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闇の帝国    作者: 大和 武
65/288

 第 38 話。 行動開始する藩主と家臣。

 松川を発った源三郎達の一行は数時後山賀の城下に入り直ぐお城へと向かった。


「なぁ~あんちゃん、山賀のお城って大きいなぁ~。」

「そうですねぇ~、野洲の二倍以上は有ると思いますよ。」

「へぇ~そんなに大きいのか、其れで野洲と違って高い山も遠くに見えるんだ。」

「山賀はねぇ~、連合国の中では一番大きな領地を持ってるんですよ、其れと土地と水が良いのでしょう

かねぇ~、お米も大豊作が続いておりますから他の国にも送られているのですよ。」

「じゃ~オレ達が食べてるご飯もなのか。」

「う~ん、其れは私も分かりませんがね、其れに山の向こう側から来られた農民さん達も新しい田や畑を

作り始めて要るので次の収穫の時には今まで以上の大豊作は間違いは無いと思いますよ。」

「あんちゃんは其れを洞窟の中に隠すのか。」

「そうですよ、その為にもより多くの洞窟を掘削する必要が有るのです。」


 源三郎の提案で始まった野洲での洞窟掘削で有る。


 其れよりもげんたは生まれて初めて山賀まで来た、其れがげんたに取って今後の人生に対し大いに役立

つのかも知れない。


「さぁ~皆様方ゆるりとして下さい。」


 若様、松之介は腰元達にお茶の用意を伝えた。


「義兄上、実は山賀の城は非常に秘密が多いのです。」

「若様、秘密が多いとは。」

「はい、まず北側の空掘りですが、東側や南側の堀と比べても二倍から三倍の大きさが有るのです。」

「山賀殿、二倍か三倍の大きさが有ると申されましたが。」

「菊池様、後程ご案内させて頂きますが、其れはもう大変な驚きをされると思いますよ、私も詳しくは説

明が出来ないので御座います。」

「山賀のお殿様、其れってお城が大きいからお堀も大きいって事なんですか。」

「技師長、お城が大きいからでは無いのです。

 先程、皆様方が渡られました東門のお堀が普通なのですが、その大きさを覚えて頂ければ北側の空掘り

がどれだけ大きいのか分かりますよ。」

「ふ~ん、だけど何でそんな大きな空掘りを作ったんだ。」

「技師長、其れが今でも謎で分からないのです。


 お城に関する書き物が何一つも残っておりませんので、其れにですが空掘り近くに有る洞窟にも伝説が有りましてね。」

「山賀殿、その伝説とは一体どの様なお話しなので御座いましょうか。」

「はい、其れが空掘りの北側に小さな祠が有りまして、洞窟の入り口と言うのが祠の裏側で其れも大木の

陰で直ぐには分からないのですが、この地方には祠の裏に有る洞窟にはお蛇様が住んでると言われております。」

「お蛇様って、大蛇なんですか。」

「そうですよ、私が城下で知り合いました正太さんって言う人なんですが、大昔から大きな災い事が有る

と若い娘をお蛇様に差し出すと言う風習が有ったと言う話しなのです。」

「えっ、災い事が起きれば若い娘を生け贄に出したと申されるのですか。」

「はい、その通りでして、山賀の城に有る北側の空掘りには誰も近付くなと城下の人達は今でもその伝説

を信じておられるのです。」

「あんちゃん、オレは蛇って大嫌いなんだ、だからオレは絶対に行かないからね。」


 源三郎も殿様方も笑って要る。


「げんた、何も心配は要りませんよ。」

「だって大蛇が要るんだぜ、あんちゃんは怖く無いのか。」


 げんたもだが誰でも蛇は好きでは無いと、だが。


「技師長、実はですねぇ~お蛇様って言う伝説ですが其れが全くの大嘘でしてね、その洞窟の中からは大

量の武器を発見されたのです。」

「えっ、だったら何でそんな大嘘の伝説が出来たんですか。」

「まぁ~これは私の推測ですが洞窟を掘り進めて行くと、先日も皆様方にお伝えしました様に燃える石と

鉄になる土が出て来ましてね、其れで北側の空掘りには鉄砲や刀を作る為の作業現場が作られたのでは無

いかと考えたのです。」

「山賀殿、ですがどのお城でもお掘りは掘られており簡単には行けないと思うのですが。」

「はい、其れは普通のお城の造りでして、この山賀のお城だけは別格だと申しましょうか、私も其を見た時には大変な驚きで御座いました。」

「ですが一体どの様な方法で空掘りに入るのですか、上田でも空掘り有りますが空掘り降りる事は簡単で

は無いと思いますが。」

「若、余り詳しく話されますと後の楽しみが無くなりますぞ、皆様方、まぁ~百聞は一見に如かずで御座

いますのでね。」


 若様、松之介も頷き。


「正しくその通りですねぇ~、では皆様方如何でしょうか今からでも宜しければ北の空掘りに向かいたい

と思いますが。」

「山賀殿、私は何故か分かりませぬがその北側の空掘り早く参りたいと思うので御座いますが。」

「義兄上、如何致しましょうか。」

「そうですねぇ~、若様準備をお願いします。」

「はい、承知致しました。」


 十数人の家臣がお城の地下へと向かい、暫くしてから。


「では皆様方参りましょうか。」


 松之介が先頭になり、一度大手門を出た。


「山賀殿、一体何処に向かわれるのですか。」

「菊池様、今から行くところが北側の空掘りの入り口になっておりまして、勿論、城内からも入る事は出

来るのです。

 皆様方にはこちらの方がより分かりやすくなると思いますので、では。」


 一緒に来た大工や鍛冶屋達も一体何処に行くのだろうかと話しをしている。


 大手門を出、暫く行くと西側の城壁に着き皆が待って要ると、突然目の前の城壁が左右に大きく開いた。


「えっ、これは一体なんだ。」


 全員が驚きの余り唖然とした表情で、正か城壁が開くとは誰もが考えてはいなかった。


「さぁ~皆様方、此処から北側の空掘り入る事が出来ますので。」

「なぁ~あんちゃん、一体どうなってるんだ、オレはこんな仕掛けが有るなんてもうびっくりしたよ。」

「げんた、これがこのお城の秘密のなんですよ、でもねぇ~これだけの事で驚いては駄目ですよ。」

「え~あんちゃん、まだ何か有るのか。」

「まぁ~其れは見てからの楽しみにしましょうかねぇ~。」


 源三郎は山賀の隠された部分を知って要る、だが他の者達はと言うと。


「なぁ~親方、オレはお城の其れもあんな大きな壁が開くって初めて見たよ。」

「銀次さん、わしもだよ正かあんな所に入り口が有るなんて誰も考えていなかった思うんだ、だからわし

は驚くよりももう腰が抜けそうだよ。」


 他の職人達も大変な驚き様で口を開いたまま城内に入って行く。


「皆様方、長い下り階段ですが、後少し行きますと丁度北側の空掘り着きますので。」

「山賀殿、この場所ですか。」

「はい、城内の地下でして勿論上からも来れるのですが、其れが簡単に見付からなかったのです。

 其れが有るひょんなことから突然見つかり、其処からも此処へと連なっております。」

「ですが一体何の為に西側の城壁が開く様に作られたのでしょうか。」

「はい、其れも私の推測ですが、この地下に大勢の侍が隠れる事が出来ますので、若しも敵からの攻撃を

受けた時には一時的にこの地下に逃れ体制を整え西側の城壁を開け反撃に出たと思われるのですが、其れ

も書き残された書物も無く本当の使い道が一体何なのかが未だに解明出来ないのです。」


 松之介は全員を北側に案内すると、今度は北側の空掘り作られた城壁を開けた。


「わぁ~あんちゃん、何だこのお城は秘密の扉まで有るぜ。」

「さぁ~皆様方、此処が北側の空掘りで御座います。」

「お~何と言う大きな空掘りですか、幅も深さも其れに物凄く長いですが。」

「わぁ~なんだよ~物凄く大きな空掘りだ、何でこんなに大きな空掘りを作ったんだ。」


 銀次の仲間も驚きの連続だが驚きを通り越し言葉にならないと言う表情で有る。


「う~ん、私もこの様な大きな空掘りは初めてですねぇ~。」

「上田様、秘密はこれだけでは御座いませぬ。」

「山賀殿、まだ有ると申されるのですか。」

「はい、この空掘りですが、城壁の扉を閉めますと何処から見られましても、まず発見される事は御座い

ませぬ。

 其れと空掘りから見えると思いますが三本の大木ですがあの場所に小さな祠が有りまして其処にも入り

口が有るのですが、本当の入り口は目の前に有るので御座います。」


 空掘りの幅は二町以上も有り、空掘りに入って来た者達は辺りを見回して要るが、周りには入り口らしき物は全く見えないので有る。


「お~い正太さん開けて下さい。」


 松之介は洞窟で掘削工事中の正太に伝えると。


「わぁ~まただよ、あんちゃん一体どうなってるんだこれで三ヶ所目だぜ。」


 げんたが驚くよりも殿様方の反応の方が大きい。


「山賀殿、一体どの様な仕掛けになって要るのでしょうか、私はこの様に大きな仕掛けが有るとは思って

もおりませんでしたので何と表現して良いのかも分からないのですが。」


「皆様方の驚きは私も分かりますが、この中は大きな洞窟になっておりまして、その中から燃える石と鉄

になる土を発見したので御座います。」

「山賀殿、燃える石と鉄になる土はどれ程の量が有るので御座いましょうか。」

「今は別々で採掘しており此処から一町程先の所から、又、別の洞窟が発見され、其処からは鉄になる土

が掘り出されておりますが其れもどれだけ続いて要るのかも分からないで御座います。」

「ねぇ~山賀の殿様、燃える石って沢山採れるんですか。」

「そうですねぇ~、この洞窟の先端から掘り出して要るのですが、其れも分からないのです。」

「お~い、開けてくれよ。」


 前方からは荷車数十台が燃える石を運び出して要る。


「荷車には木枠を付け一度に多く積める様にしておりますので。」

「わぁ~あんちゃん、この石って黒く輝いてるぜ。」

「げんた、其れが燃える石ですよ。」

「へぇ~これが燃える石か、でもどれだけ取れるのか誰にも分からないのか、う~ん。」

「ですが問題が有りましてね、この石ですが普通の石と違い簡単に割れますので、今は洞窟に木組みで補

