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闇の帝国    作者: 大和 武
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 第 3 話。 田中が聞かされた情報とは。

 一方で菊池に入った小田切引き得る一千名の兵士と五百名の農民達は全く予想も出来ない歓迎を受け

戸惑いの連絡で、其れでもやはり安全な所だと子供達は理解したのか静かな眠りに付いた。


「なぁ~オラ達も寝て、明日、お侍様に話を聴く方がいいと思うんだ。」


「そうだなぁ~、オラも同じだ、今此処でオラ達だけで何を話しても同じだと思うんだ。」


「そうだよ、オラも賛成だ、今は早く寝て少しでも疲れを取る事だ。」


 その後、農夫達も静かに眠りに就き、朝を迎え、朝の食事中に源三郎が来た。


「皆さん、お早う御座います。


 皆さんの食事が終わる頃、今一度寄せて頂きますので、ゆっくりと食べて下さいね。」


「あの~お侍様、オラは何時でもいいんですが。」


「まぁ~まぁ~其れよりもご飯を食べて下さいね、私も今から食事に入りますのでね。」


 源三郎の他に高野、工藤、小田切も来ている。


「源三郎様、朝餉で御座います。」


 源三郎に運ばれて来た食事は農民達よりも質素なご飯で高野達も同じで有る。


「なぁ~お侍様の朝ご飯はオラ達よりも。」


「うん、オラ達はこんなご飯を食べた事が無いからなぁ~。」


 其れでも子供達は美味しそうに食べ、源三郎も高野も子供達をニコニコしながら見て要る。


「総司令、やはり子供は素直で、私もあの食べ振りを見ておりますと、自然と嬉しくなります。」


「誠に私も食べる事よりも子供達を見て要るだけで十分満足ですよ。」


 農民達は驚いて要る。


 何故、農夫達よりも質素な食事と、しかも子供達が大喜びしながら食べて要る姿を見て満足して要る

侍が目の前に居る。


「なんでお侍様が子供達が食べてるのを見て嬉しいんですか。」


「其れはねぇ~、皆さんが今安心され食べる姿を見るだけで、私は満足しておりましてね、其れに子供達

が大喜びで食べて要るでしょう、今はね其れだけで十分なのですよ。」


 その後、源三郎達も食事が終わり。


「さぁ~て皆さん、朝ご飯も終わったと思いますので、今から私が詳しくお話しをしますのでね、分から

ない事が有れば聞いて下さいね、ではお話しを致します。」


 農民達は静かに源三郎の話を聴いて要る。


 一時も説明しただろうか、其れでも不安が取れたのでは無い、其れと言うのも今まで侍から屈辱的な扱い方を受け、今源三郎が説明した内容を全て信用する事は出来ないと、其れが今の農民達の本音で有る。


「お侍様、オラは農民で田や畑を耕すのが仕事なんで。」


「勿論ですよ、我々の連合国でも、今田や畑を広げる為の工事に入って要るのですが、其の前に皆さんが

見られました高い山の麓に狼除けの柵を作り始めておりましてね、その柵が完成すれば新しい農地を作る事が出来ますのでね、其れまでは柵を作る仕事に就いて頂ければ、私達も大助かりなのです。」


 菊池から山賀に至るまでの柵が完成すれば大勢の農民が必要になる。


 小田切と共に来た兵士達の殆どが農民で、源三郎達が考えた屯田兵も設立し、新たな農地からは大量の

作物が収穫出来る。


 連合国の領民達が食料の不安が無くなれば、次へと進む事が出来るので有る。


「じゃ~オラ達は此処で農作業が出来るんですか。」


「はい、その通りですよ、私は皆さんが作られた作物のお陰で今、この様にして生きて要るのです。


 ですから皆さんの協力無しでは私は生きて行く事が出来ないのです。」


「でもオラ達は一体何処に行けばいいんですか、其れに家も無いし、道具も無いんでから。」


「まぁ~暫くはのんびりとして下さいよ、今此処では大勢の兵隊さんも加わり柵を作っておりますので、

そうでした、其の前に皆さんの家が必要ですねぇ~。」


「総司令、今私が考えた方法ですが宜しいでしょうか。」


「高野様の提案をお聞かせ下さい。」


「はい、では、私は柵作りと並行し農民さんと屯田兵用の家を川沿いに建てては如何と思うのですが、

まぁ~柵が完成するまでは仮の住まいとしますので食事を頂く事が出来る専用の家も建てれば農民さん達

と兵士達の共同で作業が行えると思うのですが。」


「高野様、大変素晴らしいお話しですねぇ~、ですがこの人達は。」


「総司令、私が責任を持っても良いのですが。」


 菊池の高野は全員を預かっても良いと、だが其れでは余りにも菊池の負担が多くなり過ぎる。


「高野様、では野洲で半数の人達を預かりましょうか。」


「あの~オラ達は一体何処に行くんですか。」


「その答えですが、我々の連合国には今皆さんがおられます菊池、その隣が野洲で、その隣が上田、其れ

に松川と続きまして連合国では一番大きな国の山賀が有りましてね、皆さんが来られる前に山の向こう

側から千五百人もの人達が分散し農作業を営まれているのです。


 皆さんが何処に行かれるのも宜しいのですが、皆さん全員で見に行かれても宜しいですが、其れは皆さ

んで相談して決めて下さい。」

 

「だったらオラ達が決めた国に行けるんですか。」


「はい、その通りですが、まぁ~殆ど変わりませんので、私がお願い出来るのは皆さんが同じ所では

無く、まぁ~其処は適当にと言いますか、分かれて頂ければ宜しいのでしてねぇ~。」


「総司令、お伺いしても宜しいでしょうか。」


 小田切も余程気に成るのだろうか、兵士として任務に就く事が出来るのか。


「勿論ですよ。」


「先程、申されました屯田兵の事ですが、私としては兵士の身分で残りたいのですが。」


「小田切さん、私が申しました屯田兵ですが平時の時ですねぇ~幕府軍や官軍からの攻撃が無ければ普通

の農民さんと同じ農作業に就いて頂くのですが、有事と申しまして軍隊が山から侵入し攻撃した時は直ぐ

応戦出来る様に近くに連発銃と隠して置くのです。


 私もですが、国の武士ですが領民達を守るのが第一で次は同じ仲間を守るのが仕事だと言う事です。」


「では常時近くに連発銃を隠し、農作業を行うのですか。」


「正しくその通りでしてね、少し離れた所から見れば農民さんですからねぇ~。」


「では私の部下一千名の兵士は屯田兵として農作業に就くのですか。」


「駄目でしょうかねぇ~、小田切さんの仲間も殆どが農民さんならば何も不満は無いと思うですのですがねぇ~。」


「小田切、総司令は全体を見ておられ、其の中でも農村、漁村の人達が最も大事だと申されておられて、

全ては領民達の為にと言う事なんだよ。」


「中佐殿、では私の任務ですが。」


「総司令はどの様に考えておられるのでしょうか。」


「私は未だ何も考えておりませんよ、工藤さんが小田切さんや吉川さんと小川さん達とお話しして下されば良いと思いますが、まぁ~其の前に小田切さんも含め、一千名の兵隊さんに詳しくお話しをするのが

