第 6 話。元官軍兵の処罰か処遇は。
源三郎が引き得る連合軍の大勝利に菊池の城下は大騒ぎで領民達の興奮は最高潮に達し、もう誰も抑え
る事も出来ない。
「お~いみんな今夜はお祭りだ、思いっきり飲むぞ。」
「よ~し今日は飲むぞ。」
「ねぇ~、一体あんた達は何の為に飲むのよ。」
「官軍に勝ったお祝いだよ。」
「あんた達は一体何を考えてるのよ、あんた達はねぇ~何もしてないのよ、其れがお祝いって一体どう言
う事なのよ。」
「そうよ、あんた達は後よ、其れよりもお侍様達を見てよ、誰も喜んで無いの。」
「あっ、本当だ、でも何で喜ばないんだ、官軍の奴らを殺したって言うのに。」
「うん、でも何でかなぁ~、誰かに聞いて見ようか。」
「いや何か変よ、お侍様が下を向いて要るから今は聞かない方がいいわよ。」
城下の領民の気持ちも分かる、だが侍達は何故か全員悲痛な表情で一体何が起きたのか領民達には全く
分からない。
菊池を初め、野洲、上田、松川の侍達が行なった最初の戦闘で官軍の兵、其れも全員が命令権を持つ兵士で、連合軍の家臣が放った矢で戦死すれば家臣達の気持ちも少しは楽になるが、数百人以上の官軍の指揮官、いや侍が矢を腕や肩に受けその場で戦死した者は少なく、殆どが山から来た狼の大群に噛み殺され、官軍兵の叫び声が家臣達の耳から離れないので有る。
「総司令、家臣達の表情が暗いですねぇ~。」
「工藤さん、其れも仕方が無いと思いますよ、家臣達の放った矢で死んだのならまだ納得も出来るでしょ
うが、殆どがかすり傷で狼の大群に襲われ噛み殺され、其の時の悲鳴が頭の中から離れずにおられるので
すからねぇ~、今まで話に聞いておられたと思いますが、高い山には狼の大群が住んで要ると、ですが殆どの家臣は狼は恐ろしいとは聞いていてもその実態は知らなかったのですから当然でしょう。」
「無理も無かった言う訳ですか。」
「ええ、言葉では簡単ですが、私はこれから先の方が本当は大変だと思って要るのです。」
「総司令、戦を経験した者もおらず、何と言っても連合国になる以前の大昔ですからねぇ~、家臣達の気
持ちも分かる様に思いますが、でも何時までも引きずるのも如何とは思います。」
「まぁ~今日は話すのはとても無理だと思いますので、其れと五千名の元官軍兵ですが、野営用の道具は
有るのでしょうか。」
「はい、先程吉田に確認し、ご城下の民家から離れた所に設営する様に指示を出して置きました。」
「では明日からの予定ですが、高野様、阿波野様、斉藤様と事前の話をしたいのですが。」
「承知致しました。」
「工藤さん、私は先に執務室へ参りますので。」
源三郎は家臣達に対する役目も考えねばと、家臣達に農作業に就けと言うのは無理だ、かと言って城に
戻ったところで、今までの様な役目に就くだけでは領民達の風当たりも強くなる考えなければならない。
「総司令、お呼びとか。」
高野達が来た。
「皆様方、大変お忙しいところ申し訳御座いませぬが、重要なお話しが有りますので、其れよりも皆様方
お座り下さい。」
高野達が座り、話には工藤も加わる事に成り。
「皆様方、お話しと言うのはご家中の方々のお役目なのですが。」
「総司令、私も先程から考えておりまして、我が連合国の家臣達もですが、五千の元官軍兵の処遇も考え
ねばならないと思うのです。」
「阿波野様は何か策を考え付かれたのでしょうか。」
「其れが考える以上に家臣達の処遇が難しく感じて要るのです。
実は私もでして、私もですが、今度の戦がどれ程家臣達に重圧を掛けていたのかと考えたのです。
私は反対にこの度の戦で気持ちが萎える様では、今後の連合国を任せる訳には参りませぬ。」
阿波野は何時までも侍気分では領民達の反発を受けるとでも考えて要るのだろうか。
「斉藤様は何かお考えで御座いましょうか。」
「総司令、私は皆様方に反対される覚悟で申し上げます。
私は今各国には連合軍が駐屯し警戒に当たっておりますが、これを全てご家中の方々と交代させる事は
出来ないかと考えて要るのです。」
斉藤は源三郎の考えた任務を先に提案した。
「斉藤様、ですが家臣達が急に山に入って警戒監視の任務に就くと言うのは無理では御座いませぬか。」
「阿波野様、ですが兵士達に監視任務が出来て、侍に出来ないと言うのは余りにも情けなさ過ぎると思い
ます。
私は其れよりも中隊の兵士達の負担が余りにも大き過ぎると感じて要るのです。」
「斉藤様、私も同じ様に考えておりまして、五千の元官軍兵ですが、私は殆どが農民や漁師を含めた領民達で、私は出来る事ならば元の仕事に戻って頂ければと考えて要るのです。」
「総司令、其れよりも家臣達に連発銃の扱い方も教えなければならないと思いますが。」
「工藤さん、連発銃の扱い方ならば十日も有れば十分だと思いますがねぇ~。」
「では今の中隊の兵士全員が元の仕事に就けさせるのですか。」
「まぁ~全員とは申しませぬが、其れよりも大切な仕事が有りますよ。」
「大切な仕事と申されますと、やはり狼の侵入防止の柵で御座いますか。」
「その通りでしてね、今回の官軍との戦で工事も滞っておりましたが、五千の元官軍兵と各中隊の兵士達
も加え工事の再開を考えております。」
「総司令、ではご家中の方々が山に入り、狼と幕府の敗残兵や官軍の警戒に当たらせるのですか。」
「その通りでして、家臣達には領民達、其れは農民さん達を直接守るんだと、其れで無ければ今までの様
に城中での役目だけでは本当の意味で領民達の為と言う役目に就いて要るとは考えられません。
領民の為と言う役目に就くので有れば農民さん達と工事に入る人達の安全も確保しなければ領民の為にはならず、農民さん達にすれば侍は城中で安全だ、ですが農民さん達は何時も身の危険を感じて要るのです。」
「確かに総司令の申されるのは間違いは有りませんねぇ~、特に農民は狼に何時襲われるやも知れないと
年中びくびくしながら農作業をされて要るのですから、侍だけが安全な所に要ると言うのは許されないと
思います。」
高野も農作業の現場に何度も行き、侵入者よりも狼に神経を使って要ると痛感して要る。
「高野様、敗残兵や官軍ならば人間ですから動きは読めるとは思いますが、狼が相手となればどの様な動
きをするのか全く分からないのです。
ですが私はこれから先は山賀も含め、連合国全ての家臣全員で狼から農作業と柵作りの人達を守る任務に就いて頂く様に考えております。」
「総司令、其れでは連発銃の訓練だけでも早急に行わなければならないと思います。」
「其れは配置されてからでも十分に行う事が出来ますので、其れに各国でも少しづつですが状況が違うと
思いますので。」
「では配置ですが、全員が元に戻り。」
「工藤さん、配置は全て別の国へと考えております。」
工藤もだが高野達も家臣は全員自国に戻るものだと考えていた。
「えっ、では自国に戻るのではないのですか。」
「その通りでして、自国に戻るとなれば何処かで住民と慣れが生じ、気を緩め狼や官軍兵が侵入しても誰もが気付かない、私は其れが一番恐ろしいのです。
私としましては長期間に渡り緊張感を持続して頂きたいのです。」
源三郎は長期間と言ったが、柵作りが完成するまでなのか、其れとも、柵作りが完成すれば狼は侵入する事は無く、残る任務は敗残兵と官軍兵の監視任務を続けさせるのだろうか。
「総司令、柵の完成後も任務は続くと申されるのですか。」
「勿論ですよ、柵が完成すれば狼が侵入する事は無いと考えられますが、敗残兵と官軍兵が山を越えて来
る事を考え無ければなりません。」
源三郎自身も敗残兵と官軍兵の監視が何時まで続け無ければならないのか見当もつかない。
「私も本当は狼だけの監視ならば柵が完成次第任務は終わりだと考えたいのです。
幕府の敗残兵と官軍兵が何時山を越え侵入して来るとも分からない状態では監視任務を終了させる事は出来ないのです。」
「確かに我々は山の向こう側で戦が終わって要ると思うかも知れませんが、幕府の敗残兵が絶対に登って
