第 47 話。五隻の軍艦の本当の目的とは。
「おぎゃ~、おぎゃ~。」
野洲のお城で突然赤子の鳴き声が響き、今度こそは間違いは無い。
源三郎の第一子となる男子が誕生した。
その知らせはその日の夕刻近くまでには野洲の領民全てが知る事に成った。
「銀次、オレ達もお城に行きたいよ~。」
「うん、其れはオレもだけど、う~ん。」
と、腕組みし、銀次は直ぐに答える事が出来なかった。
其れと言うのも今は菊池の洞窟で掘削工事と整地の真っ最中で有る。
「なぁ~銀次、何を考える必要が有るんだよ~、オレ達の恩人に男の子が誕生したんだぜ、高野様も分
かってくれると思うんだ。」
其処へ一艘の小舟が入って来た、高野が乗って居た。
「銀次さん、何をされて要るのですか、皆さんも行きたいのでしょう。」
「はい、其れはもう。」
「だったら直ぐに行って下さいよ、私も数日の内に参りますので。」
「高野様、本当に済まないです、お~い、みんな高野様が直ぐに行けって言って下さったぞ。」
「お~。」
菊池の洞窟に居る銀次の仲間も大喜びで次々と洞窟を出、大急ぎで野洲へと向かった。
其の頃、野洲のお城の大手門は城下の人達で溢れ返って要る。
「源三郎様は何処なんだ。」
「私も何処におられるのか分からないんですよ。」
「よ~し、じゃ~みんなで行こうぜ。」
其れからは町民が次々と大手門をくぐり抜け執務室へと向かった。
だがもう人、人、人で、其れでもまだ大手門の外には次々と人達が集まり大混乱して要る。
「お侍様、源三郎様は何処に居られるんですか。」
「今は雪乃様のお傍に居られると思いますよ。」
「そうか、でもなぁ~オレ達は源三郎様に一言祝いを言いたいんだ、分かって下さいよ。」
「私も皆さんの気持ちは分かっておりますが。」
「皆さん、聴いて欲しいんです。
総司令は皆さんのお気持ちはご存知ですよ、ですが、今は奥方様の傍で御生まれになられたお子様と少
しの時だけでもご一緒にさせて頂きたいのです。」
工藤も何とかして領民を宥めたいと思う、だが、野洲の領民は事源三郎の事となると例えお殿様でも止
める事が出来ないので有る。
「なぁ~オレ達は源三郎様と奥様にお祝いを言いたいだけなんだ、なぁ~お侍様、分かってくれよ。」
「勿論、私も同じですが、お殿様でも会えないのです。」
「そんな事は分かってるよ、じゃ~ご家老様は。」
「ご家老様もお傍に居られますよ。」
「なぁ~頼むよ、お侍様、源三郎様に。」
もう執務室の家臣達も工藤達もお手上げの状態で有る。
大手門には領民の殆どと言っても過言では無い程の人で溢れ返っており、押すな押すなの状態で、家臣
達も何とかしなければと思うが今はどうにもならない。
「皆さん、分かりました、私が行って参りますが余り期待はしないで下さいね。」
「お~い、みんなお侍様が行って下さるって、だけどお侍様はあんまり期待するなって、みんなも少し我
慢してくれよ、其れともう少し静かにして欲しいんだお侍様の声が聞こえないんだ、済まんなぁ~。」
その頃。
「のぉ~源三郎、名は考えておるのか。」
「はい、父上、私は最初から考えておりまして、男子ならば輝乃進、女子ならば輝乃と。」
「何じゃと、では男も女も同じなのか。」
「父上、私が考えましたのは光輝き進むと。」
「そうか、輝乃進か。」
「はい、其れと雪乃殿から一文字を頂こうと、私は何も相談せずに申し訳御座いませぬ。」
雪乃の眼からは一筋の涙が零れ、其れはもう嬉し涙で有り、其れ以上何も言えなかった。
「失礼します、加代様。」
腰元が加代を呼び出した。
「はい、直ぐに。」
加代が外に出ると、執務室の家臣が待っていた。
「如何なされましたのでしょうか。」
「はい、実は。」
家臣が大手門の大騒ぎの状況を話すと。
「はい、ですが。」
「私も今の状況は十分承知致しておりますが、もう今の状態では我々もですが工藤様達もお手上げの状態
でして誠に申し訳御座いませぬ。」
家臣も全て分かっており、源三郎の妻となったとはいえ、松川藩のお姫様でそのお姫様が男子を誕生さ
せ、今、源三郎と産まれたばかりの輝乃進と親子三人で居る。
家臣も辛い、大手門の騒ぎを止める事が出来るのは源三郎だけで有ると。
「承知致しました、私から源三郎様にお話しを致しますので暫くお待ち下さいませ。」
加代は再び部屋に入り、源三郎と雪乃に話すと。
「源三郎様、皆様の所に行って下さい。
そして、私も輝乃進も元気で何も心配は有りませぬとお伝え下さいませ、お願いします。」
さすがに雪乃で有る。
今の源三郎は連合国の最高指揮官でも有り、今は個人の事よりも領民に詳しく説明して欲しいと。
「雪乃殿、誠に有難う御座います。
では行って参りますので、加世殿、私が参りますので後の事は宜しくお願いします。」
「はい、全て承知致しました。」
雪乃の事は加代とすずに任せれば大丈夫で有る。
「源三郎、わしも参るぞ。」
「はい、父上、有難う御座います。」
ご家老様も初孫を独占出来るとは全く考えておらず、だが其れよりも大手門の騒ぎを静める事の方が余
程大事で有ると考えた。
「あっ、源三郎様だ。」
「えっ、本当だ、源三郎様~。」
「源三郎様~。」
もう大手門は蜂の巣を叩いた様に大変な騒ぎで、これではとても執務室の家臣達だけでは治める事など
到底無理だ。
「みなさ~ん、少しお静かに願います。
静かにして下さい。」
だが一向に騒ぎは収まらず。
「皆の者、静まれ~い、静まるのじゃ。」
やはり、ご家老様の一喝だ、あれ程騒がしかった人達が一瞬で静まった。
「皆さん、本当に有難う、雪乃殿が無事男の子を産んでくれました。」
「源三郎様、お一人ですか。」
「はい、そうですが、何故ですか。」
「オレ達は双子って聞いたんですよ。」
「いいや、わしは三つ子だって聴いたぞ。」
「オレは五つ子だって聴きましたよ。」
大手門の領民達は源三郎の子供が三人だと、いや、五人が産まれたと言うが、一体誰が人数を増や下の
だろうか、源三郎は笑いを堪えて要る。
「えっ、一体誰ですか、その様な事を確かに一人ですよ。」
「じゃ~本当にお一人なんですね、もう一体誰なんだよ、まぁ~いいか。」
領民達も大笑いをして要る。
「で、奥方様は大丈夫なんですか。」
「勿論ですよ、雪乃殿も輝乃進も大変元気でしてねぇ~、もう大きな声で泣いておりますよ。」
「えっ、もうお名前も決まったんですか。」
「はい、皆さんにも聞いて頂きますね、光り輝き進むと言う事で、皆さんの為と連合国の為にと輝乃進と
名付けました。」
「わぁ~これは大変だぞ、オレ達と連合国の為にって事は末は源三郎様の跡継ぎになってオレ達にも光り
輝くんだ、よ~しオレも子供が出来たら輝乃進と名付けるぞ。」
「お前はまだ子供を作るつもりなのか。」
「其れよりもだお前だけの輝乃進様じゃないんだぜ、オレ達みんなの為の輝乃進様なんだからな、そうですよねぇ~源三郎様。」
「はい、勿論ですよ、皆さんの輝乃進ですのでね、これから先、私同様に何卒宜しくお願い致します。」
「源三郎様、オレ達が付いてるんですよ、まぁ~大船に乗ったつもりで任せて下さいよ。」
「だけどなぁ~お前の船じゃ沈むぜ。」
「本当だ。」
大手門に集まった領民達は大笑いし、後ろに居る人達にも源三郎の子供は輝乃進だと知らされ、又も大
騒ぎになった。
「お~い、今から輝乃進様の誕生をお祝いして祝杯を挙げるぞ。」
「またか、お前は何でも理由を付けて飲むんだからなぁ~。」
「そうだよ、だけど今日はいいんだよ、特別なんだから誰も文句は無いと思うんだけどなぁ~、そうだろ
うみんな。」
「お~、今日は飲むぞ。」
男連中は多分今夜は夜通しで祝杯を挙げるに違い無い。
だが何と言っても今日は特別の日だ、源三郎には第一子で、ご家老様には初孫だ、だが其れだけでは終
わらない、松川の大殿様にとっても初孫で有る。
其の上、野洲の殿様にとっても身内の初孫で有り、これは本当に大変な事に成った。
「竹之進、雪乃が男の子を産んだぞ。」
「えっ、本当ですか、姉上様に男子誕生か大変良かった、で父上は。」
「何を申しておる、余は直ぐ野洲に参るぞ。」
「ですが、父上、もう夜も更けますので明日にでも。」
「そうか、其れならば仕方無いのぉ~、よ~し明日六つに出立致す、斉藤も参るのじゃ。」
「はい、大殿、斉藤喜んで御一緒させて頂きます。」
「う~ん、じゃが困った。」
「父上、何が困ったのですか。」
「男の子じゃ。」
「父上、宜しいでは御座いませぬか、其れよりも父上はこれから御爺様と呼ばれるのですよ。」
「何じゃと、余は爺様では無いわ。」
「ですが、孫から見れば父上は御爺様ですよ。」
「う~ん、其れは困ったのぉ~、余はう~ん。」
幾ら松川の大殿様でも孫から見れば間違い無く御爺様で有り、この事実だけは変える事は出来ない。
「う~ん、何とかせねばならぬ。」
「父上、何を考えておられるのか分かりますよ。」
竹之進も何故か楽しそうだ。
今、父を困らせて要るのは初孫が誕生し、其れは人生最高の喜びで、だが現実に戻ると御爺様と呼ばれ
る事に対し反抗して要る、だが心の中では御爺様と呼ばれるのをどれ程待ち侘びた事か
「竹之進、余は大お父様と呼ばせるぞ。」
竹之進は大笑いし、斉藤も笑いを堪える事が出来ない。
「父上、大お父様ですか、その様な呼び方をなされますと家臣達の物笑いになりますよ。