大事ではと思っておりますが、今は農民さんにお話しをしておりますのでね、数日間お待ち願いたいので

すが宜しいでしょうか。」


「ですが、私は部下の。」


「小田切さん、申し訳有りませんが、この場から出て行って下さい、お願いします。」


「何故ですか。」


「小田切、辞めるんだ、まだ分からないのか、総司令は農民さんへの説明が大事だと申されているのが

分からんのか。」


「工藤さん、もう宜しいですよ、さぁ~部屋を出なさい、早くです。」


「小田切、さぁ~来るんだ。」


 工藤は源三郎が小田切の言葉に立腹したと思い部屋から連れ出した。


「皆さん、申し訳有りませんでしたね。」


 源三郎は農民達に優しく詳しく話を続けると。


「あの~お侍様。」


「皆さん、私は侍では有りませんのでね、これからは源三郎と呼んで下さいね。」


「えっ、でもオラは農民ですよ、そんなのって言えないですよ。」


「私はねぇ~其の方がいいんですよ、皆さんも聞かれた思いますが、昨日、皆さんが此処に着かれた時の

事を城下の人達が私を源三郎と。」


「はい、だけどなぁ~。」


「皆さんは農民だからと申されましたが、私を含め全員が人間なんですよ、私と貴方方が着物を脱げば

全てが同じで、ただ仕事の中身が違うだけでなのですからね。」


「あの~源三郎様。」


「はい、やっと呼んで頂けましたね、私は大変嬉しいですよ。」


 源三郎はニッコリとした。


「あの~さっきの話ですが、オラは源三郎様のお国に行きたいんですがいいんですか。」


「私の国ですか、私は連合国の人間ですのでねぇ~、この菊池も私の国ですよ。」


「え~そんなのって、だったら一体何処なんですか。」


 源三郎は答えるつもりは無いが。


「皆さん、総司令は菊池の隣に有る野洲のお方ですが、でもねぇ~野洲に行かれると其れはもう大変な事に成りますよ。」


「えっ、大変な事って、一体何が起きるんですか。」


「私が説明するよりも野洲に行きたいと思われて要るお方は行って頂いても宜しいですよ。」


 高野はニヤリとし。


「だったら野洲に行くとオラは殺されるんですか。」


「まぁ~その様な事は有りませんがね、私も説明のしようが無いと言うのが本当でしてね。」


「オラは其れでも行きますよ。」


「はい、ではお待ちしておりますよ、では皆さん分かって頂けましたか。」


 だが現実はと言うと果たして農民達が源三郎の説明を理解して要るのでは無く、単に幕府からの圧政から逃れただけで本当の試練はこれから始まるので有る。


「小田切、一体何の真似だ、私は言ったはずだぞ、総司令と言われる源三郎様は農村や漁村、其れは領民

達を一番大事にされるお方だと。」


「中佐殿、ですが私の部下も農民が一番多く占めております。」


「其れは全て知っておられるんだ、だがなぁ~現実は元官軍兵だ、下手をすれば全員が死んでいたんだ、

君達は運よく私が見付けたと同じで、あの時、私に見付からなければ、小田切は官軍の脱走兵扱いで其れ

くらいの事は分かるはずだ、総司令は何故君を同席させた思うんだ。」


「自分は権力者だからと、それを見せる為でしょうか。」


 小田切は全く理解していない。


「小田切、総司令に権力も権限も必要無いんだ、総司令は命令はされない、先程の話しでもそうだが全て

の人達に対しお願いをされるだけなんだ、農村の人達も漁村の人達も総司令の説明を理解し、多くの工事に就いているんだ。」


「中佐殿、私も少しは理解しております。


 農民や漁民が大事だと言うのが、其れでも私は部下が大事なのです。」


「なぁ~小田切、何故、私がこの様な話しをすると思うんだ。」


「う~ん。」


 と、小田切は全く理解出来ないのか、其れとも理解する必要も無いと思って要るのだろうか。


「では私が説明するよ。」


 工藤は小田切に源三郎に出会った時の事から吉田達一千名の兵士を救った事までも話すと。


「中佐殿、私が間違っておりました。


 総司令は屯田兵と言う名目で兵士達を農作業に就かせておられるのですね。」


「その通りだ、私も吉田中尉、小川少尉は平時は軍服を着用しているが、全てが軍務だけでは無い。


 今は潜水船の建造と、連合国内の隧道と洞窟の建設に全力を注いでいるんだ。」


「ではその仕事に各部隊からも行かれているのですか。」


「其れは無い、この菊池でも他の国でも殆どが領民達だけだ、其れと警戒の為に菊池から山賀までには

各中隊が駐屯し、山の麓から城下まで警戒任務に就いているんだ。」


「警戒任務に就くのが領民達を守り、最終的には我々も生き残れると言われるのですか。」


「その通りだ、中隊の兵士達は農作業をされて要る人達とは常に話し合いをされ、其れが一番の情報源で山の様子や海の様子が分かれば中隊が特別に監視する事も無く情報が手に入ると言う事なんだ。」


「中佐殿が命令される事は。」


「小田切、私も連合国に着て暫くは戸惑ったが今では命令する事は無いんだ、中隊の兵士達が私や中隊長

達の先を行くから、其れよりも君が心配している兵士の任務と言うのか、仕事の事だが総司令の事だ、

我々が驚く様な策を考えておられるぞ。」


 工藤の説明に小田切も少しは理解出来たのだろうか。


「高野様、柵の工事ですが、今はどの様になって要るのでしょうか。」


「農民さんの意見が大事でして、其れに合わせて大工さん、木こりさん達の共同で切り倒す大木の選別ですが、其れがもう大変でして、時々中隊の兵士が狼を発見したとの通報で直ぐ避難しますので思う様には進んではおりません。」


「やはりそうでしたか、野洲でも同じでしてねぇ~、ですが犠牲者だけは出さない様にしなければを作る意味が有りませんので。」


「先日も私が山に入ったのですが、二百本近くだと思いますが切り倒された状態でして、今は運び出す事も出来ないと聞いております。」


「では運び出すされずにと言う事は加工も出来なと言う事になりますねぇ~。」


「はい、中隊長の話では中隊の兵士が運び出し、長さを調整する予定が兵隊さん達も狼の警戒が最優先でとても運び出すまでは行けないと言われております。」


 山には数千頭の、いや一万頭以上の狼が生息し、何時何処で木こりや大工達、其れに農民が襲われるの

かも分らず、今は警戒が重要な任務で他の事にまでは手が回らないとのだと、其れは何も菊池だけに限っ

た事では無い。


 野洲でも上田、松川に山賀にと全てが同じ様な状態なのだ。


「高野様、新しく一千名の兵士が来られましたが、私は二百人を各国に参加して頂き、其の内の百人で

原木の運び出しと長さを合わせた後、山賀の製材所で加工出来るのは無いかと、今思ったのですが。」


「其れは大助かりになると思います。


 今山に放置されている原木が運び出されだけでも気持ちは前に進みますから。」


「集材場所は大工さんの意見で決めても良いと思いますが、今からでも山に行きませんか。」


 高野は源三郎の考えが分かった。


 今の人員では原木を運び出す事も、切断し長さを調整する事も、更にその先の山賀に運ぶ事も出来ずに作業が滞った状態で、高野自身も人員不足が最大の問題だと考えていた、其処に小田切と一千名の元官軍兵が戦線を離脱しやって来た、これで人員不足は一気に解決出来ると考えた。


