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闇の帝国    作者: 大和 武
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 第 7 話。 予想外の大事件なのか。

「中隊長さん、オレ達はこの山で向こう側から登れる事が出来る所なんだけど五ケ所有るのを知ってるん

ですが、其の中でも一か所だけ以外と登りやすい所が有るんです。


 其れでオレが其の途中で見張りしたいんですがいいですか。」


「やはりですか、私も其の場所から多く登って来ると考えられますねぇ~。」


「そうなんですよ、でその道と言うのは細いんですが向こう側の猟師さんも登って来るんです。」


「ですが狼が多いのではないのですか。」


「まぁ~狼も住んでるんですが、其れよりもこの付近には猪が大群で、其れと大鹿ですねぇ~、まぁ~山

賀に有る猟師道の中でも其処が一番安全で、戦が始まる前には旅人がその猟師道から山賀に入って来てたんですよ。」


「では其処には二個小隊を配置すれば宜しいですか。」


「はい、其れに四番目と五番目の猟師道は殆ど使って無いんで熊笹が物凄いんで、其れにその付近からは

猪よりも狼が多くなるんです。」


 どうやら山賀の山では狼と猪がお互いの縄張りが有り、その為猿軍団は一番から三番の猟師道、其れが

山向こう側から登って来ても比較的安全だと、だが絶対狼は来ないと言うのでは無い。


「では其の三か所だけでも宜しいのですか。」


「オレは其れで十分だと思います。

 若しも四番目と五番目から登って来ても頂上には着けないですから。」


「分かりました、では我々は其の三か所だけに集中配置しますので。」


「其れと合図ですが、オレ達は猿の鳴き声が出来ますので、其れを合図にしたいんですが。」


「私も其れで良いと思いますよ。」


「其れと兵達さんに待ってもらう所はオレ達が案内しますので。」


「勿論お任せしますよ、私は其れで良いと思いますので。」


「若様、其れで登って来たらどうすればいいんですか。」


「う~ん、大変困りましたねぇ~。」


「若、余り深刻になる必要は有りませんよ、中隊長、相手が手向かうならば反撃しても宜しいかと、です

が刃向かわず投降して来る者ですねぇ~。」


「問題は元幕府の敗残兵ですが、何か良い方法は無いのでしょうか、下手に入れる事も出来ず、かと言っ

て幕府の武士だ全員殺せとも言えませんからねぇ~。」


「若様、幕府軍でも官軍でも下手に殺せないんですよ、だって血の臭いで狼が来ますから。」


「そうか反撃するのも難しいのか、では向こう側の中腹で陣と構えると言うのは。」


「若様、そんな事したら兵達さんが危ないですよ、オレ達は簡単に木に登れますが、兵隊さんは鉄砲を

持ってますからねぇ~。」


「う~ん、本当に困りましたねぇ~。」


 若様、松之介も吉永も簡単に考えており、たが旧幕府軍や官軍が登って来る、猿軍団が言った様に仮に攻撃され反撃し敵軍の死者が血を流せば狼が来る、その様になれば連合軍の兵士も狼の大群に襲われ犠牲者が出る可能性も有り、かと言って、はいどうぞ入って下さいとは言えず、一体どの様に対処すれば良いのだと若様は苦悩の連続で有る。


