第 27 話。 恐怖の訓練か。
「元太、源三郎様が来られたぞ。」
「お~、分かったよ、済まないけどみんなを呼んで欲しいんだ。」
「よ~し、分かったよ。」
漁師達は今日だけは何時もと違う所で待って要る。
「源三郎様。」
「元太さん、今日から改めて宜しくお願いします。」
源三郎は改めて元太に頭を下げた。
「源三郎様、オラ達もですよ、宜しくお願いします。
今、仲間を呼びに行きましたので、少し待って貰えますか。」
「はい、こちらこそ、今日からは改めて最初と言う事で家臣全員が来ておりますので。」
其の時、漁師達が来た。
「皆さん、本日から宜しくお願いします。」
源三郎と家臣全員が漁師達に頭を下げた。
「お侍様、オラ達も今日から真剣にやりますのでどうか宜しくお願いします。」
元太と仲間の漁師達全員が家臣達に頭を下げた。
「元太さん、其れで今日からの訓練ですがどの様な方法を取られるのですか。」
「源三郎様、オラ達も昨日全員で話し合いをしまして、其れでお侍様に見えるでしょうかこの入り江の入
り口が。」
家臣達は一斉に遠くに見える入り江の入り口付近を見ると。
「えっ、正か。」
全員が声ともならない程の小さい声を出し、驚き、其れは正かと思う潜行訓練の開始で有る。
「皆さん、今日からはあの岬まで潜った状態で行きますので。」
やはり、源三郎が予想した通りの潜行訓練で有る。
「元太さん、では、潜行した状態で行くのですね、其れで改良の方ですが。」
「はい、其れも昨日親方にやって貰いましたので大丈夫です。」
家臣達は早くも動揺し始め、其れと言うのも全員が潜水船の実物を見ていないのが不安なのだ。
「其れで今からお話しをさせて貰いますが、お侍様全員が洞窟には行きませんのでそうですねぇ~今日
は最初ですからお二人だけ洞窟に行って潜水船に乗って貰います。」
元太が二人だけと決めたのも訳が有った。
今日の訓練は大事だが二人が乗り込み岬まで行き戻って来るだけでも、半時、いや、一時以上は掛かる
だろうと考えたので有る。
「元太さん、それ以上は無理なのですか。」
「源三郎様、オラはお二人が戻って来られまで残られたお侍様に話をして欲しいんです。
オラ達も分からない事が有りますので、お話しを聞いてから次の人達に乗って貰いたいと思ったんで
す。」
源三郎の思った通りで、元太達も分からないところが有ると、最初に乗った家臣達の話を聴く事で次か
ら改める事も出て来ると考えたのだろう。
「確かに元太さんの申される事も一理有りますねぇ~、では、元太さんはその意見が大事だと言われるの
ですね。」
「はい、オラ達の方法が間違ってる事も有りますので、乗られたお侍様がどの様に思われたのか其れも聞
きたいんです。」
「皆さん、今、元太さんの言われた事は非情に大事だと思います。
皆さんが素直な、其れは前向きな意見を出して頂ければ、船長さん達が考えられると言う事だと思いま
す。」
「源三郎様、其れはどの様な疑問でも宜しいのでしょうか。」
「元太さん、如何ですか。」
「オラ達は海の事は何時もの事で見慣れてるんです。
海の事だったら何でも知ってるつもりですが、でもオラ達にも知らない事が有ると思うんです。
其れでお侍様からどんな意見を出して頂けるのか、其れに寄っては方法を変える事も考えようってみんな
が言ってるんです。」
元太は漁師だが今では立派な考え方を持ち家臣達も真剣な眼差しで聞いて要る。
其れは、元太は今では漁師と言うよりも一人前の参謀として活路を見出した様だと思い、源三郎は突然
閃いたので有る。
「元太さん、お願いが有るのですが、宜しいでしょうか。」
「はい、オラに出来る事でしたら。」
「元太さん、私達の参謀長になって頂きたいのです。」
「えっ、何ですか、その参謀長って、オラはさっぱり分からないんですが。」
「まぁ~、そのお話しは今日の訓練が終わってからしますので。」
「総司令、私も大賛成です。」
「私もです、元太さんならば十分に参謀長としてのお役目も十分に果たせると思います。」
鈴木も上田も元太を参謀長に抜擢する事に大賛成だと言う、だが、元太は参謀長の意味が分からない。
其れは今日の訓練が終わり次第話すと言うので有る。
「元太さん注意しなければならない事は有りますか、其れと、船内ではどの様な指示を出されるのでしょ
うか。」
「はい、じゃ~今から簡単に説明ますので。」
この後、元太は詳しく説明し。
「何か聞きたい事が有ったらお願いします。」
一人の家臣が手を挙げ。
「宜しいでしょうか。」
「はい、どうぞ。」
「先程の説明の中で空気抜きの穴が三か所有ると聞きましたが、其処から海水が入る事は無いのでしょう
か。」
「はい、其れは無いと技師長が言ってましたので、其れよりもさっきも言いましたが操縦棒は絶対に強く
押さないで欲しいんです。
オラ達は絶対に強く押して下さいとは言いませんが、若しも強く押しますと空気の取り入れ口から海の
水が入り、其れが原因で潜水船は沈んでしまいますのでゆっくりと押して下さい。
其れと指示を受けた時の返事ですが、よ~そろ、これだけでいいので。」
「あの~、宜しいでしょうか。」
「はい。」
「洞窟を出たら直ぐに潜るのでしょうか。」
「多分、直ぐには潜らないと思いますが、海と言うのは何時どんな事で変わるのか、其れはオラ達も分か
らないんで、直ぐに潜るかは船長に任せて欲しいんです。」
質問する者も答える元太も真剣そのもので、さっきの説明と同じ内容を再度確かめたいのだろうか。
「じゃ~オラが今から指示を出しますので、お侍様は、よ~そろ、と、答えて下さい。
では、始めます、ちょい左。」
「よ~そろ。」
家臣達全員が一斉に声を合わせた。
「お侍様、大変、良く出来ました。」
家臣達は少し気持ちが楽になったのだろう笑いが起きた。
「では、今から訓練を始めますが、お侍様、気楽にやって下さい。」
「あの~宜しいでしょうか。」
「はい、何でも。」
「潜水船の中は暗闇なのでしょうか。」
家臣達は誰から聴いたのか分からないが、潜水船の中は暗闇で何も分からないと言うので有る。
「いいえ、提灯の灯りが一つ有りますが、提灯に灯を点けるのは潜水船に乗り込みが終われば点けますの
で、では、最初のお二人からオラが案内しますのであちらの小舟に乗って下さい。」
さぁ~、いよいよ実戦訓練の開始だ、だが、誰が最初に乗るのだろうか。
「どなた様が行かれるのでしょうか。」
家臣達は少しだが尻込みか後ろに下がり、出来るならば最初からは行きたくは無いと言う表情をして要
る。
「皆様方、何れは行かねばなりませぬぞ。」
源三郎は言うが其れでも手は上がらない。
「では、私から指名させて頂きますので向かって左端のお二人、元太さんの所行って下さい。」
指名された二人は諦めたのか、其れとも源三郎が言ったのだもう仕方が無いと思ったのだろうか、元太
の前に来て。