強しながら採掘を続けて要る状態でして、私も松川の連岩が使えるので有れば落盤事故も防げると思うの

です。」


 源三郎は考えて要る、最初に連岩を使うのは菊池の隧道だと、だが山賀の洞窟で採掘されて要る燃える

石は普通の石に比べ比較的簡単に割れると、菊池の隧道が先なのか山賀の採掘現場が先なのか其れを決め

なければならず菊池の隧道工事に今のところは使われる事は無いのか。


「高野様。」

「総司令、私も同じ事を考えており、私は山賀の採掘現場に優先して頂きたいと思っております。」


 やはり高野も分かって要る、菊池の隧道には使っておらず、だが山賀の採掘現場は大量の燃える石と鉄

になる土を搬出しており、誰が考えても山賀の採掘現場を補強するのが最優先だと。


「高野様、誠に申し訳御座いませぬ。」

「総司令、この現場を最優先にして頂く事が連合国の為になると、菊池の隧道は今のところは別に問題は

御座いませんので最優先かと考えております。

 我々の連合国に取っては鉄を作り出す事の方が大事で有ると思います。

 鉄を大量に作れるならば隧道が仮に落盤事故で使えなくなったとすれば山の向こう側からも来る事が出

来ないと言う事で御座います。」

「殿、今暫くは隧道を使う予定も御座いませぬので。」

「殿様、誠に有難う御座います。

 私もこの現場に参りましたが改めて鉄が大量に作れるので有れば、其れを最優先にと考えたので御座い

ます。」

「源三郎殿にお任せ致しますので。」

「若殿、松川の連岩をこの現場で使いますので大至急届けて頂きたいのです。」

「はい、義兄上、直ぐに手配致しますので。」


 竹之進は家臣に松川の連岩を山賀で大量に使うのだと話、家臣は直ぐ松川へ戻って行った。


「若様、山賀の大工さん達と左官屋さんを集めて下さい。」

「はい、承知致しました。」


 松之介も家臣に大工と左官屋を集め、この現場に連れて来る様にと伝えた。


「私が全てをお話ししますので何も心配せずにと申して下さい。」

「はい、承知致しました。」


 山賀の家臣も大急ぎで城下に向かった。


「源三郎様。」

「銀次さん、何か。」

「はい、オレ達の仲間には元左官屋もおりますので当分の間は此処の現場のお手伝いをしたいんですが、

宜しいですか。」


 銀次は浜の仲間を全員連れて来ている。


「其れは私も大助かりですよ、何卒宜しくお願い致します。」

「源三郎様、わしらも手伝いますよ。」


 大工の親方も全員を連れて来ており。


「親方、誠に有り難い事です。」

「源三郎殿、我々も大工さん達を同行させて頂いておりお手伝いをさせて頂ければと思うのですが。」

「菊池様、誠に申し訳御座いませぬ。」

「源三郎殿、我々もで御座いますので。」

「上田様、有り難き事で御座います。

 では皆様方にこの洞窟の枠組みをお願いして頂けますでしょうか。」

「若様、大変だ。」


 正太は何も知らずに来たが、其れよりも大変な事が起きたので有る。


「正太さん、何が有ったのですか。」

「はい、今、先端部分で小さな落盤が起きましたので全員外に出て欲しいんです。」

「分かりました、皆様方誠に申し訳御座いませぬが、一度空掘りに避難をお願いします。」


 洞窟内に居た全員が大急ぎで空掘りへと出て行く。


「お~い、正太じゃないか。」

「えっ、正か銀次兄さんでは。」

「お~そうだよ、正太、お前が島で言ってた伝説の洞窟って、この洞窟なのか。」

「はい、そうですが、でも銀次兄さんは島を出られてから一体何処に居られたんです。」

「まぁ~其れがひょんなことから源三郎様のお世話で今は野洲の浜に有る洞窟の中で潜水船を造ってるんだよ。」

「お~いみんな、銀次兄さんが来られてるぞ。」

「えっ、本当か。」


 銀次は島で服役中に正太達を何度も助けた事が有り、正太達は今も銀次に恩義を感じて要る。


「わぁ~本当だ、銀次兄さんだ、えっ、だけど何で此処に居るんですか。」

「正太、お前達も島じゃ~随分とやられたからなぁ~。」

「でも、兄さんのお陰ですよ、なぁ~みんな。」

「そうだよ、今のオレ達が生きてるのも銀次兄さんのお陰なんだから、オレ達は今でも兄さん居る方には

足を向けては寝られないんですよ。」

「なぁ~正太、お前若様って言ったけど、あのお方は山賀の。」

「兄さん、まぁ~オレ達も何でか分かりませんが、ある日、城下の一善飯屋で若様と出会ったんです。

 でも、その時はお殿様って知らないし、若いお侍様だから若様ってお呼びしたんですよ、でもお殿様っ

て知ってから、オレ達がお殿様って言ったら若様に怒られたんです。

 私はお殿様って呼ばれるよりも、若様の呼び方の方が嬉しいですからって、其れでこれからも呼び名は

若様と言って下さいって。」


「ふ~ん、そうだったのか、其れで話は変わるが落盤した所の補強は。」

「はい、まだ出来て無かったので数日の間にって思ってたところなんです。」

「其れで材料は有るのか。」

「其れが、今は無いんで。」

「よ~し分かった、源三郎様。」

「は~い、何ですか。」


 銀次と正太は源三郎の傍に行き。


「あっ、あの時のお侍様で。」

「な~んだ正太、お前源三郎様を知ってるのか。」

「兄さん、このお侍様ですよ、あの時若様と一緒に来られオレ達の分まで払って下さったんですよ。」

「銀次さんのお知り合いなのですか。」

「はい、オレ達が島で服役中の時に知り合いまして、其れがさっき何年振りかで会ったんです。

 源三郎様、其れよりもさっきの落盤ですが木材の補強がされて無かって言うんです。

 其れに補強する材料も無いと言うので、オレ達が今からでも山に行きたいと思うんですが。」


 だが、外は後一時程で夕刻を迎えるので有る。


「銀次さん、今からでは山に入るのは危険だと思いますよ。」

「じゃ~源三郎様、オレ達も山賀に残り明日の朝山に行き原木の切り出しに入りたいのですが宜しいで

しょうか。」

「お願いします、オレ達は全員島帰りですが、若様のお陰で今は此処の仕事をさせて貰ってオレは本当に

嬉しいんです。」

「銀次さん、宜しくお願い致します。

 後の事は銀次さんにお任せしますのでね、宜しくお願い致します。」

「若様、オレ達の命の恩人で銀次の兄さんです。

 オレ達は兄さんが居れうばもう百人、いや千人力ですよ。」

「正太さん、其れは大変良かったですねぇ~、ですが銀次さんの指示に任せて下さいね。」

「はい、若様、有難う御座います。」

「源三郎様、オレ達鍛冶屋も道具が多く要ると思いますので、此処で道具作りをさせて貰いますが其れで

宜しいでしょうか。」

「鍛冶屋さん達もですか、では皆さんお願いします。」


 だが、その少し前からげんたは腕組みをし何やら考えて要る。


「親方、荷車ですが直ぐにでも作れますか。」

「銀次さん、分かりましたよ、じゃ~明日の朝からでも作り始めますから、鍛冶屋さんには荷車の車輪を

作って貰いたいのですが。」

「親方、分かりました、其れで何台分が必要なんですか。」

「わしも分かりませんが、燃える石を積みますので最初から外枠も付けて欲しいんですが、そうですねぇ

~、一応十台くらいですかねぇ~。」

「銀次さん、故障する事も考えて二十台、いや、三十台は必要になると思いますよ。」

「じゃ~親方に任せますので。」

「よ~しみんな分かったか、じゃ~明日の朝から取り掛かるとしますかねぇ~。」

「なぁ~銀次さん、オレは何も分からないだけど、鉄になる土って粉々にすると駄目なのかなぁ~。」

「技師長、オレ達が使ってる炭でも粉々になった状態では使いませんよ、まぁ~拳位の大きさが丁度でい

いと思うんですよ。」

「ふ~ん、じゃ~溶けた鉄は何処に。」

「下に落ちますのでね、何か受ける器が有ると宜しいんですがねぇ~。」

「其れは陶器の方がいいのかなぁ~。」

「う~ん陶器ですか、でも一度試しに使ってはどうでしょうか。」

「だったら、お城で使ってる丼は駄目かなぁ~。」

「オレも詳しい事は知りませんので。」


 げんたは鉄の塊を作り出す方法を考えて要る。

 野洲でもこの山賀でも今まで誰も経験したが無い、其れはげんたに取っても手探りの状態で有り、何度

か試し其れからが本格的な鉄の塊を作り出す出る事になるだろうと。


「うん、分かったよ、じゃ~オレは少し考えて見るからね。」

「源三郎様、オレ達だけでも考えて宜しいんですか。」

「はい、勿論ですよ、銀次さん達にお任せ致しますのでね。」

「はい、有難う御座います。

 じゃ~みんな、オレ達は原木の切り出しに行くんだが、今からみんなで話し合いをするので集まって欲

しいんだ。」


 銀次の呼び掛けで正太達も加わり話し合いが始まった。


「源三郎様、わしら大工も宜しいでしょうか。」

「はい、勿論ですよ、親方にお任せ致しますのでね宜しくお願い致します。」

「じゃ~大工はわしの所に集まってくれ。」


 大工さん達も集まり親方が中心となり話し合いが始まった。


「皆さ~ん、もう直ぐ陽も暮れますので城内に入って下さい。」


 北の空掘りからは城内へと、其処には正太の仲間が千人も居り、今までに無く大勢の人達が山賀の城内

へと入って行く。

 山賀の家臣達は幾つかの大部屋に案内し其処での話し合いが始まった。


「我々も別の部屋に参りましょうか。」


 源三郎は職人達とは別の部屋に入った。


「皆様方、本日は急な予定の変更で大変申し訳御座いませぬ。」

「源三郎様、私も改めて現場の重要性を感じたところで御座います。」


「上田様、正にその通りで御座います。

 我々は頭で考えて要る事でも現場に入りますと、突然、先程の様な事が起きるので御座います。

 其の時に最も重要で有ると言う問題に対し何かの理由で判断を謝りますと大事故に繋がる事になる可能

性が有るので御座います。」

「先程の話ですが、あの洞窟の掘削作業はどの様になるのでしょうか。」

「勿論、採掘作業も大事だと思いますが、其れよりも作業員の命が大事なので一度作業自体を中止し補強する事が大事で全ての補強が終わらなければ採掘作業は開始出来ないのです。」

