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闇の帝国    作者: 大和 武
71/288

 第 44 話。 情報の共有。

「おい、あれは若しやご家中のお二人ではないのか。」


「うん、間違いは無い、大急ぎでご家老様に。」


「よし、オレが行くよ。」


 大手門の門番は城下をお城に大急ぎで向かって来る二人の若い家臣の姿を見かけ、大急ぎでご家老様に

報告に向かう。

 何時もなら大手門には控えの侍が要る、だが今はお城には一人の侍もいない、家臣の全員が山に向かっ

た為で有る。


「ご家老様、大変で御座います。」


「一体何が有ったんだ。」


「はい、今、ご城下からご家中のお二人が走ってお城の方に。」


「よ~し分かった、直ぐ殿にも。」


「えっ、私がでしょうか。」


「いいんだ、今城には誰もおらぬ、急げ。」


 門番はその足で執務室へと向かった。

 お殿様は源三郎が山に向かったその時から執務室から一歩も出ずに知らせを待って要る。


「お殿様、大変で御座います。」


「何が大変なのじゃ。」


「はい、今ご城下の方からご家中のお二人が走って戻って来られます。」


「よし分かった、余は此処に居るぞ。」


 門番は執務室を出、大手門へと走って行く。


「雪乃、雪乃を呼べ。」


「はい、私は此処に。」


「雪乃、今。」


「はい、私も聞こえておりました。」


「殿。」


「お~、お主は。」


「はい、先程お昼前で御座いますが、総司令を始め全員が頂上に無事到着され、今下山中で御座いまして、到着は夕刻近くになると申されておられました。」


「そうか分かった、其れで。」


「はい、総司令は雪乃様にもお伝えする様にと。」


「はい、承知致しました。


 殿様、私と腰元全員で入りますので、殿様のお世話は後回しになります。」


「雪乃、任せたぞ、余の事は捨て置け。」


「はい、では私は。」


「殿、何もお伝えは致しておりませぬが。」


「何を申しておるのじゃ、源三郎は雪乃に夕刻近くに着くので賄いの準備を頼むと申したのじゃ、其れが

源三郎と雪乃なのじゃ。」


 やはり雪乃だけの事は有る。

 その頃、源三郎達は山の中腹に差し掛かり。


「あっ、お~いみんな、ご城下が見えて来たぞ~。」


「わぁ~本当だ、だったら隊長の言ってた事は全部が嘘だったんだ。」


「さぁ~、さぁ~皆さん、此処からは安心して下さい、狼は殆どいませんからね。」


「えっ殆どって、だったら少しはいるんですか。」


「まぁ~時々ですが、其れも百頭前後ってところだと思いますがねぇ~。」


「まだ百頭もいるんですか、そんな恐ろしい事を源三郎様はよくもまぁ~平気な顔をして言われるんです

ねぇ~。」


 何時もながら源三郎は平然として要る。


「そうですよ、其れに我々も狼とは友達ですから。」


「えっ、まただ、オレは嫌ですよ、絶対に仮に一頭でも。」


「なぁ~んだ、お前さっきとは全然違うじゃ無いか、え~、さっきは一頭くらいだったっらって言ってた

と思うんだけどなぁ~。」


「えっ、オレがそんな事を言ったのかなぁ~、覚えて無いんだけど。」

 

元官軍の兵士達は今ようやく野洲のお城が見え、何故か心の底から安心した様子で馬鹿な話しで大笑い

をして要る。

 さぁ~いよいよだ段々と野洲の城下が近付き、その後、二時半程で城下に入った。


「あっ、源三郎様だ。」


「本当だ、えっ、だけど源三郎様の後ろは若しかして話で聞いていた官軍じゃないのか。」


「わぁ~其れにしても物凄い人数だ。」


「ねぇ~源三郎様一体何が有ったんですか。」


「あ~皆さん丁度良いところに、城下の皆さんで手の空いているお人が居られましたらお手伝いをお願い

したいのですが、宜しいでしょうかねぇ~。」


「分かりましたよ、お~いみんな源三郎様が大変だ、みんな手を貸してくれよ。」


 一人が言った途端とも言うべきなのか、野洲の城下では源三郎が困って要ると聞いた人達は直ぐに大勢

駆け付けて来る、其れが野洲では当たり前なので有る。


「皆さんは兵隊さんの荷物を手分けしてお城まで運んで欲しいのです。」


 城下の人達は一斉に元官軍の兵士達に近寄り。


「さぁ~オレ達に任せるんだ。」


「えっ、ですが。」


 官軍の兵士達は戸惑っている、其れは今までに無かった事で、家臣達からも荷物を奪い取る様な仕草だが家臣達は喜んでおり、これが野洲の、いや連合国なのだと言わんばかりで有る。


「ご家中の皆様方にはお疲れのところ大変申し訳御座いませんが、お城に到着次第連発銃と弾薬の整理と

他の荷物の整理をお願い致します。

 其れが終わりますれば執務室にてお待ち頂きたいのです。

 猟師さんと元官軍の皆さんは私と一緒に来て下さいね、では皆さん宜しくお願いします。」


 野洲の大広間に全員が入るのは無理だと思ったのだで有る。


「総司令、私達は先に戻りまして執務室の整理を始めたいのですが。」


「はい、では宜しくお願い致します。」


 城下の人達と家臣の全員がお城へと向かった。


 工藤の傍には中隊長達が集まり。


「工藤さん、これが理想の姿では無いでしょうか、総司令は命令では無く、どなたに対してもお願いをさ

れ、ご城下の人達はと言いますと、総司令がお困りだと言って直ぐにあれだけの人達が集まり、我々の荷

物全てをお城まで運ばれて行くのを見て、私は今本当に安堵致しております。」


「私も同じ気持ちですよ、我々の総司令部は幕府がどうのと申されておりますが、此処では幕府でも無け

れば、我々が聴いた新しい政府でも無く、何故か分かりませんが、私は総司令が築かれたと言われます連

合国に希望を託したいと、今思っておりますが、全てが理想通りには行かないとあのお方は分かっておら

れると思います。」


「そうですねぇ~、私も今同じ様に思いました。

 確かに総司令部の話しも理想的だとは思いますが、其れに、私も一部の部隊が略奪をしていると聞いて

おりますが、この国では考え方が全く違う様に思えるのです。

 総司令部は民衆の為だと言っておりますが、総司令は民衆の中でも特に農村と漁村を大事にと、其れは

我々とは違いますからねぇ~。」


「皆様方も野洲のお殿様にお会いすれば大変驚かれると思いますよ。」


「源三郎様、お殿様はどの様なお方で御座いますか。」


「う~ん、其れは簡単に説明は出来ませんねぇ~。」


 中隊長達はこの国では源三郎と言う侍の存在が大きく、其れは城下の人達はと言うと源三郎の為ならば、他の事を投げ出してでも源三郎を助けるんだと、それ程までに源三郎の影響力が大きく占めて要ると感じて要る。