「私達、二人が乗りますので、船長、宜しくお願いします。」
「はい、オラも宜しくお願いします。
さぁ~乗って下さい、何も心配する事は有りませんので。」
元太が操る小舟に乗った二人は緊張した様子で座った。
「さぁ~行きますよ。」
別の小舟に乗ったふんどし姿の三人の漁師と弐艘の小舟は洞窟へと向かった。
「あんちゃん。」
「お~技師長、如何したのですか。」
「あんちゃん、オレも少し気になってるんだ。」
「技師長、一体何が気になるのですか。」
「うん、昨日開けた穴なんだけど、三か所開けてるんだ。」
「へぇ~三か所もですか。」
「うん、其れで最初の小さな穴だけど潜り始めたら直ぐに栓を抜くんだ、其れで調整は真ん中の穴でする
んだ。」
「では、最初の穴は開けた状態で浮上しても栓はしないのですか。」
「うん、まぁ~其れは大丈夫だよ、でも、浮上したら栓をした方がいいんだけどなぁ~。」
「では、弐番目の穴で調整と言われたが方法としては。」
「うん、足踏み機が重たくなったら開けて、余り軽くなり過ぎると栓をするんだ。」
げんたの考え方は方法としても実に簡単で有る。
「皆様、今、技師長から聴きましたが、私から説明しますので。」
その後、源三郎はげんたの言った通り説明すると。
「総司令、宜しいでしょうか。」
「はい、宜しいですよ。」
「その時でも必ず船長には伝えるのでしょうか。」
「はい、其れは勿論ですよ、別にこれは伝える必要が無いと思っても船長には必ず伝える、其れが事故を
未然に防ぐのです。
潜水船は海上の船と違い、例え小さな事故でも、其れが原因で死に繋がる可能性が有りますので、何事
も全て船長に伝える事です。」
家臣達は少しの失敗が死に至ると聴かされ緊張が取れない様子だ。
だが、事故を起こし潜水船と共に海中に沈めば苦しみながら死亡する。
生き残りたければ船長の判断に任せるしか方法が無いと言うので有る。
そろそろ、最初に乗り込む家臣が着くはずだ。
「さぁ~着きましたよ、お二人の目の前に有るのがこれから訓練に使う潜水船です。」
「えっ、正か。」
二人が驚くのも無理は無い、小型の壱号潜水船の前には大型の弐号潜水船が見え、彼らは弐号船に乗る
ものと勘違いをしたので有る。
「お二人は前の大型船と間違われたんですね、其れは弐号船で訓練に使うのは手前の小型の壱号船なんで
すよ。」
二人はもう声も出ない。
「さぁ~乗り込んで下さい。」
船内は提灯の灯りで少し明るくなっている。
「どちらかが足踏み機で、もう一人がこの操縦棒の担当です。」
「船長、外から見るよりも狭いですが大丈夫でしょうか。」
「はい、まぁ~多分大丈夫だと思いますが。」
「では、拙者が先に足踏み機を。」
「では、私は操縦棒に。」
二人は簡単に決めた。
「では、今から簡単に説明しますので。」
元太は其れから二人に対し丁寧に説明して行く。
「船長、少し練習したいのですが。」
「はい、その前に少し動かし方を言いますので、操縦棒を両手で、はい、其れで宜しいですよ、但し、動
き出したら強く握って下さい、この棒と外側の水車の後ろの有る平行板とは繋がってますので、其れと、
海の中では潮の流れで動きますからね。」
「えっ、船長、海の中で水が動いて要るのですか。」
二人は驚いた、正か川では無い海の水が動くとは。
「はい、本当なんですよ、此処は洞窟の中ですから分かりませんが、洞窟を出ると直ぐ動いて要るのが分
かりますよ。」
「では、この操縦棒から手を離すと。」
「どちらに行くのか、其れはオラにも分かりませんが、洞窟を出ると動いて要るのが分かりますから、其
れに海の中では小魚から大きな魚が群れを作って泳いでますので。」
「魚が群れを作って泳いでいる事も初めて知りました。」
「まぁ~其れだけ海の中は分からないと言う事なんです。
ですからどんな事が有っても絶対に操縦棒からは手を離さないで下さいね。」
「はい、承知致しました。」
二人は海が初めてなのか全てが驚く事ばかりで元太の説明に感心して要る。
「次に足踏み機ですが、この機械は出入り口を閉めたら浮上して蓋を開けるまで踏み続ける事になります
ので潜水船の中では一番大変な仕事なんですよ、其れは乗って要る人の命を預かってますので、勿論本人
の命もですから。」
「船長、ではこの足踏み機は全員が経験するのですか。」
「はい、勿論でして、でも潜水船の中で一番難しいのがこの潜水鏡を覗きながら全部の判断をする事なん
です。
オラ達はどの辺りが深いかどの辺りが浅いのか分かるんですが。」
「えっ、其れは何故ですか、海の上からは見えないのですか。」
「其れが漁師なんですよ、一人前の漁師になるには天気が読めないと成れないんですよ。」
「そんなに高度な事を学ぶんですか。」
「はい、でも浜の子供達は生まれた時から海を見て育ち、親から教えられて一人前になるんですよ。」
「では、我ら侍の方が楽かも知れないと言う事ですか。」
「いいえ、お侍様も大変だと思います。
剣術も其れに他の事もですが、でもオラ達漁師の仕事は自然が相手なんで本当に苦労するんです。」
「船長、私は船長のお話しを聴くまでは簡単に考えておりましたが、正直な話しこれ程にも難しいとは
思っておりませんでした。」
「お侍様、其れだけでも分かって頂いたら、オラは嬉しいですよ、其れでオラがちょい右やちょい左と言
いますと、よ~そろ、って言って下さい。
其の時操縦棒は左に行く時は左手を押し右手は引く、但し、ゆっくりと少しづつでお願いします。」
「其れは何故ですか。」
「船は海の中ですから陸の様に急には動きませんし、急には止まらないですよ。」
「えっ、正か。」
「お侍様、オラ達は海は生き物だって昔から伝えられて要るんです。
朝でもお昼でも海は同じじゃないんですよ。」
「船長、これから私も海の事を学びたいと思いますのでどの様な事でも宜しいので教えて頂きたいのです
が宜しいでしょうか。」
「はい、オラ達の知ってる事だったら何時でもいいですよ、では、今から練習しましょうか。」
二人はまだ洞窟から出る事は出来ないと感じて要る。
「じゃ~行きますよ、潜水船、只今より潜る、潜水始め。」
「潜水始めまぁ~す、よ~そろ~。」
「はい、物凄くいいですよ、そうです、ゆっくりと、そうです。」
「足踏みを開始せよ。」
「足踏みを開始しまぁ~す、よ~そろ~。」
「済みません、オラ、緊張して順番を間違いしました。」
「えっ、船長が間違ったって本当なのですか。」
「はい、本当は出入り口の蓋をした時から、足踏みを開始するんですが。」
「じゃ~我々はもう海の底に沈んでますよねぇ~。」
家臣が笑い、元太も釣られて笑い三人は大笑いするので有る。
「まぁ~ねぇ~船長が間違っても私達は全く気付かなかったですよ。」
「お侍様、本当に済みませんでした。」
元太は本当に間違ったのか、其れともわざと間違ったのか、其れは元太自身しか分からないので有る。
