表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇の帝国    作者: 大和 武
6/288

第 6 話  ロジェッタ城の建設。

 ロシュエとイレノア、司令官とフランチェスカの結婚式は無事に終わり、


数日が過ぎた頃、城外の戦死者の火葬も終わったので有る。


 野盗隊は、早くも、森に入り、木の切り出し作業に入って要る。


 農場に有る、鍛冶屋では、新たな道具や工具が作られて行く。


 この道具を数十個、いや、数百個も作れば、作業も早く進むのである。


 森では、技師長の指揮の下、切り出し作業とは別に、加工も始まった。


 「閣下、負傷した兵士達も順調に回復しております。」


 「うん、そうか、其れは、良かった、其れで、今、兵舎に居る兵士達


は。」


 「はい、一部は、森で、作業をしております者達も、何時、獣が襲ってく


るのかわかりませんので、護衛に就いております、更に、墓地で作業を行な


って要る農場の人達にも護衛が必要なので。」


「そうか、みんなは、あの戦で相当疲れているはずなに、ありがたい事だ


よ。」


「兵士達もですが、野盗部隊は、何か理由は判りませんが、皆が、楽しそう


な顔で行なっております。」


 「彼らも、本当ならば、家族と一緒に、農作業をしたかったと思うんだ、


其れをだ、あいつらが、引き裂いたんだ、だが、あいつらは、居なくなっ


て、何かの目的の為に、今は、楽しく出来て要るんだろうと、オレは、思っ


て要るんだ。」


 「そうですね、野盗隊も、本当は犠牲者なんですねぇ~。」


 「うん、司令官、オレは、彼らの為にも、今有る、農場を大きくして、各


地に居るだろう、多くの農民達を救いたいんだ、その為にも、今は、みんな


の協力が必要なんだ。」


 「閣下、農場の人達もわかっておりますので。」


 「だが、この工事は大変な日数が掛かると思うんだ。」


 ロシュエは、農場を拡張する事は必要だと思って要る。


だが、どれだけの時間が掛かるのか想像も出来ないのと。


 その頃、農場では。


 「ねぇ~、私達は、此処で、みんなの食事を作ってるんだけど、私はね、


この場所じゃ無くて、城外に食堂を作ってもらいたいのだけど。」


 「えっ、テレシア、じゃ~、私達も城外で食事を作るの。」


 テレシアの提案は、農場で作っている、食事を城外で作ろうと言う事なの


だ。


 「そうなのよ、それでね、私達も当番制にすれば、いいと思うのよ。」


 「当番制って、其れは、何なの。」


 「うん、今はね、みんなの協力で出来て要るけど、それじゃ~、いつも同


じ人にお願いしている様な気がするのよ、其れをね、毎日、交代して作れ


ば、負担も少なく成ると思ったのよ。」


 「そうよね、私は、別に気にもして無かったけれど、でも、その当番制に


するとね、幼い子供を持つ女性にも協力してもらうの。」


 「うん、其処が問題なのよ、私は、何とか、いい方法が無いか、考えて要


るんだけど、出来れば、女性も全員が参加していただければ、最高なんだけ


ど、でも、之は、強制じゃ~無いのよ。」


 「其れは、判ってるわよ、でもね、あの人達にも参加する義務は有ると思


うのよ。」


 「其れは、判ってるのよ、だけど、どんな風に話をすれば判ってもらえる


かを考えているのよ。」


 「そうね、みんなに納得して貰う事が先だもんねぇ~。」


 「判らんでしょうよ。」


 「それじゃ~、奥さん達よりも、旦那さんに話をする方が早いわよ。」


 「そうね、だけど、一度、将軍にも話して見るわ。」


 「そうね、其れが、いいと思うけど、私も考えておくわよ。」


 「有難う、じゃ~。」


 と、テレシワと話した女性も、最初に着た駐屯地からの仲間だった。


 一方、城外の草地でも、農地から多くの人達が草を刈り、土を起こしてい


る。


 「お~い、大きな岩があったぞ~、馬車を頼むよ。」


 「判ったよ、持ってくるから、少し待ってくれよ。」


 彼らも、最初に着た仲間だった。


 「閣下、少し、お話があるんですが。」


 「如何したんだ、何があったんだよ。」


 「閣下、此処では、なんですので、出来れば、私の部屋に来ていただけれ


ば。」


 「よし、判った。」


 ロシュエは、司令官の執務室に入ったので有る。


 二人は、椅子に座り。


 「閣下、多分、お気付きになられていると思うんですが。」


 ロシュエはうなづき。


 「司令官の言いたい事はわかっているよ。」


 「じゃ~、話は簡単だと思いますが。」


 「実はなぁ~、オレも、何かいい方法が無いか考えて要るんだ。」


 「閣下、はっきりと言う必要が有ると思うんですが。」


農場から作業に来ているのは、最初、この地に入った仲間が殆どで、後から


着た農民は、あの村の村民だけが参加し、その前に着いていた1万人の領


民、其れは、司令官と共に着た領民だった.


 「司令官、わかっているよ、それに、司令官の立場もなぁ~。」


 そうだ、司令官は、ロシュエを差し置いて、話をする事は出来ないと思っ


て要る。


 だが、一番早くから知っていたのは司令官だった。


 「閣下の許可さえいただければ、この私が、話をしたいのですが。」


 司令官もイライラとしている様子だ。


 「司令官、わかった、まず、君から話をしてくれ、その後は、オレが行く


から。」


 「はい、では、今から行って参ります。」


 「うん、頼んだぞ。」


 司令官は、急ぎ、農場に向かったので有る。


 一方、森では、数十頭の猪が、作業を行って要る付近を嗅ぎ回っている。


 兵士達は、草の動きを見て、ホーガン矢を放つのだが、一頭にも、命中し


ない、だが、草刈は続けられている。


 「誰か、一番隊と二番隊の隊長を呼んでくれ。


 「はい、将軍。」


 と、若い兵士は、二人の隊長の元へ走って行くので有る。


 暫くして、二人の隊長が走って着た。


 「将軍、一番隊と二番隊の兵士を追加配置しました。」


 「よし、我々の任務は作業に入られて要る人達の護衛だ、ここの狼は特に


凶暴だ、全員に伝えろ、それと、確実に仕留める事だ判ったか。」


 「はい、将軍、では。」


 と、二人の隊長は草原に走って行く。


 その頃、司令官は農場で話をしていた。


 「貴方方は、何も手伝わないつもりなのか。


 ええ、はっきりと言ったらどうなんだ、それも判って無いのか。」


 すると。


 「司令官、オレ達は、誰からも苦しめられた覚えが無いんだよ、司令官も


知っての通り、あの土地で細々で有っても、オレ達は生活は出来ていたん


だ、其れを、あんたが。」


 司令官は本当に怒ったのだ。


 「其れじゃ~、この農場から出て行け、今、直ぐにだ。」


 農民達がはじめて見る司令官の怒った表情だ。


 「何を、今更、出て行けって、一体、何処に行けばいいんだよ。」


 「お前達の好きなところにだ、早く、行け。」


 その時、ロシュエが着た。


 「何を、ぐずぐずとしているんだよ、早く、何処かの土地に行け、お前達の顔などは見たくも無いんだ。」


 「司令官、一体、何をそんなに怒っているんだよ、え~、司令官、此処に


は、話に着たんじゃ~無いのか。」


 それでも、司令官の怒りは収まらず。


 「閣下、私は、彼らを、この農場から叩き出したい気持ちなんです。」


 「よし、判った、じゃ~、オレが、話をするから其れでいいか。」


 「はい、閣下。」


 「司令官が、何故怒っているのか、オレは知らないが、君達は、なぜ、み


んなと一緒に作業に入らないんだ、その訳を聞かせて欲しいんだよ。」


 すると、さっきの男が。


 「将軍、オレ達は、今まで、誰からも苦しめられた覚えが無いんですよ、


それなのに、司令官は、みんなと一緒に手伝えと言うんですよ。」


 「そうか、判ったよ、じゃ~よ、本当の事を言ってやろうか、君達の城主


から話を聞いたんだがから間違いは無いんだ。


 当時、あの土地では数年間も不作が続いていたんだ、その事を知って要る


者は、多分、居ないと思う、其れはなぁ~、城主が、倉庫に有る食料を君達


の家に届けたんだ、それも、知らないだろうよ、何故、司令官は君達を連れ


て、この農場に着たと思う、其れはなぁ~、先日、この農場を攻撃した城主


から食料を出せと言われたんだよ。」


 農民達は、何も言わず、ロシュエの話を聞いて要る。


 「え~、お前さん達の城主はな、その話を拒否したんだよ、そんな事も知


らないだろう。


 そして、城主は、司令官に命令したんだ、領民の全員を、この農場に連れ


て行き、この農場で生活する様にと、判ったよ、司令官もだが、城主はなぁ


~、恥を忍んで、オレに、頼んだんだよ、其れを、何にも知らずにってよ、


あんた達は怒るかも知れないがね、この司令官だって、オレに頭を下げたん


だよ、其れは、どう言う意味か知っているかね、まず、わからんだろうよ、


あんた達の頭じゃ~よ。」


 暫く、沈黙が続き、やがて。


 「司令官、何も知らなかったんだ、オレ達を許して欲しいんだ。」


 司令官は何も言わず、頷いている。


 「それにだ、今回の戦だって、司令官はなぁ~、一番危険な場所に立っ


て、指揮を執って要るんだよ、オレ達、兵隊はなぁ~、領民の為に命を掛け


て戦ったんだよ、その戦でだ、34名の尊い命を無くしたんだよ、その兵士


達に、あんた達は、一体、どんな言い訳を考えて要るんだよ、今からでも遅


くは無いんだ、男達は、場外の作業、女性陣は食事の用意だ、さぁ~みんな


判ったんだったらよ、元気を出して行ってくれ、誰も、あんた達を責める者


は居ないからよ~。」


 「司令官、オレ達が間違ってたんだ、みんな、行こうぜ。」


 「お~。」


 と、男達は走り出し、城外の作業現場へと向かって行った。


 女性陣は、テレシアの元に向かった。


 「閣下、有難う御座いました。」


 と、司令官は、ロシュエに頭を下げたのである。


 ロシュエは、考え事をしながら、広場の加工場に向かって行く。


 「将軍。」


 ロシュエは気付かないのである。


 「将軍。」


 と、技師長が声を掛けた。


 「お~、技師長か、すまんなぁ~、少し考え事をしてたんだよ、で、何か


用事でも。」


 「はい、将軍、今回の増築なんですが。」


 「何か、問題でも有るのか。」


 「いいえ、問題では、無いんですが、この草原には、狼が数百頭も生息し


ていると思われるんです。」


 「やはり、技師長もか、いや~、実は、オレもなぁ~、考えていたのが、


その狼対策なんだよ、技師長の考えた対策を聞かせてくれよ。」


 技師長も、ロシュエが狼対策を考えて要るとは思わなかったのだ。


 「将軍、私は、草原に囲いを作り、その囲いを少しづつですが、広げてい


こうと考えて要るんです。」


 「ほ~、囲いをね~、其れで。」


 技師長は頷き。


 「其れで、第一期の工事として、人間の歩く速度で一日分のところまで広


げ、その広げたところから先に城壁と、農場作りに入りたいと考えたんです


が。」


 ロシュエは、何も言わず、頷くだけだった。

 

