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闇の帝国    作者: 大和 武
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第 2 話。 一路西へ、西へと。

 早朝、まだ朝霧が立ち込める中、田中は西へと向かった。


「中佐殿、田中様は大丈夫でしょうか。」


「小田切、あのお方はなぁ~源三郎様の信頼も厚く、何よりも情報を集める事に付いては誰にも負けない。 まぁ~数十日後には何も無かった様な顔をして戻って来られるよ、其れよりも君はどの様に考えて要るんだ。」


「はい、自分は中佐殿が申されておられます連合国に参りたいと思います。」


「そうか、分かったよ、だが部隊の兵士には何も言って無いだろうなぁ~。」


「勿論で、自分の意思で決める様にと、其れだけは伝えて置きましたので。」


 その後暫くして兵士達が工藤の所に集まり始めた。


「あの~。」


「はい、では私も外に出て皆さんのお話しを聞く事にしますのでね。」


 工藤と小田切を含めた中隊長と小隊長達は外に出た。


「皆さん、お早う御座います。

 皆さんはこの数日間考えられたと思いますが、私は一切強制はしませんので皆さんがまだ聞きたい事が

有れば聞いて下さい。

 但しですがね、私も知らない事が有りますので、まぁ~其れだけはご容赦下さいね。」


「中佐殿、オラは農民ですが、連合国では農民になってもいいんですか。」


「はい、勿論ですよ、総司令もですが、今連合国では農地を広げる準備に入っておりますので。」


「中佐、宜しいでしょうか。」


「はい、私の知らない事も有りますので出来れば説明して下さい。」


 彼は田中と一緒に来た兵士だ。


「中佐、有難う御座います。

 其れで今のお話しですが、実はオレも元は農民でして連合国で農地を広げたいって話が出たんです

よ。でも連合国の山には数万頭もの狼が群れを作ってるんで、先に狼からオレ達を守る為に柵を作る事に

成って、今頃は山賀から菊池まで続く山の麓に柵を作り始めて要ると思うんです。」


「えっ、其れって全部に柵を作るんですか。」


「ええそうですよ、総司令ってお方は農民を守る為には苦労をしても良いって言われるんだ、だから柵を

作り始めると連合国の殆どが参加するんだ。」


「其れは農民が中心なんですか。」


「う~ん、中佐、説明するって難しいですねぇ~。」


 彼は理解して要るが、だがどの様に説明すれば分かって貰えるのか、其れが難しいと思って要る。


「あの~オレは兵士を辞めて田や畑を耕したいんですが。」


「其れは皆さんの自由ですよ、皆さんが兵士になられる前の仕事に就かれても宜しいですよ、連合国にも

色々な仕事が有りますのでね。」


 其れからも色々な質問が出たが。


「小田切少佐、オレは連合国に行きますよ。」


「はい、分かりましたよ、君が決めた事なので私は何も申しませんから。」


「少佐、わしも行きますよ、もう国に戻れないと分かってますので。」


「私もよ~く分かりますよ、私も本当は国に戻りたいのです。


 ですが私は何も申しませんので皆が決めて下さい。」


「オラも行くよ。」


 其れからは次々と連合国に行くと言う兵士が続く。

 だが其れでも未だ答えを出せない兵士も要る。


「まぁ~ゆっくりと考えて下さいね、私は別に宜しいのでね。」


「中佐殿、若しも連合国に行くと成れば部隊の装備の全部を持って行くのですか。」


「う~ん、これは難しいなぁ~、ではその前に装備ですが何が有るんだ。」


「はい、大砲が十門と砲弾が三百個が有り、連発銃が一千丁ですが。」


「えっ、大砲が十門と砲弾が三百発もか、う~ん、だけど大砲を連合国に運ぶのは無理だなぁ~。」


「ですが、幕府に奪われると大変な事に成りますが。」


「中佐、あの時も大砲は運ばなかったですよ。」


「あの時とは。」


 小田切にすれば大砲十門と砲弾が三百発は運びたい。

 だが現実を考えると山を越えるのは不可能で有る。


「中佐殿、オレ達の時も大砲は置いて行きましたよ。」


「そうですねぇ~、では爆薬と弾薬、連発銃は持って行きましょうか。」


「中佐、だったら大砲は此処に放置するんですか。」


 工藤は考えて要る。

 源三郎ならばこの様な時にはどの様に対処するのだろうか、大砲十門と砲弾が三百発をこの場所に放置

すれば幕府軍には最高の武器が手に入る、更に多分来るで有ろう官軍にとっても十分過ぎる武器だ、何か

方法は無いかと考えるが何も思い付かない。


「中佐、戻り橋で破棄しましょうか。」


「えっ、戻り橋って。」


「中佐、山の麓に有る橋ですよ、あの橋の付近は川幅も狭く、其れに深いですから、あの場所に投棄すれ

ば幕府軍も官軍も引き上げるのはまず不可能ではないでしょうか。」


「中佐殿、戻り橋とは。」


「小田切、その橋ですが、地元の農民さん達は戻らざる橋を言って、橋を渡り山の麓を進むと狼の大群に襲われ二度と戻る事は無いと言われる橋でしてね、何も知らない人達、特に幕府の武士は二度と戻って来

