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闇の帝国    作者: 大和 武
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第 43 話。怯える官軍兵。

 一方、此処は山向こうに有る官軍の野営地では。


「隊長、我々は本当にあの山を登るのですか。」


「その通りだ、打ち損じた幕府の奴らを生かして置くと、我が軍としては示しが付かない。


 私に入った情報では幕府軍武士はあの山に逃げ込んでいるからだ。」


「ですが、この頃、毎夜遠くから聞こえる狼の遠吠えで、一部の兵士が怯えておりますが。」


「何を言っているんだ、狼が恐ろしいと、其れでも君は官軍の軍人か、一体誰だ、私が直接聞く、その者

の名を言え。」


 隊長は狼の恐ろしさを知らないのだろうか、高い山には数千頭もの狼が生息し、弱い人間が登って来る

のを、今や遅しと牙を剝いて待ち構えて要る。


「隊長、自分がよ~く聞かせますので。」


「お前の部隊なのか。」


「はい、ですが、他の部隊でも同じ様に兵士達は狼の遠吠えに恐れをなしております。」


「よ~し分かった、全小隊長を集めるんだ。」


「はい、了解しました。」


 小隊長も実は狼が恐ろしいので有る、だが部下の手前虚勢を張っており、その後、暫くして小隊長全員

と中隊長も集まり。


「中隊長と小隊長の全員に命令する、だがその前に先程有る小隊長から部下の中で狼が恐ろしいと怯えて

いる兵士がいると聞いたが、他の小隊はどうなんだ。」


 隊長の顔は怒り心頭で今にも小隊長の首を撥ねそうで、その為、どの小隊長も何も言わず、手を挙げる

事も出来ない。


 其れよりもこの隊長と言うのは実戦の経験は無く、だが何故隊長に成れたのかと言うと、親の七光りで

隊長に昇進し、全てが規律一辺倒で、隊長自らが先頭になり行く事は無く、功績は全て我がもの、失敗は

全て部下の責任だと、その為なのか司令部からの受けは良く、だが大隊長からは良くは見られずに、他の

中隊からも、そして、この部隊の兵士達からは一番の嫌われ者と言う存在なので有る。


「隊長殿、自分達は狼が恐ろしいのです。」


「何だと、では聴くが敵の幕府軍よりも狼が恐ろしいと言うのか。」


「はい、狼は音も立てずに、其れに大群で襲って来ますので。」


「だが、私は狼が居るとは聞いてはいないぞ。」


「ですが、猟師の話ではこの山には数千頭もの狼が住んで要ると聴きましたが。」


「其れはこの山に限った事では無い、他の山にも住んで要る、猟師の話を全て信用するな、其れよりも幕

府軍は何処に向かっているのか調べたのか。」


「いいえ、其れが。」


「其れが如何したと言うんだ、直ぐ小隊を出し行方を調べるのだ、早く行け。」


「はい、承知しました。」


 小隊長達は駆け足で戻って行く。


「なぁ~一体誰が行くんだ。」


「其れならば偵察隊に行って貰うのが一番だと思うのんだがなぁ~。」


「其れにしてもあの山は高いからなぁ~、其れに一体何処まで続いて要るんだろうか。」


「そうなんだ、こんなにも高い山が続いて要ると言う事は狼の大群が住んで要ると言う事も本当かも知れ

ないからなぁ~。」


「其れでさっきの話しだが偵察隊に頼もうか。」


「今は其れが一番だと思うんだ。」


 一方で偵察任務を行なって要る小隊長が隊に戻ると。


「全員集合、只今から前に見える山へ偵察任務に向かう、任務はこの山に逃げ込んだ幕府軍の行方を調べ

る事で、山の向こう側まで調べる事で有る。

 全員準備出来次第出発する、準備に掛かれ。」


 偵察隊の小隊長は最初から覚悟を決めており、何れ他の小隊長から言われるだろうと、其れならば言わ

れる前に行く事の方が気分も違うのだと、其の時、やはり来たかと偵察隊の小隊長は思った。


「我が小隊が今から偵察に向かいますので。」


「えっ。」


 と、小隊長達は唖然としている、彼らにすれば言いたくは無い、だがこの小隊は何時も偵察を目的とし

て一番に出発しているので有る。


「済まないなぁ~。」


「いゃ~いいんですよ、偵察は我々の任務ですからね。」


 小隊長はニッコリとしては要るが、腹の中は煮えくり返っている。


「小隊長、準備完了しました。」


「予備の弾倉も持ちましたか。」


「はい、各自百発は持っております。」


「そうですか、では出発する。」


 小隊長を先頭に偵察任務に向かう小隊は山の中に消えて行った、だがこの小隊は二度と部隊に戻る事は

無い。


「小隊長。」


「みんな済まない。」


「いゃ~いいんですよ、私ははっきりと言ってあの隊長の顔を二度と見る事は無いと思えば、何だか胸が

すっきりとしています。」


「小隊長、自分もですよ、まぁ~戦争ですから、其れに自分は今気持ちが楽になったんですよ、今までこんなのって初めてだと思います。

 其れにあの隊長に命令されるくらいだったら、小隊長から先に命令を受ける方が余程楽ですよ。」


「みんな許してくれるのか。」


「小隊長、何も許すなんてそんな水臭い事を言わないで下さいよ、オレも今正直な気持ち、自分勝手な隊

長の顔を見ないですっきりとしてるんですよ、そうだろう、なぁ~みんな。」


「そうですよ、小隊長、オレは何も怖くは無いですよ、だってそうでしょう、我々は幕府軍と戦をするん

じゃないんですからね。」


 まぁ~何と、小隊は楽しそうな会話をしながらも山を登って行く。


「隊長、偵察隊が出発しました。」


「よし分かった、偵察隊の報告を聞いてから出発するが、我々はこの山を知らない、先日この山をよ~く

知って要る猟師が人を集めて来ると言った、其れで道案内は猟師の任せるが、全員注意だけは怠るな。」


 偵察任務に向かった小隊は急な登りを其れも背丈以上も有る熊笹を掻き分けながら進んで行く為

に半時、いや、一時も進んだが其れでもまだ麓を少し登った程度で有る。


「小隊長、あれは猟師では無いですか。」


「その様ですねぇ~。」


「あ~これで助かったよ。」


 其れは、兵士の本音なのかも知れない。


「えっ、助かったって、何故助かったと思うんだ。」


「小隊長、もう幕府軍を探すの辞めましょうよ。」


「そうですよ、其れに私はもう戦争が嫌になったんですよ、あの隊長も、でも小隊長が一緒なら何処でも

行きますよ。」


「オレもですよ、この山を無事に越える事が出来たら其れでいいんですから。」


「う~ん、ですがねぇ~。」


 小隊長は自身の気持ちとは別に返事が出来ないので有る。


「分かりました、では。」


 小隊は猟師が来る方に向かって行き、猟師も兵士の姿を見ていた。


「あの~猟師さん、我々は。」


「はい、何でしょうか。」


「オレ達は軍隊を脱走したので何処かに逃げたいんですが。」


「えっ、軍隊を脱走したって、正か。」


 猟師が驚くのも無理は無い。

 野洲の侍から聴いていた官軍の兵士が、其れも今目の前に居る、だが兵士達は軍隊を脱走したと言う。


「兵隊さん、この山は恐ろしいですよ、何千頭もの狼が住んで要るんですよ。」


「はい、其れは聴いておりましたが、我々は猟師さんに会いこれで助かったんです。」


「でも此処から逃げるって、一体何処に逃げるんですか。」


 猟師は考えた、本当に軍隊を脱走して来たのだろう、其れに全員が新式の連発銃を持って要る。


 猟師は今正に決断を迫られており、下手をすれば猟師の命が危ない、かと言ってそのまま、はい、分か

りましたとは言えないので有る。


「猟師さん、我々は本当に逃げて来たのです。

今は何を言っても信用しては頂け無いと思いますが、我々も狼は恐ろしいので何処でも宜しいので何と

かお願い出来ないでしょうか。」


 其れでも猟師は返事をせずにいる。


「山には何千頭もの狼が住んで要るんですが、分かりました此処からは狼も少ないので行きましょう。」


 猟師は狼は少ないと言う、其れでも兵士達は辺りをキョロキョロと見回しながら猟師の後を歩いて行く。


「兵隊さん達は官軍ですか。」


「はい、我々は官軍の兵士で、今幕府軍ち戦の最中で、我々に入った情報では幕府軍の一部がこの山に逃

げ込んだと聴きましたので、その幕府軍を探しに登って来たのですが。」


「でも何で軍隊を脱走したんですか、兵隊さん達は幕府軍がこの山に逃げ込んだって言いましたが、山に

入るのはわしら猟師だけで国の人は誰も入りませんよ。」


「今、国と言われましたが山を越えると国が有るのですか。」


「はい、わしらの国じゃ、お侍様は優しいですよ、其れに兵隊さん達もですが、わしらの国のお侍様は誰

も刀を持っていませんよ。」


「えっ、正か侍が刀を持っていないって、其れは本当ですか。」


「兵隊さん、わしが嘘を言っても何の得にもなりませんよ、まぁ~わしらの国で刀を持って要るのは奉行

所の役人だけですからねぇ~。」


 小隊長は驚くどころの騒ぎでは無い、侍が刀を持っていないとは初めて聞く話で、今の今までその様な

話を聴いた事が無い。


「兵隊さん、わしらも幕府軍と官軍が戦の最中だって聞いていますが、でもねぇ~わしらの国に入って来

たのは、え~っと、数人だって聴きましたよ。」


 やはり幕府軍は猟師の言う国に入って要る。


「では幕府軍の武士は殺されたのですか。」


「えっ、殺されたって、兵隊さんそんな事は無いですよ。」


「ですが、幕府軍の武士が。」


「わしらの国では簡単に人は殺しませんよ、だってわしらの源三郎様は人を殺す様なお侍様じゃ無いです

からねぇ~。」


 この猟師も実は源三郎は人を殺す様な侍では無いと聞いただけで、源三郎とは今まで一度も会ってはい

ない。


「ではその幕府軍の武士は、今何処に居るのでしょうか。」


「その人ならお城に居るって聞いてますよ。」


 猟師の話しからすると、その国は幕府の見方をしている様にも聞こえると小隊長は思った。


 話は小隊長でなくとも、誰が聴いたところで野洲は幕府方の見方だと思うのが普通で有る。


「兵隊さん、わしらの国ではねぇ~、農民や漁民、其れにわしらの様な領民をね、其れはもう大切にして

下さるんですよ。」


「猟師さん、其れは本当の話しなんですか。」


「勿論、本当の話ですよ、だって源三郎様は農民が作る作物は大切だって、其れに漁師は毎日命懸けで魚を獲ってくれるからって、お城のお侍様はわしらもですが農民や他の領民に対し感謝してるんですよ。」


