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闇の帝国    作者: 大和 武
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 第 4 話。 何としても連合国を守るんだ。

 田中と三平は急を知らせるべく菊地の隧道へ向かっている頃、源三郎は又も突飛な作戦で密偵を探し出

す事にした。


「小田切さん、兵を集めて下さい。

 工藤さんは周りを取り囲む様に兵を配置し、全員に銃を持たせて下さい。」


 兵士達は整然と並び。


「皆様方、ご苦労様です。

 今から皆さんにお話しをしますが大変重要な話しですよ、では皆さんの中に官軍の司令本部から来られた中に密命を受けられたお方がおられ、そのお方は我が連合国を全滅させる為に来られました。」


「えっ、今の話って本当なんですか。」


「ええ、本当ですよ、私はどなたがその密偵か知りませんので、皆さんの周りに連発銃を持った兵士がおりますが、全員を殺して良いと伝えておりますので。」


 小田切と一緒に来た兵士達に動揺が走った。


「えっ、そんな馬鹿な話しが、じゃ~一体誰なんだ、その密偵と言うのは。」


 兵士達は誰もが密偵だと疑心暗鬼となり、隣同士が言い争いになって要る。


「まぁ~暫くは待ちますが、今申し出れば罪は問いませんのでね。」


 だが誰も密偵だとは名乗り上げない。


「そうですか、では今から皆さんにお聞きしますが、部隊の中で合流されてからですが不審な動きをされておられたお方をご存知でしょうか。」


「総司令、其れは他の者達都とは接せる事も無く、一部の者達だけと何時も話し合っいていたと言う事なのですか。」


「その通りですよ、何も関係の無い人は相手に関係無くお話しをされその内容も誰が聞いたとしても不審な内容では無いと言う事ですよ。」


 源三郎が問い詰める事も無く、次第に密偵が絞り込まれて来る。


「総司令、そう言えば、火薬の保管場所を聴いた兵士がおりました。」


 小田切は其の時は別に不審とは思わなかったが、何処で保管するのかも知らなかった。


「工藤さん、何処に保管されるおつもりだったのですか。」


「総司令、実は私も全く考えておりませんでした。」


 其の時、二人の兵士が火薬を積んだ馬車に向かい走った。


「その二人を捕まえて下さい。」


 兵士は簡単に捕まり。


「貴方方が司令本部の命令で工藤さんと小田切さんの部隊を全滅させに来られたのですか。」


 兵士は何も答えずに要る。


「では仲間はいないのですか。」


 其れでも返事は無い。

 源三郎は二人は実行に移す者で他にも仲間が居るはずだと。


「何も答えないと言うので有れば、二人を山に連れて行き足を切断し放置しなさい、後は山の主が片付け

てくれますので。」


「えっ、山の主が片付けてくれるって。」


 やっと、話しが聞けた。


「そうですよ、高い山にはねぇ~、狼の大群がおりましてねぇ~、その狼は人間の味を知っておりますの

で、まぁ~数日もすれば一体誰なのかも見分けが付かない程になりますのでねぇ~。」


「オレは銃殺にされるのではないのか。」


「貴方にそんな簡単に死ぬ事は許されませんよ。」


 源三郎の言葉に二人の表情が豹変した。

 銃殺刑ならば一瞬で死ぬが、其れよりも苦しむ事も無い。


 だが狼が相手となれば早くて四半時か、其れ以上の苦しみを味わう事に、二人よりも、更に驚きの表情

を見せたのは小田切と部隊の兵士達で普通ならば銃殺刑だが、其れは余りにも恐ろしい話で狼の餌食にさせると言うので有る。


「総司令、今申されましたが狼の餌食にと言うのは誠なので御座いますか。」


「はい、勿論ですよ、私はねぇ~人間を殺すと言うのは余り好きでは有りませんので、其れにこの場で殺

せば汚れた血が流れますのでねぇ~。」


 源三郎の言葉使いは優しいが実行される刑は恐ろしい刑で兵士達は震え上がる。


「私は二人が銃殺刑を望むならば仲間の名を言って欲しいのです。

 でも其れが駄目ならば狼の餌食になって頂きますからね、まぁ~何れにしても死ぬ事に間違いは有りま

せんが、でもねぇ~狼は誠に恐ろしいですよ、苦しんで、苦しんでやっと死ぬ事が出来るのですから、

まぁ~別に話さ無くても宜しいですよ、貴方方とよ~く話をされておられた人は直ぐに分かりますので

ねぇ~、如何ですか皆さんの中に潜んで要る密偵に告げます。

 一瞬で死ぬ事が出来る銃殺刑が良いのか、其れとも狼の餌食になり最後は山の烏が少しの肉片も残さずに片付けてくれる刑が良いのか、其れを決めるのは貴方方ですよ。」


 源三郎は其れだけを言うと部屋に戻った。


「私は君達の中に官軍と言うよりも司令本部の密偵が入り込み、私を殺害する命令を受けたので有れば私だけを殺せ、だが他の兵士は全く関係は無い。」


 其れからも工藤は兵士達に話をするが、司令本部の密偵は名乗る事も無く二時が経った。


「なぁ~司令本部の密偵さんよ、何でオレ達も殺されるんだ、オレは戦で死んだ事に成ってるが、オレは中佐殿もだけど、あの総司令には本当に感謝してるんだ。

 密偵さんには分からないだろうが、オレは菊池で話を聴いたんだ、総司令は戦は好きになれない、今菊

池から松川の浜では潜水船を造ってるって、だけど潜水船は戦の為に使うんじゃ無いんだって、官軍の兵士達を浜に上陸させない為に、其れは領民を守る為にだって、その為に入り江に近付くならば相手が幕府軍でも官軍でも関係は無いって、総司令は全ては領民の為にって言われ、官軍の軍艦五隻を沈めてんだ、その軍艦の目的って何か知ってるのか、え~密偵さんよ。」 


「そうなんだ、その軍艦はなぁ~佐渡の金塊を奪って異国で豪華な暮らしをする為にだって聴いたんだ、なぁ~密偵さんよ司令本部はなぁ~あんた達の事なんか何も考えていないんだ、だけどオレ達は連合国に入って分かったんだ、連合国ではなぁ~本当の意味で生き残れるって言う事なんだ、オレはなぁ~此処で農民の暮らしに戻りたいんだ、だけどオレの気持ちはあんた達には分からないと思うんだ。」


「わしもだ、此処では本当に農民を大事にしてるって分かったんだ、戦なんかで死にたくは無いんだ。」


 この後も数人が話し掛け、又も半時が経った頃。


「少佐殿、自分です。」


 と、一人の中隊長がが名乗り出た。


「分かった、他に未だ要るのか。」


「いいえ、自分と二人の部下だけです。」


「誰か総司令を呼んで下さい。」


 兵士が大急ぎで源三郎を呼びに行く。


「やはり居られましたか。」


「はい、彼は最後に来た中隊の中隊長で今までも普通に接しておりましたので。」


「もう宜しいですよ、其れよりもどの様な命令だったのかを教えて頂きたいのです。

 少し待って下さいね、皆さん座って下さい。」


 兵士の全員が座ると。


「はい、宜しいですよ。」


「司令本部は工藤中佐殿は連発銃と弾薬を数十万発を奪い逃亡したと、其れと小田切少佐殿は工藤中佐殿

を師を仰がれておられるので、小田切少佐をあの駐屯地に駐屯させて置けば工藤中佐殿の事だから必ず現

れ、本隊の場所へと連れて行くだろうから、其の時、爆薬を爆発させ部隊の全滅は無理としても、工藤中

佐殿と小田切少佐殿を殺せば残りは兵士だけだ任務が成功すれば特進させると約束されたのです。」


「そうでしたか、ですがよ~く考えて下さいよ、工藤さんと小田切さんが必ず爆薬の傍に居ると言う保証は有りませんよ、其れくらいの判断は中隊長ともなれば出来ると思うのですがねぇ~。」


「確かに今申されます通りで、自分は今までは考えもしなかったのです。」


「私はねぇ~戦は好みませんし、刀で人を切り殺す事も好きにはなりませんが、極悪非道な者達には山に連れて行き足を切断し、後は山の主の狼や獣が片付けてくれますのでね。」