は来ないと言う保証も無く、敗残兵を探して要る官軍兵も山を越えては来ないとは誰もが断言出来ないの
です。」
「確かにそうですねぇ~、少人数ならば運良く狼に襲われる事も無く山を越えて来たと、誰かが官軍本部
に知らせたならば、我々の連合国は官軍に知られる事となり下手に夜襲でも受ければ連合国は壊滅させられますねぇ~。」
「阿波野様、私はまだ完全に幕府と官軍の戦が終了したとは考えたくはないのです。」
「総司令はまだ戦は継続していると考えておられるのですか。」
「私自身戦の最中だと考えております。
何時侵入して来るかも知れない幕府の敗残兵とその敗残兵狩りをしている官軍の監視が必要だと考えて
要るのです。」
「総司令、其れならば尚更今の中隊に任せる方が良いのでは有りませんか。」
「私は何も今の中隊を批判する気持ちは有りません。
其れよりも私は今の中隊の兵士達には本来の仕事をさせて挙げたいのです。」
「其れはやはり農作業でしょうか。」
「高野様、私は全員が農民さんだとは考えておりません。
漁師さんも居られるでしょうし、其れに他の仕事をされておられた方々も居られたと思うのです。」
「総司令のお考えでは中隊長と小隊長以外は元の仕事に戻らせ、その交代にご家中の方々を新しく監視任
務に就いて頂くのですね。」
各国に駐屯して要る中隊は中隊長と小隊長だけを残し、兵士達は元の仕事に戻らせると言うので有る。
家臣達には新たな任務は危険が伴う、家臣達が監視任務に就くので有れば、自国民を守ると言う意識を
芽生えさせ危険な任務は承知で其れが本当に領民の為に成るのだと理解させれば良い。
「総司令、家臣達にはこれからは領民を直接守る任務だと説明すれば宜しいのですね。」
「その通りでして、家臣達も今回の戦で初めて敵を殺したのですから、まぁ~其れよりも狼の恐ろしさを
知ったと思うのです。
ですが、狼よりも人間の方がどれ程恐ろしいか、其れを嫌と言う程知ったと思うのです。
これからの任務は今までの様な訳には行かないと理解させなければなりませんが、お話しは私が明日致
しますので。」
「総司令、其れで先程申されました配置ですが。」
「今度は別の考え方でして、例えば菊池のご家中は上田へ、上田のご家中は菊池に、野洲は松川へ、松川
は野洲へと全て自国では無く他国の中隊に入るのです。」
「総司令、山賀だけは別扱いに成るのですか。」
「今回集まった家臣は総勢で五百人以上で、ですが中には自国のお役目が大事だと考えておられたご家中も居られると思いますが、私から申せば城内の役目は誰でも出来ると思います。
私は監視任務は過酷だと考え、ご年配の方々には戻って頂く様に考えたのです。」
「確かに私も監視任務は過酷だと思います。
其れと言うのも山中を歩き回るのですから、年配者は外しても良いと思います。」
「阿波野様、その通りでして、其れで選考基準はお役目の中味では無く、年齢に重きを置いて頂きたいのです。
其れで残られた中で山賀へ混成部隊として派遣致しますが、五百人を切った時には均等にした人数にし
て頂きたいのです。」
「総司令、これには各国の殿様方も驚かれるでしょうねぇ~。」
「まぁ~其れは仕方が有りませんよ、ですが殿様方の反論はお聞き致しませんので。」
源三郎は殿様方に対し反論はさせないと、今回の任務は本当の意味で領民を守ると、その為には殿様方
やご家老様からは一切反論は聞かないと、それ程までにこれから先の任務は柵の完成と食糧増産と言う大
義名分は領民の、いや連合国で生きる全員の為だと、その為には例え殿様と言えど辛抱して貰わなわければ柵の完成も田畑を拡げると言う大計画は全て失敗し、其れは連合国の崩壊を招き、いや其の前に連合国の領民達は一斉蜂起するで有ろうと。
「総司令、ですが皆様方の中には直属の配下になっておられる家臣が居ると思いますので、その者達には元の配下に戻して頂きたいのです。」
「ですが其の様に致しますと、他の家臣から不満を持つのでは。」
「斉藤様は直属の配下が居られなければこの先の仕事が出来ると思われますか、高野様も阿波野様も同じ
ですよ、今配下の者を中隊に参加させれば一体誰が仕事をされるのですか、皆様方は特別のお仕事をなさ
れて要るのですからね、不満が有るならば私が直接お聞きしますので、其れでは明日の朝、皆様方には私
から説明させて頂きますので家臣の次には元官軍兵にお話しをさせて頂きます。」
「総司令、元官軍兵にも柵作りや田畑の拡張工事に就かせるのでしょうか。」
「私は戦が終わった時点から考えておりましたよ。」
工藤も元官軍兵の処遇は考え無ければと、だが源三郎が家臣達の処遇を発言したので、官軍兵の処遇の
は数日後になるだろうと考えた。
「私は柵作りと田畑の拡張工事が主力と考えておりますが、元官軍兵は捕虜として扱うのでしょうか。」
「私は捕虜として扱うのではなく、出来る事ならば官軍に入る以前の仕事に就いて頂きたいのです。」
やはり源三郎は今連合国に来た元官軍兵を兵士として扱うのではなく、出来るならば官軍に入る以前の
仕事に就いて欲しいのだ。
「総司令、農民が多いと思いますが。」
「高野様、私は大歓迎ですよ、と申しますのは柵が完成すると今までの倍、いや三倍以上の大きな田畑が
出来るのです。
五千人の全員が農民さんでも果たして足りるでしょうかねぇ~。」
源三郎は五千人の全員が農民だと思っていない、やはり人手不足なのか、更に山賀でも山の向こう側来
た農民が農地の拡張工事を行なっており山賀でも人手不足に成るのも間違いは無い。
五千人の全員が農民だとしても全体から見ればやはり人手不足になるだろうと。
「私は今からでも考えたく思いますので。」
「総司令は考えておられると思うのですが。」
「工藤さん、勿論考えてはおりますよ、ですが我々は連合国の領民だけの安全考え、我が連合国の沖合を
通る軍艦の侵入を防ぐ為に潜水船を造り、更に幕府の脅威に対する対策で洞窟や隧道を掘り食料を保管し
て来ました。
でも工藤さんや吉田さんが連れて来られた人達は正直を申しまして、我ら連合国の住民では無く、全員
が官軍の領地に居られた人達で、其の人達も今では連合国の一員となり、更に今回は五千人もの人達が今
連合国内に居られるのも事実なのです。」
「私は総司令もですが、連合国に住んでおられる皆さんは大変懐の深さを感じておりまして、今は大変感
謝致して要るのです。
私は総司令の事ですから、五千人の元官軍兵を受け入れられると思っております。」
「工藤さん、私は総司令が申されておられます、全ては領民の為、其れならばと私達も農民や漁師を含め侍以外の人達で有れば受け入れる事も可能だと考えております。」
高野は源三郎が何故領民は大切だと言った意味を理解しており、侍の全てを拒否しているのでは無い。
だが現実に戻ると侍と言うのは自らと領主だけの事を考え、城下の領民の生活を考えて要る侍は殆ど
おらずと言っても過言では無く、その為結果的には侍の入国は拒否するので有る。
「高野様、私も以前は侍でして若い頃は領主に対し忠誠心を持ち、領民、特に農村や漁村の人達の生活な
ど考える事は有りませんでした。
ですが官軍に入隊した頃は部下の殆どが農村や漁村からで、私は部下に聞いたのです、貴方方は何故官
軍に入られたのですかと、ですが彼ら農民や漁師の答えは家族や村人が生きる為には農村や漁村から男手が入隊する事で官軍からは食料の援助がされると、私はそれ程までに農村や漁村の生活が苦しいとは思いもしなかったのです。」
「では工藤さんは官軍に入られ初めて農村や漁村の生活が苦しいと分かられたのですか。」
「正しくその通りでして、私の知識の無さもですが、理解の無さで家族や他の村人の為に入隊されたと聴
き、私は正直衝撃を受けたのです。」
「其れでも幕府軍との戦闘はされておられたのですか。」
「私も幕府を倒せば、農村や漁村の人達の生活が改善出来るのだと信じておりましたので。」