「では、その源三郎様ってお方はお殿様何ですか。」


「いいえ、お殿様では無いですよ。」


「えっ、そんな話し今まで聞いた事が無いですよ、ねぇ~小隊長、オレ達の国ではお侍は何時も偉そうな

顔をしてますよ。」


「わしらの見方なんですよ、源三郎様は。」


「小隊長、オレはもう命が無くなってもいいですからその国に行きたいですよ。」


「う~ん、でも何故か私は全てを信用する訳には行かないのですよ、何も猟師さんを信用していないとの

では有りませんが、でも余りにも話が出来過ぎている様にも思えてならないので。」


「まぁ~そうですねぇ~、今会った人に話しても誰も信用しませんが、小隊長さん、わしの言う話が本当

か大嘘かわしらの国に行けば全部分かりますよ、でもねぇ~。」


「猟師さん、何か有るのでしょうか。」


「だって、みんな官軍の兵隊さんでしょうから。」


「では、猟師さんの言われる国は幕府方の見方なのですか。」


「えっ何ですって、幕府方の見方って、わしらの国がですか、小隊長さん、わしらの国ですがねぇ~幕府

方の見方でも、官軍の見方では無いんですよ、そんな話しわしらの国で言ったら兵隊さん達は大変な事に

なりますよ。」


「ですが、先程、幕府軍の武士がお城に居ると言われましたが。」


「あ~其れはねぇ~、今は行く所が無いのでお城に居るだけだと思いますよ。」


 猟師と官軍兵は会話を続けながら山を登って行く。


 猟師も官軍兵の話を全て信用しているのではない、だが話し合いを続けるだけでも官軍の話は聞けると

思って要る


「でも、何で軍隊を脱走したんですか。」


「猟師さん、オレ達も元は農民なんですよ。」


「えっ、じゃ~皆さんは農民なんですか。」


「でも小隊長だけは違うんだ、小隊長はお侍様なんだ。」


「だけどそのお侍様が何で軍隊を脱走されたんですか、わしにはさっぱり分からないですよ。」


「猟師さん、オレ達は農村から集められたんだ、其れもあの一番嫌いな隊長の言葉に騙されたんです

よ。」


「隊長さんの言葉に騙されたって、でも隊長さんって偉い人なんでしょう。」


「いや其れが大違いなんだ、あの隊長は軍隊に入れば食べ物は有るし、給金も出すって言ったんだ、其れ

でオレは軍隊に入ったんだ、だけど。」


「何ですか、その隊長さんの言った事と違うって。」


「そうなんだ、隊長はわしらには腹いっぱいになるまで食べる事が出来るって、だけどそれは入ったその

日だけで、後は其れはもう酷かったんだ。」


「じゃ~兵隊になったらお金も入るし、お腹いっぱいに食べる事が出来るって言うのは大嘘なんで。」


「そうなんだ、其れにあの隊長って奴は絶対に弾や矢が飛んで来ない所に居るんだから。」


 五百人の隊を引き得る隊長は兵士を集める時に大嘘を言って集め、戦の時には後方に居り、鉄砲の弾も

当たらない所に居ると、若しも其れが本当だとすれば。


「でも官軍って、幕府を倒す為に戦を行なってるって聞きましたが。」


「はい其れは本当ですよ、其れは武家社会から民衆と救い出すと言うのが大前提でした。


 でもその話は大本部の司令官達だけの話で、我々の様な前線に配属された兵士には全くと言っても良い

程話は有りませんので、特に我々の部隊の隊長は自らの為にと多くの農民や漁民を集め、其れが司令部か

ら信頼を得たと言いますか、五百人の部隊を引き得る隊長に昇進したのです。」


 その話が本当ならば奉行所に連れては行かず、源三郎に会わす方が良いと猟師は思い。


「小隊長さん、今の話は本当ですか。」


「はい今の話は部隊の全員が知っております。」


「猟師さん、小隊長の話は本当ですよ、オレ達も全員が農民や漁民でみんなは泣く泣く此処まで来たんで

すから。」


「猟師さん、わしは農民で戦なんか大嫌いなんですよ。」


 猟師はこの時決断した。


「分かりましたよ、でも今からこの山を越えて城下に入るのは無理ですから、今から別の道を行って、わ

しら猟師だけが使う小屋が有りますので、今夜はその小屋に泊まり、明日の朝早く下りますが、其れで宜

しいですかねぇ~。」


「猟師さん、本当に有難う、私は国でも一番下の下級武士で故郷には老婆が一人で何も思い残す事は有り

ませんが、この人達は村に家族を残しておりますので其れが心配なのです。」


「小隊長、オレは誰も待って要る者もいませんので。」


「わしは親が居ますが、もう年でわしが帰るとは思ってもいません。」


 この様にして小隊の全員が何故か故郷には帰れないと言う。


「でも皆さんは故郷に帰りたいと思いますが。」


「だけどオレ達は脱走したんですよねぇ~、小隊長。」


「はい私は軍の規律を聴いておりますので。」


「軍の規律って、何ですか。」


「其れはねぇ~、脱走した兵士は理由に関係無く捕まえられると銃殺刑になると言う事です。」


「でも話しを聞いたら司令部の人達も分かってくれると思いますが。」


「猟師さん、其れはまず無理ですよ、隊長の事ですから我々が脱走したと分かれば、司令本部に書状を送

り、我々の言い訳を全て否定する様な隊長ですから。」


 猟師の言う別の道と言うのは、この山でも一番低い所なのか、其れでも遠くから見ると大木が多く茂り

見た目には高く見える、その道に入ると猟師の歩くのが早くなり二時で山の頂上に出た。


 山の頂上には小屋が有り、猟師達が何かの理由で下る事が出来ない時、この小屋で夜を明かすので有る。


「皆さん、夜になると一歩も外には出られませんのでね、今の内に用を足して下さいね。」


 猟師は優しく接する事で、彼らも少しは落ち着くだろうと思った。


 兵士達は小屋の中に入ると、本当に安心したのか。


「小隊長、オレ何か悪い事をしている様な気持ちなんですよ。」


「悪い事ですか、ですが私に全ての責任が有りますので、其れよりも、明日先程から聴いております源三郎様と申されますお方に全てを話しますので。」


「小隊長、わしらだけが助かってもいいのかなぁ~。」


 彼ら官軍兵は安心した事で残った仲間の事が気になりだしたので有る。


「私もね先程から考えておりましたが、今は何も出来ませんので仕方が無いと諦めて頂きたいのです。」


 小隊長の話しで兵士達は下を向き、何も言えなくなった。


「小隊長さん、残られた仲間と言われるのは。」


「はい、隊長と中隊長は別として、小隊長と言うのが私と同じで、全員が国の中でも一番下の下級武士で、小隊長の全員が今まで戦を経験した事が無いのです。」


「じゃ~今度の幕府軍を探すと言うのが、最初の仕事ですか。」


「はい、でも中隊長の全員は藩の家臣で、ですが隊長に賄賂を贈っていたと。」


 その後も猟師と兵士達の会話は続き、皆が気付いた時には朝の一番鳥が鳴いた。


「え~もう余が明けたのか、じゃ~今から山を下りますが、その道もわしら猟師だけが知っていますので

ね、其れと多分ですが、奉行所の役人がこの周辺を見張ってますが、わしが話しをしますのでね、じゃ~

行きますよ。」


 猟師と小隊長を含めた十数名の官軍の脱走兵は足早に山を下って行く。


 猟師が知った道だと言うので細いが速足でも楽に行け、頂上の小屋を立ち、二時もすると次第に城下が

見える様になった。


「わぁ~小隊長、猟師さんの言う通りで城下が見えて来ましたよ。」


「お~本当だ、みんなオレ達は本当に助かったんだ。」


 其れから半時も下ると山道に出、其の時。


「全員、止まれ。」


 小隊長は小隊を止めた、前方には奉行所の役人が猟師と話をしている。


「猟師さん、あの者達ですが。」


「はい、昨日山の向こう側で、まぁ~捕まえたとのと違いまして、あの人達は官軍の脱走兵で軍隊から逃

げて来たと言うんで、其れで話しを聞くと兵隊全員が農民だと言いましたので、わしは源三郎様に会って話をさせようと思ったんです。」


「全員が農民ですか、分かりました、誰か総司令に伝えて下さい。


 官軍の兵士、十数名が参りますと、其れで兵士達は全員が脱走兵で、今から参りますと我々からも数名

が同行しますと。」


「はい、では直ぐに参ります。」


 若い役人は大急ぎで城の源三郎へ伝えに向かった。


「お奉行にも伝えて下さい、私も参りますと。」


 又も若い役人が今度は奉行所へと向かった。


「では、参りましょうか。」


 与力と同心の数名が小隊の前後に付き、源三郎の居る城へと向かった。


 城下に入ると領民達が見ており、誰もが声は聞こえない程の小声で、多分兵士達の姿で全員が官軍の兵

士だとでも話して要るのだろう。


「ねぇ~小隊長、本当に大丈夫でしょうか。」


「皆さん、此処まで来ましたので、今更どうにもなりませんのでね静かに歩いて下さい。」


 小隊長を先頭に小隊は列を乱す事も無く城へと進んで行く。


「総司令。」


「はい、何かご用件でも有るのでしょうか。」


 若い役人は息を切らせ、これは何かが起きたと源三郎は思った。


「総司令、先程、昨日官軍の兵士十数名が官軍を脱走したと、猟師さんに付き添われ山を下りて来まし

た。」


「十数名の官軍兵が山を下りた申されるのですか。」


「はい、今奉行所の数名が同行し、総司令に面会して頂く為に向かっております。」


「はい、分かりました、ご苦労様でしたね。」


 執務室では猟師十名と弓の名手と言われる家臣達が作戦を練っているところへの報告で、執務室は一瞬

ざわついた。


「皆さん、何が有ったのかは分かりませぬが、今お聞きの通りで間も無く官軍兵十数名が到着しますのが、皆さんもこの場を離れずにお願いします。」


 源三郎は作戦の変更も有り得ると考えたが、官軍兵がどの様な話しをするのか、全ては官軍兵の話を聴

いてからだ。


「源三郎様、一体何か有ったのでしょうか。」


「私も今其れを考えて要るのですがね、まぁ~全ては官軍兵の話を聴いてからだと思いますのでね、今少

し待って下さい。」


 其れから暫くして。


「総司令。」


 奉行所の与力と同心に付き添われた官軍兵が到着した。


「あっ。」


 一人の官軍兵が大きな声を上げた、其れは目の前に要る猟師は、数日前部隊で見たのだ。


「さぁ~さぁ~、皆さんどうぞお座り下さいね。」


 源三郎は何時のも表情と言葉使いで要る。


「はい、では失礼致します。


 全員、お言葉に甘えて座って下さい。」


 小隊長が座ると兵士達も座った。


「私は源三郎と申しますが、先程、聴きましたが皆さんは官軍を脱走されたと。」


「はい、私は工藤と申しまして、この隊の小隊長を務めさせて頂いております。」


「工藤さんですか、其れで一体何が有ったのでしょうか、あ~そうです、その前に皆さんお食事は。」


「源三郎様、この人達は昨日から何も食べて無いんです。」


「分かりました、貴方もですね、雪乃殿は。」


「はい、直ぐに参ります。」


 雪乃は先程から執務室に居る全員の賄いを準備していた。


「雪乃殿、急で申し訳有りませんが。」


「はい、直ぐにお持ち致しますので。」


「では、お願いしますね。」


「わぁ~何て綺麗な女性なんだ。」


 兵士の一人が言うと。


「うん、本当に綺麗な人だ、オレ、生まれて初めてだよあんなに綺麗な女性を見たのは。」


「全員、静かに。」


「まぁ~まぁ~宜しいでは有りませんか、其れで皆さんは初めてだとは思いますが、私に嘘を付けば、私

は絶対に許しませんよ、私はねぇ~人を殺すのが好きでは有りませんが、まぁ~その代わりとは言っては

なんですが、山に行って頂きますのでね、此処の狼は本当に恐ろしいですからね。」


 源三郎の脅しなのか、源三郎は顔色も変えずに言ったので兵士達は源三郎の恐ろしさを感じた。


「まぁ~皆さん何も驚く事は有りませんよ、其れで工藤さん、食事が出来るまでお話し下さいますか。」


 小隊長の工藤は源三郎に話を始めた。


「えっ、では部隊の兵士全員が農村と漁村から集められたと申されるのですか。」


「はい、其れで。」


 工藤は再び話しを始め、工藤は隊長と中隊長以外の全員を何としても助けたいと言うので有る。


「う~ん、部隊の全員か。」


 源三郎は返答に困った、最初の計画では官軍兵の全員を殺す事を考えていたが、小隊長の工藤は藩では最も冷遇されて要る下級武士だと、其れに対し隊長と中隊長は農村と漁村から五百人の兵隊を集めた功績で昇進したが、幕府軍との戦も全くと言っても良い程経験は無く、今回特別任務としての任務が官軍を脱走した兵士五十人の捜索を命じられ、だが若しもその五十人の脱走兵を発見出来なかったとなれば、全ての責任は小隊長の工藤に被せるのだと、其れは小隊長の工藤を始め、小隊の全員が命令に従わずにだと司令部に報告すると言うので有る。


 今、城中に居る井坂の証言は誠だった、そして、幕府軍との戦で五十名の武士が山に逃げ込んだ。


 その幕府軍を発見し全員を殺せと命令を受け、高い山の麓に陣を張った。


 やはり、生き残った五十名の幕府軍の武士の証言も本当で有る。

 今、目の前に居る十数名の官軍兵も軍を脱走したと。


 そして。


「源三郎様、私は全ての責任を取り、腹を切っても良いので、兵士、いいえ、農民や漁民達だけは助けて

頂きたいのです。」


 小隊長の工藤が頭を下げた。


「猟師さんのご意見は如何でしょうか。」


「源三郎様、わしは小隊長の気持ちを何とかしてやりたいんです。

 確かに姿は官軍の兵士ですが、でも兵士達は好んで参加したとは思えないんです。」


「総司令、拙者もで御座います、何とかお願い致します。


 その後、執務室の家臣全員が何としても兵士だけは助けたいと、源三郎に嘆願すると。


「何と言うお侍様だ、オレは今までお侍様って何時も偉そうにして要るものばかりだと思ってたんですが、此処のお侍様は全然違うよ、オレは仲間を助けたいんだ、明日でも山に行って仲間に、あっ、そうだ。」


 兵士は今幕府軍の行方を捜している偵察隊の一員だと言う事を全くと言っても良い程にも忘れていた。


「源三郎様、お食事が出来ましたのでお持ち致しました。」


 雪乃と加世、すずの三名と他の腰元達も運んで来た。


「さぁ~皆さん、お腹いっぱいになるまで食べて下さいよ。」


「えっ、本当にいいんですか。」


「はい勿論ですよ、皆さんは何も悪いお人だとは無いと源三郎様が承知されておられますのでね、何も心

配される事は有りませんよ。」


 雪乃、加世もすずもニッコリとした。


「さぁ~さぁ~何も有りませんが、お代わりは自由ですからね。」


 兵士達が一口食べると。


「わぁ~こんなに旨い食べ物って初めてですよ、小隊長。」


「うん、本当だオレも生まれて初めてだよ。」


「わしらはあの隊長に騙されたんだ、ねぇ~小隊長、オレはもう何時死んでもいいですよ。」


「其れは困りますよ、貴方方はせっかく助かったのですからね。」


「えっ、でもオレ達は官軍の兵士ですよ。」


「其れはね以前のお話しでしてね、今は官軍の兵士では無いと思いますが、其れとも官軍の兵士に戻りた

いのですか。」


「いゃ~オレはもう死んだって戻らないですよ。」


「さぁ~話しは後でね、今はしっかりと食べて下さいね。」


 食事だと言っても片口鰯が数尾と汁物、漬け物とご飯だけなのだが、ご飯だけは炊きたてでまだ湯気が

上がっている。


 昨日、浜から大量の魚が届き、其れを今は家臣と猟師達に出す予定だった、だが何かの弾みと言うのか、其れは何時もの事なのかも知れないが官軍の兵士が来た為に、だが何か不吉な予感を源三郎は感じている。


