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闇の帝国    作者: 大和 武
82/288

第 8 話。 源三郎の秘策とは。

 話は少し戻り、野洲、上田、松川からは続々と家臣達が菊池へと向かっている頃。


「お~い、お鍋やお釜は。」


「大川屋さんから借りたよ。」


「お~い、中川屋さんから米俵を十俵だ、荷車は。」


「今集めてるよ。」


 野洲の領民は菊池へ向けお米や海産物、其れに食器類を集めている。


「なぁ~だけど一体何処で戦が始まるんだ。」


「そんな事オレが知る訳ないだろうよ、だけど源三郎様の話しじゃ隧道の入り口付近だって。」


「えっ、其れじゃ~、山の向こう側なのか。」


「ねぇ~、其れだったらおむすびがいいと思うんだけど。」


「そうだなぁ~、でも一体何人のお侍と兵隊さんが居るんだよ~。」


「そんなの知らないよ、まぁ~人数は菊池に着けば分かるだろうから其れよりも早く行こうぜ。」


 野洲の領民は一刻も早く菊池に着きたいと焦っている。


 其れから半時程が経ち。


「お~い、みんな準備は出来たのか。」


「だけど、まだ薪木が少ないよ。」


「だったら山に入って。」


「お前って本当にバカだなぁ~、下手に山に入ったら狼に襲われてだなぁ~。」


「あっ、そうか、だったら他の方法は。」


「そうだなぁ~、向こうに着くまでに枯れ木を集めてとするか、どうせ菊池にも有ると思うんだ。」


「よ~し、其れで決まりだ、じゃ~みんな行こうぜ。」


 野洲からは数百人の男女が菊池へと向かった。


「高野様、食事ですが。」


「今、城内の賄い処で作っておりますが、ですが一体何人集まるのかも分かりませんので食事と申しましても手の込んだ物では最前線には運ぶ事が出来ず今も考えて要るのですが、中隊長、軍隊ではこの様な状況下では一体何を作られるのですか。」


「高野司令、実は我々も今まで大きな戦を行なっておりませんので食事の事までは考えてもおりませんでした。

 我々には炊事班が食事を作ってくれておりまして、おむすびがあれ程にも美味しいとは思っておりませんでした。」


「やはり、おむすびですか、其れならば賄い処と腰元達にも協力して頂ければ。」


「そうですねぇ~、私もおむすびが一番だと思います。」


「高野様、オレ達にも何か出来る事は無いでしょうか。」


 菊池の領民も異変に気付いた様子で。


「う~ん、そうですねぇ~、ではお願いが有るのですが、薪木が大量に必要になりましてねぇ~。」


「ねぇ~高野様、一体何が起きてるんですか、兵隊さん達は物凄く緊張して話も出来ないんで、其れに

お侍は弓を持って隧道の中に入って行くし。」


 高野はもう隠す事は出来ないと思った。


「実はですねぇ~。」


 高野は五千人の官軍兵が菊池の隧道から攻めて来ると話した。


「えっ、其れって戦になるんですか。」


「まぁ~ねぇ~、私も戦は好きではないのですがね、我々は何としても皆さんを官軍の攻撃から守りたいと、今は菊池の家臣と駐屯されている兵隊さんだけですが、間も無く野洲、上田、松川からも応援部隊が到着されますので、皆さんは何も心配される事は有りませんよ。」


 菊池の領民も今まで戦と言うものがどれ程悲惨な状態なのかも知らない。


「高野様、でもあの隧道からは大勢の人が通るのは無理ですよ。」


「勿論ですよ、其れは私も知っておりますが、数人が、いや数十人の兵隊が隧道から侵入すればそれが引き金となって一気に攻め込まれ、数日、いいえ、数時も経てば菊池は全滅し、次は野洲、上田、松川と攻撃されまして山賀まで陥落するのに十日も掛からないと思いますよ。」


 高野が余りにも平然とした顔で話すので領民達も別に大慌てする事も無いと感じて要る。


「高野様、じゃ~源三郎様も来られるんですか。」


「多分来られるとは思いますが、でもまだはっきりとはしておりませんのでね、私も源三郎様が来られますと安心出来るのですが、でもねぇ~。」


「でもねぇ~って、高野様、何ですか源三郎様は若しかしたら来られないんですか。」


 菊池の領民も源三郎は来るものだと思って要る。


「ですがねぇ~、よ~く考えて下さいよ、私の失礼な言葉で申し訳有りませんが、私や中隊長の代わりはおられると思いますが、でも源三郎様の代わりは、今の連合国の何処を探してもおられないのですよ、ですがねぇ~、源三郎様の事ですから先陣を切って官軍に突撃されれは戦死は確実だと思うのです。

 私はねぇ~、連合国が壊滅したので有れば仮にですよ源三郎様が戦死されても誰も悲しむ事は有りませんがね、仮にですよ、我々が生き残り、源三郎様と一緒に突撃した者だけが戦死した、そしてですよ連合国が生き残った、ですが其の時には源三郎様は居られず、官軍の攻撃に対しどの様に策を講じれば撃退する事が出来るのか、その方法を一体誰が考え連合国を纏めて行くのですか、私は其れを考えると私の命を捧げても源三郎様を守りたいと思って要るのです。」


「でも、菊池には高野様が居られると思いますが。」


「其れはねぇ~、大きな間違いですよ、皆さん、私に源三郎様の様な真似が出来るとでも思われるのですか、私はとても無理ですよ、其れは何故かと申しますとね、源三郎様の頭の中は我々が考えて要る遥か先を見ておられましてね、我々菊池の、いや連合国の全員が考えたところで理解出来ない事を考えておられるのですよ。」


「じゃ~オレ達の命よりも源三郎様の方が大事なんですか。」


「貴方方は何か勘違いをされて要る様ですが、源三郎様は全ては領民の為にと、其れは何時の時でも申されておられるのです。

 源三郎様と言うお方はねぇ~貴方方の為ならば我が身を犠牲にしてでも助けられるその様なお方でしてね、領民一人の為ならば何時でも死ぬ覚悟はされておられるのです。」


「じゃ~何で来られないんですか、オレ達領民の為にって言うんだったら、今、一番危ないのが菊池なんですよ、菊池の領民が死ぬかも知れないんですよ。」


 その様な話をしていると。


「高野様、野洲からの応援部隊と思われます御一行が到着されました。」


 到着した先頭には工藤が居た。


「やはり来られましたか、工藤さんが来られたと言う事は。」


「司令、その通りでしてね、其れはもう大変でしたよ、総司令が先陣を切って行かれるのは目に見えておりましたので。」


「やはりねぇ~、実は今も菊池の皆さんに説明をしておりましたが、菊池の人達が犠牲になっても良いのかと、其れはもう大変で説明のしようが無いので困っていたのです。」


「高野司令、宜しければ私がお話しをさせて頂いても宜しいでしょうか。」


「其れは大助かりです、是非お願い致します。

 皆さん、今から野洲の工藤さんからの説明を聞いて下さい。」


「菊池の皆さん、私の話を聴いて頂きたいのです。」

 

 工藤は集まった菊池の領民に野洲で今朝起きた事件を話すと。


「えっ、あの小田切って少佐が工藤さん達を裏切ったんですか。」


「そうなんですよ、其れでその話は私がするよりも兵士達の方がよ~く知っておりますので、誰でも宜しいですから野洲で今朝起きた事件を話して上げて下さい。」  


「中佐殿、オラが話して宜しいですか。」


 農民兵は小田切と一緒に菊池に入り、野洲へ行った兵士達の一人で有る。


「オラは農民です。」


 農民兵はその後小田切達の話しよりも、源三郎が先陣を切って官軍兵を引き受け戦死覚悟だと話すと。


「皆さん、私が先程言った通りでしょう、源三郎様とはそう言うお方なんですよ。」


「でも、何で来られないんですか。」


「皆さん、オラは此処に来てまだ浅いですが、源三郎様は中佐殿に後の事を頼むって言われたんです。

 でも中佐殿もですが野洲の城下の人達も言われたんですよ、中佐殿は自分が戦死しても代わりはおりますが、源三郎様が若しも戦死されたら一体誰が連合国を纏めて行くんですかって、其れにご城下の人達もオレ達は今まで源三郎様のお陰で今も元気に生きてられるんだ、だから今度はオレ達が源三郎様の為にやってやるんだって。」


「皆さん、私もですよ、ですが源三郎様は自分が先頭に立つのが当たり前だと申されました。

 ですが野洲のご家中の皆様も源三郎様は連合国の為に何としても生き残って頂きたいと、其れはもう大変だったんですよ、確かに普通で考えれば総司令が前面に出られる事でご家中の方々も我ら連合国軍の兵士達の士気も上がります。

 私が戦死しても私には最高の部下がおり、その部下が私の代わりになれますよ、ですが総司令の代わりは例え工藤大佐でも不可能なのです。」


「えっ、吉田さん、今工藤大佐と申されましたが。」


「はい、今回の出撃に際し、工藤大佐に昇進され、私も少佐に其れと小田切が連れて来ました部隊を引き継ぎ、小川が大尉に昇進し野洲の部隊の指揮官に、其れとは別に今駐屯しております中隊長は中尉に昇進しますが、特に中隊長は中尉となるので中隊の中から軍曹と伍長を選んで欲しいんだ。」


