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闇の帝国    作者: 大和 武
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第 35 話。 恐るべき情報とは。

 話は戻り


「私は田中直二郎です、源三郎様に只今戻りましたと、お伝え下さい。」


「えっ、あの田中様でしょうか。」


「はい、その通りです。」


 大手門の門番は田中の余りにもみすぼらしい姿に驚きを隠せずに居る。


「はい、直ぐに。」


 と、別の門番に伝えると。


「田中様、大丈夫ですか。」


「はい、私は。」


 田中と農夫はその場に座り込んだ。


「お~い、誰か来てくれ、田中様が大変だ。」


 田中と農夫はそれ程までに疲れ切って要る。


 暫くして、源三郎と数人の家臣が飛んで来た。


「田中様、大丈夫ですか。」


「はい、私は大丈夫ですが、さんちゃんを。」


 さんちゃんとは農夫の名で田中が一番信頼し今回の情報収集でも同行した。


「直さん、オラは大丈夫ですよ。」


「あ~良かったです、其れにしても、良くぞお二人共ご無事で何よりでした、さぁ~私の肩に捕まって下


さい。」


「源三郎様、その様な。」


「何を申されるのですか、私の肩にさぁ~。」


 田中は源三郎に抱き抱えられる様にさんちゃんと言う農夫は二人の家臣に抱き抱えられて執務室へと


入って行く。


 田中が無事野洲に戻って来たと殿様とご家老様にも伝わり、二人は大急ぎで執務室へと向かった。


 雪乃達も田中が無事に帰ったと知らされほっとして要る。


「加世様とすず様は直ぐ湯殿の用意を、あっそうですねぇ~、其れと雑炊を作りましょう。」


「はい、では直ぐに、雪乃様お二人の着替えもで御座いますねぇ~。」


「はい、お願いします。」


 加世とすずは直ぐ湯殿の向かい、雪乃は賄い処へと向かった。


「源三郎様、田中直二郎と三平の両名、只今、戻りました。」


 田中はやはり武士だどんなに疲れ、どの様なみすぼらしい姿になったとしても帰還した事だけの報告は


済ませた。


「田中様、三平殿、良くぞご無事で戻られました。


 私のご無理を聴いて頂き、私は大変感謝致しております。」


 源三郎は改めて両手を付き田中と農夫の三平に頭を下げた。


「田中、田中は無事なのか。」


 殿様が飛び込んで来た。


「殿、私達は大丈夫です、なぁ~さんちゃん。」


「あ~オラも元気ですよ、直さん。」


 二人は大笑いし。


「う~ん、其れにしても大変で有ったのぉ~。」


「はい、ですが私とさんちゃんと二人の旅は楽しかったです。」


「其れにしてもこの姿では誰も怪しみませんなぁ~。」


 ご家老様でも直ぐには分からない、それ程にも二人の姿が変わっていたので有る。


「源三郎様、ご報告を。」


「田中様、今はその様な話は宜しいですよ、其れよりも。」


 其の時、雪乃と数人の腰元が入って来た。


「田中様、雑炊で御座います。」


「これは大変有り難い、実はこの数日間と言うのも何も食べておりませんでしたので。」


「えっ、何故にで御座いますか。」


 源三郎よりも雪乃は田中の姿を見ても驚かなかったのだが。


「ええ、実はねぇ~。」


「田中様、ゆっくりとお食べ下さい、お腹の虫が驚きますよ。」


「直さん、オラ~こんな美味しい雑炊って初めてで腹の虫が中で大騒ぎしてますよ。」


 三平の言葉に田中も。

「わぁ~本当だ、あっ、あいつら腹の中で大慌てですよ。」


 二人の話に傍に居た源三郎も殿様も他の者達も大笑いして要る。


「まぁ~これだけ元気ならば大丈夫じゃ、雪乃、後の支度は。」


「はい、全て整っておりますので。」


「うんさすがじゃ、のぉ~源三郎。」


「はい、私は何も申し上げる言葉が御座いませぬ。」


「直さん、この綺麗な人は。」


「あれ~、さんちゃんは知らなかったのか。」


「オラは何も知らないですよ、だって直さんが突然、さぁ~行くぞって、オラを引き出したんですよ。」


「えっ、そうでしたかねぇ~、私は何も覚えてませんよ。」


「えっ、本当に、でもオラの母ちゃんも驚いてたけど、まぁ~直さんが言うんだからって。」


「其れは大変申し訳無かったですねぇ~。」


「ねぇ~直さん、其れよりもこの綺麗な人は。」


「源三郎様の奥方様だよ。」


「え~そんなのって有りですか、こんなに綺麗な人を源三郎様お一人で。」


 またもみんなが大笑いした。


「三平さん、私は皆様のお陰で今は源三郎様のお傍に居らせて頂き、皆様には幾ら感謝しても感謝しきれ


ないのです。」


「へぇ~そうなんですか。」


「はい、其れよりも雑炊を食べられましたら湯殿に着替えも有りますので。」


「雪乃様、有難う御座います。」


「お二人の着物ですが如何致しましょうか。」


「私達の着物は捨てないで下さい。」


 田中は何時源三郎から任務の命が下るか知れず、その時にはこのぼろが一番良いと思って要る。


「はい、承知致しました。


 ですが洗濯と綻びは直して置きますので。」


「はい、申し訳有りませぬが、宜しくお願いします。」


「直さん、オラはもう腹がいっぱいだよ。」


「では、行きますかね。」


 田中と三平はまるで旧友の様な感じで湯殿へと、源三郎は何も言わず二人を見て要る。


「雪乃殿、有難う。」


「でも田中様は大変なお役目をされておられたのですねぇ~。」


「ええ、その通りでして、お二人がどの様な仕事をされていたかは別として、私は大変申し訳無く思って


要るのです。」


「私もあの方々にはお礼を申し上げたいのです。」


「雪乃殿、二人が湯殿から戻られますれば。」


「はい、準備は終わっており、湯殿には加世様とすず様がおりますので。」


「そうですか、やはりあのお二人ですか。」


「私はあの二人ならば、私がお願いする前に。」


 加世とすずは雪乃が次に何を言うのかも分かっており、二人は何も言わずとも動くと知って要る。


「源三郎、田中と三平には暫くゆるりとさせるのじゃぞ。」


「はい、私もその様に考えております。」


「じゃがのぉ~、三平と申す農夫の家族には知らせぬのか。」


「私は今でなくても良いと考えております。


 其れよりも三平殿の疲れを取る事の方が大事だと考えておりますので。」


「うん、そうかでは後は頼むぞ、あっ、そうじゃ、二人にはお酒もじゃ。」


 殿様は二人の疲れが取れてから話しを聞くつもりなのだ、其れから殿様とご家老様は部屋を出て行く。


「直さん、髭は。」


「う~ん、でもなぁ~、さんちゃんは。」


「オラは剃るよ。」


「じゃ~私も剃りましょうかねぇ~、源三郎様も直ぐにとは申され無いでしょうから。」