「源三郎様、菊池の隧道では一度もあの様な落盤は無かったのですが。」

「私は時には運も必要だと思いますよ、菊池の隧道では掘削する部分が有る程度の強度を持っていたので

はないかと思っております。」

「山賀殿、あの洞窟では今までにも落盤は有ったのでしょうか。」

「其れが今までに一度も起きておらないと思いますが、私の知る限りでは今日が初めてでは無いかと思っ

ております。」

「多分ですが燃える石だけを取りますと、残るは強固な岩盤では無いでしょうか、其れで無ければあれだ

けの奥行きまで補強材を使う事も無く掘削するのは容易では御座いませぬ。」

「失礼します、若様。」

「はい、何用でしょうか。」

「はい、城下の大工、鍛冶屋、左官屋達の残りを連れて参りました。」

「分かりました、では此処にお連れして下さい。」


 山賀の城下に残っていた、大工、鍛冶屋、左官屋達の全員が突然呼び出され、彼らには詳しく説明する

必要が有る。


「さぁ~さぁ~、皆さんお入り下さい。」


 大工達は恐る恐る部屋に入って来た。


「さぁ~皆さん座って下さいね、私は源三郎と申しますので宜しくお願い致します。」


 この後、源三郎は呼び出した大工達に詳しく説明をするのだが、彼らは正か目の前に座って要るのが各

国の殿様方と知らずにいる。


「あの~お侍様、お話しはよ~く分かりましたが、その洞窟にはお蛇様が住んで要ると大昔からの言い伝

えが有りまして。」

「はい、その通りですよ、でも何も心配される事は有りませんよ、私達は今申されました洞窟に先程まで

おりましたのでね、其れにその伝説は全くの嘘話でね、実は皆様方を洞窟に寄せ付けない為に大昔の城主

が作ったお話しでしねぇ~。」

「やはりでしたか、わしらも何か変だとは思っておりましたのが、其れでわしらの仕事ですがご城下の方

は宜しいのでしょうか。」

「はい、後日若様が直接城下に向かい城下の人達にも詳しくお話しをされる事になっておりますので。」

「え~、お殿様がご城下に来られるのですか。」

「はい、その通りですよ、山賀の城下には殿様を始め家臣の全員が出向きまして皆様方にお話しをします

ので何も心配される事は有りませんよ。」

「じゃ~わしらは。」

「皆様方の仕事ですが、先程洞窟の一部が落盤し危険な状態になりましたので工事は一旦中止になってお

ります。

 其れで今はこのお城に大勢の大工さんや鍛冶屋さん、左官屋さん達が仕事の分担を話されておられます

のでね皆様方もその部屋に入って頂き話し合いに参加して頂きたいと思うのです。」

「あの~、少し聴きたいんですが。」

「はい、どの様な事でしょうか。」

「さっきも言われましたが本当に幕府軍か官軍か知りませんがオレ達の山賀を攻めて来るんですか。」

「多分ですが間違いは無いと思いますよ、でもねぇ~我々の連合国は高い山に囲まれておりますので大勢

の兵士や武士が山越えするのは無理です。

 ですが山賀は別としても海から攻めて来ると思いますがねぇ~。」


 やはり大工や鍛冶屋、左官屋達は幕府軍か官軍が攻めて来ると思って要る。

 其れも山賀の高い山からだと、だが源三郎は海から攻めて来ると話のだが。


「でも、山賀には浜は有りませんが。」

「はい、正にその通りでしてね、山賀の海岸は高い絶壁ですが隣の松川藩から菊池までの全てに浜が有り、その浜に上陸されますと我らの連合国は数日で滅ぼされますよ。」

「でも、山賀にも大勢のお侍様がおられますが。」

「皆さんは我々侍が居るので安心だと思われて要るでしょうが、相手は大軍で押し寄せて来るのですよ、

数十、いや、数百人を切り殺す事は出来ますが、数千人の大軍ともなれば無理です。

 特に官軍と言うのは兵士全員に連発銃を持たせておりますのでね幾ら我々が切り倒したとしても連発銃

を持った兵士が数人も居れば我々は簡単に撃ち殺されるのです。

 勿論、この私も例外では無いのですよ、其れで我々は今秘密兵器を造っているのですがね、その秘密兵

器を造るには大量の鉄が必要になるのです。

 その大量の鉄を作り出す為に山賀のお城に有る空掘りの洞窟の掘削現場で燃える石と鉄になる土を採掘

しているのです。」

「お侍様だけではオレ達を守る事が出来ないんですか。」

「はい、正しくその通りでしてね、その敵軍と申しますか相手となる者が菊池から松川に至る浜に上陸を

させない為にはどんな方法を取ってでも防がねばならないのです。」

「じゃ~オレ達も協力しなければ、オレ達もですが家族も殺されるって話なんですか。」

「はい、私は何も戦を望んではおりませんよ、私達は我々連合国の領民さんが生き残る為には皆様方の協

力無しではとてもでは有りませんが出来ないと考えて要るのです。」


 各国の殿様方も源三郎の話を真剣な眼差しで聞いて要る。

 もう此処に至っては侍だけの問題では無い。

 殿様方が先頭になり領民達の協力を得て、何時の日にか必ず攻め込んで来るで有ろう官軍から連合国の

領民達を守る為に、だがその話を全ての領民に納得させるのは大変な事で有り、今此処に要る大工や鍛冶

屋達でも簡単には納得出来ないので有る。


「皆様方の協力で敵軍からは皆様方の命とご家族の命を守る事が出来ると私は確信しております。

 皆様方、何卒宜しくお願い致します。」


 源三郎は大工や鍛冶屋達に頭を下げた。


「えっ、お侍様がオレ達に頭を下げられるんですか。」

「あの~、若しや若様では。」

「はい、その通りですが、其れが。」

「皆さん、このお方が山賀のお殿様ですよ。」

「えっ、じゃ~城下に来られた若様ってお殿様だったんですか、おいみんな、お殿様がオレ達に頭を下げられたんだ、オレはお殿様の為にでも、いいやお侍様ってオレ達の事をそんなにも心配して下さってるんだ、オレは何だか分から無いけどこのお侍様の為にも命を掛けてでもやる事に決めたよ、今までのお侍様とは全然違う様な気がするんだ。」

