第 31 話。山向こうの農民を助けろ。
お米の買い付けから戻った一行の疲れ方は異常な程で、農民達はその後十数日間も寝込み、その為に農作
業も手が付かずで城下に戻った家臣達も同様で有る。
「鈴木様、大変なご苦労をされた様ですが。」
「はい、私達は菊池藩の方々のお陰で無事戻る事が出来たと思っております。」
「では、買い付けには問題は無かったのですか。」
「はい、荷車百台を海岸に作られた道を進むのですが、菊池藩の方々が大勢で山の木を伐り出し、荷車が
通れる様にして頂き、更に山の向こう側まで一緒に運んで頂いたのです。」
「其れは良かったですねぇ~、其れで。」
「はい、最初の村に着いて、名主さんは中川屋さんを待っておられたようで。」
「えっ、では中川屋が来られるのを待っておられたと、ですが何故ですか。」
「はい、其れがその村から十数里程離れた村で収穫したばかりのお米を全部取られたと言うのですがどう
やら幕府軍か官軍に略奪された様で、其れと村民が抵抗した為に数人が切り殺されたとも聴きました。」
やはりだ、源三郎が一番危惧した事が現実となったので有る。
「収穫したお米を全部取られたとは聞き捨てなりませぬが、一体どう言う話なのですか。」
「源三郎様、山の向こう側でも西の方では大きな戦が始まって要るのです。」
「やはり、戦が始まりましたか。」
「はい、其れで幕府軍も官軍も食料の調達が一番の問題でして、その十数里程離れた村の人達が助けを求
めに近くの村に行ったと。」
「では、十里以上離れた農村も別の農村でも略奪は有ったと聞かれたのですか。」
「はい、村々は幕府軍と官軍のお互いが食料調達と言う名目で村を襲い、お米は全て、まぁ~要するに村
に有る食料は全て奪って行くと。」
何と言う事だ、其れでは人間では無く獣以下では無いのか、恐ろしい狼でも生きる為で人間の様に全て
を奪うなどと言う行為はしない。
「では、村人の食料は。」
「其れがもう無いと、其れで対策として早く売りたいのだと自分達の食べる為のお米は別の所に隠すのだ
と申しておられました。」
「そうでしたか、其れで先程の村ではどの様になったのですか。」
「名主さんは近隣の村々に連絡し、中川屋さんが買い付けに来るから必要なお米以外は全て売って金子に
換えそのお金も別の所に隠そうと決めたそうです。」
「其れで最初の村で名主さんは中川屋を待っていたと申されたのですか、ですが若しも幕府軍と官軍が来
た時には一体如何されるのでしょうか。」
「名主さんが言われるには幕府軍が来た時には官軍に、官軍が来れば幕府軍に奪われたと言えばどちらも
納得するだろうと考えて要るのだと申されておられます。」
やはり、名主だ幕府軍が来れば官軍に、官軍が来れば幕府軍に全部を奪われたのだと言えば双方とも
諦めるだろうとの考えだろうが、だが果たして現実は名主の思う様に行くだろうか。
「では、買い付けは全部ですか。」
「源三郎様、其れが一番大変だったのです。」
「えっ、大変だと、でもお米はまだ残ってるのでしょう。」
「其れが全部の刈り入れが終わって無かったので其れはもう村人が総出で、其れに我々と同行された農民
さんも他の人達も、まぁ~何と申しましょうか使える物は我々の脇差までも使い刈り取りを行なった
のです。」
「えっ、ご家中の皆様方は刀で刈り取りをされたのですか。」
「源三郎様が以前申されておられました、侍達よりも農民さんや漁師さん達の方が遥かに偉いと、私は今
回其れが嫌と言う程に痛感致しました。」
「正か同行のご家中の方々までもが稲刈りまでも経験するとは思わ無かったと言う事ですね。」
「はい、全くその通りで、私も初めてですがこんなにも農作業が辛い仕事なのか、其れならばまだ剣術の
鍛錬の方が余程楽だと思ったので御座います。」
鈴木もだが最初は護衛の任務だけだと思っていた家臣達は農村に入り、正か稲刈りまで行うとは考えも
しなかったのだろう。
「源三郎様、ですが一番驚かれたのは名主さんや農民さんで正か侍達が刀で稲刈りをするとは思って無
かったのでしょうからねぇ~。」
「其れは誰でも驚きますよ、我々の国ではご家中の皆様方が農村や漁村に行かれお手伝いする事は誰でも
が知っておりますが、その村の人達にすれば初めて見たのですからねぇ~、まぁ~驚いて当然だと言う事
ですねぇ~。」
「はい、でも誰も命令はされておられませんでした。
ご家中の皆様方が進んで稲刈りに行かれたのですから。」
「ではその稲刈りは直ぐに終わったのですか。」
「其れが大変な事になりましてね。」
「えっ、また何か起きたのですか。」
「其れが農民さんが付近一帯の村々に走って行かれたので何か有るとは思ったのですが、我々が買い付
けに来たと知らされまして其れで付近一帯の村々でも農民さんが一斉に稲刈りを始められのです。」
「えっ、ではその村だけでは無かったのですか。」
「はい、その場所と言うのが辺り一面が田と畑で稲刈りは数日後からの予定が中川屋さんが来たので一
斉に開始されたのです。」
「ですが人手が。」
「はい、問題は人手不足でして最初の村の稲刈りは総出で出来ましたので問題は無かったのですが。」
「では、最初の村からの買い付けは。」
「はい、農民さんの食べる分量だけを残し、後は全部買い上げまして其れが持って行った荷車の半分以上
も有ったのでこれは大変な事になると番頭さんも言われておりました。」
「でも、買い付けに必要な金子が不足するのでは。」
「はい、問題は金子が不足する言う事で番頭さんも頭が痛いと言われておりましたが。」
「ではその農村地帯は一体何処なのですか。」
「其れが菊地の山の反対側で山に沿って暫く、そうですねぇ~、一里かなぁ~、それくらいの所に行きま
すと其れはもう辺り一面が黄金色で一色で御座いました。」
「えっ、ではあの高い山の反対側と言われるのですか。」
其れは正しく田中が見た風景で田中が山を越え少し見晴らし良く出来る大きな岩に登ると辺り一面が
田と畑で他は何も無かったと、中川屋は昨年その農村でお米の買い付けをしたのだろう、其れで無けれ
ば名主が待っていたとは言わないはずだと源三郎は思ったので有る。
「はい、多分同じ風景を見られたと思います。」
「でも名主さんはお米を何処に隠すのでしょうかねぇ~。」
蔵が有りその中に隠すと直ぐに発見される、では一体何処に隠すのだろうか。
「鈴木様は何処に隠すのか聴かれたのですか。」
鈴木がニヤリとして。
「源三郎様の考えられた方法なので御座います。」
「私の考えた方法って、えっ、正か洞窟にですか。」
源三郎は海岸の洞窟に食料を隠す方法を考えた、だが田中も鈴木も反対側に海が有るとは言っていな
い、では一体何処なのだろうか。
「其れが村の裏山に洞窟が有りましてその中に隠すと言う方法でした。」
この高い山の反対側の農村では洞窟に隠すと、だがその洞窟は誰が掘ったのだろうか、いや、其れと
も以前から有ったのか、其れは源三郎と同じ考え方をする人が他にもいたのとの証拠もで有る。
「ですが我々の海岸とは違い直ぐに発見されるのではないのですか。」
「まぁ~其れが名主さんが言うにはお地蔵さんを祭った祠が有り、そのお地蔵さんはこの付近一帯の守り
神だと申されまして、ですから年中村々からお地蔵さんにお参りに来るそうで其れに問題の洞窟は祠の
後ろに数本の大木が有り、丁度その後ろにそうですねぇ~、人間が一人か二人が通れる入り口が有り、
入り口は余りにも小さいので簡単には見付からないと、ですが内部は大きく付近一帯の農村ではこの洞窟
にお米を隠すのだと申されておられました。」
「付近一帯の農村が隠すとなれば相当大きな洞窟ですねぇ~。
「はい、ですから何も心配は要りませんと名主さんは申されるのですが。」
「では荷車と金子は不足するのですか。」
「中川屋さんは大金を持って来られましたので、まぁ~其れは良かったのです。」
農村の人達は守り神を利用したので有る。
幕府軍も官軍も正かお地蔵さんを祭って有る裏側に大量のお米を隠しているとは考えもしなかったの
だろう。
最初の村で荷車の半分を使った、では残りの荷車と言うよりも農村から一体どれだけのお米を買い付
けたのだろうか。
「中川屋さんは一体どれだけのお米を買い付けられたのですか。」
「はい、予定の三倍、いや五倍ですか。」
「いゃ~其れならば大変な事になりそうですねぇ~。」
「源三郎様、問題は来年以降だと思いますが。」
「ええ、私も其れを考えたのですがねぇ~、反対側で大きな戦が起こるとすればその農村の人達ですが
危険では無いのでしょうかねぇ~。」
源三郎は農村の人達の安全を考えたので有る。
戦と言うのは時も場所も関係無く起きる、今年の稲は全て刈り取り農民達が食べるだけの分量は確保し
て要ると言う、だが果たして農民は無事に過ごす事が出来るのだろうか、其れにもまして農民達の命の
保証は出来ず、源三郎は農民達を何とかせねばと思って要る。
「鈴木様、その農村ですが、何か村有るのですか、其れと人数もですが。」
「源三郎様、私も源三郎様のお考えは分かっておりましたので私達が知るのは確か五か村かで人数ですが
千五百人くらいだと思います。」
鈴木も源三郎の事だ農民達を助け出すと言い出すだろうと思って要る。
だがあの時は其れを考えるだけの余裕は無く、鈴木の頭の中には買い付けしたお米を運ぶ事しか考えが
及ばなかったので有る。
其れに帰って着た家臣達の疲れ方は異常な程で、だが一日遅れると其れだけでも農民達に危険が及ぶ、
早急に助け出さなければならないのだと考えるので有る。
「鈴木様、菊池の隧道は完成して要るのですか。」
「はい、菊地の高野様も急がねばならないと申されておられましたが、今はどの様になって要るのか聞く
事が出来ませずに申し訳御座いませぬ。」
「別に鈴木様が悪いのでは御座いません。
私が高野様に文を出しますので其れからに致しましょうか。」
「はい、其の時には私が参りますので。」
鈴木は救出に向かうものだと思って要る。
「まぁ~其の時になってから考える事にしましょうか、どなたか城下におられる大工の親方を呼びに行っ
て下さい。」
「はい、私が直ぐに参りますので。」
執務室の隣が家臣達の作業場と詰所となっており、その詰所には常時十数人が何時でも飛び出せるよう
にと待機しており、反応も早く若い家臣は馬に乗り城下へと飛び出した。
「皆様方もお疲れだと思いますが皆様方が行かれました農村の人達を救出に向かいたいと思いますので何
人でも宜しいので集めて大広間に。」
「源三郎様、一斉登城の合図は如何致しましょうか。」
「う~ん、其れが一番早いのですが、ですがねぇ~。」
「はい、私も農村の人達を助けたいと思っておりますのでご家中の皆様方ならば直ぐ理解して頂けるもの
と思っております。」
「分かりました、では一斉登城の合図をお願いします。」
其れから暫くして。
「ど~ん、ど~ん、どど~ん。」
と、大太鼓が城下に鳴り響いた。
「権三、何か有ったのか。」
「いいえ、私も分かりませぬが。」
「権三、参るぞ。」
殿様とご家老様も大急ぎで大広間に向かった。
城内の家臣達は一斉に大広間に集まり出し、自宅に戻っていた家臣達も大急ぎでお城へと向かった。
一斉登城の合図が鳴ったのは丁度お昼前で自宅に戻っていた家臣達の中には昼餉に入っていた者も、
だがその者達も一斉に自宅を飛び出し大太鼓の合図から暫く経ってから家臣の殆どが大広間に集まった。
「皆様、お昼時に申し訳御座いませぬ、実は皆様方に行って頂きました山向こうの農村の件で大至急お話
しが有るのです。」
「源三郎様、私は待っておりましたぞ。」
