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闇の帝国    作者: 大和 武
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 第 28 話。 言ってはならない事を。

 田中が薩摩へ向かって要る頃、源三郎はげんたと話す為に浜に着きげんたの家に入った。


「やぁ~お母さん、元気そうですねぇ~。」


「あらまぁ~源三郎様、一体如何されたですか、げんたは。」


「はい、知っておりますよ、其れよりも、この頃げんたの様子は如何ですか。


「う~ん、そうですねぇ~、げんたは朝起きると今日はあんちゃんは、来るかなぁ~ってそれはもう毎


日聴くんですよ。」


「やはりそうですか。」


 げんたは源三郎を実の兄の様に慕っており、朝、起きると必ず聴くので有る。


「源三郎様、げんたは元々が寂しがり屋なんですよ、だから、この頃は源三郎様の事ばかりで私も分かっ


てるんですよ、だから、げんたに言うんですよ、源三郎様は、大変、お忙しいお人だから毎日は浜に来る


事は出来ないんだよって。」


 確かにその通りなのかも知れない、最初の頃は頻繁に浜に来る事は出来た。


 其れが何時の間にか源三郎の役目が多くなり、その為に何の用事も無くふら~っと来る事も出来なくな


ったのも事実で有る。


「はい、其れは誠に申し訳無く思っております。


 げんたが潜水船を完成させたのにそれすらも見る事も出来ないので、私はげんたに済まないと思ってお


ります。


 其れで少しお聞きしたいのですが、この数日何か言っておりませんでしたか。」


 源三郎はやはり先日の事が気になっていた。


「私は一体何の事か分かりませんがげんたは言ってましたよ、オレはあんちゃんの言ってる事は全部分


かってるんだって、其れにあんちゃんもオレの言った事は全部分かってると、だけど、何か分からないけ


ど、オレは簡単にうんって言え無いんだって、源三郎様、あの子はねぇ~、源三郎様の言う事は分かって


るんですよ、でも、今何かを考えてるんだと思いますよ。」


 源三郎の予想が当たれば、げんたは早く弐号船を完成させ、其れと同じ潜水船の建造に入りたいのだ、


だが、今はその話は出来ないので有る。


 げんたが他国の者達を受け入れる事に承諾するか、そちらの方が今の源三郎にとっては大事で有る。


「お母さん、其れで、今日私が来た事は内緒で。」


「はい、勿論ですよ、だって、げんたは下手に言うと怒るんですよ、母ちゃんは余計な事を言うか


らってね。」


「そうですか、では、私は隣の鍛冶屋さんのところへ。」


 源三郎は隣に有る鍛冶屋の仕事場に入った。


「やぁ~皆さん、何時も大変お忙しいところ申し訳有りません。」


「源三郎様、如何されたんですか。」


「いゃ~別に大した用事でも有りませんので。」


「そうですか。」


 其処へ、げんたの母親がお茶を持って来た。


「お母さん、此処は別に。」


「宜しいんですよ、だって、みんな源三郎様が一番大変だって分かってるんですから。」


「私ですか、私は別に大変だとは思っておりませんので。」


「まぁ~そんな事言わずせっかく持って来たんですから、みんなも少し休んで下さいよ、何時もげんたが


無理な事ばっかりを言って済みませんねぇ~。」


「いゃ~そんな事は有りませんよ、でも技師長も大変ですよ。」


 鍛冶屋も相当苦労して要る様子だ。


「今、何を作られておられるのですか。」


「あ~これですか、先日弐号船に付けた物と同じ物を作ってるんですがまぁ~其れが大変なんですよ。」


 源三郎は鍛冶職人が持つ物を見ると大きな1枚の鉄板だ。


「其れは、一体何に使われるのですか。」


「いゃ~オレ達も詳しくは知らないんですがね、え~っとそうだ、空気の取り入れに使うとか、何とか


言ってましたが。」


「空気の取り入れにですか。」


 源三郎は鉄板が何故必要なのか分からず、それ程にもげんたの頭の中では潜水船の改良と参号船の建造


する為の準備が進んで要るので有る。


「其れに、これは物凄く早く回るから全体の厚みを均等にしてくれって。」


「えっ、厚みを均等にってですか。」


「ええ、其れに仕上げの時には焼き入れも要るんだって、オレ達は職人ですがね技師長の言われる事が余


りにも難しくって、まぁ~其れでもオレ達にも意地ってものが有りますからねぇ~、出来ませんとは言い


たくは無いんですよ。」


 何と高度な仕事を要求をするのだ、鉄の板の厚みを均等にするとは物凄い技術が必要だ、鍛冶屋も意地


になって要る。


 鉄板を焼き、何度も打ち、少しづつ均等にして行かなければならないと、何度も打つ事により、鉄の板


は強度を増して行く。


「其れと、こちらの小さな鉄の板ですが、これも同じ様って、だけど一体この鉄の板を何に使うんですか


ねぇ~。」


「前はこの後如何されたんですか。」


「はい、均等に出来た鉄の板を今度は歯車に作って行くんですよ。」


「えっ、歯車って、では。」


「はい、大きな歯車と小さな歯車を作るんですがね、まぁ~こんな物はオレ達にしか作れないと思ってる


んですよ。」


「其れは素晴らしいですねぇ~、では他の鍛冶屋さんでは無理でしょうか。」


「まぁ~作るよりも先に技師長が何を求めてるのか、其れを理解する事の方が大変なんですよ。」


「技師長は詳しくは説明しないのですか。」


「う~ん其れがねぇ~難しいんですよ、だってオレ達も素人じゃ無いんですよ、オレ達はこれが専門なん


ですよ、誰がオレ達の様な専門の職人に詳しく説明すると思いますか、オレだって相手が素人ならまぁ~


別ですけど専門の職人には詳しくは説明なんかしませんよ。」


「う~ん。」


 げんたが若し若手の受け入れを許すならば、その者達は相当な覚悟が必要だと感じたので有る。


「源三郎様、技師長は本当に大したもんですよ、オレ達に説明する時はこの加工品は潜水船に乗られる人


達の命を助けるんだ、海に潜ってる時に故障でも起きれば中に乗ってる人は苦しみながら死んで行くって


ね、ですからオレ達の仕事は乗られてる人達の命を預かってるんだ、その為に作る時はその人達の顔を思


い出す様にしてるんですよ、でも、源三郎様、本当はどんな人が乗るのか知らないんですよ。」


 彼ら鍛冶職人もそれなりの覚悟を持ってこの仕事をして要る。


 例え、乗組員の名を知らないとしても、若しかすれば、其の人が友人の可能性だって有り得る。


「でも、源三郎様、この仕事は簡単に大変だと口では言えますが、本当のところどれだけ大変なのかこっ


ちの加工品を作れば分かりますよ。」


 職人は完成した加工品を見せ。


「これは、若しか、空気の取り入れ口の。」


「はい、その通りですが、これは並大抵の神経じゃ作れませんよ。」


「そんなにも難しいのですか。」


「だって、技師長はこの部分ですがね、髪の毛1本の隙間も作っては駄目だって言うんですよ。」


 空気の取り入れ口に着ける加工品、其れこそ、乗組員の命を預かる一番大事な部分で髪の毛1本以上


の隙間が有れば、取り入れた空気が漏れれば乗組員の運命を左右する最も大事な部分なのだ。


「では、これを試されたのですか。」


「はい、その試し方なんですがね、水滴を落としその水滴が僅かに滲み出るか、其れくらいの隙間が合格


だって言うんですがね、まぁ~これを作るのは並みの神経じゃ~作れないですよ、源三郎様これは本当な


んですから。」


 これ程までに正確に作らなければならないとは、潜水船と簡単には言っては見たが1隻建造するのがど


れ程苦労するすのか今は此処の職人達だけが知って要る。


「だけど、源三郎様、こんな物を考え付く技師長って一体どんな頭をしてるんですかねえ~、オレ達はあ


の小間物を作ってた頃から、げんたを、いや技師長を知ってますけど、あの頃でもお客さんの話を聴くだ


けで後は全部自分が考えて作ってましたけど、今は其れ処の騒ぎじゃ無いですよ、こんな物を考え付くだ


けでも普通の人間じゃ無理ですよ。」


 源三郎も当時のげんたを知っては要るが、これ程までに難しい物を考え付き、其れはげんた自身でも造


れるので有る。


 だが、今はげんた一人では到底造るだけの余裕が無い、其れは、げんた自身が一番よく知って要る。


「其れで、この加工品を作り上げるまで何日位掛かるのですか。」


「源三郎様、そんなの分かりませんよ、だって、毎日、其れもねぇ~まぁ~少しづつですよ作って行くん


ですからねぇ~、最初にこれを作り上げるのは其れはもう~大変だったんですからねぇ~、見てて作るの


は簡単と思うでしょうがねぇ~もう此処まで来るとオレ達鍛冶職人でもねぇ~意地にならないと作れるも


んじゃないですから。」


「私は改めて皆さん方に感謝します、本当に有難う御座います。」


 源三郎は心の底からこの人達は職人と言うよりも、げんたとこの人達と意地のぶつかり合いだと感じた


ので有る


 考える方も考える方だが、其れを受けて作る方も作る方だと、これを他国の若手に学ばせるのだと考


えた源三郎は改めてげんたが簡単に許すとは思え無かったので有る。


 その時、げんたと石川、吉川が戻って来た。


「あんちゃん、どうしたんだ何か有ったのか。」


「いいえ何も有りませんが、げんた、其れよりも何か有ったのですか。」


「いいや別に何も無いよ、今からこれを取り付けるんだ。」


「其れって、空気のですか。」


「うんそうだよ、これを取り付ければ、まぁ~一応弐号船も出来上がるんだけどなぁ~。」


「そうですか、げんた今もお聞きしましたがねこの加工品を作られる職人さん達は何ともまぁ~素晴らし


いのでしょうかねぇ~。」


