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闇の帝国    作者: 大和 武
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 第 11 話。 吉三組の誕生。

 山賀の家臣達が射撃訓練に入ったのは其の二日後の早朝で有る。


「お侍さん、そんな撃ち方したら肩の骨が砕けて一生右手が動きませんよ。」


 付近に居た十数名の家臣達が一斉に振り返った。


「えっ、何故だ、火縄銃は。」


 付近の家臣達も頷いて要るが。


「お侍さん、この連発銃はねぇ~、火縄銃の二倍、いや三倍以上も強力なんですよ。」


「そんなにも強いのか。」


「ええ、本当ですよ、お侍さん、オレ達が撃ちますからね見てて下さい。

 お~い、みんなオレ達の腕前をお見せするんだ。」


「よ~し、任せろって。」


 第一小隊の兵士達が並び。


「よ~し、今から半町、いや一町先に有る大木の的に撃つぞ、いいか。」


「お~。」


「よし、撃て。」


 「パン、パン、パン。」


 と、連発銃の発射音が一斉に聞こえ、一町先の大木に次々と命中して行く。


「お侍さん、これがオレ達第一小隊の腕前なんですよ。」


「何と言う恐ろしい腕前なんだ。」


「お侍さん、オレ達は今まで数え切れない程幕府の奴らと殺し合って来たんですよ、オレ達は奴らよりも早く見付け全員を殺さないとオレ達が殺されるんで、だからオレ達は必死なんです。」


 家臣達は兵士の言葉に耳を傾け頷き聴いて要る。


「兵隊さん、良く分かりました。

 私も必死で訓練に入りますので、どうか撃ち方を教えて頂きたいのです。」

 

 家臣の一人が言うと、他の家臣達も次々と小隊の兵士に頼み始め。


「お侍さん、オレ達は生き残る為に敵を殺すんですよ、遊びじゃないんですから。」


「だから教えて欲しいんです、我々も必死で行ないますから、お願い致します。」


「分かりました、じゃ~今から始めましょうか。」


 第一小隊の兵士、山賀の家臣、其れと各国から選ばれた四十六名の射撃の猛特訓が開始され、其れは陽の上がる前から日暮れまで、時には昼の食事以外休む事も無く続けられて行く。


「若、正太さんは。」


「今は空掘りの現場ですが。」


「申し訳有りませんが、呼んで頂きたいのです。」


「はい、承知致しました。

 高木さん、正太さんを呼びに行って下さい。」


 高木は大急ぎで空掘りの現場へと、だが源三郎は何の為に正太を呼ぶのだろうか、空掘りの現場でも大工事に向け着々と準備が進んで要る。


 暫くして正太が来た。


「総司令、正太さんをお連れしました。」


「源三郎様、オレに急用が有るって。」


「まぁ~まぁ~正太さん、座って下さい。」


 若様も正太も首を傾げ、今の正太は空掘りの現場では重要な仕事をこなしており、半時でも一時でも現場を離れたくは無い。


「正太さんの仲間に大工さんは居られますか。」


「はぁ~まぁ~居りますが、一体何を作るんですか。」


「簡単な家と申しましょうか、小屋と申しましょうか、小屋を山に作って頂きたいと思いましてね。」


「義兄上、山に小屋を建てて、一体何に使われるのですか。」


「正太さんに山の向こう側に建てて頂くんですがね、狼の攻撃もですが、官軍と幕府の残党も見張る為に必要だと思いましてね、若、其れとまだ二百名の女性が山賀を目指して居られるのですよ。」


「そうか、分かりましたよ、狼と官軍と幕府の残党から女性達を助ける為に必要なんですね。」


「私も二百名の女性達をむざむざ狼の餌食にさせたくは有りませんからねぇ~。」


 正太は源三郎と若様が話して要る意味がさっぱり分からない。


「ねぇ~源三郎様、一体何んの話しをされてるんですか、オレには全然分からないんですが。」


「山賀の山に二百名の女性が向かわれて要るのですよ、其れも一人の侍の護衛も無いのですよ。」


「えっ、二百人のって、そんなの無茶ですよ、この山には狼の大群が要るんですよ。」


「勿論、分かっておりますよ、ですから正太さんにお願いして要るのです。」


「でも一度に二百人も来たら、何人か、いや何十人か狼の餌食になるんですよ、もう何でそんな無茶な事するんですか、オレには全然分からないですよ。」


「これは私の勘ですがね、二百名の女性が一度には来ないと思うのです。」


「何故ですか、何故一度に来ないと思われるのですか。」


「若、綾乃様達も二回に分け山賀を目指されたのです。

 ですが其の中にご家中の奥方の姿は有りませんでしたよ、では一体どの様な方法で来られるかを考えたのですがね、私はねぇ~多分ご家中の奥方やご息女、ご子息は数回に分け来られると思うのです。」


「では数人の奥方と農民、町民で山賀に向かって要ると申されるのですか。」


「其の通りで、私は其の女性達だけでなく、山で監視される中隊の兵士、其れに数日後には山に向かう連合軍兵士となる家臣達の避難小屋としても使用出来る小屋が必要だと考えたのです。」


「其の小屋ですが大きく頑丈な物に作るんですか。」


「別に大きな小屋で無かったとしても良いのです。

 そうですねぇ~、二個小隊の兵士が入れる程度で宜しいのですがね。」


「えっ、二個小隊って、そんな少人数の小屋でいいんですか。」


「ええ、其れで十分ですよ、ですがこの山には常時四個小隊が監視任務に就かれておりますので、最低でも四ヶ所に小屋を建てる必要が有るのです。」


「分かりましたよ、五ヶ所くらいは建ててればいいんですね。」


 源三郎は女性達だけの避難小屋では無く、監視任務に当たって要る兵士達にも避難小屋が必要だと。


「小屋に入れば狼の攻撃も防ぐ事も出来、同時に官軍と残党を監視する事も出来ると思うんです。」


「だったら一石二鳥って事になるんですね。」


「作る方法は正太さんに任せますのでね。」


「其れとさっき言われました二百名の女性ですが、一体何処から登って来るんですか。」


「いゃ~其れがねぇ~、女性達が何処から登って来るのかも全然分からないんですがね、先日登って来られました綾乃様達ですが、猿軍団がよ~く知っておられと思いますが、其れが何か。」


「オレが今考えたんですが、登って来る所に簡単な階段を作ったらどうかなっ~って。」


「えっ、階段を作るんですか、何の為にですか。


「オレは男ですから山も平気ですけど、お侍様の奥様や農民さんがこの山を登って来るのは簡単じゃ無いと思うんです。

 其れで全部作るのは無理としても途中まででも出来ると、まぁ~小屋まで来れば後は兵隊さん達が城下まで連れて行けると思うんです。」


「ですがその階段を官軍が見付ければ大変な事になりますよ。」


「若様、官軍が見付けても全員が登る事なんか出来ませんよ、だってその為に監視する兵隊さん達が居られるんですから。」


「まぁ~其れは確かに言えますねぇ~、官軍や残党ならば登って来らせないのですから。」


「そうですよ、女性達だけを助ければいいんですからね、後はまぁ~兵隊さんに任せてですねぇ~、最後の仕上げは狼に任せて、其れで小屋ですが急ぐんですか。」


「まぁ~急ぐと言えば急ぎますが、全て任せますよ。」


「分かりました、じゃ~今から空掘りに行って来ますんで。」


 と、正太は大急ぎで仲間の所へと向かった。


「女性達ですが。」


「そうですねぇ~、全員ともなれば山賀だけでは少し無理が生じますので、綾乃様と百合姫と来られました人達を残りは松川から菊池に振り分けましょう。」


「はい、承知致しました。」


「高木様、紙を筆をお願いします。

 今回の一件は言葉よりも書状に認めると言う事で、各国にも防御態勢の強化をお願い出来ますので。」


「総司令、お持ち致しました。」


 各国の藩主に認め、松川の斉藤、上田の阿波野、菊池の高野に渡し、彼らは帰国して行く。


「今空掘りで丸い鋸を作って要るのですが、何個と申しますか、何枚と言うのか分かりませんが。」


「数百枚、いや千枚以上は必要になりますよ、其れよりも今から参りましょう。」


 源三郎と若様、吉永の三名は空掘りの現場へと向かう。


「柵作りですが。」


「実は元官軍兵の中に治水の専門家がおりまして、其の人物に言わせると工事に入る前には測量が必要だと、其れで菊池から山賀に至るまで測量を行ない測量が終わった所から順次工事に入れと。」