「源三郎様がお戻りになられました。」


 大手門には源三郎の父でも有る、ご家老様と雪乃が待って要る。


「父上、只今、戻りました。」


「うんそうか、源三郎、よくやった。」


「源三郎様、お帰りなさいませ。」


 雪乃は深々と頭を下げたが、上げる事が出来ない。


「雪乃殿、大変ご心配をお掛け致し誠に申し訳御座いません。」


 源三郎も雪乃に深々と頭を下げた。


「源三郎、さぁ~殿がお待ちだ。」


「はい、ご家中の皆様方は執務室にて連発銃と弾薬の整理をお願いします。」


 大勢の領民が次々と連発銃と弾薬、其れに他の荷物を運び込んで行く。


「皆さん、本当に有難う。」


「源三郎様、今更何を言ってるんですか、オレ達は源三郎様の為だったらこんなの平気ですよ、なぁ~み

んな。」


「そうだよ、源三郎様、困った時が有ったらオレ達に言って下さいよ、何時でも飛んで来ますからね。」


「本当に有難う、皆さん気を付けて帰って下さいね。」


 領民達は手を振り、また城下へと戻って行く。


「猟師さんと元官軍の兵士さん達は今から私と一緒に来て下さいね。」


「総司令、何処に行かれるのですか。」


「あ~そうでしたねぇ~、執務室では皆さん全員が入る事が出来ませんのでね別の所に参りますので。」


 源三郎を先頭に猟師と元官軍の兵士達の全員が大広間へと向かった。


「皆様、全員で御座います、何卒よろしくお願い申し上げます。」


 賄い処では戦争の最中で、早朝浜の元太からは大量の片口鰯が届けられたので有る。

 雪乃が浜に出掛け元太に訳を話し、多分、明日の夕刻近くには大勢を引き連れ戻って来るだろうから何

とか小魚だけもと頼んでいたので有る。

 元太も雪乃の胸中を知り、一つ返事で今朝漁師達が届けてくれたので有る。


「雪乃様、全員で何人で御座いましょうか。」


「はい、元官軍の方々が五百名で、後は猟師さんが十数名で残りがご家中の方で御座います。」


「では六百名程で御座いますね。」


「はい、吉田様、皆様方、誠に申し訳御座いませぬ。」


「雪乃様がお一人で考える事では御座いません。


 この様な時にこそ、我々賄い処の腕前を見せる時で御座います。

 其れと誠に失礼かと存じますますが、雪乃様、加世様、すず様は源三郎様のお傍にお願い出来ないで

しょうか。」


「えっ、ですが私達もお手伝いを。」


「はい、勿論で御座いますが、私達賄い処の全員が雪乃様のお気持ちは十分に承知致しております。

 ですが源三郎様からどの様なお話しが有るやも知れませぬので、その時の為には雪乃様でなくてはなら

ないと、私よりも此処の賄い処の全員が申しておりますので。」


「吉田様、皆様方、誠に有難う御座います。


 では皆様方のお言葉に甘えさせて頂きます。」


 雪乃は賄い処の吉田を始め、女中達の気遣いが嬉しかった。

 確かに雪乃が源三郎の傍に居れば、源三郎も話がしやすいだろうし、源三郎も雪乃、加世、すずが居れ

ば無理を頼む事も出来るので有る。

 そして、雪乃と加世、すずは大広間へと向かった。


「源三郎、大儀で有った、全員が無事で戻って来たのが何よりじゃ。」


「殿、有難う御座います。」


 源三郎も犠牲者を一人も出さなかったのが何よりだと思ったので有る。


「其れで官軍の兵士は一体何人要るのじゃ。」


「はい、兵士が五百名で後は中隊長と小隊長で御座います。」


「では、全員と申すのか。」


「はい、ですが部隊の隊長は誠に残念では御座いますが、狼の。」


「何じゃと隊長一人が狼の餌食になったと、まぁ~其れも仕方有るまい、だが問題はこれからじゃから

のぉ~。」


「はい、先程も彼らは私の部下にさせてくれと申されまして、私は即答も出来ず、少し考えさせて頂きた

いと申して要るのですが。」


 殿様は正かと思った、元官軍の兵士と言っても、其れだけの大人数が源三郎の配下になるとは考えもし

なかったので有る。


「何じゃと、官軍の兵士全員が源三郎の配下にじゃと、う~ん何と大変な事になったのぉ~。」


「はい、私もこれは簡単に引き受ける訳には参りませんので。」


 其れでも源三郎の頭の中では既に考えは纏まりつつ有った。


「だが現実の問題としてじゃ、あの者達にも家族は有ると思うが、故郷に戻す事は出来ぬのか。」


「はい、其れも考えては要るのですが、直ぐには答えられないと思いますので、明日からでも話をしたい

と考えてはおります。」


 源三郎は誰も故郷には戻らないだろうと思って要る。


 数十日位か、其れ以上後になるか分からないが、あの現場に別の官軍が来るだろう、その時、骨だけの

死体が、其れも一人ならば誰が考えても部隊内で造反が起きたと判断するだろう、其れは全ての兵士が軍

を脱走したと解釈され、他の部隊に捕まれば銃殺刑が待って要る。

 兵士達よりも中隊長や小隊長ともなれば其れくらいの事は察しが付くはずだ、其れよりも全員がこの地

に残りたいと言うので有れば残す事も可能で有る。

 其れは野洲、いや連合国にとっても大きな戦力になる事に間違いは無い。

 だが現実の問題として野洲が五百名の兵隊を一手に引き受ける必要は無い。


「殿、私も少し考えを纏めたいと思いますので。」


「うん、其れが一番良いと思うぞ、だが彼らの考えも尊重するするのだぞ、分かったな。」


 やはり野洲のお殿様だ、源三郎の事だ最善の策を考えるだろうと分かって要る。


「殿、皆にお会いされますか。」


「そうじゃのぉ~、まぁ~顔だけでも見るとするかのぉ~。」


「はい、では父上もご一緒に参られますか。」


「そうだなぁ~、行くとするか。」


「権三、何も申すで無いぞ、全て源三郎に任せるのじゃ。」


「はい、勿論で御座います。」


 殿様とご家老様、源三郎の三人は官軍兵の居る大広間へと向かった。


「あっ、奥方様だ。」


「えっ、わぁ~なんて美人なんだ、源三、お前の言う通りだ、この世の人だとは思えんなぁ~、なんて綺

麗な女性なんだ。」


 兵士達は雪乃の美しさに見とれて口を開けたままで有る。


「皆様、少しお話しが御座いますが宜しいでしょうか。」


「はい、私達はどの様なお話しで聞かせて頂きます。」


 やはり工藤は隊長に相応しい人物で有る。


「今、賄い処で。」


「あの~奥方様。」


「私はね奥方様では御座いませんよ、貴方は昨日の。」


「はい源三と言います、今賄い処って言われましたが、賄い処って一体何ですか。」


「其れはねぇ~何処のお城でも同じ様に言うのですが、簡単に言えば台所の事ですよ。」


「なぁ~んだ台所の事をお城では賄い処って言うんですか。」


「はい、その通りですよ、其れでその賄い処では今皆様方の夕餉を作っておりますのでね、夕餉とは夕食

の事ですよ。」


 雪乃は聞かれる前に答えた。


「誠に申し訳御座いません、我々の為に。」


「いいえ、その様な事は御座いませぬ、源三郎様がお連れになられたお方は全てお仲間で御座いますので、其れに皆様方は何も食べておられないと存じましたので。」


「お~い、みんな奥方様がオレ達の為に晩御飯までも食べさせて頂けるんだって。」


「皆様方、まだ少し出来上がるまで掛かりますので、隊長様から順番に湯殿にお入り下さい。」


 又も源三が手を挙げたが。


「湯殿とはお風呂の事で御座いますので、其れとお着物ですが、今皆様方全員の着物が用意出来ますが、

隊長様方だけで申し訳御座いませんがお許しの程を、其れで下の物だけは用意して有りますので。」


「奥方様、私達にで御座いますか、ですがその様な事までも、其れに湯殿は殿様だけのものでは御座いま

せぬか。」


 やはり工藤は幾ら下級武士とは言え、お城の湯殿はお殿様専用だと知って要る。


「今日は特別で御座いますのでね、其れに我が殿は何も申されませんよ、ですから何もご心配されずに

ゆっくりとお入り下さい。

 今、着ておられますお着物は私達が洗いますので。」


「えっ、その様な事は私達が致しますので、軍服は生地も厚く、大変で御座いますので。」


「左様で御座いますか、では。」


 其の時、殿様とご家老様、源三郎が入って来た。


「殿様で御座います。」


「全員、起立、殿様に対し敬礼。」


 驚いたのはお殿様で、軍隊と言う組織は全く知らず一体どの様にすれば良いのか分からない。


「皆の者、ご苦労で有った。」


「皆さん、お座り下さい。」


 さすが源三郎だ咄嗟の判断で兵士達を座らせたので有る。


「此方が我が野洲のお殿様で御座います。」


「まぁ~源三郎余り硬く考えるで無いぞ、話しは先程源三郎から聴いた、良くぞ全員が無事で良かった。


 其れでじゃ後の事は全て源三郎に任せて有るので全ての事は源三郎とよ~く相談する事じゃ。

 我が連合国に置いては自らの気持ちははっきりと伝える事になっておる、何も申さずに後から色々と不

満を言う事は他の者達も迷惑するのじゃ、一人一人が納得するまで話し合う事になっておる、だが時には

多少の不満が有ったとしてもじゃ従わなければならない事も有る、その時には皆の為に辛抱しなくてはな

らぬぞ、だが我が野洲もじゃが、連合国では無用な命令は出さぬ、其れが連合国なのじゃ、まぁ~皆も今

まで大変な苦労をしたと思うが此処に残るもよし、故郷に戻る事にしても自らが決める事だと言う事だ、

答えは何時でも出す事は出来るので其れまではまぁ~ゆっくりと考える事じゃ、皆はよ~く源三郎と相談し決めれば良い、其れで雪乃手配は。」


