第 42 話。 警戒を厳重にせよ、警戒を厳にされたし。
「源三郎様、大変で御座います。」
「どうされましたか。」
「はい今奉行所から連絡が入り、野洲の山で幕府軍と切り合いと申しましょうか、合戦です。」
「えっ、合戦ですと、其れで幕府軍の人数ですが。」
「はい、其れが二十名程だと。」
「分かりました、詳しい内容が分かれば連絡下さいね。」
「はい、承知致しました。」
遂に来たか、だが二十名程とは余りにも少ないと、其の時、田中が入って来た。
「総司令、今のは。」
「田中様、奉行所からの連絡で山に幕府軍が二十名程侵入し、今奉行所の役人達と合戦中だとの事だと報
告です。」
「総司令、ですが二十名程とは余りにも少ない様にも思えるのですが。」
「はい、私もその様に思いましたが、其れで田中様、大至急詳しく調べて頂きたいのです。」
「私は野洲の山から順次他の山にも入り詳しく調べる事に致します。」
「では、宜しくお願い致します。」
田中は急いで山の調査に向かった。
「どなたでも宜しいのでご家中の方々を集めて下さい。」
執務室の数人が大慌てで家臣達を呼びに行く。
「殿。」
「源三郎、一体何事だ。」
其の時、お殿様も執務室に入って来た。
「はい、今野洲の山で奉行所の役人達と幕府軍二十名程とが合戦に入ったと連絡が有りましたので大急ぎ
でご家中の方々を集めて要るので御座います。」
「遂に来たのか、源三郎、だがの~幕府軍が二十名程とは余りにも少ないとは思わぬか。」
「はい、私もその様に思い、今田中様に調べる様にお願いを致しましたところで御座います。」
「のぉ~源三郎、野洲に来たと言う事はだ他の山にも来ると考えねばならぬぞ。」
其の時、城内の家臣達が駆け付け。
「皆の者よ~く聞くのじゃ、今野洲の山で幕府の軍と奉行所の役人達とが戦に入った。
皆は今から直ぐ応援に向かうのじゃ。」
家臣達は大急ぎで城下へと向かった。
「お主達は我が野洲に不法侵入しておる。」
「何だと我々は幕府軍の武士だ、何処にでも入る事が出来る自由だ。」
「では全員を取り押さえろ。」
野洲の奉行所からも数十人が駆け付け幕府軍の武士達を取り押さえに掛かり、其の時には野洲の家臣達
も駆け付け切り合いとなり、これが最初の切り合いと言うのか、野洲の武士達が初めての経験で殺すか、
殺されるかの実戦で、更に相手が幕府軍の武士達と会って中には顔から血の気が引きやたらと刀を振り回
すだけで幕府軍の武士達の身体には届く事も無い程なのだ。
「私は人を切ると言うのが初めてで、今物凄く怖いのです。」
「拙者もだ、殺されるかも知れないと思うだけでもう恐ろしくなった来た。」
「皆の者、敵は幕府軍の武士達だ、どの様な事が有ったとしても逃がすなよ、例え殺しても良い。」
家臣達は人を殺すと言う事がどの様な意味を持って要るのかさえも分かっておらずにいる。
その頃、奉行所からも次々と応援が飛び出して行く。
「敵は幕府軍の武士達だ手向かうので有れば切り殺せ。」
これにはお奉行自らが先頭になり出陣して行く。
奉行所の役人達は山に入った所で幕府軍の武士達とが睨み合いを続けている。
「貴殿達は一体何処のご家中なのか。」
「我らは幕府の者だ、一体何用が有って我らを包囲しておる。」
「貴殿達は誠幕府の者だと申すのか。」
「その通りだ、其れが一体どうしたと言うのだ。」
「貴殿達は我が連合国に密かに侵入した、不法侵入と言う事だ。」
「何だと、我々は今官軍との戦の最中で何処に行こうと我らの勝ってだ。」
やはり幕府と官軍は戦に突入して要る。
この時、初めて野洲の奉行所の役人達が知ったので有る。
其の時、野洲の家臣達が駆け付け。
「あの者達は。」
「はい、幕府の者だと申しており、今官軍と戦の最中だと申しております。」
「分かりましたが、ご貴殿達は今官軍との戦の最中だと申されたが、その官軍兵は一体何処に居るのです
かな。」
「我らは官軍兵に。」
「その官軍兵は何処に居ると聞いて要るのだ。」
「その様な事は知らぬ。」
「何を知らぬだと、官軍とは嘘だ貴殿達は我が連合国に不法侵入した、全員刀を捨て降伏すれば命だけは
助ける、だが刃向かうので有れば殺す、さぁ~一体どうするのだ。」
「え~い、面倒だ奴らを殺すんだ。」
幕府軍の武士達だと言う二十名程の武士が刀を振り上げ攻撃して来た、其の時、十数本の矢が飛んで来
て幕府軍の武士達の顔や胸に命中し、その場に倒れ、数人が腕や足に命中して要る。
「無駄な抵抗は止め、降伏せよ。」
「いいや我らは幕府の武士して決して降伏などは出来ぬわ。」
「そうか降伏さえすれば命だけは助けるが、我々はどちらでも良い貴殿達が決めろ。」
「なぁ~命は助けると言ってるんだ、此処で命を落としては何もならんぞ。」
「いいや、拙者は降伏などはせぬ、武士として降伏するくらいならばこの場で腹を切る。」
「其れは分かるが折角此処まで逃げて来たのだから、其れに奴らは官軍では無いぞ、話しによっては拙者
も覚悟は出来ているんだから。」
幕府軍の武士達だとして命は惜しくは無いと言う者と、此処まで逃げて来て、今更何のために腹を切る
必要が有ると言う。
生きて故郷に帰りたいと言う者とが意見が二分しており、その後、暫くの沈黙が続き。
「なぁ~一体どうするつもりなのだ、怪我をした者達も助けるから早く決めろ、で無ければ血の臭いを嗅
ぎ付け狼の大群が来るぞ。」
「えっ、狼の大群と聞こえたが。」
「そうだ、この山には狼の大群が入るので我々もこの山には長居はしたくはない、だから早く決める事
だ。」
「分かった、拙者は生き延びたい。」
「よ~し、生き残りたいと思う者は刀を捨てこちらへ来るんだ。」
十数人が刀を捨て家臣達の前に来た。
「お主達は怪我をした仲間を其のままにして置くのか、早く行って助けるんだ。」
其れでも数人が残り太刀を構えている。
「まぁ~貴殿達は狼の餌食にでもなれば良い、だが言って置くがこの山から逃げ出す事はまず無理だと思
うんだ、半時もせずに狼の大群が来るぞ。」
「う~ん。」
「では他の方々はこの場から早く下り、城下へ向かえ。」
奉行所の役人達と家臣達の全員が引き上げて行く。
「待って下され、拙者も参りますので。」
残りの幕府軍の武士だと言う者達も刀を捨て山を下って行く。
余りにも簡単に終わったが、死んだ者達は連れて行く事は止めその場に放置した。
「お奉行、如何なされます。」
「この者達は幕府軍の武士だと申しておりますので、私は総司令に引き渡せば良いのでは無いかと考えて
おりますが、如何でしょうか。」
「承知致しました、其れで怪我人で御座いますが。」
「はい、一応医者に見せ、医者の判断に任せては如何でしょうか。」
「はい、ではその様に宜しくお願い致します。」
「お奉行、其れで奉行所の方々は無事なので御座いますか。」
「はい、全員が無事で御座いますので。」
「では誰でも宜しいので、総司令にお伝え下さい。
幕府軍の武士だと申される十名程をお連れしますのでと。」
「はい、では私が参りますので。」
若い家臣が大急ぎで城へと走って行き、奉行所の全員と家臣達の中からは独りの犠牲者を出さず、幕府
軍の武士だと名乗る十数名の集団は家臣達が回りを囲み城下へと入って行く。
「お~いみんな、見た事も無いお侍様がお城へと連れて行かれるぞ。」
「う~ん、だけど一体何処のお侍なんだろうかなぁ~。」
「うんそうだなぁ~、だけどお城のお侍様が一緒だよ、えっ、じゃ~さっきお侍様が言ってた幕府の軍隊
じゃないのか。」
山の麓から城下の中心部を通り、お城に向かうが城下の領民は明らかに他の国から来た侍だと知り、其
れが幕府軍の武士では無いかと、その話は瞬く間に城下の領民に広がり、領民達の中には幕府軍が攻めて
来たと思うのも当然で有る。
「総司令、今、山から幕府軍の武士だと名乗る十数名を連れて参りますと伝令で御座います。」
「そうですか分かりました、では此処に連れて来て下さい。」
「はい、承知いたしました。」
若い家臣は再び城下へと向かった。
「源三郎、誠幕府軍の武士だと思うのか。」
「私はこの地まで幕府軍が攻めて来たとは考えてはおりません。」
「う~ん、だがのぉ~今の話では幕府軍の。」
「殿、確かにその様には名乗ってはおりますが、私は地方の其れも我々の知らない藩の武士では無いかと
思うので御座います。」
源三郎は幕府軍の武士だと名乗ったが、果たして何処までの事を知って要るのか、其れを知りたいと思
うので有る。
「総司令、只今戻りました。」
「其れは大変ご苦労様でしたねぇ~。」
「いいえ、それ程でも御座いませんでしたが、其れでこの者達が幕府軍の。」
「其の前に奉行所とご家中の方々は。」
「はい、全員が怪我も無く無事で御座います。」
源三郎は幕府軍と名乗る武士達の話を聴くよりも奉行所と家臣達の安否を確かめたかった。
相手が二十数名の幕府軍ならば見方を代えれば手負いの獅子同然で、その獅子が官軍から逃げ山に入っ
たとなれば命の危険を冒してでも逃亡を図ろうとする、その者達がどの様な武器を持って要るのか、其れ
すらも分からずに、手負いの獅子が最も危険なのだと知って要る。
だが全員が無事だと聴き安堵したので有る。
「其れは何よりでしたねぇ~、其れでこの者達は誠幕府軍なのですか。」