「中佐殿、失礼しました、大佐殿、今急に選べと申されまして、私は。」


「いゃ~別に今で無くてもいいんだ、総司令は我が連合国の正式な軍隊とされ今後は連合国の領民の為に我々連合軍が前面に出ても良いと申されたんだ、だが今は其れよりも五十嵐司令官が五千の兵力で菊池に突入する事を全力で阻止して下さい、と申されておられるんだ。」


「大佐殿、我々はどんな事態になったとしても絶対に官軍の攻撃は阻止します。」


「よ~し分かった、其れで皆さん話は戻らせて頂きますが、仮にですよ私が戦死しても吉田少佐が私の代わりに、その吉田が戦死しても、小川大尉が引き継ぐ事は出来ますが、源三郎様と申されます総司令の代わりを出来る人物は今の連合国にはおられないのです、高野司令には失礼だと思っております。」


「いいえ、工藤大佐その様な懸念は無用で御座いますよ。」


 高野も工藤も苦笑いをしている。


「じゃ~兵隊さんは源三郎様の為に戦に行かれるんですか。」


「その通りですよ、源三郎様と申されるます総司令の為にとは其れが皆さん方の為になるんです。」


「オラは農民ですが、野洲に行って源三郎様が城下の人達からは絶対に犠牲者は出さないって、オラは其れは野洲だけじゃないと思うんですよ、オラ達は最初連合国って言われても何の話か分からなかったんだ、でも他の人達から聴いたんだけど、源三郎様は特に農民や漁民は大事にって、でも皆さんはその意味が分かりますか、皆さんが食べるお米や野菜を育てるのが農民で、海で魚を獲るのが漁師でそのどちらか一方が欠けてもご飯は食べれないんですよ。」


 菊池の領民達は次第に静かになり。


「ねぇ~菊池の皆さん、オラ達はどんな事が有っても官軍を隧道からは入れませんからね。」


 今は確かに農民兵だが菊池に着くまでは何度も幕府軍との戦闘を経験し、その度ごと生き延びて来た。


「じゃ~、今のオレ達に出来るは何ですか。」


「先程も申しましたが、薪木が不足しておりますので、其れとですが城下の女性達にはおむすびを作って頂きたいのですが宜しいでしょうか。」


 其の時。


「大佐殿、あれは多分上田からだと、いや違いますよ、全員が野洲の領民達だと思いますが。」


「やはりでしたか、多分ですがねぇ~あの人達は源三郎様の反対を押し切って此処に来られたんだと思います。」


 高野も野洲の領民達の考える事だと分かって要る。


「工藤さ~ん、吉田さ~ん、オレ達ですよ、野洲の。」


「皆さん、一体どうされたんですか、正か総司令が。」


「工藤さん、源三郎様はねぇ~絶対に行くなって、だけど野洲のお侍も兵隊さんも行かれたんですよ、其れもオレ達の為にって、だからオレ達に出来る事は無いかって城下のみんなと話し合って、じゃ~、オレ達でお侍と兵隊さんのご飯を作ろって決まってね、ほら見て下さいよ。」


 野洲からは十数台の荷車に米俵とその他にも海産物やお漬物まで乗せて、其れと城下からは数百人の領民が来た。


「大佐殿、今度は上田と、えっ、あれは松川からも来られました。」


「お~い、今からご飯の。」


「あんたって、本当にバカだねぇ~、釜戸を造らないとお米も炊けないんだよ。」


「あっ、そうか、だったら近くから石を集めて釜戸を作るか。」


「お~い、其れよりももっといい物を持って来たんだ。」


「一体何を持って来たんだ。」


「連岩って言ってなぁ~、此処の隧道の中にも使ってるんだぜ。」


「へぇ~連岩ねぇ~、じゃ~その連岩が釜戸も造れるのか。」


「あ~、大丈夫だよ。」


 松川からは大量の連岩が運ばれ野洲と松川の領民が菊池の大手門前で釜戸を作り始め、傍で見て要る高野も工藤も吉田達も大笑いをしている。


「工藤さん、もう止める事は無理ですねぇ~。」


「はい、私も余りにも突飛な行動に怒るよりも今は呆れておりますよ。」


其れにしても、戦には行かない領民が兵士や侍達の為にと食事をを作るとは今まで考えられ無かった。

 連合国ではこれが最初に炊事班が出来、その後は各国では何事よりも先に炊事班が出来たので有る。


「大佐、其れで作戦ですが、総司令からは。」


「司令、私もすっかり忘れておりましたよ、では今の内に作戦会議に入りましょうか。」


「其れが宜しいかと、では弓隊からの代表と中隊からは小隊長も加えては如何でしょうか。」


 高野は上田の阿波野、松川の斉藤も加わり作戦を練るつもりでいたが。


「司令、その前に現状を知りたいのですが、今軍勢は何処まで来て要るのでしょうか。」


「はい、大佐が着かれる前ですが、まだ二又には来ておらないと。」


「では専門の偵察隊を編成し敵軍を調べられては如何でしょうか。」


 やはり工藤は軍人で有る。


 高野は猟師を使い官軍の動向を調べては要るが、余りにも距離が離れており正確な事までは分からない。

 だが、その偵察任務にも大変な危険が伴う。


「大佐、偵察ですが、どの付近まで行くのですか。」


「司令、私としましては山の麓を進み、出来るだけ敵軍に近付きたいと思って要るのですが。」


「ですが大変な危険を伴いますよ、この山には狼の大群がおりますので、敵軍よりも狼の攻撃から身を守りながらの偵察になりますが。」


「司令、其れは私も十分に承知致しておりますが、う~ん、何か良い方法は御座いませぬか。」


「大佐、我々は狼の恐ろしさは嫌と言う程知っており、猟師の案内無しでは無理だと思うのです。」


 阿波野も狼の恐ろしさは知っており、連合国の山に入るには必ず猟師と一緒で無ければならない。


「そうでしたねぇ~、私も猟師の存在を忘れるところでした、では高野司令、猟師の手配をお願い出来ますでしょうか。」


「分かりました、では誰かを山小屋に向かわせましょう、誰か山小屋に行き猟師さんに来て頂く様に。」


 数人の家臣が猟師達の山小屋へ向かい、其れから高野、阿波野、斉藤に対し、源三郎からの指示を伝えると。


「工藤大佐、では総司令は家臣を前面に出せと申された訳ですが。」


「斉藤司令、近くから連発銃で撃ちますと敵軍に居所が知れ、其れこそ敵軍からの一斉射撃で其れで無くても少ない兵士が全滅すると思います。

 ですが弓ならば音もせず命中しても一体何処から放たれたのかも分からずに敵軍は関係の無いところへ、其れは四方八方に一斉射撃しますが、誰にも当たらずに済むと思うのですが。」


 工藤は大丈夫だと言うが、連合国軍の兵士に当たれば付近の兵士が大騒ぎとなり下手をすれば兵士達は何も分からずに四方八方へ向け連発銃を撃つ事になり多くの家臣が犠牲になると斉藤も高野も考えた。


「斉藤司令、其れに高野司令、阿波野司令、五千人の官軍兵ですが、軍隊と言うのは武士とは違いまして全てが指揮官の命令で動きますので其れが見方によっては統制が取れている様にも見えるのです。

 我々が狙う相手は白の被り物で直ぐに分かりますのでその指揮官だけに狙いを付け矢を放てば指揮官は大怪我をしますので後は逃げるだけで御座います。」


「大佐、逃げるって簡単に言われますが、一体何処に逃げれば宜しいのでしょうか。」


「ご家中の方々の直ぐ後ろに兵士を配置しますのでどなたが放った矢でも宜しいので被り物をしている指揮官に命中すれば兵士の誰かが別の指揮官に発砲し、其れが合図になりますので兵士の方に逃げて頂ければ宜しいのです。」


 だが家臣達にも相当高度な弓術が要求されるのは確かで有る。


 白い被り物が官軍の指揮官だと言うが一体何人いるんだ。


「大佐、ですが白い被り物をしている指揮官だけ狙うと言うのは相当高度な弓術が必要なので有りませんでしょうか。」


「勿論ですが、連発銃を使いますと居所を知られ多くの犠牲を払う事にもなりますよ。」


 高野、阿波野、斉藤は迷っている、確かに工藤の言う通りで連発銃を使うと必ず居所を知られ、其れが引き金となり官軍から一斉射撃を受ければ連合国軍隊からは多くの犠牲者を出す事は間違いは無い。


 だが矢を放つと言う事は音も無く、敵軍に命中しその場に伏せれば直ぐに発見される事は無い。


「其れでは人選が必要となりますねぇ~。」


「阿波野様、私も同じ事を考えておりました。」


「斉藤様もですか、う~ん、ですがこれは困難な問題になりましたねぇ~。」


 高野も考え込んで要る。


家臣達も日頃は弓道の鍛錬は行なって要る、だが今まで戦の経験が無いと言うのが彼らには大問題だ。


「工藤大佐、確かに我々は剣術の鍛錬も行っております。

 ですが弓道と言うのは特に鍛錬と言うよりも所作を大切にしておりまして実戦的な鍛錬は行なってはおりませんので。」


「其れは、私も痛感しております。

 確かに五千人の官軍兵が居れば、一人や二人の兵士には命中するでしょうが、特定の人物だけを狙い撃ちするとなれば余程腕に自信の有る者で無ければ難しいとは思います。」


「大佐、其れと距離ですが、如何に腕の立つ者でも正確に命中させるともなれば、指揮官とはどれ程離れているのでしょうか。」


「距離ですか、う~ん、これは。」


 工藤も考え込んだ、弓の矢は直線的に飛ぶ、だが飛ぶ距離は連発銃の非では無く、如何に正確に命中させるとなれば距離は重要で其れでも腕の良い武士になると半町離れた的に命中させる事は出来る、だがその的は動かずに有る為に鍛錬を重ねれば余程の者で無い限り、武士ならば的の中心を外れても命中させる事は出来る。