「うん、オラも同じだ、まぁ~今日だけは。」


「そうですねぇ~、さっぱりとしましょうかねぇ~。」


「うん、で、直さん、話は変わるけど野洲を出る時に会った、あの三人組は無事に山を越えたんですか


ねぇ~。」


「まぁ~其れは分かりませんよ、あの三人組は官軍ですからねぇ~、其れに野洲の山越えは簡単では有り


ませんからねぇ~。」


「オラも知ってるけど、何で三人組が来たんですかねぇ~。」


「多分、道に迷ったのでしょう。」


 田中と三平が言う三人組とは源三郎が二人を狼の餌食にし、残る一人が今野洲に居る官軍の侍と言うの


か兵士で有る。


「あ~気持ち良かった。」


「うん、本当だ。」


「では出ましょうか。」


「直さん、オラ急に眠くなってきたよ。」


「そうですねぇ~、まぁ~源三郎様の事だから寝床の用意もされて要ると思いますよ。」


「直さん、オラも一緒でいいんですか。」


「勿論ですよ、さんちゃんはねぇ~私の大切な相棒ですからねぇ~。」


 其れから暫くして、湯殿を出ると加世とすずが待っていた。


「田中様、寝床の用意も終わっておりますので。」


「ねっ、言った通りでしょう。」


 田中と三平はニヤリとしたが、加世とすずには意味が分からない。


 加世とすずの案内で静かな部屋に入ると、二人は余程疲れていたと見えぐっすりと眠り、夕刻まで起き


て来なかった。


「源三郎様、如何致しましょうか。」


「雪乃殿、お二人が起きて来るまでは静かにして置いて下さい。」


「はい、承知致しました。」


 二人が起きたのは暮れ六つの鐘が鳴った頃で有る。


「あ~久し振りによく眠たなぁ~。」


「直さん、オラ、今日は。」


「さんちゃん、暫くはお城でのんびりとしましょうよ。」


「えっ、でもオラは。」


「私もですが、さんちゃんも疲れが取れるまではのんびりとして欲しいですから、其れにさんちゃんから


も源三郎様に申し上げて頂かねばなりませんのでね。」


「えっ、オラがですか。」


「ええ、そうですよ、だって私は農村の事はさっぱり分かりませんからねぇ~、それに今帰られると私も


困りますのでね、お願いしますよ。」


「直さん、でもオラの話を源三郎様が聴かれるんですか。」


「は~い勿論ですよ、私はねぇ~源三郎様の事ですから待っておられると思いますよ。」


「はい、分かりましたが、でも何だか恐ろしいですねぇ~。」


 三平は源三郎が恐ろしいと言う、だが、田中はニコニコとして要る。


「其れよりも、さんちゃんお腹は空きませんか。」


「はい、少しですが。」


「では、参りましょうかねぇ~。」


「直さん、一体何処に行くんですか。」


「賄い処ですよ。」


「でも、お殿様は。」


「まぁ~まぁ~そう言わず、さぁ~行きましょうよ。」


 田中と三平は賄い処へと向かった。


 源三郎は執務室で何かを考えて要る。


「源三郎様。」


「これは、雪乃殿、何か。」


「はい、田中様が賄い処へと向かわれました。」


 雪乃は源三郎が今日は自宅で夕餉と取るとは思って無かった。


 其れは、多分、田中の話を聴く為だろうと、其れが源三郎の一番重要な役目でも有る。


「吉田様、申し訳御座いませぬが、私達二人の夕餉ですが此処でお願いが出来ないでしょうか。」


「田中殿、用意は直ぐ出来ますので。」


「はい、申し訳御座いませぬ。」


 田中と三平は賄い処で別の部屋に入った。


 源三郎は田中の事だ食事は賄い処で頂くだろうと思い雪乃に伝えていた。


 暫くすると襖が開き、加世とすずが食事を運んで来た。


「これは加世殿とすず殿で申し訳有りませぬ。」


「田中様、直ぐに御持ち致しますので暫くお待ち下さいませ。」


 田中は一体何が運ばれて来るのかも見当が付かない。


「田中様。」


 雪乃がお酒を持って来た。


「直さん、これは。」


「さんちゃん、お酒ですよ、さぁ~。」


 田中は三平にお酒を進め、田中には雪乃が注いだ。


「雪乃様、申し訳御座いませぬ。」


「いいえ、今の私達に出来るのはこれくらいで、誠に申し訳御座いませぬ。」


「雪乃様。」


 加世が源三郎の膳も運び源三郎も直ぐに来た。


「田中様、さぁ~どうぞ、三平さんもですよ。」


 源三郎は田中と三平の盃に注ぎ。


「では、源三郎様も。」


 田中が源三郎の盃に注ぐと。


「では、田中様、三平殿、長きに渡りお役目大変ご苦労様でした。」


 三人が盃を上げ、源三郎と田中が一気に飲み干した。


「三平殿、大変申し訳有りませんでした、私が田中殿に無理なお願いを頼みましたので。」


「いいえ、源三郎様の頼みですからオラも嬉しいです。」


「私はお二人のお話しを聞いておりますとね、まるで旧友同士の様に思えるのですが。」


「源三郎様、私は三平殿を大切な相棒だと思って要るので御座います。


 彼がいなければ今回のお役目も果たせ無かったと思います。」


 田中は心から三平を信頼して要ると言うので有る。


「直さん、オラの事を其処まで思ってくれてるんですか。」


「さんちゃん、私の任務が無事に終わったのも全て貴方のお陰ですよ。」


「三平殿、良かったですねぇ~、私も田中様が其処まで信頼されて要るのが嬉しいですよ。」


「源三郎様、お聞きしたいのですが、私とさんちゃんが山を登って行ったんです。


 其の時、怪しいと申しましょうか鉄砲を持った三人組と出会ったのですが、その三人組は。」


「三人組をですか。」


 源三郎は直ぐあの時の三人組だと分かった。


「はい、三人組の姿ですが、これも後で分かったのですが彼らは官軍の兵士でしたよ。」


「官軍の兵士ですか、其れならば私も知っておりますよ。」


「やはりでしたか。」


「何かお話しをされたのでしょうか。」


「いいえ、私達の姿を見て隠れる様にし何処かに行きましたので、私は深追いせずそのまま山を越えまし


たので何も分からないのです。」


「田中様、其れで良かったのです。


 私が見たのはあれは確か松川か山賀の旅籠だった様に思います。」


「では、源三郎様が。」


「ええ私はねぇ~、多分旅籠の番頭さんに山越えの方法を聴くと思いましたので、先に番頭さんに話を


し、明くる日先回りをし待ち伏せましたよ。」


「では、三人共、源三郎様の手に。」


「いいえ、私はその内の二人の足を砕き放置しましたので、多分狼の餌食になったと思いますよ、其れと


残る一人は今野洲の城内に居りますから。」


「やはりそうでしたか、あの時、私達が幕府の者とは見えなかったと思いますが、何故、逃げたのでしょ


うか。」


 何故、彼らは隠れる様にしてまで逃げたのか、田中は武士だが三平は誰が見ても農民で有り、何故逃


げる必要が有ったのだろうかと田中は思って要る。

 

