第 30 話。殿様方の決意と恐ろし情報。
「叔父上様、私は決意致しました。」
「松之介、簡単に決意した申すが、げんたは子供ながら源三郎よりも感は鋭いのじゃ、げんたはのぉ~、
我々が想像する以上よりも遥か先を見ておるのじゃぞ、其れを分かっておるのか。」
「叔父上様、先と申されますと。」
「竹之進、簡単に申すとじゃ、潜水船じゃ、今の潜水船で満足する様ではげんたの考えには付いては行け
ぬと言う事なのじゃ。」
「ですが、先日の潜水船でも、私は十分だと思っておりますが。」
「松之介、其処じゃ、げんたと言う技師長はのぉ~、造っていながら次の事を考えて要ると申しておるの
じゃ、何故其れが分らぬのじゃ。」
「えっ、では頭の中は別の事を考えて要ると申されるので御座いますか。」
「うん、正にその通りじゃ、そんな技師長に我々は決意しましたと申して見ろ、たちまち直ぐ見抜かれる
と言う事なのじゃ、分かったのか。」
「野洲様、何故に其れまでになったので御座いますか。」
野洲の殿様は他の藩主にも理解させなければ先には進まず、其れは連合国として結束する事が最も重要
だと考えたので有る。
「では、話しは外れるが、源三郎と雪乃の一件を話すが、竹之進も松之介も知らぬと思うが如何じゃ。」
「はい、私は何も。」
竹之進も松之介も知らないと言うので有る。
「雪乃からは聞いてはいた、雪乃は源三郎を慕っておると、其れで有る日の事じゃ、源三郎に聴いたが、
源三郎は雪乃が何れかの国の姫様だと申してのぉ~、今の自分の身分では姫様を妻には出来ぬと、まぁ~
其れよりもだ、その二人の事は知っておるのは余と余の奥方だけと思っておったのじゃ。」
「姉上様は私達には何も申されてはおられませんでしたが。」
「余はのぉ~、山賀の鬼家老の事も知っており、皆には内緒で雪乃と加世、すずの三名を腰元として野洲
に置いたのじゃ、その源三郎も雪乃が好きだと申してのぉ~、これで二人が一緒になればと簡単に思い、
源三郎に雪乃を貰えと申したのだが源三郎は返事もしなかったのじゃ、じゃがのぉ~、この時、げんたが
城に来たのじゃ、まぁ~其れは何時もの事なので何も問題は無かったのだ。
げんたは雪乃が源三郎を慕い、源三郎も雪乃が好きだとこの時に見抜いたのじゃ。」
「えっ、正かその様な事までも。」
「上田殿、その正かですぞ、私も雪乃も、ましてや源三郎もその様な口振りもしておらぬのにじゃ、雪乃
が後に申しておった、げんたと言う子供は恐ろしいと、私はあの時の目が何とも恐ろしかったかと、まる
で心の中を見られて要る様ですと、余もあの時は唖然とした。
余は何も申してはおらぬ、だがげんたは五才の時から城下の小間物屋で他人の目を見て覚えたので有ろ
う、その様なげんたに我々は決意しましたとは簡単には申すならば直ぐ見抜かれ、仮に其れが誠で有った
としてもじゃ、げんたに半時も注視され少しでも心の動きに不審が有れば見抜かれ全てが失敗すると言う
事なのじゃ。」
野洲の殿様も源三郎やげんたに負けず劣らず大芝居が出来る様になったと、傍で話を聴いて要る源三郎
は思うが、今は大嘘でも良い藩主達が本気になれば大噓話しも、後々、大笑いの種になったとしても全て
結果良ければ良いので有る。
「野洲殿、私はまだげんたと申される技師長の事は知りませぬが。」
「其れも仕方御座いませぬが、源三郎をこの役目に就かせた時、源三郎は浜に参り浜の元太と言う漁師に
付近に洞窟は有るかと聞き、元太と言う漁師はこの付近には十数か所も大きな洞窟が有ると、其の時源三
郎は食料をこの洞窟に隠す事を考え、まぁ~工事も進んだが問題は洞窟内の海の深さやその中に有る岩を
取り除かねば舟が底の岩に当たり壊れる、だが海の底をどの様にしても見る事は出来ない。
其れでじゃ、城下で小間物屋のげんたに目を付け、げんたに海の中で息が出来る様な道具を作ってくれ
とこれだけの話だが、皆様方は其れだけの話で一体どの様な物を考えられますかな。」
「いゃ~、私は全く考えも付きませぬ。」
「私もで海の中を見ると言うだけでも理解が出来ぬのに、海の中で息が出来る道具と申されましても全く
想像すら出来ませぬ。」
「菊池殿、上田殿、源三郎がげんたに言ったのは、海の中で息が出来る道具、其れをげんたが作ったので
すぞ。」
「其れが先程申されました潜水具なのですか。」
「はい、その通りでして、勿論、げんたは試行錯誤と失敗の連続で、其れでもげんたは何としても作るの
だと言う職人魂に火が点き要約完成し浜で試したと、浜の洞窟には銀次と言う島帰りの者達が源三郎を命
の恩人だと、最初の頃から洞窟の掘削を行なって要るが、彼らが潜水具を着け、海の中に入ったが陸の上
と同じ様に息が出来ると、げんたと言う技師長はその様な物を考え作るのです。
私も源三郎から話しを聞いた時には誠信じる事が出来なかったのです。
だが事実としてげんたが作った潜水具のお陰で海の底に有る岩は取り除かれたと、げんたと申す技師長
はそれ程の男なのですぞ。」
菊池、上田の藩主も松川、山賀の若殿もげんたの余りにも凄さに驚きを通り越し、声も出ずに要る。
だが、今は藩主達に完全に理解させなければ国に戻り家臣達に理解させるだけの説明は出来ず、理解せ
ずに浜に来る様な事にでもならば、其の時には其れこそ今度は取り返しの付かない事になる。
今は時を掛け、日数を掛けてでも藩主達には理解させる、其れが結果的には早く前に進むのだと野洲の
殿様は考えたので有る。
「皆様方、少しでも理解出来ぬ事が有れと思われたので有れば源三郎にお聞き下されば良いかと思いま
す。」
「義兄上様、潜水船は何日で造れるのでしょうか。」
松之介は潜水船の事を心配している様子で、だが其れはまだ本当に理解していないので有る。
「私は潜水船が何日で完成するのかは全く知りません。
ですが、その前に何故この様な事態になったのか其れを理解せねばなりませぬ。
今のげんたは侍を全く信用しておりませぬので。」
「義兄上様、技師長の家の前に。」
「あの者達は吉川と石川と申しまして、今、げんたが一番信頼して要る者達で其れがあの状態でげんたは
二人に帰れと、あの二人がどれ程まで苦労したのか其れも分からずに最初の者達は何も持たず、更に、あ
の様な暴言を、果たしてげんたで無くても信頼は出来ぬと思うのでは御座いませぬでしょうか、吉川と石
川はもう二日以上家の前に座って要ると思いますが、先程の様子では全く話しも出来ない状況だと思うの
で御座います。」
源三郎は雪乃と加世、すずが二人の着替えを持って行ったと知って要る。
僅かな事でも二人は気持ちが少し楽になると、其れに二日間も何も食べず飲まずとは無かったはずで、
其れはげんたの母親が居るので安心して要る。
「今の連合国ではげんたの手伝いが出来るのはこの浜の人達と吉川と石川だけなのです。
その一番大切なげんたと浜の人達を怒らせたのですから簡単には解決出来ないと、私は思って要るので
御座います。」
「源三郎、雪乃と加世、すずの三名が浜に参ったのは何用でじゃ。」
「殿、雪乃殿も事態の重大さを認識されておられ、何とかせねばと思い参ったのでしょうが、その雪乃殿
でもげんたを納得させられなかったとのだと思います。
皆様方、今は潜水船の建造よりも事態がどれ程重大な局面になって要るのか、其れを認識出来なければ
幾ら口先で納得した、理解したと申しましてもげんたは直ぐ見破ります。
井坂殿の話では官軍は異国の軍艦を買うと、その様にでもなればもう幕府の壊滅は決定的だと申し上げ
ます。
問題は幕府軍の生き残りと官軍の軍艦で皆様方もご存知の様に、我ら連合国は高い山と海に守られてお
り、軍隊が高い山を越えて来るのは困難だと、では海はと申しますと海からの侵入が今最大の脅威で、そ
の脅威から守る事の出来る可能性が有るのが潜水船と言う訳で何度でも申し上げますが潜水船の建造より
も今の事態を認識する事の方が最優先では御座いませぬか。」
「源三郎殿、では我々の認識がまだ甘いと申されるのか。」
「菊池様、其れに皆様方には大変失礼だと承知致しておりますが、今菊池様が申されました通りで、まだ
認識が甘いとしか申せませぬ。」
「何故、その様に思われるのでしょうか、私は認識しておりますが。」
「上田様、確かに少しは認識されたと思いますが、雪乃殿が申されておりました。
私はげんたの目が恐ろしいと、あの目で半時もせぬうちに心の中まで見抜かれて要る様だと、それ程ま
でにもげんたは鋭いと言う事なのです。」
「其れは、げんたがまだ物心が付かない内から大人の世界の荒波に。」
「その通りで御座いまして、我々の認識を遥かに超えており、其れが潜水船と言う誰もが想像出来ぬ船を
造ったので御座います。」
「う~ん、正しく敵に回しておれば、う~ん其れを考えるだけでも恐ろしい人物ですねぇ~、我々連合国
の一員で良かったのですねぇ~。」
「はい、確かにげんたは間違い無く我が連合国の一員で御座います。
ですが、皆様方の認識が甘い為に今回の様な事態を招き起きたと申し上げて置きます。
其れに、今の状態では我々がげんたに見放されますよ。」
「えっ、ではげんたが、いや技師長は何処かに。」
「いいえ、その様な事は無いと思いますが、げんたの頭の中には浜の人達だけでも守る為にと、其れはも
うどれ程にも恐ろしい策を考えるやも知れませぬ。」
「浜の人達だけを守ると、ではその様な事にでもなれば連合国は。」
「はい、菊池様のお考え通りで御座います。
其れに私が見ておりましても皆様方にはまだ悲壮感が現れてはおりませぬ。
今の状態ではげんたに嘘は通用致しませぬので。」
菊池も上田の殿様も、そして竹之進も松之介にもまだ悲壮感は現れていないと、それ程にも今の状況は
切迫して要るので有る。
連合国は高い山と海に囲まれ連合国以外の土地で起きて要る大きな事件、いや、大戦争が殆ど伝わら」
ず、その為に連合国内の領民もだが、其れ以上に藩主達に危機感が無い。
だが、現実には高い山の向こう側では大小の戦が起き、その為に民衆は逃げ惑い幕府軍と官軍との壮絶
な殺し合いが行なわれ、其れは民衆を巻き込んでの戦なので有る。