「工藤さんは部下の兵士達には命を投げ出しても幕府軍を殲滅せよと命令を出せれたのですか。」
「私も最初の頃は突撃命令を出しておりまして、其れが当然だと信じており、当時の部下の半数近くが突
撃し幕府軍との白兵戦で戦死し、私も背中に刀を数か所受けましたが、運が良かったのか私は何とか生き延びたのです。」
「工藤さんも大怪我をされたのでしょうが、其れよりも部下の半数近くが幕府軍との白兵戦で戦死された
のが非情に残念です。」
「私は戦争ですから戦死は覚悟の上ですが、でも部下の殆どが農村や漁村からの人達で白兵戦ともなれば
敵軍は幕府軍で殆どが侍で農民や漁師が侍との白兵戦になれば勝つ事は無理なのです。」
工藤は農村や漁村から入隊した兵士が幕府軍の侍と白兵戦で多くの部下を戦死させたと今でも責任を感
じて要るのだろう。
「工藤さんも農民や漁師は大切だと考えておられて要るのですか。」
「総司令、私は先程も申しましたが、若い頃は侍が偉いと思っておりました。
ですが部下の殆どが農村や漁村からでこれだけ多くの農民や漁師が官軍に入隊すれば農作業や漁は一体
誰がするのだろうかと考えまして、部下の農民に聞くと女性や老人が農作業や漁に出て要ると。」
幕府軍の大半が侍だが官軍の兵士達の大半は城下の領民で連発銃を持つ兵士達は離れての戦には強いが、白兵戦ともならば侍は太刀で切込み、兵士達は連発銃を振り回すだけで多くは致命傷にならず、だが侍は太刀を振り回すのでは無く、致命的な傷を与え、其れが兵士達には大変な脅威で幕府軍の侍達は官軍兵は皆殺しだと叫び、仲間達が次々と切り殺され、其れが余計恐怖を呼び、兵士は逃げ惑い、侍は追い掛け切り殺す、その様な状況で果たして白兵戦で官軍兵は生き延びる事は出来るのだろうか。
「工藤さんは白兵戦で多くの兵士を無くされたのですが補充は有ったのですか。」
「其れは勿論でして、司令部に補充をお願いし、数日後には戦死者と同数の補充兵が来たのです。
其れが結果的に私が司令本部に不信感を持つ事になったのです。」
「ですが兵士の補充が有れば又戦地に向かう事に成るのでは。」
「ですが、私は部下から聞いた官軍に入れば村には食料援助がされ村人は食べ物には困らないと、ですが其れは兵士を勧誘する為に大量の食料を持ち込み其れで村人を安心させていたのです。」
「では兵士として官軍に入隊させられた村のその後食料は届けられたのですか。」
「阿波野様、其れこそ官軍の司令本部にすれば良い機会だとして兵を集めれば後は食料を届け無かったの
です。」
「高野様、私は突撃よりも幕府軍との戦を拒否したのです。」
「えっ、ですが司令本部は許可しないでしょう。」
「其れは勿論ですよ、私は司令本部には幕府軍の追撃を進言し、司令本部を騙したのですが、まぁ~司令
本部も私を全面的に信用はせず、隊長を同行させたのです。
結果的には司令本部は私を全く信用していなかったと思いますが、この隊長は私を利用し幕府軍に連発
銃と大量の弾薬を売り付けるつもりでした。
ですが総司令のお陰で隊長は狼の餌食に、私と部下の命は助けて頂いたのです。」
工藤はあの時の事を思い出していた。
あの時、源三郎がいなければ部下の全員と自身は狼の餌食になっていた。
「まぁ~考え方を変えれば工藤さんは補充兵の話を聞かれなかったとすれば今頃工藤さんは我々の仲間に
はなってはおられませんですねぇ~。」
「私はあの時死を覚悟しましたが、私は其れよりも部下だけは助けて頂きたいとお願いしたのです。」
「そうでしたかねぇ~、私は忘れましたよ。」
「総司令はお忘れだと申されましても、私はこの人物は農民や漁師など領民を何よりも大切に思われ、領
民の為ならば命を捧げられるお方だと、其れで私はこのお方の為ならば例え戦死したとしても悔いはない
と、ですが私よりも部下達が大喜びでして部下はこれで幕府軍との戦も無くなると。」
「やはりねぇ~、農民さんや漁師さん達には戦は似合いませんからねぇ~。」
「ですが今は幕府軍との戦では無く、同じ農民を狼から守る任務に彼らは誇りを持っております。」
「工藤さん、私も今のお気持ちは大変有り難いと思っております。
ですがやはり農民さん達ですから元もお仕事に就いて頂きたいと思っております。」
「総司令は駐屯兵を元の仕事に戻って欲しいと考えておられるのですか。」
「農作業は侍には無理だ、ならば家臣は警戒任務に、中隊の兵隊さんは元の仕事にと考えたのです。」
「総司令、若しもですが駐屯兵の中からこれから先も警戒任務を続けて行きたいと申し出が有ればどの様
にされるおつもりなのですか。」
「工藤さん、私は何も全員元の仕事に戻れとは申しておりません。
出来る事ならばですから、まぁ~其の時にならなければ分かりませんからねぇ~、明日になれば分かり
ますので、其れと私の説明不足で皆様方には大変不愉快な思いをされたと思うのですが、ご家中の全員では無く、其の前に各役所の上司に聞いて頂きたいのですが、役所での必要人員とは最低人員でして、ですが若い家臣は戻る事は無理だと伝えて頂きたいのです。」
「お役目の最低必要人員でしょうか。」
「皆様方も大変苦しいでしょうが、これから先は城内のお役目よりも警戒任務が重要だと考え、出来れば
最小の人員で賄って頂きたいのです。」
「では仮にお役目は今までは五人だとすれば一人でお役目に就くのだと言う事でしょうか。」
「私は野洲での役目を知っておりますので、其れと賄い処での食事作りも今までとは違い、お殿様もご重
役方のお食事も簡素にして頂きたいのです。」
さぁ~大変な事に成った、家臣の殆どは今の駐屯兵と交代し警戒任務に就かせる、城内の各役所には若い家臣は必要無く、年配者だけで役目を熟せと、更に城内の食事も簡素にせよと源三郎は決めた。
源三郎は反発は予想しており、其れよりも一日でも、いや一刻でも早く柵を完成させ食糧増産に持って行きたいので有る。
「皆様方、明日になればどの様になるのか分かりますので、今日のところはこれにて終わりとしたいので
すが。」
工藤と高野達は執務室を出、工藤は中隊へ、阿波野と斉藤は高野と食事に入った。
そして、明くる日の朝、家臣達が食事に入った時。
「皆様方、お食事中のところ大変申し訳御座いませぬ。
お食事が終わられた後、連合国に取りましては大変重要なお話しが御座いますので、菊池のご家中も含め其のまま残って頂きたく存じます。」
源三郎は其れだけを伝え、頭を下げ部屋を出た。
「一体どの様なお話しなのだ、源三郎様は連合国の為だと申されたが。」
「拙者は早く戻りお役目に就かなければならないと言うのに。」
「左様、拙者もで御座います。」
菊池に来た家臣達は一応誰もが直ぐ国に戻れると思っており、だがその考えは甘かった。
そして半時程して源三郎は工藤、高野、阿波野、斉藤を伴い大広間に入った。
「皆様方、昨日官軍との戦では皆様方の大活躍でご家中の皆様方と連合軍兵士からは一人の犠牲者も出ず我が連合国の大勝利となり、私は皆様方に対し感謝致しておりまして、誠に有難う御座いました。」
源三郎は改めて五百人の家臣に手を着き、頭を下げ、工藤達も続き、家臣達に同様に頭を下げた。
「皆様、これからお話しを致しますが、皆様方は今後我が連合国の為に大変危険ですが、其れは連合国が
本当の意味で生き残りを掛けた大仕事だと思って頂きたいのです。」
源三郎は其の後半時以上掛け家臣達に詳しい説明したが。
「源三郎様、何故我々が警戒の任に就くのでしょうか、今はどちらのお国でも駐屯されておられます中隊
が警戒任務に就いておられると思うのですが。」
「勿論承知致しております。
ですが、其の駐屯されて要る兵士の殆どが元は農民さんや漁師さん達で、其の人達にも元の仕事に戻っ
て頂き、拡張された農地に入り農作業や漁に入って頂きたいのです。
其れよりも、これから行われる農地拡張ですが大勢の人達が必要になるのですが、皆様方の中で土木工