「源三郎殿、拙者もです。」
其れからは次々と家臣達が名乗りを上げ。
「皆様方、誠に有難う御座います。」
「何を申されます、拙者は今からでも参りまするぞ。」
其の時、雪乃の姿が消えた。
「少しお待ち下さい、少しだけですので。」
「源三郎、一体何事なのじゃ。」
「殿、実は先程鈴木様から買い付けの時のお話しを伺いましたところ、山向こうの農民達千五百人程が大
変危険なので御座います。」
「のぉ~一体何が危険なのじゃ、詳しく話せ。」
「はい、ではお話しを致しますので。」
源三郎は殿様に鈴木から聴いた話を詳しく話すと。
「よ~く分かった、じゃが準備も必要で有ろう。」
「殿、農村には大きな洞窟が有り、その中には千五百人が食べて行けるだけのお米が隠されておりまし
て、其れで農民さんの全員とお米も引き上げたく考えております。」
「よ~し、じゃがのぉ~引き上げて来た米俵は一体何処に置くと申すのじゃ。」
「はい、この城に保管しても良いと考えております。」
「よし、分かったぞ、でじゃ一体何時出立するのじゃ。」
「はい、私は明日の朝、七つ半には出立出来るかと。」
「分かった、其れで源三郎も参るのか。」
「殿、勿論で御座います。」
「源三郎様、お待ち下さいませ、私は源三郎様には残って頂きたく存じております。」
「えっ、何故で御座いますか。」
「私達は村民の顔を知っておりまして、其れよりも総司令には農民さん達の受け入れ体制を整えて頂きた
いと私は思うのですが皆様方は如何でしょうか。」
「全くその通りでして、総司令が残って頂けますと我々も安心して参る事が出来ますので今坂口殿が申さ
れました様に農民さん達の受け入れの準備をお願い致します。」
「ですが、現地には幕府軍か官軍も迫っておりますので。」
「総司令、拙者、今回は命懸けで参りますので皆様方も同じでは無いでしょうか。」
「うん、そうだ全くその通りだ総司令は残って下さい。」
源三郎は何として行きたいのだと、だが家臣達は源三郎は残れと其れが農民達の為だと。
「源三郎、皆の気持ちなのじゃ残れ今度は余も権三もおる、源三郎が申しておる事は皆も承知致してお
るのじゃぞ、源三郎は残って農民達の受け入れを考えるのじゃ、其れにじゃ、今源三郎に何か有ると一体
どうなると思うのじゃ、余も権三も、そして家臣の全員がじゃ、源三郎を頼りにしておるのでは無いの
か。」
「う~ん、ですが私は。」
源三郎も家臣達の気持ちは痛い程分かって要る。
「源三郎様、残って下さい、どうかお願い致します。」
家臣達は源三郎に頭を下げた。
「はい、分かりました、私は皆様方のお気持ち誠に嬉しく思います。
どなたか早馬で菊池までお願いします。」
「はい、拙者が参り、高野様に申し上げます。」
「では、お願いします、詳しくは後程文を持って参りますと。」
「はい、承知致しました、では。」
先程の坂口だ、坂口は何も聞かずに飛び出して行く。
だが何も心配は無い、明日の朝四つ半には野洲の家臣が山向こうの農民達を救出する為に出立するのだ
と坂口も説明を聞く必要も無い。
其れにしても間に合うのうか事は急を要するが、其れにしても幕府軍と官軍の動きが読めずに要る。
其の時、田中が大広間から消え、田中も全てを理解しており、田中の事だ今回はさんぺいを連れ出す事
は無い、だが一番の心配は下手をすると戦に巻き込まれる恐れも考えねばならない。
その頃、雪乃は賄い処にいた。
「吉田様、ご家中の皆様方の殆どが山向こうの農民さん達を救出に参られますので、其れでお願いと申し
ますのは。」
「雪乃様、分かりましたよ私達に任せて下さい。」
やはり女中頭で有る、雪乃が何を頼むのか直ぐに分かったので有る。
「さぁ~皆様、私達もやりますわよ、だってねぇ~そうでしょう雪乃様。」
賄い処の女中達も全て分かっており、雪乃は何も言う必要は無かったので有る。
「じゃ~、其れよりも今ご飯は。」
「はい、先程炊き上がりましたのでご家中全員の分量は御座います。」
「では、私達も始めましょうかねぇ~。」
「は~い。」
女中達が一斉に取り掛かった。
「皆様、誠に有難う御座います。」
「ですが雪乃様、余り私達には気を使わない頂きたいのです。
源三郎様のご苦労を考えれば私達のお役目は天国の様ですから。」
「じゃ~みんな行くわよ。」
さぁ~賄い処もこれから明日の七つ、いや八までが戦争で有る。
雪乃は賄い処を出、源三郎の元に行き耳打ちをした。
「皆様、お昼はおむすびで我慢して下さいとのことです、申し訳御座いませぬ。」
源三郎が頭を下げると。
「総司令、宜しいんですよ、私はおむすびを頂けるだけでも十分で御座います。」
「うん、そうですよ、其れよりも奥方様余り我々にお気を使わない頂きたいのです。
我々の事よりも総司令の事を心配して頂きたいので御座います。」
「私の事は別に宜しいので。」
「いいえ、私はその方が嬉しいのです、そうですよねぇ~皆様方。」
「そうですよ、我々ならば大丈夫ですからね。」
「雪乃殿、有難う。」
「いいえ私は何も出来ませぬのでせめてもと思っただけの事ですので。」
「皆さん聞いて頂きのですが明日我々は山向こうの農村に参りますが、若しもと言う事も考えられますの
で御自宅に戻られますれば皆様方は奥方様には正直に話をして頂きたいのです。
其れと言うのも奥方様にはご心配を掛けたくはないのです。」
「よ~し分かった、我々は今まで多くの農民さん達に助けて貰った、今度は少しだがお礼の気持ちを、い
や私は命を掛けてでも農民さんを守りますよ、其れよりも私は農民さんを助けには行くが誰からも命令は
されてはおりません。
私は自らの意思で行くのだと、妻にははっきりと申しますのでご心配は御座いませぬ。」
「うん、そうだ、あの時名主さん達は我々に殆どのお米を出してくれたんだ、幕府軍や官軍からあの人
達を守れるの我々だけなのだ。」
「うん、そうだ、その通りだ、拙者も妻にははっきりと伝えるぞ。」
この様に野洲の家臣達の殆どが山向こうの農村の農民達を救出に向かう事になり、源三郎は高野宛てに
文を書き別の早馬で届けさせるので有る。
一方で菊地の高野も動いていた、高野も鈴木から少しだが話を聴いており、鈴木の報告を聴いた源三郎
の事だ必ず農民達を救出に向かうで有ろうと考えていた。
「殿、源三郎様の事ですから鈴木様の報告を聴かれますれば必ずや農民さん達を救出に向かわれると考え
ております。」
「よし分かった、高野、菊地からも全員を準備に入らせよ、其れとじゃ隧道は何時完成するのじゃ。」
「はい、一応昨日の予定ですが、どうやら貫通したか、すると思われますので一度調べに向かいます。」
「よ~し誰か向かわせ直ぐ調べさせるのじゃ、多分源三郎殿の事じゃ、明日の朝出立されるのは間違いは
無いぞ。」
其の時。
「殿、高野様、大変喜ばしい知らせで御座いますぞ、遂に隧道が。」
「貫通したのでしょうか。」
「はい、遂先程現場から連絡が入りました。」
「ふ~。」
高野はやっと隧道が完成し、安堵したのか息を付いたので有る。
菊池の隧道が完成し、その隧道からお米の買い付けに向かった中川屋達が菊池に戻ったのだが高野は源
三郎に報告する事を忘れていたので有る。
「よ~し、高野、我が菊池もじゃ、少しでも山の向こう側の農民達を救出するのじゃ。」
「はい、勿論で御座います。
ですが今回は山向こう側の状況が分かりませぬので下手を致しますと多少の。」
「う~ん、其れが問題じゃのぉ~。」
菊池の殿様も高野も喜びが大きく、其れが尚更反対に深刻となって要るので有る。
「じゃが高野こればかりは見捨てる訳には参らぬ、我が菊池が行かずしてその様な事にでもなれば、
我々は他の国からは笑い者になるぞ、至急じゃ、大至急一斉登城の合図を出せ、余が皆に直々に頼む。」
高野の気持ちも同じで、連合国で無ければ多少の違いは有る、だが今はその様に悠長な事を言って要る
場合では無い。
お家の、いや連合国の一大事だ、今こそ菊地の真価を発揮する時だ、暫くして。
「どど~ん、どん、どん、どど~ん。」
と、菊地で一斉登城の合図が城下に鳴り響き、合図を聴いた家臣達は大急ぎでお城に向かった。
「一体何事だろうか、数日前に野洲の荷車が、う~ん。」
「拙者も分からぬが何か大変な事態にでもなったのかも知れぬぞ。」
家臣達は一体何事が起きたのかも分からずにお城の大手門を潜り抜けると大広間に急いだ。
大広間では先に着いた家臣達が何やら話をしては要るが誰もまだ本当の事を知らない。
「皆の者静かにせよ。」
ご家老様の一言で大広間に集まった家臣達は静まり。
「皆の者今から大切な話を致す、じゃがこの話は菊池だけの問題で無いので、よ~く聴くようにな。」
殿様がその後詳しく話すと。
「殿、何を今更申されます。
野洲の方々が参られるのに我が菊地が行かずば、其れこそ我ら末代まので恥で御座いますぞ、拙者は
参りますので。」
「殿、高野様、私はどの様な事になったとしても宜しいのでこれは菊地の藩士として行かねば私は天国
には参れませぬ。」
「高野様、今更相談でも御座いませぬぞ、今太田殿が申された様に拙者は天国も行けず、其れこそご
先祖様に顔向けが出来ませぬ、何が起ころうとも拙者は参りますので。」
菊池の殿様が頼む以前の話で家臣達全員が山向こうの農村の人達を救出に向かうと言うので殿様も高野
も何も言えずに嬉し涙が出るので有る。
話は少し戻り。
「お~い、来てくれ馬が。」
大手門に向かって馬が一頭飛ばして来る。
「一体、何事だ、あっ。」
大手門の門番は驚いた。
「源三郎様は。」
「貴方様は。」
「菊池からで大至急源三郎様に。」
「はい、今執務室に入られたばかりですが。」
「有難う。」
馬の侍はそのまま大手門から入り源三郎の執務室へ向かった。
「源三郎様は。」
菊池の家臣は息を切らせ執務室に飛び込んだ。
「如何なされましたか。」
「源三郎様、私は。」
「別に名乗らなくても宜しいですよ、其れで。」
「はい、一時程前ですが菊地の隧道に入られました。」
「其れは誠でしょうか、では隧道は開通していたのですか。」
「はい、其れが丁度開通した翌日の事で其れと高野様の伝言で本日は菊地にお泊りして頂きますと。」
「其れは有り難いお話しで其れで皆様全員無事でしょうか。」
「はい、其れで荷車は二百台以上が連なり、ご家中の皆様方も引いておられました。」
確か野洲を出た時は百台のはずが、二百台以上も連ねて帰って来るとは源三郎も全くの予想外で何故二
百台以上の荷車が必要になったのだろうか中川屋の番頭が戻るまでは何も分からないので有る。
「分かりました、誠に有難う御座いました。
少しお休み下さい、馬も換えなければなりませぬので。」
「はい、其れとで御座いますが、源三郎様、高野様より詳しくは今文を認めておられますので次の者が届
ける事になっております。」
「其れはご丁寧に重ね重ね有難う御座います。
誰かお茶を其れと馬を変えて下さい。」
だが其の時には。
「お茶で御座います。」
雪乃だ、今の雪乃は源三郎の執務室で加世とすずと共に執務室専門として常駐して要る。
「有難う御座います。」
菊池の家臣は雪乃を見て驚いて要る。
高野からは聞いてはいた、源三郎の妻となった女性は物凄い美人だ、其れで見とれて要る様子なのだ。
「源三郎様、皆様方が良くぞご無事で何よりで御座いましたねぇ~。」
「私も其れが一番心配しておりまして、田中様の報告では山の向こう側では戦争状態だと申されておら
れ、其れに官軍の井坂殿が申されるお方からも山賀から菊池に掛けての何れかの山腹に官軍の兵が五十名
も入って要ると聴いております。」