「いいえ、私もそれ程にも順番が有るとは今初めて知りましたよ。」
「はい、普段は岸壁を離れて蓋を閉め、直ぐ足踏みを開始、其れで洞窟内からゆっくりと潜って行くんで
すよ。」
「船長、では潜水船が海の上に姿を見せる事は無いのですか。」
「そうなんです、技師長は姿を見せると潜水船の意味が無いって。」
「う~ん、ですがこの洞窟内で潜りあの出入り口を潜った状態で通過すると言うのは大変な訓練の必要が
有ると思うのですが。」
「この船は壱号船なんで小さいですが、弐号船は長さが五十尺も有るんですよ。」
「えっ、五十尺の潜水船をこの狭い出入り口を潜った状態で通過させるのですか、う~ん、これは正しく
至難の業だなぁ~。」
「ええ、其れを出来る為にオラ達は誰でも自由自在にこの壱号船を操らなければならないって、源三郎様
に言われたんですよ。」
「では、壱号船を自由自在に操る事が出来なければ弐号船に乗る事は出来ないのですか。」
「はい、ですから、オラ達も必死で訓練しますんでお侍様もお願いします。」
「はい、船長、私達も頑張りますので宜しくお願いします。」
「はい、では、もう一回、此処でやってから、次は本当に潜って行きますので。」
「船長、我々に果たして出来るでしょうか、正直言って船長のお話しを聴いただけですが、私が想像した
以上に難しいと今は身体が震えて要るのです。」
「お侍様、オラも一緒ですよ、でも、この潜水船の中ではお互いが信頼する事なんですよ、其れさえ出来
れば、オラは絶対に出来ると思ってますので。」
「はい、よ~く分かりました。
船長、お願いします。」
「では、行きますね、今、蓋を閉めたと思って下さい。
出入り口閉鎖完了、足踏みを開始せよ。」
「出入り口閉鎖完了、足踏みを開始しま~す、よ~そろ~。」
「はい、物凄くいいですよ、足踏みを開始、了解、只今より潜行開始。」
「潜行開始、よ~そろ~。」
「本当に最高ですよ、よ~し、少しづつ、よ~し、そのまま。」
「そのまま潜行、よ~そろ~。」
「はい、大変宜しいですよ、よ~し、ちょい左、そのまま。」
「ちょい左、よ~そろ~。」
「よ~し、そのまま、ちょい右。」
「ちょい右、よ~そろ~。」
「本当に最高ですよ、只今より浮上開始せよ。」
「浮上開始、よ~そろ~。」
「はい、もうこれで十分ですよ、では、では、今から本当に潜って行きますので。」
「船長、少しだけ待って頂けますか。」
「どうされたんですか。」
「はい、私は余りの緊張感で、もう手のひらが汗で。」
「オラも汗で。」
「こんなにも緊張するとは思わなかったので、でも今から本当に潜ると。」
「はい、でも今で十分ですから。」
「船長は本当に漁師さんですか、何かもっと別の人の様に思えるのですが。」
「はい、オラは本当に漁師ですよ、漁師は海に出ると何時死ぬか分かりません。
でも、この潜水船は絶対に大丈夫ですよ、では、いいですか。」
最初に乗った二人は海に出るまで長い時を掛け、元太の説明と何度かの練習を行ったが、陸での緊張感
とは違い頭の中は混乱して要る。
だが、元太から色々な話しを聞いて要ると、何とか出来そうだと思ったのだろうか、一息吸い、今まで
以上の緊張した表情で臨む事になった。
「では、今から本当に蓋を閉めますので、訓練を始めます。」
元太は出入り口の蓋を閉め。
「出入り口、閉鎖完了、足踏みを開始せよ。」
「出入り口閉鎖完了、足踏みを開始しま~す、よ~そろ~。」
「只今より潜水開始、操縦棒をゆっくりと押せ~、前進、そのまま維持、よ~そろ~。」
その後、潜水船はゆっくりと進み洞窟の出入り口付近で潜水を始めた。
元太は潜水鏡を覗きながら前の二人を見て要る。
「よ~そろ~、そのまま、もう直ぐ洞窟を出ま~す。」
洞窟を出ると浜から来た小舟がゆっくりと後を追って行く。
「総司令、見えますよ、小舟の前に二本の筒が。」
「はい、私も見えます、出るまで長かったのも、元太さんの説明が長く掛かったのですねぇ~。」
「でも、其れだけ元太さんも真剣だと言う事では無いでしょうか。」
「お~、出て来たぞ~。」
家臣達も小舟の動きを見て要る。
「源三郎様、私も小舟が見えなければ、潜水船位置が全く分からないです。」
「最初ですからねぇ~大変だと思いますよ。」
「はい、あの事が有ってからは、家臣もですが一番悩んだのは元太さんでは有りませぬか。」
「はい、多分その通りだと思いますよ、ですから行き成り海に潜らず、丁寧に詳しく話をされたと私は
思って要るのですが。」
「はい、でも、随分と長ったですから、変えって私は緊張しましたよ。」
「そうですねぇ~、さぁ~いよいよですよ、これからが大変だと思いますので、私は静かに見守りたいと
思います。」
「はい、私もその様に致します。」
潜水船の中では元太が新たな指示を出した。
「洞窟を出ると、右から潮が流れてますんで。」
「えっ、右から潮って。」
操縦棒を握る家臣は更なる緊張感に襲われた。
「右、ちょい下げ、左、ちょい上げ~。」
「右ちょい下げ、左ちょい上げ~、よ~そろ~。」
「この入り江は岬の右方向から潮が入り左へと抜けますので、何もしなければ左側の岩場に衝突し潜水船
は沈みます。」
「はい、船長。了解しました。」
「よ~し、そのまま。」
元太だけが気付いており潜水船は船首を右方向に少し向け進んで行く。
「少しだけ足踏みを開始せよ。」
「足踏みを開始しま~す、よ~そろ~。」
「はい、その調子です、物凄くいいですよ。」
潜水船の速度は速くは無いが、其れでも確実に岬へと向かって要る。
「もう少し進みますと、潮の流れは無くなりますので。」
「はい、了解しました。」
「よ~し、そのまま。」
元太は目標とする岬はまだ遠い。
「よ~そろ~、右、戻~せ。」
「右、戻~せ、よ~そろ~。」
「左、戻~せ。」
「左、戻~せ、よ~そろ~。」
「その調子ですよ、いいですよ。」
其れからは直進し、半時以上が経った頃。
「もう直ぐ、浮上しま~す。」
二人の家臣は緊張の連続だったが、元太の浮上する合図で少し緊張が取れた様子で有る。
「浮上開始せよ。」
「浮上開始しま~す、よ~そろ~。」
間も無く潜水船が浮上し。
「お侍様、これ以上進みますと潮の流れが速くなりますので、一度外を見て頂きます。」
元太は出入り口の蓋を開けた。
「さぁ~、外を見て下さい。」
一人が外を見ると。
「此処は。」
「はい、もう岬が目の前に有りますが、潮が動くと言うのはそのまま岬を見てて下さいね、船が動いてい
ますから。」
「あっ、本当だ、船長本当に動いていますよ、これが潮の流れと言うのですか。」
「はい、オラ達は潮の流れが読めないと、一人前の漁師にはなれないんです。」
「海の上を見て要ると全く分かりませんが、船の上から岬や他の所を見て要ると、船長の言われる潮が動