「はい、全て終わっておりますので、殿、ですが今日は駄目で御座いますよ。」


「う~ん、じゃがのぉ~、余の分も少しは残して置いてくれよ。」


「はい、其れは勿論で御座います。」


 雪乃は何時もの様にニコッとすると。


「そうじゃ、皆に申して置くが、この城に居る時は決して雪乃に逆らうでは無いぞ。」


 お殿様もご家老様も笑って要る。


「殿、何を申されます、その様な事を申されますと私が困ります。」


「良いのじゃ、この城で雪乃に逆らうと首が飛ぶぞ、雪乃はのぉ~、抜刀術の達人じゃからのぉ~。」


 お殿様もご家老様も、其れに加世もすずも笑って要るが、工藤を始め元官軍の兵士達は殿様が何を言っ

ているのか全く分からずに笑う事も出来ないので有る。


「雪乃殿、良いでは御座いませぬか、事実では御座いますから。」


 源三郎までもが笑いながら言うが、雪乃は困ったと言う顔をして要るのでは無い。


「まぁ~暫くはのんびりとするのじゃ、源三郎、後は任せたぞ。」


「はい、承知致しました。」


 其れだけを言うと、殿様とご家老様は大笑いし大広間を出て行った。

 あの偵察隊以外の中隊長や小隊長、兵士の全員が余りにも型破りの殿様に唖然とし、何も言えず口を開

いたままだ。


「皆様、今、殿が申しました様に暫くはのんびりとして下さい。」


「あの~源三郎様、お殿様は何時でもですか。」


「はい、そうですよ、ですがねぇ~今日は何時もと少しは違いますがねぇ~。」


「奥方様、お殿様は何が残っていると申されたのでしょうか。」


「あれはねぇ~片口鰯ですよ、我が殿は何処に居られましても片口鰯を焼いて要る臭いがすると賄い処に

向かわれ、余の分はと申されますので。」


「えっ、お殿様が台所に行かれるのですか。」


「そうですよ、殿が傍に居られて食されても、誰も気にもしておりませんよ。」


「そんなぁ~、お殿様の食べ物はオレ達が聴いた話しですが、何時も毒見の後に食べるって。」


「この野洲では毒見は無いですよ、殿とご家老様が並んで食べておられますから、其れに時には傍に賄い

処のお女中と一緒の時も有りますからね。」


 工藤以外の中隊長や小隊長も下級武士だが、殿様が賄い処で食事をされるとは聞いた事が無いと言う顔

をして要る。


「奥方様、私も侍の端くれで御座いますが、今まで殿様が賄い処で食されているとは全く聞いた事が御座

いませぬが。」


「はい、其れが普通なのでしょうが、この野洲では殿は何時もお一人で食され、誰も話す者がおらずで寂

しいと申されまして、其れからだと思いますが。」


「う~ん、ですが今の私には全く理解出来ません。


 総司令、殿は何時もどちらに居られるのでしょうか。」


「そうですねぇ~、私が居ります執務室で一日の大半は、たまにおられない時は雪乃殿と話をされておら

れますよ。」


「えっ、ですが、殿様には奥方様が。」


「はい、勿論で御座いますが、雪乃殿が居られなければ、加世殿かすず殿を呼ばれますので。」


「なぁ~んだ、お殿様ってやっぱり男なんだなぁ~。」


「おい、源三、一体どう意味だ。」


「だって、こんなに綺麗な女性と話が出来るんだから、オレはお殿様が羨ましいよ。」


「源三さん、その話を始めますと何日も掛かりますからね。」


「はい、済みませんです。」


 源三は何故だかやけに素直に聴いた。


「皆様、今後の事に付きましては明日からでも宜しいので、食事の後は湯殿で長い間の疲れを取って下さ

いね。」


「総司令、何から何まで誠に申し訳御座いませぬ、私は何と御礼を申し上がて良いのか分かりませぬが、

皆に代わりまして、総司令、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。」


 工藤は源三郎に手を付き頭を下げると、元官軍の中隊長、小隊長、そして、兵士の全員が頭を下げた。


「工藤さん、私は出来る限り皆様のご意向を聴きまして、最大限の善処が出来る様にと考えてはおります

ので、私こそ宜しくお願い致します。」


 源三郎も改めて工藤と兵士の全員に対し頭を下げたので有る。


「私は次に参る所が御座いますので、何か足りない物が御座いますれば雪乃殿に申し付けて下さい。」


源三郎は大広間を出ると執務室へと向かった。

 その頃、執務室でも大変な騒ぎになって要る。


「なぁ~、一体この連発銃は何丁有るんだろうかなぁ~。」


「う~ん、そうだなぁ~一千丁は有ると思うんだが。」


「じゃ~十丁づつ並べて調べるとするか。」


「そうだなぁ~、其れと弾薬の数も調べ無ければならないからなぁ~、大変だよ。」


 家臣の全員が執務室に連発銃を並べ、弾薬も弾倉に入っており、其れが一体何発有るのかも全く分から

ない、中には弾が入っていない弾倉も有り、全ての弾倉を開け調べる事になった。

 その他にも持って来た物資が何か分からず、其れは官軍兵が全てを撤収すると言うので中味まで調べる

必要が有る。


「だけど連発銃って物凄いなぁ~、我々の知って要る火縄銃とは全く違う作りなんだからなぁ~。」


「うん、そうなんですよ、私もさっきから見て要るんですが、其れよりも連発銃って一体何処で作られた

のでしょうかねぇ~。」


「だけど、火縄銃で一発撃って次の弾を込め撃つまでに連発銃だったら一体何発撃てるんだろうか。」


「う~ん、其れは私も全く想像が出来ないですよ。」


「まぁ~仮にですよ、四発も五発も撃てるとなれば大変な脅威ですよねぇ~。」


「確かに申される通りだと私も思いますよ、其れよりも官軍は一体どれだけの連発銃を持って要るので

しょうか。」


「う~ん、其れにしても考えるだけでも恐ろしいですよ、ですが官軍は我々が連発銃を手に入れた事は知

らないのですよねぇ~。」


「そうですよ、若しもですが、我が連合国が連発銃を持って要ると知れば簡単には攻撃は出来ないと思う

んですが。」


 確かに官軍も連合国が一千丁と数万発は有るだろと思われる弾薬も手に入れたとは全く知らない。

 だが果たして一千丁の連発銃だけで官軍に勝てるのだろうか、連合国は数百年間も戦の経験が無く、其

れにもまして未知の官軍と言う新しい軍隊を知らずに戦が出来るので有ろうか。


「大変、お待たせて致しました。


 皆様の夕餉をお持ち致しました。」


「えっ、もうその様な刻限なので御座いますか。」


「皆様、わぁ~一体これは何ですか。」


 賄い処の女中達が驚くのも無理は無い。


 執務室には所狭しと連発銃が並べられ、他にも大量の物資が置かれているので有る。


「あ~之ですか、これはねぇ~異国で作られました連発銃と言う物ですよ。」


「でも一体何処から持って来られたのですか。」


「これはねぇ~官軍の連発銃でして、今此処に有る物全てが、今大広間に居られる元官軍の兵士達の物で

して。」


「分かりましたが、でも一体何処に置けば宜しいのでしょうか。」


「申し訳御座いませぬ、直ぐに片付けをしますので少しお待ちの程を、皆様お手伝いをお願いします。」


 家臣達は食事の事などは全くと言って良い程にも忘れていたのだろうか、其れにしても一体何丁の連発

銃が有るのか、更に部屋の隅に置いた荷物が何かも分からないので有る。


「皆様、大変なご無理をお願いを致しまして誠に申し訳御座いませぬ、皆様のご協力でどなたにも怪我も

無く、全員が無事で野洲に戻って参る事が出来ました事を、源三郎心より御礼を申し上げます。」


 源三郎は改めて家臣の全員に対し両手を付き頭を下げた。


「総司令、頭を上げて下さい、私もですが、此処に要る全員が願い出た事で、私達自身が安堵致しております。」


 家臣達も本当に安堵した表情で、家臣も猟師も、其れに官軍の兵士達の全員が無事で野洲に戻られたと

言う事実に対してで有る。


「皆様、お食事の最中に申し訳御座いませぬが、私は今回の一件を我が野洲だけのものとせずに、他の国

にもお知らせし、官軍の隊長、中隊長、小隊長達が知る官軍の事に付いて聴きたく思っております。


 其れで私は今から書を認めますので、明日、菊池、上田、松川、山賀の各国に送り届けて頂ければと

思っております。

 皆様方が大変なお疲れだと言う事は重々承知の上で御座いますが、私達の知らない官軍の情報を得る事

が出来ると思いますので、何卒宜しくお願い致します。」


「総司令、私が参りますので。」


「私もで御座います。」


「私も参りますので。」


 と、瞬く間に源三郎が認める書を届けると言う家臣が名乗り上げたので有る。


「有難う、御座います。


 では本日中に認めすので、お食事中、誠に申し訳御座いませぬ、では。」


 源三郎は其れだけを言って執務室を出た。


 その頃、大広間でも動きが有った。


「皆さん聞いて下さい、食事が終わりましたら各小隊の数人で食器を運んで下さい。」


「其れは私達が片付けしますので。」


「奥方様、我々は昨日まで官軍の軍隊で、我が隊では各小隊の数人で片付けをする事になって。」


「ですが、其れでは私達が。」


「奥方様、其れに我々が何もせずに食事だけを頂く訳には参りませんので。」


「はいよ~く分かりました、では私が、そうですねぇ~加世様とすず様、ご案内をお願いします。」


「はい、承知致しました。」


「其れと残った者は、先程運ばれた物資の中に毛布が有りますので、一度ほこりを落として下さい。」