「其れは私も分かりませぬが、田中様のお話しでは野洲の反対側は辺り一面が稲穂が実り、ですがねぇ~
私も不思議でならないのです、どの様にして百台もの荷車を調達されたのか、我が藩でも百台でしたの
でねぇ~。」
「左様で御座いますねぇ~。」
その二時後、菊地からの早馬が着き。
「源三郎様、菊池の高野様から文をお届けする様にと。」
「其れは誠有り難い。」
源三郎は高野からの文を受け取り読むと、お米の買い付けが終わり今日は菊池で泊まると、だが、余り
にも大量の為に買い付けに行った者達は大変な疲れでこれは応援を出さなければならない、だが今城中に
は人はおらず。
「そうだ、あの人達にお願いをして見ようと。」
源三郎は洞窟で掘削工事に入って要る銀次宛てに文を書いた。
「どなたかこの文を大至急洞窟の銀次さんに届けて下さい。」
家臣は文を受け取ると馬で海岸に向かった。
「う~ん、其れにしても一体何俵買い付けたのだろうか。」
最初の伝言では荷車が二百台以上が菊池に到着し、買い付けに向かった者達全員無事だと、だが全員が
相当な疲れで方で高野から文によると明日の出発は朝の四つだと、銀次達が浜からの全員を集めても百人
足らずで、だが一人でも多くが応援に向かわなければならず、源三郎も何か良い策は無いか、其れに今は
上田からも殆どが買い付けに向かっており誰もいないはずだ。
「元太殿、銀次殿は。」
「はい、今は洞窟ですが。」
「元太殿、申し訳御座いませぬが大至急銀次殿に源三郎様からの文を届けなければなりませぬので。」
「分かりました、その舟に乗って下さい、直ぐに行きますので。」
「元太殿、大変申し訳御座いませぬ。」
浜を出た小舟は元太の見事な櫂さばきで洞窟に入って行く。
「銀次さんは。」
「は~い此処におりますが。」
「銀次殿、源三郎様から大至急届けよと、この文を。」
「はい、だけど一体何だろうか源三郎様からの文って。」
源三郎の文は丁寧に書かれて有り、銀次は文を読み終えると。
「分かりました、集められるだけ集めますので安心して下さい。」
銀次は洞窟内の作業員に声を掛け、その後、数人を城下に向かわせた。
「なぁ~みんな、源三郎様がオレ達に助けてくれと文を書かれたんだ、オレ達全員で菊池に行きたいんだ
がみんな協力してくれるか。」
「銀次、そんな事当たり前の話だぜ、其れよりも何時行くんだ。」
「源三郎様の文には明日の朝四つには菊池へ出発すると、オレは其れまでには菊池に着きたいんだ。」
「よ~し、分かったぜなぁ~みんな。」
「銀次、誰も反対はしないからお前は今から源三郎様に会って話を聴いてくれ、オレ達は明日の出発ま
でには菊池に着くからよ~何も心配するなって。」
「みんな済まないなぁ~、じゃ~オレは今から源三郎様に会って来るから。」
「其れよりも話はいいから早く行けよ。」
銀次は大急ぎでお城に向かった。
「お~いみんな聞いて欲しいんだ源三郎様が大変なんだ。」
城下に入った数人が。
「お~いみんな、源三郎が大勢の人達が必要だって助けてくれって。」
「よ~し分かったよ、オレは行くぜ。」
「よ~し、オレもだ。」
城下では次々と町民達が名乗り出、其れは中川屋にも伝わり。
「旦那様、大変で御座います。」
「一体何事ですか。」
「はい、今ご城下で人集めをしているのですが、どうやらお米の買い付けに向かった人達が菊池まで
戻って来られたのですが、全員が大変な疲れ方で其れで源三郎様が助けて欲しいと。」
「其れは大変です、其れで何時発つのですか。」
「はい、明日の朝四つには出発されると。」
「分かりました、では我々はそうですねぇ~、私は大川屋さんに行きますのでみんなで行く人数を確かめ
て下さい。
其れと小番頭さんは今からお城に行って、明日の朝とお昼は私の方で準備しますので人数を教えて下さ
いと。」
「はい、では直ぐに行って参ります。」
「他の者達で今手の空いて要る人は草鞋の手配をして下さい。」
中川屋の店主は大急ぎで大川家へ向かった。
「源三郎様、明日の朝とお昼ですが如何致しましょうか。」
「う~ん、雪乃殿、ですが少し待って下さいね、多分銀次さんが来られると思いますので。」
「はい、承知致しました。」
加世とすずは一応の準備には入って要る。
「源三郎様は。」
「今、執務室ですよ。」
銀次が飛び込んで来た。
「源三郎様。」
「銀次さん、やはり来て頂けましたか。」
「源三郎様、そんなの当たり前ですよオレ達全員が行きますので。」
「有難う銀次さん、実はねぇ~。」
源三郎は菊地に二百台以上荷車がお米を積んで到着したと詳しく話すと。
「源三郎様に怒られるの承知で仲間に城下で人集めに行かせたんです。」
「私は何も怒る気持ちは有りませんよ、其れよりも大変有り難いお話しですから、其れで何人くらいにな
るのでしょうか。」
「はい、もう直ぐ来ると思いますので。」
其の時、元太と同じに中川屋の小番頭も飛び込んで来た。」
「源三郎様。」
「元太さん。」
「源三郎様、オラは怒ってるんですよ。」
「まぁ~まぁ~元太さん、これには深い訳が有るのでね聴いて頂きたいのです。」
傍では銀次に中川屋の小番頭もおり静かに聴いて要る。
「元太さん、今回はねぇ~戦が起こって要るかも知れないところに行くのです。
私も元太さん達ならば必ず行って頂けると分かっておりますよ。」
「源三郎様、其れだったら余計ですよオラは絶対に行きますからね。」
「ですがねぇ~、私は犠牲者を出したくは無いのですよ。」
「じゃ~源三郎様、オラ達が駄目で何で銀次さん達だったらいいんですか。」
「其れはねぇ~、元太さん達の仕事に関係して要るのですよ。」
「仕事って、オラは漁師ですよ。」
「元太さん、其れなんですよ漁師さんのお仕事は今来られて直ぐ出来る仕事でしょうか。」
「まぁ~其れは無理ですよ、漁師の仕事は自然が相手ですからねぇ~。」
「そうだと思いますよ、自然を覚える為には長い期間が必要だと思うのですがねぇ~。」
「源三郎様、でもオラ達も毎日が戦なんですよ、舟の床下は海で少しでも荒れたら命が有る保証は無い
んですよ。」
「ですがねぇ~漁師さんや農民さんの仕事は普通の人達では無理だと思いますよ、私はねぇ~その様
な人達を戦の中に連れて行く事は出来ないのです。
とは言っても銀次さん達の命も大事ですからねぇ~何か良い方法は無いか考えて要るのですが。」
「源三郎様、ではお聞きしますが銀次さん達もオラ達も同じ人間なんです。
其れに山の向こう側の農民さんを助けに行くんでしょう、オラ達も絶対に行きますよ、オラは源三郎様
に怒られてもね絶対に行きますからねぇ~。」
「う~ん、ですがねぇ~。」
「元太さん、そんなに源三郎様を。」
「ねぇ~銀次さん、何でオラ達漁師が駄目なんですか、オラ達の仲間が海で死ぬ事だって、陸で死ぬ事
だって同じだって、だから絶対に行くってみんなで決めたんですよ、源三郎様、其れにオラの母ちゃん
も他の母ちゃん達も全部が浜の男が行かないで一体どうするんだって怒ってるんですよ。」
「源三郎様、元太さんの言う通りですよ、オレは命が惜しいから言ってるんじゃないんです。
オレ達も元太さん達もみんなが源三郎様が助けてくれって言ってるのを誰もが知ってるんです。
幕府軍か官軍か知りませんがねみんなで山向こうの農民さんを助けに行きましょうよ、源三郎様、お
願いですからねっ。」
「よ~く分かりました、では行ける人だけですよ、其れに絶対に強制はしないと約束して下さい。
行く、行かないは本人の自由ですからね。」
「はい、勿論ですよ、源三郎様、オラみんなに知らせに行きますので。」
「元太さん、ところで一体何人くらいになるでしょうか。」
「えっ、何人って、そんなの全員に決まってるでしょう。」
「えっ、全員ですか。」
「はい、そうですよ、え~っと何人だったかなぁ~、まぁ~五十人くらいだと思いますよ。」
「はい、じゃ~今夜の五つには出立しますのでね。」
「はい、五つですね、分かりました。」
元太は大急ぎで浜に戻って行き、傍では中川屋の小番頭が何やらを書いて要る。
「中川屋さん、お待たせしましたねぇ~。」
「いいえ、源三郎様、私は主人から人数をお聞きして来いと、其れと明日の朝とお昼は私どもで用意させ
て頂きますのでと申しておりますので。」
銀次の仲間が城下で人集めをしており、其れを中川屋が知り大川屋にも連絡を取り、直ぐ朝とお昼の
食事と言っても良いおむすびだが一体何人分が必要なのか、其れを小番頭がに確かめに来たので有る。
「銀次、城下からは千人近くが行くって。」
銀次の仲間が人を集めたので小番頭は人数を書き。
「小番頭さん、千五百人くらいになるようですねぇ~。」
「はい、では直ぐ戻り主人に伝えます。」
「あの~小番頭さん少しお待ち下さい。」
雪乃が聴いており今から大川屋が千五百人分の、其れも朝とお昼のおむすびを作るのは到底無理だと
判断したので有る。
「源三郎様、先程から賄い処でもおむすびを作り出しており、千人分は作れると思います。」
「そうですか、では小番頭さん大川屋さんには残り五百人分をお願いしますと、店主殿にはその様にお
伝え下さい。」
「はい、承知致しました、では私は店に戻ります。」
大川屋の小番頭も大急ぎで城下へと戻って行く。
さぁ~戦の始まりだ、賄い処では腰元達の全員が大川屋でも其れは同じで有る。
中川屋では草鞋の手配と其れは戦と言える程の忙しさで、だが其の時何も知らないさんぺい入って
来た。
「源三郎様一体何が有ったんですか、さっきは浜の元太さんと銀次さんが大慌てで浜に向かって行きま
したが。」
「さんぺいさん、実はですねぇ~。」
源三郎はさんぺいに詳しく話すと。」
「源三郎様、何でオラ達にも言ってくれないんですか。」
「さんぺいさん、申し訳ない、今全員で千五百人が今夜向かう事になりましてね。」
「源三郎様、そんなのって有りですか、オラは農民ですよオラと同じ農民を助けに行くのにオラ達だけ
が知らないって、そんなのって、じゃ~オラ達は必要無いって事なんですか。」
「さんぺいさん、本当に申し訳無いです。
私も余りにも急な話しでね、まだ全ての手配も終わっていないのです。」
源三郎は言い訳に苦労して要る。
「源三郎様はオラ達農民を。」
「まぁ~まぁ~さんぺいさんその様に申されずに、私はねぇ~さんぺいさん達にもお願いしなければな
らない事が有りますのでね一応終わってからと考えていたのですよ。」
源三郎は考え事をしながら話をしているが一体何をさんぺいに頼むのだろうか、其れよりもさんぺい
の顔は不満で今にも怒り出そうとして要る。
「さんぺいさん、これは多分ですがね全員が野洲に戻って来るのが暮れ六つか、半くらいになるとですが
早くなる事も考えなければならないのです。」
「でも荷車が二百台以上も有るんですよ、オラは遅くなる事は有っても早く着く事は無いとは思うんで
すがねぇ~。」
「其れでさんぺいさんにお願いしなければならないと言うのはね、そうでした、さんぺいさん村は何
か所でしたか。」
「はい、確か五つだと思いますが。」
さんぺいは首を傾げ、源三郎は一体何を言いたいのだろうかと思って要る。
「じゃ~さんぺいさんは、さんぺいさんの村に他の四か村にはご家中の方にお願いしたいのです。」
「総司令、拙者が参りますので。」
「拙者もです。」
「四か村有りますので、各村に二人一組でお願いしたいのです。
先にお話しをしますが各農村の人達全員でお城に来て頂きたいと、其れでお願いですが女性達は戻って
来られます人達全員の食事の準備に、男性は薪木の手配をお願いしなければならないのですが、男性は山