「なぁ~んだ、あんちゃんは今頃分かったのか、オレなんか初めから分かってたんだぜ。」


「えっ、では城下の時からですか。」


「うんそうだよ、だってこの人達はなぁ~、オレの生まれる前からこの仕事をしてるんだぜ、オレの知っ


てる限りじゃ~まぁ~最高の腕を持った人達なんだぜ。」


「源三郎様、オレ達はまぁ~そう言う仲なんですよ。」


「へぇ~其れは知りませんでしたねぇ~、なるほどねぇ~そうでしたか。」


 源三郎にも素晴らしい仲間が要るが、げんたの仲間と言うのは、源三郎の仲間とは、又、違った意味の


仲間が多く要る事に間違いは無いと感心するばかりで有る。


「なぁ~あんちゃん、これを取り付けるんだけど、これの水漏れを調べるのを吉川さんと石川さんに頼ん


だんだ。」


「自分達に調べる様にと申されたのですが、私達は責任の重さを感じており、私達は技師長の信頼を得


る為には絶対見逃す事の無い様にと必死で試験を行ないました。」


「その試験ですがどの様な方法で調べたのですか。」


「はい、実は使い古した筆が有りましてその筆に水をしませこの部分に水滴を落とし下から僅かの水滴


漏れが有るのか無いのかを調べたのです。」


「其れで、結果は如何だったのですか。」


「はい、其れは勿論これを作られましたこの方々の腕前は素晴らしく、技師長が要求されましたがほんの


僅かに染み出るくらいと申しましょうか、でも殆ど分からない程で御座いました。」


「では、髪の毛は入るのですか。」


「源三郎様、其れはオレ達が試しながら作ってたんですよ、石川さんにお願いして筆の毛を1本頂き、そ


うだこれなんですよ。」


 其れは筆の毛1本を細い木に括り付けた小道具で有る。


「これで何を試されるのですか。」


「はい、この先が細くなってるんで、先が入るか入らないまで少しづつ削るんです。」


「えっ、ですが削るって言われましたが。」


「これなんですよ。」


「えっ、これは。」


「はい、これも石川さんから頂いたんです。」


 其れも使い古した筆の先に何かを少し入れた物だ。


「これを何に使うのですか。」


「はい、じゃ~ちょっとやって見ますよ。」


 職人は傍の皿に入れた細かい砂を筆の先に付け。


「これをね削るところに当て回すんですよ、すると削られたところだけが他の色と違いますますのでねこ


れを何回も繰り返すとこの毛の先が入る、まぁ~これを削ると言う事なんですかねぇ~。」


 何とも気の遠くなるほどの仕事だ、だがそれ程までにも必要なのか。


「なぁ~げんた、空気の取り入れ口の加工品だけど、それ程重要なのか。」


「勿論だよ、あんちゃんも元太あんちゃんの言った事を覚えてると思うんだ。」


「ええ、確かあの時元太さんは足踏み機が急に重くなったと。」


「あんちゃんそうなんだ、其れでオレはまぁ~適当なところに穴を開けたんだ、だけど穴から空気が出


ないと船の中に海の水が入るんだ。」


「げんた、私も今分かりましたよ、げんたが何故その加工品が重要だと考えた理由が。」


「う~んやっぱりだなぁ~あんちゃんはさすがだ。」


 だが、傍に居る石川も吉川も其れに、鍛冶職人達も意味が全く分からない。


「源三郎様、オレはさっぱり分からないんですが。」


「其れはねぇ~この空気の取り入れは単に空気だけを入れれば良いのではないのです。


 取り入れ口から空気が漏れると言う事は船内の空気が抜ける所とは別の所から抜けて要るのです。


 その為に空気を出す為の穴から海水が入り乗組員を危険にさらすと言う事なのです。」


「えっ、じゃ~この加工品に髪の毛1本以上の隙間が出来ると言う事は下手をすると乗ってる人が死ぬっ


て事になるんですか。」


「はい、その通りですよ、ですからこの装置には髪の毛1本以下の隙間だけが許されると、そうですねぇ


~げんた。」


「あんちゃんの言う通りなんだ、他の風車型や水車型は全部最初から海の中に入ってるからね別に乗って


る人に危険は無いんだけど空気の取り入れ口だけはどんな事が有っても隙間は髪の毛1本が通らない様に


したいんだ。」


 げんたはその様な説明をした事が無い、其れはこの職人達には説明をする必要も無い。


 下手に説明するよりもこれを作って欲しいと言えば必ず要求通りの物を作ってくれると言う職人を信頼


しているので有る。


「でも、さすがですねぇ~げんたの言った通りの物を作られるとは。」


「源三郎様、今、初めて聞きましたがオレはもっと隙間を少なくしたいんですよ、回ってもその僅かな隙


間が作れる様にしますよ。」


「あんちゃん、オレはなぁ~この浜の人達に無理を言ってるんだ、だけどみんな分かってくれるから次の


参号船はもっと凄い潜水船を造る事に成るぜ。」


「技師長、自分はやはり何かを忘れていた様に今初めて気付きました。」


「吉川さんも石川さんも大変なんだぜ、だってこの二人は休みも取らないんだからなぁ~。」


「いいえ、今のお話しを聴きまして、私は改めて技師長の考え方は素晴らしいと思いました。


 何故、髪の毛1本の隙間を要求されたのか、其れは乗組員の命を守る為だと。」


「まぁ~簡単に言えばそんな事なのかなぁ~、あんちゃん、其れにだ、吉川さんと石川さんはねぇ~、毎


日夜中まで書き物をしてるんだ。」


「技師長、其れは当然ですよ、自分と吉川殿は毎日その日有った事、技師長が何を言わんとされて要るの


か其れを書き留め無ければ明日の予定がつかめないので。」


「だけど、オレってそんなに難しい事を言ってるのかなぁ~。」


「其れは違うと思うのです、自分達が聞き逃した事の方が間違って要るのです。」


「だったらその時に聴いて欲しいんだ、吉川さんも石川さんもオレに取っては大切な仲間なんだからな


っ、今のオレにはねぇ~、二人だけがオレの事を分かってくれてるんだ。」


「いいえ、自分達はまだまだ出来ておりません。


 先程の空気の取り入れ口にしても、何故其れまで必要なのか、もっと早く知るべきだったと、今は反省


しております。」


「なぁ~あんちゃん、お願いが有るんだ。」


「何でも聴きますよ。」


 源三郎はげんたの優しさは知って要る。


「だったら、明日でも明後日でもいいんだけれど紙と筆、え~っとこれは無理かも知れないなぁ~。」


「何ですか。」


「うん、字を書く時の墨なんだけど。」


「う~ん。」


 これにはさすがの源三郎も参ったので有る。


 墨は書き物をする前に硯で作る物で有り、果たして事前に作って保管出来るのだろうか。


「なぁ~あんちゃん、オレの無理を聴いてくれよ、二人が可哀想なんだ、オレが何を言ったか全部書いて


夜中まで掛かって別の紙に書き直してるんだぜ。」


「総司令、私は何とも有りませんので。」


「いいえ、私が何とか考えてみます、お二人が書き留められた書き物は大切な物です。


 私はお二人の負担を少しでも減らす事が出来れば其れで良いのですから。」


「う~ん、やっぱりあんちゃんだなぁ~。」


「げんた、其れで先程の話しですが空気の取り入れ口なのですがね。」


「うん、一度、全部取り外して少しう~ん、話しは難しいけど其れから最初から組み立てて行くんだ。」


「全部、外すならば大変な作業になると思いますが。」


「うん、外すだけでも簡単には出来ないんだ、だから吉川さんと石川さんの協力が無かったら外す事も組


み立てる事も出来ないんだ、まぁ~他の人達だったら無理だと思うんだけどなぁ~。」


 げんたの言う通りで、取り外すのは水車型の船内部分だが、はめ込むだけでも大変で、其れを今度は取


り外し、又、改良し組み立てるとは何故それ程までに必要なのだろうか。


「では、何日位掛かるのですか。」


「あんちゃん、そんな事オレが分かると思うのか、最初とは全然違うんだぜ、其れに鍛冶屋のあんちゃん


達が必死で作ってくれたんだぜ、あんちゃん、オレはなぁ~どんな事をしてでも絶対に取り付けるんだ。


 其れが全部出来てから参号船に取り掛かるんだから其れだけは分かって欲しいんだよ。」


 げんたの意地なのか、壊す事も無く上手に取り外す事が出来れば、次の参号船建造に役立つとげんたは


考えて要る。


「ですが、げんた余り無理をしないで下さいよ、今のげんたは連合国に取っては一番大事な身体ですから


ねぇ~。」


「えっ、其れって、あんちゃんよりもか。」


「当たり前ですよ、げんたが若しも事故にでも有ったら其れはもう大変な事になるのですからねぇ~。」


「ふ~ん、なぁ~んだそんな事か。」


 げんたは何か不満でも有るのか、源三郎も分かって要る。


「げんた、何か言ってくれませんかねぇ~。」


「いゃ~いいんだ。」


 源三郎はこれから先の事を考えると、この浜には出来るだけ多く来なければならないのだと、其れは、


また、げんたの機嫌を損ねる事だけは避けなければならないと思うので有る。


「なぁ~、其れよりもあんちゃんの用事は何なんだ。」


 やはり、げんたは源三郎が来た本当の目的を聴きたいのだ。


「げんた、あの話ですがどうですか。」


「どうですかって、あんちゃんは決めてるんだろう。」


「まぁ~ねぇ~。」


 源三郎はニヤリとした。


「いいよ、何人でも。」


 源三郎の思った通りでげんたは承諾した。


 だが、問題は多く有る、今、此処に居る吉川や石川の様に本当の意味で必死になってくれなければ、げ


んたが次の参号船を先に完成させれば何も分からずに終わり、其れが後々大変な事になり野洲以外で潜水


船を造る事は不可能な事態になるだろうと、源三郎は危惧して要るので有る。


「其れで、げんたはみんなに教えるのですか。」


「いいやオレは何も教えないよ、だって本気だったらオレの言った事も何をしているのか、そんな事自分