「よ~しオレもだ、だって前の殿様にもあの家老にもオレ達は物凄く苦しめられたんだ、だけど、今のお

殿様ってこんなオレ達に頭を下げられてるんだ、オレも命を掛けますよ。」

「うん、そうだよ、オレは今まで苦しめられたけどもうそんな事はどうでもいいんだ、お侍様の言われた

話を信じる事にするよ、だってお侍様はオレ達の事をこんなにも心配して下さってるんだ。」

「皆さん、本当に有難う、我々の事よりもこれからは皆さん達の家族の為だと考えて頂ければ、私は其れ

で十分ですからねぇ~。」


 菊池の殿様も上田の殿様も改めて源三郎の話しと行動力が領民を動かすのだと知った。


「源三郎様って言われましたね、じゃ~オレは今からみんなの所に行って話しますよ。」

「そうですか、では宜しくお願い致します。」


 其れから職人達は次々と立ち上がり話し合いをしている部屋へと向かった。


「なぁ~鍛冶のあんちゃん、その鉄になる土を溶かす所だけど大きな物になるのか。」

「技師長、最初から大きな物は作れ無いと思うんだ、技師長が造ったあの潜水船でも最初は小さな潜水船

だったんだ、鉄になる土も燃える石もどんな物なのか誰も知らないから鍛冶屋としては最初に作るのは何

時も使ってる物でどんな状態になるのか調べてから大きな物を作りたいと思うんだ。」


 野洲から来た鍛冶屋もだが山賀の鍛冶屋も知らないと言う。


「其れじゃ~少し聴きたいんだけど、鉄になる土が溶けると下に落ちるのか。」

「えっ、溶けると下に落ちるって。」


 鍛冶屋も全く気付か無かった、鉄になる土が溶けると言う事を。


「だって、鉄になる土が溶けるんでしょう。」

「技師長、オレも知らなかったんですが、そうか鉄になる土は全部が細かいから燃える石の火力が強けれ

ば溶けると言うのか、だったら下に何か受け皿を入れると溶けた鉄が其処に流れ込むのか、うん、そうか

少し分かって来たぞ。」


 鍛冶屋も少しづつだが分かって来た。


「なぁ~あんちゃん、あの連岩を積み上げ下から風を送れば燃える石はもっと強く燃えると思うんだけど

なぁ~。」

「技師長、有難う、オレも分かったよ、下には受け皿を入れるだけの隙間が有れば、その隙間からふいご、いや今度は技師長の考えた、え~っと何て呼べばいいんだ、あれは。」

「う~んそうだなぁ~、風を送るから送風機ってどうだ。」

「よし、決まったぞその送風機で風を送れば燃える石の火力が強くなるんだ、其処に鉄になる土入れれば

鉄になる鉄の部分は溶けて下の受け皿に流れ込むってか、よ~し之なら出来るぞ。」


 野洲の鍛冶屋は喜んだ、げんたの助言で大きな釜が作れると、その釜が出来れば大量の鉄を作り出す事

が出来、実現すれば潜水船の外側に補強する事も可能だと考えたので有る。

 さすがに野洲の鍛冶屋の事は有る、げんたの助言もだが、其れは日頃げんたが色々な機会を見付けては

話をしており、げんたの考え方が次第に浸透し始めたので有る。


 話は少し戻り。


「源三郎殿、全ての領民を理解させなければならないのですね。」

「菊池様、確かに全ての領民を理解させ無ければならないのですが、我々が考えて要る以上に困難な事だ

とは思います。

 ですが我々と一部の職人達だけが工事に入るのでは無く、私は全ての領民に理解して頂けれ無ければ若

しもの時には何の役にも立たないと考えております。

 例えば山賀の空掘りでこれから始まる大工事、其れは一部の人達だけで出来るものでは無いと思うので

御座います。」

「では、領民にも工事に入って頂くのですか。」

「私は城下から毎日数百人の人達が工事に入ると言う事になれば、その人達にも食事を提供しなければな

りません。

 あの空掘りならば多くの人達が食事を頂ける場所も作れるのではないでしょうか。」

「では、その食事を作る人達も必要になりますねぇ~。」

「はい、正しくその通りで、ですが別に城の賄い処の人達を向かわせる必要は無いと思うのです。

 其れに城下でも多くの人達が生活を営まれておられ、その人達に賄いをお願いする事も出来るのでは御

座いませぬでしょうか。」

「義兄上、では松川で作って要る連岩も領民に手助けをお願いするのですか。」

「その通りですよ、作られた連岩を誰が運ぶのでしょうか、其れにどの工事現場に何個送ったなどと誰か

が書き残し管理する仕事も有りますよ、運ぶのは領民さんにお願いするとしても管理するのは家臣の仕事だと思いますがねぇ~。」


 源三郎は今日山賀の空掘りで突然落盤が起きた、だが幸いな事に一人の犠牲者も出なかった。

 だが他の現場でも工事に入っている人達が疲れから何時大きな事故に巻き込まれ、犠牲者が出ないとも

限らないので有る。

 犠牲者を出さない為にも交代の要員が必要でそれらを管理する事も考えなければならず、その為にも

家臣達が中途半端な理解では駄目だと、家臣全員が現状を理解しなければならないので有る。


「今回の工事は全てが違うのです。

 菊池と上田は洞窟の掘削工事、野洲ではこれから一番大事だと思われる潜水船の建造工事と菊池と上田

以外は全ての工事内容が違うのですよ。」


 山賀は鉄を作り出す為の装置、その原料となる二種類の物を掘り出す工事、松川では連岩を大量に作り

全ての現場に送る作業と上田と菊池は洞窟の掘削工事、更に、野洲ではこれからが一番だと考えられる潜

水船の建造、だが源三郎は新たな工事を考えていた。


「源三郎殿、上田では今海岸の洞窟を広げる工事に入っておりますが、その工事にも多くの領民に助けを

お願いする事になりますねぇ~。」

「上田様、菊池様、今の洞窟の掘削工事が完了致しましたならば、次は上田から野洲へ菊地からも野洲へ

と掘削工事に入って頂きたいので御座います。」

「上田から野洲へですか。」

「はい、野洲で完成した潜水船を上田と菊池の洞窟に届け、更に松川からも上田へと洞窟が貫通出来れば、菊地から松川に至るまで全て外洋に出る事も無く移動が可能だと考えております。

 何故かと申しますと外洋に出ると言う事は幕府軍や官軍の軍艦に発見される事も考え無ければならず、

若しもの時には領民さんだけでもそれらの洞窟に避難させる事も出来るのではと考えたので御座いますが如何で御座いましょうか。」


 源三郎は飛んでも無い事を考えて要る。

 其れは菊地から松川に至る海岸に有る洞窟を繋げ、若しもの時には領民の避難場所になるのだと、

源三郎の発想力に菊地、上田、松川の殿様方は驚きよりも唖然としている。

 正か連合国内の山賀以外の国が海岸に有る洞窟で結ばれるとなどとは考えもしなかった。


「ですが、最初から掘る事になるのでは有りませぬか。」

「私も十分に承知致しております。

 其れでも貫通させる事が出来たならば幕府軍や官軍の軍艦は連合国の存在も発見する事も出来ず、若しも発見されたとしても多くの領民を隠す所、其れが一体何処に有るのかも見当が付かないと思うので御座います」。

「源三郎様、その洞窟ですが海中で結ばれるのでしょうか。」

「はい、勿論で御座います、私の考えですが出入り口だけが海中に有り、洞窟内は水面上を移動し、其れ

と水面よりも上は大きく広い空間を持つ洞窟になれば申し分無く、それらの洞窟内に領民を避難させるの

で御座います。」 


 源三郎はそれらの洞窟に多くの領民を収容可能な場所を作りたいと考えて要る。

 だが、其れでは山賀の領民は一体何処に避難するのだ、今の話だと菊地から松川に至る洞窟が結ばれる

のだと其れでは山賀は孤立する事になると松之介は考えた。


「若様、山賀は孤立する事にはなりませぬ。

 今掘り進めております洞窟ですが鉄になる土と燃える石が果たして何処まで続いているのか私は分かり

ませぬが、今のままで掘り進めれば何れ松川に到達すると思いますので採掘作業と洞窟の掘削工事が同時

に出来ると考えて頂ければ良いのでは御座いませぬでしょうか。」


 源三郎の考え方は時には丼勘定で、其れは何時もの事だが野洲の殿様や家臣達には理解は出来るが、そ

れ以外の殿様方には理解不能なので有る。


「では、松川に延伸した後浜の洞窟に避難出来るのですね。」

「はい、正にその通りでして、山賀の洞窟には領民さん達の食料を備蓄する事も可能だと考えておりま

すので。」

「燃える石と鉄になる土の採掘作業は大変だと思うですが、それらに山賀の領民を動員する様にすれば良

いのですか。」

「若様、領民を動員するのでは御座いませんよ、領民さん達に理解して頂き工事に参加して頂く様にお願いするので御座います。

 決して強制するのでは無いと、其れが一番大事なのです。」

「はい、私も反省致します。」

「今のお話しは決して山賀だけの問題では御座いません。

 皆様方にも同じで、まず家臣の全員に理解して頂く事から始めて頂きたいのです。

 其れには殿様の立場でお話しをするのでは無く、お殿様は領民さん達の事を考えて要るのだと、其れら

をしっかりと頭の中に入れなければどの様な言葉でお話しをされましても家臣でも領民さん達でも話は通

じませぬので。」

「義兄上、では私が今着ております着物で参り、領民さん達には普段使う殿様言葉では無く、領民さん達

の話し言葉をすれば良いのでしょうか。」


 松之介は正太達と話す時は殿様や武士の言葉使いでは無く、領民の話し言葉で問題は無いと。


「はい、私はその様に思いますよ、殿様や武士の言葉使いと言うのはどうしても硬く命令口調の様に聞こ

えますので、これからは何事に置いてもお願いするのです。

 ですが全てを否定する事は出来ません。

 出来るならば国に戻られましても直ぐ行動に移すので無く、少しの間でも宜しいですので領民さん達の

使われている言葉使いを学ばれては如何でしょうか。」


 源三郎は普段から使い慣れて要るが、今の今まで殿様言葉で過ごして来た菊池や上田の殿様にとっては

もう大変な事で今急に領民の言葉を使えと言われたとしても、果たして短期間で学んだ領民達の言葉使い

が出来るのだろうかと不安が頭の中を過ぎる。


 だが源三郎の見方は違う、殿様自身が本気にならなければ家臣に伝わるものでは無い。

 殿様が例え数日間とは言え領民の言葉を学んでいると知れば家臣達も本気で考えるだろうと。


「う~ん、ですが果たして私に出来るのでしょうか。」

「上田様、何もご心配される事は無いと私は思っております。

 人間、本気になればどの様な困難に当たりましても克服出来ると確信致しております。

 その証拠に山賀で発見されました燃える石と鉄になる土ですが今まで誰もが経験した事が無いと言うの

ですが、其れでも大工さんや鍛冶屋さんも其れに左官屋さん達も挑戦するのです。

 殿様の立場を考えずにこれから必死に学ぶのだと言うお気持ちが有れば、私は其れだけで十分だと思う

ので御座います。」

「上田殿、私も同様で国に戻り次第と言うより、今からでも必死になれば必ずや出来ると私は確信致して

おります。」

「源三郎殿、菊池殿、よ~く分かりました。

 私も子供の頃に戻り何としてもやり遂げる覚悟で御座います。」

「私は今から大工さん達の所に参りますが、皆様方も宜しければご一緒に如何でしょうか、今後の為にも

一度あの方々がどの様な話し合いをされて要るのかを知る事も宜しいかと思うのです。」

「義兄上、私と松之介はご一緒させて頂きます。」

「では、私達も。」


 と、菊池、上田の殿様も加わり、源三郎達は大工達が話し合いを行っている部屋へと入る。


「なぁ~みんな、わしは野洲の親方に任せ様と思うんだ、わしらは大工の経験が有ると言っても今回の様に大掛かりな工事の経験は無いんだ、どうだろうか野洲の親方。」

「わしは野洲で経験したと言っても洞窟内の補強と潜水船を造る手伝いをしただけなんですよ。」

「えっ、野洲の親方、一体何ですかその潜水船って。」


 山賀の大工達は野洲で建造された潜水船の話しを聞くのは初めてで驚きの表情で有る。


「まぁ~簡単に、いや、まずこの話は誰にも信用はして貰えないとは思いますがね船が海の中に潜ると頭

の中で想像して欲しいんですよ。」

「親方、わしが幾ら無学だって言ってもですよ、そんな子供騙しの話を誰が信じると思いますか。」


 山賀の大工全員が野洲に行ったのでは無く、其れでも行った大工達も目の前で本物の潜水船を見るまで

は全く信用していなかった。


「まぁ~オレの話しを聞いて欲しいんだ、オレも最初野洲のお城で話を聴いた時は全然信用して無かった

んだ、船が海の中を潜るなんて子供騙しの話だって、だけど野洲の海岸に有る洞窟の中にその潜水船ってのが有ってだよ、オレもだけど他の鍛冶屋さんも菊池から来られた人達も其れはもう言葉では言えないくらいに驚いたんだ。」

「へぇ~、じゃ~野洲の親方は本当にその潜水船って言う船を造ったんですか。」

「ええ、本当に造りましたよ。」

「だけど何処の誰なんですか、その潜水船って言う船を考えたのは。」


 大工達も余りの衝撃的話に笑いで誤魔化している様にも見え、だが、正かげんたと言う少年が考え付い

たと言ってもまず信用はしないだろう。


「其れがねぇ~、げんたと言う少年技師長なんですよ。」

「まただぁ~、親方、子供が潜水船を考えたって言うんですか。」

「勿論、本当の話しですよ、野洲のお殿様が技師長と言う役職を任命されましてね、野洲ではお殿様は知

らないがげんたと言う技師長の事は誰でも知って要るんですよ、まぁ~それ程有名なんですから。」

「へぇ~そんなに有名なんですか、そのげんたと言う技師長は。」

「そうですねぇ~元々は母親の手伝いで野洲のご城下で小間物屋で小間物を作って売ってたんですがね、その小間物を作っていたのがげんたなんですよ、まぁ~その腕前はご城下でも一番でしてね、そのげんた

