ丁寧に置いて行く。

 銀次達が今積み込んで行く砂袋は潜水船を有る程度沈める為で少しの隙間も出ないようにとひとつひとつ隙間なく置いて要る。


「銀次さん、一貫目の砂袋は。」


「あ~一貫目の、あれは隙間に埋める為で、其れと後は調整の為に使うんですよ。」


 吉田も小川も理解出来ておらず、最もな話で大量の砂袋を入れるのは潜水船を殆ど沈める為で有る。


「これはげんたに聴いたんですがね、潜水船が潜る為には大量の砂袋を積み込み、後は乗組員と他にも色々な物を積み込んだ時殆ど、そうですねぇ~上から二尺くらいのところまで沈めるんだって。」


「えっ、ではこの船を最初から残り二尺の所まで沈めるのですか。」


「ええそうですよ、其れを手抜きで積み込むと何かの拍子で前か後ろか分かりませんがね、砂袋が動いて

本当に沈んで浮き上がって来ないんだって。」


「う~ん、其れにしてもこれは大変難しい作業ですねぇ~。」


「吉田さん、オレ達は潜水船を造ってますが、こんなにも大きい船になると何時も安定させなければならないってげんたは言ってましたよ、其れは操縦よりも最初にこの砂袋を置いてどんな事が有っても動かない様にするんだってね、よ~しみんな今度は一貫目の砂袋を入れるぞ。」


「小川少尉も他の者もこれが基本ですよ、全てを学び身体で覚える事です。」


「中尉殿、この作業が一番大切だと言う事ですねぇ~。」


「私も潜水船は初めてですが、海の上よりも学ぶ事が多いと思います。」


 他の者達も真剣に見ては要るが、五貫目の砂袋よりも後から入れる一貫目の砂袋の方が本当は難しいのだが今は分からない。


「お~い、一貫目の砂袋を入れてくれ。」


「元太さん、これが一番難しいんですよ。」


「オラも分かってるんだけど、途中から銀次さん達が降りてくれればいいんで。」


「銀次さん、もう直ぐ目印に来るから一人降りて欲しいんだ。」


「分かったよ、じゃ~お前が降りてくれ。」


「あいよ。」


 仲間の一人が降りた。


「銀次さん、もう一人頼むよ。」


「分かったよ、じゃ~お前だ。」


「あいよ。」


 と、次々と銀次の仲間が降りて行き。


「銀次さんも降りて欲しいんだ、元太あんちゃんが乗り込むからね。」


「お~、分かったよ。」


 銀次が降り。


「元太あんちゃん、一度浜で上がって欲しいんだ、お侍が大勢来てるから。」


「分かったよ、げんた、オラに任せるのか。」


「うん、そうだよ、だって他に居ないからなぁ~。」


 げんたも全てを元太に任せる事にし、元太が乗り込み。


「なぁ~あんちゃん、元太あんちゃんに浜の近くに上がって欲しいって頼んだよ。」


 げんたはお城の家臣が大勢来ており、彼ら家臣達にも潜水船を見て欲しいと思ったので有る。


「げんた、有難う、其れでこれからはどうなるのですか。」


「まぁ~後の事は全部元太あんちゃんに任せるよ。」


「そうですか、でも何処まで行くのでしょうかねぇ~。」


 げんただけが知っており、其れは外洋に出ると言う事だ。


「オレも本当は知らないんだ、だってそうでしょう、オレは船に乗って無いんだぜ、全部元太あんちゃん

と鈴木のあんちゃんと上田のあんちゃんに任せてるんだからなぁ~。」


「げんた、今から行くよ。」


「うん、分かったよ、兵隊さん、その縄を解いて、乗ってる人に渡して。」


 数人の兵士が潜水船と岸壁を繋いでいる太い縄を解き船に乗っている上田に渡し、さぁ~いよいよ参号潜水船の処女航海だ、げんたと数人の兵士が船を押すと潜水船は岸壁を離れと同時に入り口が閉鎖された。