「自分は狼の餌食でも銃殺刑でも受けます。

 ですがその二人は何も知らずただ自分の命令に従っただけなのでどうかお許しを願いたいのです。」


「いいえ其れは出来ませんよ、私も爆発に巻き込まれる可能性が有ったのですよ、其れに皆さんが許されると思いますか。」


「総司令、三人の処罰は当然山で狼の餌食ですよ。」


「そうだオレ達を殺そうとしたんだからなぁ~当然の刑だ。」


 その後も兵士達は狼の餌食にだと騒いでいる。


「では今から厳しい刑を言い渡しますのでね覚悟して下さい。

 では貴方方三名は山賀に向かい山賀の向こう側に下り、官軍の動きを探って下さい。」


「えっ、では死刑では無いのですか。」


「まぁ~ね、直ぐに死ぬ事は有りませんが、山賀の若様からは山賀の一部ですが少人数ならば登る事の出

来る場所が有ると聞いておりますので、若しも幕府軍か官軍が登って来るようで有れば殺しても宜しいで

すからね。」


「では自分と部下の二人はその場所で監視の任務に就くのですしょうか。」


「その通りですよ、但し、食料は山に入り猪や鹿を狩り、其れを食べて下さい。

 弾薬が少なく成れば山賀のお城に行き必要な弾薬を受け取り直ぐ山に入る様に、ですが貴方方三名が若しも殺されたとしても弔う事は出来ませんのでね分かって頂けますね。」


「はい、承知致しました。」


 彼らは運が良ければ生き残れると、傍の兵士は涙を零し話を聴いて要る。


「其れと貴方方三名が向こう側に下り、官軍に知らせても宜しいですよ、但し、この山を軍隊が登る事は不可能でしてね、菊地の隧道を発見して菊池側に突入出来るのは数十人か多くても百人が限度でしてね勿論我々が確保した兵士は全員山に連れて行き狼の餌食になって頂きますのでね、まぁ~其れは貴方方三名で考えて下さいね、其れで任期ですが、え~っと半年いや一年間としましょうか、其れでも貴方方が生き残って要れば、再びこの地に入る事も許しますよ。」


「君達は生き残れる方法を考えるんだ。

 本来ならば直ぐ銃殺刑か、若しくは狼の餌食になって要るんだ、今は先の事などは考えず山の向こう側

に行き幕府軍と官軍の動きを見張り一人でも登って来るならば殺せ、其れが君達が生き残れる唯一の方法だと思え。」


「はい、自分達は何としても生き残り、再びこの地に入る事を許される様に致します。」


「小田切さん、連発銃と一人五百発の弾薬、其れとおむすびを渡して下さい。

 書状は書きませんが、山賀の吉永と言うご家老に源三郎の命だと言えば山の抜け道を知って要る猟師さんを案内役に就けて頂けますのでね、武運を祈ります。」


 源三郎は三名の密偵を開放したのか、其れとも山の向こう側に追放処分としたのだろうか、だが三名の

密偵には一年間無事任務を果たす事が出来たならば連合国に戻れると約束した。


 だがその二日後に事態は大きく変わるので有る。


「お~い、誰かがこちらに向かって来るぞ。」


 田中と三平は菊池に有る秘密の隧道へと登って来る。


「私は野洲の田中です。

 大至急、源三郎様に報告する用件が有り、申し訳御座いませんが二人分の馬をお借りしたのです。」


「はい、承知致しました。

 直ぐ準備しますので少しお待ち下さい。」


 菊池に駐屯する兵士も田中の姿を見て直ぐ分かって。

 田中と三平は馬を飛ばし野洲へと向かった。


「総司令、あの三名は私を暗殺しに来たのでしょうか。」


「其れは私にも分からないのですが、其れよりも何かすっきりとしないのです。」


 源三郎は余りにも簡単に暗殺犯と言うべきなのか、司令本部が送った刺客が余りにも簡単に捕らえられ

たのが不自然だと言いたいので有る。


「私は簡単に事件が解決したと思って要るのですが。」


 工藤は感じていないのか、其れは余りにも簡単に解決したのでは無く、本当の刺客と言うのか、工藤を

殺す為に別の男が潜んではいないと思って要る。


「工藤さん、私は司令本部が何故刺客を送ったのかその訳は分かりませんが、あの三人はどの様に考えても囮で三名が捕らえられれば工藤さん達は安心し警戒を緩め、其の緩んだ時に本物の刺客が現れると考えております。」


「ですが、何故私が司令本部から刺客を送られ殺されなければならないのでしょうか。」


「工藤さん、考えても見て下さいよ、工藤さんは異国方式の軍艦を考えられたのです。

 若しも工藤さんが幕府軍に捕らわれる様な事にでなれば、幕府軍は官軍と同等の、いいえ其れ以上の軍

艦を建造する事に成るのですよ。」


「総司令、では私を殺す事で幕府軍に軍艦の建造に関する内容が知られる事も無くなると、ですが其れな

らば何故最初出会った時に殺さなかったのでしょうか。」


「工藤さんは表向き戦死して要るのですよ、其れに吉田中尉も小川少尉もですよ、官軍としてはこの際工

藤さんだけで無く、吉田、小川の両氏も殺して置けば残るは兵士達だけで、貴方方が持ち込んだ火薬を爆

破させれば全ては闇の中に葬る事が出来るんですよ。」


「源三郎様は。」


「はい、今は執務室で。」


「有難う。」


 田中と三平は馬で乗り着けた。


「源三郎様。」


「えっ、田中様、一体どうされたのですか。」


 源三郎が驚くのも無理は無かった。

 田中は菊池で馬に乗り飛び込んで来た、一体何が起きたと言うのだ。


「はい、其れが驚くべき情報を得ましたので、急遽戻って来たので御座います。」


「田中様、分かりました、ではお話し下さい。

 其の前に誰かお二人にお茶をお願いします。」


 執務室に居る家臣達も大変な事態が起きた事は理解出来る、だが田中は小声で話すので有る。


「源三郎様、実は。」


 田中は官軍の兵士五千人が追撃して要る事を話すと。


「では小田切さん達を追撃して要るのですか。」


「其れでその訳と言うのは。」


 田中は何故五千人の官軍兵が小田切を追撃して要るのか、五十嵐と言う司令官の話をすると。


「えっ、正か。」


 一番驚いたのは工藤で、正かその様な話しが司令本部とされているとは思いもしなかった。


「では工藤さん、私に任せて下さい。」


「はい、承知致しました。」


 と、工藤は返事だけで、何故其の様な話に成ったのかも分からない。


「どなたか二、三人来て下さい。」


 執務室の家臣達は一応冷静を装って要る。

 そして、明くる日早朝、明け六つの鐘が鳴る前に。


「皆様、早朝からご苦労様です。」


 兵士達も緊張した表情だ。

 だが源三郎が手を挙げると兵士達の後ろに立つ二個小隊の兵士が連発銃を向けた。


「総司令、一体何事でしょうか。」


「小田切さん、もう芝居は終わりですよ、全てが露見したのですよ。」


「総司令、私は一体何を申されておられるのか分からないのですが。」


「小隊は兵士を後ろ手に縛り、猿轡をして下さい。」


 兵士達は源三郎が言う前と言うのか、次々と後ろ手に縄で縛られ、猿轡をされ叫ぶ事さえも出来ず。

 小田切も小川少尉が後ろ手に縛り、猿轡をした。


「小田切さん、其れと第一小隊の兵士は司令本部より密命を受け、工藤中佐、吉田中尉、小川少尉の三名

を暗殺する様にと。」


 小田切と小隊の兵士は必死で首を振り否定して要る。


「小田切さん、貴殿は否定されるが五十嵐と言う司令官をご存知だと思いますが、如何ですか。」


 小田切は五十嵐と聞き、その途端膝がガクンと落ちた。


「小田切少佐は官軍の司令本部より工藤さんと吉田、小川の三名を暗殺し無事帰還すれば二階級特進を約

束されておられますねぇ~。」


 吉田も小川も正かと思う話に工藤は唖然とし、二個小隊の兵士達も正かを言う表情をして要る。


「総司令、何故其の様な事が発覚したのですか。」


「私にはねぇ~、闇の者が仲間におりましてね、その者が先日五十嵐司令官が引き得る五千人の官軍兵と

遭遇し、何故だか分かりませんが、闇の者に話をされたのです。」


「五十嵐司令官と申せば、中佐殿の後ろ盾になられた司令官だと思うのですが。」


「その通りで、五十嵐司令官は私は必ず生きて要ると思われたのでしょう、ですが、何故司令官は話をさ

れたのでしょうか。」


「私は五十嵐司令官では有りませんので知る事は有りませんが、小田切少佐と司令本部の密約を知られ表向きは奥州行きを志願され、小田切少佐が野営を設置して要る場所で小田切少佐と小隊を全滅させる予定で進まれたと思いますよ。」