「総司令、私も今人員不足が一番の問題だと考えておりましたので、元官軍兵が作業に参加して頂く事が

出来るならば問題点は一気に解決出来るのではないかと考えております。」


「総司令、では馬の準備をしますので。」


「中隊長、工藤さんと小田切さんを呼んで下さい。


 其れと中隊長達にも同行して頂き現状を見て頂きたいと思いますので。」


「はい、承知致しました。


 では自分達も馬の準備に入ります。」


「私は工藤さんにお話ししますので。」


 高野は馬の準備に、源三郎は工藤に説明し、半時程で源三郎達は菊池の現場へと向かった。


「総司令、やはり狼対策で人員を取られ、原木の運び出しが出来ていないのでしょうか。」


「工藤さん、私達は一刻でも早く食料の増産に入らなければなりません。


 ですが、連合国の山には狼の大群が潜み、計画を急ぐ余り狼による犠牲者を出したのでは全ての計画が

失敗に終わりますので、狼対策は最大の問題でして、其れが原因と思われますが、菊池だけで無く、他の

現場でも原木の運び出しが滞っております。


 小田切さんと仲間の兵士一千名は我々に取りましては人員不足の解消だけで無く、他の作業も進むので

はないかと思ったのです。」


「では中隊長達に現場を見せると言うのは。」


「今は兵士達を同行させるのは危険でして、其の前に中隊長に現場の状況を理解して頂く事が大切だと

思ったのです。」


 源三郎は中隊長達に現場を理解させる事で兵士達に説明する時でも理解が早まるのでは無いかと考えた

ので有る。


「小田切さん、工藤さんからお話しを聞いて頂きましたでしょうか。」


「はい、総司令、先程は誠に申し訳御座いませんでした。


 私は中佐殿から全てをお聞きし、総司令が如何に領民達の為になされておられるのかを知りました。」


「そうですか、この山は菊池から山賀まで続き、この世で一番恐ろしいと言われる狼が群れをなして

おり、私も一体何頭の狼が生息しているのかも知りません。


 小田切さん、狼と言うのは非常に賢く、人間は弱いと言う事も全て知っておりますので、私達の一番恐

れている狼から農民さんを守る事が出来れば、食料の増産も早まると考えております。


 その為に今は兵士達の協力無しでは狼の攻撃を防ぐ事も出来ずにおりますので、先ずは狼除けの柵を

完成させなければなりません。


 其れで今から山に向かい木こりさんや大工さん達に相談しますが、全てを大工さん達に任せ、大工さん

達の指示で工事を進めて参りますので、その事も中隊長達にお話しをして置いて下さいね。」


「はい、承知致しました。


 では私は中隊長達に話をしますので。」


「ではお願いします。」


 小田切は下がり、中隊長達の方へと向かった。


「源三郎様、何処に行くんですか。」


「私ですか、今から山に向かいますが。」


「源三郎様、オレ達にも何かお手伝い出来る事が有りませんか。」


「う~ん、そうですねぇ~、では菊池と野洲の中間くらいで広い所は有りますか。」


「ええ、それなら有りますよ、其れが何か有るんですか。」


「実はねぇ~山から原木を切り出し、長さの調整と枝切りなどの多くの仕事と山賀まで運ぶのですが。」


「其れだったら城下で荷車と仲間を集めますよ。」


「皆さんの協力が有れば食料の増産も出来ますので、大助かりですよ。」


「じゃ~何人くらいですか、其れと荷車も集めますので。」


「其れは私達が山に行きますので、其の話しで段取りを考え皆さんにお願いしますので。」


「分かりましたよ、じゃ~其の時に言って下さいね。」


「勿論ですよ、皆さんの協力に感謝します。」


「源三郎様、オレ達も嬉しいんですよ、仕事が出来るんですから、じゃ~オレ達は城下の人達に話して

置きますんで。」


「では宜しくお願いしますね。」


 菊池でも源三郎が動くと城下の領民達が集まり、仕事を手伝うと、だが領民達は別に高野を無視して

いるのでは無い。


 だが源三郎が動くだけで高野の影が薄くなり、高野自身も源三郎の人気に対しては諦めている。


「小田切、今のを見たか、源三郎と言われる総司令の姿なんだ、中隊長達も分かると思うが総司令は野洲

のお方で、高野様が菊池の司令だが、それ程、総司令は物凄い人気だと言う事なんだ。


 だが野洲に入れば今の数倍、いや数十倍は凄まじいんだ、野洲ではお殿様の存在よりも総司令の存在が

大きい、だからと言って菊池でも高野様は誰でも知って要る。


 だがその上手が総司令で、総司令が動くと城下の人達が集まり、まぁ~そうだなぁ~収集が付かない事も有るんだ。」


「私は驚きよりも城下の人達が気軽に声を掛け、総司令も気軽にと言えば失礼ですが、城下の人達に助け

を求めてと、いや申されて要る様子に思えるのですが。」


「総司令が居られるだけで領民達は安心している様子がよ~く分かると思うんだ。


 まぁ~今から山に入り大工さんや木こりさん達との話し合いを聞けば納得すると思うよ。」


 工藤は源三郎と言う人物が行動を開始すると領民達は直ぐ反応すると言うので有る。


「総司令、この付近が先程の話で有りました場所になると思いますが。」


 高野達は一度馬を降り、周辺を見渡し、その場所は大よそ菊池の中間点に位置し、この場所ならば大量

の原木を保管する事が出来、数種の加工も出来ると。


「高野様、この場所ならば最高だと思いますので此処に飯場を作りましょうか。」


「総司令、私も同じ考えで、先程の領民ですが、名を吉三と申しまして、何時も彼が先頭になってくれま

すので。」


「ほ~吉三さんですか、其れは何よりですねぇ~、其れと賄いも出来ればこの場所ならば菊池で行う柵

作りの中心となるでしょうから、城下の人達も参加して頂く事が出来ると思いますよ。」


「私も其れが出来れば柵作りも本格的に入る事が出来ると思っておりました。」


「ではこの場所に決めましょうか、其れと此処に宿舎も作れば作業効率も上がると思いますねぇ~。」


 やはり源三郎が来ると話しが早い、高野も人員不足が解決出来るならばこの場所を中心に柵作りの拠点

としたいので有る。」


「では参りましょうか。」


 源三郎は下見を兼ねて山へと向かった。


「少佐殿、総司令の決断は早いですねぇ~。」


「そうなんだ、私も驚いて要るんだ。


 柵作りも大変な作業だが、総司令は領民にもお願いされ、先程の話を聴いて要ると、総司令の頭の中は

先の先、いゃ~我々の考える遥か先を考えておられ、大隊の兵士もだが、領民の中からは狼からの攻撃と言う予測不可能な相手に対しての防御を考えておられ、其れと同時に幕府軍や官軍からの攻撃からも備え