幕府軍の武士だと名乗ったが、何故か様子が変だと。
「はい、私も確かにその様に聴きましたが。」
「貴殿達は誠幕府から派遣されたのですか、正直に答えて下さいね。」
「その通りで、我らは。」
「我らと申されましたが、貴殿は一体何処から来られたのですか。」
「何故、その様な事を聴くのだ、我々は間違い無く幕府の武士だ。」
「そうですか、では何故この山に入られたのですか。」
「何故、その様な事を聴くのだ。」
「そうでしたねぇ~、私達は連合国として今の幕府とは相容れないのでしてねぇ~、幕府の軍勢が我ら連
合国に対して攻撃すると言うので有れば、我々も対抗手段を講じなければなりませんのでねぇ~。」
「我々はこの地を攻撃したのでは無い、山の向こう側では殆どの地で官軍と戦の最中で我々は山に入り
迷ったのだ。」
「迷ったのですか、其れは誠でしょうねぇ~。」
「間違いは無い、山に入り迷ったのだ。」
「ではお聞きしますが、その官軍とは一体何処に居るのでしょうか。」
「その様な事まで我々は知らぬ。」
「では何も知らないと申されるのですか。」
「その通りで、何も知らないものを言えるはずが無い、其れよりも我々を助けると約束されたのですが。」
少しづつ話し方が変わってきた。
「はい、勿論お助けはしたいと思いますがね、其の前に我が連合国の事は知っておられたのですか。」
「いいえ、我々は何も知らないのですが。」
別の侍は顔色が悪く見える。
「其れで助けると聴いたのですか誠なのですか。」
「分かりました、ですがねぇ~貴殿達に刀を渡す事は出来ないので其のまま何処に行かれても宜しいです
が、この山には狼の大群がおりますので山を越えるのは無理だと思いますが如何されますか。」
「先程も聴きましたが、一体何頭要るのですか。」
「私も果たして何頭の狼が要るのかも知りませんし、例え知っておりましても今の貴殿達にお話しをする
事は出来ませんよ。」
「其れでは約束が違うでは有りませんか。」
「何が約束ですか、北には海が直ぐ其処には高い山が有りますが、まぁ~其れよりも此処に来られたのは
奇跡だと思って下さいね。」
「えっ、奇跡だと申されますと。」
他の侍達は一瞬で顔色が変わった。
「ええ、そうですよ、この山に入られ我が連合国に辿り着かれたのが奇跡だと、今までこの地に辿り着か
れたお方は殆どおられませんよ、この山に一体何人分の骨が有るのかも分かりませんのでねぇ~。」
「ですが、私の聴いた話では狼は夜に。」
「いいえ、その様な事は有りませんよ、此処の狼はねぇ~人間の味を知っておりますので、人間ならば簡
単に襲え餌食に出来ると、若しも、若しもですよ、貴方方の仲間が何も知らずに入られたとすれば、まず
全員が狼の餌食になって要ると思いますよ。」
源三郎は山に何人分の骨が有るのかはどうでも良い、其れよりも官軍が本当に来ているのかそちらの方
が重要なのだ、源三郎は何としても官軍の動きを知りたいのでだ。
「あ~忘れておりましたよ、この山にはねぇ~熊笹が下から上まで自生しておりましてね、その熊笹です
が人の背丈くらいは有りますので、上に登り向こう側に辿り着くまでには全身に熊笹で傷が付き、狼はそ
の血の匂いで直ぐにやって来ますよ。」
「そうだ、確かに此処の山には熊笹が多く有ったのを思い出したよ。」
「そうでしょう、まぁ~山に登られても宜しいですがね、この連合国で安心出来るのは城下だけと言う事
になりますからねぇ~。」
源三郎は幕府軍の武士だと名乗る十数名の武士を恐怖の底に落として行く。
「では我々が逃げる方法は無いと申されるのですか。」
この侍は狼を言う名を聴くだけで全身が恐怖心に包まれて要る。
「此処まで来て何故狼の餌食などにならねばならぬです。
一層の事この場で首を撥ねて下され。」
「いいえ、私の配下が貴殿達を殺さないと申したのですから、私は貴殿達を殺す様な事は致しませんよ、
ですが貴殿達が正直にお話しをして頂けるので有れば、何も狼の餌食などには致しませんのでね。」
「では、本当に助けて頂けると申されるのですか。」
「はい、私は何も嘘を申す必要も有りませんのでね、先程にも申し上げた様に正直にお答えを頂ければ、
私は貴方方の命は保証しますよ。」
「分かりました、拙者はこの地より三日程西に有ります山陽に有ります小国から参りました。
我が藩からは全員と申し上げても良い程の手勢と他の藩からも殆どが駆り出され総勢三千名の軍勢で官
軍を迎え撃つ様にと出陣しました。」
「ほ~三千人ですか、では貴殿の藩もですが、他の藩からも全員と言っても良い程が出陣されたのです
ね。」
「はい、その通りでして、我々は出陣して二日後に山の向こう側の端に来た所、官軍と出会ったので御座
います。」
「其れで官軍の手勢ですが分かりますか。」
「はい、大体で五百程だと思いますが。」
「まぁ~其れならば官軍には勝たれたのでしょうねぇ~。」
官軍兵の武器は新式の連発銃を全員が持っており、人数だけならば誰が考えたところで三千人の軍勢を
抱える幕府軍の勝利だと、だが其れが大変な間違いで五百の官軍は三千の幕府軍に対し徹底的な打撃を与
え、僅か半時で三千の幕府軍は二百となった。
「いいえ、其れが全くの反対で我々の知らない新式の銃を持っていたのです。」
「其れはねぇ~連発銃と言う新式の銃ですよ。」
「えっ、何故ご存知なので御座いますか。」
「私も持っておりますよ。」
十数名の幕府軍の生き残りと思える侍達は正かと言う様な表情をしている。
「何故、その連発銃がこちらに有るので御座いますか。」
「まぁ~その話は後程にしまして、其れで五百の官軍が追って来たのですか。」
「はい、我々も弓などで応戦しましたが、新式の銃の威力は凄まじく、二百人程が山の麓まで命辛々で辿
り着いたのです。」
「では官軍は五百の手勢で山に入って来たと申されるのか。」
「其れは我々も確認は出来ておりませんが、我々は四方に散り、私達は二十数名で山を下った所で御手前
方に捕らわれたと言うのが本当のところで御座います。」
「う~ん、五百の官軍か、何か良い方法は無いだろうか。」
「源三郎、一体何を考えておるじゃ、正か。」
源三郎は何やらを考え始め、殿様は何故か源三郎が考えて要る事が分かったので有る。
「殿、その正かを考えて要るので御座います。」
「総司令、正かその五百の官軍兵から連発銃を手に入れる方法を。」
何と源三郎は五百丁の連発銃を奪い取る方法を考えて要るとは驚きで有る。
「まぁ~其れよりも、貴方方は一体どの方向から登られたのですか。」
「え~っと、あれは確か。」
「我々はある所から頂上と思われる所に高い木が有るのを見付けました。」
別の侍は山に登った時の事を詳しく話し始めた。
「そうですか、あの大木は向こう側でも見えると言う事ですかねぇ~。」
「総司令、我々もですが、奉行所の方々も向かわれたのがやはりあの大木を目指しておりました。」
「そうですか、やはり皆様方も大木を目指したと申されましたが、其れには熊笹も思いの外少なかったと、う~ん、これは若しかすれば官軍兵もその道を通り登って来るやも知れませんねぇ~。」
「総司令、ですが以前木こりさん達に聴いたのですが目印の大木へは簡単に辿り事は出来ないと言われた
様に思うのです。」
連合国側からでも向こう側からでも木こりや猟師の道案内がなければ目印の大木へは行けないと言う。
「その通りで御座います。
我々も簡単に行けるものだと思いましたが、途中からは大木が茂り、極端な言い方ですが方角が分から
なくなりました。」
「う~ん、そんなにも大木が多く茂っているとは知りませんでしたねぇ~。」
「木こりさんや猟師さんからは目印の大木を見付けるのは諦めれば命の危険に晒されると、其れが狼の大
群だと言われました。」
「其れでは大木を見付ける為に余計な時を掛けると狼の餌食になると、木こりさん達は言われるのです
か。」
「はい、勿論でして、こちらからでも、向こう側からでも猟師さん達の案内無しでは行く事は出来ないと
聞いております。」
「と、言う事は貴方方は狼の大群に襲われなかったと言うのは、正しく奇跡だと申さねばなりません。」
十数名の幕府の軍だと名乗る侍達は顔面蒼白で、何も話す事さえ出来ない状態になって要る。
「今の話を聴かれてどの様に感じられましたか、刀で切り付けられ放置されると最初に狼の大群が来ますよ、次にまぁ~猪でしょうかねぇ~、其れから最後には烏が着て、全てを食べ尽くすと、まぁ~その頃に
なれば森に生きる野ネズミなどの小型の動物が殆ど食べ尽くし、残るは骨だけとなりますよ、まぁ~考え
方を変えれば、貴方方の仲間が矢で胸を撃たれ即死ならば動物に食べられて行く恐怖は分かりませんがね、深手を受け、まだ生きた状態ならば息が絶えるまで恐怖は続きますからねぇ~苦しいですよ。」
源三郎は尚も十名程の者達に言葉で恐怖を伝える、彼らも頭の中であの時死んだ仲間は今頃、狼を初め
とする森の主達に食べられて要るのだと。
「貴方方の中で逃げたいと思われて要るならば何時でも逃げて頂いても宜しいですよ、我々は誰も引き止
めはしませんのでね。」
「総司令、では監視は。」