「総司令、五十嵐司令官は追撃されて要ると思いますが、中佐殿が一足早く着かれ、何も知らない中佐殿

は菊池から部隊の全員を入れられました。

 ですが、何故第一小隊だと分かったのでしょうか。」


「吉田中尉、第一小隊の兵士ですが、何か不自然だとは思われませんか。」


 吉田も小川も、更に他の兵士達も小田切と兵士を見るが分からないと言う表情をして要る。


「吉田中尉、小川少尉、彼らは官軍の兵士ですが、其の前に司令本部より選抜された侍ですよ。」


「えっ、何故其れが分かるのでしょうか。」


「簡単な話しでしてねぇ~、其れは他の兵士と違い全員が脇差をして要るからですよ。」


「あっ、本当だ。」


 小隊の兵士が小田切と兵士達から脇差を取り上げた。


「吉田中尉、連合国では全員と言っても良い程家臣達も脇差を付けてはおりませんよ、其れに中隊の兵士

も全員が侍で有りませんので脇差は付けておられません。

 ですが侍と言うのは長年の癖でしょうか、自然と脇差だけは付けるのです。」


 やはり源三郎は見抜いていた、ただ確信が無かった。


「総司令、では他の兵士達は如何なされるのですか。」


「私は別に処分するつもりは有りませんので、其処で吉田中尉、小川少尉、小田切と兵士達ですが山に連

れて行き片方でも両足でも宜しいので切り落とし、貴方方は直ぐ逃げて下さい。」


 吉田もだが工藤の表情が変わった。

 今までの源三郎は狼の餌食にと言っても全てが脅かしだけで止まっていた、だが今回は本気だと見た。

 後ろ手に縛られて要る官軍の侍は余りにも恐ろしい処罰に身体は震え、中には漏らして要る侍も。

 其の頃になると他の兵士達も目が覚め起き出したが、一体何が有ったのだと言う顔で見て要る。


「皆さん、朝早くから余計なお願いが有りまして小田切と兵士達を山に連れて行って下さい。」


 何も知らない兵士達は何か恐ろしい事が始まると思ったのだろうが、返事の声も出ない。

 彼らの眼に映るのは、小田切と兵士達が後ろ手に括られ、猿轡をされ、其の者達の足元は濡れて要る。


「早く連れて行って下さい。」


 と、源三郎は表情も変えずに言うが、何時もと同じ口調で其れが余計に恐怖を感じさせるので有る。


「はい、承知致しました。

 さぁ~手伝ってくれ、山に入るんだから他の者は銃を持って行くんだ。」


 十数人の官軍兵と小田切は他の兵士達に抱き抱えられ山へと向かうが、兵士達は歩く事もままならず、

引きずられる様に連行されて行く。


「工藤さん、ところで五十嵐司令官とはどの様な人物なのですか。」


「はい、あの方は温厚で他の司令官からも評判は良いと聞いておりましたが。」


「そうですか、ですが五千人の大部隊を引き連れ奥州に向かわれると言うのですが、私は余りにも無謀で

は無いかと思うのですがねぇ~。」


「ですが、其れは幕府軍を全滅させるのが目的だと思いますが。」


「工藤さん、五千人の兵を官軍の司令本部からですよ、其れに何故五千もの兵が行くのか、其れが分から

ないのですがねぇ~。」


 源三郎は五十嵐と言う司令官は別の任務で五千人の兵を連れて行くと、やはり官軍の司令本部に中にも

連合国の存在を知る者がおり、佐渡に向かった五隻の軍艦は幕府軍では無く、実態に知れない国によって

撃沈されたのだと考える者も居るだろうと、其の中の一人が五十嵐と言う司令官なのかも知れない。


「工藤さん、我々の連合国が全く知られていないとは私も考えておりません。

 問題は官軍の司令本部が一体何処まで知って要るのか、其れを知りたいのです。」


「総司令もご存知に様に、私も官軍からは追放処分されたと同じで、総司令とお会いする数日前に出立し

何も分からないのです。」


「確かに工藤さんの申されます通りですが、私が何故知りたいかと申しますとね、小田切はと言うよりも

司令本部は工藤さんの行き先を知っていたのではないかと考えたのです。」


「総司令、ですが私もですが我々の仲間は誰も山の向こう側には向かっておりませんが。」


 工藤の言うのが正しい、確かに工藤が山の向こう側には行っていない、其れならば何故小田切は工藤が

現れるで有ろう街道外れに野営をしていたのだろうか。


「総司令、小田切は何故あの場所で野営をしていたのでしょうか、あれならば直ぐ発見されますが。」


「まぁ~其れは簡単な答えでしてね、工藤さんは生きて要ると、其れは誰が考えても分かります。

 官軍も色々な所に偵察隊を送り調べて要るのです。

 ですが、工藤さんも吉田中尉達も大勢の兵士達も高い山の麓で忽然と消えて要るのですよ。」


「総司令、其れで要約私も分かりました。

 私は山の向こう側か、其れとも山中の何処かに隠れて要ると司令本部は考え、小田切をあの場所に私が現れるのを待たせたのですか。」


「工藤さん、私でも同じ方法を取りますねぇ~、でも一体誰がその指示を出したのかですよ、小田切に其処まで考える頭は無いと思うのですがねぇ~。」


「総司令は五十嵐が小田切に命令したと考えるので有れば、何故、五千人もの大軍で小田切を追撃するの

でしょうか。」


「まぁ~其れは小田切の口封じだと思いますよ。」


「総司令、やはり私は相当官軍の司令本部に恨まれて要るのでしょうかねぇ~。」


「工藤さん、そうかも知れませんよ。」


 一方で。


「小田切少佐達を馬車に乗せて下さい。」


「吉田中尉、何故ですか、奴らは工藤中佐殿も中尉殿も裏切ったんですよ。」


「中隊長、彼らの為では有りませんよ、我々が山から逃げる為に馬車が必要なんですよ、私は別に彼らの

為に馬車が必要だとは思っておりませんので。」


「では全員が乗れるだけの馬車と、そうだ、中尉殿と少尉殿には馬が要りますねぇ~。」


「はい、お願いします。

 最後は我々二人が残りますので。」


 吉田は小隊の兵士全員が乗り、避難する方法を考えていた。


「よ~し全員乗せたら出発。」


 数台の馬車には小田切と兵士の全員を分散し山へと向かった。


「小田切さん、貴方は工藤中佐を何故裏切ったんですか、私はねぇ~其れが一番悔しいんですよ、中佐殿

は小田切さんを一番信頼されていたのに、そんなに司令本部からの話しが良かったとは思えませんが。」


 小田切達は猿轡をされた状態で何も言えないが、今は何を考えて要るのか下を向いたままで有る。


「ねぇ~小隊長、お侍って平気で仲間を裏切るんですか、オラは農民だけど家族や村の事を考えてもそんな簡単に裏切る事が出来ないですよ。」


「いゃ~全ての侍が奴らと同じでは無いですよ、私も今は本当に悔しいんですよ。」


「小隊長、あの小田切って少佐ですが、一緒に来た仲間全員を騙してたんですねぇ~。」


「ええ、私は其れが理解出来ませんよ、工藤中佐と出会った時に話をすれば総司令の事だから今回の様な決定はされなかったと思うんです。」


「はい、オラも総司令は恐ろしいと思います。

 でも総司令は本当は人間味の有るお優しいお侍様だと思うんです。」


 小隊長と兵士の話しは続く。


「小田切さん、中佐殿や我々を裏切るだけの待遇を得られると期待されたのですか、仮に私達を殺したと

しても連合国から一体どんな方法で逃げるつもりだったんですか、この山にはねぇ~数万頭もの狼の大群がおり、猟師さんが案内役として一緒に行かなければ山を越える前にも山の頂上にも立てない事も聞かされていたと思うんです。

 私も山に登りましたが、あの時は中佐殿もですが猟師さん達の協力で一人も狼の餌食にならず、でも隊長の企みは知っておりましたので、隊長だけが狼の餌食になったんですよ。」