ると、もう私は正直言って総司令は何処まで先を考えておられるのか全く分からないよ。」


「少佐殿、先程の話しだけでも、私は理解出来る状態では有りません。」


「小田切、少しは理解出来たのか。」


「中佐殿、直ぐに理解する事は不可能だと思いました。


 総司令は一体何処まで考えておられるのか、私が理解する以前の問題で今は其の時の話される事を納得

する事しか無理だと思いました。」


「中隊長達も少しは分かったと思うが、これからは総司令が話される時は理解不可能だと思うだろうが、

お話しの内容が分からなければその場で聞く事が大事で、連合国では官軍の時の様に上位下達では無い。


 君達が納得出来なければ末端の兵士達が納得する事は先ず不可能だと言う話しなんだ。


 総司令は何時の時でも全ては領民の為だと申されておられるが、其の意味を理解すれば実に簡単で領民

が生き残れると言う事は、我々も生き残れると言う話で、その為には何を行なえば良いか考えておられ、

その為には相手が例え子供で有ろうが関係無く聞かれ、子供の提案された事でも其れが良いと判断出来れ

ば採用されると言う意味なんだ。」


 工藤は山に入るまで小田切と中隊長達に話を続けて要る。


「高野様、山での切り出しですが、今は間伐材が主なのでしょうか。」


「はい、木こりさん達は先に間伐材の切り出しを行ない、大工さん達は間伐材の選別と長さの調整され、今は確か二百本くらいだと聞いております。」


「ではその間伐材で賄い処と宿舎や建てましょうか、其れと多分山の中には別の間伐材も多く有ると思い

ますが。」


「はい、其れを今から聞きたいと思っておりますので、総司令、では本格的に入る前に賄い処と宿舎の

建設ですねぇ~。」


「はい、其れが出来れば本格的な柵作りに入る事が出来ると思いますよ。」


「総司令、この先に大工さん達が居られると思います。」


 高野は馬を降り、源三郎達も降り、大工達の作業現場へと着いた。


「皆様方、大変ご苦労様です。」


「えっ、源三郎様では。」


「はい、私は皆様方が大変ご苦労されておられると聞きましたので。」


「源三郎様、わしらは別に苦労してるとは思ってませんが、高野様が大変苦労されておられます。」


「左様で御座いますか、其れでお話しを伺いたいのですが、この原木は。」


「はい、今五百本以上の間伐材が有りまして。」


 大工達の話では、五百本の間伐材の処理が終わらなければ前には進めないと、更にまだ数千本もの間伐

材が有り、今は適当な長さに調整し、何時でも運び出せる様にと作業を進めて要ると言う。


「やはりそうでしたか、皆さんに其処まで考えて頂き、私も嬉しく思います。


 其れで皆さんにお話しが有るのですが。」


 源三郎はこの後、大工達に人員不足の解消と本格的な作業に入る計画を話した。


「源三郎様、其れはわしらも大賛成ですよ、この付近の間伐材が処理出来れば大助かりですから。」


「では兵士二百人を出しますので、後は大工さん達が指示を出して下さい。」


「え~そんな、わしらは兵隊さんには。」


 大工達も正か兵士二百人が応援に来るとは思って無かったのだろう。


「ですが、先程も申されました間伐材の処理は大工さん達だけではとても無理だと考えれば、兵隊さんの

投入は仕方が無いと思いますよ、其れは兵士達にも狼除けの柵作りが必要だと理解して頂けるものと私は

思いますのでね、先程、此処に来る途中で広い敷地を確認しておりますので、大工さん達もこれからは

その現場での加工作業に就いて頂きたいのです。」


「源三郎様、じゃ~わしらは其処で仕事が出来るんですか。」


「はい、此処は大変危険なので、その場所に行って頂き、作業場と宿舎、これは兵士達専用でして、其れ

と賄い処も建てて頂きたいのですが、お願い出来るでしょうか。」


「源三郎様、じゃ~わしらは一度家に戻りますので。」


「はい、急な変更で申し訳有りませんが。」


「いいえ、そんな事、わしらもどうしていいのか分からなかったんで、源三郎様、じゃ~わしらが兵隊さんにお願いすればいいんですか。」


「勿論ですよ、全てお任せしますよ、小田切さん、今聞いて頂いた通りで、明日の朝、一個中隊を先程の

空き地に集合させて下さい。


 高野様は先程のお方に荷車の手配とお願いします。


 小田切さん、其れで中隊の中で大工さんの経験されたお方が居られますれば、大工さんに申し出て頂き

たいのですが宜しいでしょうか。」


「総司令、其の話しも隊に戻り次第致します。」


 源三郎は大工経験者が多く居れば、大工達の負担も減ると考えたのだろう。


「じゃ~源三郎様、わしらはその空き地に行き、建物の位置と図面作りに入りますので。」


「はい、其れで木こりさん達は。」


「今も間伐材を切り倒されておられてます。


 木こりさん達に聞いたんですが、間伐材の処理を先にすれば後々楽に成るって。」


「やはりそうでしたか、木こりさん達も同じ考えですねぇ~、高野様、この現場は木こりさんの指示に任

せましょう、其れと加工作業現場では大工さん達の指示に、其れが結果的に早く進むと言う事になります

からねぇ~。」


「私も同じです、では一個中隊は作業現場を拠点として、山賀へ運ぶ人員と山から運び出す人員、其れと

この現場と他の仕事に就いて頂く領民とに分けて進めて参ります。」


「まぁ~後は高野様にお任せしますので。」


「総司令、承知致しました。」


「工藤さんは各地の駐屯地に向かって頂き、中隊長達に話をして頂きたいのです。」


「はい、承知致しました。


 総司令、私は此処に残り中隊長達に説明します。」


「はい、何卒宜しくお願い致します。


 では高野様、私達は戻りましょうか。」


 源三郎と高野は戻って行く。


 其の頃、田中と三平は五十嵐から聞いた宿場に向かっていた。


「三ちゃん、今日は宿でゆっくりとしましょうか。」


「直さん、でも。」


「三ちゃん、何も急ぐ事は有りませんよ、仮にですよ、五十嵐さん達が先に出立したとしても、あの人数

ですよ、私達が歩くよりも遅いですから、明日の朝出立しても直ぐ追い付けますよ。」


 田中と三平の二人ならば、五十嵐の引き得る五千人の兵士達よりも早く進む事が出来ると。


「じゃ~直さんは追い越すんですか。」


「三ちゃん、五十嵐と言う司令官も正か、私達が先に行くとは考えもしないと思いますよ、部隊を見付け、別の道へ行けば発見される事も有りませんのでね。」


「じゃ~直さんは官軍が何処に向かうのかを見たいんですか。」


「三ちゃん、若しも、若しもですよ、菊池へ抜ける隧道が発見されるやも知れないのですよ。」


「でもあの隧道は何処から入るのかも分からないんですよ。」


 三平は小田切が引き得る一千名の兵士と数十台の馬車の存在を忘れて要る。


「三ちゃん、小田切さんが連れて行く一千名の兵士と数十台の馬車が通過すれば必ず跡が残しますよ。」


「あっそうか、オラは兵隊と馬車の事を忘れてましたよ、でもあの場所に行くまでは何日も掛かると思うんだけど。」


「ですが、若しもと言う事が有りますのでねぇ~。」


 田中は二又の分岐点から付いて要るで有ろう兵士達の歩いた跡、其れに馬車には大量の火薬と弾薬が

積み込まれており、馬車の轍が深い溝となり残って要ると考え、若しも轍が発見される事にでもなれば、隧道も必ず発見されると考えたので有る。


「直さん、だったら大変な事に成るんですか。」


「三ちゃん、大砲を持つ軍隊は山を越える事は無理ですよ、でもあの隧道は馬車が通れる様にと山の麓を

掘って有るので大砲も通る事は出来るんですよ。」


「わぁ~だったら大変な事に成りますよ、オラ達の連合国に入られたら。」


 三平は五千人の兵士と大砲が菊池に入ったと想像した。


「三ちゃん、若しもの時には菊池の入り口を爆破すれば隧道を通り抜ける事は出来ませんので大丈夫だと

は思いますが、其れでも兵士を使い塞がれた隧道を開通される事にでもなれば菊池は数日で陥落すると

思いますよ。」


「えっ、菊池が数日って、じゃ~オラの野洲は。」


「まぁ~野洲も数日で、連合国は十日も経てば完全に制圧されるのは間違いは有りません。」


「じゃ~源三郎様は。」


「多分、最初に戦死されると私は思いますよ、三ちゃん、問題はその後の事で五十嵐と言う司令官が

五千人の兵士達を掌握されて要ると考えても、必ず暴走する者達がおり、その者達が一体何をするのか、其れが一番恐ろしいんですよ。」


 田中も三平も今まで通過した村や城下で略奪や暴行、更に村は焼き払われ、女や子供達が殺されて要る

のを見て来たが、全ての犯行が幕府軍なのか、其れとも官軍なのか、其れは分からない。


 だが生き残った領民の話では半分が官軍に犯行だと、其れならば菊池から山賀まで続く連合国の領民達は官軍兵によって男は皆殺しに、女は犯され、最後には家に火を点け焼き殺すで有ろうと。


「直さん、だったらオラ達は一体どうすればいいんですか、草だったら直ぐ戻りますよ、でも馬車が

通った轍を消すなんて出来ないですよ、其れに二又の所だけ消すと余計に疑うと思うんですよ。」


 三平の言う通りで、二又の所にまで続いた轍の跡を消すと、五十嵐で無くても斥候を出して山の麓を

調べさせるで有ろう。


「其れを私も考えてるんですよ、三ちゃんの言う通りで馬車の轍を付けて二又の所まで来た、だけどその

先が急に消されて要ると成れば、私でも山の麓を徹底的に探しますからねぇ~。」


 田中も今は解決出来る方法が考え付かないと言うのだろうか。


「ねぇ~直さん、何か方法でも有るんですか。」


 田中も今まで大きな問題を抱え込んだが、今回の問題は今まで経験した事の無い問題で、一千名の兵士

と火薬と弾薬を積んだ馬車の痕跡を消さなければならないと言う大問題が発生したので有る。


「う~ん、其れがねぇ~。」


 田中も今何も浮かんで来ず、其れからも考えるのだが。


「直さん、宿場に入りますか。」


 田中と三平は大問題を抱え話の最中に五十嵐から言われた宿場に着き、直ぐ旅籠に入り、二人は久し振

りに風呂に入るが、田中も三平も問題の解決方法を考え、お互い話す事も無く朝を迎え、宿を出、来た道

を戻って行くと言うのか、野洲に帰ると言うのか足早に行き、昼を食べ、その後も言葉少なく歩き半時が

過ぎた頃。


「直さん、前の方から。」


「私も分かりましたよ、では道を変えて行きましょうか。」


 二人は街道を離れ間道を進み、その半時後。


「三ちゃん、あの軍隊は五十嵐司令官の様ですねぇ~。」


「直さん、オラも分かりましたよ。」


「じゃ~もう少し進んでから街道に戻りましょうか。」


「はい、直さん、何か方法は。」


「そうですねぇ~、でも今は何も思い付かないんで其れよりも先を急ぎましょうか。」


「そうですねぇ~、じゃ~直さん戻り橋まで行ってから考えてはどうですか。」


「其の方法が有りましたねぇ~、工藤さん達の部隊がどの道を通って行ったのか分かると思いますので、

じゃ~急ぎましょうか。」


 田中と三平は五十嵐の引き得る五千人の兵士達の数里先で街道に戻り、其のまま工藤達が通過したで

有ろうと思われる戻り橋へと急ぐの有る。


 果たして、工藤達は一千名の兵士と数十台の馬車が通過した轍の痕跡を残し菊池に入ったのだろうか、

其れを確認する為に田中と三平は戻り橋へと急ぐので有る。


「では参りましょうか。」


 源三郎は明くる日早朝、五百人近い農民を連れ、野洲へと向かった。


「総司令、お気を付けて。」


 高野は源三郎達を見送った後、作業場の建設予定地へと向かった。


「あの~源三郎様、オラ達は何処に行っても本当にいいんですか。」


「勿論ですよ、先日、菊池に着かれ、野洲も知りたいと思いますが、連合国の中では山賀と言う国が毎年

大豊作でしてね、今回、農地を広げると話しも山賀に入られた山の向こう側から来られた農民さん達から

の提案でしてね。」


「じゃ~源三郎様、オラ達も考えて源三郎様にお願いすればいいんですか。」


「別に私で無くても宜しいですよ、何処の国に行かれたとしてもその国の家臣に話をして頂ければ、その

国の司令官達が考え、他の国の司令官と協議する事に成っておりますからね。」


「でもオラ達がお侍様に下手な話をすると後が恐ろしいですから。」


 彼らは幕府の侍達から恐ろしい程の迫害を受けたのだろう、その為今でも侍が恐ろしいのだと、其れが

突然、連合国の侍達は農民に対しては優しく接し迫害は一切無いと、確かに菊池に入った時には菊池の

家臣達も領民達も優しく迎い入れてくれた、だが彼らは他国の事などは全く知らない。


「あの~源三郎様、オラ達はお侍様が恐ろしいんですよ、お侍様に何か下手な事を言って直ぐ刀を抜き殺

された人もおりますんで。」


「私も同じ侍ですから貴方方がお気持ちはよ~く分かりますよ、ですが菊池の侍もですが、他の国の侍達

も刀は差しておりませんよ。」


「あ~そう言えば確かに菊池のお侍様は誰も刀は持って無かったなぁ~。」


「オラも見たよ、だけど有れは源三郎様が居られたからだと思うんだ。」


 源三郎が今どの様に説明しても、今の彼らは全く信用していない。


「まぁ~皆さん、そのお話しは何時でも出来ますのでね、其れよりも、我々は今後農地を拡げる工事に

入るのですが、其の前に数万頭の狼から農民さんを守る為の柵を作らなければならないのです。」


「源三郎様、あの山に狼がいるんですか。」


「ええ、其れは本当の話ですよ、今まで幕府軍や官軍兵も大勢が狼の餌食になっておりますので、其れに

猪や鹿もおり、農民さんが苦労して育てられた作物を食い荒らしておりますからねぇ~。」


「でも柵って一体何処から何処まで作るんですか。」


「其れがねぇ~、菊池から山賀まで続く柵でしてね、でもこの柵が完成すれば狼からの攻撃もですが、

猪や鹿からも畑を荒らされずに済むと言う話しでしてね、でも柵を作ると簡単に言いましたが、現実はそんなに甘いものでは無いのです。


 今は各地に駐屯して要る兵隊さん達が狼から工事現場の人達を守るだけが精一杯でしてね、山で切り倒

された原木を運び出す事も出来ないのです。」


「だったら柵も作れないんですか。」


「其の通りでしてね、其れで私は昨日山に行きまして大工さん達も話をしまして、まぁ~其れよりも私は

皆さんに協力をお願いしたい事が有るのですが宜しいでしょうか。」


「源三郎様、オラ達は農民で何も分からないんですよ。」


「皆さん、私がお願いするのは田や畑を作る為の開墾作業でしてね、柵を作るのは今の畑からまだ一町程も山に入るのですが、全ての農地に狼が出没して要る訳では有りませんのでね、其の様な所からでも開墾に入って頂く事が出来れば宜しいのですが。」