「若様、私は一つの方法として登って来た者達は全て受け入れ、但し我々の連合国を知られたのですから二度と向こう側に帰る事は出来ないと説明しては如何でしょうか。」


「ですが其れでも向こう側に帰ると言う者がおれば如何されますか。」


「無理にでも帰ると言うので有れば、別の所に連れて行き此処には狼の大群が潜んで要ると話し、其れと武器は取り上げますので。」


「では四番目か五番目に連れて行くのですか。」


「若様、我々の連合国を知られたので有れば、其れも仕方無いと思います。


 其れが官軍の兵士ならば後日大軍を引き連れて登って来ると思いますが。」


「中隊長さん、其れだったら元来た道を帰した方がオレ達も兵隊さんも安全ですよ、其れに若しも大軍

で来た時には先頭の数人でも鉄砲で撃てば狼は血の臭いで直ぐ大群で襲って来ますから、其れにこの山に

は大軍で登る事は狼の餌食になると言う事になりますから、其れだけを言っても十分だと思います。」


「分かりました、では其の方法で行きましょう。」


「中隊長、其れと子供を連れて来た女性が登って来た時には事情を聴いて上げて下さい。」


「若様、では避難民ならば武家も町民も関係無くと申されるので御座いますか。」


「中隊長、ですが一応説明だけはお願いします、後は城下に入れば我々が詳しく説明しますので。」


 若様も正か子供連れで登って来る人達はいないだろうと考えて要る。


「では我々がお城まで案内すれば宜しいのですね。」


「まぁ~中隊長、私はねぇ~この山に登って来る者などは殆どいないと思っております。

 仮に登って来たとしても幕府の敗残兵が数名と其の敗残兵を追撃する官軍兵だけで十人も登って来る事

は無いと考えておりますので。」


 吉永は楽観的に考えており、其れと言うのも山賀の山は連合国の中でも比較的登りやすいと、其れは山

賀の人達だけが思うだけで、他国の者達から見れば高く聳え、急な斜面を果たして子供連れの女性が登る

事が出来るのだろうか、但し官軍の追撃と受け必死に逃げる幕府の敗残兵は別としてで有る。


「確かに吉永様の申される通りだと思いますねぇ~、山に慣れて要る猟師さんでも向こう側から登るのは

大変だと言われておられましたから、中隊長も余り無理をされずにお願いしますね。」


「其れでも幕府の敗残兵と官軍だけはどんな事が有っても絶対に通しませんので。」


 中隊長は山賀の山を越えて来る幕府軍と官軍兵だけは一人も通さないと決意を新たにした。


 一方で。


「なぁ~オラは後藤さんの仕事を手伝って行こうと思うんだ。」


「だけどどんな仕事なのか知ってるのか。」


「そんな事オラが知ってる訳が無いよ、だけど後藤さんってオラ達の中隊に居られたお侍様なんだよ、

オラは同じ仲間だから手伝いたいんだ、其れに源三郎様はオラ達農民の為に田畑を大きくするんだって、

オラはどんな仕事か分からないけど手伝いが出来るんだったらお願いしようと思うんだ。」


「そうだなぁ~、オラも鉄砲よりも畑で鍬を使ってる方が気持ちが落ち着くしなぁ~。」


「オラもだ、何もしないでいるよりも、何でもいいから仕事をしたいよ。」


「よ~しオラは行くぞ、みんなはどうするんだ。」


「よ~しオラも行くよ、早く畑で仕事が出来る様にしたいんだ。」


「じゃ~行くぞ。」


「お~。」


 中隊の兵士達がお城に向かった。


「後藤さん、先程申されましたが、農業用水の確保をしなければならないと申されましたが、一体どの様

にされるのですか。」


「其の前に土地の測量が必要で、簡単に測量と申しましたが大勢の人達と道具も必要で御座います。」


「土地の測量と申されましたが、何を測るのですか。」


「其れは川の流れから何処に池を作るのか、その為には最低でも一町以上の長さが有る縄と書き物、其れ

に杭が、ですが一体何本の杭が必要になるのかも分かりませんが、菊池から始め山賀まで測量しなければなませんので。」


 後藤は治水の専門家だが連合国に必要なのは大小数百カ所の池と数千カ所の井戸、更に川の流れを変え

る事も必要になるやも知れないので有る。


「後藤さん、その測量と言うのは大切な事なのでしょうか。」


「何も考えずに田や畑を作れば、農業用水の不足を招き、其れが原因で不作になる事も有り得るのです。

 最初に日数を掛けても測量し、何処に池を掘れば良いのか、其れに井戸も数千カ所も掘らなければなり

ませんので。」


「池や井戸を掘るとなれば今の田や畑が池になる事も有るのですか。」


「勿論其れも有り得ます。」


「では山の麓で狼の侵入防止の柵ですが一度止めなければなりませんか。」


「いいえ、其れは関係御座いませんが、山の麓から湧き出て要る所と小川の様になっている所も書き出し

絵図を作ります。」


 源三郎も高野も考え無かった、だが農地を拡大し食糧増産しなければ領民は苦しむ事に成り、最後には連合国は崩壊する可能性も考えられる。

  高い山からは絶えず湧き水と小川が流れており、今までは小川も湧き水の利用も考えず雨水だけに頼り、其れが原因なのかも知れない。


「あの~源三郎様にお会いしたいんですが。」


「源三郎様なら入った建物に居られるが、こんな大勢は入れませんよ、まぁ~四~五人ならば宜しいと思

いますが。」


「吉三、お前が行けよ。」


「オラはいいけど、後はどうするんだ。」


「そうだなぁ~、オラ達の中隊は五つの小隊だから各隊から一人づつでいいと思うんだ。」


「よ~しじゃ~適当に選んでくれ。」


 中隊は五個小隊で其の中から各小隊より一名づつを選び。


「丁度、五人になりましたけど、宜しいですか。」


「では入って直ぐ左に建物が有りますからね、ほらあの建物ですよ。」


「はい、有難う御座います。」


 吉三が先頭に大手門を潜り、左に有る建物へと向かった。


「後藤さん、では貴方にその測量調査をお願いしたいのですが、人手が必要ですねぇ~。」


「あの~源三郎様は。」


「私ですが、何かご用でも。」


「はい、オラは吉三と言いまして、後藤さんは同じ中隊お仲間でして、オラ達は何かお手伝いが出来た

らって思ったんです。」


「そうですか、後藤さん、良かったですねぇ~、吉三さんと申されましたが、何人程お手伝いして頂ける

のですか。」


「はい、オラ達中隊の全員ですが、やっぱり駄目で御座いますか。」


「いいえ、其の様な事は、吉三さん、では全員なのですか。」


「オラは後藤さんが同じ中隊の仲間でして、でもどんな仕事になるのか知らないんです。

 でもオラは源三郎様がオラ達の為に作るって言われたんで。」


「そうですか、では皆さんが後藤さんのお手伝いにでは人手も十分ですねぇ~。」


「私も本当に嬉しいですよ、 みんなが私を仲間だと言ってくれましたので、其れに中隊の全員に手伝って頂けるとは考えもしておりませんでしたので。」


「じゃ~オラ達は。」


「勿論ですよ、皆さんのご協力には私は感謝致します。」


「吉三、オラみんなに言ってくるよ。」


「うん、頼んだよ。」


「高野様、縄は有りますでしょうか。」


「十分有りますので、其れと書き物も用意しますので、後藤さん、他に必要な物は有りませんか。」


「では大きな木槌は有るでしょうか。」


「有りますが、何に使われるのですか。」


「縄は一町ですが、目印に杭を打ち込みますので、其れと先程申されておられました柵作りですが、大工

さんに申し訳有りませんが、杭を作って頂きたいのですが宜しいでしょうか。」


「あの~オラ達の大隊にも大工が何人か居ると思うんですが其の人達では駄目でしょうか。」


「いいえ、むしろ大助かりですよ、では吉三さん、戻られましたら大工さんの経験の有るお方を探して下

さい。」


「はい、分かりました、後藤さん、でも其の杭って一体何本作ればいいんですか。」


「吉三さん、今は何本必要か分かりませんので当分必要なのは百、いや二百本ですねぇ~。」


「えっ、二百本もですか、其れで杭ですが。」


「そうですねぇ~、太さが一寸五分で、長さが二尺も有れば十分だと思いますので。」


「高野様、縄をお持ちしましたが、これで宜しいでしょうか。」


 彼は高野の手足となって要る菊池の家臣で縄が必要だと聴き、荷車に大量に乗せて来た。


「後藤さん、これで如何でしょうか。」


「勿論十分で御座います。

 吉三さん、縄を持ち帰り二十尺で結び目を作って欲しいんです。」


「二十尺で結ぶんですか、じゃ~端も結んで置いた方がいいですね。」


 吉三は農夫だが意外と機転が効く、後藤にすれば属していた中隊の仲間が手伝うと、これ程有り難い事

は無い。

 其れに吉三が先頭になり中隊のみんなを纏めてくれて要ると。


「じゃ~今から作りますんで、あっそうだ縄を二十尺って言われましたが、何か測る物が有れば。」


「そうでしたね、直ぐに用意しますので。」


「測る物も一緒に荷車に乗せて有りますので。」


 吉三と数人の農夫、いや元官軍兵達は笑顔で荷車を引き大手門を出仲間の所へと向かった。


「後藤さん、良かったですねぇ~。」


「私も同じ中隊の仲間が手伝ってくれますので大助かりで御座います。

 其れでは早速取り掛かりたいのですが不都合な事が有れば。」


「後藤さん、何か必要な物が有れば何時でも申し出て下さいね。」


「有難う御座います。

 実は私も今まで有りました不安の様なものが無くなり、私は源三郎様のお陰で生き返る事が出来る様な

気持ちで御座います。」


「後藤さん、其れは反対ですよ、私は狼の侵入防止の柵さえ完成すれば田畑は直ぐに作れるものと思って

おりましたので、私は反対に感謝しております。」


「源三郎様、高野様、私の知識がどれ程お役に立つのかも分かりませんが一生懸命させて頂きますのでこ

れから先も何卒宜しくお願い致します。」


「後藤さん、私は何も知りませんので、後藤さんの考えた方法で行なって下さい。」


「はい、承知致しました。

 其れでは私は皆の所に戻り明日からの準備に入りますので失礼致します。」


「左様ですか、其れと書き物ですが後程お持ちしますので。」


 後藤は源三郎と高野に深々を礼をし戻って行った。


「高野様、私は今回は全くの予想外でしてね、正か治水の専門家がおられるとは考えもしておりませんで

した。」


「私もです、私は何故作物の収穫が多くならないのか分かりませんでしたが、でもその原因の一つに農業用水だとは考えもしておりませんでした。


 これからは我々も農業用水を確保する事も考えねばならないですねぇ~。」


「治水工事が終わりましても後藤さんには治水に関する仕事に就いて頂ければ考えて要るのですが。」


「総司令、私も大賛成で御座います。


 其れと先程の吉三さん達も宜しければお願いしたいですねぇ~。」


「全くその通りで、元は農民さんでも私は別に良いと思うんですよ、まぁ~其れよりも後藤さん達のされ

る仕事を楽しみにしているのですが、柵作りを止める事も無く調査が行えるのが良かったと思います。」


「其れで、私は後藤さんの調査に同行して田畑や池、其れと井戸掘りに掛かれるので有れば工事に入りた

いのですが。」


「其れはお任せしますよ、私も一度野洲に戻り、殿とご家老に報告せねばなりませんので。」


「私も後程殿とご家老に説明したいと考えております。」


 一方で。