其れよりも、父上は未だ宜しいですよ、姉上が嫁がれた時よりこの瞬間を待たれておられたのですから、其れよりも私や松之介はこの若さで叔父上ですよ、まぁ~私はまだ良いとしても松之介は若様と呼ばれて要るのが突然叔父上と呼ばれるのですからねぇ~、誠可哀想ですよ。」
其れでも竹之進はこの叔父上と言う事が何故か嬉しく聞こえて来る。
「父上、まぁ~諦め無ければなりませぬ、多分、父上の事ですから野洲に参られ初孫を御覧になられた時
には、余はお主の御爺様じゃと申される様に思いますが。」
「う~ん、これは誠参った、竹之進、余は諦めるしかないと申すのか。」
「はい、姉上も申されますよ、御爺様ですよと、この事実だけは誰も否定は出来ませぬので。」
大殿様も此処が年貢の納め時だと半ば諦め。
「分かった、まぁ~呼び名よりも孫が成長する姿を見たいものじゃ。」
大殿様の本音がやっとでたと、竹之進も思った。
「では、明日の出立と言う事で斉藤様宜しくお願いしますね。」
「はい、私は最高のお役目で御座います。
大殿、あちらでは御爺様と呼ばれるお覚悟を。」
「斉藤、何が嬉しいのじゃ。」
斉藤はにやにやとするが、大殿様も満更でも無いと、今から初孫に会えるのが楽しみにしている。
「吉永様、姉上に御子が産まれました。」
「其れは大変喜ばしい事で御座いますなぁ~、若も今日からは叔父上様になられたのですねぇ~。」
「えっ、私が叔父上にですか、でも何だか嬉しい様な淋しい様な気が致します。
私はこの若さで突然叔父上と呼ばれるのですからねぇ~。」
「まぁ~其れは仕方の無い事で御座います。
ですが松川の大殿様は申されますよ、余は爺様では無いと。」
松之介は頷きながらも笑って要る。
「ええ、まず間違いは有りませんねぇ~、兄上がどの様に話されて要るのか父上との問答が目に浮かびま
すよ。」
「若、今日から叔父上様と呼ばれるのですよ、笑ってはおられませぬぞ。」
だが吉永は笑いを堪える事が出来ずに大笑いをしている。
「ですが、一番喜ばれて要るのは姉上だと思います。
勿論義兄上もですが、私は姉上がどれ程待ち望んでおられた事かと思います。」
「左様ですねぇ~、雪姫様としてでなくお一人の女性として最愛の源三郎殿の、其れも男子誕生ですから、そうでした、野洲のご家老様も御爺様と呼ばれる様になりますねぇ~。」
そうだ、野洲のご家老様にとっても初孫で、これは大変な騒ぎになると吉永は今から思って要る。
「若、今頃野洲は大騒ぎですぞ、源三郎殿のお子様ですからねぇ~。」
「私も今想像しておりますが、ご城下からも、そうでしたげんた殿が。」
「そうですよ、野洲にはげんたと言う源三郎殿には天敵がおりますのでねぇ~。」
吉永もげんたが何を企んでいるのか全く分からず、そのげんたが異常な程に静かに何かを考えて要ると
は、この時、松川の竹之進も山賀の若様や吉永も気付く事は無かった。
「若、何れにしましても落ち着いた頃野洲へ。」
「はい、勿論ですよ、松川の兄上と相談し決めたいと思います。」
「其の時には拙者も。」
「勿論ですよ、吉永様が嫌だと申されましても私はお連れ致しますからねぇ~。」
「若、有難う御座います。。」
「あんちゃん。」
「お~げんた。」
「あんちゃん、男の子が産まれたってか、良かったなぁ~。」
「そうですよ、名も輝乃進とね。」
「ふ~ん、輝乃進か良い名前だ、其れでねぇ~ちゃんは。」
「雪乃殿も元気で傍で輝乃進も大声で泣いてはおりますが二人共大丈夫ですよ。」
「そうか、其れは良かったなぁ~、あれ~銀次さんは。」
「銀次さんは菊池に居られますよ。」
「そうか、じゃ~今頃は向かってるなぁ~。」
「はい、私もその様に思いますよ。」
「其れにしても物凄い人達だなぁ~、あんちゃん、きっと城下の全員が来てるんだぜ。」
「私は今皆さんに感謝しておりますよ。」
「まぁ~其れだけみんなはあんちゃんの事を大切な人だと考えてるんだぜ。」
「ええ、私もその様に思いますよ。」
其の時、城下から数十樽もの酒樽が運ばれて来た。
その酒樽は中川屋と伊勢屋、其れに大川屋が用意した物で有る。
「さぁ~皆さん、飲んで下さいね。」
「お~祝い酒だ、みんな頂こうぜ。」
城下の男も女も大勢が祝い酒を飲み、大いに盛り上がって要る。
「源三郎様。」
「やはり来て下さいましたか、皆さん、有難う。」
菊池から銀次達が戻って来た。
「源三郎様、高野様が早く行けって言って下さいました。」
「そうでしたか、やはり高野様ですねぇ~、銀次さん達も飲んで下さいね。」
「あんちゃん、オレにも飲ませてくれよ。」
「げんた、大丈夫なのか。」
「なんだよ~、オレはもう十五になったんだぜ、あの時の子供じゃ無いんだから。」
「そうでしたねぇ~、では私と一緒に飲みましょうか。」
げんたも十五才になり大人の仲間入りで最初のお酒が源三郎の祝い酒で有る。
「へぇ~お酒ってこんな味がなのか。」
「どうですか初めてのお酒の味は。」
「そんなの分からないよ、オレは今日初めて飲むんだからなぁ~。」
そして、その日は大手門近くで領民達も侍達も一緒に夜遅くまで飲んでいた。
明くる日早朝七つ半、松川から野洲へと大殿様と斉藤、更に数人の家臣が向かい、昼の九つには野洲に
着いた。
「源三郎は何処じゃ。」
「はい、今は執務室に。」
「左様か。」
門番も予想はしていたが、正か松川の大殿様がこの様に早く来るとは思わず驚いて要る。
「源三郎殿。」
「大殿様、お早いお着きて。」
「うん、其れよりも孫は元気なのか。」
「はい、其れはもう、ではご案内致します。」
源三郎は大殿様と一緒に雪乃と輝乃進が居る部屋へと向かった。
「殿、大変で御座います。
松川の大殿様がお越しになられ、今、源三郎様と雪乃様のお部屋に向かっておられます」
「何じゃと、松川の義兄上様が来られたと直ぐ参るぞ、権三も呼べ。」
家臣は大急ぎでご家老様の部屋へと向かった。
「雪乃。」
「父上様。」
「雪乃、でかしたぞ。」
「はい、輝乃進、御爺様ですよ。」
大殿様は目を細め、何とも言えぬ顔をしている。
「この子が輝乃進と申すのか、輝乃進、爺じゃ分かるか。」
傍では斉藤がクスクスと笑って要る。
「父上、まだ無理で御座いますよ、先日産まれたばかりですので。」
「う~ん、そうじゃのぉ~、輝乃進、爺じゃぞ。」
「斉藤様、何を笑っておられるのですか。」
「はい、実は昨日、若殿と大殿様が。」
と、言う斉藤は昨日の話をしながらも笑いが収まらない。
「あ~其れで、ですがやはり孫の顔を見られると御爺様の顔ですねぇ~。」
「はい、日頃の大殿様からは全く想像も出来ませぬ。」
「何じゃと、斉藤、余がそんなにも変わったと申すのか。」
「はい、其れはもう昨日までとは大違いで御座いまして。」
「そうですよ、父上、もう逃げられませんのよ御爺様ですからね。」
「そうか、まぁ~其れも仕方無いか。」
大殿様は少し項垂れているが、其れは何も悲しいからでは無く、今は其れ以上に嬉しいので有る。
加代もすずも今までの大殿様とは違いに驚いており、其れはやはり初孫が誕生した事が余程嬉しかった
のだろうと思った。
「義兄上様。」
「お~これは、えっご家老までもか。」
「はい、大殿様、お久し振りで御座います。」
「父上、昨日、源三郎様が名前を光り輝き進むよう輝乃進と、其れに私からの一文字を。」
「源三郎殿がか誠良い名じゃ、余も嬉しいぞ。」
「はい、私も大殿様のお褒めを頂き誠に嬉しゅう御座います。」
「おぎゃ~、おぎゃ~。」
突然、輝乃進が泣き始めた。
「皆様、誠に申し訳御座いませぬが、輝乃進様の授乳で御座います。」
「お~そうか、では部屋を変えるか。」
さすがの大殿様も孫の食事には勝つ事は出来ない。
「では雪乃殿、後程に。」
源三郎はこの時を逃す事は無いと考えた。
「大殿様、例の。」
「お~分かったぞ、じゃが一体何処に参るのじゃ。」
「義兄上様、源三郎が特別な話が有る時に参る所が御座いますので。」
「そうか、では源三郎殿は何か突然閃いたとでも申すのか。」
源三郎が例のと言う時には余程の事が無ければ言わず、其れとも何かの考えが有っての事なのかと言ったが大殿様も源三郎の後から天守へと登って行く。
「大殿様、誠に申し訳御座いませぬ、この場所ならば誰にも聞かれる事は御座いませぬので。」
「良いのじゃ、まぁ~源三郎殿のする事に手抜かりは無いと余も思っておる、其れで話とは。」
「はい、では。」
と、源三郎は菊池、野洲、上田の浜で爆裂弾の特別訓練を行なって要る事を詳しく説明すると。
「うん、分かった、で、その爆裂弾の威力と申すのか破壊力とは一体どれ程なのじゃ。」
「はい、其れは言葉に言い表せぬ程ご御座いませぬので。」
其れでも源三郎は更に詳しく説明した。
「何故に其の様な恐ろしい物が出来たのか、まぁ~良い、で官軍の軍艦と申すのは何時頃沖を通るの
じゃ。」
「はい、其れが我々の考えた予定の期日を過ぎておりまして、山賀と松川の岬には数十人が監視の任に就
いておりますが今だ発見の知らせが御座いませぬ。」
「そうか、では監視を行なっておる兵士達も何時現れるかも知れぬと言うのに大変な任務が続いて要るの
じゃの。」
「はい、其れは間違い御座いませぬ。」
「まぁ~今となっては源三郎殿に任せる事が全てと思うのじゃ、だが誠、官軍の軍艦は沖を通るのか。」
「大殿様、其れは間違いは御座いませぬ。」
だが、源三郎は官軍の軍艦には佐渡に行く事を中止して欲しいのだと考えて要る。
「よ~し分かったぞ、まぁ~源三郎殿の事じゃ、どの様な方法を使ってでも軍艦を沈めるとは思うが、誠
犠牲者だけは出したくはないのぉ~。」