「では全ての測量を行なって要るのですか。」


「ええ、其れで最初は菊池からですが、私は工期を考えておりましてね、ですが其の人物は農地を拡張させるには其の前に大小様々な池が必要だと申されましてね。」


「えっ、大小様々な池ですか、ですが何故池が必要なのですか。」


「我々もですが、作物には大量の農業用水が必要でして、農地の拡張よりも用水池を作る方が先決だと申されて要るのです。」


「ですが高い山からは年中湧き水が出て要ると思うのです。」


「私も知っておりますよ、ですが湧き水は殆どが生活用水で作物には雨水だけが頼り、農地拡張の前に数十、いや数百カ所の池と井戸を作らねば領民さんに必要な飲み水は確保出来ないと言う事なのです。」


「よ~く分かりました、池と井戸を掘る作る為に中隊の兵士達を。」


「其れも有りますが、彼らは元々が農民さんですから池を作り農地を作れば農民さんは仕事に戻って頂き、連合国領民の為に食料の増産をお願いしたいのです。」


「では山賀の警戒任務ですが。」


「その任務ですが、侍の任務は領民を守る事その全てを侍達に任せるのです。」


「ですが人数が余りにも少ないと思うのです。」


「まぁ~ねぇ~今は仕方が有りませんよ、農地で増産体制が確保出来るまでですから、其れよりも空掘りの現場へ参りましょうか。」


「現場ですが、今は十本程で燃える石と鉄になる土を採掘しておりますが、新たに十本以上で採掘を始めております。」


「では山の中を二十本以上で掘り進んで要るのですか。」


「はい、其れと何れの坑道も三町程も掘り進むとゆっくりとですが左側に方向を変えております。」


「左側と申されますと、若しや断崖に向かって要るのですか。」


「其れもすこしづつですが下へと向かっておりまして。」


 山賀の空掘りで発見された巨大な穴は燃える石と鉄が作れる土の採掘で掘り進み、お城から三町先で進む方向が海岸へと、海岸は高さが一町以上も有る断崖絶壁で有る。


 其れでもお城からは未だ遠くに有り今は何も心配する事も無いと。


「山全体が燃える石と鉄を作る土ばかりだと考えております。」


「ですが海岸は高さが一町以上も有る断崖絶壁で、何か調べる方法でも考えておられるのでしょうか。」


「其れでこれを見て頂きたいのです。」


 若様は山賀の空掘りで掘り進めて要る地図を見せた。


「若、これは。」


「はい、採掘現場の地図でして、毎日掘り進んだ長さと方向を書き込んでおります。」


「まぁ~見事な物ですねぇ~、これならば海岸までの距離も分かりますが、一体誰がこのお役目を。」


「義兄上もご存知だと思いますが、町役人の五人組が。」


「ほ~、あの五人がねぇ~、其れで。」


「五人組が毎日朝坑道に入り、昨日掘り進んだ長さと方角を調べ、この地図に書き込み掘方の責任者が確認し、一日の掘り進む長さを決めております。」


 話の途中で源三郎達は空掘りの現場へ着き坑道へと入った。


「最初この洞窟を発見した時ですが、燃える石と鉄が作れる土が有るとは想像も出来なかったんです。」


「確かに私も正かとは思いましたが、若、少し待って下さいよ。」


 源三郎は何を感じたのか足を止めた。


「何かが変だと思いませんか。」


「えっ、何がですか、毎日の様に入っておりますので何も気付きませぬが、吉永様は分かりますか。」


「う~ん、やはり何かが変ですねぇ~。」


 源三郎達は坑道を進み、左側に少し行ったところで歩みを止め、その場所に着くと。


「息が苦しいですねぇ~。」


「私も同じですよ、う~ん。」


 源三郎はその場で少し考えた。


「総司令、拙者も息が苦しいですよ。」


 と、吉永も呼吸が苦しいと。


「う~ん、何故だ。」


 付近に居る作業員達を見ると呼吸が苦しいのだろう、掘削が思う様に進まず、一回鍬を振り落とすとその場に座り呼吸を整えなければ次の動作にも入れないので有る。


「直ぐ全員を外に出して下さい。」


「えっ、何故ですか、義兄上、何故全員を外に出すのですか。」


 若様は作業員が疲れて要るだけだと思い、少しの休みを取れば採掘作業は元に戻れると思って要る。


「今の状態では作業員は倒れ、下手をすると大勢が亡くなり、採掘どころの騒ぎでは無くなりますよ。」


 其れでも若様は未だ理解出来ないが、今は採掘を中止し作業員を外に出す事を考えた。


「全員、此処を離れ直ぐ外に出て下さい。」


 作業員達も意味が分からず、其れでも重い身体を引きずる様にし次々と外へと、外に出た作業員達は新鮮な空気を吸うと直ぐ元気を取り戻した。


「採掘を中止しましょう。」


「何故でしょうか、先程までとは全く別人の様ですが。」


「う~ん。」


 と、源三郎も原因が分からず、その後数日間も考えるが、一向に原因がつかめず、又数日間が過ぎた。


「若、吉永様、今から洞窟に向かいましょう。」


「何か分かったのですか。」


「いいえ、私も分かりませんが、今は作業も止めておりますので、洞窟内を調べる事にしたのです。」


 源三郎は若様と吉永と共に洞窟内へと入って行き、やがて数日前に来た採掘現場へと着いた。


「やはり変ですねぇ~、このかがり火もですが、松明の火が消えておりますが、今は何故か息も苦しくは有りませんよ。」


  源三郎が持つ松明の火が少しずつ小さく成り始めた。


「私は少しずつですが息が苦しくなってきました。」


「若、拙者もですよ。」


「急いで出ましょう。」


 源三郎達は大急ぎで外に出た。


「何故でしょうか、何故あの所に行くと息が苦しくなるのでしょうか。」


「ですが、外に出ると先程までとは違い息も普通に出来ますよ。」


 吉永も理由が分からないと、其れから数日が過ぎ。


「そうだ、げんたの作った潜水具を取り寄せて見よう。」


 源三郎に何の確証も無かったが、数日後、げんたが潜水具を持って来た。


「あんちゃん。」


「げんたも久し振りですねぇ~。」


「なぁ~あんちゃん、何で潜水具が要るんだ。」


「今から其れを話しますからね。」


 源三郎は洞窟内で起きた事を話すと。


「なぁ~あんちゃん、其の洞窟ってどんな洞窟なんだ、オレの潜水具は洞窟では無理だぜ、まぁ~オレが考えるから待ってくれよ。」


 げんたは洞窟を見る事も無く考え始め、数日が過ぎた。


「あんちゃん。」


「何か良い方法が見付かったのですか。」


「まぁ~其れよりも、山賀に竹林は有るのか。」


「竹林は有りますが。」


 若様は竹を一体何に使うのかも分からなかったが、源三郎は分かった様だ。


「私も分かりましたが。」


「あんちゃんはオレが考えた方法が分かったのか。」


「そうですよ、ですが、其の装置を作るのですか。」


「まぁ~なぁ~。」


 と、げんたの鼻が鳴った。


「其れよりも大工さんと手先の器用な人が要るんだ。」


 若様は一体何の話しをして要るのかもさっぱり分からない。


「一体何の話しをされておられるのか、私は全く分からないのですが。」


「まぁ~解決策が見付かったと言う事ですよ。」


 げんたは腕組みをし鼻を鳴らして要る。


「あんちゃん、荷車に積み込んでるんだ。」


「えっ、其れは本当ですか、では其の装置が完成すれば再び採掘も可能と言う事になりますねぇ~。」


「なぁ~あんちゃん、オレ様は天才なんだぜ、まぁ~若様はオレ様に任せなって、あんちゃんもだぜ。」


「其の通りだと思いますよ、今の我々には何も出来ませんので、げんた、いや技師長に任せましょうか、其れで私は何をすれば宜しいのですかね。」


 源三郎は何も出来ないと分かっては要るが、其れでも何か手伝う事は無いのか考えて要る。


「あんちゃんに出来る事か、まぁ~今は何も無いよ、大工さんが要れば十分なんだから、其れよりも若様、歯車って今何個有るんですか。」


