第 37 話。 大きな方向転換。
げんたは上田、松川、山賀の殿様達と大工達に対する説明と見学に二時以上も掛かったが、其れもようやく終わり洞窟から全員が浜に戻って来た。
浜に残った吉川と石川は三つの藩から来た若き家臣達に二人が書き留めた物を渡し書き写させて要る。
洞窟から戻って来た全員が浜に座り話し始めた。
「親方、原木ですが明日からでも行きますので。」
「銀次さん、まぁ~そんなに急がなくてもいいんだよ。」
「えっ、でも大量に要ると思うんですが。」
「其れじゃ~、任せるよ。」
銀次も潜水船造りに使う原木が不足して要ると分かって要る。
「あの~親方、少しお聞きしたいのですが宜しいでしょうか。」
「はい、勿論で、わしで分かる事でしたら。」
「先程拝見した洞窟内で使用されております補強材ですが数年で交換する必要が有ると思うのですが、如何でしょうか。」
「はい、まぁ~よ~く持って三年くらいだと思ってるんですが、其れが何か。」
「松川殿、何か秘策でも有るのでしょうか。」
源三郎は以前松川の窯元に行った時の事を思い出していた。
松川は陶器物を作っており、その焼いた陶器も全てが使えるのでは無く、使い物にならない陶器は壊され窯元達の作業場近くで大量に放置されて要る。
「義兄上が以前来られた時ですが、廃棄された陶器物の処分を聴かれたと思うのです。」
「勿論覚えておりますよ、ではその廃棄された陶器物を利用されると申されるのでしょうか。」
「はい、普通、焼き物には粒子の細かい土を使うのですが、粘土にも使える物と使えない粘土が有りまし
て我々は窯元と相談し使えない粘土と廃棄された陶器物を何とか使う方法は無いかとを考えたので御座います。」
「使えない粘土と廃棄処分に困って要る壊れた陶器物を使うのですか。」
「その通りでして、廃棄する陶器物を細かく砕き、使い物にならない粘土と混ぜて全く別の焼き物を作っ
たのですが。」
竹之進の話に他の殿様方も話を止め、竹之進の話を聴き始めたので有る。
「別の焼き物を作られたと申されるのですか。」
殿様方も一体どの様な焼き物なのか次第に興味を示し始めた。
「焼き物と言うのは皆様方もご存知だと思いますが材木の様に決して腐る事は有りません。
其れに一度焼いておりますので水にも強く、これならば使い道が有ると思って要るのです。」
「松川殿、其れでその焼き物ですが一体どの様な物なのでしょうか。」
「焼き物を連なると言う意味で連岩と申しまして、厚みが二寸、幅が四寸、長さが八寸の焼き物で御座い
ます。」
「えっ、連岩と申されるのですか。」
「松川殿、その焼き物は連ねる事が出来るのですか。」
殿様方も焼き物を連ねる事が出来るとは初めて聞いたので有る。
「松川殿、その連岩と申す焼き物ですが、どの様な方法で連ねるのでしょうか、私も今初めて聴きました
ので全くと言っても良い程想像が出来ませぬので教えて頂きたいのです。」
「では簡単にお話しをさせて頂きますと、其の前に連岩とは全てが同じ大きさの焼き物で連ねますので左
官職人さん達の仕事になります。」
「左官屋さん達が焼き物を連ねる仕事をするのですか。」
菊池の殿様も上田の殿様も全く理解出来ず、焼き物となった連岩を左官屋達は見事に連ね、松川の浜と
城下に通じる峠には隧道が作られ始め、その隧道の補強材として連岩を使って要ると言う。
「松川のお殿様、わしらは大工ですから日頃から左官屋さん達とも仲間ですが、もう少し簡単にお話しを
して頂きたいのです。
わしらも今初めて聞きましたので、その連岩って焼き物がどんな風に使われて要るのか全然分からない
んです。」
「確かに親方の申されます通りですねぇ~、親方、先程もお聞きしましたが、洞窟内で使う原木は三年か
ら五年も経てば腐って来ると思うのです。
そうなれば、早くて一年か二年もすれば補強材を交換する必要が有ると思います。
ですが連岩は焼き物なので数百年経っても腐る事は無いと言うのです。」
親方も殿様方も木材は必ず腐って行く、特に湿気の多い洞窟内ではもっと早く腐る事も考えられると思って要る。
「お殿様、じゃ~わしら大工の仕事は無くなるのですか。」
親方が思うのも無理は無い、焼き物を連ねる仕事は左官屋達の仕事で、若しもその様な事にでもなれば
必然的に大工の仕事は無くなると考えるのが当然で有る。
「親方、其れが少し違うのですよ。」
「えっ、違うって、でも左官屋さん達が連岩を連ねるんですから、わしらの仕事は。」
「親方、大工さん達の仕事ですが、連岩を積み上げる為には大工さん達に枠組みを作って頂か無ければな
りません。
ですが簡単に枠組みと申しますが、其の前に基礎の部分を最初にしっかりと作らなければならないと思
うのですが、親方、如何でしょうか。」
「お殿様、其れは勿論ですよ、お城を築き上げるにしても最初の基礎が一番重要ですから、基礎工事を疎
かにするとお城でも城下の民家でも築き上げる事は出来ませんよ。」
「親方、その基礎の部分を出来れば大工さん達に枠組みを造って頂き、その枠組みに連岩を左官屋さん達
が積み上げて行くのです。」
「松川殿、ですが、その方法を使えば洞窟は何時頃完成するのでしょうか。」
上田の殿様も隧道の完成が遅れると考えたので有る。
「確かに考え方を変えれば隧道の完成は遅れるのではと、ですが隧道を掘り進めて行きますと落盤と言う
事故の危険度は増し木材だけの補強でも危険度は次第に増すと思います。
先程も申しました様に今松川では城下と浜に隧道を掘っておりまして、左官屋さん達の話では大変な手
間が掛かりますが、其れでも考え方を変えれば一度連岩を積み上げますと木材とは大変な違いで交換する
と言う余計な仕事が無くなりますので大工さん達と左官屋さん達が協力される事で私達もですが、子供や孫、いいえ後々の世代までもが安心して通行出来るのでは無いかと考えたので御座います。」
「松川のお殿様、今、要約分かりました。
最初は普通に掘り進み、其れと並行して基礎を作り、基礎が出来上がれば枠組みを、其れで枠組みに連
岩を積み上げて行くんですね。」
やはり大工の親方だ、親方は隧道造りもお城を築き上げるのも同じで有ると、一番重要な部分が基礎工事で基礎が出来上がれば、残るは枠組みを作り最後に連岩を積み上げ、枠組みを取り外せば完成するのだと言うので有る。
「親方、その通りでして、確かに手間は掛かると思いますが、私は大工さん達には余計な仕事をして頂く
必要が無くなり、他の仕事、其れが潜水船の建造と言う、我が連合国に取りましては最も重要な仕事に入って頂けるのではないかと私は考えたのですが、皆様方、如何でしょうか。」
浜に集まった殿様方も大工や鍛冶屋を含め全員がざわめき始めた。
源三郎も考え始め、竹之進の言う連岩が大量に作る事が出来るので有れば、洞窟や隧道の建設には手間
は掛かるが大工達は補強材の手直し作業は必要も無くなる、其れは潜水船の建造に集中出来ると言うので
有れば大工達も分散し潜水船の建造も野洲以外でも可能だと言う事になる。
「なぁ~あんちゃん、此処で話しを続けると吉川さんや石川さんが書き上げた物を今写す仕事をしてる人達は此処の話が気になると思うんだ。」
げんたは家の隣で若い家臣達が必死で書き物の写す作業を行なっており、外での話が気になり集中出来
ないと思ったので有る。
「そうでしたねぇ~、確かに私の配慮が足りませんでした。
皆様方、話しの続きはお城で行ないたいと思うのですが、如何でしょうか。」
「源三郎殿、私も誠同感で御座います。
今大事なお役目をしております者達の事も考え無かった私も責任を感じております。」
「誠で御座います、皆様方、では。」
「なぁ~あんちゃん、オレも行くのか。」
「技師長は当然の事参加して頂かなければなりませんのでね。」
「源三郎様、オレ達もですか。」
「勿論ですよ、銀次さん達も大工さん達も鍛冶屋さん達も全員ですよ、私はねぇ~今の話は簡単には終わ
らないと思いますよ、今のお話しはそれ程にも大事な話し合いだと思っております。」
源三郎は松川だけの話しだけでは終わる事は無い。
其れは山賀で発見されたと言う燃える石と鉄になる土と言う赤茶色の土の話も出て来るだろうと思った
ので有る。
「では、皆様方参りましょうか。」
源三郎が先頭になり殿様方も立ち上がり野洲のお城へと歩き始めた。
野洲のお城までは直ぐで、お城に着くまでお殿様方も大工や鍛冶屋達も話に夢中で有り、其れは源三郎
が考えもしなかった程になって来たので有る。
「なぁ~あんちゃん、オレは正かこんな大騒ぎになると思って無かったんだ、でも今は本当に良かったと
思ってるんだ。」