「後藤さん、縄で何をするんですか。」


「吉三さん、縄と言うのは非常に便利な物でしてね、荷物を括るにも使えるのですが、今は長さを調べる

にも杭打ちの場所を決めるにも役立つのですよ、其れで一本の縄ですが二十尺ごとに目印で結び目を作っ

て欲しいんです。」


「結び目ですか、でもどんな結び目なんですか。」


「其れと二十尺と言うのは杭を打つ為の印できっちりと二十尺で無くても宜しいんですよ。」


「其れで一本だけでいいんですか。」


「そうですねぇ~、池を作るには一町では短いので三町が二本くらい要りますので。」


「じゃ~今から作ります。」


「吉三さん、部隊に大工さんがおられると助かるのですが。」


「じゃ~オラが今から聴いてきますが何人くらいで。」


「何人でも宜しいですよ、杭は大量に必要になりますので。」


「みんな、後藤さんから二十尺で結び目を作って欲しいって。」


「よ~し分かった今から始めるから。」


「頼んだよ、オラは大工さんが居るか聴いて来るから。」


 中隊の仲間が縄に二十尺ごとに結び目を作り、一町の長い縄数本を作り、更に三町もの長い縄の結び目

を作り数本を作り終えた。


 吉三は部隊の全員に大工の経験者を探し、二十人程集まった。


「後藤さん、二十人程が集まりました。」


「其れは助かりますよ、皆さん、杭が数百本必要なりますので宜しくお願い致します。」


「後藤さん。」


 高野が書き物にと一式を持って来た。


「高野様、有難う御座います。」


「後藤さん、今お聞きしましたが、杭が数百本も必要だと申されましたが、私と今から一緒に山に入り柵

作りの現場に参りましょうか。」


「宜しくお願い致します。」


 高野と後藤は菊池で行われて要る柵作りの現場へと向かった。


 其の頃、山賀では別の問題が発生していた。


「えっ、何であんな人達が登って来るんだ。」


 山賀の猿軍団が見た者とは一体何者なのか、猿軍団は合図を送る事も忘れ唖然としており、暫くして合

図を送ったが、一体どうすれば良いのかも分からず、中隊長の一行が到着しするのを待って要る。


「一体どうしたんですか。」


「中隊長さん、大変ですよ、ほらあそこを見て下さい。」


 中隊長が見ると其れは女性達で農民や町民、更に武家の女性達も交じり子供も大勢居る。


「えっ、何故大勢の其れも女性と子供が登って来るんですか。」


「中隊長さん、オレも驚いてるんですよ、其れでどうしたらいいですか。」


「う~ん、これは困りましたねぇ~、ですが今更追い返す事も出来ませんからねぇ~。」


「だったら入れるんですか。」


「其れも仕方が有りませんよ、私が行って話を聴きますので。」


「じゃ~オレも行きますので。」


 中隊長は数人の兵士と猿軍団からも数人が登って来る女性達の所へと向かった。


 登って来る女性達は何かに追われて要る様子で中隊長達が近付く事も知らずに要る。


「皆さん、如何されたのですか、この山には狼の大群がおり大変危険ですよ。」


「えっ、あっ、官軍だ。」「わぁ~官軍だ。」


 女達の驚き様は尋常では無かった。


 其れは中隊長達兵士を官軍兵だと思ったのだろう、先頭は武家の女性だが、何が有ったのか分からない

が中隊の兵士を見た途端恐怖の為か殆どの女性達の顔は引き攣り怯えて要る。


「何が有ったのか知りませんが、我々は官軍でも幕府軍でも有りませんよ、我々の連合国と言う国の軍隊

ですからね安心して下さい。」


 其れでも恐怖の為か顔は引き攣り。


「どの様な事でもお伺いしますので、どうか命だけはお助け下さいませ。」


「誰か二番目に行き一個小隊を呼んで、其れと一人は、そうだ皆さんお食事は。」


「はい、この二日間は何も食べておりません。」


「分かりました、では一人は若様に、そうだ雑炊をお願いして下さい。」


 其れでもまだ安心出来ないのだろう、何も分からない幼い子供が突然泣き出した。

 二人の兵士は二番目の所へ、一人はお城へと向かった。


「直ぐに仲間が来ますので、其れと幼い子供さんは兵士がおんぶしますので安心して下さい。」


「あの~私達は一体。」


「まぁ~今はお話しよりも早く山を下る事が大事ですからね、お城に着けば若様がお話しを聞いて頂けると思いますよ。」


「ですが皆様は官軍の。」


「いいえ、先程も申しましたが、我々は官軍でも幕府軍でも無く、連合国の軍隊ですのでさぁ~安心して

後少しで頂上ですからね少しだけの辛抱ですよ。」


「はい、誠に申し訳御座いませぬ。」


 やはり武家の女性だ。


「中隊長さん、オレ達も手伝うよ。」


「では皆さんの荷物を持って下さいますか。」


「お~い、みんな手伝ってくれよ、荷物の持ってくれるか。」


 猿軍団は女性達の荷物を、中隊の兵士達は子供達をおんぶし頂上を目指し、暫くして一個小隊が着き残る子供達をおんぶし頂上を目指して行く。


 一方でお城へ向かった兵士は必死で山を下り一時半程してお城に駆け込み。


「若様、大変です。」


「一体何が有ったんですか、そんなに慌てて。」


「其れがもう大変な事が起きたんです。」


 と、兵士は山での出来事を話すと。


「分かりました、直ぐ手配しましょう。」


 執務室に要る家臣達に指示すると、家臣達は下山口に向かい、賄い処には雑炊の手配し、若様と吉永も

下山口へと向かった。


「さぁ~皆さん、頂上に着きましたよ、では此処で少し休みを皆さんに水をお願いします。」


 兵士達と猿軍団は女性達に水を与えた。

 女性達は少し落ち着いたのか、先程の恐怖に満ちた表情は少し薄れて来た。


「中隊長様と申されましたが官軍では。」


「いいえ、我々は確かに以前は官軍でしたが、連合国の有るお方に命を助けて頂き、今は連合国の軍隊を

名乗っておりますよ、まぁ~お話しは後にしてもう少し休んでから下りですからねこれからはゆっくりと

行きますので。」


 そして、少しの休みが終わると。


「さぁ~小さな子供さんは兵隊さんの背中に乗ってね。」


 中隊長も子供をおんぶし下山を始め、だが女性達は何も話す事も無く静かに下って行く。


「若、登りましょうか。」


「参りましょうか、皆さんも登りますので。」


 若様を先頭に城中の家臣達が総出に近く山を登って行く。


 その後暫くして。


「中隊長、大変ご苦労様です、其れで何人程でしょうか。」


「はい、女性ばかりで五十名程だと思いますが、其れと子供達が三十名程だと思います。」


「分かりました、皆さん小さな子供さんと荷物を持って下さい。」


 山賀の家臣達はニコニコ顔で小さな子供達をおんぶし、他の者達は荷物を持ち。


「中隊長、後は私が引き受けましたので。」


「若様、有難う御座います。

 では自分達は任務に戻りますので。」


「あの~中隊長様、今若様と申されましたが。」


「そうでしたねぇ~。」


 だが若様は口に指を当て、首を振った。


「まぁ~其れよりも、皆さんもう大丈夫ですからね、では自分達は戻ります。」


 中隊の兵士達は何事も無かった様に再び山を登って行く。


 その後若様と家臣達に守られた女性と子供達はゆっくりと山を下り、二時程して城下に入った。


「若様、オレ達に何か手伝う事は無いですか。」


「今は大丈夫ですが、そうだ子供さんと女性達の着替えが有りませんので。」


「分かったよ、じゃ~みんなに話すから、後で持って行くよ。」


「有難う、ではお願いしますね。」


「まぁ~若様の事だからなぁ~仕方無いか、オレ達に任せて下さいよ。」


「そうですか、では私達は城に向かいますのでね。」


「よ~しみんな早く集めようぜ。」


 山賀の城下では若様、松之介の人気は物凄いので女性達は、特に武家の女性達は余りの人気に驚きを通

り越し唖然としている。

 城下では領民の誰もが気軽に声を掛け、若様も気軽に返事するからで有る。

 城下を過ぎ城に着くと其のまま大広間へと入って行き、大広間には既に雑炊は出来上がり腰元達は子供

達から食べさせ、農家の女性達も町民の女性達も食べ始めた


「皆さん、お代わりして下さいね。」


 子供達は相当お腹を空かしていたのだろうか、お代わりをしており、女性達の中には涙を流す者もおり、其の中でも武家の女性達はやはり何かを考えて要るのか食事が進まない。


「若様、湯殿も準備出来ております。」


「そうですか、有難う、其れと武家の女性も居られますので。」


「はい、承知致しております。」


 武家の女性に正か農民の作業着では余りにも失礼だと腰元達も考えたのだろう、一方で大手門では。


「若様に渡して貰いたいんですよ。」


 大手門には城下から古着だがどれも綺麗に洗濯された着替えが届けられた。

 若様は大広間を腰元達に任せ執務室に戻った。


「あの~宜しければ少しお伺いしたいのですが。」


「はい、宜しいですよ、何でも聞いて下さい。」


 やはり若様の事が気に掛かるのだろうか。


「先程から若様と皆様方が申しておられましたが。」


「若様ですか、若様はねこの山賀のお殿様ですが、其れが。」


「えっ、ですがお召し物が。」


 女性達が驚くのも無理は無い、若様を始め家臣達の全員が作業着姿で、若様と呼ばれる松之介は町民の

着姿では無く農民の作業着姿で有る。


「山賀では若様を始め、ご家中の皆様方全員が作業着を着ておられますよ。」


 腰元達にすれば今では若様も家中の全員が作業着姿が当たり前で何の不思議では無かった。


「ですが、其れではお殿様としての威厳が。」


「連合国のお殿様もですが、ご家老様、其れにご家中の皆様方は威厳や権力と言うものに執着されておら

れないのですよ、其れよりも、若様もご家老様も領民が大切だと申されておられ、其れが私達の連合国の

考え方で御座いますので。」


「ですが余りにも若様、いいえ、お殿様はご城下の領民との接し方が。」


「私達も最初は驚きました、でも今では其れが当たり前の様になっておりますので。」


「最初と申されますと。」


「若様は婿養子として隣の松川藩よりお越しになられたので御座います。」


「えっ、婿養子で、でも其の様には見えないのですが。」


「綾乃様、余り。」


「はい、申し訳御座いませぬ、余計な事をお聞きしまして。」


「宜しいんですよ、綾乃様と申されるのですね、明日にでも若様に直接お聞きになられては如何でしょう

か、若様は別に隠す必要が無いと申され、お話しをして頂けると思いますよ。」


「ですが、正か其の様な事をお聞きする訳には参りませぬが。」


 女性の名は綾乃と言う、やはり武家の出で有ろう、親は国元では位の高い武士だろうと思われる。


「綾乃様、何も心配される事は御座いませぬ。


 若様もですが、ご家老様も隠し事をされるお方では御座いませぬので、其れよりも湯殿にお入り下さい

ませ、着替えのお着物も用意しておりますので、其れと明日の朝ですが髪結いも参りますので。」


「何から何までご迷惑をお掛け致します。」


「いいえ、宜しいのですよ、其れと何かお聞きになりたければ、明日、若様にお聞き下さいませ。」


 大広間の腰元達も賄い処の女中達も優しく丁寧な対応に農婦や町民、武家の女性達も安心し、雑炊を食べた後、順番に湯殿に向かい、湯殿では腰元達が農婦に湯殿の入り方を教え、古い着物は回収して行く。