の腕前を見込まれたのが源三郎様なんですよ。」

「其れじゃ~、天才なんですねぇ~。」

「ええ、わしらもですが、お殿様は技師長の頭の中は一体どんな風になって要るのか見たいってねそれ程

なんで、今でもですがね誰もが考え付かない事を考えて作るんですよ、でも、この潜水船を造った時でも

まぁ~何と表現していいのか分からない程次から次へと考え出しますのでね、わしらがどんな必死に造っても追い付かないんですよ。」

「じゃ~今度の大仕事でもその技師長が考えるんですか。」

「う~ん、其れはわしにも分かりませんがねお殿様も源三郎様も言われてますがね今の連合国には殿様や

源三郎は不要になっても技師長だけは何としても残って貰わねば、技師長は連合国の宝物だと。」

「野洲の親方、だったら何としても親方には今度の大仕事を取り仕切って下さい。

 其れに技師長の考え方も知ってられるんですからお願いしますよ。」

「ですがねぇ~、技師長の考え方を知ってるって言われますがねぇ~、わしら野洲の大工、いいや、源三

郎様に怒られるかも知れませんがね、多分ですが源三郎様でも分から無いと思うんですがねぇ~。」

「ですから余計にお願いしたいんですよ、わしらは親方の命令で動く方が仕事も捗ると思うんですよ、で

すからお願いしますよ。」

「いゃ~これは参ったなぁ~、う~ん。」

「源三郎殿、大工さん達は仕事の話しをされておられませんが本当に大丈夫でしょうか。」

「はい、勿論ですよ、何も心配される必要は御座いませんので、あの人達にはあの人達のやり方が有りま

すので我々は何も言わずに全て任せた方が良いので御座います。」


 菊池の殿様は大工達が仕事の内容を話し合っていると思っていたが、話しの中身は仕事の内容とは全く

関係の無いと思われる話をしており、其れが少し心配になったのかも知れない。


「なぁ~みんな、オレは勝手に思って要るんですが、みんなの意見を聞かせて欲しいんですよ。」

「わしは野洲の親方に任せますよ、だって、わしじゃ~技師長の考え方を理解するなんて事はまぁ~無理

と言うよりも不可能だからなぁ~。」

「う~ん、オレも同じですよ、野洲で技師長の話を聴いたんですがね、まぁ~はっきりと言って全然分か

らなかったんですからねぇ~、今でもですよ。」


 この大工の話に他の大工仲間は大笑いするが。


「みんなは大笑いしますがね本当なんですよ、だって親方が言われる様に源三郎様や親方が分からない事

をわしらがどうして分かると思うんだ。」


 他の大工達は静かになった。


「よ~し、決まったと思うんだけど、みんな賛成してくれますね。」

「あ~其れが一番だ、オレは親方の命令で仕事をする方が楽だからなぁ~。」


 そして、他の大工達も賛成し。


「野洲の親方、申し分ないですが、今度の大仕事ですがわしらは親方に任せますので何とか引き受けて下

さいよ、ねっ、お願いしますよ。」

「其れじゃ~、わしで宜しいんだったらみなさんのお役立てさせて頂きますので、其れで皆さんに役目を

決めたいんです。

 山賀の洞窟は中が広いと思いますんでね連岩を積み上げる左官屋さん達も大変だと思いますが、枠組み

を作る前に足場が必要なんで、其れとその足場は左官屋さん達も使う事になりますので後から左官屋さん

達とも話し合いをさせて貰います。

 其れで足場を作る組と、枠組みを作る組、そして、枠組みを組み立てる組に分けたいんで。」

「親方、わしの組は足場を作らせて貰いますのです。」

「じゃ~、オレ達は枠組みを作る方に。」

「其れで正太さん達にもお手伝いをお願いに行きたいのですが、其れは山賀の山に入り大木の切り出し作

業が有りますので。」

「親方、今は何もする事が有りませんので全員で原木の切り出しに行ってはどうでしょうか。」

「ええ、本当は出来ればその方がいいんですがね、原木は我々の道具では切り出せませんから全部木こり

さん達にお願いするしか方法が有りませんので後から木こりさん達にお願いに行きたいと思ってます。」


「親方、其れまでは何をするんですか。」

「其れですが、今有る材木で頑丈な梯子を作って欲しんです。」

「親方、何で梯子が要るんですか。」


 彼は洞窟の中入った事が無いのだと大工達が思って要る以上に洞窟の内部は高く幅も広い。


「其れがね、洞窟の中はわしが思った以上に高いのと幅も広いんですよ、其れに梯子は後々役に立ちます

ので。」


 梯子が有るだけで大工もだが其れよりも左官屋達の仕事が捗ると親方は考えたので有る。


「じゃ~今から正太さんの所に行きたいので山賀の大工さん達も一緒に来て下さいますか。」

「よ~し、みんなで行こうか。」


 さぁ~大工達が動き始めた。

 大工達は梯子を作る事は実に簡単な事だと、親方は全員で取り掛かる事で大工達の意識が高まると考えたので有る。


「菊池様、上田様、私が申しました様に動き出しますと実に早いと思われますが、如何でしょうか、まぁ

~其れよりもあの親方に任せれば大丈夫ですから。」


「う~ん、さすが源三郎殿だ、現場の事は現場の者に任せる事の方が最善だと申されましたが、私も今要

約その意味が分かりました。」


 その頃、正太達は空掘りの中で休んでいた。


「なぁ~正体、先端だけど。」

「うん、オレも一体どうなってるのか分からないんだ、若様は何も言われ無いしなぁ~。」

「だけど若様は他のお殿様達をお城の中に入ったままだぜ。」

「オレは多分だけど、何か方法を考えてると思うんだ。」

「そうだなぁ~、其れに今のオレ達には何も出来ないからなぁ~。」

「其れにしても、何であんなに多くの職人さんが一緒なんだ。」

「そうだなぁ~、其れにしても若様は何を考えてるんだろうか、オレは聞きたいんだ。」

「正太さん。」

「えっ若様、これから一体どうなるんですか。」

「後少しで大工の親方が来られますので親方の指示を聴いて欲しいんです。」

「大工の親方って。」

「野洲で潜水船をを造られた大工さん達の親方です。」

「正太、あの親方だったら安心して任せられるよ。」

「兄さんも潜水船を造ってたんですか。」

「まぁ~なっ、オレ達は最初源三郎様から海岸の洞窟を掘ってくれって言われたんだ、だけど途中から親

方のお手伝いをする事になったんだ。」

「其れじゃ~、野洲で仕切ってるのは親方なんですか。」

「そうだよ、だってオレ達が技師長の話を聴いても、まぁ~全然分からないんだからなぁ~。」

「えっ、でも技師長って、親方じゃ~無いんですか。」

「そうか、正太は技師長を知らないのか。」

「銀次兄さんが来られた頃、オレ達は先端で燃える石を取ってたんですよ。」

「そうだったなぁ~、う~ん、だけど驚くなよ技師長って子供なんだ、だけどこの技師長は野洲の宝物な

んだからなぁ~。」

「えっ、銀次兄さん、子供が野洲の宝物って一体何の話なんですか。」

「う~ん、これは説明する方が大変だ。」

「正太さん、銀次さんの言われる通りなんですよ、確かに身体は子供ですがねぇ~、考えてる事は野洲の、いや連合国の全員が考えても理解出来ない程の頭脳を持って要るのです。」