げんたは浜で各藩から来た若い侍達が余りにも失礼な言動と態度に怒り、其れが原因となり各藩ではお殿様が中心となり全ての家臣が理解出来るまで徹底的に話し合われた。
其れも長期間掛かり、其れが今では大工や鍛冶屋達も巻き込んでの話になったので有る。
今回は以前とは考え方も全く変わり、単に理解出来たと言う様な話では無く、今連合国は強大な渦に巻
き込まれ様としており、その強大な渦を自らの力だけで排除しなければ連合国は消え去るのだと、其れが
どうだろうか、げんたの怒りが元となりお殿様方は全てを理解され、今は当然ながら必死で取り組み始め
たと言う事なので有る。
「げんたがあの時本気で言わなければ他の殿様方も理解出来ず、何れ遅かれ早かれ来るで有ろうと思う幕府軍か官軍に我々の連合国は完全に消滅させられたと思いますよ。」
「じゃ~あんちゃんはオレが本気で怒って良かったと思ってるのか。」
「げんたが本気になればどの様な事になるか、お殿様方もよ~く分かったと思いますよ。」
普通で考えれば、町民のげんたがお殿様方に対し暴言を吐けば、その場で無礼者として切り殺される。
だが、連合国の殿様方はそれ程無能では無い。
菊池の殿様も高野から源三郎の話の中で常にげんたと言う技師長がおり、野洲のお殿様も認めて要る
げんたと言う子供の技師長が存在する事は知って要る。
其れは他の上田、松川、山賀の殿様方にも知られて要るので有る。
何故ならばげんたと言う技師長の存在はそれ程にも大きいと言うので有る。
そのげんたも源三郎もお城で一体どの様な話になるのか今は楽しみで話の内容によっては今までの考え
方を代えなければならないのだと源三郎は考えたので有る。
浜を発って半時程で野洲のお城に着き、全員が大広間に集まり、其の時野洲のお殿様とご家老様も同席
し、更に野洲の家臣達には廊下ならば話し合いを聴いても良いとお殿様の意向で大勢の家臣が廊下に集まったので有る。
「皆様方、大変ご苦労様で御座います。
では、先程のお話しに戻ります。
松川様、その連岩ですが、洞窟や隧道に使うとなれば大量に必要となりますがそれ程にも粘土は豊富に
有るのでしょうか。」
「義兄上、この粘土ですが、窯元にも聴きましたところ、陶器に使う粘土よりも豊富に有ると聞いております。」
「松川殿、ですが全ての隧道に使うとなれば。」
「菊池様も皆様方もご存知だと思いますが、山の全てが土では御座いませぬ、掘り続けておりますと、必ずと言っても良い程岩盤に当たります、岩盤ならば削る事は容易では御座いませぬが連岩は必要とは致しませぬ、その点、土ならば早く掘り進める事になりまして、土の部分にだけ連岩を使と言う事にな。その連岩ですが、今は全ての窯元さん達の協力で毎日数千個が作られております。」
「えっ、今何と申されましたか、松川殿は毎日数千個もの連岩が作られて要ると聞こえたのですが、若しや私の聞き違いでは無いのかと思うので御座いますが。」
「誠の話しで御座いまして、松川の峠に使うだけでも数十万個は必要だと考えております。」
「数十万個もで御座いますか、其れでは左官屋さん達は大変な仕事をされるのですねぇ~。」
「其れで我々は城下の人達の中で少しでも左官屋さんの仕事に就かれた人達を募って要るのです。」
「其れで左官屋の仕事をされる人達は集まったのでしょうか。」
「やはり少ないので今まで全く左官と言う仕事を経験した事も無い人達に対しても、左官屋さん達は教え
ると申されまして、ではと言う事になりその様な人達を募りましたところ多くの人が集まり、左官屋さん達が親切丁寧に指導されたお陰で今では本物の左官屋さん達も驚く程に上達され隧道内を連岩で補強工事に就いて頂いております。」
「源三郎様、宜しいですか。」
「銀次さん、何か良い方法でも有りましょうか。」
「はい、オレ達の仲間には元は左官屋だって言う者もおりますよ。」
「銀次さん、其れで何人くらい居られるのでしょうか。」
「え~っと、確か三十人くらいだと思いますが。」
「えっ、三十人も居られるのですか、其れは大変嬉しいですねぇ~。」
銀次の仲間全員が島帰りで元の仕事は多方面に渡り大工も左官もその内の仕事で有る。
「あの~少し聴きたいのですがいいでしょうか。」
「えっ、お前は。」
「銀次さん、オレは大工の仕事に就く前に子供の頃から刀鍛冶の仕事場におりましたんで。」
「えっ、お前が刀鍛冶って今初めて聞いたぞ、で一体何を聴きたいんだ。」
「銀次さんにではないんですよ、さっきの話で燃える石と鉄になる土って聞いたんですが。」
「おい、少し待てよ今は。」
「銀次さん、宜しいですよ別に連岩だけに拘る必要も有りませんのでね。」
「源三郎様、ですが。」
「まぁ~まぁ~宜しいではないですか、今この場は何でも知る事が大事ですからね、其れで貴方は刀鍛冶
屋でどの様な仕事をされておられたのですか。」
「はい、オレは地金を作るんですが。」
彼はその後地金を作る仕事が大切でその仕事と鉄になる土が何か関連して要るのではないかと話した。
「源三郎様、今もお話しした様に地金を作る時には火力の強い炭を使うんです。
其れでオレは燃える石がどんな火力が有るのか、其れによっては鉄になる土を大量に投入すれば沢山の
鉄が出来ると思うんですが。」
刀鍛冶の仕事で地金を作る方法とは全く別の方法を考えなければ大量の鉄は作れ無い。
だが、一体どの様な方法が有ると言うのだ、今の源三郎には全く考えられないので有る。
「う~ん。」
と、源三郎腕組みし考え込むので有る。
「なぁ~あんちゃん、オレもだけど、あんちゃんが一人で考えたって無理な話なんだぜ、ねぇ~山賀の若様、オレは燃える石も鉄になるって言う土の事も其れがどんな物かも知らないんだけど、燃える石ってオレ達が使ってる炭よりも燃えるのかなぁ~って考えたんだけど。」
「技師長、私は燃える石は私達が普段使って要る炭よりも火力は遥かに強いと思います。
我が藩の鍛冶屋さんにも確かめて頂きましたので間違いは有りません。」
「じゃ~鉄になる土って柔らかいのか、其れとも硬いのか。」
「う~んそうですねぇ~、どちらかと申しますと硬い方の部類だと思いますが、其れが何か。」
「うん、オレも考えてるんだけど、その土って粉々にして燃える石に入れたら一体どうなるかなぁ~って
思ったんだ、オレ達も火を点ける時、最初から太い木じゃ駄目で最初は細い木に火を点け火が次第に大き
くなってから太くて大きな木を入れると思うんだ、其れと同じ様に考えてるんだ、鉄になる土って硬いん
だったら粉々にしてだよ火の中に入れたらった思っただけなんだけど、なぁ~あんちゃんはどう思ってる
んだ。」
「う~ん、技師長の申されるのは土だけだと思うのですが、ではその土が次にはどの様になるのでしょう
かねぇ~、其れが分からないのですが。」
「上田の殿様、最初から難しく考えるから出来ないんだ、燃える石の火力が炭よりも強いって事は粉々に
した土の中に有る鉄が溶けるかも知れないんだ、だったら溶けた鉄の受ける器が有ればいいと思うんだけ
どなぁ~。」
げんたの発想が今の殿様方に理解出来るはずも無い。
「げんた、何故鉄になる土が溶けると思うのですか。」
「あんちゃん、さっき浜で松川の殿様が言ってたよ、釜を赤茶け色の土で作り炭と間違って燃える石を入
れたって、すると部分的に溶けてたって。」
げんたは釜戸に使った赤茶色の土が燃える石の火力で溶けたと考えたので有る。
では、その土を粉々に砕けば、土は溶けず、土の中に含まれている鉄分だけが溶け出すのではと。
げんたは溶けた物を回収すれば良いのだと、だが一体どの様な方法で回収すると言うのだろうか、また
も沈黙が続いた。
「あの~宜しいですか。」
「はい、何か良い方法でも考え付かれたのでしょうか。」
「えっ。」
と、親方が振り向くと、一人の大工が。
「何だ、お前に分かるのか。」
「親方、オレだって真剣に考えてるんですよ。」
「だけどオレ達は大工だ、大工が。」
「まぁ~まぁ~、親方、大工さんが何か良い方法を考え付かれる事も有ると思いますのでね、其れよりも
お話しを伺いましょうかねぇ~。」
「はい、源三郎様。」
大工の親方にすれば、大工が燃える石や鉄になる土の事が分かるはずも無いと思って要る。
「源三郎様、オレもさっきから聴いてたんですが、松川のお殿様、陶器ってどんな方法で作るんすかと言うよりも、陶器って焼いて作るんですか、オレは大工なんで焼き物の作り方は知らないんで教えて欲しいんです。」
大工の彼にすれば陶器物がどの様な方法で作り出されて要るのか其れが知りたいのだ。
だが、其れと鉄を作り出す方法と一体どの様な関係が有ると言うのだ。