「上田さん、ゆっくりと頼みます。」


「船長、了解しました。

 左へゆっくりと、よ~そろ。」


「左へゆっくりとよ~そろ。」


 鈴木は船体と左方向へ向け。


「足踏み開始せよ。」


「足踏み開始、よ~そろ。」


「お~源三郎、動いたぞ。」


「さすがにあの三名は素晴らしいですねぇ~。」


「元太あんちゃんが全部指示を出して、鈴木のあんちゃんと上田のあんちゃんが船長の指示通りに動かしてるんだぜ。」


「お~、ゆっくりと潜り始めたぞ。」


 お殿様は早くから興奮気味で有る。


「よ~し、半潜で外に出る。」


「半潜、よ~そろ。」


「よ~し、そのままで洞窟を出たら潜ります。」


「洞窟を出たら完全潜水、よ~そろ。」


「中尉殿、全て復唱されたおられますねぇ~。」


「少尉、其れは一番大事だ、皆も其れだけは忘れない様にして下さい。」


 潜水船は洞窟を出ると一度潜り。


「洞窟を出た、一度浜に向かう。」


「浜に向かう、よ~そろ。」


 鈴木と上田の呼吸も合っている、潜水船が洞窟を出ると。


「足踏み中止。」


「足踏み中止しま~す。」


「えっ、何故足踏みを中止されるのですか。」


「小川さん、潜水船はもう進んでいますので、ほら、此処の歯車が回っているでしょう。」


「えっ、ですが、何故動いて要るのでしょうか。」


「其れは船体の外側に付いている水車型が海水の動きで回って要るので、此処からは足踏みは必要有りませんので。」


「では、上田殿は、何を。」


「私は船長の指示が無ければ動く事は出来ないのです。

 其れは潜水船が浮上し停止させる時に分かりますので。」


 上田は水車型に被せて有る物を操作しなければならない。

 海水の流れを調整する為で停止と発進する時に船長の指示を受けるので有る。

 潜水船はゆっくりと浜に向かっている。


「お侍様、もう直ぐ潜水船が見えますよ。」


 漁師達も知っており、浜の直前で浮上する事を。


「あっ、見えたよ。」


「えっ、何処にですか、私は全く見えないのですが。」


 漁師達が指差す方角を見ても家臣達にはさっぱり分からず、家臣達も必死で探すのだが、潜水船が潜った状態で漁師達が見付けたのは海上に出ている潜水鏡と空気の取り入れ口の筒だけで有る。