いて要ると、其れと海の中でも動いて要ると言われた事が今よ~く分かりました。」
「では、今から洞窟に戻りますが、これからは難しいですから、では交代して下さい。」
「はい。」
家臣は元太の指示を真剣に聞き指示通り動いて要る。
「出入り口の蓋はまだ閉めませんので、では、足踏みを開始せよ、ゆっくりとで宜しいですからね。
はい、その調子ですよ、左ちょい下げ~。」
「左、ちょい下げま~す、よ~そろ~。」
「はい、十分ですよ、右、ちょい上げ~。」
「右、ちょい上げま~す、よ~そろ~。」
「はい、そのまま足踏みを続けて下さいね、もう直ぐ浜の方向に向きますので、其れから蓋を閉め潜行し
戻ります。
よ~そろ~、その調子です。
はい、そのまま、今丁度浜の方向に向きましたので蓋を閉めます。
空気の取り入れを開始せよ。」
「空気の取り入れ開始、よ~そろ~。」
「出入り口閉鎖完了。」
「出入り口閉鎖完了、よ~そろ~。」
二人が同時に言うと。
「本当に素晴らしいですよ、今日が初めてとは思えないです。」
「船長、我々はもう必死ですので。」
「はい、では戻りま~す、よ~そろ~。」
元太と家臣二人が乗った潜水船は順調に進み、一時程で洞窟に戻って来た。
「浮上開始せよ。」
「浮上開始、よ~そろ~。」
そして、無事岸壁に接岸すると。
「無事に戻って来たのですね、船長、私は海が生き物だと言われましたが、今日初めてわかりました。」
「はい、其れだけでも分かって頂けたらオラは嬉しいですよ、では出ましょうか。」
三人が岸壁に上がると。
「お侍様、大変でしたねぇ~。」
「元太船長、ありがとう御座いました。
私は今身体が震えておりまして岸壁が動いています。」
「本当だ、私も自分の身体が動いて要るのは、いや岸が動いて要る様にも思えます。」
「其れは大変だ、誰か岸壁を止めてくれ。」
「よし、オラが。」
洞窟内では大笑いをしている。
「さぁ~浜へ戻りましょうか。」
「はい、元太船長、其れと皆様方、これからも宜しくお願いします。」
家臣は洞窟内の人達に頭を下げ、元太と一緒に浜へと戻って行く。
「あっ、出て来ましたよ。」
家臣は浜に向かって大きく手を振っている。
「総司令、最初の訓練は大成功のようですねぇ~。」
「上田様、私も良かったと思います。
あの二人、最初は乗り気では無かったのですが、あの状態からすると改めて海の恐ろしさと、いや素晴
らしさと他にも何かを知ったと思いますねぇ~。」
「お~い、大丈夫か。」
「はい、源三郎様、只今、戻りました。」
「大変ご苦労様でした、元太さんも大変ご苦労様でしたねぇ~。」
「はい、有難う御座います、源三郎様、お侍様は素晴らしかったですよ、オラは今日が本当に初めてとは
思えなかったですから。」
「いいえ、其れもこれも、全て船長のお陰で、私は海の恐ろしさと素晴らしさを初めて知りました。」
「ほ~そんなに恐ろしかったのですか。」
「はい、最初洞窟に入ってから、海の事、潜水船の事を全て教えて頂きましたが、私も近藤殿も聴いて要
るうちに海の恐ろしさで身体が震えて来ましたから。」
「元太さん、余り皆さんを脅かさないで下さいね。」
「源三郎様、オラは何も脅かしてはいませんよ、ただ、本当の事を言っただけですから。」
「私達は潜水船に乗るのが恐ろしくなったんです。
と、申しますのは、元太船長が潜水船の中ではお互いの信頼関係が無ければ、下手をすれば潜水船は海
底に沈み中の人は溺れ死ぬと言われましたので。」
「私も吉田殿と同じで、最初は簡単に考えておりましたが、浜の漁師さん、いや浜の船長さん方は海の中
と海の上の天気ですがそれらを知りつくされておられるのを改めて知り、我々、侍が思って要る以上に大
変だと思いました。」
「まぁ~、その詳しいお話は城に戻ってから皆様方にして頂けますか。」
「はい、私と近藤殿で元太船長から伺いました事を皆様方に伝えたいと存じております。」
「そうですか、宜しく頼みますね、其れで元太さん今日はどうされますか。」
源三郎は今日の訓練終わり、城に戻り全員がに話を聴かせる事で次の訓練に生かせると考えたので有
る。
「オラは今日の訓練は一応これで終わってもいいと思って要るんです。
お侍様が戻られ、お城で他のお侍様にさっきの話をして貰ってからでもいいと思います。」
「近藤殿と吉田殿、如何ですか今から訓練を始める方が良いと思われますか。」
「源三郎様、私は先に私達の話しを聞いて頂いてからでも遅くは無いと思います。
其れに元太船長も身体を休める事が出来る思いますので。」
「はい、私も吉田殿の申される通りで、先程の訓練は体力と神経を思った以上に使いますので、私達より
も元太船長が心配です。」
何と言う変わり方だ、この二人は城では海の恐ろしさも訓練の厳しさも理解するまでは行かず、あの時
の四名の様な処分を受けたくは無いと言うだけの理由で訓練に参加した。
其れが元太の話しと実際に潜水船に乗った事が今までの考え方を全て覆したと言っても過言では無い。
「分かりました、では、皆様方は一度城に戻って下さい。
私はまだ仕事が残っておりますので。」
「総司令、私と上田殿もお二人の話しを聞きたく思いますので、城に戻らせて頂きます。」
「はい、では、皆様戻って下さい。」
「元太船長、有難う御座いました。
私と近藤殿の二人で皆様方に話しを致しますので、今後とも宜しくお願いします。」
吉田と近藤は改めて元太に頭を下げ、他の家臣達に話しをすべく城へと戻って行く。
「元太さん、本当にご苦労様でした。」
「いいえ、オラは普通の事をお二人に話ししただけですので。」
「いや、そうは思えないですよ、特にあの二人ですが、実を申しますとね潜水船には否定的な考え方持っ
ておられましてねぇ~、その二人が正かあれ程までに変わるとは、私も考えておりませんでしたよ。」
「ですが、オラはお二人には真剣に話をさせて貰ったんです。
最初は余り乗り気では無かったと思うんですが、途中からははっきりと変わってきました。」
「私も随分と話に夢中になって要るなと思ってたのですが。」
「オラは海の事を出来るだけ詳しく優しく分かりやすいように話しをしたんです。」
「元太さん、其れは大変有り難い事ですよ、今日来ました家臣の殆どが海を全く知りませんので、元太さ
ん説明で少しでも理解してくれたと思いますよ。」
「源三郎様、オラは其れで十分なんです。
オラは海で働く漁師がどれだけ自然を相手に戦ってるのかを、あのお侍様は理解してくれたと思ってる
んです。」
源三郎の思った通りで有る。
元太は詳しく優しく海を全く知らない侍に対して説明し、今日は其れだけも十分だと思った。
彼らは城に戻ってから長い時を掛け話だろう、其れが結果的には明日からの訓練に生かされるのだと、
其れが今日の本当の目的だ考えるので有る。
「源三郎様、お二人はオラが思った以上に凄いですよ、オラが言った事を同じ様に言われて。」