「私の推測では一町近くにはなると考えており、其れに絶えず移動しており動きが読めないのです。」


「その様になると指揮官を狙って外れ兵士に命中しても仕方無いと考えねばなりませんねぇ~、私は勿論指揮官に狙いを定め、矢を放ち、其れが結果的には他の兵士、若しくは馬に命中しても良いと考えたいのです。

 戦になれば敵軍も気が狂った様に連発銃を撃つでしょうが、私は総司令が申されておられます農民さんは大切だと、ですが兵士の全てが農民だとは限らないのです。

 中には侍崩れや無宿人も数多く居ると思いますので、其れよりも私は菊池の隧道からは絶対に入らせてはならない、これが今回の作戦の中では最も重要では無いかと思っております。」


 工藤も元は官軍の軍人で幕府軍との戦闘も経験しており、勝利を収める為にはどの様な手段を用いたしても良いと考えて要る。

 其れが高野達との考え方の違いで、幾ら高野や阿波野、斉藤らが武士を捨てると言ったところで、所詮は経験の無い者達との差で有り、官軍はその意味では町民や漁民、農民に至るまで召集し幕府軍との戦闘に入っては要るが、幕府軍は旧態依然の武家社会で戦に向かっているのは全て武士やその家族と関係者のみで、最初からは考え方も全く違うので有る。


「工藤大佐、我々もまだどこかに武士だと言う余計な誇りと言うものが残っているのでしょうか。」


「私は何も皆様方を批判するつもりは御座いません。

 其れに私も元は武士の端くれですので今でも気持ちの何処かに武士の誇りと言うものが有るのも事実で御座います。

 ただ少し違うのが私は官軍に入り幕府軍との戦闘では幕府軍と言うのは旧態依然の作戦を、其れと武士の誇りだけを前面に出しておりますが、官軍の指揮官以外の殆どは町民や農民、まぁ~見方を考えれば官軍の指揮官以外は領民だと言う事でして、今回も敵の殆どが領民で有ると言う事なのです。

 ですが彼らは領民で有りながら立派は兵士に育てられており、事実、菊池を含め各地で駐屯しております中隊の兵士の中で中隊長や小隊長を除けば殆どが農民などの領民で武士が一人に対して兵士の人数は十倍以上も居るのです。

 私も出来るならば指揮官以外の兵士は殺したくは有りません。

 ですがこの戦は連合国の生き残りを掛けた最大の決戦で、例え卑怯者だと罵られても勝たねばならないのです。」


 工藤は高野や阿波野、斉藤を責めているのではない、やはり本物の戦の経験が無いと言うのは、何処かにまだ甘く考えて要るのだろうか、大昔から戦に勝てば戦勝品と言う名の略奪行為や暴行が行なわれ、

小国は大国に負けると残るは悲惨な状況で、だが其れでも年月が過ぎると忘れ去られて行くのも事実だ。


 工藤は戦の恐ろしさを何度も見て来ており、農民や町民と言えども相手は敵でこの戦に負ければ連合国の領民が悲惨な状態になるのは目に見えていると思って要る。


「工藤さん、私もまだ甘いと感じました。

 其れで先程申されました指揮官を狙えと言うのは何か他に訳でも有るのでしょうか。」


「私も経験しておりますが、指揮官の中には敵の指揮を執る武将を殺せば褒美を与えると、其れも兵士としてですが、例えば一兵卒を昇格させると言う方法ですねぇ~。」


「其れは一人の兵士が仮に農民や町民で有っても上に成れると言うのでしょうか。」


「はい、正しくその通りでして、昇格すると食べ物もですが、数人の部下を、いや十人程の部下を持つ、其れは農民や町民にとっては夢のまた夢の世界でして、その様な甘い言葉に乗せられた兵士は武士よりも恐ろしいですよ、指揮官が突撃を命じますと兵士達は敵軍の、まぁ~これは幕府軍の事ですが何も考えず突撃し、手柄を上げる為ならば相手が例え武士の子供でも平気で殺して行きますから、武士が少しでも躊躇する様な態度を見せれば、幾ら達人の総司令でも殺されるのは間違いは無いと思うので御座います。」


「其れでは、我々も非情にならなければないのでしょうか。」


「はい、正しくその通りでして、私は皆様方のお優しいお気持ちは大切だと思います。

 ですが此処はそのお気持ちを我慢し敵を全滅させなければなりませぬので。」


「大佐、私も総司令が何故農民さんが大切だと申されておられる意味は理解しております。

 ですが今回の戦だけは何としても勝たねばなりません。

 その為には例え卑怯者と言われましても連合国を勝利へと導きたいと思います。」


 高野もやっと心の整理が着いたのか、阿波野も斉藤も頷いたので有る。


「作戦会議中、誠に申し訳御座いません。」


 其れは鈴木で、彼は野洲の家臣の中でも弓の名手だと自負し、源三郎の配下になるまでは山の中で猟をするのが訓練だと考え、動かぬ的では無く、高い山の中で鳥や猪を一矢で致命傷を与える程の腕前で有る。


「鈴木様では御座いませぬか。」


「はい、実は私は剣術よりも弓の鍛錬が大好きでして、総司令の配下に入るまで野洲の山で鳥や猪の狩りを行なっておりましたので、敵軍の指揮官を仕留める自信は御座います。」


「左様で御座いますか、其れは大変心強いですねぇ~、実は先程から今回の戦には敵軍の指揮官を狙い撃ちする作戦を練っておりましたのですが、敵軍の指揮官を狙い撃ち出来るとなれば弓の名手で無ければと話し合っており、其処に丁度鈴木様が来られたので御座います。」 


「左様で御座いますか、其れで私が狙う敵と言うのは。」


「鈴木様、敵軍の中央付近だと思いますが、司令官を狙って頂きたいので御座います。」


「ですが私は司令官がどの様な姿なのかも知らないで御座いますが。」


 鈴木は官軍の指揮官、其れは司令官を狙い撃ちせよと言われ、だが官軍の司令官がどの様な姿をしているのかも知らない。


「鈴木様、其れは直ぐに分かりますよ、指揮官の中でも司令官となれば周りは護衛の者達もですが、司令官の被り物は将校達の中でも特に目立ちますので。」


「では、私はその人物だけを狙えば宜しいのでしょうか。」


「はい、その通りでして、ですが問題は仮に司令官に命中したとしても付近には大勢の将校と兵士がおり、全員が連発銃を持っておりますのでその場から逃げ出すのは大変難しいと思うで御座います。」


「工藤さん、私は今回の戦で戦死を恐れてはおりませんし、何も逃げるつもりも有りません。

 私はその場の将校達を一人でも多く仕留める事を考えておりますので、矢も五十本以上準備し持って参りました。」


「鈴木様、総司令は何か申されておられましたか。」


「いいえ、何も、私も今まで戦の経験は御座いませんが、これが初陣でしかも敵軍の大将を仕留める事が出来るので有れば、敵軍も少しは動揺し運が良ければ進軍を止める事が出来、其れが連合国の勝利に導けると、私は其れだけ十分に満足しております。」

鈴木は源三郎の配下で今まで源三郎がどれ程苦労し連合国を設立させたかその全てを知っており、源三郎が野洲の家臣を呼び弓隊を結成した時から今回の戦に参加すれば、野洲、いや連合国には戻れないと覚悟を決め、命有る限り矢を放ち敵軍の将校達を仕留める事だけを考えていた。


「では、鈴木様は逃げる気持ちは無いと申されるのですか。」


「高野様、私は総司令が野洲の家臣に弓隊を結成され菊池に参る様に申された時から私は野洲に戻る事は考えず、一人でも多く敵の指揮官を仕留める事を考えながら此処に来たのです。

 私の代わりは上田でも出来ますが、総司令の代わりは失礼だとは思いますがどなたにも努める事は出来ないと考えております。

 私は今回総司令の分まで仕留める所存で御座いますので、どうか私の事は案じられる事は御座いませぬ。」


 鈴木は他の家臣同様太刀は持たず脇差だけで有る。


 源三郎は家臣に対し連発銃の弾を受け逃げる事が出来ないと判断したならば狼に襲われ苦しみながら死ぬのでは無く、脇差で自害する方が楽に死ぬ事が出来ると話しており、野洲の家臣は誰も太刀では無く脇差を差して来たと言う事は野洲に戻るのでは無く、菊池へは官軍の攻撃を防ぐのが目的でその為に戦死を覚悟し乗り込んで来たので有る。