「勿論、必要は有りませんよ、高い山には狼の大群が人間と言う獲物が登って来るのを待っておりますし、其れに北側は全てが海ですからねぇ~、漁師さん達の小舟では外に出ましても荒れておりますと、海に放り出され苦しみ抜いて死ぬと、まぁ~何れにしましても、何処にも行く事は出来ませんからねぇ~。」
源三郎は何も脅しで話して要るのだは無い、全てが事実なのだ。
「拙者はもう何処にも参りませぬので。」
「私もで御座います、助けられたのですから、でも故郷は一体どの様になって要るのでしょうか、私には
年老いた母が要るので御座います。」
「貴方方の故郷へは官軍が押し寄せて要るのでは有りませんか。」
「では我々の故郷に残った者は。」
「まぁ~非常に残念なお話しだとは思いますが、残られた侍と残された家族は皆殺しだと考えて頂くしか
ないと思いますよ。」
「えっ、ですが家族と申しましても妻や子供だけと思いますが。」
「多分ですがね、官軍は容赦はしないと思いますよ、例え相手が子供だとしても侍の子供ですから。」
「ですが、幼き子は何も分からないのですよ。」
「其れが戦と言うものですよ、戦になれば大人も子供も関係は有りませんよ、事実、山向こうの農村では幕府軍の侍が農村を襲い、穀物などを略奪し、更に女は犯し、幼き子供共ども家に閉じ込め火を放ち、多くの農村を焼き払ったのですよ。」
「では幕府軍も同じ様な略奪や暴行事件を起こし、一家、いや農民全員を殺して要ると申されるので
御座いましょうか。」
「正しくその通りですよ、我が連合国は山向こうの農村から多くの農民さんを救出し、今は連合国の仲間
の一員として農作物を育てておられますよ。」
「我々は幕府だけの言い分を信じた大馬鹿者だったと申されるのですか。」
「私はねぇ~何も全ての幕府軍や官軍とは申しておりませんよ、ただその様な事実が有ると申し上げて要
るだけなのですよ。」
源三郎は事実だけを話しており、だが、果たして十名程の幕府軍の侍達は信じる事が出来るのだろうか。
「う~ん、其れにしても何と言う非道な行為だ、拙者はどちらも許す事などは出来ぬ。」
「私もだ、今申された事が事実ならば、私は今からでも山を登り官軍と、いや幕府軍と一戦を交えるつも
りだ。」
「まぁ~私の言う事が事実か其れとも作り話なのか後程でも宜しいですからね、山向こうから来られた農
民さん達に聴いて頂いても宜しいですよ。」
「いいえ、拙者は事実だと思います。
現に今までの幕府は弱気をいじめ、強気を助けており、何とかせねばと思っておりました。
ですが所詮私一人の力では何も出来ず、随分と悔しい思いをしたのを覚えております。」
彼ら十名程の侍達は次第に幕府と官軍に対する考え方が変わってきたと、源三郎は感じた。
「先程からのお話しを聞いておりますと、若しかすれば我が藩は。」
「まぁ~お城は焼け落ち、貴殿方の身内は全員殺されて要ると思って頂いても宜しいかと。」
「拙者には年老いた両親と妻や娘が、いや正かその様な事は無い。」
数人の侍達はブツブツと独り言を言っているのだが。
「私も同じ立場ならば信じたくは有りません。
ですが貴殿方が仮にですよ、反対の立場ならば如何でしょうか。」
「う~ん、ですが拙者ならば武士以外、いや反抗する者以外は決して殺さぬ。」
「其れが誠の武士だと思いますがね、ですが貴殿達があの山を登り下りた時、我が連合国の奉行所の役人
達と家臣達に取り囲まれた時、貴殿達は今の様に冷静でしたか、当然殺されると思い、何が有ったとして
もその場から逃れるのだと考えられたのでは有りませんか。」
「う~ん。」
十名程の侍達は次第に源三郎の言葉巧みな作戦の虜になって行く。
「まぁ~其れよりも、私が知りたいのは幕府軍と官軍の動向なのですが、貴殿達は一体何処までの事を知っておられるのですか、出来れば教えて頂きたいのです。」
「ですが、其れを聴かれて如何なされるおつもりなのですか。」
「勿論決まっておりますよ、我が連合国の領民を守る為に防ぐ方法を考えなければなりませんのでねぇ~、如何でしょうか。」
「えっ、正か幕府軍と官軍に対して戦を。」
「いいえ、私は戦を望んでいるのでは有りませんよ、防衛する為の方法ですのでね。」
源三郎は潜水船で官軍か幕府軍の軍艦を沈めるのか、其れとも航行不能にさせるだけでも十分だと、だ
が其れよりも最新の情報を知る事で次の策も考え付くと言うもので有る。
「お主は少しくらい知って要ると聞いたが。」
「うん、だが本当に少しだけで、私の話を。」
「宜しいのですよ、少しでも私は其れが知りたいのです。」
この侍は、最初の頃本部部隊で任務に就いていたと、その後、何らかの理由で今の部隊に派遣されたと
言うので有る。
其れでも今の源三郎としては何よりも知りたい情報なのだ。
「私の聴いたところでは北の蝦夷地も防御が必要だと、長州と薩摩が合体し、都以外でも御旗の為にと地
方から多くの農民や町民を集め、巨大な軍隊を作ったと聞いておりますが。」
「では、その都では幕府軍の武士は多く居られるのですか。」
「はい、都には幕府軍の中でも精鋭中の精鋭を集め、彼らは倒幕方に見方する侍や町民を取り締まり専門
の組織だと聞いておりますが、真相の程は。」
倒幕方に見方する者達の取り締まりを任務とする精鋭部隊とは一体どの様な組織なのだろうか。
「捕らえられた人達は一体どの様になるのですか。」
「まだ知られていない仲間達の名や住んで要る所を聴き出すのだと言われております。」
「では都が幕府軍と官軍の一番の激戦地なのでしょうか。」
「私も詳しくは知りませんが、都周辺が一番の激戦地になるだろうと聞いております。」
「そうか、表向きは薩摩と長州の合体だが、実のところこの対戦の火付け役は都なのか。」
数百年間も続いた武家社会を壊し、新しい国家を造る為に都が火付け役となったと源三郎は思った。
其れにしても多くの犠牲者は何も幕府方の武士や官軍兵だけでは無く、農民や町民など戦とは直接関係
の無い人達で、源三郎は武士ならば戦で戦死する事には覚悟は出来て要る。
だが領民達から多くの犠牲者が出ると言う事に対しては許せない。
その中でも多くの農民や町民が戦とは全く関係の無い所で暴行を受け、子供までもが家に閉じ込め火を
放ち焼き殺すと、其れは、例え相手が幕府軍で有ろうと官軍で有ろうと関係は無い、一番弱い立場の人達
を殺す様な相手ならば連合国として戦に突入するしなければならないだろうと考えて要る。
「よ~く分かりました、其れで官軍の事なのですが、如何でしょうか。」
「はい、官軍の兵隊は数百年間、幕府と言う武家社会から苦しめられてきた農民や町民が結集したと聞い
ております。」
「其れが官軍と言われる軍隊なのですね。」
「はい、其れでその軍隊と言うのは、我々侍とは違い組織化されておりますので、侍の様に個人で戦に挑
むのでは無く、集団で挑むと聞いておりますが、私も其れ以上詳しい事は聞いておりませんので。」
「そうですか、我々武士の戦い方とは根本的に違うと、う~ん、これは我々も戦法を考え直す必要が有り
ますねぇ~。」
「其れと今思い出しましたが、官軍と言うのは一人の指揮官だけでは無く、細分化され、更に細分化され
た少人数でも指揮官が居ると。」
「其れは少人数でも指揮を執る人物が命令を下すと考えて宜しいのでしょうか。」
「はい、事実我々と戦闘に入った時でも少人数に別れ、その者達に命令を出していた様に思います。」
「其れは拙者も見ました。
我ら武士は自らで考え相手と交えるのですが、官軍は少人数で我ら一人を襲って来ますので、其れは大
変恐ろしい組織だと思いました。」
「う~ん、そうですか。」
確かに侍と言う者は大将の命令で後は侍個人の判断で動く、だが官軍と言うのは大部隊では有るが、そ
の大部隊を細分化し、部隊の最高指揮官の命令は少人数に細分化された末端の兵士まで伝えられ、個人の
判断では無く、分隊化された兵士は攻撃に際しても直接命令を受け、攻撃目標も定められており恐ろしい
組織だと言うので有る。
「総司令、我々連合国も組織化されて行くのでしょうか。」
「其れは簡単には行かないと思うのですがねぇ~。」
「ですが官軍は我ら一人に対し細分化された分隊と言うのでしょうか、少人数で立ち向かうので有れば、
我々にとっては不利だと思うのですが。」
「確かに貴方の申される事は私も分かります。
ですがよ~く考えて欲しいのですよ、我々の武家社会は数百年間もの長きに渡り築かれたので、今急に
ですよ敵方に勝つ為には少人数の分隊化にし、分隊には隊長を置き、命令は隊長から出されますので全て
は隊長の命令通りに動いて下さいと伝えたとします、ですが実戦ともなれば我こそはと突進して行くのが
武士なのですよ。」
実は源三郎も一時期考えた事が有る、だが数百年間も続いた武家社会で果たして何人がその話しを理解
出来るのだろうか、以前野洲の家臣達に現在野洲が置かれている立場と言うものを理解させるだけで数日
間も要したので有る。
野洲の侍達も含め、侍と言うのは一国一城の主だと自負しており、ただ大きな声では言わないだけだ。
「う~ん、やはり駄目ですよねぇ~。」
「貴方もよ~く分かっておられると思いますよ、ご意見を有難う。」