事を始め農作業や漁業に就いて頂けるお方は居られるでしょうか。」
源三郎は警戒任務を拒否するならば、農作業や漁に出る事が出来るのか聴きたかった、だが家臣達の反
応は全く無い。
「皆様方は侍で何が何でも農作業や漁に出る事は出来ないと考えておられますねぇ~、其れでは侍に出来
る任務と考えれば、この菊池から山賀に至るまでの山々に入り警戒任務に就く事は可能だと考えたので
ねぇ~、如何で御座いますか。」
「源三郎様、私は大事なお役目が有りまして、一刻でも速く帰り、お役目に戻りたいのです。」
やはり来たか、今源三郎の前に座る五百人の家臣の考えは手に取る様に分かる。
「ご貴殿はお役目が大事だと申されますお気持ちは私も理解します。
ですが、皆様方の中でお国より早く帰れと書状が届いたお方は居られるでしょうか、私の知る限りどの国からも書状は届いてはおりませぬ。」
「源三郎様、私は戦が終われば国元に帰るものだと思っておりました。」
「私は其の様な事は一切もうしてはおりませぬ。」
「源三郎様、では我々は国には戻れないのでしょうか。」
「はい、正しく其の通りです。」
源三郎は家臣達の考えの全てを否定して要るのでは無い。
家臣達は連合国が生き残る為には今は警戒任務が重要な任務だと言う事を理解していないと思った。
「ですが拙者は国に戻りたく思っております。」
「源三郎様、拙者もで御座います。」
と、その後全員だと言っても良い程国に戻りたいと言うのだが。
「では皆様方にお聞きします。
昨日の五千人とその以前に連合国に入られた人達は一体どの様に成るのですか、貴方方以上に故郷に戻りたい、だけど村は焼かれ家族は幕府軍と官軍との戦で殺され、帰りたい、だが帰る村は無いのですよ、其の人達の気持ちを考えた事は有りますか。」
源三郎は家臣達の反論は予想の範囲内だと、どの発言を聴いても農作業は、いや警戒任務は出来ない国に帰りたいと。
「皆様方、私は何も山の向こう側に行って下さいとは申しておりません。
田畑を拡張する作業が数年間も掛かり、其の作業員達を守る任務に就いて頂きたいのです。」
「源三郎様、一体何年掛かるのでしょうか。」
「其れは私にも分かりませんよ、でも今回の戦で木こりさんや大工さん達も一度戻られ作業の再開を待た
れて要るのです。」
「では棚が完成すれば警戒任務には終わるのでしょうか。」
「貴殿の考え方は甘いですねぇ~、狼の侵入防止柵が完成しても幕府軍の敗残兵か官軍兵が何時どの山か
ら登って来るか、其れも警戒せねばなりませんのでねぇ~、まぁ~数年間は戻る事は出来ないと考えて頂
きたいのです。」
源三郎は家臣達の気持ちは分かって要る。
だがこの警戒任務は家臣に当たらせ無ければならないのだと。
「まぁ~はっきりと申しまして皆様方が戻られ無くてもお役目に支障は御座いませんので安心して警戒任
務に就いて下さいね。」
「源三郎様、拙者は戻りますので。」
彼は松川の家臣で、源三郎のやり方に反発したので有る。
「ご貴殿は。」
「私は松川の家臣で、私には大事なお役目が有りますので。」
「其のお役目とはどの様なお役目なのですか、出来ればお聞かせ頂きたいのです。」
「拙者のお役目は勘定方の。」
「斉藤様、松川の勘定方はそれ程にも大変で誰にでも出来る様なお役目では無いと、私には聞こえたので
すが、如何御座いますか。」
斉藤は内心この家臣は源三郎の話を聴いておらないと。
「総司令、松川では年配者が今回の出陣に当たり、交代しており何の障害も御座いませぬ。」
「ではお聞きしますが、他の国では如何で御座いましょうか。」
「総司令、菊池はでは何の支障も御座いませぬ。」
「総司令、上田もで御座います。」
「皆様方、よ~く分かりました。
ご貴殿がどうしても帰りたいと申されるならば、私は何も申しませぬ。
ですが菊池から山賀の領民にはご貴殿は連合国の為で無く、我が身の為に松川に戻りたいと申されておられると立て札を出し、勿論松川の城下の隅々まで立て札を出しますからね、ご貴殿がどの様に避難されるのか、私には想像出来ませんがご貴殿の家族は家を出る事も出来ないと思いますが其れで良ければどうぞ其のままお帰りされても宜しいですよ。」
「う~ん、何と卑怯な。」
「何を、今一体何と言った、私が卑怯者だと、其れならば聞くが農作業や柵を作る人達の安全よりも我が身が大事だと申すお主は卑怯者では無いと言うのか、よ~し分かった、お主は即刻帰れ、だが菊池の領内を出る時には相当な覚悟をする事だ、誰か中隊の兵士に伝えよ、一人領民の事よりも我が身が大事だと言う侍が出て行くのでどの様な言葉を浴びせても良い、連発銃で撃ち殺しても良い、さぁ~早く伝えよ。」
遂に源三郎を怒らせてしまった。
果たしてこれから先は一体どうなると言うのだ。
「総司令、少しお待ち下さいませ。」
「斉藤様、私に待てと、ですが私はどうにも我慢が出来ませぬ、皆が何事に置いても我慢をして要ると言
う時にですよ、我が身の事が一番大事だと、今の私は何も反論は聞きたくは無い。」
「総司令、実は家の者には先日第一子が誕生したのです。
ですが今回の戦でこの者にはまだ我が子の顔も見ていないのです。」
「そうですか、其れで斉藤様は何を言いたいのですか。」
「私も総司令の申されます任務に就きましては何の異論も御座いませぬ。
ですが、この者に取っては第一子の顔も見たいと思うのです。」
「斉藤、何を甘い考え方なのだ、では聴きますが官軍との戦が今も続いており、其れでも帰ると、私は貴殿の申される産まれた我が子の顔を見たいと、其れは十分に理解出来る、私は何も全てが駄目駄だとは申しておりません。
でも此処に居られるご家中の皆様には無理を申しておりますが、今、この連合国に駐屯して要る元官軍兵の全員が遠く故郷を離れ駐屯されておられるのです。
工藤さんも吉田さんもご家族が果たして生きておられるのかも分からず、更に駐屯されて要る兵士の殆どが気持ちの中では早く故郷に帰り肉親を再会したいのです。
ですが、全員が辛抱されて要るのです。
其れは何故か分かりますか、まぁ~貴殿には全く分からないと思いますが、彼らは兵士の前に農民でも
有り、漁師でも有るのです。
其の人達は我が目前で妻や子供が殺され、仕方無くと言えば語弊が有りますが、今は故郷に帰っても妻
や子供のいない家には戻れないと、言葉では諦めておられるのです。
ですが本心では妻や子供の弔いをしたいと思われて要るのですよ、貴殿は其れさえも理解が出来ないと
と申されるのか、はっきりと申されよ。」
「総司令、宜しいでしょうか。」
「工藤さん、私は工藤さんや他の兵隊さん達には大変辛い任務だと思っております。
連合国の家臣とは全く別の立場で申し訳御座いません。」
「総司令、そしてご家中の皆様方、私達の故郷はこの地より百里以上も離れた所に有る小国で、其の国に
は私の妻と五才になったばかりの子供がおります。
更に妻と私の両親もおりますが、私は官軍の中では戦死したと伝えられて要ると思います。
妻は私が簡単に戦死したとは考えていないと思うのです。
其れよりも私は官軍を裏切ったと言う噂が流れて要ると、吉田から聴きました。
皆様方も侍ならばお分かりだと思いますが、裏切り者の家族が果たして武家の家を維持出来ると思われ
ますか、如何で御座いましょうか。」
家臣達は返答出来ないのか、其れとも返答も考えていないか誰もが静かに聴いて要る。
「皆様方、駐屯地の中隊長や小隊長も含め、全員が故郷に帰り平和な生活に戻りたいのです。
果たして今の我々に対し官軍の司令本部も故郷の人達も温かく迎えてくれるとは思わないのです。
下手をすれば全員が軍法会議に掛けられ全員が銃殺刑に成るのは間違いは有りません。
我々は戦死は覚悟しておりますが、裏切り者として故郷の人達の前で銃殺刑に成るよりも苦しいですが
連合軍の一員として、総司令が迎い入れて下さったのです。
私も皆様方のお気持ちは痛切に感じております。
ですが皆様方よ~く考えて頂きたいのです。