「元太さん、私は其れで十分だと思っておりますよ、其れが明日からの訓練でも他の家臣達も同じ様に行
うと思いますので。」
「はい、オラも同じです、其れで、源三郎様、オラはあのお二人を何度か訓練された後にお二人が中心に
なって欲しいと思ってるんですが。」
元太は二人を訓練を受ける側から、訓練を行う人物にと考えて要る様だ。
「私は何も反対はしませんよ、元太さんの思い通りに行なって頂いても宜しいですよ。」
「源三郎様、オラはまだ他の人達全員の訓練はしてませんが、オラの勘なんです。」
「はい、では二人には特別な訓練を受けさせましょう、私から話をして置きますので。」
近藤と吉田は元太の下で特別訓練を受ける事が元太を参謀にさせる切っ掛けになるとは元太も正か考え
てはいなかったので有る。
元太が中心となり潜水船の組織作りが始まるのだが、其れでも元太は全く気付いていない。
「あんちゃん。」
「お~技師長、元気そうで良かったですねぇ~。」
「何だよ、あの時、ほんとオレは驚いたんだぜ、だってあんちゃんは。」
「まぁ~まぁ~その話は止めましょうか。」
「うん、分かったよ、元太あんちゃん、で、どうだった。」
「あれは良かったですよ。」
「元太さんあれとは何ですか。」
「あんちゃん、船に穴を開けたんだ。」
源三郎は先程聞いたが忘れた振りをしている。
「えっ、船に穴をですか。」
「うん、元太あんちゃんが言ってくれたんだ、其れで三つの穴を開けたんだ。」
「源三郎様、あの穴が有るだけで本当に助かりましたよ。」
「へぇ~そんなに良かったのですか。」
「はい、空気の取り入れに足踏みをしてるんですか、オラは足踏みが重く感じた時に最初は一番と書いて
有る穴の栓を抜いて下さいと言ってたんです。
其れで、お侍様は足踏みが重いから栓を抜きま~すって、其れで、オラが栓抜き開始、よ~そろ~。」
「では、二番の栓は。」
「はい、今日は抜く事も無かったんです。」
「ですが、船内は暗闇では無かったのですか。」
「はい、でも、この栓のお陰で中に提灯一個置いたんです。
最初の時は暗闇でオラも辛かったんですが、穴が有れば提灯の灯りが有りまして、暗闇の恐ろしさは無
かったんです。」
やはり、どんな厳しい訓練を受けた者でも暗闇の恐怖は別格で有る。
潜水船に空気抜きの穴が開いた事で足踏みは大変だが新鮮な空気が入り、更に提灯の灯りが有るだけで
も大きな安心感に包まれると言うもので有る。
「技師長、では弐号船にも当然穴は開けるんですか。」
「うん、其れは簡単なんだけど、オレは弐号船を少し改造したいんだ。」
「何を改造するのですか。」
「うん、水車をね、オレは空気の取り入れに使いたいんだ。」
「えっ、水車をですか。」
「そうだよ、其れを今考えてるんだ、水車を利用出来れば足踏み専門の人は要らなくなるんだ。」
げんたは足踏み機は人間では無く水車を利用出来ればと考えて要る。
「だけど、う~ん全部が水車方式だとねぇ~。」
さぁ~げんたの頭が回転を始めた。
「技師長、最初は人間が足踏み機で空気を入れて足が重くなり始めてかか、一番栓を抜いてからその水車
方式には出来ないのですか。」
「オレも分かってるんだ、あんちゃんは何時も簡単に言うけどなぁ~、其れからが大変なんだぜ。」
だが、げんたは深刻では無かった、弐号船の改造が出来れば参号船からは同じ方式を採用すれば良いの
だと、げんたの頭の中に有るのは源三郎が言う空気の取り入れでは無かった。
「元太あんちゃん、弐号船なんだけど何人乗れると思う。」
「う~ん、だけどなぁ~簡単には分からないよ。」
「技師長は何人の予定をしているのですか。」
「うん、オレは十人以上は必要だと思ってるんだ。」
「えっ、十人って、でも、何故そんなに必要なのですか、空気の取り入れは動き始めると人間は必要無い
と思いますよ、其れに、えっ、正か交代の要員が必要だと。」
「オレはねぇ~、潜水鏡にも操縦棒にも足踏み機にも全部同じ人だけじゃ駄目だと思ってるんだ。」
「そうか、潜水が長いと。」
「其れなんだ、だって、洞窟からあの岬に着くまでが一番神経を使うんだぜ、オレも元太あんちゃんと小
舟で岬まで行ったんだけど物凄く潮の流れが速いんだよ、其れだけでも大変な苦労をすると思うんだ、で
もなぁ~岬を出るともっと凄いんだぜ。」
げんたは何度か沖に出て潮の流れが速い事を実感している
その為にも操縦棒も足踏み機も潜水鏡も交代しなければ、其れこそ乗員の疲れが原因で何処かに流され
るか、船が海底に沈む可能性が有ると考えて要る。
「源三郎様、オラも入り江の中だけなら大丈夫ですけれど、壱号船でもあんなに苦労してるんですから、
其れに弐号船は五十尺も有るんですから交代の人は絶対に必要ですよ。」
「ほ~沖に出ると、そんなに変わるのですか。」
「はい、この中でも潮は中を回ってるんですよ、オラも何度か経験しましたが沖に出ると知らないうちに
別の所に流されてるんですよ。」
「元太さん、では、明日からの訓練ですが、一応全員が終わりましたら、最初の人選に入って下さい。」
「えっ、オラが選ぶんですか。」
「はい、全て元太さんが選んで下さい。」
さぁ~大変な事になってきた、弐号船の人選を元太が行なう事になった。
「でも、オラが勝手に決めるとお侍様が。」
「元太さん大丈夫ですよ、先程も言ってたと思いますが、近藤殿と吉田殿が元太船長とみんなの前で申さ
れました。
私はあの二人が浜の漁師、いや、浜の漁師さんが船長だと明言しているのですから何も心配する事は有
りませんよ。」
「はい、お二人は船の中でも同じ様に言われてましたが、でもねぇ~。」
「元太さん船長には浜の漁師さんが、其れと副船長を家臣の中から二人選ぶのです。」
「オラは一体どうすればいいんですか。」
元太は余りの大任に頭を抱え込んだ、だが、源三郎が言うように近藤と吉田が家臣達に説明すれば誰が
考えても浜の漁師が船長に相応しいと、其れでも人選は困難な事になるだろう。
一方で家臣達はその後暫くして城に戻り大広間に集まった。
「皆様、私と吉田殿は元太船長に海の事を色々と詳しく教えて頂きました。」
「近藤殿、何を教えられたのですか。」
「はい、皆様方、海は生き物だと言う事なのです。」
「えっ、そんな馬鹿な海が生き物って、一体どの様な意味なのですか。」
「はい、海の中は絶えず動いて要ると言う事です。」
「近藤殿、私も川ならば動いて要るいう意味は分かりますが、何故海の中が動いて要るわかるのですか、
拙者には全く理解出来ませぬが。」
この家臣も近藤と吉田と同じで最初に聴いた時と同じだ。
「はい、私達も最初は同じでした、ですが、実際海に出ると、まぁ~これが本当なのです。
船長は右から潮が流れて要るので私に指示を出されました、右を下げ、左を上げろって。」
「えっ、そんな簡単に言われたのですか。」