「誠に申し訳御座いません、皆様方全員の布団が御座いませんが。」


「奥方様、我々ならば大丈夫で御座います。


 我々には毛布が有りますのでご心配には及びません。」


「今、毛布と申されましたが。」


「はい、官軍の兵士の全員に支給されております物で、簡単に申しますと寝る為の布団の代わりで御座い

ます。」


「官軍ではその様な物までも有るので御座いますか。」


「はい、兵士の全員に支給されております。」


 雪乃は今まで毛布と言う寝る為の物が有るとは知らなかった。


「隊長様、申し訳御座いません。」


「奥方様、私は隊長では御座いませぬので、其れに何も出来ませぬので。」


 元官軍の兵士達は小隊事に別れ、食器を運び、残った兵士達は毛布を取りに行った。

 その頃、げんたと親方達は何も知らずの野洲の城下へと戻って来たので有る。


「親方、オレ、久し振りに城に行きたいんだけど。」


「げんた、わしらもだ銀次さん達も行きますか。」


「はい、勿論ですよ。」


「だけどあの殿様って本当に度胸が有ると思うんだ、あんなに狭い洞窟に入って行くんだからなぁ~。」


「うん、オレも呆れたよ、其れに一緒に行ったお侍もだよ。」


「ねぇ~銀次さん、野洲の洞窟だって最初に入った時はどうだったの。」


「いゃ~本当は恐ろしかったんだ、だけど浜の元太さん達が一緒だったんで平気で、まぁ~オレとしては

みんなの手前平気な顔をしてたんだ。」


「なぁ~んだ、じゃ~オレと同じなんだ。」


「だけど正か、オレは松川から上田もで行けるなんて思って無かったんだぜ。」


「親方、オレはあの洞窟って利用出来ると思うんだけ。」


「其れはわしらが決める事じゃ無いと思うんだ、源三郎様に話してからだと思うんだ、だけど、げんたの

事だからあの洞窟に入る潜水船を考えて要るんだろう思うんだ、だけど今度は大変だと思うんだ。」


「うん、其れはオレだって分かってるんだ、でもなぁ~野洲の洞窟だけじゃ、これから造る潜水船は入ら

ないと思うんだ。」


「なぁ~其れだったら、先に野洲に有る他の洞窟も調べてはどうかなぁ~。」


 銀次は正か自分が調べる事に成るとはこの時には考えもしなかったので有る。


「野洲の洞窟も調べるのか。」


「うん、オレはその方が早いと思うんだ。」


「だったら、銀次さんが調べるのか。」


「オレは行かないよ、漁師さんにお願いするんだ。」


「なぁ~んだ、銀次さんって洞窟が怖いんだ。」


「だって、オレは今でも時々あの島の洞窟を思い出すんだ。」


「あの島って、何処の島なんだ。」


「うん、其れがなぁ~佐渡の島なんだ、あの島の洞窟って中が本当に狭いから、其れに野洲の洞窟の様に

補強材も無いし、其れに中が岩じゃ無いから、何時も崩れて、オレの知ってだけでも五十人以上が生き埋

めで死んでるんだ。」


「多分、岩だとは思うんだ、でもなぁ~。」


「まぁ~あんちゃんに聴いて見るよ。」


 話の途中に大手門に着き。


「あんちゃんは居るのか。」


「お~これは、げんたさんに皆さんも一緒で、今は多分執務室に居られると思うよ。」


 大手門の門番もげんたや大工さん達が久し振りなのを知って要る。


「うん、分かったよ、じゃ~なぁ~。」


 げんたは何時もの調子で源三郎の居る執務室に向かうのだが、其処には元官軍の兵士達が大勢で

荷物を取りに来て要る。


「あんちゃん、えっ。」


 げんたが部屋に入り何時もの様に源三郎の名を呼ぶと、執務室には大勢の元官軍の兵士達がいた。


「技師長、久し振りですねぇ~。」


「あんちゃん、一体どうしたんだ。」


 げんたもだが大工達も銀次達も大変な驚き様で声に出ず、其れは元官軍の兵士達も同じで、突然、全く

知らない大勢の人達が入って来て、その一人が源三郎に対し馴れ馴れしい言葉使いと態度に声も出ないの

で有る。


「まぁ~その話は後にね、其れよりも親方も銀次さん達も皆さんがご無事で何よりでした。」


「なぁ~あんちゃん、松川と上田が、あっ。」


「技師長、この人達ならば大丈夫ですよ、五百名近くの官軍兵の人達ですがね、全員が官軍を脱走されま

してね、先程野洲に着いたばかりなのですよ。」


「えっ五百人が官軍を脱走したって、源三郎様、何でこんなにも大勢が脱走出来たんですか。」


「其れはねぇ~。」


 源三郎が説明すると。


「えっ、あんちゃんが高い山の向こう側に行ったのか。」


「はいその通りですよ、野洲の猟師さんと家中の皆様方全員ですね。」


「だけど、高い山って狼の大群が要るって。」


「はい勿論おりますよ、ですがね猟師さん達が安全な所から行かれましてね、全員が、あ~そうでした、

お一人だけがどうしても狼とお友達になりたいと申されましてねぇ~。」


 源三郎は何時もの様に平然と冗談で言うのだが。


「そんなぁ~、誰が狼と友達になりたいって、オレはねぇ~絶対に嫌だからね、絶対にだぜ。」


「勿論、分かっておりますよ、其れよりも皆さんはお疲れだったと思いますのでこれからの数日間はのん

びりとして下さいね。」


「源三郎様、わしと銀次さんが残りますので、他の者は少し休んでから帰らせますので。」


「はい、其れは勿論ですよ、では何か楽しい事でも有った様ですねぇ~。」


「なぁ~あんちゃん、松川の若殿って物凄く度胸が有るんだぜ。」


 松川の若殿とは竹之進の事で、今では松川の政は殆どを竹之進が行なって要る。


「へぇ~若殿がですか。」


「うん、そうなんだ、松川の浜に有る洞窟を調べるって。」


 げんたはその後、竹之進が入った洞窟の話をすると。


「では松川から上田へ抜ける洞窟が有ると、其れでは上田でも大騒ぎになったのでは。」


「うん、其れはもう大変だったんだ、其れでねオレはこの洞窟を利用したいんだ。」


 源三郎には直ぐに分かった、参号船の造り方を変え、上田から松川まで続く洞窟に入れるのだと。


「げんたはその洞窟に潜水船を入れるつもりですね。」


「うん、そうなんだ、だけどオレは野洲の浜に有る他の洞窟も調べて欲しいんだ。」


 げんたは山賀には浜が無い、其れは山賀の領民が避難する場所が無いと、其れを他の洞窟を調べる事で

山賀の人達も避難が出来ると考えたので有る。


「げんた、分かりましたよ、じゃ~銀次さんにお願い出来ませんかねぇ~。」


「えっ、オレがですか。」


 銀次はあの時余計な事を言ったと後悔したが、既に後の祭りで有る。


「なぁ~銀次さん頼むよ、浜に帰ったら元太あんちゃんにも頼むから。」


「う~ん。」


 銀次は腕組みをして考え込んで要る。


 だが源三郎は何故銀次が直ぐに返事が出来ないのかは大よその見当は付いている。


「銀次さん達が何故洞窟に入りたくないのか、私も大よその見当は付いておりますよ、ですがね浜の洞窟

はあの島とは全く違いますよ、私としましても少しでも多くの洞窟が有れば其れだけ多くの領民を避難さ

せ助ける事が出来るのですが、如何でしょうか引き受けて頂け無いでしょうかねぇ~。」


「源三郎様、分かりましたよ、オレ達は別に洞窟が恐ろしいとは思って無いんですよ。」


「はい、勿論ですよ、私もね其れは十分に理解はしておりますのでね、別に直ぐにとは申しませんのでね、銀次さんは浜の元太さんた達と相談して下されば良いと思っておりますのでね、宜しくお願いします。」


 銀次も浜の元太の協力が無ければ洞窟に行く事は出来ないと分かって要る。


「其れで親方、如何でしょうか参号船の方は。」


「源三郎様、わしは技師長が考えて要る方法で造りに掛かりますので、其れで今銀次さん達には先に原木

の調達をお願いしたいんですよ。」


 銀次達は親方が先に原木が要ると言ったので一瞬ほっとしたのか。


「はい、其れはオレ達も分かってましたので明日からでも山に入るつもりだったんですよ。」


「まぁ~其れよりも、銀次さん達も親方達も弐日か参日は休んで欲しいのです。


 皆さんのお気持ちは私としましても大変嬉しいのですが、身体を休める事も大切だと思いますよ。」


「源三郎様、わしらも少し休みますんで、銀次さん、まだ材木は有りますので、其れに大工達もゆっくり

とさせたいので。」


「親方、分かりました、オレも仲間と相談してからにしますんで。」


「まぁ~お二人も大変だとは思いますが、先程も見られたと思いますが、元官軍の兵士達からも多くの話

が聴けると思いますので、私は官軍の動きをこれからは重要だと考えておりますのでね、其れも含めてな

ので何も急ぐ事は有りませんので。」


「源三郎様、じゃ~わしらは潜水船を多く造る事に成るんですか。」


「親方、まだ先の事は分かりませんが、高い山の向こう側に官軍が来るのは間違いは無いと思います。

 私はあの高い山から我々の連合国に攻めて来るには猟師さん達の協力が無ければ越える事も出来ないと

思うのです。

 私は今回行って初めて分かりましたよ、我々地元も人間でも大変ですから、幾ら最新式の連発銃有ると

言っても、狼の大群は何時襲って来るかも分からないのですよ、まぁ~このお話しは後日にしますが、親

方にも大変なご無理を申しますが、宜しくお願い致します。」


 源三郎は、今回五百名以上の官軍兵が来たが、彼らは幕府軍を追跡していた。だが官軍の中ではこの山を越せば海岸に沿って行けると情報が有り、その情報の出所は分からないが陸を行くよりも海で佐渡に行く事の方が余程簡単で有ると。