総司令の申されます警戒任務は皆様方とご家族、そして領民の為で、その他には何も無いのです。」
工藤は本心を言ったのだろうか、だが其れよりも一体誰の為の警戒任務なのか、其れは全て領民の為で
有り、最後には我が身と我が家族の為で有ると。
「皆様方、警戒任務ですが何も今直ぐにとは考えておりません。
皆様方は一度自宅に戻って頂き、奥様やご両親に説明して頂きたいのです。
其れと皆様方が警戒任務に就いて頂く配置ですが、菊池隊には上田へ、上田隊は菊池へ、野洲隊は松川
へ松川隊は野洲へと致します。」
「では山賀は。」
家臣達の中には工藤の話を聴き警戒任務に就いても良いと考える者も出て来た。
「山賀ですが、今は五百人の方々がおられますが、この中から数人か数十名の方は自国に戻って頂く事に
成りますので、仮に四百数十名となりました時には各隊の中から数十名を選び、其の方々に山賀に行って
頂く事に成りますが、山賀には既に一個中隊を派遣し二個中隊で特別警戒に入って頂いております。」
「総司令、今申されました特別警戒と申されますのはどの様な警戒なので御座いますか。」
「では簡単に説明致します。」
源三郎は山賀の山越えが多くなると考え、小川と一個中隊を官軍との戦が始まる前に派遣したが、其の
内容を説明すると。
「では山賀では猿軍団と申される領民が先頭になり、山越えすると思われる幕府の敗残兵と官軍の監視して要るのですか。」
「正しくその通りでして、山賀は別の扱い方と考えており、小川さんにお任せて致しております。」
「総司令、私は警戒任務に就かせて頂きたく思います。
と申しますのは今お聞きしました山賀では領民が先頭になり特別警戒に就いておられる中で侍で有る私が警戒任務に就けないと言うのは連合国の侍で有るならば恥だと考えました。」
「総司令、拙者も参加させて頂きます。
領民が命を掛けて要る中で、拙者は侍で他にお役目が有り警戒任務に就けないと言うのは恥じるよりも連合国の侍として誇りが有るので御座います。」
「私は何卒山賀へ向かいたいと思います。」
「私もで御座います。」
一人の家臣が名乗り上げると、その後は次々と其れは殆ど全員と言っても良い程で。
「皆様、誠に有難う御座います。
やはり皆様方は我が連合国のご家中で御座います。
ですがこれから人選も有り、その後は連発銃の扱い方も覚えて頂かなければなりませんが、皆様方は一
度自宅に戻り、数日後、そうですねぇ~、四日、いや五日後野洲に集まって頂きたいのです。」
其の頃、小川は菊池の大手門に着いた。
「総司令はご無事でしょうか。」
「はい、皆様方全員がご無事で御座います。」
「左様ですか、其れは良かった、其れで総司令は。」
「今頃は大広間かと思いますが。」
菊池の門番も官軍との戦は大勝利で終わったと知ってはいたが、其れ以上の事は知らない。
「左様ですか、では私も参りますので、馬は。」
「私が手配しますので、どうぞ其のままで。」
「では、お願いします。」
小川も安心したのか少し身体が軽くなった気がし大急ぎで大広間へと向かった。
「総司令、先程は誠に申し訳御座いませぬ、私は。」
「もう宜しいですよ、分かって頂ければ全て無かった事にしましょうかね。」
斉藤もほっとした、一時はどうなるのだろうかと心配になったが、其れよりもこの様な問題は彼一人で
は無かった。
まぁ~何れにしても源三郎は何事も無かったのだと。
「総司令、失礼致します。」
「小川さん、一体どうされたのですか、山賀に官軍が攻めて来たのでしょうか。」
其れは源三郎だけでは無く工藤も山賀で事態が急変したのかと思った。
「いいえ、山賀では何事も起きてはおりません。」
「では何故急に戻って来たのですか。」
「私と一個中隊が山賀に入り、総司令の指示をと若様と吉永司令官に申しましたところ、山賀には猿軍団
がおり、山賀に侵入して来ると思われる幕府の敗残兵と敗残兵を捜索して要る官軍の監視任務に入ってお
られ、私は山賀での任務に付きましては、全て猿軍団に任せ、二個中隊は猿軍団の指示で従う様にと。」
「やはりでしたか、猿軍団は連合国の特に山賀の山を知り尽くしておりますので、中隊もその方が任務と
しては楽になると思いますねぇ~。」
「若様も猿に任せれば良いと申されておられました。」
「若も猿に任せよと、何も知らぬ者が下手に動くよりも発見が早いと考えられたのでしょう。」
「其れで私も山賀は中隊長に任せた方が良いと思いましたので、ですが一体何が起きたので御座いますか、私は総司令が。」
「私ですか、私は何もしておりませんよ、其れよりも戦が余りにも簡単に終わりましたのでね、まぁ~全
くの予想外でしたよ。」
「総司令、実は私が山賀に行く途中に考えていたのですが。」
「小川さんも何かを感じておられたのですか。」
「其れなんですが、菊池から山賀まで続く狼除けの柵ですが。」
小川は全ての柵を完成させるのは余りにも人手が不足するので今駐屯して要る中隊の兵士全員で当たら
せてはと考えており、中隊の代わりに家臣が山の警戒任務に入る事は出来ないか、出来るならば柵は早期
の完成も可能で同様に田畑の拡張工事に入れると。
「小川さん、其の話しを今朝から説明させて頂いていたのです。」
「左様でしたか、でも人手はまだ不足なのでは。」
小川は官軍兵の全てが投降した事を知らない。
「小川さん、実はねぇ~官軍兵五千人が投降しましてね。」
「えっ、では全員捕虜なので御座いますか。」
「小川さん、捕虜では有りませんよ、ですが官軍の指揮官全員は狼の餌食になりましてね、残ったのが歩
兵だけでして、私は彼ら元官軍兵を連合国に迎い入れるつもりでしてね。」
「総司令、私は大助かりで御座います。」
「左様ですか、其れで山賀の件ですが。」
「私は山賀と言う国は特別だと考えております。
其れは菊池と野洲の二国を合わせた程にも大きく、山賀だけは今の中隊とは別に特別な方法での警戒が
必要で、猿軍団と二個中隊が警戒に当たりますが、其れとは別に特別編成された部隊が必要かと。」
「皆様方、今お聞きになられました様に山賀だけは特別編成部隊が必要だと、工藤さん、編成は後日にな
りますが如何で御座いましょうか。」
「総司令、私は其れで良いかと思います。
其れで私は特別部隊には隊長と中隊長、小隊長が必要だと考えるのですが。」
「皆様方、今工藤さんが申されました様に隊長、中隊長、小隊長が数名必要だと思いますが、皆様方の中
から選ばれますか、其れとも今の中隊の中から選んで頂く方が宜しいでしょうか。」
だが家臣達は今の今まで侍の立場で戦に入っており、其れが急に軍隊と言う考えもしなかった組織にな
り、仲間の中から隊長、中隊長と、更に数人の小隊長を選べてと言われ、だが選ぶと基準が分からない。
家臣の立場では命令を出すのは無理で、家臣達に命令を出すのはお殿様だけで、家臣達はお殿様の命令に従えば良かった。
だが軍隊では上層部が作戦を練り、作戦命令を出すのは上層部だけで、お殿様と言う人物からの命令で
は無い。
官軍でも同じだが、連合国では総司令の源三郎が命令を出すだろうか。
「総司令、家臣の中から隊長や中隊長を選出すると言うのは無理では御座いませんか。」
「斉藤様、何故でしょうか。」
「武士と言うのはお殿様からの命令を聴いており、今此処に居られるご家中の中から隊長を選び出すと言
う事になれば判断基準が分からず、指示を出すのが遅れると思いますが。」
「では中隊の中から選べと申されるのですか。」
「総司令、私も斉藤様の提案に賛成です。
今の今まで命令を受けていた者が突然反対の立場になると言うのは無理が生ずる考えられます。
私は軍隊は知りませんが中隊の中から隊長と中隊長、小隊長を選び出す方が家臣達も安心するのでは御
座いませんか。」
阿波野も斉藤の提案に賛成だと言う。
「工藤さん、如何でしょうか、山賀は特別編成が必要だと、其れならば小川さんに隊長を任せ、小川隊長