「はい、私も実は其れを願って要るので御座いますが、これだけははっきりとは申せませぬので。」
「では、今のところは何も分からぬのか。」
「はい、誠に申し訳御座いませぬ。」
「では仕方が無いのぉ~。」
その後暫くして大殿様と源三郎達が天守から下りた。
その同じ頃山賀の監視所が動き出した。
「おい、あれは若しや軍艦では。」
「誰か遠眼鏡を。」
兵士が遠眼鏡で水平線を見ると。
「間違い無い、あれは官軍の軍艦だ直ぐに知らせろ。」
山賀の監視所から鏡で松川の監視所へ、そして、上田へ、上田から野洲の監視所へ合図が有り。
「直ぐ浜に知らせろ。」
野洲の監視所から浜へ、浜から早馬を飛ばし。
「総司令は。」
「中におられますよ。」
「総司令、官軍の軍艦を発見したと連絡が有りました。」
「はい、分かりました、直ぐ工藤さんに伝えて下さい。
潜水船の出撃準備に入る様にと。」
その頃、松川の洞窟では早くも出撃準備が整い。
「全員、確実に爆裂弾を取り付け直ぐ潜れ、では出撃する。」
松川の洞窟から潜水船が出撃した。
「全員、今までの訓練通りに行えば必ず成功する、何も慌てる事は無い。」
「はい。」
潜水船の兵士達は大変な緊張をして要る。
「全員に告ぐ官軍の軍艦を必ず沈めるんだ、君達は今日まで大変苦しい訓練を続け、いよいよ、今日が
その日で有る、だが決して無理はするな、其れとお互いを信じる事だ、全員が訓練通りに行えば全て成功する、急ぐ事は無い確実に取り付け点火すれば直ぐ逃げる、では全員の健闘を祈る。」
「分隊長、準備出来次第、出撃せよ。」
野洲の洞窟からは三隻の潜水船が出撃して行く。
同じ頃、菊池からも一隻が出撃して行く。
「お~い、どうだ見えるか。」
「いや、全く分からない。」
松川と上田の監視所からも潜水船を探して要るが全く見付ける事が出来ず、其れでも五隻の潜水船は
潜ったままの状態で官軍の軍艦を追い掛けて行く。
源三郎は執務室で腕組みをし、目は瞑り静かに待って要る。
やがて半時程が経ち、一時、一時半を過ぎても一向に報告が入って来ない。
その少し前。
「分隊長、最後尾の軍艦を発見。」
「よ~し追撃開始せよ。」
「追撃開始、よ~そろ~、ちょよい左、よ~しそのまま、よ~し。」
松川から出撃した潜水船が最後尾の軍艦を捕捉し、やがて舵の有る所に近付くと。
「よ~し静かに浮上開始。」
「浮上開始、よ~そろ~、よ~しもうちょいだ、よ~しそのまま足漕ぎ開始、よ~そろ~。」
一人が入り口の蓋を開けると目前には大きな舵が見え。
「よ~し爆裂弾をくれ。」
「よ~しゆっくりだ。」
兵士は舵に爆裂弾を付け導火線に点火した。
「よ~し離れるぞ。」
兵士は直ぐ中に入り。
「よ~し潜れ、早く離れるんだ。」
潜水船は直ぐ潜り軍艦から離れ、だが官軍の軍艦の兵士は全く気付いていない。
「どうだ。」
「はい、もう爆発する頃だと思います。」
その瞬間。
「どっか~ん。」
大音響と共に軍艦の最後部が大きく揺れ破損した。
其れから間も無く海水が雪崩込んで行く。
「一体何が有ったんだ。」
「何処にも幕府の軍艦が見えないです。」
「わぁ~誰か助けてくれ。」
「大変だ水が入ってきた。」
船内では助けを呼ぶ声がする、だが誰も助けに行く事が出来ない。
軍艦の後部舵付近には巨大な穴が開き内部は粉々になり付近に居た乗組員は即死で大半が兵士で有る。
軍艦では丁度夕食の頃で一部の士官と乗組員を除き殆どが船内で食事中の為だ。
海上には十数人が浮いて要るがその兵士達も既に死亡して要る。
やがて四半時が過ぎた頃官軍の軍艦はゆっくりと海中へと沈んで行く。
その四半時後次の大爆発が起き、その後次々と同じ様に大爆発が起き五隻の軍艦全てが海中へと沈んだ。
「分隊長、どうやら五隻の軍艦全てが沈没した様です。」
「そうか、其れで海上の様子は。」
「この様子なならば生きて要る者はいないと思います。」
「いや確認が必要だ、一度浮上しよう。」
他の潜水船も次々と浮上した。
「どうだ。」
「はい、木片が多数有りますが、生きて要る兵士の姿が見当たりません。」
「よ~し戻るぞ。」
「あっ、あの樽は。」
「樽だと、確か火薬が入って要るはずだが。」
「分隊長、火薬を引き上げましょうか。」
「う~ん、だがなぁ~。」
「分隊長、他の船も引き上げておりますよ。」
「よ~し分かった、回収には無理をせずにだぞ。」
潜水船の兵士達は海上に浮かぶ火薬樽を回収し。
「よ~し戻るぞ。」
その後、潜水船は浮上航行し戻って行く。
「総司令、岬から連絡が入りまして、遠くの海上で大爆発が起きたと。」
「そうですか、では大成功だと思って間違いは無いのでしょうか。」
「はい、ですがまだ全ての確認は出来ず、何せ岬からは全く見えない海上だと思いますので。」
「では、仮に生き残ったとしても浜に着く事はまず不可能だと言う事なのですか。」
「はい、特別な訓練を受けた兵士でもあれだけ離れた所からは無理だと思います。」
「分かりました、皆さん全員無事に戻って来られる事を願います。」
官軍の軍艦には二十数門の大砲と数百個もの砲弾が積み込まれその重みも加わったのか、余りにも巨大
な穴が開いたのが原因なのか一気に海中へと沈んだ。
彼ら官軍兵はこの沖合に来るまでは幕府軍の軍艦とも会わず、其れが油断となり全員が戦死したと考え
られる、だが奇跡とも呼ぶべき事が起きていた。
五隻の軍艦に乗っていた中でたった一人だけが生き残っていた、彼は運良く軍艦から海に飛び込み海上
に有った大きな板に乗った、幸運は続き潜水船にも見付からず、だが気を失い其のまま海上を漂って要る。
松川の岬の監視所から監視を続ける兵士が海上をゆっくりと進む潜水船を見付け。
「お~い。」
と、大声で叫び両手で合図を送ると、潜水船の兵士も気付いたのか。
「お~い。」
と、大声で叫び両手を振る。
その頃、上田の岬でも同じ光景が起きており、野洲でも菊池でも同じ様な光景が見られた。 その後暫くして潜水船は元の湾内に入り。
「お~い、無事に戻って来たぞ~。」
「うん、本当に良かったなぁ~。」
浜では漁民達も侍達も兵士達も身体中で喜びを表して要る。
潜水船はやがて静かに洞窟へと入って行く。
「お~い、やったぞ。」
「そうか、で、みんなは。」
「大丈夫全員無事だ、総司令に伝令、官軍の軍艦五隻は沈没し、官軍兵は全員戦死したと。」
「了解、直ぐに行きます。」
最初に帰って着たのが野洲の潜水船でその後次々と帰港し、全員が無事だと早馬を飛ばした。
「総司令に伝令で~す。」
「其のままで。」
大手門の門番は何も知らないが、其れでも兵士が馬を飛ばし伝令だと言えば何か大事件が起きたと考え
るのが普通で有る。
「伝令です。
総司令、野洲に潜水船三隻が無事に戻って来られ、乗組員も全員が無事です。」
「そうですか、其れは本当に良かったです、其れで官軍の軍艦は。」
「はい、五隻の全てが沈没した事を確認したと。」
「では、軍艦の兵士は全員戦死したと言う事ですね。」
「はい、その様に報告を受けました。」
「そうですか、ご苦労様でした。」
潜水船の乗組員全員が無事だと報告を受けたが、源三郎の心の中は何故か沈み、其れは誰にも理解出来
ない、だが今更引き下がる訳などは出来ない、これが戦争なのだと自分に言い聞かせたので有る。
その後暫くして菊池、上田からも同様の報告を受けた。
「工藤さん、潜水船の兵士全員をゆっくりと休ませて頂きたいのです。」
「は、承知致しました。
伝令、潜水船の乗組員全員は本日より暫くの期間休養を取る様に。」
伝令を受けた兵士達は各地へと飛び出して行く。
「総司令、思わぬ結果となりましたが。」
「その様ですねぇ~、爆裂弾の威力が我々の思った以上に強力だったと言う事に成りますねぇ~。」
「後程、分隊長から詳しく報告が有ると思います。」
「まぁ~余り無理をせずに参りましょうか。」
「はい、その様に致します。」
一時程して野洲の分隊長達が報告に来た。
「総司令に敬礼。」
「分隊長、大変ご苦労様でした。」
「総司令、自分達は何も、其れよりも報告させて頂きます。」
「まぁ~まぁ~其れよりもお座り下さい。
誰かお茶をお願いします。」
「総司令、爆裂弾ですが、本当に恐ろしい破壊力を持っております。」
「その様だと思いますよ、先程も聞きましたが五隻の軍艦全て沈没したと。」
「はい、我々は申し合わせておりまして、一度に爆発すると若しかすれば仲間の潜水船に被害が及ぶ事も
考えまして最後尾の軍艦から爆破しようと。」
「では、最後尾の一隻を爆破した後に次の艦を爆破されたのですか。」
「はい、山賀での試みですが、あの筏で試みたよりも其れはもう驚く程でした。」
「では、その状況を聞かせて下さいますか。」
「はい、私は弐番艦で御座いました。
一番艦の爆発を見たのですが、船体の半分近くが吹き飛ばされました。」
「えっ、半分近くが吹き飛ばさたのですか。」
「はい、殆ど半分近くまでが粉々に吹き飛ばされ船体は粉々に、其れよりも悲惨なのが軍艦に乗っており
ました兵士達で海上にはまともな人間をした姿の兵士はおらず、人間と言うよりも肉の塊が浮かんでおりました。」
「えっ、では軍艦の兵士は全員が即死だと言われるのですか。」
「私は其の様に思います。」
「ですが、何故兵士達は逃げる事が出来なかったのでしょうか。」
源三郎は軍艦内で夕食の最中だとは知らなかった。
「総司令、自分も分かりません。
ですが数十人だけが人間の姿で浮いておりました。」