「ほらあそこですよ、ほら見えるでしょう。」


 家臣達も必死で探して要るが所詮無理な話しだ。


「お侍様、もうじき目の前で浮き上がって来ますからねぇ~。」


「蓋を閉めて。」


「蓋を閉め、了解。」


「あっ、そうか、私も分かりました。」


「小川少尉、分かりましたか、技師長の説明で潜水船の速度の変更と停止の時、水車型の蓋を閉める。」


「はい、今要約分かりました。

 上田殿はその調整をされるのですね。」


「はい、その通りですが、これが意外と難しいのですよ、外を見れるのは船長だけでして、その指示が何

時出るのか分かりませんので、常に神経は使いますよ。」


「水車型海水の入り口閉鎖了解、よ~そろ。」


「浮上開始。」


「浮上開始、よ~そろ。」


 潜水船は速度を落とし、ゆっくりと浮上して行く。


「あっ、見えた。」


「わぁ~なんて大きな船なんだ。」


「誰か出入り口を開け、浜の人達に姿を見せて下さい。」


「小川少尉。」


「はい、了解、よ~そろ。」


 小川が出入り口から姿を見せると。


「えっ、わぁ~なんて人間の姿が小さいんだ。」


「其れにしても大きいなぁ~、あんな大きな船が海に潜るのか、う~ん、何とも言えない程ですよ。」


 家臣達も初めて見る巨大な参号潜水船で有る。


「足踏み開始、よ~そろ。」


「ちょい左へ、よ~そろ。」


 元太の指示で鈴木は左へ方向を変え、上田は足踏みを開始。


「よ~し、戻せ。」


「戻しま~す、よ~そろ。」


 元太、鈴木、上田の三名は参号船の操縦は初めてだが見事な連携で潜水船は浜を離れ湾の中央へと向かった。


「舵もど~せ。」


「舵、戻しま~す、よ~そろ。」


「吉田様、小川様、潜水船を操縦する時ですが、全て船長の指示に従うのです。

 吉田様も小川様も上官ですが、この船長と言うのは一番責任が重く、誰にでも出来るとは限りません。

 十名の方々の中で年齢の関係無く全員が船長の重責を担う為に順次訓練して頂き、その中でこの人はと思われる人物が船長に任に就いて頂きたいのです。」


 吉田や小川よりも十名の兵士達は大変な緊張をしており、自分が船長に選ばれる可能性が有ると。


「ですが、潜水船を操縦するのは船長一人では御座いませぬ、皆様方の呼吸が合わなければ大変な事に成りますので其れだけは決して忘れない様にお願いします。」


「上田様、今は何もされておられませぬが。」


「はい、其れは私が皆様方に説明する為で何時もならば船長の動きを注意し見ております。」


「船長の動きを申されますと。」


「船長の後ろ姿で今どの付近を見られて要るのか、其れを判断するのです。

 今、後ろから見ても分かる様に船長の身体が動いておりますが、その動きで判断しなければなりません。」


「申し訳有りませんが、今、船長は左右を見ておられますが其れで分かるのですか。」


「はい、全てでは有りませんが、人間と言うのは突然何かを見た時一瞬ですが動きが変わります。

 其の時、どちらを向いておられるのか、其れが敵の軍艦なのか普通の廻船なのかを判断し、次の行動を考え無ければなりません。」


「そうか、仮に官軍の軍艦ならば他の者達にも伝える必要が有るのですね。」


「ええ、間違いならば船長が申されますが軍艦ならば潜水船の動きも変わって来るのです。」


「ですが、船長の動きだけで判断出来るまでには相当な訓練が必要では御座いませんか。」


「其れは当然の事で、軍艦は海の上、我々潜水船は海の中に船長だけが見ておられ、船長の身体がどの方向に向いているのか、其れも大変重要だと思います。」


「中尉殿、私は簡単に考えておりましたが全てが間違っていたと今要約気付きました。」


「小川少尉、私もですよ、全員がこの潜水船を熟知しなければならないと言う事ですねぇ~。」


「小川様、其れと潜水船の中には余計な物は持ち込むなと言う事です。」


「余計な物はどの様な物で御座いますか。」


「その一番が太刀ですよ。」