「源三郎。」


「殿。」


「えっ、あっ、お殿様って。」


 官軍の小隊長も兵士達も大慌てで両手を着き、頭を下げ、他の猟師達も同様で慌てている。


「源三郎、片口鰯が、えっ何故じゃ。」


「殿、如何なされましたか。」


「何じゃと、もう食しておるのか。」


「殿、この人達は官軍の元兵士で部隊を脱走したので御座います。」


「そうか、まぁ~源三郎の事じゃ、何かを考えておると思うので、余は何も言わぬが、官軍の兵士と申し

たな、その方達我が連合国に残りたければ源三郎に任せるのじゃ、だが余も源三郎も引き留めはせぬぞ、

全てその方達が決める事じゃ、では源三郎、この者達の事を宜しく頼むぞ、雪乃、ところで余の鰯は残っ

ておるのか。」


「はい、勿論で御座います、今は賄い処に御座います。」


「そうか分かった、この者達の食事は出来ておるのか。」


「はい、只今、お持ち致します。」


「よ~し余は参るぞ、源三郎、後の事は頼んだぞ。」


「はい、承知致しました。」


 殿様は直ぐ賄い処へと向かった。


「あの~源三郎様、お殿様はわしらの事を知って居られるんですか。」


「はい、勿論全てご存知ですよ。」


「でもお殿様は何も言わなかったですが。」


「う~ん、どの様に説明すれば皆さんに分かって頂けますかねぇ~。」


「総司令、我が野洲もですが、我々の連合国の殿様は同じで有ると申されては如何でしょうか。」


「ですがねぇ~、私も説明の方法が、まぁ~簡単に申しますとね、貴方方の処遇は私に任せたと言う事で

すよ。」


「では、源三郎様はご家老様ですか。」


「いいえ、私は源三郎で家老では御座いませんのでね。」


 小隊長の工藤は全く意味が分からない、源三郎は野洲の家老では無いと言うのだ。


「源三郎様、私は全くと言っても良い程理解が出来ておりませんのでお許し下さい。」


「別に宜しいですよ。」


 其の時、雪乃が猟師達の食事を運んで来た。


「奥方様、私達が致しますので。」


「まぁ~そんな、私は奥方様では御座いませんよ、其れに宜しいのですよ、私にも仕事をさせて頂きたい

のです。」


 工藤も兵士達も頭が混乱し始めた、家臣は奥方様と呼び、雪乃は奥方様では無いと否定している。


「源三郎様、私は今大変頭が混乱しております。」


「まぁ~其れも仕方が無いと思いますよ、雪乃殿はね、私の一番大切な妻ですからね。」


「えっ、では源三郎様の奥方様で、私は大変失礼を致しました。」


 工藤は最初雪乃は腰元だと思っていたのだ。


「宜しいですのよ、私はね何も気には致しておりませんのでね、まぁ~其れよりもお腹いっぱいに食べて下さいね、其れとお魚を残しますと大変な事になりますのでね。」


「えっ、魚を残すと大変だと、何故で御座いますか。」


 家臣達は殿様の大好物だと知って要るので笑って要る。


「はい、其れはねぇ~、今も殿が申されておられた思いますが、この魚は片口鰯と言って、殿様の大好物

ですのよ。」


「えっ、この魚を殿様が食べられるのですか。」


「はい、今も申されておられましたでしょう、余の分は有るのかと。」


「殿様がですか。」


「はい、そうですよ、まぁ~今頃は賄い処で美味しい美味しいと申されて食べておられますよ。」


「えっ、正かお殿様が賄い処で食事をですか。」


「はい、その通りです、殿はご自分の部屋にはおられず、普段はこの部屋で源三郎様とお話しをされてお

られますよ。」


 野洲では今は当たり前の話しなのかも知れないが、工藤は全く訳が分から無い。


 勿論、工藤も藩主は知って要るが、食事を賄い処で取るとは考えられ無い話で、今は何を聴いても驚きの連続で有る。


「雪乃殿、今工藤さんや元官軍の兵士さん達に話されても理解するのは無理だと思いますのでね、そのお

話しは日を改めましてと言う事に。」


「はい、申し訳有りませんでした。」


 雪乃は工藤達、元官軍兵の気持ちを和らげるつもりだと源三郎も分かって要る。


 だが、今は作戦を練る事の方が大事なのだ。


 猟師の作次は先程から考え込み、元官軍の小隊長の工藤が言った、小隊長と兵士達を何とかして助けた

いと。


「作次さんの考えは如何でしょうか。」


「源三郎様、わしはさっきから考えていたんですが、宜しいでしょうか。」


「はい、勿論ですよ、ではお聞きします。」


「では、兵隊さん達はわしら猟師に命を預けて貰えますか。」


「えっ、命を預けるとは。」


 小隊長の工藤は猟師から突然命を預けろと言われ、一体何の話しなのかもさっぱり分からない。


「源三郎様、わしの計画は変わりませんが、わしらと一緒に此方の兵隊さん達も行くんです。」


「はい、其れで。」


 この時、源三郎は猟師作次の計画が読めたので有る。


「お侍様も全員で行きますが、登って来る兵隊さん達をこの人達が話しをして言うより説得して貰うんで

すが、宜しいですか。」


「猟師さん、私は参りますよ、私が参り登って来た小隊長を説得します。」


「小隊長、オレも行くよ、だってオレ達の仲間なんだから、仲間を見捨てて此処に生き残ったらオレは天

国に行けませんよ。」


「小隊長、わしも行きますよ、地獄のエンマ大王様に何て説明するんですか、大王様は何故お前は仲間を

見捨てたって、其れで舌を抜かれたら、わしは絶対に行きますからね。」


「小隊長、オレ達全員で行きましょうよ。」


「工藤さん、どうやら答えは決まりましたね。」


「はい、みんな有難う、猟師さん、私達全員で参りますので宜しくお願い致します。」


「はい、分かりました、でも若しもですよ、若しも一人でも鉄砲を撃てば、お侍様が一斉に矢を放ち、兵

隊さん達も含め全員が狼の餌食になりますが、その覚悟だけはして下さい。」


「はい、勿論です、承知致しました。」


「源三郎様、じゃ~今から細かい話をしますが宜しいですか。」


「はい、勿論ですよ、作次さんにお任せしますので、ご家中の皆様方も今から作次さんが計画を話されま

すので、よ~く聞いて下さい。

 工藤さん達全員もですよ、では作次さんお願いします。」


「はい、じゃ~話しますが、分からない事が有れば其の時に聴いて下さい。」


 猟師の作次は猟師仲間、野洲の家臣、そして、元官軍の工藤達全員に詳しく話すが、説明だけでも半時、いや一時以上も掛かったが誰もが真剣に聞いて要る。


「猟師さん、お聞きしたいのですが、今言われました合図の鉄砲ですが、我々の連発銃を使うと言うのは

駄目でしょうか。」


「其れが駄目なんですよ、狼はわしら猟師が使う鉄砲の音を知ってますので、仮に兵隊さんの鉄砲で合図

しますと、狼はこの音は猟師の鉄砲とは違うと、其れこそ大群で襲って来ますよ。」

 この山に住む狼は賢い、数百人規模の兵士が山に入って来ると分かれば、其の時から狼は大群で

襲う頃合いを探して要る。


 だが猟師の使う鉄砲だと分かれば、幾ら賢い狼でも直ぐには襲っては来ないと猟師達は知って要る。


 狼の大群を寄せ付けない為にも官軍の連発銃よりも猟師達の火縄銃の音の方が効果は有るのだと。


「はい、よ~く分かりました。」


「他に何か有りませんか。」


 暫くの間沈黙が続き。


「皆さんも承知して欲しんですよ、わしは何としてでも残りの人達を助けたい、だけどこれも戦で、例え

兵隊さん達が全員農民や漁民だと分かっても、わしらに攻撃する様な事になれば、お侍様、遠慮なく弓を

引いて下さい。」


「工藤さん、大変、苦しい決断を迫られますが、これも仕方が無い事ですからね、其れだけは分かって頂

きたいのです。」


「源三郎様、承知致しました。」


「そうですか、では質問が無ければ、加世様とすず様は。」


 加世とすずと他の腰元達は全員が泊まる準備に入っており、暫くすると。


「源三郎様、全て終わりましたので。」


「そうですか、有難う、では申し訳有りませんがこの人達を案内して下さい。」


「さぁ~皆さん、こちらにどうぞ。」


「えっ、一体何処に行くんですか。」


「はい、皆様方の寝所で御座います。」


 加世とすずと腰元達はニコニコ顔で元官軍兵や猟師達を寝所へと案内して行く。


「工藤さんは少し残って頂きたいのです。」


「はい、承知致しました。

 みんな、明日は早いからよ~く身体を休めて下さい。」


「そうでした、明日は夜の闇夜に出ますのでね、そうですねぇ~八半にしましょうか、ご家中の皆様方も

ご苦労様でした、明日は宜しくお願い致します。」


「総司令、では我々も失礼します。」


 猟師達の全員と元官軍兵、そして家臣達も部屋を出た。


「雪乃殿、申し訳有りませんが。」


「はい、直ぐにお持ち致します。」


「工藤さん、実はねぇ~この城に元官軍のお人が居られるのですよ。」


「えっ、正か。」


「本当ですよ、其れでね明日全員の救出が終われば対面して頂きたいと思いますが、如何でしょうか。」


「はい、承知致しました。

 そうでした、源三郎様、私は大事な事を忘れておりました。」


「工藤さん、大事な事をと申されますと。」


「はい、実は部隊には大量の連発銃と弾薬が有るのです。」


「えっ、何ですと大量の連発銃と弾薬ですか、ですが何故その部隊に有るのですか。」


「はい、これは隊長が司令部に内緒で持ち出したと他の者は思って要るのですが、我々の部隊は本来連発

銃と弾薬を有る所に届けるのが任務でして。」


「では、幕府軍の捜索と言うのは。」


「はい、部隊の中でも知って要るのは中隊長まででして、私は通り掛かりに聴いただけで、何処に届ける

のかも知らないのです。」


 大量の連発銃と弾薬を一体何処に届けると言うのだ。


 其れよりも源三郎は今どの付近で戦が行なわれているのか、其れすらも知らないので有る。


 大量の連発銃と弾薬が手に入れば、連合国にとっては大助かりなのだ。


「ですが、何故大量の連発銃と弾薬が必要なのでしょうか、私は今どの付近で戦が行なわれているのかも

知りませんので。」


「実は私も詳しくは知らないのですが、この高い山沿いに進み、山が海岸に続く所から四日程の所まで運

ぶ事になって要るそうでして。」


「えっ、その様なところまで官軍は行かれているのですか。」


「其れ以上の話は聞けませんでしたので。」


 海岸沿いに進むと、だがあの辺りは確か幕府の領地のはずだ、これは何か裏が有るのではないかと源三

郎は思うが、別に確信が有るのでは無い。


「其れで大量の連発銃と弾薬をどの様にされるおつもりなのですか。」


「私は之には何か裏が有るのではないかと考えて要るのです。

 あの隊長と言うのはお金には大変な執着心を持っておりまして、今の中隊長達とも裏で何かの取り引き

があったと、其れは大枚を賄賂として渡し、其れで中隊長になったとの噂話が出ておりましたのでしょう

が、私は其処まで確認は出来ていないのです。」


「そうでしたか、では農村と漁村から集めて来た人達も裏で何かの取引があったのでしょう。」


「はい、私もその様に思っておりまして、其れで私は大量の連発銃と弾薬をこのお城に運び込もうと考え

たのですが。」


 何と言う事だ、隊長と中隊長達は何かの裏取引に連発銃と弾薬を運ばせていると、工藤は連発銃と弾薬

の全てを源三郎に渡すと言うので有る。


 だが大きな問題が有る、山越えの方法でどの様な方法でお城に運び込むのだ。