 其れよりも官軍に佐渡まで行かれる事は何としても阻止しなければならないので有る。


「まぁ~今夜は此処に泊まって下さいね、明日、お話しが有りますので、其れとご紹介したい人達がおら

れますのでね。」


「あんちゃん、さっきの官軍の。」


「そうですが、其れよりもあの人達に貴方方を紹介しなければなりませんのでね、其れと私は今から書状

を認め無ければなりませんのでね。」


「なぁ~あんちゃん、ねぇ~ちゃんは。」


「大広間か、いや今頃ならば賄い処やも知れませんが、今日は大変な忙しさでしてね。」


「うん、じゃ~オレは、えっ、だったら何処に行けばいいんだよ。」


「そうでしたね、どなたかお参人さんをお連れして下さい。」


 げんたと親方、銀次の参人は家臣の案内で今日お城に泊まる別の部屋へと向かった。


 源三郎は菊池の高野、上田の阿波野、松川の斉藤、山賀の吉永に対し、官軍兵五百名と連発銃を大量に

受けた事を簡単に書き家臣に渡し、明日の早朝向かう様に指示を出し、その後、源三郎は考える事にした

ので有る。

 元官軍の兵士達は故郷に帰る事は難しいだろう、だが五百名の官軍兵全員を野洲だけで受け入れるのは困難だ、其れに連合国も丁度五か国有り、各国には百人づつを受け入れて貰えれば都合が良いと、だが、其れよりも官軍兵の気持ちを考えねばならないのだと。


「源三郎様。」


 雪乃がお茶を持って来た。


「お茶ですか、有難う。」


「源三郎様、如何なされましたのでしょうか。」


「ええ、実は五百名の官軍兵の事で考えて要るのですが。」


「あの方々の処遇ですね。」


 やはり雪乃も考えていたのだろうか。


「野洲で五百名全員を受け入れるともなれば、色々と問題が生じるのではないかと考えて要るのですが

ねぇ~。」


「源三郎様、私ならば簡単に考えまして、連合国も丁度五か国御座いますので、各御国に百名を受け入れ

て頂ければ良いのでは御座いませんでしょうか。」


 やはりだ、雪乃も同じ考えで有る。


「私も同様に考えておりましたが、問題は元小隊長で本当は隊長だと言われて要る工藤さんと申されます

お方の事で、今も其れを考えて要るのです。」


「源三郎様、私ならば野洲に残って頂きます。」


 雪乃は源三郎が工藤と言う人物は野洲で引き受けたいのだろうと思って要る。


「雪乃殿、有難う。」


「私もそのお方を大広間で見ておりましたが、皆様方の信頼を受けておられると感じて要る様にも思えるので御座いますが。」


「いゃ~雪乃殿、大変助かりましたよ、五百名もの兵士を束ねると言うのは簡単では有りませんから。」


「はい、私も軍隊と言う組織の事は全く知りませぬが、あのお方ならば源三郎様の御考えを理解して下さ

ると思います。」


 雪乃は大広間での動きを見ていたのだろう。


「雪乃殿、数日間は大変なご無理を掛けますが、元官軍兵は我々に取りましても重要な戦力になると考え

ておりますので、宜しくお願い致します。」


「源三郎様、私は何も出来ませぬが、少しでも源三郎様のお役に立てるならばどの様な事でも申し付けて

下さいませ。」


「雪乃殿、有難う。」


「では、私は一度戻りますので。」


 雪乃の助言で源三郎は最終的に決断したので有る。

 各国に部隊を引き受けて貰う事になるだろうが、まだ全てが決定したのでは無い。

 そして、明くる日早朝、源三郎から書状を預かった家臣は各国に向かい馬を飛ばして行く。


「総司令。」


「はい、何か。」


「連発銃ですが。」


「何か分かりましたか。」


「最初に元官軍兵が持って来られましたのが五百丁で、其れとは別に一千丁が持ち込まれております。」


「えっ、一千丁もの連発銃が持ち込まれたのですか、其れで弾薬は。」


「はい、これが大変な量なので、まだ全部が数え切れてはおりません。」


 では一体何発の弾薬が入って要るのだろうか、全部で千五百丁もの連発銃と、まだ正確には分からない

が数万発は有るだろうと源三郎は考えたので有る。

 これは官軍 にとっては大きな失態では無いのか、一千五百丁もの連発銃と数万発の弾薬が盗まれ、更に五百名もの兵士が脱走した、例え脱走で無かったとしても五百名もの兵士が幕府軍に加わると事にでもなれば官軍としては、この先何処で元の見方から攻撃を受けるやも知れないので有る。

 だが、官軍はまだ何も知らないだろう、仮に知ったとしても高い山の向こう側に連語国が有る事も、まして、その連合国に五百名もの兵士が逃げ込んだのか、其れとも捕虜になったのか、今は、調べる事も出来ないだろうと、源三郎は考え、其れではと、げんたに親方、銀次を元官軍兵の居る大広間に連れて行くので有る。


「なぁ~あんちゃん、何か大事な話しでも有るのか。」


「今日はねぇ~、五百人の元官軍兵に会って頂きますのでね。」


「源三郎様、何でそんな大勢の官軍兵が野洲に居るんですか。」


「まぁ~、まぁ~その話は何れ日を改めて説明しますので。」


 げんたも銀次達も訳が分からない、彼らが山賀で若様、松之介と城の北に有る空掘りに設置する工事の

相談をする為に野洲に戻って来たので有る。


「さぁ~皆さん入りましょうか。」


 源三郎達が大広間に入ると、元官軍兵達は中隊ごとに別れ、何やら相談の最中で有った。


「総司令、何かご用事でしょうか。」


 工藤も正かこんなにも早朝から源三郎が来るとは思わなかったのだろう、一瞬驚いた表情だ。

 源三郎の後ろからはげんたに親方、銀次の三名が一緒で一体何が有るのかも分からなかった。


「工藤さん、紹介しますね、彼はげんたと言いまして、我が連合国の技師長で、その隣が親方と言いまし

て大工の棟梁です。

 そして、その隣が銀次さんと言いましてね、げんた技師長、大工さん達のお手伝いをお願いしておりま

して、九十名の、まぁ~言葉使いは悪いですが、親分だと思って下さい。」


 源三郎がげんた達の紹介を始めると、工藤の傍には、中隊長、小隊長達が並び、その後ろには元官軍兵

が整列して聴き始めた。


「総司令、今ご紹介頂きましたが、私は全く理解が出来ないので御座いますが。」


「其れは申し訳有りませんですねぇ~、実は我が連合国は何も戦を目的として連合国になったのでは有り

ません。


 では、何故連合国になったのか其れまでの経緯を簡単にお話ししますので。」


 源三郎は小国が生き残りを掛ける為に連合国を誕生させたと話すと。


「やはり同じでしたか、我々も最初は幕府の圧政に対抗する為、官軍と言う軍隊を創設したのですが、途

中から一部の部隊が最初の目的を忘れたのです。」


「其れは大変だったと思いますねぇ~、ですがそのお話しは日を改めましてお伺い致しますので、これか

らお話しする内容は幕府は勿論、貴方方官軍も知らないと思いますが、私は皆さんを信用しお話しを致し

ます。

 其れで今紹介しました技師長は我が連合国には一番の宝物でしてね、その技師長が数年前に提案した船

が有ります。

 その船とは潜水船と申しまして海に潜る船で御座います。」


「えっ、船が海の中に潜ると申されました様に聞こえたのですが。」


 工藤もだが大広間に要る元官軍兵達は今まで聞いた事が無い潜水船と言う海の中に潜る船を造ったと聴

き、其れはもう大変な驚き様で、中隊長や小隊長達も含め全員が声も出ない程の表情をして要る。


「はい、間違いは有りませんよ、技師長が考案し此方の親方を中心とした大工さん達が造られたのです。


 その船を造っている現場と言うのが、海の中に有る洞窟でしてね、此方の銀次さんを中心とした総勢九

十名の人達が洞窟内で潜水船を造る為の現場を造って頂いたのです。」


 余りにも突然な話しで元官軍兵の殆どが口を開け唖然とした表情をしている。


「あの~宜しいでしょうか。」


「はい、勿論、宜しいですよ。」


「わしも元は漁師なんですが、船が海の中に潜るって、そんな話し今までに聴いた事が無いので頭の中が

混乱してるんです。」


「うん、オレもだ、だって船は海の上に有るんでしょう。」


「まぁ~ねぇ~、皆さんが驚かれるのも無理は有りませんがね、何れの機会を見て皆様方全員に本物の潜水船をお見せしますが、その前に何故潜水船を造ったのかをお話しします。