「あの~失礼ですが、先程から総司令とお呼びされておられるのですが、一体どの様な意味なので御座い
ましょうか。」
幕府では総司令官と言う呼び名は無く、彼らは何故その様な呼び方をしているのか分からない。
「此方のお方ですが、我々連合国の最高司令官なのです。」
「えっ、ではこの国のお殿様で御座いますか。」
「う~ん、この説明は大変難しいですが、お殿様では無いのです。
ただ私が指示を出す者だと思って頂ければ宜しいのですよ。」
「お殿様では無く命令を出されるのですか、ではお殿様は。」
「総司令が出されるのが命令で、殿様からはの命令は有りませんよ。」
「う~ん、拙者には全く理解が出来ませぬが、お殿様では無い総司令と言われるお方が全ての命令を出さ
れると申されると言うのは、ではその連合国とは一体どの様な御国なのですか。」
「連合国に付いては私が説明しますからね。」
源三郎は十数名の幕府方の侍に対し詳しく説明を始め、すると。
「えっ、では最初は幕府に対して異議を唱える為にですか。」
「そう言えば我が藩主も同じ様なお話しをされておられました。
今の幕府は上納金が少ないので其れを上乗せせよと、其れで藩主も重役方も大変な悩みだと、我が藩主
は幕府に対して今の上納金が限界だと書状を送られたそうです。」
「其れは我が連合国になる前の小国と同じでしたよ。」
傍では殿様は何も言わず、何も聞かず只管、源三郎と元のと言っても良いのか十数名の幕府方の話を聴
いて要るだけで有る。
「私達の藩は弱小で、藩主はもうこれ以上の上乗せは無理だと思われたのですが、幕府からの返答は無理
ならばお家を取り壊すと、取り潰しともなれば家臣は浪人となり、領地は没収され、その様な事にでもな
れば、今でも領民の暮らしは苦しく大変だと言うのに幕府の直轄地となれば、尚一層生活は苦しくなると、ですが何の方策も無いところに幕府に反旗を翻し、幕府の転覆を企てる藩が有り、その藩へ出兵せよと書状が届いたのです。」
小国が幕府に反旗を翻すと直ぐ他の藩から出兵され、殆どの小国は取り壊され、国中に浪人が溢れ。
浪人達はと言うと生きる為に悪事を働き、だがこれが大国ともなれば、幕府と言えども簡単には手を出
す事も出来なかったと言うので有る。
「では、藩主殿は貴殿達を官軍の征伐と言う名目で幕府の命令を聞かれたと申されるのか。」
「はい、ですが先程からのお話しでは我が藩も今頃は焼け落ちて要ると考えられます。」
「貴方方は今後如何なされるのですか、山には狼の大群が、北は海で、仮に無事山越えされましても其処
には官軍が待ち構えて要るやも知れませぬよ。」
「総司令、拙者は今となっては行く当ても御座いませぬ、どうかこの地でお役に立てさせて下さいませぬ
でしょうか。」
「私もで、私は総司令が嘘を申されておられるとは思いません。
仮に嘘で有ったとしましても、山と海、どちらに行ったところで命が有ると言う保証は何処にも御座い
ませぬので、私も此処で何かのお役に立てればと考えております。」
「そうですか、では他の方々は如何なされますか、私は別に強制は致しませんので、其れと今直ぐ答えを
出せとは申しませんのでね、まぁ~数日間考えてからでも宜しいですよ。」
「あの~怪我をした者ですが。」
「今から私の配下の者と一緒に奉行所へ参り、話しをして頂いても宜しいですよ、其れと宿ですが城下に
大川屋と言うのが有りますので其処に案内しますのでね。」
「総司令、では我々は。」
「まぁ~ねぇ~貴殿達も考え方を変えれば幕府の被害者だと思いますのでね、私はね何も今更咎めはしま
せんのでね。」
「其れは誠なので御座いますか。」
「はい、勿論ですよ、誰か奉行所に行き、お奉行に話をし、後は大川屋さんへ、大川屋さんには宜しくお
願い致しますと伝えて下さい。」
「はい、では私と後数人で参りますので。」
「では、皆さんは行って下さい。」
例え以前が幕府軍の一員だとしても話を聴けば、我が野洲も同じ様になったのかも知れないのだと、源
三郎は思ったので有る。
元幕府軍とも言うべき十名程の侍達は城下へと向かった。
「源三郎、やはりだったのぉ~。」
「はい、私も薄々は知っておりましたが、今の話が本当だとすれば、我々連合国も考え方を変え無ければ
ならないと思うので御座います。」
「源三郎は幕府軍か、若しくは官軍が来ると考えておるのか。」
「殿、私は幕府軍よりも官軍の動きが気になるので御座います。」
「余も同じ様に思っておる、我々の武家社会はもう終わりじゃ、だが問題は官軍の動きと今後世の中がど
の様に変化するのか、其れが全く分からぬのが不安材料と考えられるが如何じゃ。」
「はい、私もその様に思っておりますが、今田中様が都周辺を調べに参られておられますので、私は田中
様の報告を聴きましてから判断したく思っております。」
「源三郎、やはり田中が参っておるのか。」
「はい、あのお方の報告が優先されますので。」
「よ~し分かった、源三郎に任せるぞ。」
「何れ殿にもご報告を致しますので。」
「頼むぞ。」
その十数日後、田中が戻って来た。
「総司令。」
「田中様、大変なご無理をお願いしました。」
「いいえ、私に出来る事はこれくらいなので、他の方々に比べれば何とも御座いませぬ。」
「そうですか、其れで如何でしたでしょうか。」
「はい、昨日ですが、頂上の有る所から山の向こう側を見ましたが、数十カ所の農村と思われる所から煙
が上がっており、やはり山の向こう側では本格的な戦闘が行なわれて要ると考えられるのです。」
「数十カ所の農村からですか、と言う事は其処まで官軍が通過した所は全て制圧されて要ると考えなけれ
ばなりませんねぇ~。」
「はい、其れは多分間違いは無いと思います。
其れで官軍の動きですが、山向こうの麓にはまだ達していないと思います。」
「では、まだ数日間の猶予は有ると考えても宜しいですか。」
「総司令、私も官軍を直接見た訳では御座いませんので、何とも申し上げる事は出来ないので御座いま
す。」
「ですが数日の内に山の麓に着くと考えて、先日の幕府軍の、いや元ですが、彼らの話しからしますと官
軍は五百だと。」
「総司令、官軍と言うのは、武士と違い組織化されておりますので、一度に五百人の兵隊が山に入って来
るとは考えられ無いのですが。」
田中は官軍は組織化されて要ると言う話は、先日の元幕府軍の者達が言ったと同じ意味で、其れでは五
百人の官軍兵はどの様な動きで山を登って来るのだろうか。
「元幕府軍の話しですと、少人数に分かれており、仮にですが、仮に少人数で来ると言うので有れば分隊
は同じ所を登っては来ない可能性も有ると考えられるのですが。」
「田中様の考えでは、仮にですよ、その少人数の分隊が別々の所から登って来る可能性も考えられると申
されるのですか。」
「はい、私も同じでして、分隊として別々の方角から登って来るので有れば、例え五百の官軍兵で有った
としても、分隊だけを仕留めれば良いのではないでしょうか。」
「その様になると思いますが、問題は官軍兵は連発銃を持って要ると言う事を忘れてはならないと思うの
です。」
「接近戦に持ち込む前にやられますねぇ~。」
「う~ん、何か良い方法は有りませんかねぇ~。」
「総司令、幕府軍や官軍は猟師さん達をどの様に見て要るのでしょうか。」
「そうですねぇ~、私ならば不慣れな土地、特に山に入ればどの方向に向かえば良いのか分かりませんの
で、猟師や木こりは道案内としてはとても重要ですから、正かとは思いますが殺したりはしないと思いま
すが。」
田中は何故突然に猟師達の話をするのだろうか、猟師達は鉄砲を使うと言っても火縄銃で、其れも殆ど
の猟師達は単独行動なのだ。
「田中様、猟師では大勢を相手には出来ないですよ。」
「はい、其れは私も承知致しておりますが、猟師は山を知り尽くしており、何かの役に立つと思ったもの
ですから。」
「猟師を使うのか、猟師が道案内すると言う事は待ち伏せも可能だと、う~ん、だけど分隊となった官軍
兵は何処から来るのかも分からないなぁ~。」
源三郎は田中に聴かせるのでも無く独り言を言ったのだが。
「あっ、そうか、総司令、待ち伏せと言う方法も考えられますよ。」
「えっ、待ち伏せする方法ですか、ですが敵軍と申しますか、官軍兵は何処から登って来るのかも分から
ないのですよ。」
「其れを見付けるのも猟師ならば出来ると思うのです。」
「何故、猟師が見付ける事が出来るのですか。」
「人間と言うのは狼や猪よりも動きは遅いですが、仮に分隊で移動するとなればですが熊笹を掻き分けて
進むのです。
猟師ならば狼や猪を見付けるよりも人間を見付ける方が簡単に出来ると思うのです。」
田中は幕府軍や官軍の兵士は槍や銃で熊笹を搔き分けて進み、その動きは猟師ならば直ぐに見付ける事
が出来ると考えたので有る。
「其れならば猟師さん達にお願いは出来ると思いますが、ですがねぇ~一体、いや其れよりもどの様な方
法で官軍兵を、其れにですよ熊笹の中では太刀を使うのも容易では無いと思うのですがねぇ~。」
「槍では如何でしょうか。」
「う~ん、槍ですか、そうだ、田中様、弓は使えませんかねぇ~。」
「そうですねぇ~、弓ならば通り過ぎてから放てば可能だと思います。
