第 36 話。 どんな方法を取ってでも理解させよ。
話しは少し戻り。
大広間に入った、井坂は驚きの余り声も出ず唖然とした。
其れは、殿様を初めご家老様に各重役方、更に、腰元からお女中までが、其れは野洲の城内の全員が
集まって要ると思われるので有る。
井坂は源三郎の隣に座り。
「源三郎様、一体これは何事で御座いましょうか。」
「はい、実は我々の中で今幕府軍と官軍が戦の最中だと言う事を全く知らない者がおりましてねぇ~、
まぁ~私もその中の一人なのですがね、井坂殿に幕府軍と官軍が戦争状態で有ると言う話をして頂きたい
のです。」
「ですが、おいドンも全てを知って要るのでは御座いませんが。」
「其れは別に宜しいので、是非、我が家中の者達にお話しをして頂きたく、ご無理は重々承知致しており
ますが何卒宜しくお願い致します。」
源三郎は今朝の話はせず、家中の者に話をして欲しいのだと。
「源三郎様、分かり申しました。
では、お話しさせて頂きます。
おいドンは九州薩摩の国の官軍で司令部と言う所で。」
井坂はその後知って要る事の全てを話した。
「井坂様、その連発銃ですが、歩兵と言われる兵士の全員が持って要るのですか。」
「はい、私の知る限りですが、当時の司令部の兵士は二万五千人で殆どの兵士が連発銃を持ち弾は一人二
百発と聞いております。」
「えっ、二万五千人の軍勢ですか。」
「はい、その通りでして、其れと連発銃は雨が降っていても撃つ事が出来ますので幕府軍の火縄銃とは全
く違う銃で御座います。」
「皆様方、これがその連発銃です。」
源三郎は立ち上がり連発銃を見せると。
「え~、其れが連発銃ですか、火縄銃とは全く違いますが威力の方は。」
「この連発銃ですが、狙いを付ければ誰が撃っても命中します。」
何と恐ろしい程の連発銃だ、火縄銃の扱い方は難しく、其れに雨でも降れば使い物にはならない。
「その様な恐ろしい連発銃を官軍の歩兵が持って要る、其れだけでも大変な脅威になりますねぇ~。」
「まぁ~其れが官軍でして、其れに幕府軍は旧式の火縄銃と、其れに弓、侍の証として刀を持ってはおり
ますが、官軍の歩兵は農民や町民でして、でも簡単にはと言っては失礼ですが、武士の身体には確実に命
中しますので幕府軍はまず勝つ事は不可能だと思います。」
だが、井坂の様子が少し変わって来た。
「あの~源三郎様、申し訳無いです、実はおいドンも百姓でして。」
「やはりそうでしたか、私も薄々気付いておりましたよ。」
井坂は侍にしては立ち居振る舞いが一般で言うところの武士では無かった。
「皆様方、おいドンは百姓で、でも何も騙すつもりは無かったので許して下さい。
あの時、源三郎様が一緒におりました二人を打ち据え狼の餌食になり、其れが恐ろしかったので今の今
まで言えなかったんです、どうかお許し下さい。」
井坂の身体は震え、何時、打ち首になるのかと思って要る。
「そうでしたか、では何処で読み書きを。」
「はい、有る時ですが、ご浪人様が現れ、そのご浪人様がこれからの世の中は例え百姓でも読み書きが出
来ないと駄目だと言われ、其れでおいドン達はそのご浪人様から読み書きを教えて頂いたんです。」
「ですが、其れと司令部と何か関係は有るのですか。」
「はい、これも有る時ですがご城下で司令部の雑用係を探して要ると聞きまして、おいドンはそのご浪人
様に言ったんです。
ご浪人様は髪の毛も侍の髷にして、其れと刀は自分の刀だと言われ渡され、其れにおいドン達とは一切
関係は無いと言ったんです。
其れでおいドンは別の国から来たと嘘を言って官軍に入ったと言う訳なんです。」
「ですが、雑用係を侍にさせるとは考えられないのですがねぇ~。」
大広間の家臣達の全員が井坂の話を真剣に聞いて要る。
「其れは入隊したおいドンは訳は知りませんが、司令部の作戦室で書面や図面を整理をされていたお侍様
が居なくなったと、其れでおいドンがその作戦室に配属され其れからでして色々な図面や書類を探し作戦
会議に出す任務に就きました。」
「其れで、長崎の造船所の図面が描けたのですか。」
「はい、でもあの時の源三郎様の眼が恐ろしくて、今でも時々ですが夢にも出て来るとです。」
「そんなにも私が恐ろしいのですか。」
「はい、今でも本当に恐ろしいです。」
「ですが、何故脱走されたのですか。」
「はい、おいドンは官軍は全ての農民を幕府の悪政から解放すると聞いていました。
でも、官軍も幕府と一緒で道行く先々では村を襲い、女は犯し、食べ物は略奪し、其れだったらまるで
野盗で幕府軍よりも悪い官軍だと思ったとです。」
「其れは全てに同じですか。」
「おいドンは他の部隊は知りません。
おいドンの部隊の隊長は百姓を人間とは思って無かったとです。」
「ですが、何故上層部に言われなかったですか。」
「源三郎様、官軍と言っても全部が寄せ集めで、一番上の人達は何も知りません。
其れにおいドン達の話を聴いても全然信用して無かったですから。」
「では幕府軍も官軍も同じだと申されるのですか。」
「おいドンはそんな話は何度も聞いております。
上層部の人達はすべての農民や漁民に町民の為だと言ってますが、其れは上部だけの話で現場の指揮官
達の中には殺しを平然として楽しみにして要るとです。
だから末端の兵士達の中でも好き放題にしている部隊も有るとか聴いてたとです。」
何と言う話しだ、其れでは全く野盗と代わりでは無いか、上層部が言った理念と全く別の事が現場で起
きて要る。
だが、現実に起きて要る事は上層部には全くと言っても良い程伝わってはいない。
「皆様方、井坂殿が元農民さんだと申されましたが、私は全く関係が無いと考えております。
今日、暴言は吐いた者は一体どの様に感じておられるのですか、私はねぇ~げんたから直接話を聴きま
したが、げんたが言うには浜の人達とさんぺいさん達農民さんだけはどんな事が有ったとしても助けるの
だと、貴殿はさんぺいさんと言う農民さんを知らないだろうが、彼は私の仲間田中様と一緒に危険な任務
に行ったのです。
吉永様、山賀の家臣の中で同じ様な考え方を持つ家臣がおられるので有れば、山賀を我が連合国より抜
けて頂くやも知れませんよ。」
源三郎の発言は恐ろしい程で吉永は何も反論せずに聞いて要る。
「貴方方と菊地、上田、松川から来られました方々は前に出なさい。」
源三郎は一体何を考えて要る。
今日の事をまだ怒って要るのだろうか各藩から選ばれた若者達が前に進み出た。
「今から貴方方に聴きますが、分からなければ正直に答えて下さい。
では潜水具とは一体どの様な物なのか知っておられますか。」
選ばれたと言っても、潜水具などとは聞いた事も無ければ、勿論見た事も無く、彼らに答えられるはず
も無いので有る。
「皆さん如何しましたか、分かりませんか、どうなのだ其れでもお主達は武士なのかはっきりと答え
るのだ。」
源三郎は本気で怒っており、一体この先はどうなるのだ。
「君達の頭は何も考えられないのか、その様な頭でどうしてげんたに対し無礼な言葉で言えるのか、松之
介、竹之進もよ~く聞きなさい。
私はねぇ~、確かにげんたにお願いをしましたよ、海の中でも息が出来る様な物を作って欲しいと、た
だ、其れだけ言ったのですよ、ですがねぇ~げんたは試行錯誤して潜水具を作ったのです。
げんたの頭はそれ程にも素晴らしい能力を持って要るのです。
君達には想像すら出来ないと思うが、私はげんたが潜水船を造ると言った時に船が海の中を潜るのは不
可能だと言ったのです。
ですがねぇ~、げんたは見事に潜水船を完成させたのです。
先程も井坂殿が申されましたが長崎の造船所で軍艦を建造して要る。
その軍艦に大勢の兵士を乗せ、仮に松川の浜に上陸すれば一体どの様な事になるかの、其れも君達には
想像すら出来ないと思いますが、如何ですかはっきりと答えなさい。」
「はい、今の松川藩では戦に勝だけの武士が不足しており数日で滅ぼされると。」
「その通りで、武士は勿論全員が殺され、女性達は犯され、城下に火を点け、其れこそ井坂殿の話では無
いが松川では殺戮が行なわれるのです。
では、一体どの様な対策が必要なのか、如何ですか。」
「はい、海上からの侵入を防ぐ方法しか無いと思います。」
「その通りですよ、ですがどんな方法で取れば防げるのか分かりますか、松川も上田もどの国にも軍艦は
有りませんよ。」
「はい、私は先程の潜水船を使って軍艦に忍び寄り爆薬を取り付ける方法しか無いと思います。」
「正しくその通りですが、その潜水船も君達のやる気の無さでげんたを怒らせ、洞窟の潜水船は今は無い
のです。
一体誰が潜水船を造る技術を持って要るのか分かりますか。」
「はい、私は技師長お一人だと。」
「その技師長に教えて貰う君達が何故に筆記用具も持たずに来たのです。」
「私は正直に申しますと、実は潜水船と言う船は簡単に造れるのだと、其れは大工さん達だけで十分だ
と、そんな安易な気持ちを持っておりました。」
「他の君達も同じなのか。」
他の者達も頷き。
「では、現物の潜水船をげんたが造ったとは考えもしなかったのか。」
「はい、でも私は技師長は子供だからとは考えてはおりませんでした。
其れだけは誠で御座います。」
「うん、分かった、だが井坂殿の話では少なくとも十数隻の軍艦が造られようとしており、私はねぇ~別
に官軍の軍艦だけでは無いと思っております。
幕府軍でも数十隻の軍艦を保有しており、その軍艦が菊地、野洲、上田、松川の浜にですよ押し寄せて