「其れに隊長と中隊長達が使っておりましたテントと言うのが有りまして、これを残すと後日この地に来

た部隊が余計な詮索をするのではと考えております。」


「では、工藤さんは部隊が山の麓で野営をしていたと言う証を全て無くす様にと考えておられるのです

か。」


「はい、私は既に気持ちの中では官軍の事は考えておりません。

 他の兵士を助けて頂けるので有れば、私が全兵士にお願いし、全てを野洲に運び込みたいと思って要る

のです。」


「工藤さんのお気持ちは私にも理解出来ますが、問題は目前の高い山をどの様な方法を用いて越すかと言

うのです。


 この山は人間だけでも大変な苦労と言うよりも危険が有るのですよ。」


「はい、勿論、私も其れは分かって要るのですが。」


「工藤さん、まぁ~其れは後にしてですね、先にお仲間を救い出す事に専念しましょう、全てが終わって

から考えても遅くは有りませんので。」


「はい、承知致しました。」


「加世様、ご案内を宜しくお願い致します。」


 加世は元官軍の工藤を兵士達の所へと案内して行く。


「源三郎様、何か大変な事になって来た様に思うで御座いますが。」


「はい、其れで私も明日は一緒に参りますので。」


「はい、承知致しました。」


 雪乃も今回は大変な危険を伴うとは考えては要る。


 官軍の兵士達は五百人と、更に大量の連発銃と弾薬が手に入るので有れば、源三郎の事だ必ず行くだろ

うとは察していた。


「雪乃殿、申し訳有りませんが、全員の朝とお昼の。」


「勿論で御座います、先程から賄い処では全員で明日の準備に入っておりますので、ご心配は御座いませんので。」


「其れは有難い事で、賄い処の皆様方にも宜しく伝えて下さい。」


「いいえ、皆様方が危険を顧みず参られるのですから、私達に出来る事はこれくらいしか出来ませぬので、源三郎様は何も。」


 やはりこの様な時には雪乃の存在は大きい、加世もすずも雪乃から指示を受けずとも行動に入ってくれ

る、この三名がいなくなったと考えれば、源三郎が全てを手配する事になるのだ。


「源三郎様、お食事は。」


「あっそうでしたね、私もすっかり忘れておりました、雪乃殿は。」


「はい、私もで御座います、では直ぐにお持ち致しますので。」


「いいえ、私と一緒に参りましょうか、其れに多分ですが、加世殿もすず殿も未だで有れば一緒に如何で

しょうか。」


 雪乃は先に戻り食事の準備に入った。


そして、明くる日のまだ夜中の八半前には雪乃と賄い処の女中達が全員の朝とお昼のおむすびを執務室

に運んで来た。


「皆様方、この様な時刻に申し訳御座いませぬ。


 今日は大変重要な一日をなりますが、何卒宜しくお願い致します。」


 家臣達に弓と矢筒には二十数本の矢が入って要る。


「では、皆様方、準備が終わりましたら出発致しますので。」


「えっ、総司令も参られるのです。」


「勿論、私も参りますよ、私も山の向こう側には参った事が有りませんのでね、まぁ~一度くらい

は見たいと思いましたのでね、皆様方の邪魔は致しませんので宜しくお願い致します。」


 源三郎は何時もの木剣を腰に差し、何故か楽しそうな顔で先頭で大広間を出た。


「雪乃、源三郎の事じゃ、何も心配は要らぬ。」


「えっ、何故叔父上様がご存知なので御座いますか。」


「雪乃、余も源三郎の考えて要る事は分かる、余は全員が無事この城に戻れる様に願っておるのじゃ、今

は其れだけの事しか言えぬのじゃ。」


 野洲の殿様は何も出来ない自分が情けないのだろうか、賄い処でも何時もの殿様ならば女中達と話しをする。


 だが昨日は何かを考えて要る様子で深刻な顔付だったと、女中達の話で有る。


「叔父上様、今度は一体どの様になるので御座いましょうか、私は何故か胸騒ぎがするので御座いま

すが。」


「雪乃の気持ちは余も理解出来るが、雪乃、今度ばかりはのぉ~源三郎が参らなければならぬと思うの

じゃ。」


「はい、勿論、私も其れは十分理解はしておりますが。」


「雪乃、今は皆の無事を祈る事だけが余に出来る事なのじゃ、雪乃も一緒に祈ってはくれぬか。」


「はい、勿論喜んで祈らせて頂きたいと思います。」


「では、余は部屋に、いや執務室に居るからの。」


 殿様は執務室へと向かった。


 何時もの執務室ならば源三郎を含め、多くの家臣が仕事を行なって要る。


 だが今日は誰もいない。


 源三郎を先頭に家臣全員と猟師が十数人、其れに元官軍の兵士達が十数名が一路山向こうの官軍部隊五

百名近くがいるところへと早足で行く。


 夜が明けるまでにはまだ数時が有るが、誰もが話をする事も無く、半時が経つ頃には山道に入って行く。


 その道は猟師達が知る道で、其処までは狼は来ないと、だが遠くからは狼の遠吠えが聞こえ、元官軍の

兵士達は狼の遠吠えに反応し身を屈め身震いをして要る。


 一方、山向こうの官軍の兵士達はと言うと毎夜狼の遠吠えに神経が参っている様子で寝不足が重なり怯

える毎日で有る。


 そして、猟師が約束した十日近くの朝を迎えた。


「隊長、其れにしても猟師の来るのが遅いですねぇ~。」


「そうだなぁ~、若しかすれば予定の猟師が集まらないのか、其れとも我々官軍が攻めて来たとでも向こ

う側の国で騒いでいるのだろう。」


「隊長、山の向こう側にも国が有るのでしょうか。」


「其れは分からないが、若しも有ると考えれば猟師の来るのが遅い理由も分かる。」


「そうですねぇ~、でも隊長我々の任務ですが、何処に運ぶんですか。」


「実はなぁ~、私の知り合いと言うか佐渡に昔馴染みがいるんだ。」


「えっ、佐渡と申されますと、幕府の、え~正か。」


「その正かだ、私は佐渡の知り合いから密書が届いたので中を見ると新式の鉄砲が欲しいと。」


「ですが、幕府の。」


「其れは分かって要る、わしはあの連発銃と弾薬と引き換えに金五百貫を受け取る話しになって要る。」


 隊長は密かに官軍の連発銃と弾薬を幕府軍に横流しの密約を交わしていた。


「隊長、其れで私達は一体どうなるのですか。」


 隊長もだが話しを聞いて要る中隊長達も部下の事もだが、全ては我が身の為だけを考えて要る。


「まぁ~よ~く聞くんだ、その金五百貫を持って異国に渡る話しも手配済みなんだ。」


 隊長は金塊を持ち国外へ脱出する計画をしており、部隊の中隊長達も知らなかったので有る。


「隊長、ですがその様な事は許されるのですか、其れに兵士達は。」


「いゃ~兵士達は何も知らぬ、私が聴いた話では前の高い山を越えれば佐渡までは海岸沿いに進めば数日

で行けると。」


 隊長は一体誰に聴いたのだろうか、山越えさえ出来れば後は簡単に佐渡まで行けると、だが其れは甘い

考えで有った。


 山向こうには世間を全くと言っても良い程過言ではない連合国と言う官軍さえも知らない国家が存在し

ており、その中でも野洲の源三郎が知ったとなれば、果たして隊長の思惑通りに山越えし海岸沿いに進む

事が出来るのだろうか。


「さぁ~皆さん、後少しで頂上ですよ。」


「えっ、もうそんなにも登ったのか。」


「ええ、もうそろそろ夜が明ける頃だと思います。」


 猟師が言う夜明けが近く、東の空が明るくなり始め。


「ゴ~ン、ゴ~ン。」


 と、城下の寺の鐘の音が聞こえて来る。


「あれは明け六つの鐘で御座います、源三郎様急ぎましょう。」


「はい、承知致しました、皆さん、後一息で頂上ですので頂上に付きましたら、昨日猟師さんが話された

通りに別れ予定の場所に着きますれば、おむすびを頂き後は待つと言うだけですので急ぎ参りましょうkかねぇ~。」


 今は時との戦いだ、官軍との約束した日時は過ぎ今頃はイライラとして待って要るだろう、猟師と家臣

達は決められた所へと向かって行く。


「源三郎様、わしはこの間々下りますので。」


「作次さん、危険ですから気を付けて下さいね。」


 だが其の時には早くも猟師の作次は下り始めて要る。


「工藤さんも皆さんも仲間を助ける為ですからね、一応念の為に連発銃は持ってて下さいね、若しもの時

には私が判断致しますので。」


「はい、勿論で御座います。


 今の私は官軍に対しては何の未練も有りませんので、私は其れよりも仲間の兵士だけを助けたいので御

座います。」


「総司令、我々全員が同じ思いで御座いますので。」


「分かりました、まぁ~其の前に腹ごしらえとしましょうかね、腹が減っては戦は出来ぬと申しますから

ねぇ~。」


「はい、有難う御座います、みんな有り難く頂いて下さいね。」


 元官軍の兵士とは言っても元々が農民や漁民なのだ、そして、今向こう側に居る兵士達は無理にと言っ

た方が良いのか集められて来た仲間で、今は十数名の元官軍の兵士を野洲の家臣と猟師が協力し救出作戦

に入って要る。


「隊長、先日の猟師が着きました。」


「隊長様、大変遅くなりました。」


「お~先日の猟師か、もう来ないと思っていたのだぞ。」


「いいえ、わしも約束しましたので、みんな隊長様だ。」


 猟師達は官軍の隊長に頭を下げた。


「隊長様、其れでわしら猟師仲間では名人と言われる猟師を連れて来ましたので。」


「猟師の名人だと。」


「はい、わしらは名人と呼んでおりまして、源さんと言い、源さんは狼の息も分かり、今何頭くらいが何

処に居るのかも全部分かりますので、名人さえ来てくれれば、其れはもう鬼に金棒で御座います。」


「そうか、其れで、何か作戦でも有るのか。」


「はい、名人によりますと、もう百頭ほどの狼が来てるって。」


「えっ、何だと百頭の狼が来ているのか、では登ると言うのは無理では無いのか。」


「隊長様、何も心配は要りませんよ、今から簡単に説明しますので。」


「よし、分かった、中隊長と小隊長は全員集合せよ。」


 隊長の号令で中隊長と小隊長の全員が集合し。


「じゃ~隊長様、今から簡単にお話しをしますので。」


 作次は昨日決めた作戦の内容を話し。


「隊長様、其れで全員が登られるのでしょうか。」


「いいや、私と中隊長は最後に向かうから。」


 やはり元官軍の小隊長が言った通りで、全ての安全が確認出来るまでは登ら無いと言うのだ。


「じゃ~小隊長様と兵隊さん達だけが先に登られるのですか。」


「そうだその通りだ、其れで。」


 作次はその後も説明を続け。


「よ~し分かった、ではお主達が合図するまでは我々は此処で待機すれば良いのだな。」


「はい、其れでこれだけは皆さんに守って欲しいんです。


 皆さんは絶対に鉄砲は撃たないで欲しいんです。」


「何故だ、我々が合図をしても問題は無いと思うが。」


「はい、でも隊長様、此処の狼は特別に賢いんですよ、わしらの鉄砲の音と兵隊さん達の鉄砲の音とは違

いますので、わしら猟師が鉄砲を撃ちますと、狼は猟師がいると判断して襲っては来ませんが兵隊さん達

が鉄砲を撃ちますと鉄砲の音が違いますので猟師はいないと判断し、其れはもう大群で襲って来ます。」


 作次の説明に隊長も中隊長達も頷いており、やはり、此処は猟師の言う事を聴かなければ無事に山を越える事は出来ないと分かって要るのか、だが全ての兵士を先に登らせては大量の連発銃と弾薬は一体どの様な方法で運ぶのだろうか、まぁ~其れは良いとして。