「鈴木様、野洲のご家中は皆様方は脇差で御座いますか。」


「阿波野様、我々は何も戦死を望んでいるのでは御座いません。

 ですが何事に置いても覚悟しなければ物事は達成出来ないと常日頃から総司令が申されておられましたので、今回改めて気を引き締めたので御座います。」


 やはり日頃源三郎の傍で話を聴いて要る鈴木は他の者達とは考え方も違い、今回、家臣の気持ちを引き締める為に鈴木が源三郎の思いを伝えたので有る。


「工藤さん、私は弓隊が前面に出、出来る限り多くの指揮官を仕留める為に矢の全てを放つ所存で御座います。」 


「左様で御座いますか、よ~く分かりました。

 高野様、阿波野様、斉藤様には弓隊の指揮をお願いしたいと思うのですが如何で御座いますか。」


「私は大賛成ですよ、鈴木様は常に総司令のお傍に居られ、総司令の考え方をご存知だと思いますので、後程弓隊全員に作戦を話して頂ければ良いと思いますが。」


「阿波野様、誠に有難う御座います。

 私は野洲を出立してからも色々と考えを巡らせておりましたので、宜しければ其れをお話しさせて頂きますが宜しいでしょうか。」


「お~いみんなご飯が出来たぞ~。」


 松川から運ばれて来た連岩で今までよりも素晴らしい釜戸が完成し、その釜戸で最初のご飯が炊きあがった。


 大手門前には菊池、野洲、上田、松川の家臣総勢五百名が集結し、明日か、明後日には五千の官軍と戦闘開始だと言う、有る者は静かに何かを考え、有る者は目を閉じ家族の事でも考えて要るのだろうか。


 そして、数十人の家臣達は官軍との戦闘を前にして話の内容は分からないが何か騒いでいる様にも見える。


 其れでも領民が作ってくれたおむすびを食べ始め、その中には今回新たに加わった元官軍兵の一千名も居る。


「みなさ~ん、今全員がお食事中だと思いますが、食事を終えましたら今回の戦について少しお話しが有りますので、全員が聴く様にお願いします。」


 家臣や連合軍の兵士となった元官軍兵からは返事は無いが、全員が作戦の話だと思っており、だが元官軍兵達は意味が分からずにいる。


「なぁ~何でオレ達に話しをするんだろうかなぁ~、オレ達は官軍に居た頃は命令が有るだけでオレ達はその命令通りに行くだけだったのになぁ~。」


「そうなんだ、わしはあの山から連合国に入った時から別の世界に入り込んだ様に見えるんだけど。」


「そうだよ、だって此処の隧道から入って着たらオレ達は此処の人達に大歓迎されて、オレは何が何だかさっぱり分から無かったんだ。」


「う~ん、其れにしてもこの連合国の人達って本当にわしらと同じ人間なのかなぁ~、わしは狐に騙されて要る様な気持ちなんだ。」


「此処の人達って戦が有るって事が分かってるんだろうかなぁ~。」


「いや、オレは其れよりも此処の軍隊だけど何か様子が違うとは思わないか。」


「何が違うんだよ~。」


「オレ達がこの連合国に来るまで官軍の上官達は威張り通し自分達が一番偉いと思ってる様な口振りだったけど、さっきもだけど何だか話し方が違う様に思えるんだ。」


「うん、其れは言えるよ、小田切って少佐なんかあの工藤中佐に会うまでは一番威張ってたんだ、でも中佐は軍人なのに命令はしないし、そうだあの人は何と言う名だったかなぁ~。」


「一体、誰の話しなんだ、此処の人達なのか。」


「いゃ~それが隣の野洲のえ~っと。」


「あ~、其れだったら源三郎様って言ったと思うんだ。」


「そうだよ、その源三郎様って連合国の総司令官なんだろう、だけど総司令官ってオレ達の知ってる官軍では偉そうに話すが源三郎様って優しく、オレ達にも分かる様に話しをしてくれるんだ、其れになぁ~野洲の人達に聴いたんだけど、源三郎様ってお人はオレ達の様な農民にも頭を下げられるんだって。」


「其れだったらわしも聞いた事が有るよ、源三郎様ってお方は農民や漁民、其れに城下の人達には優しく、だけど悪人には鬼の様に恐ろしいんだって。」


「えっ、その話し本当なのか、オレは知らなかったよ。」


「本当なんだ、だってわしらを連れて来た小田切って少佐なんだけど工藤中佐の元部下で、中佐殿が一番信頼してたんだ、其れがなぁ~官軍の司令本部から裏取り引きで何でも官軍の司令部から工藤中佐を暗殺して帰ったら大佐に昇格し、司令本部に入る約束をしてたんだって、其れが源三郎様にばれてなぁ~、源三郎様は小田切少佐と連れて来た小隊を山に連れ出し、狼の餌食にしたんだ。」


「え~、源三郎様ってそんな恐ろしい事をする様には見えないんだけどなぁ~。」


「そうか、其れであの朝小田切少佐と小隊だけが呼び出されたのか、う~ん、それにしても源三郎様って本当に恐ろしいなぁ~。」


「源三郎様ってお人は弱気を助け、悪人には恐ろしいって事なのか。」


 新しく来た兵士達であの日の朝小田切とその部下達が工藤、吉田、小川の三名の暗殺に失敗した。 

其れが源三郎の耳に入り結果山に連れて行かれ狼の餌食になった話をしているが、其れも領民では無く、小田切達より以前に来た兵士達から話しを聞いたので有る。


 其れと言うのも工藤もだが吉田や小川、其れに中隊長達の口調が同じ元官軍兵だとは思えない程優しくなり戸惑いを見せて要る。


「源三郎様。」


「雪乃殿ですか。」


「お茶を持って参りました。」


 雪乃は源三郎が今何を考えて要るのか分かって要る。


 源三郎は確かに連合国の総司令官に間違いは無い、だがその前に一人の人間として源三郎だけが野洲に残って要る事が苦しく、今官軍と戦闘状態に入るで有ろう中で野洲の家臣達の顔が浮かび、その家臣達が一人、又一人と官軍兵の撃つ連発銃に倒れて行くと考えただけで耐える事が出来ない程の精神状態に近いので有る。

 仲間が次々と倒れ我が身だけが生き残ったとして、果たしてこの先本当に楽しく暮らせる事が出来るのだろうか、と其れだけを考えて要る。


「源三郎様、菊池に向かわれては如何で御座いましょうか。」


「雪乃殿。」


 やはりだ、雪乃も分かって要る。


「源三郎様の苦しいお立場は今の私でも理解出来ます。

 野洲のご家中もですが、高野様や阿波野様も参られ官軍との戦の最中でご家中の方々や他の方々が倒れて行かれるのではと考えておられると思うのですが。」


「雪乃殿、私一人が野洲に残る事が苦しいのです。

 例え、この戦に勝利を得たとしましても私は喜ぶ事が出来ないのですよ。」


「源三郎様のご心中を察しますと、私も今は胸が張り裂ける思いで御座います。」


「今は連合国の将来を考える余裕は私には有りません。

 私は将来の事よりも、今回の戦だけが頭から離れないのですよ。」


 源三郎は雪乃の前ではあえて平静を装うってはいるが、雪乃は源三郎が苦しんで要ると。


「源三郎様は何を辛抱されておられるのでしょうか、工藤さんから申されました事でしょうか、其れともご家中の方々から申された事なのでしょうか、私は何時もの源三郎様では無い様に思えてならないのです。

 源三郎様、私は何時もの源三郎様に戻って頂きとう御座います。」


 雪乃も本当は源三郎には戦地には行っては欲しくない、だが其れは雪乃だけの問題ではない。


 今は連合国の生き残りを掛けた戦なのだと諦めなければ、例えこの戦に勝利しても源三郎の心の中からは一生涯消え去る事が出来ないだろうと思うので有る。


「皆さん、食事は終わられましたでしょうか。」


「高野様、お話しをお伺い致します。」


「では、今から総司令の伝言を鈴木様から伝えて頂きますので、皆さんお聞き下さい。」


 高野は鈴木が何を伝えるのか、其れは家臣達にとっては決断しなければならない程重要だと知って要る。


「皆様、私は野洲隊の鈴木で御座います。」


 この時、鈴木は野洲から持参した弓矢を持っていた、何故、今必要なのだろうか。


「私は総司令から詳しく伺っておりませぬが、其れは何時もの事なので、今からお話しをさせて頂きます。」


 鈴木は源三郎から簡単に指示を受けた、だが果たして簡単な内容なのだろうか、鈴木は源三郎からの指示を半時掛け話した。


「鈴木殿、今申されましたが弓隊が前面に出よ、そして、官軍の指揮官を狙い撃ちし、その後は直ぐ逃げろと申されましたが、では失礼ながら今この場に居られる元官軍兵の方々を何処に配置されるのでしょうか。」


「其れは我々の後ろに立ち、官軍兵を撃つのです。」


「鈴木殿、何故に兵士が連発銃で撃たないのですか。」


「皆様、よ~く考えて下さいね、我々は五百足らずの武士で武器は弓だけですよ、其れに今は連合国軍となった兵士ですが、其れも僅か一千名で武器と言えば兵士達の持つ連発銃だけですよ、敵軍は五千人で、更に、大砲が数十問を備え、その様な官軍に対し何も考えず連発銃を撃てば半時も経たずして連合国軍は全滅します。」