 やはりあの三人組は官軍を脱走したのだろうか、だが井坂の話では幕府軍から逃げたと言うが田中は信


頼出来る、その田中が嘘を話す必要も無いので有る。


「田中様、その一人は井坂と言う侍の姿ですが、私は何かを隠して要ると考えております。


 其れより、田中様、三平殿もその井坂と顔を合わせても知らない振りをして頂きたいのですが、宜しい


でしょうか。」


 源三郎は井坂と言う人物をまだ信用していない、それどころか何かを探りに来たのでは無いか、其れで


無ければ源三郎が何も知らないと思えば本当の話はせずに適当なところで作り話をしていると考えねばな


らないので有る。


「はい、勿論です、でもあの時の姿では無いので、多分、分からないと思いますが、まぁ~さんちゃんも


気を付けて下さいね。」


「うん、オラは何も言わないし、何も知らない事にします。


 其れにオラは農民だからその人が聴く事も無いと思いますので。」


「ですが、井坂に知られた時には。」


「まぁ~其の時になれば適当に誤魔化しますから。」


 あの時、田中は髭と頭はぼうぼうで着物はぼろぼろで有り、三平も髭は剃らずにおり、今の二人を見た


ところで簡単にいや殆ど分からないだろうと源三郎は思って要る。


「其れで他に何か有りますか。」


「源三郎様、山の向こう側ですが、私達が行った頃はまだ平静で戦などは起こっておらず、其れに野洲に


戻る時にも農村は最初の頃と、そうだこれはさんちゃんから話して欲しいんですよ。」


「えっ、オラが話すんですか。」


「そうですよ、だって私は農民さん達の事は全然分かりませんからねぇ~。」


「はい、分かりました、じゃ~源三郎様、オラが見たところでは向こう側の農村も農民も何も変わって無


かったと思います。」


「そうですか、其れでその付近一帯は農村なのですか。」


「まぁ~殆どが農村でして、野菜とお米を作ってました。」


「其れで広さは分かりますか、其れと農家は。」


「はい、オラ達が山を下りる時に確か大きな岩が有ったんですよ、其れでその岩に登りましてよ~く見え


ましたが、まぁ~其れが見渡す限りが田んぼと畑で其れは驚きましたよ。」


「へぇ~そんなにも広いのですか。」


「はい、端から端までず~っとでしたけど、まぁ~あれだけ広いと、もう~オラにはお米がどれくらい取


れるのかも分からないですよ。」


「源三郎様、私も見ましたが、さんちゃんの言う通りでしてあれは広いって言う様な田んぼと言う様な


大きさでは無かった様に思えるので御座います。」


「では、畑もですか。」


に「勿論、有りましたよ、田んぼの中にですが。」


「では農家は。」


「はい、オラの見たところでは村は見えなかったんです。」


「あれは多分山の麓に有ると思いますが、残念ですが岩の上からでも見えませんでした。」


「では下まで降りて行かれたのですか。」


「其れは出来ませんでした、山の麓が見えませんので農家だけなのか、其れとも他の家でも有るのか確認


出来ませんので中腹を山賀の方に向かって進んだので御座います。」


「では歩くのも大変だったでしょうねぇ~。」


「其れはもう大変で辺り一面が熊笹だったんで、オラと直さんは顔と手も足も隠して行きました。」


 源三郎は中川屋の話を思い出した。


 山の向こう側では大豊作だと、では今回の買い付けも田中が言う広い田んぼの有る農村に向かうのだ


ろうか、だが、田中の言う農家が見えない、いや、多分、田中の話が正解なのだ、山の麓に農家が点在し


中心には名主が要るはずだ。


「でも、其れだけ広いと一体何処に出るのですか。」


「私達は夕刻近くに丁度祠が有る所に出ましたので、その祠で一夜を明かし、翌朝、まだ薄暗い時に祠を


出て同じ様に歩きその日の夕刻近くに何処の藩か分かりませんが宿場に入る事が出来たのです。」


「では、三日も山から下りずにですか。」


「はい、其れは若しもと考えましたので其れに宿場では何事も無かったです。


 別に幕府の軍勢や官軍らしき姿も見ておりませんでしたので。」


 ではあの井坂が言った事は嘘だと、若しかすれば井坂達三名は官軍を脱走したのでは無く官軍が進む方


向を調べていたのだとすれば井坂を野洲から出す事は出来ない。


「では、その夜は。」


「はい、宿に入り風呂に入って直ぐ宿場の飲み屋に行きましてね。」


「何か分かったのでしょうか。」


「ええ、其れで私達は遠くから来ましたのでと話しを聞き出したいと思い、この付近一帯には幕府の軍隊


はいないかと別の旅人らしき男にも聞きましたが答えは同じでした。」


「そうでしたか、ですが何かを感じませんでしたか。」


「はい、其れから暫くして宿に帰り、番頭さんに次の宿場まではどれくらい有るのかを聴きましたとこ


ろ、やはり宿の番頭さんですねぇ~色々な情報が入って来るのでしょうか、この先五つ目の宿場が何やら


怪しい事になって要ると。」


「五つ目の宿場と申されますと、山賀を遥かに過ぎたところになりますねぇ~。」


「源三郎様、オラは怪しいって意味が分からなかったんですよ、だって宿場が怪しいって一体何がって


思ったんで若しかして幽霊でも出るのかって。」


「三平殿、誰でも同じですよ、私も宿が怪しいって聴けば直ぐに幽霊がって思いますよ。」


「源三郎様が思うんだったらオラが間違ったんじゃないですよねぇ~。」


 三平の言う事も一理有る。


 三平は農夫で田中と知り合うまでは野洲以外の事は全く知らずにいた、其れが何かの拍子で田中と都付


近まで行く事になり、其れからは世間の見方も変わって来た、だが、やはり怪しいとは人の事を言っても


正か宿場とは考えもしなかったので有る。


「では、其れからが大変だったのでは有りませぬか。」


「はい、ですがその前に飲み屋で一人の商人らしき人物が私達を見つめておりまして。」


「あ~あの男ですね。」


 三平も何か変な男が見て要ると田中に言ったが、其の前から田中は知っていた。


「そうですよさんちゃん、あの男ですよ、あの男が一番怪しかったんですよ。」


「飲み屋で怪しい男ですか。」


「はい、その男は私達よりも後から入って来たのですが、周りを見渡してからその後私達二人をじ~っと


見てました。」


「では、商人でしょうか。」


「はい、其れで暫くしてからその男が近付き私に一緒に宜しいですかと、其れで私も宜しいですよと言っ


たのですが男が突然話し始めたのです。


 本人は遠くの国から来て西の方に買い付けに向かうのだと、でも、私は誰が見ても薄汚れたと言うより


もぼろぼろの着物を着た浪人でさんちゃんは農民でしょう、其れなのに、何故、買い付けに行く商人がと


最初は思ったのですが。」


「やはり、商人では無かったと。」


「ええ、其れで明日はどちらえと聴きますので、私達は別に行く当ても無いので暫くは西の方に行こうか


と考えて要ると言いましたら、では一緒に行きましょうかって、旅は道連れが良いでしょうからと申しま


すので。」


 やはり何か有ると田中は睨んだのだので有る。


「では、何か他に目的が有るのですね。」


「源三郎様、普通、誰が考えても不自然だと思います。


 浪人と農民、其れもぼろぼろの着物を着た二人に、誰が見ても商人ですよ、何処から見ても余りにも取


り合わせが不自然としか見えないでは有りませぬか。」


「う~ん確かにですねぇ~、ですが田中様を誰かと間違えて声を掛けたと言う事は考えられませんか。」


「はい、私も最初同じ様に思いました。


 この男は我々を誰かと勘違いして要るのかも知れないと、ですが、他の目的が有って近付ける人物を探


していたとも考えられますので私は何も聴かなかったのです。」


「まぁ~その様に考えれば確かに怪しいですが、でも、商人の姿ならば他の人達にも声は掛ける事は出来


ると思うのですがねぇ~、でも何故でしょうかねぇ~。」


「其れが全く分からないのです。


 其れから暫く飲んで私とさんちゃんが店を出ようとした時でした、此処の支払いはとその男が支払い、


宿は何処ですかって聴きますので、私はこの隣の宿ですよと申しますと、じゃ~同じ宿ですねぇ~って、


何から何まで知って要るかの様でしたが、私達が宿場に入る時も其れらしき男の姿は見ておりませんでし


たのでまぁ~偶然だと思い、でも正かねぇ~。」


「えっ、では、やはり何か有ったのですね、商人では無く幕府の。」


「いいえ、其れが明くる日の朝三人が揃って宿を出まして、暫く行きますと同じ様に後ろから数人の浪人


らしき侍が付けて来る様に思ったので、私は何気なく草鞋の紐を結び直した時に顔を見たのです。」


「浪人では無かったと言われるのですか。」


「はい、其れがその者達が声を掛けて来まして、幕府の者では無かったのです。」


「えっ、幕府の者では無いと言う事は官軍のですか。」


「はい、其れに商人と言う男、実は官軍の密偵で取り潰された藩の浪人が集結し、官軍を攻撃すると


まぁ~訳の分からない事を言っておりまして、私はこの男が官軍の密偵だとは考えられないのです。」


「其れにしても、その男の話ですが時々意味が分からないですねぇ~、其れに浪人狩りをして要ると。」


「はい、私もその様に聞こえましたが、でもさんちゃんは農民ですよ、誰が考えても浪人と農民が一緒に


旅をすると思いますか、其れで私は何時もの大嘘を言ったのです。」


「ですが、浪人達は全く聞く耳は持たないと言う話しなのですね。」


「はい、でも私は話し続けたので御座います。

 

 この先も幕府とは一切関係は無いって、でも、無理でした。


 奴らには訳などは関係は無いのですねぇ~、相手が幕府の者では無いと分かっていても、まぁ~余程幕


府に恨みを持って要るので御座いましょうか。」


 その浪人達は官軍の名を使い旅人を襲っていたのではないだろうか。


 官軍の名を言えばどの様な悪事を働いても許されると思っており、源三郎はその浪人達は官軍の名を語


り旅人から金子を奪う新たな手口の浪人達では無いかと考えたので有る。


「では、官軍の者達では無かったのですか。」


「まぁ~其れが突然刀を抜き切り掛かって来ましたので、私も仕方なく浪人達を返り討ちにしまして。」


「源三郎様、直さんって凄いですよ、オラが目を瞑ろうと思ったんですが、まぁ~其れよりも早く浪人は


倒れていました。」


「ほぉ~、では田中様は抜刀術を。」


「はい、少しだけですが。」


「で、その商人の男ですが、侍でしたか。」


「其れが違いまして、本人は本当に商人だと申し傍で震えておりました。


 倒した浪人者ですが一人はまだ生きておりましたので聞き但しましたところ、彼らは浪人では無く、本


当の官軍の者達で五十人程の兵隊を探して要ると。」


「えっ、五十人もの兵隊を探して要ると、ですが五十人の兵隊と言えば大変な人数ですよ。」


「其れが先程の宿場まで探したが一体何処に隠れて要るのか一人も見付からないと言うのです。」


 では、あの三人組も同じ仲間なのか、其れにしても五十人の兵隊が本当に脱走したのか、其れとも知ら


ない土地で道に迷ったのか、だが、五十人全員が道に迷うとは考えられないので有る。

 