その頃、田中は長崎に居た、長崎の造船所の建設は今正に終わり、官軍は軍艦の建造を開始して要る。
田中は造船所を真近くでは見れず、裏山に登りじっくりと観察を始めたので有る。
あの時、出会った官軍の参謀長と言う人物は果たしてこの近くにいるのだろうか、今は下手に参謀長へ
会いに行く事も出来ず、其れに下手に動けば参謀長に目的が知られると思い田中は造船所の規模だけを確
認すると野洲への帰路に入り、帰路は軍艦が向かうだろうと思われる海辺を進む事にしたので有る。
田中が得た情報は連合国の重臣達が行天する程で、井坂が話した内容と同じで有り、連合国の重臣達が
何時決断するのか、其れは今源三郎達が協議して要る最中で田中が帰国する前なのか、帰国した後の報告
後に決断するのか、何れにしても余談を許さない状況に有る事だけは間違いは無い。
一方で源三郎達がお城に戻り始め、全員の姿が見えなくなるのを加世が見届けると。
「吉川様、石川様、皆様方のお姿が見えなくなりました。」
「はい、有難う御座います。」
「なぁ~吉川さんに石川さん、オレは今から参号船を造ろうと思うんだけど手伝ってくれるかなぁ~。」
「はい、勿論で喜んでさせて頂きます。」
「じゃ~船の図面と鍛冶のあんちゃんには歯車を作ってくれって言って。」
石川は直ぐ隣の作業場に入ると。
「石川さん、オレ達もげんたの言葉を待ってましたよ、じゃ~やりますかねぇ~。」
「はい、お願いします。」
もうこの時には鍛冶屋は既に鉄の板は作っており、今からは弐号船と同じ歯車を作る為に削るのだと。
「加世様、すず様、あれがげんたなんですよ、げんたはねぇ~どんな事が有っても源三郎様を困らせたく
は無いんですよ。」
「はい、私も源三郎様や雪乃様が困られるお姿だけは見たくは御座いません。
其れにしてもげんたさんはよ~く観察されておられますねぇ~。」
「すず様、あの子は誰が見ても子供ですよ、でもあの子はねぇ~源三郎様と出会ってから人間が変わりま
したよ、この人は信用出来ると分かればどんな事が有っても裏切る様な事は有りませんからねぇ~。」
「其れに大変な苦労をされて要ると、私は見えたのですが。」
「加世様、あの子は今何をしても苦労して要るとは思って無いんですよ、だってあの子の眼は輝いていま
すからねぇ~。」
「はい、私もげんたさんがこの浜の人達にって言われた時の眼は光り輝いて要る様に見えたのです。」
「ええ、そうなんですよ、げんたはね城下で小間物屋で品物を作って要る時よりも今の方が生き生きとし
てますからねぇ~。」
やはり其処は母親だげんたの心境も理解して要る。
其れよりもげんたはどんな事が有ったとしても途中で投げ出す様な子供では無いと、其れだけは自信を
持って言えるので有る。
「吉川さんと石川さん、さぁ~行きますよ。」
「えっ、何処にですか。」
「洞窟へだよ、だって今から参号船を造るんだぜ。」
吉川も石川も何故だか久し振りに嬉しかった、其れと言うのも殿様達が理解出来様が、出来なかろうと
その様な事は今のげんたには全く関係が無い。
其れは源三郎が殿様達に色々な話をして要るだろうと考えたので有る。
三人は小舟に乗り洞窟へと向かった。
「お母さん、げんたさんは吉川様と石川様を信頼されて要るのですね。」
「そんなのは当たり前ですよ、だって、部屋を見られて分かったと思いますが、げんたが話した事を書い
た紙ですが、あのお二人は時々夜が明けるまで書き直して要るのを、私は何度も見ていますし、げんたも
知ってるんですよ、だからげんたはそんな明くる日は無理な事はしませんよ、でもねぇ~、あのお二人は
必死なんです。
そんな事は浜の人達だったら誰でも知ってますよ。」
「そんなにされて要るとは私は知りませんでした。
ただ、書き写して要るだけだと、でもあれだけの物を書くだけでも大変だと思いました。」
「加世様、すず様、お二人も今は輝いて要る様に私は見えるんですよ。」
母が見るのと加世とすずが見るのでは大違いで、母親は最初から知っており、だが、加世とすずは今だ
けの事しか知らない。
ただ、話しを聞き、部屋に置いて有る書き物、其れだけでも十分に理解はして要る。
「技師長、ですが、潜水船を燃やされたのでは。」
「なぁ~石川さん、オレがあんな事ぐらいで潜水船を燃やすと思うのか、潜水船はねぇ~大工さんや鍛冶
屋さん、其れに銀次さん達に元太あんちゃん、この浜の人達が一生懸命に造ってくれたんだぜ、何でオレ
が燃やせると思うんだ。」
「では、あの煙は。」
「あんなの簡単だって、松明の三本も入り口付近に持って来れば煙は外に出るんだぜ。」
「やはりでしたか、私は潜水船を苦労して造ったのですから、でもねぇ~一時は正かとは思いました
よ。」
「オレだって馬鹿じゃないよ、まぁ~其れでも殿様達は驚いたはずで、あれもオレの作戦かなぁ~。」
げんたが漕ぐ小舟はやがて洞窟へと入って行き。
「お~げんたか、まぁ~其れにしても遅かったなぁ~。」
「親方、オレにも都合が有って、あんちゃん達の姿が見えなくなるまで待ってたんだ。」
「其れでどうだったんだ、源三郎様は驚いたのか。」
「いゃ~あんちゃんの事だ、オレが本気で潜水船を燃やすなんて事はしないと思ってるけど、他の殿様
達は其れはもう驚いてたよ。」
「其れは当たり前だよ、十本の松明を入り口に持って行ったんだからなぁ~、まぁ~其れにしても悪知恵
が働くもんだなぁ~。」
「親方、だってこの潜水船はみんなの力で造ったんだぜ、そんな大事な潜水船オレが勝手に燃やせる事な
んか出来ないよ。」
「うんそうだ、其れがげんたのいい所なんだ。」
「ねぇ~親方、参号船を造りたいんだけど。」
「わしも、まぁ~そんな事だろうと思ってな、一度に二隻が造れる様にと思ってな、船台をもう一台作り
始めてるんだ。」
「えっ親方、一度に二隻も建造出来るのですか。」
「吉川さん、わしら大工は同時に造れるんですよ、船体は大工の仕事でね、鍛冶屋さんが作った風車型と
水車型の取り付けはげんたと銀次さん達がするんですよ、まぁ~其れでも一番難しい所はげんたの仕事だ
けど、でも、銀次さん達が出来るところは作りますんでねぇ~。」
浜の大工達と銀次達は早くから分業で潜水船を造っており、大工達は親方の指示で担当を決め、銀次達
も親方の指示で作業を進めて要る。
だが、一番日数を要するのが鍛冶屋の仕事で、だが其れも親方は承知しており、其れが一度に二隻を並
行してして造ると言う考えになったのかも知れないので有る。
「なぁ~げんた、参号船だけど同じ大きさでいいのか。」
「うん、其れでオレは参号船が出来てから次の事を考え様と思ってるんだ。」
「よ~し分かったよ、其れでわしらも考えたんだがいいかなぁ~。」
「親方、何を考えたの。」
「まぁ~其れが一応弐号船と同じなんだが、わしらは船体部分を少しだけなんだが細くして後ろの部分な
んだが、前と同じ様にしたらって考えたんだがなぁ~。」
大工の親方は同じ大工の仲間達と相談し、前後を同じ様にし、船体部分を弐号船よりも少しだけ細くし
たいと言うので有る。
「ねぇ~親方、何か訳でも有ると思うんだけど。」
げんたも少しの改良は必要だと思っており、船体部分を少しでも細くする事で進む速度も少しは変わる
だろうと、だが少しと言っても細くすれば乗れる人数も限られて来る、其れでも試しに造らなければ潜水
船の完成度は上がらないので有る。
「技師長、私も親方の申されておられます様に船体部分を少し細くし、船尾を船首と同じにするだけで進
む速度が変わって来るとは思うのですが。」
「吉川さん、オレも何かの改良は必要だと思ってはいたんだ、そうだなぁ~親方の言う様に今は試しに造
らないと良くも悪くも分からないから、じゃ~親方に任せるよ。」
「げんた、有難うよ、じゃ~みんな始めるぞ~。」
「お~。」
大工さん達が考えた方法を試す事になり、大工さん達は一斉に工事に入った。
「吉川さんと石川さん、船体部分の外側が出来たら絵を書いて寸法も書いて欲しいんだ。」
「はい、承知しました。
技師長、其れで私も考えていたのですが宜しいでしょうか。」
「うん、いいよ。」
「はい、其れで船腹の水車型なのですが、これも少しですが改良が出来ればと思うのです。」
石川も吉川も弐号船を見て改良部分は無いか、有るとすればどの部分が改良出来るのか日頃から考えて
要るので有る。
其れはげんたも同じだが、石川の提案した改良部分とげんたの考えた方法は、果たして一致するのだろ
うか。
「うん分かったよ、じゃ~石川さんの書いた絵を見せてくれる。」
「はい、実は之なんですが如何でしょうかねぇ~。」
げんたは石川の書いた絵を見て。
「わぁ~これはオレと同じだよ、じゃ~石川さんこの部分を詳しく書いて親方に話してよ、きっと親方も
賛成してくれると思うんだけど、まぁ~造る大工さん達は少し大変だけど、オレは大賛成なんだ。」
今はげんたが一人で考えるので無く、大工達も銀次達も含め誰もが一緒になり改良する所は無いか考」
え、其れをみんなが協力し造り上げて行く。
げんたが浜の人達の協力で潜水船が造られて要ると、其れが今の様な方法で造られて要るので有る。
だが、その様な方法を取って要るとは殿様方は誰も知らない。
確かに最後の判断はげんたに負かされており、げんたも今の方式で改良出来るので有れば参号船も単な
る試作船で四号船も試作船となる可能性が有る。
其れでもその様な積み重ねがより完成度の高い潜水船が造られて行くので有る。
其れはこの浜の人達だけが知る事で他国では一体どの様な方法になるのか、今は誰も分からない。
「其れで吉川さんと石川さんにお願いが有るんだけど。」
「はい、我々に出来る事ならば。」
「うん、じゃ~今まで弐号船の図面と寸法、其れと造り方を書いてくれてたと思うんだけどね、其れを今
の内に整理して欲しいんだ。」
「私達も出来ればと考えておりましたので、承知致しました。」
「うん、其れでね余計な仕事になると思うんだけど寸法も絵も弐号船を測って書いて欲しんだ、其れで造
り方はね二人が書いた通りでいいんだ、分からなかったら聴いて欲しんだけど。」
「ですが、総司令が何時来られるか分かりませんが。」