「えっ、技師長って、そんなに凄いんですか。」


 正太もだが、正太の仲間達は驚くよりも技師長が子供だと言う事に唖然とした表情で有る。


「なぁ~正太、げんたと言う技師長の考えてる事を理解出来る者は野洲でもいないんだ、オレ達の源三郎

様でもげんたの考えてる事を説明されても最初は一体何を言ってるかのもさっぱり分からず全然理解出来

なかったと言われてたんだからなぁ~。」

「えっ、源三郎様がですか、正かそんなのって本当なんですか。」

「正太さん、私もねぇ~最初に潜水船の話を聴きましたがね潜水船の現物を見るまでは全く理解する事が

出来なかったのです。」

「ねぇ~銀次兄さん、源三郎様や若様が分からない事をオレ達が聞いたって、一体何の話をしているんだ

と思うんですかねぇ~。」

「まぁ~その通りだ、でも親方だけは技師長の説明が分かるんだ。」

「へぇ~、じゃ~オレ達は親方の言う通りにすればいいんですか。」

「正太、まぁ~そう言う事だなぁ~。」

「あの~、正太さんと言う方はどなたでしょうか。」


 親方と山賀の大工さん達が来た。


「親方。」

「お~銀次さん、其れで正太さんと言われるお方は。」

「はい、オレです、親方。」

「貴方ですか、実は正太さんにお願いが有りまして来たんですが宜しいでしょうか。」

「親方、オレ達は何でもしますから言って下さい。」

「そうですか、其れでは山で原木の切り出しをして頂きたいのですが。」

「はい、分かりました、オレ達も洞窟の補強は大事だと思ってましたので、其れで何本くらいが要るんで

しょうか。」

「う~ん。」


 親方はげんたが次に何を考えて要るのか分からない。

 其れでも今は洞窟内の補強が優先するのだと考えて要る。


「親方、技師長の事ですからねぇ~。」

「銀次さん、わしも分かってるんだ、だけど今は洞窟内の補強が優先するんだ、よ~し、そうだなぁ~百

本、いや二百本は欲しいんですが、宜しいでしょうか。」

「親方、技師長って、そんな急に言うんですか。」

「いや、そうではないんですよ、多分ですがね、技師長の事ですから鉄を作り出す方法を考えてるとは思

うんですよ、技師長の事ですから其れに付属した物も考えてるんでその時の為になんですよ。」

「鉄を作り出す方法を考えてるって、そんなの簡単な事ですよ燃える石の上に、だけど本当に出来るのかなぁ~、その鉄の塊が。」

「正太さん、其れを考えるのが技師長の仕事でね、わしも銀次さんも最初の頃はねまぁ~随分と悩まされ

ましたよ。」

「親方、でも作るだけなんですから。」

「其れがね、わしらには簡単に理解出来ない物を考えますのでね、其れを理解するのが大変なんです。」

「親方、じゃ~技師長は洞窟の事よりも鉄の塊を作り出す方法を考えてるんですか。」

「まぁ~わしも今までの経験から多分間違いは無いと思いますがねぇ~、まぁ~正太さんもその内に驚く

様な話を聴かされますからよ、ねぇ~銀次さん。」

「正太、親方の言った事は間違いは無いよ、まぁ~其の時になれば分かるからなぁ~楽しみにする事だ

なぁ~。」

「銀次兄さんや親方でも無理なものをオレが分かるとでも思うんですか、そんな無茶な。」


 親方も銀次達も正太が真面目に答えたので大笑いをしている。


「まぁ~まぁ~其の時になれば分かるから、其れよりも正太、原木を二百本だぞ本当に大丈夫なのか。」

「兄さん、オレ達の仲間には元きこりも大勢居るんですよ、其れに山の木こりさん達とも一緒に切り出し

ますから任せて下さいよ、親方、其れで何処に置けばいいんですか。」

「そうですねぇ~、此処に運んで置いて下さい。」

「空掘りにですか、でも。」

「其れはねぇ~、此処に作業小屋も必要になりますのでね。」

「えっ、親方、作業小屋って一体何に使うんですか。」

「道具もですが、これから鉄を作り出すんですから休む所も必要になりますので。」

「えっ、もう建てるんですか。」

「まぁ~一応準備だけはね、其れにまだ何処に鉄の塊を作り出す所も決まってませんから。」

「正太さん、この方法が野洲のやり方だと思いますよ、技師長は義兄上以上に突飛な考え方を言われるそ

うですから、そうでしたよねぇ~親方。」

「若様の言われる通りなんですよ、だから、わしは何時でも取り掛かれる様に準備だけは整えて置いた方

がいいと思ってるんですよ。」


 正に其れが野洲のやり方なのだろう、源三郎もだが其れ以外の人達がげんたの話を聴けばなんと突飛な

考え方をするのだと思うので有ろう、げんたはそれ程まで周到に考え全ての考えが纏まると話すので誰も

が突飛な考え方をしていると思うので有る。

 その様な事はとてもでは無いが無理だ、無茶だ、いや不可能だと言った物の全てを源三郎はげんたに頼

み、その全てをげんたが考え作って来たのは間違いは無い。

 その傑作中の傑作が潜水具で有り、其れよりも更に進化したのが潜水船で有る。


「正太さん、其れと原木の切り出しの時にですが枝も全て集めて下さいね。」

「でも、枝なんか必要無いとますが。」

「其れがね有りましてね、洞窟内のかがり火にも使いますのでね。」

「そうか、オレは今まで不要だと思ってましたが、かがり火や松明も必要になりますねぇ~。」

「はい、その通りですから、では宜しくお願い致します。」

「じゃ~親方、今から山に行って来ますので。」


 正太は大勢の仲間と共に山賀の山に向かった。

 同じ頃、げんたは何やら真剣に考えて要る。


「う~ん、送風機か、だけど問題が大きいなぁ~。」


 げんたは潜水船の空気の取り入れ装置を今度は鉄の塊を作り出す為の釜に据え付け様と考えて要るが大

きな問題が有り、一体どの様な方法で送風機の羽根を回転させれば良いのか、潜水船ならば船が動き、其

れにより船外の水車が回り、其れを動力源として要る。

 だが潜水船は海で活動するが今度は陸で有り同じ方法を取り入れる事は無理だと考えて要る。


「技師長。」

「あんちゃんか、何か用なのか。」

「いいえ、私は何もただげんたの様子を見に来ただけですのでね。」

「ふ~ん、そうか。」

「技師長、一体如何されたのですか。」

「えっ、山賀の殿様、えっ、あっ、そうだ空掘りの近くに川は有るんでしたよねぇ~。」

「はい、有るのは有りますが、でも近くでは無いですよ。」


 源三郎は何かを感じた、やはりだげんたは何かを思い付いたのだと。


「技師長、川に何か有るのですか。」


 上田の殿様は川が有るかと聞いた意味が分からない。


「じゃ~、その川までどれくらい離れてるんですか。」

「う~んそうですねぇ~、二町は有るかと思いますが、でも川は洞窟の向こう側ですよ。」

「そうか、あの山かじゃ~山の低い処に流れてるんですか。」

「はい、川は海に向かってまして最後は。」

「最後は別にいいんだ、其れでどの付近を流れてるんですか。」

「空掘りの奥に少し低い丘があり、その近くを流れておりますが。」

「其れじゃ~流れは早いんですか、遅いんですか。」


 げんたの質問は矢継ぎ早で、殿様方は一体何の話なのかも分からず目を白黒とさせ唖然として要る。


「技師長は一体何を考えて要るのですか、私にも分かる様に説明して下さい。」


 源三郎も意味が分からないが、これがげんたなのだと。


「なぁ~あんちゃん、オレは解決方法を見付けたぜ。」

「ですから何の解決方法なのですか、私は全く理解出来ないのですよ。」

「あんちゃん、送風機の動力源だよ、だって此処には海が無いんだぜ、だけどその代わりに川が有るんだオレはその川を利用する方法を見付けたんだ。」

「技師長、川を利用されると申されましたが一体どの様な方法で利用されるのですか。」


 上田の殿様もだが他の殿様も全くと言っても良い程意味が分からない。


「あんちゃんも殿様も潜水船の空気の取り入れ口に有る装置を見たと思うんだ、今度は其れを反対に利用

するんだ。」

「反対に利用する言う事はですがねぇ~、川から此処までは二町も有りますよ。」

「若様、だったらもう少し近くには流れて無いんですか。」

「有るには有りますが、其れは空掘りの南東側に、ですがその場所は山に有りますよ。」

「若様、山は別に問題では無いんだ、其れで川の流れは。」

「う~ん、早いと思いますが。」

「よ~し決めたぜ、其れで親方は。」

「今ですか、今は大工さん達と打ち合わせをされて要ると思いますが。」

「だったら今からオレが行ってくるよ。」


 げんたは親方が打ち合わせをしている部屋に向かった。


「義兄上、私は何を言われて要るのか全く分からないのですが一体何が解決したのでしょうか。」

「多分ですが、空掘りに作る釜に使うと思うのですがねぇ~。」

「源三郎殿、空掘りに釜を作ると申されましたが一体何に使う為の窯なのですか。」

「上田様、鉄の塊を作り出す釜だと思いますが、私もそれ以上の事は分かりませぬので。」

「えっ、鉄の塊を作り出す釜を、でも一体どの様な物を作るのかも分からないのでは御座いませぬか。」

「菊池様、其れがげんたと言う技師長なのです。

 我々が考えて要るよりも遥かに先の事を考えて要るので今その話を聴いたところで全く意味が分からな

いと言う事なのです。」

「源三郎殿は分かられたのでは御座いませぬか。」

「ええ、今では少しですが理解出来る様になりましたが、最初の頃は潜水船の話をされた時には全く理解

出来ずにおりました。

 まぁ~げんたと言う技師長の頭の中はこのお城に来た時から回転が始まり、私達が話しをして要る間も

回転は止まる事も無く続き、先程の様に突然な話しが出るので御座います。」

「う~ん、やはりですねぇ~、菊池殿、技師長の頭の中に勝つ事は所詮我々には無理だと言う事になりま

すかねぇ~、我々の考えて要る事は目の前だけですが、技師長は遥か先を考えて要るのですから、私はも

う諦める事に致します。」

「はい、私も同感で御座います。

 我々が技師長の考えて要る事を直ぐに理解するのは所詮無理だと言う事でしょうかねぇ~。」

「菊池様、上田様、あれがげんたの姿で、げんたの考えを理解するのは無理としましても、我々が協力し

なければ造る事が出来ないと思うので御座います。」

「親方。」

「お~げんたか、一体どうしたんだ。」

「親方、オレは解決方法を見付けたんだぜ。」

「ほお~解決方法をねぇ~、其れで一体何を作るんだ。」

「うん、其れが水車と、水車から空掘りまで繋ぐ歯車、其れと歯車を固定する台が必要なんだけど。」

「げんた、其れで水車は大きい方がいいのか。:」

「う~ん、其れなんだけど、三尺か四尺でもいいんだけどなぁ~。」

「よ~し決まった、げんたその前に行こうか。」

「親方、一体何の話なのか、オレには全然分からないんだけど。」

「正太さん、彼がげんた技師長なんですよ。」

「えっ、じゃ~さっきの話で潜水船を造ったって言う人なんですか。」

「そうですよ、でもねぇ~今技師長の考えてる事の話を聴いても全然分からないですよ、でもわしが分か

るのは水車を作り、空掘りまで続く台を作るって事だけなんですよ。」

「なぁ~げんた、其れでどうするんだ。」

「うん、空掘りの南東側に川が流れてるって聞いたんで行きたいんで其処に行きたいんだ。」

「えっ、空掘りの南東側にって、でも山が有りますよ。」

「正太さん、山は別に関係は無いんだ、其れよりも出来るだけ川と空掘りが離れて無い方がいいんだ。」

「親方、技師長の話って、何時もこんな風なんですか。」

「ええ、そうですよ、技師長が考え言葉で言った時には、わしらが考えてる遥かに先の話ですから今突然聞いても分かりませんがね、まぁ~正太さんもその内に分かる様になりますから、まぁ~今はあんまり深刻に考えない方がいいと思いますよ。」