に入り原木の切り出しに向かって頂きたいのです。」
「源三郎様、薪木はオラも分かりますが、その原木って一体何に使うんですか。」
「さんぺいさん、農民さん達が住まわれる家を。」
「あっ、そうか分かりましたよ、でもねぇ~オラ達はどの木が。」
「まぁ~其れならば心配は要りませんよ、多分ですがねぇ~大工の親方も来られると思いますので、其れ
と残りのご家中の皆様方には急な事で申し訳御座いませぬが今夜出立しますので松明の用意を出来ますれ
ば多くをお願いします。」
「総司令、では、農村と漁村に行く者以外全員で参りますので。」
「申し訳御座いませぬが、宜しくお願いします。」
家臣達は大急ぎで執務室を出、近くの村へと向かった。
其の時、丁度、大工の親方、中川屋、大川屋が飛び込んで来た。
「源三郎様。」
「親方、中川屋さんに大川屋さん急な事で申し訳御座いませぬ。」
「いいえ、源三郎様、わしの出来る事なら何でも言って下さい。」
「親方、ではお願いが有りまして、今もさんぺいさんにもお願いをしておりましたのですが千五百人
程の農民さん達を助けるのですが。」
「源三郎様、分かりましたよ、その人達の家を建てるんですね。」
「はい、でも其の前に原木の切り出しが有るのですが。」
「え~っと確か遂先日ですがわしが山に入った時に間伐材が数百本は在りましたよ。」
「其れは助かりますねぇ~、切り倒す事も有りませんので、ではその間伐材を取りに行くのですが農村の
男性にお願いをと思いましてね。」
「其れならばわしの所の若い者も行かせますよ。」
「親方、その様にして頂ければ大助かりです。」
「其れで大工は。」
「はい、今から浜に行きまして洞窟の作業を止め、大工さんに戻って頂きますので。」
「其れだったらわしも助かりますよ、源三郎様、浜の大工にも道具は要るって。」
「はい、其れは勿論お願いしようと思っております。」
「じゃ~さんぺいさん、内の若い者をご城下の外で待たせますが。」
「はい、じゃ~一時程後に。」
「其れと源三郎様、荷車はこちらで。」
「いいえ、城にも十台程が有りますので。」
「オラ達が荷車を取りに来ますので。」
「さんぺいさん、宜しくお願いしますね。」
「オラ達の母ちゃんと子供も宜しいんですか。」
「勿論ですよ、小さな子供だけを残す事は出来ませんのでねぇ~。」
「じゃ~母ちゃん達もお昼までには来る様にしますから。」
「さんぺいさん、お昼はこちらで用意しますからね。」
「じゃ~オラは行きますので。」
さんぺいも執務室を飛び出し、各農村と浜に向かう家臣達も飛び出した。
「中川屋さんに大川屋さん申し訳御座いませぬ。」
「いいえ、私達は何も、其れで源三郎様、我々に出来る事は。」
「はい、何せ急な事なので私の頭も混乱しておりまして。」
「源三郎様が一番大変ですねぇ~私で有れば其処まで頭が回りませんよ。」
「いゃ~今は全力ですので頭の中も整理しなければなりませんが、其れで大川屋さんにお願い出来るで
しょうか。」
「はい、勿論で其れで何をすれば宜しいのでしょうか。」
「実は明日の夕刻には着かれると思うのですが農民さん達だけも千五百人程がおられましてね、其れと
此処からも同じ人数が今夜出立するのですが食器が必要なのです。」
「分かりました、有るだけお持ちしますが。」
「はい、其れで特にお椀とお箸が不足すると思いますので。」
「源三郎様、私も出来るだけはお持ちしますので。」
だが大川屋と中川屋だけではまだ不足して要る。
「そうだ、伊勢屋さんにも其れと城下の人達にもお願いしましょうか。」
「はい、その様にして頂けますと私も助かりますので。」
「では、中川屋さん、我々も早速戻り皆さんにお願いしましょうか。」
「そうですねぇ~、源三郎様、では失礼します。」
「中川屋さん、大川屋さんも申し訳有りませんが宜しくお願いします。」
中川屋と大川屋も急ぎ店に戻って行く。
「源三郎様、お疲れのご様子ですが。」
「雪乃殿、有難う助かります。」
雪乃はお茶を持って来た、源三郎はお茶を一服飲んで。
「ふ~。」
と、一息ついた、だが騒ぎを知った殿様とご家老様はまだ来ない、何時もならば一番に来る殿様が。
「源三郎、良いか。」
やはり来た。
「はい。」
「疲れたで有ろう。」
「いいえ、私は。」
だが、源三郎は相当な疲れを感じて要る。
「源三郎、余にも何か出来る事は無いのか。」
「う~ん、ですが殿には。」
「何も致すなと申すのか、だが何か有ると思うのじゃが、のぉ~権三。」
「殿、今の源三郎に考えるだけの余裕は有りませぬ。」
「う~ん、そうかのぉ~、じゃが何か。」
「殿、農民さん達を暫くお城に泊めさせて頂きたいのです。」
「うん、良いぞ其れは仕方が有るまい。」
「では、お仕事と申しましては何では御座いませぬが。」
「お~余にも出来るのか。」
「はい、大工さんに家を建てて貰うのですが、その前に数日後からでも農民さん達の人別帳を作って頂き
たいのです。」
「其れは何か訳が有っての事なのか。」
「はい、ですがまだ其処までは考えてはおりませぬが、我が藩の農民さん達では有りませんのでその人別
帳が有れば後々役に立つのでは無いかと思っております。」
「よ~し分かったぞ、権三と二人でも良いのか。」
「はい、父上にもお手伝いをお願いします。」
源三郎は殿様とご家老様には人別帳を作って欲しいと、だが一体何に使うのだろうか。
「では、権三、直ぐ準備に入るぞ。」
何ともまぁ~せっかちな殿様だ、源三郎は数日後からと言ったはずなのに、まぁ~其れよりも殿様にも
少しは楽しみが出来、其れに顔色も良くなったので有る。
その後、一時程は誰も来ず静かな時が流れた。
「源三郎様、私は今までに今回の様な経験が御座いませぬので少しお話しをお聞きしても宜しいので
しょうか。」
「はい、宜しいですよ。」
「源三郎様は今回の事は予想されておられたのでしょうか。」
「私も実を申しますと、中川屋さんが何処の国から買い付けをされていたのか全く知らなかったので
すよ。」
「では、山の向こう側と言うのは。」
「全くの予想外でしたよ、私は田中様からの話を聴いて正かとは思っておりましたので、ですがその正か
が本当だったと言う事なのです。」
源三郎はこんなにも近くから買い付けをしているとは全く知らずに、源三郎の予想では、まだまだ、遠
くの国だと考えていたので有る。
「ではもっと離れたところで買い付けをされておられたら、今回の様に救出に向かわれると言う事は無
かったのでしょうか。」
「私が思うには其の時の状況と場所ですねぇ~、今回は特に場所も時期も悪かった様に思います。」
今回は特に場所と言うよりも時期が悪く、幕府軍と官軍との戦では双方共少人数では無く野洲と菊池の
家臣全員を集めたところで百数十人で、其れに比べ幕府軍も官軍も数千人、いや数万人規模の軍勢でその
様な相手と戦を行なったとしても野洲と菊池が全滅する事は誰が考えたとしても理解出来るので有る。
「では相手がどちらでも関係は無かったと考えられるのですね。」
「雪乃殿、仮に幕府軍が少ないと考えても百や二百では無く、数千人以上は確実なのです。
私はその様な相手と戦に入っても我々の全滅は避ける事は出来ません。
其れにその様な戦にでもなれば野洲と言う藩の領民が侍の支援や護衛も無しで生活する事にでもなれば
最悪の状態に陥る事になるのは間違いは有りません。
其れと同時に他の菊池、上田、松川、山賀も全てが滅ぼされ領民は地獄の苦しみを味わう事になりま
すからねぇ~。」
「私も先程から色々とは考えておりますがどの様な方策を講じても勝ち目は無いと、では一体どの様
にすれば良いのか考えるのですが、今の私に源三郎様の様な考え方が出来ないのが残念でなりませぬ。」
雪乃もどの様な方策が出来るのか考えるが、今の雪乃は何も浮かばないと其れが悔しいのだ。
「まぁ~其れは何も雪乃殿の責任では御座いませんよ、ただ私も今回だけは今までとは比べものにならな
い程大変だと考えております。
勿論、一番良いのは農村で、いやその近くで戦が行なわれていない事だけを祈っております。
ですが万が一近くで戦が行なわれていたとすれば、どの様な方法で農民さん達を救い出し全員が無事
に戻る事が出来るのか、其れを考えなければならないと思っております。」
源三郎は戦が行なわれていない事だけを祈るしか無いので有る。
「源三郎様はご自分が行けないのが一番残念なのでしょうが、でも先程までの采配を拝見致しておりま
すと失礼な言い方では御座いますが他の方々ではとてもでは御座いませぬが無理だと思うのです。
其れはどのお方も源三郎様のご指示を待っておられた様に感じたのは、私だけでは無いと思うので御座
います。」
「雪乃殿の申された通りで私が一番に名乗りを上げたかったのですが、其れがこの様な結果になり非常
に残念なのです。」
其の時、大手門が急に騒がしくなった。
「銀次さん、オラが一番に行くんだ。」
「いいや、オレが一番だ。」
元太と銀次が競い合って大手門に入って来た、その二人が。
「オラが先だ。」
「いや、オレが先だ。」
「お二人共、如何されたのですか。」
「源三郎様、オラが先頭になって行きますからね。」
「何だって、そんなのオレに決まってるんだよ。」
二人は今夜の出立はお互い自分達が先頭になり菊地に向かうのだと言い争って要る。
「まぁ~まぁ~、お二人は其れで早く来られたのですねぇ~。」
「源三郎様、其れは元太さんが漁師さん達に一番乗りだって言うもんでね、オレ達が一番に行くぞって
なったんです。」
「まぁ~ねぇ~皆さんのお気持ちは私は最高に嬉しいですよ、ではその前に皆さんが来られたので有れば
少しお願いが有るのでが松明を作って頂きたいのです。」
「はい、じゃ~オレ達はと。」
銀次は慌てて何をするつもりなのか辺りを見回している。
「銀次さん、今家中の皆様方が林へ向かわれ木を伐り出しに。」
「分かりましたよ、みんな行くぜ。」
「お~。」
「じゃ~、オラ達も行きますから。」
銀次達洞窟の作業員と元太の漁師達は一斉にお城を出たところの林に向かって走り出した。
「源三郎様、私も今から賄い処に行って参りますので。」
雪乃は突然何を思ったのか賄い処へと向かった。
「吉田様、今夜五つに出立されるのですが、ご家中の皆様方と洞窟と漁師さん達が全員来られ、今夜に
使う松明作りに入られるのですが他の方々と違い夕餉が。」
「雪乃殿、分かりましたよ、その人達のおむすびが必要なのですね。」
「吉田様、申し訳御座いませぬ。」
「何を申されます、お任せ下さい、皆さんも分かっておられますのでね。」
「皆様方、申し訳御座いませぬ。」
雪乃が手を付くと。
「雪乃様、私達にも意地が有りますからねぇ~、お任せ下さい、ねぇ~みんな。」
「は~い、そうですとも、雪乃様お任せ下さい。」
「私もお手伝いしますので。」
銀次達と元太達が松明作りに入ったのが幸いし、松明作りは予定より早く終わり荷車数台に乗せ
終わった頃。
「皆様方、ご苦労様でした。」
賄い処の女中達と腰元達の全員がおむすびとお茶も持って来た。
「奥方様、有難う御座います。」
「皆様、今はおむすびだけで申し訳御座いませぬ。」
「オラ達はいいんですよ、なぁ~みんな。」
「そうだよオラ達は食べる事が出来るんだ、だけど山の向こう側の人達の事を考えれば本当に有り難い
事なんですよ。」
雪乃も他の腰元達も女中達も嬉しかった。
みんなが食べ終わり、少し休んでいる頃、城下から松明を連ねて大勢がやって来る。
「そうか、もうその様な刻限になったとは私は全く気付きませんでしたよ。」
「お~い、オレ達も行くからなぁ~。」