で考えて作るんだ、あんちゃんも知ってるだろうけど、オレはねぇ~何回も、何回も失敗してるんだぜ、


だけどオレは絶対に造るんだって本気でやってるんだ、そうでしょう、吉川さん、石川さん。」


 吉川も石川も何も言わず黙って頷いて要る。


 げんたは人から学んだ事は直ぐ忘れると思って要る。


 自らが必死になって覚え様とするならば何も難しい事は無い、ただ、その気持ちが何時まで続くのか其


れが全てだと言うので有る。


「分かりました、菊池も上田も松川にも、其れに山賀にも伝えます。


 これからは本気で無ければ何も学ぶ事は出来ないし、その結果は直ぐに分かりますとね。」


「だったら、あんちゃんに任せるよ。」


「其れで、げんた今日にも取り付けるのですか。」


「いいや、やっぱり無理なんだ。」


「えっ、ですが取り入れ口の。」


「あんちゃん、歯車が要るんだから。」


「今、作られている物ですか。」


「うん、そうだよ、歯車が全部出来たら取り付けに掛かれるんだ。」


「申し訳無い、オレ達も。」


「いいんだって、あんちゃん達も必死で作ってくれてるって知ってるんだから、まぁ~ゆっくりと作って


欲しいんだ、そうだみんなで弐号船の中を見てくれよ、あんちゃん達が作ってた物が本当に大事な物だっ


て分かると思うからね。」


「そうですよ、一日位仕事を止めても無駄にはなりませんからねぇ~。」


「其れだったら今から行こうか。」


 其れから直ぐ源三郎と鍛冶職人達と吉川、石川もげんたと一緒に洞窟へ向かった。


 今の洞窟は何時でも入る事が出来る様になった。


 元太は今日洞窟の中の居り、暫くして源三郎達を乗せた小舟は洞窟へと入った。


 洞窟の先端部ではもう直ぐお城の空掘りに到達する。


 銀次達も何故か元気が出て来たのか、其れは大騒ぎで掘削して要る。


 洞窟に上陸した鍛冶職人達も初めてで其れは大変な驚き様で有る。


「わぁ~凄いなぁ~こんなにも大きな洞窟とは知らなかったよ。」


「うん、本当に大きいなぁ~。」


「あんちゃん達、其れが潜水船のイ零弐号船なんだ。」


「わぁ~でかい船だなぁ~。」


「うん、船体はね大工さん達が造ってくれたんだぜ、まぁ~此処の大工さん達以外にこんな見事な潜水船


は簡単には造れ無いよ、じゃ~みんな中に入って。」


 げんたが先頭になり入り、灯りを点け源三郎も初めて見る弐号船の内部で有る。


 内部には船外の水車型と風車型に向かって黒い鉄の棒が付いて要る。


「げんた、少し聴きたいのですがね、空気の取り入れ口は素晴らしい作りですが、この横と後ろに延びる


黒い棒ですが。」


「あ~この棒ね、横の棒が外の水車型と、其れと縦の棒は後ろの外に有る水車型と繋がってるんだ。」


「ほぉ~なるほどねぇ~、ですがこの二本の棒も船外では海の中に出ると思いますが、でも、此処からの


水漏れは無いのですか。」


 源三郎は素朴な疑問を持った。


「あ~これか、これはなぁ~オレが作ったんだぜ、だから絶対に水は入らないんだ、まぁ~この作り方は


あんちゃんに説明しても分からないと思うんだけど、あんちゃんは聞きたいんだろう。」


 げんたは自慢げに鼻を鳴らしている。


「まぁ~げんた其れは後日と言う事で宜しいですよ、大体の予想は付きますからねぇ~。」


「やっぱりあんちゃんだ、其れでねさっきの加工品の事だけど、あんちゃん、天井に穴が三か所有るのが


見えると思うんだけど。」


「あ~あの穴ですか、今は栓をしているようですが。」


「うん、其れが一番の問題なんだ。」


「技師長、オレ達が作った加工品とその穴に何か関係が有るんですか。」


「其れはね、あんちゃん達に何で無理を言ったか説明するとね。」


 げんたは鍛冶職人達に詳しくは説明した。


「え~そうだったのか、其れでやっと分かりましたよ、大きな隙間が有ると空気はその隙間から抜けて、


あの穴から水が入るんだ、えっ、じゃ~乗ってる人は溺れて下手をすると死ぬって、えっ、わぁ~そんな


に大事だったのか。」


「うん、そうなんだ、だからオレはあんちゃん達に無理を承知でお願いしたんだ。」


 げんたが要求した空気の取り入れ口加工品は本来ならば一部の隙間も有ってはならない。


 だが、その様な物を作ると言う事は反対に故障する可能性が有り大事故になると、其れではと考えた方


法が髪の毛1本の隙間この程度で有れば船内の空気が多ければ天井の穴から余分な気が出、船内に海水は


流入しないのだと。


「技師長、私は其処までは考えておりませんでした。


 これからはもっと深く考え書き留める様に致しますので。」


「吉川さん、まぁ~其れだけ分かって貰えばオレが何を考えてるか分かって貰えると思うんだ。


 だけど今度来る人達だけど其れを考えないとオレが何を説明しても分からないと思うんだ。」


「う~んそうですねぇ~、確かにげんたの言う通りですねぇ~、ただ、潜水船を造れば良いと言うでは無


く、何故其れが必要なのかその事を深く考えて造らなければ潜水船は事故を起こし、乗組員は水死と言う


事になりますからねぇ~。」


「吉川さんも石川さんもオレの言った事を書くのも大事だと思うんだ、だけど潜水船は海の中に潜って初


めて役に立つとオレは思ってるんだ、だけど、造る時には何で其処までと思わないとオレは駄目だと思う


んだ。


 オレの造った潜水船で元太あんちゃんや鈴木のあんちゃん上田のあんちゃんが溺れるんだ。


 だけど、オレは何も分からないんだ、あんちゃん達が船の中で溺れて苦しんでる夢を何回も見るんだ、


天井からどんどんと海の水が入り、潜水船は浮かんで来ないんだ、で、はっとして目が覚めるんだ。


 なぁ~あんちゃんだったらオレの言ってる事は分かると思うんだけど。」


「其れは私もよく分かりますよ、潜水中に溺れ死ぬなんて事は私も考えたくは有りませんからねぇ~。」


「うんそうなんだ、だったら海の水が穴から入らない方法は無いかって考える事にしたんだ、なぁ~あ


んちゃん、オレは夢で終わって欲しいんだ。」


「オレ達もこれからは技師長が何で其処まで言うんだって考えて作りますよ、だって、今までそんな事


なんか考えて作って無かったんですからねぇ~。」


 鍛冶職人達も今までは言われる物だけを何も考えずに作っていた、だが、空気の取り入れ口の加工品に


は、何故其処までにして作る必要が有るのか、其れが初めて分かりこれから先に作る時には、ただ、作る


のでは無く、何故微細な加工技術を要求されるのかを考え作らなければならないと理解したので有る。


「あんちゃん達にも無理ばっかり言って、オレが説明するのを忘れていたんだ、オレが悪いんだ、ごめん


なさい。」


 これが、げんたの良いところだ、其れでも源三郎は何かを真剣に考えて要る。


 菊池から山賀まで一体何人が野洲に来るのだろうか、そして、その者達に何処までの話をすればいいの


だろうか、其れにもまして、今のげんたに後何隻の潜水船を造る事が出来るので有ろうか、其れに、まだ


まだ他にも多くの工事も行われ、これからはもっと人手不足になると言うので有る。


「なぁ~げんた、聴いても宜しいでしょうか。」


 げんたは勘の鋭い子だ、源三郎は今日浜に来て途中から深刻に何かを考えて要る。


「うん、いいよ。」


「げんたは今一人で考え作って要ると思うのですがね。」


「うんそうだよ、だって潜水船を考えたのはオレなんだぜ。」


「其れでね、私も先程から色々と考えて要るのですが、う~んこれは本当に難しい。」


 源三郎はげんたに話し掛けたが何故か源三郎自身が深刻になり過ぎて要るのか、其れとも別の問題で


も有るのか一人で悩んでいる。


「なぁ~あんちゃん、一体どうしたんだ、オレに出来る事が有るのか。」


「実はねぇ~、げんたの事が大切でしてね、お二人はげんたから見てどの様に思いますか。」


「えっ、其れって吉川さんと石川さんは大丈夫かって言う事なのか。」


「そうですよ、で、如何でしょうか。」


「う~んそんなの難しいんだ、だってまだ来たばかりなんだぜ。」


「勿論、私も十分承知しておりますよ、其れで二人はげんたの片腕として十分ですか。」


「其れなら大丈夫だよ、其れはねぇ~二人は今までのお侍とは全然考え方が違うんだぜ。」


「へぇ~そうですか、其れでどの様に違うのですか。」


「二人はね本当に熱心なんだ、其れとオレとは違って怒られるかも知れないけれど馬鹿見たいに真面目


で、だからオレは自分が考えた事を全部覚えて欲しいと思ってるんだ。」


 吉川と石川の二人は何も言わず静かに聴いて要る、其れに鍛冶職人達も同様だ。


「其れは良かったですねぇ~、其れでね、今、げんたが全部行なって要ると思うのですが、今の弐号船ま


ではげんたが責任を持って造って欲しいのですが、次の参号船からはこの二人を中心に造らせて欲しいの


ですがねぇ~如何ですかねぇ~。」


「えっ、総司令、自分達はまだその様な技術も有りません。


 其れにまだ殆どと申しても良い程分からない事の方が多いのです。」


「まぁ~まぁ~、私の話しを聞いて下さいね。」


 源三郎は吉川と石川に、そして、げんたにも鍛冶職人達にも分かる様に詳しく説明を始め、何故、源三


郎が二人に次の参号船から中心になる事が必要かと、其れは、余りにもげんたが我が身を酷使して要る様


に思えたので有る。


「げんた、分かってくれましたか、私はねぇ~げんたが心配なのですよ。」


 げんたは反論もせず静かに聴いて要る。


「げんたに若しもの事が有れば一番悲しむのはげんたのお母さんですよ、其れに私もですよ、勿論、浜


の人達全員がですよ、私はねぇ~げんたの責任感が強いのはよ~く知っておりますよ、でも、これからは