 やはり五十人は集団で脱走したのだろう、其れに源三郎が見たのは三人だけだ、では、残りの四十七名


は今頃何処に潜んで要るのだ。


「田中様、私が先程申しました様に官軍兵の三名は見付けましたが、では残りの四十七名は一体何処に隠


れたのでしょうかねぇ~。」


 この地は山賀とは近くでは無いが若しも山賀の山に入ったとすれば大変な事態になる。


「田中様、その四十七名ですが武器は。」


「はい、其れが全員が連発銃を持って要ると申しております。」


「連発銃ですか、私が捕らえた者達も連発銃を持っておりましたよ、其れに弾薬は百発以上も持っており


ましたので、其れにしても、う~ん一体何処に隠れているのでしょうかねぇ~。」


「源三郎様、商人の男が言うには脱走した五十人は官軍のやり方に相当不満を持っていたと言うのです


が、でも私は余り信用出来ないのです。


 私は一人や二人ならば話は別ですが、でもこの男の言う事が一体何処までが本当で、何処までが嘘なの


か其れが分から無かったので御座います。」


 田中が言うのは間違いは無いだろう、一人や二人の脱走ならば可能だ、だが一度に五十人もの兵士が、


其れも大量の弾薬を持ち果たして脱走する事が可能なのか、源三郎は商人の男も本当の話をしていると


思って要る。


 相手は商人だ別に本当の話をする必要も無く、だが、其れよりも何の目的で五十人の兵士がと思うのだ


が、今は井坂と言う一人の官軍兵だけの話だけで事実は分からない。


「では、田中様は別の目的があって五十人の兵士を送り出したと思われるのですか。」


「はい、私はどの様に考えても納得が出来ないのです。


 仮に官軍兵が一万人だとしても、五十人の兵士が一人百発以上の弾薬を持ち出す事が果たして出来るの


でしょうか、私はそれ程にも官軍は兵士達を甘やかすとは考えられないのです。」


「確かに田中様の申される通りですねぇ~、私も官軍と言うのを見た事は有りませんが、本当に脱走した


と言うならば余りにも武器の管理がずさんだと考えられますからねぇ~。」


「源三郎様、其れと商人の男の話ですが、官軍はまだ近くには来ておりませぬと。」


「そうですか、では今頃は。」


「はい、まだ殆どが九州だと言っておりました。


 商人の男の話が本当だとすれば、山賀に近付くのはまだ当分先の話だと考えられますが。」


「そうですか、其れで商人の男は。」


「はい、私は商人の男を利用する事を考えまして。」


「其れは商人の男と一緒に西に向かうと言う事なのですか。」


「はい、其れで彼らの金子を取り三人で西に向かう事になったのですが、商人の男も命が欲しいと申しま


して故郷に帰りたいと申しました。」


「ですが、途中で逃げると言う事も考えられませんでしたか。」


「まぁ~其れが反対でして、私が浪人達を簡単に片付けたのを見ておりましたのが余程恐ろしかったので


しょうか。」


「余程、田中様が恐ろしく見えたのですかねぇ~。」


「まぁ~其れは私も分かりませんが、其れからは三人で西へと、まぁ~その内に何かを少しづつでも話す


だろうと思いましたのでのんびりと歩きました。」


 源三郎は山賀の吉永に文を出し、山賀の役人には領民以外の者達が山を越え侵入するかも知れないので


警戒を厳重にする様にと、だが今は山賀も家臣の殆どが居ないはずだ、その中で侍姿なのか、其れとも官


軍の軍服を着て要れば直ぐに分かるはずだと思った、その時。


「源三郎。」


「殿。」


「何が殿じゃ、余も仲間に入るぞ、雪乃、酒を持って参れ、其れと例の物が有るじゃろ。」


「殿、例の物と申されますと。」


「雪乃、恍けるで無いわ、片口鰯じゃ。」


 何故、殿が片口鰯を知って要るのだろうかと、雪乃は思って要る。


「昨日、賄い処に漁師が来たで有ろう、うん、如何じゃ。」


 賄い処の吉田は知らない振りをして要るが、今の殿様は何時賄い処に来るか分からない。


「吉田、余は知っておるのじゃぞ。」


 殿様は片口鰯が届けられたのを知って要る。


「はい、承知致しました。」


 雪乃は知られたので有れば仕方がないと思った。


「源三郎、何故余を避けるのじゃ。」


「殿、私は別に殿を。」


「いや、のぉ~田中、お主も思うじゃろ、何故にお主達だけで飲んでおるのじゃ。」


「其れは田中様と三平殿が、今夕餉を其れで私もと思いましたので。」


「のぉ~三平、余も仲間に入るぞ。」


「はい、お殿様。」


 三平は頭も上げれず、ただ話を聴いて要る。


「今宵は田中と三平が無事戻ったのじゃ、田中の話は明日でも良いでは無いか。」


「はい、承知致しました。」


「お~誠、良い香りがするぞ、うん、これは正しく片口鰯では有るまいか。」


 殿様は片口鰯が焼ける臭いまで分かるのだろうか。


「殿、お待たせ致しました。」


 雪乃は片口鰯を十数尾焼き、お酒と一緒に持って来た。


「雪乃、何か作っておるのか。」


「はい、今、加世様とすず様が。」


「一体何を作っておるのじゃ、のぉ~聴かせてくれぬか。」


「でも、私も詳しくは存じませぬので。」


「何じゃと、雪乃が知らぬと申すのか。」


 賄い処の奥からは香しい匂いが漂って来る。


 源三郎も初めての匂いで、だが、田中は分かった。


「殿、あれは煮干しを醤油で煮ております匂いで御座います。」


「何じゃと、煮干しじゃと、一体何じゃその煮干しとは。」


「殿が夕餉の時に食される煮物などの出汁を取る為の小魚で御座います。」


「何じゃと、では余も食しておったと申すのか。」


「いいえ、出汁を作る為の小魚で私も他国で食した事が御座いますが、これが誠に美味しいので御座いま


して。」


「何じゃと、其れ程にも美味だと申すのか。」


「う~ん、其れは何とも申し上げられませんが。」


 其の時、加世とすずが煮干しを醤油で味付けした物を持って来た。


「殿、一度お食べ下さい、私もこれは美味しいと思います。」


「よ~し、田中、分かったぞ。」


 殿様は初めて食べたのだが。


「う~ん、これは美味じゃ、吉田、このような美味の小魚を何時も食しておるのか。」


 賄い処の吉田も女中達も困った顔をして要る。


 片口鰯といい、煮干しの醬油付けまでもが殿様に食べられると、これは一大事だ思った。


「加世、これは賄い処で食しておるのか。」


 加世も困って雪乃の顔を見て要る。


「殿、このような小魚は賄い処では最高の食べ物で、殿が食されますとお女中も腰元達の楽しみが無くな


りますので、どうか今日だけにして頂きたいので御座います。」


「う~ん、雪乃、其れでは余の楽しみが無いではないか、余はのぉ~もう一人で味気の無い部屋で食する


のは嫌なのじゃ。」


「殿、その様に皆を困らせてはなりませぬ。」


「うん、分かった、じゃがこの片口鰯だけは譲れぬぞ良いな。」


「はい、分かりました、では、私が殿とご一緒に食させて頂きますが、其れで宜しいので御座いしょう


かねぇ~。」


 雪乃は殿様の困った顔を見て楽しんで要る様にも見える。


「何じゃと、余が雪乃とか、何と恐ろしい事を申すのじゃ、其れはならぬぞ絶対にならぬ。」


 雪乃が傍で一緒に食べると言うのだが、殿様は何故拒否するだろうか。


「何故で御座いますか、私ではご不満なので御座いますか。」


「余は雪乃が誠恐ろしいのじゃ、源三郎もだが雪乃は余には源三郎よりも恐ろしいからのぉ~。」


雪乃はニコリとして。


「では、誰が宜しいのですか、加世様ですか、其れとも。」


「何じゃと、加世じゃと、余は加世もすずも恐ろしいのじゃ、余はのぉ~この城の女子がこの世では


一番恐ろしいのじゃ。」


「ねぇ~源三郎様、お殿様は何でこんな綺麗な人が恐ろしいんですか、オラだったらもう大喜びでお願い


しますよ。」


 雪乃も加世もすずも笑いを堪えて要る。


「三平さん、このお城の女性達は殿に対し平気で意見しますのでね、まぁ~其れよりも奥方様が殿様を


追求しますよ、其れが身震いするくらいの恐ろしさですからね、殿は其れが一番恐ろしいのでしてね。」


 三平の表情が変わった。


「えっ、そんなに恐ろしんですか、オラはもう直さんオラは早く帰りたいですよ。」


「源三郎様、その様な話をされますと、ほら、さんちゃんが本気で怖がってますよ。


 さんちゃん、殿様はねぇ~その会話を楽しんでおられるのですよ、ほら見て下さい、他の女性達はね殿


様のお話しが冗談って分かっておられますからね。」


「えっ、本当なんですか、なぁ~んだ、オラは本当にお殿様が恐ろしいって言ってるって思ったのに、


せっかくお殿様って可哀想だと心配してたのに、あ~ぁ、オラ何か損した様な気分ですよ、ねぇ~直さ


ん、そうでしょう。」


 三平の話に殿様も女中達も加世達も大笑いして要る。


「殿、余り三平さんをいじめないで頂きたいので御座います。


 私には一番大切な相棒なのですから。」


「其れは済まぬ事をしたのぉ~、三平、許せよ、余の悪ふざけじゃ本当に済まぬ。」


 殿様は三平に謝り、其れは加世とすずが野洲に残りたいと言う本当の理由で有る。


 其れと言うのも殿様自身が何かに解放された様に毎日を楽しんで要るようで、これが領民達とも上手に


行っているのかも知れないので有る。


「雪乃、この煮干しは誠に美味じゃぞ、加世、他に何か作って要るのか。」


「はい、私は松川の家で母からも教えて頂き、出汁を取った後の小魚もですが海藻も使いまして。」


「加世の母とは。」


「はい、松川の窯元で御座います。」


「ふ~ん、じゃが加世の母上は色々な事を知っておるのじゃのぉ~。」


「はい、母が言うには窯元に嫁いでからは義母から全てを教え込まれたと申しており、私も幼い頃より教


えて頂いのです。」


「のぉ~加世、今度、余に秘密で作ってはくれぬか。」


「殿、殿が秘密だと申されましても、今、此処に要る皆様が聴かれ知られましたので幾ら殿が秘密で作れ


と申されましても秘密にはなりませぬが。」


「そうかやはり駄目なのか、では仕方が無いのぉ~。」


「殿、私が作りますので。」


「何じゃと、雪乃が余の為に作ってくれると申すのか、いゃ~誠嬉しいぞ。」


 殿様はニコニコとしたが。


「いいえ、私は源三郎様の為に作るので御座います。」