は中隊の中から中隊長と小隊長を選んで頂けますか。」
「私も小川ならば大丈夫だと思います。
小川大尉、君が隊長となり、山賀で任務に当たる中隊長と小隊長を選んで下さい。」
小川は正かと思った。
官軍との戦は直ぐ終わり、連合国の大勝利だと、だが其れよりも山賀には特別編成の部隊が必要だと提
案したのが結果的には特別編成部隊の隊長となり、改めて山賀への派遣が決定したので有る。
「総司令、私は重大な責任を感じますが、其れよりも皆様方の協力を得まして、何としても任務を果たし
ます。」
「小川さん、まぁ~余り深刻には考えられずに、山賀の猿軍団とも話し有って無理をされない様にお願い
致します。」
「勿論で御座います。
私は皆様方には休みも大変重要だと考えて頂きたいのです。
私は以前の官軍では休みも無く、その為に身体も心も疲れ果て本来の任務では力も発揮出来ず戦死された人達も知っておりますので。」
「小川さん、大変素晴らしい提案だと思いますねぇ~、私は身体も休め、其の時には心も休まれば本来の
力は発揮出来ると思っておりますので、まぁ~小川さんも数日の休みを取られ、工藤さんと吉川さんと良
く相談され、其れが終われば部隊編成に入って下さい。」
「総司令、承知致しました。
皆様方、何卒宜しくお願い致します。」
小川は改めて源三郎に敬礼し家臣達にも協力を要請した。
「皆様方もどうかご理解して頂き、何としても柵の早期完成と田畑の拡張工事が無事に終わります様にお願い申し上げます。」
源三郎は家臣達全員が快諾したと解釈した。
「では皆様方、私は次に元官軍兵五千人に対し説明しなければなりませんので、これを持ちまして皆様方
は解散と致します。
後程日程をお知らせ致しますので、それまではのんびりとして頂いても宜しいかと思います。」
「総司令、私達も国に戻り殿とご家老に説明に入れば宜しいのでしょうか。」
「高野様、阿波野様、斉藤様は残って頂き、元官軍兵に説明に入りますのでお手伝いを願います。」
その後暫くして松川の家臣が最初に菊池を出立し、上田、野洲の家臣達も戻って行く。
「総司令、家臣達は本当に納得したのでしょうか。」
「う~ん、其れは私も分かりませんが、納得する、しないは別として家中の皆様方にはこの任務に入って
頂かなけれなりませんよ、私も五千人の官軍兵が投降するとは考えてはおりませんのでしたので、ですが
五千人が柵作りと田畑の拡張工事に入って頂ければ、我々としては大助かりで、更に次の農作業に就いて
頂ければ尚助かると思うのです。」
「確かにその通りですねぇ~、私も正かとは思いましたが、其れよりも弓を引く手が震えていた家臣もお
りましたので。」
「う~ん、ですが私はこの戦に負ける訳には行かないと、勝つ為には誰もが考える様な策では駄目だと思
いましたが、総司令は最初から狼を利用する方法を考えておられたのですか。」
「いいえ、私も最初は兵士に狙いを定めようと考えたのですが、五百人の家臣と一千名の兵士で五千人の
敵軍に勝つ事が出来るだろうかと考えれば並みの戦術では、我々は下手をすれば必ず全滅させられると考
えたのです。」
「ですが、何故指揮官だけを殺せば良いと思われたのですか。」
「其れはねぇ~、工藤さんのお陰でしてね、工藤さんの助言が無ければ今頃我々連合軍は全滅し、菊地の
お城は炎上し領民がどの様になって要るか想像するだけでも恐ろしい光景になって要ると思うのです。」
「総司令は五千人の元官軍兵に話されるのですが、彼らはどの様に思うでしょうか。」
「高野様、其れでお願いが有りまして、この説明に領民さんにもお手伝い願いたいのです。」
「領民にですか。」
「はい、多分官軍兵は私の話しは信用しないと思うのです。
其の時、領民さんにも話に加わって頂ければ、彼らも少し安心するでは無いかと思いましてね。」
源三郎は自身もだが高野達が話をしたとしても殆ど信用されず、工事だと騙して殺されるのだと思うだ
ろう、だが其処に領民が入り、別の話をすれば彼らの中からも信用する者が出、その人数が次第に多くな
れば話も進める事が出来るだろうと考えたので有る。
「総司令、了解致しました。
直ぐに手配致しますが、何人くらいが宜しいでしょうか。」
「人数は考えてはおりませんよ、全て領民さん達の意思にお任せしますので。」
「承知致しました。
其れで何時から始められますか。」
「今頃、吉田さんが何かを話されて要ると思いますが、半時後では如何でしょうか。」
「では吉田少佐にも話して置きますので。」
「其れと連合軍の兵士は必要有りませんので、全員を解散させて下さい。」
「はい、承知致しました。」
源三郎も少し休みが欲しいと考えていたが、阿波野も斉藤も分かっていたのか、高野が城下に向う時
二人も同行するので有る。
「高野様、総司令ですが、大変疲れておられる様に見えたのですが。」
「阿波野様、私も同じ様に見えましたよ、総司令はこの戦に全身全霊を掛けておられたと思います。
今回の戦を我々だけで果たして勝利を得る事が出来たでしょうか、私は余りにも総司令に頼り過ぎだと
改めて思うのです。」
「私も同じで先程の話でも我々が先頭にならなければならないと思いました。」
「私は領民には出来るだけ多く参加して頂きたいと考えて要るのです。」
「高野様、私も同様で、其れで私達が領民に対し何故五千人の元官軍兵が必要なのか、勿論領民は知って
おられますが、官軍兵が聞いた時には優しく答えて下さいと。」
「斉藤様、其れが一番大切だと思いますねぇ~、其れと官軍兵には貴方方は決して捕虜では無く、我々連
合国の一員として迎い入れますよと、これは大事だと思うのですが。」
「阿波野様、私も同感ですよ、彼ら官軍兵は今までの戦闘で幕府軍を皆殺しにして来たと仮定すれば、今
度は我が身だと思うのも当然でしょうが、我々は幕府軍では無いと、これは強調しなければなりませんからねぇ~。」
「高野様、其れでは如何でしょうか、菊池にも山の向こう側から来られた農民さんもおられると思うので
すがその人達にも参加を願う訳には行かないでしょうか。」
「勿論おられますので、その農民さん達にも話しに参加して頂きましょうか。」
源三郎は官軍との戦に続き、今朝は五百人の家臣に警戒任務に就く様に説明し、その後元官軍兵にも連
合国で行う狼の侵入防止の柵作りと田畑の拡張工事に就いて欲しいと話しをしなければならず、普段は余
り疲れを知らないが眼を閉じると眠ってしまい、その半時後。
「総司令。」
「はい、私は。」
と源三郎は何故か驚き飛び起きた。
「総司令、大変お疲れで申し訳御座いません。」
「いいえ、私は大丈夫ですよ、では参りましょうか。」
源三郎と高野は大手門前の広場に向かった。
大手門前の広場には五千人の元官軍兵と大勢の領民が源三郎を待っていた。
「皆様、大変お待たせ致しました、私は源三郎と申します。
今から皆さんに大切なお話しが有るのですが、話しの途中でも宜しいので聴きたい事が有れば手を挙げ
立ってから聴いて下さいね、では今からお話しをしますのでよ~く聞いて下さい。」
源三郎は元官軍兵に詳しく説明を始めた、だが直ぐ質問が有った。
「源三郎様、オラ達は官軍で敵ですよ、その敵軍を逃がしてくれるって本当なんですか、オラ達が歩き出
したら後ろから連発銃で撃ち殺すんだ、きっと殺すに決まってるんだ。」
「いいえ、私は嘘は申しませんよ、その証拠に皆さんの周りに連合軍の兵士はおられませんよ。」
元官軍兵達は一斉に辺りを見回すが、何処にも連合軍の兵士はおらず、彼らの周りは領民だけが居る。
「源三郎様、兵達さん達は朝早くから山に入って行きましたよ。」
「其れはわしも見たよ、まぁ~今日は狼も兵隊さんが多いから出て来ないと思いますよ。」
「何で兵士が山に入るんですか。」
元官軍兵は山には狼の大群がいるとは聞いては要るが、まだ信用していない。
「此処の山にはねぇ~、狼の大群が要るんで農作業をする人達を守る為に山に入るんだよ。」