「本当は右をちょい下げ、左をちょい上げ~、とね。」
「何ですか、そのちょいと言うのは。」
「船長の話しですと、少しと言うよりももっと少ないと言う意味で、ちょい、でも、不思議な事に初めて
聞きましたが何の違和感も無かったのです。
其れと言うのも侍言葉でも無く、かと言って町民言葉でも無いのでほんの少しと言われるよりも、ちょ
いと言われると簡単に反応しましたので、私は良かったと思うのです。」
「では、吉田殿も同じですか。」
「はい、私も同じでしたよ、でも、其れは命令されて要る様には聞こえませんので、まぁ~不思議だと思
われるでしょうが。」
「ふ~んなんだか分かりませんが、何故その様に変わられたのですか、お二人は最初潜水船を、まぁ~言
葉は悪いですが否定されている様な発言をされておられていたように思うのですが、何故その様に変わら
れたのか教えて頂きたいのです。」
家臣達は元太がどの様な話をしたのか聴きたいと言うので、近藤と吉田は一生懸命に話すので有る。
家臣達は時々、頷き、時々感心したような声を上げ、話す方も真剣ならば、聴く方も真剣そのもので有
る。
「其れにですよ、よ~そろ~って、まぁ~この言葉が楽しいのですよ。」
「何ですか、そのよ~そろ~って。」
「私も詳しくは知りませんが、上田殿が最初に申されてと聞いておりますが。」
「上田殿、そのよ~そろ~って、一体何の意味なのでしょうか。」
上田は一瞬困った。
「実は私自身何も考えずに言ったのですが、先程、近藤殿も申されましたが侍言葉でも無く、町民言葉で
も無いのですが、私自身は意味などは考えておりませんので。」
「あの~、宜しいでしょうか。」
「はい、どうぞ。」
「先程から申されておられます、ちょいとか、よ~そろ~って、私が考えた理由ですが、我々、侍の言葉
と言うのは大変堅苦しい言葉だと思うのです、かと申しまして、町民の言葉では余りにも砕けすぎて要る
様にも聞こえるのです。
ですが、そのちょいとか、よ~そろ~って、私は楽しく聞こえるのですが、何故でしょうか。」
「う~ん確かにその様に申されますと、初めて聴くと笑いたくなりますよ、その、ちょい、とかってねぇ
~。」
「でも、何故か分かりませんが、その文言って響きが良いと思いますよ、上田殿は才覚が有るのですかね
ぇ~。」
「いゃ~、私は何も有りませんよ。」
この頃になると家臣達にも時々笑いが起き、和やかな雰囲気になって要る。
「ですが、皆様方、本当のところ、我々が思って要る以上に潜水船を操るのは至難の業ですよ。」
「吉田殿、至難の業と申されましたが、我々が日頃鍛練しております剣術とは如何でしょうか。」
「其れは比較にはなりませんよ、まず、船長は潜水鏡と言う本当に手のひらくらいですが、其れを見て全
てを判断しなければならないのです。」
「えっ、手のひらの大きさですか。」
「はい、私も見せて頂きましたが、あれだけで判断するとは、まぁ~考え方を変えれば剣術よりも遥かに
高度な技術と言いましょうか、判断能力と申して良いのか分かりませんが。」
「えっ、では、剣術の方が楽だと申されるのですか。」
「私は何も剣術が楽だとは思っておりませんが、皆様、遠くを見て其れが手のひらの大きさしか見えず、
其れで全てを判断出来ると思われますか、例えばこの大広間の一番奥に座られておられるお方を見ただけ
で何人要るか其れを判断するのと同じなのです。」
「吉田殿、其れは不可能ですよ、一番奥の人だけを見て一体何人要るのか、其れを答えると言うのは。」
「はい、ですが、船長と言われる為にはその判断が出来なければならないと言う事だと、私は思いまし
た。」
元太はその様な話はしていないが、近藤も吉田もその様に感じたので有ろう。
「う~ん、今の話しだけでも、これは中途半端な事では出来ないのですねぇ~。」
「はい、私と近藤殿は外の状態が全く分かりませんので、船長の指示通りに操らなければならなかったの
です。」
「其れはあの入り江の中だけでしょうか。」
「はい、ですが、船長は外海も知られておられます。
外海に出ると周りは全く何も無いと。」
「え~辺りに何も無いと言う事はですよ、海の上だけだと申されるのか。」
「はい、船長はその様に申されました。」
「皆様、私と近藤殿が乗り訓練を受けた壱号船は小型ですが、弐号船と言うのが長さが五十尺も有ると聴
かされました。」
「何ですと、五十尺ですと、そんな大きな潜水船を操らなければならないのですか。」
「はい、でも、船長は壱号船を自由自在に操らなければ弐号船を操るのは無理だと。」
家臣達は正か五十尺も有る大きな潜水船が有る事も知らなかった。
だが、現実は弐号船、参号船と大きな潜水船が完成すれば家臣達が乗り込むのは壱号船では無く、より
大きな弐号船からで大きな潜水船に乗る為にも小型潜水船を我が身と同様自由自在に操ることが必要だと
言うので有る。
「近藤殿、我々が船長になると言うのは無理だと思われますか。」
「私が感じた事を素直に申し上げますと、私は全く不可能だと海の事もですが天気の事も全てを学び覚え
ると言うのは無理だと感じました。
私は、其れよりも船長の指示通りに潜水船を自由自在に操る事の方が大事では無いかと思います。
皆様方は不満だと思われるでしょうが、私の話よりも実際に乗り込み操縦すると言うのがどれ程至難の
業で有るか体験されなければ信用して頂け無いかと考えております。」
傍で話を聴いて要る鈴木も上田も近藤や吉田の言うのが本当だと、あの時は誰も経験した事が無かった
と言う恐ろしい状況で乗り込んだ。
元太は近藤と吉田には其れこそ丁寧に詳しく説明し、其れが終わってから海に潜って行き、元太も其れ
こそ大変な神経を使っているで有る。
「皆様方、明日からの訓練ですが本気で望まなければ我々が生き残れ無いと思います。
私も出来れば明日からも参りたいと思います。」
近藤は本気になって要ると、鈴木は思ったので有る。
「皆様方、如何でしょうか、今日は近藤殿と吉田殿が潜水船に初めて乗られ海に潜られましたが、明日か
らは一日二名か四名の訓練となりますので今からその方々を選びたいと思いますが、我こそはと思われま
すお方は名乗りを上げて頂ければ宜しいのですが、如何でしょうか。」
鈴木は志願する者はと聴くと。
「私が参ります。」
若い家臣が名乗り上げた、すると。
「はい、私も参ります。」
「拙者も行きます。」
と、四名の若い家臣が名乗り上げた。
「はい、では、明日は今の四名で訓練に入りますが、明後日からも同じ様に四名の方々で訓練に入りたい
と思いますので皆様方は本日中に考えを纏めて置いて下さい。
其れと、質問が無ければ一応終わりたいと思いますが、如何でしょうか。」
暫くが過ぎ。
「では、本日はこれにて解散と致します。
皆様方、本日は大変ご苦労様でした。
其れで先程の四名の方々と近藤殿と吉田殿は残って下さい、以上です。」