「小隊長、今から山に登るが、今も猟師が言った様に兵士には絶対に発砲はするなと伝えるんだ、では第

一小隊から出発せよ。」


 第一小隊の兵士が作次と名人の案内で山に入って行く。


 小隊長を先頭に兵士達は進むが、背丈以上も有る熊笹で麓から見れば兵士の姿は全く見えない。


 作次と名人は何も言わずに熊笹を分けて進み、やがて半時が過ぎた頃、元官軍と弓を持った家臣がいる

ところに差し掛かった。


「おい。」


「えっ。」


 突然飛び出して来た兵士の姿を見て。


「えっ、お前達は偵察に。」


「小隊長、私です、工藤です。」


「工藤さん一体どうされたのですか、其れに。」


「小隊長、簡単に説明します、我々は貴方方を助けに来たのです。」


「えっ、助けるって、誰からですか。」


「此処には山向こうの国から弓を持った武士がみんなを狙っており、何時でも放つ事が出来るのです。

みんなが生き残りたいので有れば、今は何も言わずに私の指示に従って下さい。」


「工藤さん、一体何の話をされて要るのか、私は全く分からないのですが。」


 其の時、源三郎が現れ。


「私は源三郎と申しますが、山向こうの国の者で、昨日工藤さんから全てをお聞きし、今日皆さんを助る

為に家臣の全員が着ておりますよ。」


「兵隊さん、本当ですよ、わしら猟師も協力して兵隊さん全員を助ける為に来たんですからね。」


「オレ達はあの隊長と中隊長達に騙されたんだ、オレ達はこちらの源三郎様に助けて頂いたんだ、オレが

嘘を言ってる思って要ると思うんだったらお侍様を呼ぶよ、お侍様、出て来て下さい。」


 元官軍の兵士が呼ぶと、周りから弓を持つ家臣が現れ。


「小隊長、詳しい話は後からでも出来ますよ、私も本当はあの隊長と中隊長達から逃げたかったので。」


「では次の小隊が登って来るまでに話しますので、作次さん、第一小隊は成功です。」


「じゃ~皆さんは、昨日決めた通りに。」


 元官軍の兵士達は次の小隊が登って来るところへと移動を開始した。


「お前は偵察に行ったと聞いたんだが。」


「うんそうだ、だけどあの隊長の事だ、きっと小隊長と兵士全員が登ってから来ると思うんだ、と言う事

はだよ、オレ達は隊長と中隊長達の為に狼の餌食になってもいいと考えて要ると思うんだ、絶対に間違い

は無いんだから。」


「やはりか、あの隊長はわしらを人間と思って無いんだからなぁ~。」


「其れに比べたらあのお侍様はオレ達には大変お優しいんだ、昨日もなオレ達に腹いっぱいになるまで食

べろって。」


「えっ、本当なのか。」


「何でわしらが嘘を言う必要が有るんだ、其れに嘘を言ってわしらに何の得が有るんだよ、其れにだよ、

弓を持ってるお侍様も兵士だけは助けるって言われてるんだ、だからわしらと一緒に仲間の全員を助けに

行こうよ。」


「よ~し分かったよ、オレは行くよ。」


「わしも行くからなぁ~。」

 