「え~じゃ~あの時、狼の大群が来るから早く逃げろって言ったのは。」
「ああ、勿論本当だ、狼の大群は菊池から山賀に続く山に数万頭も要るんだ、わしらは其れを知ってるか
ら絶対に入らないんだ。」
「まぁ~皆さんは今の話を直ぐ信用する事は出来ないと思いますが、私は皆さんを捕虜だとは思っており
ませんよ。」
「そんな話し、オラ達が信用すると思ってるのか。」
「まぁ~ねぇ~確かにその様に思われるでしょうが、ですがねぇ~我々は貴方方を捕虜にする理由が無い
のですよ。」
「オレ達は敵軍なんですよ、だから捕虜になり、その工事に入って工事が終われば直ぐ殺されるんだ。」
「ねぇ~あんた、そんなに死にたいんだったら今直ぐこの隧道から向こう側に行けばいいのよ、直ぐ狼の
大群が来て噛み殺され、猪や其れに烏の餌食になればいいんだ、早く行きなさいよ。」
「そうだよ、源三郎様、この人達は全然信用して無いんですよ、源三郎様、オラ達が柵も作り、田畑も作
るからみんなを隧道から外に出したらいいんですよ。」
「なぁ~あんた達、オラ達は山の向こう側から此処に来たんだ。
山の向こう側ではなぁ~、毎年の様に幕府の奴らや官軍に、其れに野盗の連中に食べ物を取られ、オラ
達は何時も腹を減らしてたんだ、だけど此処の人達がオラ達の村に来て連合国に行けば安心だって、其れ
はもう必死で話され、でもオラ達も最初はあんた達と同じで全然信用して無かったんだ、其れでもオラ達
は此処の人達が本気だって分かってオラ達は村を離れて此処に来たんだ、此処では誰からもいじめられる事も無いし、其れに源三郎様はオラ達農民が一番大切だって言って下さって、オラ達は今最高に楽しい農
作業をしてるんだ、でもなぁ~あんた達は全然信用して無いのが悲しいよ。」
山の向こう側から来た農民は涙を流しながら話した。
菊池の領民や農民が何を話しても元官軍兵は一向に信用しない為に領民達は諦めたと、源三郎は思い。
「まぁ~まぁ~皆さん、少し落ち着きましょうか、皆さん、今お話しをされた方々も山の向こう側から来
られましてねぇ~、最初は皆さんとは少し違いますが直ぐには信用して頂け無かったのです。
其れは何故かと申しますとね、山の向こう側では幕府にいじめられた村が有りましてね、お米などの殆
どが略奪され、少しでも反攻する様な態度を見せれば問答無用とばかりに切り殺され、其れが毎年の事で、ですがね、農民ですから何の武器も無く、皆さんの様に連発銃も無かったのです。
でもね私の仲間が多くの村人を助けたいと数百人が危険を犯し、山の向こう側に行き、村人を説得し大
勢の農民さんを連合国に連れて来たのです。
ですが、私が話したのでは無く、此処の領民さんが話されたのですよ、その人達も今では我が連合国で
は誰からも迫害されずに農作物を育てておられるのです。」
「源三郎様はお侍様で、オラ達は農民ですよ、何でお侍様がオラ達農民が大事だって言われるんです
か。」
「其れはねぇ~、実に簡単な話しでしてね、我々侍と言うのはねぇ~、本当の事を言いますと何も出来な
いのです。」
「え~何も出来ないって、お侍様は剣術も読み書きも出来るんでしょう。」
「ええ、確かに剣術も読み書きも、ですが其れは武家社会では当然でしてね、ですが剣術で作物を作る事
は出来ませんよ、はっきりといいますと侍と言うのは使い道が無いんですよ。」
「えっ、使い道が無いって、そんなのって本当なんですか。」
「皆さん、よ~く考えて下さいね、侍と言うのはねぇ~何時も偉そうな顔をしておりますが、其れは簡単
に言いますと自己満足と言いましてね、二本の刀を差していますが、刀を取り上げれば何も出来ない。
皆さんの様に空を見られ天気の予想も出来ませんよ、其れに今から何を植え付ければ良いのか何も知ら
ないのです。
私はねぇ~、皆さんのお陰で食べる事が出来るのですから、皆さんが作物を作らないと言われますと我々侍は飢え死にするしかないのです。
ですから皆さんにお願いします、私を飢え死にさせないで欲しいのです。」
源三郎は元官軍兵に対し、両手を付き頭を下げた。
彼らは大変な驚き様で、正か侍が農民に頭を下げるとは思わず、余りにも衝撃的で唖然としている。
「源三郎様、頭を挙げて下さいませ、オラ達は農民でお侍様が頭を下げられる様な。」
「えっ、何故ですか、私は皆さんにご無理をお願いして要るのですよ、私は無理をお願いするのに頭を下
げるのは当たり前だと思って要るのです。
私は侍では有りませんので何も恥じる事も有りませんのでね。」
「なぁ~あんた達、この御姿が源三郎様なんだ、源三郎様はオラ達を農民としてで無く、一人の人間とし
て見ておられるんだ、だから分かって欲しいんだ。」
「まぁ~皆さんは何も今直ぐとは申しませんのでね、数日の内に返事を聴きたいので、其れまではのんびりとして仲間と相談されても宜しいですので、其れに城下の人達に何でも聞いて頂いても宜しいのですからね。」
元官軍兵達は隣同士で話す者、じ~っと何かを考えて要る者、全員が真剣に考え始めた。
「源三郎様、オラは其の工事に入ってもいいんですが、でもオラは何をすればいいんですか。」
「そうですか、ではどの様な工事なのか今からお話ししますが、この工事には各国に駐屯しております連
合軍の兵士も参加します。
其れと領民さん達も参加しますので。」
「源三郎様、其の連合軍って山に入って狼の大群の警戒に入ってると思うのですが。」
「其の通りですよ、ですが次からは各国の侍が警戒任務に就きますので。」
「あの~オラはまだ分からないんですが、オラ達のいる菊地から山賀の国までって言われましたが、菊池
から何日掛かるんですか、その山賀って国まで。」
「う~ん、大変難しいですが、皆さんは戻り橋を知っておられる思いますが、其の戻り橋の左側に高い山
が有ったと思いますが、其の反対側に山賀の国が有るのですがね、でも高い山はまだ続いており、半日程
左側の山に沿って進みますと山の端に出るのですが、その先は海面まで一町以上の高さが有る断崖絶壁で、其処が山の端ですのでねぇ~、さぁ~私も考えた事が有りませんが休み無く歩いたとしても二日、いや三日は掛かると思うのですがねぇ~。」
「じゃ~菊池の端から柵を作るって一体何日掛かるんですか。」
「申し訳有りませんが、私も全く分からないにですよ、でも其の柵ですが、狼の大群もですが、この山に
狼だけで無く、猪も、其れに大鹿や熊も大群をなしておりますので作りは頑丈に、其れと高さも必要でして一体何年掛かるのかも分からないのです。」
やはりだ、彼ら元官軍兵は少しづつだが源三郎の話を聴き、其れは自分達も生き残れるのではと少しの
希望を持ち出し話しは次第に核心部分に入って行く。
「源三郎様、其の柵ですがもう作り始めてるんですか。」
「いゃ~其れがねぇ~まだなんですよ、今は柵作りの前に田畑を何処まで広げるのか木こりさん、大工さ
ん達と農民さんが調べて要る最中でしてね、全てを調べ終わるまで柵作りの工事に入れないんですよ。」
源三郎は何も嘘を話してはいない、調査するだけでも人手が足りず、更に調査地点は少し山に入るので
警戒も大変なのだ。
「源三郎様、オラ達は工事が終わるまで何処にも行けないんですか。」
「何処にも行けないと言われるのは故郷に帰れないと言う事でしょうか。」
「そうなんです、オラも村がどうなってるのか知りたいんです。」
「勿論、私も貴方のお気持ちはよ~く分かりますが、此処の隧道を出て、山賀の反対側に戻り橋に果たし
て着けるのか分からないですよ。」
「でもオラ達は此処に来るまで狼は見て無いんですが。」
「其れはねぇ~、皆さんも戻り橋から此処に来るまで鉄砲の音が聞こえていたと思いますが、あれはねぇ
~連合国の猟師さん達に狼を追い払って頂いてたのですよ。」
「えっ、狼を追い払って、じゃ~オラ達が戻り橋を渡ってから知ってたんですか。」
「いいえ、其の前の皆さんが野営されておられた頃からですよ。」