来た時今の我々に一体何が出来ると言うのですか、その意味は君達に理解は出来ますか。」
げんたに暴言を吐いた若い家臣達は下を向いたまま何も言えず、彼ら自身は今相当後悔して要ると。
源三郎はこの者達が次にどの様な行動を取るのか暫く間、何も言わずにいた、すると。
「総司令、宜しいでしょうか。」
「はい、宜しいですよ。」
「私はどうしても行かねばならぬところが御座いますので。」
源三郎は直ぐに分かった吉川は浜に行くのだと。
「総司令、私も宜しいでしょうか。」
「はい、分かりました、其れで物は執務室に有りますので。」
吉川と石川は源三郎に頭を下げ大広間を出た。
「井坂殿、ところで官軍の兵力は。」
「はい、おいドンが司令部におりました時にですが、陸軍に十万に海軍に一万人だと聞いております。」
「今申されました海軍ですが、軍艦には何人が乗る事が出来るのでしょうか。」
「はい、軍艦に大きさにもよりますが五十人前後と、其れと軍艦は約半町の大きさです。」
「半町も有る軍艦ならば船員も多く必要では無いのですか。」
「はい、相当数の人数が必要でその為に多くの人員を訓練しております。
兵士は勿論ですが、大砲を扱う兵士も多く必要でして、おいドンは実のところ一体何人の兵士が乗り込
むのかは知りませんので。」
「分かりました、其れでは皆様方からも質問が有ればお聞きして下さい。」
「はい、では私は菊池の高野と申します。
其れでお聞きしたいのですが、軍艦の船員も官軍の兵士でしょうか。」
「はい、全員が兵士でして、艦長は侍でも上官でその下に各専門の侍がおりますが、全員が専門の任務に
就いて要ると聞いております。」
「先程の兵士ですが、その軍艦の兵士なのですか。」
「はい、その様に聴いてはおりますが、連発銃を持った兵士には別に指揮を執る専門の士官が要ると聞い
ております。」
「井坂殿、私は上田の阿波野と申しますが、軍艦の向かう先はご存知でしょうか。」
「はい、其れは最初の会議で話されておりまして、長崎を出て北に向かい長州からまだ北東に向かい、其
れから東へと、おいドンの聴いたところでは佐渡付近まで行く様な話しでした。
其れと途中で食料と飲み水が必要ですので、何処かの港か浜に上陸しなければとならないと聞いており
ます。」
「其れならば松川から菊池までの何れかの浜に上陸するのでは御座いませぬか。」
「でも、おいドンは何処に行くのかは知りませんので。」
やはり山賀から菊池までの沖合を通過するのだと分かった。
だが問題は何時どの浜に入って来るのか、其れが分からないので有る。
食料も必要だが、何よりも飲料水が大量に必要だ、其れは軍艦にどれだけの食料と飲料水が必要なのか
全てが分からない。
一体どうすれば良いのだと源三郎は考えるが分からない。
その頃、吉川と石川の二人は執務室から大量の紙、筆と墨を荷車に乗せ大手門を出て行った。
やはり源三郎の思った通りで浜に向かうのだろうが、果たしてげんたはどの様な反応を示し、対応をす
るのか、二人は不安を抱えながらも浜に向かうしかないと、その前に果たしてげんたは会ってくれるのだ
ろうか。
「源三郎殿、宜しいでしょうか。」
「はい、吉永様にお任せ致します。」
さすがに吉永だ吉川と石川の二人が何処に向かったのかを知って要る。
「お主達、先程吉川殿と石川殿が何処に向かわれたのかを知って要るのか。」
だが、誰からも返事が無い。
「う~んやはり全てを話さなければ理解出来ないとは誠に情けない話だ、彼ら二人はげんた、そうだ、技
師長の居る浜に向かったのだが其れすらも分からないのか、誠に情けない話だ。」
「えっ。」
若い藩士達は初めて分かったのか。
「そうだその通りだ、お主達が理解出来ないと、吉川と石川の両名が技師長に謝罪する為浜に向かった、
何故其れが理解出来ない。
だが言って置く、技師長は子供ながら並みの頑固者では無い、一度決めたならば、例えお主達が腹を
切ろうが簡単には許す様な技師長では無い。
其れを知って要る吉川と石川は浜に向かったのだ、まぁ~今は誰が会いに行ったとしても、私の推測で
は絶対にと言って良い程会う事は出来ない。
だがなぁ~彼らは多分だが紙と筆に墨を用意して向かったはずだ、其れは何としても誤解を解き学ぶ為
なのだ其れすらも理解出来ないとは全く持って情けないとしか言いようが無い。」
「私は今からでも参ります。」
「会ってはくれぬぞ。」
「はい、勿論全て承知致しております。
其れで誠に申し訳御座いませぬが、紙と。」
「鈴木様、頼みましたよ。」
「はい、では直ぐに。」
鈴木も何が必要なのか分かっており、直ぐ執務室の隣部屋へと向かった。
「其れで残りの者はどうするのだ。」
「はい、私も直ぐに参ります。」
その後、残りの家臣も浜に向かった。
「吉永様、有難う御座います。」
「いいえ、その様な、ですがまず会う事は無理だと思います。
私は其れよりもあの者達がどの様な行動を取るのか其れを見たいと思うのです。」
「はい、私も同様でして、まぁ~げんたの事ですから簡単には行かぬと思います。
其れよりも高野様、阿波野様、斉藤様、今後、どの様に進めて行くのか其れを考えねばならないと思う
のですが、如何でしょうか。」
「総司令、私は何としても技師長に再び潜水船を造りに入って頂けるのが最優先だと思うのです。
其れとは別に井坂殿のお話しも大事では無いかと考えております。」
高野は菊地の山に隧道を完成させ何時でも山の向こう側に行けるが、井坂の話を聴き今は向かう事を止
め対策を練る方が最優先だと考えて要る。
「高野様は隧道からどなた様かを向かわせるおつもりでは無かったのですか。」
「はい、私も最初は其れも考えておりましたが、下手に人を向かわせ万が一にも隧道を何れかの軍に発見
されるやも知れませぬので、若しもの事を考え中止したく考えております。」
「そうでしたか、其れで井坂殿の推測で宜しいのですが、先程申されました陸軍と海軍ですが、私は陸軍
よりも海軍の動きを注視致しております。
其れは官軍の軍艦が我々の浜に来るのではと考えられるのですが。」
「おいドンも以前より考えておりましたが、乗り込む兵士と船員の人数によっては食料と飲料水が不足す
るのは間違いは有りません。
司令部ではこの北の海を調査し、何日で佐渡に着けるのか知りたいと聞いております。」
「その佐渡ですが、何か有るのですか。」
「おいドンも佐渡が何処に有るのか知りませんでしたが、佐渡には金山が有りその金が目的だとか聞いた
様に思います。」
「佐渡の金ですか、ですが一体何の為に金が必要になるのですか。」
「はい、これは確かな話しですが異国の軍艦を買うのだと。」
「えっ、異国の軍艦を買い入れるのですか。」
大広間の家臣達は今まで以上の驚きで官軍が長崎の造船所で軍艦を建造して要るだけでも今の連合国に
は大変な脅威だと言うのに、外国の軍艦を購入するとは、その様な外国の軍艦が一隻でも官軍が手に入れ
ると連合国は簡単に壊滅させられる、だが、更に大きな問題が発生した。
「井坂殿、異国の軍艦とは一体どれ程の大きさなのですか。」
「はい、其れよりも、買い入れ予定の軍艦ですが蒸気で動くのだと聴いております。」
蒸気で軍艦が動くとは一体どの様な仕組みなのか、今の源三郎も大広間に集まった家臣達には全く理解
は不可能で有る事に間違いは無い。
「井坂殿、私は全く理解が出来ないのですが、その蒸気で動くとはどの様な仕組みになって要るのか
知っておられますか。」
「いゃ~、其れはおいドンも知らないとです。
ただ、上層部の話だけですので、でもその軍艦ですが鉄で造られていると、でも、おいドンは其れ以上
の事は聞いておりませんので。」
「吉永様、お分かりでしょうか。」
「いゃ~私も今初めて聞きましたので全く理解が出来ないのです。」
「阿波野様は如何でしょうか。」
「其れが私も蒸気で動くと聞かされましても、吉永様同様で理解する以前の問題で想像すら出来ないので
御座います。」
「のぉ~源三郎、若しもじゃ、若しも蒸気で動く軍艦と同じ軍艦を長崎の造船所で建造出来るとなれば
じゃ~、一体どの様になるのか、余は想像するだけでも恐ろしくなってきたぞ。」
「殿、私もで御座います。
今の軍艦でも大変な脅威なのに、更に大きな其れも鉄で造られ蒸気の力で動く軍艦を造られたならば幕
府は完全に息の根を止められ、其れ以上に我々を含む諸国が一体どの様になるのか、私は全く理解すら出
来ないので御座います。」
今までならば多少の問題は源三郎が解決出来た。
だが井坂の話を聴く内に源三郎自身が混乱を始めたのは間違いは無い。
その頃、吉川と石川の二人は浜に着きげんたの家の前に居た。
「技師長、私の話を聴いて頂きたいのです。
何卒お願い申し上げます。」
吉川と石川は家の前の砂の上に正座し、何度も呼び掛けるが家の中からは何の返事も無い。
「ねぇ~げんた、返事くらいはするものよ。」
「母ちゃん、オレの気持ちも分かってくれよ、確かに吉川さんや石川さんには悪いと思ってるよ、だけど
今日の事なんだぜ、オレがそんな簡単に返事出来るはずが無いんだからなぁ~。」
「其れでもねぇ~。」
「母ちゃん、オレにだって意地が有るんだぜ、あんな何も知らない若い侍なんかに言われたんだぜ、今、
吉川さんや石川さんが来たからって。」
「うん分かったよ、でも源三郎様が来られたら其の時はどうするのよ。」
「まぁ~、あんちゃんは当分の間は来れないよ。」