 「うん、うん、其れで。」


 「第一期の農場の完成後、第二期の農場へと広げて行きたいんですが。」


 「うん、いいね~、其れで。」


 「はい、私は、司令官の行かれた大きな川までを農場と考えて要るんです


が、その広さで有れば、牛の放牧場と馬の飼育も出来ます。


 それと、他には豚と鶏の飼育も可能と成りますので。」


 ロシュエは大満足だった。


 「其れじゃ~、この農場とは比べ物に成らないほどの大きな農場が出来る


んだ。」


 「はい、私も、その様に出来れば良いのですが。」


 「何か、問題でも有るのか。」


 「はい、その為には、大量の木材が必要なんです。


 今度は、一度、使用した木材を再利用できますので、最終的には、木材は


冬の時に使用出来ますから。」


 「そうか、其れは、膨大な作業に成りそうだなぁ~。」


 「はい、その様に成ります。


 今の農場は女性でも耕す事は出来ると思いますが、此れから出来る農場に


は、男性陣がどうしても主体的に成りますので、兵隊さんも大変な仕事と成


りますが。」


 「うん、そうだなぁ~、兵士達は狼の撃退にも大変になると思うがなぁ


~。」


 「はい、私も、その様になると思うんです。」


 「其れじゃ~、技師長、大変だがよ、今の方法で作業工程を作ってくれる


か。」


 「はい、でも、実は、既に出来ておりまして、今、持って要るのです


が。」


 技師長は、数日前に図面を作り、作業工程を完成させていたのである。


 「やはりなぁ~、オレは、技師長の事だから、オレには、後で見せる積も


りだったんだなっ。」


 ロシュエはニヤリとした。


 「将軍、そんな事は有りませんよ、私は、司令官と一緒に来られた人達の


人数で、此れからは、今の農場では狭いと思っていたんです。」


 「うん、そうだなぁ~、オレ達が着た頃とは違い、今の人数分を、この農


場で作れる作物じゃ~、不足すると、オレも思ってたんだ、だけど、オレ


は、どんな方法が必要なのか判らなかったんだ、其れに、大きな戦も有った


からなぁ~。」


 「将軍は、全ての人達が不自由な生活を送らないようにと、いつも考えて


おられましたので、私は、少しでも将軍のお手伝いが出来ればと、考えてお


りました。」


 「そうか、技師長も早くから考えてくれてたんだ。」


 「でも、あの頃は、まだまだ、先の話かと考えておりましたが、今回の戦


が終わり、この周辺には、我々を脅かすような悪辣な城主は居ないと思って


おります。」


 「うん、其れは、オレも、判っているんだ、それと、此れからは、野盗隊


が主力となって、作業に入ってくれと思うんだ、彼らの存在も大きいと思う


んだよ。」


 「そうですね、あの人達も、何か大きな目的の為に働けると言う事が、楽


しみになっていると思うんです。」


 「技師長、オレは別に話を通す必要も無いからよ、技師長の判断で、司令


官や、他の人達と話をして、作業を進めてもらいたいと思うんだ。」


 技師長は、其処までの事は考えていなかったので。


 「えっ、でも、私は、将軍の考えられた事が重要だと思って要るんで


す。」


 「オレの考えか、そんなのは、どうでもいいんだよ、オレはだ、最終的に


はなっ、みんなが幸せになってくれればいいんだよ、オレの考えなんか余り


必要無いんだから。」


 技師長は困ったような顔付きで。


 「将軍、それでは、私が困るんですよ、この農場は、将軍が造られたんで


すから。」


 「技師長、オレが造ったんじゃ無いんだよ、みんなの協力で造られたん


だ、オレは、オレなんか、何もして無いんだからよ~。」


 「将軍、有難う御座います。


 此れから、相談が多く有ると思いますので。」


 「オレは、いつでもいいよ、あ~、それとだ、今、造ってる農場にも家は


建てるんだろうな。」


 「勿論です、今度は、少し広く建てたいと思って要るんです。」


 「何、広く建てるって、何か理由でも有るのか。」


 「いいえ、別に、何も有りませんが、皆さんも、何れ、家族が増えると思


っての事なんですよ。」


 「そうか、やはりなぁ~、技師長の考える事は、オレと違って、将来の事


まで考えているんだ。」


 ロシュエは感心しているので有る。


 「私は、将来を考える事も必要だと思っておりますが、之だけ広い農場に


なれば、家も大きい方が良いと、私自身の思いなんですよ。」


 「そうか、実は、オレもそうなんだ、この農場で造った家も普通よりも大


きいと思って要るんだよ、オレも、駐屯地に居た頃、よく、農家に行ったん


だ、だけど、どの農家を見ても、小さいんだよ、オレはね、その時に思った


んだ、農家の造りも大きく建てたいと思ったんだよ、オレは、それだけの事


なんだ。」


 技師長は頷き。


 「実は、私も、将軍と同じ考えなんです。」


 ロシュエは頷き。


 「技師長、それと、今度、建てる家なんだが、みんなの意見を聞いて欲し


いんだ、但し、全員の希望通りの家を建てる事は、無理だと最初に言って欲


しいんだ。」


 「はい、将軍、私も、大賛成です。


 私は、特に、奥さん方の意見を聞きたいと思っております、その他に。」


 技師長は、まだ、大事な話しが有る様子だ。


 「技師長、まだ、他に何か有るのか。」


 「はい、実はですね、私は、今回、農場の中に、出来るだけ多くの井戸を


掘りたいと思って要るんです。」


 飲み水も大切だが、農作物を育てるには、専用の農業用水が必要なのであ


る。


 「多くの井戸を掘るってか、だけど、大変な作業になると思うんだがよ


~。」


 「私は、生活の為に必要な井戸を掘る事も大切なんですが、幸い、今の農


場の中には川が流れておりますので、心配は無いんですが、此れから造る農


場には川が有りませんので。」


 ロシュエは頷き。


 「そう言われると、確かに、この農場には川が流れているなぁ~、だけ


ど、この農場から、城までは1本の川も無いとは、オレは知らなかったん


だ、だけど、井戸を掘る事は大変だぞ~。」


 「将軍、私も承知しております。


 其処で、私は、別の方法を考えております。」


 技師長が考える別の方法とは。


 「別の方法って言うが、この付近に池でも有るのか。」


 技師長は池でも造るのか。


 「この方法は、大変なんですが、将軍、司令官は、草原のまだ先に大きな


川が流れていると言われておりました。


 其処で、私は、この川に水車を作り、そして、運河と大きな池を造る事を


考えて要るんですが。」


 「えっ、技師長、今、なんて言ったんだよ、あの大きな川から、水を引く


のかよ。」


 ロシュエは、大変な驚きだった。


 「ですが、将軍、農場にも牧場にも、そして、生活用水にも大量の水が必


要なんです。」


 「オレも、其れは判るが、この農場の川から引く事は出来ないのか。」


 ロシュエは、出来る事なら簡単に済ませたいと思ったのだ。


 「将軍、将来の事を考えて頂きたいのです。


 水車を作る事は、別に問題は有りません。


 将軍の夢を実現させる為にも、今、居られる人達の将来も考えれば、私


は、運河を造り、大きな池を造れば、農業用と牧畜用に使用出来るんで


す。」


 技師長の考えは壮大な計画だった。


 「だけど、技師長の計画は壮大だなぁ~、オレなんか、其処までは考えて


無かったよ、だけどよ~、この農場から、城までは10日の日数が掛かるん


だ、其処に農場を造るだけでも大変な事業なのに、運河を掘り、大きな池を


造るって、一体、何年掛かるんだ。」


 ロシュエは、想像も出来無いと思い、首を振ったのである。


 「私の計画では、農場を造る前に、井戸と運河、そして、大きな池を数ヶ


所造り、農場は井戸を掘った後に造れば良いと思っておりますので、最終的


には10年は掛かると予想しております。」


 「何、10年も掛かるのか。」


 「はい、私の予想ですので、確かでは有りませんが。」


 「技師長、やはり、水はどうしても必要だからなぁ~、水の確保が此れか


ら先の事を考えると、一番の問題だからよ~。」


 ロシュエは、技師長が、何を考えて要るのかわかりだしたのだ。


 「大きな川から水を引く事が出来れば、この農場から城までの広大な農地


に変える事には問題は有りませんので。」


 「うん、そうだなぁ~、オレは、技師長の計画は予想もしなかったんだ、


それもだよ、川から水を引くと言う話にだよ、其れじゃ~、技師長、その計


画を進めてくれるか、其れに、水車も作るんだろうよ~。」


 「はい、その通りです、水車も大きなものになると思います。


 其れで、私が書いた絵なんですが、上手では有りませんが、この様に成り


ます。」


 技師長は、数枚にわたる絵を見せた。


 川のほとりには、数十機の水車が描かれ、水車で引かれた水は運河に入


り、広大な農地に造られた大きな池へと流れて行くのである。


 農地には、数百もの井戸が掘られ、生活用に、大きな池の水は農業用と牧


場用とに使われているのである。


 「技師長、この絵に描かれて要る事が実現すれば、今後、農場で生活され


る人達は安定するだろうなぁ~。」


 「はい、将軍、私も、その様に思います。」


 「だけど、技師長の書いた絵だと、之は、誰が見ても池じゃ~、無いと思


うんだが。」


 「やはり、判りましたか。」

 