「何個を申されましても、以前、山の水車から空掘りまでに使いました歯車がまだ数十個有りますが、其れは補修用にと、今も歯車は作り続けておりますので。」


「そうか、あの時、歯車が大量に要るって言ったからなぁ~、じゃ~其の歯車を使うか。」


「えっ、ですが其の歯車は補修用ですが。」


「まぁ~其れも分かるけど、なぁ~あんちゃん、今は洞窟に使う方が先だと思うんだ、だから鍛冶屋さんには歯車をもっと作って欲しいんだ。」


「今は洞窟に使う事が先決ですので、補修用と並行して歯車の生産を行ないましょう。」


「技師長、分かりました、では直ぐ手配しますので。」


「あんちゃん、其れと大工さんには水車をこれはオレからお願いするから、其れと作業員の人達は。」


「今は休ませておりますが。」


「だったら竹を切り出して欲しいんで、出来れば太い竹を。」


「其れで何本くらい必要になるのですか。」


「まぁ~多い方がいいんで、作り方はオレが言うから、其れと鉈と大きな木槌だけど多く要るんだ。」


「分かりました。」


 何を作るのかも分かっておらず、高木達も首を傾げながらも書き写し、その日の内に城下へ手配だけは終わった。


「技師長、一体何を作られるんですか。」


「洞窟の奥に空気を送るんですよ。」


「えっ、空気を送るって、ですがどの様な方法で送るのですか、私はさっぱり分からないので教えて頂きたいのです。」


 潜水船で使って要る空気取り入れ装置が有るのを忘れていた。


「潜水船に使ってる空気の取り入れ装置を知ってますか。」


 若様も暫く考え。


「そうか、分かりましたよ、私も見た事が有りますので、そうか水車の力を利用し外の空気を洞窟の奥に入れる事で洞窟内の採掘作業も捗ると言う事に成るのですね。」


「まぁ~ね、多分、オレは潜水船の中と同じだと思うんだ、だけどまだオレも自信が無いけど、其の装置で外の空気を入れるだけで大丈夫だと思うんだ。」


 翌日から洞窟の作業員数百人が竹林に入り同じ様な太さの竹を次々と切り空掘りの現場へと運び入れ、げんたが竹の加工方法を伝えると作業員達は早速加工に入って行く。


 彼ら洞窟内の作業員はげんたの説明を真剣に聞いて要る。


 げんたは加工が何故必要なのか、命にも関わるのだと聴けば自ずと作業員達も加工は手抜きもしない。


 その後、大工達にも水車と洞窟の入り口まで続く歯車の支柱も頑丈に作って欲しいと伝え、その日の内に水車作りと歯車の支柱作りが開始され、数日後には空掘りに有る洞窟の入り口まで完成した。


「さぁ~あんちゃん、これからが大事なんだぜ、だけどこの装置は潜水船の中と違うから少しくらい空気が漏れてもいいんだ。」


「えっ、空気漏れが有るのですか。」


「まぁ~ね、其れよりもこの装置が連続して動き、停まる事は駄目なんだ。」


「何故ですか、作業が行われていない時も有るのですよ。」


「あんちゃん、洞窟内には松明やかがり火が有るんだぜ、作業員の交代の時でも松明は燃え続けてるんだ、空気は作業員だけじゃないんだ、松明が燃えるって事は松明にも空気が要るって事なんだ。」


「そうでしたねぇ~、私は人間だけで十分だと思っておりましたよ、では装置が故障すれば大変な事になりますねぇ~。」


「そうなんだ、だから補修用の歯車と空気の取り入れ装置も作って欲しいんだ。」


「ですが、山賀の鍛冶屋さんは作った事が無いのですが。」


「作った事が無いから出来ませんって言えないと思うんだ、野洲の鍛冶屋さんは一度も出来ませんって言った事が無いんだ、其れに野洲の鍛冶屋さんは潜水船用の装置を作るだけで他の装置までは手が回らないんだ。」


「技師長は野洲の鍛冶屋さんとは毎日話し合って今の装置を完成させたのです。

 この装置が無ければ今後洞窟内での採掘作業は不可能で、採掘が出来なければ何も作れないのです。」


「技師長、義兄上、私が直接鍛冶屋さんと話しをし予備の装置を作る様にします。」


「あんちゃん、明日から始めるから大工さん達と作業員を集めて欲しいんだ。」


「分かりましたよ、高木さん、大工さん達に伝えて下さい。」


「其れと細くてもいいから蔓を集めて欲しいんだ。」


「蔓ですか、何に使うんですか。」


「まぁ~明日からの楽しみにしてよ、オレは今から考える事が有るんだ。」


「分かりましたよ、ではどの部屋で。」


「此処でいいんだ。」


 げんたは何を考えて要る。


そして、明くる日、げんたは大工達に何かを説明して要るが、源三郎も若様も何を説明して要るのかも分からない。


「じゃ~誰か、水車を動かして下さい。」


 数人の作業員が水車の設置して有る所へ行き水車の留め金を外すと水車はゆっくりと回り始め、すると歯車も同時に回り始め、やがて次々と周り、洞窟近くの歯車が回ると空気の取り入れ装置も回り始めた。


「大工さん、最初の竹を。」


 大工数人が太い竹をげんたの指示通りに装置の出口に取り付けた。


「作業員の皆さん、竹の周りに蔓を蒔いて下さい。」


 長く太い竹は半分に割られ、節は削られ割れた竹を合わせ蔓が巻かれて行く。

 太い竹の部分で支柱を作り、其れからは奥へ、奥へと竹を繋いで行く。


「あんちゃん、もうこれで大丈夫だよ。」


「いゃ~さすがに技師長ですねぇ~、私はこの様な方法が有るとは考えもしませんでしたよ。」


「先端から空気が出ておりますよ、其れが物凄く勢いよく出ております。」


 傍で見て要る作業員達は先端部分に顔を近づけ。


「わぁ~これは物凄いよ、これだったら採掘も楽になるよ。」


「うん本当だ、其れにしてもあの技師長ってまだ若い人なのに物凄い事を考えるんだなぁ~。」


「そうだなぁ~、源三郎様も物凄いとお方だと思ったけど、技師長は源三郎様よりも、まぁ~怒られるかも知れないけど上だなぁ~。」


 作業員達はげんたがどんな人物かも知らないが、源三郎が技師長と呼び、全幅の信頼を得て要ると感じたので有る。


「お~い、みんな今から採掘の開始だ、さぁ~行くぞ。」


「お~。」


 と、作業員達の雄叫びが聞こえ、次々と奥へと入って行く。


「なぁ~あんちゃん、オレ昨日考えてたんだけど、この現場で一番大事なのは鍛冶屋さんだと思うんだ。

 勿論、大工さん達の仕事も大切だよ、だけど川の水車からこの空掘りまで全部歯車で、その歯車と今日作った空気の取り入れ装置は停まる事は出来ないんだ、停められないって事は何時故障するかも分からないんだ、だから歯車とこの装置だけは作り置きしないと駄目なんだ。」


「私も良く分かりましたよ、私は他の鍛冶屋さんにも協力して頂く必要が有ると思いますねぇ~。」


「オレは野洲の鍛冶屋さんにもお願いしようと思うんだ。」


 源三郎は山賀の空掘りが連合国では最重要な現場だと分かっており、其の中でも歯車と空気の取り入れ装置だけは作り続け無ければならないと感じたので有る。


「なぁ~あんちゃん、昨日もだけど、今山賀の空掘りで鉄物を作ってるんだったら鍛冶屋さん全員に此処に来て貰って鉄物を作ればいいと思うんだけどなぁ~。」


「えっ、では菊池から松川までの鍛冶屋さん全員を山賀に来て頂くのですか。」


「そうだよ、だって山賀には鉄を作る所が有るんだぜ、だったら鉄で物を作る物は全部此処で作り、野洲や菊池に送ればいいと思うんだ。」


「では修理もですか。」


「そうだよ、だって歯車と空気の取り入れ装置は作り続けるんだぜ、でも今の人数じゃ歯車を作るだけで装置までは作れないと思うんだ。

 松川でも上田でも腕のいい鍛冶屋さんは居るんだ、今装置を作れるのは野洲の鍛冶屋さんだけで、じゃ~他の鍛冶屋さんって、オレは山賀に鍛冶屋さんが集まれば農作業に必要な鍬やスキも此処で作ればいいと思うんだ。」