ねぇ~げんたの身体はげんただけのものでは無いと言う事なのです。


 げんた其れだけは分かって下さいね、私は将来げんたが連合国の中でも最高の技術者として、げんたの


考えた潜水船を改良された新しい潜水船の建造も出来る事を願って要るのです。


 確かに今のげんたは大丈夫ですよ、ですが今此処で無理をしてみんなを悲しませるよりも長く浜の人達


と我々の為に頑張って欲しいのです。」


「なぁ~あんちゃん、オレはねぇ~ず~っとこの仕事を続けたいんだ、其れに。」


「だからですよ、げんたは二人に持って要る全てを教えて欲しいのです。」


 げんたは源三郎の言う事は理解している。


 だが、今までの全てを教えられる二人は大変な負担が掛かるが源三郎は何故か今恐ろしい程の危機感を


感じて要る。


 其れは何故だか源三郎自身も分からない、若しかして、今何処かで何を探って要るのか分からない田中


の事が頭の角にでも思い浮かんで来たからだろうか、其れとも源三郎の第六感なのか。


 今までの源三郎ならば何かを感じた時の対応は素早く、其れが全ての問題を解決へと導いたのは間違い


は無かったので有る。


「鍛冶屋さん達も如何ですか、私はげんたが全体を考え、細部の事に付いては二人に伝えるだけで、後は


二人が考え鍛冶屋さんや大工さん達と話し合って進めて行くと方法なのですが。」


「源三郎様、オレは大賛成ですよ、技師長の考え方を吉川さんと石川さんが理解し、オレ達と話し合う、


その方がオレ達よりも技師長の負担が減ると思うんですよ、だってオレは技師長の、いや、げんたの生


まれた時の事も知ってるんですよ、そんなの城下のみんなも知ってるんですから、なぁ~げんた、オレは


なぁ~源三郎様の言われる事が正しいと思うんだ、げんたも大人になれば嫁さんを貰うんだ、そして、出


来た子供にもげんたと同じ様に潜水船を造って貰うんだ、オレはなぁ~その姿を見たいんだ。」


「技師長、総司令の申される通りだと私も思います。


 私も石川も、もっと必死に学んで行きますので総司令の申される様にして下さい。」


「分かったよ、みんな有難うオレは本当に嬉しいよ、なぁ~あんちゃん、じゃ~オレからも頼みたい事が


有るんだけど。」


「何ですか、その頼みって。」


「なぁ~あんちゃん、オレ文字を覚えたいんだ、だって今全部吉川さんと石川さんに書いて貰ってるん


ぜ、其れに二人が忙しくなったら、其れこそ全部言える事が出来ないと思うんだ、だからオレはその時の


為に文字を覚えて、オレが書けば吉川さんと石川さんも少しは助かると思うんだ。」


「私は勿論大賛成ですよ、けれど、げんたが文字を覚えますとねぇ~二人は大変ですよ。」


「総司令、何故、御座いますか。」


「其れはねぇ~。」


 源三郎は面白くなってきたとニヤリとした。


「二人の仕事は減ると思いますがね、その代わりに説明するのが大変になりますよ。」


「ですが、文字を覚えますと書き物として残りますので、私は、えっ、正か。」


「ええ、その正かですよ、げんたが書くと言う事はその文章の全てを理解しなければなりません。


 今までは言葉として伝えておりましたが全てを文章ですからねぇ~、その解釈を間違えると先程の様に


微妙な事は言葉で言ってましたが、まぁ~二人にお任せしますよ、私は城に戻って紙と筆と、そうでし


た、先程も言われておりましたが墨ですねぇ~、其れを何とか考えますからねぇ~。」


「じゃ~オレ達も教えて欲しいんですが。」


 鍛冶職人も文字を教えて欲しいと、其れは吉川と石川にとっては嬉しい事でげんたも鍛冶職人が文字を


覚えれば何も吉川や石川の手を借りる事も無くなるので有る。


 源三郎の予想外の展開となったが、大きな問題が残って要る。


 今のげんたに他国の者達を受け入れるだけの余裕が有るのか、其れを知らなければならない。


「なぁ~あんちゃん、前に言ってた事だけど。」


 正かとは思った。


「前の話しですか、どんな話しでしたかねぇ~。」


 源三郎は咄嗟に恍けた。


「あんちゃんが他の国の人にもって言ってた話しなんだぜ。」


「あ~そうでしたね、其れで。」


「オレもあんちゃんの言ってる事は分かるんだ、だけど。」


 やはり、今、直ぐには無理なのか、


「分かりますよ、げんたは早く弐号船を完成させたいと言う気持ちですねぇ~。」


「だけど、この船が出来ると、う~ん。」


 げんたの頭の中は多分参号船の事でいっぱいなのだろう、だが、参号船の建造に入ると吉川も石川も今


まで以上に忙しくなる。


「げんた、私はねぇ~この弐号船を参考にしたいと思って要るのです。」


「あんちゃん、オレは別の事を考えてるんだ、鍛冶屋のあんちゃん達が作ってる歯車が出来ると組み立て


其れで終わるんだけれど、オレはその人達には潜水船を初めから造るところから行きたいんだ。」


 源三郎は唖然とした、げんたは完成した潜水船では説明しても本当の苦労は伝わらないと考えたのだろ


う、其れに参号船を建造する為に必要な専用の台はまだ作られていない。


 大工さん達も洞窟内を早く完成させたいと毎日が戦争で内部を補強する為に必要な材料を作っており、


 其れと平行して専用台を作れとは、今の状況ではげんたでも言えないので有る。


「あんちゃん、今はね大工さん達も大変なんだぜ、其れに洞窟内からはもう少しでお城まで出来るんだ、


銀次さん達も早く終わりたいと言ってるんだ、だから、オレも今船台と参号船の材料を作って欲しいって


言えないんだ。」


 げんたは受け入れを拒否するのではなく、今は弐号船を完成させる事だけを考えて要る。


 参号船は大工さん達の様子を見てから頼む、今は其れ以上の仕事には入れ無いのだ。


「では、参号船を造り始めてから他国の人達に見せると言うのですか。」


「うんそうなんだ、其れだったらオレも吉川さんも石川さんもその人達に話す事も出来ると思うんだ。


 其れと弐号船は壱号船とは違って、十人くらいは乗せる事が出来るから訓練にも便利だと思うんだ。」


 げんたは野洲の家臣達の為の訓練船と考えて要る。


 源三郎としても其れは大変有り難い話で、一度に十人以上の訓練が出来れば何度でも乗り訓練が行な


える、更に、改良しなければならないところも訓練中に分かるだろうと考えたので有る。


「分かりましたよ、げんたは早く弐号船を完成させ訓練船として使えば良いと考えて要るのですね。」


「うんそうなんだ、其れで洞窟が完成すれば、オレは参号船の図面を作りたいんだ。」


 なんと源三郎の考えて要る先をげんたは進んでいるので有る


「げんた、よ~く分かりましたよ。」


 それだけの日数が有れば人選と説明には十分でも有り、今はげんたの言う事の方が正しいので有る。


 其れから、十日後の昼頃。


「お~い、銀次は。」


「お~、オレは此処に要るぞ。」


「銀次、来いよ、もうお城まで行ったと思うんだけれどなぁ~。」


「えっ、本当か。」


 銀次と数人の仲間が洞窟の最先端へと走って行く。


 仲間は小さい穴が開き確かに向こう側に辿り着いた様だと言うので有る。


「お~やったぜ、よ~しもう少しだみんな頑張ろうぜ。」


「お~。」


 小さな穴が次第に大きくなり。


「うんやっぱり間違いない、此処は空掘りの井戸だぜ。」


「やったなぁ~。」


「やった遂にやったぜ、みんなに言ってくれ空掘りまで行ったって。」


 仲間達は大喜びで手を叩き飛び跳ね、もう洞窟内は大騒ぎで海岸の洞窟から一里も有る洞窟と言うの


か、隧道と言うのかお城までを開通させてので有る。


「よ~しオレが穴から出て源三郎様に知らせに行ってくるから。」


 銀次が最初に空掘りへと抜け出し、源三郎の執務室へと向かった。


「源三郎様、やりましたよ、貫通しましたよ。」


「えっ、其れは誠ですか。」


「はい、今、オレがその穴から来ましたので間違い有りませんよ、さぁ~源三郎様来て下さい。」


「分かりました、では参りましょうか。」


 さすがに源三郎も嬉しさは隠せない、執務室の家臣達も一斉に東門へと走って行くと。


 其処には銀次の仲間達が次々と空掘りから出て来る。


「銀次さん見事に貫通しましたね、銀次さん皆さん本当にありがとう、私は今最高に嬉しいですよ、其


れも皆さん方のお陰です。」


 源三郎は銀次とその仲間に頭を下げた。


「源三郎。」


「殿、銀次さん達が遂に貫通させてくれました。」


「銀次、皆の者、余からも礼を申すこの通りじゃ。」


 殿様も思わず頭を下げた。


「お殿様、頭を上げて下さいよ、オレ達はみんなのお陰で此処までやって来れたんです。


 大工さん達もです、お殿様でも本当に良かったです。」


 直ぐ近くには大勢の家臣達が集まり、誰もが我が身の様に喜びを表せて要る。


「源三郎、でかしたぞ、もう余は何も申す事は無いぞ、皆の者今宵は祝杯じゃ。」


「お殿様まだですよ、だって大工さん達に作って貰ってる補強材を組み立てが終わって初めて完成する


んですから。」


「銀次、許せ、余が早とちりをした、では全てが終わったならば皆は城で祝杯は致すのじゃ。」


 殿様も嬉しさの余り、つい早とちりしたので家臣も銀次達も大笑いをしている。


「さぁ~みんな戻って、大工さん達の手伝いに行こうぜ。」

 その後、銀次達は次々と空井戸から洞窟の中へと戻って行く。


「親方。」


「お~銀次さんか今聴いたよ、貫通したんだって。」


「親方ありがとう、で、残りが五十尺程なんですが。」


「よ~し分かった、みんな聞いた通りだ、残り五十尺だ元気で頼むよ。」


「えっ本当ですか、よ~しやるぞ。」


 大工さん達も最後の追い上げだと急に元気が出て来たのか、残り五十尺分の補強材を作り始めた。


「銀次さん其れでお願いが有るんですが原木が必要なんだ。」