猟師さん達が上手に引き連れ、通り過ぎた所を、其れに熊笹を掻き分ける音で最後尾の兵から仕留めて
行けば倒れたところで音は聞こえないでしょうから。」
「野洲にも弓の名手は多く居られると思いますよ。」
弓ならば、例え官軍兵がその場に倒れたとしても、他の者達は熊笹を掻き分ける音で聞こえないだろうと、其れに進むにしてもお互いが少しづつ離れて進むだろう、少人数の分隊ならば弓の名手と言わずとも
弓を扱える侍ならば官軍の兵でも幕府軍の武士も一人づつ殺して行く事も可能だと考えた。
「野洲にも多くの猟師さんが居られますので直ぐに手配しましょう、どなたか猟師さん達を呼びに行って
下さい。
人数は多い方が宜しいのでね、詳しい説明は私が行ないますのでお願いします。」
「はい、では我々が手分けして猟師さん達を呼びに行って来ます。」
執務室の家臣数人が城下へと、その後は山の近くに有る猟師達の自宅へと向かった。
「其れと弓の名手も呼びに、其れも人数は多い方が良いのでね。」
家臣達は飛び出して行く、さぁ~官軍との戦に突入するのか、だが源三郎の狙いは別に有る。
其れは五百丁もの連発銃を手に入れる事が出来れば、仮に相手が幕府軍だとしても勝利の可能性は有る。
だがこの作戦が失敗でもする事になれば、官軍は大部隊を引き連れ攻撃して来る事は間違いは無い。
源三郎は何としても五百の官軍兵を帰らせる訳には行かない。
其れが連合国の生き残れるのか、其れとも破滅の道を行く事になるのか、源三郎はこの作戦に全てを掛
ける事に。
その頃、げんた達はと言うと。
「なぁ~、親方、オレ。」
「げんた、上田に入りたいんだろう。」
「うん、そうなんだ。」
げんたは松川と上田が海岸の洞窟が繋がって要る事に何とか利用出来ないかを考えて要る。
「げんたが松川の洞窟を調べてくれって言った時に若しかすれば、上田にも行きたいだろうなぁ~と思っ
てたんだ。」
親方はげんたの気持ちは分かっていた。
「其れで、オレは上田の洞窟の話を聴いてから参号船を少し変えるかも分からないだけど。」「なぁ~げんた、参号船は弐号船と同じじゃないのか。」
「うん、初めは同じでもいいと思ってたんだ、だけど松川の入り口が狭いからなぁ~、其れに上田の洞窟も多分だけど狭いかも知れないと思ったんだ。」
「げんたは参号船を弐号船よりも少し細くしたいと考えて要るのか。」
「うん、そうなんだ、船で一番幅の広い部分を、う~ん、そうだなぁ~、一尺くらいかなぁ~細くして、
其れから少しだけど長くは出来ないかなぁ~って考えてるんだけど、その為にも上田の洞窟を見たいん
だ。」
「えっ、長くするって、だけど今でも相当長いと思うんだけでなぁ~、げんた、で一体何尺くらい伸ばす
んだ。」
「うん、オレは、十尺か十五尺位かなぁ~って、考えてるんだけど。」
げんたは一人でも多くの領民を乗せるには大きな潜水船が必要だと考えて要る。
「じゃ~、六十尺か六十五尺くらいの大きさになるのか。」
「え~、親方、そんなに大きくなるんですか。」
「銀次さん、十尺も十五尺も同じなんだ、だけど問題は船体部分の補強だなぁ~、なぁ~げんた、問題は
だ余り長くすれば予想以上に補強が必要になると思うんだ。」
「親方、オレも分かってるんだ、だけどオレは一人でも多くの人を乗せたいんだ、本当はもっと細くして
長くしたいんだけど。」
「げんた、長くするのは別に問題は無いと思うんだ、だけど其れよりもそんなに大きくすると風車型と水
車型を今の大きさで足りるのか。」
「銀次さん、其れはオレも考えてるんだ、今は風車一本で水車を回してるんだけど、風車をもう一本付け
たいんだ。」
「じゃ~、水車も一本増やすのか。」
「うん、銀次さん、だけどまだ有るんだ、空気の取り入れ装置も一本追加しないと中の人が。」
げんたは相当思い悩んでいる。
潜水船の全長を弐号船よりも十尺から十五尺伸ばす事は出来ると親方は言った、だが十尺伸ばすだけで
風車型も水車型も、更に空気の取り入れ装置までも増設しなければならない。
だが言う事は簡単なのだが、其れをいざ造るとなれば色々な問題が起きるのでは無いだろうか。
確かにげんたの言う事も分かる、だが其れだけ大きくして、果たして何人の領民を乗せる事が出来るの
だろうか、だがこれだけは確実だ、どの様な事になろうとも潜水船を造る事には間違いは無い。
「なぁ~親方、野洲に帰れば潜水船を造るんでしょう。」
「銀次さん、わしも其れは間違いは無いと思って要るんですよ。」
「だったら、オレ達はこのまま野洲に戻り、直ぐ原木の切り出しに入りますよ。」
「銀次さん、本当に済まないなぁ~。」
「なぁ~げんた、次は参号船を造ると思うんだけど、参号船が出来た後は。」
「うん、でも参号船が出来ても、オレは色々と試してから次の潜水船の大きさと他の装置の事も考えない
と駄目だと思うんだ。」
「なぁ~親方、オレは参号船と其れに続いて造ると考えて、四号船、五号船と造れるだけの原木を切り出
して置きますよ。」
「銀次さん、其れはわしとしても有り難いんだ、参号船の出来次第で四号船が大きくなる事も考えて、
出来れば多く欲しいんですよ。」
「親方、じゃ~オレ達はついでに予定には無いとは言えないから六号船まで造れる様に切り出しして置き
ますよ。」
「銀次さん、有難う。」
「げんた、いいんだ、なぁ~げんたは頭で仕事を、オレ達は身体を使って仕事をするだけなんだ、だから
何も心配はする事は無いんだ、じゃ~オレ達は先に野洲に戻って、一応源三郎様にも伝えるから。」
「銀次さん、その様にしてくれるとわしらも安心だ、其れで源三郎様にはげんたが戻ってから詳しく話
すって。」
「分かりましたよ、親方、じゃ~オレ達は行くよ、げんた、余り無理して考えるなよ。」
「銀次さん、有難う。」
「じゃ~みんな行こうぜ、オレは先に源三郎様に話してから山に行くから、みんなは。」
「銀次さん、オレ達任せろって、じゃ~なぁ~、げんた、いや技師長無理はするなよ。」
銀次達は上田には寄らず足早で野洲へと向かい、げんたは親方と大工さん達はその日の夕刻近く上田に着き、阿波野に松川での出来事を全て話し、阿波野に松川で行なって欲しい事柄を詳しく説明し、上田を
出発したのが三日後の朝で有る。
「なぁ~げんた、松川の大殿様を始め、若殿様もお侍様達も、其れにこの上田のお殿様も阿波野様もみん
な源三郎様が進めて来られた連合国の領民だけは生き残れる様にと言う話を理解されてると、わしは今度
の旅でよ~く分かったよ。」
「うん、其れはオレも十分に分かったんだ、だって、みんなオレを子供として見て無いんだ
一人の技師長と見てくれてるって思ったんだ、其れに、オレは何時もあんちゃんが他の国のお殿様も理
解してるから大丈夫だって聞いてたんだ、だけど、最初オレは半分は信じて無かったんだ。」
げんたは野洲を離れ、上田、松川、山賀と訪れたが何れの国でもげんたを子供としてでは無く、連合国
にとっては大切な技師長で有ると、それ程まにも大切に扱われた事に感激している。
「だけどなぁ~げんた、源三郎様はわしらを信頼して下さってるんだ、わしはこれからは中途半端な考え
方じゃ失敗すると思ってるんだ、だからわしは野洲に戻って潜水船を造る時には命を掛けてやるぞ。」
親方も今度の旅では、源三郎と言う人物の影響力の大きさをつくづくと思い知らされたと思った。
別に親方が手抜きしているとは誰も思ってはいないが、源三郎が各国の殿様方に対し、何としても領民
の命だけは救いたいのだと、其れが伝わって要ると感じたので有る。
「なぁ~親方、野洲に戻ったら、オレは参号船から次の四号船、五号船までの事を真剣に考えるよ、其れ
で少しでも松川の若殿様や山賀の若様が安心出来るんだったね。」
げんたも今度の旅で改めて源三郎は恐ろしいと思ったのだろうか、其れとも他の国の人達も源三郎の話
を信じ、誰もが真剣に取り組み出していると感じたのだろうか。
「あの~。」
突然、野洲の城の大手門に猟師、数人が訪ねて来た。
「何処に行かれるのですか。」
門番も少し驚いて要るが、だが直ぐに何かを感じたのだろう。
「はい、実は昨日の昼前に。」
猟師達は初めて見る野洲のお城で何を言えば良いのか分からなかったのだ。
「そうですか、分かりました、その様なお話しならば、源三郎様を申されますお方がおられますので、門
を入り左に行くと大きな建物が有り、源三郎様は今日、その部屋に居られますから行って下さい。」
猟師達は城内に入るのも初めてだが、門番の言う通りに進むと大きな建物が見えた。
「あの~。」
「はい、どなた様でしょうか。」
「はい、わしらは猟師で、源三郎様と言われますお侍様に大切なお話しが有るんですが。」
「そうですか、さぁ~中に入って下さい。
総司令、猟師さん達が大切な話が有ると見えられました。」
「分かりました、さぁ~さぁ~此方へどうぞ。」
猟師達は恐る恐る源三郎の前に来ると、深々と頭を下げた。
「さぁ~どうぞ、お座り下さい。」
源三郎は確か今猟師達を呼びに行ったはずだと、正かこの様に早く来ると考えもしなかった。
「私が源三郎ですが、先程、私の配下の者が皆さんの所へ行ったと思ったのですが。」
「いいえ、わしらは何も知りませんが。」