 雪乃はニッコリとし、源三郎の顔を見ると。


「やはりのぉ~源三郎、やはりこの城では女子が一番恐ろしいのぉ~。」


 だが、殿様の表情が明るい。


「はい、確かに私もその様に思います。」


 源三郎も雪乃も笑って要る。


「源三郎様、お殿様が一番恐ろしいですよ、オラはもうお城に来るのが怖くなりました。」


「三平、そうか、そうか、三平だけじゃ、余の見方になってくれるのは。」


 何故か何時もの殿様では無く妙に明る過ぎる、其れに何故だか分からないが、殿様は本心では話してい


ないと源三郎は思ったので有る。


「さぁ~三平も飲め、飲むのじゃ、じゃが良くぞ無事で戻って参ったのぉ~、余は其れだけで十分なの


じゃ。」


「殿、明日、報告させて頂きます。」


「いや、田中、報告は源三郎にだけで良いぞ、余が聴いてもさっぱり分からぬからのぉ~、では、余は戻


るぞ、源三郎も皆も頼むぞ。」


「はい、承知致しました。」


 今の様子を見ていた、雪乃も何時もの殿では無いと感じていた。


「なぁ~直さん、オラはもう飲み過ぎだよ。」


「三平さん、此処で眠るのは駄目ですからね、お部屋に戻って下さいね。」


 雪乃は優しく諭す様に言うと、三平はニコッとし加世が部屋まで送って行った。


「田中様もお部屋に戻られては如何でしょうか。」


「はい、私も少し酔いが回って。」


「では、明日、またお聞かせ下さい。」


 田中もすずと一緒に戻って行く。


「源三郎様、殿は何かを感じておられるのでは無いでしょうか。」


「雪乃殿も分かりましたか。」


「はい、何時もの殿では御座いませぬ。


 何か分かりませぬが、異常な程に明るく振舞われておられる様に感じたので御座いますが。」


「ええ、私もです、我々の話を聴かれておられませんのでねぇ~、其れに城中では何事も起きてはおりま


せんから。」


「まぁ~明日になれば、何か分かるかも知れませんねぇ~。」


「はい、私もその様に思っておりますよ、では、雪乃殿、そろそろ帰りましょうかねぇ~。」


 源三郎が雪乃と二人で自宅に帰るのは初めてなのか、雪乃は内心ドキドキとして要る。


「はい、では直ぐ支度をしますので。」


 雪乃は慌ただしく帰り支度を終え、直ぐ戻って来た。


「源三郎様。」


 雪乃の顔が何やら少し赤みを帯びて要る。


 源三郎は何を考えて要るのだろうか、雪乃は胸が激しく鳴る様な気がし、若しや源三郎に悟られるので


はないかと、いや、源三郎は既に気付いて要るのではと思うと急に赤く染まるのを覚え、やはり、その夜


は源三郎と雪乃は激しく燃えたので有る。


 そして、明くる日の朝、源三郎は何事も無かったかの様に登城し、そのまま何時もの執務室に入ると


鈴木、上田と田中が待っていた。


「源三郎様、お早う御座います。」


「田中様、もっとゆるりとされれば良かったのですよ。」


「いいえ、その様な訳にも参りませぬので。」


「其れで、三平さんは。」


「はい、まだ眠っておりまして、私も無理に起こす必要も無いと思いましたのでそのままに。」


「総司令、先程、田中様より、昨日お話しされました内容をお聞きし一応書き留めて置きました。」


「そうですか、其れは有り難い事ですねぇ~、私も昨日は久し振りに飲みましたので帰宅したら直ぐに眠


ってしまい、其れにまだお酒が残っておりまして皆様には申し訳御座いませぬが何卒お許しの程を。」


「いいえ、我々は総司令も日頃の激務で大変なお疲れだと承知致しておりますので、其れに、たまには


ごゆるりとして頂きたいと願っております。」


 鈴木もよ~く分かって要る。


 鈴木と上田は日頃源三郎の指示を克明に書き写し、清書し、各藩に送っており、いわば影の存在で源三


郎にとってはなくてはならない存在で有る事に間違いは無い。


「では、拝見させて頂きます、其れに昨日飲みましたので私も忘れておりますのでね。」


 源三郎は受け取るとじっくりと読み、田中と上田、鈴木は静かに見て要る。


「有難う、では続きになりますが、その前に一応切りの良いところで同じ物を後三部書き写し、菊地の高


野様、上田の阿波野様、松川の斉藤様、そうでした、山賀の吉永様にも届けて頂きたいのです。」


 鈴木が別の家臣に渡し、家臣が書き写しを始めた。


「総司令、田中様からのお話しですが、我々は余りにも世の中の動きを知らなさ過ぎたのでは無いかと思


うのですが如何で御座いますか。」


「確かにその様かも知れませんねが、かと言って我々が世の中の全てを知る必要も無いとは思うのです。


 連合国になる以前ですが、五つの国は有る意味で高い山のお陰で向こう側の国からも攻められる事も無


かったのですから。」


「確かにそうかも知れませぬ、ですが我々は良くも悪くも高い山に助けられていたでは有りませんで


しょうか。」


「ええ、私も同じ様に思いますよ、ですが田中様のお陰で我々には色々な情報が入りこれからは我々も考


え方を改めなければならない時期に来て要る事は確かだと思うのです。」


「総司令、では今後田中様の様な情報収集を専門に行なう人物が必要になると思われるので御座いま


しょうか。」


「はい、私はこの国がどの様に変化するのか、その変化に我々も追随しなければ、例え連合国から微かな


人達が生き残っていたとしても、世の中の変化に追随出来なければ本当の意味で生き残ったとは思えない


のです。」


 源三郎は今のままでは連合国は本当に生き残れはしないのだと考え方を改め始めたので有る。


 確かに以前の幕府がこの先、十年、いや、五十年、百年と続くので有れば高い山に囲まれた連合国は


生き残れるのは間違いは無い。


 しかし、世の中と言うのはそれ程にも甘くは無く、五年後、十年後には大変化が起き、その大変化に対


応出来なければ五か国連合と言えども簡単に潰されるは間違いは無い。


 五か国連合が生き残れる為には世の中の情報収集が大事だと考え、飯田、森田、上田に対し情報収集専


門の任に就かせる事を考えた。


 源三郎が入るその少し前から飯田、森田、上田の三名が入り田中の報告を聞いて要る。


「飯田様、森田様、上田様に大変な任務をお願いしたいのですが、田中様が参られましたと所とは別の方


面に向かって頂き、現在の状況と将来はどの様に変化するのか、其れを調べて頂きたいのですが、如何で


しょうか。」


「総司令、私はそのお言葉をお待ち致しておりました。」


 飯田は其の時身体が前に進むと言うのか、其れは飯田だけで無く、上田も森田も待っていたかのよ


うで飯田達の目が輝くのを源三郎は見逃さ無かった。


「総司令、私もで御座います、私は以前より是非にもと考えておりました。」


「総司令、私も勿論喜んで参りたいので御座います。


 実は田中様のお話しを伺っておりました時ですが、我ら三名は総司令にお願いしようと話し合っており


ましたので今は大変嬉しく思って要るので御座います。」


「そうでしたか、ですが大変危険を伴う任務だと考えて頂きたいのです。


 官軍とは一体どの様な組織なのか、そして、新しい政府とはどの様な政を行なうのか、私は井坂だけの


話では信用が出来ませんのでね、以前から田中様と同じ様な任務に就ける人物を探していたのです。


 情報収集と言うのは誰にでも出来ると言うものでは無いと思っておりまして人選が進まなかったの


でお許しを願います。」


「総司令、私は総司令の為、いや、連合国の領民達の為に命を掛けまして参りたいと考えておりましたの


で大変嬉しく思っております。」


「上田様、ですが命は大事ですよ、若しも命を無くしますと上田様が集められました情報が届かずになり


ますのでね命だけは大切にして下さい。」


「はい、申し訳御座いません。」


「私は田中様が集められました情報を分析し、これからの連合国領民が生き残れる方法を探らなければな


りませんのでね、まぁ~その様に申しましても皆様の事ですから、はい、分かりましたと言いつつも可成


り危険な事にも遭遇すると思いますので申し訳無いと思って要るのです。」


「総司令、私も三平さんも危険な状況に何度も遭遇したと思っております。


 ですが、私は三平さんがおられたお陰と申しますか、その度事に私は三平さんに助けられたと思ってお


りまして、今は三平さんが一番信頼出来ると思っております。」


 田中は野洲の武士で三平は野洲の農民だ、農民と言うのは元々が辛抱強く、武士の辛抱強さとはまた意


味が違い田中は三平がいたお陰と言うのは、三平の辛抱強さに助けられたと言う意味なのだと言いたいの


で有る。


「田中様、では、我々も農民さんを連れて行けば宜しいでしょうか。」


「う~ん、ですが其れは大変難しいですよ、農民さんで有れば誰でも良いと言うのでは有りませんから、


やはり相性と言うのが有ると思いますが如何で御座いましょうか。」


「飯田様、上田様、森田様にはお一人で向かって頂きたいのです。


 其れと今直ぐにとは参りませぬので、田中様の報告が終われば、田中様と綿密に打ち合わせを行ない、


数十日を掛けてから出立して頂きたいのです。」


「何故でしょうか、私は今からでも参りたいと思って要るのですが。」


 森田は何故に急ぐのだ、源三郎は田中から指示を聞く様にと言って要るのだ。


「森田様もですが、今のお姿では官軍の兵士達に見付かれば直ぐ殺されますよ。」


「田中様、私達も田中様と同じ様に髭を伸ばし、髪の毛もそのままにする方が良いのですか。」


「はい、勿論で私も其れだけの時を掛けた方が良いと思います。


 何故ならば、野洲のお城の門番にも知られる様では計画が失敗すると思うので御座います。


 まずは身内の家臣にも知られないで行かなければならないのです。


 私と三平さんは誰が見てもぼろぼろの姿近くなってから野洲を離れましたので。」


「う~ん、やはり私の考えが甘かったのでしょうか。」


「はい、其れは申せます、確かに早く行く事も大事ですが、今の姿で有れば簡単に幕府の者だと思われ、


其れならば情報を集める事も出来ませぬので、まずはお城を出られて農村に行かれ、毎日、泥に塗れて過


ごされますれば着物も自然と泥と汗で其れに髭も髷も自然に見えると思います。」


 田中は情報を得る前から時を掛けて作戦を練り、其れは農村に入り農民と一緒に生活する事で幕府方に