なかったと言われて要るのですが、その橋を地元では戻らざる橋とは言えずに戻り橋と言って要るそうで

してね、その橋の付近は川幅よりも深く急な為に一度落ちると上がる事は出来ない程の深さですよ。」


「中佐殿、其れならば尚更の事です、全ての大砲と砲弾三百発を投棄しましょう。」


 だが工藤は未だ決断出来ずに要る。

 確かに十門の大砲と砲弾が三百発が有るのと無いとでは意味合いが全く違う、工藤は暫く考え。


「分かりました、全ての大砲と砲弾は破棄しましょう。」


「中佐、今日全部運びましょうか。」


「小田切少佐、直ぐ始めますよ。」


「はい、では中隊長は隊に戻り説明し破棄に掛かって下さい。」


 小隊長以上は隊に戻り説明を始めて要るが。


「中隊長、話しは準備しながらでも出来ますよ、お~い馬を、其れと砲弾を積んだ馬車に馬を頼む。」


 連合国へ向かうと決めた兵士達の動きは早く、十門と砲弾を積んだ馬車には馬が繋がれて行く。


「中佐殿、オレ達が案内しますので。」


「宜しく頼む、砲弾を先に、其の上に大砲を投棄して下さいね。」


 三百発もの砲弾を先に投棄し、其の上に重さが七百貫以上も有る大砲を投棄すれば大砲の重みで砲弾引

き揚げる事は不可能だと考えた。


「中佐殿、オレ達に任せて下さいよ、絶対に引き揚げさせませんので。」


「分かりました、では投棄が完了しましたらその場で待機して下さいね、私も直ぐ参りますので。」


「はい、了解しました。」


「少佐、其れ以外は如何ですか。」


「賄い掛かりは全員のおむすびを作りを、他の者達は弾薬と火薬樽の積み込みを行なっております。」


「少佐、砲弾を積んだ馬車が余りますので荷物を分散しましょう。」


「はい、其れと大砲を引いておりました馬ですが。」


「まぁ~暫くは何も引かせる必要は有りませんので昼頃か其の前に交代させましょうか。」


「中佐殿、ではお待ちしておりますので。」


 大砲十門と砲弾三百発を積んだ馬車数十台が戻り橋へと向かった。


「どうか気を付けて下さいね、其れと付近の様子も。」


「中佐殿、任せて下さいよ、じゃ~。」


 其の頃になると答えを出せなかった数十人の兵士も積み込みに参加して要る。


「中佐殿、全員が連合国に行く事に成りました。」


「そうですか、私は全員無事に連れて行きますのでね。」


「はい、私は何も心配しておりませんので、其れでその連合国には何日位掛かるのでしょうか。」


「大砲が無ければ、今日とそうですねぇ~三日後の夕刻近くには到着しますよ。」


「ですが、途中何も無いでしょうか。」


「高い山の麓は全て田畑ですが、集落は近くには無く、村民は山の麓から一里以上は離れた所から来てい

ると思いますよ。」


「中佐殿、何故、一里以上も離れて要るのですか。」


「少佐、其れはねぇ~、あの山には狼の大群が住んでおりましてね、村民は狼の攻撃を防ぐ為離れて住ま

われて要るのです。」


「えっ、中佐殿、自分も初めて聞きましたが本当なのですか。」


「少佐、本当だ、我々は狼の攻撃を受ける前に総司令に助けられたんだ。」


「では山越えは無理なのですか。」


「その通りで、猟師さんの案内無しでは一人で山を越える事は先ず不可能だよ、其れはなぁ~山には熊笹

が我々の背丈以上の高さで進む事も簡単では無い。」


「では一体何処から連合国に入れるのですか。」


「小田切、其れは心配ない、我々には秘密の出入り口が有るのでね。」


 小田切は何故高い山を越えて来たのか全く分からない。

 山には狼の大群が住んで要ると、だが連合国には秘密の出入り口が有ると言う。


「少佐殿、準備完了です。」


「よし分かった、では今から戻り橋から連合国に向け出発する。」


 工藤の出発号令で一千名の元官軍兵と弾薬、火薬だけを馬車に積み込み連合国へと向かった。

 其の頃、先発した中隊は戻り橋に着き。


「さぁ~どの付近にしましょうか。」


「中隊長、あそこでは。」


 其処は戻り橋から一町程離れた所で川幅が狭く、川底までは深く砲弾と大砲を投棄するには最高の場所

で有る。


「よ~し全員で砲弾を捨ててくれ。」


 中隊の兵士全員が次々と砲弾を投げ捨て始めた。


「うん、これならまず回収するのは無理だなぁ~。」


「中隊長、でも少しもったいないですよねぇ~。」


「だけど十門の大砲と砲弾を此処まで運ぶだけでも大変でしたからねぇ~。」


「でもそのお陰で馬車だけでも数十台と馬も余ったと言うよりも助かりますよねぇ~。」


「中隊長、砲弾と大砲の全部を投棄完了しました。」


「よ~し全員橋で中佐殿をお待ちする。」


「お~。」


 と、中隊の兵士達も元気が戻り、戻り橋で工藤と本隊を待つので有る。


 話しは少し戻り、田中が出発する前日。


「田中様、どうしても行かれるのですか。」


「工藤様、私の任務と申しましょうか、仕事は幕府軍と官軍の情報を集める事なので、其れにこの付近には幕府軍も小田切少佐の部隊以外の官軍しか見当たらないのです。

 私は幕府軍と官軍の情報を集める必要が有り、行くと決めたのですから。」


 やはり源三郎の信頼を得るだけの人物だと工藤は思うが、小田切からも情報を得る事は出来る、だが他の何かを調べたいのだろうと。


「工藤様、私は長崎の造船所に行きたいのです。」


「田中様、ですが造船所には簡単に近付けないですよ。」


「やはりですか、新型の軍艦を建造して要るのですか。」


「多分だと思いますが、あの造船所には私の知って要る船大工が居ると思いますが。」


「工藤様の知り合いと申されますと。」


「ええ、お名前を上野寅蔵と申しましてね、先祖代々の船大工でして、其れは見事な仕事をされます。」


「まぁ~大きな船を造るのですから専門の船大工も大勢必要だと思いますが、工藤様は何故上野と申され

る船大工をご存知なのですか。」


「私は子供の頃から大工になりたくてその中でも特に船大工になりたかったので、寅さんの仕事場が遊び

場でしてね、子供の頃から寅さんに色々と教えて貰っておりました。」


 工藤は子供の頃から船を造りたかったのだろうか、船大工の親方の家が遊び場だと。


「では工藤様も大きな船を造る事は出来るのですか。」


「其れが少し事情が変わりましてね、私が確か十四才か十五才の頃、幕府から新しい軍艦を建造する様に

と親方に通達が有ったのです。」


「では、親方は新型の軍艦を建造されると返事されたのですか。」


「はい、ですが、親方は私に長崎に行って外国の船を詳しく調べる様にと言われ、私は長崎の造船所に行き、其処で時々入港する外国の軍艦を詳しく調べたのです。」


 工藤は子供の頃から船の大工になりたいと、だが時の幕府が新型の軍艦が必要だと、船大工の親方は工

藤に長崎へ行き外国の軍艦を詳しく調査せよと。


「では工藤様は長崎で外国の軍艦を詳しく調べられた。

 ですが、何故幕府では無く、官軍に入られたのですか。」


「私は親方から色々な事を学びましたが、その中でも幕府に対する考え方は別で私達の国でも幕府に対

する不満で、其れは爆発寸前で、親方は表向き幕府に協力すると見せ、私に軍艦の調査を命ぜられたので

す。」


「でも其の前に軍艦を造られたのでは無いのですか。」


「はい、でも前の軍艦とは別に何かが必要だと。」


「何か特別な任務の為なのですか。」


「はい、其れがあの軍艦で連合国が撃沈した。」


「では今も軍艦を造られて要るのでしょうか。」


「私は多分建造して要ると思います。」


 長崎の造船所では今でも新型の軍艦を建造中だた、だが連合国の沖で撃沈された事は司令本部は知って

要るのだろうか、其れよりも五隻の軍艦を真の目的を知る事も大事な任務だと。


「私は現在の状況を知る必要が有ると考えて要るのです。

 確かに小田切少佐から話を聴けば十分な情報を得る事は出来ると思いますが、其れでは本当の中味が分

からないのです。

 私は何としても幕府、いや官軍の最新情報を知らなければならないのです。」


「分かりました、ですが長崎の造船所は軍港の一部ですから警戒は厳重ですよ。」


「はい、其れは十分承知しておりますので、まぁ~私はのんびりと旅を続けますので。」


「田中様、若しもですが、若しも上野さんに会われてですが。」


「はい、其の話しも承知しております。

 工藤様の事は話す必要も有りませんのでね。」


 田中はぼろ布を纏った僧侶の姿で西へと、其れはどれ程の危険と伴うのか、田中自身百も承知で其れで

も行かねばならないのだ。

 だが果たして上野寅蔵は今でも長崎の造船所で軍艦の建造を行なって要るのか、其れに工藤は官軍を脱走し死んだと聞かされて要るだろう、私は今連合国で心豊かな生活を送って要る、と大きく叫び上げたい気持ちに駆られて要る。