 げんたが考える事が有ると言ったのは、この事かと源三郎は思った。


「げんたが考える事が有ると言ったのは、今の話ですか。」


「あんちゃんは何時も連合国の領民の為だったらって言ってるんだぜ、だったら領民にも、でも今は誰でもいいとは思わないんだ、農民には農業を、元太あんちゃん達漁師さんには魚を獲って貰う、だけど鍛冶屋さんの仕事は別だと思うんだ。」


「そうか、げんたは其処までの事を考えていたのですか。」


「なぁ~あんちゃん、オレは何時までも子供じゃないんだぜ、オレもオレなりに考える事が有るんだ、だけど今まではまぁ~此処まで考えた事は無かったんだ。

 だけど山賀の洞窟は他の洞窟と違って特別だと思うんだけどなぁ~。」


 源三郎は今まで鍛冶屋全員を集め、集中して製造と補修する事までは考えていなかった。


「よ~く分かりました、私が直接出向き説明して行きますよ。」


「あんちゃん、其の前に山賀の城下に。」


「分かってますよ、鍛冶屋さんの家ですね。」


「そうなんだ、オレは家族も一緒に来て欲しいんだ。」


 鍛冶屋だけでなく、家族も一緒に来て欲しいと、げんたも母親と一緒で無ければ浜には行かないと、あの時は子供だったが、例え大人でも同じだ、妻や子供と離れ一人で他国に行くとなれば仕事にも多少なりと支障が起きる、やはり所帯持ちは家族が一緒で有れば安心して仕事に打ち込めるのだと。


 源三郎とげんたは明くる日、松川へと向かい、若様は山賀の大工さん達に他国から来る鍛冶屋の住む家を建てる様にと頼みに行った。


 一方で菊池に入った元官軍兵達はこの数日何もする事も無くのんびりと過ごして要る。


「なぁ~、オレ達はこの間々で何もしないでいいのかなぁ~。」


「わしも考えてるんだけど、源三郎様は暫くは何もせずのんびりとして下さいって。」


「だけどあの中隊だけは何かを始めてるんだけど、何を始めてるんだ。」


「なぁ~んだあんた知らなかったのか、何でも中隊の後藤さんって言う人が、菊池で農地を広げる為に何かを測るって。」


「一体何を測るんだ。」


「オレも詳しい事は知らないんだ。」


「だけどあの時に聞いた官軍の話しは全部嘘だったなぁ~。」


「わしも同じだ、わしは大工だったんだが、わしらの居た国じゃ大工の仕事も少なく城下の人達も食べ物が少なかったんだ。」


「えっ、其れって本当なのか、だったらお米は。」


「わしの国じゃ毎年不作でだけど幕府は上納金を増やせって言って来たって、わしはお城のお侍様から聞いた事が有るんだ。」


 彼らの国でも不作続きで、其れでも幕府は上納金を増やせと迫っており、その為城下の人達も食べる物も少なく、其れよりも悲惨だったのが農村で毎年の不作でもお城からは年貢を納める様にと脅迫され、有る農村では自殺する農民が増え村民は夜逃げし廃村になった所も有った。


「だけど大工の仕事は有るんだろう。」


「まぁ~なぁ~有るのは有るんだ、だけど受け取る金子が少なく、わしの家族もまともに食べる事も出来なかったんだ。」


「オレも同じだよ、だけどそんな時、官軍の人が大量のお米を運んで来たんだ。」


「わしの所も同じだ、官軍の人が官軍に入れば家族にもお米を届けるって、其れとわしらには何時でもお米が食べられるって言われたんだ。」


「オラの村でも不作で種籾も食べて次の年には作付けも出来なかったんだ、そんな時に米俵を持って来て官軍では何時も白いお米を食べてるって、其れでオラ達の村からも大勢が官軍に入ったんだ。」


 官軍は各農村に出向き、不作の農村では農夫が官軍に入る事で家族の食べ物は心配は無いと言われ、各農村からは働き手の男達が官軍に入った。


「オレもだよ、だけど官軍の話しは大嘘だ、オレが入った隊でも最初の何日間は本当に白いお米だったんだ、だけど数日後からは粟や稗と麦だけで白いお米は出る事も無かったんで、オレは官軍の上官に聞いたんだ。」


「わしもだよ、じゃ~やっぱり同じ事を言われたのか、あれはわしらや農民を官軍に入れる為で、幾ら官軍兵でも元は農民だから農民の食べ物は粟か稗で良くて麦飯だと。」


「じゃ~官軍の上の人達は。」


「全員が白いご飯を食べてるんだ。」


「だけど此処に来てからは官軍とは違って、何時も白いご飯でだけど其の内に麦飯になると思うんだ。」


「は~い、皆さん、お昼のご飯ですよ。」


 城下の女性達数百人が五千人分の昼食を届けに来た。


「奥さん、少し聴いてもいいですか。」


「何を聴きたいの。」


「オラは農民ですが、何で白いご飯が食べれるんですか。」


「その話し、私達連合国では農民さんが白いご飯で、私達ご城下の者は白いご飯と麦が半分なのよね。」


「やっぱりお侍様は白いご飯なんですか。」


「えっ、何だって、そんな事誰が言ったのよ、連合国のお侍様はねぇ~全員が麦ご飯だよ。」


「えっ、お侍様が麦ご飯ってそんな話誰が信じると思うんですか。」


「あんた、私が嘘を言ってると思ってるんだ、あんた達も見たと思うけど、源三郎様は農民さんが苦労して育てた作物は農民さんが最初にお米を、次に城下の私達に、お侍様は白いご飯は食べる事が出来ないのよ、この話しは誰に聴いても同じだから。」


 城下の女性が話すと、他の女性達も頷き。


「まぁ~ねぇ~仕方無いと思うわよ、だって私達だって今でも嘘だと思ってるのよ、だけどお米は全部お城の倉庫に有るんだって米問屋さんが言ってたの、だけど倉庫に入った米俵は米問屋さんが鍵を持ってるからお城の誰も開ける事は出来無いのよ。」


「じゃ~お殿様は。」


「お殿様も麦ご飯だって、米問屋さんはお城には麦俵を届けるって。」


 五千人の元官軍兵達は女性達の話しを聞いても全く信用していない、其れは誰が聞いても同じでだが現実は女性達の言う事が本当なのだが。


「奥さん、今の話は本当なんですか。」


「ねぇ~兵隊さん、私達が嘘の話しをしても何の得にもならないのよ。」


「其れは分かりますけど、じゃ~米問屋さんも同じですか。」


「勿論よ、でも不思議にねぇ~、私もだけど城下の人達も誰も不満は無いのよ。」


「えっ、不満が無いって、そんなの大嘘だ、お侍の事だきっと何処かにお米を隠してるんだ。」


「ねぇ~一体何処に隠すって言うのよ、源三郎様はねぇ~私達領民の為にって、これから農地を広げ作物を大量に作るんだって、其れで狼を防ぐ柵を作り其れから農地を作るって言われておられるのよ、そうだ私達の話しが嘘だと思うんだったら後で農村に行って聞けばいいのよ、でもねぇ~農民さんは白いご飯だけでいいとは言って無いのよ、あの人達は少しずつだけどお米を残して要るのよ。」