も官軍方にも知られる事も無くなり、其れがやがて重要な情報を得る事に繋がって来ると確信して要る。


「総司令、では私達も田中様に教えて頂きまして農村に入ります。」


「其れで良いと思いますよ、田中様、三平さんの村に連れて行って頂きたいのですが。」


「はい、私も三平さんが村に戻られてからが良いと思いますので、名主さんには、まぁ~適当な理由を付


け話しますので。」


「はい、宜しくお願いしますね。」


 源三郎は田中と井坂の話では何も食い違いは無い。


 だか、やはり確かめたいと、其れに幕府の動向も知りたいと考えて要る。


「では、話しを戻しまして、田中様、昨日の続きなのですが、私は井坂と言う人物が仮にですが脱走兵だ


としましても何時頃部隊を出たのでしょうか、私が三名を発見したのが山賀のと言うよりも松川の領地な


のですが。」


「総司令、宿の番頭が言った五つ先の宿場でも官軍と言われる大軍は発見出来なかったのです。」


「ではその先は。」


「はい、私も不審に思い同行させて要る商人の男に聴いて見たのですが、商人の男も見ていないと申して


おりました。」


「では別の所を移動して要る可能性が有りそうですねぇ~。」


「はい、商人の男は北の方向に行っても海が有り、南の方向に行っても海が有ると申しておりまして、


其処は我々の知らない土地だと言う事だけは間違いは御座いませぬ。」


「では、菊地から松川まで続く海岸はその先までも続いて要ると申されるのですか。」


「はい、商人の男は遠くは奥州まで、西は九州までも足を延ばしたと申しておりました。」


「えっ、奥州から九州までと、其れは我々の知らないまだ多くの国が有ると言う事なのですかねぇ~。」


「はい、其れに間違いは無いと思います。


 其れで官軍ですが九州の薩摩と長州とが合体して旗揚げしたそうですが、其れ以上詳しくは。」


 何と源三郎の全く知らない地方の国名が有ると、それらに付いては全く情報が入って来なかった。


 やはり高い山に囲まれていたのが原因なのだろうかと思ったので有る。


「う~ん、私は全く知らなかったと言うのが本音でしてねぇ~、これ程にも悔しい事は有りません。


 其れで田中様は一体何処まで参られたのですか。」


「はい、一応九州までと思ったのですが、商人の男の話では九州へ渡るのは危険だと、私は何故か男の言


う話は本当の事を言ってる思いましたので九州には渡らず長州まで行き戻る事にしたので御座います。」


「長州と申されましたが。」


「はい、ですが私は別に急ぐ必要は無いと考えまして、其れで商人の男と私達は山陽道を長州へと進みま


した。」


「で、幕府軍は。」


「其れよりも、その前に五つ目の宿場で何が起きて要るのか、其れを調べるのか先決だと思いましたので


商人の男にも聴きましたが番頭の言う宿場には行っていないと言うのです。」


 五つ目の宿場で何が起きて要るのか、やはり五十人の官軍兵が通ったのか、其れとも幕府軍が集結して


いるのかが分からないので有る。


「で、田中様は勿論行かれたのですね。」


「はい、途中の宿場では何事も無く五つ目の宿場に着きまして、ところが商人の男は何かに怯えて要る様


子でやはり番頭が言った通りでして幕府軍の一部と数十人の官軍とが戦を始めた言うので、其れでその


場所ですが宿場を離れ北に向かうと山が連なっておりまして、その麓で殺し合ったと聞きました。」


「数十人の官軍とですか、若しや其れは五十人の兵士では有りませんか。」


「はい、その通りだと思われます。


 商人の男は其の時浪人達と一緒で巻き込まれるのを避ける為に山に逃げたと申しておりました。」


「ではその五十人の兵士は山に沿って行ったのでしょうか。」


「はい、街道を行くと発見されますので山の麓を進んでいたようですが、まぁ~運が悪かったのでしょう


か幕府軍に見付かったのだと思います。」


「ですが何故幕府軍は山沿いを行くのでしょうか。」


「総司令、私も不審に思ったのですが、其れは別として官軍兵の数十人は連発銃を持っておりその為幕府


軍は大勢戦死したそうです。」


「田中様、その話は何処で。」


「私が直接聞いたのでは無く、三平さんが農民さんから聴いてくれましね。」


「やはりですか、三平さんがおられますと農民さん達からの話が聞けるのですねぇ~。」


「はい、私が行きますとあの人達は必ず警戒し何も話してくれませんのでねぇ~。」


「やはり田中様の申されます様に三平さんの存在は大きいですよねぇ~、其れで五十人の官軍兵は脱走し


たのでしょうか。」


「いゃ~、其れだけは聴く事は出来ませんでした。


 其れで私は商人の男を開放と言いますか、私達は五十人の官軍兵が行ったと思われる方向に行く事にし


たのです。」


「田中様の考えは長州に行くのでは無く、その五十人の官軍兵が何処に何の目的で行くのかを知りたいと


思われたのですか。」


「はい、仮にですが、長州まで足を延ばしたとしても多くを知る事は出来ないと、私は其れよりも官軍兵


の一人からでも話を聴けるのでは無いかと思いましたので。」


 やはりか五十人の官軍兵は何かの目的の為に山沿いを進んで要るのか、其れとも源三郎が捕まえたと


言っても良い一人を探して要るのか其れが分からないので有る。


「其れで五十人の足取りは分かったのですか。」


「はい、三平さんが山沿いに有る農家から話を聴いてくれましたので。」


 やはりだ田中では聞けない情報を三平が集めてくれると言うので有る。


「其れで三平さんが聴いた話ですが、五十人の官軍兵ですが数人づつに分かれて山の麓を進んで要ると


の事で御座います。」


「ですがねぇ~、五十人もの食料はどの様に手配していたのですかねぇ~。」


「三平さんが聴いたところでは金子を出す者も要れば、略奪行為をする者も要ると。」


「其れでは全く野盗では有りませんか。」


「はい、其れで私は金子を少しですが渡して置きました。」


「其れは良かったですねぇ~、まぁ~何れの時には役に立つでしょうから。」


「はい、私は別に名乗りませんでしたが、三平さんが誰にも言わないと言う約束で我々の藩名を伝えたの


ですが農家の人達は我々の藩は全く聞いた事が無いと言ってたそうです。」


「へぇ~、では我々の存在は知られていないと言う事ですか、う~ん、ですがねぇ~これは何れ知れるで


しょうが、まぁ~当分の間は知られる事は無いと言う事になりますねぇ~。」


「はい、その話を聴いた農家は数十軒も有りました。」


「田中様が話しを聞かれた農民さん達ですが、山賀には近いのですか。」


「まぁ~近いと言えば近いのですが、山賀の西側にも高い山が連なっておりますので。」


「田中様、その高い山ですが山賀まで連なっているのでしょうか。」


「はい、山賀の山は海岸まで続いておりますが、すぐ西側でしてねぇ~山賀の山に連なる様に聳えており


海岸からはどの様な方法を使ったとしても簡単には山賀に侵入する事は無理だと私は思いました。」


 山賀の西方にも連なる高い山が有ると、だが五十人の官軍兵は一体何処を目指して要る。


 若しかすれば山賀の山越えも考えられる、だが今の山賀からも買い付けの護衛として殆どの家臣が出


払い、若しも五十人の官軍兵から攻撃を受ければ山賀は簡単に壊滅し、続く松川にも攻め込まれる事態も


考えられるが今は防ぎ様が無い一体どうすれば良いのだと源三郎は必死で考えを巡らせては要る。


「飯田様、上田様、森田様、今の話で五十人の官軍兵は先兵隊と考えなければなりません。


 お三方はこの様な情報を頭に入れ情報を集めて頂きたいのです。


 私が先程申しました様に時を掛け、田中様の情報を自分達なりに分析し、行動に入って頂きたいのです


がお分かりでしょうか。」


 飯田、上田、森田の三名は源三郎の説明で田中が行なって要る情報収集と言う任務がどれ程大変で重要


な任務か、其れが今やっと理解出来たので有る。


「総司令、其れでその五十人の官軍兵の行方ですが、私が調べたところでは山賀の山に登ったという様子


は御座いません。」


「其れは猟師さんからの情報でしょうか。」


「いいえ、農民さんからでして彼らは山に入ったとは言えない程の下を通って行ったと。」


「では狼を警戒しているのでしょうか。」


「はい、農民さんの話では付近の山には狼の大群が要るので猟師さん達の姿は頻繁に見ると申されており


ました。


 其れに官軍兵は私達よりも数日早く進んで要ると思われましたので、私は山の裾野と山側を警戒しなが


ら進むしか方法が無かったので御座います。」


「まぁ~其れは仕方が有りませんねぇ~、前には官軍兵が平地には幕府軍が現れる事も考えねばなりませ


んのでねぇ~。」


 この地域では官軍が来て要ると言う情報も無く、幕府の武士達が官軍兵を探して要ると情報が有る。


 前を行く官軍の兵士達も幕府軍が、いや其れよりも農民達に発見されない様にと山に少し入ったとこ


ろを歩いて要る。


 官軍兵士は連発銃を持って要るのに、何故だ、何故、見つからない様に進む必要が有ると言うのだ。


 五十人の官軍兵ならば、百、いや二百人の幕府軍の武士達ならば簡単に殺す事も可能だ。


「其れで田中様は官軍の兵士達を見付ける事が出来たのですか。」


「はい、其れが私と三平さんは山に入ったり出たりでして、其れが四~五日程進んだところで一人が遅


れて要るのを偶然ですが見付ける事が出来たのです。」


「やはり、一人がはぐれたのでしょうか。」


「ええ、多分ですが前を行く仲間の兵士の姿を見失ったのだと思います。


 その兵士ですが武器の連発銃を持ってはおらず、其れでしょうか森の中を歩くのがやっとだと言う様


な状態で、でも私は今はまだ早いと思いましたのでその日は何もせずに夜を迎えました。」


「ですが夜になると狼が出没するするのでは。」


「はい、私と三平さんは畑の名の中に隠れ夜を明かしました。」


 田中と三平は畑の中で夜を過ごしたと言うのだが、畑には猪も出没し畑の作物を食い荒らすので危険で


は無いのだろうか。


「ですが畑も危険では無かったのですか。」


「三平さんは猪が人間を襲う事は余程の事が無い限り無いと、猪は問題では無かったのです。