「えっ、何故で御座いますか、何故に太刀が余計な物と申されるのでしょうか。」


「小川様、潜水船の中ですが若しもですよ、若しもこの灯りが消えたと考えて下さい。


 腰に差して有る太刀が何処に有るのか分かるのは本人だけで他の者達は一切分からないのです。

 其れと潜水船は少人数ですから軍艦に乗り込んで敵を切る事は到底無理なのです。」


「う~ん、確かにその様に申されますと、では爆薬は。」


「爆薬は別でしてこの中には保管する所も作られておりますので。」


「と言う事は仮に灯りが無くとも正確に動く事が出来なければならないのですね。」


「はい、正しくその通りでして、各人の持ち場は余程の事が無い限り離れる事はしない、させないと言う事に成ります。」


「では、我々は余計な会話もするなと申されるので御座いますか。」


「いいえ、其れは違うと思いますよ、但し、何時も船長の動きもですが、他の人達が今どの様な動きをされて要るのかは必ず知って置くべきだと思います。」


 上田は何も元太や源三郎から話す内容を聴かれたのでは無く、元太と鈴木の三名で何度か潜水船に乗り、其の時の経験から話して要る。


「間も無く外洋に出る。」


「外洋に出ま~す、よ~そろ。」


「えっ、外洋って、では湾内で訓練を行なうのでは無いと申されるのでしょうか。」


「小川様、湾内では訓練しても意味が有りませんので。」


「よ~し、一度浮上し三名は交代する。」


「えっ、正か今から訓練に入るんじゃ。」


 兵士達は驚いて要る、吉田も小川も兵士達の訓練は波の静かな湾内で行なうものだと思っていた。


「吉田中尉、小川少尉、私は実戦訓練が必要だと考えております。

 三名の方々から直接訓練を受ける事が出来るのですから、では今から本格的に訓練を実施する。」


「では、浮上開始、水車型入り口閉鎖せよ。」


「浮上開始しま~す、よ~そろ。」


「水車型入り口閉鎖しま~す、よ~そろ。」


 潜水船が浮上すると野洲の浜からは全く見えない。


「吉田様、入り口を開けて外を見て下さい。」


「はい、あっ。」


 出口に上がろうとした吉田は外洋の荒れた海に船体は大きく揺れ船体にぶつかり、他の者達も身体が定

まらない。


「船長、一体何が有ったのでしょうか。」


「これが外海の怖さでして、漁師は小舟でも身体は動かいないんですよ。」


「皆さん、先程までは海中で海上の状態が分からなかったのですが、若しもですよ、この様な状態の時に官軍の軍艦が来たら一体どの様に対処出来るかと言う事です。」


「中佐殿、私の提案ですが宜しいでしょうか。」


「中尉、私も多分ですが同じ事を考えて要ると思いますが、其の前に中尉の提案を聴きましょうか。」


「私は潜水船の操作も大変重要だと思うのですが、其の前に我々全員が外洋でこの揺れに慣れる事の方が

重要では御座いませぬか。」


「私も同感ですよ、船長、誠に申し訳御座いませんが、潜水船の操作とは別に小舟に乗り外洋での揺れに慣れる訓練を行って頂く事は出来ないでしょうか。」


「オラも大賛成ですよ、多少の揺れに慣れると波の動きに身体が反応しますので良いと思います。」


「有難う御座います。

 吉田中尉、潜水船の訓練と並行して漁師さん達の小舟で特別訓練を行なう。」


「はい、了解しました。」


「じゃ~今から順番に行きますから、此処の隊長さんは船長の後ろに。」


「えっ、私は訓練を受ける事が出来ないのですか。」


「隊長さんが最後の決断をするので船長の指示をしっかりと聞いて判断して頂きたいのです。」


「鈴木殿、隊長が最後の決断と申されましたが。」


「はい、確かに船の運航は船長の役目です。

 ですが、船長は何処に向かうのかを判断し軍艦に爆薬を取り付け爆破させる決断は分隊長の役目だと思うのですが。」


「正しくその通りでして、船長は操船の責任を持ちますが、敵軍艦の爆破は分隊長が決めなければならないと思っておりますので、分隊長さんだけは訓練が必要無いと言う事です。」