「そうですか、分かりました、其れで大切なお話しが有るとか。」
「はい、実は。」
猟師の一人が二日前に官軍の兵士達を出会ったと話すと。
「えっ、其れは一体どの付近なのでしょうか、其れと人数も解れば大助かりで。」
「はい、では全部お話しをしますので。」
再び、猟師が話し始めた。
猟師の話によると、山の向こう側の麓近くで何時もの休む場所に昼前に着き、昼食を取り少しの休みを
取って要ると、突然、数人の其れも初めて見る軍服姿の兵士が現れ。
「お前達は何者だと。」
と 聞かれ、この山の猟師だと言うと、猟師は大勢の兵士がいる場所に連れて行かれ、兵士達の指揮官らしき人物に山に登るので道案内する様にと言われたと。
「分かりました、其れでどの様に答えられたのですか。」
「はい、わしは兵隊さん全員が上ると聴きましたので、わし一人では無理だから、仲間の猟師を呼びたい
と言ったんです。」
猟師は以前城の侍から幕府軍か、若しくは官軍と言う軍隊が攻めて来ると聴いており、咄嗟に一人では
無理だと、その後の話しでどうやら脱走兵と幕府軍の侍が山に逃げ込んだのだと、其れで山に入り脱走兵
の捜索と幕府軍の侍を仕留めたいと言うので有る。
「猟師さん、其れにしても見事に官軍を騙したと、いえ申し訳有りません、見事なお話しとしか申せませ
んですねぇ~。」
源三郎も猟師が取った咄嗟の判断には驚きを隠せないので有る。
「はい、其れで猟師を集めるのに何日位掛かるのかと聴きますので、わしはこれだけ大勢の人を案内する
には無理ですと。」
猟師は官軍兵の人数も、其れよりも幕府軍の侍を探して要ると其れが気になったのだと言う。
「其れでどの様になったのですか。」
猟師は官軍の指揮官らしき人物は山に大勢の兵士が一度に入るのは何故だか危険だと知って要る様子で、十人づつの分隊に別れ、別々のところから登りたいと言うので有る。
「其れでわしは十人の兵隊さんだったら、一人の猟師で案内出来ますよと言ったんですよ。」
「ほ~そうですか、見事に兵士達を離したと申しますか、分けたのですね。」
源三郎は猟師は兵士達を見事に分散させたと感心して要る。
其れはやはり家臣達が日頃から領民達に話しをしていた結果だと思った。
「はい、ではお願いしますって、其れと何日くらい掛かると言われましたんで、わしは今から村に戻るに
は三日は掛かり、猟師を揃えるには三日から四日は掛かるって言ったんで、その隊長さんが何故其れだけ
の日数が掛かるんだと言いましたので、わしは猟師は村には一人か二人しかおりませんので、五人以上も
集めるには其れだけの日数は掛かるって、其れに猟師が家にいるとは限りませんので、家に居らなければ
山に入らなければなりませんので、どうしても十日以上は掛かるって言ったんで、隊長さんはう~んって
考え込んでましたよ。」
「猟師さん、其れは私でも同じ様に考え込みますよ、五百の兵士達を十日間以上も待機させるのですから
ねぇ~、其れで。」
「はい、其れでわしは隊長様、この山は大変恐ろしい所で狼の大群がおりますので、と言ったんです、そ
うしたら、隊長さんは分かりました、お待ちしておりますので十人を集め私の所に来て下さいって。」
「其れでは十日間の猶予が有るのですね。」
「はい、わしは別に一日や二日は遅れても、わしが上手く誤魔化しますので。」
「其れは有り難いですねぇ~、其れで少しお聞きしたいのですが、山の向こう側にも熊笹は多いのでしょ
うか、私は官軍兵を殺すのでは無く、う~ん、どの様にお話しをすれば良いのか迷っているのですよ。」
「源三郎様、わしも下手に山の中で人を殺すと狼の大群がおりますので、源三郎様は官軍の兵隊さんと殺
さずに捕まえたいと思ってられるんですね、其れだったわしにも考えが有りますんで、其れと今の熊笹で
すが、所々に背の低い処が有るんですよ。」
「背の低い熊笹ですか。」
「はい、源三郎様、その低い処を通れば人間の身体半分は見えるんですよ。」
「ですが、其れでは隠れるところが無いと思いますが。」
「其れが背の低い処は幅が一軒程なんで、その周りはまた背の高い熊笹ですので。」
「分かりましたよ、我々はその背の低い処を見張れる様に周りの高い熊笹の中に隠れるのですね。」
「はい、其れでわしは兵隊さんには少しづつ離れて下さいと言いますので。」
「猟師さん、私は分からないのですが、何故離れて行かなければならないのですか。」
「源三郎様、多分、あの兵隊さん達も同じ事を聴くと思いますが、わしらでも誰でもですが熊笹を分けて
行くと熊笹が撥ねて顔や手に当たり切れるんで、其処から血が出て、その血の匂いを狼が嗅ぎ付けるって、これは本当なんで、わしらも熊笹だけには本当に気を付けてるんですよ。」
「そうか兵士が離れて歩けば、我々は一人づつを片付けてと申しますか、捕まえると申しましょうか、そ
の方法ならば成功するやも知れませんねぇ~。」
「はい、でもあれだけの熊笹ですのでお侍様の刀では無理だと思うんです。」
「猟師さん、私は弓を使う様に考えて要るのですが如何でしょうか。」
「そうですねぇ~、弓だったら音もしませんので。」
「其れとですが、官軍兵は同じ所を歩くのでしょうか。」
「いいえ、官軍の隊長さんは一町くらいは離れて行くって言われていますので。」
「そうか、百人の兵を十人づつに分け、一町離れ登るとなれば、仮に兵士が音を立て倒れたとしても別の
分隊の兵士達は誰も気付かないと言われるのですね。」
「はい、一応わしらも二人くらいで行きますので。」
「其れは有り難い事です、其れで出発する時には一度に行かれるのですか。」
「わしは其処までは考えていませんので、源三郎様はどの様にされるんですか。」
「私は弓の名手を行かせるつもりなのですが、ですが集まったとしても二十数名位だと思いますので。」
「源三郎様、わしに少し考えさせて欲しいんですがいいですか。」
「勿論ですよ、私は猟師さんにお任せします。
私はどの様な協力でもさせて頂きますので、何でも言って下さい。」
猟師は腕組みし、考え始めた、其の時、丁度。
「総司令、野洲の名手をお連れ致しました。」
「其れはどうも、皆様方、大変ご苦労様です、其れで何人お集まりして頂けたのでしょうか。」
「はい、三十名で御座います。」
「ほ~其れは大勢ですねぇ~、まぁ~皆様お座り下さい。
其れで今からお話しする事はこの野洲、いいえ我が連合国に取っては最初に起きるで有ろう運命を決定
する様な大事件で、間も無く此処に猟師さん達も来て頂けると思いますので、全員が揃い次第お話しをさ
せて頂きますので、其れまでは。」
「総司令、猟師さん達をお連れ致しました。」
「皆様、大変ご苦労様で、さぁ~さぁ~皆さん中にお入り下さい。」
「えっ。」
「あっ。」
猟師達は驚いて要る。
「何でお前が。」
「うん、其れは今から此方の源三郎様からお話しが有るから、その後に。」
「うん、分かったよ。」
猟師達も座り、これで一応全員が揃ったので有る。
「皆さん宜しいでしょうか、どうやら全員が揃われたと思いますので、今から私が詳しくお話しをします
が、其の前に猟師さん達にお聞きしたいのですが、我が連合国の話しと、幕府軍、官軍の話は私達の家臣
からお聞きとは思いますが、如何でしょうか。」
「オレは聞いたよ、お侍様が何度も村に来られて、少しでも分からない事が有れば聴いてくれって、だか
らオレは全部分かってますよ。」
「うん、わしも聞いたよ、オレ達は幕府か官軍か知らないけど好き勝手にされて溜まるかって思ってます
んで、でも何で作次が居るんだ。」
「皆様方は私達の仲間で、例え幕府軍や官軍が攻撃して来ても決して負けないと、私は確信しております。
其れで今申されました作次さんですが、数日前高い山の向こう側の有る所で休んでおられたところ、
官軍の兵士に有る場所に連れて行かれましてね。」
その後、源三郎は家臣と猟師達に詳しく丁寧に説明をした。
「あの~宜しいでしょうか。」
「はい、宜しいですよ。」
「その官軍って軍隊にオレ達が戦うんですか。」
「いいえ、猟師さん達は戦は行わないですからね、皆さんには山の向こう側からの道案内をお願いしたい
のです。」
「まぁ~其れだったらいいんですが、なぁ~作次、その官軍って奴らはオレ達を殺すんじゃないんだろう
なぁ~。」
「源三郎様、わしから話をさせて貰ってもいいですか。」
「はい、是非、お願いします。」
「じゃ~お侍様もお前達もよ~く聞いてくれよ、わしは官軍の隊長さんには、わしが一人では無理だって、十人くらいは必要だって言って、わしが呼んで来ますが、村には猟師は一人くらいなんで十日は掛かりますよって言ったんだ。」
猟師の作次は先程まで源三郎と話した内容を話すと。
「なぁ~んだ、じゃ~わしらが来る前に作次さんがぜ~んぶ考えてたのか、よ~し其れだったらわしも決
めたぞ。」
「おい、決めたって、一体何を決めたって言うんだ。」
「だってよ~、作次さんの話しじゃ、わしらは官軍の兵隊を騙してお侍様が居られる所まで連れて行くん
だろう、それも官軍の兵隊を騙すんだぜ、わしは一度でもいいから人を騙したかったんだ。」
「なぁ~んだ、お前の決めてって言うのは官軍の兵隊を騙す事だったのか。」