「源三郎様、その柵ですが一体誰が作ってるんですか。」


「そうでしたねぇ~、柵に加工するのは大工さん達ですが、山から原木を運び出すのは皆さん方と一緒に

この連合国に来られた兵士の仕事で柵作りは皆さん方が直接入られる事は有りませんのでね何も心配され

る事も有りませんよ。」


 野洲に着くまでは農民達の質問に対し、源三郎は丁寧に答えて要る。


 菊池を朝出発した源三郎達は昼過ぎ頃菊池から野洲に入って。


「あれ~源三郎様だ、お~いみんな源三郎様が菊池から大勢の人達と一緒に戻って来られたぞ。」


「わぁ~本当だ、源三郎様~。」


 早くも数十人の領民が源三郎の傍に来た。


「ねぇ~源三郎様、一体何処の女と一緒だったのよ~。」


 さぁ~始まった、野洲の女達は源三郎に対して平気で言うのだが初めて聞いた農民達は其れはもう大変

な驚き様で、其れでも源三郎は何時もの事だと言う様な様子でニッコリとして。


「私は別に其の様な女性はおりませんよ。」


「でも本当なの、何か香りが残ってるわよ。」


「おい、そんな事言ったって仕方が無いんだ、だって源三郎様だからなぁ~。」


「でも本当に悔しいわよ、ねぇ~源三郎様、相手は菊池の腰元なの。」


「お前って本当にバカだなぁ~、源三郎様には雪乃様が居られるんだからなぁ~、誰が考えたって雪乃様

に勝てる訳が無いんだから。」


「あらまぁ~あんた妬いてるの。」


「え~誰がだよ~。」


「まぁ~まぁ~、私は皆さん方が一番大切ですからね、皆さん方を裏切る事は有りませんよ。」


「源三郎様、そんな事分かってるわよ、ねぇ~みんな。」


「そうだよ、源三郎様はオレ達の源三郎様なんだからな。」


 領民達は誰でも源三郎に対しては平気で、源三郎も何時もの事だと思って要る。


「源三郎様、でも大勢の農民さん達だけど一体何が有ったんです。」


 もうその頃になると、源三郎の周りには数十人、いや数百人の領民が集まり、誰もが好き勝手な事を

言って収集が付かない。


「皆さん、この人達ですが幕府軍や今の官軍に迫害を受け、村は焼き払われ多くの人達が殺され、先日

工藤さんと他の官軍兵と言いましょうか、元官軍兵と逃げて来られた農民さん達で皆さんの助けが必要

なのですよ。」


「よ~し源三郎様、オレ達に任せて下さいよ、明日、いや今からでも新しい着物を持って来るから。」


「そうだよ、オレ達に新しい仲間が出来たんだから、なぁ~そうだろう、あんた達、源三郎様が居られる

からもう何も心配する事は無いんだ。」


「なぁ~みんな、其れよりも今からご飯の準備だ。」


「有賀とう皆さん、私は大助かりですよ。」


「源三郎様、今、中川屋さんと伊勢屋さんにも知らせに行ったから、そうだ、みんな家に帰って準備に

掛かろうぜ。」


「よ~しみんな行くぞ~。」


「お~。」


 野洲の人達は一体何を始めるつもりなのだろうか、其れは源三郎だけが知って要る。


 今はお城に入るよりも城下の人達に任せる方が全て上手く行くと、半時もしない内に又も城下の人達が

集まり始め、誰もが大手門近くの駐屯地へと向かって行く。


 其の頃。


「殿、源三郎様が大勢の農民さんと一緒に戻って来られました。」


「そうか、其れで源三郎は如何致しておるのじゃ。」


「今は城下の人達に取り囲まれておられます。」


「まぁ~何時もの光景じゃ、其れで後は泊まりの。」


「はい、其れも今進めております。」


 野洲の家臣達もお殿様も今は慣れたもので、其れでも準備だけは進んで要る。


「あの~源三郎様、一体何が起きてるんですか。」


「皆さん、そうですねぇ~、今から大変な事に成りますが、何も心配される事は有りませんよ。」


「でもオラ達は何をすればいいんですか。」


 五百人の農民達は野洲の領民がワイワイと其れは大騒ぎしながら夕食に準備を始めて要る様子を見て

驚いて要る。


「総司令。」


 吉田中尉が一個小隊と来た。


「吉田中尉、直ぐ後ろから一千名近い兵士が来られておりますので宜しくお願いします。」


「はい、其れで明日ですが。」


「明日は此処に二百名を残し、上田に向かいますので二百名の兵士には棚作りの手伝いに入って頂きたい

と思っております。」


「其れは大助かりで御座います。


 今山の現場では人員不足でこれでやっと原木を運び出す事も出来る様に成ります。」


 野洲でも同じ状況で、山の現場では連日狼の攻撃から木こりや大工達を守るのが精一杯で原木を運び

出す事も出来ていない、吉田も元官軍兵が入ると聞き少しは安心出来た。


「総司令、兵士達にはご説明はされておられるのでしょうか。」


「其れも未だでしてね、吉田中尉にお願い出来ますか。」


「勿論で、では明日の朝全員に説明しますので。」


「其れではお願いします、其れと野営の準備も。」


「全て私がお願いをしますので、其れと中佐殿は。」


「もう間も無く着かれると思いますよ、この人達と突然一千名の兵士が来られましたので中隊長に説明

されると思いますので。」


「はい、了解しました。


 其れと今夜の食事は合同で宜しいので御座いましょうか。」


「はい、其れで宜しいかと、其の前に野営の。」


「はい、全て承知致しました。


 では、自分は。」


 吉田も段取りは分かっており、余り詳しい説明は必要としない。


 一千名の兵士が馬車と共に動き出した。


「総司令、遅くなり申し訳御座いません。」


 鈴木と上田が飛んで来た。


「鈴木様、上田様、五百名の農民さんですが。」


「はい、承知致しております、先程、城内の準備も終わりましたので、其れと殿が。」


「えっ、殿がですか。」


「源三郎、大儀で有った、其れで今回は。」


「えっ、お殿様が。」


 農民達は大慌てで座り始めると。


「皆の者、其の様な事は必要無い、皆も今まで大変苦しい思いをしたとは思うが、源三郎に全て任せる

のじゃぞ。」


 もう農民達に理解出来る話では無い。


 農民達にすればお殿様が農民達の前に姿を見せる事などは有り得ない。

 それどころか土下座も必要無いと、更に源三郎に全てを任せれば何も心配する事は無いと。


「殿、この人達は幕府と官軍の両方から迫害を受け、今は何も信用出来ないので御座います。


 其れとですが工藤さんの部下と一千名近くの兵士も加わりました。」


「そうか、其れでは皆も大助かりになるのぉ~。」


「はい、兵士達には吉田中尉が説明してくれますので。」


「よ~し、後は其の方に任せるぞ、余は戻るぞ。」


 お殿様は其れだけを言ってお城へと戻って行く。


「総司令、其れで次ですが、上田と松川、山賀にも知らせては如何で御座いましょうか。」


「そうですねぇ~、では私が簡単に説明しますので、明日の朝、上田と松川に、山賀に付きましては後

でも宜しいかと思います。」


 源三郎は鈴木と上田にこれまでの経緯を説明した。


「では、私が上田に。」


「私は松川に参ります。」


 鈴木と上田の二人が朝出立すると決まり。


「源三郎様、兵隊さん達も一緒ですよねぇ~。」


「はい、あの人達も大変な苦労されておられますので。」


「お~いみんな、兵隊さん達も一緒だからなぁ~。」


 城下の人達はもうお祭り騒ぎで準備を進めて要る。


「源三郎様、大変遅くなり誠に申し訳御座いません。」


「これは中川屋さんに伊勢屋さん有難う。」


「いいえ、これは私と伊勢屋さんと大川屋さんの務めで御座いますので。」


 中川屋も伊勢屋も全て承知しており、半時後には。


「さぁ~出来たわよ、みんなも食べてよ。」


 此処でも子供達が飛んで来た。


「なぁ~父ちゃん、オラ達は何処に行くんだ。」


「父ちゃんも今考えてるんだ。」


「父ちゃん、オラは此処が好きになったよ、オラは此処がいいんだけど。」


「そうだなぁ~、じゃ~此処に決めようか。」


「父ちゃん、本当か。」


「うん、本当だ、此処の人達も親切だしなぁ~其れにみんな優しい人達だからなぁ~。」


 だが殆どの農民達は未だ決めかねて要る。


 其れよりも全ての国を見てから判断する事に成るだろう。


 源三郎が大勢の農民を連れて帰った話しは浜にも伝わり。


「母ちゃん、あんちゃんが帰って来たって。」


「えっ、本当なの、じゃ~げんたみんなで行こうかねぇ~。」


「なぁ~んだ、母ちゃんはあんちゃんが帰ったって聞いた途端元気になるんだからなぁ~。」


「だって源三郎様じゃねぇ~、そうだ浜の人達にも、其れに銀次さん達にも知らせなよ。」


「母ちゃん、もうみんな知ってるよ、今銀次さん達も浜に来るから、其れからみんなで行く事に成って

るんだぜ。」


「じゃ~私だけが知らなかったの。」


「まぁ~ねぇ~。」


「お~い技師長行くぞ。」


「あっ、銀次さんだ、母ちゃん行くよ。」


「はいよ。」


 と浜からも殆どがお城に向かって行く。


「総司令、遅くなりました。」


 工藤は息を切らせて来た。


「工藤さん、大変ご苦労様でした。


 其れで如何でしたでしょうか。」


「はい、中隊長も大賛成だと、其れと運用方法ですが、兵士達には若しもの時の事も考え連発銃を持って現場に向かう様に話して置きました。」


「其れは助かりますねぇ~、他の人達の安全を確保が最優先ですから、其れと工藤さん、残りの兵士には

吉田中尉が中心となって説明して頂けますので。」


「総司令、私も助かります。


 吉田もですが此処に駐屯して要る全員が理解しておりますので。」


「其れで明日以降ですが菊池も同じ状態でして、吉田中尉からは聞いておりませんでしたが多分上田も

松川も人員不足だと思います。」


「総司令、多分ですが中隊長達も何とかしてと考えてたと思うのですが、現実の問題として狼の攻撃を

防ぐだけで他の事まで気が回らなかったと、菊池の中隊長も申し訳なさそうな顔をしておりました。」


「そうでしたか、では皆さんには余計な心配を掛けていたのですね、私の配慮が足りずに申し訳御座い

ませんでした。」


「総司令、ですが中隊長が申しておりましたが、以前、官軍にいた時には何も考えずに命令だけを受けておりましたが、此処では自分達で考え、その考えた方法で任務や仕事に就けるのが嬉しいと、其れに中隊の兵士達が何をするにしても積極的になったと、其れが一番だと。」