「鈴木様、今大砲が数十問と申されましたが、其れは誠なので御座いますか。」


「皆さん、聴いて下さい、今の情報は源三郎様の配下で闇の者、その闇の者が官軍と出会い、其れを総司令に報告されたのです。」


 工藤も田中の報告を直接聞いており鈴木の話しに加わるので有る。


「今から詳しくお話しをしますが、皆様方全員が私と同じ様に弓を持参されたと思いますが、弓隊が官軍の指揮官だけを狙い撃ちするのです。」


「何故に指揮官だけを狙うので御座いますか、兵士を殺せば良いと思うので御座います。」


「皆様方は全員が武士ですが、軍隊と言うのは組織化され武士の様に個人対個人の戦では無いのです。

 軍隊と言うのは個人では無く数百、数千の兵士が同じ目的に向かい集中攻撃するのです。

 若しも、誰かが兵士を撃ったとします、指揮官は直ぐ命令を下し全軍の一斉攻撃に入ります。

 連発銃は高い爆発音で隠れていても直ぐにとは思いませんが、我らが潜んで要ると思われる所に向かって何も考えずに連発銃を撃つので、その様になれば一体どの様になるかは誰が考えても直ぐに分かると思いますが如何で御座いましょうか。」


「鈴木様、では我々弓隊が狙うのは指揮官だけなので御座いますか。」


「正しくその通りで、武士は個人ですが、軍隊は組織で戦い、その命令を下すのは全て指揮官ですのでね指揮官だけを殺せば兵士達からは多少の反撃は有ると思いますが、指揮官が居なければ命令を下す者が無くなり兵士達が混乱する事は間違いは御座いませぬ。」


 鈴木も工藤や吉田達の動きを日頃から見ており軍隊と言う組織は指揮命令は素晴らしいがその指揮系統さえ潰せば恐れる事は無い。


 だが今回は五千人の兵士だ一体何人の指揮官がおり、その中でも重要だと思われる数人の指揮官は何処に居るのか、其れは工藤さえ何人の指揮官が居るのかも分からないので有る。


 其れでも確実に言えるのは指揮官さえ殺せば残るは歩兵だけで有り、今の官軍の中に歩兵が指揮を執るだけの人物は果たして要るのだろうか。


 事実、菊池から山賀まで駐屯している中隊の中でも歩兵の殆どが駒で有り、自から考える事などはしない。


「鈴木殿、よ~く分かりました、其れで我々の配置ですが。」


「総司令の作戦で御座いますが。」


 鈴木は源三郎の考えた作戦を伝えると。


「では、我々は二又の先で横一線に並べば宜しいのでしょうか。」


「皆様、官軍の兵士は五千人ですが、数十問の大砲と砲弾、其れに五千丁近い連発銃の弾薬と大砲の火薬、これだけでも数百台の馬車が必要で、更に兵士達の食事を作る炊事班の馬車が数十台も必要で、先頭から最後まで一体どれ程の長さになるのか、私も全く見当が付かないのです。」


「工藤大佐でも分からないとなれば、我々弓隊も其れだけ長く並ぶ事に成るのでしょうか。」


「私は最低でも一里は続くと思います。」


 工藤も今まで経験が無いと言うので家臣達も考え始め、鈴木も一里以上も続く敵軍となれば家臣の配置を考えなければと頭を悩ませ、家臣と家臣の間隔をどれ程開ければ良いのか、だが其れよりも官軍が何時二又に来るのかさえも分からず要る。


 やはり、この様な時には源三郎が居なければ何も前に進まない、それ程にも源三郎は日頃から考えて要ると分かり、改めて源三郎の存在は大きいと、さすがの工藤も吉田も思うが、彼が源三郎に残れと言ったのが今更になり後悔する事に成るので有る。


「皆様、私は何時も総司令のお傍に居らせておりますが、総司令は私に作戦は簡単ですよ、最初に指揮官に狙いを定め、指揮官を殺せば残るは歩兵だけですからね、その様に申され私も作戦は簡単だと今の今まで考えておりましたが、総司令が簡単だと申されましたのは言葉だけで中味は考えれば考える以上困難を極めており、皆様方、誠に申し訳御座いませぬ。」


 鈴木は五百人の武士達に頭を下げた。


「鈴木様、何故で御座いますか、ご貴殿が謝れる事は御座いません。

  私も総司令から同じ事を申されれば簡単だと考えますよ。」


「高野様、私は総司令がこの戦に向かわれると申されました時、総司令は残り連合国の事だけを考えて頂きたいと申し上げました。」


 「鈴木様、私でも同じ事を申し上げますよ、我々の代わりは有りますが、総司令の代わりは御座いませぬと。」


「阿波野様、申し訳御座いません。」


「いゃ~、なにも鈴木殿が謝る事は無いと思います。

 私達で有れば鈴木殿の様に説明は出来ませぬ、ですが其れにしても総司令と言うお方はどの様な作戦を考えておられるのでしょうか、簡単だと申されておられますが、実は簡単では無く非常に困難な作戦では御座いませぬか。」


 彼らも少しづつ分かり出したのかも知れない。


「高野司令、私が総司令に頭を下げ詳しくお聞きして参りましょうか。」


「吉田さん、其れは駄目ですよ、その様な事を聴けば、我々が総司令から申されておられる内容が理解出来ないと、それ程までに我々には能力が無いと、その様になれば今後、我々には話して頂く事が出来なくなりますよ。」


 工藤は源三郎の事だ今後は別人に伝えるだろうと、だが果たして源三郎とはその様に別人に話しを伝えるのだろうか、確かに、源三郎は漁民に対する時にはこれ程までかと思う程優しく、農民や漁民が理解出来る様にと噛み砕いた説明をするが、相手が侍ともなれば別で余り詳しくは説明せずに、其れがまた間違いの元となるのだが、侍とは全てを話さずとも理解するだろうと考えて要る。


 だが現実は源三郎の話が余りにも突飛な為に彼らは理解するのは無理なので有る。


「工藤大佐、其れで今官軍はどの辺りまで来ているのでしょうか。」


「今、偵察隊を向かわせて調べておりますので。」


 其の時、突然。


「パン、パン。」


 と、銃声が聞こえた。


「今のは若しや。」


「いいえ、今の銃声は火縄銃の音で我々や官軍が持つ連発銃の音では有りませんので、多分山に入った猟師が獲物に撃ったと思います。」


 阿波野も火縄銃の音だと聴き少し安心したが、其れが大間違いで有った。


「雪乃殿、明日の朝、私は菊池に参りますので。」


「左様で御座いますか、ですが何卒お身体には十分にお気を付けて下さいませ。」


「はい、承知致しました。」


 雪乃は源三郎の顔を見て安心した、やはり源三郎と言う人物は今回の様な重要な問題に対しては他人任せに出来ないと、其れが源三郎と言う人物で何も他の者が信頼出来ないと言うのではなく、自らの目と頭で確かめたいだけで有る。


「皆様、申し訳御座いませんが、私は今からもう一度総司令が申されました内容を考えたく思うのですが。」


「鈴木殿、余り深刻に考えずに、総司令の申された通りに簡単に考えては如何でしょうか。」

 

「斉藤様、誠に有難う御座います。

  ですが私の理解不足で皆様方に詳しく説明が出来ず恥ずかしい限りで御座います。」


 鈴木は高野達に深々と頭を下げ、菊池のお城に有る高野の執務室へと消えた。


「皆様方も余り鈴木様を責めないで頂きたいのです。

  私達も今から執務室に戻り考え直しますので、失礼ながら一度解散致します。」


 五百人近くの家臣達はその後お城の中に入って行く。


 明くる日の早朝。


「雪乃殿、では行って参ります。」


「源三郎様、お気を付けて下さいませ。」


 源三郎は馬を菊池へと走らせた。


「雪乃。」


「叔父上様。」


「雪乃、源三郎の事じゃ、何も心配するで無いぞ、だがその様に申しても無理だが、源三郎と言う男はあの様な男なのじゃ、まぁ~仕方有るまいのぉ~、雪乃はその様な男に惚れたのじゃから。」


「叔父上様、私も普段なれば何も心配してはおりませぬ、ですがやはり。」


「余も分かっておる、余も今は眠れぬのじゃ、野洲もじゃが他の国も戦というものを経験したのが遥か大昔の事で、其れも書き物で残って要るだけで、今は何れの国でも戦の方法を知らないのじゃ。」


「叔父上様、源三郎様は戦の方法をご存知なので御座いましょうか。」


「う~ん、其れは何とも言えぬ、だが源三郎の事じゃ、余もじゃが他の者達が全く考えてもいない方法を考えておると、余は思っておるのじゃ。」


「私も源三郎様の事で御座いますので、秘策でも考えてはおられると思うので御座いますが、其れにしましても今回は余りにも敵軍の数が多く、奇策が無ければ源三郎様が勝つ事は難しいのでは無いかと考えて要るので御座います。」

 

 源三郎は一体どの様な策を考えて要るのだろうか、官軍は五千の兵と十数問の大砲を装備し、今正に連合国の入り口、其れは菊池の隧道へと近付いている。


「雪乃、今度の戦はもう止める事は出来ぬ、だが問題はこれで連合国の存在が明るみに出ると言う事なのじゃ、例え戦に勝利したとしてもじゃ、官軍兵が一人でも生き残り司令部とやらに知らせれば今回の様な五千人の兵では無く、更に大勢の兵力と大砲も数百問以上で攻撃する可能性が有るのじゃ、源三郎が野洲に戻ったその日から奴の事じゃ、洞窟や潜水船の事は他の者に任せ、部屋に籠り考える日が続くと思うのじゃ。

 雪乃、余では源三郎の気持ちを癒す事は出来ぬ、源三郎が一番必要としておるのは雪乃じゃ、源三郎の事を宜しく頼むぞ。」

 