 と、技師長はニヤリとするのだ。


 「オレは、池だと聞えたんだが。」


 「私の、言葉が間違っておりましたので訂正致します。


 池では無く湖です。」


 ロシュエは驚きもせずに。


 「今の農場から城まで続く湖でも造るのか。」


 「はい、私の構想では、10箇所の農場があるんですよ、その農場に中に


各一箇所に湖を造る計画なんですが。」


 此処まで、話しが進むと、ロシュエも乗り気になってきたのだ。


 「オレは、同じ造るんだったらよ~、今後、誰も出来ないくらいの大きな


農場を造りたいと思うんだよ、その為には、オレはね、何でもするよ。」


 技師長は、ロシュエの思いを実現したいと思って要るのだ。


 「私も、将軍の思い通りと言うよりも、我々の子孫のために出来るなら


ば、と、考えております。」


 その時、司令官が着た。


 「閣下、あの人達も参加し、それこそ、この農場に居る全員が、一致団結


しますよ。」


 ロシュエは嬉かった。


 「そうか、大変良かったなぁ~、其れで、話は違うんだがよ、司令官に


も、此れから始める、一大事業に参加して欲しいんだ。」


 司令官もわかっていた。


 今の農場では狭く、此れから先の事を考えると農場を拡大する必要が有る


と思っていたのだ。


 「閣下、私も以前から、この農場を拡大する必要が有ると思っておりまし


たので。」


 「やはり、司令官も同じか、其れでだ、さっきから、技師長の計画を聞い


ていたんだがよ~、之は、大変に事業になるぞ、お互い覚悟する必要がある


ぞ。」


 司令官も頷き。


 「私も、覚悟はできております。


 私は、閣下が以前から申されておりました。


 農場を広げる構想には、是非とも、私も参加させて頂きたいと願っており


ますので。」


 「うん、じゃ~、技師長、話の続きに入ってくれるか。」


 技師長は頷き。


 「はい、将軍、では続けます。


 将軍、この計画なんですが、司令官の、ご協力もいただけると思っており


ます。」


 「技師長、私でよければ。」


 「有難う、御座います。


 この計画に何故と思われるでしょうが、お二人も、ご存知の通り、農場の


右側は森が続きます。


 それに比べ、左側は草原地帯なんですが、この草原地帯には、我々には最


大の敵である狼の集団がいるんです。


 私も、狼が、どれ程生息しているのかわからないんです。」


 司令官は直ぐにわかった。


 「技師長、私もわかりましたよ、作業に就かれる人達を狼の襲撃から守る


んですね。」


 「さすが、司令官だ、オレ達は人間の動きは多少なりともわかるんだが、


狼や猪の動きは全くわからないからなぁ~、司令官よりも、兵士達が大変な


任務となるよ。」


 「閣下、私は、各隊長に任せるように考えております。


 隊長は、兵士達と直接話が出来ますので。」


 「そうだなぁ~、今回の任務は大変だと言う事だけは、全員に知ってもら


う必要が有るんだ、作業に就かれる人達もだが、兵士達自身の安全も確保す


る必要が有るんだ。」


 私も、閣下に言われたように、人間の動きはわかりますが、狼や猪の動き


は全くわかりませんので、兵士が十分に納得出来る説明が必要だと思ってお


ります。


 その為には、兵士達よりも、隊長達に理解をしてもらう必要があると思っ


ております。


 之は、命令では無く、自らの意思が大事だと、私は、考えたんですが。」


 「うん、確かに、司令官の言う通りだなぁ~、敵が軍隊じゃ~、簡単に説


明は出来る、だが、相手が狼だと説明するにしても難しいと思うよ。」


 ロシュエも司令官も軍人である、軍人だが、今度の敵は、人間では無い、


草原に潜む狼なのだ。


 「将軍、司令官、今、作業に行かれております人達なんですが、一度、全


員を引き上げまして、再度、計画の内容を伝えてから、人員の配置を行なっ


てはと、私は、考えているんですが。」


 技師長は、突然、一部計画の変更を伝えたのである。


 「技師長、その変更の意味なんだが。」


 「はい、先程も申しましたが、湖と、数十ヶ所の池を造るために、狼から


守る為と、現場で、寝泊りする為の家を作りたいのです。」


 之には、ロシュエも驚いたのだ。


 「技師長、寝る為というよりも、狼から守る為だったらよ周辺に柵を作れ


ばいいと思うんだが。」


 「ですが、将軍、司令官の行かれた川まで、何日掛かると思われるんです


か、その場所で作業が終わって、また、此処に戻って来るんですか。


 「う~ん、そうか、あの川までの往復を考えると、小屋と言うよりも、み


んなが住めるだけの家が必要って話か。」


 「確かに、理想は、作業が終わり次第、自分達の家に戻り、食事を取る事


が出来れば最高だと思いますが。」


 「そう言われれば、この地に着いた頃は、此処で生活すると言う目的で森


から大木を切り出し、直ぐ側で作業が出来たからなぁ~。」


 「私は、森から切り出した木を農場内で加工する方法を考えて要るんで


す。」


 「閣下、技師長は、リスクを少なくしたいと思われておられますねぇ


~。」


 「だがよ~、一体、何戸の家が必要になるんだ。」


 「今回、新しい農場に入って頂く予定の人達なんですが、私は、川の対岸


から来られました人達に入っていただければ良いのではと考えて要るんです


が。」


 ロシュエは、反対する事無く、聞いて要るのだ。


 「技師長、其れは、何かの理由があっての事だと思うんだが。」


 ロシュエは、司令官と一緒に着た領民だと思っていたのだ。


 「確かに、順番から言えば、司令官と一緒に来られた人達が優先されると


思います。


 司令官と一緒に着かれた人達は人数も多く、今から、全員が住まわれる家


の材料を揃えるには余り時間が無いと思うんです。


 でも、川の向こうから来られた人達は人数的にも、丁度、良いと考えたん


です。」


 「閣下、私も、技師長の意見に賛成ですねぇ~、ただ、問題なのは、何


故、後から来られました人達が先に新しい農場に入る事になったのか、先の


領民に理解させる必要があると思いますが。」


 司令官は、理解させる事は困難だと感じていた。


 だが、技師長は二コリとして。


 「司令官、その事で有れば問題は有りませんよ。」


 「技師長は簡単だと言うのか。」


 ロシュエも簡単だとは思わなかったので。


 「此れから造ります農場は、一大事業になる事は間違い有りません。


 私は、この一大事業を成功に導く為には、最初に造る農場は実験農場にし


たいと考えております。」


 「えっ、技師長、実験農場にですか、でも、一体、何を実験するんです


か。」


 司令官は、実験の意味がわからなかったのだ。


 「司令官、此れから造る農場は、大きな農場に成る事に間違いは無いので


すが、遠くの地で実験する事は大変難しいと思います。


でも、今から造る農場は、我々の農場の直ぐ近くに造られるんです。


 近くであれば、何か起きたとしても、直ぐに対応は出来ますが、之が、お


城近くの地で、実験農場を造ると成れば対応が困難に成ると思うのです。」


 「う~ん。」


 と、ロシュエは腕組みをして考え込んでいる。


 「司令官、技師長は、後から着た人達とか、先に着た人達とかは関係は無


いって話なんだよ、だが、技師長、川の方から着た人達だけじゃ~、人数が


少ないと思うんだ。」


 「はい、その通りなんです。


 其処で、私は、先に来られた人達にも参加していただく事が出来れば良い


のですが。」


 「司令官、先の人達は、全員同じ地域からなのか。」


 「いいえ、あの人達は、各地から集まられたので、その結果、多勢となっ


ただけの話なんです。」


 「それじゃ~、話は簡単だと思うがなぁ~。」


 「そうですね、いくつかの村から参加していただけるならば。」


 「技師長、その話は出来るよ、其れよりもだ、オレは、実は、さっき思い


付いた事が有るんだがよ。」


 ロシュエの、突然のひらめきなのか。


 「閣下、何を思いつかれたのですか、また、余計な仕事を増やされるので


は無いのでしょうね。」


 と、司令官は、ロシュエに、一応釘をさしたのだが、ロシュエは舌をぺロ


ット出し。


 「技師長、さっき、実験農場だと言ったと思うんだがよ~、オレの思いつ


いた事も実は実験なんだが、聞いたくれるかなぁ~。」


 と、ロシュエは、技師長の顔をチラリと見た。


 「将軍の思いつきは、とんでもない事を発想されておりますので、何かわ


かりませんが恐ろしいですね。」


 技師長は、真剣な眼差しロシュエを見た。


 「オレは、今の農場に大きな浴場を作りたいんだが。」


 「えっ、将軍、今、何と言われましたか、私の聞き違いで無かったら。」


 だが、ロシュエはニヤリとして。


 「技師長の聞き違いじゃ無いよ、オレは、実験的にだが、この広場に大き


な浴場を作りたいんだ。」


 「閣下は、一体、何から、その様な事を考えつかれたんですか。」


 「うん、実はなぁ~、此れから造る大農場なんだが、作業に入る者は、全


員が大人なんだ、確かに、大人が中心になる仕事なんだ、だがよ、その農場


が完成するまでは、子供達、どうなるんだ、一体、誰が面倒を見るんだ。」


 「閣下、其れは、親が見るのが当然では無いでしょうか。」


 「司令官、確かに親の責任だよ、だがよ~、この農場に、一体、何人の子


供達が居ると思うんだ、確かに、司令官の言う通りで、親が子供の面倒を見


る事が当然ならよ、その親達はだよ、農作業にも就く事も出来ないんだ、オ


レは、大人だけが仕事に就くんじゃ~無く、子供達にも出来る仕事が有ると


思うんだ。」


 「では、将軍は、子供達に浴場の仕事をさせるのですか。」


 「閣下、ですが、浴場と言えば、お風呂ですよね、当然、水じゃ無いって


事に成ると、お湯ですよね、子供達にお風呂のお湯を作らせるんですか、其


れは大変危険だと思いますが。」


 「そりゃ~、危険だよ、火を使うんだから。」


 「将軍、私は、反対ですよ、お風呂場を作る事には賛成致しますが。」


 技師長も火を使うために反対だと言うのだ。


 「まぁ~、話を聞いてくれよ、オレはね、子供達にも出来る仕事が有ると


以前から考えていたんだ。


 森で大木を切り出す仕事は、それこそ、大変危険だと思うんだよ、それに


だ、この農場の外での作業は大人でも危険なんだ、其れはね狼がいるからだ


よ、大人を守るだけでも大変な任務なのに、その危険な場所にだ、子供を行


かせる事は出来ないんだ。」


 「閣下の申される事は、私だけでなく、全ての大人は理解されておりま


す。


 ですが、それと、子供達に、お風呂の管理と言いますか、運営を任せると


言いますか、子供達だけに、火を扱う仕事は火事の危険性も有ると思うので


す。」


 司令官の反論も当然なのだ。


 「司令官、オレはね、幼い子供達に火を扱わせるのが危険だとは思って無


いんだ。


 例えばだ、5歳の男の子にだよ、薪木を運ばせる事も出来ると思うんだ


よ、オレはね、対象年齢を5歳から14歳くらいだと考えて要るんだ。」


 ロシュエが、年齢までも考えて要るとは技師長も驚いた。


 「将軍は、既に、対象年齢までも考えておられるんですか。」


 ロシュエは、ニヤリとした。


 「そうだよ、オレは、この実験が成功すると思って要るんだ。」


 何と言う、ロシュエの自信に満ちた言葉だと、司令官は思うので有る。


 「閣下、私は、何か理由はわかりませんが、何時もより、楽しそうに見え


るのですが。」


 と、司令官は、ロシュエの顔を見てニヤリとするのだ。


 「判るか、実は、そうなんだ、其れで、この実験というか、お風呂専門隊


の仕事が軌道に乗ればだ、此れから造る農場にも浴場を作りたいんだ。」


 「閣下、益々、仕事が増えていきますね。」


 「うん、其れで、最終的にはね、全部の農場が完成すればいいと思って要


るんだが、まぁ~、何年掛かるのか、オレには、全く予想が出来ないん


だ。」


 と、ロシュエの顔はほころび、二コ二コとしている。


 「ですが、閣下、何年掛かったとしてもですが、閣下も私達にも大きな楽


しみが出来ると思うんですがねぇ~。」


 司令官は何時の間にか賛成し、その間、技師長は何も言わず考えて要る。


 「技師長、不満は有ると思うんだ。


 オレはね、だからといってだよ強引に進める積もりは無いんだよ、それよ


りもだ、子供達に話をして、子供達に答えを出してもらうと考えて要るん


だ。」


 技師長は頷き。


 「将軍、わかりました。


 では、子供達を集めて、説明をされては如何でしょうか。」


 「うん、そうだなぁ~、じゃ~、明日にでも子供達を集めて話をする


か。」


 ロシュエは、早くも、次の事を考えて要るのである。


 「えっ、明日にですか。」


 技師長も、正か、明日、話ををするとは思わなかったので。


 「そうだよ、こんな話は早い方がいいと思うんだ。」


 「はい、わかりました。」


 技師長は仕方が無いと思って要るが、ロシュエは嬉そうな顔をして要る。


 「そうだ、明日の説明会には、親達にも出席してもらうか、それとは別に


農場からも数人、それとだ、大工部隊からも数人と。」


 ロシュエは、実に楽しそうだと、技師長は思った。


 其れは、今まで、見た事の無い顔つきである。


 「それとだ、説明会の場所だが、農場の大食堂に決めたいんだがよ~。」


 司令官も技師長も反対する事も無かった。


 そして、当日の朝、農場の大食堂には10人ほど子供代表とその親達、農


場の代表達、大工部隊から数人が集まり、ロシュエの説明が始まる。


 だが、説明の始まる前に、何故か、大食堂は満員になっていたのだ。


 「お~い、技師長、こんなに多勢が集まるとは、オレは予想もしなかった


んだが。」


 技師長も驚いている。


 「いや~、私も驚いているんですよ、でも、将軍が考えられた、お風呂場


を作ると言う話ですが、それだけ、みんなも関心が有ると言う事だと思いま


すねぇ~。」


 其れからも、次々と集まり、大食堂に入りきれず、入口を開け、窓も開


け、聞く事に。


 「みんな、忙しい時に許して欲しいんだ。


 今日、みんなに集まって貰ったのは、この農場にお風呂場を造ろうと思う


んだ。」


 大食堂では、誰もが、静かに聞いて要る。


 「其れでだ、今日の主役は子供達だと言う事なんだ、だから、大人からの


質問はだ、しないで欲しいんだ、みんなわかってくれたか。」


 食堂に入りきれない人達も賛成の手を挙げた。


 「有難うよ、それじゃ~、今から説明に入るが、この風呂場を造る事に賛


成か反対は、子供達に決めてもらう、みんなもその積もりでな、じゃ~、始


めるよ、なんで、オレが、お風呂場を造りたいかという話なんだが、今、こ


の農場からは、毎日、大人は、外に出て、新しい農場を造るために働いてい


る、其れは、誰もが知って要ると思うんだ。


 では、今から子供達に説明を始めるので、みんな静かにして欲しいんだ


よ。」


 すると、大食堂に集まった大人達は静かに成った。


 「それでね、おじさんはね、君達にも、何か出来る事が無いか考えていた


んだよ、君達を外の仕事に行ってもらうとね、外には、おじさんよりも、も


っと怖い狼がたくさんいるんだよ。」


 この時、大食堂の大人達は大笑いをする。


 子供達はロシュエを怖いと思って無かったので有るので意味がわからな


い。


 「其処はね、お父さん達でもね、大変、怖いと思うんだよ。」


 子供達は父親から狼の怖さを聞いて要るので頷く。


 「それでね、おじさんはね、長い間考えていたんだ、君達にも出来る仕


事、其れがね、お風呂場の仕事なんだよ。」


 すると。


 「将軍のおじさん、聞いてもいい。」


 と、10歳くらいの男の子が聞くので。


 「何でも、いいよ。」


 と、ロシュエは優しく微笑んでいる。


 「将軍のおじさん、僕達がお風呂場を造るの。」


 ロシュエはニッコリとして。


 「お風呂場を造るのはね、此処に居る大工のおじさん達なんだ。


 君達にはね、お風呂のお湯を沸かしたり、お風呂場の掃除をする事に成る


んだよ。」


 「ふ~ん。」


 「今も話したようね、君達の仕事はね、お風呂場の仕事をするんだ、それ


でね、大事な事が有るんだよ、其れはね、お風呂のお湯を沸かすにはね、火


を使うんだよ、火を使うにはね、みんなも知って要ると思うんだ、お母さん


の仕事でしょう、君達の中に火を使った事のある人はいるかな。」


 ロシュエは優しく聞くと、殆どんの子供が手を上げた。

 

 其れは、まさしく、母親の手伝いをしていると言う事なのでだ。


 「そうか、じゃ~、みんなは、いつも、お母さんのお手伝いをして要るん


だね。」


 別の男の子が手を挙げ。


 「僕はね、将軍のおじさん、火を付けるのが上手なんだよ。」


 と、この幼い子供は得意そうに言った。


 「そうか、君は、そんなに火を付けるのが上手なのか。」


 ロシュエも嬉しくなってきた。


 「うん、いつもね、僕がやっているんだよ。」


 親達は、二コ二コしながら聞いているが、内心は穏やかでは無いはずだ。


 「それじゃ~、みんなに聞きたいんだ、火を付ける薪木は誰が作っている


の。」


 「将軍のおじさん、僕のお父さんはね、危ないからと言って、お父さんが作ってるんだよ。」


 「うん、そうか。」


 「でもね、僕は、いつもだけど、お父さんが作った薪を運んでいるんだ


よ。」


 この子供は5歳くらいだ、やはり、ロシュエが思った通りで、危険だか


ら、幼い子供には、薪割りはさせていないと。


 「其れじゃ~、君は、お父さんが作った薪を運んでいるんだね。」


 ロシュエは、之だと思ったのだ。


 「うん、そうだよ。」


 「其れじゃ~、此処に、14歳か15歳の人はいるかなぁ~。」

 