「親方、行くよ。」

「じゃ~オレ達が案内しますから。」

「げんた、オレ達も一緒に行くよ。」

「うん、そうだ銀次さん達にも手伝って欲しいんだ。」

「なぁ~げんたさん、今日はもう遅いから明日の朝に行きませんか。」


 正太は空掘りから南東側に有る川に行くのは初めてだが、仲間の数人が知って要ると言うので有る。

 そして、明くる日の朝、げんたは正太達の案内で空掘りの南東側に有る川に向かった


「なぁ~げんた、ところで一体何を考えてるんだ。」

「うん、オレは洞窟の事はあんちゃんに任せて、でもオレは別の事を考えてたんだ。」

「別の事って、其れが水車を作る事なのか。」

「うん、でも水車は単に解決の糸口だけで、オレは正太さん達が掘り出してる鉄になる土から鉄の塊を作

り出したいんだ。」

「げんた、だけどなぁ~鉄になる土だけどどんな方法で作るんだ。」

「まぁ~其れは鍛冶屋さん達と相談するんだけど、鍛冶屋さん達が使うふいごじゃ~駄目だって事がわ

かったんだ。」

「えっ、一体何が駄目なんだ、鍛冶屋さんのふいごだって立派な道具なんだと思うんだが。」

「うん、其れはオレも分かってるよ、でもあれじゃ~風量が少ないんだ、其れで思い付いたのが潜水船で

作った空気の取り入れ装置で、あの装置は人間の命を守る為なんだ、其れでオレは装置の使う方法をなん

だけどその反対の使い方も出来るはずだと考えてたんだ、だけど送風機を回す物が無いんだ、其れで思い

付いた方法が川に有る水車小屋なんだ。」


 傍でげんたと親方の話を聴いて要る正太達は一体何を話して要るのかも全くと言っても良い程分から

ないので有る。


「銀次兄さん、二人の話ですが潜水船や水車って一体何の話なんですか。」

「う~ん、其れはオレにも今の話だけでは全然分からないんだ、だって聴いて要る親方も分からないと思

うんだ、親方の頭の中には水車を作るって言う事だけはまぁ~少しだけど分かってると思うんだ。」

「へぇ~あの親方も分からずに話しをしてるんですか。」

「うん、そうなんだ、だけど話をするうちに少しずつでも分かって来るんだからなぁ~、オレは親方も凄

いと思うんだ。」


 げんた達は一度洞窟に入り空掘りの上に出た。


「ねぇ~正太さん、空掘りの端から川までは遠いんですか。」

「いゃ~直ぐだと思うんですがねぇ~、仲間が知ってますから大丈夫ですよ。」


 正太の仲間が先頭になり空掘りの東側から小高い丘へと入って行く。


「なぁ~げんた、山でもその風を送る機械は大丈夫なのか。」

「うん、大丈夫だよ、其れで水車から空掘りまでは歯車を利用するんだ。」

「歯車を利用するって、じゃ~水車は歯車を回す為の道具なのか。」


 親方もげんたの話しから少しづつ分かり、水車の回る力を利用し水車から空掘りまでを歯車を使い最終

的には送風機を回すのだと。


「じゃ~水車も歯車も、其れに歯車を受ける台も頑丈な物が要るなぁ~。」

「でも、この付近では狼が時々ですが現れますので。」

「えっ、狼が何で狼がいるんだ。」


 げんたは一瞬驚いた、げんたは狼が怖いので有る。


「ええ、其れに猪もですよ。」

「げんた、狼は恐ろしいよ、何時襲い掛かって来るかも分からないからなぁ~。」

「親方、オレ、狼だけは嫌なんだ。」

「なぁ~んだ、げんたは狼が怖いのか。」

「親方、狼なんて誰でも怖いから嫌いなんだ。」

「よ~し、オレが狼を退治するからなぁ~。」

「銀次兄さんは怖く無いんですか。」

「オレか、オレは狼が一番怖いんだよ。」

「なぁ~ん、だったらみんなは。」

「オレも怖いから大嫌いなんだ。」


 と、正太の仲間達も頷き、げんたは大笑いした。


「なぁ~んだ、じゃ~みんなも狼が怖かったのか、あぁ~良かったよ、オレだけが狼が怖いんだと思って

たんだから。」

「まぁ~今まで何度か現れましたが今はこれだけの人数ですから多分大丈夫だと思いますよ、じゃ~行きましょうか。」


 正太も少し安心したのか山の中を進み、やがて川の流れる音が聞こえて来た。


「何処からか水の流れる音が聞こえて来るけど。」

「この付近は少しですが流れが速いんですよ。」


 其れから暫く進むと。


「技師長、此処が昨日言ってました川で上流には何か所かですが小さな滝が有るんですよ。」

「川幅は余り広くは無いけど、う~んやっぱりこの付近が丁度の所かなぁ~。」

「げんた、此処に水車を作るのか。」

「う~んそうか、なぁ~親方この川幅だったら向こう側との中間に水車を作れると思うんだけど。」

「分かったよ、其れで水車の大きさだけど。」

「う~ん、そうだなぁ~三尺くらいかなぁ~。」


 其れからもげんたは親方に詳しく説明し、傍でげんたの説明を聞いて要る正太達も次第に分かり始めた

ので有る。


「だったら水車もだけど、空掘りまで続く歯車を支える台は相当頑丈な物が必要なんですか。」

「うん、そうなんだ、だけどオレは水車の回る力がどんなに強いのか其れが分からないんだ。」

「なぁ~親方、オレは素人だから知らないんだけど支柱って頑丈な方がいいんでしょうか。」

「銀次さん、何か方法でも思い付いたんですか。」

「いゃ~別に考えて無かったんですがね、オレは立ち木を利用出来ないかって思ったんですがねどうで

しょうか。」

「ほ~立ち木を利用するんですか。」

「うん、そうなんですよ、どうせ川から空掘りまでの立ち木を切り倒すんでしょう、其れだったら少し上

の方から切れば、立ち木が支柱になると思うんですがねぇ~。」

「そうか、げんた、其れでその水車から空掘りまでは余り曲がっては駄目なのか。」

「うん、まぁ~出来る事だったらなぁ~直線が一番なんだ、だけど別に少しくらいだったら問題は無いと

思うんだ、其れに少しくらいなら曲がってもいいんだけど、曲げる角度は出来るだけゆっくりとして欲し

いんだ、だって歯車だけで繋げるだけなんだから。」

「其れとその歯車は大きいのか。」

「うん、一応、大きい歯車が一尺くらいで小さな歯車は五寸くらいと考えてるんだ。」

「だったら土の上からは二尺の高さで直線で繋げばいいのか。」

「うん、そうなんだけど、でも鍛冶屋さんにはまだ何も言って無いんだ。」

「げんた、わしが図面を書くから其れを見て判断してくれ。」

「うん、親方、有難う、其れで後は空掘りの所なんだけど。」

「そんな事は簡単だ、まぁ~わしに任せてくれって、銀次さんと正太さん達は川から空掘りまで出来るだ

け高い低いの少ない所と、其れに曲がらない様に考えて立ち木を調べて欲しいんだ。」

「分かりましたよ、親方、其れで倒した立ち木も利用するんですか。」

「そうなんだ、其れと作るのは簡単だけど、其の前に十分な日数を掛けて調べる事が大事なんだ、

げんたは鍛冶屋さんとよ~く相談してくれ、其れからわしらが鍛冶屋さん達と相談して作るから。」


 親方はげんたの考えた方法を理解した。

 だが、問題は川から空掘りまでを出来るだけ直線で繋ぐのだが高低差の少ない所を調べ、更に切り倒す

立ち木に目印を入れるのが困難な作業となるだろうと親方は考えて要る。


「親方、オレは長い縄を作るよ。」

「うん、確かに縄は必要になるなぁ~、じゃ~正太さん達で川から空掘りまでを調べて下さい。

 其れで銀次さん達は立ち木に目印か、いゃ~これは後でもいいか、じゃ~今からお城に戻ってみんなに

相談するか。」

「えっ、親方、相談ってなんの相談をするんですか、もう全部決まったと思うんですけど。」

「正太さん、其れはねぇ~今はこの現場を見に来ただけなんですよ。」

「でも、川に水車を作り、立ち木を倒して支柱を作るって。」

「正太さん、其れはねぇ~大体の話でしてね、わしらは現場を見たんで他の人達の意見も必要なんでね

其れで話し合うんですよ。」

「でも、親方が全部を決めるんじゃ無かったんですか。」

「正太さん、わしは大工の代表だけでしてね、其れにわしが決定するんじゃないんです。

 みんなで相談する事の方が後々楽になるんですよ。」

「えっ、じゃ~さっきの話は決まったって事じゃ無いって話しなんですか。」

「正太さん、わしら大工でも分からない事が多いんですよ、銀次さんが言った立ち木を利用するなんて事

はわしらは思い付かないんです。

 其れに銀次さん達の仲間もですが、わしら大工の仲間も全員で考えるんですよ、其れにさっき正太さん

が縄が必要だって言ったでしょう、あれもわしら大工は全然考えて無かったんです。」

「でもみんなが別々の意見を出すと収まりが付かないと思うんですが。」

「正太さん、其れが本当の目的なんです。

 さっきも銀次さんが素人だからって言ったでしょう、わしは鍛冶屋さんの仕事は分からないでいんす。

 でもねぇ~全員が意見を出す事で自分達の仕事がはっきりと分かって来るんです。

 其れにですよ、技師長にも任せてくれと言ったわしらにも大きな責任が有るんです。

 工事に入るのは其れからでも十分なんですよ、今の内にみんなが意見を出しても工事に入るとねま

た必ずと言っても別の問題が出て来ますがね、でもどんな問題が起きても早く答えを出す事が出来るって

事なんですよ。」

「親方、じゃ~何でもいいんですか。」

「勿論ですよ、正太さん達も色々と考えておられると思いますからね、その意見が出る事で仕事に対して

も責任を持つ事が出来るんですよ。」

「オレは今度の大仕事は正太さん達の協力が無かったら絶対に出来ないと思うんだ、親方も銀次さん達

だって手伝ってくれるんだ、だからお願いしますよ。」


 げんたは釜が作れ無いと潜水船もだが、大量の歯車が作れ無い。

 それどころか燃える石も鉄になる土も何の役にも立たないと思って要る。


「技師長、親方、それに銀次兄さん、オレ達に出来る事だったら何でもしますよ、そうだろう、なぁ~み

んな。」

「お~そうだよ、技師長が考える人でまぁ~オレ達は作る人って事になるんだからなぁ~。」

「うん、いいな~其れで行こうか、技師長は考える人でオレ達は作る人か、何ともまぁ~嬉しい響きだ

ねぇ~、なぁ~正太。」

「よ~し行くぞ~、オレ達の出番だからなぁ~。」


 正太の仲間は威勢良くお城の地下へと入って行く。


「親方、オレ今から行ってくるよ。」

「げんた、余り無理をするなよ。」

「うん、だけどこれだけはどんな事をしても造りたいんだ。」


 げんたは鍛冶屋の部屋に入り。


「鍛冶のあんちゃん。」

「技師長、また突飛な事を考えたのか。」

「いいや、別にそんな事は無いと思うんだけど、まぁ~簡単に言うと歯車が沢山要るんだ。」

「えっ、歯車が沢山って一体何を作るんですか。」


 野洲の鍛冶屋は何時もの事だから別に驚く事でも無いと。


「うん、オレは空掘りに鉄の塊を作り出す為に大きな釜を作りたいんだ。」

「大きな釜で鉄の塊を作るって、だけどどんな方法で作るんですか。」

「うん、燃える石で鉄になる土を溶かすんだ。」


 げんたの構想が次第に明らかになって行く、鍛冶屋も鉄になる土を溶かす釜は必要になると。


「技師長、実はオレも鉄の塊を作る釜は必要になるとは思ってたんですが、でもオレ達鍛冶屋が使う道具