「母ちゃん、オラはお風呂って初めてなんだ。」


「母ちゃんもだ、お姉ちゃんが言った様に先に身体を洗ってから入るんだよ。」


「うん、分かったよ。」


 母子が湯に入るのは初めてなのか、入り方も分からない。

 其れでも初めてお風呂と言うものに入り、古着だが新しい着物に着替え、大広間に戻ると綺麗な布団が

並んで敷かれて要る。


「オラ達が此処で寝るんですか。」


「はい、そうですよ。」


「でもこんな綺麗な布団に、オラ達はバチが当たりますよ。」


「いいえ、其の様な事は有りませんよ、皆さんに使って頂ければ布団も喜びますからね。」


「母ちゃん、わぁ~ふわふわだ。」


「そうよ、今日はこのお布団でよ~く眠ってね。」


「うん。」


 子供は正直だ、早くも布団に入り、長い旅で相当疲れて要るのだろう、直ぐに寝息を立て、母親達も同

じで布団に入ると直ぐ眠り、町民の女性達も苦しい思いをして来たのだろうか、久し振りの布団で深い眠

りに入って要る。


「若、私の予想が全く違い、どの様に申して良いのか分かりませぬ。」


「其れは私も同じですよ、あれだけの大勢で、しかも女性と子供だけで、まぁ~良くも無事で来られたと

思いますよ。」


「ですが、一体何処から来られたのかですねぇ~。」


「まぁ~明日になれば分かると思いますが、私は余り余計な事は聞かずにと考えて要るのですが。」


「若、私も其れで良いと思います。

女性ばかりで此処まで来られるのは並み大抵の事では御座いませんので。」


「私も良く分かりますよ、其れと別の話ですが、先程の女性達だけでしょうか、私は他にも来る様な気がするのですが。」


「其れは十分に考えられますねぇ~、特に武家のお方だと思うのですが、父親は多分身分の高いお方だと思うのですが。」


「其れは私も分かりましたねぇ~、着物もですが、所作が、其れと他の女性ですが、あの方々は腰元だと

思いますが、はっきりと違いが分かりますから。」


 若様と吉永も綾乃と言う女性は身分の高い武家の娘だと思って要る。


「若、其れであの人達ですが、どの様に考えておられるので御座いますか。」


「今、其れが一番難しい問題でどの様にすれば良いのか分からないのです。」


 今日山賀の山を越えて来た武家の女性、町民と農民、其れと子供を含む五十人が全員女性で一体何処か

ら何の目的でやって来たのか全く分からず、今までは元官軍兵だけで幕府の敗残兵は一人も登って来ない。


 若様と吉永は女性達の処遇をどの様にすれば良いのか分からないので有る。


「若、私は女性達がこの先一体どの様にしたいのか、其れが大切だと思いますが。」


「そうですねぇ~、まぁ~数日過ぎてから話を聴く様にしたいと思います。」


 山賀には大きな農地も有り、其処には山の向こう側から来た数百人も入っており、今日着いた農民の女性達も入る事は可能だ、だが若様も吉永も彼女達の意見を尊重しなければならないと考えて要る。


 若様は正か最初に登って来るのが女性ばかりだとは考えもしなかった。


 相手が幕府軍や官軍ならば簡単で連合軍に対し攻撃するので有れば反撃し、数人も撃ち殺せば残りの武

士や兵士達は山の主の狼に任せれば終わる、だが相手が武器も持たぬ婦女子を何の理由も無く殺す事は出

来ない。


 そして、明くる日の早朝城下から髪結いが大手門から大広間へと行き、直ぐさま女性達の髪を結い始めた。


「皆さん、お早う御座います。

 今髪結いさんが皆さんの髪結いを始めましたが、全員の髪結いが終わりましたら、私から少しお話しをしたいと思いますので、其れまでは皆さんゆっくりとして下さい。 


 其れで髪結いさん、何時頃まで掛かるのでしょうか。」


「若様、私達もこれ程大勢の髪結いは初めてですが、お昼頃までには終わると思います。」


「そうですか、ではお昼の食事が終わってからにしますので、でも其れまで子供さん達は退屈だと思いま

すので、家臣達がお城の中を案内と言いますか、まぁ~探検でもして貰いましょうかねぇ~。」


 其の時、家臣十数人が入り、子供達に何やら話すと。


「オラ、行くよ。」


「オラもだ。」


 子供達は目を輝かせ、家臣達と大広間を出て行く。


「では皆さん、其の時に又参りますので。」


 若様も大広間を出て行く。


「あの~。」


「はい、何でしょうか。」


「若様は私達に話しが有るって言われましたが、私達は一体何処に連れて行かれるんですか。」


 腰元はニッコリとして。


「では貴女は何処かに行きたいのですか。」


「いえ、今は何も考えて無いんですが、昨日お風呂に入り、新しい着物と今日は髪結いで。」


「其の事ですか、皆さんが着て来られたお着物は城下で作業着に変わるのです。

 其れと髪結いですが、私も同じ女性として美しくなりたいですからね、ただそれだけですよ、若様のお

話しは多分皆さんのご希望をお聞きしたいのだと思いますから。」


「私達の希望ですか。」


 町民の女性達は何か不安なのかも知れない。


「まぁ~皆さんは何も心配されず髪結いが終わればお昼の食事にしますのでね。」


 腰元達は女性達の不安を取り除く為に農民や町民達の間に入りニコヤカに接して行く。

 髪結いはお昼過ぎまで掛かり、其の頃子供達が戻って来た。


「母ちゃん、お城の地下に入ったんだぜ。」


「えっ、地下って、一体何処に行ったんだ。」


「お侍様がね、北の空掘りって言ってたよ。」


「へぇ~、だけど母ちゃんに言われても、母ちゃんは全然分からないよ、母ちゃんもお城に入ったのが此

処が初めてなんだからね。」


 連合国の領民ならばどのお城にも自由に出入り出来る、だが他国では誰でも自由にお城に出入り出来る

事は許されてはおらず、ましてや子供がお城の中を説明されても理解出来るものでは無い。


 その後昼食も終わる頃若様と吉永が入って来た。


「皆さん昨夜は良く眠れましたか、大変お疲れだとは思いますが、皆さんに少しお聞きしたいのですが宜

しいでしょうか。」


「若様、私達は関所を通らず山賀に入り、誠に申し訳御座いませぬ。

 ですが私が皆を連れ山越えを致しましたので、皆には何も責任は有りません。

 全て私一人の責任で罰は私だけに他の者はお許しの程を何卒宜しくお願い致します。」


「貴女は綾乃様と申されるのですね、其の前に綾乃様は何か勘違いをされておられませんか、私は何も処罰をするとは申してはおりませんよ、私はねぇ~、この先皆さんが安心して頂ける方法を考えておりましてね、其れだけを聴きたいのですよ。」


 隣では吉永が頷きニコニコをして要る。


「では私達は。」


「まぁ~ねぇ~、私は皆さんの希望を聴かなければならないのですがね、其の前に私のお話しを聞いて頂

きたいのです。」


 若様は連合国の話をし、何でも聞いて下さいと。


「あの~私達は売られるのでは無いんですか。」


「えっ、何ですと、一体誰がそんな馬鹿な事を言ったのですか。」


「いいえ、でも昨夜はお風呂に入り、新しい着物を、今朝は髪結いを。」


「あ~其の事ですか、私はそんな馬鹿な事は考えてはおりませんよ、若しも、若しもですよその様な事を

考えて要るならば今頃私の命は無いですよ、そうですよねぇ~、ご家老。」


「そうですなぁ~、若しもその様お話しが源三郎殿に、いや奥方様に知られますと、若は山に連れていかれますなぁ~。」


 と言った吉永と若様が大笑いすると。


「ですが何故で御座いますか、其れに今申されました源三郎様と奥方様とは一体どの様なお方で御座いま

しょうか。」


「そうでしたねぇ~、では其の話しからしましょうかねぇ~。」


 若様は身振り手振りで源三郎と雪乃の話をすると。


「では連合国と言う国家を設立されましたのが源三郎様と申されますお殿様で御座いますか。」


「義兄上は殿様でもご家老でも有りませんよ、我が連合国の総司令官でしてね、まぁ~この話をしますと

一体何日掛かるやも分かりませんのでね、其れよりも皆さんが何故山賀の其れも危険な山を登って来られ

たのですか。」


「若様、私がご説明させて頂きます。」


 綾乃は今までの経緯を話すと。


「では綾乃様はご家老様のご息女で、ですが今のお話しですと綾乃様の妹様も大勢の女性を連れて出られ

た、でも山賀への道は簡単では無かったと思うのですが、何故其れまでに危険を犯してでも山賀を目指さ

れたのですか。」


「官軍が隣の国で略奪と暴行を、更に村々を焼き払って要ると聴き、父が女と子供だけでも助けたいとお殿様にお願いしまして家臣達が手分けし領民に知らせたのです。」


 だが其れにしても綾乃が連れて来た女性は余りにも少ない。


「ですが、女性の人数が余りにも少ないと思うのですが。」


「一部の領民は家財を持ち他の土地へと向かい、城下に残った女性は百人程で、其の人達をお城に集め、

私が最初の五十人を連れに夜中お城を出たのです。」


 やはりか、官軍は小国を滅ぼすと、城下では略奪と暴行の繰り返し、村々は焼き払われ農民の特に男は皆殺しにされて要る。


「ですが何故山賀だったのですか。」


「以前旅人が我が藩の旅籠で話をしておりまして、我が藩から五十里程東に行くと辺りの風景が変わり高い山が連なり、その手前に戻り橋と言う橋が有り、其の戻り橋を渡り一里程行くと山に入る所が有ると。」