 5人ほどが手を挙げた。


 「君達に聞きたいんだが、君達も、親の手伝いはすると思うんだが。」


 ロシュエは、15歳前後の子供達に話を聞きたいのだ、すると。


 「はい、将軍、僕は、薪割りもします、僕が割った薪は弟が運んでいきま


す。」


 「そうか、じゃ~、其れは、誰でもやっているんですか。」


 その少年は頷き。


 「僕達は、其れが、当たり前だと思っています。


 この農場もですが、僕が前に住んでいたところでも当たり前のように子供


の仕事でしたから。」


 農家では、子供も立派な働き手なのである。


 「本当はね、おじさんはね知らないんだよ。」


 子供達は大きな声で笑うのである。


 其れは、将軍でも知らない事が有るんだと驚きの笑いである。


 「其れは、何処でも普通の事なんですか。」


 少年は頷き。


 「はい、僕はそう思っていますが、此処でも、みんな同じだと思って要る


んです。」


 「そうか、じゃ~、みんなに聞きますが、薪割りは誰でもして要ると思い


ますか。」


 出席した子供達全員が手を上げ、そして、ロシュエは確信したのだ。


 「じゃ~、みんなは、お風呂場の専門隊になってくれるかなぁ~。」


 「おじさん、僕はね、やりたいんだ。」


 すると。


 「僕もだよ。」


 と、子供達は次々と手を上げていく。


 「それじゃ~、君達は賛成してくれるんだ。」


 子供達は大歓声を上げたのだ。


 「だけどね、今、君達だけが賛成してもだよ、他のみんながどう思うか判


らないんだよ、其れで、みんなにお願いが有るんだ。」


 「将軍、僕が、みんなに聞いて見ますから。」


 先程の少年である。


 「有難うよ、みんなには伝えて欲しいんだ、其れはね、之は、決して強制


じゃ無いからね。」


 「はい、みんなわかってくれると思います。


其れで、将軍、何時頃までに返事をすればいいんでしょうか。」


 「うん、別に決めて無いんだよ、君達に任せるからね。」


 「はい、判りました。」


 「有難うね、其れじゃ~、みんな帰ってもいいよ、今日は有難う。」


 と、説明というよりも、話は別の方向に行ったようである。


 そして、子供達は大食堂を出て行く、どの子供の顔を見ても、嬉そうな顔


付きだ。


 それと、言うのも、子供達だけの専門の仕事が出来た、其れが、一番嬉し


いのだろう。


 将軍であるロシュエは強制はしていない、子供達の意見を尊重すると言う


のだから、子供達も満足したので有ろう。


 子供達が大食堂を出た後には、親達と大工部隊の数名、農場の代表が残


り。


 「皆さん、今日は、子供達にお礼を言いたいんだ、本当に有難うって、み


んなも聞いていた通り、オレは、子供達の判断に任せる。


 後は、オレ達、大人が全面的に支援する事だと思ってるんだが、みんなの


意見も聞かせて欲しいんだ。」


 ロシュエは、素直な気持ちで言ったのだ、すると。


 「将軍、本当に上手になったね。」


 と、テレシアはニヤリとしたのだ。


 「オレは、何も強制はしていないよ。」


 ロシュエは、この様に強調するのだが。


 「そりゃ~、そうだろうよ、この農場の将軍がだよ、子供達に強制するよ


うな人物じゃ~無いって事は、誰でも知ってるよ、だけど、子供達は、参加


したいと言うよりも、問題は年齢の下限だよ。」


 ロシュエも判っている。


 年齢的に幼い子供達には無理だと言う事も、だが、その前に子供達が決め


る事であり、年齢の問題は、その後に考えても遅くは無いと思って要る。


 「テレシア、判ってする、だがね、其れよりも、子供達に参加する、しな


いを決めさせる事が大切なんで、年齢的な問題は、その後でも解決出来るだ


ろうと思うんだ。」


 「判ったわ。」


 テレシアは簡単に引き下がった。


 「他に、何か、意見のある人は。」


 「将軍、お風呂場を造ると聞いていますが、その大きさは。」


 「それなんだ、みんなには、何も説明が出来ないんだよ、オレ自身が大き


さなどは考えていないんだよ。」


 「え~、将軍、子供達だけで本当に大丈夫なの、私は心配性なんだから、


だってね、私は、大きなお風呂とは思って無いんだもの。」


 「其れは、オレも判るよ、だがよ~、みんな思い出して欲しいんだ、自分


達の子供の頃をね、親は子供の怪我を心配するんだが、子供達はね、親が思


うほど危険じゃ無いって感じて要るんだよ、その子供達が、今、親になっ


て、今度は自分の子供達を心配するって、之は、何時の時代になっても同じ


だと思うんだ。


 オレも心配だがよ、子供達に任せると、意外にも、大人が考えて要る以上


に子供達も考えて行動すると思うんだ。


 今の子供も、何れ、大人になり、子供を授かるんだ、その時にだよ、此れ


から始まる、子供達だけの専門職が役に立つと思うんだよ。」


 「それじゃ~、将軍も子供が出来、その子供がやりたいと言ったら。」


 「オレは、やらせて見るよ、少しくらいの怪我は当たり前だと思ってるん


だ。


 其れに、子供は、子供の時にしか出来ない事もあるんじゃ~無いか。」


 「それも、そうね、私も、子供の頃、親に良く言われたわよ、そんな、高


い木に登るんじゃ無いの、もし、落ちたら大怪我をするのよって。」


 みんなは頷きながら大笑いをするのである。


 「だけどね、私は、ちっとも怖くは無かったのよ、高い木の登るとね、そ


りゃ~遠くまで見えるのよ、其れが嬉しくてねぇ~。」


 「うん、そうだろうよ、オレも、子供の頃、いつも、親に怒られたんだ


よ、そんなに高いところに登ると危ないよって、ね、それがだよ、今じゃ


~、みんなから、・・・。」


 「ねぇ~、なんなのよ、将軍って呼ばれてって言いたいんでしょう。」


 また、大笑いするのである。


 「そうなんだ、オレはね、この農場を子供達の為に、いいや、オレ達の子


孫のために大きくしたいんだよ。」


 「そんな事、将軍に言われなくったって、みんな、判ってるわよ、其れよ


りも、子供達が休む事の出来る部屋を造って上げて欲しいのよ。」


 だが、ロシュエは何も考えて無かったのである。


 「そうなんだ、みんな、何でもいいんだ、思い付くだけの意見を出して欲


しいんだよ。」


 「将軍、宜しいでしょうか。」


 「うん、いいよ。」


 「今日の、今なんで、此処に来られた皆さんは、何も、思いつかないと思


うんです。


 ですから、数日後に改めて、この場に集まっていただいてからでも良いと


思うんですが。」


 「うん、それも、そうだなぁ~、今日、突然の話なんだから、無理も無い


と思うんだ、其れじゃ~、3日後ってのはどうだろうか。」


 全員が賛成した。


 「じゃ~、3日後と言う事で、みんな、よろしく頼みますよ。」


 「はい、判りました。


 では、私は、一度戻りますので。」


 と、技師長は戻って行く。


 それから、3日後の朝、ロシュエは大食堂に居た。


 「みんな、忙しいのにすまないねぇ~。」


 「いや、将軍、みんな、子供達の為にですから、いいんですよ。」


 「そうか、其れで、意見は纏まったのか。」


 「いいえ、其れが、無いんですよ。」


 「なんでだよ、みんな、何でもいいからよ。」


 「実はね、みんなと相談したんですがね、子供達に任せるんだから、子供


達からの意見を優先しようと決めたんですよ。」


 ロシュエの思ったとおりである。


 子供達が主体ならば、子供達のやりやすいように、大人達が支援する事が


一番だと。


 「じゃ~、何か、大人は、子供達の意見を尊重するってのかよ~。」


 「はい、その通りです。


 我々も、子供の頃、親からは、あれは駄目、之も駄目だと言われたんです


がね、将軍の言われた通りなんですよ、我々だって、自分の子供にですよ、


あれは、危ないから、之も危ないから駄目と言ったように思うんですよ、其


れは、将軍だけじゃ~無いんです。


 オレ達だって、早く子供離れをする必要が有るんじゃ無いかって思ったん


ですよ。」


 「うん、そうか、オレ達、大人が、子供離れする時期に来たと言う話なの


か。」


 「そうなんですよ、何時までも、子供を頼りにするよりも、我々、大人が


一人前の大人に成る時期だと思ったんです。」


 「そうか、そうか、其れで、みんなは、どんな風にしたいんだよ。」


 と、ロシュエは二コ二コとして要る。


 「将軍、我々は農民としてではなく、一人の人間として、子供達に支援し


たいんです。


 我々は、今までは恐ろしい事は、全て、軍隊に任せていましたが、子供達


の為に、少しくらい危険だと思われても、自分達の子供達の為に進んでやり


たいんです。」


 ロシュエは驚いた。


 今までは、少なくとも、危険な場所には行くな、近づくな、だった、農家


の男達が、今までとは、別人のようで何事にも積極的に行なって行くと聞え


たのである。


 「だがよ、オレは、みんなに、そんな危険な場所に行かせる事は出来ない


んだよ、オレはね、みんなの勇気はわかったよ、だがな、勇気だけではどう


にもならない事も有るんだ、其れが、草原にいる狼の群れなんだ、あの狼の


群れにはなぁ~、勇気だけでは勝てるもんじゃ無いんだよ、兵士達はなぁ


~、常日頃から訓練しているんだ。


みんなが考えて要るような勇気だけじゃ、狼にも猪にも勝つ事なんかできな


いんだ。


 みんなの気持ちだけは、このオレがありがたく受け取って置くよ、其れよ


りもだよ、みんなは、どんな事が有ってもだ、農業を続けて欲しいんだよ、


作物を作る事がどんなにも大変で、どんなにも大切な仕事か、その事を子供


達に教えて欲しいんだ。」


 「だって、将軍は、子供達にお風呂専門部隊といえ。新しい仕事を作られ


たんですよね、風呂専門と農作業と、どんな関係が有るんですか。」


 確かに、この親の言う事は間違いでは無い。


 「確かにな、普通に考えれば、何の関係も無いだろう、だがよ~、農作業


は、何時も、同じ作業の繰り返しなんだ、其れが、長い時を過ぎて、良い作


物が出来ると思うんだ、オレはね、このお風呂専門部隊も同じだと思って要


るんだ。


 丸太を切り、ある程度の大きさにしなければ薪木としては使い物にならな


いんだ、その薪木を年中作ると言う事は、本当の意味で単純な作業なんだ


よ、はっきりと言って、オレは、その単純な作業が大嫌いなんだ。


 だがよ、単純な作業を子供達に教える事は簡単じゃ無いんだ。


 オレはね、子供達に単純な作業がどんなに大切かを身を持って覚えて欲しいんだ。


 その為に、子供達に、お風呂場の全てを任せると言ったんだ。


 其れは、大人と同じ責任を持たせる事に成るんだよ、オレはね、少々のへ


まや怪我は当たり前だと思ってるんだ。


 其れで無ければ、子供達は成長しないと思うんだ。」


 ロシュエの熱い思いは、果たして親達に通じるのか。


 「将軍は、そんなにまでも子供達の事を考えておられたんですか。」


 「いや、オレ達は、何れ死ぬんだ、次はオレ達の子供の時代なんだ、確か


に、オレ達は、あの敵軍をやっつけたよ、だがよ~、子供達の殆どは戦の事


なんか知らないんだ、オレはね、何も、戦を知って欲しいんじゃ無いんだ。


 オレはね、戦の事よりも、将来の子供達の事を考えて欲しいんだ。」


 ロシュエは、この農場を更に大きくして、数百年間は大丈夫だと言える農


場にして行きたいのである。


 「将軍、良く、わかりましたよ、我々も、此れからは、今の子供、そし


て、未来の子供達の事まで考えて行かねば成らないんですね。」


 やっと、解ったのか。


 「その通りだよ、オレ達は、百年も二百年も生き続ける事は出来ないん


だ、だけど、子供達の子孫、また、その子孫と、この農場がある限り、永遠


に続いて欲しいんだ。


 オレの気持ちはなぁ~、ただ、それだけなんだよ。」


 「将軍、この先、何が有っても、子供達の為に、我々は、全面的に協力し


ます。」


 「うん、そうか、判ってくれたか、本当に有難うよ、此れからもよろしく


頼むぜ。」


 ロシュエの熱い思いはやはり通じたのである。


 その話を聞いていた大工部隊は。


 「将軍、私達が造るお風呂場なんですが。」


 「お~、すまない、風呂場の大きさなんだがよ、百人から二百人は一度に


入れるものにしたいんだよ~。」


 大工部隊は大変な驚きである。


 ロシュエは簡単に、百人、いや、二百人と言ったが、一度に、百人も二百


人も入れる浴場を造る事は誰が考えても簡単では無い、その事を将軍は知っ


て要るのだろうか。


 「将軍、百人、二百人と入る浴場をと言われますが、簡単に造れるもんじ


ゃ、無いと思うんですが。」


 だが、ロシュエは簡単に考えて要る。


 「そんなに、難しい事なのか、オレは、簡単に出来ると思うんだがよ。」


 「将軍、一度に、百人も入る浴槽と言われましたがね、どんな大きさにな


るのか、判っておられるんでしょうか。」


 「う~ん、そうだなぁ~、このオレが、二百人か、えっ、こりゃ~大変な


事に成ったなぁ~。」


 ロシュエは、やっと解ったのか、苦笑いをするのである。


 「将軍が二百人も入るんですよ、造る方も大変ですがね、その浴槽にお湯


を溜める子供達は、それこそ、朝早くから、火を起こし、お湯を作っても、


みんなが入れるのが何時頃になるのか、私は、其れよりも、お風呂専門部隊


の子供達に大きな負担にならなければいいんですが。」


 技師長は、深刻に考えて要る。


 「技師長、今から、そんなに深刻に考えても仕方無いと思うんだよ、オレ


はね、これで、子供達の成長を見たいだけなんだ。」


 技師長も、それ以上は話さなかった。


 「閣下、私は、先程から考えていたんですが。」


 「司令官もかよ~、余り、深く考えない方がいいんだからよ~。」


 「いいえ、閣下、私は、全く別の事を考えておりました。」


 ロシュエは、意味がわからなかった。


 「別の事だって、一体、何を考えていたんだよ。」


 司令官は思い出していた。


 「閣下、この農場を造られて、今日までなんですが、閣下も、私達もです


が、全くと言って良いほど、心に余裕が無かった様に思うんです。」


 「うん、そうだなぁ~、そう言われて見るとだ、そうかも知れないなぁ


~。」


 と、ロシュエも、少し前までの事を思い出していた。


 「オレ達が、この地に着て、この農場を造っているときでも、周りの事が


気に成っていたんだ、農場の周辺には、どんな国が有るんだろう、そして、


その国は、我々の農場に対して、何時、攻撃をかけてくるのか、其れが、い


つも、頭の片隅にあったんだ。」


 「私も、閣下にお会いし、今に至るんですが、私も、閣下と同じく、心の


中に余裕が無かった事は事実です。


 閣下が突然申されました、お風呂場の事もなんですが、閣下。あの敵国を


滅ぼすまでは、お風呂の話を考え付くような、時間は無かったと思うんです


が。」


 「う~ん、オレも、今から思うと、あの敵軍を滅ぼす事しか、頭に無かっ


たんだよ、其れがだよ、敵国が滅び、今は、何処からも攻められる心配も無


く成り、みんなもだ、少しは余裕が出てきたのかなぁ~って思うんだ。」


 ロシュエは、住み慣れた駐屯地を離れ、多くの犠牲者を出しながらも、こ


の地に着き農地を開墾し、今では大きな農場を造ったのである。


 だが、この地に着いても、心の中から、安心できる日は無かった。


 有る時は、野盗からの攻撃、有る時は、狼の大群の襲撃に会い、そして、


最後には、数万人もの、軍勢から攻撃を受け、必死で、この農場を守ってき


た。


 「将軍、私は、少し考え違いをしていたように思います。」


 「えっ、何がだよ。」


 と、ロシュエは、技師長の顔を見たのである。


 「私は、お風呂場を造る事が大変な仕事だと、今まで、思っていたんで


す。


 でも、よ~く、考えて見れば、将軍や司令官は、今の今まで、私の想像が


及ばない程の苦労をされていたんです。」


 技師長もわかってはいた、ロシュエや司令官の話で、要約、理解が出来た


のだ。


 「技師長、オレは、みんなが思うほど、苦労なんかしていないんだよ、苦


労したのは、やはり、兵士達なんだ、彼らはね、何時、何処から敵が攻撃し