「あ~オレ達もだぜ、で、一体何人なんだ。」
「其れがなぁ~源三郎様の話じゃ~千五百人程だとよ。」
「これは凄い人数だなぁ~。」
「だけど、向こう側の農民さん達も千五百人程は要るそうなんだよ。」
全員が大手門に入ったのを確認すると。
「皆さん、少しお話しを聞いて下さいね。」
ガヤガヤとしていたが、直ぐ静かになり。
「皆さんもう直ぐ出立しますが、今度は命懸けになりますので我が藩の家臣が先頭で其れから洞窟の
作業員と次は浜の漁師、そして、最後をご城下の人達全員とこの様にしますが、明日は半分が菊池で
買い付けをされたお米の荷車を、そして問題は山の向こう側に向かう人達の人選ですが。」
「源三郎様、オレ達が行きますよ。」
やはり銀次だ、源三郎の予想した通りで有る。
「源三郎様、オラ達も行くんだから。」
元太も同じで有る。
「源三郎様、オレ達も行きますよ、だって農民さん達を助けるんですからねぇ~。」
「分かりましたよ、では菊地の出立を延ばして頂く事にします。
ですが、皆さん大変危険ですので。」
「源三郎様、もう行きますぜ、オレは山の向こう側の農民さん達を助けるに行くんだから、お~い、みん
な荷車を頼むぜ。」
「よ~し、行くぞ。」
銀次は一刻でも早く行きたいので有る。
「分かりまし、ではこの文を菊池の高野様に渡して下さいね、詳細を書いて有りますので。」
「源三郎様、任せて下さい、じゃ~みんな。」
「まぁ~皆さん少し待って下さいね、直ぐにおむすびが届きますので朝とお昼の。」
「何と有り難いねぇ~、やっぱり源三郎様の奥方様だぜ。」
「うん、其れに奥方様はお優しいし、其れに綺麗なお人だからなぁ~。」
「源三郎様、遅くなり申し訳御座いませぬ、おむすびで御座います。」
女中達と腰元達の全員が運んで来たおむすびを荷車に乗せると。
「さぁ~行くぞ~、しゅっぱ~つ。」
銀次の掛け声で大手門を数百の松明の灯りと共に千五百人が出て行く。
本当は菊地の荷車を引き取る為だったが、何処でどの様に間違ったのか、だがもう後戻りは出来ない。
野洲と菊池の家臣が護衛に入り何とか無事農民達を救い出し隧道の中に入ればもう大丈夫で有る。
やがて、大手門から全員が出ると。
「源三郎様。」
「雪乃殿、本当に有難う。」
「私は何も、ですが大変な事になりましたねぇ~、一体何処で間違ったのでしょうか。」
「私も全く分からないのですよ、最初は菊地に到着した荷車を引き取るだけの予定でしたので、ですが、
でももうこれで後戻りは出来ませぬので、私は皆様全員が無事に戻られる事を祈るだけなので、私は。」
「源三郎様、では菊地に着いた荷車は。」
「あっそうでしたねぇ~、最初は明日の夕刻でしたが、う~ん、どなたか浜と農村に行って下さい。
明日の夕刻の予定でしたが事情が変わり、数日帰りが遅くなりますのでまた連絡しますと。」
執務室には連絡用にと数人の家臣は残して要る。
「源三郎様、私は賄い処に伝えて参りますので、其れと賄い処の女中達と腰元達の全員を少し休んで頂き
ますので。」
「雪乃殿もお疲れでしょうからお休み下さいね。」
「ですが、源三郎様は。」
「私ですか、私は何もする事が有りませんでしたので疲れてはおりませんよ。」
だが源三郎は疲労感を感じていた、それ程にも激務だったのか、雪乃が部屋を出た後、源三郎は何時
しか居眠りし、夢を見て要る。
「う~ん、誰か助けて、お願いだから助けて、奴らに殺される、助けてお願い。」
其れはまだ見ぬ反対側の農民達が幕府軍か其れとも官軍なのか、正体の分からない武士らしき集団が
攻撃して来た、逃げ惑う農民、村は焼かれ辺り一面が火の海と化して要る。
「誰か、お願いだから助けて。」
と、大声で叫ぶ女性があっと言う間に殺され掛けた時。
「あっ。」
「源三郎様、源三郎様。」
雪乃の声で目が覚めた。
「あ~良かった、夢だったのか、だがこの夢が現実にならないとは限らない、う~ん。」
と、思い悩む源三郎で有る。
「源三郎様、何か悪い夢でも見られてたのですか、魘されておられましたが。」
「はい、私が行く前に農村に幕府軍なのか官軍なのか正体不明の武士らしき集団に襲われ、村は焼き払わ
れ女性達は次々と犯され、そして、殺さ其れでも私は何も出来ずに。」
「源三郎様、申し訳が御座いませぬ、私も遂うとうととし先程賄い処のお女中に起こされまして。」
「雪乃殿が何も謝る様な事は有りませんよ。」
「いいえ、旦那様がこの様に苦しまれておられるのに、私は何も出来ずに要るのが。」
雪乃の目からは涙が流れて要る。
「雪乃殿、もう宜しいですよ全て済みましたからね。」
「あっそうでした、朝餉をお持ちしましたので。」
「其れは有り難いですねぇ~、其れで雪乃殿は。」
「雪乃様、朝餉で御座います。」
加世が持って来てくれたので有る。
「加世様、有難う。」
源三郎と雪乃、二人きりの食事も久し振りで、其れはゆっくりとした時が流れて行く。
「私はねぇ~、少しくらいは遅れても良いと思って要るのです。
皆様全員が無事この野洲の戻られさえすれば、其れだけで十分に満足なのです。」
「私もで御座います。」
「私は待つ身がこれ程苦しい事だと今初めて気付きました。」
源三郎は今まで何処に行くにも真っ先に行き、その為何時も雪乃は待たされており、源三郎は雪乃の
気持ちを改めて知ったので有る。
其の時、大手門から何やらいっぱい物を積んだ荷車が続々と入って来る。
大手門の門番は城下の領民の顔は知っており何も言わない、其れは行き先が分かって要るので有る。
「源三郎様。」
中川屋と大川屋が其れに伊勢屋も来た。
「皆さん。」
「源三郎様、城下で集められるだけの食器を、其れと古着しか有りませんが。」
「其れは有り難いです、皆様本当に有難う御座います。」
源三郎は深々と頭を下げた。
「源三郎様、其れで明日の事ですが。」
「伊勢屋さん大変申し訳有りませんが急に事情が変わりましてね、数日帰りが遅くなるのです。」
「えっ、事情って幕府軍に襲われたのでしょうか。」
「いいえ、全員が無事に菊池のお城に到着されておりますよ。」
「あ~良かったです。」
「其れがね、何かの間違いで山向こうの農村の人達を助ける事になりましてね。」
「えっ、農民をですか。」
「はい、其れで皆さんが向かわれたのです。」
「源三郎様、では戻られる日ははっきりとは分からないのですか。」
「はい、私も全く分からない状態でしてね今は連絡を待つ事しか出来ないのです。」
「では、この荷物ですが。」
「誠に申し訳有りませんが隣の大部屋に入れて頂きたいのです。」
「はい、では皆さん荷物を置きますが直ぐに使える様に整理して置いて下さいね。」
中川屋も大川屋も伊勢屋からも女性が数十人来ており、やはり女性達だ荷物を何時でも使える様にと
並べて行く。
やはりこの様な時には女性達が活躍する、彼女達はてきぱきと熟して要る。
「源三郎様、何か有りましたら何時でもお呼び下さいませ。」
「有難う御座います、皆さんには何かとご迷惑お掛けし誠に申し訳有りません。」
「源三郎様、その様な事は御座いません。
我々に出来る事が有れば何時でも飛んで参りますので。」
「もう、十分ですよ本当に有難う。」
「では、私達は其れと女性達と数人は残りまして整理が終われば帰りますので。」
「はい、分かりました。」
女性達と数人の丁稚が残り中川屋達は帰って行く。
話は少し戻り、野洲のお城を出た銀次や元太達一行は松明の灯りを数百本連ね一路菊池へと向かって
要る。
「なぁ~銀次さん、山向こうの農村の人達は大丈夫かねぇ~。」
「うん、オレも今其の事を考えてたんだ、オレ達は源三郎様のお陰で何の不満も無いし、其れに幕府軍か
ら攻撃を受ける事も無いんだけど。」
「其れなんですよ、オラ達はあの山の向こう側を知らないんで一体どんな所かも分からないんですよ。」
「元太さん、其れはオレ達だって一緒なんですよ、でもねぇ~元太さん、オレ達の為にって中川屋さん達
がお米を買いに行ったんですよ、其れが丁度あの山の向こう側で其処の村の人達が殺されるかも知れない
んだ、オレはねぇ~オレ達だけが助かっていいのかって考えてたんだ、だってそんな事源三郎様に言われ
なかっても分かりますよ。」
「銀次さん、其れはオラも同じですよ、其れに野洲では不作が続いてるでしょう、オラはお金を払った
から後の事は知らないってそんな事言えないですよ。」
「元太さん、オレは今まで人様に後ろ指を指される事ばっかりしてたんです。
でも源三郎様のお陰で今は大手を振れるようになったんですよ、そんな大恩の有る源三郎様に少しで
も恩を返さないとオレは天国には行けないですよ。」
「なぁ~銀次、オレ様は天国に行くぜ。」
「えお前がか、だったら、オレは天国のもっと上、えっ、天国の上って有ったのかなぁ~、まぁ~何処で
もいいんだ、オレはやっとこれで天国に行く事が出来るんだからなぁ~。」
「そんなのって聞いた事が無いぜ。」
「なぁ~銀次、オレは別に今更命は惜しくは無いんだけれど、其れよりもだ農民さん達を助ける方法は考
えたのか。」
「う~ん、其れがまだ何も考えて無いんだ。」
「なぁ~其れだった、オレが考えた方法が有るんだけど、いいかなぁ~。」
「えっ、お前にそんな事を考える頭が有ったのか。」
「オレは真剣に考えてんだぜ、馬鹿にするな。」
銀次の仲間は誰も真剣に考えて要るのは確かで有る。
「済まない、分かったよじゃ~聴かせてくれるか。」
「うん、其れはオレがまだ子供頃に良くやった事なんだけど、敵を調べるんだ。」
「え~、敵って一体何処の敵なんだ。」
「まぁ~子供の遊びなんだが、二~三人で行って何処に隠れて要るか其れを調べるんだ。」
「じゃ~お前はその方法を使いたいのか。」
「うん、そうなんだけど、やっぱり駄目かなぁ~。」
「だけど、オレは其の前にお侍様に聴いて見ないと。」
「オレは何時も其れが専門だったんだ。」
「よ~しオレが聴くから、其れとみんな聞いて欲しいんだ菊地に着いたら少しだけ休んで直ぐに行こうと
思うんだけど。」
「銀次、何で今頃になって言うんだ、オレは最初からそのつもりなんだぜ。」
「お~、オレもだオレは別に休みは要らないぜ其のまま行ってもいいんだから。」
銀次の仲間は直ぐにでも山の向こう側の村へ行こうと考えて要る。
「なぁ~銀次さん、オラは別に反対はしなけど、其れよりも菊地に着いたらお侍様の相談した方がいいと
思うんだけど。」
「元太さん、なんでだよオレ達は。」
「うん、其れはオラも銀次さん達の気持ちは分かって要るよ、だけど源三郎様が菊池の高野様に渡す様
にって文を書かれてるんだ、オラは高野様が源三郎様からの文を読まれてからオラ達の気持ちを言った方
がいいとオラは思うんだけどなぁ~。」
今までの元太ならば銀次達の話しに直ぐ乗っただろうが、元太も考えており源三郎が書いた内容が分か
らない、其れよりも高野がどの様に判断するのか話は其れからでも良いのだと。
「そうか、そうだったなぁ~、源三郎様が何を書かれたのかオレ達は知らないからなぁ~。」
「なぁ~銀次、オレは高野様にお願いするよ、早く助けに行きたいんだって。」
「オレもだ、銀次、オレも頼んでみるよ、だってオレ達が勝手な真似をすると、源三郎様に迷惑が掛かる
んだぜ。」
「なぁ~銀次、オレ達はみんな同じなんだ、オレは高野様に自分の気持ちを正直言うよ、オレは今直ぐに
でも行きたいんですって。」
銀次も仲間の言う事の方が正しいと思って要る。
「よ~し分かったよ、じゃ~菊地に着いたら高野様にお願いするよ。」
「銀次さん、オラが余計な事を言ったんで。」