 最初の小隊の全員が次に登って来る小隊の全員を助けに行くと決めたので有る。


「源三郎様、あの隊長と中隊長達の事です、最初の百人が登り終われば、安全だから次は全員を登らせ

るって言ってると思います。」


「分かりました、では昨日考えた通りに進めますが、その隊長は兵士の安全が確実になってから登って来

るでしょうから、兵士の皆さんはどの様にされるのか分かりませんが、私は隊長と中隊長達の全員を。」


「総司令、我々にお任せ下さい。」


 家臣も源三郎が何を考えて要るのか分かって要る。


「ですが、決して殺してはなりませんよ。」


「はい、勿論で御座います。」


「工藤さん、あのお方はどなたなのですか。」


「源三郎様と申され、向こうの国には其れはもう立派なお城が有り、其処の御国では総司令と呼ばれ、農

民や猟師に、まぁ~簡単に言えば領民を大切にされておられるお方ですよ。」


「では兵士が農民だと言う事も知って居られるのですか。」


「勿論ですよ、其れと私達小隊長と呼ばれている者達の事も全てお話ししましたので。」


「では我々が官軍の兵士で幕府軍と戦の最中だと言う事もですか。」


「はい、全てご存知で、私も源三郎様に命を預けましたよ。」


 工藤は源三郎に全てを話し、今は何も心配する事も無く、連合国に身を預けているのだと、話す表情に

は以前の様な悲壮感は感じられないので有る。


「源三郎様、この下でお侍様が待っておられますので、他の皆さんは一度隠れて下さい。


 わしらが今から鉄砲の音で合図しますので。」


「パン、パン。」


 と、火縄銃の撃つ音が山に響いた


「よし次の小隊は行け、猟師も頼むぞ。」


「はい分かりました、では皆さんオレの後から来て下さい。」


 二番目の小隊が出発し、その後は最初の元官軍の兵士全員と先に登った兵士達は話をすると全員が分

かったと、其れからは次々と合図が有り。


「さぁ~これで最後ですねぇ~。」


「はい、では合図しますので。」


「パン、パン。」


 と、最後の合図が有り、猟師の後ろには最初の百人全員が登って行った、そして、暫くの間置いて、其

れは次に登って来るのは残りの兵士達が一斉に登って来る、頂上で待機中の兵士達に。


「皆さん、今から残り兵士が登って来ますので、皆さんは別れて下さいね、そして、先程猟師さんから言

われた所で登って来た兵士に話をして下さい。

 其れが全て成功すれば兵士の全員が助かりますのでね。」


「源三郎様、誠に有難う御座います。


下に置いて有りますテントの中に有る大量の連発銃と弾薬も運び上げれば宜しいのでしょうか。」


「そうですねぇ~、まぁ~今は其れよりも残りの兵隊さんを助ける事に方が大事ですからね、全てが終わってから考える事にしましょうかねぇ~。」


「はい了解しました。

 では全員猟師さんの合図で言われた通りに行って下さい、お願いします。」


 工藤は残りの兵士全員を助ける事に専念した。


「パン、パン。」


 と、合図の鉄砲の音が聞こえた。


「よ~し今からは残りの兵士全員登れ。」


 残りの兵士が一斉に登り始め、猟師達が先頭になり進むが、時々。


「少し待って下さいね、狼がこちらの様子を見ておりますで。」


「パン、パン。」


 と、猟師が鉄砲を撃ったので兵士達も一斉に連発銃を構えるが、その狼の姿は何処にも見えない。


「ねぇ~猟師さん、狼は何処に居るんですか、姿が見え無いのですが。」


「兵隊さん、此処の狼は物凄く賢いので簡単には姿を現しませんよ。」


「でも、今。」


「そうですねぇ~、今は上の方には五十頭ほどはおりますが、わしらの火縄銃は恐ろしいと知ってますの

でね、これで当分の間は近付かないですが、少し急ぎましょうか。」


 其れは猟師の大芝居で兵士達は其れからは必死で登って行き、半時程が過ぎた。


「少し待って下さいね。」


 其の時、先に登った兵士達が一斉に現れた。


「えっ、何故君達が此処に要るんですか。」


「小隊長、実はオレ達最初に登った兵士全員を助けて下さったんですよ。」


 半町の間に百数十人の兵士と小隊長が別れ、今登って来た兵士達に話をして要る。


「えっ、助けて下さったって、一体。」


「えっ、工藤さんでは無いですか、一体何が有ったのですか。」


「はい、では今から簡単に説明しますからね。」


 工藤は数人の小隊長に昨日からの出来事を話した。


「ではそのお方が工藤さんを助け、そして、今日、我々を助けに来たと、ですが本当なのでしょうか、私

は何か裏が有る様な。」


 其の時、野洲の家臣が熊笹を搔き分け現れた。


「私は本当の事を言って要るのです。


 其れにあの隊長は連発銃と弾薬を大量に持って来ましたが、一体何処に運ぶのでしょうか。」


「工藤さん。」


「源三郎様。」


「えっ、このお方が工藤さんの申されました源三郎様ですか。」


「はい、私は源三郎と申しまして、昨日からの話は全て本当ですよ、私はねぇ~兵隊さんの殆どが農民さ

んだと聞いておりますが、間違いは有りませんか。」


「はい、其れは本当ですが、私達、小隊長は。」


「はい、その話も全て工藤さんから伺っておりますので、私は別に貴方方を責める気持ちは有りませんが、兵隊さんだけは全員開放して頂きたいのです。」


「はい、其れは私に異存は有りませんので。」


「皆さんは如何でしょうか、この山を下れば我々の国が有りますが、我々の国では皆さんを責める事もし

ませんが、皆さんが故郷に戻りたいので有れば、私は何も引き留めはしませんのでね、其れに皆さんは今

官軍の兵士では無くなりましたので自由ですよ、まぁ~今の話は直ぐに答えなければならないと言うので

は有りませんのでね。」


「あの~お侍様、オレは故郷には誰もおりませんので。」


「わしには老婆が一人でおります。」


「まぁ~まぁ~そのお話しは後にしまして、私は今から行くところが有りますので。」


「総司令、正か。」


「はい、最後に残った隊長と中隊長達のところへ参りたいのですよ。」


「総司令、お一人では危険ですので、我々もご一緒させて頂きます。」


 何と、源三郎は最後に残った、隊長と中隊長達のところへ行くと言うので有る。


「源三郎様、私も参ります。」


「工藤さんは別に宜しいですよ、皆さんと一緒に。」


「いいえ、私ははっきりと隊長と中隊長達に決別したいのです。」


「分かりました、では参りましょうか。」


「工藤さん、ですがあそこには連発銃が有りますよ。」


「そうでしたか、でも私は何も心配はしておりませんよ、鉄砲と言う物は狙いを定めなくては例え撃って

も当たりませんからねぇ~。」


「そうでした、あの隊長は剣術には自信を持っておりますので。」


「其れは承知しておりますよ、まぁ~私も多少は心得ておりますので。」


「でも無茶ですよ、私も参りますので。」


「私も参りますので。」


 其れからは小隊長の全員が一緒に行くと。


「源三郎様、オレ達は官軍の兵士では無くなったんですよねぇ~、だって開放されたって言われましたよ

ねぇ~。」


「はい、その通りですよ、皆さんは全員が自由の身ですからね。」


「だったら、オレが何処に行ってもいいんですよねぇ~。」


「はい、勿論ですよ、誰も引き留めはしませんので。」


「だったら、オレも行きますよ。」


「いいえ、其れは駄目ですよ。」


「でも、今源三郎様は自由だって言ったじゃないですか、だからオレはあの隊長と中隊長達に言いたいんですよ、オレ達は自由になったんだってね。」


 其れからは兵士達が次々と一緒に行くと言い出し、これは源三郎も予定外の話で有る。


「ですが、その様な事をされますと、皆さんは今日中に山を越える事が出来なくなりますよ。」


「源三郎様、オレ達はいいんですよ、お侍様もまぁ~一度くらいテントの中で寝て下さい。


 お城とは違いますが其れは楽しいですよ。」


「総司令、我々も一生に一度の経験をさせて頂きたいと思いますが。」


「其れに今夜の賄いも有りませんので。」


「お侍様、今夜の事はオレ達に任せて下さいよ、昨日のご飯には勝てませんが。」


「そうですねぇ~、まぁ~官軍の食事も味わえるのですから、では参りましょうかねぇ~。」


 まぁ~何と元気の良い兵士、いや元官軍の兵士達だ。


「なぁ~あの隊長って、物凄く強いんだって聞いたんだけど。」


「うん、其れはオレも聞いたよ、でも何であの中隊長達が隊長に言いなりになったんだろうかなぁ~、オ

レにはさっぱり分からないんだ。」


「其れはねぇ~隊長に脅かせられていましてね、今まで何人もの中隊長があの隊長に切り殺されたって聴

きましたよ。」


「其れは私も聴きました、隊長は中隊長になれば楽が出来ると言って、小隊長達を誘い込んだと。」


「小隊長、何で中隊長達は隊長に言わないんですよ。」


「其れはねぇ~、隊長は自分よりも強い武士は入れずに弱い武士だけを入れ、自分の手足をなる様に、で

すが嫌だと拒否すればその場で切り殺すと言うやり方で今の中隊長達に恐怖心を植え付けた。

 今の中隊長は隊長が恐ろしくて何も言えないのだと、私は、有る中隊長から直接聴きましたよ。」


 其れからも話は続いて行くが、数時程して山の麓に有る隊に全員が戻って来た。


「隊長、何故だか分かりませんが、山に登ったはずの兵士達全員が戻って来ました。

 其れと見知らぬ侍達も大勢が一緒にです。」


「何だと全員が戻って来ただと、一体どうしたと言うのだ。」


 隊長がテントから出ると、其処には山に登ったはずの兵士全員と大勢侍が待ち構えて要る。


「お前達は、山に登ったのではないのか。」


「まぁ~まぁ~、貴方がこの部隊の隊長ですか。」


「そうだ、其れが一体どうしたと言うのだ、其れに何故全員が要るんだ。」


「いゃ~実はね、貴方に対して決別を申したいと全員が此処に戻って来たのですがね、其れよりも貴方は

大量の連発銃と弾薬を一体何処に運ぶおつもりなのですか。」


「何故、その様な事を聴くのだ、これは全て司令部からの命令で有る。」


「えっ、隊長、昨日の話しとは違いますが。」


「お前は黙れ、なにも言うな。」


「貴方はその連発銃と弾薬を佐渡に持って行き、金と交換し異国にでも行くつもりでしょう。」


「えっ、源三郎様、本当ですか。」


「ええ多分ね、私の推測通りだと思いますよ、この隊長はねぇ~、皆さんを犠牲にし自分だけが異国に逃

げるつもりでね、皆さんを利用しただけの事ですよ。」


「あの~失礼ですが、ご貴殿は。」


「私ですか、私は源三郎と申しましてね、あの高い山の向こう側の国の者ですよ。」


「えっですが、私が聴いた話では、山を越えると海岸に出其処からは佐渡は近いと。」


「其れはとても無理ですよ、海岸は有りますがね、殆どが漁村でしてね小舟は有りますが、大きな船は有

りませんよ。」


 松川から菊池に至るまでの浜は全てが漁村で小舟しか無いので有る。


「では、どの様にして運ぶのでしょうか。」


「まぁ~其れよりも兵士全員は狼の餌食に、何処かは分かりませんがね、幕府軍が来るのでしょうねぇ~、隊長の手助けにですが。」


 何と言う卑怯な隊長だ、部下全員を犠牲にしてでも我が身だけは救われる様に考えたのだろうが、其れ

を知った相手が悪かったので有る。


「お前達は上官に反抗するのか。」


「ねぇ~隊長さん、オレ達はもうあんたの部下じゃないんでねぇ~、オレはなぁ~源三郎様の子分になったんだ、オレはねぇ~源三郎様だったら命を掛けて守りますよ、だからね。」