「はい、よ~く分かりました、では失礼だとは思いますがお許しを願いまして、大工さん達もですが皆様
方の中で陶器物がどの様な方法で作られて要るのか、皆様方の中には知らないお方も居られると思います
ので今から簡単に説明させて頂きます。」
松川の竹之進も相当詳しく学んだ様で陶器物がどの様な方法で作られて要るかを詳しく説明した。
「お殿様、オレでもよ~く分かりました。
其れじゃ~その陶器物ですが、燃える石の火力で溶ける事も有るんでしょうか。」
「えっ、今何と申されましたか燃える石の火力で溶けると、其れはう~ん。」
と、竹之進は考え込んでしまった。
今の今まで一度焼き上げた陶器が燃える石の火力で溶けるなどとは考えもしなかったので有る。
だが、果たして燃える石の火力で本当に溶けるのだろうか。
「私は今までその様な事は考えもしませんでしたが、其れが何か。」
「さっきもげんたが言ったと思うんですが、溶ける鉄の塊を受け取る方法って、オレはどんな物か分かり
ませんが器を作ってその燃える石の下に置いて溶けた物を取り出す事は出来ないかって考えたんです。」
「松川殿、先程、申されました連岩を使ってその釜戸は作れないのでしょうか。」
「えっ、連岩を使ってでしょうか。」
「ええ、今のお話しから私も考えたのですが、連岩ならば焼き物ですから作る事も、其れに一度焼いた物
ならば粉々にされた鉄になる土が溶けたとしましても連岩は溶けないと思います。
其れに溶けた鉄の塊ですが、一番底に置いた陶器が受ければ取り出す事も可能では無いかと考えたので
すが、皆様方、如何でしょうか。
山賀で発見された燃える石と鉄になる土で鉄の塊を作り出すとう言うのは考えられ無いでしょうか。」
「う~ん、ですがねぇ~一体何処に作れば良いのでしょうか。」
「義兄上、山賀の空堀ならば可能だと思いますが。」
「山賀殿、ではその釜戸ですがどの様な物になるのでしょうか。」
「其れも今考えて要るのですが、出来れば皆様方にも特に鍛冶屋さん達にも協力をお願い出来ればと思って要るのですが、如何でしょうか。」
「松川のお殿様、最初から大きな物を作るんですか。」
「実は私もまだ想像が出来ないので、鍛冶屋さんならば専門的な事もご存知だと思うのですが。」
「皆様方、私は別に特定の人でも無く、この装置と申しましょうか、鉄の塊を作り出す方法に興味の有る
お方で有ればどなたでも宜しいかと思うのです。
今の話は大工だからとか侍だからでは無く、連合国の領民さん達が生き残れるのか、否かと言う大問題
で一部の特定の人達だけの問題ではないと思うのです。
この装置が完成し、鉄の塊を作り出し、鉄の板が大量に作る出す事が出来るならば、潜水船の建造方法
も変わると思うのです。」
「源三郎様、正か鉄の。」
「菊池様、その正かが可能では御座いませぬでしょうか。」
「えっ、あんちゃん、その正かって鉄で潜水船を造るのか。」
げんたは別に本気で驚く程でも無く、ただ鉄で潜水船を造るとなれば造り方を考えなければならない。
だが、一体どの様な方法で造るんだ、其れより最も大切な空気の取り入れ口は、いや鉄で造った潜水船
が果たしてどうなるのだろうかげんたの頭では早くも回転を始めた。
「源三郎様、鉄の潜水船を造られるのですか。」
「上田様、私はまだ全てを鉄で建造出来るとは思っておりませぬ。
ですが何れにしましても長崎の造船所では鉄の軍艦を建造して要るのは間違いは無いと考えて要るので
御座います。」
「では、官軍が鉄の軍艦を造るとなれば、幕府軍の軍艦では太刀打ちは出来ないのでは。」
「まず其れは間違いは御座いませぬ。
今、私が考えたのは潜水船の外側に鉄の板で補強すると言う方法なのですが、其れは簡単では無いと考えております。」
「あんちゃん、だったら先に鉄板で造るのか。」
「げんた、其れがまだはっきりとは考えておりませんので、まぁ~其れよりも山賀の空掘りで鉄の板を作り出す方法を考えなければなりませんよ。」
「源三郎様、ですが大きな物を作るとなれば他にも問題が有る様に思えるのですが。」
やはりだ高野も真剣に考えて要る。
「鍛冶屋さん、鉄を打つ為には何が必要でしょうか。」
「そうですねぇ~、一番大事なのはふいごですねぇ~。」
「ふいごですか。」
「はい、炭を普通の方法で火を点けても火力は弱いので、オレ達鍛冶屋はふいごを使い、火力を上げ鉄を
赤くなるまで焼くんです。
赤くなった鉄だったら打つと延ばす事も比較的簡単ですので、其れに炭も大切ですが、ふいごが無けれ
ば火力は強くはなりませんので一番に必要だと思います。」
「鍛冶屋さん、そのふいごですが、別の人が手伝うのですか。」
「はい、オレ達、鍛冶職人はお互いの呼吸が合わなければ仕事が出来ないんですよ。」
鍛冶職人は呼吸を合わせなければならないと、其れが出来なければ人様に売れる様な品物は作れないと
言うので有る。
「なぁ~あんちゃん、山賀の空掘りで鉄を作るって言う機械の大きさなんだけど、どんな大きさになるの
かなぁ~。」
「う~ん、私も今は想像だけですがね、げんたの家くらいの大きさになると考えております。」
「源三郎様、そんな大きな機械になったら、人間の力で送ってるふいごじゃとても無理だと思います。」
鍛冶職人が普段使う窯の大きさは一尺か大きくても二尺の窯で、その大きさならば人間の力だけを使う
ふいごで十分だと言うので有る。
だが、源三郎が想像した機械なのか、窯の大きさは家一軒分だと言う、その様な大きな窯に人間の力だけが頼りのふいごでは空気を送り込む事はとても無理だと考えて要る。
「源三郎様、そんな大きなふいごを作ったとしても、人間の力じゃ動かすのは無理ですよ。」
鍛冶屋は源三郎の突飛な発想には驚いて要るが、げんたは何時もの事だと、だがげんたの助け舟で問題
は解決されるのだろうか。
「山賀の殿様に聴きたいんだけど、お城の空掘り近くに川は流れてるんですか。」
「はい、有るのは有りますが、確か空掘りから北へ二町程行ったところにですが、幅が二軒程の川ですが、其れが何か。」
「あんちゃん、その川に風車を作るんだ。」
「えっ、げんた、風車を作るのですか。」
大広間に居る、他の殿様も他国から来た大工や鍛冶屋達も驚いて要る。
川に水車では無く風車を作るとは一体何を考えて要るのだと言う顔をしているが、浜の大工や鍛冶屋は
げんたの事だから何時もの事だと思って要る。
「技師長、川に風車を作るとは、私は意味が分かりませぬが。」
「みんなはさっき浜の洞窟内の潜水船を見て、その潜水船の船内に有る空気の取り入れる為の機械を見たと思うんだけど。」
殆どの人達が見ており頷いて要る。
「げんた、わしは分かったよ、空気の取り入れる機械を。」
「親方、うん、それなんだ。」
「だけど、何で水車では駄目なんだ。」
「親方、水車は水の流れに合わせないと駄目なんだ、だけど風車の形にすると少しくらい流れと違っても
大丈夫なんだ。」
「そうか、だったらわしら大工は風車を作ればいいんだなぁ~。」
「うんそうなんだ、だけど水車だと余計な手間も掛かると思うんだ。」
「技師長、私は水車と風車と申されておられる意味が分からないのですが。」
「上田のお殿様、さっき見た潜水船の中に空気の取り入れる機械を見たと思うんですが、あの方法を反対に利用するんだ、潜水船は空気を入れるんだ、だけど今度作るって言う大きな窯には空気を送るんだ、
さっきも鍛冶屋のあんちゃんが言ったと思うんだけどそんな大きなふいごを人間の力だけでは空気を送る事は無理だって、だったら川の流れを利用すれば空気を送り込める事も出来ると思うんだ。」
其れでも上田の殿様も他の殿様も浜の人達以外にはげんたの説明では全く理解出来ない。
「まぁ~簡単に言えば、大きな窯には大きなふいごが必要なんだけど、オレは人間の力では無理だから川
の流れを利用しようと単純に思っただけなんだ。」
源三郎はげんたの説明は理解出来る、其れでも説明不足と思い。
「皆様方、私が少し補足説明をしますので。」
この後、源三郎はげんたの言う、何故風車を使うのか詳しく説明した。
「そうでしたか、其れで私も要約理解出来ましたが、先程山賀殿が申されましたが空掘りから川までは二
町以上も有ると、では一体どの様な方法を使い空気を送り込むのでしょうか。」
その様な疑問を持つのは、何も上田の殿様だけでは無い、殆どの者達がどの様な方法を考えて要るのか
も全く見当が付かないと言う顔をして要る。
「歯車なんだ。」
「えっ、歯車って申されましたが。」
「菊池の殿様、風車から送風機までを歯車だけを連ねるんだ。」