「でも何で残すんですか。」


「あの人達はねぇ~、自分達だけが白いご飯でお侍様が麦ご飯は駄目だって、だからお米を炊く時に一善分だけ少なく炊くのよ。」


「じゃ~食べるのが少なくなると思うんですが。」


「そうなのよ、でもねぇ~お侍様は受け取らないの、お米は農民さんの食べるお米だから受け取る事は出来ないって。」


「じゃ~お米が余ると思うんですが。」


「私も其れ以上詳しい事は知らないの、だから農民さんに聞いてよ。」


「はい、分かりました、其れにしてもこのお漬物は美味しいですねぇ~。」


「其の漬け物は野洲で作られたのよ。」


「野洲で作られたって、でも此処は菊池でしょう、何で野洲で作られた漬け物が菊池に有るんですか。」


「そうか、あんた達は連合国って何か知らなかったんだねぇ~。」


「そうなんですよ、わしも農民ですが、わしらの国では他の国で作られた作物なんか知らないんす。」


「だったら話してあげるわね。」


 城下の女性は連合国の話しをすると。


「じゃ~連合国で金子は。」


「金子は要らないのよ、連合国では働く事で誰でも食べる事が出来るのよ。」


「奥さん、働くって、でも仕事が有るんですか。」


「源三郎様はねぇ~、どんな仕事でもいいって言われたのよ、子供でも同じなのよ大きな子供は小さな子供の面倒を見る事で親は安心して仕事が出来るのよ。」


「どんな仕事って言ってもなぁ~、何が有るんですか。」


 この時代ならば普通で考えて見ても仕事と言えるのは、余り無かった。


 源三郎が言うどんな仕事でも良いというのは、全て我が身の為の仕事では無く、他の人の為に何が出来るのか、本人次第で其の仕事は他人が見て聞かれた時に説明が出来、納得させる事が出来るので有れば立派な仕事だと、大人が見て子供が他の子供の面倒を見ており簡単に理解出来ないが、其れは其れで子供同士が納得しているので有れば立派な仕事だと言える。


「じゃ~オレの仕事はオレが考えるんですか。」


「そうなのよ、私もねぇ~四歳の子供が居るんだけど、近くの子供だけどその子も七歳なのよ、でもねその子が私の四歳の子供を見てくれるから皆さんのお昼ご飯が作れるのよ。」


「連合国じゃ~、子供が子供の面倒を見るんですか、でも何か有ったら大変でしょう。」


「まぁ~其れがね不思議な事に私が見るよりも子供同士の方がいいのよ、だって子供だから子供の気持ちが分かるからなのよ。」


「オラ、さっきから聞いてたんですが、なんだか不思議で夢の様な話ですねぇ~。」


「そうだと思うわよ、実はねぇ~私達の国でも以前幕府が無理難題を言って来たって、だけど源三郎様は幕府とは戦はしないで領民の為に何が出来るかって考えて、其れで幕府には知られない様にお米を隠す方法を考えられたのよ。」


「え~、幕府に納める上納金をですか。」


「まぁ~そうなのよ、其れで菊池か松川までの海岸に洞窟を掘り、其の中に作物を隠す方法を考えられたのよ、でもねぇ~途中で変わって来たのよ。」


 其れにしてもこの女性は連合国の実情を良く知って要る。


 それ程にも源三郎の考え方が領民の人達にも浸透して要る。


「まぁ~そんな話しよりも早く食べて農民さんに聞いてよ、其れが一番だと思うからね。」


「じゃ~食べてから行きますので。」


 彼女達も元官軍兵を納得させる方法は菊池に居る農民に聴く方が良いと思ったので有る。


 高野も同じで、高野は侍だ、侍が話と必ずと言っても良い程疑いの目で見る、其れが例え事実だとしても今の元官軍兵達が信用する事は無い。


「なぁ~あんた達はさっき何を聴いてたんだ。」


 別の中隊の兵士で、彼らが城下の者と何を話し合っていたのか知りたくなるのも当然で有る。


「オラ達はこの国を事を知りたかったんだ。」


 兵士は城下の奥さん達と話した内容を説明すると。


「オレ達も同じなんだ、あの日、源三郎様ってお侍様が暫くはのんびりとして下さいって言われたけど、オレは何をしていいのか分からないし、だけどご飯だけは何時も白いご飯ででも一体誰に聴いていいのかも分からなかったんだ。」


「奥さん達は農村の人に聴けばいいって、私達の言ってる事が本当だって分かるから、其れで今から農村に行って聞こうって思ってるんだ。」


「だったら、オレも行って聴きたいんだけど。」


「オラも聴きたいよ。」


「じゃ~みんなで行こうか、オラ達だけが聴いても其の話しが本当なのかも分からないからなぁ~。」


「よ~し、みんなで行こうよ。」


 其の話しが伝わり、総勢二百人もの元官軍兵が農村に行く事になった。


「なぁ~だけど、あんまりも大勢だとお侍様に。」


「そうだなぁ~、じゃ~各中隊から十人だけで行く事にしてはどうだろうか。」


 其れでも百人の官軍兵が農村へと向かった。


「高野様、元官軍兵ですが。」


「やはり動き出しましたねぇ~、これで良いのです。

 我々が話をしても彼らの事ですから疑いの目で見るのは間違いは有りません。

 数日も経てば元官軍兵は農村に向かい話しを聞くでしょうから、其れからでも十分ですよと。」


 やはり源三郎の読みは当たった。

 彼ら元官軍兵五千人は何をする事も無く、毎日食べるだけで、其の内に動き出すから、その後、彼らがどの様な仕事に就くにしても自らが決めるまで待つ事だと。


「あの~、お話しを聞かせて欲しんですが。」


「オラに何を聞かれるんですか。」


「はい、我々は。」


「あ~知ってますよ、元官軍の兵隊さんでしょう。」


 何故農民が自分達官軍兵の事を知って要るんだ。


「何故、我々の事を知って要るのですか。」


「やっぱりなぁ~、兵隊さん達の事は源三郎様から聞いてますよ、其れで何を聴きたいんですか。」


「この連合国の事ですよ。」


「連合国の事ですか、だったら名主さんの所に行って下さい。

 何を聴いてもいいですから、オラも一緒に行きましょうか。」


「でもお仕事が有るんでは無いんですか。」


「いいんですよ、誰かオラの。」


「オラがやっとくから大丈夫だ。」


「済まんなぁ~、じゃ~行きましょうか。」


 百人の兵士と村へと向かった。


「えっ、これが農村の家なのか。」


「そうですよ、連合国では農家は立派なんですよ。」


 兵士が驚くのも無理は無く、農家と言うよりも城下の家、いや其れよりも立派な建物だからで有る。


「オラ達は元々菊池の農民じゃないんですよ。」


「えっ、菊池の人じゃ無いって、では何処から来たんですか。」


「高い山の向こう側から逃げて来たんですよ、其れも千五百人の農民と千五百俵の米俵とですが。」


 農夫は少しづつ思い出しながら話すが、今は向こう側での生活よりも遥かに楽しいと言わんばかりで。


「さぁ~入って下さいよ、此処ですから。」


「えっ、勝手に入っても宜しいのですか。」


「まぁ~其れよりも名主さ~ん、お客様で~す。」


「は~い、今行きますので。」


 なんだ農夫は余りにも軽く名主を呼んで要るでは無いか。


「お待たせしましたねぇ~、さぁ皆さんお座り下さい。」


 何と言う大きな家だ、やはり名主だけの事は有ると。


「皆さんはさぞかし驚かれたでしょうねぇ~、名主だから大きな家に住んでると、でも此処は私の家では有りませんよ、この大広間はみんなとの話し合いの場所でしてね、私の家は皆さんが見られと思いますが農家の造りですから。」


「えっ、では隣の家が。」


「はい、そうですよ、まぁ~其れよりも何かを聞かれたいのでしょうから、私の知る限りで良ければ何でも聞いて下さい。」


 菊池の農村でもだが野洲を含め、各国の農村でも名主は以前の様に役人との交渉を行うのでは無く、収穫された作物を書き物に書き写し、数ヶ月毎にお城に届けるのが主な仕事なのだ。


「さっき城下の奥さんから聞いたんですが。」


「そうですかではお話ししましょう、今皆さんが来られた村ですが、我々は元々この菊池の者では無いんですよ、高い山の向こう側で作物を育てたのです。


 名主は高い山の向こう側では幕府からの重税から逃れる為に色々な策を講じて来たが、其れも限界だと思っていた時、菊池、野洲から大勢の領民が来て助けられと説明すると。


「えっ、其の話しはさっき聴きましたが本当なんですか。」


「ええ、勿論本当の話しですよ、私が作り話をして要るとでも思われるでしょうが、全て本当の話しでしてね、我々は五か村でね菊池から山賀まで五つの国が有りますので一カ国に一か村と、其れと千五百俵づつを持って行きましたよ。」