「まぁ~いいんだ、だって、殿様達に理解させるまではまだ日数も掛かるし、其れを国のお侍に話をする
と思うんだ、でも其れだけでもオレは十日以上は掛かると思ってるんだ。」
げんたは源三郎の事だ何度も何度も詳しく話し、殿様達が理解出来なければ、仮に国に戻り家臣達に理
解が出来る様な話も出来るはずも無く、今は何としても殿様達に理解させなければならないと、其れには
相当な日数も掛かるだろうし、源三郎が浜に来れるのは其れらの全てが終わってからだと思って要る。
「では、其れまでに書き上げれば宜しいでしょうか。」
「まぁ~其れが一番いいと思うんだけど、別に全部が出来なかってもいいんだ。」
げんたも簡単には書き上げる事は出来ないと思って要る。
「技師長は書き上げた書き物をどの様にされるのでしょうか。」
「オレは別に深くは考えて無いんだ、ただ、吉川さんと石川さんがこれだけの物を書いたんだと言う事
と、其れと次の人達が来た時の参考になったらと思うだけなんだ。」
「ですが、仮に書き上げた書き物だけでは潜水船は造れ無いと思いますが。」
やはり吉川も分かって要る。
幾ら書き物で残したとしてもその書き物だけで潜水船は造れたとしても、重要な部分は全くと言っても
良い程分からず作り方はげんたの頭の中に有る。
その部分が造れなければ潜水船は海中に潜るどころか海底に沈み二度と浮上出来ないので有る。
「潜水船は潜らないと沈むと言うんでしょう、だって、一番難しい所は言って無かったと思うんだ、だか
ら潜水船は出来たけど試すと沈んでまぁ~浮き上がって来ないよ。」
げんたは何故其れまでするのだ同じ教えるならば重要な部分も教えるべきでは無いのか、其れでも沈む
と言うので有れば造り方に問題が有るのだ考える吉川と石川で有る。
「技師長は教えるだけならば誰にでも教える、だけど造る時には微妙な部分は作り手が考えなければなら
ないと申されるのでしょうか。」
「うんそうなんだ、だってオレもその部分が出来るまで何回も失敗してるんだぜ、だから其れをオレが
言っても無理なんだ、全部造る人達が考えて造らないと出来ないんだ。」
げんたが考えた空気の取り入れ口がその一番良い例で、げんたは髪の毛一本の隙間と簡単に言ったが、
其れは簡単に作れる物では無い。
空気の取り入れ装置が完成するまでに何十、いや、何百回と組み立てては外し、また組み立て試しの方
法もげんたが苦労して考えた、其れが簡単な説明だけで作れるとは吉川も石川も考えてはいない。
「吉川さんと石川さん、オレは簡単に潜水船は造れないと、殿様達に知らせたいんだ、だけどオレは別に
意地悪しようとはかんがえて無いよ、でもねぇ~オレは絶対に自信が有るんだ、オレが考えて造った物は
簡単には造れないってね。」
何れは各国から大工や鍛冶屋も来るだろう、だが、果たして親方や鍛冶屋がそんな簡単に教えるだろう
かと思う吉川で有る。
「技師長、でも何れの日にか分かりませんが、大工さんや鍛冶屋さんが来ると思いますが、如何でしょう
か。」
「まぁ~お互いが同業だから教えるとは思うけど、オレは簡単には造れ無いと思うんだ、だって親方も鍛
冶屋のあんちゃんだって苦労したんだぜ、其れが簡単に造られたら、親方もだけど大工さん達や鍛冶のあ
んちゃん達の面子は丸潰れになるんだからなぁ~。」
「う~ん確かに技師長の申される通りですねぇ~、其れにこれは殿様方よりも大変な事になりそうに思い
ますねぇ~。」
「うんそうなんだ、本当は殿様達は問題無いと思ってるんだ、其れは殿様が造る事なんか考えられないん
だ、浜だってあんちゃんも無理だし、正かあの殿様が造ると言ってもオレは絶対に嫌だって断るからなぁ
~。」
「技師長、正直に申しますと、殿やご家老様が来られますと我々も仕事が出来ませんので。」
げんたも吉川も大笑いするが、其れが本音で有る。
「オレは戻るから、一緒に。」
げんたと吉川、石川の三名は洞窟を出、浜に戻り、吉川と石川は隣の部屋に入り今まで書き写したもの
を整理し書き直しを始めた。
一方、お城では。
「のぉ~源三郎、如何じゃ、一度皆が戻り別々で話し合って頂くと言うのは。」
野洲の殿様はこの場で何度説明しても時の無駄だと思ったのか、全員が国に戻り改めて自国で討議して
はと考えて要る。
「はい、私も今同じ事を考えておりまして、皆様方には一度帰国して頂きまして、自国の農民、漁民、其
れと町民がどの様に思って要るのかを聴かれ、其れから討議されては如何と考えておりますが、如何で御
座いましょうか。」
「はい、私も一度頭を冷やし考え直す様に出来ればと考えておりましたので。」
菊池の殿様はあの時、城内、城下を問わず山の向こう側から来る農民達を助けたと、その時から高野が
農民達や城下の者達と積極的に話をする様になり、高野へはあの時の農民や町民達に話を聴く様に指示を
出していた。
「野洲様、私も一度戻り農民や町民達から話を聴く様に致したいと思います。」
「其れは誠に良い事で御座いますので、何卒宜しくお願い致します。」
だが、果たして農民や町民達が源三郎が言う様な危機感を持って要るのだろうか、其れでも山の向こう
側から来た農民達を交え話を聴く様にする事で急展開する事も有ると源三郎は考えたので有る。
そして、殿様方は自国へと戻り、げんたは参号船の建造に取り掛かり、七日が経ち、十日が経過した
頃、ボロボロの僧衣を纏った男、其れとは別に数人の侍が馬に乗り野洲のお城へと向かって行く。
僧衣を纏った男が大手門に近付くと。
「あの姿は若しや田中様では。」
「うんそうだよ、間違いは無い、ボロボロの僧衣姿は正しく田中様だ。」
大手門の門番達も以前の事を覚えて要る。
「私は。」
「若しや、田中様では。」
「はい、田中直二郎です。」
「やっぱり田中様だよ、誰か源三郎様に。」
門番が言った時には既に別の門番が源三郎の居る執務室へと走っていた。
「田中様、源三郎様は執務室に居られますので。」
田中はその姿のまま執務室へと向かった。
「源三郎様、只今、田中様がお戻りになられました。」
「えっ、田中様が無事戻られたのですか。」
「はい、間違いは御座いません。」
「貴殿に申し訳有りませんが。」
「はい、お殿様にですね、其れと雪乃様にもで御座いますね。」
「はい、その通でお願いしますね。」
門番は大急ぎで殿様と雪乃に知らせるべく走った。
「源三郎様。」
「田中様、良くぞご無事でさぁ~こちらへ。」
田中の姿に執務室に詰めている他の家臣達も安心した様子で、だが執務室には先程馬で追い越して行っ
た中には殿様方と吉永や斉藤に阿波野も居り。
「総司令、このお方は。」
「私の配下で田中直二郎様と申されますが、闇の者とも申します。」
「えっ、ではあの時の。」
松之介は話には聞いており、源三郎には闇の者と称する者達が要ると、だが今初めてその存在を知るの
で有る。
「はい、あの時山賀の殿様と鬼家老の枕元に居た者に間違いは御座いませぬ。」
「では、やはり闇の者と申されるお方が源三郎様の配下に居られたのですか。」
菊池の殿様も上田の殿様も話だけで、その様な人物などはいないと思っており驚きの表情で有る。
「はい、誠その通りで、田中様が集められました情報は我々連合国に取りましては聞き逃す事の出来ない
重要な内容が多く御座います。」
「源三郎、田中が戻って来たと。」
殿様とご家老様が息を切らせて飛んで来た。
「誰か、雪乃を。」
その時、雪乃も入って来た。
「お~雪乃、田中が無事に戻って来たぞ、直ぐ湯殿へ。」
「殿、何時でもお入りになられますので。」
「何じゃともう準備は終わっておるのと申すのか、のぉ~雪乃、少しは余の楽しみを残してはくれぬ
か。」
殿様も雪乃の事だ何時でも準備だけは出来て要ると分かっており、苦笑いをしている。
「殿、只今、田中直二郎、戻って参りました。」
「良かったのぉ~無事に戻り、源三郎が大変心配しておったぞ、田中が消えたと。」
「はい、大変なご心配とご迷惑をお掛けし申し訳御座いませぬ、今から源三郎様に。」
「田中様、その様な事は後でも宜しいかと、先に湯殿に行かれさっぱりとされては如何でしょうか、私は
逃げも隠れも致しませぬのでねぇ~。」
源三郎と田中の会話を聞いて要る菊地と上田の殿様は田中と言う人物の存在は大きいと、それ程までに
も田中の集めて来る情報とは一体どの様な内容なのか早く知りたいと思うので有る。
「雪乃様、何時でも宜しいかと。」
「加世様、田中様を。」
「はい、では、田中様。」
加世が田中を湯殿に連れて行く。
「雪乃殿、有難う御座います。」
「いいえ、私は何も加世様とすず様が全ての手配をされましたので。」
「皆様方、只今、田中様が戻れましたが、何処でどの様な情報を得られたのか、其れは田中様が湯殿から
戻られてからお話しを伺いますので、其れまでは少しゆるりとされては如何でしょうか。」
「ですがその前に。」
「まぁ~まぁ~菊池様、何も此処まで来て急がずとも、私は皆様方の眼を見て全て分かっておりますの
で。」
「義兄上、何が分かったので御座いますか。」
「若殿、皆様方が国に戻られ、真剣に討議をされたと顔に書いて御座いますので。」
竹之進は慌てて顔を触るので野洲の殿様も他の殿様方も大笑いするので有る。
「皆様方の表情が以前とは全く違い、其れはどれ程の時を掛けられたのか、私は想像出来ますので何も考
える必要も御座いませぬ。」
「源三郎殿、私は高野と農村に向かい山向こうの農民達に話しを聞きましたが、山向こうでは辺り一面が
戦の状態で、其れは農村、漁村を問わず幕府軍と官軍が其れに同調したのか野盗までもが農村、漁村、其
れに城下まで襲い、女子は犯し無差別の殺戮で多くの人達が巻き込まれ犠牲になって要ると聴きまし
た。」
「はい、其れが今の現実だと思っております。
其れで我々連合国に取りましては相手が幕府軍か官軍は問題では御座いませぬ。
我々、連合国に攻撃をする者は、例え如何なる理由が有れども関係は無く、私は全てを敵と見なし、反
撃し、全てを撃破しなければなりませぬ。」
今日の源三郎は何時もの口調では無いと野洲の殿様は思って要る。