「えっ、でも残り五十尺ですよ。」


「銀次さん補強用じゃないんですよ、げんたが造ってる潜水船なんだ。」


「えっまだ造るんですか。」


「うんそうなんだ、げんたは何も言わないが多分間違いは無いよ。」


「分かりましたよ、じゃ~補強材の組み上げするだけの人数を残し、明日からでも取りに行きますよ。」


「銀次さん済まないねぇ~。」


「いいえ親方、オレ達は何とも思って無いですよ、だってそうでしょうげんたが頑張ってるのに、オレ


達だけが終わったら其れこそ源三郎様に会わす顔が無いですからねぇ~。」


 大工の親方はげんたを我が子の様に思っており、銀次達も同じで弟だと考えて要る。


 その弟分が一人で頑張って要るのに自分達だけが浮かれる訳には行かないと言うので有る。


「其れにしても一体どれだけの潜水船を造るんですかねぇ~。」


「いゃ~其れはわしにも分からないんだ。」


「じゃ~親方これからは潜水船の材料を作るんですか。」


「まぁ~一応げんたに聴いて見ようと思ってるんだ、其れによってはまた銀次さんにお願いする事になり


ますが。」


「オレ達は何時でも宜しいですよ、じゃ~今回少し多く持って帰りますか。」


「うん、其れは大助かりですよ、少ないよりも多い方が安心出来ますからねぇ~。」


 銀次は半分の人数を残し、半分で原木を取りに行く事になった。


 その頃、げんたも弐号船を完成させた。


「元太あんちゃん、やっと出来たよ。」


「えっ、出来たって弐号船がか。」


「うん、この船で訓練が出来ると思うんだ。」


 げんたは別に大喜びする事も無しに何時も通りで有る


「オレ、今からあんちゃんのところへ行ってくるよ。」


「じゃ~オラも一緒に。」


「うん、そうだ吉川さんと石川さんも一緒に行きましょうよ、其れとついでに紙も。」


「はい、では荷車を。」


「お城に有るから大丈夫だよ。」


 げんたも久し振りのお城で吉川も石川も同じで四人は浮き浮きした表情でお城へと向かった。


「そうだ、吉川さんと石川さんも久し振りだから、ねぇ~家に帰ったら。」


「いいえ、私なら。」


「オレはねぇ~吉川さんや石川さんの為に言ってるんと違うんだ、親の為なんだぜ役目だと分かっても


親は心配なんだぜ、オレの母ちゃんなんかあんな近くに要るのに帰るまで心配だって何時も言ってるん


だから。」


「オラも技師長と同じですよ、潜水船が完成したんだし、源三郎様に報告すれば終わりだから、まぁ~次


までには浜に戻ってくればいいんだから。」


「はい有難う御座います、でも一応総司令にお伺いしませんと。」


「あんちゃんは何も言わないって反対に言われるよ休めってね。」


「うん、そうだよ源三郎様の事ですからねぇ~今から数日間は休んで下さいねって。」


「元太あんちゃんもあんちゃんの真似が出来る様になったんだ。」


「はい、その通りですよ。」


 四人は大笑いしながら、城へと一里の道は笑い話で長くは感じなかった。


「おゃ~、あれはげんたさんですよ。」


「本当だ、おや漁師の元太、いや、元太船長も一緒ですよ。」


「久し振りですねぇ~、まぁ~何と珍しい事に吉川さんと石川さんまでも一緒で何か有ったんですかねぇ


~。」


「うんまぁ~ねぇ~、で、あんちゃんは。」


「はい、今、執務室で殿様と。」


「じゃ~行ってくるよ。」


 げんたは何時もの様に執務室に向かおうと、だが、後ろの吉川と石川は身体が固まり顔は青ざめ殿様が


要ると言うだけで変な緊張をしている。


「あんちゃん。」


「お~これは、技師長では元太船長もですか、其れに吉川様と石川様までと言う事は。」


「うん、出来たよ、やっとね。」


「げんた、いゃ~技師長、出来たとはイ零弐号船の事か。」


「うん、そうだよ。」


「でかしたぞ、うん、でかした、大変で有ったろう。」


「いゃ~そうでも無かったよ、浜のみんなが助けてくれたんで。」


「では、何時、海に。」


「う~んまだ決めて無いんだ、だから来たんだよ、あんちゃんが決めて欲しいんだ。」


「う~んそうですねぇ~、では十日後では如何でしょうかねぇ~。」


「うん其れでいいよ、じゃ~吉川さんも石川さんも十日後にね。」


「はっ、はい。」


「何じゃ、その十日後と申すのは。」


「殿様、吉川さんと石川さんの休みだよ、だってず~っと頑張ってたんだから、其れくらいの休みは当


たり前だぜ。」


「総司令。」


「はい、では決まりましたね、お二人は今日から十日間の休みに入って下さいね、分かりましたか。」


「はっ、はい、ですが私はまだお役目が。」


「私が決めるのでは有りませんよ、技師長が決めたのですからね、私は何も反対する理由は有りませんの


でねぇ~。」


「うん誠その通りじゃ、吉川も石川もご両親とゆるりとするのじゃ、これは余の命令じゃぞ、良いな。」


 殿様も二人が頑張って要るのは知っており、その十日後に戻れば良いと言うので有る。


「はい有難う御座います。」


「あんちゃんも、ねぇ~ちゃんと一緒に来るんだぜ。」


「えっ雪乃殿もですか。」


「当たり前だよ、だってまぁ~いいかとにかくみんなで来てよ。」


「技師長、余がみんなに伝えるぞ、のぉ~権三。」


「はい私も参りますので。」


「源三郎様、その日は浜で片口鰯の雑炊を作りますよ。」


「お~余も嬉しいぞ、あの雑炊は最高の美味じゃからのぉ~。」


「なぁ~んだ殿様は潜水船よりも雑炊が目的なのか。」


「うん誠その通りじゃ、余は雑炊の方が良いぞ、のぉ~権三。」


 殿様は大笑いし、其れに他の者達もつられて大笑いするので有る。


「じゃ~あんちゃん、十日後にな。」


「はい、承知致しました。」


 げんたはニコニコしながら浜へと帰って行った。


「源三郎、良かったのぉ~。」


「はい、私は吉永様達に文を認めます。


 十日後に潜水船を潜らせる試験に入りますので、と、その時には選ばれた者達もお連れ下さる様に


と。」


「よし決まった、十日後か、余は待ち遠しいぞ。」


「私もでも御座います。」


 だが、その十日後に大変な事態になるとは、この時源三郎も殿様も考えはしなかった。


 そして、十日後の早朝、源三郎は家中の全員を連れ、勿論、その中には雪乃も入って浜へと向かうので


有る。


 同じ頃、菊池、上田、松川では大殿様までもが、其れに山賀からも加えると一体何事が起きたのかと思


う程の人数が野洲の浜へと向かって要る。


 その頃、浜では早くも浜のお母さん達が総出で雑炊作りに入って要る。


「お~い今日はお殿様も来られるからなぁ~。」


「元太さん私達に任せてよ。」


 浜の女性達は何時も明るく元気だ、特に今日は潜水船を見る為に大勢が集まると言う特別な日で有る。


「技師長。」


「あんちゃん早いなぁ~。」


「げんた、今日はねぇ~私は乗りますよ。」


「分かったよ、じゃ~元太あんちゃんは船長で鈴木のあんちゃんは操縦棒を、で、上田のあんちゃんは足


踏み機だけど今度の足踏み機は前とは違うから中で説明するからね。」


 鈴木も上田も恐ろしい程緊張して要る。


 其れはイ零壱号船とは大違いで巨大な潜水船に見えるだ。


 その後、家臣達の中からはあの二人が手を挙げ。


「技師長、私達もお願いします。」


「あっそうか、うんいいよ、だって今訓練の最中だからね、そうだあんちゃんとねぇ~ちゃんは。」


「技師長、余も乗りたいのだが。」


「殿様は駄目だよ。」


「何故じゃ、何故、余は乗せて貰えぬのじゃ。」


「だって殿様が乗ったら誰も出来ないんだぜ。」


「う~ん。」


 野洲の殿様の後ろには菊池を始め、上田、松川、山賀から来た殿様もげんたと殿様の話を聴いて要る。


「ご家老、あのげんたと言う子供ですが、殿様に向かって何と言う言葉の使い方をするのですか、其れに


他の者達は何も言わずに笑っておられますが。」


「まぁ~まぁ~あれで良いのですよ、殿は楽しまれているのですからねぇ~。」


 吉永は知って要るが殿様とげんたの事を知らない者達にすれば町民の子供が一国の殿様に向かって言う


様な言葉使いでは無く、何時打ち首になっても不思議で無いと思って要る。


「まぁ~確かにのぉ~余が乗っても使いものにはならぬ、じゃが何故、源三郎と雪乃が乗るのじゃ。」


「そんなの簡単な話しだよ、だってあんちゃんは総司令官だから潜水船を知ってるのが当然なんだ、其れ


と、ねぇ~ちゃんはねぇ~まぁ~オレが決めたからいいんだ。」


「では、権三は。」


「ご家老様はねぇ~もっと駄目なんだ、だってお城の事だけで十分なんだ、まぁ~後からあんちゃんが


話すからね、え~っと其れから銀次さんも、で、後、二人頼むよ。」


「げんた何でオレが乗るんだ、オレは絶対に嫌だからね。」


「銀次さん其れが駄目なんだ、銀次さん達もこの潜水船の訓練に入って貰わないと。」


「だけど何でオレが乗るんだよ、オレは絶対に乗らないからねぇ~。」


 銀次とげんたのやり取りを聴いて要る、殿様とご家老様は大笑いをして要る。


 勿論、浜の人達は大笑いして要る。


「なぁ~げんた、何でオレ達が必要なんだ。」


「其れはねぇ~浜の漁師さんが船長なんだけど、船長は潜水鏡だけで判断するんだぜ、だけど船の中で


行き先を見る専門の人達が必要なんだ。」


「だけど其れは船長が見てるんだからいいと思うんだけどなぁ~。」


「船長が見てるのは小さな潜水鏡だけなんだぜ。」


「だけど元太さん達は海の事を知ってるはずだけど。」


「其れは勿論だけど、じゃ~仮に銀次さん達が船長で元太あんちゃんが行き先を言った時、今、何処を進んでるのか、船長が言って元太あんちゃんが居なかったとするでしょう、でも、潜水鏡で見ると沖の方に