 そして、田中は明くる日早朝西へと向かった。


「お~中佐殿だ。」


 工藤達は戻り橋へと着いた。


「中佐殿、全ての処理は完了しこの付近も以上は無しです。」


「そうですか、大変だったでしょう。」


「いゃ~其れが実に愉快でしてね、大砲を押し川底に落ちて行く時には最高に気持ち良かったですよ。」


「おい、おい、中隊長、その様な事を言うものでは無いぞ。」


「小田切少佐、我が連合国では今の様な発言を咎める者はおられませんよ、寧ろ大喜びする者もおります

からねぇ~。」


「えっ、正かその様な事が許されるのですか。」


「普通ですよ、まぁ~そうですねぇ~野洲に来れば一番良く分かりますよ。」


「中佐、大変な事に成りますよ、まぁ~野洲では源三郎様、いいや、総司令の人気は物凄いですからねぇ

~。」


「そうですよ、其れに技師長が。」


「そうか、総司令の天敵だからなぁ~。」


「えっ、野洲の、いや連合国の総司令に天敵ですと、其の様な人物が何故野洲に居るとは、私は許せませ

ん。」


「おい、おい其れは大間違いだよ、技師長と言う天敵は野洲の殿様、いや野洲の他、連合国では総司令に

並び称される人物で今言った天敵と言うのは言葉のあやでなぁ~、まぁ~総司令の弟と同じでなぁ~、そ

の技師長が我が連合国を救えるで有ろうと言われる、う~ん、どんな言い方で説明すれば分かって貰える

のかなぁ~。」


「中佐、そんなのって無理ですよ、あれは絶対に理解不能な船ですからねぇ~。」


「中佐殿、今言われた理解不能と申される船とは一体どの様船なのですか。」


「小田切少佐、積み替えを終了しました。」


「では出発するか。」


 工藤を先頭に一千名の官軍兵は未だ見ぬ連合国へと向かった。


「君達はこの先を調べて下さい。

 多分今は何も無いと思いますが。」


「は~い了解で~す。

 中佐、ではお昼の場所も探して置きますので。」


「はい、其れでお願いします。」


 工藤と同行した兵士数人が斥候としての任務と言うよりも、昼食の場所を探す事の方が重要だ、一千名

の兵士が休める場所の確保と安全を確認する為で有る。


「中佐殿、先程の話ですが、理解不能だと言われます船とは一体どの様な船なのですか。」


「う~ん、では其の前に官軍の軍艦五隻が沈没した話しは知っておりますか。」


「中佐殿、我々のところには何も入って来ませんので、全く知りませんが。」


「そうか、では話しますが、官軍の軍艦五隻で佐渡に向かい、佐渡の金塊を略奪し外国の軍艦を購入する

と話しですよ。」


「はい、其の話しならば私も聞いております。」


「小田切、実はその話は全くの嘘で、司令本部の一部の者が金塊も持ち逃亡すると言うのが本当の話でし

てね。」


「えっ、では外国の軍艦を購入すると言うのは嘘だと言われるのですか。」


「う~ん、其れは司令本部としては外国の軍艦が何としても欲しいんだ、その為には佐渡に有る大量の金

塊が必要に、ところがその話を利用したのがあの将軍でしてね。」


「やはりでしたか、私も以前から悪い噂を聞いておりまして、自宅の地下には相当な蓄財を隠して要るのだと。」


 小田切も知っていた、其の将軍が今回佐渡の金塊を略奪し外国の軍艦を購入すると言う計画を立案し、

司令本部の承諾を得たと言うので有る。


「小田切、あの将軍が自分の見方だけを、其れも密かに選び始めたんだ。」


「ですが、あの時、司令本部の決定では別の部隊が行くと決まっておりましたよ。」


「其れがなぁ~、あの将軍は司令本部の将軍達に賄賂を渡したんだ、其れで決定が覆ったと言うのが本当

の話で、賄賂を受け取らなかった将軍は前線に左遷され、その後釜があの将軍となり、将軍は人選として

全て我が部下を選んだと言うのが真相なんだ。」


「其れで中佐殿も飛ばされたんですか。」


「うん、まぁ~なぁ~そう言う事だ、私は将軍がその後どの様になったのか知らないだ。」


「中佐殿、非常に残念ですが戦死されておられます。」

「そうか、では我々が将軍の敵討ちを果たしたと言う事に成るかの。」


「自分には分からないですが。」


「中佐、お昼の場所を見付けました。」


「そうか、では先に炊事班と一個中隊でお昼の準備を。」


「はい、了解しました。」


 小田切は伝令を送り、その後、炊事班と数十台の馬車と第五中隊が昼食用の場所へと向かった。


「中佐、この付近に幕府軍は。」


「いや多分大丈夫だと思うが警戒だけは怠るな。」


 先行した炊事班と第五中隊は一里程進んだ所に広い川原で昼の準備に入った。


「お~いあんまり林の奥に入るなよ、何時狼の大群が来るか分からないからなぁ~。」


「えっ、本当に狼の大群が要るのか。」


「うん、其れは本当だ、まぁ~なぁ~今は分からないがその内に分かるよ。」


「おい、おい、おんまり脅かすなよ。」


「だって本当だからなぁ~、山の狼は人間の味を知って要るんだぜ、でも此処までなら大丈夫だから。」


 第五中隊の兵士達は其れでも薪木を集めなければならず、中隊の全員が林の中へ恐る恐る入り薪木を集

めて要る。

 その後、工藤達本隊も到着し昼食も終わり、今夜の野営地に向かうので有る。

 駐屯地を出発し十門の大砲と三百発の砲弾を川に投棄し、今のところは何事も無く進んで行く。


 そして、初めての夜も無事に明け、二日目の朝も早く出発した工藤達は連合国に入る事の出来る菊池の

隧道へと一歩、又一歩と進み、二日目の昼食も終わり、最後の野営地へと向かった。

 最後の野営地に着けば残りは十里も無く、これで全員が無事連合国に着けると工藤は考えて要る。


「中佐。」


 斥候兵が急ぎ足で戻って来た。


「何か有ったのか。」


「はい、右の林の中を十数人の浪人姿の武士が少し前から我々の様子を見ております。」


「えっ、十数人の浪人、では幕府軍の残党ですか。」


 小田切少佐の近くに居た数人の兵士が林の方を見た。


「誰も林の方を見るな。」


「はい、ですが有れが幕府軍の一部ならば林の向こう側に本隊が潜んで要ると思われますので、今、別の

者が探しに向かっております。」


「よ~し分かった、少佐、伝令では無く小声で伝えて行くんだ、右側の林を注意せよと、其れから林の中

を見るなと、奴らは我々が未だ気付いていないと思っているからだ。」


「了解です、よ~し今の話を伝えて行くんだ。」


 工藤は林の中の本隊が並行して要るならば何故攻撃して来ないのかを考えて要る。

 だが其れから暫く経っても一向に攻撃の気配は無く、其れでも確信は無かったが警戒を緩める事も出来

ず、最後の野営地に着き、野営のに準備に入る頃。


「おい止まれ、誰だ。」


 林の中か十数人の浪人が現れ。


「待って下さい、自分達は官軍の偵察隊です。」


「何、官軍の偵察隊だと、其れは本当か。」


「はい、其れで隊長に。」


「よし分かった、ついて来て下さい。」


 十数人の浪人は兵士に囲まれ工藤の所に来た。


「隊長殿、自分達は官軍の偵察隊です。」


「ほ~官軍の偵察隊ですか、では何故我々と並行してしておられたのですか。」


「はい、若しも幕府軍が我々の軍服を奪い官軍だと思わせて要る事も考え直ぐには。」


「そうですか、其れで君達は何処まで行かれるのですか。」


「自分達は奥州から越後、と各地を回り幕府軍の動向を探り、数日前此処に来たのです。」


「其れで今からどちらに向かわれる予定だったのですか。」


「はい、二日程前に川に大砲と数百発の砲弾が投棄されて要るのを発見し、自分達は何故か気に成り、再び馬車の轍の跡を進み昨日中佐殿の部隊を発見し暫くは林の中を進んで来ました。」


「では何故其の時に来られなかったのですか。」


「実は各地で幕府軍が官軍兵の軍服を着用し村々を襲い、食料の略奪と虐殺を行なっておりまして、自分

達も官軍の軍服だからと言って直ぐに出て行く事も出来なかったのです。」


 やはりだ、各地では幕府軍が官軍の軍服を着た侍達が村々を襲い、食料の略奪と虐殺を行なって要る。

 だが全てが幕府軍の生き残りだけでは無い。

 幕府軍と言えば全てと言っても良い程武士で、其れとは反対に官軍兵の殆どが民兵で民兵の中には侍崩

れ、其れに渡世人も多く、彼らは何をするか分からない。

 浪人や渡世人ならば官軍兵の軍服を着ていれば略奪や暴行、其れに虐殺など何を犯しても許されると

思いこんで要る者達も多く、本当のところは分からないが、事実官軍兵の略奪は各地で起きて要る。


「官軍の動きは自分達も知っておりましたのであの動き方は官軍に間違いは無いと確信しました。

 其れに自分達はこの三日間何も食べておりませんので。」


「そうですか、分かりました、お話しは後で聞きますので先に食事にして下さい。」


「隊長殿、有難う御座います。」


 数十人の官軍の偵察隊だと名乗る浪人姿の男達は夕食を始めた。


「中佐殿、我々を官軍だと。」


「そうですねぇ~、彼らから出来るだけ多くの情報を聞き出す事にしましょうか。」


「其れで後は全員この場で。」


「いや、其れは危険だ、私は山の狼が我々に気付いて要ると思いますので別の方法を考えましょう。」


 小田切は未だ山に狼の大群が潜んで要るとは信じておらず、この場で殺す方が良いと考えて要る。

 兵士達が夕食に入ろうとした時だった、林の中から。


「えっ、何だ。」


「中佐殿、大変です。」


「一体何が有ったんですか。」


 工藤達が見たのは林の中から続々と出て来る農民達で子供や女も含まれている。


「はい、あれから林の中を探してたんですが、幕府軍の代わりに五百人程の農民を発見したんです。」


 農民達は怯えて要る。


「中佐殿、この人達は戦に巻き込まれ官軍と幕府軍に村を焼かれ、其れに大勢の人達が殺されたって。」


「では林の中に潜んでいたのですか。」


「はい、其れに三日間程何も食べていないって。」


「よし分かった、小田切、大至急この人達に食事だ、皆さん、私は官軍の軍服を着ておりませんが、何も

心配される事も有りませんのでね、其れよりもお食事を何も有りませんがお腹いっぱい食べて下さい。」


「あの~オラ達は。」


「今は何も考えないでしっかりと食べる事ですよ。」


「お~いみんな隊長様がご飯を下さるって。」


 子供達の表情が少し変わり、兵士達はニコニコとし食事を与えて要る。


「中佐殿、林の中には幕府軍も官軍もおりませんでした。」


「そうですか、有難う、だがあの人達は何処から来たんですか。」


「オレも聞いたんですが、どうも此処から四、五日行ったところの様ですが、農民達もはっきりした事は

覚えていない様で、其れよりも必死で逃げた様子でした。」


「う~ん、では仕方無いか、あの人達も連合国に連れて行くか。」


「はい、オレも其の方がいいと思います。

 今あの人達を離して一体何処に行けばいいんですか。」


「中佐殿、ご飯が足りませんので我々は。」


「小田切、我々の事は心配せずに農民さんに食べて貰え、其れと炊事班が足りないので有れば。」


「はい、勿論で、其れと野営用の毛布も全部。」


「其れでいいよ、兵士達には申し訳ないが少しだけ我慢してくれと話して欲しいんだ、其れと小隊長以上

を集めて欲しいんだ。」


「はい、承知致しました。」


「なぁ~小田切、問題はあの浪人達だ。」


「はい、私も事態が変化してきましたので、ですが、私は今まで経験しておりませんので。」


「そうか、今までは官軍と幕府軍の事だけを考えていたから、今回の様な事態に会う事も無く、例え、

有ったとしても農民さん達の事まで考える必要も無かったと思うが、連合国では全く反対で最初に考える

のが農民さんや漁民さんなど領民達の事なんだ、総司令は何時も農民さん、漁師さんと決して呼び捨てに

はされないので、君もこれからは注意してくれよ。」


「中佐殿、承知致しました。」


「中佐殿、小隊長以上全員集合しました。」


「有難う、で、話の前に浪人達は。」


「はい、今、第一中隊が注意し見張っております。」


「余り目立つ見張りはしない様に。」


「はい、其れも伝えておりますので。」


「そうか、では今から話しますが、明日、我々は連合国に入りますが、浪人と言えど官軍兵で、其れも偵

察隊ですから、後程彼らから詳しく聞きますが、我々の目的地は北の方だと伝えて下さい。」


「中佐殿、宜しいでしょうか。」


「はい、宜しいですよ。」


 工藤も分かって要る。

 浪人達をどうするのか、このまま生かして置くのか、其れともこの場で。


「中佐殿は浪人達をどの様にされるのですか、自分としては情報さえ入れば直ぐにでも。」


「中隊長、其れはねぇ~農民さん達が来られる前ならば出来ましたが、みんな聞いて下さいね、浪人達を

農民さん達の前で殺すのですか。」


「勿論、自分も分かりますが、ですが偵察隊が此処に居ると言う事は近くにとは思いませんが、本隊が近

くまで来ていると思うのです。」


「確かに小田切少佐の言う通りですが、先程の報告では未だ本隊は我々の存在に気付いていないと思いま

すよ。」


 工藤も考えて要る。

 十人もの偵察隊を出すと言う事は、其れも奥州から越後までと広範囲に調査に当たるとなれば、大隊規

模の兵力が近付いて要る。

 其れに偵察隊は戻り橋から再び工藤達を探しに来ると言う事は偵察隊は本隊に戻る途中だと考えねばな

らない。

 確かに数日前まで駐屯地には何も知らせは無かった、だが確実に大隊規模の軍勢が近付いて要る事には

間違いは無い。


「少佐、確かに我々が駐屯地を出発するまでは司令部からは何も伝わって来なかった。

 だがなぁ~小田切も考えて見れば分かるはずだ、君達は最前線に放り出されたんだ、その最前線からは何も伝わって来ないと考えればだ、小田切少佐以下の全員が戦死したと考えればいいんだ。」