 実は私が之とは別の人から聴いたのですが、官軍は軍艦を数隻造り大勢の兵士を乗せ、佐渡の金塊を奪

い、異国から軍艦を購入すると言う話しでしてね。」


「総司令、実は私も司令部でその様な話しを聞いた事が有ります。」


「工藤さんも聞かれたので有れば軍艦を造ると言うのは本当だと言う事ですねぇ~、其れで私は何として

も軍艦を佐渡に行く事を阻止したいのです。」


「総司令、ですが相手は軍艦で、其れに私が聴いた話では最新式の大砲を外国から買い入れ、軍艦も今ま

でよりも大型だと。」


「私はその話も十分に承知致しております。


ただ、幾ら最新式の軍艦でも乗組員の食べ物は補給しなければなりません。 

 其れで私が危惧しておりますのは、松川から菊池までの浜に上陸し、食料を略奪する事です。

 彼らも官軍兵ですが人間ですので食べ物と飲み物が無ければ、其れに幾ら最新式の軍艦でも動かすのは

全て人間で、その人間が突然豹変し、食料を略奪した後に浜の女性を、いや農村でも城下でも同じで犯す

事も考えなければならないのです。」


「隊長、オレもその話は聞いた事が有りますよ、故郷を捨て数十日、毎日、男ばかりの顔を見て要ると、

日頃どんなに優しそうな顔をしていても農村の女を見ると犯して殺したと。」


「その話はわしも聞いた事が有るよ、だけどわしらの部隊ではそんな卑怯な者は一人もおりませんよ。」


「総司令、我々の部隊ではその様な事は決して致しておりません。」


「工藤さん、勿論、貴方方のお話しは嘘だとは申しておりません。


 ただ今の話は若しもと言う話で、ですが其れが現実になるやも知れないのです。


 私は仮に相手が官軍で有ろうと、幕府軍で有ろうと、その様な略奪や女性を犯すと言う事を決して許す

事は出来ないのです。」


「総司令、ですが一体どの様な方法で軍艦を阻止されるおつもりなのでしょうか。」


「工藤さん、其れは実に簡単でしてね、海中から軍艦の後部に近付き舵を壊せば軍艦が不能になると思う

のですがねぇ~。」


「では舵を破壊し航行不能にさせるのですか。」


 工藤は驚くよりも呆れた、其れは余りにも無謀だと思うので有る。

 相手は軍艦で、其れに見張りも大勢おり、軍艦に近付く事事態が自殺行為だと。


「総司令、余りにも無謀な作戦で、其れでは自殺行為だと、私は思うのですが。」


「工藤さん、其れに皆さん、自殺行為だと言われのは十分に承知致しております。


 ですが我々には官軍や幕府軍に対抗するだけの武器が無いのです。」


 さぁ~これからが源三郎の芝居だ、まだ工藤達からは正式に連発銃を譲ると言う話も聞いておらず、今、源三郎は武器が無いと言った、果たして工藤は源三郎の考えた通りの答えを出すのだろうか。


「総司令、我々は昨日も話しておりましたが今の我々には帰る所も無いのです。


 其れで我々としましては、何とかこの地に残して頂け無いかと、其れで私の方からお願いに上がる所存

でした。」


「えっ、其れは皆様方全員のご意見でしょうか。」


「はい、今の話に関しましては私から話を進めたのでは御座いません。」


「では皆様方からの話しなのでしょうか。」


「はい、その通りで御座います。」


 何と言う事だ、今から源三郎が話をしなければならないと考えていたのだが、其れが、正か工藤から話

を出されるとは。


「工藤さん、私はそのお話しをさせて頂く為に寄せて頂いたのです。

 では皆様方全員のご意思だと申されるのですね。」


「はい、我々全員が総司令の部下になる事を望んでおります。」


「では工藤さん、連発銃は皆様方全員の武器だと思うのです。」


「総司令、其れも全てお任せ致します。」


「分かりました、其れでは今からもう少し詳しい話をさせて頂きますので。」


 源三郎は現在連合国内で行なわれている工事の事も詳しく話し、今日の早朝、各国に向け書状を届けさ

せた事など色々と話した。


「先程も申しました様に、我が野洲では技師長が中心となり、潜水船を造っております。


 其れで工藤さんにお願いが有るのですが。」


「総司令、我々に出来る事ならば申し付けて下さい。」


 源三郎は話を一気に進める事にした。


「では申し上げます、今皆様方は五百人の兵士がおられますが、我々連合国も丁度五か国なので、宜しけ

れば各国に一中隊が行って頂ければと、ですがこの話しはまだどの国とも致しておりませんので。」


「総司令、我々を軍として考えて頂けるので有れば、各国に一個中隊を駐屯させると言う考え方は軍隊で

は普通の考え方なので、我々としましては喜んで行かせて頂きます。」


「ですが今のお話しは強制的では有りませんので。」


「はい、勿論、承知致しております。


 では今から全員に聴きますが、各国に駐屯する事に賛成の者は手を、いや参加をしたくないと言う者は

手を挙げて下さい。

 私は一切強制は致しませんので、全て個人の判断に任せます。」


 だが誰一人として手を挙げる者はおらず。


「総司令、御覧の通りで、全員が参加を希望しております。」


「皆様方、宜しいのですね。」


「源三郎様、オレは命を助けて貰ったんですよ、だから今度はオレが源三郎様をお守りしますので。」


「またかよ、なぁ~、源三、何でお前ひとりが目立つんだ、オレはお前よりも先に決めてるんだぜ。

 源三郎様、オレは戦は大嫌いだ、だけど源三郎様は此処の領民の為だって一生懸命になられてるのをオ

レもお手伝いしたいんですよ。」


「そうだ、オレもだ今頃下手に故郷に帰ると、家族もだけど村の人にも迷惑が掛かると思うんだ、其れだったら幕府軍との戦で戦死した事にすればいいんだ、その方が家族も諦めると思うんだ。」


「そうだなぁ~、其れに官軍に入ってもう何年にもなるから、今頃はオレの家族も戦死したと思ってるだ

ろうしなぁ~。」


「工藤さん、私は皆さんにお話しをする前に四カ国の殿様に書状を送ったのですが、後日、各国からは殿

様と数人の侍が野洲に来られますが、其の時に改めてお聞きしますので、其れと故郷に帰らずとも、連合

国では農業や漁師さんなど他の仕事に就きたいと思われるので有れば申し出て頂ければ宜しいかと存じま

す。」


「総司令、其れで、先程申されました連発銃ですが、我々が駐屯させて頂けるならば、我々としましては、五百丁と弾薬を頂ければ十分で残りの銃に付きましては、全て総司令にお任せ致します。」


「ですが、皆さんは了解されておられるのですか。」


「はい、勿論で御座います。


 私は代表としてお話しをさせて頂いておりますので。」


 其の時、最初に菊池、上田、松川の殿様と家臣が到着した。


「総司令、山賀以外の殿様と高野様達が到着されました。」


「そうですか、では此方の方にお通しして下さい。」


「はい、承知致しました。」


 その直ぐ後に、菊池の殿様や高野達が入って来た。


「源三郎殿、お~これは。」


「はい、五百名の元官軍兵と中隊長、小隊長、そして、現在の隊長で工藤さんと申されます。」


「全員起立、敬礼。」


 元官軍兵達は統制の取れた敬礼をし。


「全員、直れ、よし座れ。」


「源三郎様、大したものですねぇ~軍隊と言うのは。」


「はい、私も驚いております、其れで若殿、若様は何時頃に。」


「はい、今頃は上田を通り、間も無く到着かと。」


「工藤さん、後は山賀の若様とご家老様だけですので、話しを進めさせて頂きますが、宜しいでしょう

か。」


「はい、全て総司令にお任せ致します。」


「其れでは、菊池様、上田様、松川様、私が書状に認めました通りで御座いますが、先程話しが急展開し、今五つの中隊が有り、各中隊は百名でその中隊を各国に駐屯すると申されたので御座いますが、私としましては強制はせずに、兵士個人の意見を尊重したいと考えておりましたが、先程の話で全員が駐屯して下さると言う事に決まりましたが、まだ、皆様方にお話しをせずに決めさせて頂きました。