「いゃ~やっぱり元太さんが正しいんですよ、オレも本当は源三郎様に迷惑だけは掛けたく無いですか
らねぇ~。」
其れは何も銀次や元太達だけでは無かった、後に続く城下の人達も大手門を出た直後から同じ様な話を
していた。
「お~い、銀次さんって人はおられますか。」
「は~い、オレは此処ですけど。」
後ろから数人の町民が走り寄って来た。
「はい、オレが銀次ですが、何か。」
「オレ達はご城下から参加したんですけど、お城を出てからみんなと相談してたんですが。」
「相談って、一体何をですか。」
「オレは早く行きたいって言う者が殆どなんで、菊地の高野様に会ったら言いたいと思ってるんだ。」
銀次は直ぐに分かった、其れは元太も同じで有る。
「高野様にお願いするのでしょう、直ぐに山の向こう側に行きたいって。」
「えっ、何で分かるんですか。」
「今もその話をしてたんでオレ達も同じ事を考えてたんですよ、でもオレ達が勝手な真似をすると源三
郎様に迷惑が掛かるから菊池に着いたら、オレ達は少し休んでから直ぐに行かせて下さいって、お願いし
ようって言ってたんですよ。」
「其れじゃ~オレ達と一緒だ、良かったなぁ~。」
「うん、若しも違ってたらと言ってたんで、其れだったら安心したよ。」
「其れじゃ~話しは決まりだ、みんなに高野様に早く会いたいから急ぎましょうってね。」
「よ~し、行こうぜ。」
銀次達が先頭になり、みんなが早く歩き始めた。
銀次達は高野に頼むと言うのだが、源三郎様の書いた文の内容が分からない、だが、其れよりもみんな
の気持ちが早く、早く行こうとなり、千五百人の男達は地響きを鳴らしながら菊地へと急ぐので有る。
一方、菊地の高野は銀次達がその様な考えを持って要るとは思いもせずに要る。
「高野様、野洲の人達は無茶ですよ。」
「無茶とは一体どの様な意味ですか。」
「はい、荷車に積む米俵ですが普通は五俵か六俵だそうですが、あの荷車には少ない車でも十俵以上で、
多い荷車には二十俵近くも、いや其れ以上積んで有るのですから。」
「えっ、其れは誠ですか。」
高野は荷車の状態を見ていなかった、其れが正か二十俵以上も積んで有るとは想像すらしていなかっ
たので有る。
「其れは誰が考えても無茶ですねぇ~。」
「ええ、其れに一番近い村からは十里も離れた村で積み込んだのが殆ど二十俵近くなのです。」
「では、其れを十里以上、いや菊地まで運んだと言われるのですか。」
「はい、其れにまだ有りまして、今回の俵は菊地の俵よりも大きいので尚更重いのです。」
「では、直ぐ野洲に帰ると言うのは。」
「其れは無理だと思いますよ、皆さんが動けるまで二日、いや三日は掛かると思います。」
大変な事になった、幾ら何でも直ぐに帰ると言うのは無理処か不可能だと、それ程までに買い付けする
とは高野自身も考えておらず、だが現実は違っていた、五か村から買い付ける言うよりも幕府か官軍に略
奪されるよりも全部を売り払ったと言う方が正しいのかも知れず、下手をすると何処かに隠して要ると疑
われ其れこそ拷問に掛けてでも出せと、ではと各農村の名主が考えたのが自分達が食べるだけの米俵を隠
しそれ以外は全て売ったので有る。
「では、野洲のご家中の皆様方は。」
「はい、表向きは元気そうに振り回されておられますが菊地の家臣がいなくなりますとどなた様も横にな
られておられます。」
「う~ん、ですが今頃は野洲より応援の人達がこちらに向かわれておられると思いますよ。」
「高野様、ですが今の状態では応援の人達だけでお帰しするのは中止されては如何と。」
「よ~く分かりました、今から文を認めますので夜明け前に早馬で出立して下さい。」
「はい、承知致しました。」
菊池藩では野洲方面からお城まで街道にかがり火を焚いて道案内をしており、お城周辺でもかがり火で
明るく照らされている。
其れは野洲の応援部隊が何時来ても分かる様にとの配慮からで有る。
「お~い、前の方がかがり火で明るくなってるぞ~。」
「よ~し、もう菊池のお城は近いぞみんな後少しだぞ~。」
またも歩むのが早くなった。
「お~い、野洲の方から大変な数の松明が近付いて来るぞ~。」
「よ~し、分かった、誰か高野様に知らせてくれ。」
「お~い。」
「お~い。」
と、お互いが大きな声を上げて要る。
「やはり野洲の人達だ、え~一体何人なんだ物凄い人数だよ。」
菊池の家臣が驚くのも無理は無い、高野も他の家臣も多くて百人くらいだろうと思っていた。
「高野様、野洲から大勢の人達が着かれました。」
「えっ、ですがまだ一時、いや二時以上も早いのでは有りませぬか。」
「はい、ですが今其れも続々と来られております。」
「分かりました、直ぐに参ります。」
高野は大急ぎで大手門に向かった。
「一体何人ですか。」
「まだ、分かりませんが、少なくとも千人はおられると思いますので。」
其の時、先頭の銀次が近付いて。
「私は野洲から来ました銀次といいます、高野様は。」
「はい、私が高野ですが。」
「これを源三郎様からの文です、どうぞ。」
源三郎は鈴木では無くあえて銀次に文を持たせ、鈴木も源三郎の意図は分かって要る。
高野は源三郎から文を受け取り直ぐに読むと。
「えっ、正かその様な大事を余りにも無謀だ。」
源三郎の文には予定が何かの間違いで山向こうの農村の人達を救出に向かうと書いて有り、その護衛と
して野洲の家臣を付けるので菊地からも応援を出して欲しいと言うので有る。
「高野様、源三郎様は何と書かれているのですか。」
銀次も元太も早く書いて有る中身を知りたいので有る。
「う~ん、これは大変な事になりました。」
高野は正か山向こうの農村の人達を救出に向かうとは思いもしなかったので有る。
「高野様。」
「鈴木様、大変な事になりましたよ。」
「大変な事にとは一体どの様な意味で御座いますか。」
鈴木は分かって要るがあえて恍けた。
「今、着かれました野洲の方々ですが、千五百人で山向こうの農村の人達を救出に向かうので菊地の家臣
も護衛に就いて欲しいと。」
「えっ、正か源三郎様が農民さん達を救出せよと。」
「あの~鈴木様、源三郎様はそんな事を言われて無かったですが何処でどう間違ったのかは知りませんが
山向こうの農村の人達を助けろって。」
「大体、銀次、お前が言ったんだぜ、源三郎様に。」
「えっ、オレがか、オレはそんな事を言った覚えは無いんだがなぁ~。」
「何を今頃寝とぼけてるんだよ~。」
「まぁ~まぁ~その話はまた後で、其れよりも高野様のお考えは。」
「鈴木様、私は余りにも無謀だと思いますよ、其れに相手は幕府軍の侍達ですので。」
「高野様、そんなのまだ何も分かりませんよだって誰も見て無いんでしょう。」
「銀次さん、それに皆さんが若しもですよ幕府軍の武士に襲われた時には命は。」
「高野様、そんな命が惜しいから来たんじゃないんですよ、オレは島帰りで野洲の城下では誰も相手にし
てくれなかったんです。
でもねぇ~源三郎様は其れは過去の事ですから全てを忘れて下さいってね、ねぇ~高野様、オレは幕
府の奴らに切られて殺されても天国に行けますよ、ですがね農民さん達を見殺しにでもしたらオレは
地獄にも行けないんですよ、だってエンマ大王様にお前の様な卑怯な奴は地獄にも入れる事は出来ないっ
て、じゃ~オレは一体何処に行けるんですか、オレは死んで花を咲かせ堂々と天国に行って言いますよ、
オレはなぁ~農民さん達を助ける為に幕府軍の奴らに殺されたんだってね。」
「う~ん、ですがねぇ~。」
高野は銀次の言って要る意味は十分理解はして要る。
だが山向こうの農村地帯の情報が全く無いと言うのが一番の不安材料なので有る。
「高野様、オレもですよ、オレが切り殺されて地獄に行って言いますよ、なぁ~お前達は悪い事をしたか
ら死刑になったんだ、だけどオレはなぁ~人を助けて幕府軍の奴らに切り殺されたんだぜ、その証拠に
この刀傷を見て見ろってね身体中の傷を見せますよ。」
銀次の仲間達は次々と立ち上がり、高野に直訴して要る様にも聞こえるので有る。
この様な時源三郎ならば果たして簡単に行く事を許すだろうか、いやそんな事は絶対に有り得ない
事だ、だが今目の前に居る銀次とその仲間も城下の人達、元太の漁師達を含め千五百人の顔は恐ろしい程
真剣で今は何も恐れるものは無いと、其れこそ救出に向かわなければ其れこそ野洲の城下の女性達の方が
遥かに恐ろしいのだと言っている様にも聞こえて来るので有る。
其れは鬼より怖い野洲の女性達が待ち受けて要るので有る。
「う~ん、ですがねぇ~。」
高野はまだ結論が出せないでいるのか。
「高野様、もういいですよオレ達は高野様だったらオレ達の気持ちは分かってくれると思ったんですが
ねぇ~、でもやっぱり無理だったんですねぇ~、オレ達が余計な話しをして悪かったんです、だったら仕
方が無いから、よ~し、みんな今から行くぞ~。」
銀次は高野が煮え切らないと思ったのだろうが。
「銀次さん分かりましたよ、菊地の家臣全員を一緒に参らせて頂きますから、ですが少しだけ待って下
さいね。」
「えっ、まだ何か有るんですか。」
実は高野は最初から向かうつもりで作戦を考えていたので有る。
「はい、実は私も先程から山の向こう側に行くつもりで作戦をと言いますか、何か方法は無いかと考えて
おりましてね。」
「なぁ~んだ、じゃ~高野様は最初からオレ達と一緒に行くつもりだったんですか、其れだったら早く
行って下さいよ、みんな高野様も行って下さるって。」
「お~。」
千五百人の男達の雄叫びが城内に響き渡り。
「なぁ~んだ高野様も人が悪いですよ、オラは高野様が行かないと思ったんですよ。」
「元太さん、其れは申し訳無かったですねぇ~。」
「分かりましたよ、じゃ~その作戦ってのを早く聞かせて下さいよ。」
銀次は早く聞きたいと焦っている様にも見える。
「はい、では今から説明しますからね。」
高野は作戦と言うよりも誰を一番遠くの村に向かわせれば良いのか、実は簡単な事で悩んでいた。
「銀次さんに一番手を其れと、一番奥の村に行って頂きたいのですが、宜しいでしょうかねぇ~。」
「お~勿論ですよ、やっぱりなぁ~、元太さんやっぱりオレ達が一番最初に行くんだ。」
「あ~ぁ、なぁ~んだ、オラ達じゃ無かったのか。」
「元太さん申し訳有りませんねぇ~、ですが元太さん達にはその手前の村をお願いしたいのですが、宜
しいでしょうか。」
「勿論ですよ、分かりました。」
其れから高野は野洲の城下から来た領民の振り分けと、野洲、菊池の家臣達の振り分けを終えるので
有る。
だが高野は一体何を悩んでいたのだろうか、其れは銀次達が行く村の付近では幕府軍と官軍の戦が始
まったと源三郎の文に書かれており、其れで高野は誰に行かせるのかを考えていた。
元太達は漁民で、だが銀次達はと言うと島帰りで命知らずと言っても過言では無い、漁民達に一番奥
の危険な村に行かせるのは無理だと、其れならば、やはり此処は銀次達が最適だと判断したので有る。
「元太さん、銀次さん達には一番大変な村をお願いする事になりますが、我々侍が皆さん方の守りに就き
ますのでね、其れと野洲と菊池のご家中には何としても領民を守って下さい。
では、一番手の銀次さん達から出立して頂けますか。」
「よ~し、みんな出発するぞ~。」
銀次達が先頭になり、前を菊池の後ろを野洲の家臣に守られ山の向こう側の農村を目指し次々と菊池の
お城で出て行く。
菊池のお城を出、半時程進むと。
「わぁ~何でだよ、こんなところに大きな洞窟が。」
「銀次さん、これはねぇ~隧道と申しましてね山の向こう側にまで通じているのです。」
其れは菊地の家臣と領民達の殆どが参加し突貫工事で完成させたので有る。