「じゃ~五百俵は全部渡されたのですか。」


「いいえ、飛んでも無いですよ、どの国でも受け取られませんでしたよ、源三郎様はこのお米は皆さんが大切に育てられたのですから、全て皆さんで使って下さいって。」


「では全部皆さんが食べられたのですか。」


「正か私達は命の恩人に対してその様な事は出来ませんので、次の年の作付け用にと届けましたよ。」


「じゃ~此処の農民さんも助かったのですねぇ~。」


「でもねぇ~、連合国では全てが違いましてね、先程ですが多分お漬物が付いて来たと思いますが。」


「其れで聴きましたら連合国の漬け物は全て野洲で作られてるって。」


「勿論ですよ、菊池もですが野洲でもお米が不作でしてね、有る時野洲の農家の奥さんが大根を植えたところ大根が大豊作となったそうでしてね、其れからは大根を大量に作付けし、殆どが漬け物用にして、今では漬け物の殆どが野洲で作られ届けて頂いて要るのです。」


「でも大根だけをそんなに作って誰が漬け物にされるんですか。」


「勿論そんな時には菊池から山賀まで手の空いて要る人達が駆け付けるんですよ。」


「でもそんな大勢が行くと、其れに一体何本の大根が漬け物になるんですか。」


「そんなの誰も分かりませんよ、大根を洗う人、竹に吊るすのもまぁ~其れは大変ですよ、其れよりも漬け物用の樽が全く足りませんので、私達の仲間数人が樽を作っており、今では年中作っておりますよ。」


 名主は一体何本の大根が収穫されて要るのかも分からないと、野洲でも毎年数十万、いや百万本以上の大根が収穫され殆どが漬け物用だと、だがそんな大量の大根を漬けた漬け物を一体何処に置く場所が有るのだ。


「でもそんなに作っても一体何処に置く場所が有るんですか。」


「漬け物樽ですか、どの国でも全てお城の地下に置く場所が有りましてね、其の管理するのが城下の人達で其の人達は専門の仕事になって要るんですよ。」


「漬け物の管理は専門の仕事ですか、でも普通は女性の仕事では無いんですか。」


「普通は家庭で作りますが、大量に作りますので女性では無理で、ですから城下の男達が数十人毎日お城に行って、数日か十数日に一度方々に送る仕事も有りますのでお城の地下では男だけに任されて要るのです。」


「では其の人達はお城へは何時でも入れるのですか。」


「連合国のお城には誰でも何時でも入れますよ。」


「えっ、お城は自由に入れるのですか。」


 彼らが驚くのも無理は無い、彼らの国ではお城の中に入る事など考えられ無いので有る。


「さっきのお話しでは野洲で大量の大根を育ててるって、ではお米は何処かで買うのですか。」


「いいえ、連合国では買うお米は有りませんよ、菊池も少ないですが、今は何とかしてお米の収穫が多くなる様に考えておりますが、お米は山賀が大豊作で山賀から届けられるんですよ。」


「山賀から届けられるって、では金子は。」


「連合国では金子は必要無いんですよ、誰でも食べる事が出来ますが、ただ食べる為には何でもいいから仕事に就く事でして、さっきの話しで漬け物樽で城下の男達が働き、其の漬け物樽を運ぶ専門の人達も、其れにお城にはお米も保管しておりますので、お米を管理する人、源三郎様はどんな仕事でも良いと言われましたが、実を言いますと我々も最初は信じる事が出来なかったんです。


 でもあの時、此方から大勢の人達が我々の村に来て下さいって、我々の国では源三郎様と言われるお方がおられ、我々全員源三郎様に全てを任せて要るから信用して下さいって。


 其の頃、幕府軍が多くの村を襲い、食料を略奪し、女は犯し、子供達を家に閉じ込め火を放ち殺してると聞いてましたので、でも逃げる所が無かったので決心が出来なかったんです。


 でも同じ殺されるにしても一度くらい人を信用しようと思い、其れで村民と相談して此処に来たらあの人達に言われた通りでして、源三郎様は農民に対してはお優しいお方で、今でも大切にして頂いてるんです。」


 やはり城下の奥さんが言った事には間違いは無かったが、一体何をすれば良いのだ。


「まぁ~、皆さんは何も急ぐ事は有りませんよ、其れに連合国では皆さんが居られた国とは全然違い、仕事は何でも有りますからね。」


 其れは元は農民だからと言って必ず農作業に就かなければならないと言うのではなく、自分がやりたいと思う仕事が有れば其れで良いと、それ程までに仕事が豊富なのだろうかと考え始めて要る。


「名主さん、有難う、私達も戻ってみんなに話して見ますので、其れと若しも農作業に入りたいと言えばどの様にすれば宜しいんですか。」


「そうですねぇ~、其の前に皆さんは大勢ですので誰でも宜しいですから、皆さん方の意見を纏めて下さる代表を選び、其の人が菊池の高野様に相談されると良いと思いますよ、其れと代表ですが一人では大変だと思いますよ。」


「よ~く分かりました、私達は今から戻りまして皆と相談して決めたいと思います。」


「でも皆さん急がず無理をせずに、分からなければ高野様に相談される方がいいですからね」


「はい、其の様にいますので、有難う御座いました。」


 彼らは理解出来たのだろうか。


「オラは源三郎様ってお侍様は農民を大切にされると言う話しだけど信じて行くよ。」


「うん、オラもだ、城下の奥さんの話しは本当だったと言う事だけど、でも何をすればいいんだ、オラは農民だけど今は何も分からないんだ。」


「なぁ~今からみんなに話したいんだけど、代表を選べって言ってたけど、どんな方法で選ぶんだ。」


「う~ん、其れが一番大変だなぁ~。」


 彼らの殆どが農民だ、だからと言って必ず自分が代表になるとは言わないだろうと、村から部隊に戻るまで考えるのだが、果たしてどんな人物が代表になるのだろうか。


 其の少し前。


「なぁ~後藤さん、あいつら城下の奥さんと何を話してるんでしょうかねぇ~。」


「私も分かりませんが、多分、連合国の事だと思いますよ。」


「連合国の事って、一体何を聴くんですか。」


「吉三さんもですが、皆さんは連合国をどの様な国だと思われますか。」


「えっ、どの様な国って、オラはそんな事考えた事も無かったですよ。」


「何故、考えた事が無かったのですか、私は考えておりましたよ。」


「オラは源三郎様ってお侍様を命の恩人だと思ってるんですよ、だってそうでしょう、今の今まで戦の連続でオラの仲間は何時も先頭に行くんで、だから必ず一番先に殺されるんで、でも官軍の人達は何時でも必ず後ろの方で指揮を執ってるって、ただ行け行け突撃するんだって言うだけでなんですよ。」


「確かに其の通りですねぇ~、確かに彼らは絶対と言っても良い程後方ですから、戦死の可能性が少ないと思いますよ。」


「でも後藤さんもお侍ですから指揮官じゃ無いんですか。」


 後藤は何故歩兵なのか、吉三も他の仲間も知らずに要る。


「私ですか、私は官軍の上層部に対し反攻しまして、私は上層部の考え方に反論しましてね。」


「何でそんな事したんですか。」


「まぁ~其れがねぇ~。」


 後藤は中隊の仲間に話すと。


「だから歩兵に出されたんですか。」


「いいえ、私から頼んだのですよ、同じ死ぬなら先頭で突撃すれば考える事も無く簡単に戦死出来ると思いましてね。」


「でもそんな事したら奥様や子供さんが。」


「其の前に官軍の事ですから私は戦死したと伝えると思いますよ。」


「えっ、でも後藤さんは今も生きてるんですよ。」


「其れを知っておられるのは皆さんだけでしてね、官軍の上層部と言うのは反論する者は全て戦死だと家族に報告し、皆さんと一緒に最も厳しい戦場に送るんですよ。」


「でも他の指揮官は。」


「あ~あの指揮官達ですか、彼らは武勲を上げ司令本部に戻りたいので、皆さんを利用する事だけを考えて要るだけですよ。」


「え~、じゃ~オラ達は捨て石なんですか。」


「正しく其の通りでしてね、彼らの考え方は農民の歩兵ならば簡単に集める事が出来るので、幾ら犠牲を出しても良いと考えて要るのです。」


 何と言う話しだ、農民ならば簡単に騙す事が出来、だから幾らでも補充は出来るのだと考えて要る。


「だったら今オラ達が生き残って要るのは。」


「其れはもう奇跡だとしか言いようが有りませんよ、あの時の事を覚えておられると思いますが、連合軍は官軍の指揮官だけに狙いを定め全てが命中しましたよ、ですがその後連合軍は歩兵だけは助けろと、其れで歩兵の全員を菊池に迎い入れたのですから。」