 其れで皆様方からのご意見をお聞きしたいと思うのですが如何でしょうか。」


「源三郎殿、書状では兵士の殆どが侍ではなく農村や漁村から来られて要ると、私としましては農業や漁

師になられても良いかと。」


「総司令、宜しいでしょうか。」


「はい、勿論で御座いますよ。」


 源三郎は工藤が何を言いたいのか分かっていた。


「私は工藤慎太郎と申します。

 確かに中隊長、小隊長達以外の兵士全員が侍では御座いません。

 殆どが農村と漁村からで御座いまして、私も出来る事ならば、元の仕事にとは考えては要るのです。

 全ては本人達の意見で私は何も強制は致してはおりません。

 我々としましては中隊として各国に駐屯させて頂けるならば喜んで行きたいと考えておりますので、皆

様方、何卒宜しくお願い致します。」


 其の時、山賀の若様と筆頭家老の吉永が到着した。


「義兄上様、遅くなり誠に申し訳ございません。」


「いいえ、別に慌てる程では御座いませんので。」


 若様、松之介も吉永も息を切らせている。


 工藤も他の官軍兵も驚いた。


 若様が義兄上と呼んだ。


「失礼とは存じますが、今義兄上様と申されましたが。」


「あ~別に宜しいですよ、何も有りませんので、其れよりも山賀の若様と吉永様、実は。」


 源三郎は改めて説明すると。


「私は大賛成で御座います。

 実は私もお話しをしなければならない事が御座いまして、昨日、幕府軍と思われます、十人程の侍が山

に登って来たのです。」


「そうですか、やはりねぇ~、其れで。」


「はい、其れで奉行所からと我々が駆け付けたのですが、その時には全員が狼の。」


「まぁ~相手が狼ならば幕府軍に勝つ見込みはまず無いと思いますねぇ~。」


「はい、其れで後日の事も有り、ご家老様と相談し遺体はそのまま放置して置きました。」


「分かりました、其れならば、皆様方、各国に一個中隊が駐屯すると言うのは如何でしょうか。」


「源三郎殿、官軍、いや元官軍の方々が応援して下さるならば、私としましても大変助かりますので大賛

成で御座います。」


「源三郎殿、私達の所は特に警戒を厳重にしなければならないと存じておりますが、如何で御座いましょ

うか。」


「菊池様の所は一番手薄だと思っておりますので、では松川様は。」


「義兄上、私も是非にとお願い申し上げます。」


「工藤さん、今、お聞きの通りでして、皆様方のご賛同を頂きましたので。」


「はい、皆様方、誠に有難う御座います。


 其れで私としましては、今お聞きしました菊池様には、我が第一中隊の駐屯をお願いしたいのです。

 第一中隊は、我が隊の中でも精鋭中の精鋭で、攻める事も守る事でも満足して頂けると思いますので如

何で御座いましょうか。」


「源三郎殿、私は何も不満などは有りません。

 是非、第一中隊の駐屯をお願い致します。」


「工藤さん、野洲から見える山ですが、菊池の山は連合国の山でも一番低く、皆さんが来られました所よ

り思った以上に越えるのが簡単なのです。」


「はい、では、野洲には第二中隊を駐屯させて頂きます。」


「隊長、有難う御座います。」


 一番に喜んだのは源三で彼は願いが叶ったと言わんばかりだ、彼は偵察を主に任務としており、工藤が

小隊長として野洲側の山へ最初に入った者達で有る。


「総司令、我々の部隊は全員が農民さんですが、今まで幕府軍との戦では一人の犠牲者も出してはおりま

せん。」


 工藤が引き得る部隊は全員が農民だが、射撃の腕前は正規軍よりも上だと言うので有る。


「では今まで何度も戦を経験されておられるのですか。」

         