「中尉殿、自分は奴らは中佐殿を殺してでもと思うくらいの官軍の話に誘惑に負けたと思います。」


「まぁ~そうかも知れませんねぇ~、多分二階級特進くらいの話しが有ったのでしょう。」


「でも、今度は我が身が狙われる可能性が有ると思います。

 今でも官軍の中には工藤中佐の部隊に入りたいと思って要る兵士が大勢居ると聞いておりました。」


「じゃ~仮に暗殺が成功し司令本部に戻り、別の部隊に配属されたその日から今度は敵討ちとして狙われ

るんですか、私はそんな惨めな一生は送りたくはないですよ。」


「少尉、私もですよ、ゆっくりと眠る事も出来ず、何時後ろから見方に狙撃されるかも分からない、毎日

毎日がびくびくした軍隊生活に成りますねぇ~。」


 工藤は小田切を信頼していた、其れが何故裏切り刺客となったのだろうか、今は小田切の弁明を聞く必

要も無い。


 小田切は工藤、吉田、小川の三名を暗殺する為に小隊を編成し、その小隊の全員が侍だ、奇襲を掛けれ

ば確実に殺せると思ったのだろう。


 小田切達を乗せた馬車は山の麓へと、その麓に着くまで色々と話し掛けたが、小田切達は猿轡をされ何

も言えずに要る。


「中尉殿、この付近で如何でしょうか。」


「少尉、この付近は柵作りの現場に近いですから。」


「ではあの大木の。」


「そうですねぇ~、ではあの場所で全員の猿轡を取って下さい。」


 小田切達は猿轡を外された。


「さぁ~全員を降ろし、大木の元に座らせて。」


「吉田、頼む武士の情けで。」


「何を今更武士の情けだ、工藤中佐殿と私と小川を暗殺しようとしたのに。」


「中尉殿、この者達に傷を付けるのはいいんですが、裏切り者に私は自分の刀では嫌ですよ、汚れた血で

刀が汚れますので。」


「小隊長の気持ちも分かりますが、其れでは他に何か方法は有りますか。」


「小隊長様、オラは此処の岩で。」


 小隊の兵士も分かって要る。


 小隊長は戦で使うならば何も考えずに使える、だが工藤を裏切り、仲間も裏切った者に自分の刀で傷を

付けると言う事は汚れた血で刀が汚れ刀は武士の魂だと、其れならば付近に転がって要る岩で足を砕けばと一人の兵士が考えた。


「ではこの岩で足を砕くんですか。」


「オラはお侍様から見れば人間とは見て貰えませんが、でもオラは同じ村の仲間を裏切る事はしませんよ、仲間を裏切った人間は人間の屑だと思うんです。

 そんな人間の屑に小隊長様が武士の魂で傷を付けるなんてオラも見たく無いんです。」


 農民兵の彼も刀で傷を付けるのは駄目だと言う。


「分かりましたよ、では皆さん付近の岩を集めて下さい。

 岩を集め終われば小隊長は兵士を馬車に乗せ、この場を離れて下さい。」


「中尉殿が一人でやられるのですか。」


「私と小川少尉でやりますので、皆さんは一刻も早くこの場を離れ、安全な所に向かって下さい。」


「ですが、そんな事をすれば、中尉殿も少尉殿も下手をすれば狼の。」


「小隊長、私はそんなへまはしませんよ、其れにこんな奴の為に死んだとなれば末代までの恥ですから

ねぇ~。」


 吉田はそんなへまはしないと言い、ニコリとする。


「小隊長、中尉殿の言われる通りですよ、其れよりもどんな恐ろしい事になっても、私と中尉殿は必ず逃

げて見せますから大丈夫ですよ。」


 と、小川もニヤリとし小隊長や兵士達に笑い掛け、早くこの場から離れる様にと促した。

 小隊長と兵士達は付近から大きな岩を数個集め、小田切達の足元に置いた。


「中尉殿も少尉殿、では早く来て下さい。」


「分かりました、皆さんも何時までもこの場に居りますと狼が来ますので早く行って下さい。」


 小隊の全員が馬車に乗り山を下って行く。

 吉田は小隊が安全な所に行くまで待ち。


「小川少尉、別に全員で無くても良いと思いますよ、一人か二人の足首を砕けば十分だと思いますので、

では行きますよ。」


 吉田と小川は大きな岩を頭上に上げ、直ぐ小田切と数人の兵士の足首へ落とした。


「ぎゃ~。」


 其れは小田切の叫び声で小隊の兵士達にも聞こえたで有ろう、小田切の足首は砕け、血が流れて要る。


「さぁ~小川少尉、一刻も早くこの場から逃げるぞ。」


 と、吉田と小川は馬に飛び乗り、小田切達を置き去りにし大急ぎでその場を離れ、馬車が待機して要る

所へと向かった。


 其れから暫くして。


「ぎゃ~。」


「助けてくれ~、狼だ、狼が来た~。」


「誰か助けてくれ、狼が、わぁ~。」


 と、小田切達の叫び声が後ろから聞こえて来る。


「小隊長様、今の叫び声は、若しや。」


「奴らの叫び声だと思いますよ。」


「オラは狼は恐ろしいって知ってますが、お侍様は知らないんですねぇ~。」


 農村は人里離れた場所に有り、年中、猪や鹿、其れに熊に大事に育てた作物を奪われ、何時もは苦々し

と思っていた。


 だが今回は別で多くの仲間を裏切り、其れは自らの利益の為に暗殺まで企てた者達の断末魔で有る。


「吉田中尉と小川少尉が馬を飛ばされて来ます。」


「良かったですねぇ~、お二人共ご無事で。」


「さぁ~皆さん戻りましょうか。」


 吉田と小川が先頭になり、小隊を乗せた馬車数台が戻って行く。


 一方、早朝に起きた事件と言うべき内容の説明が行われていたが。


「小隊長様、オラは大変な事を。」


「なんですか。」


 有る小隊の兵士が源三郎の話を聴き、小隊長に話すと。


「分かった、自分と一緒に行きましょう。」


 小隊長は覚悟を決めたのか、二人は隊の一番前に行き、小隊長と農民兵は突然土下座し。


「小隊長、一体何が有ったんだ。」


「総司令、中佐殿、全て私の責任です。」


 小隊長は脇差を抜き。


「小隊長、少し待って下さいよ、何故、小隊長が腹を召されるのですか、其れに兵隊さんも一緒と言う事

の説明をして下さい。」


「総司令、先程、自分の部下で有る彼が話てくれたのですが。」


 小隊長はその後兵士から聞いた内容を説明すると。


「では、貴方は家族と村の為に、その任務を受けられたのですか。」


「はい、オラが言う事を聞かないと村人全員を焼き殺すって。」


 何と言う事だ、小田切が連れて来た農民兵にも司令本部は脅迫し、工藤達を抹殺しようと企んでいた。


「総司令、自分は小隊長として部下を把握出来ずに、誠に申し訳御座いません。」


「小隊長はその責任を取って腹を召されるつもりだったのでしょうが、其れは何も小隊長の責任では無い

と思いますよ、其れよりも貴方はどの様な方法で後方の部隊に知らせておられたのですか。」


「オラは半里程進むと、小枝を進む方に折って知らせてました。」


「では今まで誰も知らなかったのですか。」


「はい、オラと一緒に来た村の者以外は。」


 其の時、同じ村から来たと言う農民兵の数人が飛び出した。


「オラも一緒にやりました、でもあいつらは人間じゃ無いですよ、オラの母ちゃんの首に刀を当て、言う

事を聞かないと首を切り落とすって、其れでオラはやりますって言ったんです。」


「総司令様、オラも一緒です。

 オラ達の村を焼き払い、女も子供も全員焼き殺すって言われて仕方無かったんです。」


「総司令様、オラは名主の息子で全部オラの責任ですからオラは殺されてもいいんで、他の者は。」


「まぁ~まぁ~、私は何も貴方方を処罰するとは申しておりませんよ、其れよりもその先を話して頂きいのですが、宜しいですか。」


「オラは何処に行くのかも知りませんでしたが、あっそうだ、二又に分かれた所で急に。」


「工藤さん、二又と言うのは。」


「総司令、私も其の前から何故だか分かりませんが何か不自然だと感じておりましたので、菊池から五里程離れた所に二又に分かれた所が有り、其のまま行けば菊地の隧道に行くのですが私は急遽方向を変え右へと向かい其処から二里程行きますと広い野原に出、其処で私は小田切にこの野原を馬車も兵士も全員が散らばり行く様にと伝え、馬車と兵士は一里四方に散らばり進んだのです。