てくるのかわからない状況の中でだよ、神経を尖らせていたんだ、オレは


ね、その神経を少しでも和らげてくれたのが農場の人達だと思うんだ。」


 「閣下、私も、その様に思いますね、兵士の中には、休日は、農場に行


き、農作業を手伝い、子供達と遊ぶのを楽しみにしておりましたので。」


 ロシュエも頷き。


 「将軍、今では、農場に多くの兵士が楽しそうに、過ごしているのを、私


も、見ております。


 やはり、みんなは、平和な時が一番なんですねぇ~。」


 「司令官も技師長も、此れからは、余裕を持って欲しいんだよ、勿論、オ


レもだが。」


 「その通りですねぇ~。」


 技師長は、お風呂場を造ると言う、ロシュエの思いは突然では無かったの


だと。


 「まぁ~、技師長、のんびりと行こうぜ、此れから、まだ、先が長いんだ


から。」


 と、ロシュエはニッコリとしたのだ。


 「はい、閣下、私も、のんびりと参りますので。」


 「はい、将軍、私も、心掛けますので。」


 「それじゃ~な。」


 と、ロシュエは、手を振り、宿舎に戻って行く。


 森には、きこり部隊が、草原には農場の男達が、その周辺には、兵士達が


狼の攻撃から男達を守るために警戒をしている。


 そして、数十日が過ぎ、新しい農場造りも要約軌道に乗り出し、また、数


十日が過ぎた早朝の事だった。


 「お~い、誰か、司令官を呼んでくれ。」


 城壁の上で監視に当たっていた兵士が叫んだ。


 「何が、あったんだ。」


 下の兵士は聞くと。


 「遠くに丘に大量の煙が上がっているんだ、だから、早く司令官を。」


 「よし、判った、直ぐに呼んでくるから、監視を続けてくれよ。」


 「判った。」


 下の兵士は大急ぎで司令官を呼びに行くのだ。


 「司令官、司令官、大至急、城壁に来て下さい。」


 「判ったが、一体、何が有ったんだ。」


 と、司令官は大急ぎで服を着る。


 「監視兵の話では、遠くの丘に、今までに無い程、大量の煙が上がってい


ると、言っております。」


 「よし、判った、直ぐに行く、隊長達も起こして、直ぐに城壁まで来る様


に伝えて下さい。」


 「はい、司令官、では、私は、今から、隊長達に伝えに行きますので。」


 兵士は大急ぎで、兵舎の隊長に伝えに行くのだ。


 「お~い、誰か、居ないか。」


 司令官は表に立つ兵士を呼んだ。


 「はい、自分が居ります。」


 「今の話を聞いたと思う、将軍にも、お知らせして下さい。


 私は、このまま、城壁に向かいますので。」


 「はい、司令官、では、直ぐに参ります。」


 と、兵士は、大急ぎでロシュエの宿舎に向かった。


 一方、司令官は、城壁に向かう途中、兵士の伝言を聞いた隊長達と合流す


る。


 「司令官、一体、何が起きたんでしょうか。」


 「いや、私も、まだ、確認が出来て無いんだが、伝令の話しでは、遠くの


丘から大量の煙が昇っているらしいんだ。」


 「では、兵士達の召集は。」


 「うん、まだ、時間はある、先に確認する事が大切だから。」


 「はい、判りました。」


 と、話している間に城壁に着き、司令官と隊長達は上がって行くと。


 「えっ、一体、之は、何事が起きたんだ。」


 と、司令官は思わず叫んだ。


 5人の隊長達は声も出なかった。


 其れは、丘の上からおびただしいほどの煙が上がっていたからで。


 「司令官、一体、何があったんでしょうか。」


 「う~ん、私も、理解が出来ませんよ、ですが、之は、軍隊では有りませ


んねぇ~。」


 隊長達も頷く。


 軍隊で有れば、自分達の居所がわかる様な事はしない。


 「ですが、この煙は火事では無い様ですね、時間から考えれば朝食の用意


でしょう。」


 一番隊隊長の意見に。


 「私も、その様に思いますが、何も判らない状況で判断する事は出来ませ


んからね、直ぐに偵察に行かせて下さい。」


 「司令官、私の独断で、既に、5人を偵察に向かわせました、申し訳有り


ません。」


 彼は、監視隊の中隊長である。


 「中隊長、別に謝る必要は有りませんよ、其れで、偵察隊のメンバーです


が。」


 「はい、以前、敵軍の偵察に行ったメンバーですが。」


 「あ~、あの5人ですか、彼らなら状況を良く判断すると思いますよ。」


 その時、ロシュエも上がって着た。


 「閣下、申し訳有りません。


 この様な早朝に。」


 「な~に、別に大した用事も無いからいいんだ、其れで。」


 と、言って、ロシュエは前方の丘を見ると。


 「一体、何なんだ、あの煙は。」


 「閣下、今、偵察に行かせておりますので、後程、判明するかと思います。」


 「そうだな、別に急ぐ必要も無いだろうが、監視は強化した方がいい


ね。」


 「はい、私も、その様に思います。


 一番隊と二番隊は早めの食事を取り、城壁の配置に就く様に。」


 「はい、では、一番隊と二番隊に、今から伝えに行きますので、失礼しま


す。」


 と、一番隊と二番隊の隊長は直ぐに兵舎に戻って行く。


 司令官の命令は何時もより早かった。


 「三番隊と四番隊は、一番隊と二番隊が配置に着くまで、城壁で監視に就


く様に、五番隊はホーガンの点検を行う様に。」


 と、三番隊から五番隊の隊長に命令が下され、三人の隊長は急ぎ、兵舎に


戻って行った。


 「司令官、其れにしても、何故、今頃、煙が上がっているんだ。」


 「閣下、私が思うには、軍隊では有りませんね。」


 「うん、オレも、軍隊じゃ無いと思うんだ、だから、あの煙は民間人なの


か、だが、あれだけの煙が上がると言う事はだ、大量の民間人が居るって事


だなぁ~。」


 一体、何人の民間人が居るのだ、それにしても、理解が出来ない二人なの


だ。


 「まぁ~、司令官、何れにしてもだ、偵察隊が戻ってからの話になると思


うんだ。」


 「そうですね、私達も、今は、何もする事は有りませんが、一応、警戒監


視は続けて起きます。」


 「うん、其れで、十分だと思うよ。」


 ロシュエ達は、まだ、気付いていなかった。


 あの煙は確かに民間人だが、この時代、民間人と言えば、殆どが農民なの


だ。


 では、一体、それだけ大量の農民が何処から集まって着たのだろうか、そ


の中には、敵軍だった司令官と兵士5千人が居る事など知る由も無かった。


 「閣下、何れにしましても、昼頃には判明すると思いますので、閣下は、


一度戻られては如何でしょうか。」


 「うん、そうだなぁ~、今の状況では、オレが居たって、何もする事も無


いからよ、じゃ~、司令官、何か変化があれば、いつでも、呼んでくれる


か、オレは、一度、戻るからよ~。」


 「はい、閣下、私は、此処に残り様子を見ますので。」


 ロシュエは戻って行く、だが、宿舎には戻らず、農場に向かって行くの


だ。


 途中、ロシュエは考えていた、あの大量の煙が民間人、それも、農民だと


すれば、遅くても、夕刻には、この農場に到着するだろうと考えたのだ。


 だが、今の農場に大量の農民が入る余裕などない。


何か方法な無いか。今年は、大豊作で農場の倉庫には大量の穀物が保管され


ている。


 だが、今の農場に居る人数が冬を越すだけの食料しか無いと判断しなけれ


ば成らない。


 それでも、最低限、何が出来るのか、之は、判断を誤ると、大変な事に成


る、今は要約、お風呂場の建設に入りだし、森では、連日、数十本の大木の


切り出し作業に入って要る。


 そして、草原では、手分けして大小の岩石を掘り出し城壁造りが軌道に乗


り出した。


 技師長も連日、先頭に立ち、指揮を執って要る。


そんな時に、大量の農民が農場に押し寄せてくるなど、ロシュエは想像もし


なかった。


 ロシュエが考えて要る間に、農場のテレシアの所に向かっていた。


 農場の朝は早いが司令官達が城壁の上で急な監視任務に入って要る事な


ど、農場の人達は、誰一人として気付いていなかった。


 「お~い、テレシア、起きて要るか。」

 

 「一体、誰だ、こんな朝早くに、え~、将軍じゃ~無いのよ、何で、こん


な朝早く、何かあったのかい。」


 さすが、テレシアだ、ロシュエが、直接来る事は滅多に無い。


 そのロシュエが早朝に着たので、テレシアは、何か大変な事が起きたと判


断したのである。


 「やはり、テレシアだな、オレが、何も言って無いのによ~。」


 「な~に、あんたが、私のところに来るなんて、滅多に無いんだよ、それ


も、こんな早朝に着たと言う事はだね、何か大変な事が起きたんだと、誰で


もわかるわよ。」


 「うん、そうなんだ、実はな、城壁で監視中の兵士が、丘の向こうに大量


の煙が上がっているのを発見したんだ。」


 「何よ、その大量の煙って、何処かの軍隊が、また、攻撃にでも着たと言


うの。」


 「いや、オレは軍隊じゃ無いって思うんだよ。」


 「何故なのよ、軍隊じゃないって、誰が判断したのよ、其れに、誰も、人


間を見たんじゃ無いんでしょう。」


 「そうなんだが、攻撃に行くような軍隊ではな、自分達の居場所を知らせ


るような事はしないんだよ、相手に見つからないように来るはずなんだ。」


 「それじゃ~、一体、誰なのよ。」


 だが、テレシアは判っていたのだ、ロシュエが直接話に来ると言う事は、


煙の正体は民間人だ、それも、農民だろうと、大量の農民が来ると言う事


は、今から、スープとパンを作りはじめて欲しいと言いに着たんだと。


 「オレの判断じゃ~な、あの煙の正体は、大量の民間人だ、それも、殆ど


が農民だと思うんだ、其れで相談に着たんだよ。」


 テレシアの答えは早かった。


 「判ったわよ、多分、私も、農民だと思うね、其れで、農民達のために、


今から、スープとパンの用意を始めろって言うんだね。」


 「いや~、さすがにテレシアだ、オレが、何も言わないのによ、嬉しい


ね。」


 と、ロシュエはニコットしてテレシアの頬にキスをした。


 「何、するんだよ、この。」


 と、言ってはいるが、テレシアも嬉かったのだ。


 「あんたが、全部言ったのよ、それも、農民だって。」


 テレシアもニヤリとした。


 「本当に、ありがたいね、オレは、テレシアが大好きだよ。」


 と、言って、またも、テレシアの頬にキスしたので。


 「何するんだよ、あんたの相手は。」


 と、言ってはいるが、テレシアも判っている、ロシュエは表も裏も無い男


だと。


 「すまないねぇ~。」


 「いいんだよ、其れで、何時頃来ると思ってんのよ。」


 「うん、まだ、はっきりとは判らないんだ、司令官は昼頃には判明するだ


ろうと考えて要るんだ。」


 「それじゃ~、夕方までに作ればいいのね、それと、兵隊さんも食べると


思うのよ。」


 「うん、その事も頼みたいと思ってるんだ。」


 テレシアは、判っていた、其れにしても、今朝の将軍は何時もと違うとテ


レシアは感じて要る。


 「ねぇ~、将軍、あんたの様子が何時もと違うんだけど。」


 ロシュエは、普段と同じ様に見せているのだが、テレシアの勘は良く働


く。


 「テレシア、実は、オレも判って無いんだ、だけど、農民だけじゃ無いと


思っているんだよ。」


 「それじゃ~、何人か、わからないけど、兵士も混じっていると思って要


るのね。」


 「オレはね、そう思ってるんだ、それも、あの敵軍の生き残り兵だと、考


えればだ、奴らは、この地に農場があると知って要るからなぁ~。」


 「そうなの、其れが、心配の種なんだね。」


 「今までと違う何かがあるんだ、其れにしても要約、新しい農場造りが軌


道に乗り出したと思ったのになぁ~。」


 「将軍、私だって、同じだよ、此れからだって言うときに、必ず、何か起


きるのよね。」


 「うん、だけど、オレはね、之が最後かなって思いたいんだ、そうで無い


と、何時まで経っても農場の拡張が終わらないからなぁ~。」


 「そうね、きっと、そうよ、私も疲れるわよ。」


 「すまんなぁ~、オレは、あんたが頼りなんだ。」


 「本当にあんたにゃ~、負けたよ、だけど、出来るだけ、早く終わってよ


ねぇ~。」


 「オレも、早く終わりたいからよ~、それじゃ~、テレシア、よろしく頼


むよ。」


 と、ロシュエは、テレシアに手を振って農場を後にし、ロシュエは、その


まま、城壁には行かず、宿舎に戻っていく。


 一方、丘の向こうでは新たな動きが有った。


 「皆さん、聞いて頂きたいんですが。」


 この場に居た農民達は、かの国が支配していた領民達で有る。


 「私は、皆さんも知っての通り、かの国では、司令官と呼ばれておりまし


た。


 そして、かの国の城主の命令で、皆さんが生活されておられた、幾つもの他国を攻撃しましたが、私も、多くの戦で、多くの兵士を亡くしました。


 そして、私達の城主も亡くし、今は、生き残りの兵士と共に、戦場から逃げ出したんですよ、でも、私は、戦を好んでいるのでは有りません。


 あの当時は、城主の命令で仕方無く戦に行きましたが、此れから行く土地は農場を造るには最適な土地だと思っております。


 我々、生き残りの兵士は命を落としても、貴方方を受け入れて欲しいと、願っております。


私の首を差し出して、全てを許してもらえるとは思わないのですが。」

 

 この敵軍の司令官は話が上手で、巧みな話術で農民達を見方に取り込もう


としている。


 「司令官様、おれ達は、戦の事は知りませんが、はっきりと言って、城主


と悪い家臣がいなくなり、本当は喜んでいるんですよ、司令官様が、おれ達


を救ってくれたと、今も思っています。」


 「其れは、ありがたい話です、でも、私は覚悟だけはしておかないとなら


ないんです。」


 この司令官は、言葉とは裏腹である。


 「私は、生き残った兵士達の事も考えなくては成りませんので。」


 「ですが、司令官様、おれは、相手の方がどんな人なのか知りませんが、


おれ達を救ってくれたのは、司令官様だと言いますよ。」


 「有難う、その、お気持ちだけで嬉しいです。


 其れで、皆さん、食事が終われば、遠くに見える城壁に向かいますが、之


で、皆さんの顔を見る事は無いと思いますので。」


 「其れじゃ~、司令官様とは。」


 「もう、会う事は無いと思いますね。」


 「司令官様、おれ達、農民が兵隊さんの服を着れば、兵隊さんも助かるん


じゃ無いんですか。」


 司令官の話術は的中した、農民の姿になれば兵士は助かるのだ、この司令


官は兵士が助かる方法を考えていただけで、彼らの、国や農場を攻撃したの


は、確かに、前の司令官である。


 その当時、彼は、司令官ではなく、当時の司令官は農村を襲う事に反対だ


ったのだが、隊長だった彼が、司令官の命令では無く彼の命令で他国や農村


を攻撃していた。


 今は、司令官の服装をして農民達をだましている。


 この司令官は以前から野望を抱いていた、何れは、城主となり、栄耀栄華


を極めたいと、だが、現実は思い通りには行かない、そして、考え付いたの


が、言葉巧みに農民をだまし、ロシュエ達の農場を乗っ取る事が出来れば良


いのだ。


 農民達は、あの攻撃をした隊長だとは知らずに自分達を助けてくれたのは


司令官だと信じて要る。


 「その様な事が見つかれば皆さんは殺されますよ。」


 「司令官様、その農場の人達も人間だったら、おれ達を殺す事は出来ない


と思います。


 急いで、服を交換しましょうよ。」


 この司令官は、之で、兵士は助かる、後は、話術で相手をだまし、時期を


見て、攻撃すれば、農場は陥落するはずだ、その前に、お互いが服装の交換


と武器を隠す事である。


 「でもね、相手はどんな人達かわかりませんよ。」


 「司令官様、おれ達は何も言いませんから。」


 よし、之で、話は決まった、あとはどの様に成るのかわからないが進む事


が自分達が生き残れるチャンスなのだ、農場さえ手に入れば、その為に、こ


の農民達が生きようが、死のうが、どうでもいい事なんだ、腹は決まった。


 「有難う、それじゃ~、皆さんの行為に甘えさせて頂きます。


 兵士は直ぐに軍服を着替えるように、皆さんの着ておられる農作業服を着るように。」

 

 この司令官と言われる男は相当な策士かも知れない。

 