「うん、オラも最初は驚きましたよ、だって狼の餌食になりたく無かったら早く行くんだって、でもあの時は何処に行っていいのか分からなかったんですよ。」


 後藤は普通ならば官軍の指揮官だ、だが後藤は官軍の上層部に反論し、其の結果戦死に一番近い歩兵となり戦死すれば上層部と揉める事も無く気持ちも楽になれると思ったので有ろう、だが現実は官軍の指揮官だけが戦死と、全員連合軍の放った矢で戦死したのでは無く、殆どの指揮官は狼に噛み殺され、最後は餌食となり一体誰なのかも判別出来ないので有る。


「ですが私は実に悪運が強いのですかねぇ~、今も皆さんとこの様に生き、更に源三郎様のお陰で仕事にも就かせて頂いて要るのですから、今の私に何の不満が有ろうはずが有りませんよ。」


「じゃ~オラ達も運が良かったんですねえ~。」


「確かに運がいいと思いますよ、其れで先程も言いましたが、運が良いと言うよりも奇跡ですよ、其れにまだ奇跡が有ると思いませんか。」


「えっ、まだ奇跡が有るんですか。」


「だってそうでしょう、我々は官軍の兵士で官軍の兵士ならば普通で考えれば今頃は戦死して要るのがまだ生き残り、其れよりも仕事を与えて頂いて要るのですよ、其れを奇跡と呼ばず何と呼べば良いのですか。」


「そうか、オラ達に二度も奇跡が起きたんですね。」


「そうですよ、ですから今は何が出来るんだとは考えず、私は命有る限り連合国の為に尽くしたい、其れが私の命を助けて頂いた源三郎様に対する恩義だと思っております。」


「オラも一緒ですよ、でもオラは無理して早く死ぬより少しでも長生きして連合国の人達に少しでもいいから恩返ししたいんです。」


 後藤や吉三が考えて要る事は中隊の兵士達も同じで誰一人として反論する者もおらず、中隊の兵士達全員が納得して要る。


「後藤さん、吉三、オレは昨日から考えた事が有るんだけど。」


「何を考えておられたのですか。」


「オレは大隊のみんなにも手伝って貰ってはどうかなっ~って。」


「うん、オラも賛成だ、オラ達の中隊だけじゃ人数も足りないと思うんですよ。」


「私も賛成ですよ、ですが一体何を手伝って頂くのですか。」


 後藤も分かって要る、だが今は何を頼めと言うのだ。


「私達は未だ何も始めていないのですよ、私はただ測量すると申しましたが、測量する為には色々な小道具が要るのですよ、其の小道具を作る為にお手伝いして頂く事になりますが、でも他の中隊の皆さんは連合国に入られ今後どの様にされるのかも分からないのですよ。」


「う~ん、そうか、オレは簡単に考えてたんですよ、大隊は同じ仲間だからって。」


「其れは私もよ~く分かりますよ、でもね他の人達が同じ考え方だとは限らないのですからね。」


「なぁ~みんな、今は他の中隊の仲間も色々な事を考えてると思うんだ、ただオラ達は後藤さんも助けて頂いた命を無駄にしないで連合国の為に、いや連合国の領民の為にって、オラ達にも出来る事が有ればみんなで協力しようと、だから今は後藤さんの言う通りにやって行こうと思うんだ。」


「そうだよ、吉三の言う通りかも知れないぜ、オラ達の中隊には後藤さんは居るけど、他の中隊にはいないと思うんだ、オレは後藤さんと吉三を中心にして仕事をすればいいと思うんだけどなぁ~。」


「えっ、何でオラが中心になるんだ。」


「其れはなぁ~吉三は何時もオラ達の先頭になって中隊長や小隊長にオラ達の気持ちを言ってくれてたんだ、今の中隊は中隊長も小隊長も戦死したんだ、だから中隊で吉三が隊長になってオラ達に命令を出せばいいんだ、まぁ~誰も文句は言わないと思うんだけどなぁ~。」


「えっ、オラが隊長ってそんなのって無茶だよ、農民なんだからね。」


「源三郎様が言っておられたでしょう、我々の連合国には例え農民さんでも漁師さんでも先頭になって頂けるのが大切だと。」


「だからなっ、吉三が隊長になってくれればオレ達も楽になるんだよ。」


「え~、じゃ~オラが隊長になればみんなが楽になるって、そんなぁ~。」


「まぁ~そう言う事だ、吉三は隊長になって苦労してだなぁ~、オレ達が楽になれば誰も文句は無いんだからな。」


 吉三は何と反論して良いのか分からないが、他の仲間達は腹を抱えて大笑いして要る。


「まぁ~仕方有りませんねぇ~、私も吉三さんにお任せしたいと思いますのでね。」


 中隊の仲間も後藤も吉三が隊長になる事に大賛成で有る。


「よ~し、これからはオラの命令を聴くんだ。」


「えっ、一体誰が吉三隊長の命令を聴くんだ。」


「えっ、其れってさっきの話しと違うよ。」


「みんなも分かってるんだ、吉三隊長にお任せしま~す、なぁ~みんな。」


「お~任せるぜ。」


 吉三も大笑いし。


「其れでさっきの話しだけど、小道具が要るって、でもどんな道具が要るんですか。」


「そうですねぇ~、先ず一番に長さを測る為にも縄が必要になりますねぇ~。」


「縄ですか、其れで長さは。」


「一応目安として一町と決めましょうか。」


「じゃ~一町の長さで切ればいいんですね。」


「最初から切ると駄目ですよ。」


「何で駄目なんですか、一町の長さに揃えて数本用意すればいいと思うんですけど。」


「私が何故最初に切っては駄目だと言いますとね、一町もの長い縄の所々に結び目を作り、其の目印の所に杭を打ち込みますのでね。」


「じゃ~其の目印の所を結ぶと、あっ、そうか分かった、結び目の分だけ短くなるから全部の結び目が出来てから一町の長さで切るんですね。」


「其の通りですよ、其れで結び目ですが十尺ごとに作りましょうか、十尺の所で杭を打つんですよ。」


「じゃ~縄も数本要りますねぇ~。」


「其れと、杭もまぁ~最初ですから百本も有れば十分だと思いますよ。」


「えっ、杭ってそんなにも要るんですか。」


「もっと多く要る様になりますよ、菊池だけでも数ヶ所、いや十ヶ所以上の用水池が必要になりますからねぇ~。」


「えっ、そんなにも作るんですか、オラは一つで十分だと思ったんですよ。」


 吉三は菊池の領地が何処までか知らない。


 幾ら小国だと言っても端から端までは少なくとも十里以上は有り、更に今の農地から山の麓までは数里も有り、仮に一里だとしても半分以上が用水池に半分が農地になると、だが今の農地は狼が何時襲って来るかも知れないと言うので狭い所でも二里、いや三里は離れており、広い所になれば五里も離れており、それらの半分以上が農地に出来るだろうと、その為には大きな池でも十ヶ所以上作らなければならない。


「皆さんは菊池は小国だと聞いておられますが、私は端から端まで十里以上は有ると思います。

 其れに今の農地ですが、源三郎様も申されておられました様に狼が数万頭も生息して要るので山の麓までは開墾されていないのです。


 源三郎様は連合国内で食料の増産が最も重要だと申されておられるのですが、でもね先程も申しました様に狼の大群が生息しており、今までは大変だったのですが、菊池から山賀まで続く柵が完成すれば狼の脅威も無くなりますので安心して農作業が出来るのです。