島が見えてるんだ、其れが何処なのかを言うのが元太あんちゃんなんだ、オレは勝ってに考えたんだけど


船長が見てるものを後で今何処に要るから左か右を指示する大事な役目なんだぜ、其れを聴いて船長が操


縦棒を握ってる人に指示を出すんだ、だから銀次さん達がいないと外海には出れないんだ。」


「銀次さん、技師長の言う通りですよ、オラは潜水鏡で見てるけど、海の上で見るのと全然違うんだ、


オラは銀次さん達が頼りなんですからね。」


「う~ん。」


 銀次は悩んで要る、狭いところが嫌な銀次だが乗って貰わなければ今回の試験航海は出来ないと元太に


言われたので有る。


「分かったけど、この船は沈まないのか。」


「銀次さん、わしらが造ったんだから絶対に大丈夫だよ。」


 大工の親方も絶対に沈まないと太鼓判を押して要る。


「分かりましたよ、じゃ~乗りますけどね。」


 其れでも銀次はまだ何か不安そうな顔付だ。


「さぁ~元太あんちゃんから乗ってよ、其れでお殿様にお願いが有るんだけど。」


「げんた、何じゃ、其れは余がせねばならぬのか。」


「勿論だよ、だって殿様にこの縄を切って貰わないと潜水船は海の上に行かないんだぜ。」


「よ~し分かった、権三、太刀を貸せ。」


「はい、他のいやこれは我が野洲に取りましても、殿に取りましても最高の栄誉で御座いますぞ。」


「う~ん、其れにしてもじゃげんたの奴め誠憎い事を考えたでは無いか。」


「はい、殿だけに与えられた、最高の栄誉で御座います。」


「よし、何時切れば良いのじゃ、げんた。」


「其れで他の人達はこの太い縄を持って欲しいんだ、じゃ~オレが切ってと言ってから縄を切ってね。」


「よ~し、げんた何時でも良いぞ。」


 他の者達は息を殺して静かに潜水船の進水式を見守って要る。


「じゃ~、行くよ、縄を切って。」


 殿様は船首に括り付けて有る縄を切ると潜水船は船台からゆっくりとそのまま海の上に入った。


「ありがとう、じゃ~今から乗り込んで。」


 元太を先頭に鈴木、上田と続き最後に源三郎が乗り込んだ。


「鈴木のあんちゃんと上田のあんちゃん、今から説明するからね。」


 げんたは船内で鈴木と上田に説明を始めた。


「のぉ~権三、余は気持ちがすっきりとしたぞ、だが不思議じゃあの様な縄だけで大きな船体を支えて要


るとはのぉ~。」


「はい、私も驚いて要るので御座います。」


 暫くしてげんたが出て来た、説明が思ったのだろうか。


「げんた、お主は乗らぬのか。」


「オレは小舟で泡の出方を見るんだから乗れないんだ。」


「そうか、で、余はどの様にすれば見れるのじゃ。」


「漁師さん達が小舟を出してくれるから一緒に行きたい人は乗って。」


「権三、余は参るぞ。」


「はい、私もお供させて頂きます。」


 浜からは他のお殿様と家臣を乗せた小舟が洞窟へと向かい、洞窟からも殿様やご家老様達を乗せた小舟


が一斉に洞窟を出、今や遅しと潜水船を待っている。


「足踏み開始せよ。」


「足踏み開始しま~す、よ~そろ。」


 潜水船はゆっくりと動き始め洞窟の出口へと向かって行く。


「間も無く潜行を開始する、よ~そろ。」


「潜行開始しま~す、よ~そろ。」


 潜水船は元太船長の号令で洞窟の出口から潜行を開始した。


「間も無く右からの潮に当たる、右舵ちょい下げ~。」


「右舵ちょい下げ、よ~そろ。」


「左舵、ちょい上げ。」


「左舵、ちょい上げ、よ~そろ。」


「よ~しそのまま前進。」


「そのまま前進よ~そろ。」

「船長、足踏み重くなりました。」


「了解、第1栓開~け。」


「第1栓開きま~す。」


「よ~し泡が出てきたぞ。」


「前方入り江の出口までそのまま維持せよ。」


「直進よ~そろ。」


「左右の舵戻~せ。」


「左右の舵戻しま~す、よ~そろ。」


 浜に残った家臣達は唖然としている。


「なぁ~一体今どの付近なのだろうか。」


「いゃ~拙者も分からぬ、う~ん其れにしても何処に要るんだろうかなぁ~。」


「う~ん多分技師長が乗ってる小舟の海中だと思うんだけどなぁ~。」


「ですが何とも恐ろしい船を造られたものですねぇ~、あれでは海の上からでは一体何処に要るのかもさ


え分からないですからねぇ~海上の軍艦にとっては大変な脅威になりますよ。」


「私も同じですよ、敵方も正か海中に潜んで要るとは全く想像しておらないと思いますからねぇ~。」


「あの潜水船が数十隻も有れば幕府軍や官軍の軍艦は恐怖を抱きながらこの付近の海を通過しなければ


ならないのですから我々としても大変助かるのですねぇ~。」


「う~ん、ですが其れは如何なものでしょうか、其れよりも入り江の出口に向かって要る様ですが何処か


で一度浮上するすのでしょうかねぇ~。」


 他の者達も殆ど行って良い程必死で小舟の動きを見て要るが一向に浮上する気配も無い。


「間も無く方向転換する、左下げ、右上げよ。」


「左下げ右上げまぁ~す、よ~そろ。」


 其れに合わせてげんたや殿様を乗せた小舟もゆっくりと方向転換を始めた。


「う~ん、何故上がらぬのじゃ、何か有ったのか。」


「殿、我々では海の中は分かりませぬぞ。」


「う~ん、じゃがのぉ~何時まで潜っておるのじゃ、余は心配になってきたぞ。」


「泡も最初から変わらずだ、と、言う事は空気の取り入れ口は何も異常は無いと言う事なんだなぁ~、う


ん、よしこれでいいんだ。」


 げんたも満足し、方向転換を終えた潜水船は洞窟へと進路を向けた。


 潜水船は潜ったまま半時程で洞窟へと向かい、その後暫くして全員が浜に戻ってきた。


「源三郎、如何で有ったのじゃ。」


「殿、潜水船は素晴らしいですよ、う~んもう私は何も申す事は御座いませぬ。」


「そうか、其れは良かったのぉ~。」


「元太あんちゃん、鈴木のあんちゃんと上田のあんちゃんは最高かぁ~。」


「其れはもう最高ですよ、オラは安心して指示を出しましたが潮の流れを少し感じただけで、まぁ~オラ


はお二人に満点を差し上げたいです。」


「船長、私はもう必死でしたよ、イ零壱号船とは全く動きが違うのには驚きましたよ。」


「私もです、其れに空気の取り入れ装置ですが、私は歯車の動きでこれは伝える時だと思ったのです。」


「うん、オレも上から見てたけど、最初から最後まで泡の大きさが一緒だったんで安心したんだ。」


「技師長、栓ですが、一号栓だけで十分だと思いますが歯車の動きで分かりますので。」


「上田のあんちゃん、オレの思った通りだったよ、あんちゃん、もう大丈夫だぜ。」


「銀次さん、どうされましたか、顔が。」


「いゃ~何でも無いですよ、でもあのよ~そろですか、オレは物凄く気に要ったんですかねぇ~。」


「あれはねぇ~上田様が考えられたのですよ、皆さん方は如何でしょうか。」


「総司令、よ~そろ~です。」


「源三郎、何じゃ、今のは。」


「はい、潜水船の船長は全員が漁師さんで他の装置を動かすのが侍ですが、侍言葉でも無く、漁師言葉で


も無く、かと言って町民の言葉でも無いのです。」


「う~ん何だか分からぬが、皆が気に要ったので有れば余は何も言わぬぞ、また、下手を言うとげんたに


怒られるのじゃ、げんたは恐ろしいからのぉ~。」


 殿様はお道化て言った意味は誰でも分かっており、殿様もご家老様もみんなが大笑いして要る。


「なぁ~あんちゃん、大工さん達も鍛冶屋さん達もみんなが必死で造ってくれたんだ、だから、何日間は


のんびりして欲しいと思ってるんだけど。」


「は~い勿論ですよ、私に異論は有りませんからね。」


「雪乃、一体どうしたのじゃ。」


「私は今も信じる事が出来ないので御座います海の中に入っていた事が。」


「ねぇ~ちゃんはどうだったんだ。」


「そうね~息も普通に出来たし、でも、一度も浮き上がって無かったけれど本当に大丈夫なの。」


「ねぇ~ちゃん、オレを信じろよ、だって生きて帰ってきたんだぜ。」


「そうねぇ~だけど本当と言うとね、私とても怖かったのよ。」


「へぇ~ねぇ~ちゃんにも怖いものが有ったのか、よ~し今度は。」


「げんたさん、もう私は二度と乗りませんからね。」


「いいやオレが乗って貰うからね覚悟するんだぜ。」


「も~、げんたさんの意地悪。」


 雪乃もげんたも笑い殿様は大笑いして要る。


「ねぇ~みんな浜特性の雑炊が出来たわよ。」


「お~そうか、では余が最初に。」


「殿様、う~んまぁ~いいか、潜水船の縄を切ったんだから仕方無いか。」


「皆さん、あちらへどうぞ。」


「余はこの雑炊が今日一番の楽しみなのじゃ、で、雪乃、これと同じ雑炊は作れぬか。」


「殿、其れは無理で御座います。」


「雪乃、何故じゃ何故出来ぬので。」


「殿様、全て申しても宜しいので御座いますか。」


「うん、何故じゃ、余は何も隠してはおらぬぞ。」


「殿、先日も元太さんが届けて下さいました片口鰯を。」


「あれか、えっでは。」


「魚はこの中にも多くの魚が入っておりますが、殿はこの頃片口鰯を全部お一人で。」


「えっ、殿様、オラが届けた片口鰯は源三郎様にって、吉田様にお願いしたんですよ。」


「元太さん、殿様はねぇ~この頃は賄い処か執務室におられますので、元太さんが届けられた片口鰯は全


て殿様のお腹に。」


「えっ、じゃ~源三郎様は。」


「元太さん、私は何も知りませんよ。」


「済まぬ、源三郎、許せ、元太も許せ、じゃが元はと申せば源三郎が悪いのじゃ、余が何も知らぬと思っ


てこの魚を軽く焼きますと最高に美味しいと申したからなのじゃ、其れからじゃ余はもう片口鰯が大好物


になったのじゃ。」


「ですが、何も全てを食べられますと。」