じゃ大量の鉄の塊を作り出す事は出来ないと思ってるんですよ。」

「うん、オレも其れは分かってるんだ、其れでオレが考えた方法なんだけど。」


 げんたは鍛冶屋に空掘りで鉄の塊を作り出す為の窯を作ると言うのだ、だが鍛冶屋が今まで使っていた

ふいごの様な小型の道具では燃える石の火力は引き出せない、其れならば一層の事大きな釜に大量の空気

を送り込む送風機を造ろうと考え、げんたが説明すると。


「技師長、じゃ~川に水車を作り、水車の回る力を利用して釜に空気を送ると言うのですか、其れで川か

ら空掘りまでの距離ですが。」

「え~っと、そうだなぁ~一町くらいだと思うんだ。」

「一町の長さを歯車だけで繋ぐとなれば、歯車はまぁ~一尺か、う~ん、だけど其れだけでは無理だから

なぁ~。」

「なぁ~あんちゃん、オレはもう一つの歯車が要ると思うんだ、で大きさは五寸くらいと考えたんだ。」

「だけど、技師長、歯車の厚みも必要ですからねぇ~。」

「厚みは一寸半か二寸は要ると思うんだ。」

「だけど、そんなに厚みの有る鉄の板は無いと思うんだ、他に何か別の方法を考えないと駄目だぜ。」


 鍛冶屋は何時もの事ながらげんたの注文は相当な厳しさを要求して要ると、だが、厚みが二寸で直径が

一尺以上も有る鉄の板は無い。


「其れと歯車を通す頑丈な鉄の心棒が要るんだ。」

「技師長、少し考えさせてほしいんだが。」

「うん、分かってるよ、オレも簡単に出来るとは思って無いんだ、オレは水車の威力も分からないし、だ

けど木製では直ぐに壊れると思うんだ。」

「う~ん、これは今までの様には行かないなぁ~。」


 鍛冶屋は頭を抱え考え出した。


「あんちゃん、別に今直ぐでなかってもいいんだ、オレも他に何か方法は無いか考えて見るから。」

「げんた、分かったよ。」


 げんたの要求は潜水船の空気の取り入れ装置と同じで、髪の毛一本の隙間が有っては駄目だと、だが今

回の要求は潜水船の時以上に厳しく鉄の歯車だけを繋ぎ一町もの長い先に有る送風機の羽根を回すと言う

ので有る。


 その頃、松川の窯元で作られた連岩が百台近くの荷車に積み込まれ山賀の東門に到着した。


「源三郎様にお伝え頂きたいので御座います。

 松川より連岩をお持ち致しましたと。」


 東門の門番はもう大変な驚き様で、何故だか源三郎からは何も聞いていなかった。


「大変で御座います。

 東門に松川から百台近くの荷車が到着致しました。」

「そうですか、実に早いですねぇ~、ではそのままで宜しいので空掘りに向かわせて下さい。」

「はい、承知致しました。」


 山賀では家臣が総出で荷車を押し東門から空掘りへと向かった。


「どなたか正太さんに伝えて下さい。」


 家臣が大量の連岩が到着したと正太に伝えに行くと、正太達全員がお城の地下を抜け北の空掘りへと向

かった。


「わぁ~物凄い数の荷車だ、一体何台有るんだ。」


 正太達は驚くが今運ばれて来た連岩は全部では無く、まだ一部で有ると正太も知らない。


「正太さん、連岩ですが洞窟の中に運び入れて頂けますか。」

「はい、お~いみんな洞窟の中に運んでくれ。」


 松川から連岩を運んで来た人達も山賀の家臣も総出で連岩を洞窟内に運んで行くと、其処に銀次達も全

員が駆け付け連岩を運び入れ始めた。


「松川の皆さん、大変申し訳有りません。」

「あの~お侍様、今、持って来ました連岩ですがまだほんの一部で御座います。」

「まだ有るのですね。」

「はい、ですが荷車が足りませんので。」

「源三郎様、オレ達が行きますが、いいですか。」


 正太は連岩を取りに行くと、だが肝心の荷車は。


「正太さん、ですが荷車が足りませんよ。」

「源三郎様、まぁ~オレ達に任せて下さいよ、二百台くらいなら有りますので。」

「二百台も用意出来るのですか。」

「はい、其れで明日でも良かったら行きたいんですが。」

「分かりました、では、明日松川に向かって頂けますか、松川のお方其れで宜しいでしょうか。」

「はい、自分達は連岩を降ろしたら松川に戻りますので。」

「まぁ~まぁ~、その様に急がなくても宜しいのでは有りませんか、休みを取る事も大事ですよ。」

「でも、お城の。」

「何も心配される事は有りませんよ、私から話をして置きますので大丈夫ですよ。」


 松川から百台近くの荷車には山積みされた連岩を洞窟内に運び入れるだけでも大変な作業で有り、其れ

が終わり次第松川に引き返すと言うのは酷な話しだと、其れに今頃、山賀に着くと言う事は松川を早朝に

出たと考えるのが普通で有る。


「そうですよ今日は此処で泊まり、明日、オレ達と一緒に帰ってもいいと思いますよ。」


 さすが正太だ、正太達も明日の早朝、二百台もの荷車を引き松川へと向かうので有る。


「はい、じゃ~オレ達はお言葉に甘えさせて頂きます。」


 丁度、その時、竹之進と松之介が来た。


「皆さん大変だったと思いますので、今日はこの城で休みを取り、明日、松川へ戻って頂ければ其れで

宜しいですからね。」


「あっ、若殿様だ、だけど何で松川の若殿様が居られるんですか。」

「まぁ~まぁ~、その話は私が松川に戻ってからしますのでね、正太さん全部運び終わりましたら。」

「はい、オレ達は荷車を集めに行きますので。」

「親方、大変だぜ、今松川から大量の連岩が届いたって。」

「えっ、連岩が其れは本当なのか。」

「うん、今みんなで洞窟に運んでいるところなんだ。」

「う~ん、これじゃ~変更しないと駄目かも知れないなぁ~、お~い誰か正太さんと銀次さんを呼びに

行ってくれないか。」


 若い大工が洞窟へと走って行く。


「洞窟を優先するか、だけどこっちの方も日数が掛かるしなぁ~。」

「なぁ~親方、オレ今思い付いたんだけど洞窟の補強にも大量の材木が要るのか。」

「うん、あの時、先端部分で落盤が起きたから連岩を積み上げるんだが、其の前に材木で補強してからな

んだ。」

「だったら洞窟の入り口付近から空掘りの端まで大木が何本有るのか知らないけど、あの大木を利用出来ないかなぁ~。」

「そうか道具も運ばなければ、其れに城内からは一度洞窟に入らなければならないからなぁ~、どっちにしても空掘りの端から川までの道も作らなければなぁ~。」


 げんたは洞窟の補強と川まで道具類を運ぶ道が必ず必要になると考えて要る。


「親方。」

「銀次さん、済まないなぁ~。」

「いゃ~別にいいんですか、一体何が有ったんですか。」

「親方。」

「正太さんも忙しい時に申し訳無い。」

「いいえ其れはいいんですが、大工さんが親方が大至急来てくれって言うもんで。」

「うん、そうなんですよ、わしも今聴いたんだが松川から連岩が届いたって。」

「はい、其れで今全員で洞窟の中に運び入れてるんですよ。」

「其れでね、わしは正太さんと銀次さんには計画の変更をお願いしたいと思ったんです。」

「親方、計画の変更って。」

「銀次さん、洞窟の入り口から空掘りの先端までに有る大木を切り倒して欲しいんですよ。」

「其れはいいんですが、其れでその大木は何に使うんですか。」

「大木を洞窟内の補強と連岩を積み上げる為の台を作りたいんだ。」

「親方、だったら水車の方は。」

「其れを正太さん達にお願いしたいんですが。」

「じゃ~親方、銀次兄さん達は洞窟の方でオレ達は空掘りから川までの工事にですか。」

「そうなんだ、両方の工事は急ぐ事になるんだが、銀次さん達は野洲でも洞窟内の補強を経験してるから

出来ると思ったんだ、其れに川までの工事は直ぐに入れ無いと思うんだ、山の中だから調べるのも大変だしなぁ~、だけど空掘りから川まで直線で進むのも簡単じゃないから、わしは洞窟内の作業が落ち着くまでは日数も掛かると思ったんですよ。」

「正太、オレ達は明日からお堀の上に有る大木を切り倒すから荷車を、う~ん、そうだなぁ~十台も有れ

ば大丈夫だと思うんで集めてくれるか。」

「はい、じゃ~木こりさん達もですね。」

「そうだ、後はオレ達でも出来るからなぁ~、其れで親方、何本くらい要るんですか。」

「其れなんだ、わしも現場を見てないから何とも言えないんだが、まぁ~何れにしても空掘りの先端まで

は切り倒す事になると思うんだ。」

「分かりました、其れで長さですが。」

「そうだなぁ~、じゃ~、一応十尺と二十尺の両方で頼むよ。」

「其れと大木ですが洞窟の先端まで運ぶんですか。」

「正太さん、岩盤と燃える石の境目は分かりますか。」

「う~ん其れは、銀次兄さんオレも明日一緒に行くよ、だってオレ達もはっきりとは覚えてないんです

よ。」

「正太、分かった頼むよ、其れで親方、境目の手前でいいんですか。」

「うん、そうして貰うと助かるよ、其れで枝木も全部運んで欲しいんだ、かがり火と松明に使うから。」

「じゃ~親方、かがり火用の台も持って行きますから。」

「うん、そうして貰うと大助かりですよ、其れで正太さん、縄ですが長く太くして下さいね、其れと道具

も作りますので。」

「だったら、縄も沢山要りますねぇ~。」

「そうなですよ、出来るだけ多く用意して下さいね、少ないとまた取りに行く事になりますから。」

「若、まぁ~技師長に対抗するだけの頭脳は我々には無いと思わねばなりませんねぇ~。」

「う~ん、まぁ~其れにしても何と素晴らしい事だとは思いますねぇ~、同じ頃、我々は洞窟の事ばかり

を考えておりましたのに、でも何故その様な先まで考える事が出来るのでしょうか。」


「其れは洞窟の事は今だからですよ、今これだけの人数が居れば洞窟の問題は直ぐに解決出来ると、ですが解決した後に次は何を作るのか我々は全くと言っても良い程考えていないのですから。」

「確かにその様に申されますと私も反論は出来ませんねぇ~、ですがその後に考えれば良いのでは有りませんか。」

「其れならば誰でも考える事で、ですがげんたは何時でも先の事を考えて要るのです。」

「源三郎殿、私達も見習う必要が有ると思うのですが、皆様方如何でしょうか。」

「我々は連合国の将来を考えねばなりませんから、其れこそが我々に与えられましたお役目で一番大切な

事では無いでしょうか。」


 松川から連岩が大量の届けられ、燃える石を採掘する洞窟の補強は急がれ、其れにげんたが依頼した水

車の設置と空掘りまで続く歯車の設置に必要な支柱、大工達も正太達も、其れに銀次達も当初の予定とは

大幅に計画が変更され、野洲での作業を一時中止し山賀での工事を急ぐ事になり、其れが果たして良い方向に向かうのか、源三郎も先の予測も出来ず今は山賀を離れる事も出来ないので有る。


 両方の工事も急ぐ、果たして、何時、げんたの考えた鉄の塊を作り出す為の釜は完成するのか、そして鉄の塊を作り出す事は出来るのか、げんたも今は潜水船の事を考えられる状態では無い。


 そして、明くる日の朝から両方の工事が開始されるので有る。




          

         



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