それから、農民と兵士はお互いの服装を交換し、悠然と農場に向かう。


 その様な事になっているとは知らないロシュエは、宿舎に戻った。


 「イレノア、オレに、若しも、何か、起きた時には、司令官に任せて有る


から、君も、司令官の言う事に従ってくれるか。」


 「えっ、将軍、突然、私に、そんな事を言われても、私は、ハイとは言え


ません。


 何故、今更、そんな事を言われるんですか、私は、訳がわかりません。」


 と、イレノアは涙を流すのである。


 「イレノア、オレ達兵隊はなぁ~、何時、何処で、死ぬかも知れないん


だ、それだけは判って欲しいんだ。」


 「でも、何故ですか、今まで、そんな事を話された事は有りませんよ。」


 イレノアの青い瞳からは、涙が溢れ出る。


 「今日の朝、煙を上げていたのが軍隊で有れば、今度こそ危ないかも知れ


ないんだ。」


 「いやです、其れならば、私は、将軍の側を離れません、たとえ、誰が何


と言っても。」


 イレノアの気持ちは、ロシュエには痛いほど判っている。


 「イレノア、本当に有難う、だがな。」


 と、言った時だった。


 「うっ。」


 と、イレノアは吐き気を模様したのだ、ロシュエは、正かと思い。


「イレノア、君の。」


 「ハイ、将軍、確かに、将軍の子供を宿しました。」


 と、言ってる、イレノアの瞳からは涙は止まらないのだ。


 「すまなかった、イレノア、オレは、何も知らずに、オレが、さっき言っ


た話は全て無かったと思ってくれ、此れからは、君とお腹の子供のために、


どんな事があっても、オレは、生きて行くからな。」


 と、ロシュエはイレノアを抱きしめたのだ、そのイレノアの青い瞳から、


今度は嬉涙が溢れてくるのだ。


 「将軍、有難う、御座います。


 私も、将軍と子供のために、何が、起きようと生きて見せます。」


 と、言ったイレノアの唇に、ロシュエは熱いキスをするのである。


 その時だった、城壁から馬が走ってくるのが判った。


 「イレノア、静かにな、此れから、大変な事態を迎えるんだから、そっ


と、座るんだよ。」


 と、今まで以上に優しく成るロシュエである。


 「うふっ。」


 と、イレノアが笑い。


 「大丈夫ですから、何も心配していませんから、本当に大丈夫ですから


ね。」


 と、イレノアが椅子に座ろうとすると、優しく手を差し伸べるのだ。


 「将軍、司令官がお越し下さいとの事です。」


 「うん、判った、直ぐに行くから、と、司令官に伝えてくれ、それと。」


 と、ロシュエは口をつぐみ、二コリとして。


 「イレノア、何も心配ないからな、君は何もせずに、静かにして要るん


だ。」


 と、言って、部屋を出て行った。


 ロシュエが部屋を出た後、イレノアは、ロシュエの子供を宿した事で大変


だが、嬉しさが込み上げて着た。


 其れは、悪夢のような出来事ばかりが続いたのが、まるで、嘘のようだっ


た。


 心は、早くも、子供の名前を考える、それも、鼻歌混じりで。


 その頃、ロシュエは城壁に向かって行く、途中、ロシュエは考えていた。


 予定よりも早く動き出したのだ、其れにしても、何故なんだ、今頃になっ


て農場に、何のために向かって来るのだろうか、その訳が知りたいと考えの


途中に着いた。


 「閣下、恐れ要ります、此方の方に上がって頂きたいのです。」


 「うん、判ったよ、直ぐに上がるから。」


 と、ロシュエは上がって行く。


 「司令官、何が起きたんだ。」


 「閣下、其れよりも、前方を見て下さい。」


 ロシュエは、司令官の指差す方向を見ると。


 「一体、あれは何なんだ、之は、大変な人数じゃ無いか。」


 「はい、私も、見て驚いているんです。


 それと、森の近くを5人が戻って来ますので。」


 森の端を5頭の馬が大急ぎで走ってくる。


 「お~い、城門を開けるんだ、5人の偵察隊が戻って来るからなぁ~。」


 「はい、司令官。」


 と、城門の兵士達数人が城門を開く。


 「閣下、先頭を見て下さい、上半身、何も着ておりませんが、動きからし


て兵隊のようです。」


 「うん、その様だが、何故だ、兵隊ならば軍服を着ないんだ、おっ、それ


と、武器を持って無いように見えるが。」


 「閣下、私も、その様に見えております、其れに、続く、之も兵隊と思わ


れますが、上半身何も着ておりません。」


 「うん、だが、一体、何のつもりなんだ、オレには、さっぱり判らん


よ。」


 側には、5人の隊長達も居る、だが、隊長達も首をかしげるばかりで。


 「閣下、兵隊と思われるのが、約、5千人と思われますが、その後です


ね、あれは、確かに農民のようですが、何人居るのか見当がつきません。」


 「オレもだよ、一体、何人居るのかなぁ~、司令官、農民の側に馬車もあ


るぞ、之は、大変な数だ、お~い、城壁の兵士に告げるぞ、先頭の兵士達の


人数と農民と思われる集団の人数、それとだ、一体、何台の馬車が連なって


いるのか、手分けして数えてくれ。」


 城壁の兵士達は、既に数え始めている様子だった。


 「お~い、偵察隊が戻って着たぞ。」


 「判った、直ぐ将軍に報告させてくれ。」


 と、城壁の上下の兵士が連絡し合う。


 戻って着た偵察隊は、直ぐにロシュエに報告した。


 「よ~、大変だったな、ご苦労さん、直ぐに悪いが状況を聞かせてく


れ。」


 「はい、将軍、報告します。


 先頭は兵隊で、人数は約5千人、その後は、農民で、女と子供を合わせ


て、約2万人で、最後の馬車ですが、之も、1千台は有ると思われます。


 そして、兵隊は武器を持っておりません。


 以上で報告を終わります。」


 「大変な任務なのに、ご苦労であった、少し休むといいからな、馬も休ま


せてくれ。」


 はい、将軍、では、自分達は之で失礼します。」


 と、5人の偵察隊は、ロシュエと司令官達に敬礼をし、兵舎に戻ってい


く。


 「司令官の言った通りになったなぁ~。」


 「はい、ですが、先頭の兵隊と思われる者達ですが、武器も持たず、上半


身に何も着ていないとは、一体、何を考えて要るのでしょうか。」


 ロシュエも訳がわからないのである。


 だが、ある地点の差し掛かった時である。


 「将軍、先頭の兵士達が停まりました。


 でも、あの地点はホーガン矢が飛んで行く場所なんですがねぇ~。」


 「だがよ、今の動きから見ると、やはり、先頭は兵隊だな、其れにだよ、


あの地点を知って要るのは、あの敵軍だけのはずだ。」


 「其れじゃ~、閣下は、あの兵隊は敵軍の生き残りだと思われて要るんでし


ょうか。」


 司令官も敵軍だと思ってはいたが、その敵軍が、武器も持たず、軍服も着


ず、だが、軍服も武器もどの馬車かわからないが隠して有ると考えるのが普


通なのだ。


 「司令官、オレは、あいつらの姿がどうも気に成るんだ。」


 「閣下、私もですね、いかにも、自分達は武器を持っていないと見せ掛け


ている様に思えるのですが。」


 司令官も信じて無い。


 「それにだ、後の農民だが、生き残った兵士達が、農民の姿で誤魔化して


いる様に思えるんだ。」


 ロシュエは、本当の農民が何人いるのか、其れが、知りたいのだ。


 「閣下、偵察隊は正確に調べたと思いますが、相手が偽装したと考えて


も、人数だけですが正確だと思います。」


 その時だった、先頭に居た兵士数人が動き出した。


 「閣下、ヤリのような物の先なんですが、白い布を着けていますが。」


 「オレには、意味がわからんよ、だが武器も持っていないようだし、話で


も有るのか。」


 「閣下、私が行って参ります。」


 「おい、何を、言ってんだよ、こんな時が、オレの仕事なんだ、オレに若


しもの事が有った時にはよ、イレノアを頼むぞ。」


 「えっ、でも、正か、閣下、お一人でですか。」


 「勿論だ、相手も一人なんだからよ~。」


 「判りました、城壁の全兵士に告ぐ、今から、閣下が出られる、奴らに不


穏な動きが有れば、一斉にホーガン矢を放つので、準備だけは怠るな、閣


下、気を付けて下さい。」


 「お~、任せなよ、オレも、武器は持たないからよ~。」


 「えっ、閣下もですか、其れは、余りにも危険では有りませんか。」


 「いいんだよ、何も心配するな、じゃ~な。」


 と、ロシュエは、一人城門を出て行く。


 馬上の二人は、近づき。


 「失礼ながら、このお城の城主様でしょうか、私は、後の農民達を引き連


れて参りました、兵士達の指揮官で有ります。」


 「オレは、城主ではないが、この農場を守っている兵士達の総指揮官です


が、一体、貴官達は、何処から来られたんですか。」


 「はい、実は、私は、ある国の指揮官でした。


 将軍とお見受けしたんですが、間違いであれば、お許し願います。」


 「まぁ~、この農場では、オレは、みんなから将軍と呼ばれているが、其


れが、何か。」


 この指揮官を、あの敵国の司令官だとは、ロシュエは知らない。


 「将軍、私は、数十日前に、このお城を攻撃しました。


 将軍から見れば、私は、敵軍の司令官だった男です。」


 ロシュエは驚いた、何故だ、何故、今頃になって敵軍の司令官が現れた。


 そう言えば、あの時、敵国の城主にホーガン矢が命中した時、数千人の兵


士が逃げた、では、この兵隊は、やはり、生き残りの兵隊だったのか。


 「何、あの時、この戦地から逃亡した兵士達なのか、其れで、貴官は。」


 ロシュエは穏やかに話を聞きたいのだ。


 「はい、私は、城主が落馬した時に逃亡しました。」


 やはり、では、何故、今頃に成って、この地に戻って着たのだ。


 「オレは、今、不思議に思って要るんですよ、あの時、貴官達は、この戦


地から逃亡された、その様な場所に、何故、戻って来られたんですか。」


 「私と、生き残りの兵士、5千人が各地に行きました。


 でも、其処で見たものは、生きる事さえ苦しい農民の姿だったんです。


 この農民達は、全て、私の元居りました国の城主が治めておりましたが、


その城主は、不毛だと言っても過言では無い土地の人達なんです、土地はや


せ、毎年不作なんです。」


 「では、あの国が治めていた地域は不毛地帯だと言われるのか。」


 「はい、その通りで御座います。


 私は、以前から、将軍が開墾されておられました、この土地を知っており


ました。


 ですが、当時の私は、何も出来なかったんです。」


 ロシュエは、話の続きは農場内でと思い。


 「判りました、今の話の続きは、場内に入って聞かせて頂きたいのです


が、宜しいですかな。」


 この指揮官は、全てを覚悟している様に、ロシュエは見たのだが。


 「判りました、では、ご一緒させて頂きます。」


 と、指揮官は振り向き、ヤリの先に着けた白い布を振ったのである。


 すると、後方から大きな歓声が上がったのである。


 ロシュエと指揮官は、振り向きもせずに場内に入った。


 そして、指揮官が、其処に見たのは、多勢の人達が楽しそうに農作業をし


て要る光景だった。


 だが、二人は何も話さず、ロシュエの宿舎に入った。


 「まぁ~、座って下さい。」


 「ハイ、将軍、有難う御座います、では、失礼します。」


 と、指揮官は、落ち着いた表情で座った。


 「イレノア、何か、飲み物でもあれば、持って来て欲しいんだが。」


 「はい、将軍、今、出来ましたが、スープしか有りませんが。」


 「うん、其れで、いいよ。」


 「はい、直ぐに、お持ちします。」


 と、イレノアは、二人分のスープを運んで着たとき。


 「あっ。」 

 