「工藤さん、今のお話しで軍艦の大きさですが。」
「潜水船と同じ大きさですが、其れにしても何と言う破壊力でしょうか、今の報告を聴きましても私は何
か理解が出来ないのです。」
「分隊長、爆裂弾の大きさですが五合弾でしたか。」
「はい、其れは間違いは有りません。」
源三郎も工藤も何故か分からないと。
「では軍艦の造りは。」
「はい、何処から見ても軍艦の姿で頑丈な造りでしたが。」
「まぁ~何れにしましても五隻の軍艦は佐渡に着けないと言う事になりましたねぇ~。」
「総司令、私も今は一安心しております。」
「分隊長、ご苦労様でした。」
「総司令、まだお土産が御座いまして。」
「へぇ~お土産ですか。」
源三郎は五隻の軍艦全てが沈没だと聞いており、だが分隊長は土産が有ると、その土産とは一体。
「総司令、軍艦に積んで有りました火薬の入って要る樽でして。」
「えっ、火薬の入った樽ですか。」
「はい、我々の三隻が回収しただけでも百樽は有ります。」
「火薬の樽が百個ですか、ですが何故爆発しなかったのでしょうか。」
「自分達は其処までの事は分かりませんが、多分上田と菊池に帰った潜水船でも数個の樽を回収したのではないかと思います。」
「工藤さん、これは大きなお土産ですねぇ~。」
「はい、私も正か火薬樽が回収出来るとは考えてもおりませんでしたので驚いております。」
「分隊長、火薬樽は今何処に有るのですか。」
「はい、今は潜水船の中に保管しておりますが明日にでも移動させる様に考えております。」
源三郎は思いもしなかった火薬樽を何処に保管すれば良いのか考えて要る。
「う~ん、何処に保管すれば良いのか考えも付かないですねぇ~。」
「総司令、山賀の洞窟では如何でしょうか。」
「そうですねぇ~、仮の保管場所と考えれば、では私が山賀の若様に相談しましょうか。」
「はい、では私もご一緒させて頂きます。」
野洲にも今大量の火薬を保管しており一度別の保管場所に移さなければ危険だと、源三郎は以前より考えていた。
そして一夜明けた野洲の浜で。
「お~い、大変だ土座衛門だ。」
浜の漁師は朝が早い。
「え~何処だ。」
「お~い、こっちだよ、早く来てくれよ。」
漁師達が大急ぎで行くと。
「わぁ~本当だ、だけどこの人兵隊だよ。」
「何でもいいから早く源三郎様にお知らせするんだ。」
「よ~しオラが行くよ。」
彼はこの浜でも一番足が速い。
「だけど、何でこんな所に居るんだ。」
野洲の漁師達は昨日遥か遠い沖で連合軍の潜水船が官軍の軍艦を爆破させた事は知らない。
「なんだか知らないけど、今朝の浜はやけに木片が多いなぁ~。」
「うん、そうなんだ、わぁ~向こうまで物凄い量の木片だよ。」
「だったら下手に網は入れないよ。」
元太は薄々気付いていた、野洲で筏の爆破を試みた事、其れと今朝の浜に打ち上げられた大量の木片。
そして、土座衛門、これは何か関係が有ると。
「えっ、おいこの兵隊さん、大変だ生きてるぞ。」
「本当か。」
「う~ん。」
兵士が息を吹き返した。
「うん、やっぱりだ生きてるぞ、誰か水を持って来てくれ。」
その頃のなると浜に死体が上がったと、其れも官軍の兵隊だと浜中に伝わり殆どが集まって来た。
銀次達も大工達も今丁度休みを取っており浜に居る。
「う~ん、えっ。」
銀次は思わず声を出し掛けた。
「銀次さん、どうかしたのか。」
「いや何でもないよ。」
銀次は何故否定するのか、今生死をさまよって要る官軍の兵隊とどの様関係が有るののだろうか、其れ
よりも若しもこの男があの者ならば今の内に殺せば源三郎にも浜の人達にも過去を知られる事は無い。
だが今この場所には浜の人達と親方を含め大勢が居る、正かみんなの見て要る前で殺す事は出来ない。
「源三郎様、大変だ、源三郎様。」
と、浜の漁師が飛び込んで来た。
「漁師さん、一体どうしたのですか、そんなに慌てて。」
「源三郎様、大変なんですよ、浜に土座衛門が。」
「えっ、土座衛門って死体ですか。」
「はい、其れも官軍の兵隊でして。」
「分かりました、誰か工藤さんと吉田さんに浜に来るように伝えて下さい。
其れと吉川さんと石川さんも一緒に。」
執務室に詰める家臣は工藤達に知らせに行く者、馬の準備に入る者が慌ただしく動く。
「誰か漁師さんにお茶と、後から馬で浜に。」
「承知致しました。」
「吉川さん、石川さん、書く物は。」
「はい、全て整っております。」
「では参りましょうか。」
源三郎と吉川、石川は馬を飛ばした。
官軍兵の死体が野洲の浜に上がったと、だが昨日の報告では兵隊は大爆発の為に身体はバラバラになっ
て要ると、では野洲の浜に上がった兵隊、いや漁師は死体だと其れしか言わなかった。
浜からは爆発音が聞こえたと報告は無い、それ程まで遠くで軍艦が沈没したはずで、其れが何故死体が
浜に、其れも野洲の浜だけなのか、他の浜にも漂着していないのか、其れも大至急調べる必要が有る。
「う~ん。」
兵隊は気が付いたのか。
「えっ、此処は天国か。」
「兵隊さん、此処はなぁ~まぁ~そんな事はどうでもいいが、一体何処から来たんだ。」
漁師は何も知らない。
「オレですか、沖の、えっ、あっ、手も足も付いてるぞオレは助かったんだ。」
「なぁ~んだこの兵隊気でも狂ったのかなぁ~、兵隊さん手も足も有るよ。」
「あ~良かった、オレは生きてるんだ。」
兵隊は身体中を触り助かったと実感して要る。
傍で銀次は何も言わず、直ぐ後ろに下がり仲間達も後ろに下がった、やはり兵達と何か関係が有るのか、兵士は身体を起こすと辺りを見渡し。
「えっ、正か、いやそんなはずが無い。」
と、独り言を言って要る。
「なぁ~兵隊さん、何を言ってるんだ。」
「ねぇ~此処は島なんですか。」
「えっ、島って一体何処の島の事を言ってるんだ、此処は島じゃ無いよ。」
「島じゃないって事は。」
兵士が話す事に漁師は全く分からず意味不明の様にも聞こえる。
「だったらあの人は。」
兵士は後ろに下がった銀次達をじ~っと見て要る。
「あっ、やっぱりだ親分だ、あっしですよ、誠二ですよ誠二ですよ、ねぇ~親分。」
「元太、この兵隊やっぱり気が狂ったんだ、だって親分って一体誰の事を言ってるんだ、え~あんた。」
「ねぇ~親分、誠二ですよ、ねぇ~銀龍の親分。」
銀次は下を向いた。
「なぁ~兵隊さん一体何を言ってるんですか、銀龍の親分って。」
元太も何か変だと思った。
何時もならば銀次とその仲間が一番先に来て要るはずが、銀次は後ろに下がり、下を向いたまま何も言
わない。
元太は正かとは思った、だが今は何か話が合わない。
「あっしですよ、銀龍の親分、誠二をお忘れなんですか。」
其の時、丁度源三郎が着た。
「源三郎様だ。」
「元太さん、土座衛門が上がったと聞きましたが。」
「えっ、お侍様は。」
「はい源三郎様、其れが生き返ったんです。」
「生き返ったと、では死んではいないのですね。」
「はい、この男なんですが官軍の兵隊でして。」
周りには漁民達が何を言って要るのか大騒ぎの状態で源三郎は話が聴きにくく。
「皆さん、少し静かにして下さいね。」
「お侍様が居るって事は幕府のお侍様なんですか。」
「いいえ違いますよ、私は源三郎と申しますが、貴方は。」
「はい、オレは誠二って言います。」
「誠二さんですか、其れで身体は大丈夫ですか。」
「はい大丈夫ですが、お侍様、オレは殺されるんですか。」
「何故、貴方を殺す必要が有るのですか。」
「だってオレは官軍の兵隊でして。」
「官軍の兵隊さんですね。」
兵士は源三郎の前では先程までとは全く違い、何か素直になって要る。
「皆さん、少し開けて下さい。」
工藤達の着いた。
「あっ、官軍の。」
兵士は突然現れた工藤達を官軍の将校だと思い驚いて要る。
兵士にすれば正か流れ着いた所に官軍の将校が居るとは全くの予想外で、工藤も軍艦の兵士は全員死亡
と聞いており、ではこの兵士は何処から来たのだ、正かと別の事を考えるので有る。
「君は。」
「オレは。」
「まぁ~まぁ~二人共少し待って下さいね。」
「はい、申し訳御座いません。」
「はい、お願いしますね、では其の前に貴方のお名前ですが。」
「はい、オレは誠二って言います。」
「誠二さんですね、先程もお聞きしましたが身体は大丈夫ですか。」
「はい、オレは何処も悪くないです。」
「では少しお聞ききしますが、貴方は何処から来られたのですか。」
「はい、オレは軍艦に乗ってまして。」
「ほ~軍艦ですか、では貴方の服装から見まして其れは官軍の軍艦ですか。」
「はい、でも何時かははっきりと覚えて無いんですが、有る時軍艦が突然爆発したんです。」
「爆発ですか、では幕府軍の軍艦に攻撃されたのですか。」
「お侍様、其れが全然分からないんです。」
「全く分からないとは一体どの様な意味なのですか。」
「はい、あっし達は五隻の軍艦に乗って何処かに行くって聞いたんですが、あっし達は一体何処に行くの
かもさっぱり分からなかったんで。」
「全く分からないとは知らされた無かったのですか。」
「はい、でも軍艦に乗れば食べ物が有るって聞いたんで、其れで乗ったんで。」
やはりだ、官軍は同じ方法を使って兵隊を集めていた、だがこの兵隊は全く行き先は知らないと言う、
工藤の話では佐渡の金塊を略奪すると。
「あの~お侍様、お聞きしたいんですが、此処は島なんでしょうか。」
「誠二さん、何故其の様な事を聴かれるんですか、この浜は貴方の言われる様な島では有りませんよ、全
て陸続きですからね。」