吉田と近藤の説明会は終わり、他の家臣達は大広間を出、それぞれの役目に戻って行き、残った鈴木達
は集まり。
「近藤様、吉田様、明日の訓練ですが、何か注意する事、また他に気付いた事などが有ればお話し下さい
ますか。」
「はい、では一番大事な事を申します。
其れは我々は武士だと言う事を忘れて頂きたいと思います。」
「吉田様、其れは武士の誇りを忘れろ申されるのでしょうか。」
「いいえ、武士の誇りはとても大切です。
ですが、其れは潜水船の中では何の役にも立たないと言う事なのです。
反対の立場から申し上げますと、武士が何故それ程の事も出来ないのだと言う事になりますので。」
「船長はその様に申されるのですか。」
「いいえ、全く反対ですねぇ~、あの人は最後の最後まで我々をお侍様と呼ばれておられ、言葉使いも其
れは丁寧ですよ、ですから、我々も船長が漁師さんでは無く、漁師さんの姿をされて要るのだと思わなけ
ればならないと思います。」
「鈴木殿、元太船長は確かに漁師さんだと思います。
ですが持っておられる知識は我々侍がどんなに教えて頂いても簡単に理解出来ないと思います。」
「近藤様は先程も申されましたが我々は武士だと言う事を忘れろと。」
「私もですが、侍とは確かに読み書きが出来、腰には大小の刀を差しているだけだと、以前、源三
郎様が申されたと思うのですが。」
近藤は武士だと言う事を忘れなければこの訓練は出来ないのだと言うので有る。
「はい、私も以前何度かお聞きしました。
総司令は侍とは時と場合によっては全く使いものにはならないと申されました。
私もその時は意味が理解出来なかったのです、でもよ~く考えれば直ぐ分かる事なのです。」
「鈴木様、私は今だに理解が出来ないのですが。」
若い家臣だ、やはり、家臣の中には源三郎が話した内容が理解出来ずに要る者が居る。
「貴殿は毎日食事を取られると思いますが、その全ては農民さんが苦労し育てられ、漁師さんは生死を掛
け魚を獲られているお陰で私達が食べられるのですよ、其れは誰もが当たり前だと思われるでしょうが、
農民さんも漁師さんも、五十年、いや、百年以上も前から毎日苦労されて育てられ、作物を収穫されて来
た事を受け継がれて要るのです。」
「ですが、我々も数百年の伝統が有るのですが。」
「其れとは全く違ったものですねぇ~、確かに農民さんも漁師さんも読み書きをされる人達は少ないと思
いますが、其れ以上に実戦された内容が受け継がれて要ると思います。
その証拠に元太船長は洞窟を出ると右から潮が流れて要ると言われましたが、私は全く分かりませんで
した。
でも、船長と言われる人は船が受ける僅かな当たりを身体で感じ、其れを言われたんです。
其れが、右、ちょい下げ、左、ちょい上げとね、これは私達がどんなに説明されても理解出来るものでは
無いと思うです。」
四名の家臣は少しは理解したのだろうか、勿論、彼ら四名も生まれながらにして侍で有る。
其れは、幼い頃より読み書きは勿論の事、剣術の鍛練も日々毎日行われ、侍とは武士とは何たる事かを徹
底的に叩き込まれ今に至って要る。
漁師達も生まれてこの方、毎日が戦で小舟に乗り沖に出れば突然の嵐に遭遇し命を落とした者数知れず
要る。
元太も今まで何度となく嵐に遭遇し、暗闇の海に放り出された事かそれら全てが実戦で漁師と言う仕事
は毎日が命懸けなので有る。
其れを少しでも侍達に理解して欲しいと願い、詳しく優しく話しをしなければならず、少しでも理解出
来れば潜水船の訓練はさほど難しくは無い考えたので有る。
「では、私達は船長のお話しを謙虚に聴かなければ無いのでしょうか。」
「はい、私は其れだけの価値は有ると思います。
私と近藤殿も途中からは本当の意味で真剣に船長のお話しを聴くようになりました。
そのお陰で船長からは褒めて頂けたのですが、でも、あの時は何もかもが初めてでしたので真剣に聴か
なければ自分達の命は無いと悟ったと申しましょうか、少しは理解が出来た様に思えたのです。」
源三郎は浜に着いた近藤と吉田の目付きが洞窟に行く前と全く違い輝いて要ると、其れが元太に近藤と
吉田を中心に人選を進めると言う事は、やはり、源三郎の目に狂いは無かったので有る。
近藤と吉田はまるで別人の様に話をして要る。
元太が何を話したのか鈴木も上田も分からないが、潜水船に限っては元太の話が一番重要だ。
「貴殿達、四名は自ら名乗り上げられ其れだけでも十分ですよ、元太船長には何でも聴かれた方が良いと
思いますよ、其れに弐号船からはもっと厳しい訓練が待って要ると思います。
ですから、壱号船の訓練で知らない事を無くす、其れさえ出来れば大丈夫だと思います。」
「そんなに覚える事が有るのでしょうか。」
「私も全てを覚える事は無理だと思いますが、最初から全てを覚える気持ちが無ければ何も覚える事は出
来ない思います。
其れと船長が指示された事は唱和される方が良いと思います。」
「其れは何故でしょうか、指示された事を確実に行えば問題は無いと思うのですが。」
「確かにその通りだと思いますが、船長は私達の後ろで絶えず潜水鏡を覗き、指示を出され、私はあの時
自然と唱和しましたが、船長にすれば唱和すると言う事は他の者達、特に弐号船は大きく聞こえていない
事も有りますので、私は船長の指示を聞きその指示を実行しますと言う意味で唱和したのですが、其れが
大変良い事だと言われましたよ。」
「では、全ての指示に対して唱和する必要が有るのですね。」
「はい、私はその様に思いますねぇ~。」
「あの~宜しいでしょうか、訓練は長く続くのでしょうか。」
「私達の時は潜水船に乗り込むまでに長い間説明を聴いていたと思います。
其れと、実際潜水船に乗っての訓練ですが、私もどれ程経ったのか分かりませんでした。」
「吉田殿、私と総司令が小舟を確認してから戻って来られるまでは、一時以上は掛かったと思います
よ。」
「えっ、では、私達は半時は潜っていたと言う事になるのですか。」
「吉田殿、私が先に操縦棒を担当しましたが、半時も経ったと思っておりませんでしたよ。」
「あの時、丁度、昼九つの鐘が鳴ったと思います。」
「あっ、そうでした、先程申されました潮が流られていると言う話しですが、潜水船を一度浮上させ、元
太船長が出入り口から顔を出して岬の方を見てて下さいと、潜水船が潮に流されて要ると言うのが分かり
ますからと、で、私は見ておりますと、やはり、船長の言われる通りでして潜水船はゆっくりと流れに乗
って動くのが分かりまして、其れで船長の言われる海は生き物だと言う事が、その時、はっきりとわかり
ました。」
「では、潜水船の中では分からなかったのですか。」
「私達は全く分かりませんが、船長が左右の指示を頻繁に出された訳がその時まで分かりませんでした
が、船長の指示で予定の所に行けたと思います。」