「はい、まぁ~我々は其の前に戦死したと同じ扱いでしたので。」


「其れならば、私もですが君達が生き残って要ると困るんだ。」


「じゃ~中佐殿、我々は一体何をすれば宜しいのですか。」


 この中隊長もだが小田切も先が読めないで要る。


「では今から私の考えた作戦ですがね、我々の斥候が二日程前に幕府軍の大軍が西に向かって要るのは発

見したと、そうですねぇ~二千名くらいにしましょうか。」


「えっ、そんな大軍が本当に。」


「いいや全くの嘘ですよ、其れでね、幕府の軍勢ですが、え~っと、確かこの先、二里か三里の所に橋が有ったと思うのですが。」


「中佐、有りますよ、三里程の先ですよ。」


「やはりでしたか、其れで幕府軍がその橋を渡ったと言う事に話を合わせて欲しいのです。」


「中佐殿、話しは分かりますが、其れで一体どうされるのですか。」


「其れからですよ、幕府軍は二千名ですよ、その様な大軍ならば足も遅いですかねぇ~。」


 小田切は首を傾げて要る。


「中佐殿、其れは我々も同じですよ、今の我々には大砲も有りませんので何時もより早く進めて要ると思

います。」


「小田切、未だ分からないのか、幕府軍は二千名の大軍と二十問以上の大砲を持っていれば、当然進み方は余計遅くなると偵察隊ならばどうすると思う。」


「勿論、正確な事を調べる必要が、あっ、そうか。」


「やっと分かったのか。」


 小田切はぺコンと頭を下げ。


「中佐殿、申し訳有りません。

 偵察隊に偽情報を流し調べに行かせるのですね。」


「その通り、彼らは山に狼の大群が潜んで要るとは知らないんだ。」


「では、狼の餌食にさせるのですか、中佐殿は何と恐ろしいお方ですねぇ~。」


「いゃ~其れは間違いですよ、私よりももっと恐ろしいお方は総司令ですよ、そうだ偵察隊には山の麓を

進めと言えば、狼は人間の臭いを嗅ぎ付け直ぐに来るから、我々は何もせず偵察隊を司令部に行かせる事

も無く始末出来ると言う事に成るんだ。」


「中佐殿、ですが先程五百人の農民が来ておりますが。」


「其れは心配ないんだ、偵察隊も今は浪人の姿だから幕府の者なのか、官軍の者なのかも言えないし、

今余計な話しはしないんだ、偵察隊には明日七つ半には出発して貰い、我々は明け六つに出発すれば良い、まぁ~炊事班は大変だと思うが、其れも明日で終わるから辛抱して欲しいんだ。」