 お殿様も分かって要る、確かに今までは連合国を知る者はおらず、其れが今は例え官軍との戦に勝利しても一人の兵士が生き残り司令部、いや近くには他の官軍の部隊も要るだろう、その部隊に知られては連合国は遅かれ早かれ官軍の大部隊によって攻められ全滅若しくは殿様を始め、家臣の全員と駐屯する工藤達連合国軍は全滅させるのは間違いは無い。


 それ程にも今回の戦はどの様な卑怯な手段を使ったとしても絶対に勝利しなければならない。


 だが大問題は勝利した後の事で、例え人道に恥じる行為だと非難されようと五千人の官軍兵を一人たりとも生かして帰らせる訳には行かない。


「お~い、誰か馬を飛ばして来るぞ~。」


 まだ早朝で農民や漁民以外の人達は眠りから覚めずにいる。


「え~、一体誰なんだ、こんなに朝早くから馬を。」


「皆さ~ん、私ですよ、源三郎ですよ。」


「えっ、源三郎様って、正か、わぁ~大変だ。」


「本当ですよ、朝早くから申し訳有りませんが高野様に取り次いで頂きたいのですが。」


「はい、直ぐに。」


 大手門の門番は大慌てで高野を呼びに行った。


「お~い、誰か源三郎様が来られましたぞ~。」


 門番の声は驚きの余り震えている。


「えっ、源三郎様がって、わぁ~大変だ、源三郎様が来られましたぞ~。」


 菊池の城内に居た家臣達は蜂の巣を突いた様な大騒ぎをしている。

 其れは正かと思っていた源三郎が突然、其れも早朝にやって来たからで有る。


「何ですと、総司令が来られと、其れは誠ですか。」


 工藤も驚くが、其れよりも安堵した方が大きく、昨夜は高野達も含め、夜の明ける近くまで考え論議しており、源三郎が来たと言う事で話は急展開すると考えたので有る。


 其れよりも、源三郎が菊池に来たと城中もだが駐屯している中隊にも、其れに吉田と一緒に来た一千名の兵士達にも、更に菊池の城下の人達にも瞬く間に伝わり、半時も経たないうちにお城近くには数えきれない程の人達が集まり騒ぎは収まるどころか大きくなるばかりで有る。


「お~い、源三郎様が来られたって本当なのか。」


「いゃ~、オレもさっき聞いたんで飛んで来たんだ。」


「お~い、源三郎様は一体何処に居られるんだ。」


 大手門前の外では領民達の騒ぎは収まらず更に激しさを増して来る。


「皆さ~ん、少し静かにして下さい。」


 源三郎が大手門前に現れると群衆の興奮は最高潮に達した。


「皆さ~ん、お願いですからね静かにして下さいね、其れで無ければ私は野洲に戻り二度と菊池には来ませんが其れでも宜しいのですか。」


 やはり源三郎の脅かしは有効で騒ぎは直ぐに収まった。


「皆さん有難う、では今からお話しをしますが静かに聴いて下さい。」


 源三郎は高い山の向こう側に五千人の官軍兵が連合国の入り口、其れは菊池の隧道から侵入し攻撃する可能性が有ると話した。


「ねぇ~源三郎様、何で官軍が来るって分かったんです。」


「まぁ~、其れはねぇ~私は千里眼だと言う事ですよ。」


「えっ、源三郎様って千里眼なんですか。」


 菊池の領民達は源三郎は千里眼の持ち主だと思って要る。


「はい、その通りですよ、ですからね、私は何でも知ってますよ、皆さんの事もね、まぁ~その話は別にしてですねぇ~、皆さんにお願いが有りましてね、其れは菊池に集まった侍と兵隊さん達に食事を。」


「源三郎様って何でも知ってるって言いますけど、お侍様と兵隊さんの食事は昨日からやってますよ。」


「そうでしたねぇ~、其れは申し訳有りませんねぇ~、私の千里眼でも全部が見えて無かったんですよ。」


「なぁ~んだ、源三郎様でも知らない事が有るんですか。」


 領民達は千里眼の源三郎でも知らない事が有ると知り大笑いになった。


「は~い、その通りでしてねぇ~、其れでね皆さんにお聞きしたいんですが昨日ですが山から鉄砲を撃つ音が聞こえませんでしたか。」


「あ~、有ったよ、其れが何か。」


「其れは何時頃で何発くらいの音でしたか。」


「う~ん、確か夕刻前に二発続けてだったと思うんだけどなぁ~。」


「其れだったらオレも聞いたよ、確かに二発でしたよ。」


「そうですか、其れを聴いて安心しましたよ。」


「ねぇ~源三郎様、何で安心なんですか。」


「あ~、あの鉄砲の音はねぇ~猟師さんの合図でしてねぇ~、敵軍が隧道の先に二又が有るのですがね、その二又に行くまではまだ二日以上は掛かると言う合図なんですよ。」


「えっ、じゃ~まだ心配する事は無いって話しなんですか。」


「その通りですよ、皆さん、今日も夕刻前に鉄砲の音が聞こえると思いますので、その時には菊池の人でも兵隊さんでも宜しいですから教えて頂きたいのですが宜しいでしょうか。」


「源三郎様、まぁ~オレ達に任せなよ、分かったら直ぐ知らせるからなぁ~、其れとお侍様と兵隊さんのご飯もだよ。」


「そうだよ、オレ達に任せてくれよ。」


「そうだ、そうだ、源三郎様、私達はねぇ~、源三郎様の為だったら何でもするからねぇ~。」


 大手門前に集まった領民達は大声で叫んで要る様にも見える、だが殆どが源三郎の為にだと言うのだ、それ程までにも源三郎の人気は凄いので有る。


「皆さん、本当に有り難い話しですねぇ~、皆さん、ご飯はおむすびとお漬物だけでも十分ですから。」


「よ~し分かった、じゃ~男達は今から薪木を集め、母ちゃん達も頼むぜ。」


「では、皆さん頼みましたよ、私は今から侍と兵隊さんにも話をしなければなりませんのでね、では皆さん申し訳有りませんが一度家に戻って頂きたいのです。」


「なぁ~みんな、源三郎様の頼みだ行こうぜ。」


「お~、行くぞ~。」


 菊池の領民達と野洲から駆け付けた領民達が侍と兵士達の食事作りの為一度解散し戻って行く。


「ご家中の方々、大変お待たせ致しました。

其れと連合軍の皆様方もご無理を申し上げ、源三郎、改めて御礼を申し上げます。」


 源三郎は菊池に集まった野洲、上田、松川の家臣と吉田が連れて来た一千名の新しい連合軍兵士に対し深々と頭を下げた。


「総司令、申し上げ御座いませぬ、私は昨日皆様方に説明させて頂いたのですが、私が総司令のお話しを理解出来ず皆様方には十分な説明が出来ませんでした。」


 鈴木は源三郎に頭を下げると。


「鈴木様、其れは違うと思うのですよ、全て私の説明が悪く、私の方こそ申し訳有りませんでした。

 では今から私が考えました作戦をお話し致しますが、実に簡単でしてねぇ~、官軍の兵士では無く指揮官に対しご家中の皆様が矢を放って頂ければ、まぁ~其れだけで宜しいのですよ。」


 菊池に集まった野洲、上田、松川の家臣達は鈴木の説明と同じだと思って要る。


「総司令、其れでは鈴木様が申されましたと同じでは御座いませぬか、他に何か御座いませぬか。」


「高野様、其れに皆様方、昨日の鈴木様の説明で間違いは有りませんよ。」


「えっ、ですが。」


 集まった家臣もだが兵士達も源三郎の説明に驚くよりも呆れている。


 其れは余りにも簡単な話しの為で、だが源三郎の話は其れだけでは無く、その話に誰もが驚くので有る。


「まぁ~まぁ~鈴木様、余り深刻に考えない事ですよ、弓隊の皆様方は二又のところに官軍の兵士が差し掛かった時にですが、官軍の指揮官だけを狙って矢を放って頂きたいのです。

 其れで合図ですが、工藤さん、兵士一人を、いや其れよりも中隊長が宜しいですねぇ~、中隊長は合図の為に先頭の指揮官を銃で撃って頂きたいのです。 

 弓隊の方々はその銃声が合図で一斉に指揮官だけに矢を放ち逃げて頂きたいのですが、宜しいでしょうか。」


「総司令、ですが官軍の兵士も反撃すると思うので御座いますが。」


「まぁ~其れは仕方が有りませんねぇ~、其れで吉田さんは兵士達には一斉射撃を命じて下さい。」


 工藤は源三郎の作戦と言うのが余りにも簡単過ぎ、何か有ると思って要る。


「総司令、敵軍は五千の大部隊ですが。」


「工藤さん、確かに敵軍は五千人ですが、指揮官が目の前で其れも連発銃で撃たれますれば敵軍の兵士も最初は反撃すると思います。


 ですが指揮官を殺した矢は一体何処から放たれたのか全く分からない状態ならば、兵士達は当たり構わず撃ちますがねぇ~、まぁ~敵が見えないので直ぐに収まりますよ。」


「ですが本当に直ぐ収まるでしょうか、私は我が軍にも相当な犠牲者が出ると覚悟は必要かと考えて要るのですが。」


「勿論でして、私は敵軍五千が一斉に反撃すれば犠牲者が全く出ないとは考えておりませんが、まぁ~後は私に任せて下さいね。」


「えっ、正か総司令が敵軍の前に出られるのでは御座いませぬか。」


「阿波野様、五千人の敵軍と申しましても全員が侍では有りませんよ、私はねぇ~官軍と言う組織ですが指揮官だけが侍で歩兵の殆どが農民さんや町民さんですからねぇ~、その人達が恐怖の余り鉄砲を撃ったところで私には命中しませんよ。」