「おい、お前、源三郎様をお守りするって、一体どうしてお守りするんだ。」


「そんな事、今のオレに分かるか。」


「お前は本当に単純だよ、今はお前が源三郎様に守られてるんだぞ。」


「あっ、そうか、じゃ~また考えるよ。」


 付近に居た元官軍の兵士達は大笑いして要る。


「よ~し私が如何に強いか見せてやる、覚悟するんだ。」


「そうですか、ですがねぇ~果たして私を切れますかね。」


 何と言う自信の溢れた言い方だと思う隊長だが、横に置いて刀を抜き構えた。


「皆さん、危ないですかね少し下がって下さい。」


 兵士達は数歩下がり円が出来、その中には早くも刀を構えた隊長と、木剣を持ち自然体の源三郎が要る。

 隊長は刀を右や左に激しく動き回るが、源三郎は全く動きもせずに見て要る。


「おりゃ~。」


 隊長は掛け声と共に切り込むと、その一瞬で勝負は終わり、隊長はその場に倒れ呻き声を上げて要る。


「隊長を縛り上げて下さいね、後は中に入れ朝まで放置して置いて下さい。」


 中隊長、小隊長達は元は武士だ、だが余りにもの早業で一体何が起きたのかさえも分からない。


「お主、見えたか。」


「いや、全く分からぬ。」


「何と言う腕前だ、私は初めて恐ろしさを感じましたよ。」


「うん、私もだあの隊長も相当な使い手だが、其れにしても恐ろしい剣だ。」


 中隊長達も小隊長達も源三郎の恐ろしさを感じたのか、暫くは何も言えない状態が続いた。


「お~い、今から夕食の準備をするから手伝って欲しいんだ。」


「よ~し分かったよ、オレ達が行くから。」


 数十人の兵士達は今夜の食事を作りに入ったが、兵士達は何とも晴れやかな顔付をして要る。

 今までの事が何も無かったかの様で、其れは賑やかでと言うよりも大騒ぎの状態で有る。


「なぁ~、おかずの肉が少ないんだ、猟師さんにお願いしようか。」


「そうだなぁ~、じゃ~オレが行って頼んでくるよ。」


「じゃ~、オレも行くよ。」


「源三郎様、隊長の処分はどの様に考えておられるのでしょうか。」


「私は、何もしませんよ。」


「えっ、其れでは他の者達が。」


「はい、勿論、承知しておりますがね、私は何もしませんが隊長の両足は砕けて身動きも出来ませんので、此処からは何処にも行く事は出来ませんよ。」


「其れでは、この間々放置して置くのですか。」


「はい、私はねぇ~、昨日元兵士からお話しを聴きましたが、私もですが、皆さんの手で殺せば皆さんの

心が汚れますのでね、まぁ~明日私達が引き上げれば分かると思いますよ。」


「其れでは、やはり狼の。」


「はい、狼と他に烏や猪もおりますので、何も残らないと思いますよ。」


 源三郎は何時もの様に平然と言うのだが、元官軍の兵士達も中隊長達や小隊長達は源三郎が余りにも恐

ろしいと声も出なかった。


 両足を砕かれた隊長は呻き声を上げて要るが、隊長の末路は悲惨な最後となる事だけは間違いは無いと、中隊長達も小隊長達も思ったので有る。


「其れと皆さん、お話しは変わりますが、此処に有ります大量の連発銃と弾薬と、其れに他の物はどの様

にされるのですか。」


「源三郎様、私は全て野洲のお城へ運び込む様にと考えて要るのですが、如何でしょうか。」


「これの全てをですか。」


「はい、我々全員が協力すれば出来ますので、其れに後日若しも此処に官軍が来れば何も残って無ければ

分かりませんが、何か少しでも残すと思わぬ事態を引き起こす事にもなりかねませんので全て引き上げた

のです。」


「ですがねぇ~、これだけの物を運ぶとなれば荷車では山を越す事は無理だと思いますよ。」


「源三郎様、彼らの顔を見て頂きたいのです。

 私は今まであの様に楽しそうな姿を見た事が無いのです。

 今の彼らに城まで運べと言えば、全員が喜んで運ぶと思うので御座います。」


 源三郎もこれだけの資材と大量の連発銃と弾薬は欲しい、だが一体どの様な方法で運ぶのだろうか。


「はい、分かりましたが、ですがどの様な方法を用いて運ぶのですか。」


「源三郎様、簡単ですよ、連発銃と弾薬の入った箱は必要有りませんので、其れとこのテントですが、全

てを解体すれば何とかなりますので。」


「はい、分かりました、ではお任せ致しますので宜しくお願い致します。」


「はい、では、お~い第五中隊は全員集合せよ。」


「中隊長、申し訳有りませんが、私は先程も彼らに言いました通り、貴方方は自由だと、ですから命令す

るのでは無く、お願いをして頂きたいのです。


 命令となれば嫌でも従わなければなりませんが、お願いは貴方にしか出来ないのでお願いしますよと、

言う意味も有りますので。」


「はい、承知致しました。」


 第五中隊の兵士全員が集まり。


「みんなに頼みが有ります、私は此処に有る連発銃と弾薬や他の物を野洲のお城まで運びたいのですが、

皆さんの協力をお願いしたいのですが如何でしょうか。」


「中隊長、何時もと違いますよ、何時もの様に命令して下さい。」


「いいえ、貴方方は官軍からは開放され今は自由の身ですからね、私は命令を出す事は出来ないのです。

 其れよりも私は皆さんにお願いをしたいのです。

 まず連発銃と弾薬の入った箱は必要有りませんので。」


「じゃ~中隊長、オレ達に任せて下さい。

 なぁ~みんな、明日運べる様に今からでも準備に入ろうか。」


「よ~し決まった、じゃ~みんなで手分けして要る物と要らない物を分ける事から始めるとするか。」


「よ~しみんなやろうぜ。」


 第五中隊の兵士だけの予定が炊事に入る者と、撤収に入る者達が分れ、其れは見事な程の段取りと言う

のか早さとでも言うのか、食事の準備が出来るまでに終わったので有る。


「そうだ今夜は交代で見張りに立つんだが、かがり火が要るから、その時に必要が無くなった物を燃やし

たらどうだろうかなぁ~。」


「うん、そうだ其れがいいよ箱も要らないからなぁ~。」


「よ~し今の内だ、かがり火の準備もやろうぜ。」


 何とも元気の良い元官軍の兵士達で有る。


「お~いみんな食事が出来たぞ、みんなで運んでくれ。」


 一体、何人の兵士が動いて要るのだろうか。


「源三郎様、これが官軍の食べ物なんですが、どうか食べて下さい。」


「えっ、私が最初にですか。」


「はい、オレ達が決めたんですよ、源三郎様には最初に食べて頂こうって。」


「ですが皆さんも。」


「総司令、みんなの気持ちで御座います。」


「工藤さん、私は今最高に嬉しいですよ、では皆さんお先に頂きます。」


「お~いお侍様にも頼むぜ。」


「よ~し分かったよ。」


「う~ん、これは本当に旨いですよ。」


「源三郎様、オレ達炊事班の自慢の食べ物なんです。」


「皆さん、本当に有難う、さぁ~皆さんも食べて下さいね。」


「はい今夜は最高に嬉しいですよ、中隊長、オレは最高に嬉しい気持ちですよ。」


「私もですよ、今までこんなに嬉しい事は無かったですからねぇ~。」


 この部隊は今までどんな苦労をして来たのだろう、だが今全員が開放された喜びを味わって要る。

だが、果たして、何時まで続くのだろうか、その内食事も終わり。


「中隊長、今夜の監視ですが、中隊の全員では駄目でしょうか。」


「中隊長、もうみんなで決めたんですが。」


「ですがねぇ~。」


「みんなも賛成してくれましたので。」


「では我々も任務に就きますので、宜しいですね。」


「はい、じゃ~最初は第一中隊からですが。」


 中隊長達は何も言わずに頷いて要るだけで有る。


「其れで明日の出発ですが。」


「総司令、何時の出発でしょうか。」


「一応、私は七つ半にはと考えておりますが。」


「はい、今、総司令が七つ半に出発と。」


「はい、じゃ~今から順番に立ちますので。」


 今の隊は隊長の命令では無く、兵士達が決め、其れに対し中隊長達も小隊長達は意見も反対する必要も

無く、全てを兵士達の自主性に任せており、源三郎は何故か安心した。