 野原には目印になる様な大木も無く、大きな岩も有りませんので、其れに散らばったので馬車の轍跡も兵士達の足跡も殆ど残っておりません。」


「そうですか、では貴方方は枝木を折る事も出来なくなったのですね。」


「はい、其れでもう諦めて、其れからは何もしてません、総司令様、オラは。」


 農民兵達は下を向き涙を流し、其れは余程悔しかったのだろと推察は出来る。


「もう宜しいですよ、皆さんはさぞかし苦しかったと思いますが、問題はその司令本部が約束を守ったと

言う保証が無いと言う事ですよ、貴方は司令本部の言う通りにされましたがね。」


「あの~総司令様、じゃ~オラ達の村は。」


「私はねぇ~、残られた村の人達が生き残られ、今のお話しを別の村の人達に話されるのを司令本部は恐

れて要ると思いますよ。」


「総司令はこの人達が約束を守ると信じ、小田切達を、えっ、ですが正かその様な事まで。」


「工藤さん、官軍と言えど所詮は人間の集まりで先程の小田切と同じでしてね、特に手柄を上げ出世したいと思う者は手段を選ばないと言う事ですよ。」


「源三郎様、じゃ~オラ達の村は。」


「私は何も確信は有りませんが貴方達よりも前に来られた人達の話を聴いておりますのでねぇ~、多分で

すが村の人達は全員口止めの為に殺されたと考えなければなりません。」


「え~そんな~、なんでオラの母ちゃんや子供までが殺されるんですか、源三郎様、お侍様って平気で約

束を破るんですか。」


 農民兵達は今の怒りを一体誰にぶつければ良いのだ。


「ちくしょう、オラはもう侍なんか二度と信じるもんか。」


「私も以前は野洲の侍でしたので、同じ侍として申し訳無く思います。

 でもこれだけは信じて下さい、我々の連合国の侍は貴方方が思われる様な侍はおりませんよ、連合国ではねぇ~、全ては領民の為にと全員が、いいえ、領民だけでも生き残れる様に考えて要るのです。」


 源三郎は目の前に居る農民に連合国の話をした。


 其れと言うのも農民兵達は果たして故郷に戻ったとしても村は残っているのか、家族は生き今までの様に農作業用を続けて要るのだろうかと。


「貴方方の中で故郷に戻りたいと願われるので有れば、私は引き留めはしませんのでね、其れと此処に残

り農作業に就きたいと思われるのも皆さんの自由ですから、まぁ~何れにしてもよ~く考えて下さい。

 更に言えば連合国には今まで大勢の農民さんが来られ、今は同じ農民同士で皆さんが仲良くされておられますので。」


「小隊長もよく考えて答えを出す事です。

 其れと君達の他にも五百名もの農民さんが一緒に来られており、その人達の事も考えて欲しいんだ。

 総司令は連合国を攻撃するので有れば、幕府軍でも官軍でも関係無く戦うと申されておられる、先程の

一件は忘れる事です。」


「まぁ~皆さんは今からでも宜しいので他の人達と話し合って下さいね。」


「総司令。」


「吉田さん、無事に終わりましたか。」


「はい、今頃は全員が狼の。」


「えっ、じゃ~あの小田切少佐は。」


「工藤さんと吉田さん、其れに小川さんを暗殺する為に官軍の司令本部から送られた刺客でしてね、部隊

の全員を騙し、此処まで来たのです。」


「みんな聞いて欲しいんだ、小田切は私が信頼していたが其れを利用し、私だけで無く吉田中尉、小川少尉までも暗殺し官軍に戻るつもりだったと言う話で、だが総司令の闇の者が知り、別の司令官が五千人の兵を引き連れその小田切までも抹殺しようと、我が連合国に攻撃を仕掛けるつもりなんだ。」


「中佐殿、では我々は直ぐ菊池へと向かわなければ菊池が大変な事に成るのでは有りませんか。」


「総司令。」


 源三郎も考えていた、五千人の大部隊が移動するのは簡単では無い。

 更に大砲も数十問と大量の砲弾と弾薬を積んだ馬車は少なく見ても百台以上も有り、それらが兵士と共

に進むと成れば、菊地の隧道近くに有る二又に着くのは早くても三日、いや五日は掛かるだろう。


「工藤さん、菊池と上田、松川に伝令をお願いします。」

 

 源三郎は工藤に詳しく説明した。


「総司令、了解しました。

 吉田中尉、今聞いての通りだ、各二名を伝令に出せ、馬で行く事だ。」


「はい、了解しました。

 其れで向こうで聞かれた時にですが。」


「吉田さん、今此処で話された内容を伝えて頂いても宜しいですよ、上田、松川からは弓を扱える家臣が

居られますれば菊池に向かって下さいと。」


「はい、了解しました。

 では今第一、第二小隊が戻ったばかりなので第一中隊の第三小隊から選んで大至急向かって下さい。」


 第三小隊の小隊長は菊池、上田、松川へ向かう伝令兵を決め、伝令兵は直ぐ向かった。


「小川さんにお願いが有ります。

 小川さんは第二中隊と一緒に山賀に向かって下さい。

 山賀で吉永様に説明して頂き、家中の者に弓を持たせ、向こう側から登って来る兵士、其れも頭に白く

長い被り物をした隊長達ですね、その者を討てと、山には数人づつで組を作り、小川さんは家臣の後から

攻撃ですが、どの相手でも宜しいですから官軍兵に矢が命中した時、合図として連発銃を空に向けて撃っ

て下さい。」


「総司令、自分達が先制攻撃するのではないのですか。」


「小川さん、先程も狼の大群が小田切達を襲いましたが、一人でも怪我をすれば、直ぐ山を下りなければ

味方が危険ですからね、山賀の家臣にも伝えて下さい。

 銃声が聞こえたならば直ぐ下山する様にと。」


「はい、了解しました。

 では、直ぐに参ります。」


「小川さん、中隊の兵士もですが、山賀の家臣からも狼の餌食にはならない様にお願いしますね。」


「総司令、了解しました。」


 小川は第二中隊と共に山賀へと向かった。


「鈴木様は家中の者に今の話を説明し、弓の準備に入らせ集まる様に。」


「はい、其れで私は。」


「勿論、鈴木様にも行って頂きますので。」


 鈴木は内心ほっとした、鈴木は元々剣術は苦手で、だが弓を扱えば野洲では一番だと自負して要る。


「上田様は殿とご家老に説明をお願いします。

 其れと雪乃殿に私の脇差を。」


「はい、承知致しました。

 其れで、私も同行させて頂けるのでしょうか。」


「勿論ですよ。」


 上田も菊池に行けると分かりほっとして要る。


「吉田さんは残りの兵士と私に同行願います。」


「はい、喜んで参らせて頂きます。」


「吉田さん、ですが中隊が前面に出るのでは無く、矢を放ち数人でも怪我人が出れば、後は山の主に任せ

るのが最善だと思いますよ。」


「総司令、では向こう側に出るのですか。」


「はい、ですが其の前に敵軍が今どの付近まで来ているのか其れを知らなければなりませんので、其れと爆薬を隧道の数ヶ所に設置し、若しもの時ですが、隧道を破壊し官軍の進軍を阻止しますので。」


「総司令、ですが敵軍の部隊が大砲を撃てば。」


「吉田さん、向こう側は急な斜面なので、大砲を撃ったところで隧道よりも上には、いや大砲で狙いを付

けたところで当たらないですよ、菊池側でも山賀と同じ方法で行きますのでね宜しくお願いします。」


「総司令、私もご一緒させて頂きます。」


「其れは駄目ですよ、工藤さんは此処に残り、私に若しも事が有れば、工藤さんが先頭になり全ての工事

を進めて下さい。」


「総司令、其れは駄目だと思います。

 連合国には総司令が一番必要なのですから。」


「総司令、中佐殿の言われる通りです。

 自分は兵士なので戦死は覚悟しておりますが、総司令は連合国の領民の為に残って頂き、後々の事を考

えて頂きたいのです。」


「吉田さん、私は今回は特別だと考えており、何としても五十嵐と言う司令官の引き得る五千人官軍兵の

進軍を防ぎたいのです。」


「あの~源三郎様、今五十嵐と言われましたが、オラ達の村に来たのが五十嵐と言う官軍の偉い人だった

んですが。」


 農民兵は五十嵐司令官から聞いた内容を話すと。


「えっ、では五十嵐司令官が村々に行き、村民の命を引き換えに小田切と、更に連合国を破壊すると企て

た張本人だと言われるのですか。」


「源三郎様、オラは難しい事は分かりませんが、あの司令官様は高い山の向こう側には幕府に行かれては困る人物が居るって言われましたが。」


 やはり源三郎の考えた通りで、工藤は異国の軍艦建造に関しては高い能力を発揮した人物で最新の建造

技術を修得した官軍には重要な人物だ。

 だがその工藤が官軍から脱走したと言うので官軍としては工藤を何としても確保するか、其れが出来な

ければ殺す事も必要だと、其れで送り込まれたのが小田切で、小田切が失敗すれば工藤達の居るで有ろう

所を総攻撃し、工藤を抹殺しようと農民達を脅迫し、工藤の居る場所を知らせる予定が実のところ小田切

が失敗し、農民達も寝返ったので有る。


「総司令、五十嵐は連合国は知らないと思うのです。

 私は総司令の為、いいえ連合国の為に此処で戦死するならば最高の名誉だと考えます。

 ですが総司令だけは何としても生き残って頂き、領民の為に活路を見出して頂きたいのです。」


「総司令、私も同じ考えです。

 戦は私達に任せて頂き、其れに我々ならば官軍の戦は知っておりますので先程申されました作戦は官軍も正かとは思うでしょうから、官軍の将校達を殺せば残るは農民兵で、言葉は悪いですが、私は農民兵を殺す事は考えておりませんので、総司令は此処に残り次の事を考えて下さい。」