さぁ~又も難解な話しになって来た、歯車を繋げるとは。
「うんそうだよ、そうだなぁ~まぁ~直径が一尺と五寸くらいの歯車を二個で一組みと考え繋げて行く事になるんだけどね、川の流れる力で風車が回り、風車に取り付けた歯車は次の歯車を回す、これを連動させれば送風機の羽根も回り空気が送り込めると言う方法なんだ。」
やはり、源三郎だけが理解出来、殿様方には理解は無理で有る。
「私が補足説明を致しますので。」
源三郎は再び詳しく説明を始め。
「じゃ~歯車は鍛冶屋さんが作るとして、大工は歯車を受ける台も作るのか。」
「うんそうなんだ、だけどオレも歯車がどんなに早く回転するのか分からないんだ。」
「げんた、だったらその土台を頑丈に作ればいいと思うんだがなぁ~。」
「ですが、その川から空掘りまでは起伏が有りますよ。」
「山賀の殿様、別に水を流すんじゃ無いんだぜ、歯車を使うから起伏は関係ないんだ、まぁ~山の中だか
ら材料も有る事だし、土台が動かない様に頑丈に重く作れば大丈夫だと思うんだ。」
さすがのげんたでも鉄を作り出す窯をどの様な方法で作れば良いのか分からない。
だが鍛冶屋達が知恵を絞り考える事に、更に大きな送風機の羽根も作らねばならない。
だが幾らこの場で話を進めても現地に行かなければ作り方も考えられないのではと源三郎は考えた。
「皆様方如何でしょうか、明日の早朝全員で松川へ参り、その後山賀に向かうと言うのは。」
「えっ、あんちゃん、若しかオレも行くのか。」
「勿論ですよ、技師長が行かなければ一体誰が考えるのですか、我々の連合国の運命は全て技師長の頭の
中に掛かって要るのですからねぇ~。」
源三郎は何時も突飛な発言をするが、さすがのげんたも驚いたので有る
「そんな無茶苦茶な話しって有るか、なぁ~あんちゃん、オレはなぁ~。」
「技師長、貴殿が居らなければ、今の我々には全く何をどの様な方法で作れば良いのかもさっぱり分から
ないのです。
源三郎殿、私は今までの様な考え方を捨て全て連合国の領民の為に命を捧げます。」
「上田様、どうかお手を上げて下さい。
なぁ~げんた、母ちゃんや浜の人達にも頼みますよ。」
「う~ん。」
又もげんたは何かを考え始めた。
げんたが腕組みをし考え始めると周りの事には全く気付かない程にも集中する。
だが一体何を考え始めたのだろうか源三郎にも全く分からないので有る。
「あんちゃん、分かったよ、だったらオレの頼みも聞いてくれるのか。」
げんたの頼みとは一体何だ、若しかして母親も一緒に連れて行けと言うのではないのか。
「はい、宜しいですよ、まぁ~げんたの頼みですからねぇ~、その代わり山賀まで一緒に行ってくれるの
ですね。」
「あ~いいよ、じゃ~ねぇ~ちゃんと加世ねぇ~ちゃん、すずねぇ~ちゃんも一緒にだぜ、其れと吉川さ
んと石川さんもだぜ。」
「分かりましたよ、では今から手配しますからね。」
げんたが雪乃を呼びたい気持ちは分かる、だが加世とすずも同行させるとは、一体何が目的だ。
源三郎はげんたの考えて要る事が全く理解出来ないので有る。
吉川と石川も、だが翌々考えて見ると二人は山賀で鉄を作り出すと言う仕事も覚えなければならないの
かも知れずそれ程にも大変な事態になって要る事に間違いは無い。
そして、明くる日の早朝、源三郎は数百人にもなる人達と共に一路松川を目指した。
「加世ねぇ~ちゃんとすずねぇ~ちゃんは松川の窯元さんのお嬢さんって聞いたんだけど。」
「はい、私もすず様の実家も先祖から焼き物を作っておりますが、其れが何か。」
「うん、其れでオレの頼みなんだけど、実はね菊地から山賀の国までが連合国になったでしょう、其れで
オレは浜の現場だけは知ってるんだけど大工さん達も銀次さん達もご飯を食べる時に欠けたお椀で食べて
るんだ、洞窟には食べ物を入れる食器が少ないんだ、其れでねえちゃん達の実家で作って欲しいと思ったんだ、でもねオレは子供だからお金が無いんだ。」
「げんたさん、よ~く分かりましたよ、其れで私達を一緒にとだったのですね。」
「うん、でもオレはこんな事他の人には言えないんだ、だって、銀次さん達は島帰りで仕事をさせて貰ってご飯を食べさせて頂けるんだって言うんだ、だから何も不満なんて無いよって言ってるんだ。」
「加世様、すず様、私からもお願いします、げんたさんは本当に優しいわねぇ~、本当は私達が早く気付
くべきだったと思うの。」
「雪乃様、父も大喜びで作ると思いますよ。」
「だけど、オレ。」
「げんたさん、私とすず様に任せて下さい。
現場で仕事をされて要る人達が満足な食器も無しで食事をされておられるのは、私にすれば藩としては
恥ずかしい事だと思います。
そうだ他の国でも食器が不足して要ると思いますので、父から他の窯元さん達にも話しをして貰います
から。」
「ねぇ~ちゃん、本当に有難う、これで他の人達も食べる時に少しは楽になると思うんだ。」
げんたは余程嬉しかったのか涙を流して要る。
この話は源三郎にも伝えなければならないと雪乃はげんたの希望を叶える事に、其れにしても今の今ま
で源三郎様は知らなかったのだろうか、げんたの心優しいところが分かったと加世とすずも改めて思ったので有る。
源三郎は本来ならば途中でお昼を取るつもりでいたのだが、何故か他の人達が急ぐ気配を感じ、お昼に
は上田へと入り、数百人もの大工や鍛冶屋、其れに銀次達を含めた一行は上田のお城でお昼を済ませ、直
ぐ松川へと向かう事が出来れば夕刻近くには松川へ入る事になると考えた竹之進は今宵は松川で泊まる
と考え竹之進は家臣に今宵の手配をするようにと告げた。
「なぁ~あんちゃん、野洲の城下もだけど、上田の城下も小さいんだなぁ~。」
「そうですよ、菊池から野洲、上田、松川までは小国で山賀だけが大きいのですがねぇ~、山賀は大きい
と言っても野洲と上田を合わせたくらいんですからねぇ~、連合国となってお互いが協力しなければ幕府
や官軍には簡単に滅ぼされるのですよ。」
「だったら、あんちゃんは初めから知ってたのか。」
「いいえ、私も知りませんでしたよ、最初は野洲だけの事を考えておりましたのでね、でも私が気付いた
時にはこれだけの小国ならば簡単に滅ぼされて行くと、でも今は私の予想外の方向へ向かって進んで要る事は間違いは有りませんよ。」
「だったら高い山の向こう側だけど、今はどうなってるんだ。」
「げんた、私もこの目で確かめたいとは思うのですが、其れが出来ませんので、田中様の報告では殆どの
所で幕府軍と官軍が戦の最中でしてね多くの人達が巻き添えに会い犠牲になって要ると聴いております。
今は戦の最中ですが今はまだ我々の所まで来る事は無いと思っております。
ですが、田中様と井坂殿の話から官軍は軍艦で佐渡の金塊を奪い、その金塊で異国から新型の軍艦を買い入れると言うのですよ、げんた、ですがねぇ~官軍の軍艦が佐渡に向かうとなれば、我々連合国の有る沖の海を通過すると考えて要るのです。」
げんたも日頃から源三郎から色々と話を聴いて要るので理解は出来る。
「じゃ~あんちゃんは官軍の軍艦を佐渡に行かせたくは無いのか。」
「勿論ですよ、若しもですがね、異国の軍艦を購入し我が連合国に有る浜に上陸される様な事にでもなれ
ば、げんたが想像して要る以上の恐ろしい事が起きる可能性が有りますからね、私はねぇ~げんたも考え
て要ると思いますが菊池から松川までの浜に上陸されるのを何としても阻止したいのです。」
げんた自身は戦がどんなに悲惨なのかは知らない。
だが源三郎の話からすると侍だけが戦に行くのでは無く、仮に戦に行かずとも付近に居る村民が巻き込まれ、其れは生まれたばかりの赤子から老人までもが犠牲になるのは間違いは無い。
「あんちゃん、だけどオレは官軍だけが必ず来るとは思わないんだ、だって幕府も軍艦は持ってるんだか
ら幕府の軍艦が来るかも分からないんだろう。」
「その通りですよ、私も同じ様に考えてはおりましてね、官軍では無く先に幕府の軍艦が来るとも考えな
ければなりませんからねぇ~。」
「あんちゃんはどっちが先に来ると思うんだ。」
「げんた、私はねぇ~情けない話ですが連合国以外の外に有る国を全く知らないのです。
げんたも知っての通り連合国は高い山に囲まれ北は海でしてね、ですが今まで何も不自由は感じて無かったのです。」
「あんちゃん、オレもだぜ、オレだって他の国を知らないし、だけど本当は全部知りたいんだ。
でも今は無理だって思ってるんだ、だけどあんちゃんが言う様に幕府軍と官軍が戦をやってるんだたったらオレは絶対に浜には来させないからなぁ~。」
「そうですねぇ~、幕府は我々の存在を知っておりますが、官軍はまだ知らないと思います。