「へぇ~その様な目印が有るのですか、私は全く知りませんでしたねぇ~。」


 若様も吉永も衝撃を受ける程の話しで有る。


「私も見ましたが、確かに五寸程の太い木に矢印が有りました。」


 一体誰が何の目的で矢印を着けたのか、何れにしても早急に矢印の木を切り倒す必要が有る。


「其れで山に入り登って来られたのは分かりますが、我々の連合国を知る者はいないと思うのですが、旅

人は何と話されていたのですか。」


「高い山を越すと向こう側の国では争い事は無く、領民は穏やかな人達ばかりで、楽園だと言っても過言

では無いと話されたと聴いております。」


「へぇ~連合国、いや山賀が楽園ですか、ご家老様、まぁ~何と言う表現でしょうか、私は以前の山賀を知りませんのでね何とも申し上げる事が出来ないのですが。」


「若、多分ですが、以前は旅人にとっては楽園に見えたのでは御座いませぬか。」


「う~ん、其れにしても楽園とはねぇ~、其れでお城を出られたのですが、戻り橋に着くまで幕府軍や官

軍には会わなかったのですか。」


「私達が戻り橋に着く少し前ですが大勢の官軍を見ましたので、若しやと思い街道を外れて所にお寺が有

り、そのお寺に数日間お世話になりました。」


「官軍の大軍ですか、では官軍には見つからなかったのですか。」


「お寺の和尚様が小坊主さんに見に行くようにと、暫くして小坊主さんが戻られ官軍は戻り橋を渡り川沿

いを進んで行ったと聴きましたので。」


 吉永は腕組みをし何かを考えて要る。


「では直ぐお寺を出られたのですか。」


「いいえ、和尚様がまだ分からないので数日間滞在する様にと申され、確か四~五日間はそのお寺で。」


「ご家老、官軍の大軍は菊池に向かった様ですねぇ~。」


「若、日数的に申しましても、まず間違いは無いと思われます。」


 若様もご家老も大勢の官軍が菊池に向かって要ると、だがその官軍も源三郎の奇抜な作戦で、侍は全員

狼の餌食に歩兵は菊池に入って要る事は知らない。


「ご家老、義兄上に知らせる必要は有るでしょうか。」


「若、何も心配は御座いませぬ、源三郎殿の事ですから間違いは御座いませぬぞ。」


「はい、承知致しました。

 其れで貴女方はこれからどの様にしたいのですか。」


「今の私は何も考える事が出来ませぬので、どの様な事でもお指図して頂けますればと思います。」


「そうですか、では皆さんの中で何か考えて要る事が有れば何でも言って下さいね、私達に出来る事が有れば協力させて頂きますのでね。」


 若様の話しは別段難しくも無く、綾乃達の希望を聴きたいと、ただ今は其れだけで有る。


「あの~オラは農民で。」


「はい、勿論宜しいですよ、何でも言って下さいね、山賀の農村にも山の向こう側から来られた人達もお

られますので、其れと何も急ぐ事は有りませんよ、連合国はとても大きいのですからね。」


「若様、私達はご城下の者ですが何か出来るお仕事は有るのでしょか。」


「若様。」


 正太の声だ、空掘りの現場で事故でも有ったのだろうか。


「若、あっ。」


「正太さん、如何されたんですか、そんなに慌てて。」


「若様、いいんですか。」


「勿論宜しいですよ、其れで。」


「若様、現場の賄いさんが少ないんですよ。」


 飯場では数十人の女性が賄いの仕事に就いて要る。


「賄いさんが少ないって。」


「若様、今の人数だったら賄いさんは休みが取れないんですよ、でも賄いさん達は何も言わないんで。」


「そうですか、う~ん何か良い方法が有ればなぁ~。」


「あの~若様。」


 先程の町民の女性だ。


「何か有るのでしょうか。」


「若様、私もその賄いの仕事をさせて頂きたいのですが。」


「え~宜しいんですか。」


「私も女ですから、賄いの仕事だったら出来ると思うんです。」


「若様、助かりますよ。」


「私も賄いの仕事に行かせて下さい。」


「私もお願いします。」


「でも本当に宜しいんですか、現場はこのお城の北側に有る空掘りなんですが。」


「えっ、お城の中ですか。」


「まぁ~其処では千人以上が仕事に就いておりましてね、其れと皆さんは女性ですが、山賀では、いや連

合国では何も心配される事は有りませんのでね。」


 他国の飯場では男達は荒く、酒を飲んでは暴れ、多くの女性も被害に遭うと、だが連合国でその様な事

件を起こす事は禁じられ、若しも破ると処罰が恐ろしいと知り男達は仕事だけに、賄いさんの女性には優

しいと。


「ねぇ~若様、今からでも来て欲しいんですけれど。」


「正太さん、今からと言うのは少し無理が有りますよ、この人達は昨日山を越えられて着たのですが、長

く厳しい道を歩いて来られましてね、数日間はお城でのんびりと過ごして頂きたいと考えております。」


「そうですか、まぁ~其れなら仕方無いですねぇ~。」


「正太さん、申し訳無いですねぇ~。」


「若様、私なら大丈夫です、何時でも行けますので。」


「若様、私も大丈夫です。」


 町民の女性達は大丈夫だと言うが。


「いいえ、其れは駄目ですよ、昨日の今日で貴女方のお気持ちは大変嬉しいのですがね、数日間も歩き続けて来られ、自分は大丈夫だと思っておられますが、身体はそんな簡単には戻りませんからね、そうです