 吉田も今は戦死を覚悟していると言う。


「源三郎様、オラは農民ですが、今は連合国の同じ仲間の農民の為に行きますので、源三郎様は残って連

合国の為にお願いします。」


「そうだ、オラも同じだ、オラ達は官軍に入って連発銃も使える様になったんです。

 オラも其れに他のみんなもおんなじだと思いますよ、なぁ~みんなそうだろう。」


 「そうだ、源三郎様は残って下さい。

 オラ達は今一番嬉しいんですよ、オラはあの司令官に騙されたんですよ、あいつだけは許さないぞ。」


 その後も農民兵達は源三郎に残れと、其れは騒ぎにも近い状態になった。


「総司令、私は今初めて本気で戦死を覚悟しました、ですが犬死では有りませんので。」


「中隊長、そして皆さん、私は本当に嬉しいのです。

 今の私は何も出来ませんが、どうぞ命だけは大切にし、またこの連合国に戻って下さい。」


 と、源三郎は膝を付き農民兵達に頭を下げた。


「よ~し吉田中尉、各兵士には百発の弾を、其れと中隊長、小隊長は集まって下さい。

 今から簡単な作戦を練りますので。」


「源三郎様、野洲のご家中の準備が整いました。」


「そうですか、今工藤さんが小隊長以上を集め作戦会議が始まりましたので参加して下さい。」


 野洲の家臣達は弓と矢を持ち、工藤の作戦を聴いて要る。


「源三郎。」


「殿。」


「源三郎、殿では無いわ、何と言う事だ、先程上田から聞いたのじゃが。」


「実は小田切と言う人物が工藤さんや吉田さん、小川さんを暗殺する企てを阻止しましたが。」


「源三郎、其れだけでは有るまい、上田の話では源三郎が先頭に立つと言うではないか。」


「はい、ですが、今全員から拒否されました。」


「何と其れは誠なのか、余は誠愉快じゃ、だがのぉ~源三郎が死ぬ様な事にでもなればじゃ、連合国は一体どうなると思うのじゃ。」


「はい、其れは今も工藤さんや吉田さんからも言われまして、どの様な事態になろうとも生き残り領民を

助けろと。」


「そうか良く分かったぞ、では余が参るぞ。」


「殿が行かれましては成功する作戦も失敗致しますので。」


「何じゃと、では又も余は行けぬと申すのか。」


「はい、ですが殿には後々領民の為に働いて頂ければと思っております。」


 殿様も官軍との戦に行くと、だが殿様が行くと、源三郎が考えた作戦が失敗する可能性が有り、其れが

元で官軍から一斉攻撃を受けると源三郎は考えたのかも知れない。


「源三郎、して賄いは如何致すのじゃ。」


「ですが、既に山賀には一個中隊が向かい、今も工藤さんが作戦の説明を行なっておられ、説明が終わりますと、菊池に向け出陣致します。」


「だがこれだけの大勢が菊池に向かうと言う事はじゃ、菊池の賄いでは大変では無いのか。」


 お殿様は菊池の食料が不足するのではと考えて要る。


「今も其れを考えて要るのですが。」


 だが、源三郎の予測よりも早く、野洲の城下では早くも領民達が動き出した。


「お~いみんな、お城で何か大きな事件でも起きたと思うんだ。」


「其れだったら、朝早く数台の馬車に猿轡をされた兵隊が山に連れて行かれたぞ。」


「え~其れは本当なのか。」


「うん、オレが見てたんだ、だけど戻って来た時にはその兵隊は乗って無かったんだ。」


「よ~し、みんな源三郎様の所へ行こうぜ。」


 城下では馬車に乗せられた兵士が山に連れて行かれ、帰りは兵士は乗って居なかったと言う話が出、半

時も経たないうちに城下の領民が知る事に成った。


「お~い大勢の兵隊さんが、あっ、お侍様が弓を持ってるぞ。」


 大手門の広場には部隊の全員が連発銃を持ち、野洲の家臣達は弓と矢を束ねた筒を持ち集まって要る。


「源三郎様。」


「皆さん、如何されたのですか。」


「ねぇ~源三郎様、一体何が起きたんですか。」


「まぁ~少しですがね。」


「でも少しだけって言いますけど、じゃ~何で大勢の兵隊さんとお侍様が弓まで持って、一体何処に行か

れるんですか、若しかして源三郎様が言われた官軍が攻めて来るんですか。」


 源三郎は領民達も知りたいだろうと思って要る。


「実はですねぇ~、菊地の隧道に五千人の官軍で攻めて来ると言うんですよ。」


「そうかやっぱりなぁ~、其れで源三郎様も行くのか。」


「私も本当は行きたいのですがね、兵隊さんからは邪魔だから来るなと言われましてね、私の仕事はみな

さんの為に命を掛ける事だと申されまして行かせて頂け無いのですよ。」


「ねぇ~源三郎様、兵隊さんやお侍様の食べ物はどうするんですか。」


「其れなんですがね、私も未だ何も考えておりませんので、今は作戦の成功だけを考えております。」


「ねぇ~みんな、私達が菊池に行って向こうの兵隊さんとお侍様の食べ物を作らない。」


「そうだわよ、何時もお侍さんや兵隊さんが必死で私達の、そうだ、中川屋さんに言って、米俵と大川屋

にも行って大きな鍋と、何でもいいから必要な物を集めて菊池に行きましょうよ。」


「よ~し其れで決まりだ、男は薪木を集めるんだ。」


「よ~しオレ達は荷車を探して行くから。」


「これで決まりだ、みんな手の空いてる人を探してくれ。」


「皆さん、少し待って下さいよ、菊地の隧道には官軍の兵隊が攻めて来るのですよ。」


「源三郎様、だから行くんですよ、菊池の人達だけじゃ無理だからなぁ~、今度はオレ達の出番ですから

ねぇ~、みんな行くぞ。」


「お~。」


 と、野洲の領民は四方へと走って行く。


「総司令、これが野洲の人達なのですね。」


「ええ、私は今は何も隠す必要も無いと思って要るのです。

 まぁ~下手に隠すよりも領民の協力を得る事の方が大事だと思っております。

 工藤さん、連合国の家臣達は今まで一度も大きな戦に加わっておりませんので。」


「総司令、其れは私も同じでして、此処に来るまでは数度の小競り合いだけで、実を申しますと、私も今

大変な緊張としております。」


「工藤さん、其れで菊池に着かれ高野様にもお伝え下さい。

 内容は先程と同じで、其れと野洲の領民が大勢押し掛けますのでと。」


「はい、全て承知致しております。」


「中佐殿、出立の準備が整いました。」


「では、吉田中尉、出立します、総司令、では。」


「はい、皆様のご無事を祈っております。」


 工藤を先頭に野洲の家臣、更に吉田中尉と、その後ろからは小田切が連れて来た兵士達が続いて行く。


「源三郎様。」


「雪乃殿。」


「先程、上田様よりお聞き致しましたが。」


「申し訳有りませぬ、私は残る事に成りましたので。」


「左様で御座いますか。」


 雪乃は声には出して言えぬが内心ほっとして要る。


 幾ら剣の達人だとしても相手は五千人の兵士全員が連発銃を持つ者に刀で勝つ事は、誰が考えても無理だ、源三郎は菊池の戦場に行かず、野洲に残ると言うので有る。


 其の頃、上田では。


「家中の者には弓と矢を持ち菊池に向かいます。」


「菊池で何が有ったのじゃ。」


「殿、官軍兵、五千人が連合国に入る為に菊池に有る隧道から攻め込むと総司令からの伝えです。」


「阿波野、どの様な犠牲を払ってでも菊池には入れてはならぬぞ。」


「殿、勿論で御座います。

 菊池への侵入を許せば連合国は壊滅しますので。」


「源三郎殿も参戦されるのか。」


「私も本当のところは参戦して頂きたいのです。

 ですが連合国の為には涙を飲んで野洲に残って頂きまして、連合国の領民の為に知恵を絞って頂きたいと願って要るので御座います。」


「そうか、やはりのぉ~、余も源三郎殿は連合国には無くてはならない人物だと思っておるが、だが源三

郎殿の事だ何としても行くと申されると思うが。」


「私も其の様に思いますが、野洲には工藤さんが居られますし、其れに何と言っても野洲の領民が止めに

入られると思います。」


 野洲の領民は源三郎と言う人物の為ならば危険を犯してでも止めるだろう、だが源三郎は並みの頑固者

では無い。


 其れはお殿様が止めようが、父上で有る筆頭家老が止めようが、一度こうだと決めると、誰が何と言おうと進めて行く、菊池に攻撃に来ると言われて要る五千人の官軍兵の進撃を止める為には先頭になり行く