ですがね本当のところは幕府軍が来ても、官軍が来ても同じですからねぇ~。」
源三郎は判断に困って要る、その様な話しをしているとお昼も終わり、松川へと向かう時刻に近付いて来たので有る。
「では皆様方、参りましょうか。」
上田の殿様もお城には残らず源三郎達と同行し上田の城下を過ぎ、これから先は一本道で松川まで続い
て要る。
源三郎達が上田を出立する少し前に話は戻り。
「源三郎様、少しお話しが有るのですが宜しいでしょうか。」
雪乃が何故か改まって要る。
「雪乃殿、如何なされましたか。」
「はい、実は先程げんたさんが。」
雪乃は加世とすずに頼み事をした内容を話すと。
「其れは私の大失敗です、本来ならば私が気付かなければならぬ事で御座いましたのに。」
「私も気付かずに申し訳御座いませぬ。」
「何も其れは雪乃殿の責任では御座いませぬので。」
「其れで申し訳御座いませんが、源三郎様からも窯元さんに。」
「雪乃殿、勿論ですよ、私からお願いをするように致しますので。」
「其れで私も考えたのですが、菊池から山賀の現場で使われて要る食器を改めてお願いが出来ないか
と。」
「そうですねぇ~、山賀に着いても直ぐ工事が始まる事は有りませんのでその間少しでも食器を作って
は頂けぬかと話だけでもしますので。」
「申し訳御座いませぬ、げんたさんが加世様とすず様のお願いされておられますので。」
「私も三人には気付かれずに参りますので、ですがげんたは其れだけの事で雪乃殿、加世殿、すず殿も
一緒にと申したとは思えませんが。」
「はい、私も何故か分からないので御座います。」
「加世ねぇ~ちゃん、すずねぇ~ちゃん、其れとまだお願いが有るんだけど。」
「はい、どの様な事でしょうか。」
「二人でね、菊池で何人、野洲で何人と聞いて欲しいんだ。」
「げんたさん、何か訳でも有るのでしょうか。」
「うん、多分だけど他の現場でも同じだとオレは思ってるんだ、其れで松川の窯元さん達のところで余ってる食器が有れば、其れを先に送って欲しいんだ。」
「げんたさん、何故、其処までされる必要が有るのでしょうか。」
「うん、其れなんだけど、ねぇ~ちゃん達はその間実家でゆっくりとして欲しいんだ、オレからあんちゃ
んに言うからなっ。」
何と手の込んだ事を考えるのだろうか、げんたは加世とすずに数日間でもゆっくりとして欲しいと思っ
て要る。
「げんたさん、其処まで気を使われて、私は間違った考えを。」
「だからね、出来るだけ詳しく書いてお店の人に頼んで欲しいんだ、だって山賀に行っても直ぐには松川
に戻れるとは思って無いんだぜ。」
「げんたさん、本当に有難う御座います。」
加世とすずはげんたの優しさに涙が出る程嬉しかった。
「雪乃殿、げんたの事ですから、多分、加世殿とすず殿には別の役目を頼みお二人を数日間でも実家でゆっくりとさせるつもりでは無いでしょうか。」
「源三郎様、実は私も同じ様に考えておりました。」
「加世殿とすず殿には何も言わずに、げんたの言う通りにさせて下さい。
げんたも色々と考えて要るのでしょうからねぇ~。」
「はい、承知致しました。」
「あの~親方さん、少しお聞きしたいんですが、宜しいでしょうか。」
彼は菊池の大工だ。
「はい、わしに分かる事だったら何でも話しますよ。」
「昨日、技師長が言われました水車と風車の事なんですが。」
「あ~あの話しですか、まぁ~最初は皆さんも驚かれたと思いますよ、わしらも最初は一体何の話をして
るのかも全然分からなかったんですよ、ですがねぇ~後からじっくりと考えるとまぁ~あれだけの事を考えるなんて今の野洲には技師長以外に誰もいないんですよ。」
「だったら、何かの閃きなんでしょうか。」
「いいえ、其れは無いですよ、全部頭の中で考え話をするんですよ、其れはあちらの源三郎様も大したお侍様ですがね、まぁ~皆さんには怒られますがね今の連合国でげんたと言う技師長に勝る人はいないって
わしらは思ってるんですよ、源三郎様も言われましたよ、げんたは頭の中で一体何を考えてるんだってね。」
「其れじゃ~何時も潜水船の事ばかり考えて要るですか。」
「いゃ~其れが違うんですよ、でもねぇ~その話を今させて貰っても多分ですが、理解するのは無理だと
思いますよ。」
「へぇ~、技師長ってそんなに凄いいんですか。」
「だってそうでしょう、わしらに潜水船なんて考えも付きませんよ、野洲のお殿様もげんたは野洲の宝だ
と言われてるんですからねぇ~。」
菊池の大工達も本当に分かって要るのだろうか、其れは多分無理だと親方は思って要る。
そして、その日の夕方近く松川に着いた。
「さぁ~さぁ~皆様大変お疲れでしょうが今宵は我が家だと思ってゆるりとして下さい。
お食事は簡素ですが準備は出来ておりますので。」
「ご家老様、誠に申し訳御座いませぬ、この様に大勢で参りまして。」
「源三郎様、その様な事は決して御座いませぬ。
早馬で聞きましたが皆様は明日は窯元を訪ねられるとか。」
「はい、左様で御座います。
先日、松川で作り始めて要ると言う物を皆様方にもお見せしたいと思いましたので。」
「源三郎様、何も御座いませぬが。」
「ご家老様、誠、有り難く存じます。」
げんたは早くも食べ始め、松川のご家老様も菊池と上田の殿様が来て要るとは思わずに要る。
「技師長、ご飯が終わればお湯に入って下さいね。」
「えっ、何でオレが、だってみんなも。」
「げんた、宜しいのですよ、何と言っても技師長は今や連合国の宝ですからねぇ~、何かと有り一番疲れて要ると思いますからねぇ~、そうだ明日は松川の城下に行き旅籠に行きましょうか、旅籠のお風呂はいいですよ。」
「あんちゃん、オレもその方がいいんだ、だってお城のお風呂はお殿様が使うんだろうからなぁ~。」
「そうですねぇ~、ではげんたご飯の後城下に行きますかねぇ~。」
「うん、分かったよ、よ~し早く食べるぞ。」
「義兄上、私も参りますので。」
竹之進も久し振りに城下に行きたいのだろうと。
「源三郎様、では着替えを用意して置きますので。」
「雪乃殿、有難う。」
「姉上、私も参りますので。」
やはり松之介も行くと。
「えっ、今雪乃様を姉上と申された様に聞こえたのですが。」
野洲と松川の家臣以外は雪乃が松川の姫君だとは知らなかった。
「そうでしたねぇ~、雪乃殿は松川のお姫様ですが、でも何も心配される事は有りませんよ、今は私の妻
ですからねぇ~。」
親方も銀次達も笑って要る。
「皆様、私は松川の姫では御座いません、今は源三郎様の。」
雪乃の顔が急に赤く染まった。
「わぁ~ねぇ~ちゃんが赤くなったぜ。」
「ねぇ~親方、本当なんですか松川のお姫様って。」
「ええ本当の話しですよ、松川藩のお姫様って野洲では知らない者はいませんよ。」
野洲や松川以外の者達は初めて知り唖然としている。
「では、源三郎様は松川のお殿様ですか。」
「いいえ、源三郎様は野洲のご家老様のご子息様ですよ。」
「えっ、ご家老様のって、そんな簡単に言わないで下さいよ、オレはもう何がなんだか分からなくなって
きましたよ。」
「でもそんな話しって普通では考えられないでしょ。」
「勿論だぜ、だってあの時まで、ねぇ~ちゃんがお姫様だって知ってたのは野洲のお殿様と奥方様だけ
なんだ、あんちゃんも其れにオレ達も本当に知らなかったんだからなぁ~。」
「其れでもお姫様って分かったら、幾らご家老様のご子息様だって言ってもなぁ~。」
「だってなぁ~、ねぇ~ちゃんはあんちゃんの事を大好きで離れたく無いって言ったんだぜ、其れになぁ
~離れるくらいだったら自殺するって言ったんだぜ、まぁ~この話を始めたら、そうだなぁ~、二日や三日では終わらないと思うんだけどなぁ~。」
「へぇ~そんなにも話が有るんですか。」
「うん、そうだよ、其れにオレのねぇ~ちゃんはあんなに綺麗だしなぁ~、まぁ~オレとしても鼻が高い
んだ。」
浜の大工達も銀次達も大笑いするので有る。
その後、食事も終わり、源三郎は竹之進、松之介、げんたを連れ城下の風呂屋へと向かった。
「雪乃様、少しお話しが有るので御座いますが、宜しいでしょうか。」
加世とすずが雪乃に話が有ると、雪乃は直ぐに分かったので有る。
「はい、実はげんたさんから。」
加世はげんたからの話をすると。
「私は宜しいと思いますよ、お二人共ご実家でのんびりとされては如何でしょうか、せっかくげんたさん
の、いいえ技師長としての配慮だと思いますので、此処は甘えられても良いと思いますよ。」
「ですが皆様方も。」
「すず様、技師長は只其れだけの為にお二人を呼ばれたのではないと思います。