「じゃ~、お侍様はお役人様じゃ無いんですか。」
「勿論ですよ、私は役人では有りませんよ。」
何故、兵士は野洲の浜が島なのかを聴くんだ、誠二と言う官軍の兵士は町民では無い、其れならば誠二
に話をさせる方が前に進むかも知れないと源三郎は考えた。
「誠二さんでしたね。」
「はい、誠二って言います。」
「私が聴く事よりも誠二さんは何かを知りたいのでは有りませんか。」
「はい、お侍様、あっしはこの中に銀龍一家の親分と兄さん達がおられるんで。」
「誠二さん、銀龍一家とは何ですか。」
「はい、お江戸じゃ誰もが知ってます大親分さんで。」
「その銀龍一家の大親分と子分さん達がこの中に居られると言われるのですか。」
「え~銀龍一家って正か。」
「だけど一体誰なんだろうか、大親分って。」
「そうだなぁ~、オラ達の中にそんな人はいないぞ。」
と、浜の漁師達は口々に言って要るが、源三郎は直ぐ分かった、だが今の今まで確信が無く、余計な事
も必要が無く、其れで今まで来た、だがこの誠二は銀龍一家の親分と子分達が居ると言う。
「誠二さん、そのお人ですが。」
「はい、あのお方ですよ。」
銀次は下を向いたままで有る。
「えっ、どなたですか。」
「はい、今下を向いた。」
「銀次さん、此方に来て下さい。」
銀次も源三郎に呼ばれると断る事が出来ず前に行くと。
「源三郎様、オレは何も隠すつもりは無かったんです。」
銀次は土下座し頭を下げると。
「やはりでしたか。」
「やはりでしたかって、源三郎様は正か。」
銀次はガクッと肩を落とした。
「銀次さん、私もねぇ~銀次さんは何故か名の有る人だとは気付いておりましたが、まぁ~正かでした
ねぇ~、大江戸の大親分さんだとは私も気付きませんでしたよ。」
源三郎は何故かニヤッとした。
「源三郎様、誠二の言う事に間違いは有りません。
オレはどうなってもいいんでお許し下さい。」
「いいえ、銀次さん、私は許しませんよ。」
銀次は下を向いたままだが、源三郎はニコッとして。
「ではお聞きしますが、この中に銀龍一家の人達が居られるのですね。」
「はい、五十人ですが。」
「ほ~何と五十人ですか、何と素晴らしいですねぇ~親分顔を上げて下さい。」
銀次は首を撥ねられると思い。
「はい。」
と言って顔を上げ、源三郎を見るとニコニコとしている。
「源三郎様、奴らは何も悪くは無いんです、オレが全員に口止めをしたんです。」
「まぁ~まぁ~銀次さん、私はねぇ~何も銀次さんやお仲間を責めるつもりは有りませんがね、まぁ~其
れにしても今日の今まで良くも私を騙してくれましたねぇ~、私は恐ろしですよ。」
銀次も五十人の手下も源三郎の恐ろしさは嫌と言う程知って要る。
「源三郎様、オレは打ち首されてもいいんです。
ですが手下だけは許して欲しいんで、源三郎様、お願いします。」
銀次は土下座のままで。
「いいえ、私は許しませんよ。」
誠二は一瞬何を思ったのか、銀次の前に来て。
「お侍様、あっしが余計な事を言ったばかりに親分が殺されるんですか、だったらその前にあっしを。」
「私はねぇ~、人を殺す事が出来ないんですよ、銀次さん、まぁ~これからは私の直属で働いて頂きます
からねぇ~、其れに恐ろしいからって逃げようとしても我々の連合国からは出る事は出来ませんよ。」
「はい、勿論ですよ、オレはもう、えっ今なんて、源三郎様の直属で働けって聞こえたんですが。」
「はい、その通りですよ、其れで誠二さんはどうされますか。」
「あっしは親分の下で、はい。」
「そうですか、では詳しいお話しは明日、私の所に来て下さいね、ですがこれだけは申して置きますが、
私との約束を破る事になれば恐ろしい事に成りますからね、其れだけは覚えて置いて下さいね。」
誠二はその場で打ち首になると思い下を向いたままだ。
「浜の皆さん、私も今初めて聴きましたが、銀次さんは大江戸の大親分だそうです。
ですが其れは昔のお話しでしてね、銀次さん達がこの浜に来られたからの働きは全て知っておられると
思っておりますので、どうか私の顔を立てて許して頂きたいのですが、皆さんは如何でしょうか。」
「親方、元太さん、げんた、そして浜の皆さん、オレは今源三郎様の言われた通りで江戸の町で銀龍一家
と言うやくざ稼業を営んでおりました。
でもこれだけは信じて下さい。
オレ達は決して町の衆に危害を加えた事は一度も有りません。
オレ達の相手は全てお役人とお侍様でした。
其れにオレ達は源三郎様やみんなを騙す気持ちなんて全然無かったんです。
ただオレ達の稼業を言ったらこのご城下、いや浜を追い出されると思ったんです。
オレ達は浜を追い出されたら生きてく事が出来ないんです、これだけは本当なんです。」
銀次と手下、いや今は仲間だ、その仲間の全員が源三郎と浜の人達に土下座し頭を下げた。
「なぁ~銀次さん、わしは今更あんた達を責める気持ちは無いんだ、ただ本当は言って欲しかったんっだ。
「親方、本当に済みませんでした、でもやっぱり言えなかったんです。」
「銀次さん、だけどなんで島送りなんかになったんだね。」
「オレ達は何時も町衆の見方なんですよ、でもオレ達だけが江戸にいたんじゃ無かったんです。
同じ稼業もで二足の草鞋を履くって言いましてね、御上御用を受けた者とお役人はオレ達銀龍一家もう
邪魔で仕方無かったんです。
でもオレはそんな奴らが許せなかったんです。
有る時お侍様五人で其れも昼間かっらお酒を飲んで町の人達に喧嘩を売ってるんですが、全部が逃げ、
其の時運の悪い事に有るお店の娘さんが通り掛かったんです。」
源三郎も工藤も浜の人達は静かに銀次の話を聴いて要る。
「でもその娘さんは上手に逃げたんですが、相手は有るお旗本のご子息でして、オレ達が通り掛かり娘さ
んを逃がした事に腹を立て行き成り刀を抜いて襲い掛かって来たんで、オレ達が五人のお侍を足腰の立た
ない様にしたんで、まぁ~そんな訳でお役人に捕まったんです。」
「銀次さん、ですが何故ですか、何故銀次さん達が捕まるのですか、問題はその侍だと思いますが。」
「源三郎様、お江戸じゃ~お侍様は何をしても許されるんですよ、何も関係が無かったって。」
「私はその旗本が許せませんよ、それでどうなったんですか。」
「はい、でもお奉行はオレ達を助ける為に島送りだと、でも十年って言われたんです。
源三郎様、島で十年と言えばもう生きて島を出れないって話しなんです。」
「島で十年と言うのは死刑を意味するのですか。」
「はい、でも旗本のお侍様は打ち首にと言ってたんで、お奉行様が早く送れと言われてオレ達全員が島送
りの船に乗ったところ、お奉行様と他にもお役人が乗って居られまして、オレが聴いたところお奉行様と
お役人が同じ島へって。」
「そうですか、まぁ~都合の良い左遷ですか。」
「源三郎様、オレはその時お侍様の世界が分からなくなったんです。」
源三郎はふと思った、銀次達は十年の刑を言い渡された、だが話の様子が何故か噛み合わない。
「銀次さんは十年の島送りを受けたと言われましたが。」
「はい、実はお奉行様がオレ達を島から出して、いや逃してくれたんです。」
何と言う話だ、島の奉行が銀次達を島から逃がしたと、その様な事が本当に出来るのか、例え島から出
したとしても後程知られてしまう、一体奉行はどうなる、切腹、いや打ち首は逃れられないだろう。
「えっ、銀次さん、今お奉行が島から逃亡させたと聞こえましたが。」
「はい、本当なんです、お奉行様から三十日だけは我慢せよと言われたんです。」
「ですがねぇ~他の役人も居るのでしょうに。」
「オレ達は初め何の事を言ってるんだと訳が分からなかったんですが、でも簡単に三十日って言われたん
ですが島では物凄く長く感じたんですよ、でも何とかお奉行様の言われた様に三十日間我慢したんです。
其れで三十日と数日過ぎた夜なんですが突然数人の漁師が来て舟に乗れって。」
「銀次さん達が舟に乗ったところお奉行達も居られたのですね。」
「えっ、なんで分かるんですか。」
「まぁ~ねぇ~色々と有りますから、其れで銀次さん達は舟で逃亡し数日後別の浜に着いたのですね。」
此処まで来れば誰でも分かる、だが奉行は一体何の為に逃亡を企てたのか、源三郎は何としてもその訳
が知りたいので有る。
「銀次さん、お奉行の目的は一体何ですか。」
「源三郎様、オレ達は何も聞けなかったんですが、でも二度と江戸にも行くなと、其れでお奉行様とは其
処で分かれ、オレ達はお奉行様の言った様に江戸とは遠く離れた所に行くって決めたんです。」
「ではそのお奉行とは反対方向に向かわれたのですね。」
「はい、でも今から考えたら何か変なんですよ。」
「何かが変だと、一体何が変なのですか、私は銀次さん達が島から逃げられた事の方が一番変だと思ませ
んか。」
「はい、でもお奉行様は分かれる前にオレ達に大金を渡してくれたんです。」
その様に摩訶不思議な話が有るだろうか、島から抜け出させ、其れに目的地までの旅費までを与えると
はお奉行の真の目的と一体なんだ、源三郎は幾ら考えても全く分からない、若しかすると島抜けした者を
捕まえ為だと言えば関所は通過出来ると、いや銀次の話ではその様な悪知恵を働かせる様な奉行では無い。
だが余りにも話が出来過ぎでは無いか。
「銀次さん達はその浜から海沿いを進めと言われたのでは有りませんか。」
「えっ、源三郎様、何で分かるんですか、確かにお奉行様からこの浜から海沿いに進めって。」
やはりだ源三郎の思った通りだ、だが今更その奉行を探す必要も無い。