 其れよりも夜になるとさすがに寒くなりそちらの方が苦しかったでので御座います。」


 田中は暖を取る為の火も起こせず、だが山の麓を見ても官軍の兵士達も火を起こしておらず、やはり


発見を恐れたので有ろうか。


「直さん、あの兵隊ですよねぇ~。」


「そうでした、総司令、我々は兵士がへばって動けないだろうと思い、明くる朝からは兵士の後ろを


付けたのです。


 其れから三日目の朝、やはり動けなくなり他の兵士が先に行くのを確認しゆっくりと近付いて行き


ました。」


「其れでどうなりましたか。」


 飯田達も田中の話は正に危険と隣り合わせで有ると感じており、真剣な眼差しで聞いて要る。


 他の家臣達はと言うと一言も聞き逃してはならないと書き写しで必死で有る。


「ええ、其れでその兵士が動けないのを知っておりましたので話し掛けたのです。


 如何なされたのですかと、私の声掛けに兵士は驚きの表情でした。」


「まぁ~其れが当然でしょうからねぇ~、兵士も正か後を付けられているとは思ってもいないのですから


ねぇ~。」


「其れを言いますと何も聞けませんので、私も嘘を言ったんです。


 実は幕府の侍から逃げて来ましたら貴方を見付けたのだと。」


「其れならば、安心したでしょうねぇ~。」


「ええ、兵士は幕府の侍はどの辺りかと聞きますので、此処からは三日程離れたところで見えなくなった


と言いましたらやっと安心したのか、兵士はこの山は何処まで続いて要るのだと聴きましたので。」


「でも田中様は知っておられたのですか。」


「いいえ、其の時は正か山賀まで続いて要るとは知りませんでしたので、今度は正直に私も初めてなので


一体何処まで続いて要るのか分かりませんと。」


「其れで兵士は何かを話しましたか。」


「はい、実は司令部の三人が脱走したと言うのです。」


「えっ、司令部の三名がですか、田中様、その内の一人と思われる兵士が今野洲の城内に居りますよ。」


「えっ、正か其れは誠なので御座いますか。」


「ええ、本人が司令部の仕事に就いていたと申しておりましたのでね、私もこれは何かを知る事が出来る


だろうと思いましたので城では一番奥に有る部屋で今は書き物をしているのです。」


「其れで兵士が言うには三名の兵士は司令部で上官達の作戦を書面にし、伝令に渡す任務だとか、其れで


その兵士は何としても脱走した三名を捕らえる為にと派遣された兵士だそうです。」


「では司令部の兵士は重要な秘密に近い事までを知って要るのでしょうか。」


「その兵士も早く捕らえ故郷に帰りたいと、でも片足からは大量に出血しており相当苦しそうでした。」


 そうかやはり井坂は司令部の人間なのか、その井坂は記憶を辿りながら書き出している。


 追っての兵士が言う事は本当だろう、井坂がどれだけの内容を書き出すのか、源三郎は待つしか無かっ


たので有る。


「其れでその兵士は連発銃を持っていなかったのですか。」


「はい、本人が別の兵士に渡したと、でも兵士は助けてくれと言うのですが我々では何も出来ないと申


しましたら脇差で自害し、其れ以上の話を聴けなかったので御座います。」


「田中様、其れで十分ですよ、私も井坂と言う官軍の兵士はまだ信用はしておりませんのでまぁ~、


これで井坂を少しは信用しても良いと思いますが、でも今はまだ無理ですねぇ~。」


「ですがその兵士を放置しても良かったのですか。」


「私も気にはなりましたが、其れよりも先に行った他の兵士の動きを確かめる方が先決だと思いましたの


で直ぐ後を追い掛けたのですがやはり駄目で御座いました。」


「其れも仕方は御座いませぬ、一度離れると見付けるのは簡単では無いと思います。」


「はい、総司令の申される通りで、暫く付近を探したのですが、やはり見付ける事が出来ず、其れで一度


下に降りたのですが、有る所で少し見晴らしの効く場所が有り、其処から下を見ますと幕府軍らしき武士


の集団が西へと向かうのが見えたのです。


 其れで私と三平さんは再び山に入り、何時でも別の所に行ける様にと思ったのですが最初に来た道と言


いますか下った所が分からなくなり、其れで登って下るまでに五日間も掛かりました。


 でも何とか帰る事が出来たので御座います。」


「田中様も三平さんも大変ご苦労様でしたねぇ~、まぁ~当分の間は何も無いと思いますので、何もされ


るずにゆっくりとして下さいね。」


「はい、また何かを思い出しますれば報告させて頂きますので。」


「はい、其の時は宜しくお願いしますね。」


 源三郎は今全てを聴く必要も無いと、其れよりも田中が思う以上に大きな成果で有る。


 野洲の家臣達もだが連合国の人達は山を越えずとも何不自由無く生活が出来るので有る。


 その様な時に田中は連合国の誰もが知らない土地へと向かっていたので有る。


 西からは官軍が幕府の滅亡を目指して進軍して来るだろう、片方の幕府も滅亡を阻止すべく大軍を送り


出して要る事には間違いは無い。


 お互いの戦力は分からないが幕府軍の武器と言えば全てが旧式で反対に官軍は新式の連発銃を持って


おり其れだけでも勝敗は分かるので有る。


 幕府はと言うよりもこの数百年間は武家社会が維持され、その中には権力を振りかざし甘い汁を吸った


多くの者達、巨万の富を築いた者、その様な者達にとっては今の幕府が崩壊する事だけは何としても避け


たいと思うのも当然で有る。


 だが果たして何処まで抵抗を続ける事が出来るので有ろうか、其れは何も武家社会だけでは無い。


野洲を始め、上田、菊地などは米問屋と海産物問屋は幕府の密偵で有りながら巨万の富を築いた。


 その問屋達も源三郎の努力で全てが解決したのも間違いは無い。


 この三百年間近く大きな戦も無く一応表面上は穏やかな時が流れていた。


 だが此処に来て地方で抑圧されて来た武家や農民、町民の不満が一気に爆発し、その中心となるのが


薩摩と長州とが合体した官軍で有る。


 源三郎は今までは幕府に対しての対策を考えていた、だが此処に来て方向転換が迫られるやも知れない


と考えるので有る。


 相手が幕府だけならまだしも対策の立て様も有るが、其れが全く情報すら無かった官軍ともなれば対策


の立て様も無いと言うのが現実で有る。


 田中の報告を受けて五日程経った頃。


「総司令、私は大変な事を忘れておりました。」


 田中が大慌て源三郎の居る執務室に飛び込んだ来た。


「まぁ~まぁ~少し落ち着いて下さいよ、何も慌てる必要も御座いませんのでね。」


「はい、申し訳御座いません。」


「田中様、其れで一体何を思い出されたのでしょうか。」


「はい、実はあの兵士が軍艦がどうのと言っておりまして。」


「軍艦ですか、その軍艦がどうしたのですか。」


 源三郎は若しや官軍が軍艦の建造は始めたのか、其れとも既に建造が終わり兵隊と武器を乗せ出港して


いるのだろうか、更に軍艦の規模も分からない。


「総司令、申し訳御座いませぬ、其れ以上の話が聴けずに。」


「いいえ、田中様、私は其れだけでも十分だと思っております。


 今は軍艦が完成したと考える他は無いと思いますので。」


「はい、その様に言って頂けるだけで御座いましたらならば、私の気持ちも少しは楽になります。」


「田中様は私よりも多くの苦労をされて来られたのですから私は大変感謝致しております。」


「総司令、有難う御座います。」


「はい、また何か思い出されましたらお話し下さいね。」


 田中はやはり気落ちしたのだろうか後ろ姿が何故か寂しそうで、源三郎は何を考えれば良いのか直ぐ


には分からなかった、だが。


「お三方、大至急、菊地、上田、松川に飛んで下さい。


 其れで船大工がおられるのかを調べて頂き、おられましたらばお連れ願いたいのです。


 詳しくは私が船大工さん達にお話しを致しますのでね、馬で行って下さい。」


 飯田達も田中の話を聴いており大体の予想は出来るので有る。


「はい、承知致しました、直ぐに参ります。」


 三人は執務室を飛び出し、それぞれの国に向かって馬を飛ばした。


 げんたの考案した潜水船は小型なので大工達も苦労したが完成した。


 だが源三郎が考えて要る潜水船はげんたの考案した二倍以上の大きさでその様な大きな船を造るには


船大工でなければ建造は無理で有ると、更にげんたは理解して要るが爆薬を積み込み、乗組員も倍以上


乗り込める必要が有る。


 源三郎は井坂の居る部屋に向かった。


 井坂からは軍艦の話は聞いておらず、井坂が司令部に在籍していたと言った、其れならば軍艦の話


も聞いているはずだと今の源三郎は井坂に対し何故か半信半疑となって要る。


「井坂殿。」


「源三郎様。」


「如何ですか。」


「はい、おいドンも思い出しながらなので苦労しております。」


「其れは大変で御座いますねぇ~、私もよ~く分かりますよ、其れで何か新しい事を思い出されましたの


でしょうか。」


 源三郎は田中から聴いた軍艦の事を聴きたい、果たして井坂は知って要るのだろうか。


「はい、実はおいドンは大変な事を忘れておりました。」


「其れはどの様な事なのでしょうか。」


「はい、実は大きな軍艦を建造すると言う話でして。」


「えっ、大きな軍艦の建造すると申されるのですか。」


「はい、でもおいドンは軍艦の図面は見ておりませんので大きさまでは分からんです。」


「まぁ~其れは仕方が有りませんよ、其れで何時頃完成するのか分かりますか。」


「源三郎様、其れが詳しくは分からんです。」


「そうですか、其れでは何隻くらい建造される予定なのでしょうか。」


「あの時の話では、え~っと、確か五隻だったと思うのですが。」


「そうですか、でも勿論軍艦は薩摩で建造されるのですよね。」


 源三郎は薩摩に巨大な火山が有る事も知らなかった。


「源三郎様、まぁ~其れが薩摩の海には大きな桜島と言う火山が有るとです。」


「えっ、火山ですか、私も初めて聞きましたが、その火山とは一体どの様な山なのでしょうかねぇ~、是


非とも知りたいのですが。」


「源三郎様、桜島と言う火山ですが、年中火を噴いておりまして大小無数の赤く焼けた石を、其れはもう


空高く吹き上げるとです。」


「えっ、何と申されました、大小無数の赤く焼けた石を空高く吹き上げると申されましたが、正かその様