「義兄上、では以前申されておられましたが海上からの攻撃に対してでしょうか。」
「勿論です、現状から申しますと大軍で山越えすると言うのは無理が生じると考え、私は海上の防備を固
めなければと思っております。」
源三郎は野洲に帰国した田中が急ぐ事も無く、湯殿に向かったのは山の向こう側には幕府軍も官軍の大
軍が発見されておらず、其れならば官軍は海上を井坂の言った様に佐渡へと向かうと判断したので有る。
暫くして、雪乃と加世、すずがお茶を持って来た。
「源三郎様、間も無、田中様が湯殿を出られますので。」
「はい、分かりました、其れで田中様のお食事は。」
「はい、でも先にご報告を致しますと申されましたので、今日の昼餉の時に皆様方とご一緒にお出してさ
せて頂きますが、如何でしょうか。」
「はい、ではその様に手配をお願いします。」
雪乃と加世、すずは部屋を出て行き。
「今、お聞きの様に間も無く田中様が来られますので、今暫くの間お待ち願います。」
殿様方はお茶を飲みながら暫く待つと。
「源三郎様。」
湯殿で偵察任務の汚れを落とした、田中がさっぱりとした顔で現れた。
「田中様、大変お疲れのところ誠に申し訳御座いませぬ。」
「いいえ、その様なではご報告させて頂きます。」
田中は今までに行った現地の状況を詳しく話した。
源三郎も今日集まった殿様方と随行の者達も真剣な眼差しで聞いており、説明の間殿様方はと言うと驚
きの連続で、時には声も発し、時には余りにもの悲惨な状況に表情も暗くなり、田中の集めた情報とは其
れ程にも幕府軍と官軍の戦は凄まじいのだと言うので有る。
田中の集めた情報の説明は半時、いや其れ以上の時を掛け無ければならず、田中の説明が終わる頃には
昼を遥かに過ぎたので有る。
「田中様、井坂と言う人物ですがやはり官軍を脱走したと思って間違いは無い様ですが。」
「はい、あの時、官軍の参謀長と申されます方に入った情報では四十七名は捕まり、残りの三名だけがま
だ行方不明だと。」
「ですが、私はその内の二名を狼の餌食に、其れで残りの一名が井坂と申します人物だと。」
「田中様、その参謀長と申されます人物ですが、捕らえた脱走兵の処罰に関して何か申されておられまし
たか。」
松之介は脱走兵の処罰が気になるのだろう。
「はい、確か兵士達の前で全員が銃殺刑だと。」
「ですが、理由も聞かずにでしょうか。」
「私は其れまでは聴く事が出来なかったので御座います。」
官軍とは正規の軍隊では無いのか、理由も聞かず他の兵士達の眼前で銃殺刑を行なうとは、やはり他の
兵士達への見せしめに行うのか、其れでは余りにも非道では無いのか、源三郎の中に官軍に対する不信感
が出て来たので有る。
「参謀長と申されます方ですが、何か変わったところは無かったのでしょうか。」
「はい、先程も申し上げましたが、長崎の造船所に向かい兵士達の訓練を行なうのだと。」
「訓練と申されますと大砲の撃ち方でしょうか。」
「私も余り詳しく聞く事が出来なかったので御座います。」
「では、長崎の造船所で軍艦を建造するのは間違いは無いとして、何隻くらいの予定か分かりませ
ぬでしょうか。」
「源三郎様、あの造船所を見た時、私は十隻、いや二十隻は建造出来ると思っております。」
「えっ二十隻もですか、其れにしても軍艦を二十隻も建造して一体何処を攻めると言うのでしょうか。」
集まった殿様方もだが、随行の吉永達も官軍の恐ろしさに唖然とした表情で有る。
何故二十隻もの軍艦が必要になるのか誰もが考えるが、今の連合国では誰も理解出来ないので有る。
「其れは私も分かりませぬが、参謀長は幕府の中心部に向け一斉攻撃する様な話をされておられました。
ですが幕府も軍艦に大砲を積み込みを始めたとか。」
「では、幕府軍も官軍に対して攻撃を開始するのでしょうか。」
「はい、其れは私の推測ですが数隻の軍艦が北に向かうと思うので御座います。」
「北に向かうと、其れは参謀長が申されたのですか。」
「いいえ、参謀長付きの兵士が北に向かう様な話を他の兵士同士の会話で御座いました。」
「田中様、井坂と言う人物の話ですが、佐渡に向かい大量の金塊を奪いその金塊で異国の軍艦を購入する
と言う話しも間違いは無い様ですねぇ~。」
井坂はやはり官軍の脱走兵で井坂が入手した話では佐渡で大量の金塊を奪い外国から最新の軍艦を購入
すると言うのはどうやら本当の話だと分かったので有る。
「ですが、私は其れまでは聴く事は出来なかったのですが、でも参謀長は何故か急いでいる様子でして、
源三郎様、では金塊を奪う為の訓練と言う事になるのですねぇ~。」
「まぁ~その様になりますが、問題は官軍の軍艦が何処を通過するかです。
私は軍艦がどれ程の大きさかは分かりませぬが、幾ら巨大な軍艦だとしましても兵糧を大量に積み込む
事は出来ないと考えております。
では、その兵糧を一体何処で確保するのかと、其れが一番の問題だと考えております。」
「源三郎殿、その兵糧ですが、乗り込む兵士達の人数にもよると思いますが、何処かの浜に上陸しなけれ
ば調達は出来ないと考えますと、何処の浜に上陸するのか分かれば我々としましても何らかの対策が考え
られると思うのですが如何でしょうか。」
「源三郎様、井坂と言われる人物だけが生き残っていると官軍は知って要るのでしょうか。」
「いいえ、多分ですが、三名の兵士は途中で幕府軍に捕らわれ、幕府の調べ、いや拷問に掛かり官軍が佐
渡で金塊を奪うと言う情報が入れば幕府軍も佐渡の守りと固めると思いますが、三人の内、二人は狼の餌
食に一人だけが生き残って要るとは知らないとなれば、あっ、そうでした、参謀長が兵士の訓練を行なう
と思うのですが、如何でしょうか。」
「田中様、兵士の訓練と申されましたが、官軍は軍艦の建造を急ぐとは思いますが幕府軍は何も知らない
となれば官軍の軍艦は数隻も有れば、其れに佐渡の警護に就いている侍達は。」
「はい、あの時、参謀長を迎えに来ました兵士も火縄銃では無かったので官軍兵が何かの特別な訓練でも
受ければ、佐渡の守りに就いております侍達は簡単に排除する事は可能かと存じます。」
「皆様方、今お聞きの通りで官軍は数隻の軍艦で佐渡に向かい大量の金塊を奪い、その金塊で異国から
新型の軍艦を購入するする事は決定的だと思います。
若しも、若しもですが数隻の軍艦が食料と飲料水の調達の為に松川から菊池までの海岸に上陸する様な
事にでもなれば、浜は勿論ですが農村も城下に有る全ての食料を略奪する可能性が非常に高いと思います
が、如何でしょうか。」
「う~ん、若しもその様な事態にでもなれば大変な事に、其れよりも下手をしますと我々も幕府の一員だ
と見られ連合国の武士は連発銃で簡単に殺されるのは間違いは御座いませぬが、問題は領民をどの様な方
法で守るかと言う事になりますねぇ~。」
「上田様、今の我々では官軍兵の持つ連発銃に勝つ事は不可能で御座います。」
「となれば官軍兵の上陸を阻止出来るのは、やはり潜水船だけだと言う事になるのですか、私はどの様な
言葉を浴びせられたとしましても我慢致し、何としても潜水船を造って頂ける様にお頼み致します。」
上田の殿様もやっと理解出来、本気になったので有る、すると。
「源三郎殿、私もです、げんた、いや技師長には何としてでもお願い致します。
もうこの様な事態の時に私は殿様だと大きな顔は出来ませぬ。」
菊池の殿様もやっと本気になったので有る。
「田中様、長崎と言う地ですが、幕府軍の抵抗は如何でしょうか。」
「私は幕府軍と官軍が直接戦っている現場には遭遇致してはおりませぬが、薩摩と長崎に行く間にもその
付近一帯で大きな戦が有ったと思われるます証を見付けておりまして、私は幕府軍と官軍の関係無しに、
武士も兵士も数多く埋葬しましたが武士の殆どが連発銃で撃ち殺されたのは間違いは御座いませぬ。」
やはり、官軍の兵士達が持つ連発銃に武士の刀では全くと言っても良い程に歯が立たないと言うのだろ
うか、田中が見た光景から推測すると幕府軍は劣勢だと言う事になり官軍は軍備を増やし、尚も幕府軍に
攻勢を掛けるだろう、連発銃の威力と軍艦の建造、更に異国からは新型で強力な軍艦を購入すれば幕府の
落日は決定的だと、後は何処まで抵抗出来るのかそれだけの問題となって要る。
其れは連合国にも重大な脅威となり、何時連合国に対し攻撃に入るのかだけが問題で有る。
今の連合国は一刻でも早く潜水船を建造し、連合国の地に上陸するのを阻止する事が求められて要る。
「源三郎殿、私は今直ぐにでも浜に参り、技師長にお願いを致したいと思うのです。
この場で何時までも議論だけを続けておりましても前へは進みませぬ。」
菊池の殿様は今にも浜に行きそうな発言をして要る。
「分かりました、皆様方如何でしょうか、私も今が最後かと皆様方は何としてでも連合国の領民を守るの
だと言う気持ちを技師長に訴えて頂きたく思います。
田中様もご同行願いたいので御座います。」
「勿論で御座います。
私が直接見た事、聴いた事を技師長にお話しを致しますので。」
「義兄上様、今直ぐ参りましょう。」
「私も賛成で御座います。」
竹之進も松之介も今直ぐに行くのだと言った。
「では、皆様方、今から浜に向かいますので誰か馬の用意をお願いします。」
「総司令、全て整い何時でも参れます。」
鈴木は早くから馬の手配を行なっており、今は何の躊躇する事も無く、源三郎を始め全員が馬に乗り大
手門を出浜へと飛ばして行く。
一方、浜の洞窟では早くも船台に参号船の組み立てが行なわれ始め、大工達も参号船ともなれば要領も
分かり作業も早く、げんたは何も言わず親方の考えた方法を見て要る。
「う~んこの骨組みからすると、一尺、いや二尺分は細くなっている、之だったら船の速度も早くなる
なぁ~。」
潜水船の速度が速くなれば追い付く事も爆薬を仕掛け逃げるにも少しは楽になるだろう。
だが、果たしてどれだけの速度が上がるのか、其れは完成し試さなければ分からない。
「あれ~あれは確か源三郎様だよ、だけど一体どうしたんだろうか、其れに他にもお侍が何人も居るし
ねぇ~。」