 源三郎は官軍兵の撃つ弾には当たらないと確信でも有るのだろうか、何と言う大胆不敵な作戦を考えるのだ、官軍の指揮官だけを殺せば後の事は任せろとでも言うのだろうが、源三郎は一体何を考えて要る。


「皆さんも私が先程領民に聴きました様にこの数日間山から火縄銃を撃つ音が聞こえていたと思いますが、如何でしょうか。」


「昨日も二度聞こえましたが、先程の説明では猟師が敵軍の位置を知らせていたと申されましたが。」


「その通りでしてねぇ~、官軍が戻り橋を過ぎた時から猟師さん達の協力で官軍に位置は全て知っておりましたよ。」


 何とあの火縄銃の音は源三郎の手配で山の猟師達が官軍の位置を知らせる為で有ると。


「総司令、では先程申されました銃声は官軍が二又に着くまでの日数だと。」


「そうなんですよ、でもねぇ~私はもう少し早く進むと思っておりましたのでね、ですが二又に着く予定が二日間程遅くなり、そして、後二日も有れば着くだろうと言う事で猟師さんが二発撃ち知らせてくれたのです。」


「では、総司令、何故其処まで遅れているのでしょうか。」


「工藤さん、私は今日初めて連合国の入り口を出、外に出ましたが、向こう側に見える雑木林ですが一体何処から続いて要るのでしょうか。」  


 何と源三郎は菊池の隧道から外に出たと言うのだが其れを知る者は何処にもいない。


「雑木林ならば戻り橋を過ぎ、そうですねぇ~、一里も進めば川の両側から続いておりますが。」


「其れが原因だと思いますよ、官軍は五千人と言う大部隊ですから街道を進まなければならないのです。

 ですが其の前に小田切達は一千名の部下を、吉田さんも一千名の部下ですが、其れと工藤さんの時は別として少人数ならば官軍の敵で有る幕府軍に発見されない様に街道が見えるくらいの雑木林の中を進む事は出来ますが、若しもですよ大勢の幕府軍が街道を進んで来たと分かれば雑木林の中に潜み攻撃する事も可能ですが、五千人と言う大軍ともなれば簡単に雑木林の中を進む事は出来ず仕方無く街道を進む事に成るのですよ。」


「ですが、街道行くと言う事は其れだけ早く進めると思うのですが。」


 工藤もだが鈴木も阿波野達も同じで街道を進むと言うのは進軍する方角には何も無ければ人馬も自然と早く歩くと思って要る。


「工藤さん、何かを忘れておられませんか。」


「えっ、私が忘れ物で御座いますか、う~ん、一体何を忘れたんだろうか。」


 工藤も考えるが、あの駐屯地を出発し菊池に入るまでは何も忘れた物は無いはずだと。


「工藤さん、大砲ですよ、その大砲は何処に有ると思われますか。」


「あの大砲ならば戻り橋近くの川底の投げ捨てましたが、其れが何か。」


「その大砲が忘れ物でしてねぇ~、官軍は偵察隊を出しており、川底には大砲と砲弾が投げ捨てられている、其れは普通では考えられ無い話しでしてねぇ~、重い大砲と砲弾を捨てると言う事は残りは歩兵の持つ連発銃だけで身軽になった歩兵は何処を進めば発見されないと思われますか。」


「総司令、分かりました、雑木林の中ですねぇ~。」


「その通りですよ、鈴木様、其れが原因だと言えば。」


「私でも両側の雑木林の中を監視しながら進みますので自然と歩む速度も遅くなりますねぇ~。」


 源三郎は何も鈴木や工藤達だけに話をしているのではない。


 弓隊の家臣達は勿論だが一千名の兵士達にも分かる様に話しをしなければならないと考え、あえて噛み砕いて話をしている。


「総司令、官軍の司令官は工藤さん達や吉田さん達は連合国内では無く、まだ雑木林の中に潜んで要ると考えたのでしょうか。」


「斉藤様、全くその通りでしてねぇ~、官軍の司令部では高い山の向こう側は海だと考え、小田切を含め二千人以上の元官軍兵はこの雑木林の中の何処かに野営しているはずだ、其れを注意しながら進むのですから、まだ日数は掛かると思いますねぇ~。

 猟師さんは二日を見られておりますが、私は二日と半日、この半日が勝敗の鍵を握って要ると考えて要るのでます。」


「その半日と申されましたが、何故でしょうか。」


 源三郎は何故半日と言うのだろうか、工藤達の読みと、源三郎の読みには半日のずれが有り、その半日も有れば五百の弓隊と一千名の兵士を配置するにも変化が生じると工藤は考えた。


「工藤さん、軍隊と言うのは偵察隊を出し付近の状況を、特に街道が分かれているならば付近も調べると思うのですが如何でしょうか。」


 其れは勿論の事で、偵察隊は雑木林の中も調べますが、其れよりも進む方向の安全を確かめるのが重要でして、特に街道が分かれているとなれば本道はどちらなのか調べ無ければなりませんので、ですが総司令、あの二又は右が本道で直進すれば菊池の隧道ですが。」


「では、工藤さんは小田切達を直接菊池の隧道へと連れて来られたのでしょうか。」


「総司令、私はあの時何故だか分かりませんが何か不審なものを感じましたので一度右側の本道へ進み一里程行くと突然左右が野原となりましたので歩兵も馬車も散らし、ゆっくりと左側へと進みました。」


「工藤さん、其れなんですよ、何故官軍は早く進まないのかと申しますとね、小田切達が一緒に来た馬車の轍ですよ、私はねぇ~工藤さんの事ですから馬車を先頭に歩兵をその後から行かせたと思いますが如何でしょうか。」


「全くその通りで、馬車が後ならば轍の跡は新しく、何時頃通過したのか分かりますが、馬車を先に行かせその後歩を兵が進みますと、轍の跡は残りますが溝も浅くなり正確な事は分かりませんので。」


「其れですよ、その浅い溝が官軍指揮官達の考えを鈍らせて要るのです。」


「ですが、其れだけで果たして歩兵が雑木林の中に潜んで要るとは断定は出来ないと思うのですが。」


「全くその通りでしてねぇ~、官軍の司令官も指揮官達も断定出来ないと言う事が余計に進軍の速度を遅らせて要るのです。

 まぁ~官軍にすれば轍の跡は古いと考えたのでしょうかねぇ~、其れともこの後は小田切達が付けた囮では無

いのか、若しも囮の轍ならば必ず雑木林の中に潜んで要ると。」


「では、大砲と砲弾を捨てた事も囮だと思って要るのでしょうか。」


「ええ、多分ですが、工藤さんは大砲と砲弾を捨て部隊の先頭に馬車を行かせ、その後から歩兵が進み轍の跡を残した事が余計に判断を鈍らせていると思いますよ、彼らは今予測不能な状態に持ち込まれ左右の雑木林だけを監視するだけで、山賀から続く高い山には全くと言って良い程にも無関心に近く、高い山には狼の大群が生息しているとはまぁ~夢にも思わなかったのが官軍の命取りになるのかも知れません。」


「総司令、では作戦としましては簡単に申されました様に弓隊は官軍の指揮官だけを狙うので有れば具体的な配置ですが。」


「工藤さん、お聞きしたいのですが、官軍では部隊が進軍する時の配置を教えて頂きたいのですが。」


「はい、では申し上げます。

 部隊の先頭には必ず中尉が付き進めると決まっております。

 其れと官軍では少尉以上は全員が馬に乗っておりますので、其れからですが。」


 工藤はその後家臣達にも理解出来る様にと詳しく説明した。


「では小隊の先頭には小隊長が付き、その後ろから歩兵が進むのですね。」


「はい、その通りでして、其れと私の知る限りでは二個中隊か三個中隊の後方に大砲を引く馬と砲弾と火薬を積んだ馬車、そして、又一個中隊が続きますが、その後方直ぐに部隊の最高指揮官が馬に乗っており、その後方は。」


 その後、工藤は知る限りの部隊編成を説明し、家臣達は工藤の説明に時々頷き、有る者は何かを呟き。


 その時、偵察隊が戻って来た。


「あっ総司令では、只今偵察から戻りました。」


「ご苦労様です。

 総司令もお越しになられておられますので弓隊の方々にも分かる様に報告して下さい。」


「はい、承知致しました。」


 その後、偵察隊の隊長が官軍の部隊編成と現在地、更に進軍状況を詳しく報告した。


「やはり、総司令の申されました通りですねぇ~。」


 阿波野は呆れて要る。


 官軍の部隊は雑木林の中に大部隊が潜んで要るかも知れないと注視しなが進軍進んでおり、猟師が後二日で二又に着くと予想し二発の合図を送ったが、源三郎の言った半日、これがどうやら正解の様だ、更に、部隊編成も工藤の説明した通りで、ただ人数の多少が有るだけで大差は無かった。