今まで源三郎様が先頭になられ多くの問題を解決されて来られましたが、其れは源三郎様は野洲のご家
老様のご子息様だと知っておられますが、松川では何も知らない城下の人達にはお侍からの命令の様に聞
こえて要ると思うのです。
お二人は松川でも大きな窯元さんの娘さんですので松川の窯元の殆どを知っておられますが、私は何も
全ての窯元さんが理解されて要るとは思いません。
まずは実家のご家族に話をされては如何と思います。」
雪乃は加世とすずは今の現状を知っており、其れならばまずは家族に連合国が大変な窮地で有ると言う
事を理解させる必要が有ると思った。
「ですが、全ての話を理解させるには余りにも日数が。」
「すず様、加世様、何も全てを知って頂く必要は無いと思うのです。
何故、今、松川の焼き物が大事なのか、私は其れだけをお話しされても十分だと思います。」
松川の焼き物が連合国が生き残る為には大変重要だと、雪乃は其れだけの話だけで十分だと考えた。
「明日、窯元へ行かれますが、山賀へもご一緒されるのは加世様とすず様の実家と、後は数名の窯元さん
だけと思いますが、残られた他の窯元さんにはお二人がお話しをされても私は良いと思うのです。
源三郎様は何も申されませんからね、其れに技師長のげんたさんも何も言われないと思います。
其れに之からは僅かな金子の為では無く、松川を含めた連合国の領民さんが生き残る為だと、其れだけ
で十分で御座いますよ。」
「はい、でも他の人達には。」
「何も全員が理解されるまで時を掛ける必要は御座いません。
お二人の話しを数人の窯元さんだけが理解された、其れからは窯元さんが他の人達に話をされると思い
ますからねぇ~。」
「では、雪乃様は如何されるのでしょうか。」
「私ですか、何をしましょうか、げんたさんからも源三郎様からも何も伺っておりませぬので。」
「じゃ~、雪乃様もごゆっくりとされては如何でしょうか。」
「そうですねぇ~、では私もお言葉に甘えましょうかねぇ~。」
雪乃達は久し振りの里帰りで源三郎達が山賀から戻って来るまではのんびりとする事になり。
そして、明くる日の早朝、源三郎達は松川の窯元のところへと向かった。
その中には加世とすずも一緒で最初に訪れたのが加世の実家で勿論加世の父親は大慌てで正かお殿様方
と他にも大勢が来るとは加世からも聞いて無かったので有る。
「源三郎様、一体何が有ったのでしょうか、あっ、お殿様も。」
「窯元さん、突然に参り、誠に申し訳御座いません、実は。」
源三郎が窯元に詳しく説明すると。
「左様で御座いましたか、加世からは何の文も有りませんでしたので。」
「窯元さん、其れは全て私の責任でしてね加世殿は何も知らなかったのです。」
「はい、其れで先程のお話しの連岩で御座いますが。」
「はい、私も先日松川の殿様から初めて聞き、突然では御座いますが今日各藩の殿様方と大工さんや鍛冶
屋さん達全員で来させて頂きました。」
「はい、承知致しております、では連岩は裏に有りますのでご案内致します、どうぞ。」
加世の実家は松川の窯元で規模では最も大きく、職人だけでも二十人以上が働いており、その職人達も
大変な驚き様で、其れにもまして正かお殿様方が訪れるとは全く予想しなかったのか、さすがの職人達も
今は仕事にもならない様子で有る。
「源三郎様、皆様方、これが連岩で御座います。」
裏に行くと焼き上がった連岩が積み上げられ、その数は数千個以上も有ると思われる。
「皆様方、一度手に取って見て下さい。」
源三郎達は赤茶色の連岩を手に取ると。
「源三郎様、思った以上に持ちやすいと思いますねぇ~。」
「うん、確かにこれだけの物ですが、何か型枠でも有るのでしょうか。」
「はい、其れもこちらに有りますので。」
「ほ~これが型枠ですか、これに粘土を詰めるのですね。」
殿様方も大工や鍛冶屋も手に取り、初めて見る連岩を眺めて要る。
「窯元殿、連岩ですが日に何個作れるのでしょうか。」
「はい、型枠が有りますので幾らでも作れるのですが焼き上がるまでには数日間掛かります。
其れと型枠に入れるまでに廃棄しました陶器の欠片を入れ、また捏ねる作業が有り、其れが以外と手間
が掛かりますので。」
「廃棄した陶器に何か有るのでしょうか。」
「はい、陶器を細かくするのですが、一度焼き上げておりますので角が刃物の様に鋭く怪我をする事も有
り、これが職人達に取りましては大変厄介な作業で御座いまして。」
廃棄した陶器を粉々にするのだが、其れにしても陶器の欠片は鋭く手を切る事もしばしばだと、職人達
も今まで経験した事も無く思った以上に危険な仕事だと言うので有る。
「窯元さん、職人さんには無理をされない様に伝えて下さいね、其れで今有ります連岩に使われておりま
す粘土ですが不足すると言う事は無いのでしょうか。」
「源三郎様、連岩に使う粘土ですが、目が粗いと申しましょうか、粒子が粗い粘土は豊富に有りますので
今のところは大丈夫で御座います。」
「窯元殿、この連岩ですが、大きさが半分の物も有るのですが何かの訳でも有るのですか。」
菊池の殿様が大きさの違う連岩を見付けた。
「この連岩ですが、私もはっきりとした理由は分からないのですが、左官屋さんの指摘で作っておりまし
て今峠で作られております隧道で使われております。」
「やはり専門の人達は違いますねぇ~、我々が幾ら物知りだと言っても、その道の専門家に勝つ事は出来
ないと思います。
斉藤様、後程、隧道の建設現場に行きたいのですが。」
「はい、私も皆様方に見て頂く方が言葉で伝えるよりの早く理解して頂けると思います。
ところで窯元さん話は変わりますが、今何軒の窯元さんが参加されて要るのでしょうか。」
「はい、半分の窯元さんで御座います。」
「半分と申されますと、半分の窯元さんは不参加と言う事なのですが、何か訳でも有るのでしょうか。」
「はい、今は約半分の窯元さんには日常使われております食器類を作って頂いておりまして、ですが陶器物なので何かの時に割れますと使い物になりませんので。」
「では、その食器類はどうされるのですか。」
「はい、主に各藩のご城下に向け送らせて頂いておりますが。」
「其れで他には。」
「はい、各藩からのご要望が有れば何時でも送る事が出来るのですが、我々のところも人手不足で送り届
けるのが遅れておりまして、申し訳御座いません。」
「では各藩から工事現場の状況は入って来ないのですか。」
「はい、今のところは全く御座いません。」
「源三郎様、宜しいでしょうか。」
加世は各藩に食器類を送って要る事を知らなかった。
「加世殿、お話し下さい。」
「はい、お父様、実は野洲の浜では皆さんが欠けた食器を使われて要るのです。」
「えっ、正かでも本当なのか。」
「私もご城下に送って要るとは知りませんでしたが、でも本当なんです。」
「加世、よ~く分かった、松川の窯元さんに有る食器を大至急送るから。」
「有難う、其れで他の現場でも同じだと思うのよ、私は野洲で何人現場に居られるのか知って要るので、
源三郎様、他の現場で作業をされておられます人数が分かれば、私とすず様で手配をさせて頂きますが
如何で御座いましょうか。」。」
げんたが加世とすずに頼んだのは食器の事だけだったと知り。
「分かりました、高野様、阿波野様、吉永様、今お聞きされたと思いますが、現場作業員の人数が分かれ
ばお知らせ願いたいのです。」
「加世、わしらで。」
「お父様、私が技師長から直接指示をされていますので。」
「加世、技師長って、どの人なんだ。」
「お父様、驚かないでねあの少年が連合国の技師長で、げんたさんと言われるのです。」
「えっ、正か。」
「はい、でもあの人で無ければ出来ない仕事が有るのです。
今の連合国に取っては、お殿様方よりも技師長が居なければ大変な事になって要るのです。
でも今その話は出来ませんので後程詳しくお話しをしますから、お父様、松川の窯元さん達が作られた
食器の手配をお願いします。」
「よ~し、加世分かったよ、だけど誰が確認するんだ。」
「はい、其れは私とすず様で行ないますので。」
「総司令、皆様方から人数をお聞きし書きましたが。」
「有難う、では加世殿に渡して下さい。」
やはりだこの様な時には吉川と石川が役に立つ。
「加世様、此処に各藩の人数を書き出しましたので。」
「有難う御座います。」
「加世殿、すず殿、余計な仕事ですが、貴女方で有れば安心してお任せ出来ますので、我々が山賀から戻るまで実家で過ごして下さい。」
「はい、承知致しました。」
加世とすずはげんたから依頼された話しをする前に決まったので有る。
「あんちゃんも大変だね。」