げんたの母親が見たのは源三郎を先頭に連合国の殿様と随行の侍達で以前に来た侍達と同じ人物だ。
「お母さん、技師長は。」
「源三郎様、げんただったら今洞窟に行ってますよ。」
「どなたかげんたを呼びに行って頂き、浜に戻しで頂きたいのですが。」
「じゃ~オラが行きますから。」
「申し訳有りませんが源三郎が大至急技師長に会いたいと言って頂きたいのです。」
漁師は小舟に乗り洞窟へと向かった。
吉川と石川は源三郎が来た事を知り、表に出ると。
「総司令。」
「貴方方でしたか、其れで作業は進んで要るのですか。」
吉川と石川は大変な驚き様だ、本来ならば今は表に座って要るはずなのに何故だと思うだろうが、源三
郎は二人が家の中から出て来たのを見て直ぐに分かったので有る。
げんたは洞窟で参号船の建造に取り掛かって要る。
其れに吉川と石川は書き物の整理を行なって要るだろうと思ったので有る。
「はい、実は技師長の命で私達が書き留めました物を整理と潜水船の絵を描き、その寸法の記入を致して
おりました。」
やはりだ、源三郎の思った通りで有る。
「そうですか、では作業を進めて下さい。」
「はっ、はい、直ぐに。」
吉川と石川は大慌てで家に入った、暫くするとげんたが小舟で浜に戻って来た。
「あんちゃん、何か有ったのか。」
「そうなんですよ、実は先程田中様が長崎から戻って来られましてね。」
源三郎は田中も加わり長崎の造船所の話をすると。
「ふ~ん、じゃ~何かその軍艦がオレ達の浜に攻めて来るって言うのか。」
「いゃ~其れがねぇ~まだはっきりとはしないのですがね、官軍の井坂と言われる人物の話は本当でして
ね、其れで技師長、何とか潜水船の建造をお願い出来ないかと思いましてね、馬を飛ばして来たのです
よ。」
「技師長、我々武士はどの様な事になっても宜しいのです。
我々は領民までを巻き添えにはしたくは無いのです。
先日の失礼はお詫び致します、この通りです。」
菊池、上田、松川、山賀の殿様方は、今度は本気になったとげんたは殿様達の眼を見るだけで分かった
ので有る。
「もう済んだ事だからいいよ、お殿様、オレもバカだぜ、だって何も知らないお侍に対して本気になっ
て、オレはやっぱり子供なんだなぁ~。」
何と言う事だげんたの方が大人では無いのか、子供ながら早くも悟っている様にも見え、殿様達の方が
唖然として要る。
「なぁ~あんちゃん、多分参号船の事だと思うんだけど、もう洞窟で造り始めてるよ、其れとねぇ~、吉
川さんと石川さんだけどあの人達は悪くは無いんだぜ、オレが無理に頼んだんだから。」
「分かっておりますよ、其れに二人は何も申しては有りませんからね、其れで参号船ですが何か改良を加
えるのですか。」
「うん、そんなんだ、これはね親方からの話しなんだけどね船体部分を少し細くするって。」
「やはりそうでしたか、まぁ~この浜の皆さんの考え方は何とも素晴らしいですねぇ~、我々も見習う必
要が有ると思いますがねぇ~。」
殿様方も同行した田中も吉永達も頷いて要る。
「うん、そうなんだ、オレは親方も鍛冶屋さんもだし、其れに銀次さん達や元太のあんちゃんを一番頼り
にしてるんだ。
だって、もうオレ一人の頭じゃ~分からなくって来たんだ。」
「いいえ、其れは違うと思いますよ、其れは技師長の考え方が皆さんに通じて要るのだと、私は思います
がねぇ~。」
「なぁ~あんちゃん、其れよりもその軍艦の形って分かるのか。」
「えっ、軍艦の形ですか、私は全く分かりませんので、田中様、何か分かる様な事でも有りますでしょう
か。」
「いゃ~、其れが私も遠くの山の上から見ただけで大きさもはっきりとは分からないので申し訳有りませ
ん。」
源三郎もだが殿様方も含め全員がげんたの言った事が全く理解出来ない。
「技師長、今申されました軍艦の形とは一体どの様な意味でしょうか。
私は船の形と言うのは同じだと思っておりましたので。」
「うん、じゃ~簡単に言うとね、此処の漁船の形なのか、其れとも、う~ん何て言えばいいのかなぁ
~。」
げんたも説明に苦労して要る、其れはげんただけが分かっており、他の者達には全く理解が出来ないと
言う事なので有る。
其れと言うのも今まで大きな船を見た事が無く、連合国に有る舟と言えば漁師達が乗り漁に向かう小舟
だけで、それ程までにも連合国は外部とは全くと言っても良い程に閉ざされた国々の集まりなので有る。
「だったら、帆の形は。」
げんたの質問に田中は困った、突然、専門的な事を聴かれても、その時はただ大きな軍艦だとしか見て
おらず、船の形や帆の形と言われても全く分からないので有る。
「技師長、誠に申し訳無い、私は全くその様な事までは見ておりませんでした。」
「技師長、今の帆の形と言うのは。」
源三郎も初めて聞くのでさっぱり分からない。
「なぁ~あんちゃん、同じ帆掛けでも、一枚なのか、他に何枚か有るのかって言う事なんだぜ。」
「う~ん、私は全く分からないのです。」
源三郎は益々分からなくなってきたので有る。
「其れに異国の軍艦って、どんな形でどんな帆なんだ。」
「技師長、もう私はさっぱり分からなくなってきましたよ、申し訳有りません。」
田中もだが、其れよりも源三郎はもっと大きな衝撃で自分達は単に異国の軍艦だと言うだけで、だがげ
んたは其れよりも具体的な事を聴いて来るので殿様方にとっては全く遠い世界の話の様にも聞こえて来る
ので有る。
「なぁ~あんちゃん、オレはなぁ~絶対にこの浜には幕府の軍艦もだけど、官軍の軍艦でも入らせないか
らねぇ~、オレは絶対に入れないからなぁ~。」
「技師長、ですが、私が見ました長崎の造船所で造られて要る軍艦ですが。」
「オレは相手なんか関係無いと言ってるんだ、だってその戦って幕府軍と官軍の話なんだぜ、何でオレ達
の浜に来る必要が有るんだ。」
げんたは絶対に侵入させないと言った、では、潜水船以外に何か秘密の物でも考えて要るのだろうか、
源三郎はげんたの言った言葉が気になる、だが、今はその話を聴く事は無理なのだと。
「まぁ~あんちゃん、其れはオレが考えるから、其れより吉川さんと石川さんの事なんだけどなぁ~。」
「えっ、二人に何か。」
「あんちゃん、違うんだよ、オレは吉川さんと石川さんが居てくれて本当に嬉しいんだ、其れでね。」
げんたは吉川と石川には潜水船に関する図面と他の書き物を頼みたいと、其れはげんたは他の人達でも
造る事が出来る様にと考え、更に一番大事な部分も教えると言うので有る。
「げんた、では全てを教えると言う事なのですか。」
「なぁ~あんちゃん、オレは二人に任せて別の事を考えたいんだ。」
「えっ、別の事ですか、其れはどの様な事なのですか。」
「う~ん、其れはねぇ~、今はなぁ~誰にも言えないんだ、あんちゃんにもだぜ。」
げんたは一体何を考えて要る。
今は参号船を造る事の方が最優先では無いのか。
「技師長、今は参号船を造る事の方が最優先では無いのでしょうか。」
「まぁ~あんちゃん、そんなに心配する事は無いよ、だって此処のみんなは分かってるんだぜ、親方も鍛
冶屋のあんちゃん達もねぇ~、オレの考えてる事は銀次さん達もげんたは一番難しい所でいいよって。」
浜の人達はげんたが潜水船造りに必死に取り組んでいる事を知って要る。
洞窟内では先端部分は親方が中心になり造っており、船体部分が出来る頃になれば、銀次達の出番だ、
鍛冶職人が作った数種類の歯車を他の物と組み合わせて行く。
そして、最終段階になればげんたの出番で、その時には吉川と石川が補助の役目を行なう、これが、
今、浜で潜水船を造る時の作業工程となって要ると言うので有る。
「では、技師長は一番困難な部分を受け持つのですか。」
「うん、だってオレもどんな説明していいのか分からないんだから。」
「皆様方、潜水船と言う新しい船を造るには、どうしても技師長の頭脳が必要だと言う事です。
今の我々に技師長の考えて要る事を理解出来る者はおりません。」
「源三郎殿、もう私は何も申しません。
全てを技師長にお任せ致しますので、ですがその中で少しでも私に出来る事が有ればどの様な事でも致
しますので。」
げんたも考えて要る、だが、果たして今度来る侍達が本気で取り組んでくれるのか、其れだけが何より
も心配なのので有る。
「なぁ~あんちゃん、潜水船ってこの浜だけで造るのか。」
其れは突然の話で正か他国でも造る事が出来るとは、今の源三郎の頭の中には無かった。
「技師長、他国でも造れると考えて要るのですか。」
「あんちゃん、今は連合国の危機なんだろう、だったらオレは別の国でも造ってもいいと思ってるんだ。
だけどなぁ~、本気でオレの言う事を聴いてくれないと、本物の潜水船を造る事は出来ないんだ、其れ
だけは分かって欲しいんだ。」
「其れは勿論ですよ、皆様方はお国に帰られて大工さん達と鍛冶屋さんに納得して頂けるまでお話しが出
来るでしょうか。」
だが暫くの沈黙が続き、其れは当然の事で自国と言うよりも連合国が最大の危機だと言う事を理解させ
るのが優先し、潜水船の建造方法を教えるのは、その後でも良いのだと言うので有る。
「技師長、先程、申されましたが、別の事とはやはり潜水船の事なのでしょうか。」
「殿様、さっきも言ったけど、今は何も言えないんだ、だってオレが何も分かって無いんだから。」
「えっ、技師長が分からないとは、一体。」
「今、オレの頭の中に何かが浮かんでいるんだけど、其れがどんな物なのか、其れが分からないんだ。
あんちゃんだったらオレの言ってる事は分かると思うんだけどなぁ~。」
「松川様、技師長が分からないと申します意味ですが、私が今までの経験から申しますと、頭の中に別の
物ですが、形だけがぼんやりと見えると言う意味で、其れは次の潜水船なのか、また新たな船なのか、其
れは時が経たなければはっきりとは見えて来ないと言う意味なので御座います。」
「やっぱりあんちゃんだなぁ~、でも本当にその通りなんだ、だけど其れは今直ぐには出て来ないんだ。
オレだってず~っと同じ事ばかり考えたくはないんだから。」
「はい、分かりました、其れは何れの日にか分かると言う事なのですね。」
「うん、そうなんだ、だから今は何も言えないって事なんだ。」