「では第五中隊が炊事班を手伝います。」


「済まんが、其れで朝と昼用にだが全ておむすびにして欲しいんだ。」


「其れでは今から話をすれば宜しいのですか。」


「其れとだ、まだ有るから詳しく説明する。」


 工藤はこの後、明日の朝まで行う事を詳しく説明し。


「よ~し説明は終わった、農民さん達には偵察隊が出発するまで何も話すなよ、其れと偵察隊を呼んで、

其れと君達は残ってくれ。」


「中佐殿、奴らを騙すんですね。」


 工藤と一緒に来た兵士達は何やら楽し気な顔をして要る。


「まぁ~まぁ~其れよりも話を合わせて下さいよ。」


「中佐殿、任せて下さいよ、でも何か可哀想ですねぇ~、何も知らずに狼の餌食にさせるのは。」


「おい、おい、何を言ってるんだ、そんな事総司令の耳に入って見ろ、其れこそ君達が狼の。」


「えっ、そんなの嫌ですよ、でもあの総司令ならなぁ~やるかも知れないかもな。」


 だが兵士達は源三郎がその様な理不尽な男では無いと知って要る。


「だが作戦は絶対に成功させなければならないんだ、其れだけは絶対に忘れるなよ。」


「はい、オレ達も肝に命じて置きます。」


「中佐殿、お連れいました。」


 十人の偵察隊が工藤と小田切に前に来た。


「中佐殿、大事な話が有ると。」


「そうなんだ、実はなぁ~。」


 工藤は予定通りの話をすると。


「えっ、其れは誠ですか。」


「本当なんだ、本当ならば我々がその幕府軍を攻撃する作戦を立てたんだが君達も知っての通り、先程農

民が五百人以上も我々に助けを求めて来たんだ。」


「中佐殿、自分達も知っておりまして、農民の話を聴いておりますと、我々以上に何も食べておらず、子

供達が安堵の表情を浮かべておりました。」


「我々だけならば戦死を覚悟で行くんだが。」


「中佐殿、自分達に任せて下さい。

 人数と武器を調べ本隊に知らせたいと思います。」


「済まないなぁ~、其れで君が言った本隊と言うのは。」


「はい、戻り橋から街道を外れ、暫く行きますと駐屯地が有りまして、今、その駐屯地に向けて五千人の

の兵が向かっております。」


「えっ、五千人ですか、其れでその駐屯地は。」


「はい、自分達も詳しくは知らないのですが、一千名と大砲が十門有ると、其れだけで。」


 小田切は一瞬声が出そうになった。

 正か、その駐屯地に居たのは我々だと言えない。


「そうですか、我々は知らなかったんですよ街道を進んで来ましたので。」


 小田切は以前の工藤とは違うと、これ程までに工藤を変えた源三郎と言われる人物に早く会いたいと思

うので有る。


「ですが、その道は狭いので直ぐ後ろから行くのは危険ですから、橋を渡り一里程行ってから山に入れば

熊笹で隠れる事が出来ますので、幕府軍に見付かる事も無く行けますので。」


「中佐殿、有難う御座います。

 中佐殿、其れとこの先ですが。」


「私もこれから北に向かう予定なので詳しい情報が有れば助かりますよ。」


「中佐殿、自分達が集めました情報ですが。」


 その後、十人の偵察隊は江戸から奥州と、そして幾つもの山を越え、越後まで調べた事を全てと言って

も良い程話したので有る。

 其れは工藤の知らない情報ばかりで、其れよりも都合の良い事に農民が五百人も現れ、農民を護衛する

と言う名目が有れば、彼らは不審には思わずに行くだろうと、工藤は心の中でニヤリとした。


「中佐殿、自分達は明日七つに出立しますので。」


「えっ、そんな早くにですか。」


「中佐殿、我々の任務で駐屯地も知らなければ我々の損害は多大となりますので。」


「そうですか、よ~く分かりました。

 我々も今聞きました情報を元に農民を何処か安全な地に送り届けその後は幕府軍の討伐に向かいますの

で、隊長には我々の事は内密に。」


「はい、ですが何故で御座いますか。」


「我々は秘密裏に進めて要る作戦が有りまして、その任務の成功させる為に我々の存在を出来るならば官

軍にも知られたくないのです。」


「はい、承知致しました。

 では自分達の事もお願いします。」


「はい、勿論ですよ、申し訳無いですが。」


「中佐殿、どうかお気を付けて下さい。」


「分かりました、さぁ~少佐、炊事班は大変ですが。」


「はい、でも炊事班は何時もの事ですから、全員がおむすびで。」


「其れで宜しいですよ。」


 十人の官軍の偵察隊は工藤の作戦通り行くのだろうか。

 そして、明くる日早朝、いや、まだ薄暗い頃、偵察隊は松明を持ち幕府軍が通過した橋へと向かった。


「さぁ~我々も出発の準備だ、炊事班は。」


「はい、今第五中隊と其れに農民の女性達も手伝いに入りおむすびを作っております。」


「そうですか、私は農民さんに説明しますので、兵士達は手分けして出発の準備に入って下さい。」


 工藤は農民達に説明を始めた。


「私は工藤と申しますが、今日、我々の連合国に皆さんをお連れしたいと思います。

 其れで今から出立するまでにお話をしますのでねよ~く聞いて下さいね。」


 工藤は出発を明け六つと考え、僅かの時を利用し説明に入った。

 勿論、今説明したところで全てが理解出来るはずも無く、其れでも工藤は必死で説明し、やがて出発の

時刻が来た。

 部隊も準備が整い、炊事班は農民達に朝のおむすびを渡して行く。


「あの~隊長様、オラ達はあの山の向こう側は直ぐ海で何も無いって聞いてたんですが。」


「はい、ですが、今から行く連合国は有りますよ、そうだ小田切、馬二頭を。」


「中佐殿、何故馬が必要なのでしょうか。」


 工藤は農民達の前で説明に入った。


「私と一緒に来た兵士の中には第一中隊と総司令の居られる中隊からも一緒に来ており、菊池と野洲の総司令に伝える為です。」


「では今日中には連合国に着くのでしょうか。」


「今出発すれば今日の夕刻には菊池に着けますのでね、では君達は。」


「中佐、任せて下さいよ、中隊長と高野様にお伝えしますので。」


「おい、おい、私の頭の中を見るなよ、私は何も言って無いんだぞ。」


「は~い、了解で~す。」


 兵士と工藤は大笑いした。


「では、今から任務を言いますから、菊地の高野様には我々の人数と農民さんが五百名が一緒ですから夕

食をお願いしますと。」


「はい、中佐、第一中隊には隧道に松明の準備に入る様に伝えます。」


「そうですねぇ~、其れと馬車が、あっ、小田切少佐何台でしたか。」


「えっ、ですが私も覚えておりませんが、え~っと、確か五十台近くと馬が二百頭だと思いますが。」


「分かった、其れも伝えて下さいね。」


「はい、了解しました。」


「そして、君には吉田中尉と総司令に同じ内容の話をお願いします。

 多分、総司令の事ですから菊地まで来られると思いますので。」


「はい、了解しました。」


「そして二人は残り受け入れの準備に入る様にして下さいね、宜しくお願いします。」


「では中佐、お先に菊池でお待ちしております。」


 二人は馬を飛ばし菊池に有る秘密の隧道へと向かった。


「なぁ~みんな聞いてくれ、オラ達は今まで幕府にいじめられてきた、其れに村も無くなったんだ、オラ

は隊長様の話を信じるよ、其れでみんなどうだろうか一緒に行かないか。」


「オラも考えてるんだ、だけどなぁ~隊長様の話しがまだ信用出来ないんだ、オラの村は官軍の奴らに焼

かれたんだから。」


 彼らの村では名主と十数人が殺され、村は焼かれたと言うので有る。


「オラの村では幕府軍が来て何人も殺したんだ、オラは今何を信用していいのか分からないんだ。」


 農民達の気持ちも分かる、と工藤は思った。


「私は何も無理に連合国に来て下さいとは申しませんがよ~く考えて下さいね、これから先一体何処に行

かれるのですか、其れでも私の話しが嘘と思うならば連発銃を渡しますから、私を撃ち殺しても宜しいで

すよ。」


「中佐、自分も一緒に。」


 工藤と一緒に来た兵士全員が撃ち殺しても良いと連発銃を渡した。


「今皆さんとこの場で話し合うより出発しませんか、朝の七つに出発した官軍の偵察隊が山の麓に入る頃

で、この山には狼の大群が潜んでおり、後少しであの者達は狼の餌食になり、下手をすれば我々も狼の大

群に襲われ貴方方の中からも大勢の犠牲者が出る事に成りますよ。」


「隊長様、狼の大群がオラ達をですか。」


「はい、その通りですよ、私は一刻も早く橋の向こう側に行きたいので我々は出発しますが、私は別に無

理にとは申しませんので、では小田切少佐、出発して下さい。」


「はい、では出発する、我々と一緒に行かれるので有れば子供さんと女性達は馬車に乗って下さい。」


 其れでも決断出来ない十数人の農民は考え込み、一緒に行くと決めた農民達は子供と女性達を馬車に乗せた。


「よ~し出発だあの橋を過ぎればもう大丈夫だ、其れまでは少し早足で進め、各中隊は左側の山から来る

狼の大群を監視せよ。」


「隊長様、オラも行くよ。」


 と、数人の農民も決め合流し暫くすると農民の全員が合流した。

 其の頃、橋を渡り一里程進んだ官軍の偵察隊を数百頭もの狼が狙いを定めて要る。

 そして、偵察隊が山の麓に入り熊笹を分けながら進むと、突然。


「ぎゃ~。」


「狼だ、誰か助けてくれ。」


 狼の大群が襲って来た。

 其の頃、丁度橋の手前に差し掛かった工藤や兵士、農民達が遠くから叫び声が聞こえた。


「さぁ~みんな急ぐんだ、今狼の大群が官軍の偵察隊を襲って要るから。」


「わぁ~狼だ、助けてくれ。」


「ぎゃ~。」


 と、叫ぶが、敵は人間の味を知った狼だもう逃げる事も出来ず、次々と狼の餌食になって行く。

 其の頃、馬に乗った二人は隧道の入り口付近に近付いた。


「お~い。」


「あれは、直ぐ中隊長と高野様に知らせてくれ。」


 兵士数人が菊池に駐屯して要る第一中隊の中隊長と高野の所へと走った。


「高野様、大至急隧道の入り口に来て下さい。」


「何が有ったのですか。」


「はい、中佐殿と一緒に行きました中隊の兵士が馬を飛ばして帰って着ました。」


「分かりました、馬で行きますので。」


 高野は馬で隧道の入り口へと飛ばした。


「オレはこのまま野洲に行くから。」


「お~い馬を直ぐに。」


 兵士は馬を乗り換え、野洲へと飛ばして行く。


「中隊長、今日の夕刻に中佐殿と官軍兵一千名、更に農民さんですが、女と子供を含め五百名も一緒に

帰って来ます。」


「えっ、其れは本当か、では全員が無事なのか。」


「はい、中佐からは全員の夕食の準備を頼むと。」


「よし分かった、直ぐ手配する。」


「中隊長。」


「高野様、今報告で官軍兵が一千名と農民さんが五百名と、一緒に工藤中佐殿が戻って来られと、其れで

今から夕食の準備に入ります。」


「そうですか分かりました、其れで総司令には。」


「別の兵士が今野洲に向かいました。」


「分かりました、中隊長、食事の準備ですが。」


「私は何を準備すれば良いのか分かりませんが、先程、小魚と農村から野菜も届きましたので雑炊をと考

えたのですが。」


「其れで行きましょう、其れで農民さんですが。」


「高野様、子供と女性も多く含まれておりますので、其れに数日間殆ど食べて無かったと言われておりま

して。」


「其れならば尚更雑炊の方が良いですねぇ~、誰か城に行って農民さんの休む所の準備に入れと伝えて下

さい。」


「では、そのお役目私が参ります、で、他には。」


「まぁ~今は今夜だけで宜しいでしょう、其れと賄い処には明日の朝の食事の準備もと、その後、殿にも

伝えて下さいね、私は此処で待ちますので。」


 高野は源三郎も来ると考えて要る。


「お~い。」


「あれは中佐殿と一緒に、中尉殿を呼べ、其れと総司令にもだ、早く行け。」

 兵士は大急ぎで行った。


「中隊長、松明は。」


「全部、隧道の中に有ります。」


「では、向こう側の入り口に。」


「高木様、もう行っておりますので、高野様、総司令も来られるでしょうか。」