「ですがあのお二人に任せれば大丈夫ですからねぇ~、其れとまぁ~久し振りに実家に戻ったのですから
のんびりとすれば良いのですよ。」
げんたは正か源三郎が知って要るとは考えもしなかった。
「では皆様方如何でしょうか、今から松川の現場となって要る峠に参りましてこの連岩がどの様使われて
要るのか見学したいと思いますが、私は多分大工さん達と左官屋さん達が話し合いをされ作られて要ると
思いますので。」
「源三郎様、わしらも是非見たいんですよ、其れで浜の洞窟も補強の方法も分かると思うんです。」
「親方、分かりました、では参りましょうか、窯元さん、お邪魔致しました。
今から峠の現場に参りますので。」
「はい、其れでお昼のお食事ですが。」
「そうですねぇ~、まぁ~其の時はその時ですからねぇ~。」
「源三郎様、其れでは何もご用意は出来ませんが、お昼の用意をして置きますので。」
「其れは有り難い事で、では。」
源三郎達は松川の斉藤の案内で城下と浜を結ぶ峠へと向かった。
松川で作り始めたと言う連岩と言う焼き物が峠の隧道で一体どの様な方法で使われて要るのか、菊池の
殿様も上田の殿様も興味深々と言う顔で特に菊池の殿様と高野は菊池に作った隧道の補強をしなければな
らないと考えており、この連岩を使用出来るとなれば大丈夫だと考えて要る。
だが実際目の前で現物を見なければ確信が持て無かったのも確かで有る。
「総司令。」
「高野様、あの連岩で隧道の補強が可能で有れば、野洲は後でも宜しいので野洲の左官屋さん達もお連れ
下さい。」
「ですが洞窟の方も急がねば。」
「其れは何とでもなりますからね。」
「はい、有難う御座います。
あの連岩で補強が可能ならばこれから先も通り抜けが楽になります。」
「私も其れが完成すれば山の向こう側の情報を知る事が出来ると考えております。」
「総司令、向こう側の出入り口に有ります大木ですが、何か良い方法を考え枯れない様にすれば面倒な植え替えもする必要が無くなるのではないかと以前より考えておりまして、其れで木こりさん達と相談し早急に対策を考えます。」
高野の菊池では山向こうから大勢の農民を通す為に突貫工事の末に完成させた。
内部には木材を利用した落盤防止の補強がされており、高野が言う様に連岩が補強材として使用可能
ならば松川で作った連岩を大量に持ち帰る事で補強を開始する事が出来ると考えて要る。
松川の窯元から暫く行くと峠の工事現場に着いた。
「皆様方、此処が松川の城下と浜を結ぶ峠で目の前に見えますのが工事中の隧道です。」
「斉藤様、入っても宜しいでしょうか。」
「はい、現在、約一町程が補強も終わり、上部以外の外側には取り除いた土を積み上げております。」
「斉藤殿、危険は無いのでしょうか。」
「まぁ~一度入って頂ければ左官屋さん達がどの様な方法で連岩を積み上げて要るのか内部から御覧頂
ければよ~く分かると思います。」
各藩から来た大工や鍛冶屋、其れに銀次達も中に入って行く。
「お~なるほどなぁ~これは見事な組み上げだ、う~ん、其れにしてもこの形何処かで見た様にも思うんだけどなぁ~。」
「親方、其れは多分馬蹄じゃないんですか。」
「お~そうか、だけど何で馬蹄型なんだ。」
「左官屋さんに聴きたいんですが、何故馬蹄型にされたのでしょうか。」
「お侍様、この形が一番強いんですよ。」
「強いとは、何に対してなのでしょうか、私は何も知りませんので教えて頂きたいのです。」
「どんな方法で作って要るのかお話ししますので。」
松川の左官屋は源三郎達に詳しく説明した。
「左官屋さん達のお話しですと基礎が一番大事だと言われるのですね。」
「はい、基礎の部分出来なければ積み上げた時に直ぐには分かりませんが、上から土を投入し積み上げた
連岩は重みに耐えられずに何れ隧道は崩れ、中に人でも居れば全員が死にますよ。」
「源三郎様、わしら大工なら誰でも知ってますので野洲に帰ったら左官屋さん達と相談します。」
「親方、有難う、私は何も出来ませんが何かお手伝い出来る事が有れば言って下さいね。」
「はい、でも今は何も有りませんので。」
源三郎はこれから先益々工事が複雑になるだろうと、複雑になればなるほど工事現場の事は全て現場
に任せる事の方が仕事に対しても支障が起きないだろうと考えたので有る。
「親方、何故上に土を乗せるのですかねぇ~。」
「源三郎様、あの方法ですが、多分土が重しになるんですよ、連岩を積み上げてその上に土を乗せる事で
全体的に締まるんですよ、そうなれば上から土や石が落ちたところで連岩は崩れる事は無いと、これは石組みをされる石屋さんの協力も必要になりますねぇ~。」
「石屋さんですか。」
「何処の石屋さんでも基本中の基本ですからねぇ~、掘り進む人、石組の前に基礎工事を行なう人、其れからわしら大工が連岩を積み上げる枠組みを作り、左官屋さん達が連岩を積み上げて行く、これが多分流れとなると思いますが。」
「その様になれば隧道の完成までは長い期間が必要になりますねぇ~。」
「はい、でもこの方法が一番良いとわしは思うんですよ、今野洲の洞窟はお城まで完成してますが、
木材の補強材では数年後には交換する必要が有るんです。
でもこの方法で積み上げますと木材の様に交換する事も無くなりますので安心出来ると思うんです。」
「親方、では先の事を考えて最初からこの方法で洞窟や隧道を掘り進むと同時に連岩を使用すれば後々
面倒な交換作業も無くなると言われるのですか。」
「はい、その通りでして、連岩を大量に作って頂ければわしら大工も大助かりになります。」
やはりそうなのか、全体的に考えれば無駄な工事も必要が無くなり、長い目で見れば落盤事故が起きれ
ば貴重な人材が最悪の場合には死亡すると言う事も、その様な事になれば家族の悲しみ、仲間の死亡が原
因となり工事の一時中止に追い込まれ事にもなるので有る。
「親方、工事は急がず確実に作り上げて行く事の方が大切なのですねぇ~。」
「はい、源三郎様、どんな工事でも事故は起きると思いますが、怪我で済む事が仲間が死ぬ様な事にでも
なれば仕事仲間は気持ちの動揺を抑える事も出来ないですからねぇ~、わしも今まで何度も事故に会った
かは覚えていませんがでも仲間が死ぬ事は無かったです。
ですがこれからの工事では何処かで必ずと言っても良いと思いますが、現場で大きな事故が起き仲間が
死ぬかも知れませんので。」
「う~ん、そうですが、私は何としても工事中の死亡事故だけは避けたいと願っておりますが、やはり其れは無理な事でしょうか。」
「其れは何とも言えませんがねぇ~、これから先の工事には専門的に工事を管理する人が必要になると思いますが。」
「専門的に管理する人物ですか。」
「はい、その通りで野洲じゃ~大工はわしが、洞窟の掘削工事には銀次さんがおられますので別に問題は
無いですよ、だって野洲の全ては源三郎様が知っておられますのでわしらは何も心配する事も無く仕事が
出来ます。
野洲以外でも源三郎様の様なお方が居られるんだったら宜しいんですがねぇ~。」
「親方、では現場を監督出来る人物と言う事なのですね。」
「わしは余り難しい事を考えてるんじゃないんですよ、野洲ではわしと銀次さんが常に話し合ってるので
他の大工や銀次さんの仲間も安心してるんですよ、でも松川じゃ~誰も現場の状況を知らない様に見える
んです。
源三郎様、わしは何も松川を批判してるんじゃないんですよ、此処でもお互いが協力されてるのはわし
にも分かります。
掘削工事と枠組み、其れよりも左官屋さん達が何故か分かりませんがねぇ~、ただ仕事だから仕方が無
いと言う様に見えるんですよ、松川のお殿様には申し訳無いと思っていますが。」
「仕事だから仕方が無いと、では此処では危機感が無いと見えるのですね。」
「はい、でもわしも職人ですから松川の職人さんは信用してますよ、どんな事が有っても期日までには作り上げると思いますよ、其れが本当の職人なんです。
でもわしらもですが銀次さん達も漁師の元太さんも野洲の浜では誰もが本当に大変なんだと危機感を持ってるんですよ、だから浜ではみんなが真剣に話し、誰も仕事だからと言う様な生易しい言葉では無く本当の意味で必死なんですよ、でも此処には其れが感じられないんで。」
親方は松川ではまだ本当の意味で差し迫った危機感が有るとは感じられないと言うので有る。
確かにどの職人を見ても黙々と仕事はしており、その事事態は問題では無い。
其れよりも職人達に幕府軍か若しくは官軍の軍艦が海上から何時攻撃して来るかも知れないと言う現実
味を帯びた危機感を感じる事が出来ないと言うので有る。