「まぁ~良いでは無いか、もう済んだ事じゃ、で、雪乃、小魚が有れば出来るのか。」


 近くに居る浜の漁師達もご家老様も笑いが止まらない。


「でもこの味は浜のお母さんの味ですので。」


「では無理だと申すのか。」


「殿だけにお作りする事は。」


「では、皆の者も食べれば良いでは無いのか。」


「お殿様、今度、片口鰯を獲ってきますので。」


「元太、済まぬのぉ~。」


「一国のお殿様が漁師達と食べ物談義をするとは何と言うお国でしょうか、私はとてもでは御座いませぬ


が理解が出来ませぬ。」


「これが野洲ですよ、この国はでねぇ~領民は誰でもお城には自由に出入りしておりますよ。」


「えっ、吉永様、其れは誠で御座いますか。」


「はい、今の元太と言う漁師も農民も誰でも自由に来ますよ。」


「何故、その様な事が許されるので御座いますか。」


「野洲の話をしても理解は出来ませんよ、若、これが野洲なのです。


 今の源三郎殿の奥方様は松川の雪姫様と野洲の者達ならば誰でも知っており、雪姫様もこの雰囲気が気


に要られたのでしょうかねぇ~。」


「私も見習いますので。」


「若、野洲と同じ様には参りませぬが、若が正太達に正体が知られてからが本当の意味で始まると思いま


すが、別に急ぐ必要は無いと私は考えておりますので。」


 浜で殿様の大好物だと言う雑炊を食べ終え。


「なぁ~あんちゃん、オレはなぁ~参号船の事も考えて要るんだぜ。」


「まぁ~、げんたゆっくりとしては。」


「うん分かってるんだ、だけどオレはねぇ~今は潜水船を造るのが好きになったんだ。」


 源三郎はこれ程にもげんたが潜水船造りを喜ぶとは考えもしなかったので有る。


「ですがねぇ~余り無理をしては駄目ですよ。」


「うん、分かったよ。」


「げんた、そろそろ。」


「うん分かったよ。」


「皆様方、お集り下さい。」


 浜に来た野洲の家臣達も他国から来て潜水船の建造を学びに来た者達も源三郎の呼び掛けで別の所に集


まり。


「皆様方、先程イ零弐号船の試験航海を行ないましたが、乗った方々の全員がこの潜水船を大変素晴らし


い船だと申しておられます。


 これから先は野洲の家臣全員の訓練と菊池、上田、松川、山賀の各藩が選ばれました人達には潜水船の


構造から造り方の全てを学んで頂きます。


 私の知る限り潜水船は誰でも造れる様な簡単な船では無いと思っております。


 皆様方には全てを学び取り、自国に戻られれば潜水船の建造に入って頂きますので、尚、この潜水船は


全て秘密となっておりますので自国に戻れましても一切の口外は許しませぬ。


 では、この潜水船を建造した技師長から話しをして頂きますので。」


 源三郎は話の途中で悪い予感がした、だが、時、既に遅しで有る。


「オレの名はげんたです、オレは口が悪いから初めに言っとくけど、みんな何で書く物が無いんだ、オレ


の説明を全部暗記するつもりだったら絶対に不可能だぜ、なぁ~あんちゃん、なんでみんなは書く物を持


って来ないんだ、みんなは今日から潜水船の事を学ぶって、さっきもあんちゃんが言ったけど、何で返事


が無いんだ。


 此処に吉川さんと石川さん居るけどねぇ~、二人はねぇ~オレの話した潜水船の事を全部書いて其れか


ら家に入って毎日夜中まで掛かって書き直して要るんだぜ、そんなに頭がいいんだったらオレは何も教え


ないよこの潜水船を見て自分達で造れる物だったら造ればいいんだからね。」


「おい、小僧一体誰に対しての言葉使いだ、武士に向かってこの~小僧容赦はせぬ。」


 あ~遂にやってしまった、だが遅かった今の一言でげんたは本気で怒ったので有る。


「そうか、今の言葉で分かったよお侍の本心がね。」


「う~ん、許さぬ。」


「お主やめろ。」


「何故だ、何故あの様な小僧に教わらなければならなぬのだ。」


「止めろと言ってるのが分からぬのか。」


「今、申したのは一体何処の者じゃ。」


「殿、申し訳御座いませぬ。」


「何じゃと、吉永、山賀の者か。」


「はい。」


「吉永、その者を征伐するのじゃ、余が許さぬ。」


「えっ何故に私が征伐されなければならないので御座いますか。」


「殿様、もういいよ、そんな人の血でこの浜を汚して欲しくないんだ、なぁ~あんちゃん今の言葉がみん


なの本心だと思うからみんな帰ってくれよ、あんちゃんもだぜ、オレが子供だからって今まで騙してたん


のか、オレはもうあんちゃんの顔も見たくないよ、吉川さん、石川さんも今まで辛抱してくれてありがと


う、吉川さんも石川さんも今まで書いた物で一応潜水船は造れると思うけど潜る事は出来ないからね、だ


から絶対に造らないで欲しいんだ。」


 吉川も石川も何も言えない、げんたは二人には優しく丁寧に話し教えていたが肝心の部分まではまだ教


わっていなかったので有る。


 げんたは小舟に乗り洞窟へと向かった。


 源三郎の悪い予感は的中した。


 今日、参加して要る者達の中で潜水船を学ぶと言う者が一枚の紙も用意せずに来た、だが、其れよりも


げんたに対する言動がげんたを本気で怒らせてしまったので有る。


「元太さん、技師長は一体何処に行ったのですか。」


「いゃ~オラも分からないですよ、でも源三郎様、お侍って平気でオラ達を騙すんですかねぇ~。」


「元太さん其れは誤解ですよ、私は何も。」


「ですがあのお侍は何も分かって無いんですか、其れともやっぱりお侍の誇りなんですかねぇ~。」


「源三郎様、オレ達はげんたがどんな苦労して潜水船を造ったかって知ってるんですよ、オレ達だって、


源三郎様は命の恩人なんだ、その恩人の為にって今まで辛抱してきたんですよ、其れなのにあのお侍は何


も分かって無いって言うよりもお侍達はオレ達を騙してたんですよ。」


「銀次さん其れは違うのです。」


「源三郎様何が違うんですか、オレ達の言葉使いが悪いんだった早く切り殺して下さいよ、其れがお侍な


んだからもう嫌になったよ、げんたがどんなに悔しい思いをしてるか、あんなお侍にはまぁ~絶対に理解


なんか出来ないですよ。」


 銀次は浜に座り洞窟の方を見て要る、すると。

「あっ煙が、げんたやりやがったなぁ~。」


「えっ、正か。」


「源三郎様、げんたが潜水船に火を点けたんですよ。」


 さぁ~大変な事になった、げんたが大工が鍛冶屋が、其れこそ、みんなが大変な苦労をして完成させた


潜水船が燃えており、今の浜の人達にはどうする事も出来ないので有る。


「ご家老、私が申したのが悪かったので御座いますか。」


「もう遅いわ、例えお前が腹を切ったところで何ともならぬわ。」


「吉永様、私がうかつでした全て私の責任で御座います。」


「何も若の責任では御座いませぬ、私がもう少し気を付ければよかったのです。」


「のぉ~お主は何を考えて技師長にあの様な言葉を言ったのじゃ。」


 山賀の若い侍は野洲の殿様の前で小さくなり顔面蒼白の状態で有る。


「はい。」


「何じゃ聞こえぬわ、皆の者よ~く聴くのじゃ、あのげんたは野洲の、いや連合国に取っては一番の宝


じゃ、はっきりと申すがこの場におる誰よりも大切な技師長なのじゃ。


 何故、其れが分からぬじゃ、余が居なくとも野洲は残る、じゃが今の技師長がいなくなれば連合国は壊


滅するのじゃ、連合国が生き残れるか壊滅するやも知れぬのを技師長が考案した潜水船に全てを託してお


ると言うのが分からぬ者は今直ぐこの浜を去れ、いや余が征伐する、余はもう気力が無くなった。」


「元太さん、我々は一度城に戻りますので。」


「はい、でも源三郎様、誰も浜に来られなくても宜しいですよ、オラ達もお城へは行きませんので。」


 源三郎も殿様も今は何も言えず、野洲の城へと戻り始めた時。


「げんたが戻ってきたよ。」


「だけど確かにオラ達は大人だから我慢は出来るけど、げんたはもう限界だったんだなぁ~。」


「うん、わしも同じだよ。」


「親方、鍛冶の兄ちゃん、オレもう我慢が出来なかったんだ、其れでもう造らないつもりで全部燃やした


んだ、親方、ごめんなさい、兄ちゃん達許して下さい。」


 げんたは目に涙を為、浜に座り全員に土下座をした。


「げんたいいんだ、わしらはお前の気持ちは分かってるんだ、まぁ~これですっきりとしたんだからなぁ


~。」


「なぁ~げんた、造るのは何時でも出来るんだから何も気にするなよ。」


「オレみんなに悪かったと思ってるんだ、でも、でも、どうしても許せないんだ、侍を。」


 げんたは今の今まで我慢してきた糸が切れたのか初めて大声で泣き出した。


「なぁ~げんた、オレ達が居るんだ何も心配するなよ。」


「うん、でも親方。」


「もう済んだ事だよ、浜の人達は分かって要るんだから。」


 げんたは浜の人達に支えられきた、其れは本人が一番知って要る。


「げんた。」


「あっ、母ちゃんオレ。」


「げんた、何も言わないでさぁ~帰ろ。」


 げんたは母親に支えられ家へと帰った。


「のぉ~源三郎、余は何も考える事が出来ぬ、げんたの事じゃが。」


「はい、殿、其れよりも野洲もですが、連合国の家臣が一体何を考えて要るのか私は知りたいのです。


 確かに起きてしまった事は今更どうにもなりませぬが、私は先程から考えておりましたが、私は幕府軍


と官軍の戦争の話が家臣達は全く理解出来ていないと思うのです。」


「だが果たして何処まで信じるのじゃ、家臣達が理解したと申してじゃ。」


「はい、其れが問題なのです。


 野洲もですが菊池からも山賀からも軍勢が侵入したと言う報告は聞いてはおりませんので、何を元にす


れば良いのか、今の私では策が御座いませぬ。」