「勿論、間違い無く来られますよ、後は農民さんの受け入れ態勢を整えましょう、其れで一千名の兵士で

すが。」


「私は総司令の御考えを聞きたいのです。」


 高野も少し慌てたのだろうか、一千名の官軍の兵士と五百人の農民が、其れも突然来ると言うのだから

無理も無いが。


「私も少し慌てましたねぇ~。」


 高野は笑いかけたが。


「高野様、自分も慌てましたよ、自分も一千名の兵士、う~ん、やはり総司令で無ければ自分には考える

のは無理ですよ。」


「よ~しもう大丈夫だ、もう直ぐ秘密の隧道に入りますからね、馬車を先頭に各中隊は付近の監視を。」


 橋を過ぎた工藤達は隧道へと急いだ、普段ならば暗くなってから通るのだが、今度ばかりは早く通り抜

ける方を優先すると判断したので有る。


「総司令。」


「吉田中尉、如何されましたか。」


「はい、今、中佐殿と行動を共にした兵士が馬で帰って着まして、中佐殿と官軍兵一千名と農民さんも五

百名と共に夕刻には菊池に入ると。」


「分かりました、上田様、馬の用意を、中尉も一緒に来て下さい。」


「はい、了解しました。」


 その後、源三郎と吉田中尉、上田と鈴木が馬で菊池へと向かった。


「中隊長、松明は火を点け、入り口には小隊を待機させております。」


「よ~し其れと隧道からは。」


「中隊長、全部終わっております。」


 第一中隊の兵士も理解しており、隧道の出口からお城までにはかがり火の準備も終わり、工藤達の到着

を待つばかりで有る。


「あれ~何か有ったぞ、隧道の出口からお城までかがり火の用意が、誰か聞きに行ってくれ。」


 菊池でも一切の隠し事はしない、隧道の出口からお城までかがり火の準備がされて要ると。

 さぁ~領民達の出番で有る。


「なぁ~兵隊さん何か有ったのか。」


「うん、工藤中佐が一千名の兵士と五百人の農民さんを連れて帰って来るんですよ。」


「よ~し分かった、直ぐみんな知らせるからなぁ~。」


「有難う、頼むよ。」


 菊池でも兵士は城下の領民達と仲間同士で何か有れば城下の人達が総出で応援に駆け付ける。


「お~いみんな五百人の農民さんと、え~っと、そうだ一千人の兵士を連れて帰って来るぞ。」


「よ~し分かった、みんな手の空いてる人は行ってくれ、其れと農民さんの着替えもだぞ。」


 菊池の城下では何時農民が来ても良い様にと女性達が古着で作業着を作って要る。


「分かった、で、他に要る物は無いか。」


「今は其れだけだ、みんなに協力を頼むんだ。」


「高野様、総司令が来られました。」


「分かりました、貴方は総司令に説明して下さい。」


「高野様、先程お聞きし馬を飛ばして来ましたが準備の方は。」


「はい、今進めております。」


「高野様、申し訳有りませんが、宜しくお願いします。

 私は出口に向かいますので。」


「はい、承知致しました。」


 菊池のお城でも受け入れに大わらわで殿様が陣頭指揮で進めて要る。


「殿、我々にお任せ下さい。」


 菊池でも野洲と同じでお殿様はこの様な時には邪魔者で腰元達からも何処かに行けと言わんばかりに言

われ、其の様な時はお殿様も素直に聴く。


「う~ん、やはりか、余は邪魔者になるのか、だが余は嬉しいのぉ~。」

 家臣達からも直接言われるのがお殿様は怒るでも無し、反対に喜んで要る様子だ。


「中隊長、自分も分かりますよ、一千名の兵士と五百人の農民さんですからねぇ~、本当に判断が難しい

ですよ。」


 彼らも問題が発生すれば源三郎が助けてくれると信じて要る。


「中隊長、如何ですか準備の方は。」


「総司令、隧道には松明に火を点けて明るくなっておりますので、其れと向こう側には小隊も待機させて

おりますので。」


「そうですか、其れにしても驚きましたねぇ~。」


「はい、私も正かとは思いましたが、ですが報告では全員が無事だと言う事で、私は其れが何よりも嬉し

いです。」


「ゴ~ン。」


「総司令、今の鐘は昼七つですから、もう間も無くかと思われます。」


「あの~隊長様、こんな高い山を越えて行くんですか。」


「まぁ~まぁ~何も心配せずに、あの大木の裏側に我が連合国に抜ける隧道が有りますのでね。」


 農民達は恐る恐る歩いて行く。


「あっ、中佐殿。」


「やぁ~元気そうですねぇ~。」


「はい、中佐殿も、お~い中佐殿が帰られたぞ~。」


 隧道の中には数十人の兵士が松明を持って待って要る。


「さぁ~皆さん行きましょうか。」


 工藤が先頭になり菊池に抜ける隧道を歩いて行く。


「お~こんな所に抜け道が有るとは、でも驚きましたねぇ~、中佐殿の話しは本当だったんですね。」


 小田切も兵士達も驚いて要る。

 大木が五本有り、その裏側から菊池に抜ける隧道が本当に有ったからで有る。


「総司令、中佐殿です。」


「さぁ~皆さん此処が我らの連合国ですよ。」


「工藤さん、大変ご苦労様でしたねぇ~。」

「総司令、私も正かこの様な結果になるとは夢にも思っておらず驚いております。」


「お話しは明日でも宜しいですから城へ参りましょうか、菊池の浜の特別雑炊が待っておりますよ。」


「はい、小田切少佐、お話しをしていた我が連合国総司令官の源三郎様ですよ。」


「はい、自分は。」


「まぁ~まぁ~硬い挨拶は抜きにして食に行きましょうか、中隊長、皆さんをお連れして下さいね。」


「はい、承知致しました。

 皆さん、後少しでお城に着きますのでね、其処で食事にして下さい。

 其れと中隊は馬車を城に入れ馬を楽にさせてくれ。」


 小田切と来た兵士達は戸惑いを隠せない。


「小田切少佐とお聞きしましたが、もう工藤さんから我々連合国の話しは聞かれたと思いますが、我々は

農民さん達を守る為に連合国を設立しました。

 まぁ~お話しは後にしましょうかねぇ~。」


 この後も小田切は源三郎に聞くが、何を聞いても工藤が話した通りで、正か話を合わせているのではな

いかと思う程で有る。


「少佐、今、貴殿は私が話した内容と工藤さんが言われた内容が余りにも同じなので、私と工藤さんが話

を合わせて要ると思われて要ると思いますが、私は工藤さんがどの様な話しをされたのか全く知りません

のでね。」


「はい、ですが全く同じ様に話されますので、私は話を合わせていると思いました。」


「まぁ~お話しは明日からにしましょうか。」


 小田切が驚くよりも農民達はもっと驚いて要る。


「源三郎様、わしらに出来る事は言って下さいよ、何でもやりますから。」


「オレ達もですよ、なぁ~農民さん達、連合国に来たからには何も心配する事は無いんだ、オレ達には源

三郎様が付いて居られるんだからなぁ~。」


「あの~オラ達は農民で、まだ何も作って無いんですが。」


「なぁ~そんな事は考えるなよ、其れよりも暫くはのんびりとするんだなぁ~、その内に大工さんがみん

なの家を建ててくれるからなぁ~。」


「えっ、でもオラ達はお金が無いんですよ。」


「オレ達の連合国にはお金なんて要らないんだぜ、そうですよねぇ~源三郎様。」


「はい、皆さんは農民さんですからね、ですが悪い事をすれば、私は兵隊さんよりも恐ろしいですよ。」


「源三郎様、そんな事言ったら、ほら農民さん達が怖がってますよ。」


 領民達は源三郎を睨み付けた、すると。


「皆さん、申し訳有りませんねぇ~、まぁ~其れよりも暫くはのんびりとして下さいね、明日から皆さん

からお話しを伺いますのでね。」


「源三郎様、農民さん達の着物ですが、私達は子供が居るって聞いて無かったんですよ。」


「其れは申し訳有りませんです、全て私の責任ですのでお許し下さいね。」


「まぁ~仕方無いわね、源三郎様に言われたんじゃ、その代わりにですよ、今度私達と一緒にお酒を飲み

ましょうよ、いいでしょ。」


「はい、宜しいですよ、ですが少しだけ待って下さいね、この人達の行き先を考えなければなりませんの

でね。」


「は~い、じゃ~約束ですよ、其の時には雪乃様も一緒ですからね。」


「中佐殿、源三郎様と言われる総司令官ですが、何時もですかあの様なお話しは。」


「小田切、此処の人達はまだ大人しいんだ、これが野洲に行くと、まぁ~もっと恐ろしい話になるから

なぁ~まぁ~其の時には驚きの連続になるよ。」


「さぁ~皆さんお城ですよ、入って下さいね。」


 菊池のお城に入ると、庭には全て寧ろが敷かれ、かがり火と大きな鍋が数十個湯気を上げて要る。


「源三郎殿。」


「殿様、突然で申し訳御座いませぬ。」


「えっ、お殿様って、みんな。」


 農民達は慌てて土下座すると。


「皆の者、その様な事は我が連合国では不要じゃ、高野、皆が腹いっぱいになるまで食べさせてくれ、其

れと農民さんには部屋の準備も終わっておるからのぉ~。」


「殿、有り難きお言葉で御座います。」


「さぁ~皆さんお腹がいっぱいになるまで食べて下さいね。」


「なぁ~オラ達本当に食べていいのかなぁ~。」


「うん、今までとは全然違うんだ、あのお侍様だけど、オラ達をお城に入れてからばっさりと殺すつもり

なんだ、きっとそうだ決まってるよ。」


「そうだなぁ~、お侍もだけど、オラは官軍も信用して無いんだ、オラの村は官軍の奴らに焼かれ、隣の

村でも大勢が官軍の奴らに殺されたって。」


「う~ん、だけど、オラは違うと思うんだ、オラも侍や官軍の奴らは信用出来ないけど、でもあのお侍様

もだけど此処のお侍様って違う様に思うんだ、だってお侍様って言うけど、あのお侍様もだけど、どのお

侍様を見てもオラ達と同じ様な着物を着ておられるし、其れにどのお侍様も刀は持ってないんだ。」


「えっ、オラは今まで見て無かったんだけど。」


「あっ、本当だ、どのお侍様を見てもオラ達と同じ着物を着てるぞ。」


「うん、其れに誰も刀を差して無いよ。」


 農民達の中から少しづつだが菊池の家臣達が今まで見慣れてきた侍の着物でなく、農民達が着る様な継

ぎ接ぎだらけの作業着姿で、更に、侍と言えば必ず腰に差して要る大小二本の刀を差していない。

 其れは今の今までが緊張の連続と言うのか、先日まで生死の間で生きており、其れが菊池のお城に入り、少し緊張の糸が解れて来たのだろうか。


「なぁ~聞いて見ようか。」


「止めろよ、余計な事を聞くな、下手をすると無礼者って。」


「そうだ、辞めろって、下手に聴くと殺されるぞ。」


「うん、其れもそうだなぁ~。」


「いや、そんな事は無いと思うんだ、オラが聞いて見るから。」


 農民達の気持ちも分かる、侍と言えば、何かの理由を付けては刀を振り回し相手が弱い立場の農民達な

らば、直ぐ切り殺してきた、其れが今までの侍なのだ。

 

「あの~お侍様。」


「はい、何ですか。」


「オラ、少し聴きたいんですが、いいですか。」


「はい、いいですよ、私の知ってる事ならばお答えしますよ。」


 源三郎は優しそうな目で返事をすると。


「オラは農民ですが、何でお侍様の着物が。」


「あ~我々の着ている作業着の事ですか。」


「はい、其れにお侍様は刀も差して無いので、オラもだけど、みんなは不思議だって言うんです。」


「分かりました、我々の連合国では侍と言うよりも刀はねぇ~必要無いのですよ。」


「えっ、でも何でですか、オラはお侍様は。」


「確かに皆さんはあの高い山の向こう側から来られましたので何も知らないと思いますが、我々の連合国

と言うのは幕府でも有りませんし、 其れに官軍でも有りませんからねぇ~。」


 農民達が突然連合国は幕府でも無く、官軍でも無いと言われても理解は不可能で。


「あの~お侍様、幕府では無いって言われましたが、オラは何を言われてるの全然分からないんです。」


「う~ん確かにそうですねぇ~、では簡単にお話ししましょうかね、実は私達の国でも幕府から上納金を、あっ、そうでしたね、この上納金と言うのが、私達が幕府に納める税金でね、其れにですよ急に今年から二倍の税金を出せってね、ですが、我々の国は貧しい国でしてね、そんな大金は無いんですよ。」