今頃は遥か遠く江戸を離れ、数人の役人仲間をのんびりと過ごして要るに違いない。
「ですが銀次さんは何故銀龍一家だと名乗らなかったのですか、私もですが誰でも知っておられると思い
ますが、今の連合国は以前から江戸の事は殆ど知らないのですよ。」
「源三郎様、ですがあの時、オレ達は山の向こう側に此処に国が有るって事も知らなかったんですよ、で
もどんな事が有っても、オレ達は江戸の銀龍一家だとは言わないって決めたんです。
若しも銀龍一家だと知られた時にはオレ達は張り付けは間違い無かったんですから。」
だが其れにしても誠二だけが。
「銀次さん、誠二さんも一緒では無かったのですか。」
「誠二は旗本とは一切関係が無かったんです。
其れで誠二を何処か遠くに行かせその間にオレ達が。」
「親分、じゃ~。」
「誠二、オレはもう銀龍一家の親分じゃ~無いんだ。」
「だってそんなのって余りにも酷いじゃないですか、あっしだって銀龍一家の子分なんですよ。」
「だが旗本との一件はお前の知らない事なんだ。」
そうだったのか、銀次は誠二を助ける為に他国に行かせ、その間に捕まれば誠二だけでも助かると、こ
れが親心だ。
「誠二さんは何故官軍に入ったのですか。」
「お侍様、あっしは親分の言い付けで他国に向かったんですが、途中で何か変だと思って途中で引き返し
たんですが、でも帰った時にはもう遅かったんです。
親分達は島送にりなった後で、其れであっしは仕方無く、其れに行く当ても無かったんですが、何時の
間にか薩摩の国に入ってたんです。
もうその頃になると路銀も使い果たし、三日間程何も食べて無かったんです。
でも其の時に食べ物が有り、寝る所も有るって書いて兵士を集めてたんで、あっしは何も考えずに入っ
たんです。」
「ですがその人集めは軍艦に乗る事だったのですか。」
「はい、あっしもですが、他の人も全部でみんなは食べる物が欲しかったん入っただけで、正か軍艦に乗
るとは思って無かったんです。」
「では誠二さん達は食べ物だけで入ったと、他の人達も言われましたが、何処に行くのかも知らなかったのですか。」
「はい、お侍様、その通りなんです。」
だが源三郎はこれ以上の話は浜の人達には聴かせ事は出来ないと考え。
「まぁ~後の話は明日お城に来て下さいね、銀次さんもお願いします。」
銀次は何時もと違い小声で源三郎には聞こえない。
「源三郎様、宜しいでしょうか。」
「勿論ですよ、宜しいですから。」
「はい、有難う御座います。
おいみんな土下座するんだ。」
銀次の子分と思われる五十人が土下座した。
「浜の皆さん、本当に申し訳有りませんでした。
この通りでお許し下さい。」
銀次達は浜の人達に両手を着き頭を下げた。
「銀次さん、残りの人達は。」
「はい、オレ達とは全然関係の無い人達です。」
銀次は江戸の銀龍一家の親分で、五十人の子分以外は関係の無い人達だと言った。
「銀次さん、今更そんな言い方は無いですよ、今の今まで仲間として一緒にやって来たんですよ。」
「ですが、オレ達は今の聞いての通り江戸の銀龍一家なんですよ、皆さんは銀龍一家とは関係は無いんで
すから。」
「銀次さん、其れはみんな大昔の事だって源三郎様もおっしゃってるんですから。」
「そうですよ、だってわしらも同じ様ほれ此処に。」
残った者達全員が同じ様に島帰りだと腕を捲くって見せた。
「其れはオレも知っておりますよ。」
「銀次さん、オレ達も江戸の銀龍一家の話は聞いた事は有りますよ、銀龍一家は町衆の見方で決して町衆
には手を出さないって、でもオレは違うんですよ、オレは押し込みに入って。」
「銀次さん、わしもですよ、わしは江戸の銀龍一家に入りたっかったんですが、その前に押し込みで捕ま
り島送りになったんで。」
と、残った者達全員が銀次達とは違い何らかの罪を犯し島送りになったと言う罰を受けたので有る。
「なぁ~銀次さん、オレは昔の事よりも浜の銀次さん達を知ってるけど、オレは今の銀次さん達を悪い人
達とは思って無いんだ、其れにだよ、今銀次さん達が浜を出たら一体誰が銀次さん達の代わりが出来るんですか、今の銀次さん達は野洲だけの銀次さん達じゃないと思うんだ、菊池でも上田でも、其れに山賀の
若様だって昔の銀次さん達は関係無いって言うと思うんだ、なぁ~あんちゃん、銀次さん達は浜に残れる
んだろう。」
「げんた、オレ達は。」
「銀次さん達は今後も私の配下としてこの野洲の、いいえ連合国の為に、まぁ~死ぬまで働いて貰います
からね。」
源三郎の言葉を聞いた浜の人達は喜びを表し、源三郎はニヤリとした。
「良かった、本当に良かったなぁ~、銀次さん、オラは何とも思って無いんですよ、みんなも同じですか
らねぇ~。」
「そうだよ、オラ達は昔の事は知らないんですよ、でも今の銀次さん達がいなくなったら、オラ達
も寂しくなるんですからね。」
「銀次さん、みんなも同じ気持ちなんだ、まぁ~これからもわしらと一緒に働きましょうや。」
「親方、オレは何と言って良いのか。」
「銀次さん、これで決まりですねぇ~、これからも宜しく頼みますよ。」
銀次と元の子分達は涙を流し。
「皆さん、本当に有難う御座います。
こんなオレ達ですが、これから先もお願いします。」
銀次と子分達は再び浜の人達に頭を下げた。
「では皆さん私は戻りますのでね、後の事は宜しく頼みますよ。」
「あの~お侍様、あっしは一体。」
「あっそうでしたねぇ~、私は誠二さんの事を忘れておりましたねぇ~、げんた、あの部屋は。」
「今は空いてるよ。」
「其れでは今日一日はその部屋でゆっくりと過ごし明日、銀次さんと一緒に私の所に来て下さい。」
「じゃ~あっしの首は。」
「誠二さん、打ち首になりたいのですか。」
誠二は一瞬驚いた、理由に関係無く打ち首になると覚悟していた。
「お侍様、そんなの飛んでも無いですよ。」
「そうでしょう、まぁ~この浜、いや連合国からは逃げ出す事だけは不可能だと思って下さい。
あの高い山には私の配下で数万頭も待ち構えておりますのでね。」
「えっ、お侍様の配下って、正か。」
「ええ、その正かでしてね、狼が数万頭もおりましてね、其れに人間の味も知っておりますからねぇ~、
一度山に入ると確実に餌食となり二度と城下には戻っては来れませんよ。」
「そんなのって本当なんですか。」
「誠二さん、本当ですよ、以前も官軍の兵隊が数千人と幕府軍の数千人が狼の餌食になっていますよ。」
源三郎は簡単に言ってニヤリとした。
「わかりました。」
と、誠二は下を向いた。
「誠二さん、まぁ~考え方を変えれば皆さんの知って要る島よりも恐ろしい所かも知れませんねぇ~、で
は私は戻りますからね。」
源三郎達は笑いながら城へと戻って行く。
「親分。」
「誠二、何度言ったら分かるんだ、オレはもう銀龍一家の親分じゃないんだ。」
「でも兄さんたちはどう呼ばれてるんですか。」
「そうかよ~く考えて見ると、銀次さんの子分さん達は一度も呼ばなかったなぁ~。」
「はい、そうなんです。
オレ達は突然親分と呼ぶなって言われたんですが、銀次って呼べって、でもそんなのって急に言われて
も簡単には言えないですよ、親方だって分かって頂けると思うんですが。」
「う~ん、これは本当に困ったなぁ~、銀次さんよりも子分さん達の方が本当に苦しかったと思うんです
がねぇ~、銀次さんはどう思いますか。」
「なぁ~銀次さん、オレは思うんだけど、別に呼び方なんてどうでもいいと思うんだ、だって銀次さんの
子分さん達も親分って呼ぶ方が楽なんだったらその方がいいと思うんだ、親方は大工で、親分は他の全部
を仕切っての親方で、だけど親方が二人よりも親方と親分でいいと思うんだけど。」
「銀次さん、オラもいいと思うんだ、親分と言っても昔の意味じゃないんだからそうだろうみんな。」
「銀次さんももう諦めなよ、浜の人達がいいって言ってるんだからね。」
げんたの母親が笑って言った。
「みんな、有難う、オレ達の事をこれからも宜しく頼みます。」
「さぁ~みんあ浜の雑炊ですよ。」
「お~オレ達の大好物だ。」
やっと銀次達は何時もの笑顔になり。
「親分、浜の雑炊って。」
「まぁ~話しよりも食べれば分かるよ、あの江戸でもこんなに美味しい雑炊は作れないんだから。」
「じゃ~頂きま~す。」
と、誠二は嬉しくなって一口食べると。
「わぁ~なんでこんなに美味しいんですか。」
「あんたねぇ~、この雑炊には私達の愛情が全部入ってるからなのよ。」
「そうなんですか、其れでこんなに美味しいんですか。」
誠二は納得したのか美味しそうに食べて要る。
「えっ、今日の味だけど何時もと少し違うと思うんですがねぇ~。」
「やっぱり分かったの、今日は別の魚が入ってるのよ、其れで今浜のお母さん達が片口鰯をね、これはお殿様には絶対に内緒だからね。」
「お殿様に内緒って、何で内緒なんですか。」
「そうか、誠二は今日が初めてだから何も分からないんだなぁ~。」
「親分、お殿様って、一体なんの話しなんですか。」
浜の人達も親方達も笑って要る。
「此処のお殿様ってのがこの片口鰯が大好物なんだ。」
「親分、あっしはねぇ~皆さんとは違いますぜ、あっしは確かに学は有りませんよ、でもお殿様ってのは
何時も一番美味しい物を食べてるんですよ、其れに片口鰯ってあっし達平民が食べるんですよ、そんな魚
をお殿様が食べるなんて一体何処の誰が信用すると思うんですか。」