「うん、そうだよ、でもお侍様達の居られる所でわしらは何をするんだ。」
「何もしなくてもいいんだ、わしらは何も知りませんよ、わしらは狼だけを探しておりますので、後の事
は何も知りませんって。」
「そうか、わしらはお侍様が隠れている所まで連れて行けば、その後はお侍様に任せれば良いんだ。」
「まぁ~そう言う事なんだ、源三郎様、わしに。」
まぁ~其れにしても猟師達は好きな様に解釈し、自分達だけで話を進めている様にも見えるが、源三郎
は一切口出しせずに要る。
其れは猟師達に全てを任せれば大丈夫だと信じて要るからなのだろうか。
「はい、勿論ですよ、ご家中の皆様方も今回は猟師さん達に全てをお任せ下さいね、私は官軍兵の持って
要る連発銃だけを手に入れる事だけにしておりますので、仕留めた後は連発銃を、其れと多分腰には弾薬
の入った袋を持っておりますので連発銃と弾薬だけを奪い取るだけにして下さい。」
「総司令、では猟師さん達が連れて来られた官軍の兵隊は皆殺しにするのですか。」
「はい、勿論ですよ、其れはねぇ~、若しも兵士を一人でも逃す様な事にでもなればですよ生き残った兵
士が本隊に知らせ、後日大勢の兵隊が我が連合国に攻めて来る事は間違いは無いと思いますよ、その様な
事にでもなれば我々は数日で全滅し、領民さん達は其れこそ悲惨な目に合う事に間違いは無いと思います。
其れと矢は全て回収して下さいね。」
「ですが連発銃を奪われたと分かれば、同じでは無いのでしょうか。」
「うん、拙者も同じだ、源三郎様、何故連発銃だけを奪えば良いのですか。」
家臣達の不安も分かる、仮に狼の餌食になったとしても、何故連発銃と弾薬だけが無くなっているのか
不審だと考えるのが普通だ。
「勿論、私も分かりますよ、ですが、我々連合国の山には大勢の猟師さんが居られますからね、でも官軍
の兵隊が果たして其処まで考えるでしょうかねぇ~、其れにですよ指揮官が危険を犯してまでも山に入り
遺体を調べるとは思えないのですがねぇ~。」
源三郎の説明では何も心配する必要は無いと言う、だが源三郎自身も家臣達と同じ様に考えて要る。
兵士達は狼の餌食になったと、其れよりも連発銃と弾薬だけが無くなっており、誰が考えたとしても不
審だと思うのが普通なのだ。
「まぁ~其れは私が考えますので、其れよりも皆様方は登って来た官軍の兵隊は全員殺して下さい。」
源三郎が余りにも簡単に兵士全員を殺せと言うので猟師達は身震いし、源三郎と言う侍は優しそうな顔
と言葉で言うのが一番恐ろしいと感じている。
「まぁ~後の事よりも、我々は今目前に有る官軍を滅ぼす事が大事ですのでね、作次さんが考えられまし
た方法をよ~く聞いて下さいね、では作次さんお願いします。」
源三郎は作次に微笑んだが、作次は何故か恐怖を感じている。
「源三郎様、わしも今考えてたんですが、何も五百人の兵隊を登らせる事は無いと思うんですが。」
「作次さん、何かの意味でも有るのでしょうか。」
「はい、わしは最初の百人で十分だと思ったんです。」
「ですがねぇ~、其れでは残りの四百人が残るのですよ。」
「はい、分かってます、わしら山の猟師達は狼がこの世で一番恐ろしいと思ってるんです。
でも官軍の兵隊はこの山に一体どれだけの狼が住んで要るのかも知らないんです。
其れで今わしが考えた方法なんですが、わしら猟師が先に何頭かの狼を仕留め、狼の死骸を山の途中に
置くんですよ。」
「えっ、作次さん、狼の死骸を置いて一体何をされるのですか。」
源三郎もだが家臣達には全く理解が出来ない、何故最初に狼の死骸を放置するのだろうか。
「源三郎様、わしの考えた方法ですが。」
その後、猟師の作次が考えた方法を説明すると。
「作次さん、よ~く分かりましたよ、最初に上る百人の兵隊は全滅するが、次に登る兵隊達に狼の死骸を
見せればその付近にも狼が来ていると思わせるのですね。」
「はい、その通りでして、兵隊さんも狼の死骸を見れば、其れ以上登るのは嫌がると思うんです。
其の時、わしら猟師が先に登った兵隊さん達には正かとは思いますが、狼に襲われているかも知れませ
んって言えば、官軍の隊長さんも其れ以上無理をして登るとは言わないと思うんですが。」
猟師の作次は兵隊を全員殺すと言った源三郎が恐ろしくなったのだろう、作次にすれば其れだけ連合国
ではこの数年間と言うものは人殺しが少ないのか、其れとも見た事が無いか、聴いた事が無いのだろうか、やはり人殺しだけはしたくは無いと思って要るのだろうが、其れが源三郎の作戦なのかも知れない。
「作次さん、若しも、若しもですよ、其れでも官軍の隊長が行くと言ったとしますよ、其の時には作次さ
んは如何されるのでしょうか。」
「源三郎様、わしははっきりと言いますよ、隊長さん、この山には何千頭、いや一万頭以上の狼がいるっ
て聞いてるんですよ、幾らわしら猟師でもそんな沢山の狼を相手にはしたくは無いですよって言います。
源三郎様、狼って本当に頭がいいですからねぇ~。」
「じゃ~先に登った兵隊が生きているのか、其れとも襲われ殺されているのか知りたいと言えば、何と
答えられるのですか。」
「わしは今登っている所が安全な道だと言っても、この山に住んで要る狼は物凄く賢いですから、少しで
も血の匂いを嗅ぎ付ければ百人の兵隊さんはバラバラになって逃げているのか、其れとも狼の餌食になっ
てるのか、其れは分かりませんって、其れにわしらの仲間も食い殺されているのかも分からないですか
らって言います。」
「なぁ~、作次、オレ達も狼の餌食になってるって言うのか。」
「わしは其処が一番難しいと思うんだ、官軍の兵隊さんだけが狼の餌食になってるって、そんな事って誰
が信じると思うんだ、わしらも狼の餌食になってるって事も有るんだから。」
「作次さん、私は狼は恐ろしいと聞いておりますが、ですが未だに狼とは遭遇した事が有りませんので
ねぇ~。」
「源三郎様、狼って本当に賢いんですよ、わしら猟師が山に入った時から、もう狼はわしらを見てるんで
すよ。」
「えっ、では狼と言う生き物は相手が人間でも猟師さん達と、我々とは違うと分かって要るのですか。」
「源三郎様、勿論ですよ、其れに狼は獲物を仕留める時には必ず集団で襲い掛かりますから、幾ら、兵隊
さん達は怖い人達だって言っても、狼に狙われたらまぁ~簡単には逃げる事は出来ないんです。」
源三郎も狼の恐ろしさは聞いて要る、だが本当の恐ろしさを知って要るのはやはり猟師達で、作次達猟
師仲間も頷いて要る。
「源三郎様、わしら猟師は何時も傍にと言いますか、付近には居ると分かってますから、普段は慌てる事
は有りませんが、源三郎様やお侍様には失礼な言い方か知りませんが、野洲のお侍様が狼の集団に襲われ
たと思って下さい。
お侍様が切り合いになっても、お侍様は慌てないですが、相手が狼ともなればどんなにお強いお侍様で
も狼のあの眼、あの眼で睨まれたら、もう身動きが出来ないかも知れないと思うんです。
源三郎様に怒られるかも知れませんが、其れだけ狼って恐ろしいんですよ。」
「作次さん、では何故狼は猟師さん達を襲わないのでしょうか。」
「源三郎様、さっきも言いましたが、狼は賢いんですよ、そんな狼でも獲物が全部捕まえられる事は出来
ないんです。
山に生きてる狼もですが、鹿やウサギもですが、わしら人間と違って毎日が生きるか死ぬかの戦いなん
ですよ、でも狼って本当に賢いんで、狼はわしらが鹿や他の動物を仕留めるのを待って要るんですよ、
だってそうでしょう、何もせずに獲物が入るかも知れないんですかねぇ~。」
源三郎は猟師達の仕事がどれ程危険なのか、其れを初めて知ったので有る。
「ですから、わしは官軍の隊長さんにも言いますよ、狼の大群に襲われたら下手をすれば兵隊さんは全員
狼の餌食になりますよって、其れでもいいんだったら、わしらは行きますがね、其れにわしもですが、わ
しの仲間は自分の命が大事ですからね、兵隊さんよりも先に逃げますよって。」
作次達猟師に任せるのが今の源三郎が取れる一番の作戦で、仮に残り四百人の官軍兵が生き残り、狼の恐ろしさを知れば、当分の間か、いや数年間なのか、願わくば二度と山に登って来ないだろうと考えた。
二度と山に入る事の無い様に官軍の兵士達に恐怖心を知らせる事の方が最善なのだ。
「では作次さんは最初に百人の兵士だけを仕留めれば十分だと申されるのですか。」
「源三郎様、わしら猟師は戦の事は分かりませんが、今の方法だったら多分ですが生き残った兵隊さんは
帰ってから他の兵隊さんに話すと思うんですよ、あの高い山には何千頭もの狼が住んでるんだ。
でも中にはもっと大袈裟な話しをする兵隊さんが居るかも知れないと思うんです。」
「そうですか、では作次さん達に全てお任せしますので、何卒宜しくお願い致します。」
源三郎は改めて作次と仲間の猟師達に頭を下げた。
「えっ、お侍様が、オレ達猟師に頭を。」
源三郎はニッコリとして。
「作次さん、其れに猟師の皆さんには一番危険なお仕事をお願いしているのです。
私は何も出来ませんのでね、ですから皆さんに頭を下げるのは当然だと思って要るのです。」
「う~ん、オレは今までのお侍様って、誰でも偉そうにしているとばかり思ってたんですよ。」