 源三郎の周りには次々と農民達が集まり、誰もが真剣に聞いて要る。


「小田切、あれが総司令なんだ、総司令は農民達が理解出来る様に優しく丁寧に説明され、其れはどんな

に時が掛かろうとも、農民さんが、いや漁師さんにも子供に対しても同じで、相手が納得されるまで話を

されるんだ。」


「中佐殿、ではこの連合国に居られる人達は全員が理解されて要るのですか。」


「そうだよ、さっきも見たと思うが、領民達が集まって来て、何か手伝う事は無いかって聞いたのもそれなんだ、実は私も源三郎様に助けられたんだよ。」


「えっ、中佐殿がですか。」


「そうですよ、私は五百名の兵士達と山に入ってんだ、だけどこの山には狼の大群が潜んで要るんだ、

まぁ~其の話しは後日するとしてだ、君も見たと思うが、菊池の城下で侍は全員が作業着姿なんだ。」 


「はい、私も不思議で、其れに腰に刀が無いので全く理解出来ないのです。」


 小田切も武家で侍と言うのは刀を差して要るのが当然だと思って要る。


「中佐殿、私も武家なので刀を差して要るのが当たり前だと思っております。

 でも何故此処の侍は刀を差していないのですか。」


「小田切、連合国で刀を差して要るのは、我々連合国軍だけなんだ、だが私も野洲に帰れば刀も必要無い

ので。」


「えっ、では官軍、いや連合国の軍隊だけが刀を差し、侍は誰も差していないと、でも何故ですか侍同士

でも他国に行けば。」


「まぁ~小田切、急に理解するのは無理なんだよ、君もだが中隊長や小隊長、其れに兵士の全員が追先日

前まで高い山の向こう側で幕府軍と戦争状態で殺し合いをしてたんだ、其れがこの数日で今までの事が全

て変わり、侍は刀も差していない国に入り、全てを理解する方が無理なんだよ、まぁ~その内に分かる様

になるよ。」


「中佐殿、其れで我々は今後どの様になるのでしょうか、私よりも中隊長や小隊長、其れに兵士達も不安

が有るのですが。」


「う~ん、其れは大変難しいなぁ~、今菊池から山賀まで各一個中隊が駐屯して要るんだ。」


「えっ、各一個中隊がと言われましたが。」


「うんそうなんだ、吉田中尉が一千名の兵士と共に連合国に逃れて来たんだ、吉田は中尉だが一千名の兵

士を五か国に駐屯させ、此処の第一中隊が一番の精鋭達で、だけど日頃は農民さんの仕事をお手伝いして

るんだ。」


「中佐殿、私は頭が混乱しております。

 何故、中尉が一千名の大隊を引き連れる事が出来るのですか。」


「あ~そうか、まぁ~その話も後日にするよ、其れよりも総司令の周りにはもっと増えるぞ。」


 源三郎の周りには何時も漁民や農民達で溢れて要る。


「まぁ~皆さんお話しは明日にしますのでね、其れよりも今はしっかりと食べて、今夜はこのお城で寝て

下さいね。」


「えっ、でもオラ達は農民ですよ、お城でなんて。」


「何も心配される事は有りませんよ、明日の朝私がお話ししますのでね、今まで事は全部忘れてゆっくり

休んで下さいね。」


「お~いみんなお侍様がご飯を食べて、其れと今夜は此処で寝てもいいって、お話しは明日の朝して下さ

るからみんな食べようか。」


「そうだ、オラも早く食べて、お侍様に言われる通り、明日の朝になってからお話しを聞くよ。」


 農民達は源三郎や菊池の家臣達に促され夕食を食べ始め、その場にた元官軍兵達も食事に入った。


「高野様、誠突然とは申せ、誠に申し訳御座いませぬ。」


「総司令、ですが全員が無事で良かったと思っております。」


「総司令。」


「工藤さんも大変だったと思いますが、何卒、ゆっくりとして下さい。

 お話しは後日伺いますので。」


「はい、ですが田中様が西へ向かわれましたが宜しいので御座いますか。」


「勿論、宜しいですよ、田中様の事ですから私は何も心配してはおりませんのでねぇ~、まぁ~十日もす

れば何事も無かった様な顔をされ戻って来られと思いますよ。」


「失礼します、私は。」


「小田切さんですね、先程は大変失礼しました、余りにも突然の出来事でしたのでねぇ~。」


「いいえ、私は何も、其れよりも私は今後どの様にさせて頂けば宜しいので御座いますか。」


「小田切さん、先程我々の連合国に来られたのですから、今は何も心配されずお食事を取って下さい。

 今貴方方がゆっくりとされなければ、ほら他の方々も食事が進みませんのでね。」


「はい、総司令、承知致しました。」


「工藤さんもですよ、さぁ~皆さんの中に入って下さい。


 食事中でも色々と話される事も有ると思いますがね。」


「はい、では明日の朝に。」


「宜しくお願いしますね。」


 小田切と一千名の元官軍兵と五百名の農民達は菊池のお城で久し振りに静かな夜を過ごした。

 その少し前、田中は三平を伴いのんびりと西へと向かって要る。


「直さん、工藤さん達は無事菊池に着いたんでしょうかねぇ~。」


「私は大砲を処分されてからだと思いますよ。」


「でも大砲が有れば源三郎様も助かると思うんですがねぇ~。」


「三ちゃん、大砲十門と三百発もの砲弾ですよ、勿論、私でも欲しいですが、今の連合国には必要無いん

ですよ。」


「直さん、でも幕府か官軍が攻めて来るんですよ。」


「三ちゃん、連合国は高い山の向こう側で、その向こうは全て海ですからね、大砲が有っても宝の持ち腐

れって言ってね、大砲の使い道を考えれば無用の長物に成りますよ。」


「だったら火薬と連発銃だけで十分なんですか。」


「私は其れでも十分だと思いますよ、あの山を一人で越える事も大変なんですからねぇ~。」


「其れだったらオラも分かりますが、う~ん、でも無理ですよねぇ~。」


「三ちゃん、大砲ってねぇ~一門の重さが千貫以上も有るんですよ。」


「えっ、そんなにも重いんですか、だったら無理ですねぇ~。」


「三ちゃんも分かって貰えましたか、其れよりもこれからは危険が多いと思いますのでね。」


「はい、でもオラは何も心配して無いんですよ、オラは農夫で、直さんはお坊様ですからねぇ~。」


 三平は田中を一番信頼しており、この先も何も心配する事も無いと思って要る。

「では何時もと同じで行きましょうかねぇ~。」


「ねぇ~直さん、前から侍が来ますよ。」


「あの姿はどうやら幕府軍の敗残兵ですねぇ~、三ちゃん、私に任せて下さいね。」


 田中と三平の前方より数名の侍が近付いて来るが、何やら様子が変だ、怪我をしている様子で有る。

 田中も三平も何も言わずに通り過ぎようとすると。


「あの~失礼ですが、お坊様で御座いますか。」


「はい、私は坊主で名を直悦と申しまして、戦死者を弔いながら旅を致しておりますが、其れが何か。」


「左様で御座いますか、では申し訳御座らぬが、この先二里の所で官軍との戦が有り、拙者の仲間が数人

死んだのですが、見ての通り官軍に追われ、何も出来ずにおります。


 どうか御坊に弔いをお願い出来ませぬか。」


「はい、承知致しました。」


「これは些少で御座いますが。」


「いいえ、その様な。」


「いや、我々にはもう必要が御座いませぬので。」


「はい、では確かにお預かり致します。」


「御坊、我々は急ぎますので、其れと官軍の大軍が迫っておりますので。」


「左様で御座いますか、では皆様方もお気を付けて。」


 数人の侍は其のまま街道を行く。


「直さん、官軍の大群ですか一体何人くらいでしょうか。」


「三ちゃん、其れも直ぐに分かりますよ。」


 田中と三平はその後誰と会う事も無く二里程進むと、道端に十数名の幕府軍と官軍兵の死体を発見した。


「三ちゃん、多いですねぇ~、この付近にはお寺は無いと思いますので、仕方が有りませんが穴を掘りま

しょうか。」


「はい、じゃ~少し離れた所で掘りますので。」


 田中と三平は道を少し離れた所を掘り出したが周りには官軍兵の姿は見えず、半時程で穴は掘れた。

 幕府軍と官軍兵を埋め、簡素だが近くに有った板切れに田中が墓標を書き、田中は坊主らしくお経を唱え、弔いは終わった。


 だがその直後。


「お坊様。」


「はい、えっ。」


 何と後ろには官軍の兵、いや将校らしき人物が数人同じ様に手を合わせている。


「御坊、有難う、我々は。」


「官軍のお方ですね。」


「はい、先程此処で幕府軍の一部と思われる十数人と戦に成り、私の部下数人も戦死し。」


「はい、私とこの農夫が見付け、余りにも無残な姿なので二人で穴を掘り埋め、たった今二人で今弔いが

終わったばかりで。」


「御坊、何とお礼を申し上げて良いか分かりませぬ。」


「いいえ、私はただ亡くなられたお方を弔って旅を続けておりまして、この農夫にも手伝って頂いて要る

のです。」


「左様で御座いますか、御坊、宜しければ我々の野営地にお越し下され。」


「宜しいのですが、私と農夫は汚れておりますが。」


「いいえ、その様な事は関係御座いませぬ、どうか。」


「はい、ではお言葉に甘えさせて頂きます。」


 田中と三平は官軍の将校らしき人物と数人の兵士が野営地に向かうが、三平は何も言わず、田中の後ろ

をついて行く。


 野営地はその場から二町程行った所に有った、やはり幕府軍の敗残兵が言った通りで大軍だ、一体何人

居るのだろうかと田中は思うが、坊主の立場では聞く事も出来ず将校の後をついて行く。


「御坊、食事は。」


「はい、実は二人共この二日程何も口に入っておりません。」


「左様で御座いますか、では直ぐにお持ちしますのでお待ち下さい。」


「はい、誠に有難う御座います。」


「御坊、少しお聞きしたいのですが、御坊はこの街道を来られたのでしょうか。」


「はい、二人で街道を進みましたが、其れが何か。」


「ではこの先はどの様になって要るのでしょうか。」

 そうか、この将校は工藤と合流した小田切達の事を聞きたいのだろう。


「この先ですが、有るのは高い山が連なっておりますが。」


「では高い山の付近で官軍の部隊を見られてはおられないでしょうか。」


「私は見ておりませんが、先程の戦死者を弔う前に、そうですねぇ~、半日程前に数人の侍と出会いまし