げんたにも男の意地が有る、確かに吉川と石川には関係は無いと言える、だがげんたは簡単には話を聴
く事などは出来ないそれ程にも侍に対して不信感を持ってしまったので有る。
表の吉川と石川も簡単には引き下がらないだろうとげんたも思って要る。
そして、暫くの時が経ち、吉川と石川の元にあの若侍達がやって来た。
「貴殿達は一体何を考えてこの浜に来られたのですか。」
「はい、私達は余りにも物事を簡単に考えておりました。」
「そうですか、ですがねぇ~、技師長は簡単に貴殿達を許しませんよ、私と石川殿も未だに返事が頂け無
いのですからね、其れを分かって要るのですか。」
「誠に申し訳御座いませぬ。」
「確か貴方でしたね何も知らずに技師長に暴言を。」
「はい、私も今は反省致しております。」
「反省とは言葉では簡単ですよ、ですが貴方は世の中の動きを全く考えもせずにですよ、貴方が仮にこの
場で腹を切られてたしても簡単には収まりませんよ、それ程にも大変な事を言われたのですからね、私と
石川殿もですが、私も技師長がどれだけ悩み、どれだけ苦労してあの弐号潜水船を造られたか知っており
ますからねぇ~。」
「まぁ~吉川殿、今更この方々に何を言ったところで何も解決しないと思います。
この人達の事は我々二人には全く関係が有りませんし、私達は私達の考えでこの場に来たのですから、
まぁ~貴方方は私達が何をしようと関係が有りませんのでね。」
吉川と石川はその後何度もげんたを呼ぶがげんたからは全く返事が無い。
「母ちゃん、オレ、隣に行くよ。」
げんたは一体何を考えて要る。
吉川と石川が其れにあの者達が居ると言うのでその場から逃げようとでも考えて要るのだろうか、隣の
作業場では鍛冶屋が何かを作っているが一体何を作って要るのだ。
「あんちゃん、其れは。」
「これは参号船の歯車だよ。」
鍛冶屋は早くも参号船用の歯車を作り始めて要る。
鍛冶屋はげんたの事だ必ず参号船は造る、だが其れは今直ぐでは無いと分かっていても、鍛冶屋は何も
せずにはおれなかったので有る。
「其れよりも誰が来てるんだ。」
「うん、吉川さんと石川さんが其れにあの侍達が来たんだ、其れでオレは嫌になったんで、此処に入った
んだ。」
「じゃ~、今、侍達はどうしてるんだ。」
「うん、何回も呼んでるよ、だけど今日の話なんだぜ其れを簡単にはいって言えないよ。」
「うんよ~く分かるよ、まぁ~此処でのんびりとするといいよ。」
「うん、あんちゃん、ありがとう。」
「でも、一番驚いたのは源三郎様だろうなぁ~。」
「うん、オレもそう思ってるんだ、だけど吉川さんや石川さんは最初から書く物を持って来たんだぜ、
だけどあの侍は何も持って来なかったんだ。」
「まぁ~其れが普通なんだ、オレも読み書きは出来ないけど、親方に言われた事を何回も何回も練習した
たんだ、侍は読み書きは出来ても最初の考え方から間違ってると思うんだ、オレ達は職人だから身体で仕
事を覚えるんだ、其れがオレ達は当たり前だと思ってるんだ。」
「うん、其れは大工の親方も言ってたよ、其れでオレも読み書きが出来たら吉川さんや石川さんにも少し
は迷惑を掛けないと思うし、オレがあんちゃん達にお願いする時でもオレが書いた物を渡せばいいと
思ったんだ。」
「オレも参号船を造り始めたら吉川さんか石川さんに読み書きを教えて貰うつもりなんだ。」
浜に来た鍛冶屋の職人も読み書きを習いたいと前向きな考え方をして要る。
だが、今日の一件で其れも出来なくなったと、げんたはその後夕刻まで鍛冶屋の作業場にいた。
吉川と石川も其れにあの侍達も正座をしたまま動く気配は無い。
げんたが家に入ると母親が夕食の準備をしているが二人の夕食にしては多すぎる、やはり母親は外の
吉川達をこのまま放っては置く事も出来ないのだろう。
「げんた、ご飯が出来たよ。」
「うん、母ちゃん、だけど二人分なのに。」
「だって、あの人達あれからず~っと座ったままで今頃はお腹も減って要ると思うの、少しだけど食べた
ら帰るだろうと思うんだけどねぇ~。」
「オレは知らないよ、まぁ~吉川さんと石川さんは食べないし帰らないよ、絶対になぁ~。」
「げんた何でそんな事が分かるのよ。」
「オレには分かるんだ、吉川さんや石川さんは他の侍達とは違うんだ、母ちゃん二人は荷車を持って来た
んだぜ何が載せてるかオレには分かってるんだ。」
「じゃ~話しだけでも聴いて上げてよ。」
「母ちゃん、其れとこれとは別なんだ、じゃ~オレは食べて寝るよ、後の事は知らないからね、まぁ~
母ちゃんに任せるよ。」
母親もげんたの言った事は分かって要る。
あの荷車には紙と筆、其れに墨が載せて有り、だが、げんたは本当に何も知らないのだろうかと。
「さぁ~吉川さん、石川さん、其れにお侍様達も何も無いけれどこれを食べて今日のところは帰った方が
いいわよ。」
「はい、有難う御座います。
ですが私は技師長にお話しを聞いて頂くまでは食事を頂けるなどとは全く考えておりませんし、正か帰
るなどとはもっての外なのです。
私はお母さんのお気持ちだけで十分で御座います。」
やはりげんたの言った通りで石川も頷いて要る。
「じゃ~そちらのお侍は。」
「はい、実は今回の一件は私達の不始末が原因で、吉川様や石川様には何の関係も無い事で、更に野洲の
殿様を始め、源三郎様にも多大なご迷惑をお掛けし、私は技師長殿にどの様な非難を浴びようとも全てを
お受けする覚悟で参りました。
私もお母様のご厚意には大変感謝致しております。
ですが、私も辞退させて頂きたく思っております。」
「あ~そうなの、じゃ~少し話を聴かせて欲しいんですけれど、吉川さんと石川さんは別にしてよ、そち
らのお侍様はげんたの事を一体どんな風に見てるんですか。」
彼は何も言わずに要る。
「じゃ~少しだけ聞いて下さいね、げんたの父親はねぇ~理不尽なお侍に殺されたのよ、其れもげんたが
まだ三歳の時によ目の前で切り殺されたの、だからあの子はねぇ~お侍に対しては其れはもう大変な
憎しみを持ってるの、私達親子が一体何をしたと言うのよお侍がお酒に酔ってげんたにぶつかり、当然幼
いげんたは泣いたわよ、其れをお侍は其れが気に要らないって、げんたを切ろうとし父親が庇って其の時
げんたの父親が切り殺されたのよ、まぁ~お侍様には幼い子供が泣いたと言うだけで切り殺す事は平気
だけど、そんなげんたはねぇ~、五才の時から私の小間物屋を手伝い始め、最初の頃は父親が作った物が
有って少しだけど売れましたよ、でもねぇ~その内に品物も売り切れ、げんたはねぇ~私の為にって売る
物を作り始めたけれども、子供が作った品物は売れる事も無く、私とげんたはねぇ~その日の食べる物を
買う金子も無くなったのよ、ねぇ~お侍様は私の話は分かるんですか。」
彼らは何も言わずに、ただ頷いて要る。
「げんたはねぇ~お客さんの注文した物を其れはもう必死で作ったわよ、でもねぇ~其れが全然売れない
のよ、あの子は毎晩遅くまで必死で考え、どうしたらお客さんの注文通りの品物が作れるのか、私はあの
子が本当に不憫でならなかったのよ、だってげんたに何の罪が有ると言うのよ、そのお侍様は何のお咎め
も無いのよ、私はねぇ~今でもお侍様ってのが大嫌いでねぇ~、この浜の人達も同じ気持ちなの、其れで
もげんたが一生懸命に作ったのが少しづつ売れ、源三郎様が来られた頃にはお客さんの注文を受けれない
程になったのよ、まぁ~こんな話をしてもお侍様には全然関係無いわよねぇ~。」
「お母さん、技師長の作られた物は野洲の城下では有名でしたよ、何時になったら作って貰えるんだって
城下の人達が言っておられましたから。」
「そうか、吉川さんや石川さんは野洲の人だったんだ。」
「はい、私の母も何度か寄せて頂いたんですが、技師長はお客さんの話を聴いておられ、其れから作り始
めるのだと聞いております。」
「そうなのよ、私もげんたも読み書きが出来なかったからお客さんがどんな物が欲しいのか、其れを聴い
てから何日も考えてから作り出すのよ、代価はお客さんに任せてたの、だってその物が一体幾らの値を付
けていいのか分からないのよ、其れでもやっと私とげんたは食べる事が出来る様になった時によ源三郎様
が来られたのよ、お侍様は源三郎様をどんな風に見てるのか私は知りませんよ、でもねえ~、あのお方は
本当に立派なお侍様ですよ。
げんたはねぇ~、源三郎様をあんちゃんと呼ぶけど、あの子は心底源三郎様を信頼してるのよ、そんな
事も知らないで、あ~もうやめたこんな話お侍様にしても所詮無駄だったはねぇ~、でも私が作ったご飯
を食べて下さいね。」
「はい、ですが、私は頂く事は。」
「あんた達このご飯もだけど、その前に一体誰が作って要ると思ってるの、みんな農家の人達が必死で育
ててるのよ、そんな事も分から無いの、もう何でもいいから早く食べて帰って頂戴そして二度と来ないで
下さいね。」
彼らはげんたの母親までも怒らせた、何故に理解が出来ないのか、この者達は今までどの様な育てられ
方をしたのだ、げんたの母親は彼らを育てた親の顔を見たいと、だけど子供が子供ならば、多分親も同じ
だろう、もうこれ以上何を話しても無駄だと思ったので有る。
「貴殿達は本当に理解されておられるのですか。」
「はい、一応は。」
「其れでは駄目ですよ、今連合国がどの様な状況下に有るのか其れが理解出来なければ、技師長は簡単に
は許してはくれませんよ、其れに技師長の頭脳に勝つ事も不可能ですから。」