 一人の犠牲者を出す事も無く、五百名近い元官軍の兵士達が救われたと言う安堵感なのだろう。

 源三郎も家臣達と猟師の全員が軍隊の寝床で入るのは初めてだが、其れでも疲れからなのか直ぐ眠った。

 だがその眠りから直ぐに起こされた、何か音がすると其れは狼では無く、兵士達が七つ半の出発だと聴

き早くも撤収作業に入っていた。


 源三郎は何も言わず横になって要る。


 其れでも八半になると殆どの兵士達が動き回って要る。


「総司令、申し訳有りません、こんな夜中に。」


「私はいいですよ。」


「有難う、御座います。


私も兵士達の意見を尊重し静かに進めて下さいと言ったのですが。」


「其れは別に宜しいですよ、私も嬉しいですからね、私は今回皆さんの中から一人の犠牲者も怪我人も出

さずに終わりましたので、後は野洲に全員が無事に着く事だを願っております。」


「はい、有難う、御座います。

 其れで総司令にお願いが有るのですが、宜しいでしょうか。」


「勿論ですよ、私に出来る事ならば。」


「私もですが中隊長達も小隊長の全員が総司令の部下になる事を希望して要るのですが、如何で御座いま

しょうか。」


「えっ、私の部下と申されますと。」


「はい、私達は既に官軍兵では無く、昨日も申されておられましたが、私達は自由の身だと。」


「はい、勿論ですよ、其れだけは確かな事ですから。」


「其れで私と言うよりも、小隊長の工藤さんから提案されまして。」


「工藤さんからですか。」


「はい、実は工藤さんは我々の先輩で、本来ならば工藤さんが中隊長に、いいえ、隊長になられるお人で

したが、あの隊長は工藤さんの人望を利用し小隊長として残していたのです。」


 何と言う話だ、偵察に行った工藤と人物が本来の隊長になるはずが、何かの理由で小隊長に降格され小

隊長にされたのだと、やはり人望が有る人物でその工藤が提案したと言うので有る。


 勿論、全員が工藤の提案に対し何の異論もなく賛成したのだと。


「ですが、他の兵士達の殆どが農村と漁村から集められたと聞いておりますので、その人達は別の話しに

なりますよ。」


「はい、其れは勿論で私達も彼らの意見を尊重したいと考えております。」


「今のお話しには直ぐにお答えは出来ませんので、まぁ~其れよりも全員が無事に野洲に参りましょうか

ねぇ~。」


 今の中隊長の意見に対して困ると源三郎は思った。


 だが今は其れよりも無事全員が野洲に着く事の方が優先されるので有る。


「総司令、全ての準備が整いました。」


「はい、では猟師さん達を先頭にお願いします。」


 猟師が先頭になり、源三郎と野洲の家臣が続きその後は元官軍の兵士達が続くので有る。


 山の麓に残るのは隊長一人で、最後の中隊が出発して暫く経つと。


「お~い誰か助けてくれ、狼が、狼が来たんだ、誰かぎゃ~。」


 と、隊長の叫ぶ声が聞こえたが、其れは狼に襲われた証で、その後間も無く叫び声は聞こえなくなった。


「今の声は。」


「あれは隊長の叫び声だ、今頃は狼に食われて要るんだ、あ~何て恐ろしいんだ。」


「だったら、オレ達も何時襲われるかも知れないんだ。」


 其の時、


「パン、パン。」


 と、連続した鉄砲の音がした、先頭で歩いて要る家臣達は猟師が撃ったと分かるが、元兵士達は

狼の大群が現れたと思い、兵士の全員が震えて要る。


「今の音は。」


「あれは確か火縄銃の音だから狼が現れたんだ、オレはまだ死にたくはないんだよ~。」


「うん、わしもだ、狼だけは願い下げたいよ。」


「早く山を下りたいですよ。」


 元官軍の兵士達も狼が余程恐ろしいのだろ。


「総司令、あの元官軍の兵士達の事ですが、何かお考えでも。」


「私もね、今其れを考えて要るのですがね、最初の予定とは全く別の方向に向かいましたのでねぇ~。」


「兵士達は農村と漁村から来たと聴きましたが、小隊長と中隊長と言うのは元々が侍ですので配下に入れ

ては如何でしょうか。」


「先程もその話をされましてね、私も少し考えさせて下さいと。」


「ですが、元が侍ならば農作業は無理では無いでしょうか。」


 源三郎は彼らは故郷には戻らないだろうと考えており、其れは下手に戻れば、何故隊長が居ないのだと、その理由も話す必要が有り、正か狼の餌食になったとは言えないので有る。


 其れよりも小隊長と中隊長の全員が生き残る事の方が余りにも不自然だと余計な詮索をされる事は間違

いは無い。


 其れならば、一層の事脱走兵として生き残る為に連合国に一員となる事の方か得策だと考えるのが普通

で有る。


「まぁ~其れは私達が戻るまでには答えを出して置きますので心配は有りませんよ。」


 高い山だが元官軍の兵士は迫り来る狼の大群の恐怖と戦いながらも、元気をだして登って行く。


 そして、要約、山の頂上に辿り着いた時、野洲のお寺からは九つの鐘が鳴った。


「源三郎様、もう此処まで来れば一安心ですので、少し休みを取りましょうか。」


「はい、其れでは皆さん少し休みを取りますからね、此処からは下りになりますので、早く着くと思いま

すよ。」


「お~い、みんなもう直ぐご城下に入れるぞ。」


「お~そうか良かったなぁ~、オレはもう何も怖くは無いぞ。」


「おい、おい、お前さっきまで震えたのになぁ~。」


「だったら、お前もだよ。」


「じゃ~みんなもオレと同じで震えていたのか。」


「そんなの当たり前の話しだよ、誰も狼が好きだとは言って無いんだからなぁ~。」


「だけど、オレはさっきの隊長の悲鳴がまだ耳の奥に残ってるんだ。」


「其れだったら、オレもだよ。」


「オレもだよ隊長は苦しんで、苦しんで狼に食い殺されたのかなぁ~。」


「もう、オレは二度と狼には会いたくは無いよ。」


「わしもだ、わしがまだ子供の頃に爺さんから言われたんだ、悪い事ばかりするとその内狼に食い殺され

るぞって、だったらあの隊長は悪い事ばかりしてたって言う事だなぁ~。」


 兵士達の思いは誰もが一緒なのだろう。


「お前、お城で何か食べたのか。」


「うん、其れはなぁ~、オレ達が今までに食った中でも一番に旨かったんだ、あの魚は本当に旨かった

なぁ~。」


「へぇ~、そんなに旨かったのか、でもなぁ~こんなに大勢じゃ無理だなぁ~。」


「うん、だけど其れも仕方が無いと思うんだ。」


「だけど、オレ達はこれから一体どうなるんだろうか、オレは元々百姓なんだから、だからどうなるるの

か心配なんだ。」


「オレは源三郎様の子分になるんだ。」


「えっ、お前はもう決めて要るのか。」


「うん、そうなんだ、昨日源三郎様に会った時、オレは官軍を脱走したんだからって言ったらな、源三郎

様はお許しして下さったんだ。」


「まぁ~其れも、源三郎様の返事次第になると思うんだ。」


 最初に源三郎に会った偵察隊は源三郎の配下に入ると、其れは勝手に決めて要る話しで、だが源三郎が

良い返事をするのかは全く分からないので有る。


「工藤さん、自分は総司令に官軍の事をお話しするつもりなんです。」


「はい、私も同じでして、昨日はその様なお話しをする事が出来なかったので野洲に着けばと考えており

ます。」


 工藤は源三郎に官軍がどの様な意図を持って幕府軍との戦闘に入ったのか、其れに官軍の規模も今まで

知り得た情報の全てを話す事を考えて要る。


「さぁ~皆さん参りましょうか、ご家中の数人で城に報告をお願いします。


 其れと雪乃殿にも全員が無事で有ると、今日の夕刻には城に到着しましとお伝え下さい。」


 数人の若い家臣が城へと向かった、今日の夕刻には到着すると、そして、明日からは元官軍の中隊長達、小隊長達からは官軍と幕府軍の情報を得ようと考えた源三郎で有る。


 総勢六百名からの集団は猟師を先頭に山を下り、野洲の城へと歩み始めたので有る。



          


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