其れは何も松川に限った事では無い、菊池や上田も山賀もで家臣の全員が理解して要るのか、野洲の領
民の様に今は何もかも辛抱し官軍か幕府の軍艦が攻撃して来るまでには全てを完成させ何時でも迎え撃つ
事が出来ると言う体制を整えなければならないと言う切羽詰まった危機感を持ち、其れを維持しなければ
ならないと言う意味を知らせなければならないので有る。
「親方、よ~く分かりました、私から他の国の人に話しますのでね。」
「源三郎様、余計な事を言いまして申し訳有りません。」
「いいえ、決してその様な事は有りませんよ、私もですが各藩の人達も現場の事が理解出来ていない、其れが本当だと思います。
親方、私も理解出来ておりませんでしたので、今は親方に指摘されまして本当に良かったと思っておりますよ。」
親方は相手が源三郎だから言えたのだ、これが別の相手ならば果たして本当に言う事が出来たのか。
松川の現場を見学した各藩のお殿様も他の者達にも連岩の必要性は感じたのは間違いは無い。
「皆様方、少しお話しが有りますので今から松川のお城に向かいます。」
松川藩の竹之進もやはり気付いておらず、各藩主も職人達も迫って要る危機をどれ程認識して要るのか、其れは今見た松川の現場だけで全てを語る事は出来ない。
だがやはり連合国には刻一刻と危機が迫って要ると言う事を再度認識させなければならず、源三郎達は
松川のお城へと向かった。
城下に入っても領民達は危機感すら感じておらず、源三郎は連合国全ての領民に危機が迫って要るのだ
と伝えなければならないと其れで無ければ幾ら一部の者達だけが必死になったとしてもたかが知れて要る
と思うので有る。
連合国に住む全ての人達に説明し、連合国の領民が一致団結し工事を完成させ、何れかの敵軍からの攻撃を防がなければならないのだと、源三郎は親方の話で改めて危機感を募らせたので有る。
松川のお城に入り大広間には全員が集まり、大広間に入り切れない人達は廊下に座って要る。
「皆様方、大変お疲れのところ誠に申し訳御座いませぬ、実は先程松川藩で行なわれております隧道の建設現場に参りましたが、私が感じた事を申し上げます。
ですが何も松川の工事現場で工事をされておられる人達や松川の殿様、ご家中の皆様方を批判するもの
では御座いませぬので其れだけはご理解をして頂きたいのです。」
源三郎はこの後、親方の言葉を引用し話をした。
「義兄上、其れは松川の私もですが、工事に就いて要る人達に大変な危機が迫って要ると言う事が認識出来ずただ仕事だからと工事を行なって要ると申されるのでしょうか。」
「ええ、その通りでして、私の眼にはその様に映りました。
ですが皆様勘違いをなされない様にお願いしたいのです。
職人さんは職人さんなりに仕事をされておられと思います。
でも本当の意味で職人さん達を始め領民の方々に危機感が有るのでしょうか、山の向こう側では幕府軍と官軍が壮絶な殺し合いが行なわれて要るのは間違いは無いのです。
ですが果たしてどれ程の人が認識して要るのか、其れが今一番の問題なのです。
今の連合国に山の向こう側で戦が行なわれて要ると実感されて要るのは、私を含め殆ど人達は感じては
いない様に思えるのです。
其れに関しましては私も十分に反省しなければならないと思っております。」
「源三郎殿、私の提案ですが皆様如何でしょうか、以前山向こうから多くの農民さんを救いましたがその
人達に話しを直接我らを含め連合国の領民に聴かせると言うのは。」
やはり吉永も何かを感じていたのだろう、だが今日まで何の打開策を取ってなかったのも事実で有る。
「私は今申されました様な方策も必要では無いかと思うのです。
確かに菊池の隧道を利用し多くの農民さんを連合国側に入れたのも間違いは御座いませぬ。
今、ご家老様が申されました方法も考え付かずただ洞窟の掘削を行なって要る。
其れも誠の話で、でもその農民さんから家臣の全員と領民さん達に幕府軍と官軍が殺し合いを行なって
要るとは聴く機会を持たなかったのも事実で私は菊池に戻りましたならばご家老様の提案された方法で家臣の全員と領民に話聞かせ増して、全ての人達が一致団結し連合国の危機を何としても打開する所存で御座います。」
「菊池殿、誠有り難きお言葉で、私も上田に戻りますれば同じ様に致す所存で御座います。」
「義兄上、私も今一度私を含め家臣領民を問わず農民さん達から実態を聞かせて頂く様に致します。」
松川の竹之進も菊池も上田の殿様方は吉永が提案した山向こうから来た農民から幕府軍と官軍が大戦争
を行なって要ると言う話を聴かせると言うので有る。
確かに大工の親方が言う様に松川だけの問題では無い。
改めて連合国に住む全ての人達に聴かせ連合国の全員と言っても過言では無いが全員が一致団結し、連合国最大の危機を乗り切らなければならないので有る。
「源三郎様、オレも本当の事を言いますと、幕府軍と官軍が戦をしているとは信じて無かったんです。」
彼は菊池の大工で菊池でも救出された農民から直接話を聴いて無かったと言うので有る。
「私は今更どなたの責任だと思っておりませんよ、私もね実を申しますとね危機感と言うよりも悲壮感が
無かったと申し上げなけれななりません。
今は菊池から山賀に至るまで何らかの関係する工事が始まっており、これで十分だと、其れは井坂と言う官軍の脱走兵の話しも余り信用していなかったのも事実で、ですが野洲の田中様は幕府軍と官軍の戦を見、長崎と言う所に大きな造船所で官軍が軍艦を建造して要ると聞いた時には、やはり井坂の申した通りだと、ですが幕府軍と官軍の戦は何れ我々連合国に対して何らかの影響を齎すだろうとは大よその見当は付きます。
其れは官軍が軍艦で佐渡を攻撃し金塊を奪い、異国の軍艦を買い入れたならば、我が連合国も戦に巻き
込まれ悲惨な結果になる事は決定的になります。」
「源三郎様、官軍か幕府軍か分かりませんが、オレの住んでる浜に上陸したらオレ達は一体どうなるんで
すか。」
「相手が官軍ならば菊池は数日の内に滅びるでしょうからねぇ~、其れと侍と老人は全員殺されますよ、
まぁ~残るは女と子供、其れに官軍に対して反抗的な態度を取らなければ男も多少は生き残れるとは思い
ますが、まず町民は全て殺すでしょうからねぇ~。」
「源三郎様、オレは嫁を貰ったばかりなんですよ。」
「まぁ~貴方は確実に殺される運命だと思いますねぇ~、残る奥さんは兵士達に犯され殺されると思いま
すよ。」
「源三郎様、お侍様は何も出来ないんですか。」
「其れは多分無理ですよ、官軍の武器は連発銃でしてね我々が持って要る様な火縄銃とは比較にならない
程の強力な武器を官軍の兵士全員が持って要るのですから。」
「じゃ~菊池は簡単に滅ぼされるんですか。」
「其れは間違いは有りませんよ、菊池の次は野洲、上田と滅ぼされ、まぁ~連合国が良く耐えても十日だ
と思いますねぇ~、十日もすれば連合国の侍は全員殺され、女性達は犯され殺されますからねぇ~、例え最初の戦を生き残られたとしても、その先からも生き地獄が待って要るのは間違いは無いと思いますがね
その様な事態になる前に殺されるでしょうからねぇ~。」
源三郎は一緒に来た大工達職人に対し、冷酷だと思える話をするので有る。
「源三郎様、オレは帰ったらみんなに話しますよ、だってオレの子供はまだ五才の女の子なんですよ、そんな子供を幕府軍か官軍か知りませんがねぇ~、其れよりもみんなで協力して軍艦の攻撃を防ぐ方法を考えますよ。」
「よ~しオレもだ、絶対にオレ達の浜には上がらせないからなぁ~、オレは命を掛けてでもやりますからねなぁ~みんなそうだろう。」
「お~そうだよ、そんな奴らにオレ達の国を壊されて溜まるもんか、オレも母ちゃんと子供の為にやりま
すよ絶対にやりますからねぇ~。」
「皆さん本当にありがとう、今私がお話しした事は誰にお話しをされても宜しいですよ、私は侍だから町民だからとう言う様な垣根を取り払い全ては連合国の領民の為です。
どうか皆さんの協力をお願い申し上げます。」
源三郎は大工や鍛冶屋に土下座した。
「源三様様、何でお侍様がオレ達に頭を下げるんですか。」
「私はねぇ~、今侍や町民の垣根を取り外し連合国の領民の為にお願いをしたのです。
侍と言う前に私は一人の人間としてお願いします。」
源三郎はまたも頭を下げた。
「源三郎様、まぁ~オレ達に任せて下さいよ、じゃ~みんな今から山賀に行こうぜ。」
「よ~しオレも頑張るぞ。」
殿様方は唖然とし、これが源三郎のやり方なのだと改めて知ったのも間違いは無い。
そして、数時後、源三郎と各藩主に大工や鍛冶屋を含めた大勢の人達は山賀へと向かうので有る。