げんたの頭の中に浮かんで来た物とは一体何なのか、げんた本人も分からないと言うのだ。
其れにその物が完成するのは、まだ当分先の話で有る。
だが、其れは誰もが考え付かない程恐ろしい武器となるので有る。
「なぁ~あんちゃん、オレは参号船が出来てから次の事を考えたいんだ。」
「では、参号船が完成しても改良は必要だと思って要るのですか。」
「うんそうだよ、だって参号船は少し細くなるんだぜ、オレは弐号船と参号船を試してから次の四号船か
らオレの納得した潜水船を造りたいんだ。」
げんたは早くも完成度の高い潜水船を造りたいと考えて要るので有る。
「では、参号船も試作船だと言うのですか。」
「うん、そんなんだ、あんちゃんや殿様だって連合国が危ないって、其れにだよ田中さんが長崎の造船所
で軍艦を造るって言ってるけれど、向こう側は船を造る専門の人達なんだぜ、オレは思うんだけど浜の人
達もオレも船を造るのは専門じゃないんだ、だけどなぁ~オレは浜の人達の為にって思ってるんだけなん
だ。」
げんたは殿様方よりもより深刻に考えて要るので有る。
だが、連合国で潜水船の建造が出来るのは野洲の浜に居る人達だけで有る。
「技師長、何も急ぐ必要は有りませんよ、仮に軍艦が完成しても其れからは専門的な訓練が始まるのです
からね、其れにですよ必ずこの浜に来るとは決定したのではないのですからね。」
源三郎はげんたの気持ちは分かっており、だが、今焦ったところで一体何になると言うだろうか。
「皆様方はお国に戻られ大工さん達にもですが鍛冶屋さん達にも必ずや納得して頂けるまでお話しをして
頂ける様にお願い致します。」
「あんちゃん、其れとねオレからの頼みなんだけど大工さん達にも鍛冶屋さん達にもオレ達の事を言って
欲しいんだ、殿様もだったけどオレが子供だって言うだけでみんなの態度が変わるんだから。」
「皆様方、今、お聞きになられた通りでげんたと言う子供ですが我々に取りましては並みの大人以上の人
物だと言う事だけは確かなので其れは必ず伝えて頂きたいのです。
其れで無ければもう次は無いと言う事になりますので、何卒宜しくお願い致します。」
今の殿様方は真剣で、其れと言うのも田中の報告で官軍の軍艦は必ず連合国の沖を通過するのは間違い
は無い。
ただ、何事も無ければ良いと、だが其れを期待すると言うのは所詮無理と言うもので有る。
そして、数日後には殿様方は自国へと戻って行く。
げんたは考えると言ったが、其れよりも参号船を早く完成させ弐号船と比較したいので有る。
自国へと戻った殿様方は家臣達に話をし家臣達の全員が今は連合国にとっては最大の危機だと言う事を
完全に理解させるまで数日を要したのは間違いは無かった。
「斉藤様、松川の家臣全員が全てを納得だけでもこれだけの日数を要したのです。
大工や鍛冶屋達が本当の意味で納得するまでには、果たしてどれだけの日数を要するのか私は全く分か
らないのです。」
「若、其れは仕方が御座いませぬ、我々自身が源三郎様のお話しを伺いましても分からずにおりましたの
を、其れが最後には田中様のお話しで要約にして我々が誠理解が出来たと思うので御座います。」
「ですが一体どの様な方法を用いれば宜しいでしょうか。」
「若、私も先日から考えて要るのですが、我々が城下に参り大工さん達に直接会って話をせねばと思うの
ですが如何で御座いましょうか。」
「はい、私も同じ様に考えておりました。
ですが親方だけでは駄目だと思うのですよ。」
「はい、私は大工さん達全員に話しを致し、どれだけの大工が協力して頂けるのかだと思います。
其れと決して強制はしないと、これだけはどの様な理由が有ったとしましても守らなければならないと
思うのです。」
「斉藤様、では明日からでも参りましょうか。」
「勿論で御座いまして、私は我々の話しを理解して頂き、其れが終わり初めて潜水船の話に入りたいと
思っております。」
松川の若殿竹之進と斉藤の話した内容は菊地や上田でも同じで、大工や鍛冶屋が全てを理解するまでは
十数日を要し、その数日後、浜に第一陣が到着したので有る。
「あの~申し訳有りませんが、技師長と言われるお方は。」
「今、隣の作業場ですが、お侍様は。」
「はい、私は菊地の。」
「あ~そうだ思い出しましたよ、この間のお殿様で、えっ、正かお殿様が直々にですか、とんだご無礼を
致しました、申し訳有りません。」
げんたの母親が土下座をしようとすると。
「お母さん、その様なお気遣いはご無用です。
全て私の責任ですから家臣だけを参らせる訳には参りませんでしたので。」
何と菊池藩が第一陣で高野と数名の家臣、大工と鍛冶屋を含めた数十人が来たので有る。
「はい、じゃ~少し待って下さいね。」
げんたの母親が隣の作業場へ入り。
「げんた、大変だよ菊地のお殿様が来られたよ。」
「うん、えっ菊地の。」
「そうだよ、其れに大勢のお侍様も一緒だから。」
「うん、母ちゃん分かったよ。」
げんたは作業場から出ると。
「技師長、先日は。」
「殿様、もう済んだ事だからいいんだ、オレは何も覚えてないからね、其れよりも一体。」
「はい、あれから国に帰り殿と私と重臣達を交え色々と話し合い、家臣全員が理解し、殿と私が城下に
出向きまして大工さん達と鍛冶屋さん達に数日を掛け話し合いを持ち、皆さん方が理解出来たと言う事
になり、要約、本日この浜に寄せて頂く事が出来たので御座います。」
「じゃ~、みんなはオレの事も。」
「技師長、其れよりも大工さん達も鍛冶屋さん達も其れはもう大変な驚き様で、その後、潜水船の話をし
ました、皆さん方は船が海の中に潜ると言うのが全く理解出来ないと言うのです。
技師長、其れだけは理解して頂ける事は出来ませんでした。」
高野も潜水船の説明をするが大工や鍛冶屋はその道の専門家で、だが潜水船だけは全く理解出来ないと
言うので有る。
「高野さん、そんなの無理だって、オレがあんちゃんに話をした時でもあんちゃんはその様な事は不可能
ですよって言ったんだぜ、オレも意地になって絶対にあんちゃんに潜水船を造って見せてやるって、で
もなぁ~あんちゃんは物凄く賢いと思うんだ、野洲の殿様なんか余に潜水船の事などは理解は出来ぬっ
て、オレは別に大工さん達や鍛冶屋さん達がどうのって事は思って無いんだぜ、大工さん達も鍛冶屋さん
も怒らないでね、オレってこんな人間だから許して欲しいんだ。」
菊池から来た大工や鍛冶屋も呆れて要る。
其れは菊地の殿様が頭を下げる程に目の前に居る少年が恐ろしい存在なのだと言う事で有る。
「高野さん、大工さん達は洞窟内の大工さん達から話を聴いて欲しいんで、其れで鍛冶屋さん達はねこの
作業場の鍛冶屋さん達から話を聴いて貰いたいんだけれど、いいかなぁ~。」
「私は其れで宜しいかと思います。
技師長、其れで今日家臣数名を同行させたのですが。」
「うん、じゃ~その人達はねぇ~、吉川さんと石川さんに話を聴いて欲しいんだけど。」
「分かりました、技師長、其れでお願いが有るのですが、一度全員に潜水船を見せたいと思うのですが如
何でしょうか。」
「殿様、オレもみんなに見て貰った方がいいんだ、自分達の手で潜水船を造りたいと思う様な気持ちにな
ると思うんだ、だけど今漁師さん達は漁でお昼には戻って来ると思うんだけど、其れでもいいかなぁ
~。」
「はい、我々はお任せしますので。」
「だったら、漁師さん達が戻って来るまでオレの話を聴いて欲しいんだけどいいかなぁ~。」
「技師長、私も聞きたいのでお願いします。」
高野は国でげんたの話をしては要る。
だが、やはりげんた本人から直接話を聴くと言うのが一番だと思い、其れからげんたは菊地から来た大
工や鍛冶屋も含め、殿様にも高野にも、そして、同行した家臣達にもゆっくりと話を始めた。
大工達も鍛冶屋達もまだ見ぬ潜水船の事を想像しながらも真剣な眼差しで話を聴いて要る。
げんたの話は半時程で終わり、その頃、丁度漁師達が戻って来た。
「お~い、げんた。」
「元太のあんちゃん待ってたんだぜ。」
「あっ、高野様に、えっ、お殿様までもげんた一体何が有ったんだ。」
「元太のあんちゃん別に何も無いよ、菊池の殿様が大工さん達と鍛冶屋さん達を連れて来てくれたん
だ。」
「高野様、あんまり驚かさないで下さいよ、オラは心臓が悪いんですからねぇ~。」
「元太船長、誠に申し訳有りません。
其れで菊地の家臣全員が理解しまして、殿と私で大工さん達と鍛冶屋さん達に説明しました。
まぁ~少し日数は掛かりましたが、要約皆さん方に理解して頂けまして今日から全員で学ぶ事になり
ましたので、何卒宜しくお願いします。」
「分かりました、其れで今から洞窟に行くんですか。」
「元太船長、申し訳有りませんがお願いが出来ないかと思いますが、如何でしょうか。」
「高野様、じゃ~少し待って下さいね、魚を浜に上げますので。」
「はい、ではお待ちしております。」
今日は久し振りの漁で何時もより多く魚が獲れたのだろう、漁師達の家族も大勢が浜に出手伝い、
漁師達は魚を降ろし終えると。
「高野様、じゃ~今から行きましょうか。」
「はい、では全員分かれて乗って頂けますか、お殿様もも参られますか。」
「勿論ですよ、私も参りますからね。」
漁師達は小舟を浜に並べ、殿様と高野は元太の小舟に、家臣や大工と鍛冶屋達も他の小舟に乗り込み洞
窟へと向かった。
洞窟では参号船の建造に入っており、船台には潜水船の骨組みは早くも完成し、今は板の張り付け作業
に入って要る。
この中には吉川と石川も参加し、大工の作業に邪魔にならない様にと寸法を測り、書き込んで要る。
建造現場では銀次と親方が何やら話し込んでいる。
「銀次さん、悪いんだが材木の調達を頼みたいんだが、どうだろうか。」
「親方、明日の朝から行く段取りで宜しいでしょうか。」
「うん、其れで申し訳無いんですがね今回は出来るだけ多く欲しいんだ。」
親方は参号船だけで無く、四号船、五号船までも造る考えで要る。
「じゃ~親方は次の船も。」
「うん、そうなんだ、げんたの事だからまぁ~何かを考えて要るとは思うんだがなぁ~、わしは四号船と
並行してして五号船も造ると思ってるんでねぇ~。」