「船長、此処での交代は大変危険だと思うのですが。」


「鈴木様、上田様、戻りましょうか。」


 元太も分かって要る、静かな湾内と違い外海で突然訓練に入ると言うのは誰が考えても無理と言う。


 小川も少し安心したのか。


「お願いします。」


「はい、じゃ~戻りますので、入り口の蓋を閉めて下さい。」


 そして、潜水船はゆっくりと湾内へ戻って行く、だが、兵士達の顔には少しの安堵感も無く、其れはこ

れから始まる過酷な訓練を恐れている様にも見え、潜水船が湾内に入ると。


「さぁ~交代して下さいね、貴男はこの席です。」


 最初に座った兵士は其れこそ大変な緊張で有る。


「今は何も触れないで下さいね。」


 兵士は返事する事も忘れ頷くだけが精一杯で有る。


「何を緊張されているのですか、何も心配する事は有りませんからね。」


 上田は優しく言葉を掛けるが其れが余計兵士の緊張感が増して行くので有る。


「さぁ~貴男は潜水鏡ですよ、一度其処から覗いて下さい、何か見えますか。」


「はい、直ぐに海の上が見え、その先に、えっ、浜が見えないです。」


「その通りですよ、私も何故か分かりませんがねぇ~、まぁ~浜に近付けばその内に見える様になります。」


「はい、了解しました。」


 兵士はその言葉が精一杯で有る。


「では貴男はこの足踏みを担当して頂きます。」


「はい、了解しました。」


「皆さん、今潜水船は停止しておりますが、これから操作方法を覚えて頂きますのでね、船長は潜水鏡だけを覗いて、今、何が見えているかを伝えて下さい。」


「鈴木殿、船長が指示を出すのですか。」


「今直ぐには無理でして仮の船長が見えている状況を言いますと、元太船長は今どの付近に潜水船が有るのか分かりますので、指示は元太船長が出されます。」


「はい、承知致しました。

 他の者達もこれから順次交代し訓練を行うのでよ~く見て置く事です。」


「では行きますよ。」


「はい。」


 兵士は緊張の余りか声が小さい。


「声が聞こえないですよ、別に大きな声を出す事は無いですが、相手にはっきりと伝わらないと駄目です

からね。」


「船長、申し訳御座いません。

 船長の申される通りで相手に聞こえないと反応が遅くなりますからね全員気を付けて下さい。」


「はい。」


「今度はよく聞こえましたよ、では足踏み開始せよ、ゆっくりと。」


「足踏み開始しま~す、よ~そろ。」


「いいですよ。」


 潜水船はゆっくりと進み始めた。


「浜が見えて来ます。」


「はい、ではちょい左へ向け。」


 鈴木は操作する兵士に優しく教えて要る。


「ちょい左、よ~そろ。」


「ゆっくりと左へ方向が変わって行き、陸が遠くになります。」


「よ~し、舵もど~せ。」


「舵もど~せ、よ~そろ。」


「上手ですよ。」


 潜水船は潜ってはいない、だが湾内は穏やかなので揺れも殆ど無く順調に訓練は続く。

 元太は何も見ないがこの湾内の全てを知って要る。


「今、何が見えますか。」


「はい、陸が近付いてきます。」


「ちょい右へ。」


「ちょい右、よ~そろ。」


「足踏み止め~。」


「足踏み終わりま~す、よ~そろ。」


「あっ、目の前に陸が。」


 元太はわざと陸に近付けた。


「船長は何を見てるんですか、今のままだと大きな岩に衝突し潜水船は沈没し全員溺れ死にますよ。」


「はっ、はい。」


「早く指示を出せ。」


 上田も分かって要る、元太がわざと右に方向を変えさせたのだ。


「海水の入り口閉鎖。」


「海水の入り口閉鎖しま~す、よ~そろ。」


 潜水船は陸に衝突寸前に停止した。


「今はオラが指示を出したんですが、船長は常に潜水鏡を除いてるんだから早く言わないと海の岩に当たり潜水船は沈み全員が死にますよ。」


「はい、済みませんでした。」


 仮の船長は大変な緊張で冷や汗を流している。


「オラは何も兵隊さんが悪って言ってるんじゃでは無いんですよ、分隊長さんも他の人達ももっと真剣にやって欲しいんですよ、特に分隊長さんの動きは悪い様にオラは見えるんです。

 前だけを見てるからで船長の動きを見ないと他の事も見えないですからね、全体を見て欲しいんです。」


 元太は厳しく言ったが、其れは何れこの潜水船を操作するのは兵士達で最初が肝心だと思うので有る。


「元太船長、申し訳有りません。」


「中尉さん、オラはいいんですよ、でも潜水船は何時も海の中を動くんで船長以外は外の事は知らないんですよ、今は余り速度は早くは無いですが外海に出ると、潮の流れが違いますので大変ですよ、だから本気になって欲しいんです。」