 食料増産の為には大量の農業用水が必要でしてね、私は用水を確保する為には菊池には最低でも十ヶ所以上の大きな池と数百の小さな池を作りたいのです。」


「じゃ~池を作る為には大量の杭や道具が要るんですね。」


「そうなんですよ、池を造るって簡単に申しましたが、何処にでも造れば良いとは限らないのです。

 池を造り他にも水道も造り、川幅を拡げ深くしなければならないのです。」


「でも池を造るってじゃ~掘り出した土は。」


「掘り出した土ですか、池を掘るだけでは無いのですよ、堤を造り、池の底から上の方まで打ち固めるのも重要なのですよ。」


「わぁ~、オラは後藤さんの話しを聞くだけで頭が変になりそうですよ。」


「私は話しをしておりますが、工事に入ればもっと混乱する事になりますよ。」


「え~だったらオラは隊長を。」


「其れは駄目ですよ、この中隊は吉三さんが先頭になり引っ張って頂け無ければなりませんからねぇ~大変な事になりますよ。」


「後藤さんの話しは簡単じゃないですよ、あれもこれも要るって、そんなのオラ一人じゃ無理ですよ。」


「其の通りで、皆さんも吉三さん一人では無理ですから、何人か吉三さんを手伝って欲しいんですが。」


「オレ達にですか、でもオレは何も知らないんですよ。」


「其れはねぇ~吉三さんも同じなんですよ、例えばですがね、私が吉三さんに幾つかお願いしたいと考えて下さいね、吉三さんは一人に一つづつの指示を出しました、其れで受けた指示は仮に第一小隊としましょうか、吉三さんの指示は第一小隊に伝わるんですが、吉三さんが直接指示を言うのでは無く、その選ばれた小隊長に伝えるだけで全員に伝わるのです。」


「だったらオレが吉三さんからの指示を受け仲間に伝えるだけでいいんですか。」


「其の通りですよ、若しも一人だったら各小隊へ行き伝える事になりますので其れはもう大変な仕事になるのですよ。」


「そうか、だったら、まぁ~これは仮の話しだけど、オレの小隊だけに言えばいいんですよねぇ~。」


「ええ、其の通りでしてね、その様にすれば全ての指示は吉三さんが小隊長か班長か分かりませんが、其の人物だけに言えば良いのです。」


「そうか、だったら全員でする時も小隊に分けてする時も、オラは後藤さんから聞いた事だけを言えばいいんですね。」


「そうですよ、私も吉三さんだけにお願いするだけで済みますから。」


「よし、じゃ~オレが引き受けるよ。」


「ですが、其の前に中隊を分ける事になりますが、今は第五小隊まで有りますが、皆さん今までの呼び方で宜しいのですか。」


 後藤は中隊や小隊と言う軍隊方式の呼び名から変えたいと思って要る。


「呼び方を変えるって。」


「私はねぇ~、軍隊方式の呼び名では無く別の呼び方に変えたいと思ってるんですよ。」


「そうですよ、オラ達はもう兵隊じゃ無いんですから。」


「でも後藤さん、どんな呼び方に変えるんですか。」


「う~ん、そうですねぇ~、仮にですよ、吉三組ってのは、其れとも班と言うのですか。」


「えっ、吉三組って第一班ですか。」


「何でオラの名前が付くんですか。」


 後藤はこの時他の兵達も参加を申し出るだろうと考えていた。


 其の時に吉三組と言う呼び名だと正式に言う事が出来ると考えたので有る。


「吉三さん達はもう軍隊の兵隊では無いと言う証でしてね、軍隊では無い、では何と呼べば良いのか、其れならば一層の事班の組長と言いますか、私が考えたので吉三組にしただけでして、皆さんは余り気にされる事は有りませんよ。」


「だけど、何か恥ずかしいなぁ~、農民のオラが組長って。」


「もう諦めるんだなぁ~、組長さんよ。」


「もう、そんな言い方は。」


「ですが、これで我々は軍隊では無いと源三郎様にも報告出来ますよ。」


「まぁ~組長、オレ達は何も吉三だけに任せる事なんかしないから、みんなは仲間だからオレ達全員でやって行こうや。」


「うん、だったらオラも頑張るよ。」


「皆さん、最初から無理をする事は有りませんよ、私も今は直ぐに出来るとは考えておりませんからね。」


 そして、吉三組が誕生したので有る。


 後藤も吉三もみんなが支えてくれると信じて要る。

 正か、後藤達がこの様話し合いをして要るとは全く知らない他の兵士達は。


「なぁ~、あそこの中隊だけど昨日からな真剣顔付きで話し合ってるけど、一体何の話しをしてるんだろうかなぁ~。」


「わしも詳しい事は知らないんだ。」


「そうか、だけど少し気に成るなぁ~。」


「お~いみんな聞いて来たよ。」


 彼はお昼ご飯を運んで来た城下の奥さん達から聞いた話しが本当なのか農村に聴きに行った兵士だ。


「其れでどうだったんだ、奥さん達の話は本当だったのか。」


「其れが全部本当だったんだ。」


「えっ、じゃ~オラ達はこの連合国に残ってもいいのかなぁ~。」


「其れで名主さんに聴いたんだけど、其処の農村は高い山の向こう側から来たって言うんだ。」


「えっ、何だって高い山の向こう側から来たって言うのか。」


「そうなんだ、山の向こう側から千五百人を連合国からは領民だけで助けに行ったんだって言うんだ。」


「何だって領民だけで行ったって、そんな事本当に出来るのか。」


「オレも最初聴いた時には嘘だと思って、名主よりも農民に聴いたんだ、其れに未だ有るんだ、向こ側から来る時に千五百俵ものお米も一緒に運んで来たんだけど、源三郎様はそのお米は皆さん達の物ですからって言われたんだって。」


「千五百俵のお米は連合国では無く、其の人達に任せるって事なのか。」


「そうなんだ、だけど農民さん達は種籾に半分残してたんだ。」


 農村から戻って来た兵士達は農村で聞いた話しをすると。


「オレは連合国に残ってもいいと思うんだ。」


「オラもだよ、官軍の奴らはオラ達を人間とは思って無いんだ、だけど連合国の人達は何も隠す事は無いって本当の事だから何を聴いても全部話してくれるんだ、官軍の事だからオラ達の村には食料なんて届けて無いと思うんだ。」


「オレも同じだ、他の中隊も同じ様に話しをしてたんだ、其れにオレが官軍に入った数日後からは村で食べてた物と同じになったんだ。」


「農村の人達も同じ事を言ってたよ、オレ達は長い事幕府の奴らに苦しめられた、其れで官軍の話しを信じたオレが大馬鹿だったんだ。」


「なぁ~みんな、あの中隊だけど昨日と思うんだけど、お城の源三郎様の所に行ったって聞いたんだ。」


「源三郎様から何か話されたのかなぁ~。」


「いや詳しい事は知らないけど、菊池の領地を測量するそうなんだ。」


「一体何の為に領地を測るんだ。」


「農地を拡げるんだって、だけどオレも其れ以上の事は知らないんだ。」


「なぁ~其れよりもあの人達の所に行って話しを聞いてはどうだろうかなぁ~。」


「そうだなぁ~、此処で話しをしてても何も分からないからなぁ~。」


「じゃ~みんなで行って見ようか。」


 この様な話しは部隊の殆どで、その後大勢の兵士達が後藤達の所に向かった。


 源三郎と話し合った事は他の兵士達も知っていた、だが一体何の話しをしたのかも知らずにいたが農村に行き、連合国の話しを聞き、其れが切っ掛けとなったのだろうか、其れでも五千人の元官軍兵達が動き始めたのも確かで、後藤達が測量し数百、いや数千にもなる大小様々な池と、其れに伴う井戸などを建設する事に成るのだろうが、今まではとは違う工事で源三郎が進めて要る全ては領の為にと言うのが連合国内で全面的に進めて行く事に成るのだろうか、幾ら五千人もの元官軍兵達でも一体何年掛かり完成するので有ろうか、其れは源三郎でも予測出来ない。


 だが今となっては停まる事も無く、前へ前へと進んで行くので有る。








          


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