「誠二さん、其れが大間違いなんだ、野洲のお殿様なぁ~この浜に来られると早く食べたいのじゃと言われて何時も一番に食べられるんですよ。」
「親方、お殿様ってご城下の誰でも知ってるんですか。」
「勿論ですよ、この浜で源三郎様とお殿様を知らないとよそ者になるよ。」
「じゃ~親方もですか。」
「あ~そうですよ、お殿様はわしらの事を何時も考えておられるんだ、其れに源三郎様も、まぁ~みんな
のお殿様なんだ。」
誠二は驚きの余り眼を白黒させて要る。
誠二が考えるお殿様は何時もお城できらびやかな着物と豪華な食事を頂いて要ると思っていた。
其れがこの野洲のお殿様は漁村の浜で平民が食べる雑炊を大喜びで食べるとは、全く想像も出来ないの
で有る。
「まぁ~まぁ~誠二さんもこの浜で源三郎様をお助けすんだなぁ~。」
「じゃ~さっきのお侍様が此処で一番お偉い方なんですか。」
「う~ん其れが違うんだなぁ~、源三郎様ってお方は、う~ん、お偉いと言えば、う~ん、何て言えば良
いのかなぁ~。」
「銀次さん、源三郎様ってどう言えば誠二さんに分かるかなぁ~。」
「親方、源三郎様ってお偉いと言うよりも、この城下で一番信頼されてるんですよ。」
「どんな話をしても、今の誠二さんには全く理解出来ませんよ、オレ達も最初の頃は全然分からなかっん
ですからねぇ~。」
「そうだなぁ~誠二さん、まぁ~源三郎様の事を知りたいんだったら直接自分で聴く事ですよ。」
「えっ、そんな恐ろしい事をあっしがですか、そんな事したら命が幾ら有っても足りませんよ。」
「誠二さん、そんな事心配無いって、あんちゃんは何でも聞いてくれるよ、そうだ明日お城で聞けばいい
んだから。」
「えっ、明日ですか、そうか明日お城に行くんだったなぁ~。」
誠二はお城と言う所は恐ろしい所だと思って要る。
「さぁ~みんなご飯が終わったら後片付けするからね。」
「誠二、お手伝いするんだ。」
「銀次さん、いいのよ。」
「お母さん、今日は手伝わせて下さい。
あっしもこんなに美味しい雑炊って生まれて初めてなんですから。」
「そうですか、じゃ~お願いしますね、げんたもよ。」
この頃のげんたは何かを考えて要るのか話には余り深い入りせず、銀次や親方も何故だと思って要る。
「親方、この頃のげんたは何かを考えて要るんですかねぇ~。」
「銀次さんもですか、わしも気になってるんでもう少し様子を見ようと思ってるんですよ。」
「親方、分かりましたよ、でも気になりますねぇ~。」
「銀次さん、誠二さんをどの様にさせたいと思ってるんですか。」
「後で聞いて見ようと思ってるんですよ。」
銀次は誠二が何故官軍に入ったのかその訳が知りたいと思って要る。
「じゃ~他に訳でも有ると思ってるんですか、銀次さん、誠二さんは生き残ったんだ、わしは其れでいい
と思ってるんですよ、多分、明日源三郎様が聴かれると思うから今日は何も聞かず静かに寝させてやって
欲しいんだ。」
親方も知りたいと思って要る、だが誠二だけが生き残った、今は其れで十分だと明日源三郎が今までの
経緯を聴くだろうから全てを源三郎に任せた方が良いと考えて要る。
「はい、じゃ~今日は何も聞かないで置きます。」
「銀次さん、済まないなぁ~わしの勝ってで。」
「親方、いいんですよ、其れよりもオレ達の事なんですが。」
「銀次さん、其れこそ余計な事だと思うんだが、源三郎様は何も言われないですよ、其れにさっき浜の人
達が言った様に今の方が大事なんだ、わしも銀次さん達が大事なんですよ。」、
「親方、本当に有難う御座います。」
そして、その夜は静かに更け。
明けた朝の五つ、銀次と誠二は源三郎に会うべくお城へと向かった。
「なぁ~誠二、源三郎様には嘘は通じ無いぞ。」
「はい、其れは勿論で。」
「其れに源三郎様はオレ達の命の大恩人なんだ、オレは確かに江戸で銀龍一家の親分だった、だけどあの
お奉行様に助けられ、そして、あちらこちらと回って要約この地に来たんだ、だけど仕事も少なく、その
日の食べる物にも困ってたんだ、そんな時、源三郎様から仕事も有り、その上ご飯まで有るってこんな話
し一体誰が信じると思う。」
「ねぇ~親分、源三郎様ってお優しいお方なんですか。」
「あ~オレ達には取ってはなぁ~、だが悪い奴らにはこんなに恐ろしいお方はいないんだ。」
「親分、だけどみんな源三郎様って呼ぶけど、何でお名前を呼ぶんですか。」
「誠二、源三郎様はご家老様のご子息なんだ。」
「えっ、じゃ~なんですか、ご家老様が。」
「いや其れが違うんだ、野洲のお殿様が源三郎様に命ぜられたんだ。」
「でもあんなにお若いお侍様が。」
誠二が思うのも無理は無い、幾ら家老の息子とは言え、藩内には多くの年配者がいるはずで、その人達
に不満は無いのだろうかと。
「でも、他のお侍様は何も文句は言わないんですか。」
「誠二、源三郎様は相手が子供だろうが大人だろうが、其れにオレ達の様な者にまで絶対にお侍様の言い
方じゃ無く、其れはもう優しくお話しさせるんだ、其れに命令はされないんだ。」
「えっ、でもお江戸じゃ、お侍様って何時も偉そうに。」
「うん、だがなぁ~この連合国では特に源三郎様は子供に対しても漁師さんや農村の人達にも頭を下げて
頼まれるんだ。」
「親分、其れって本当なんですか。」
誠二は同じ侍でも余りにも違いに目を白黒させて要る。
「まぁ~其れよりも源三郎様には全部話すんだぞ、其れとさっきも言ったが絶対に嘘は言うなよ、全て本
当の事を申し上げるんだぞ。」
「はい、分かりました。」
其の様な話の最中に。
「銀次さん、源三郎様は執務室ですよ。」
「はい、有難う御座います。」
「え~親分、お城の門番さんも親分を知ってるんですか。」
誠二は驚きの連続で、だが本当に驚くのは源三郎に会ってからだと、銀次は思って要る。
「誠二、このお城は誰でも自由に入れるんだ。」
「えっ、正かそんな事って今まで聴いた事が無いですよ。」
「誠二、此処では其れが当たり前なんだ、漁師さん達も農民さん達も自由に入って行くんだ、まぁ~お前
もその内に分かるから。」
「源三郎様。」
「親分。」
「えっ。」
銀次は驚いた、昨日浜の人達がこれからは親分と呼ぶと、だが源三郎は知るはずは無い。
「銀次さん、これからは親分と呼びましょうかね。」
「源三郎様、何で知ってられるんですか。」
「私は何も知りませんよ、ただその方が銀次さんの仲間も仕事がやりやすいでしょうし、元の子分さん達
もこれからは堂々と呼べるのですからねぇ~。」
誠二も驚きの表情をして要る。
昨日の話は誰も知らないはずだ、其れが何故源三郎と呼ばれるお侍が知って要るんだと。
「源三郎様、実は昨日。」
銀次は昨日、源三郎が帰った後の事を話すと。
「そうでしたか、ではこれからは私も親分と呼びますよ、親方は大工で、親分は他の人田とを纏め役、う
ん、これで行きましょうか。」
「はい。」
と返事する声は小さく、それ程までにも源三郎は知って要るのだと、改めて目を白黒させて要る。
「まぁ~お座り下さい。
これからはゆっくりと誠二さんのお話しを伺いますのでね。」
「はい。」
やはり誠二も声も小さい。
「誠二さん、私を恐ろしい人間だと思って要るでしょうねぇ~。」
「えっ、そんな事は。」
誠二は銀次から聞いていた通りで、余りにも図星で何も言えない。
「はやりねぇ~、銀次さんに相当脅かされたのでしょうねぇ~、源三郎は恐ろしいとね。」
「いいえ、源三郎様、オレはそんな事は言ってません。
ただ嘘は駄目だって全て本当の事を言うんだぞって其れだけですよ。」
「まぁ~宜しいですよ、誠二さん、私はねぇ~銀次さんの言われる通りで約束を破る人、嘘を言う人達で
ねまぁ~嘘を言いますと、その嘘に又嘘を言わなければなりませんので何時かはぼろが出て、全てがばれ
次からは信用されなくなりますのでね。」
「はい、分かりました。」
誠二は緊張の極みで口が乾いて要る。
「では少しお聞きしますが、何故、官軍の其れも一番新しい軍艦に乗っておられたのですか。」
「はい、私は。」
「誠二さん、そんな他人行儀な話し方では私には何も通じませんよ、誠二さんが親分と話される時と同じ
で宜しいですからね。」
「はい、じゃ~あっしは。」
誠二は銀次の命を受け、西国の金比羅山に行く事から始めた。
「ほ~金比羅山にですか、其れで。」
「はい、あっしは途中でどうも何か変だと思って一家に戻って来たらもう誰もおりませんでしたので近所
の人に聴きましたら、親分達は奉行所に連れて行かれ直ぐ島送りにされたって。」
「銀次さん、取り調べは無かったのですか。」
「はい、お奉行様が代わってたんです。」
「お奉行が代わっていたと、う~ん裏に何か有りそうでねぇ~。」
「オレ達は前のお奉行様から悪い様にはしないから捕まるのでは無く自らの意思で決断したと言った事に
して置くからなって言われたんです。」
「銀次さんは前の奉行の話を信じて行かれたと、だが奉行所に行くとお奉行が代わっており、其の時、お
奉行は直ぐ島送りだと申し渡したのですか。」
「はい、その通りなんです、でももう其の時には全てが決まり其の日の内に島へ連れて行かれました。」
江戸の銀龍一家と対峙する悪知恵の働く一家が大金を城中の有力者に大金を賄賂として渡し、お奉行を
交代させ、其れは時の奉行にも賄賂を贈り一気に銀龍一家の全員を島送りにさせたので有る。
「では、誠二さんは何も知らなかったのですか。」
「はい、そんなんであっしは何で親分も一家の全員が島送りになったのかも分からなかったんです。」