「其れはね何も分からない一部の侍でしてね、野洲の侍は頭を下げる事は当然だと思っておりますよ。」
家臣達も頷いて要る。
猟師達にすれば今まで見た事も無かったのだろうか驚いて要る。
「源三郎様、じゃ~此処に居られるお侍様も全員が同じなんですか。」
「はい、その通りですよ、其れですから先程も申しましたでしょう、これは猟師さん達に全てをお任せし
ますとね、私達の仲間で山に住む動物の事まで知って居られるお方はおりませんからね、まして、狼は恐
ろしいと聞いておりますが、ご家中の中で今まで狼を見られたお方は居られるでしょうか。」
源三郎の問いに家臣達はお互いを見るが、誰も手を挙げる事は無く。
「作次さん、猟師さん達も今見て頂いた通でしてね、野洲の家臣で狼を直接見た者は誰一人としておりま
せん。
作次さん、我々は山の事を全くと言っても良い程知らないのですよ。」
「源三郎様、わしは今物凄~く緊張して要るんですよ、だってわしらの責任は物凄く重いんだって。」
「作次さん、我々が仮にですよ、官軍、いや狼の大群に襲われ殺されたとしても、作次さんや他の猟師さん達には一切の責任は有りませんのでね、何も心配される事は有りませんよ。」
「源三郎様、ですがわしらも責任は感じますよ、だって、わしは官軍の事よりも今は狼の事で頭の中が混
乱してるんですよ。」
「作次さん、ですが若しもの時には皆さんは逃げて下さいよ。」
「源三郎様、そんな事は無理ですよ、オレ達がお侍様を見捨てるなんて出来ないですよ。」
「まぁ~まぁ~作次さん、今から余り深刻に考えないで下さいね、どんなに考えても無理な時も有り、
出来ない事も有るのです。
其れに野洲の武士は領民を守る為にはどの様な危険が待ち構えて入ようとも命を掛ける、其れが野洲の、いいえ連合国の武士ですからね。」
猟師達も源三郎にそれ程までに言われると、返す言葉も無かった。
「お~いみんな、わしらも野洲の猟師だ、わしらがへまをすればお侍様だけじゃないんだ、この城下の人
達も農村や漁村の人達も奴らに殺される事にもなるんだ、わしは源三郎様が言われた官軍の奴らに、いい
やわしらの連合国の山にだけは行きたく無いって思わせたいんだ。」
「よ~し、だったら狼は多い方がいいんだろう。」
「そうだなぁ~、十頭、いや二十頭は欲しいんなぁ~。」
「作次、其れはオレ達に任せろって、其れよりもお前は、何時どんな方法で奴らを仕留めるかを話してく
れよ。」
「よ~し分かった、じゃ~わしらは二人一組で、お侍様は六人で一組になって欲しいんです。
其れとこれはわしからのお願いなんですが、山に入る時には草履を二足履いて頂きたいんです。」
「作次さん、草履を二足と申されましたが、何故二足も履くのでしょうか。」
「源三郎様、山は危険ですので、其れと足は素足では危険でして、其れと手や腕も顔も出来るだけ隠して
欲しいんです。」
「えっ、では目だけをですかね。」
「はい、此処の山には熊笹が背丈以上も有りましてね、熊笹で腕や顔を切り、血が出ますと狼は少しの匂
いでも嗅ぎ付けますので。」
「と、言う事は直ぐに血を流す人間は弱いと見て要るのですか。」
「はい、此処の狼は何故か分かりませんが、直ぐ数十頭でやって来ますのでね、まぁ~其れよりも血を流
せば後は狼の餌食になると言う事になりますのでね、それ程此処に住んで要る狼は厄介なと言うよりも頭
のいい生き物なんです。」
「では、猟師さん達もでしょうか。」
「源三郎様、わしらはそんな下手はしませんので、其れにわしら猟師の姿は狼も見慣れておりますが、
お侍様や兵隊さん達の姿は初めてだと思いますので少しでも油断すると襲われますので注意しなければな
りません。」
「皆様方、今お聞きの様に官軍の兵士達よりも狼には特に注意する事ですよ、其れでは猟師の皆さん詳し
い内容の説明に入って下さい。
作次さん、私も参りますのでね宜しくお願い致します。」
「えっ、正か総司令が行かれると言うのは無理では有りませんか。」
「何故ですか、皆様方が命懸けで参られるのですよ、私だけが此処で待つ事は出来ませんよ。」
「総司令、官軍を撃滅させるのは我々の任務で、総司令には他に大事なお役目をして頂きたいのですが、
皆様方、如何でしょうか。」
「えっ、他に大事な役目とは一体何ですか、私は今回官軍を撃滅させる為に参るのですからね。」
「総司令、今回は野洲の問題で御座いますが、他の国にも官軍が来るやも知れないと私は思うので御座い
ます。
総司令に若しもの事が有れば、我々の連合国を引っ張って行かれるお方は居られませぬ。」
源三郎も分かって要る、だが猟師達には源三郎と言う人物がどの様な人物なのかは全く知らない。
源三郎が連合国では一番大事な人物だと分からせる為にも家臣達からは現場には行くなと言わせなけれ
ばならない。
「総司令、拙者も後藤殿と同じ気持ちで御座います。
我々が官軍を撃滅しますので、総司令は次の策を考えて頂きたいと思います。」
「ですがねぇ~、私は何としても。」
「総司令、其れだけは絶対に駄目ですよ、今回は我々にお任せ頂き、総司令は他国に連絡をして頂きたい
ので御座います。」
「源三郎様、わしは今お侍様が言われて驚いて要るんです。
源三郎様がわしらの国でいちばお偉いお方だと知りませんでした。
さっきからの失礼を許して下さい、この通りです済みませんでした。」
作次は両手を着き深々と頭を下げた。
「作次さん、手を挙げて下さいよ、私はねぇ~皆さんが思われている様な人間では有りませんよ、ただ
ねぇ~、私は野洲も含めて領民さんが生き残れるだけで良いと思って要るのですよ。」
「え~、ではお侍様は一体どうなるんですか。」
「私達ですか、私達はねぇ~相手が幕府軍で有ろうと、官軍で有ろうと領民を守る為には命を掛けて戦い
ますよ、其れで皆さんが生き残れるので有れば、私は武士としての誇りを持ってあの世に行く事が出来る
と思っておりますので。」
作次もだが、猟師達は大変な驚き様で、以前、家臣達が農村を訪れ何度も話をしていたが、正か、野洲
で一番大事だと言われる源三郎と言う人物から言われるとは思いもしなかったので有る。
「源三郎様、わしは猟師です、でもわしよりも源三郎様に若しもの事が有ったら、わしは天国のおやじや
爺様から何と言われるか、お前は猟師の面汚しだって、天国よりも地獄に行けってね。」
「そうだ、そうだ、源三郎様、後の事はオレ達に任せて下さいよ、オレ達が官軍と幕府軍をやっつけてや
りますから、其れにお侍様がさっきも言われましたが、他の国にも知らせてやって欲しいんですよ。」
次第に源三郎の筋書き通りになって行く。
「皆さん、本当に有難う、まぁ~ねぇ~考え方を変えれば私が参りますと、其れこそ皆さん方の足を引っ
張る事になりそうですからねぇ~。」
と言って源三郎は大声で笑ったが。
「総司令、来ないで下さいよ、総司令が来られますと、拙者が放つ矢が何処に飛んで行くのかも分かりま
せんので。」
「何だと、お主、総司令が来られると、え~一体何を狙うのだ。」
「さぁ~其れは矢に聴いて下さいよ、私はねぇ~総司令が来られますと緊張して矢が何処に飛んで行くの
かも分からないと申し上げて要るので御座います。」
家臣も大笑いし、源三郎が来ると緊張の余り手元が狂うと言うので有る。
「何だと、ではお主は官軍の兵を。」
「いゃ~拙者の放つ矢はねぇ~、へそ曲がりでしてねぇ~。」
「馬鹿な事を申すな。」
家臣達も猟師達も大笑いしている。
「はい、はい、分かりましたよ、私はねぇ~皆さんの放つ矢が飛んで来ない、あっ。」
「総司令が、え~正か逃げられるのですか。」
「はい、勿論ですよ、私はねぇ~狼で有りませんよ、皆さんから見ると私は狼の毛皮を被った侍の様です
からねぇ~。」
猟師達は腹を抱えて大笑いして要るが。
「総司令、若しもですが、他国でも同じ事が起きて要るやも知れないですよ。」
「勿論、その可能性も考えられますねぇ~、ですが今のところは無いと思って、私は野洲での話しを他の
国に書状を認めますので、其れで今回の件が終わりますれば、奉行所と我らの共同で警戒に入る事も考え
ておりますので、其の時には皆様方にも協力をお願いするやも知れませぬので、どうか皆様方が全員ご無
事で此処に戻られる様に祈っておりますので、絶対に無理だけはしないで下さい。
今度の相手は官軍とこの世で一番恐ろしいと言われます狼の大群ですから、注意だけは十分にお願い致
します。」
「総司令、了解致しました。」
「どなたか、そうですねぇ~、そうだ吉川様と石川様、其れに後二人はどなたでも宜しいですので筆と紙
を持って来て下さい。」
「はい、では私が吉川殿と石川殿を呼びに参りますので。」
その後、四名が源三郎の元に来て、源三郎は猟師達との話と野洲が取った行動の全てを聴かせ、最後、
各国のには警戒を厳重にされたし、警戒を厳重にされたしと、二回認め、菊池、上田、松川、山賀の各藩に向け早馬を飛ばせた。
夕刻には奉行所よりお奉行と与力、同心が到着し、源三郎は全てを説明し、野洲としては今までに無い
最も厳重だと思われる厳戒態勢に入る様に伝え、奉行所からはその日の内から全員が山の麓へと向かい、
何時終わるとも分からない警戒態勢に入ったので有る。