 中隊長達は今まで司令部からの命令通りの作戦に就き、其れは兵士には考える必要は無く、命令通りに

動けば良いのだと、其れが連合国では全く違い、例え農民だとしても農作業に改良を加える方法を考え、

その結果収穫が増えると、その為農民達も積極的になって要る。


「まぁ~其れも良かったのでは有りませんか、何も考えずに淡々と仕事をこなすだけでは何の進歩も有り

ませんのでね、皆さんが考え其れを提案され、良い事も悪い事も経験が出来ると思いますよ。」


「はい、私も同じでして、中隊長達も今は苦しんだ方が良いと思っております。」


 工藤は菊池の中隊長が相当苦しんだと、だがその苦しみは必ず良い結果として現れて来ると考えて

要る。


「工藤さん、其れでこの野洲にも二百名を残したいと思うのですが。」


「其れならば、吉田中尉の説明が終わり次第、私が話しても宜しいですが。」


「其れならば、私も助かりますので、宜しくお願い致します。


 ですが此処でも二日間はゆっくりとさせたいと思いますが。」


「そうですねぇ~、兵士達も今は少し落ち着いておりますが、其れでもまだ気持ちの何処かに幕府軍や、

そうでした、総司令、申し訳有りません、小田切少佐の事ですが、彼らも未だ官軍から迫害を受けて要る

と思われますが。」


「やはりでしたか、小田切さんも官軍から追撃をですか。」


「はい、其れと田中様と三平さんですが、あれから直ぐ西に向かわれましたので、遅くとも数日以内に

官軍の追撃隊と遭遇するのでは無いかと考えております。」


「其れでは小田切さん達の装備ですが、大砲などは無かったのでしょうか。」


「いいえ、大砲十門と三百発の砲弾を持っておりましたが、私の判断で戻り橋付近に有る深い谷底に

落とし、弾薬と火薬だけを持ち菊池に入りました。」


 源三郎も確かに十門の大砲は大きな武器だと分かって要る。


 だが其れだけの重装備を運ぶには大きな損失が考えられる、工藤は損失を考えれば大砲を捨てると言う

大英断は行なったので有る。


「では工藤さんは苦渋の決断をされたのですねぇ~。」


 源三郎は工藤の決断は正しいと思った。


 重装備で進めば追撃隊に追い付かれ、下手をすると今頃は小田切と部下の全員が殺されていたのだと。


「総司令、私も大砲十門は必要だと思いました。


 ですが砲弾は三百発も有り、平地の移動でも困難を極めるのですが、仮に菊池の入り口が後少し低い処

に有れば考えもしましたが、其れよりも、今の連合国には大砲十門は必要無いと結論を出したのです。」


 工藤は今の連合国には大砲十門は必要が無いと、其れは連合国の入り口と言うのは、菊地に造られた

隧道だけで、若しも官軍の大軍がその入り口を発見したならば入り口を爆破し閉鎖すれば官軍は山越えの

方法を取らなければならない、高い山を大砲と砲弾を積んだ馬車が登る事は不可能で有ると。


「工藤さん、私でも同じ決断をしますよ、では弾薬と火薬ですが。」


「弾薬は五十万発以上は有ると思いますが、其れと火薬ですが、これも五百樽以上は有ります。」


「では今までの弾薬と合わせれば百万発以上と一千樽もの火薬が確保されたのですね。」


「はい、官軍の大部隊でもこれ程の弾薬と火薬を確保して要る部隊は無いと思います。」


 今、連合国には二千名近くの兵士と同数の連発銃、弾薬は百万発以上、更に火薬は一千樽近くも確保

されており、其れだけの弾薬と火薬が有れば十分過ぎると、源三郎は考えたので有る。


「工藤さん、弾薬と火薬ですが分散して保管しましょうか。」


「はい、私も其の方が良いと考えております。」


「では数日の内に移動させましょうか。」


「総司令は何かお考えでも。」


「いいえ、別に有りませんが、私は今回小田切さんが持っておられました大砲もですが、弾薬と火薬の

量が何故か気に成りましてねぇ~、私は正かとは思いますが。」


「総司令、小田切は其の様な人間では有りません。」


 工藤は小田切を余程信頼しているのだと、源三郎は思うが。


「勿論、私も其の様に思いたいのですが、私は何も小田切さんとは考えておりませんが、司令本部が

小田切さんを追放の様な形にしては何故か矛盾を感じて要るのです。


 仮にですが、司令本部が連合国の存在を知って要ると考えれば大砲は必要無い、だが火薬は使い方に

寄っては連合国の中心的な場所を爆破すれば、五千と言わずとも一千名の兵士が入れば完全に制圧する事

は可能ですよ。」


「では、総司令は司令本部の中から小田切の部隊に紛れ込んで要ると思われるのですか。」


「工藤さん、私も小田切さんや他の兵士達を信じたいのです。


 工藤さん達が山の向こう側から登って来た時とは状況が違い、今回は工藤さんに発見されるのを見越し

ていた様に、私は思うのですが。」


「う~ん、ですが、小田切に限って。」


 其れでも源三郎は小田切を完全に信用して要るのでは無い。


 其れと言うのも、工藤達が連合国を出立し、数日の内に小田切の部隊と遭遇して要る。


 やはり司令本部は工藤は生きて要ると考えた、だが工藤と行動を共にした兵士達の行方が全く分からず、高い山の周辺の国々は殆ど陥落して要る。


 だが其の中に工藤達が来たと言う情報は全く入って来ず、工藤を崇拝する小田切を利用すれば、工藤の

事だ何処からの情報で小田切と部隊を発見するで有ろう、小田切の事だ工藤達が居る本隊へと行くのは

間違いは無い。


 司令本部としては工藤達の部隊と小田切の部隊を全滅させる事が出来れば、第二、第三の工藤達が出て来る事は無いと考えたのだろうと、源三郎は考えて要る。


「総司令、では小田切は必ず私の元に来るだろうと。」


「はい、私は工藤さんを崇拝する小田切さんならば、必ず同行され工藤さんが構える本隊に小田切さん達

が着けば、両方の部隊を全滅させる事も可能だと考えたのです。」


 工藤は正かと思って要る。


 小田切は確かに若い、だが人を裏切る様な人間では無い。


 だとすれば、この部隊の中に司令本部から密命を受けた兵士が潜んで要る。


「工藤さん、追撃を受ける部隊に大砲十門と砲弾三百発、火薬が五百樽、弾薬が五十万発も持って行ける

とは、どの様に考えても変だとは思われませんか。」


「確かに総司令の申される通りで、よくよく考えれば余りにも不自然だとは思います。


 小田切は私を追撃すると言う名目で大量の弾薬と火薬を持って本部を出たと言っておりました。」


「工藤さん、多分ですが、小田切さんは司令本部の命令で出立されたと思いますが、その駐屯地も司令

本部の命令で設置されたと思うのです。


 工藤さんは司令本部に言わせると、官軍の悪で、その悪を今の内に全滅させ無ければならないのですか

ら表向きは工藤さんは戦死されたとなっておりますが、司令本部には更に小田切さんと言う悪も全滅させ

させなければならないと考えれば、話しは分かると思いますよ。」


「確かに司令本部から見れば私が戦死したと言う証拠は何処にも無く、私の部下も全員が生き残っており

ます。」


「其れとですねぇ~、吉田中尉と一千名の兵士も何処に消えたのかと言うと同じ高い山の麓なのです。」


 工藤と五百名の兵士が最初に発見され連合国に投降し、更に吉田と一千名の兵士が、其れに大量の弾薬

と火薬が消えたのも同じ高い山の麓で有る。


 普通で考えたとしても高い山の向こう側に工藤達は本部を設置して要るはずで、工藤は必ず山を越え

回りを偵察に来るだろう、だが其れは何時頃になるのか分からないが、工藤としても司令本部の動きを

知らなければならず、工藤の事だ偵察隊を出すよりも自らが出て来るだろうと司令本部は読み、其れが

今回見事に的中し、小田切は工藤の配下となり本部に入ったので有る。


 だが部隊の誰が密偵なのか、その密偵の役目とは何か、其れが今は何も分からず、確実な証拠も無く

部隊の兵士には下手な尋問する事も出来ない。


 源三郎は一体どの様な策を持って司令本部の密偵を探し出すので有ろうか。


「総司令は何か策を考えておられるのですか。」