と、だが、今の連合国の設立に尽力を尽くし、其れは菊池から山賀までの小国を幕府の脅威に対抗する為

で、其れが今では領民が源三郎を守る為には自らが危険だと承知していても、例え、源三郎が反対しよう

とも行くと言う、其れが今回証明されたので有る。


 だが結果、工藤や領民達に阻止され源三郎は菊池には行く事が出来ないので有る。


「阿波野、若しもじゃ、若しも源三郎殿が菊池に参られ先頭になると申された時にじゃ。」


「殿、私はこの身を捧げても総司令をお守り致します。」


「阿波野、良くぞ申したぞ、余は何も出来ぬが、何としても官軍兵の侵入だけは許してはならぬぞ。」


「殿、お任せを、では私は参りますので。」


 上田のお殿様も阿波野も源三郎は先陣を切って進むだろうと、お殿様も阿波野も連合国の為には何としても源三郎を戦死させてはならない。

 阿波野は連合国の為には自らの命と引き換えにしてでも源三郎を何としても戦死させてはならないと決意を新たにして上田の家臣達と共に菊池へと向かうので有る。


「若殿、我々も準備が整い次第菊池へ参ります。」


「斉藤様、義兄上は参られると思うのですが。」


「私も総司令の事ですから先陣を切って参られと思います。」


 松川でも源三郎は菊池へ行くと考えて要る。

 何れの国でも今回は今までとは全く違い、五千人と言う官軍の大軍が菊地の隧道から侵入し攻撃して来ると言う、其れよりも菊池から山賀の家臣達だけでなく、領民達も数十年、いや数百年間以上戦とは全く無縁で、今では戦の方法すら全く知らないので有る。


「斉藤様、父上にも聞いたのですが、松川はこの数百年間と言うもの外部の敵軍と戦を行なっていないと

と申されました。」


「若殿、私も文献を調べたのですが全てが同じで、高い山が我々を守って要ると思われます。」


「やはりですか高い山が敵軍の侵入を防いで要ると思いますが、今回は菊地の隧道が発見されたのでしょうか。」


「若殿、其れは多分無理だと思うのです。

 隧道の入り口と言うのは簡単に発見される様な作り方では有りませんので、私は誰かの手引きが有った

ものと考えております。」


「私は軍隊と言う組織は知らないのですが、軍隊となれば武士の様な戦では行わないと思いますが。」


「私も知りませぬが、若殿もご存知の様に我が松川にも元官軍の中隊が駐屯され、私も時々中隊の訓練を

見ておりまして、その訓練と言うのは武士の様に個人で行うのでは無く、中隊の全員で行なわれ、一人の

武士が戦うのでは無く集団で、何れ時代が変われば軍隊と言う組織は必要になるかと考えております。」


「其れならば尚更で、五千人の大軍が菊池を突破すれば、我が連合国は壊滅させられると考えねばなりま

せぬ。」


「若殿、我々は何としても官軍の侵入を阻止しなければならないと考えております。

 私は菊池に行かなければ詳細が分かりませんが、総司令の事ですから、我々、いや官軍も驚く戦術を考えておられると思います。」


「其れは言えますねぇ~、義兄上の事ですから、斉藤様ならばどの様な戦術を考えられますか。」


「う~ん、其れは私も考えられないのですが、文献で見る限り今までは武士と武士の戦いで、其れが今回

は官軍と言う組織の軍隊ですので、一体どの様な戦術を考えれば良いのか全く見当が付かないのです。」


「ですが、義兄上は弓隊を送れと申されておられますが、弓隊では連発銃を持つ官軍に勝つ事は出来ない

のでは有りませんか。」


 弓と連発銃とでは威力が全く違い、まともに戦ったのでは連発銃に勝つ事は不可能で有ると、若殿も斉

藤も考えて要る。


「其れにしても何故太刀は持つなと申されたのでしょうか、私は白兵戦にでもなれば太刀でも戦になると

考えて要るのですが。」


「其れは私も同じで、小刀だけを持てと、若殿が申されます様に白兵戦では弓も連発銃も役には立たず、

やはり太刀が有れば、我々も少しは敵軍を殺す事も出来ると考えて要るのです。」


「ですが、義兄上の事ですから、何か意味でも有るのではないかと考えますが。」


 若殿も斉藤も白兵戦になると考えて要る。


 やはり武士ならば太刀を持ち戦う事になれば、一人で十数人の、いや其れ以上の官軍兵を殺す事も可能だと考えて要る。


 其れにしても、何故源三郎は太刀は持つなと伝えて来たのでのだろうか、その為、上田もだが松川の家

臣達は弓と小刀だけを持つ事に成った。


「斉藤様にお願いが御座います。

 本来ならば私が松川の家臣と共に出陣したいのですが、父上からも竹之進は残り、松川の為、いや連合

国の領民の為に命を捧げよと申され、私は本当に悔しいのです。

 そして、お願いと申しますのは。」


「若殿、総司令の事だと思いますが、私はこの命を捨て様とも総司令だけはお守りし、連合国の為に生き

残って頂きたいと考えております。」


 やはり松川でも同様でどの様な事態になったとしても源三郎だけは守るのだと、斉藤も決めて要る。


「斉藤様、誠に申し訳御座いませぬ。

 私は義兄上としてでなく、連合国の領民の為にはどの様な方法と取ってでも義兄上は戦死されてはなら

ないと考えて要るのです。

 私の命ならば何時でも差し上げますが、義兄上は連合国の為に行き延びて頂かなければならないと思っ

ております。」


「若殿、私はこの身を差し出しても総司令だけは。」


「斉藤様、ご家中の皆様には準備が整いました。」


「そうですか、では若殿、私達は出陣致しますので。」


「どうか皆様方の全員が無事に戻られます事をお祈り申し上げます。」


 その後、松川からも大勢の家臣が弓隊を組織し菊池へと向かった。


「若、先程、総司令から伝令が来られ、官軍の五千が菊地の隧道へ侵入し攻撃すると思われますと。」


「えっ、其れは誠で御座いますか、若しも菊池に入られたとなれば菊池は。」


「若、まだ確定は致しておりませんが、伝令の話しでは、今の野洲におられる工藤中佐を暗殺する為に小

田切と言う少佐と一個小隊が送り込まれたのですが、其れが闇の者の報告で暗殺は失敗し、小田切達は野

洲の山に連れて行かれ狼の餌食になったと言う事です。」


「其れは良かったですが、何故その小田切と言う人物は工藤中佐を暗殺する必要が有ったのですか。」


「伝令の話では工藤中佐は小田切を信頼しており、官軍の司令本部はその信頼を利用し、小田切には二階

級特進を約束したと。」


「えっ、二階級特進の為に人の信頼を利用し、小田切は二階級特進の為に工藤中佐を暗殺する企てに乗っ

たのですか。」


「若、其れが人の本性ではないでしょうか、ですがその企てを見破られ小田切達は狼の餌食になったので

すから他の兵士達はさぞや驚いた事だと思いますよ。」


「確かに普通ならば其の場で極刑を言い渡されるのですがねぇ~。」


「若、総司令の恐ろしいところですよ、其の場で打ち首にすれば実に簡単に収まりますが、総司令の刑罰

は悪人には極刑よりも恐ろしく感じると思いますよ。」


「吉永様、義兄上とはそれ程にも恐ろしいお方なのですか。」


「いいえ、総司令は領民には優しいのですが、野洲の時でも悪を働く者には鬼以上に恐ろしいと言われて

おられましたから。」


「ではその小田切と言う少佐と一個小隊は義兄上の恐ろしさを身に持って感じたと言うのですか。」


「はい、私は総司令を知っておりますが、領民からどの様な言葉を浴びせられても怒られませんが、これが同じ侍同士となれば、これが恐ろしい程の変わり様で、多分、工藤中佐もですが、野洲に駐屯する兵士達も小田切と一緒に来た兵士達も正か狼の餌食にさせるとは考えもしなかったと思いますよ。」