「では官軍の部隊は一里程の長さになり、馬車は五町も続いて要るのですね。」


「はい、正しくその通りで御座います。

 総司令、何故だか分かりませぬが恐ろしい程にゆっくりと進んでおりました。」


「其れと、これは非常に大事な事ですが雑木林の中に狼の大群は潜んでおりましたでしょうか。」


「いいえ、其れは御座いませんでした、私達は一頭も確認しておりません。

 多分、私達もですが官軍の部隊よりも狼の大群に発見され、何時大群の教われるかも知れないと、総司令、私も部下達もこの恐怖感で全身が凍り付いておりました。」

 

「そうだと思いますよ、隊長、大変助かりましたよ、有難う御座いました。

 工藤さん、高野様、阿波野様、斉藤様、そして、弓隊の皆様方今から配置を決めさせて頂きますので。」


 源三郎が配置の説明に入ると、家臣達は身を乗り出す様に聞いて要る。


「以上ですが、弓隊の皆様方の後方には連合軍兵士が控えておりますのでご心配は御座いません。

 では次に連合軍兵士の配置を申し上げますが、まず歩兵の方々は弓隊の一人対し二人が付いて下さい。

 それと中隊隊長、小隊長の方々は指揮官を特定して頂きたいのです。

 その訳ですが弓隊の侍にどの指揮官に矢を放てば良いのかご指示をお願い致します。

 其れとですが、この部隊の中で射撃の上手なお方は居られるでしょうか。」


 源三郎は最初に発砲する兵は合図もだが先頭を進む将校を狙い撃ちと言うよりも確実に射殺する兵士で無ければならないと、射撃の下手な小隊長や中隊隊長達では困ると考えていた。


「総司令、射撃の上手な者ですが誰でも宜しいでしょうか。」


 「勿論ですよ、私も最初は小隊長か中隊隊長にお願いすれば良いと考えたのですが、中隊隊長達には申し訳有りませんが、私は先頭を行く指揮官を確実に射殺しなければ何の意味も無いと思いましたので。」


「はい、承知致しました。

 では今総司令が申されましたが誰でも良いので確実に狙撃出来るので有れば問題は有りませんので、我と思う人は名乗りを上げて頂きたいのです。」


 この部隊の中隊隊長達や小隊長達は射撃には余り自信がないのだろうか、だが暫くして。


「あの~。」

 と、一人の兵士が手を挙げた。


「貴方ですか、どうぞ前に来て下さい。」


 兵士は源三郎の前に歩み出て。


「あの~、オラは元猟師でして。」


「猟師さんですか、其れは大変心強いですねぇ~、其れで射撃には自信が有ると言われるのですね。」


「はい、オラが使ってたのは爺様が使ってた火縄銃でして、山で猪や鹿を獲ってました。」


「そうですか、其れは何と素晴らしいお話しですねぇ~。」


「有難う御座います。

  其れで、官軍はオラの腕前を見込んで何時も幕府軍との戦闘の時は大将を狙って撃ちました。」


「では、全部仕留められておられたのですか。」


「はい、その通りで、獣を殺すよりも幕府軍の大将の方が簡単でした。」


「へぇ~なるほどねぇ~、其れでその距離ですが。」


「はい、人間でしたら、う~ん、一町は無理ですが、半町以下だったら出来ると思います。

  猪や鹿だったら一町先にいても確実に殺す事も出来るんですが。」


「ほ~何と素晴らしいお話しでしょうか、まぁ~貴方の腕前ならば一町先の指揮官を仕留めるのも簡単だと思いますが、其れでは弓隊の皆様が狙い撃ち出来ませんので、出来る限り近くに来るまで辛抱して頂きたいのですが。」


「其れだったら半町ではどうでしょうか、その距離だったら額に命中出来ると思いますので。」


「えっ、額をですか、何と素晴らしいお話しでしょうか、弓隊の皆様方は如何でしょうか、先頭の指揮官をこの猟師さんが半町の距離で頭を撃ち抜くと申されておられますが、其れで有れば弓隊の皆様方も十分に狙いは定まると思うのですが如何でしょうか。」


 弓隊の家臣達も頷いて要る。


「では猟師さん、貴方にお任せ致しますのでね、宜しくお願い致します。」


 源三郎は何時もの様に猟師に頭を下げた。


「えっ、源三郎様、オラに任せるって、だったら誰が命令するんですか。」


「勿論。猟師さん貴方ですよ。」


「そんなのって、源三郎様、オラは元は猟師で小隊長や。」


「いいえ、貴男は何も心配される事はありませんよ、貴男は官軍の指揮官だけを仕留めて下されば宜しいのでね、其れが合図で弓隊の家臣達が一斉に矢を放ちますので。」


 猟師もだが兵士達も大変な驚き様で、其れは今までは小隊長か中隊隊長の命令で幕府軍を攻撃した。


 其れが正か猟師の判断に任せる言うので有る、これが正に源三郎流なのだ、例え相手が猟師で有ろうと部隊の中で確実に指揮官だけを射殺出来なければ他の指揮官に矢を放つ事は出来ず、其れは正に一人の猟師には大変な重責だろう、だが今は猟師の腕前を信用するしか無く、其れが全てを握って要ると言っても過言では無い。


「猟師さん、私はねぇ~、これがまた射撃が下手でしてねぇ~、まぁ~半町先の的に今まで一度も命中した事が有りませんのでね、ですが猟師さんならば私も大助かりですので何卒引き受けて頂きたいのです、この通で、お願いしますよ。」


 工藤も源三郎流に慣れて来たのか、工藤は大佐で、その大佐が一人の元猟師と言う兵士に頭を下げるので有る。


「大佐様、頭を上げて下さい。

  オラは歩兵ですよ、其れも新米の。」


「いいえ、貴男は猟師さんと言う大事なお仕事をされておられ、私の様な者が及ぶ様なお方では有りませんのでね。」


 新しく連合軍に加わった部隊の兵士達も驚いて要る。


 其れは余りにも落差が激しく、今の連合国軍に加わるまでは命令されており、其れが今は大佐と言う人物が一人の兵士に頭を下げて要る姿を見て、やはり連合国に来て良かったと思うので有る。


「そして、最後に鈴木様ですが、官軍の司令官を仕留めて頂きたいのです。」

 

 ですが、総司令、私は司令官が誰なのかも分からないのですが。」


「まぁ~其れも当然だと思いますので、工藤さんは鈴木様の傍で官軍の司令官を教えて頂きたいのです。」


「総司令、了解致しました。」


 工藤も今までは命令を出す方だったが、今回は一人の兵士に戻り、鈴木に官軍の司令官を知らせると言う重要な役目を受けたので有る。


「では、皆様方、他に何も御座いませんでしょうか。」


「総司令、私は改めて、総司令が申されました作戦は簡単だと、其れが今要約意味が理解出来ました。」


「鈴木様、其れに皆様方、私ねぇ~余り複雑には考えてはおりませんので、弓隊の家臣は官軍の指揮官だけを狙い撃ち指揮官が倒れたならば直ぐ逃げる、歩兵の方々は官軍の一斉射撃が終わるまで全員が身を屈めて待ち、官軍兵が弾薬の補充に入った時一斉に立ち上がり狙いだけを定めて下さい。

 まぁ~後は私に任せて頂ければ宜しいのですが、其れでも反撃により仲間の多くが犠牲になると覚悟しなければならないと思いますがね、でも私の考えた作戦が成功すれば仲間の中からは一人の犠牲者も出さずにこの戦は終わると思っております。

 ですが、私が一番恐れておりますのは狼の大群が何時襲って来るのか其れが分からないと言う事でしてね、これは、誠に申し上げにくいのですが、皆様方の中で官軍からの反撃で銃弾を受け自分で戻る事が出来ないと判断された時には近くの仲間に安楽死をさせて欲しいと伝えて頂きたいのです。」


「総司令、今安楽死をして欲しいと申されましたが、其れでは仲間を殺せと申されるのでしょうか。」


 弓隊の家臣達も歩兵の兵士達も源三郎が安楽死をさせてくれと言うので驚くよりも余りにも衝撃的な発言に唖然としている。


「はい、その通りでしてね、隧道の入り口に一刻でも早く着かなければ狼の餌食になりますよ、其れは恐ろしい程の苦痛で直ぐには死ねず、私も判断には困ったのですが、銃で安楽死すれば狼に襲われる恐怖も知らず戦死出来ると考えたのです。

 皆様方、私の勝手な発言に対しお叱りを受けると覚悟はしておりますが、その方々は狼に襲われたのでは無く戦に置いて戦死されたと考えたいのです。」


 源三郎の話しには誰からも異論は出ず。


「源三郎様、オラも戦死した事にして欲しいんですよ、其れだったら天国に居る母ちゃん達や子供達にも自慢が出来ますので。」


「うん、オラもだよ、オラは今まで官軍がオラ達の事を本当に考えてるって思ってたんだ、だけど今のお話しで源三郎様がオラ達の事を本当に考えるって分かったんだ、だからオラはもう戦死も恐ろしくは無くなったよ、今度の戦はオラ達の為に絶対に勝つんだ、オラは戦死しても悲しい事は無いよ。」


「そうだなぁ~、オラは源三郎様の為に戦死する事も平気になったよ。」


 兵士達の話は重く聞こえるが其れが家臣達と一枚岩へとさせて行くので有る。


 だが、源三郎も果たしてこの戦に勝つ事が出来るのか其れだけは予想も出来ずに官軍との決戦の時が刻一刻と迫って来るので有る。


             


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