 と、イレノアは声を上げたのである。


 「イレノア、一体、如何したんだ、この指揮官に見覚えでも有るのか。」


 「はい、実は、この方が。」


 「なんだ、何が有ったのか知らないが、イレノア、全部とは言わないが、


話を聞かせてくれ。」


 「はい、将軍、実は、この方と部下の兵隊さんが、私達を城から逃がし


て。」


 イレノアは涙ぐむのである。


 その時、指揮官も思い出したのか。


 「貴女でしたか、私も、何処かで、お会いしたと思っておりましたが。」


 「それじゃ~、貴官が、イレノア達、20人をあの城から脱出させたんで


すか。」


 「はい、将軍、私は、以前から、城主と家臣達には、腹立たしい思いをし


ており、農民からは、不作にも関わらず、毎年、強制的に年貢を取り上げて


おりました。


 その年貢が出せない農民からは、働き手の男女を問わず、城に連行し、男


は城の修復を、女性は、城主の近くに置き、後は、将軍のご想像にお任せ致


しますが。」


 「では、イレノアが、言っていた人物とは、貴官達の事だったんです


ね。」


 「はい、将軍、間違いは有りません。


 私は、皆さんがどの様に思われるか判りませんが、私達にとっては命の恩


人です。」


 「うん、其れは、オレも、判っているよ、だけどなぁ~、イレノア、う~


ん。」


 と、ロシュエは、言葉に詰まったのだ。


 「イレノアさん、私は、あの時は、当然の事をしただけなんですよ、其れ


に、将軍の言われる事も本当なんです。


 確かに、私達は、この大きな城壁に対して攻撃をした事も事実なんで


す。」


 この時、城壁では新たな動きが有った。


 「司令官、農民だと思われる男達数人が、此方に向かってきます。」


 「なんですと、判りました、直ぐに行きます。」


 と、司令官は、上がって見た。


 「う~ん、確かに、農民の服装ですが、まだ、確認が出来ませんので、警


戒は続けて下さいね。」


 「はい、司令官。」


 農民達は城門の前に着たので、司令官が外に出た。


 「あの~、このお城の将軍様でしょうか。」


 農民の顔は疲れ切った表情である。


 「いいえ、私は、一応、司令官ですが。」


 「そうですか、助かりました。


 実は、さっき、このお城に入られた人なんですが。」


 「その人物であれば、今、将軍と話をされておりますが、其れが何か。」


 「はい、司令官様、実は、そのお方は、私達、農民には命の恩人なんです


よ。」


 「何と、言われましたか、命の恩人だと。」


 「はい、その通りなんですよ。」


 「お話しを聞きましょうか、私も、突然の話なんで、詳しく話していただ


けますか。」


 司令官は、突然の話だが、詳しく聞く必要が有ると判断したのである。


 「司令官様、私は農民です。


 ある国で、私達、農民は毎年なんですが、恐ろしいほどの年貢の取立てに


泣いておりました。」


 「なんですか、その恐ろしいほどの年貢とは。」


 「はい、私達も、毎年、必死で農作物を育てて要るんですが、私達の住む


土地では、毎年、不作続きで、今年も、不作だったんです。」


 「判りますが、それと、あの司令官と、どの様な関係が有るのですか。」


 「はい、司令官様、今、言いました様に、私達は農民です、でも、不作が


続き、年貢などを出せるような状態では無かったんです。


 その事を一番良く知っておられるのが、今の司令官様なんです。」


 「何、今の司令官と言われましたが、其れまでの司令官は。」


 「はい、前の司令官は、国王の言われる事なら、何でもしております。」


 「それじゃ~、今の司令官と言われるのは。」


 「はい、先代の司令官は国王に殺されたと聞いておりますが、その話が本


当なのか、オレ達、農民は何も知らないんです。」


 だが、実際は、反対であった、前の司令官は国王に反発し、今の司令官、


当時は隊長で、この隊長が国王の命令を実行していたのだ。


 前の司令官は、今の司令官に殺されたが、農民達には知らされる事はな


く。


 「じゃ~、何か、突然、司令官が変わったのか。」


 「はい、その通りで、御座います、ある日、突然、今の司令官様が来ら


れ、こう、申されました。


 今年は、豊作なのか、それとも、不作なのか、と。」


 「で、返事は。」


 「はい、オレ達は毎年言ってるんですよ、今年は不作だから、年貢なんか


納める事は出来ませんと。」


 「確かに、言われる通りだ、不作じゃ~、年貢どころか、自分達、農民が


生きて行くための食料も無いと思うんだが。」


 「はい、確かにその通りで御座います。」


 「其れで、その新しい司令官には、何と答えたんだね。」


 「はい、勿論、今年は、大凶作なんで、年貢を納める事は出来ません


と。」


 「言ったのか。」


 「はい、申しました。」


 司令官は想像した。


 この農民の返事に、あの司令官は、何と、答えたのか、自分ならば、年貢


は必要無い、みんなが、食べるようにと。


 「其れで、その司令官は、何と、答えたんだね。」


 「はい、オレ達は、前の司令官は、本当に恐ろしい司令官だったんで、今


度の司令官は、前よりも、恐ろしい司令官だと、思っておりましたので、村


人達は、今度は殺されると覚悟をしていました。」


 司令官の想像通りに成った。


 「だが、貴方方は、今、ここにいると言う事は、今の司令官は、誰も、殺


さなかったと言う事ですね。」


 「はい、その通りです、今の司令官様は、本当に優しい人なんです。」


 「何ですって、優しい人だと。」


 司令官は、全く、信じる事が出来ない。


 彼ら、農民が言う優しい司令官が、何故、農村を襲うのか。


 「今、優しい人だと、言われたが、その優しい司令官が、農村を襲うんで


すか。」


 農民達は驚き。


 「司令官様、今、言われました、農村を襲っていたのは、前の司令官なん


です。


 今の司令官様は村を襲った事は無いんです。」


 司令官は驚きの表情で。


 「何ですって、今の司令官は、村を襲った事は無いと言われるんです


か。」


 では、何故だ、何故、この農場を攻撃したのか。


 「はい、オレ達の村ですが、今、ここに来た農民達の村を遅い、食料を奪


ったのは、全部、前の司令官なんですよ。」


 側の農民達も頷き。


 「司令官様、俺たちは嘘は言って無いんです。


 其れに、なんで、司令官様に嘘を言う必要があるんですか。」


 確かに、農民達の言う通りである。


 「判ったが、其れで、君達は如何したいんだ。」


 「はい、司令官様、俺たちの司令官様は、今日の朝、言われました。


 自分が、たとえ、打ち首になっても、俺たち農民を守ると。」


 「何、自らの首を差し出しても、君達を守ると言われたのか。」


 「はい、その通りで御座います。」


 今、将軍と話をして要る司令官とは、大した人物だと思った。


 「オレ達の司令官様は、命を掛けておられますが、おれ達は、司令官様の


命をとられるくらいでしたら、どんな苦労をしても、新しい土地に行って、


その場所で、新しい国を作りたいんです。」


 これほど、慕われる司令官を打ち首には出来ない、と、そして、将軍達


が、この地に着いた頃の話を思い出したのである。


 将軍は、農民達を救う為で有れば、自らの命は惜しくは無いと、常日頃か


ら言われているのだ、今の話は、将軍と同じだ。


 「判った、君達、私と、一緒に来なさい。


 将軍の所に行きますから。」


 と、司令官の言葉は優しかった。


 「えっ、将軍様の所へですか、では、司令官様と一緒に打ち首に。」


 農民達は、何を勘違いしたのか。


 「いや、そうでは無いよ、私達の将軍は、貴方方が考えて要るような恐ろ


しい将軍じゃ~無いんだよ、実に、お優しい将軍なんだ、だから、今の話を


聞けば、将軍は何も言わないよ、でもね、今頃、貴方方の司令官は。」


 農民達は、まだ信じられない表情で。


 「今頃は、司令官様は、打ち首になっているんだ。」


 司令官は二コリとして。


 「そうじゃ~、無いんだよ、今頃はね。」


 司令官も、この先を言う必要は無いと思ったのだ。


 其れよりも、農民達の目で確かめさせようと考えたのである。


 「それでは、今から行きますかね。」


 と、司令官は二コ二コしながら、農民達を、ロシュエの宿舎まで連れて行


くのだが、途中で、彼らが見たものは、みんな楽しそうな声を上げ、農作業


を行なって要る姿だ。


 「司令官様、ここの人達は、いつも、こんなに楽しそうにされているんで


すか。」


 「そうですよ、でも、今日は、まだ静かな方ですよ。」


 「えっ、之で静かなんですか、オレ達には理解ができませんよ。」


 司令官はニコットして。


 「何時もはね、この農作業に兵士が加わり、其れは、大変な騒ぎになるん


でよ。」


 「司令官様、何で、兵隊さんが農作業するんですか。」


 農民達は訳がわからないのか、首をかしげる。


 「兵士達はね、休日を利用して、農作業に入ったり、子供達と遊んだりし


ますよ。」


 「えっ、兵隊さんと子供が遊ぶんですか、オレ達は、そんな話は聞いた事


が無いです。」


 「此処の子供達はね、兵士達が大好きなんですよ。」


 「でも、オレ達の子供は、兵隊さんが一番怖いと思っていますから、兵隊


さんが近づくと逃げて行きますよ。」


 「まぁ~、其れが普通なんでしょうが、私達の将軍はね、兵士も農民も、


みんな同じ仲間だと言われておりますので、此処では、みんなが平等なんで


すよ。」


 「それじゃ~、何故、今日は、兵隊さんがいないんですか。」


 農民は知らないのだ、今日の早朝に兵士を始め、農民、其れは、今、此処


にいる数人と、場外には、数万人が来たからである。


 「う~ん、其れはですね、今日の朝早く、数千人の兵隊と、貴方方が来ら


れたのでね、全兵士が警戒に入ったからなんですよ。」


 「司令官様、それじゃ~、オレ達が着たからなんですか。」


 司令官は頷き。


 「その通りですよ。」


 と、話をして要る間に、ロシュエの宿舎に着いたのだ。


 「閣下、私で、御座います。」


 「お~、司令官か、丁度良かったよ、今、呼びに行かそうかと思ってたん


だ。」


 部屋に入った農民は驚いた。


 其処には、打ち首を覚悟していた司令官がいたのである。


 「あっ、司令官様、大丈夫なんですか。」


 ロシュエは、農民の言った言葉の意味がわからなかった。


 「大丈夫って、何が、大丈夫なんだ。」


 「将軍、彼らは、勘違いをして要るんです。」


 「え~、一体、何を勘違いする事が有るんだよ。」


 「はい、実は、私が、此方に来る前に、彼らに言っていたんです。」


 「えっ、何を、言ったんだ。」


 「はい、私は、打ち首を覚悟で、このお城に入ると。」


 「何、打ち首だと、一体、誰を打ち首にするんだよ、オレは、誰も、打ち


首にするとは、言って無いぞ。」


 と、ロシュエは強い口調になった。


 「将軍、申し訳御座いません。


 全て、私の間違いでした。」


 「ほらね、貴方方は、何か勘違いをして要るんですよ、将軍は、打ち首な


どはされる筈が有りませんからね。」


 「おい、おい、司令官、オレはそんなに恐ろしい人間なのかよ~。」


 と、ロシュエは苦笑いをするので。


 「閣下、その様な事は、決してございません。


 確かに、あの戦では、将軍は恐ろしい将軍でしたが、其れは、特別だった


んです。


 貴方方に言っておきますが、将軍は進んで人間を殺すような将軍では有り


ませんよ、その証拠に、先程も見られたでしょう、此処ではね、いつも、あ


の調子で、みんなが、仕事をして要るんですよ。」


 「将軍様、司令官様、済みませんでした。


 許して下さい、オレ達は、何も知らなかったもんで。」


 「いや、いいんだよ、判ってくれればな、だけどよ、なんで、貴方方が司


令官と一緒なんだよ。」


 「はい、閣下、実は、先程も言っておりましたが、彼らは、此方の司令官


が打ち首に成ると思いこんでいたんです。


 彼らにすれば、司令官は命の恩人だと言うんです。」


 「なるほど、そうだったのか、あんた達は、あの城の領民だ、その領民を


だ、この司令官が助けてくれた、だから、命の恩人だ、その恩人を助けて欲


しいと言うんだな。」


 「はい、その通りで、御座います。」


 「いや、駄目だ。」


 と、言って、ロシュエはニヤリとし、司令官は、わかっていた、だが、農


民とその司令官は驚きの表情である。


 「あの~、将軍様、今、駄目だと言われましたが、では、オレ達は、一体


如何成るんですか、全員、此処で殺されるんですか。」


 農民も司令官もうな垂れている。


 「その通りだ、君達全員は、此処で死ぬまで一生生活するんだよ。」


 「はっ、将軍、では、私達は、此処に住まわせていただけるんですか。」


 「そうだよ、いやなら別だがよ、但し、但しだよ、全員が、この農場の中


で生活する事が出来ないんだ、その前にだ、貴官は今まで司令官と呼ばれて


いたが、この農場には、司令官は一人である、したがって、今からは司令官


ではなく、貴官が連れて着た兵士達の隊長を任命するが、良いか。」


 「はい、将軍、私は、最高の栄誉を頂き、此れからは、この農場の全員の


ために、任務に励む事を誓います。」


 「よし、其れで良い、司令官、隊長達は。」


 「はい、部屋の前で待機しておりますが。」


 「そうか、後は、技師長と大工部隊、其れに、切り出し隊を呼んでくれ、


それとだ、テレシアもだ。」


 司令官はわかっていたので、部屋の外で、全員を待たせていた。


 「さぁ~、みんな入って下さい。」


 と、司令官は二コ二コとして言ったのである。


 「えっ、なんだよ、みんな、居るじゃ~無いかよ~。」


 と、ロシュエは、司令官の顔を見たのだ。


 司令官は、ロシュエの事だ、最低でも、この人達は呼ぶだろうと考え、途


中で、呼び出しを掛けていたのだ。


 「司令官、じゃ~、先に呼び出しを掛けていたのかよ~。」


 「はい、その通りで、御座います。


 閣下の事ですから、最低でもこの人達を呼ばれると判断しました。」


 「司令官よ~、余り、オレの先を行かれるとだ、オレの仕事が無くなって


しまうんだ。」


 と、言いながらも、ロシュエは笑っている、


 其れに、隊長や他の全員も笑っている。


 「閣下、私は、その様な考えでは有りません。


 何時、閣下が命令を下されても、準備だけは怠る事は出来ませんので。」


 「うん、そうか、有難うよ、じゃ~、みんなに話しが有るんだ。」


 「何よ、今更、改まって。」


 と、テレシアは笑っている。


 だが、新しく隊長になった、元司令官と農民は、一体、何の話なのかわか


らないのだ。


 「テレシア、実はなぁ~。」


 「あいよ、何時もの事だから、用意は出来てるよ。」


 「済まんなぁ~、いつも、無理を言って。」


 「本当だよ、この将軍ってのは。」


 と、言って、テレシアも笑ったのである。


 「じゃ~、何時もの。」


 「何を聞いてるんだよ、用意は出来てっるて言ったでしょう。」


 「有難うよ、それと、一番隊の隊長。」


 「はい、将軍、私も既に準備は整っております。」


 「なんだよ、オレは、まだ何も言って無いんだぞ。」


 「ですが、将軍、兵士達も、何年振りか、テントなので、楽しみにしております。」


 「そうか、兵士達には悪いと思ってるんだがよ。」


 新しい隊長と農民は、ロシュエ達の話す意味が、さっぱりとわからないの


で首をかしげるばかりである。


 「将軍、実は、私も、楽しみにしておりまして。」


 「じゃ~、何か、オレが、何も言って無いのよ、何故、わかるんだよ。」


 と、ロシュエは、顔は笑い、口では不満を言うのだ。


 「将軍のお考えで有れば、この様にされるだろうと思って、私達が事前に


話し合っておりました、先走り、申し訳御座いません。」


 一番隊の隊長も笑っている。


 「あの~、将軍様、何の、お話なんですか、オレ達には、まったくわから


ないんで。」


 「そりゃ~、そうだろうよ、今の話はな、秘密の話なんだからよ~。」


 と、ロシュエはウインクしたのだ。


 其れを、見ていたテレシアは大笑いしながら。


 「何が、秘密だって、この農場じゃ~、みんなが知ってるんだから。」


 「うん、そうだった、オレはね、秘密に出来ないんだ、全部話すから


よ。」


 「そうよ、でもね、其れが、将軍のいいところなんだから。」


 「そうか、やはりなぁ~。」


 「閣下、時には、本当の秘密も必要だと思いますが。」


 「おい、司令官、オレに、そんな高等な業が出来ると思ってるのかよ


~。」


 「はい、閣下には、とても無理な相談でしたね。」


 と、言った、司令官も大笑いするのだ。


 だが、今日の朝、到着した、農民と司令官には、さっぱりわからない話で


ある。


 「まぁ~、今朝、到着した君達に理解出来る話じゃ~無いと思う、それよ


りもだよ、オレが今から、命令を出すからな。」


 と、ロシュエは真顔に成った。


 「はい、お待ちしておりました。」


 と、司令官と5人の隊長は姿勢を正し。


 「一番隊は。」


 「はい、将軍、存じております。」


 「じゃ~、二番隊は。」


 「はい、将軍、存じております。」


 「だったら、三番隊は。」


 「はい、将軍、存じております。」


 「おい、おい、それじゃ~、オレが命令を出す意味が無いんだよ、少しは


よ、オレに、仕事をさせてくれよ。」


 「はい、閣下、閣下のお仕事は、何時もの通りで有ります。」


 「何、何時ものあれで終わりかよ、なんか、寂しいなぁ~、オレは。」


 と、ロシュエは大笑いし、他の者も大笑いするのである。


 其れは、異様な光景だと、ウエスは思うほどだった、だが、この人達は階


級ではなく、本当の友人達の集まりだと思う程、仲の良い人達だと。


 「あの~、将軍様、其れで、私達は、一体、如何なるんでしょうか。」


 「お~、済まなかったなぁ~、オレ達は、いつも、こんな調子なんだから


よ~怒らないでくれよ、それじゃ~、今から、本当の命令を出す。


 ウエス隊長と、君達は戻り、全員に説明せよ、この農場内に入れるのは、


女と子供だけである。」


 「えっ、将軍様、それじゃ~、オレ達は。」


 「お前達、男は、外で野営する事になる。


 その理由だが、今の農場には、君達全員が寝泊りする場所が無い、本当


は、女と子供だけでも無理なんだ、先程、一番隊の隊長が存じております、


と言うのはだ、兵舎に居る兵士達全員が、女と子供のためにと、兵舎を空け


ると言う意味なんだ、わかったか。」


 「はい、将軍様。」


 と、言って頭を下げたのである。


 「次に、男達全員は明日から、農場の拡張工事の作業員として働いてもら


う。」


 「えっ、オレ達がですか、でも、一体、何をすればいいんですか。」


 「うん、其れは、此処に居る技師長が決めてくれるので、其れまでに班の


編成を行なう事にする。」


 「班編成って、何の話なんですか。」


 「良く聞けよ、この農場には、多くの仕事が有るんだ、特に、今はなぁ


~、農場拡張工事が最優先なんだ、班編成する事で、仕事の内容がわかる仕


組みになっているんだ、わかったかよ~。」


 「はい、将軍様。」


 と、この農夫も頭を下げたのだ。


 「最後にウエス隊長。」


 「はい、将軍、どの様な任務でも。」


 「うん、良くわかっておるな、ウエス隊長は、兵士を連れて、池と井戸掘


りに入れ。」


 「はい、承知しました。」


 「だがよ、その前にする事がある。」


 「はい、どの様なご命令でも。」


 「おい、ウエス隊長、まだ、何も言って無いんだ。」


 「申し訳御座いません、今までの癖が出ました。」


 と、ウエスはロシュエに頭を下げたのだ。


 「それじゃ~、今から、森に入って、大木の切り出し作業に入ってく


れ。」


 「ですが、私達は。」

 

 「お~、そうだったなっ、まぁ~、心配するなよ、誰か、切り出し現場に


連れて行ってくれ、ウエス隊長も、切り出し現場に行けば判る、向こうで、


切り出し作業を行なって要る連中に聞いてくれ。」


 「はい、承知致しました、では。」


 と、言って、ウエスは戻り、兵士達に化けた農民に説明をして、案内をさ


れて、森に入って行く。


 「あの~、将軍様、オレ達はいったい、何をすればよろしいんで。」


 「お~、済まなかった、あんた達の事をすっかり忘れていたよ、すまない


ねぇ~、外で、他の者達に聞いて、その作業に入ってくれないか。」


 「はい、将軍様、其れで、道具は。」


 「それも、心配するなよ、全部揃って要るからよ~。」


 「はい、判りました、では、オレ達も行きますんで。」


 「頼んだぞ。」


 農民達は、ロシュエに頭を下げ、外の作業に入って行く。


 ウエス達は森では、大木が次々と倒し、無駄な枝を切り落とし、大木は馬


車に積み込まれ農場拡張現場へと運ばれて行くのだ。


 「お~い、此処だ、此処だよ、此処に降ろしてくれ。」


 「はいよ。」


 と、馬車から数本の大木が下ろされて行く。


 そして、待っていた大工部隊が、決められたところを切断し、また、1本


の大木は数枚の板に成っていく、之は、狼避けの柵と、岩石を積み上げる為


の下準備用の板なのである。


 大木を利用した柵作りは数十日後、大きな川の側近くまで出来た。


 その間、兵士達は日夜を問わず、狼の襲撃を警戒しつつも、数十頭の狼を


捕獲して、その肉は、農民隊や兵士の食料となったのだ。


 「閣下は。」


 「はい、居られます。」


 「お~、司令官、どうしたんだよ、こんな朝早くから。」


 「はい、実は、嬉しい報告が届きましたので。」


 ロシュエも知っている様子だ。


 「司令官、じゃ~、大きな川まで届いたのか。」


 「はい、その通りで御座います。


 私も、誠に、嬉しい話で。」


 「うん、うん、そりゃ~、司令官だって、同じ気持ちに決まってるよ。」


 「閣下、先程の報告ですと、柵内には、1頭の狼もおりません。


 此れからは、農民の仕事が増えると思うので、御座いますが。」


 「まぁ~、司令官、入れよ、オレも、忘れてたよ、済まんなぁ~。」


 と、二人はロシュエの執務室に入り。


 「イレノア、スープとパンは。」


 「は~い、只今、持って参ります。」


 「お~、済まんなぁ~、身体に気をつけろよ。」


 ロシュエは、イレノアの身体を気遣うのである。


 「閣下、若しかして。」


 「そうだよ、イレノアのお腹になぁ~、オレ達の子供が。」

 