「はい、十数回以上は戦っておりますが。」


「工藤さん、其れでお願いが有るのですが、我々連合国の家臣にも連発銃の訓練を行なって頂きたいので

すが、お願いが出来るでしょうか。」


「勿論、喜んでさせて頂きますが、実は今何発の弾薬が有るのか、私は全く知らないので御座います。」


「其れならば、今確かめておりますので、高野様、阿波野様、斉藤様、吉永様、皆様方には百丁の連発銃

を渡しますので短期間で習得させて頂きたいのです。」


「総司令、一国百丁の連発銃となれば訓練には相当数の弾薬が必要となりますが。」


「私も十分に承知致しております。


 其れでお聞きしたいのですが、五百名の兵士ですが何発の弾薬を携帯させておられるのでしょうか。」


「一応常時一人で五十発も有れば十分で幕府軍の戦では五十発全てを使う事は有りませんでした。」


「分かりました、では大変厳しいとは思いますが、連発銃でも訓練では五十発とします。」


「あの~源三郎様、宜しいでしょうか。」


「はい、え~っと、確か源三さんと申されましたね。」


「はい、源三と言います、私達の中隊長と小隊長の訓練は厳しいですが、一人五十発も使いません。

 十発か、よく撃っても二十発で全部覚えられますので、其れに中隊長も小隊長も其れはもう大変な射撃

の名人でしてね、この人達が要ればまぁ~鬼に金棒ですよ。」


「ほ~なるほどねぇ~、其れは尚更素晴らしいですねぇ~、では源三さん、貴方に教えて頂きましょうか

ねぇ~。」


「えっ、そんなぁ~、オレなんて。」


「ですが小隊長から教えて頂いたので有れば大丈夫ですよ。」


 源三は余計な事を言ったと思ったが、源三郎は別の取り方をして要る。

 源三と言う人物はこの部隊の兵士達を引っ張っている人物だ、その源三を上手に使えば訓練は早く終わ

らせる事も可能だと考えたので有る。


「では工藤さん、数日間はのんびりとして頂きまして、その後、各国に向かって頂きますが、今着ておら

れます軍服と言うのでしょうか、上着だけを変えて頂きたいのです。」


「総司令、何か理由でも有るのでしょうか。」


「はい、其れと連発銃も官軍や幕府軍から見られても分からない様にしたいのですが、そのお話しは後程

にしますので。」


「源三郎。」


「あっ、お殿様だ。」


 元官軍兵が起立仕掛けたが。


「まぁ~まぁ~座っていて下され、先程から話を聴いていたが、工藤さん、我々連合国は源三郎も申した

と思うが、戦をするのが目的とは考えてはおらぬ、他の国も幕府の圧政に泣き、何としても阻止したいと

考え、ではと言う事で我々が手を組んだのです。

 源三郎は最初から領民を守る為に色々な策を考え、その中で技師長が考えた潜水船だけが武器らしい武

器と言う訳で潜水船を多く造り領民を救い出す事だけなのじゃ、その為にも元官軍兵士の皆が協力して頂

けるならば、余はもう何時戦死しても良いと思って要るのです。

 他の国でも、今は大事な工事を行なっており、この工事が終われば万が一の時には領民だけでも避難させる事が出来、其れまでは大変だと思うが、宜しく頼む、この通りです。」


 野洲のお殿様は、工藤達、元官軍兵に頭を下げた。


「殿様、頭をお上げ下さいませ、我々は命を助けて頂いたので御座います。

 我々はこの御恩を一生忘れるものでは御座いませぬ。」


 工藤を始め、中隊長と小隊長の全員が頭を下げると、兵士達全員が頭を下げた。


「源三郎、彼らの事を宜しく頼むぞ。」


 殿様は其れだけを言って大広間を出たが、兵士達にすれば驚きの連続で、今は頭が混乱して要る様子で

有る。


「今から少し話が変わりますが、兵士の方々は一度席を外され外の風などに当たって下さい。


 小隊長以上は残って頂きます。」


 さぁ~これからが大事な話しが始まり、源三郎は参号船の建造に入る事から、山賀での鉄作り、松川か

ら上田へ繋がる洞窟、菊池の隧道までを詳しく工藤達に話し、補足説明は各国から来て要る者達が補い、

特に参号船の建造に付いてはげんたが説明し、其れは夕刻近くまで続くので有る。


 一方で元官軍兵達はと言うと、暫くはお城の中庭で話をしている。


「なぁ~山賀の若様が源三郎様に義兄上様って言ったけど、源三郎様って本当はどんなお人なんだ。」


「うん、そうなんだ、わしもさっきから考えてるんだけど、若しかして野洲の若君様かも知れないぞ。」


「えっ、其れって本当なのか、じゃ~松川の若殿って、一体どうなるんだ、正か野洲と松川、山賀は繋

がってると言うのか。」


「オレ、今から執務室に行って聞いて来るよ。」


「其れじゃ~、わしも行くよ。」


 数人の兵士が執務室に入り。


「あの~少し聴きたい事が有るんですが。」


「はい、其れでどの様な事でしょうか、まぁ~、其れよりも座って下さい。」


 元官軍兵達は座り。


「其れで何を知りたいのですか。」


「さっき、山賀の若様ってお方が。」


「あ~、山賀の殿様ですね。」


「えっ、若様って、お殿様ですか。」


「そうですよ、山賀の若様と松川の若殿は御兄弟ですよ。」


「えっ、御兄弟でお殿様ですか。」


 兵士達は唖然としている。


「でも、その御兄弟が源三郎様を義兄上様って呼ばれていましたが、正か野洲の若君様では。」


「そうか、貴方方は何もご存知無かったのですね、では簡単にお話しをしましょうか、源三郎様の奥様は

知っておられますね。」


「はい、勿論ですよ、わしらは今まであんなに綺麗な女性は見た事が無いんで。」


「その奥様はね、雪乃様と言いまして、松川の姫君様でして、松川と山賀の殿様は弟君ですよ。」


 もう兵士達は混乱し、何が何だか全く理解出来ないので有る。


「やっぱりなぁ~、源三郎様は野洲の若君様なんだ、だからあんなに綺麗なお姫様と。」


「いいえ、源三郎様はねぇ~、ご家老様のご子息ですよ。」


「も~わしの頭は混乱して、訳が分からないですよ。」


「まぁ~ねぇ~其れは仕方が無いと思いますよ、私達も最初は訳が分からなかったのですがね、其れより

も源三郎様は一刀流の達人でしてね、雪乃様とお二人の若様は抜刀術の達人でしてね、其れに今日来られ

た吉永様も抜刀術では四天王のお一人でして、菊池と上田のお殿様以外は全員が剣術の達人ですよ。」


「オレは大間違いをしたよ。」


「何でだよ、お前は源三郎様のお傍に行くんだろう。」


「だけど、オレ今考えると恐ろしくなってきたんだ、あの隊長は偉そうな事を言ったけど、今から考える

と、相手が源三郎様なんだ、だから最初から決まってたんだなぁ~。」


「うん、そうだ、だけどわしらは本当に運が良かったんだ、源三郎様にお会い出来たんだからなぁ~。」


「そうですよ、最初はねぇ~、皆さん全員が殺される運命だったんですよ。」


「何でわしらが殺されるんですか。」


「高い山を越えて来る幕府軍と官軍兵は全員狼の餌食にする事で、誰が殺したのか分からない様にする為

にですよ。」


「じゃ~、本当だったらオレ達は今頃狼の餌食にですか。」


「そうですよ、まぁ~これからは安心して下さいよ、我ら連合国には技師長と最高の腕を持った大工さん

達が居りますからね。」


「技師長って、あの少年ですよねぇ~、その少年が潜水船を造ったって本当なんですか。」


「本当ですよ、私も他の者達も本物の潜水船を見ておりますから、間違いは有りませんよ。」


 幾ら元々が農民だと言っても官軍に入った時には幕府軍の事で色々な事を教わってはずだ、だが今聴い

て要る話は余りにも次元の違う話の内容ばかりで頭の中は大混乱を引越している。


「わしはさっぱり分からんよ、今まで幕府軍の事ばかりだけど、この野洲は全然違うんだから、も~頭が

変になりそうだ。」


「何を、今頃になって頭が変になるってか、お前はなぁ~元々から頭が変なんだから、今が普通に戻った

んだから心配する事は無いんだ。」


「まぁ~まぁ~これからは我々のお仲間ですからね、其れよりも皆さんは元々が農民さんだったのです

からこの土地で農作物を作って頂いて宜しいと、私は思いますが。」


「でもオレは源三郎様をお守りするんですよ。」


「ですが反対に貴方が総司令に守られる事になりますよ。」


「うん、其れは間違いは無いなぁ~、なぁ~源三。」


「まぁ~違い無いなぁ~、じゃ~オレは源三郎様には邪魔者なんだ。」


「まぁ~そう言う事だ。」


「う~ん、じゃ~邪魔者になるか。」


「何を深刻に考えてるんですか、源三郎様と言うお人は決して邪魔者だとは申されませんよ、源三さんと

言われましたね、源三さんは源三郎様の為に、其れが最後には領民の為になるのですからね、何も心配す

る事は有りませんよ。」


「はい、よ~く分かりました。」


「其れで少し聴きたいのですが、この連発銃の使い方ですが、難しいのでしょうか。」


「そんなの簡単ですよ、火縄銃の方がもっと難しいですよ。」


「では我々でも使えるのですか。」


「其れは勿論ですよ、だって此処に弾を込めて、後は引き金を引くだけですから、オレ達でも使えるんで

すよ、其れにこの鉄砲は雨の日でも使えますから火縄銃とは全然違うんですよ。」


 執務室に要る家臣達は一安心したので有る。

 火縄銃は知って要る、だが連発銃は初めて見る為に源三が言う様に農民でも使う事が出来るならば、侍

ならば当然使い熟せるとは思っていたが、今は一刻も早く連発銃を撃って見たいと思うので有る。


「お侍様、あの山って一体何処まで続いて要るんですか。」


「あの山ですか、あの山はねぇ~菊池藩までで、その先は海へと其処は断崖絶壁ですから。」


「えっ、そんなに遠くまで続いてるんですか。」


「皆さんもその内、我々の連合国が好きになりますよ。」


 執務室の家臣達はニコニコ顔で話を続けており、其れは何も作り話では無く、今では領民達も安心して

生活が出来る様になったが、其れでも山の向こう側からは少しづつだが恐ろしいと言われる官軍の大部隊

が近付いているのは間違いは無い。


「其れともう一つ聴きたいんですが、此処のお侍様って、何で刀を。」


 やはり気付いたか、最初に見た時には不思議とは思って無かったのだが、刀も持たず、其れに執務室の

侍全員が彼らの知って侍の着物では無く、全員が農民が着る様な作業着姿で有る。


「やはり分かりましたか、我々の連合国では侍は刀も必要有りませんから、其れと私達侍の着物では無い

事もだと思いますが、これが私達の作業着姿で、其れにこの方が楽なんですよ。」


 源三達はもう驚く事も忘れた様子で。


「じゃ~、お侍は様農作業に行かれるんですか。」


「まぁ~其れも時々ですがね、若しもですよ山の向こう側から幕府軍が来れば、農民さんと直ぐに分かり

ますからね、其れよりも我々の顔は此処の領民が知っておりますから、思った以上に助かる事も有るんで

すよ。」


「へぇ~、オレは今までなんでお侍様がオレ達が着る作業着を着てるのか、其れが不思議だったんですが、今のお話しで分かりましたよ、我々農民が幕府のお侍様か野洲のお侍様か直ぐに分かる様にだったんですねぇ~。」


「まぁ~簡単に言えばその通りですねぇ~。」


 所が変わり大広間では。


「工藤さん、井坂さんと言うお方をご存知でしょうか。」


「はい、知っておりますが、其れが何か。」


「そのお人が今、この野洲のお城におられますよ。」


「えっ、其れは誠でしょうか、では生きていたのですね。」


「はい、勿論ですよ、誰か井坂さんを呼んで下さい。」


 何と言う奇遇だ、工藤は井坂を知って要るとは、すると工藤も司令部に居たと言う事に成る。


「私は井坂が死んだと聞いておりましたので、正かこのお城に居るとは思いもしておりませんでした。」


「工藤さん、井坂さんは司令部に居たと言われているのですが。」


「はい、実は私も司令部におりました。」


 やはり井坂の話は本当だった。


「井坂さんは長崎と言う所に造船所が造られ、其処で官軍の軍艦を建造するんだと言われているのですが、本当でしょうか。」


「はい、其れは間違いは有りません。」


 何故、工藤が軍艦の建造まで、若しや。


「若しや工藤さんは軍艦の建造に携われておられたのでは。」


「はい、其れが私が基本的な船体部分を考えました。」


「総司令、井坂さんをお連れ致しました。」


「そうですか、では入って頂いて下さい。」


「あっ。」


 井坂は驚きの余り、直立不動の姿勢で。


「工藤少佐殿。」


 井坂は工藤に対し敬礼をし、工藤も起立し答礼をした。


「井坂さん、久し振りですねぇ~。」


「少佐殿は何故此処に。」


「工藤さんは官軍の少佐でしたか。」


「はい、工藤少佐殿は官軍の軍艦を造る為の基本設計をされておられました。」


「まぁ~井坂さん、座って下さい。」


 井坂は工藤が何故野洲に居るのかが全く理解出来ないので有る。


「私は井坂さんが死んだと聞かされておりましたが、私よりも何故貴方が此処におられるのすか。」


「はい、私は実は。」


 井坂はその後工藤に対し詳しく話した。


「やはりそうでしたか、あの隊長が原因だったのですか。」


「はい、私はあの人が理不尽な命令を出され、私も前線に行く事に成り、其の時、思い切って仲間と脱走

しまして、少佐殿には大変なご迷惑をお掛けし誠に申し訳御座いませんでした。」


「井坂さん、もう宜しいですよ全てが終わりましたのでね。」


 工藤は司令部で軍艦の基本設計に携わっていたと、其れならば、げんたの潜水船建造にも役立つだろう

と源三郎は考え方を変える事にした。

 これからは、工藤が参加する事で潜水船の建造にも今までよりも楽になるだろうと、其れにしても工藤

と井坂が同じ司令部にいたとは、げんたの潜水船は、この先、一体、どの様に変わって行くのか、官軍の

軍艦が何時完成し、目的までもがはっきるとする事までもが話されるのではないのか、


 さぁ~これからは忙しくなりそうだと、源三郎は改めて思うので有る。



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