彼らは本当に理解出来て要るのか、其れより前に理解しようと言う姿勢か感じられないと吉川も石川も
思い、その後は何も言わずただじ~っとげんたが出て来るのを待つので有る。
だが、夜になっても現れず、夜が明けげんたの隣の家からは鍛冶職人が何かを作り始めたのだろうか大
きな音が聞こえて来る。
げんたの母親は水を持って来た。
「吉川さんも石川さんもお腹は。」
「はい、私達は大丈夫ですので。」
「でも、あら、あのお侍様は。」
「はい、あれから暫くして帰らせました。」
「そうでしたか、私の話し方が悪かったんですか。」
「いいえ、お母さんその様な事は一切御座いません。
彼はまだ全てを理解出来ておりませんし、其れにまだ考え方が何と言うのか甘いのです。」
「いいえ、でも、あっそうだ、げんたがお二人が書かれた絵を見ていましたよ。」
「えっ、私達が描いた絵をですか。」
吉川と石川は内心ほっとした、まだげんたの中に潜水船に対する興味が残って要ると、後少しの辛抱だ
何としても会って話をしなければ何も進まないのだと思ったのは間違いは無い。
「では、今技師長はどの様にされておられるのでしょうか。」
「昨日から何かを考えて要ると思うんですがね、でも一体何を考えてるのか私はさっぱり分からないんで
すよ。」
「そうですか、やはりですか技師長も考えておられるのですねぇ~。」
「ええ、其れでさっき隣の作業場に行きましたよ。」
「はい、有難う御座います。」
吉川と石川は少し希望が湧いてきたと思うので有る。
「ねぇ~石川さん、あの荷車には何を積んでるんですか。」
「はい、紙と筆、其れに墨を積んで来ました。」
この二人はまだ諦めてはいない、それどころか何時でもと書き物の準備までして来たのだと母親
は思ったので有る。
「じゃ~私は。」
「はい、有難う御座います。」
母親は家には入らず作業場へと入った。
話は少し戻り、吉川と石川に、更にはげんたの母親にも帰れと言われた若い家臣達は浜からお城へと帰
り始めた。
「私は一体どうすればいいんだ、何としても会って頂き話しを聞いて欲しいのですが。」
「其れは私も同じで、私は先程から考えていたのですが、今のままではお城へは戻れずに、其れで考えた
のがこの付近の農村に行って見ようと思うのですが如何でしょうか。」
「そうですねぇ~、先程も技師長のお母さんからも言われましたが、私は食べる物がどの様にして育てら
れているのか知りませんので其れからでも調べて見ようと思ったのです。」
「私もご一緒させて頂きます。」
彼らは途中で会った人に農村の有る所を聴き、その農村に向かった。
彼らは国で話には聞いてはいたが、皆が潜水船を安易に考え、其れが結果的に筆記用具を忘れて来ると
言う大失態を犯し、其れがげんたの逆鱗に触れたので有る。
其れでも少しづつ考える様になり漁村では無く農村に向かい、農民から話を聴く事になった。
その頃、野洲のお城の大広間ではまだ話が続けられていた。
「井坂殿が持っておられました連発銃ですが、我々で作ろうと思って要るのですが、作れる様な物でしょ
うか。」
「連発銃は腕の良い鍛冶屋さんならば作れるとは思いますが、でも弾は果たして作れるでしょうか、薩摩
でも作りたいと思い作りに掛かったのですが、とてもでは有りませんが無理で御座いました。」
「う~ん、やはり問題は弾ですか。」
「ですが弾丸と申しましても、幕府軍が使用しております丸い弾では有りません。
薬莢と言う中に火薬を入れる物、この薬莢が作れないのです。」
大広間の侍達がざわつき始めた、連発銃は腕の良い鍛冶職人ならば作れると、だが、薬莢だけはまず作
れないと言う一体薬莢とは果たしてどの様な物なのか。
「皆様方、今此処に持って来ており皆様には今から数個の弾丸をお見せ致しますのでよ~く見て頂きたく
思います。」
源三郎は十数個の弾丸を回して見る様にと前の者に渡し。
「皆様、今順番に見て頂きますが連発銃の弾丸は中に火薬が一緒に入っておりまして、我々の知っており
ます火縄銃の弾とは全く異なっております。」
「おいドンが少し説明をさせて頂きますので、先程も説明させて頂きましたが連発銃は火縄銃とは違い雨
の日でも撃つ事が出来ので御座います。」
「えっ、雨の日でもこの連発銃は使えると申されますが、では性能は如何でしょうか。」
日頃、火縄銃だけを見て要る侍達は大変な脅威になると思ったので有る。
火縄銃だけでも脅威なのに連発銃を数万人とも言われる官軍の兵士が持って要ると言うので有る。
その様な官軍の兵士を相手に幕府軍は無謀とも思える戦を行なっており、勝敗は誰が考えても幕府軍の
壊滅する姿を予想する事が出来、其れは連合国としても同じ状況下に有り、若しもこの様な連発銃を
持った官軍の兵士達が大群となり、松川、いや、上田の浜に上陸し城下に攻撃を加えたならば数時の内に
城下は火の海をなり、領民達は逃げ惑い、武士達は連発銃の的となり会えなく最後となるのは目に見えて
要る。
では、一体、どの様な方策を持って防げば良いのか、源三郎はこの後に至っては何としてもげんたに
潜水船を造って貰わなければならず、其れは連合国の生き残りを掛けた戦になると考えたので有る。
「井坂殿、長崎の造船所で造られる軍艦ですが、何処かに弱い所は無いのでしょうか。」
「源三郎様、幕府の軍艦も官軍の軍艦も一番後ろに有る大きな舵が弱いと思います。
官軍でも正か後部の舵を攻撃されるとは全く考えてはいないと、おいドンは思います。」
「やはりその部分ですか、う~んこれは誠厄介な事になりましたねぇ~、官軍と幕府軍の軍艦を狙えるの
は潜水船だけの様ですがねぇ~、私は何としてもげんたに潜水船を造って貰うしか今の連合国が生き残れ
る事は出来ないと考えておりますが、其れにしても大変な状況になりましたが、何か良い方法は無いので
しょうか。」
「源三郎、余が参っても駄目なのか。」
「殿、今のげんたに何を言ったところで全く通じないと思います。」
「義兄上。」
松之介は責任を感じて要るのだが。
「松之介殿。」
「義兄上、私は山賀の藩士が起こした責は全て私に御座いますので、私が浜に参り技師長に。」
「其れは余計火に油を注ぐ事になります。
げんたを普通の子供だと思って話を致しますと、其れこそ大変な事になりますよ、げんたは我々では
考えの付かない潜水船を造ったのですからねぇ~、幾ら本気だと言ったところで、今のげんたには何も
通用致しませぬ。」
「ですが私も責を受けなければなりませぬ、確かにあの言動は許されるものでは御座いませぬ。
私も此処にお集りの皆様方は先程から井坂殿のお話しを伺い何か方策が無いかを考えておられますが、
私も皆様方も行きつくところ、其れが潜水船だと私は思っております。」
「総司令、私もご同様の考えで御座います。
此処は何としても技師長にお願いし許して頂くしかないのでは考えております。」
「私も同じですが、今は何を言っても無理です。
吉川様も石川様も今頃は苦心されておられと思いますがねぇ~。」
「では時期を待つしか方法は無いと申されるのでしょうか。」
「今は何とも申せないのですが、明日にでも私が参りますので。」
大広間の柱の陰で雪乃は成り行きを見守って要る。
雪乃は山賀の藩主は実の弟で弟の為に何とかせねばとは思っており先程までその決心が付かなかったが
明日源三郎が浜に行くと聴き、やっと決心が付き雪乃は前に進み。
「源三郎様、大変失礼だと思って要るので御座いますが、私に参らせて頂きたいので御座いますが如何で
御座いましょうか。」
「何じゃと、雪乃が浜に参るとな。」
源三郎は雪乃が柱の陰に居る事は知っており、其れに今日の一件も傍で聞いており、更に、弟、松之介
は山賀の藩主で有り、その山賀の家臣が引き起こし、今は大変な事態になって要る。
雪乃にすれば弟の為でも有り、最後には連合国の領民の為だと言って侍が出向けば余計げんたの怒りは
収まらないだろう、だが雪乃が行けばげんたの心も少しは変わるだろう、そして、大事な話は後から出来
るのだと、今は何としてもげんたに会う事の方が最優先だと考えたので有る。
「雪乃殿、何か策でも有るのですか。」
「いいえ何も御座いませぬが、殿や源三郎様が今浜に参られますと話しがこじれる様な気が致します。
女の私が参りげんたさんにお会いする事が出来ればと考えておりますが如何で御座いましょうか。」
「分かりました、雪乃殿、ご無理をお願い致します。」
「源三郎様、承知致しました。」
松之介も少し気持ちが楽になったのだろう、雪乃に頭を下げた。
雪乃は何も策は無いと言ったが、雪乃が何の策も考えずに行動を起こす事は無い。
ただ話しの都合上言ったまでで有ろうと、源三郎は思ったので有る。
「皆様方、一応これで終わりとさせて頂きたいのです。
明日の朝雪乃殿が浜のげんたに会う事さえが出来れば対策は其れからと考えても十分だと思います。
野洲のご家中は解散して下さい。」
残ったのは山賀、松川、上田、菊地のお殿様方とご家老様となった。
「実は高野様、阿波野様にお願いが有るのですが。」
「総司令、私に出来る事ならばどの様な事でもさせて頂きます。」
「私もで御座います。」
「では明日雪乃殿が浜に参りますが、私は今日井坂殿の話しを聞きまして、我が連合国が存亡の危機
に有ると判断致しました。」
「其れは私も同感で御座います、其れで私には。」
「はい、実は菊地と上田の殿様にもご出馬をお願い出来ないかと先程から考えたので御座いますが、
如何で御座いましょうか。」