「みんな、私も含めてですが、船長の動きを見る様に、其れと船長は四方を見て早く指示を出して下さいね、お願いします。」


「じゃ~始めましょうか。」


「はい。」


 今度は気合が入ったのか声も顔付きも変わった。


「ちょい左へ。」


「ちょい左、よ~そろ。」


「左右異常無し、前方に陸地あり。」


 仮の船長はその後潜水鏡から見えている状況を伝え、其れはとても大事で有る。


「では、今から潜りますので。」


 元太は船長の動きを見て要る。


「潜水開始、ゆっくりと下げ。」


「ゆっくりと下げま~す、よ~そろ。」


 元太も鈴木も上田も静かに見守っている。


「舵もど~せ。」


「舵戻しま~す、よ~そろ。」


 元太が教えた通りに潜水鏡だけで海中を進んで要る。


「いいですよ、其のまま進んで下さい。」


「はい、了解しました。」


「足踏み止め~。」


「足踏み止めま~す、よ~そろ。」


「皆さん、今水車型に海水が入り船の後方に有る風車型を回し前に進んでいます。」


「前方陸地が近くちょい左へ。」


「はい、ちょい左へ、よ~そろ。」


 兵士達も少しずづ慣れて来た様子だ。


「舵もど~せ。」


「舵もど~せ、よ~そろ。」


「うん、いいですよ。」


「では、速度を落として下さい。」


「はい、水車型注水口閉鎖せよ。」


「水車型注水口閉鎖しま~す、よ~そろ。」


 潜水船は慣性航行し暫くして停まった。


「大変良かったですよ。」


「では一度浮上します。」


「足踏み開始せよ。」


「足踏み開始、よ~そろ。」


「潜水船浮上せよ。」


「潜水船浮上開始しま~す、よ~そろ。」


 潜水船が浮上した、其処は洞窟の入り口付近で有る。


「船長、洞窟の入り口は見えて無かったのですか。」


「あっ。」


「そうですよ、目前に大きな岩が見えると思いますが。」


「済みません、見落としてました。」


 鈴木は元太の動きを見ており其れで分かったので有る。


「えっ、ですが何故鈴木様に分かるのでしょうか。」


「小川さん、私は元太船長の動きを見ておりましたのでね。」


「ですが、元太船長は何も申しておられませんが。」


 小川にはまだ理解は出来ない、其れは仕方が無いと言う事に成るので有る。


「先程速度を落とせと元太船長が言われ水車型は停止した、其れは陸が目前だと言う事なのですよ。」


「戻りますので鈴木様と上田様交代して下さい。」


 潜水船は静かに洞窟に入って行く。


「鈴木様、上田様、今日は終わりにしたいんですが。」


「元太船長、了解しました。」


 元太は大変な疲れ方をしていると鈴木も上田も思った。


「吉田さん、小川さん、今日はこれで訓練を終わりにしましょう。」


「はい、元太船長、鈴木様、上田様、誠に有難う御座いました。」


「いいえ、では皆さん、潜水船から出て下さい。」


「鈴木様、オラ少し疲れたんで浜に戻ります。」


「はい、でも元太船長大丈夫ですか。」


「はい、オラは大丈夫ですから、では。」


 元太は相当な疲れ方をしており、元太は他人に教える事がこれ程大変だと思っても見なかった。


「あれは元太さんでは、何か有ったのでしょうか。」


「う~ん、のぉ~源三郎、多分じゃが潜水船の操作に何か不手際が有ったのではないのか。」


「私は元太さんが操作方法を教える事に疲れたのでは無いかと思うので御座いますが。」


「其れも考えらるのぉ~。」


 元太が洞窟を出た後次々と小舟に乗った兵士達も洞窟を出て来た。


「源三郎様。」


「元太さん、大丈夫ですか。」


「オラは大丈夫ですよ、でも今までこんなに疲れた事は無かったんですよ、源三郎様、他人様に教えるって大変なんですねぇ~。」


 やはり源三郎の思った通りで、元太は浜に座り込んだ。


「では、不手際が有ったのではないのですね。」


「誰も必死でしたよ、兵隊さん達も大変だと思いますが、オラは直ぐには出来ないです。」


「元太さん、勿論ですよ、申し訳有りませんでしたねぇ~。」


 源三郎は元太に頭を下げた。


「総司令、我々は元太船長に大変なご迷惑をお掛け致しました。」


「元太さんも今までに無い程に疲れていると思いますので、訓練方法を見直さ無ければならないと思うのですが、如何でしょうか。」


「源三郎様、オラは大丈夫ですよ。」


「ですがねぇ~。」


「兵隊さん達も必死なんでよ、オラは参号船が大きいので少し慌てただけですから、鈴木様も上田様も同じだと思うんです。」


 元太の言う様に鈴木も上田も参号船の操作は今日が初めてなのに突然訓練開始と言われ、自分達が参号船の操作に慣れるのが先決だと考えて要る。


「総司令、誠に申し訳有りません。

 私が急ぎ過ぎました。」


「いいえ、其れは私にも責任が有ります。」


「元太船長と私と上田殿の三名で先に参号船の操作方法を習得した後各分隊の訓練に入ってはと思いますが如何でしょうか。」


「確かにその方法も有りますねぇ~。」


「オラ達が自由に動かせるまで兵隊さん達は乗って見ててもいいと思うんですよ。」


「そうですねぇ~、元太さんの言われる方法ならば見て要るだけでも大きな成果を得られる思います。」


「元太船長の方法ならば直ぐ操作は出来ないですが、どの様な方法で潜水船を操作しているのかも分かりますし、私も鈴木殿もですが、兵隊さん達も見て覚える事も出来ますので。」