が其れ以上は。」


「左様で御座いますか、其れで今申されました高い山と言うのは一体何処まで続いて要るのか知っておら

れますか。」


「私も詳しい事は知りませぬが、途中の村で農民に聞きましたところでは五日、いや七日以上先まで続い

て要るとかで、其れと高い山の向こう側は海だと聞き、私も海に参る必要も有りませんので高い山を避け

て来ましたが。」


「そうですか、ではその間、我々と同じ姿の官軍兵を見なかったと申されるのですね、う~ん。」


「司令官、では一体何処に向かったのでしょうか。」


「司令官様で御座いましたか、大変失礼致しました。」


「いいえ、私も名乗るのを忘れておりました。

 私は五十嵐と申しましてこの部隊の司令官ですが、一千名の兵士と大砲を十門を持って要るので街道を

進むと思うのですがねぇ~。」


「えっ、一千名の兵隊さんですか、其れならば私でも直ぐに分かりますが、司令官様はその方々を探して

おられるのですか。」


「ええ、一千名の兵士と大砲が十門ですから、我々の部隊に取りましても大変な痛手でしてね、敵の幕府

軍にも大変な脅威となりますので、私は何としても幕府軍を壊滅させる為には必要な部隊なのです。」


「そうでしたか、ですが私の知る限りでは各地では今も戦闘が続いて要るのを眼の当たりにしており。」


「はい、確かに御坊の申される通りで、一刻も早く戦闘を終わらせたいのですが、やはり其処は数百年も

続いた武家社会でして中には今だ栄華を忘れる事も出来ずに要る者達も多く、その者達が住民を巻き込ん

での戦闘が続いて要るのも事実で、我々は新しい日本は武家や貴族が支配するのでは無く、一般庶民を中

心とした民主的な社会を実現する為に蜂起しました。

 御坊、私も戦を好んで要るのでは無く、其れですから我々の部隊でも多くの庶民が幕府を壊滅させるの

だとの思いで参加して要るのです。」


 五十嵐と言う司令官の思いが本流なのだろう、田中に同行する三平は時々頷いて要る。


「司令官様、ですが私は各地でも見ましたが、官軍兵が略奪や女性に対する暴行、果ては村を焼き打ちにして要るのです。

 其れをどの様に思われるのですか、司令官様の思いとは裏腹に官軍兵の傍若無人な行為を一体誰が止め

るので御座いましょうか。」


「御坊、私も其の様な話を聴き、何とかせねばと思いますが、今の私には何も出来ないと言うのが本当と

申しましょうか、本音と言っても良いのです。」


「司令官様、私も武士の末端におりましたので心の底には今一度昔の様に戻りたいと思っております。

 ですが、其れを叶える事などはとても無理だと承知しております。

 でもこの三平さんも官軍兵の為に村を焼き払われ、運良く私が通り掛かり、一命だけは助かりました。

 私も戦は好みません、ですが三平さんの気持ちになれば今でも幕府軍よりも官軍兵を見ると思いだし、

出来る事ならば妻や子供の敵討ちをしたいと、でも私が止めて要るのです。

 司令官様の申されますお話しが誠ならば、その様な者達には厳罰をお願いしたいと思います。」


「御坊、三平さんと申されましたね、私は今のお話しを司令本部に伝えますので。」


「司令官様、オラはこのお坊様のお陰で助かったんです。

 でも司令官様にオラが何を言っても、オラと同じ様な仕打ちを受けた農民は簡単に官軍を信じる事が出

来ません。」


 三平の作り話には五十嵐と言う司令官は何も反論せずに聞いて要る。


「司令官様、オラの母ちゃんと子供殺したのは司令官様と同じ様な白い毛を被ったお侍様で母ちゃんのお

腹にはオラの子供も、その母ちゃんのお腹を切り裂いたんだ、其れも笑いながらなんですよ。」


「三平殿、許して下さい。」


 と、五十嵐は三平の迷演技に完全に騙され涙を流して要る。


「司令官殿、私も幕府の横行は知っておりますが、今の官軍は其れ以上に残虐行為に部隊も上官は何も言

わず処罰も無しで、さぁ~次の村へ行くと告げ、私から見れば幕府軍の戦闘よりも村々を襲って要るよに

も思えるのです。」


「誰か伝令を、私が書状を認めるので司令本部に届けてくれ。」


 五十嵐は何を思ったのか急に書状を認めると。


「御坊、今日はもう遅いので、今夜は我が部隊に泊まられ、明日出立して頂きたいのです。」


 五十嵐は其れだけを言って自分の野営テントに戻った。


「直さん、司令官は如何されたんですか。」


「いゃ~其れはねぇ~、三ちゃんのお話しを聞き、書状を認め司令本部に届ける思いますよ。」


 田中の思惑は見事に的中し半時程経った頃、部隊から数名が司令本部へと馬を飛ばした。


「お坊様と農民さんのお食事と野営の準備で整いましたので、どうぞこちらへ。」


 兵士が田中と三平を案内し、その夜は五十嵐も来ず、静かに朝を迎える事が出来た。


「御坊、昨日は失礼しました。

 私は余りにも衝撃的なお話しに司令本部に大至急調査を行ない、戦闘とは関係の無い残虐行為を行なっ

た者には厳罰をお願いしました。」


「司令官様のご配慮は私としましても大変嬉しく思いますが、はっきりと申しますが意味の無い調査ですよ、誰が私は女子供を殺したと名乗りを上げると思われますか、まぁ~何れその者達もですが、官軍兵にも天罰が下ると思いますよ。」


「御坊の申される通りですが、今の私に出来るだけの事で、御坊、私の部隊でその様な残虐行為を行なっ

た者には銃殺刑で処罰しますので。」


「はい、承知致しました。

 司令官様、私達も今から西の方に参りたいので。」


「御坊、この書状をお持ち下さい。

 中味は御坊が戦死者を弔っておられると、其れとこの先ですが半日程で宿場が有りますので。」


「司令官様、何から何まで誠に有難う御座います。

 ですが、私は其れよりも弔いを先にその為には付近のお寺に参りたいのです。」


 五十嵐は全く田中を疑う事も無く話をしている。


「左様で御座いますか、ではお気を付けてお昼用のおむすびも準備させましたので。」


「司令官様はこれからどちらの方に向かわれるのですか。」


「私は先程の部隊を探しながら奥州へと参りますが。」


「えっ、これから奥州まで向かわれるのですか。」


「左様で、これだけの大軍ですので幕府軍の残党から攻撃を受ける事も有りませんが、あ~そうでした、

御坊が申されました高い山ですが麓は大丈夫でしょうか。」


「う~ん。」


 と、田中は一瞬迷った。


 五十嵐と言う司令官と五千人の兵士を狼の大群が潜んで要る高い山に向かわせるのは少し気が咎めた。


「私は付近の農村で聞いておりましたので川沿いを進みましたが本当のところは知らないのです。

 まぁ~農民さんの言われる話ですから、其れに大部隊ですから山の麓を避けて行かれた方がより安全だ

と思います。

 高い山に行く手前に戻り橋が有りますので橋を渡らずに少し道幅は狭いですが。」


「はい、御坊の申される通りにさせて頂きます。」


「其れと中程を過ぎれば川沿いの道を分かれる二又が有りますが、その付近には農村も有りませんので、

私はその二又から川沿いに入りましたので。」


「では高い山を避けて進めと申されるのですか。」

「はい、農民さんの話しですと山の狼は誠賢く、其れよりも人間の味を覚えていると。」


「では我々もその二又から高い山を避けて行く事にします。」


「司令官様、何卒お気を付け無事故郷にお戻り下さいますように、では私達は。」


 田中と三平はその後西へと向かうが。


「直さん、本当にこの間々長州に行くんですか。」


「いいえ、三ちゃん、私は何故かあの司令官と部隊が気に成りましたので先程聞きました宿場に入り、早

朝に出立すればあれだけの部隊ですから直ぐ分かりますので。」


「なぁ~んだ、じゃ~オラと同じだ、オラもあの司令官が気に成るんです。

 本当に二又から道を外れるのか知りたいんです。」


 三平も田中と同じ考えだ、やはり長い間同じ者同士が旅を続けると相手の考え方が分かるのか、其れと

も途中で会う官軍の部隊が気に成るのか、今回出会った五千人と言う大部隊が、其れよりも五十嵐と言う

司令官は賢い人物だと、だが本当の事を話して要るとは思えない。


 五十嵐の言う様に本当に小田切達を見つけ出す為に奥州へ向かうのか、だがあれだけの重装備では山を

越える事は不可能だ、其れでも万が一と言う事も考えられる。

 其れは偵察隊によって菊池に入る隧道が発見されでもすれば、五千の大部隊のから攻撃を受けると連合国は数日の内に壊滅する、其れだけは何としても阻止しなければならない。

 小田切の部隊も一千名の大部隊でその兵士達が向かった跡には草木は倒れ、一見して軍隊が移動して要

ると分かる。


 五十嵐の部隊は早くて十日以内に遅くとも十五日前後には二又に着くはずだ、其の時に発見されれば全

てが終わる可能性が有る。


 田中は今回長州に行く事よりも五十嵐の部隊の動向を知りたいのだ。


「直さん、雨が降るといいですねぇ~。」


「えっ、何故雨が降ればいいんですか。」


「直さん、オラは農民ですよ、雨と言うのは良い事も、悪い事も流してくれるんですよ、直さんは小田切

さんと工藤さんの事を考えてるんだと思うんです。

 でも今のオラも直さんも何も出来ないんです。

 其れだったら雨が降れば工藤さん達が菊池に行った事も流してくれると思うんです。」


「そうか、三ちゃん、私も分かりましたよ、小田切さん達の部隊が通り過ぎた跡を雨が消してくれるんで

すね。」


「其れに人に踏まれた草は雨が降ったら元に戻りますから。」


 やはり三平は農民だ、侍の田中では其処までの事は分からない。

 三平の言う様に雨が降れば馬車の轍も消され、人間歩いた跡も消してくれる。


「三ちゃん、今は本当に雨が欲しくなりましたよ、其れも高い山の周辺にだけお願いしたいですよ。」


「オラも一緒だ。」


 田中も三太も今は雨が降れば良いと、其れも高い山の周辺にだけにと雨乞いをしたい気持ちで、五十嵐

の言った宿場へと急ぐので有る。



     

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