「総司令、馬をお借りしたいのですが宜しいでしょうか。」
高野の反応は早かった。
「私にもお願い致します。」
阿波野もで有る。
「総司令、私にも責任の一端は御座いまして今は誰がどうのと言う問題では御座いませぬ。
殿には全てをお話し致し直ぐに戻りますので。」
「はい、誠に勝手なお願いでは御座いますが何卒宜しくお願い致します。
其れでご無礼かと存じますが、殿様にはご家中の着物で参って頂く様にお願い致します。」
「はい、全て承知致しました。」
「鈴木様、上田様、大至急馬の手配を。」
と、言った時には二人は大広間を飛び出した後で高野と阿波野も大急ぎで大広間を出た。
源三郎は正かと思う程突飛な事を考える、正かげんたを説得する為に連合国の藩主全員を担ぎ出すとは
さすがの殿様も声も出ずに唖然として要る。
「源三郎、正か連合国の藩主全員を担ぎ出すのでは有るまいな。」
「殿、今更余計な事を考える時では御座いませぬ、官軍の軍艦が連合国の沖合を通過し、佐渡で金塊を
奪い、其れで異国から軍艦を買うのです。
その様な事にでもなれば、我が連合国も軍艦から攻撃を受けるのは間違いは御座いませぬ。」
「う~ん、誠大変な事態になったものよ~。」
「叔父上様、義兄上様の申される通りで御座います。
連合国が生き残る為ならば、私は技師長に頭を下げる事など何とも御座いませぬ。」
「叔父上様、私もで御座います。
今技師長がおられなければ連合国の将来は地獄の苦しみを味わう事になるので御座います。」
竹之進と松之介も源三郎の考えに反論どころか自ら頭を下げると言うので有る。
それ程にも今は大変な事態になったのは間違いは無い。
そして、明くる日の朝雪乃は加世とすずを伴いお城を出浜へ向かった。
「ねぇ~吉川さんも石川さんもいい加減にして家に入ったら。」
「いいえ、私は技師長に会って頂け無いので有ればこの場を動く事など出来ませぬ。」
吉川も同じだと頷き。
「もう本当に二人共頑固なんだからねぇ~、私も困ったわねぇ~。」
げんたはまだ眠っており、其の時、母親が。
「あれは、正か、えっ、あ~やっぱりだ、雪乃様だ。」
母親は急いで家の中に入ると。
「げんた、起きてよ大変なんだから。」
「う~ん、何だよ、何が大変なんだ。」
「お早う御座います、げんたさんは、私です雪乃です。」
「えっ、何でねぇ~ちゃんが。」
「げんたさん起きてるの、起きてるんだったら表を開けて。」
「うん、分かったよ。」
やっぱり雪乃だあれ程にも表に出なかったげんたが。
「ねぇ~ちゃん、一体どうしたんだこんなに朝早くから。」
近くで正座して要る吉川も石川も唖然として声も出ない。
正か源三郎より先に雪乃が来るとは思いもしなかったので有る
「ねぇ~げんたさん、入ってもいいの。」
「あ~、いいよ。」
「じゃ~お邪魔しますね。」
加世とすずも入り。
「まぁ~何て所に、雪乃様、汚い所ですけど座って下さい。」
「はい、有難う御座います、加世様もすず様もさぁ~。」
「げんたさん私が来た訳は分かって要ると思うの、でも私は別の話で来たのよ。」
「何だよ、その別の話って。」
「実はねぇ~、今日皆様方が帰ってお話しをされていたの、でもその話は別としてね、野洲のお城に井坂
様って官軍の兵士が一人居るのは知ってるの。」
「えっ、官軍が攻めて来たのか。」
「げんたさん違うのよ、井坂って官軍の兵士はね官軍を脱走して野洲に逃げて来たのよ。」
「脱走って、官軍から逃げて来たのか。」
「実はそうなのよ、其れでね、井坂って人の話でね。」
雪乃はその後、げんたとげんたの母親にも分かる様に詳しく、そして優しく分かりやすい様に話すと。
「えっ、ねぇ~ちゃん、その官軍って長崎で大きな軍艦を造りオレ達の浜に攻めて来るのか。」
「私も詳しくは分からないのよ、でも其れよりも恐ろしいのは官軍が佐渡って言う所に沢山の金を奪いに
行くのよ。」
「なぁ~ねぇ~ちゃん、何で金が要るんだ。」
誰でも同じ様に思うだろう、わざわざ遠くに行く事も無く大きな町には数十もの大きな店が、いや、
何千、何万両と言う大金を金蔵に入れて有り、大きな店から大金を奪う事も出来ると言うのにで有る。
「げんたさん問題はねぇ~大金で異国から軍艦を買うと言うのよ。」
「異国から軍艦を買うって、じゃ~異国の軍艦を買う為に長崎で軍艦を造り、その軍艦で佐渡に行くん
だけど途中でお米や水が無くなったらオレ達の浜に攻めるって言うのか。」
「そうなのよ、其れで井坂って人の話ではね、襲った農村や漁村ではね、お母さん此処が一番の問題なの
よ、女達は犯して殺し、勿論大人も子供達も全員殺すって言うのよ。」
「えっ、じゃ~私達は。」
「そうなの、其れは他でも有ったらしいの、其れでね最後には誰が殺したのか分からない様によ村を焼き
払うって言うのよ。」
「何て事なのよ、其れじゃ~野盗よりも達が悪いじゃないの、何でみんなを殺す必要が有るって言うの
よ、ねぇ~雪乃様。」
雪乃は何としてもげんたを、だがその前に母親から話を理解させる必要が有ると思った。
「じゃ~、雪乃様もですか。」
「私はねぇ~簡単には殺されませんわよ、一人でも多くの兵士を巻き添えにし、同じ殺されるのならば
私はその前に自害しますのでね。」
「ねぇ~雪乃様、何とかならないんですかその官軍って軍隊に。」
「其れがねぇ~今の野洲ではどうにもならないのよ、だって相手は大きな軍艦でしょう。」
「じゃ~、私達女は。」
「なぁ~ねぇ~ちゃん、オレは分からないんだけど何で兵隊が母ちゃんを。」
「そうよねぇ~、簡単に言うとね私と一緒に来た加世様もすず様も女性だから、兵隊の中でも特に悪い
兵隊達はその中でも特に弱い女性を暴行してから殺すのよ。」
げんたの表情が険しくなった、げんたは母親も大事だが一番好きな雪乃を暴行し、殺すと聞こえたたの
で有る。
「其れでね、今源三郎様達は何としても防ぎたいとご家中の全員で話し合ってるのだけど、今の野洲も
だけど他の国も防ぎ様が無いのよ。」
げんたの心は揺れ動いていると、雪乃は感じている。
「げんたさん、確かにあの侍の言った言葉でげんたさんが怒るのも無理は無いと私も思うのよ、でもね
今の話は皆様方がお城に戻ってからの話でね昨日の朝の話じゃないのよ。」
雪乃は別に急ぐ事も無く何時もと同じで有る。
「ねぇ~げんたさん、私はねあの人達の事はもうどうでもいいと思ったのよ、だってそうでしょう、
あの人達は本気じゃないのよ、そんな人にげんたさんが腹を立てるよりもお母さん達女性だけでも守る事
を考えて欲しいのよ。」
さぁ~いよいよだ雪乃の話は確信に近付いて来た。
「私は何とでもなるのよ、でもね一緒に来た加世様やすず様もだけど、浜の、そうだ城下の女性達を一体
誰が守れると思うの、ねぇ~げんたさん。」
「オレは、ねぇ~ちゃん、ごめんなさい。」
げんたは突然雪乃の胸に飛び込み泣き出した。
「げんたさん、もう何も言わなくてもいいのよ。」
「オレ、オレは母ちゃんやねぇ~ちゃんが。」
「もういいのよ、私もお母さんもみんなげんたさんの見方よ、其れに源三郎様が一番げんたさんの事を
心配されてるのよ、其れだけは分かって欲しいのよ。」
「ねぇ~ちゃん、オレ本当は船に火は点けて無いんだ、だってそうでしょう、親方や鍛冶のあんちゃん達
も銀次さん達だって、浜のみんなも其れに吉川さんや石川さんがみんな一生懸命に造った潜水船をオレが
勝手に燃やせる事なんか出来ないんだ。」
傍の加世もすずも貰い泣きし、表の吉川、石川も同じで有る。
「ねぇ~ちゃん、みんなが必死になって造った潜水船をあの侍は何も知らないでオレは其れが一番悔
しいんだ。」
「げんたさん分かったわ、あの人達は二度とこの浜には来させない様に源三郎様にお願いするからねもう
大丈夫よ。」
「ねぇ~ちゃん、オレ、吉川さんと石川さんに謝りたいんだ、だって二度と顔なんか見たくいって悪い事
を、其れにあんちゃんにも。」
「分かったわ、加世様。」
加世は表に出。
「吉川様、石川様、中に入って下さい。」
二人が中に入ると。
「ごめんなさい、オレ、あんな悪い事を言って、ごめんなさい。」
げんたは涙を流しながら吉川と石川に謝り。
「技師長もういいんですよ、私達は何とも思っておりませんので、其れに私達も本当はあの者達に対し
二度とこの浜には来て欲しくは無いのです。」
「本当にごめんなさい、オレ。」
「技師長、全て分かっておりますのでご心配する事は有りませんよ、其れに技師長がどれだけ苦労された
かは私達二人が一番よ~く知っておりますので。」
「吉川様、石川様、これからはお二人がげんたさんを守って頂きたいのです。」
「はい、其れは勿論で御座います。
これから私達二人が技師長をお守り致しますのでどうかご心配無く。」
「申し訳御座いませぬ、それで加世様、すず様お願いします。」
「はい、吉川様、石川様、これにお召替え下さい。」
「えっ、何をですか。」
「お二人の気持ちを入れ替えて頂きたくと思いまして、加世様とすず様が用意された物です。」
「ですが、私達は。」
「何も新しい物では御座いませぬが、もう今日からは今までとは違いますので其れがげんたさんの為に
もなるのですからね。」
「はい、承知致しました、誠に有難う御座います。」
加世とすずが持って来たのは新しいと言っても古着だが作業用の着物を作っていた、其れを今日持って
来たので有る。
「古いお着物は持って帰りますのでね。」
「えっ、ですが。」
「何も遠慮される事は御座いませぬのでね。」