「親方、分かりましたよ、じゃ~先に山に行って木こりさん達に話を付けてきますので。」
「じゃ~、お願いしますね。」
「親方。」
「お~げんたか、おゃ~。」
「菊池の殿様と高野さんで、後からお侍と大工さん達と鍛冶屋さん達も来るんです。」
「親方、大変お忙しいところ恐縮で申し訳有りません。」
菊池の殿様は以前の殿様とは別人の様でげんたにもだが大工の親方に対してでも平気で頭を下げる様に
なり、其れが反対に親方の方が驚いて要る。
「えっ、お殿様が大変失礼しました。」
親方が慌てて頭を下げたので有る。
「なぁ~げんた、一体何が有ったんだ。」
「うん、十何日か前にあんちゃんが田中さんと言うお侍を連れて来たんだ。」
その後、げんたは親方と銀次達にも全てを話した。
「なぁ~んだそうだったのか、よ~しげんた分かったよ、じゃ~菊地の大工さん達には潜水船の造り方を
教えればいいんだな。」
「うんそうなんだ、親方も銀次さん達も忙しい事はオレも分かってるんだ。」
「なぁ~げんた、そんな事なんか気にするな、げんたが決めればいいんだ、其れにその何て言ったかなぁ
~官軍の軍艦がこの浜もだけどわしらの連合国の浜に上陸すればわしらだって命が危ないんだ、まぁ~此
処はみんなで協力してだなぁ~官軍と幕府軍の軍艦を上陸させない為にもだ潜水船が必要なんだからなぁ
~、げんたはみんなを守る為に潜水船を考えて造ったんだから、まぁ~船体部分の造り方はわしらに任せ
る事だなぁ~。」
「親方、誠に申し訳有りませんが、何卒宜しくお願い致します。
菊池の大工さん達には何度も話をし要約理解されましたので。」
「お殿様、わしらは同じ大工同士ですから何も心配は要りませんよ。」
其の時、菊池の家臣と大工、鍛冶屋を乗せた小舟が洞窟に入って来た。
「わぁ~何と凄い所なんだ。」
菊池の大工達も鍛冶屋も大変な驚き様で有る。
「あっ、えっ、正かと思うがあれが話に聴いた潜水船なのか、まぁ~其れにしても大きな船だなぁ~。」
「へぇ~これが海の中を潜るのか、何ともまぁ~凄い船なんだなぁ~。」
其れにしても菊池の大工も鍛冶屋も驚きの連続でまるで子供の様で有る。
「みんな聞いて欲しんだけど、潜水船の中は余り広くは無いので数人づつで入って欲しいんだ、オレが中
で説明するからね、じゃ~最初は殿様と高野さん、其れとお侍さん達が入って下さいね。」
げんたが最初に入ると中では吉川と石川が寸法取りを行なって要る。
「吉川さんと石川さん、こちらが菊地のお殿様で、其れと高野さんで、後のお侍はこれから吉川さんと石
川さんの下で学んでくれるんだって。」
「えっ、技師長、ですが私はまだ人様に教えるだけの事は学んではおりませんが。」
「吉川さん、だからいいんだって、今までの事は二人に任せるからね、其れと参号船に付いてはオレが話
をするからね。」
「はい、承知致しました。」
「高野さん、吉川さんと石川さんが弐号船の造る方法を書いてるんです。」
「いゃ~私は何も申し上げる事は御座いません。
其れに、彼らはこれから必死になり学ぶと思いますので。」
「お侍さん達に言って置きますけど、オレは読み書きが出来ないけど、潜水船の造り方はねぇ~全部この
頭の中に入ってるんだ、吉川さんと石川さんにも話して無い事も多く有るんだ、まぁ~はっきりと言わせ
て貰うけど、普通の考え方じゃ~オレの話は全然理解出来ないからね、本気にならないと潜水船は造れ無
いから其れだけは分かって欲しいんだ。」
菊池の家臣は大変な緊張感で顔はまだ青ざめたままで有る。
殿様と高野から一体どの様な話を聴かされたのか想像出来るとげんたは思ったので有る。
「技師長、これが一番大切な空気の取り入れ装置ですか。」
「そうですよ、外からは見えないけど中の水車型はこの被せて有る物との隙間は髪の毛一本も無いんだ。
其れを作られたのは此処の鍛冶屋さん達だからね。」
菊地のお殿様は改めて浜の人達の技術力は高いと聞かされ驚くが、其れ以上に家臣達はどの様な方法で
作ったのか知りたいと思って要るので有る。
「技師長、この中の装置を数人で動かせるには、船長もですが乗組員の訓練は大変だと私は思うのですが
如何でしょうか。」
高野は操船の技術訓練は大変だと考えた。
其れと言うのも船長は狭い潜水鏡を覗きながら全ての判断を要求され、操縦棒を操作する者、空気の取
り入れ装置を操作する者の全員が同じ気持ちと技術を持たなければ大変な事故を招き、其れは潜水船の中
で窒息し死亡する事も有り得るのだと。
「うん、そうなんだ、潜水船は船長の判断が間違えば乗って居る人達の命も亡くなる事も有るんだ、だか
ら造る人達も造る時には特別な注意が要ると思うんだ。」
「高野、私は改めてこの潜水船を考えられた技師長の頭は凄いと感じましたよ。」
「殿、私もで御座います、今、目の前の装置を一人で考えるなどとは我々はでは全く想像が出来ませぬの
で私も改めて驚いて要るので御座います。」
「高野さん、オレはあんちゃんから海の中で息が出来る物を作ってくれって言われたんだ、其れがね潜水
船を考える様になったんだ。」
「ですが、総司令の話では総司令も全く想像出来なかったと申されておられましたが。」
「うん、だけどあんちゃんは簡単に言ってたんだけど、でもそのあんちゃんでも分からなかったって、
自分でも分からない物をオレに作れって言うんだからなぁ~、まぁ~あんちゃんは無茶を平気でオレに言
うんだからなぁ~、オレもあんちゃんには本当に困ってるんだぜ。」
と、げんたは言うのだが、顔は笑っている。
「ですがねぇ~、其れをまた作られるのですから、私はどの様に表現して良いのか分かりませんよ。」
殿様も源三郎とげんたの仲を改めて驚いて要る。
当時、二人がどの様な会話をしたのか分からないが、誰もが考え付かない様な物を平気で依頼し、其れ
をまた作るのだから、げんたの頭の中は一体どの様な構造なって要るのか知りたいと殿様も思った。
「殿様、高野さん、オレの説明は直ぐには分からないと思うんだ、だけどお侍さん達は大変だぜ、まぁ~
オレに聴くよりもね吉川さんと石川さんに聴いて欲しいんだ、じゃ~大工さんと鍛冶屋さん達と交代して
ください。」
「技師長、有難う御座いました、高野、では、外に出るとするか。」
殿様と高野と数人の家臣は外で待ち、大工達と鍛冶屋と交代する為に船外に直ぐ大工と鍛冶屋が入って
来た。
「お~、これは何と素晴らしい作りなんだ。」
菊池の大工も大変な驚きで船外だけでは分からなかった、だが、内部の作りも隅々まで気を配った作り
になって要るには納得した様子で有る。
「大工さん、この潜水船はねぇ~、船外よりも船内の作りが違うって分かると思うんだ、この弐号船は十
人以上が乗れるんだ、だけど思った以上に中は狭いと思うんだけどどうですか。」
「いゃ~わしも菊池で舟を造っておりますが、海の上の船とは全く違う造り方なので、本当のところは
驚いてるんですよ。」
「オレは船体部分は大工さん達に全部任せてるんです。
でも、この基本は奥に有る壱号船でこの弐号船は改良型で参号船は大工の親方が考えた方法で潜水船の
胴体が少しだけど細くなるんですよ。」
「えっ、じゃ~わしらが考えてもいいんですか。」
「オレは別に誰が考えてもいいと思ってるんだぜ、だって船体部分を造るのは大工さん達でオレは頭の中
で考えるだけなんだからねっ。」
「ですが潜水船を造ったって聞いたんですよ、わしも長年大工の仕事では自分の中には多少の自信も有っ
たんですが、其れもこの潜水船を造られた大工さん達には、まぁ~正直なところですが兜を脱ぎました
よ、其れにこの船体を造るには最高の腕が必要だと思いますねぇ~。」
「そんな事は無いよ、だってオレが今までそんな出来もしないと思う様な事を考えたんだぜ、だけどあん
ちゃんはねぇ~普通の人では考えられない様な事でも平気で言うからね、だから、オレはただ簡単に考え
てあんちゃんを驚かそうと思ったんだけで其の時はこんなに大騒ぎになるとは思って無かったんだ。」
「ですがねぇ~、こんな潜水船を考えるだけでも並みの人間じゃ~とても無理ですよ。」
「まぁ~これからはお互いが大工さん同士だから知らない事ばかりだけど頑張って下さい。
其れとこの潜水船の中で一番大切な部分を造るのが鍛冶屋さん達なんだけど。」
「う~ん、これは正しく鍛冶屋さん達の仕事では無いですねぇ~、其れも一流の鍛冶職人の仕事だと思い
ますがねぇ~。」
「うんそうなんだ、浜の大工さん達も鍛冶屋さん達も最高の腕前を持った人達なんだ、特に鍛冶屋さん達
の作る空気の取り入れ装置は人間の髪の毛一本の隙間もないんだぜ。」
げんたは浜の大工と鍛冶屋の自慢をして要る。
同じ城下でげんたが生まれた頃から知って要る人達で、その人達は野洲でも最高の腕前を持った大工と
鍛冶職人で有るのだと。
「う~ん、これは本当に素晴らしいとしか言いようがないですねぇ~。」
「ねぇ~、兄貴、こんな物本当にオレにも作れますかねぇ~。」
「何を馬鹿な事を言ってるんだ、その作り方をこれから教えて貰うんだ、けどだオレは全く別の世界を見
てる様な気がしてるんだ、お前もオレも必死になれば出来るんだ。
浜の鍛冶屋さん達もオレ達も同じ鍛冶職人なんだ、だけどオレ達が本気にならないと本気では教えては
貰えないって事なんだ、分かったのか。」
「はい、兄貴。」
「其れと今日からはその兄貴って呼び方は止めるんだ、浜の人達には失礼だからなぁ~、技師長、其れで
鍛冶の作業場ですが何処に有るんですか。」
「あ~其れだったらオレの家の隣に浜の大工さんが建ててくれたんだ、其れと大工さん達と鍛冶屋さん達
の家も有るからね。」
「えっ、じゃ~オレ達は此処で。」
「うん、だって今から教えて貰っても今日壱日じゃ~無理だよ、其れにみんなが全部覚えないと。」
「確かに技師長の言う通りだ、わしも長年大工の仕事をしているが潜水船を造る技術なんて全く初めてな
んだからなぁ~。」
「じゃ~大工さん達は浜の親方の所に行って下さい。
其れと鍛冶屋さん達は浜に行ってから紹介するからね、じゃ~外に。」