ロシュエは、嬉しさの余り、顔がほころんでいる。


 「其れは、誠に、おめでとう、御座います。


 閣下、実は、私も授かったと聞いております。」


「そうか、司令官、でかしたぞ、うん、今日は、最高の一日に成りそうだな


ぁ~。」


 と、ロシュエは子供の様な顔をして喜んでいる。


 二人は、パンを食べ、スープを飲みながら。


「司令官、オレはなぁ~、ウエスが連れてきた兵士達で池を造らせようと思


うんだ。」


 と、ロシュエは真剣な顔付きになった。


「閣下、私も、実は、あの者達の処遇を考えておりました。」


「うん、やはり、司令官もか。」


「はい、この数十日間は、何事も起きておりませんが、私としては、まだ、


完全に信用は出来ないので御座います。」


 ロシュエも、全く、同じ考えであった。


 「うん、確かに、司令官の言う通りだ。」


 「閣下、私は、大きな川の側に池を造ると言われた、技師長の計画には大


賛成です。」


 「うん、其れで。」


 「私は、ウエス隊長と兵士達全員を池造りに入らせては、と、考えたので


すが。」


 「司令官、オレも、全く同じ事を考えていたんだよ、あの場所じゃ~、農


場に戻って来るにも、数日は掛かると思ってるんだ。」


 「そうですね~、私も、あの時の事を考えますと、数日は。」


 「だがよ、本当の事は言えないからよ~。」


 「勿論で御座いますよ、ですが、私は、技師長も同行すると思うのです


が。」


 「そうなんだ、あの池を計画したのは、技師長だからなぁ~。」


 と、ロシュエは考えるので有る。


 「ですが、閣下、技師長が行かなければ、彼らにも不審に思われますか


ら。」


 「他の者にも、説明が出来なくなるからなぁ~。」


 「閣下、仕方有りませんが、当分の間、技師長にも行っていただくしか有


りません。」


 「司令官、其れで、行くか、ウエス達の食料も十分に用意するんだ、だが


よ、狼もいないところに兵士は必要無いんだ。」


 「そうですね、閣下、行くのはウエス達だけでしょうか。」


 「うん、オレも、いま、考えてんだがな、ウエスと一緒に着た農民達も行


かせてくれ。」


 ロシュエは、ウエス達とは、別に問題があると考えたのである。


 「閣下、農民達もですか。」


 「そうだ、あれだけの人数だ、兵士が農民の姿で紛れ込んでも、農民達にわかるはずが無いと思うんだよ。」


 「閣下、では、あの農民達の中に、兵士が紛れ込んでいると。」


 「うん、オレは、そう思ってるんだ、本当は、信じたいんだが、でもな、


ウエスって隊長は、あの城では、司令官を勤めてたんだ、一兵士がだ、そう


簡単に司令官には成れないはずだ、確かに、イレノア達を助けた男に間違い


はないが、その話とは別の問題なんだ。」


 司令官も頷いている。


 「私も、同感です。


 では、閣下は、ウエス隊の動きを。」


 「うん、そうなんだよ、技師長には、後日、オレから話をするが、司令


官、悪いんだがよ~、食事が終わり次第、ウエスを呼んで欲しいんだ。」


 「閣下、承知しました。」


 と、司令官はスープを飲み干し、早々と執務室を出て行ったのだ。


 ロシュエは暫く考え込んでいた。


 其れは、技師長に知らせる必要が有るのか、無いのか、その時だった。


 「将軍、お早う御座います。」


 技師長の声だった。


 「お~、技師長、如何したんだ、こんなに、早くから。」


 「はい、実は、相談が有りまして。」


 「えっ、技師長、何かあったのかよ。」


 「いいえ、別に、大きな問題では無いんですが。」


 ロシュエは、技師長が何か他の事で悩んでいると思ったので。


 「技師長、言ってくれよ、オレに、出来る事だったらよ、何でも、いいか


らよ。」


 「はい、有難う、御座います。


 実は、先程、大きな川まで柵が完成したと報告が入ったんです。」


 「お~、それならよ、オレも、司令官から聞いたんだ、其れで、技師長の


問題というのは、一体。」


 「はい、其れで、私が、計画いたしました、大小の池なんですが。」


 「お~、判ってるよ、オレもな、池を早く造りたいと思ったところなん


だ。」


 「将軍もですか、それでは、話は早い方がいいですね。」


 技師長の顔色が変わったのだ。


 「うん、オレもだよ。」


 「将軍、私は、池を造るのには相当な人数が必要だと考えて要るんで


す。」


 「うん、判った、其れで、何人位必要なんだ。」


 「将軍、少なくても、2千人、いや、5千人は必要だと思うんですが。」


 ロシュエの考えは的中したのである。


 技師長の希望では、2千人は最低でも必要だと、では、ウエス隊は5千人


の兵士が居るので、之で、問題は解決するはずだと思ったのだ。


 その時。


 「閣下、ウエス隊長をお連れ致しました。」


 「お~、済まないね~、まぁ~、二人とも、入ってくれよ、丁度、技師長


も着ているんだよ。」


 「はい、では、失礼します。」


 と、ウエスは頭を下げ、部屋に入った。


 「まぁ~、座ってくれよ、司令官、ウエス隊長も忙しい時に済まないなぁ


~。」


 「いいえ、私は、何も。」


 「ところで、ウエス隊長、部下は何人だった。」


 「はい、確か、5千人だと思っておりますが、正確な人数は。」


 この時、ロシュエは頭の中で、やはり、農民の姿になっている兵士もいる


と確信した。


 「お~、そうか、5千人なのか、技師長、良かったな、ウエス隊には、5


千人の兵士が居るんだ。」


 「はい、有難う御座います。」


 「将軍、一体、何の話なんでしょうか。」


 「うん、いやな、技師長が、さっき着て、言うんだよ、大きな川まで、柵


が完成したんで、数日の間に、池を造り始めたいと、だがな、その人数が5


千人必要だとね。」


 技師長も頷き。


 「ウエス隊長、申し訳御座いません。」


 「いいえ、私は、何も不満など有りませんので、仕事をいただけるだけ


で、嬉しく思っておりますので。」


 「よし、判った、其れで、技師長の希望だが。」


 「はい、私は、5千人が必要だと思っております。」


 ロシュエも司令官も、別に驚く様子は無い。


 「えっ、では、その5千人の仕事を、私にですか。」


 と、ウエスは驚くのだ。


 「いや~、済まんなぁ~、ウエス隊長の部下が、丁度、5千人だと、判っ


たんでね、今、決めたんだ。」


 「でも、司令官が来られた時には、まだ。」


 「確かにそうだ、オレも、考えてたんだよ、ウエス隊は、一応、森でも切


り出し作業は終わったと考えて要るんだ、だけど、森じゃ~、今も、大木の


切り出し作業が続いているんだよ、其れに、今度の仕事はだなぁ~、この農


場拡張工事の中でも、一番必要な農業用水を確保する為の池を造るんだ


よ~。」


 「そうなんです、ウエス隊長が承諾されなければ、新たな方法を考え無け


ればならないんですよ。」


 「じゃ~、それ程、大事な仕事なんですか。」


 「勿論ですよ、私達は、ウエス隊長が、この農場に来られる以前から、検


討していたんですよ、その時は、農場から、人数を送る予定だったんで


す。」


 技師長、安心したのか、今までの経緯を話すのである。


 「だけどよ、オレは、何も、直ぐにとは言って無いんだよ、兵士達にも休


養が必要だし、其れに、なんてたって、食料が必要なんだ。」


 ロシュエは、食料の調達も考えていたのだ。


 「今の人達が満足するだけの食料を作る場所は、一刻も早く作る必要が有


るんだ。」


 ロシュエは本気になっていく。


 「其れに、何も、ウエス隊だけが、行くんじゃ~、無いんだよ、大きな川


に行くまでの土地を耕す必要が有るんだ、その為に、まだ、数千人は行く事


になると思うんだ。」


 「えっ、そんな多勢になるんですか。」


 「そうだよ、食料馬車も数百台は必要だろう、其れにだ、道具だってよ、


人が持って行くのか、そりゃ~、無理だよ。」


 ウエスも、次第に気持ちが変わってきた。


 「将軍、少し時間を頂きたいのですが。」


 「いいよ、部下に相談しても、だがよ、よ~く、考えてくれよ、ウエス隊


長は、兵士5千人と、他に何人の領民を連れて着た、その領民にだって、食


べ物が必要なんだ。


 其れに、何時までも、テントの生活は出来ないと思うんだよ、オレ達は軍


人だからテントの生活は慣れているが、領民には無理なんだよ、それにだ、


領民はあんたを命の恩人だと言ってるんだから領民だって手伝ってくれる


よ。」


 ウエスは真剣に聞いては要るが。


 「将軍、私は、別に行く事に反対では有りません。」


 「じゃ~、何なんだ。」


 「はい、私は、領民の事を考えておりました。


 私の、元城主のために、多くの領民が苦しんだ、之は、確かな事なんで


す。


 私も、早く良い場所を見つけ、領民達に安心して欲しいと、その事ばかり


を考えておりましたので。」

 

 「そうだろう、其れが、ウエス隊長のいいところなんだよ、なんだったら


よ、領民達も連れて行ってもいいんだよ。」


 と、言った、ロシュエの言葉に司令官の目が一瞬、ロシュエを見たのだ。


 ロシュエも司令官の動きを見逃さなかった。


 「将軍、其れは、領民に聞かないと。」


 「いいよ、だがよ、連れて行くなら、若い人がいいと思うんだよ。」


 「はい、其れは、私も承知しておりますので。」


 司令官は何も言わず頷くだけである。


 「技師長も行くんだろう。」


 「将軍、勿論で御座います。


 私は、先陣として、付近の地形を見る必要が有りますので、一応、2~3


日後には、此処を発ちたいと思っておりますが。」


 「えっ、そんなに早くかよ~。」


 「はい、申し訳御座いません。」


 「それじゃ~、食料の積み込みは。」


 「はい、まだで御座いますが、私、一人ですから。」


 「何を言ってるんだよ、技師長、一人で何が出来るんだよ。」


 「閣下、申し訳有りませんが、一番隊の隊長が既に、人選も終わり、馬車


には、食料と、技師長が使うための道具類も積み込みを完了しておりま


す。」


 「じゃ~、何か、オレのところに話ってのは、準備が終わりましたって報


告だけかよ~、こりゃ~、参ったなぁ~、ハ・ハ・ハ。」


 と、ロシュエは笑ったが、本当は司令官の芝居でだったのだ。


 「閣下、申し訳御座いません。」


 ロシュエは司令官の目を見て判ったのである。


 「いいんだよ、じゃ~、司令官、後は、一番隊が中心になって行くんだな


ぁ~。」


 「はい、その様に心得ております。


 一番隊の隊長ならば、詳しい説明も必要有りませんので。」


 「よし、判った、技師長、よろしく頼みますよ。」


 「将軍、其れで、私は、暫くは、ここに戻れませんので。」


 ロシュエは頷くのである。


 「将軍、私達は、何時頃、出発すれば良いのでしょうか。」


 ロシュエも心の中で、よし、之で決まりだと。


 「ウエス隊長、暫くは、身体を休めて欲しいんだよ、オレは、行った事が無


いが、技師長の図面だったら、数ヶ月は掛かると思うんだ、だからよ、今


は、身体を休める事も、オレからの命令だ。」


 「はい、将軍、わかりました。」


 「作業内容は、現地に着いて、技師長と相談して欲しいんだ。」


 「閣下、失礼だと思いますが、私が、今思った事なんですが、宜しいでし


ょうか。」


 「いいよ、司令官の事だ、大体はわかるがね。」


 ロシュエは判っていた、最低でも、技師長と隊長の宿舎は必要だと。


 「有難う、御座います。


 私は、どれだけの日数が掛かるのか知りませんが、現地にですね、技師長


と隊長の宿舎は必要では無いかと思っております。」


 やはり、ロシュエの思った通りだった。


 「うん、そうだなぁ~、じゃ~、今、切り出している材木を多く持って行


く事だ、農民ならよ、自分の家くらいは建てる事が出来るだろうし、切り出


した半分を毎日送ってだ、此れから生活する為の家も建て行くってのは、技


師長、可能なのか。」


 「はい、私も、その事は考えておりましたので。」


 また、ロシュエは閃いた。


 「それじゃ~よ、ウエス隊長、今から造る家は、隊長の連れて着た領民の


為にだ。


 そして、その土地は、その人達が農作物と牛や豚を飼育する場所にすれば


いいんだ、オイ、司令官、決めたぞ、之で行くからな。」


 「はい、閣下、勿論、私に、異論は御座いません。」


 ロシュエも司令官も、之で、ウエスと部下5千人と領民の全員が、最初の


農地に入る事で、余計な心配ごとがなくなると考えたのだ。


 「ですが、その様な事に成れば、私達よりも、先に行かれる予定をされて


いました人達に対し、申し訳ないと思いますが。」


 ロシュエは、後の問題は如何にでもなると考えた。


 「ウエス隊長、そんな事は心配するな、それよりも、その土地で領民が落ち着いたら、次の仕事が待って要るぞ。」


 「はい、判っております。


 先程、技師長の図面を拝見しておりましたが、この様な新しい農場を、


後、10箇所も造られると、それでは、私達も、その城壁や大小の池を造る


仕事が出来ると、私は、本当にありがたく思っております。」


 「オイ、オイ、ウエス隊長も、オレの先を言うのかよ、之じゃ~、命令を


出す必要もなくなるよ、オレは、寂しくなるなぁ~、ハ・ハ・ハ。」


 「将軍、申し訳御座いません。


 私は、別に。」


 「いいんだよ、後は、司令官と技師長と良く相談してくれよ。」


 司令官とウエスは敬礼し、技師長も礼をして、部屋を出るのである。


 その3日後、技師長を乗せた馬車と数十人の兵士は、みんなの見送りを受


け、農場を後にするのである。


 そして、ウエス隊長と5千人の兵士、数千人の農夫達も、10日後、農場


を後にし、新しい土地に向かって行く。


 だが、ウエスと5千人の兵士達の行方は果たして。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