「吉川さんも石川さんも隣の部屋で。」
「母ちゃん、隣の部屋ってあの部屋は無理だぜ、だって書き物が。」
「あっそうでした、私達が整理もせずにおりましたので足の踏み場も有りませんので。」
吉川も石川も笑っている。
「では、作業場で。」
吉川と石川は風呂敷に包まれた着替えを抱え作業場へと行った。
「あっ、そうだ、雪乃様、朝ご飯は。」
「私達は朝早く出ましたので。」
「じゃ~雑炊を作ったのでみんなで食べましょうよ。」
「はい、勿論ご馳走になりますよ、加世様、すず様、浜の雑炊は物凄く美味しいのよ、だって殿が同じ物
を作れと申されたのよ。」
「えっ、殿様がですか、其れで雪乃様は何と。」
「勿論断りましたよ、この味はお城では出せませんと。」
「ですが近頃片口鰯を焼いておりますと、殿様は何処に居られましてもあの匂いを嗅ぎ付けてと申せば
怒られますが必ず来られるので御座いますよ。」
「まぁ~何て、じゃ~お殿様は猫年の生まれなんですかねぇ~。」
「母ちゃん、猫年って有ったのか。」
「げんたもバカだねぇ~、猫年なんて有る訳が無いでしょう。」
「なぁ~んだ、オレまた殿様って猫の生まれ変わりかと思ったんだぜ。」
「では私が申して置きますよ、げんたさんが殿は猫の生まれ変わりだと言っておりましたよってね。」
「ねぇ~ちゃんそんな事言ったら、あの殿様って本気にするぜ。」
「そうかもねぇ~。」
げんたは腹を抱え大笑いし雪乃達も大笑いをしている。
もうこれで大丈夫だと雪乃は思った。
「では加世様、すず様、申し訳有りませんが。」
「はい、勿論承知致しております。」
雪乃が何も言わずとも、加世とすずも分かって要る。
吉川と石川が加わった楽しい朝食も終わり。
「げんたさん、では私は帰りますからね、吉川様、石川様、お母さんも今此処で有った話は誰にも言わな
い様にして下さいね。」
「えっ、ですが私達は。」
「ええ、勿論分かっておりますよ、でも多分ですよ、多分ですから分かりませぬが、今日の午後になれば
若しかすれば殿が来られるやも知れませのでぬのでね。」
「なぁ~ねぇ~ちゃん、何で殿様が来るんだ。」
「げんたさん、昨日高野様と阿波野様がお殿様をお呼びにね行かれまして、其れも馬を飛ばしてですから
若しかすれば今日のお昼頃にはこの浜に来られると思っただけなの。」
「なぁ~ねぇ~ちゃん、オレはもういいんだぜ、其れに何で他の殿様も来るんだ。」
「其れはねぇ~げんたさんが絶対に潜水船を造らないって言ったからで、最後はお殿様方に浜に行って
頂き、げんたさんにお願いして下さいと、源三郎様のお考えだと私は思うのよ。」
「でも、オレは何も其処まで。」
「其れでね、げんたさんにお願いが有るのよ、其れはねお殿様が来られても直ぐには返事しないで欲しい
のよ。」
雪乃は一体何を考えて要る。
連合国の殿様全員がげんたに頭を下げ潜水船を造ってくれと頼むだろう、だがその返事は直ぐにはする
なと言うので有る。
「だけどなぁ~ねぇ~ちゃん、そんな事オレが言ったらオレの首が。」
「げんたさん、殿様方は何も出来ませんよ、だって潜水船が造れないと困るのは連合国なのよ、其れによ
他の一体誰が造れると言うの、今はねげんたさんだけが頼りなのよ、私はね殿様方にもげんたさんの苦労
もだけどこの浜の人達全員の苦労を知って欲しいの、だからお願い直ぐには返事しないで欲しいのよ。」
雪乃は何とも恐ろしい事を平気で言う、だが各国の殿様にも潜水船を造れるのは今はげんた一人だけな
のだとだ。
げんたを怒らせたのは先日この浜に何も持たずに来た若侍で有、げんたとしては簡単に許す事は出来
ない、雪乃は殿様方にも理解させなければならないと考えたので有る。
「じゃ~やっぱりあんちゃんか。」
「う~ん、そうよねぇ~其れが一番だと思うのよ。」
「うん、分かったよ、でも吉川さんと石川さんは。」
「お二人は何も言わないわよ、殿様方が来れば直ぐ分かるから、其の時は。」
「はい、勿論で承知致しております。
私と石川殿は何も聞いておりませんので何もお話しする事は御座いませぬ。」
「吉川様と石川様には誠に申し訳御座いませぬがげんたさんの為なので何卒宜しくお願いします。」
「なぁ~ねぇ~ちゃん、だけどそんな事をしたらあんちゃんが怒られるんじゃ無いのか。」
「その様な事にでなれば源三郎様の事ですから今のお役目を外して下さいと申されますよ、其れにその様
な事にでもなれば、まぁ~其れよりもげんたさんは何も心配は有りませんよ、その様な事にならなければ
他国の殿様に一体誰が言うのですか、げんたさん、話しはねげんたとしてで無く技師長として言って頂
ければ大丈夫ですからね、技師長に言われて怒る様では一国に殿様としては失格ですから殿様方も真剣に
考えますよ。」
「うん、分かったよ。」
「では私は戻り源三郎様に申し上げますのでね、後の事は私に任せて下さいね。」
雪乃はニッコリと微笑み、其れだけを言って城へと戻って行った。
「ねぇ~吉川さん本当に大丈夫ですかねぇ~。」
「まず大丈夫ですよ、雪乃様は源三郎様の奥方様ですからねぇ~。」
吉川も大丈夫だと石川も頷いて要る。
「お母さん、雪乃様にお任せすれば全て大丈夫ですから。」
加世もすずも安心して雪乃に任せて欲しいと言うので有る。
「はい、分かりましたよ、其れでげんたこれからどうするの。」
「今も考えてるんだ、鍛冶のあんちゃん達は次の船にって今歯車を作ってるんだ。
其れよりも吉川さんと石川さん、書き物の整理をして欲しいんだ、其れで今までのところで何か抜けて
いるところが有ったら聴いて欲しいんだ。」
やはりだ、げんたは次の潜水船を造る事を考え始めたので有る。
「其れでね終わったら、オレが秘密を教えるから。」
「えっ、秘密ですか、私は今までの全てが秘密だと思っておりましたが。」
「石川さん、オレはまだ一番大事な部分のところを言って無い事も有るんだぜ、其れをね、だけど他の
人達には言わないで欲しいんだ。」
げんたは何を考えて秘密を教えると言ったのか、だが潜水船その物が全て秘密なのだと思う石川と吉川
の二人で有る
だがげんたは其れは秘密では無いと、では一体何が秘密なのだ。
その頃、野洲の大手門に菊地と上田のお殿様が馬に乗り入って来た。
源三郎と殿様、其れに松川の竹之進、山賀の松之介は大広間では無く何時もの執務室に何故か要る。
「総司令。」
「高野様に阿波野様、これは大変失礼致しました。」
二人のお殿様も家臣と同様の着物姿で入って来た。
「源三郎殿、大変申し訳御座らなぬ全て私の責任で御座います。」
「菊池の殿様も上田の殿様も其れは既に終わった事で御座います。
其れよりも大変な事態になっておりまして。」
「はい、其れは私も高野から聴きまして、高野は話しは野洲でと申しましたので大急ぎで参ったので御座
います。」
「源三郎殿、私も阿波野から聴き、之は連合国の存亡に関わる事態だと思い何も考えず参りました。」
「誠に申し訳御座いませぬ、お二人は高野様と阿波野様からお聞きされていると思いますが、私は何と
しても技師長に潜水船の建造に入って欲しいので御座います。」
野洲の殿様を始め、全員が源三郎の話を真剣に耳を傾けている。
「ですが技師長は二隻の潜水船に火を点け全て海の底に、それ程までにも技師長の怒りは凄まじいので
御座います。
今朝も私の妻が何とかせねばと申し浜に向かいまして。」
「えっ、奥方様もですか。」
「はい、その通りでして確かに技師長は子供です。
ですがげんたの頭脳に勝る者はこの野洲にはおりませぬ。」
「源三郎殿、私も以前より阿波野より聴いておりまして、源三郎殿は技師長は連合国の宝だと申されて
おられると伺っております。」
「勿論で御座います。
其れに仮に私が腹を切ったところで今の技師長は絶対に許さないと申します。」
「殿、我々の命よりも技師長に何としても潜水船の建造をお願いせねばなりませぬ。」
「阿波野、余も重々承知しておる。
だがのぉ~、総司令が腹を召されても許さないとなれば、余が切ったとして何の役にも立たぬと思う
のじゃ。」
「あの~宜しいで御座いましょうか。」
「はい、山賀の若様。」
菊池と上田の殿様は山賀の松之介を知らないのだろうか。
「私はこの場で考え論議するよりも、浜に参り技師長に頭を下げ、お願いする事を考えたのですが、義兄
上様、如何で御座いましょうか。」
「義兄上様、私も松之介の考えに同じで御座います。」
「松川の若殿様も同じご意見で御座いますか。」
「はい、確かに議論は必要で御座います。
ですがこの問題の解決には一刻でも早く浜に行く事では無いでしょうか、議論は後程でも出来ると思う
のですが如何で御座いましょうか。」
「技師長に暴言を吐いたのは私の家臣でその為に皆様方には大変なご迷惑をお掛けし、誠に申し訳御座い
ませぬ。」
「松川殿、其れよりも私は技師長から学ぶには筆記用具が必要に関わらず、其れを忘れたのでは無く、
持参しなかったと、これが一番の原因かと、ただ松川殿のご家臣が火に油を注いだだけの事で私も反省
せねばなりませぬので、どうか余りご心配をされぬ様に。」
「誠に有り難きお言葉、身に染みます。
私は戻りますれば、全員に筆記用具の持参を徹底致したく存じます。」
「では皆様方如何なされますか、今ご提案の様に今からでも浜に向かい技師長に会うと言うのは。」
「私は是非とも参りたく思います。」
松之介が最初に名乗りを上げると。
「義兄上様、私も参ります。」