ねぇ~、今日と明日はのんびりとされ、明後日からでは如何でしょうか。」


「若様、其れならオレがみんなに言って置きますよ、明後日から応援の女性が来てくれるって。」


「正太さん、では其れで願いしますね。」


「じゃ~明後日の朝迎えに来ますんで、皆さん宜しくお願いします。」


 正太は女性達に頭を下げ現場へと戻って行く。


「綾乃様、もう他に来られるお方は居られませんか。」


 綾乃は話をしずらいのか表情が冴えない。


「あの~若様、実は。」


 別の女性だ、この女性は腰元だと思われる。」


「他にも居られるのですか。」


「綾乃様、私から申し上げても宜しいでしょうか。」


 腰元だと思われる女性は綾乃を見るが、綾乃はやはり考え込んで要る。


「宜しいですよ、私がお聞きしますからね。」


 若様は綾乃が言い出せないのだろうと分かった。


「若様、実は綾乃様の。」


「私が申しますので。」


 女性は頷き。


「綾乃様、若しかすれば妹が。」


 若様は綾乃に妹が居るとは知るはずが無い。


「実は私の妹で、名を小百合と申しますが、残りの女性達を連れ城を出て要ると思うのですが、其れ以上

の事は分からないので御座います。」


 やはり妹が居たのか、その妹が城下の女性達を連れて城を出たと言う。


「綾乃様、其れで小百合様と申されますお方は何時頃お城を出られたのか分かりますか。」


「私達が出た数日後で四~五日後には出ると申しておりましたが。」


「えっ、四~五日後と申されましたが、綾乃様達は戻り橋に行かれる前お寺で数日間滞在されておられる

と、其れならば、えっ、若しや今日か明日には山賀の、大変だ、誰か居られますか。」


 大変な事態になった、小百合と言う綾乃の妹が領民の女中達を連れ山賀の山を登って来る。

 綾乃達は運よく狼の大群に発見されず全員が無事下山出来たが、同じ様に運が良いとは限らない。


「直ぐ山に行き、猿軍団と中隊長に小百合様と言われる女性が多くの女性を連れ登って来ると思われますので、 家臣を集め山に向かって下さい、私も直ぐに参りますので。」


 執務室の家臣数人が手分けし城内の家臣に知らせ山に向かった。


「綾乃様、申し訳有りませんが、若しもと言う事も考えて頂きたいのです。

 昨日も申しましたが、山賀の山もですが、我々の連合国から見えます山には狼の大群がおり、綾乃様達

の時には運が良く全員が無事下山する事が出来たのですが、小百合様の時は私も正直申しまして。」


「若様、私も十分承知致しておりますが、私は妹の事よりも他の人達が心配で御座います。」


 若様は何としても妹達全員を助けたいと思う、だがこれだけは相手が悪い、狼の大群は絶えず山の中を移動し何時現れるか誰にも分からない。


「綾乃様、其れで小百合様ですが、一体何人を連れて来られるのですか。」


「其れが私も分からないので御座います。」


「え~、分からないって、何故ですか。」


「若様、実を申しますと、城下の人達は家族で他国に向かわれた人達が多く。」


「分かりました、ご家老、私も直ぐ参りますので。」


「若、家中の者は弓を持って行きましたので。」


「では私は山に向かいますので、後は宜しくお願い致します。


 若様は家臣数人と弓を持ち山の麓まで馬を飛ばした。


「中隊長、大変だ、また大勢の女性が登って来ましたよ。」


「えっ、正か本当ですか。」


 其れは若様が綾乃から話しを聞いて要る頃で、綾乃の妹で小百合が百人近くの女性を連れ山賀の山を

登って来た。

 だが果たして今回も全員が無事下山出来るのだろうか、猿軍団と中隊長と一個中隊が女性達の所に向か

う、だが、時既に遅しか。


「きゃ~助けて~。」


 突然女性の叫び声が聞こえ、中隊の兵士が連発銃を構えるが、登り遅れた数人が狼に襲われて要る。


「きゃ~、助けて、狼が狼が。」


 と、もう必死に叫び声を上げるが、十頭、二十頭と狼の群れは傷付き倒れた女性を襲って要る。


「パン、パン、パン。」


 と、兵士達も連発銃で応戦し数頭の狼を殺すが、群れは次第に大きくなり、もうこれ以上は無理だと中

隊長が判断し。


「中隊は他の人達だけでも守るんだ。」


「パン、パン、パン。」


 又も連発銃の発射音が山に響く。


「さぁ~早く登るんだ、早く。」


「みんな急いで登れ。」


 猿軍団も中隊の兵士達も必死で女性達を守り、どれ程の時が過ぎたのか分からないが誰もが何としても逃げ切りたいと、其れは何も考えず只管頂上を目指して行く。


「みんな苦しいと思うが、止まるな、急げ、後少しだ。」


「若様、あれは連発銃の音では若しかして。」


「そうですよ、皆さん急いで下さい。」


 若様が先頭になり頂上を目指すが気持ちだけが焦り、だ山の登りは簡単では無く、その後も数十発の音が聞こえて来る。


「中隊長さん、何とか逃げ切りましたが。」


「ええ、ですが何人かが狼の犠牲になられましたので。」


 猿軍団も中隊長もこの犠牲は仕方が無いと、だが女性達は何も言わず、声も出さずに涙を流して要る。

 其れに今は誰が犠牲になったのかも分からない。


 その後、中隊は女性達を護衛し頂上を目指して行く。


「若様、音が聞こえなくなりましたが。」


「ええ、何とか逃げ切れた思いますが。」


 若様も犠牲者がいない事を願って要る。


「さぁ~皆さん頂上ですよ、これからは下りになりますので少し休みましょうか。」


 女性達は頷くだけで話す気力も失って要る様子で、暫くして。


「中隊長。」


「えっ、あっ若様。」


 若様達も必死で登って来た。


「中隊長、大変ご苦労様で、其れで皆さんは如何でしょうか。」


「若様、実は自分達が行った時には狼の群れが女性達を襲っており、何人か分かりませぬが犠牲になられ

ました。」


「そうでしたか、私も昨日の女性から話を伺い直ぐ向かったのですが、残念な結果になりました。」


「若様、自分達も何とかして助けようと応戦したのですが、狼の群れが百頭以上に増え、もうこれ以上こ

の場に長居すれば犠牲者が増えると判断しました。」


「何も中隊長には責任は有りませんよ。」


「若様、オレ達がもっと早く見付けたら良かったんです。」


「其れは無理だと思いますよ、其れよりもこの人達を下山させますので、中隊長も部下の方々も、其れと

猿軍団も一度戻りましょうか。」


「えっですが。」


「中隊長、昨日と今日で皆さんの疲れ方は異常だと思いますので、其れに多分数日間は誰も登って来ない

と思いますのでね。」


 中隊の兵士達も初めて狼との戦いで恐ろしい体験をし、今はこれ以上任務を続行する事は無理だ。


「中隊長、他の分隊にも伝え直ぐ下山します。」


「はい、承知致しました。」


 中隊長は数人の兵士に他の場所に要る分隊にも直ぐ下山せよと伝令を出した。


「中隊長、申し訳有りませんが、私達がこの人達を連れ下山しますのでね。」


「はい、自分達も直ぐに下山します。」


「猿軍団も一度下山して下さい。」


「若様、オレ達は別に。」


「いいえ、駄目ですよ、其れと中隊長と猿軍団にお話しが有りますのでね。」


 若様は犠牲者が出た原因を知りたい、だが其れよりもまず中隊の兵士達と猿軍団を休ませる事を考えた。


「若しや貴方は小百合様では御座いませぬか。」


「はい、私は小百合と申しますが、では姉上は無事に着かれたので御座いますか。」


 やはりだ、其れにしてもこの姉妹まぁ~良く似ている、其れに美人だと若様は思った。


「昨日登って来られましてね全員が無事下山され、まぁ~お話しは後にして山を下りてお城に参りましょ

うか。」


 小百合も相当疲れて要ると言うよりも、犠牲者を出した事に対し責任を感じて要る様子だ。

 だが其れ以上に女性達の落ち込み方は凄く、疲れ方も異常な程だ。


「皆さんも大変お疲れだと思いますが、後少しの辛抱でお城に着けば休んでいただけますのでね。」


 若様はどの様に声を掛けて良いのかも分からないが、何とかして気持ちをほぐしたいと、其れは何も若

様だけでは無く、家臣達も気を使い城下の話をする者、連合国の話をする者など何とかして心をほぐした

いと声を掛けて要る。


「誰か城と城下の。」


「はい、私が参りますので。」


 と数人の家臣が走り下山して行く。


「中隊長様、先程から若様と申されておられますが。」


 彼女はどうやら腰元の様で、若様松之介の姿が余りにも若様と呼ばれる様な着物を着ておらず、言葉使いも侍が使う様な言葉では無いのが不思議でならない。


「あ~若様ですか、若様は山賀のお殿様ですよ、其れが何か。」


「えっ、正かでもお姿が。」


「あ~着物ですか、山賀の家臣全員が作業着姿で若様は農民さんの作業着ですが、其れが何か。」


 腰元が驚くのも無理は無い、若様は農民の作業着で、家臣の全員が町民の作業着姿で、更に刀を差して

おらず、昼九つの鐘が鳴り、其れでもまだ途中で山賀の城下に下りて来た頃に暮れ六つの鐘が鳴った。


「あっ、若様だ。」


「うん、何か有ったらしいぞ。」


「ねぇ~若様何が有ったんですか。」


「皆さん申し訳有りませんが、戸板を貸して頂けませんか、この人達をお城まで運びますので。」


「若様、分かったよ、お~いみんな戸板を貸してくれよ。」


 城下の領民達が戸板を持って来た。


「さぁ~皆さん戸板に乗って下さいね。」


 女性達はその場に座り込んだ、もう動く気力もない程で農民や町民の全員が戸板に乗せられた。

 だが小百合と腰元達だけは気丈なのか誰も乗らない。


「若様、みんな乗りましたよ。」


「ではお城まで運んで下さい。」


「お~。」