「わぁ~これはオレ達と同じ方法だぜ。」
「うん、だけど何でこんなにも早く出来たんだ、オレ達の洞窟はまだ出来ていないのに。」
「銀次さん、此処は陸地でしてね、銀次さん達は海の其れも最初に一番苦労されたお陰ですよ。」
「そうだったんですか、でもこんな隧道を掘ったら向こう側の入り口は幕府軍に見付かるんじゃないん
ですか。」
銀次が思うのも無理は無い、山に大きな隧道が有れば何処から見ても直ぐに分かるはずだと。
「まぁ~まぁ~銀次さん向こう側に出れば直ぐ分かりますから。」
「うん、分かりましよじゃ~早く行きましょうか。」
銀次達は少しだが早く歩き、空はまだ暗闇だ明るくなれば其れだけでも発見される可能性も高くなる
と言うもので有る。
先頭を行くのは菊池の数人で一町程先に隧道の中の松明にも次々と点き、そして、銀次達は松明の灯り
を消して行く。
「銀次さん、これから先一里程で出口になりますので、其れと皆さん一応此処でお話しは終わります
ので。」
一里程続く隧道を菊池の家臣が出口に来た。
「あれ~、何でこんなところに木が生えてるんだ。」
銀次達が不思議そうに思って要ると、菊地の家臣達は植木鉢の様な物を次々と別の所に移動させ始め、
すると其処は山の向こう側で元太達も初めて見る風景で有る。
「わぁ~オラ達の住んでる所と全然違うよ。」
「元太さん、驚くのはまだ早いですよ、まぁ~これからが楽しみですからね、其れよりも皆さん急ぎま
しょうか。」
元太達もだが野洲の領民達は余りにも衝撃的な風景で驚きの連続に声も出ない程で有る。
菊池の家臣達は早くも速足で山を下って行き、山の麓に下りると其れからは麓に沿って進むがその道
も新しく造ったので有る。
「さぁ~急ぎましょうか、銀次さん達に行って頂く村は此処から十里以上も先に有りますので。」
「はい、分かりました。」
その後、暫く行くと最初の村に着いた、その頃空は要約明るくなり始めた。
農家の朝は早く銀次達は更に奥の村へと向かい、野洲の領民達は最初の村に入り名主の家に向かった。
銀次達はその後、数か村を通り過ぎ一番奥に有ると言う村に着き、鈴木と一緒に名主の家に入った。
「名主さん、名主さん、朝早くから済みません。」
「は~い。」
と、名主の奥さんの声だ。
「お早う御座います、こんなに朝早くから申し話御座いませんが私は先日この村に寄せて頂きました、野
洲藩の。」
「あ~あの時のお侍様ですか、どうぞお入り下さい。」
「はい、では失礼します。」
菊池と野洲の家臣数人、其れに銀次と野洲の数人が名主の家に入った。
その頃、村の人達が集まり出し、何やらひそひそ話をし始め、中には顔の知った農民も要る。
「名主殿、実は。」
鈴木が事情を説明すると。
「えっ、でも正かそんな事は。」
「其れがね、その正かでしてね、其れで我々がこの村の人達を救いに来たのですよ。」
「えっオラ達農民をですか。」
「はい、その通りでしてね、名主殿、村の裏側に有る高い山の向こう側からでして明け方山を抜けて来た
のです。」
「お侍様、高い山の向こう側ですか、オラ達はあの山の向こう側には誰も人が住める所では無いと昔から
聴いておりましたが。」
「いいえ、其れが大間違いでしてねぇ~、事実、我々がその国から来ているのですから間違いは有りませ
んよ。」
名主の驚くのも無理は無い、先祖からは山の向こう側には海は有るが、人間が住める様な所では無く、
人間は一人も住んでいないと聞かされて来たので有る
「まぁ~名主殿、その話も大事ですが名主殿から村人さん達にお話しをして頂きまして一刻でも早くこの
村から出て、我々の国その国が山の向こう側に有りますので村の人達全員と行きましょう。」
「ですが、何故幕府軍がオラ達の村を襲うんで御座いますか。」
「其れはねぇ~この村で作られておりますお米や野菜が必要なのですよ。」
鈴木はその後も優しく解かりやすい様に話をして行くが、表には多くの村人達が集まり始め、侍達や銀
次達の仲間から話を聴いて要る。
名主の話しでは村は今まで一度も村を襲われた事は無かったと言うので有る。
「じゃ~オラ達を助けに来たと言われるんですか。」
「はい、今の話は本当ですからね、其れに今回の戦は長く続きますのでね早く逃げないと村の人達もその
戦の巻き添えで殺される事にもなりますよ。」
何故、この村では過去に一度も村民が殺された事実は無かったのか。
「お侍様、でもオラ達の中で幕府のお侍様に殺された者は一人もおりませんよ。」
「えっ、其れは誠ですか。」
他の家臣が農民から聴いた話を名主の家に入った鈴木に耳打ちした。
「はい、分かりました。
名主殿、如何されましたか。」
「いいえ、別に何も。」
だが、名主の表情が事の深刻さを表している。
「如何ですか、何時この村に来るのか知れませんが、名主殿、ですがねぇ~必ず幕府軍が来るとは限りま
せんよ。」
「えっ。」
名主の表情が変わった。
「名主殿、必ず幕府軍が来るとは限りませんよ、幕府軍とは別の官軍が来る事も有りますからねぇ~、
名主殿から一刻も早く村の人達に話をして頂きこの村を出る様に私は進めますがねぇ~。」
「なぁ~名主さん、オレ達が嘘の話をしていると思ってるんだったら其れは大間違いなんだぜ、オレ達の
仲間がこの村以外の村にも向かってるんだ、其れで他の村の人達にも話をして村の人達全員を助け出し、
山の向こう側に有るオレ達の連合国に一緒に行く事になってるんだ。」
銀次も名主を説得するのだが何故か名主は煮え切らないので有る
「ですがオラ達を助け出して何かの利益でも有るのですか、其れにですよ誰がオラ達を助けろって命令を
されたんですか、オラは農民ですよその農民を何でお侍様もだけど初めて見る様な人達が助ける必要が
何処に有るんですか。」
「なぁ~名主さん、オレ達はなぁ~誰からも命令はされてないんだ、実はなぁ~先日だけどこの村を含め
て他の村にも買い付けをしたのは知って要ると思うんだ、其れにだよオレ達の仲間の人が山の向こう側で
大きな戦が始まり、多くの村が焼かれ村民が殺されお米は略奪されてるって話が有ったんだ、其れで、
オレ達はお米を売ってくれた人達、其れがあんた達なんだ、其れでオレ達はみんなと話し合って村人を助
けに行こうと其れで最初の村、其れがこの村なんだ其れになぁ~何でオレ達が嘘を言う必要が有るんだ。
其れになぁ~オレ達には源三郎様ってお侍様は農民さん達が一番大切だって日頃からオレ達に話をさ
れてるんだ、名主さん話は何時でも出来るんだから其れよりも早く村の人達に話をしてくれよ。」
「名主様、みんなで逃げましょうよ、オラは殺されるのは嫌だ、其れに母ちゃんも子供も助けたいんだ
から。」
「みんな、だけど今まで誰も殺された事は無いのです。
其れに幕府軍はオラ達を殺すはずが無いと思うんだけどねぇ~。」
名主は表に出て村人に話をし始めたが、何か不自然な様子で有る。
「ですが、今度ばかりは分からないですよ、う~ん。」
鈴木は何かが変だと、名主は何故か村を捨てろと言わず、其れよりも幕府軍はこの村だけは襲っては来
ないと言う様な意味にも取れる様な言い方をして要るので有る。
「名主さんは村の人達を助けたくは無いのですか。」
「ええ、ですがねぇ~。」
名主は何やらを考えて要る様子で。
「名主様、オラは村なんか捨ててもいいだ、其れにオラはこの人達を信用するよ、なぁ~みんな、この
人達はオラ達を助けに来られたんだ、其れに少し前この村に来られたお侍様も同じ話しをされてるんだ、
オラはこの人達を一緒に行く事に決めたよ。」
「よ~しオラも行くよ、お侍様、でも少し待って欲しいんですが。」
「何か有るのですか。」
「うん、オラは少ないんだけど、仕事用の道具と他にも。」
「皆さん、持ち物は必要ありませんよ皆さんの身体だけで十分ですからね。」
「そんな事言っても、着る物も要るしなぁ~。」
農民は道具と其れに少しでも持ち出せる物は持って行きたいと、その気持ちは侍も同じで良く分かる、
だが一人や二人なら問題は無いが村人全員ともなれば荷車に乗せるのは無理で有る。
「道具や着る物は我々が用意しますのでね。」
「あの~お侍様、オラはご先祖様の。」
「私も貴方の気持ちは分かりますが、う~ん、では皆さんご位牌だけは要ると思いますので、でも他の物
はこの村に残して欲しいのです。」
「お侍様、オラ達はこの村に帰って来れるんですか。」
「其れはねぇ~、今の私には答える事が出来ないのですよ、まぁ~全ては我々の国に着いてから考える事
にしましょう。」
其の時、別の家臣が名主の座っていた床下から小判の入った箱を見つけ出した。
「名主殿、この金子はどうされたのですか。」
「わぁ~何て大金だ。」
ざっと見ても千両近くは有り、農民達は驚いて要る。
「名主殿、では私から説明しましょうかねぇ~。」
名主は何も言わずに下を向いたままで。
「名主様、じゃ~今までオラ達を騙してたんだなぁ~。」
「何が名主だ、オラ達を騙しお金は自分の物にしてたんだ。」
「おい、何とか言ったらどうなんだ。」
「まぁ~皆さん其れよりも早く出発しましょう、一刻でも早くこの村を出る事ですから。」
「オラは行くよ。」
「皆さん小さな子供はお母さんと荷車に乗って、そうだ、お~いオレ達が小さな子供を肩車にして行
くぞぉ~。」
「お~。」
やっとこの村の人達が村を捨て連合国に向かう事を決意し出発出来るので有る。
其れは、銀次達が村に到着し数時が経っていた。
「では行きましょうか。」
「お~い、オレ達が持って来たおむすびが有れば子供とお母さん達女性に、其れと。」
「さすがに銀次だ、分かってるよなぁ~。」
銀次達はおむすびを差し出すと子供達も母親達は美味しそうに食べ始め、残ると思われた名主夫婦も
一緒に歩き始めるのだが、村人達は誰も名主には気遣う事も無く、名主夫婦は一番後ろを寂しそうに歩い
ている。
「あの~銀次様って聞きましたが。」
「なぁ~あんた、悪いがなぁ~オレ達に様は要らないんだぜ、銀次って呼んでくれよ。」
「でも、オラ達の為にって来てくれたんでしょう。」
「うん、そうだよ、でもなぁ~お侍様以外のオレ達は全員が島帰りなんだ。」
「えっ、島帰りって。」
「本当だよ、だけど、オレ達には源三郎様って言われる命の恩人があんた達を待っておられるんだから、
何も心配する事は無いんだから」
「えっ、源三郎様ってお殿様ですか。」
「いゃ~お殿様じゃないよ、だけど源三郎様はなぁ~農民さん達を一番大切になれるお方でまぁ~オレ達
の国ではなぁ~一番知られてるお侍様なんだ、其れでオレ達は源三郎様の為だったら命なんかちっとも
惜しくは無いんだぜ。」
傍で話を聴いて要る銀次の仲間も其れに野洲と菊池の家臣達も頷いて要る。
「でも、お殿様が。」
「う~ん、この話はオレには無理だから、ねぇ~鈴木様、助けて下さいよ。」
野洲の家臣も菊地の家臣も笑って要る。
「まぁ~お話しは銀次さんにお任せしますからね。」
「だってオレ達にそんな説明は出来ませんよ。」
「銀次さんだったら大丈夫だと思いますよ、でも私達にも無理ですよ、ですが私達の知って要る源三郎様
の事を話しますがねぇ~、でもねぇ~我々でも知らない事の方が多いですからねぇ~。」
其れでも、野洲と菊池の家臣達が農民達に説明を始めた。
「えっ、そんなにお偉いお侍様なんですか。」
「う~ん、源三郎様がお偉いのか私達にも判断が出来ないのでしてね、まぁ~其れ以上の説明は出来ない
のですよ、銀次さんも笑って無いで助けて下さいよ。」
「え~、オレって笑ってましたか。」
「そうですよ、お仲間の人達もみんなですからね、私は野洲に戻ってから源三郎様に言いますよ、銀次さ