竹之進も続き、そして、全員が浜に行くと決まり直ぐ向かう事となり、執務室を出ると全員の馬が準備
され直ぐ浜に向かったので有る。
その頃、雪乃も城に戻る途中で源三郎達と出会った。
「源三郎様、まぁ~げんたさんの頑固さに私は何も申し上げる事が出来ませぬ。」
「そうでしたか、やはり雪乃殿でも駄目でしたか。」
だが源三郎は雪乃の口元が一瞬別の事を言った様に感じたので有る。
「其れで吉川さんと石川さんのお二人は。」
「はい、げんたさんの家の前で正座のままで御座います。」
「えっ、では技師長は全く受け付け無かったと申されるのですか。」
「はい、左様で御座います。」
「う~ん、それ程にも怒らせたとはこれは全て私の責任です。
私も何故か甘く考えていた様に思います。
まぁ~其れだけ技師長の説明と言うよりも技師長の頭の中には膨大な分量の知識と申しますか、潜水
船に関する知恵と知識が隠されていると言う事ですねぇ~。」
源三郎の言葉は一体何を意味するのか、其れとも。
「雪乃殿、有難う御座いました。」
「源三郎様、其れとですが今加世様とすず様が吉川様と石川様が書き留められました物を整理致して
おりますので。」
「はい、承知致しました。
では皆様方参りましょうか。」
果たして、源三郎は気付いてくれたのだろうか雪乃は少し心配にはなるが、今更話す事も出来ないと
城へと戻って行く。
その後、暫く行くと。
「あっ、源三郎様だ吉川さんと石川さん源三郎様が。」
「はい。」
二人は大慌てで表に出、正座しげんたは家に入った。
「技師長、源三郎です。」
「なぁ~んだあんちゃんか、オレはもうあんちゃんやお侍の顔は見たく無いんだぜ、帰ってくれよ。」
だが源三郎はげんたの声の変化に気付き、其れは雪乃が顔に表した意味だった。
「そうか、やはり雪乃殿が。」
と、心の中で、やはり雪乃がげんたを宥めたと分かったので有る。
だがげんたもだが吉川と石川の表情がどうも違う、これは雪乃が何かの目的でその為なのか。
「まぁ~げんた、その様に言わず顔を見せて欲しいのですよ。」
「何でオレが顔を見せるんだよ~。」
やはり声が違うと、だが其れに気付いたのは源三郎だけで、他の殿様方は全く気付いておらず、其れに
吉川と石川も目を閉じ何も聞こえないと言う顔をして要る。
吉川と石川は源三郎にだけは悟られない様にとしている様子にも見える。
「技師長、連合国の殿様全員が参られているのですよ。」
「あんちゃん、其れが一体どうしたんだよ~、殿様が腹を切ってもオレは絶対に許さないぜ、だって
あんちゃんそうだろう人に教えて貰うのに書く物も無しでどうして覚えるんだ、あんちゃん、オレはなぁ
~読み書きが出来ないから必死で覚えるんだ、あんちゃん、お侍ってそんなに偉いんだから潜水船だって
簡単に造れるんだろうから、まぁ~みんなで頑張って造ってみてよ。」
連合国の殿様全員は反論すらも出来ずに、正にげんたの言う通りだ。
人間が果たして何処まで暗記出来るのか、其れも特殊能力を持った一握りの人間のなせる技で並みの
人間にはまず不可能で有る。
「技師長、私は山賀の松之介と申します。
我が山賀の家臣の暴言に対しては、私が全ての責を負いますので、どうかお話しだけでもお聞き願いた
いので御座います、この通りです。」
松之介はげんたの家の前で土下座し頭を下げたが。
「山賀のお殿様か知らないけど、オレがそんな猿芝居に騙されるとでも思ってるんだったら大間違いだ。
オレは確かに子供だ、だけどオレ一人だけで潜水船を造ったんじゃ無いんだぜ、この浜の人達全員で
造ったんだ、お侍はなぁ~オレ達見たいな読み書きが出来無い者を最初から見下してるんだからあんな
言葉が平気で出るんだ、そうんだよなぁ~あんちゃん。」
「いいえそうでは有りませんよ、技師長、あの者達は二度とこの浜には近付けない様にするから何とか
顔を出して欲しいんだ。」
「あんちゃん、オレは絶対に出ないよ、あんちゃん、オレが生意気だと思うんだったらこの家に火を点け
てオレと母ちゃんを焼き殺せばいいんだ。」
「げんた、その様な事は余が許さぬ、余の命を掛けてもげんたを守るぞ。」
野洲のお殿様も何とかしなければと思うのだが、其れでもげんたは顔を見せないので有る。
「技師長、では外から話をさせて頂きますが宜しいですね、私の話を聴いて頂きたいのです。」
其れは吉永で吉永は山賀の家臣が吐いた暴言に対しては何も言わず。
「技師長、実は野洲のお城に井坂と申される官軍の兵士が。」
やはり雪乃の言った通りだと、吉永の話にげんたは何も言わずに聴き話が終わると。
「だからオレに潜水船を造れって言うのか、そんなのって余りにも虫が良すぎるよ、だって侍が造れない
からオレ達に造れって言うのか、じゃ~反対だったらオレ達は要らない事なんだろう、何でもだよ侍の
都合でオレが簡単にはいって言うとでも思ってるんだ、やっぱりだ侍の考え方は何時もみんな同じだ、
なぁ~そうだろうあんちゃん。」
「技師長、其れは違うのですよ、これはねぇ~侍の問題だけでは無いのです。
連合国、全員の問題なのですよ。」
「なぁ~あんちゃん、お侍って一体何の為に要るんだ、オレの父ちゃんはなぁ~、オレが侍の前で泣い
たって言うだけで殺されたんだぜ、オレはなぁ~まだその侍の顔を忘れて無いんだあの侍ら見付けたら、
絶対オレが父ちゃんの仇を取ってやるからなぁ~。」
げんたが侍に対する不信感は簡単には取り除く事では出来ない、それどころかあの者達の暴言で更に
不信感を増したと言っても過言では無い。
確かに雪乃の説得には一度は成功したかの様に見えた、だが殿様達の態度、其れは偉そうな顔で、
げんたの家を見ており、げんたが家の中から見て要るとも知らずにで有る。
「なぁ~あんちゃん、其処の殿様って偉いのか。」
「えっ。」
源三郎は後ろの殿様達を見ると菊地と上田の殿様は腕組みをして、如何にも殿様が来て要るのだから
早く出て来いと言わんばかりの態度でげんたの家を見て要る。
「しまった。」
殿様がこの様な態度では幾ら言葉で言ったところでげんたに通じるはずは無い。
「菊池様、上田様、申し訳御座いませぬが腕組みをされては。」
「えっ、何故で御座いますか。」
「殿、あの技師長は子供ながら人を見る目だけは確かなのです。
お二方の態度では我々がどの様な言葉を使っても一向に前には進みませぬ。」
やはり全ての殿様を連れて来たのは間違いだったのだろうか。
「なぁ~あんちゃん、その二人の殿様はなぁ~オレが子供だから何も分からないだろうって思ってるん
だ。
オレはねぇ~母ちゃんと五才の時から城下の人達に作った小物を売ってるんだぜ、子供でも人を見る目
は覚える事は出来るんだからなぁ~。」
「総司令、申し訳御座いませぬ。」
「いゃ~もう済んだ事ですから。」
源三郎はもう諦めたと言う表情で有る。
「菊池様、上田様、少しお話しを。」
野洲の殿様が二人を離し、別の所で話を始めた。
「なぁ~元太さん、一体どうなってるんですかねぇ~。」
「銀次さん、オラにも分からないんですよ、今のげんたに下手な話は通じませんよ、げんたがどんなに
苦労したのかあの殿様には理解なんか絶対に出来ないですからねぇ~。」
「そうだなぁ~、オレが何時行ってもげんたは潜水船の中一人で頑張ってたんだ、だけど途中からは吉川
さんと石川さんも手伝ってるのを見たんだ。」
「オラも知ってるよ、げんたもだけどあの若いお侍も悔しいと思ってますよ、きっと。」
「うん、そうだよ、其れに時々だけど船から音がしないから見に行くと、三人で川の字になってまぁ~
仲良く寝てるんだ、よっぽど疲れてるんだと、でもそんな事誰も言わないんだからなぁ~。」
「わしはなぁ~、げんたは簡単には許さないと思うんだ、内の若い者も言ってたよ、げんたは憎たらしい
程オレ達を上手に使うんだって、だけどげんたは一度も偉そうな口は利かなし、何時もニコニコしてるん
だ、だけどその時こそ無理だと思う様な事を平気な顔して頼んで来るんだって、げんたって子供は大人の
世界で生きて来たんだ、小さいながらも大人の操縦方法を知ってるんだ、だけどみんなはげんたの言う
方法で作ると其れが不思議な事に出来るからなぁ~、まぁ~みんなには悪いがげんたはこの野洲では一番
頭の切れる子供だよ。」
「オラもそう思いますよ、親方、オラ達はこれからもげんたを見守りたいですねぇ~。」
「元太さん、其れはわしも一緒だよ、まぁ~これから一体どうなるのか見物ですよ。」
「ねぇ~あんた、げんたは大丈夫かねぇ~。」
「まぁ~其れは心配無いと思うよ、其れにこの浜の全員が見てるんだし、源三郎様も居られるしなぁ~
下手な事は出来ないと思うんだ。」
「其れにしても、げんたはお侍に対しては恐ろしい程強気だなぁ~。」
「でもオラ達にはもう其れは別人の様に優しく教えてくれるんですよ、其れにオラ達漁師が潜水船の
船長になるんだって。」
「なぁ~元太さん、その船長って大変なんだろうなぁ~。」
「親方、船長が全部命令を出すんですよ。」
「えっ、其れじゃ~お侍にも。」
「そうなんですよ、げんたに言わせるとね漁師は海を知ってるけど、お侍は海の事なんか全然知らないか
ら海の知らないお侍に船長は出来ないって。」
「だけど、お侍は相当怒ったんだろなぁ~。」
「いゃ~其れが反対でねオラと最初に乗った時、上田様ってお侍はこのようなお役目は侍では務まりませ
んって源三郎様に言われたんだ、するとげんたはだから最初に言った通りこの仕事は漁師だけにしか出来