 他の者達は野洲のお城に着くまでは一言も話さずに、其れに、雪乃は涙が止まらない様子で有る。


「雪乃殿。」


「源三郎様、私は本当に悔しくて、今は何も考えられないので御座います。」


 雪乃は悔しいと言うが、本音はやはりあの侍が許せないのだろうか、だが、今更、其れを言ったところ


で一体何が変わると言うのだ。


「私はげんたさんがどの様な思いで潜水船を造られていたのか、其れが。」


 だが、雪乃は其れ以上何も言う事は無かった。


 そして、野洲のお城へ入り全員が大広間に集まり。


「皆様、私は大変な事を。」


「今更、其れを言ってどうなると言う、お主達は私の話しを真剣に受け止めて無かったと言う事だ。」


「叔父上様、義兄上様、私が全ての責めを受けますので。」


「松之介もう良い、だがこれは我が野洲だけの問題では無いのじゃ。


 菊池から山賀までの連合国としての問題じゃ、のぉ~吉永もう秘密にせず家臣達全員に全てを話しては


と思っておるのじゃが。」


「はい、私も先程から同じ様に考えておりまして、この者達と同じ様な考え方をする者が居るのも事実だ


と思います。


 私も全てを話しべきかと、今はその様に考えておりますが。」


「叔父上様、私は全ての家臣、其れは腰元達も全員含めてで御座いますが、私は吉永様にお任せするので


は無く私自身が話すべきかと、今考えております。」


「源三郎様、私も吉永様の申されます様に話すべきだと、ただ我々の話しだけで家中の者全員が信じる


かと言うよりも、どれだけ危機感を持つかと言う事では無いでしょうか。」


 源三郎はじ~っと考えて要る。


「私も阿波野様の申される通りですが、何か良い策が有るのかと申されますと今の私には何も浮かばぬ


と言うのが本音で御座います。」


「あの~宜しいでしょうか。」


 吉川が恐る恐る手を挙げた。


「吉川様、どの様な事でも宜しいですよ。」


「はい、私と石川殿は技師長がどれだけ苦労されていたのか知って要るつもりで御座います。


 技師長を皆様方は子供だと思われておられるでしょうが、確かに身体は子供で御座います。


 ですが頭の中は失礼かと存じますが、野洲、いいえ我々連合国の皆様方では到底太刀は打ち出来ませ


ぬ、その事を本当に理解出来ねば技師長が言った様に私と石川殿が書いた物だけでは絶対にと言っても過


言では無く潜水船を造ると言うのは不可能で御座います。」


「私も吉川殿の申される通りだと思います。


 私も技師長の説明を聞いておりますが、何度もえっ、と思う様な事を考えておられ、其れとですが、失


礼ながら私は皆様方がまだ本気になられておられない様に思うのです。


 技師長は私達が思って要る以上に頭の回転が早く、其れに大変賢いですよ。」


「総司令、失礼ながら私は明日から浜に参り何としても技師長の誤解を解きたい考えております。」


「う~ん。」


 源三郎も実は自らが出向きたいと考えて要る。


 だが、下手に今浜に行けば其れこそ火に油を注ぐ様なものにならないだろうかと、其れを危惧して要


るので有る。


「ですが、今日の明日では火に油を注ぐのでは御座いませぬか。」


「阿波野様、其れは私も考えました。


 ですが私と石川殿は技師長と寝食を共にしておりましたので、明日は会って頂けなければ、明後日、明


後日が駄目ならば其れこそ会って頂けるまで毎日でも浜に参る所存でございます。」


「どうだ、お主の言動でこの様な事態になったのだ、私の話が理解出来無かったのならば私の不徳の致す


ところだ、だが問題は話しを聞いて理解出来ないと言うよりもだ、理解する気持ちが無いとなれば話し


は別の問題だ、え~其れを分かって要るのか。」


 吉永は理解する気持ちが無ければ何を話しても同じだと言うので有る。


 若い家臣の言動が大変な事態を招いたのだと理解させなければならない。


「若、この者達の処分は如何なされますか。」


「吉永様、私に任せて頂きたいのですか、宜しいでしょうか。」


「はい、では若にお任せ致します。」


 源三郎は暫く考え。


「皆様、重要なお話しをさせて頂きます。」


「源三郎、一体何を考えておるのじゃ。」


「殿、其れに、皆様、今、我が野洲の城に官軍を脱走したと言う兵士がおります。」


 源三郎は井坂を一体どうするというのだ。


「今から官軍の兵士の話しを聞いて頂きますが、その話が事実なのか今の私に判断は出来ません。


 私は今回の大問題を何としても収めたいので御座います。」


「総司令、お伺いしたいのですが、その官軍の兵士が密偵だとは分からないのでしょうか。」


「本人が申しますには司令部を脱走したのだと。」


「司令部と申されますと官軍の本部か、何か。」


「まぁ~其れも全て本人が申しておりますので、其れとその兵士ですが可成り重要な情報を持っておりま


して九州の長崎では軍艦を建造する為に大きな造船所が有ると申されております。」


「えっ軍艦をですか、ではその造船所と申します所では既に軍艦を造っておると申されるのですか。」


「まぁ~その様な話しも全て話されると思います。


 其れで、皆様方私は今までご家中と申しましても、腰元やお女中の方々には殆どと申しても良い程何も


話してはおりませんが、先程のお話しの中で全員に現在の状況を知って頂けなければならないと考えてお


ります。」


「源三郎、若しもじゃ、若しも城下の者達に知られる様な事にでもなればじゃ一体どの様致すのじゃ。」


「殿、私は何れ城下の人達にも話を致す所存で御座います。」


「だがのぉ~、其れが若しも密偵に知られる事にでもなればじゃ大変な事態になるのではないのか。」


「殿、この後に及んではその様に悠長な段階では御座いませぬ。


 仮に密偵が幕府に報告するにしましても何れかの山を越えねばなりませぬ、領民も城中の腰元達も山の


向こう側では今何が起きて要るのか全く知らないので御座います。


 今、何も策を講じず幕府軍か其れとも官軍の攻撃を受ければ我が連合国は数日以内に廃墟と化します。


 今の我々が幕府軍か官軍と戦をするだけの戦力は御座いませぬ。


 げんたの潜水船が有れば海上からの攻撃は防げると考えておりますので、ですが其れよりも連合国の者


達が山向こうの実情を知る為には官軍の兵士から話を聴かねば誰も理解出来ぬと思います。」


「よ~し源三郎、我が野洲から始めるぞ。」


「総司令、では我が菊池にも来て頂けるのでしょうか。」


「はい、私は全てを巡り説明して頂く様にお願いするつもりです。」


「総司令、日程的なものは如何なものでしょうか、上田では何日間とか。」


「私は今回の一件で日数的な事は考えておりませんが、どなた様もご理解出来るまでと。」


「源三郎殿、仮にですが腰元達が理解出来ぬ様な事になれば。」


「吉永様、皆様、其れが重要だと思っております。


 今、我が連合国が危機的状況だと言う事を先に理解して頂く為にはお一人でも理解出来ぬならば方法を


変えてでも全員が理解されるまで其れは何日掛かったとしてもお話しをさせて頂く所存で、私は中途半端


には終わりたくは無いのです。


 其れに領民も同じ様に申せますが、領民の場合は完全に理解して頂くのは無理としましても、八割方の


人達が理解出来れば良いと思わなければなりませぬ。


ですが仮にですが何かの理由で腰元、若しくはお女中の方がご城下に向かわれた其の時ご城下で領民に聴


かれ、でも私は何も分かりませぬでは領民は不安になると思うので御座います。


 その為にも私は何としても全員の方々がご理解されたならば、私は浜に参り技師長に頭を下げる様に


致します。」


 源三郎は連合国の領民が本気になった、其の時、改めてげんたに頭を下げるつもりなのだ。


 だが一体何日間掛かるのか全く予想も出来ないので有る。


「源三郎、その時は余も参るぞ、松之介、吉永、お主達も一緒に参るのじゃ。」


「叔父上様、承知致しました。」


「殿、拙者は何時でも参ります。」


「叔父上様、私も参ります、其れは松之介の為では無く連合国の為で御座いますので。」

 

松川の竹之進までが浜に行くと言うので有る


 さぁ~一体どの様になるのか源三郎は全く予測不可能だと。


 野洲、山賀、松川の三人の藩主が揃って浜に参ると、だが其れだけでは終わらないので有る。


「総司令、私も戻りますれば、殿にご報告し菊池からも参加させて頂きたく存じます。」


「総司令、連合国全員の為に私も殿にご報告いたします。」


「皆様、誠に有り難き事で御座います。


 鈴木様、井坂殿を、上田様、連発銃を。」


「はい承知致しました、では直ぐに。」


 鈴木は井坂を呼びに上田は連発銃を取りに向かった。


「源三郎、わしは腰元と賄い処へ向かうぞ。」


「父上、宜しくお願いします。」


 山賀の若い家臣の言動でげんたは激情し潜水船に火を点け源三郎の顔も見たくは無いと、だが、源三


郎は何としても潜水船が必要だと話し、げんたに新しく潜水船を造って欲しいと懇願するつもりで有る


 だが、今の状況ではげんたを納得させるだけの証というものが無い。


 其れならば最後の手段として井坂を引き込み官軍と幕府軍がどの様な状態に有るのか説明させれば家中


の者達が理解出来納得出来れば、其の時、浜に行き改めてげんたに頭を下げるつもりなので有る。


 果たして、源三郎が考えた様に井坂の話をどれだけの者達が理解出来るのか、出来なければ連合国は壊


滅するのは間違いは無い、其れだけは何としても防がねばならぬと、暫くして、鈴木は井坂を大広間に案


内した。



      


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