「私も確証は有りませんのでね、今は何とも言えないのです。」


「あんちゃ~ん。」


 やはりげんたが来た。


「技師長の声ですねぇ~。」


「その様ですが、きっと小田切さんは驚くと思いますよ。」


「中佐殿、げんたと言う人が。」


「お連れ下さい。」


 だが小田切は首をかしげ、小田切はあんちゃんと呼ぶ人物が一体誰なのかも全く分からない。


「なぁ~んだ、工藤さんも一緒なのか、で、あんちゃんは又何か考えてるのか。」


「げんた、私は何も考えてはおりませんよ、其れよりも、げんたこそ何を考えて要るのですか。」


「オレか、オレが今考えてる事をあんちゃんに話したって、まぁ~はっきり言って全然分からないと思うんだけどなぁ~。」


「あの~申し訳有りませんが。」


「小田切、この人が我が連合国の技師長だよ。」


「えっ、では先日お話しの有った潜水船を造られた言われる。」


「そうだ、私も長崎で異国の軍艦を見て驚いたが、だが技師長が造られた潜水船は、私が考える以前の

話でなぁ~。」


「中佐殿、失礼だと思いますが船が本当に海中に潜るのですか。」


「まぁ~まぁ~小田切さんも今は信じる事は無理ですよ、その内に小田切さん達の出番が来ると思います

のでねぇ~。」


「あんちゃん、其の内って一体どう意味なんだ。」


 やはりげんたは鋭い、小田切には其の内にと言う意味は分かっておらず、工藤も何か有ると感じた。


「其の内ですから、其の内ですよ。」


「なぁ~んだ、あんちゃんは、あっそうだ、工藤さん、連発銃の構造を教えて欲しんだけど。」


「えっ、連発銃の構造と言われますと。」


「小田切さん、連発銃と弾を見せて頂きたいのですが。」


「はい、宜しいですが。」


 と、言うが小田切は首を傾げて要る。


「これが連発銃で、今は中に弾も入っておりますので気を付けて下さい。」


「じゃ~取り出して欲しいんだ。」


 小田切は全く意味が分からない。


「げんた、一体何を考えて要るのですか。」


「そんなの分かるか、オレが分からないのにあんちゃんにも説明は出来ないんだ。」


 げんたは一体何の為に連発銃と弾が必要なのか、工藤も潜水船には必要は無いと考えて要る。


「ふ~ん、これが連発銃の弾なのか、工藤さん、この弾の構造ってどうなってるんだ。」


「えっ、弾の構造ですか、私は今まで考えた事も無かったので。」


「じゃ~何で鉄砲の弾が飛び出すんだ。」


「其れならば説明は出来ますよ。」


 工藤が連発銃の発射方法を説明すると。


「そうか、じゃ~この鉄の部分で弾の中心部を討つと中の火薬が爆発して弾が飛び出すのか、ふ~ん。」


「技師長、連発銃が潜水船と何か関係でも有るのですか。」


 工藤も考えるが、今は全く理解出来ないでいる。


「ねぇ~この弾だけど、他の所を叩いても爆発はしないのか。」


「其れは私も分かりませんが、この部分が撃鉄と言って、先が細くなっておりますので、弾の中心部に

当たると中の火薬が爆発しますが、正か技師長は。」


 工藤が驚いたのは別の訳で、げんたの考えて要る事とは全く違って要る。


「げんた、連発銃で五合弾を。」


 源三郎も工藤と同じ考えをして要る。


「技師長、其れは不可能だと思いますよ。」


「中佐殿、一体何の話しなのでしょうか、自分は。」


「そうか、小田切は知らないはずだ、実はなぁ~。」


 工藤は五隻の潜水船で官軍の軍艦を沈めたと話すと。


「えっ、でもそんな事が可能なのですか。」


「小田切、だが事実なんだ、だがなぁ~潜水船に乗り、軍艦に爆薬を付け爆発させるのは乗組員の犠牲を

伴う作戦で、野洲の入り江で猛特訓がされたんだ。


 最初は潜水船に乗り、潜水船を自由自在に操る技術を習得しなければならず、其れは口で言う程簡単

では無かったんだ。」


「中佐殿、では司令本部は軍艦は幕府軍の攻撃で全て沈んだと思って要るのですか。」


「其れは当然だ、官軍の誰もが正か海中から攻撃されたと考えていない、それどころか、船が海に潜る

とは誰も想像していないんだ。」


「中佐殿が長崎で学ばれた時でも船が海の中に潜るとは考えておられなかったのですか。」


「小田切、私だって、船が海に沈む事は有っても潜る事が出来るとは、全く別の次元の話で、想像どころ

か夢にも出て来なかったよ、だから官軍の司令本部は幕府軍には官軍以上に強力な軍艦が建造されたと

思って要るんだ。」


「ですが、船で近付き軍艦に爆薬を取り付けると言うのは、余りにも危険な任務だと思いますが。」


 小田切の言う船とは漁師が操る小舟か、軍艦の事で潜水船の事は全く理解出来ていない。


「小田切、連合国の兵士全員が戦死は覚悟して要る。


 技師長、ですが潜水船から爆薬に命中させるのは、今の兵士達には不可能ですが。」


「工藤さん、そんな事はオレだって分かってるよ、だから今他の方法を考えてるんだ。」


「げんた、私が聴いても理解は無理ですかねぇ~。」


 源三郎も理解は無理だと分かって要る。


 だが其れでも少しは理解出来るのでは無いかと思うので有る。


「あんちゃん、オレはなぁ~大天才なんだぜ、其のオレが分かって無いんだから、今説明する事も出来な

いんだぜ、だから今は誰も理解なんて出来る訳が無いんだ。」


 やはりげんたの言う通りだ、だが其れは何もげんたに確かめる必要は無い。


 だがあえて聞いたのは小田切にげんたと言う技師長は連合国に取っては一番恐ろしい人物だと分からせる為で有る。


「げんた、分かりましたよ、では任せますのでね。」


「総司令、今のお話しですが、全て任されるのですか。」


「小田切さん、技師長の考えて要る方法は仮に今説明されても、我々が簡単に理解出来る事は無く、何度

も説明を聞いて初めて理解出来るのです。


 技師長の頭脳は今の連合国の全員が掛かったとしても全く無理な話でしてね、ですから任せる事の方が

一番良いのです。」


「小田切、潜水船は理解出来たのか。」


「いいえ、全く理解分かっておりませんが。」


「其れが本当なんだ、現物を見ても理解が出来ないんだ。


 小田切がと言うよりも、我々が理解出来る様な物では官軍も考えるが、総司令も私も今は理解する事を

諦めて要るんだ、まぁ~其の内に分かると思うから。」


 今の小田切に理解せよとは、それこそが無理だと言うので有る。


「なぁ~げんた、潜水船を改良するのですか。」


「うん、其れも今考えてるんだ。」


「やはりでしたか、親方は次の船に取り掛かっておられるのですか。」


「そうだよ、二隻造るって言ってたよ、まぁ~オレも色々と考えてるんだけどなぁ~。」


 何時ものげんたならば話し始めると簡単には終わらないが、今は特別な物を考えて要ると言う。


「源三郎様。」


「参謀も来られたのですか。」


 さぁ~小田切は一体どの様に解釈するのだろうか、げんたと言い、参謀と呼ばれた男は漁師に見える。


「源三郎様、その参謀って一体何ですか。」


「元太さん、今は余り深刻にならないで下さい。


 私もですが、工藤さん達も海の事を含め、空模様なんですが、私は正直に申しますと、天気の事は全く分からないのです。


 元太さん達、漁師さん達と言うのは長年の経験から何時空模様が変わるのかを知っておられ、海が荒れ

ると大きな船でも危険だと分かられ、元太さんが中心となって兵隊さん達に教えて頂きたいと考えて要る

のです。」


「其れだったら簡単ですよ、何時でもいいですよ、えっ、今なんて言ったんですか、オラが中心にって

聞こえたんですが、オラが兵隊さんに教えるんですか、でもオラは漁師ですよ。」


「元太さん、これからは工藤さん達の陸軍の兵隊さんに達にも天気の変化を教えて頂きたいのです。」


「でも、源三郎様、工藤さんってお偉いお人なんでしょう、オラは漁師で。」


「参謀長、私は一人の兵士ですよ、其れに自分達も天気の事は全くと言っても良い程知りませんので、

参謀長からこれから先の天気情報が入れば、兵士達に無駄な装備をさせる必要も無くなり、其れに兵士達の体力の温存も出来ますので、是非お願いします。」