ないからって、源三郎様に言ってたのを聴きましたよ。」
「其れじゃ~お侍は船長にはなりたく無いって言ったのか。」
「親方、オラ達は漁師だから海の事も空の事も知らないと魚を獲る前にオラ達の命が危ないですから。」
「そうか、わしらが木の目を読むのと同じなんだなぁ~。」
「元太さんの仕事って毎日が命懸けって事なんですねぇ~。」
「ええ、其れに特に冬場の海は其れはもう恐ろしいって言ったら、其れにこんな小舟ですからねぇ~、
だから子供の頃から空を見て覚えるんですよ、この浜ではオラ達みんなが家族と同じなんですよ。」
「オレ達なんかこの浜に来るまでは世間に嫌われ者だったけど、でも浜の人達ってみんな本当に優しいで
すよ、其れに元太さん達が漁に出ると、みんなが浜に無事に帰るまで心配で何も手に付かないって聞いた
んです。」
「元太さん、わしも浜に来てから海が荒れて来ると、みんなで大丈夫かなぁ~って何時も心配してるんで
すよ。」
「でもねぇ~お侍はそんな苦労をしてるって全然知らないんですよ。」
「じゃ~げんたの潜水船も同じなんだなぁ~、わしはげんたが苦しんでる姿を見るけど、わしは何も出来
ないんだ、だけどげんたはわしらには何時も有難うってね。」
「親方、オラは其れがげんたなんだってお侍に言いたいんですよ、オラ達に無理を頼む時でも有難う、
御免なさいってげんたは潜水船を造る事が大好きなんです。
でもお侍の考え方は何か別のところに有ると思うんですよ。」
「其れはオレも同じですよ、あの殿様達は其れを分かって欲しいって言っても、今の殿様達に理解するの
はまぁ~不可能だからねぇ~。」
「オラも同じですよ、お侍は自分達の都合だけを考えてるんですよ、だからげんたが怒るのも無理は無い
んですよ。」
「げんたは分かってるんだ、まぁ~オレだったら今頃は我慢が出来ずに飛び出してますよ。」
「其れにしても源三郎様も大変だなぁ~、オレはげんたよりも殿様達に理解させる方が先だと思うんだけ
どなぁ~。」
漁師の元太を始め、銀次も親方も他のみんなも、げんたと源三郎達の動向が気になり誰も動かず成り行
き見て要る。
源三郎達が浜に着き、早一時、いや二時が経ち、げんたよりも二人の殿様が苛立ち野洲の殿様が話をす
るが、やはり二人の殿様が全てを理解していないのだろうか。
「阿波野、余は一体どの様にすれば良いのじゃ。」
「殿、技師長の説得が失敗に終われば、我が連合国は壊滅するやも知れませぬ、先程から総司令が何か
打開策が有ればと考えておられるので御座います。」
「だが余はその潜水船なる物を見てはおらぬ、それ程までに潜水船と言う船が重要ななのか。」
「殿、少しこちらへ。」
阿波野は殿様に説明する為、別の所へと行った。
「なぁ~あんちゃん、もう諦めて帰った方がいいよ、オレはもう造らないって決めたんだからなぁ~。」
「ですが、げんたもう少し私の話を聴いて欲しいんですよ。」
「もういいよ、だって何回話を聴いても全部お侍の立場でしか聞こえないんだからなぁ~。」
「げんた其れは違いますよ、若しも、若しもですよこの浜に官軍か幕府軍の軍艦が来たらこの浜は一体
どの様になると思いますか。」
「なぁ~あんちゃん、オレだってバカじゃ無いんだぜ、今は別の事を考えてるんだ、オレはなぁ~お城の
侍が全部死んだっていいんだ、だけどこの浜に入れない方法を考えてるんだから、なぁ~もういいで
しょう今からは何も返事しないからね。」
「げんたよ~く分かりました。
では私は独り言を言いますが、げんたが聴こうが、聴くまいが其れはげんたの勝手ですから。」
其れから源三郎は井坂との話を始めた。
源三郎の話は連合国の殿様全員にも理解させる為でも有り、其れにげんたの家の周りに集まった浜の
人達にも分かる様に何時もの源三郎らしさを出し、優しく話して要る。
殿様方も時々頷き、其れは浜の人達も同様で、時には侍達を批判する言葉も出るが、殿様方も反論が
出来ない様子で全てを話し終えるまで半時以上も掛かった、だがげんたからは一度も返事は無い。
果たして源三郎の話でげんたの心を動かす事は出来たので有ろうか。
「加世様、この先一体どの様になるのでしょうか。」
「私も分かりませぬが、やはり源三郎のお話しはよ~く理解出来ますねぇ~。」
「はい、私でも理解出来ますが、今来られておられます殿様方はどの様なお気持ちで聞いておられるので
しょうか。」
「そうですねぇ~、雪乃様がお話しされた時にはげんたさんも理解されたと思うのだけど、私は其れより
も一番の問題なのは、私はお殿様方が本当の意味で危機感が現れていないのではと思います。
でも私はげんたさんに利が有ると思いますが、其れがどの様になるのか分からないので。」
「其れにしましても、吉川様と石川様も、まぁ~よくもこれだけ書かれたと思いますねぇ~。」
「はい確かに本当ですねぇ~、さぁ~其れよりも早く片付けましょう。」
加世とすずの二人も源三郎とげんたの攻防が気になる様子で有る。
「げんた、私の話は以上で終わります。」
源三郎の話は終わるがげんたの反応は全く無く、その後暫くの沈黙が続き。
「源三郎、一度戻っては如何じゃ。」
「殿、私は戻る事などは出来ませぬ。」
「じゃが今はその様な策を弄しても、げんたは変わらぬぞ。」
「はい、其れは私も重々承知致しております。
ですがこのまま私も引き下がる訳にも参りませぬので。」
「源三郎殿、誠に申し訳御座らぬ。」
「いいえもう過ぎた事で御座いますので、私はこの最はっきりと皆様方に申し上げさせて頂きます。
この浜と申しますよりも、今の連合国に有ってはげんた技師長の頭脳に勝る者は一人もおりませぬ。
潜水船が無ければ菊地も上田も、更に我が野洲も松川も官軍か幕府軍の軍艦の攻撃を受ければ武士は
勿論の事、何の関係も無い漁民、農民、其れに城下の人達が死ぬ事には間違いは御座いませぬ。
菊池様と上田様があの様な態度を取られた理由は別にして、げんた技師長は相手を見抜くのです。
其れだけは肝に命じて頂きたいので御座います。
今げんたの家の前におります二人ですが此処で必死になり潜水船の全てを教えて貰っているのです。
其れに隣の家では野洲の腰元が二人の書いた物を整理していると聞いておりますが、二人がどれ程の
書き物をしたか傍に有る荷車を見て頂ければお分かりと存じます。」
吉川と石川の傍には大量の紙が積み込まれた荷車が有り、それ程にも二人は必死になり学ぼうとして
いると言うので有る。
「多分、彼ら二人はこの二日間、動く事も無く、げんた技師長が許すと言ってくれるまで何も食べずにい
ると思います。
皆様方に潜水船がどれ程重要なのか理解いて頂かなければ、何れかの国の浜に軍艦が侵入して来るのは
間違いは御座いませぬ。」
源三郎は菊池、上田、松川、山賀の各藩主に最後通知とも取れる話をして要る。
「ねぇ~げんた、一体どうするのよ。」
「母ちゃん、殿様が本気にならないと駄目なんだ、オレだって、ねぇ~ちゃんの話は本当だと思うんだ。
其れにあんちゃんは絶対に嘘は言わないって分かってるよ、でもなぁ~殿様が本気にならないと後の
ご家老様やお侍達は絶対に本気にならないと思うんだ。」
「母ちゃんも其れは分かるってるよ、でもねぇ~。」
「母ちゃん、今にきっと頭を下げにくるよ、だってそうでしょうみんなの命が掛かってるんだぜ、オレ
だってそんな事は分かってるんだ、其れに今直ぐに潜水船を造る事なんか無理なんだから。」
「じゃ~お殿様が本気になったらいいのかい。」
「まぁ~最後はあんちゃんと話すよ、あんちゃんの事だからオレの事を殿様に言ってると思うんだ。」
げんたは源三郎が殿様方に話をすると分かっており、殿様方が本気になるまで待つつもりなのだろう。
「加世ねぇ~ちゃん、すずねぇ~ちゃん、今の話は聞かなかった事に、ねっお願いだから。」
げんたは加世とすずに手を合わせた。
「げんたさん、私は何も聞こえてはおりませんのでね。」
「はい、勿論私もですよ、ですがげんたさん、源三郎様の申されたお話しは全て本当なのです。
私もつい先日までは井坂様を知りませんでした。
実は源三郎様は井坂様と申されます官軍のお方を信用されておられませんでしてね、其れで私とすず様
に井坂様のお世話と言う名目で数日前かお部屋に出入りする様になりまして、私達二人で監視をしている
のです。」
「えっ、本当に井坂って人の事を知らなかったの、じゃ~他の人達は。」
「はい、其れは本当にどなたもご存知無かったのです。」
加世とすずは何故源三郎が井坂の存在を隠す必要が有ったのかを説明するので有る。
「うん分かったよ、オレも今の話は知らなかった事にするね。」
「げんたさん、源三郎様と雪乃様をお助け下さい。
何故ならば雪乃様は今では野洲には無くてはならない、いいえ其れよりも源三郎様の妻としてでは
無く、源三郎様の良き相談相手なのです。
源三郎様と雪乃様はげんたさんの事を一番心配されておられ、何としてもげんたさんに分かって頂ける
様にと考えておられます。」
「うん、オレもねぇ~ちゃんが心配してくれてるって知ってるよ、まぁ~後はあんちゃんと話し合いだか
らね。」
果たしてげんたは許すと何時になれば言うのだろうか、加世もすずもげんたと母の会話で分かっては
おり、だが其れでも一抹の不安は消えないので有る。
そして、殿様方は果たしてどの様な行動を起こすのか、源三郎の苦労が何時になれば解消するのだろう
かその全てはげんたの返事次第だと言う事だけは間違いは無い。