 参号船は巨大で有り、其れだけでも操作は難しいのだと、源三郎も分かって来たので有る。


「源三郎、余り急ぐで無いぞ、良い事は無いからのぉ~、元太殿や鈴木、上田に任せては如何じゃ。」


「殿の申される通りだと思います。」


「分かりました、では元太さんにお任せしますので宜しいでしょうか。」


「あの~宜しいですか。」


「お母さん、何か。」


「源三郎様、もう直ぐお昼ですよ。」


「えっ、もうその様な時刻でしたか。」


「はい、皆さんもお腹を空かれている頃だと思いますがねぇ~。」


「なぁ~あんちゃん、食べながらでもいいと思うんだけど。」


「そうじゃ、余の好物じゃからのぉ~。」


「はい、勿論ですよ、お殿様の為に作ったんですからね。」


「そうか、余の為にか嬉しいのぉ~、源三郎、皆も腹を空かしておるぞ、余もじゃ。」


「はい、では、お母さん方お願いします。」


「総司令、我々も頂けるのでしょうか。」


「勿論ですよ、この浜に来れば浜の流儀でお母さんに特別美味しい雑炊を作って頂くのですから、さぁ~皆様方も一緒にどうぞ。」


「源三郎、話は後に致せ、余はもう辛抱出来ぬぞ。」


 お殿様はこの浜に来ると雑炊を食べるのが一番の楽しみで雪乃にも同じ物を作って欲しいと、だが同じ

物は作れないと断られ、それ以後は何かの理由を付けては浜に行きたがるので有る。


「殿は此処での食事を楽しみされておられるのですか。」


「まぁ~見てて下さいよ、殿様が最初に食べられますからねぇ~。」


「おせい、早くじゃ。」


「本当ですねぇ~、殿様は漁師達にもあの様に接しておられるのですか。」


「工藤さんも吉田さんも見ての通りでしてね、野洲の殿様は身分では無いと申されておられるのです。」


「中佐殿、今まで何度か殿様を拝見致しておりますが、この野洲では殿様は他国の殿様よりも人間味の有

るお方の様に思えてならないのです。」


「少尉、我々も最初は殿様の様なお考えを望んで官軍が出来たのです。

 ですが、何時の頃か分かりませんが一部の者達は何を勘違いしたのか分かりませんが暴走を始め、上層部も其れを止める事をせずにいた事が今になり大変な事態になったと思います。」