な事が本当の有るのですか、赤く焼けた石を吹き上げると。」


「源三郎様、火山は本当に恐ろしいですよ、人間の拳位の大きさから人間の身体よりも大きな岩までが地


下から吹き上げて、其れが落ちて来るのでもう地獄ですよ、あれは本当に地獄です。」


「えっ、人間の身体位の岩が空高く上がるのですか。」


「そうですよ、そんな大きな岩が無数に落ちて来るので、桜島が噴火すると付近の領民は一目散に逃げる


とです、源三郎様、ですからそんな危険なところで軍艦は造れんですよ。」


 源三郎は火山と言う山の存在自体を知らなかったので驚いたので有る。


 桜島と言う火山は人間の身体位の岩石から拳大の石までが其れも無数に落ちて来るとは、その様に危険


な所では大きな船は造れないと、では一体何処で造ると言うのだ。


「其れでは別の所で造るのですか。」


「はい、薩摩の人間は桜島の恐ろしさを知っておりますので。」


「では一体何処で造られるのでしょうか。」


「源三郎様、長崎ですよ、長崎と言う所は昔から異国の船が出入りしておりましたので。」


 源三郎には驚きの連続で有る。


「えっ、長崎と言う国が有る事も知りませんでした。」


「源三郎様、其れはおいドンも同じですよ、こないに高い山の向こう側にお城が有る事も知らな


かったですから。」


 井坂も初めて知ったと言うのは我が連合国の事で有る。


「ではその長崎と言う所で軍艦は造られるのですか。」


「はい、長崎には異国の大きな船が来て修理もしますから、多分長崎じゃなかですか。」


 田中が聴いたと言う軍艦の話は多分本当だろう、その軍艦を長崎で造ると言う、だが井坂は忘れてい


たと言う、いや本当に忘れていたのだろうか源三郎は井坂が信用出来ないと思った。


「薩摩には軍艦は何隻有るのでしょうか。」


「おいドンも其れは知りませんが、軍艦を造れば大砲もですが兵士を大勢乗せる事も出来ますので敵軍


の近くの港か浜に上陸すれば兵士はすぐ戦場に行けますので大変な事に成ります。」


 兵士を移送するのも軍艦なれば大勢が乗れ大量の武器も運ぶ事が出来るのだと。


「う~ん、其れが確かで有れば大変な事になりますねぇ~、其れよりも官軍は我々の存在は知って要るの


でしょうか。」


「おいドンは其処までは知りませんが、これはおいドンが思ってるだけですが官軍は幕府軍との戦だけと


は考えていないと思うとです。」


「井坂殿は何故その様に思われるのでしょうか。」


「はい、何年か前の話ですが高い山が連なっているところが有り、その山は冬になると雪が積もり誰も


行けないが山越えすると幾つかの国が有るらしいと聴いた様に思うのです。」


「ではその国が我々の国だと言われるのですか。」


「いゃ~おいドンもこの国に来るまでは本当の事言って信じて無かったです。


 でも今は信じる事が出来るのですが、あの山には狼の大群が要るんでおいドンは恐ろしいです。」


 連合国の人達ならば狼が大群で住んでいるのが当たり前だと思っており、だが井坂は狼の恐ろしさを


あの時初めて知ったので有る。


「では九州には。」


「狼はおりますが、でも此処の様に大群で有りませんので。」


 何も狼の話は必要無い、其れよりももっと大事な事が有るはずだ、さぁ~早く本当の事を話してくれな


いかと源三郎は軍艦の話を聴きたいと思うので有る。


 井坂はどうやら余り詳しくは知らない様子だ、ではやはり司令部の居たと言う話は嘘なのか。


「軍艦を造って一体何処に行かれるのか知っておられるのでしょうか。」


 源三郎は本心を突いた。


「其れは二方向で一つは北から、もう一つは南からです。」


 やはり作戦を知っていた、源三郎が以前軍艦らしき大型の船を見たと、では一体北回りで何処に向か


うのだ。


「北へ向かうと一体何処に向かうのでしょうか。」


「源三郎様、都にですよ。」


「えっ、都にですか、ですが何故都に向かうのですか。」


「はい、都で多くの同士と合流し、一気に本丸に攻め上がるとです。」


 都が倒幕派の最大拠点だとは源三郎も知らなかった。


「都で同士と合流と申されましたが都には大勢がおられるのですか。」


「源三郎様、都は大昔からこの国の中心で今の幕府が勝手に変えたんです。」


 そうかでは都に攻めるのと同時に仲間と合流し一気に本丸へと向かうと言うのか。


「では都で勝利すると言う事になれば幕府の本丸へは一気呵成にと言う事ですか。」


「はい、その為に別の軍艦で何度かこの北航路を往復して来ました。」


 其れがあの軍艦だったのか。


「其れで詳しい事が分かったのですか。」


「その時の報告は司令官が聴かれまして、最初は九州を北上し日本海に入ると大きく右に入りまして、


まぁ~其れからは順調に進みますが、数日も過ぎれば途中から入り江が多く、其れも大小様々な入り江で


その入り江群を過ぎると大きな半島が有り大きな湾が有ると、でも軍艦は其れ以上は行かなかったと


聴いております。」


「何故、行かれ無かったのでしょうかねぇ~。」


「其れが食料と飲料水が不足しますので、ですが知らない入り江も多く下手に入り幕府軍の大砲が有れ


ばとやはり若しもの事を考えたと聴きました。」


 井坂の話の中に入り江の奥に有る洞窟の話しは無い。


 と、言う事は入り江の入り口からでは奥に有る洞窟は発見されてはいないと言う事に、だが食料と飲


料水を補給する為には何れかの入り江に入らなければ補給は出来ないと言う事にならないのか、其れより


も其れまでに大きな港は無かったのだろうか考えるので有る。


「ですが何処かで補給する必要が有るのでは有りませぬか。」


「はい、おいドンは聞いてませんが司令官には報告していると思います。」


 やはり何処かに入らなければ食料と飲料水の補給は出来ない。


 だが一体何処で補給すると言うのだ。


 源三郎の知って要る海岸は松川から菊池まででその前後の海岸がどの様になって要るのか知らない。


 井坂の話では長崎と言う所で軍艦を建造し、北回りと南回りの両方から幕府の本丸を攻めるのだと言う


問題は北回りの軍艦が食料と飲料水の補給で我々連合国の入り江に入るのか、仮に入ったとして略奪行


為は行なわないのだろうか。


「井坂殿、食料は陸を進む兵士も必要だと思いますが。」


「源三郎様、おいドンが司令部の通達文を見たんですが、食料と飲料水の補給時には必ず金子を支払う様


にと書いて有りました。」


「まぁ~其れが当然だとは思いますよ。」


「其れは表向きの話で進軍が長く続きますと現地の部隊は農家から食料と飲料水の略奪を始めたとです。


 其れでおいドンが司令官にお願いしましたとです。


 勿論、其れまでは何回も直訴しましたが全てが駄目でした。」


「そうでしたか其れは辛かったのですねぇ~。」


「あの二人も同じ様に言ってたとですよ。」


 あの二人とは狼の餌食になった官軍兵で有る。


「源三郎様、でもあの二人は自業自得ですよ。」


「えっ、其れは何故ですか。」


「はい、あの二人は以前九州で農民を数人殺しお米を奪い、其れにですよ若い女を犯し殺したとです。

 

 其れが司令官に知られ銃殺刑だと言われて逃げたとです。」


 そうかやはりあの二人は以前に大罪を起こしたのではないか思ってはいた。


 其れが農民を殺しお米を奪うとは何と卑劣な奴らだ、其れが官軍兵の一部だとしても許す事は出来ない


ので有る。


「まぁ~其れも運命だと言う事ですよ、井坂殿、長い間お手間を取り申し訳有りません。


 ですが余り無理をなされない様にして下さいね、では私はこれで。」


 源三郎は部屋を出た、井坂は話の間中も思い出しながら書いているのを見たが井坂は本気で書いて要


ると思う源三郎で有る。


 其れとは別に源三郎は次に考える事が有った。


 浜の洞窟では潜水船の改良工事に入っているだろうげんたの事で有る。


 今直ぐげんたの所に行くべきなのか其れとも少しの間を置いてからが良いのか。


「う~ん、一体どうしたものか。」


 源三郎は執務室に戻ってからも考え込んで要る。


「源三郎様。」


 返事が無い。


「源三郎様。」


 また何かを深刻に考え込んで要る。


「源三郎様、如何なされたので御座いますか。」


「えっ、あっ、雪乃殿。」


「源三郎様、何か深刻なお悩み事でも有るのでしょうか、私で宜しければお話し頂きたいのですが。」


 雪乃は非常に賢い妻だ、源三郎が何やら深刻な悩み事を抱え込んで要ると直ぐに分かった。


「実は。」


 源三郎は田中と井坂が話した内容を話すと。


「源三郎様、今此処で考えられても解決にはならないと私は思うので御座います。


 私ならばげんたさんの様子を見に参りますが。」


「雪乃殿、私もその方法しか無いと思っております。


 ですがげんたは賢い子供でしてねぇ~、私が言った内容の先を考えるのです。」


「源三郎様、其れならば尚更の事で改良は出来たのか、まだ出来ていないのならば何時頃に出来るのだ


とはっきりと聞かれる方がげんたさんも返事がしやすいのでは御座いませぬでしょうか。」


 やはり雪乃は物事をはっきりと言う女性で有る。


 源三郎自身も分かってはいた、だがげんたの苦しむ顔は見たくは無い、其れで無くてもげんたには今ま


で以上に無理を頼んで要るのだからと思って要る。


「私も源三郎様がお優しいお方だと承知致しております。


 でもげんたさんならば分かってくれると思うのですが如何で御座いましょうか。」


「そうでしたねぇ~、では明日にでも浜に行って見ます。」


「私もその方が良いのではと思います。」


「雪乃殿、有難う。」


「いいえ、私の差し出がましい話を聴いて頂き私も恐縮致しております。」


 その頃、大手門にげんたが来た。


「お~げんた、久し振りだねぇ~。」


「うん、で、あんちゃんは。」


「あ~、多分執務室だと思うよ、先程、奥方様も入られましたからね。」


「ねぇ~ちゃんもか、そうか有難うよじゃ~ねっ。」


 源三郎は明日浜に行く予定だったがその前にげんたがやって来た。



            

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