 と、家臣と領民が戸板を持ち上げ城へと向かった。


「ご家老様、妹は、いえ他の人達は。」


「綾乃様、若が行かれたのですから、もう大丈夫ですよ。」


 綾乃は気が気で無い、妹小百合の事も心配で、其れよりも小百合は何人の女性達を連れ出したのだろう

か、城下の領民の殆どが家財を持ち逃げ出したが、果たして全員が無事他国へ着いたのだろうか、だが今

となっては調べる方法も無い。


「ご家老様。」


 家臣が執務室に飛び込んで来た。


「若は。」


「若様は百人か其れ以上の女性を、ですが。」


 家臣は何人かの女性が狼の犠牲になったと言えず。


「どうしたんだ。」


「実は若様が着かれた時には数人の人が狼の犠牲になられ。」


「何、数人が狼の犠牲に、では若が着かれる前に狼に襲われたと言うのか。」


「はい、私達も必死で登って行ったのですが、途中で連発銃の音が聞こえ。」


「う~ん。」


 と、吉永は絶句に近い唸るなり声を出した。


「ですが、何れの方々が犠牲になられたのかも分からないのです。」


「其れで他の人達は大丈夫なのか。」


「他の人達はご家中の皆様方と中隊の兵士達が守り、今下山して要ると思われますが、何人居られるのか

も分からないのです。」


「よ~し分かった、では今下山の途中だと言う事だなぁ~。」


「其れで若様が。」


「直ぐ手配するが怪我人も要るだろうから、お主悪いが城下に参り医者を、其れと城下の女性達に応援を頼んでくれないか。」


「承知致しました、では直ぐに参りますので。」


「頼むぞ、其れと誰か賄い何処に雑炊を、其れと湯殿の手配を。」


 家臣達は走って行く。


「ご家老様。」


「綾乃様、今聴かれた通りですが、綾乃様の腰元達にもお手伝いを頼みます。」


「はい、承知致しました。」


 綾乃は大急ぎで大広間へと向かった。

 山賀の城内では吉永が次々と指示を出し、若様の帰りを待って要る。


「よ~し皆さんこのまま大広間までお願いします。」


「お~、若様、オレ達に任せてくれよ。」


 若様を先頭に戸板に乗せられた数十人の女性と小百合が大手門から大広間へと駆け込んで来た。


「若、手配は終わっております。」


「有難う御座います。」


 大広間では前日着いていた女性達が待ち受けていた。


「姉上様。」


「小百合、良くぞ無事で。」


小百合は綾乃の顔を見て。


「姉上様、申し訳御座いませぬ。」


「いいえ、貴女の責任では有りません、其れよりもお怪我をされた人を。」


 今着いた百人程の女中達の着物は血と汗と、其れに熊笹でボロボロだ。


「皆さん、女性達の着物ですが直ぐ届きますのでね、ご家中の皆様方と中隊の兵士は部屋を出ましょう女性が着替えられますので。」


 家臣と中隊の兵士達も疲れて要る。

 だが其処は女性達の事は腰元達に任せ男達は全員大広間を出た。


「皆さんは別の部屋で休んで下さいね。」


「若、大変で御座いましたねぇ~。」


「吉永様、私が着くのがもう少し早ければ良かったのですが。」


「何も若の責任では御座いませぬ、其れよりも一体何人で御座いますか。」


「実は私も分からないので、後程小百合様と申されます妹に聞く事になりますが、今は傷の手当てと食事

の方が、其れと湯殿にも。」


「若様。」


 綾乃が来た。


「綾乃様、何か。」


「小百合、若様で御座いますよ、御礼を。」


 綾乃が小百合を連れて来た。


「綾乃様、お話しは明日にでも明後日でも宜しいのでね、其れよりも皆さんのお怪我は。」


「はい、今お医者様に見て頂いておりますので。」


「そうですか、まぁ~お二方も戻って下さいね、もう大丈夫ですからね、小百合様。」


「はい、若様、誠に有難う御座います。」


 小百合の眼からは大粒の涙が零れ落ち、今にも泣き崩れる様で。


「綾乃様、雑炊と湯殿も用意出来ておりますので皆さんにね。」


「若様、誠に申し訳御座いませぬ。」


 綾乃は小百合を抱きか抱える様に大広間へと戻って行く。


「吉永様、私は義兄上に書状を。」


「若、其れが良いと思います、其れと、松川、上田、菊池にもご同様の。」


「はい、分かりました。」


 若様は源三郎と松川、上田、菊池にも同様の内容を認め、明くる日の早朝家臣達に早馬で届ける様に指

示を出した。

 今日到着した小百合と百名近い女性達は果たしてゆっくりと眠る事が出来ているのだろうか、山賀の腰

元達は夜中何度と無く見回りしたが、殆どと言っても過言では無い程に女性達は悪夢を見て要るのだろう

か、何度と無く魘され、目を覚まし、又、眠る、やはり山賀のお城に入るまで他人には理解出来ない程の

恐怖を味わった事だけは間違いは無い。


「若様、お早う御座います。」


 綾乃と小百合が執務室に入って来た。


「綾乃様、小百合様、お早う御座います。

 もっとゆっくりとされれば良かったのですよ。」


「はい、ですが十分で御座います。」


 其の様に言う小百合も夜中に何度と無く悪夢で目を覚ましている。


「若様、私達のお話しを聞いて頂きたいので御座いますが、宜しいでしょうか。」


 やはり来たか、其れにしても何故女性ばかりで、其れも百五十人と言う大勢で、この女性達の主人や親

兄弟が何故に一緒では無いのだ、其の訳を聴く必要が有る。


「ですが余り無理をなされない様にね。」


 若様は何時に無く優しく二人に接して要る。


「実は。」


 と、その後、綾乃は国で起きた事を全て話した。


「すると、お殿様は領内の全員に対し何処の国でも良いから早く逃げろと申されたのですか。」


「ですが、領民の中には逃げる事を拒否され、お殿様と一緒に戦うと言われる人達が居られ、私と妹の小

百合と一緒に来られた人達のご主人や兄弟、其れに父親なのです。」


「ですが、領民の方々だけでは戦にはならないと思うのですが。」


 若様が考え通りで、そのお殿様と言うのは相当領民に慕われていたのだろう、だが例え人数だけが集

まったとしても相手は重装備の官軍だ、竹やりや弓なので勝てる相手では無い。

 其れは大人と子供の喧嘩どころの騒ぎでは無く、官軍が本気で大砲や連発銃で攻撃すれば、数日、いや

半日で陥落し、其れこそ城に立てこもった領民は犬死で有る。


「ですが、其の様な事を殿様は望まれたのですか。」


「いいえ、正か、お殿様がどの様に話をされても其の方々は殿様の為に死んでも構わないと。」


 勿論、殿様は領民に対し何度も説明したはずだ、だが残った領民の意思は固く、殿様の要求は拒否し、

其れでは家族だけでも救わなければならないと、お殿様とご家老様が考えられ、ご家老様が以前から話し

いた高い山の向こう側に行けと、だが余りにも無謀な話で、まして女と子供だけで一人の侍の護衛も付け

ず城を出るとは。


「ですが、我々の連合国が有ると言うのは旅人だけの話しだけ、他に誰か知って居られたのですか。」


「いいえ、ご家中の方々は勿論、城下の領民の中で一人も知って者はおりませぬ。」


 まぁ~何と無謀な話しだ、高い山の向こう側に行けば楽園が有ると、其れも旅人の話だけで地図さえも無い。


「分かりました、其れで貴女方は今後どの様にされたいのですか。」


「ですが、実を申しますと、私達は先の事など何も考えられ無かったのです。」


 確かに綾乃が言う話しは本当だろう、だが一体この先どの様にすれば良いのだ、若様も考えが及ばない。

 其れよりも小百合が連れて来た人達の中で一体何人が狼の犠牲になったのか、更に山賀に着くまで一人

の犠牲者が出していないのか。


「其れよりも、小百合様が連れて来られた人達の中で何人が狼の犠牲になられたのですか、其れとその以前にはどなたも亡くなられては居られないのですか。」


「若様、私も昨日何人が狼の犠牲になったのかもまだ正直なところ分からないので御座います。」


「えっ、ですが、今何人が居られるのか分かると思うのですが。」


 昨日の今日だ、小百合には余りにも衝撃的な出来事で、小百合自身今も気が収まっていないのか、幾ら

ご家老の娘だと言ってもまだ若い、其れに山賀の侍でも狼の恐ろしさは嫌と言う程知っており、若い娘が

百人者の領民を連れ、何事も無く無事に着く事事態が無理と言うもので有る。


「小百合様、私は何も貴女を責めて要るのでは有りませんよ、では最初にお城を出られた時の人数は覚え

ておられますか。」


「確かあの時は百五十人だと思います。」


「綾乃様、小百合様はまだ無理ですよ、暫くはのんびりとさせて上げて下さいね。」


「若様、実は昨夜小百合の話で城を出た数日後身体の不調が元で三名が無くなりまして、其の人達は近く

のお寺で弔って頂いたと。」


「分かりました、綾乃様、其れでは人数だけを確かめて頂きたいのです。

 ですが何も今直ぐにとは申しませんのでね、其れと今後の話ですが、皆さんの事を私の独断で決める訳

には参りませんのでね。」


「ですが、若様は山賀のご領主様では御座いませぬか。」


「まぁ~ねぇ~、私は一応山賀の領主ですよ、ですが今度の問題は山賀だけの問題では無く、我々の連合国の問題だと考えて要るのです。」


「私も昨日連合国のお話しを伺いましたが、私達は今山賀のお国に居らせて頂いておりますが。」


 小百合にすれば若様は山賀の領主ならば、領主が決定するのが当然だと思って要る。


「小百合様、我々の連合国では源三郎様と呼ばれる総司令が居られるのです。

 総司令には綾乃様と小百合様が連れて来られました百五十人もの領民が山賀の山を越え、山賀の城に居られるますと、その他にも私の知る限りの内容を書状に認め、今朝早馬にて松川、上田、菊池、そして野洲の総司令に届ける様にと。」