「私も同じで最初は武家社会を潰し平民の社会が実現させると言う理想に燃えたと思うのですが、私は何としても暴走する官軍を止めたいのです。」


「源三郎、何を致しておるのじゃ、今日の雑炊はまた格別じゃ、早く来ぬか。」


 殿様の周りのは漁師達もげんたも座り美味しそうに食べている。


「中佐殿、これは本当に美味しいですよ、オレはもう官軍には戻りませんからねぇ~。」


「うん、わしもだ、此処の人達に比べたら官軍なんて、なぁ~そうだろう。」


「まぁ~まぁ~、其れくらいにして下さいね。」


「は~い、了解です。」


 兵士達は大笑いし、お殿様はと言うと雑炊を美味しそうに食べている。

 何時の間にか工藤や吉田も官軍の軍服姿で有りながら野洲の色に染まったと源三郎は感じている。


「なぁ~潜水船ってどうだったんだ。」


 浜に残った兵士達もやはり潜水船の事が気になるのだろうか。


「う~ん、そうだなぁ~オレはもっと簡単に考えてたんだ、だけど、実際に乗って見ると大間違いなんだ。」


「大間違いって一体何がだよ~。」


「まず最初に色々な説明が有ったんだけど、其れよりも分隊長には訓練は必要無いって言われたんだ。」


「え~、分隊長も潜水船を操作するって聞いたんだぜ。」


「そうなんだ、だけど実際に操作するのはオレ達だけなんだ。」


「だったら分隊長は何をするんだ。」


「其の前に潜水船の中に砂袋を入れたんだけど、銀次さんって言う人がこの砂袋は何処に置く時でも一切の手抜きは駄目だって。」


「そんなの当たり前だぜ、でも大変だったと思うんだけど。」


「そうなんだ、砂袋は乗る人の人数や積み込む荷物の量で変わるんだ。」


「なぁ~何で変わるんだ。」


「其れなんだ、其れでなぁ~、銀次さんが。」


 この兵士は銀次の話をし、其れからは湾内での行動、外洋に出た時の事も詳しく話すと。


「え~、そんなにも大変なのか。」


「うん、そうなんだ、だからさっきも言ったけど仲間同士の呼吸を合わせないと大変な事に成るんだ。」


「う~ん、だけど一番大変なのは船長なのかなぁ~。」


「いゃ~オレは全員だと思うんだ、船長だけが外を見てるんだ、オレは鈴木さんの言ってた事が途中から分かる様な気がしたんだ。」


「じゃ~何か鈴木さんも上田さんも船長の動きを見て要るのか。」


「そうなんだ、元太船長は前だけを見て無いで左や右、其れに後ろまで見てるんだぜ、其れで別の動きをしたと思った時には船長が指示を出し、直ぐ鈴木さんも操作してるんだ。」


 この兵士の話は数人、いや、その様な会話が浜のあちこちでなされている。


「最初に乗られた兵士さんが残られた兵士さん達に話をされて要るでしょう、あれは大変重要でしてね、乗った本人がどの様な解釈をしているのか、其れは問題では無いと思うのです。

 これは全員が乗った時には必ず役立つを思いますよ。」


「私も良い光景だと思っております。

 今話を聴けば次に自分自身が乗った時、この話は聞いた事が有ると思い出すと思うのです。」


「吉田さん、次の訓練ですが。」


「私は元太船長の申されました方法で行なうのが最善だと思っております。」


「私は何も申しませんので、後からでも元太さんに次の訓練は何時から始めるの聴いて頂きたいのです。」


 源三郎は分かって要る、元太の事だ明日からでも訓練は行うと。


「では、私がお聞きしますので。」


「宜しくお願いしますね、其れと提案が有るのですが宜しいでしょうか。」


「はい、宜しいですが。」


「今、潜水船は係留されておりますが、各分隊事で船内に入り操作方法を学ばせても宜しいでしょうか。」


「勿論ですよ、鈴木様、上田様もお手伝いをお願い出来るでしょうか。」


「勿論でして喜んでお手伝いをさせて頂きます。」


 何も潜水船を実際に動かせる必要は無い。

 其れは何も動かさずとも訓練は出来ると源三郎は考えており、其れを言い出すのを待っていた。


「吉田さん、その訓練は重要で有ると私は思うのです。

 湾内や外海に出る事は何時でも出来ると思うのですが、其の前に皆さんで積極的に訓練をさせるのを望んでおります。」


「私は色々な事を想定し行いたいのですが、其の前に基本的な操作方法と誰がその操作を行うにしても自由自在に操作できる事が最も重要だと考えております。」


 当初の予定よりも外れたが基本的な操作方法、其れは実戦訓練に入れば何時、何が起きるのか其れは誰にでも予測する事は不可能で、船長の後ろを誰もがこなせることの方が大事なのだ。

 全てが終わってから湾内と外洋に出て其れから本格的な訓練を行ったとしても遅くは無い。


 官軍の軍艦が先に到着し金塊を略奪し帰りの同じ沖を通るだろうと源三郎は考えて要る。

 吉田を中心とした参号潜水船の訓練はその後数か月と言う長き期間に渡り続くで有ろうし、兵士達全員

が自由自在に操れる様になるまで掛かるのは間違いは無い。


 さぁ~果たして数か月間の猛訓練で成果は上がるので有ろうか、その訓練は明日から開始で有る。




         


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