大工と鍛冶屋、げんたは船外に出、吉川と石川は早くも菊池の家臣に説明を始めて要る。
「技師長、源三郎殿はこの潜水船を何隻造れと言われたのでしょうか。」
「あんちゃんは何も言わないよ、だってオレも参号船が出来上がってから改良する所は無いか考えて次の
四号船の事を考えるんだから。」
「では、まだ改良が必要だと言われるのですか。」
「う~ん、オレは其れが分からないんだ、其れよりも大工さん達も鍛冶屋さん達も休めない事になると思
うんだ。」
「殿、私も何隻造るのかを考えるよりも、大工さん達も鍛冶屋さん達にも無理はさせない事の方が大事で
は無いかと思うので御座います。」
「よ~し分かった、高野、此処で技術訓練が行なわれている間に浜の大工さん達と鍛冶屋さん達にもお聞
きするんだ、何日、仕事をし、休みは何時取られるのか。」
「殿様、其れよりもねぇ~、潜水船って物凄く神経を使うんだ、だから殿様がはっきりと決める方がいい
と思うんだけどなぁ~。」
「では、此処でも同じ方法を取っているのですか。」
「此処はねぇ~、まぁ~はっきりと言って親方が決めてるんだ、最初の頃は潜水船を造るって誰も考えて
無かったんだ、でも洞窟の補強と一緒に始めたから適当なんだけど、今は全部親方に任せてるんだ。」
「殿、この浜と我らでは違うと思いますので、大工さん達と鍛冶屋さん達が戻られてから相談すると言う
事で如何でしょうか。」
「よし分かった、では高野に任せる、私は家臣達にも協力を頼む事にする。」
「うん、殿様、其れと山の木こりさん達にも協力をして貰って原木を切り出して洞窟まで運ばないと。」
「では、領民にも協力を頼む必要が有りますねぇ~。」
「うん、そうなんだ、此処では銀次さん達が原木を運んで来られたんだけれど、最初はお侍さん達がして
くれたんだ。」
野洲と菊池では条件が異なるので有る。
「殿、最初の原木運びは家臣達で行ない、私が城下の人達に少しづつですが説明を行なえば良いのではと
考えたのですが。」
「高野、それらの事は菊池に戻ってからでも良いと思うのだが。」
「はい、承知致しました。」
「じゃ~、殿様、戻りますからね。」
げんたは殿様と高野と浜に戻って行く。
その頃、上田と松川からも数十人の者達が近くまで来ており、げんた達が浜に着いた時で有る。
「技師長、あの方々は上田殿と松川殿で御座いますよ。」
「えっ、じゃ~みんなが今日に。」
「技師長、私達は何も今日だとは約束はしておりませんが、丁度、同じ様になっただけだと思います。」
「これは菊池殿では御座いませぬか。」
「上田殿、私も先程到着し、今まで技師長からお話しを伺っておりましたところでして。」
「では、これで全ての。」
「山賀殿が、ですが山賀には浜が御座いませぬので。」
「げんた、お昼だよ。」
「えっもうお昼なのか、で、母ちゃん。」
「あ~全部用意出来たよ、元太さん達が獲って来てくれた魚が有るからね、お侍様達も一緒にどうです
か。」
「えっ私達にもですか。」
「当たり前ですよ、だってげんただけがねぇ~げんた、みんなで食べるのが一番だと思うのよねぇ~。」
「うん、そうだよオレも一人で食べるのは嫌だから。」
「さぁ~さぁ~、皆さん固い事は言わないでね。」
「はい、有難う御座います、でも洞窟の人達は。」
「あ~洞窟のね、まぁ~大丈夫ですよ、洞窟にも作る所は有るからねぇ~、まぁ~今頃はみんなでワイワ
イと言いながら食べて要ると思いますよ。」
菊地の殿様は洞窟内での食事を心配したのだろうが洞窟内でも銀次達の仲間が食事を作って要る。
「では、皆様方、お言葉に甘えて頂きましょうか。」
菊池の殿様を始め、上田の殿様も松川の若殿達も、今浜に着いた者達がお昼ご飯を食べ始めた頃に。
「あれは、若しや山賀の。」
「はい、私の弟で御座います。」
山賀の若様と吉永と数十人の家臣、数十人の大工や鍛冶屋、其れに数十台の荷車が。
「其れにしても、正か今日全員が話を合わせた様に集まるとは。」
「兄上、皆様方、大変遅くなりまして申し訳御座いませぬ。」
「わぁ~何で全員が来たんだ。」
「技師長、私も国に戻り皆と真剣に話し合いを致しました。
今日、集まられました皆様方も同じだと思うのですが。」
「菊池殿、私も同じでして、数日間を掛け、家中の全員が理解し、其れと大工さん達と鍛冶屋さん達にも
同じ様に数日間掛けお話しをさせて頂きまして全員が理解され、今、此処に到着したので御座います。」
「技師長、皆様方、其れよりも、実は我が山賀で大変な発見を致しましたので、私は其れを皆様方にも
知って頂ければと思い、今日荷車に積んで参りました。」
「えっ、大発見って、若様、一体何を見付けたんですか。」
「技師長、其れが燃える石と鉄になる土で御座います。」
「えっ、燃える石と鉄になる土って。」
集まった殿様方も同行した家臣達も其れは大変な驚き様で石が燃えるとは初めて聴いたので有る。
「山賀殿、石が燃えるとは、誠なので御座いますか。」
「はい、誠で御座いまして、私も最初は信じる事など出来ませんでしたが、まぁ~其れよりも皆様方荷車
に積んで有りますので今からお見せ致しますので、どうぞご覧下さい。」
若様は燃える石を両手に持ち、家の土間に有る釜戸に向かい石を入れ、暫くすると釜戸の火の勢いが増
し始めた。
「若様、こんな石ってオレは初めて見たよ。」
「なぁ~げんたこれは大変な発見だよ、この燃える石が有れば、鉄を打つのも少しは楽になると思うん
だ。」
「げんた、大変だよ家が燃えるよ、だって火が。」
げんたの母親も腰を抜かす程の驚き様で有る。
「母ちゃん、何も心配するなって、オレが居るんだから。」
母親もげんたの一言で我に返ったのだろうか静かになった。
「あんちゃん、この石ってそんなに凄いのか。」
「げんた、さっきまでの勢いとはまるで違いますからねぇ~。」
「だったら、燃える石と鉄になる土が有れば。」
「そうですよ、鉄が大量に作れると言う事になるんですよ。」
「だったら歯車も他に加工する時も楽になるんだ、ねぇ~若様、この燃える石と鉄になる土ってどれだけ
有るんですか。」
「技師長、其れが一体どれ程の量が有るのかも分からないのです。」
若様は、その後、げんたを始め他の殿様方にも詳しく説明した。
連合国とは外部の諸国とは殆どと言っても過言では無い程に交流が無く、燃える石と言う物も鉄になる
土も初めて見、初めて聴いたので有る。
「よ~し、昼ご飯が終わったら試して見ようか。」
げんたは燃える石で鉄になる土でどの様な物が出来るのか調べる必要が有ると考えたので有る。
「技師長、燃える石ですが、直ぐには火が点きませんので、其れに一定の火力になるまでは時が掛かり、
更に鉄になる土ですが溶けるまで早くても二時以上は掛かりますので。」
「え~、そんなにも手間が掛かるんですか。」
「はい、ですから、今直ぐにと申されましても。」
「なぁ~んだ、じゃ~今日は出来ないのか、まぁ~仕方が無いなぁ~、う~ん、其れだったら菊地以外の
人達は洞窟に行って潜水船を見て欲しいんだけど、其れでもいいですか。」
「技師長。」
「えっ、まだ何か有るんですか。」
げんたは、次に何を言われるのか、いやどの様な大発見が有るのか、いや聴かされるのか次第に胸がワ
クワクし始めたので有る。
其れは松川の竹之進からだ。
「はい、其れが我が松川藩では昔から陶器作りが盛んで、ですが作った器の半分以上が売り物には出来ず
大量に廃棄されておりまして。」
其の時、源三郎が来た。
「あんちゃん、なぁ~一体どうなってるんだよ、オレは今日みんなが来るなんて知らなかったんだぜ、あ
んちゃんは知ってたのか。」
「いいえ、私も今来て驚いて要るのですからねぇ~。」
「なぁ~んだ、じゃ~あんちゃんも知らなかったのか。」
「本当ですよ、技師長、其れよりも何か変わった事でも有りましたか。」
「なぁ~あんちゃん、何か変わったところってかそんなところの話じゃ無いんだぜ、山賀の殿様は燃える
石や鉄になる土って言うんだ、オも、さっきから考えてたんだけど、石って本当に燃えるのかなぁ~っ
て。」
「えっ、燃える石と鉄になる土ですか。」
「山賀の殿様はオレが子供だからって、そんな話子供でも分かる様な馬鹿な事を言うんだからなぁ~。」
「技師長、本当の話ですから、義兄上、私は何も作り話を申して要るのでは御座いませぬ。」
松之介は燃える石と鉄になると言う赤茶けた土を取りに行かせた。
「源三郎殿、私も燃える石と鉄になる土を見ましたが、若の申されます話は誠で御座います。」
吉永も本当の話だと、其の時、山賀の侍が燃える石と赤茶色で鉄になると言う土を持って来た。
「鍛冶屋さん、申し訳有りませんが、これを。」
浜の鍛冶屋は燃える石と鉄になる土を受け取り、山賀の家臣と作業場に入った。
「技師長、皆様方、少しの時を頂ければ分かりますのでお待ち願いたいのです。」
「技師長、私も今初めて聴きましたが、燃える石と鉄になる土が有れば潜水船の外側を鉄で造る事は出来
るでしょうかねぇ~。」
源三郎はまたも飛んでも無い事を考えたので有る
「えっ、あんちゃん、潜水船を鉄で造るのか。」
源三郎は今の潜水船は木造なので外側に鉄の板を着ける事が出来るのだろうかと考えて要る。
げんたは鉄で潜水船が造れ無いかと、これは勘違いとでも言うのか、げんたは源三郎の言う事を真剣な眼
差しで受け止め考え始めたので有る。
「う~ん、もうあんちゃんはなぁ~、何時も無理を平気で言うんだからなぁ~、困るんだぜ。」
だが、げんたも源三郎の無理を待っていたので有る。
「じゃ~今日の予定を変えて、鍛冶屋さん達は浜の鍛冶屋さん達から話を聴いて、其れで殿様方と大工さ
ん達は洞窟へ、其れと他のお侍は吉川さんと石川さんが書き留めた物を書き写してと、なぁ~あんちゃ
ん、急に変えたんだけどいいのか。」
「技師長に任せますよ、皆様方も其れで宜しいでしょうか。」
殿様方は納得したのか頷いて要る。
「あんちゃんも行くんだろう。」
「ええ、勿論ですよ。」
「じゃ~みんなで行こうか。」
げんたの表情が変わった、やはり殿様方の変化を見て安心したのだろうか、浜からは次々と小舟が洞窟
へと向かって行くので有る。