「わぁ~そんな頃からオラ達を見張ってたんです。」
「だから狼が近付かなかったのです。
ですが皆さんがこの地を離れますと狼の大群に襲われますよ、我々は皆さんを守り戻り橋まで送る事は出来ませんのでね、其れでも宜しければ私は止めませんのでね。」
「ぇ~、じゃ~オラ達は。」
「まぁ~狼の大群に襲われ餌食になる事は間違いは無いと思いますよ。」
彼はせめて戻り橋までは護衛が付くものと思ったのだろうが、源三郎は隧道から外に出るのは自由だが
安全は保障出来ないと言う。
「源三郎様、オラは残りますので、村は焼き払われ、オラと数人だけが生き残りましたので、其れに今更
村に戻っても誰もおりませんので。」
「源三郎様、オラも残ります、同じ村からですので。」
其れからは数百人が残ると、此処まで来ればもう問題は無い。
彼らの中には幕府軍だけで無く、官軍からも略奪や暴行などを受け、其れが恐ろしく仕方無く官軍に
入った農民も居る。
更に菊池に連れて来られたが菊池にも元官軍兵がおり、官軍兵を見ただけで恐ろしかった光景を思い出
し、源三郎や菊池の領民が話すが簡単に受け入れる事が出来ないので有る。
「源三郎様、宜しいでしょうか。」
「勿論宜しいですよ。」
源三郎が見た男は農夫では無い。
何れかの理由で今は官軍の歩兵だが、何れかの国の侍だと感じた。
「私は実は。」
「私も分かりましたよ、ですが私は貴殿を責めるつもりは有りませんのでね、其れよりも何かお話しが有
るのでは御座いませぬか。」
源三郎はこの男は元は侍だと直ぐ分かり口調も変えた。
「私は元は有る国で土木関係のお役目に就いておりまして、先程から源三郎様は菊池から山賀に至る狼除
けの柵を作り、田畑を拡張したいと申されましたが、私は一体どれだけの田や畑をお作りになられるのか
分かりませぬが、これだけのご領地ならば山から川も流れて要ると思います。
ですが、田や畑には大量の農業用水が必要になるのですが、その農業用水の確保はどの様に考えておら
れるので御座いましょうか。」
源三郎はもう占めたと思った。
この男は治水関係の専門家だ、この男を利用出来る事が出来れば、まだ答えの出ていない元官軍兵も考
え方を変えるだろうと。
「大変失礼ですが、ご貴殿のお名前は。」
「申し遅れまして申し訳御座いませぬ、私は後藤又四郎と申します。」
「後藤様ですか、後藤様は治水関係のお役目だと伺いましたが、何故治水のお役目にされておられたので
しょうか。」
「私の居りました国では毎年何度と無く豪雨に見舞われ死者もですが田畑が川の氾濫で農民が大切に育て
た農作物が流出し、その為に我が家では先先代の頃から治水が専門のお役目に就かせて頂いておりました。」
「左様でしたか、実はですねぇ~私は農業用水の事は全く考えておりませんでしたので、後藤様、出来るならば菊池から山賀まで農業用水を確保したいので何卒お力を貸して頂きたいのですが、お願いが出来ないでしょうか。」
「源三郎様、私の様な者でもお役に立つならば。」
「勿論ですよ、連合国には専門の者がおりませんので。」
「ですが、私一人では無理なのですが。」
「其れは人手が多く必要だと申されるのですか。」
「この仕事は最初に川の拡張と池を作る為の測量から始めるのです。」
「川を拡張されると申されましたが、菊池から松川までには各二本から三本か四本の川が流れて要ると思
いますが、山賀には四本の、いや五本の川が流れて要ると思います。」
源三郎と後藤の話に元官軍兵は先程までとは違い、何故か全員が真剣に聴いており、彼らの心には次第
にこの地に残り新しい生活に入りたいと言う思いが沸いて来たのか、其れとも故郷に帰りたいが、其の前
に果たして戻り橋まで辿り着く事が出来るのか、それらも考えながら、源三郎と後藤の話に注目して要る。
「なぁ~みんなオラ達の村が今有るのか分からないし、其れにオラ達だけで戻り橋まで辿り着く事が出来るのかオラはさっきから考えてたんだ、其れに源三郎様はオラ達を助けて下さったんだ、オラも本当は帰りたいんだ、だけどせっかく助けて下さった命を、オラは狼の餌食になって死ぬのは嫌なんだ。」
「そうだなぁ~、源三郎様はオラ達の事も考えて柵を作り、田畑を広げてみんなが食べて行ける様に話し
をされて要ると思うんだ、其れにだよ仮に戻り橋まで行けたとしても食べ物はどうするんだ、其れよりもオラ達の村は何処に有るんだ、オラ達は食べ物無しで何処まで行けると思うんだ、腹が減ったから今度はオラ達が農家を襲って食べ物を奪うのか。」
やはり農民だ、其れが今度は故郷に戻れるまで行く先々で農家から食べ物を奪って行く、だが其れまで
に幕府軍の敗残兵や官軍と出会う事も有り得る、敗残兵に会えば切り殺され、官軍の部隊に会えば編入さ
れ又も戦地へと行かねばならない。
元官軍兵達はこの地に残ればこの先も安心出来るのだと考え始めた。
「今皆さんの仲間で有る後藤さんは元は有る国の武士で、ですが皆さんに知られると自分は殺されると思われ、今まで身分を話されなかったのです。
後藤さんは柵を作りながらでも田畑に必要な農業用水を確保し、其れが出来れば皆さんと一緒に農作業
に入りたいと申されておられますが、皆さんは如何でしょうか。」
「源三郎様、オラは残ります。
オラは農民だから作物を作りたいんです
「オラもです、オラも一緒に工事に行きます。」
その後、残りたいと次々と名乗り、殆どの元官軍兵は連合国で農作業に就きたいと。
「あの~オレは元大工でしたが、オレにも何か仕事は有るんでしょうか。」
「大工さんですか、其れは大助かりですよ、では貴方も仕事に就いて頂けるのですか。」
「はい、是非お願いします。」
その後、猟師や左官に鍛冶屋まど色々な職に就いていたと、やがて全員が残る事が決まった。
「皆さん、私の無理を聴いて頂き、誠に有難う御座います。
皆様方は只今から我が連合国の一員となられ、連合国全員の為に、其れが皆様方の為に成りますので何卒宜しくお願い致します。」
源三郎は改めて五千人の元官軍兵に頭を下げ。
「皆様、其れで直ぐには仕事は有りませんので、皆さんの中からどなたか代表のお方を選んで頂きたいのです。
では何故代表が必要かと申しますと、私の話を毎回全員に集まって頂きお話しするのは大変なので、私は一人では無く、百人は必要になりますので数日間掛けて選んで下さい。
私の話を代表の方が仲間に伝えると言うだけで何も無理な話では無く、簡単ですが代表と言っても五人や十人では無理なのです。」
元官軍兵達は少し納得したのか五千人と言ってもバラバラでは無く、其れにはやはり兵隊の訓練が役立って要るのか部隊ごとに分かれ話し合いを始めた。
「後藤さんは私と一緒に来て下さい。」
後藤だけが離れ、源三郎と執務室に向かった。
「いゃ~総司令、見事に行きましたねぇ~。」
「私も正か全員がこれ程早く答えを出すとは思いませんでしたので、少し驚いて要るのです。」
源三郎は五千人も居れば話しが理解されるまで数日間は掛かると考えており、其れが数時で終わり少し拍子抜けしたのだろう、だが其れよりも後藤と言う人物が名乗り出、農地を拡げるならば農業用水の確保は大事だと、其れは源三郎も高野達にも予想外で、だが連合国内で食糧増産は領民もだが、この地に新たな住民となった元官軍兵達の食料も必要だ、だが今までは増産とは全くの反対で穀物類も含め、作物の育ちが悪く、何が原因なのかも分からない。
特に穀物類は遠く離れた国より大量に買い付け無ければならず、源三郎は簡単に農地拡張すれば食料も
増産出来ると考えていた。
だが後藤と言う人物は農地を作る事も大事だが作物を育てるには農業用水の確保が一番大事だと、其れならばと源三郎は後藤を農業用地拡大と用水の確保を専門の仕事に就かせる事になった。
源三郎が考えて要る程に簡単な事なのだろうか、其れは何時頃完成するのか、全ては後藤の手腕に掛
かって要る。
そして、元官軍兵五千人の処遇は見事に決まった。