「それからどうされたんですか。」
「はい、其れであっしは行く所も無く、でも親分からは大金を預かっておりましたんで親分の言われた金
比羅山に行く為に西国へと向かったんです。」
「そうでしたか、其れで何も知らない誠二さんは金比羅山に行かれたのですか。」
「はいそうなんで、でも其の時は一度行って見ようと思って出たんですが、途中で帰って着たんですが、
一家の全員はおらず、其れに家は全部とり壊されてました。」
やはり敵対する一家が別の目的に使う為に家を取り壊したのだ。
「其れからどうされたんですか。」
「はい、あっしはもうやけになって江戸を離れ、以前親分から言われてた西の国へ向かったんです。」
「でも何故西の国なんですか。」
「源三郎様、オレが聴いたところでは遠く西の国では幕府と敵対する国が有り、その国に入れば奉行所の
手の届かないって。」
「其れが薩摩の国だったのですね。」
「はい、薩摩の国に入れば仮に誠二がお尋ね者だとしても手配書は届かないだろうと思ったんです。」
「そうですか、その国はそれ程幕府と敵対していたのですか。」
「オレは詳しい事は分かりませんが、以前何かの用事で奉行所に行った時、前のお奉行様が言ってた様に
も思うんですが。」
銀次が言う前のお奉行は何かを知って要ると、だが今となっては調べる事も出来ない。
「誠二さんは行く当ても無くなったのですね。」
「はい、ですがあっしは別に急ぐ必要も無かったんであちらこちらへと、親方には悪いんですがのんびり
と行ったんです。
其れで三十日位経った頃だったんですが別に泊まる予定も無かったんですが、と有る宿場町に入ったら
親分達が島抜けしたって手配書を見たんです。」
「ではその頃薩摩に着いたのたのですか。」
「いいえ、まだまだでしてあれは多分尾張の国辺りだと思うんですが。」
「では其れまで何をされてたのですか。」
「あっしは宿場町には必ず地元にはやくざ一家が構えてると聞いてましたんで宿場に入ると地元の一家で
数日間過ごし、でまた西の国へと足を延ばしたんです。」
「では銀次さん達が島抜けされたと知ってどうされたんですか。」
「あっしは親分が若しかしたら薩摩へと行くと思って、親分が通るだろうと思う街道へ向かい、途中の宿
場町で親分は地元の一家に行くと思ったんですが、其れが一体何処なのか全然分からなかったんです。」
「銀次さん達は着いた浜からどうされたのですか。」
「源三郎様、オレ達は多分島抜けしたと思われてましたんで全て海沿いを進んだんです。」
「海沿いですか、大変だったのですねぇ~、ですが食べる事を泊まる所が要りますねぇ~。」
「はい、でもあのお奉行様から少しですが金子を頂いておりましたので行ける所まで行けと、でも少ない
と言ってもオラ達には大金だったんです。
其れとオレ達全員が一緒に行きますと怪しまれるんで五人とか十人とか分かれて行ったんです。
で泊まる所は全部お寺でした。」
「ふ~ん、お寺でねぇ~そうですか。」
銀次達は宿場外れの荒れ寺を探し、そのお寺に泊まる事が出来た。
「ですが食べる物は。」
「はい、宿場の飯屋で一番安い物だけにしたんです。」
銀次達は食べ物も極力控え、とにかく江戸から遠くへ行く為に涙ぐましい節約していた。
「誠二さんは宿場町で銀次さん達を探し、でも銀次さん達は宿場外れの荒れ寺に泊まる、これでは幾ら探
しても見付ける事は出来ませんですねぇ~。」
「はい、でも其の時には親分が荒れ寺に泊まるなんて考えた事も無かったんで、でも其れから十日も経て
ばもう山陽道も終わりで、でも親分は絶対に来ると思って海を渡り肥後の国に入ったんです。」
「その肥後と言う国は薩摩の。」
「はい、筑前から筑後へ其れから肥後に入ったんですが、もうその頃には持ってた金子も底を尽き筑後で
は数日間何も食べて無かったんです。」
「では薩摩には行けなかったのですか。」
「はい、でもあっしは肥後で立て札を見たんですが、其れが兵士を集めるって立て札でして、で集まった
のがあっしの様な渡世人と後は浪人者が多かったです。」
「浪人をですか。」
「はい、でも入った頃には分からなかったんです、浪人と言えば元は何処かの藩のお侍様ですから浪人は
幕府には怨みを持って要るはずで、官軍に入ったら幕府軍の奴らを滅多切りにても構わないって。」
「え~では浪人達は。」
「はい、そりゃ~今までの怨みが有るんだと思いますよ、其れはもう大喜びでしたから。」
「総司令、遅くなりました。」
工藤と吉田が入って来たが誠二は驚きの表情をしている。
工藤や吉田は官軍の兵士姿をしている。
「工藤さん、吉田さん、まぁ~お座り下さい。
今、誠二さんのお話しを聞いて要るのですが、誠二さんが肥後の国で。」
源三郎は誠二が官軍が募集し、特に浪人達には幕府軍の侍達をどんな方法を使っても良いから殺せと其
れは非情とも思われる命令を出したそうですよ。」
「えっ、では私が聴いた話は本当だったのですか。」
工藤は官軍に入った一部の兵士が殺戮を行なって要ると。
「どうやら工藤さんの聞かれたお話しは本当だと思いますねぇ~、ですが問題は一部の兵士が元は何れか
の家中の侍で訳が有って浪人となったと思いますが、私の推測では藩の取り潰しで浪人になった、ですが
自分達が浪人になったのは全て幕府の責任だと考えて要るのでしょうがその浪人達が幕府軍だけを攻撃し
たのならばまだ少しは許せるのですが、農村や漁村を襲い、何の関係も無い、女、子供まで殺して要ると
なれば、私はどの様な理由を付けたところで到底許せるものでは無いのです。」
「総司令、私も同感で御座います。
私も戦ならばですが同じ兵士同士、侍同士ならば全てが良いとは申せませんが、私が見た農村や漁村の
焼き打ちはやはり浪人達の兵士だと思います。」
「誠二さん、ではその陸軍ですが多くの浪人達が居るのですか。」
「はい、あっし達は渡世人なんで幕府のお侍には普通では勝つ事は出来ませんが、でも殆どのご浪人は官
軍に入ったんだと思います。」
「では誠二さん達は何か聴かれてのですか。」
「いいえ、あっし達は何も聞かされて無かったんで暫くは何もする事が無かったんです。」
「ではやはり軍艦の完成待ちだと言う事に成りますねぇ~。」
「総司令、多分ですが、誠二さん達は最初から軍艦に乗せる予定だったと思います。」
「誠二さん、何人くらいだったのですか。」
「う~ん、はっきりとは分からないんですが、五百人は居た様に思うんですが。」
官軍の正規軍は数十人程度で残りの全て誠二達の様な渡世人や浪人達が乗っていたのだろうか、誠二達
は数合わせの為に乗せられた、すると本当の目的とは一体。
「誠二さん達はその後何をされていたのですか。」
「あっし達は鉄砲の撃ち方を習ったんです。」
「浪人達も鉄砲の撃ち方を教わっていましたか。」
「其れは無かったと思いますが、直ぐ配属って言ってましたんで。」
「工藤さん、浪人達は使い捨ての様に思うのですが。」
「私もその様に思います。
浪人達にすれば日頃の不満を一気に解消すべく何も考えずに突進し切り込んで行くと思います。」
「ではあっし達も同じだったんですか。」
「誠二さん、多分同じ様に使い捨てだと思いますよ、貴方達の中には幕府の侍達も奉行所の役人も同じ侍
だと、其れにもまして役人には今まで相当苦渋を味わされた人達も多く居るとおられるでしょうから、浪
人達とは別の意味で憎しみを持っておられると思いますからねぇ~。」
「源三郎様、オレ達も同じでしたよ、あのお奉行様は悪い様にはしないと言っておりましたが、やはりオ
レ達は都合良く利用されたんですか。」
「多分、同じだと思いますねぇ~、その奉行は有る意味でわざとらしく銀次さん達を逃し銀次さん達が逃
亡資金を持ち出したと流し、本当は奉行達が持ち逃げしたと考えれば話の筋道は合うと思います。」
「其れでオレ達には反対の方向に向かわせたんですか、う~んあの野郎、畜生め、探し出して叩き殺して
やりたいですよ。」
「まぁ~銀次さんの気持ちは私も分かりますが、でも其れはまず不可能でしょうからねぇ~、奉行になる
様な人物は頭が切れなければ出来ませんので、其れまで相当周到に進めていたのでしょうから。」
「そう言えば軍艦の中で変な話を聴いたんですが、海に放り出すとか。」
「工藤さん、軍艦の正規軍は百人もおらないと思いますよ、佐渡で金塊を奪い遠くに行ったところで誠二
さん達を海に落とせば全員が水死しますから、其れからは何処に行くのか分かりませんが何れかの王国に
でも行く計画だった思いますよ。」
「では金塊で異国の軍艦を購入する言うのは。」
「私は多分ですが嘘だと思いますねぇ~、何も知らない官軍の者達は計画を信用し、彼らの帰りを待って
要ると思いますが、残念な事に五隻の軍艦は海底に沈んだ事も知らないのですかねぇ~。」
「ですが、官軍は五隻の軍艦だけで終わるのでしょうか。」
「いいえ、其れは考えられませんねぇ~、今度は本当に幕府軍との戦を勝利する為に。」
「じゃ~源三郎様、オレ達も潜水船を造らないと。」
銀次は潜水船を造るのだと、一方でげんたは新しい潜水船を考えて要るが、一体どんな潜水船なのか、
げんたは何も言わず一人考えて要る。
銀次も潜水船を造ると思って要るが、源三郎の頭の中にはまだはっきりとした計画は無く、其れよりも
幕府の滅亡は近いと誰もが予想しておらず、其れと言うもの連合国とは高い山が有る様に、山の向こう側
からの情報は殆ど無く、世の中の変化を知らない為で有る。