ん達は私達を見捨てたとね。」
銀次達もだが菊地の家臣も野洲の家臣も大笑いし、だが農民達は全く意味が分からず、ただ唖然と
して聴いて要るだけで有る。
「そんなぁ~無茶な、オレ達も別に笑ってるんじゃないんですよ、だって源三郎様の話しを始めたら、一
体何処まで話をすればいいのかオレ達にも分からないんですよ。」
「あの~、その源三郎様って、お偉いお侍様が何でオラ達農民を助けるんですか。」
「あっ、そうだ、銀次、お前が言いだしたんだぜ、其れに源三郎様は何も言われて無いぜ。」
「そうか、だけど源三郎様は怒られて無かったんだからなぁ~、まぁ~心配は無いって。」
「そんなの当たり前だよ、源三郎様がオレ達には怒られないんだから。」
「そんなにお偉いお侍様だったら、お城の中で。」
「まぁ~なぁ~、みんながそう思うのは当たり前だけど、源三郎様ってお方はお城に要る事よりもオレ達
や漁師の元太さんもだけど、まぁ~殆どが農村や漁村に行かれてるんだ。」
「そんな話って本当なんですか、オラは此処に来る役人達はお米を持って帰るのが当たり前の様な顔をし
ているんですよ。」
「役人ですか。」
「はい、ですから来る時は何時も荷車を持って来るんですよ、あっ、そうかお役人は金子を名主に払って
たんだ。」
「まぁ~其れが本当の話だと思いますよ、其れで無ければあれだけの大金が有る事自体が何か不自然な事
だと思いませんか。」
「名主はオラ達にはお役人様には逆らっては駄目だと言ってましたが、オラ達に知られると困るんです
ねぇ~。」
「まぁ~其れが本当の話だと思いますがねぇ~。」
「あの~お侍様、オラ達はこれからどうなるんですか。」
「皆さんは何も心配される事は有りませんよ、そうですねぇ~暫くはのんびりとして頂く事になると思い
ますが皆さんはどの様にされたいのですか。」
「はい、オラ達は農民ですから田や畑を耕したいんです。」
「分かりましたよ、私からも源三郎様に伝えますが、まぁ~其れよりも皆さん方が直接言われる方が源
三郎様は分かって頂けると思いますがねぇ~。」
だが現実を考えて見ると菊地や野洲も不作が続いており、残りの山賀以外の松川も上田をよく似た様
なもので山賀だけが大豊作が続いて要る。
幾ら山賀だけが大豊作が続いて要るとは言っても全ての領民を満足させるだけの収穫は無理に近く、果
たして源三郎はどの様な方策を考え実行して行くのか、銀次達が一番奥の農村を出発して二時が経ち二番
目の農村に近付いて来た、この農村の田の稲穂は全て刈り取られて要る。
「皆さん、この村には人影は無いと思いますよ。」
「うん、誰もおられませんねぇ~、元太さん達も早く出発されたのだと思いますよ。」
この村には数頭の馬と牛がいたはずだがその馬や牛も連れ出した様子で、其れこそ猫の子一匹もいない
とはこの事で有る。
「皆さん宜しいでしょうか、私達も皆さんにもっとゆっくりと休んで頂きたいのですが、その様な事をし
ますとこの先一体何が起きるかも分かりませんのでね先を急ぎましょうか。」
家臣達も農民達が疲れて要るのは知って要る、だがこれ以上の長居は出来ない一刻でも早く隧道の
入り口に着かねばならないと、其れは農民達も分かっており何も言わずに歩いて要る。
その最後尾から来るのは名主夫婦で名主夫婦は高齢で今要約みんなの所に辿り着いた。
だが其の時には全員が洞窟に向かう為に出発しており名主夫婦は休む事も出来ずに後ろを歩いて要る。
その様な状況下でも名主夫婦を助けようとする農民は一人もおらず、其れは名主が招いた事で自業自得
と言うもので有る。
そして、その日の夕刻近く三番目の村に着き家臣の一人が灯りの点いて要る村の名主の家に入ると置
手紙が有り全員が食べるで有ろう雑炊が作って有った。
「皆さん今日はこの村に泊まり、明日の早朝に出発しますので其れと名主さんの家に皆さんはお腹が空い
て要るだろうと雑炊が作られて有りますので子供達が最初で次は年齢の高い人と女性と順番に食べて下さ
いね。」
子供達は相当お腹を空かして要るだろう、お代わりをする子供もおり。
「銀次さん、少しお話しが有りますので。」
野洲と菊池の家臣達に銀次とその仲間の数人が加わり。
「銀次さん、あの名主の事ですが。」
「オレ達は別に何も気にしてませんよ。」
「名主もお腹を空かして要ると思いますが。」
「鈴木様、ですが農民さん達が名主には食べろと言わないと思いますよ、農民さん達の中には名主と言う
だけで今まで幕府が支払った金子の全てを我が物にしてたんですよ、まぁ~オレだったら名主に雑炊どこ
ろか近付くなと言いますよ。」
銀次達が連れ帰る村人達の中に名主はいない、やはり銀次の言った通りで有る。
「何であんたが来るんだ、表に出て行け早く何処かに消えろ。」
名主は何も言えず夫婦は相当な疲れ方だろうが其れはこの夫婦が今まで行って来た事が今は反動となり
村の人達は誰も相手にはせず、其れどころか今夜は一体何処で眠る事が出来るのだろうか、村に有る全て
の家には村人が入っており、名主は仕方なく別に所へと向かうと運が良かったのか其処には小さいが夫婦
が入れるだけの小さなお堂が有り、そのお堂へと入り眠りに入る事が出来たので有る。
一方、菊池の家臣数人が木立で隠れた隧道の入り口に立ち、農民達が来る方向を見て要る。
「どうだ、まだ来ぬか。」
「うん、其れに夜になっても松明も灯す事も出来ないと思うから、全く分からないんだ。」
「まぁ~そうだなぁ~、下手に松明を灯すと若しかして幕府軍か、其れとも官軍に見付けられる事も
考えられるからなぁ~。」
「其れにしてもあの人達は無茶だよ、火に油を注ぐ様なものだからなぁ~。」
「うん、だけど我々だって立場が違えば同じ行動を起こしたと思いますがねぇ~。」
「まぁ~そうかも知れませんねぇ~、其れにしても遅いなぁ~。」
だが、その時。
「此方に来て見て下さい、若しやあれは。」
「う~ん、若しや、うん、あれに間違いは無い。」
山の麓と言うよりも山が目前まで迫っておりこの付近では何処よりも早く日が暮れる。
だがまだ完全には暗くはなって要るのではなく、まだ薄明るい状態なのだ。
「よ~し、直ぐ連絡だ。」
菊池の家臣は直ぐ松明に灯りを点け大きく振った、其れが合図となり隧道の中に待機して要る家臣達が
受け継いで行く。
「お~い、帰って来たぞ~。」
「よし、私が高野様にお知らせする。」
一人の家臣が馬に乗り、高野が待つ菊池のお城へと飛ばして行く。
菊池側ではまだ明るく、馬が飛ばして行く様子を領民が見ると領民達は次々と隧道の入り口へと向かっ
て行く其れは自然と起きたので有る。
「高野様。」
大手門に入る家臣は大声で叫んで要る。
「高野様、高野様は。」
家臣は馬に乗ったままで何時も最初に出る名が高野なので、何時もの癖になっていたのだろう。
「何やら騒々しいが、これは、若しや。」
菊池の殿様も城内が騒然となり始めたのを知り。
「あっ、殿。」
「一体何事じゃ、高野は皆と一緒に隧道の入り口におるのでは無いのか。」
「あっ、そうでした、私はつい何時もの癖で申し訳御座いませぬ。」
「まぁ~良いわ、其れで何事なのじゃ。」
「殿、やりました、成功致しました。」
「そうかやはり成功したのか。」
「はい、先程合図の松明が振られましたのしたので、第一陣が帰って来られると思います。」
「誰か賄い処。」
と、殿様が言った時には家臣は賄い処へと向かっていた。
「ですが、高野様、先頭がと言うよりも、其れが果たして農民なのか分かりませぬが。」
「その様な事は別問題ですよ、我々は全員が無事に戻る事を願うだけですから。」
「はい、では私は戻りますので。」
「多分ですが、領民達が大勢入り口に向かわれて要ると思いますので十分気を付けて下さい。」
家臣は再び馬に乗り隧道の入り口へと向かった。
その頃、隧道の入り口付近では大勢の人達が次々と中に入って行く。
「皆さん申し訳御座いませぬが誰が先陣なのかも知れませんので一度隧道から出て頂きたいのです。」
「オレはねぇ~今回行けなかったで向こう側の入り口で交代をしたいんですよ。」
「私も行きますよ。」
「わしもだ。」
「私は皆さん方のお気持ちは大変嬉しいのですが、大勢が入られますと向こう側の人達が通る事が出来な
いのでお願いします一度戻って下さい。」
「う~ん、まぁ~其れなら仕方が無いか、じゃ~行けると分かったら言って下さいよ、オレが最初に行き
ますからね。」
「いいやわしが最初じゃ。」
領民達は自分達が最初に行くのだと勝手な事ばかり言って要る。
「よ~し、前の木立を動かせてくれ。」
数人の家臣が隧道の入り口付近を覆って要る数十本の植木を動かして行く、やがて先頭が見えた。
其れはお米を積んだ荷車で一体何台の荷車なのだ。
「よ~し、松明を振れ~。」
松明の灯りが次々と伝わり。
「よ~し、先頭が入ったぞ。」
家臣の言葉が合図となり、領民達が我も我もと次々入って行き、もう其れを止める事は出来ない程で領
民達が走り出して行く。
「お~い、大丈夫か。」
「わぁ~一体どうしたんだ大勢の人達が。」
最初に入って来たのは各農村が隠した米俵で一台の荷車に二十俵程にも積んでおり、十数人掛かりで引
き押して要る。
「お~い、オレ達が代わるからなぁ~。」
「えっ、そうか其れは有り難いよ。」
「其れで荷車は一体何台有るんだ。」
「そんな事、オレ達は知らないんだ、だって千五百俵以上も有るんだからなぁ~。」
「えっ、其れは本当なのか、そりゃ~大変だ、みんな後ろの方にも荷車が有るんだって行ってくれよ荷
車が何台有るかも分からないんだ。」
「よ~し、みんな行こうぜ。」
荷車を運んで来たのは野洲の領民達で、余りにも重い為一度止まると次は動けないのだと、其れで昨日
の昼からは休み無く運んで来たのだと言うので有る。
荷車を運んで来た野洲の領民達から今度は菊池の領民達へと次々と交代し荷車は菊地の領内へと向
かって行く。
お城と隧道の間にはかがり火が次々と点けられ周りは明るくなって要る。
その頃、お城の賄い処でも大戦争の最中で賄い処の女中達も腰元達も必死で有る。
菊池側の隧道の入り口から最初の荷車が現れると大歓声が起き、野洲の領民達は菊池に入って安心した
のか誰もがその場にへたり込んだ。
殿様もその頃に着いた。
「皆様方、大変ご苦労様でした、其れで他の者達は。」
「殿様、私達の知るところでは全員が隧道の入り口へと向かわれております。」
「そうか、そうか、其れは何よりじゃ、後、少しで城じゃ少しの辛抱を頼みますぞ。」
菊池の殿様は野洲の領民達に頭を下げ、野洲の領民達は別に驚く事も無く、其れは野洲では何時もの出
来事なので有る。
「殿様、源三郎様にお知らせ下さいませ。」
「うん、分かった、誰か野洲の源三郎殿に第一報じゃ、先頭が只今菊地に到着され、今も次々と戻られて
おりますと其れとは別に後程詳しく報告させて頂きますとな。」
「はい、では拙者が参りますので。」
「よし、頼むぞ。」
家臣、数人が馬に乗り野洲へと馬を飛ばして行く。
その後も次々と荷車が菊池側の入り口に現れ、一体何台の荷車が出て来るのだ、だが其れよりも山の向
こう側からの村人千五百人全員が無事に菊池側の領地まで辿り着く事が出来るのか、其れよりも一番最後
は銀次達が連れて来る村人の中に名主夫婦はいないも同然でその名主は村人からも相手にされず夫婦だけ
で最後について行くが、この名主夫婦は三日後には姿が見えずに、其れでも銀次達は止まる事もせずに、
果たして全員が無事に菊池の領内に、そして、野洲に辿り着く事が出来るのだろうか。