「ですが、何故五千人の官軍兵が菊地の隧道に来ると分かったのでしょうか。」


「若もご存知かと思うのですが、総司令には闇の者が居られ、その闇の者が何かの方法で五千人の官軍兵

が菊地の隧道に向かって居ると知り、大急ぎで知らせてのだと思います。」


 山賀の若様、松之介は闇の者が居る事は知っていたが、其れは松之介が山賀に入る以前の話で、実態は

知らない。


「吉永様、其れで山賀にはどの様にせよと申されておられるのでしょうか。」


「数日後には小川少尉と一個中隊が来られ山の警戒に当たると、其処で我々としてはあの猿軍団に協力を求めたいと考えて要るのですが。」


「猿軍団ですか、では早速正太さんに猿軍団に来て頂く様にお願いしましょうか。」


「若、猿軍団ならば山は詳しいので、其れと駐屯しております中隊と山賀の家臣達にも伝え、官軍兵を一

人たりとも山を越えさせない様に万全の配置を考えたいと思います。」


 やはり吉永だけの事は有る、吉永は源三郎の考え方は分かっており、菊池以外で侵入可能な道が有るの

は山賀に有り、その道を利用し侵入する可能性が有ると考えたので有る。


「吉永様、策は考えておられるのですか。」


「若、まぁ~何も急ぐ必要も無いと考えておりますので、総司令がどの様な策を小川少尉に申されている

のか分かりませんので小川少尉の到着を待ち、その後に猿軍団と協議すれば良いと考えております。」


「其れでは遅くは御座いませぬか。」


「若、山には猿が飛び回っておりますので何か有れば既に知らせが入っております。

 今まで何も伝わっていないと言う事は山賀の山には来ていないと言う事で御座います。」


 やはり吉永だ、若様は猿軍団が山賀の山を飛び回って要る事をすっかり忘れて要るのか、其れとも初め

ての大きな戦に心の動揺で前が見えていないのだろうか。


「若、まぁ~ゆっくりとしましょう、其の前に猿を呼びましょうか、猿に聞けば現状が分かると思います

のでね。」


「はい、承知致しました。

 どなたか正太さんを呼びに行って下さい。」


 そして、その二日後、小川少尉と一個中隊が山賀に到着し猿軍団と詳細な打ち合わせを行ない、山では

猿軍団が指揮を執る事に小川も納得し、家臣達と共に警戒に当たる事となり、山の小さな峠へと出陣した

ので有る。


 菊地の隧道では駐屯して要る中隊が警戒に入り、野洲から源三郎の到着を待って要る。


 その少し前、戻り橋付近を通過した五十嵐が引き得る五千の大部隊に。


「司令官、大変です。」


「何だ、一体どうしたと言うんだ、幕府軍でも発見したのか。」


「いいえ、司令官、そうでは御座いません。

 実は先程、戻り橋を通過したのですが、その少し先の川底に大砲と砲弾が放棄されています。」


「何だと、大砲と砲弾が放棄して有ると、よし行って見よう。」


 五十嵐は大部隊の中程付近に居る為、戻り橋は未だ通過しておらず、その戻り橋を過ぎた川底には小田

切達が放置した大砲と砲弾が発見された。


「何故、大砲と砲弾が川底に放棄されてるんだ。」


「司令官、この大砲は官軍の物です。」


「では、小田切が放棄したと言うのか。」


「私は其の様に思いますが、問題は何故大砲と砲弾を川底に放棄したかと言う事では無いでしょうか。」


「う~ん、何としても大砲と砲弾を引き上げる事は出来ないか。」


「司令官、この深さです、其れに大砲一門が一千貫以上の重さが有るのです。

 更にこの高さから落としたとなれば大砲は多分使い物にはならないと考えます。」


「やはりそうなのか、では仕方が無いか。」


「司令官、仮に砲弾だけでも考えたのですが、砲弾は大砲の下に有り、とても取り出すのは無理だと思い

ます。」


「では全てを諦めるしかないと言うのか。」


「はい、其れに此処に放棄したと言う事は計画的で前に聳える高い山を大砲を引き上げて越えるのは無理

だと考えたのでしょう、其の様に考えれば小田切少佐は工藤中佐と接触したと考えられます。」


「では小田切は工藤が潜んで要る所へと向かったと言うのか。」


「司令官、その証拠に小田切少佐が駐屯されておられた所から轍の跡が続いております。」


「そうか、やはり工藤と接触したと考えるのが普通の様だなぁ~。」


「はい、あれだけの轍が続くと言うのは今の幕府軍では考えられませんので、私は轍の跡を辿れば追撃も

簡単ですので何も急ぐ必要も無いと考えております。」


「だが何故急ぐ必要が無いのだ、一刻も早く追い付き工藤の命を。」


「司令官、普通ならば私も急ぎたいのですが、工藤中佐の部隊もですが、吉田中尉は一千名の部下と共にこの地に着いて要ると考えねばなりません。」


「吉田は工藤を崇拝して要るからなぁ~、う~ん、奴らは何と言う事をしでかしたんだ。」


「司令官、吉田中尉は官軍の中でも特出した戦略家で、私が工藤中佐の立場ならば、一個小隊の少人数で

小田切少佐の駐屯して要る所に向かいます。」


「其れは私も同じだ、何も最初から全てを見せる必要も無いからなぁ~。」


「其れと、私はこの轍ですが、私ならば見せ掛けの轍を付け後を追わせますねぇ~。」


 この隊長は読みが深いと言うのか、司令官よりも遥かに部隊の事を考えて要る。


「そうか、では轍の跡は我々を引き寄せる為の偽装だと考えねばならぬのか。」


「其れに、川の両岸は一体何処まで続いて要るのかと思う程の雑木林で、私ならば雑木林に兵を配置しま

すが。」


「其れは考えねばならないなぁ~。」


「この川の幅も狭く、対岸から狙い撃ちされますと、我が部隊の一瞬のうちに全滅させられます。」


 五十嵐は前方の雑木林を見ると。


「う~ん、だが工藤は一体どこに潜んで要るのだ、あの山は無理だと考えればこの雑木林の何処かに潜ん

で要ると考えねばならないのか。」


「私は大砲を放棄すると言う事は、あの山の何処かに潜んで要ると様に見せる為ならば、大砲は必要無いと考えます。

 仮に山の中腹に陣を作るとなれば道無き山を登るのは無理で、本当はこの雑木林の何処かに陣を構えて要るか、又は其れを反対に利用し、大砲の必要も無い山の中腹に陣を作って要ると思わせる為だと考えますが。」


 五千人の大部隊はもどり過ぎた所で各大隊の隊長と司令官の話し合いが続き、兵士達はのんびりと休みを取っており、兵士達にもまだ緊張感が無いと言う事で有る。


「だがあの村の農民兵だが、小田切の部隊では最後尾の兵士が所々の枝木を折って要ると言った様に聞

いたが。」


「私も勿論承知致しております。

 ですが相手は農民ですよ周りを見ながら歩き、時々枝木を折れば、最初は知られる事は有りませんが、

その内に小隊長か他の兵士が気付き報告すれば発覚すると思いますが。」


「では目印も信用は出来ないと言うのか。」


「司令官、工藤中佐の立場ならば反対に利用し、我々を招き出しますねぇ~。」


「では目印を信用して進むと罠を掛けたつもりが、罠に掛かったと気付いた時には遅いと。」


「私は大砲と砲弾の放棄が工藤中佐の作戦では無いかと考えております。

 其れに、これが工藤中佐の策略ならば何時頃に追い付くだろと考え、待ち伏せ場も私ならば雑木林の中

だと考えます。」


 だが現実は田中の報告で知り、兵と家臣達を配置に就けたので有る。

 工藤はそれ程にも小田切を信頼しており、その小田切が正か裏切るとは考えもしなかった。


 源三郎も工藤達も五十嵐の引き得る五千の官軍兵が早くも二又に近付いて要ると思い、だが五十嵐はそ

の後、進軍の速度を遅め、偵察兵を頻繁に出し、菊池まで続く雑木林の中を特に警戒する為、通常の半分

以下の進み具合をなり、工藤は作戦をじっくりと考える事が出来た。

 菊池の山には早くも数十人の猟師が入り見晴らしの効く所から五十嵐の動向を伺って要る。

 山の中では時々火縄銃の音が響くが連発銃の音では無いと五十嵐も知って要る。


 だがその音が正か自分達の動向を知らせる火縄銃の音だとは考えもせず、大部隊はゆっくりと川沿いの

道を進んで行く。

 五十嵐の大部隊が遅く着く事が勝敗にどの様に現れるのか、工藤も五十嵐も全く予想が出来ずに要る。

 大部隊は二又に着くまでまだ数日要したので有る。



          

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