 工藤は元太に頭を下げた。


「工藤さん、オラは漁師のままでいいんですか。」


「勿論ですよ、でも浜の船長は辞めてもらっては困りますので。」


「えっ、でもあれは訓練の為にだけで、鈴木様が。」


「元太さん、確かにあの時は訓練の為に船長になって頂きましたが、あの時と違い、今は大きな変化が

起きましてね、私は潜水船がもっと必要になると思ってるんですよ。」


「え~だったら、オラ達はまた船長に戻るんですか。」


「はい、その通りですよ、私は野洲だけで無く、山賀以外の浜の漁師さん達には全員船長になって頂き、

兵士で無く、侍も、いや元侍と言っても良いと思いますが、全ての家臣が潜水船の操縦方法を覚える必要

が有ると考えて要るのです。


 その為には元太さん達が是非とも必要なんですよ。」


「でもオラ達の話をお侍様が聴いてくれるでしょうか。」


「元太さんには参謀長として訓練に入って頂き、船長の訓練方法に不満が有り、訓練に参加するのを拒否

する家臣には連合国を追放しますので。」


「えっ、でもオラはそんな事は言えないですよ。」


「元太さん、何も心配は有りませんよ、私が各国に書状を認めますのでね。」


「分かりましたよ、あっ、そうだオラは大変な事を忘れてましたよ、今日、片口鰯が大量に獲れました

ので持ってきたんですよ。」


「いゃ~其れは大変有り難いですねぇ~。」


「えっ、あっ、そうか、オラは忘れてましたよ、源三郎様、大変な事になりますねぇ~。」


 源三郎も元太も笑って要るが。


「総司令、一体何が大変なんですか。」


 小田切は知らない、野洲のお殿様は片口鰯が大好物で、このお城に片口鰯の臭いがすれば、何処から

ともなく現れると言う事を。


「まぁ~其の内に分かりますからね。」


 その後暫くして。


「源三郎。」


「えっ、お殿様。」


「ね、言ったでしょう、でもねぇ~これからが大変なんですよ。」


「殿。」


「源三郎、何が殿じゃ、余が知らないとでも思っておるのか。」


「ですが、私は何も。」


「元太、待っておったのじゃ。」


「お殿様にって、オラは。」


「元太、良いのじゃ、余が今から賄い処で食するぞ。」


 小田切はあっけに取られた表情をして要る。


「小田切さん、野洲の殿様はねぇ~、片口鰯が大の好物で、お城の中に臭いがすれば、何処に隠しても

嗅ぎ付けて来ますのでね。」


「小田切、野洲のお殿様もだが、連合国の殿様は全員作業着を着られ、其れに食べ物も小田切が知って

要る様なお食事では無く、まぁ~庶民の食べ物に近いと思って間違いは無いんだ。」


「えっ、ですが、お殿様と申せば、豪華なお着物に食べ物と言えば、庶民が一生見る事が出来ない程豪華

なお食事だと、私の藩主もそうでしたが。」


 工藤も最初は驚いてが、今では其れがごく普通だと思って要る。


「小田切さん、まぁ~連合国で一番豪華な食事と言えば、う~ん、そうですねぇ~、一善飯屋だと思って

下されば良いと思いますがねぇ~。」


 源三郎は山賀の一善飯屋を思い出していた。


「私は今頭の中が混乱し何も理解出来ない状態です。」


 源三郎も工藤も大笑いするが、今の小田切に理解は無理だ。


「これが連合国ですよ、まぁ~其の内平気になりますから心配は有りませんよ。」


「あんちゃん、オレ帰るよ。」


「げんた、ご飯は。」


「うん、でも母ちゃんが待ってるから。」


「源三郎様、オラも一緒にに帰りますんで。」


「元太さん、では先程の話ですが、数日の内に書状を送りますのでね、お願いします。」


「はい、オラ、浜のみんなに話しますんで。」


 げんたと新しく参謀長と言う役目を言われた元太は浜へと戻って行く。


「総司令、先程の話ですが、密偵は居ると思われるのですか。


「私は居ると思いますよ、小田切さんには悪いですが。」


「中佐殿、何か有ったのでしょうか。」


「実は、総司令は君が連れて来た兵士の中に司令本部の密偵が潜んで要ると申されて。」


「えっ、正か、私は全員を知っておりますが、私を含め全員が中佐殿の。」


「其れは、私も有り難いと思って要る。


 だがよ~く考えて見るんだ、君が司令本部から受けた内容だが、一体どの様な内容だ。」


「中佐殿、私は。」


 小田切は司令本部から受けた命令を話すと。


「と、言う事はだ、君が私の腹心だと言う事は司令本部の誰でも知って要ると言う話だ、其れに、私が

戦死したと言うならば、何故、小田切を、其れに一千名の兵士と大量の武器を持って来る必要が有ると

思うんだ、其れに君の事だ、私の顔を見れば必ず行動を共にし、私の本部に行くと、その様になればだ、私の部隊の全員と小田切、君の部隊全員を殺す事が出来、全てが終われば官軍の内部で造反を企てる者も居なくなると言う訳なんだ。」


「中佐殿、ですが全員が連発銃を持っておりますよ。」


「小田切、火薬だよ、何樽の火薬を運んで来たと思うんだ。」


「えっ、では火薬に火を点ければ。」


「そうだ、その為には大勢は要らぬ、数人の密偵で十分だと言う事なんだ。」


「ですが、一体どんな方法でその密偵を探し出すのですか。」


「小田切、其れが分からないから、今考えて要るんだ。」


 一方で田中と三平は。


「三ちゃん、五十嵐と言う人物ですが、何か不自然に思うんですがねぇ~。」


「ねぇ~直さん、何でですか、直さんはお坊様で、オラは何処から見ても農民ですよ。」


「三ちゃん、其れは間違いは無いですがね、でも何故私達に余計な話しをするのでしょうねぇ~、其れが理解出来ないんですよ。」


 田中の言う通りで、旅の僧侶と農民が戦死した兵士達を弔って要る其れは何も不自然では無く、誰が

見ても疑う余地は無い。


 だが五十嵐は僧侶の田中に対し、何故必要でも無い事を話す必要が有ると。


「うん、確かに直さんの言う通りだと思いますよ、まぁ~オラだったら絶対に言わないですからねぇ~、

だってお坊様の姿が本当なのか何も分からないのに、えっ、正か、直さん、あの五十嵐と言う人はオラ達

に知らせたんですか。」


「そうなんだ、私も最初は何故其処まで余計な話しをするのか分からなかったんだ、其れでよ~く考えて

見ると、工藤さん達が戦死した、だけど何処にも工藤さんとその部下の兵士達の死体が無い。


 官軍にも大勢の密偵が居る、その密偵達でも工藤さん達の部隊が何処に消えたのかも分からず、其れで

小田切さん達を駐屯地での任務と言う名目であの地に就かせ、何れ工藤さんが現れるのを待っていたと

考えれば話の辻褄は合いますよ。」


「だったら、五十嵐さんは小田切さんの部隊の中に密偵が居るって言われたんですか。」


「三ちゃん、私に直接的な話しは出来ないので、其れは五十嵐さんの部下の中にも密偵がおり、下手を

すれば部下が皆殺しにされると考えたのでしょうねぇ~。」


 五十嵐もまた官軍の中では追放に近く、部下は何も知らずに幕府軍との戦に向かうものと思って要る。


 小田切は一千名の兵士と共に連合国に入ってまだ数日で今頃は源三郎から色々と話を聴いて要るだろう

と、だが五十嵐の真意が分からない。


 工藤達を助ける為に話をしたのか、其れとも工藤達の居場所を探る為に話したのか、だが今は一刻も

早く源三郎に知らせなければ連合国は全滅する。


「三ちゃん、急ぎましょうか、あの二又の所に行けば全てが分かりますからねぇ~。」


「うん、直さん、急ぎましょう。」


 田中と三平は五十嵐の引き得る五千人の官軍兵を数日前に追い越し、大急ぎで菊池の隧道へ、いや、

其の前に重要な二又が有る、その二又の所に着けば全てが分かる。


 果たして、五十嵐は菊池に攻め込むのか、其れとも五千人の部下と共に官軍と決別し、連合国に参加するのだろうか、田中は五十嵐から聞いた密偵の話を一刻も早く知らせなければならないと、今は他の事など考える余裕も無く、二人は必死で菊池へと向かって行く。

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