「若様、では私達は何かの処罰を受けるので御座いますか。」


「小百合様、総司令も他のお殿様方も処罰などとは考えておられないと、私は断言出来ますよ。」


「ですが、私も姉上も他国の者で関所も通らず山を越えて来たのですが。」


 小百合は他国へ入るならば普通では関所を通るが、姉の綾乃も山を越え密かに入る予定が運が良かった

のか悪かったのか別にして、今は山賀のお城に要る。

 小百合にすればまだ幕府は存在して要ると、確かに幕府が存在した当時は各地に関所が有り、関所を通

らなければ犯罪者で捕らわれれば当然処罰の対象だ、だが現実と言えば幕府は壊滅し、勿論、今は関所な

ども無く、表向きは誰でも何処の国に移動する事が自由になって要る。


「小百合様、幕府はもう壊滅して要るのですよ。」


「えっ、幕府が壊滅して要ると申されるので御座いますか、では次の幕府は。」


 小百合は幕府が壊滅した事も知らずに要る。


「確かに幕府は消滅しましたよ、新しいと組織言うのが八百年間も続いた武家社会を壊し、其れは一般民衆を中心とした新生日本を築く為だと言う官軍と幕府軍と戦になり、幕府軍は負けたのです。」


 小百合は何故か幕府が壊滅したと言う事実を受け入れる事が出来ない。


「では何故連合国は官軍に反撃されないので御座いますか。」


「小百合様、その話しは私よりも山賀の司令官で吉永様が居られますが、其れよりも総司令に直接お聞き

になられたら宜しいかと思いますが。」


「でも私は総司令と申されますお方を知りませんのいで、其れに何か恐ろしいのです。」


「総司令は私の義兄上ですよ、其れに大変優しいお方ですからね何を聞かれても大丈夫ですよ。」


「ですが余り余計な事をお聞きすれば。」


「小百合様、源三郎様の事を知りたければ山賀の城下に参られ、領民に聞かれれば直ぐに分かりますよ、

まぁ~私やご家老、其れに山賀の家臣に聴くよりもよ~く分かりますからねぇ~。」


 小百合にすれば、何故家中の者に聴くよりも領民に聞けば分かるのか、其れが理解出来ないと言う表情をして要る。


「若様、では私達の処遇は総司令様が決められるので御座いますか。」


「う~ん、其れは私も分かりませんが、義兄上の事ですから、まず皆様方に聞かれると思いますが。」」


 若様は源三郎がどの様にするのかも分かって要る。

 だが問題と言うのは別の意味で、数人の女性が登って来たので有れば何も書状まだ認める必要など無い。

 だが今回は余りにも人数が多く、女性と子供が登って来たと言うのが問題で、この先官軍の大軍が登っ

て来る事も考え、対策を考えなければならないと言うので有る。


「綾乃様、私が何故義兄上に書状を送ったのかと申しますとね、綾乃様と小百合様と、まぁ~数人で有れ

ば私は問題だとは考えておりませんよ、ですがね、今回お二人が連れて来られたのは百五十人にもなるの

ですよ、其れも全員が女性と子供で有ると言うのが最大の問題でしてね、でも何も勘違いをされては困る

んですよ、綾乃様や小百合様もですが、他の人達が来られて困るならば山賀の領民があれ程にも古着を集

めたりはしないと言う事ですよ、少なくとも山賀の領民は皆さんを歓迎して要るのだと、其れだけは分

かって頂きたいのです。」


「若様、私も最初は大変驚きました。

 領民の方々が余りにも気軽に若様と呼ばれますので。」


「ですが、若しもその場に総司令が居られますと、まぁ~私の存在などは無いに等しいのですよ、でも私

がどの様に説明しても理解する事が、まぁ~はっきりと申しますが不可能ですよ。」


 若様は大笑いするが。


「では私達の処遇よりも大事な問題が在ると申されるので御座いますか。」


「正しくその通りでしてね、我々の連合国に来られる事が問題では無く、何故大勢の女性が登って来る事

が出来たのか其れが問題でしてね、若しもですよ、次に登って来るのが官軍なのか幕府の敗残兵だと考え無ければなりませんのでね。」


「では連合国は官軍でも幕府軍でも攻撃されるのですか。」


「いいえ、我々はむやみに攻撃はしませんよ、其れよりもこの山には狼の大群が潜んでおりますので、

我々は何もせずに見ておりますがねぇ~。」


「若様、一体どれ程の狼が潜んで要るので御座いますか。」


 小百合は狼の恐ろしさを知って要るのだろうか。


「私が聴いたところでは数万頭がいると。」


「えっ、数万頭もの狼がですか、では私達の時には本当に運が良かったのですか。」


「綾乃様の時は、ですが小百合様の時は百頭ほどだと聞いておりますので、若しもあの時数千頭が来たな

らば中隊も全滅した思いますよ。」


「若様、私は今頃になり恐ろしさが増して来る様で。」


「そうだと思いますねぇ~、我々がむやみに攻撃し連合国の存在が知られる事も考えられますので、其れ

よりも官軍が山に入れば必ず狼が知る事となり、其の時には狼の大群が官軍を襲い、まぁ~運良く逃れ他の部隊に知らせ、あの山には近付くなと、山に入れば何時狼の大群に襲われるかも知れず、生きて山を下る事は出来ないと、その様な報告が有れば幾ら装備の整った官軍でも山を越えて来る事は無いと思って要るのです。

 ですが現実には綾乃様と小百合様が百五十人もの女性と子供が一緒に越えて来られたのですから、我々

としては防御態勢を考え無ければならないのです。

 私は其の必要性を考え、松川、上田、菊池、そして、総司令の源三郎様に書状を送ったのです。」


「では私達の処罰は。」


「小百合様、私は勿論ですが、総司令は其の様な事を考えられるお方では有りませんのでね、安心して頂

きたいのです。」


 小百合もやっと理解したのか安堵の表情になった。


「綾乃様、小百合様、我々の連合国では領民の為に何が必要かを考え、今農地の拡張を行なって要るので

すが、其れでね今の連合国には人手が不足しておりましてね。」


「小百合、そう言えば、昨日の事ですが、賄いの人が不足して要ると。」


「正太さんですね、正太さんは山賀の城に巨大な空掘りが有りましてね、その現場の責任者になって頂い

ておりましてね、そうだ当分の間賄いさんの仕事に頂く事にしましょうか。」


「若様、その現場ですが、働いて居られる人達ですが。」


「勿論、男達が殆どですが。」


 若様も小百合が不安だと言う顔付きで分かって要る。

 小百合は男達ばかりの仕事場がどの様なものか知っており、自国では何時も必ずと言って良い程お酒に

酔って喧嘩が起き、其の時、賄いの女性達も被害に遭って要る。


「小百合様は男達ばかりの現場は危険だと思われるでしょうが、其れは心配は有りませんよ、何処の現場

でもですが、食事の時にはお酒を出す事は有りませんよ、但しですが休みの前日にはお酒を飲む事は出

来るのですが、若しも其の時に喧嘩が起きれば連合国では両者に対して裁きを出しましてね、その者達に

は連合国を追放しますから。」


「追放と申しますと。」


「簡単でしてね、山を越えて向こう側に行って、二度と連合国に入る事は許さないと、ですが、此処の山には狼の大群がおりますので、其れは連合国の全員が知っておりましてね、追放とは打ち首よりも恐ろし

い刑だと、ですから今の連合国では喧嘩する人達はおりませんよ、まぁ~仕事に対する議論は認めており

ますので、其の時こそ喧嘩腰になりますよ。」


 小百合は頭が混乱して要る様子だ、お酒を飲んでの喧嘩は狼のいる山に追放されると、だが仕事に対す

る喧嘩腰になると、其れは許されるとはもう訳が分からなくなっている。


「まぁ~今から余り深刻に考えられる事では有りませんよ、そうですねぇ~この数日の内に総司令が来られると思いますのでお話しは其れからでも宜しいかと思いますので、ゆっくり休んでは如何でしょうかねぇ~。」


「若様の申されます通りに致します。」


 綾乃と小百合は執務室を出て行く。


「まぁ~仕方無いか、昨日の今日で今までの生活とは全く別の世界に入ったのだからなぁ~、あの人達の事は義兄上に任せよう。」


 若様は独り言を言うが、やはり若様の思う通りになるだろう。

 山賀を早朝に飛び出した数名の家臣は一人づつ書状を持ち、松川、上田へと届けて行く。


「山賀から早馬で書状をお届けに参りました。」


「山賀からですか、一体山賀で何か有ったのだろうか。」


 源三郎は松之介の書状の読むと。


「う~ん、これは大変な問題ですねぇ~、鈴木様と上田様、馬の。」


「総司令、準備は出来ております。」


「では参りましょうか、其の前にどなたか菊池の高野様も山賀に来て頂きたいと伝えて下さい。」


 野洲では何時でも馬を使い、特に各国から書状が届いた時には大手門の門番は直ぐ厩舎に向かう事に

なって要る。

 やはり、若様の考えた通りで、源三郎の動きは早く書状が届いた四半時も経たないうちに野洲を出た。

 山賀で起きた問題は連合国の誰もが全く予想しておらず、大きな問題となる事は間違いは無い。







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