「やはり、船長の能力は素晴らしいと言う事ですか。」
「はい、私も上田殿も其れはもう大変な驚きで、私も潜水鏡を覗きましたが、あの様な狭い所から見るだ
けで判断されるのですから、其れはもの凄い事だと思いますよ。」
「我々、四名の訓練は明日ですが、私は今お話しを伺い何としても壱号船を自由自在に操れる様になり
弐号船か参号船に乗りたいと思います。」
「その意気ですよ。」
そして、明くる日の早朝、若い家臣、四名が大手門を出る時。
「私達も参りますので。」
「えっ、近藤様と吉田様も参られるのですか。」
「はい、私達は乗る事は出来ませぬが洞窟に入り弐号船を見たいと思いましたので。」
「はい、では、ご一緒に。」
六名は浜へと向かった、彼らが大手門を出て間も無く他の家臣達も一斉に出て行く、一体何処に向かう
のだ、やはり、昨日話しを聞き其れが誰に言われたのでも無く自らの意思で浜へと向かうので有る。
「のぉ~源三郎、我が藩の者達も少しは考えて行動しておるのぉ~。」
「はい、私は訓練は別として、元太さんがどの様な話をされたのか知りませぬが、昨日、近藤様と吉田様
が話され、其れによって皆様方の考え方が変わったのは確かだと思います。」
「うん、余も其れは良かったと思っておる、其れでじゃ次の潜水船はどの様になっておるのじゃ。」
「はい、昨日、技師長と少しですが話をしましたが、別の問題で悩んでいる様子でした。」
「其れにしてもまぁ~次から次へと考え付くものじゃと、余は感心しておるのじゃ。」
「はい、私も今頃になって、げんたを技師長に大抜擢した事が良かったと思っております。
彼ほど大きな存在は今だ無かったと思いますが、この頃は目付きまで輝いております。」
「だがのぉ~、源三郎、やはりまだ子供じゃ、余り無理をさせるで無いぞ。」
「はい、承知致しました。」
殿様も源三郎も家臣達のやる気が起きた事が一番大事だと、訓練と言うのは人によっては向き不向きの
者も出て来る、何も全員が潜水船を自由自在に操る必要は無い、次第によっては城下の者達にも参加させ
る事も考えなければならないだろうかと考えて要るので有る。
一方で浜では今日から本格的な訓練が開始とおなり、元太は人選を行なって要る。
「なぁ~みんな聴いて欲しいんだ、今日から本格的な訓練に入るんだけど、誰か船長の仕事をして欲しい
んだ、誰でもいいんだけどなぁ~。」
「よ~しオラが行くよ、オラ達も訓練するんだろうから。」
「うん、そうなんだ、でも、最初に色々な事を話して欲しいんだ。」
「なぁ~元太、その話だけど何でもいいのか。」
「うん、この入り江の中で潮が流れて要る事、漁師の仕事は毎日が命懸けだと言う事も含めてなんだ。」
「其れだったら、オラ達の専門じゃないのか。」
「うん、そうなんだ、だけど、お侍様達は海の事を全然知らないから海は生き物だと海がどんなに恐ろし
いか、みんなが体験した事を話して欲しいんだ。」
「なぁ~元太、オラ達が普通に話をすればいいのか。」
「其れでいい思うんだ、でも、お侍様にも立場が有るから、そのところは考えて欲しいんだ。」
「分かったよ、オラ達も真剣だって思ってくれればいいんだな。」
「うん、其れで多分だけど昨日のお侍様も来られると思うんだ、其れでオラはそのお侍様と話をする
から。」
「よ~し分かった、元太、オラも元太の顔を潰す様な事はしないから。」
「いや、オラよりも源三郎様の顔だけは潰す事なんか、オラは死んでも出来ないんだ。」
「そうだよ、オラ達、みんなは源三郎様のお陰で今は楽しく仕事をさせて貰ってるんだから、オラだって
そんな事はしないから。」
「じゃ~、頼むよ。」
「うん、任せてくれって。」
其れから暫くして。
「お~い、元太船長。」
「やっぱり来られたよ、だけど他に四人も来たよ。」
「元太船長、昨日は大変有難う御座いました。」
「お侍様、その船長と言われましても。」
「いいえ、私はこれからも元太船長に色々な事を教えて頂く事が山ほど有ると思っております。」
「あっ、そうだ、オラ、お侍様のお名前を聴くのを忘れておりました、済みません。」
元太は申し訳なさそうに頭を下げると。
「いいえ、いいんです、私が名乗らなければならなかったのですから、私が近藤でこちらが吉田と申しま
す。」
「はい、近藤様に吉田様ですね、しっかりと覚えさせて頂きますので、其れで他の四人のお侍様方は。」
「今日から本格的な訓練に入ると思いまして、昨日、家臣の全員に訊ねましたところ、この四名が真っ先
に名乗りを上げましたので、其れと私達は。」
「はい、多分、弐号船を見たいのではないですか。」
「はい、その通りですが、宜しいのでしょうか。」
「はい、勿論ですよ、じゃ~今日はオラでは無いですが、オラの仲間でよしぞうと言います。」
「よしぞといいます、宜しくお願いします。」
元太とよしぞうは改めて近藤達に頭を下げると。
「船長、私達の方こそ何卒宜しくお願いします。」
浜には他の漁師達もおり、その時。
「近藤様、他のお侍様達も来られましたよ。」
「えっ、船長、私は何も申してはおりませんが。」
「近藤様、本当の事を言いますと、オラ、昨日、余計な話しばかりしたので、今日は誰も来なかったら、
源三郎様に何と言ってお詫びをしようかと思ってたんです。」
「いいえ、私は昨日元太船長のお話しを全員に聴かせましたので、でも、私も含め他の者達は殆ど海の事
を知りませんので其れは大変な驚き様でしたよ。」
「はい、分かりました、其れにオラ達も源三郎様の顔だけは潰す事は出来ませんので一生懸命にさせて頂
きますので、そうだ、皆様も洞窟に入って弐号船を見て貰いましょうか、みんな済まないけど、お侍様達
を洞窟に案内して欲しいんだ。」
「元太、任せろ、オラ達で送るから元太は先に行ってくれ。」
「うん、じゃ~近藤様、吉田様はオラの舟に、よしぞうは四人のお侍様を頼むぞ。」
近藤と吉田は元太の小舟に四名の家臣はよしぞうの小舟に乗り込み洞窟へと向かった。
「銀次さ~ん。」
「お~元太さん、どうしたんだ。」
「はい、後から大勢のお侍様が来られますので。」
「よ~し分かった、元太さん任せなって、お~いみんな聞いた通りだ、後から大勢来られるってからなぁ
~みんな頼むぜ。」
「まぁ~オレ達に任せろって。」
銀次達も元太の言う意味を知っており、仲間が総出で家臣達の待ち受けに入った。
「それじゃ~四人のお侍様はよしぞうさんから話しを聞いて下さい。
近藤様、吉田様、弐号船はまだ奥に有りますので。」
「はい、船長、私は昨日洞窟の中を見る余裕が無かったのですが、其れにしても物凄く大きな洞窟です
ねぇ~。」
「はい、此処からお城までは銀次さん達が掘っていまして、もう直ぐお城に届くんですよ。」
「えっ、では、お城まで届くと次からはこの中を通るのですか。」
「いいえ、此処は食料を保管する為に掘ってるんです。」
「でも、奥行きが深いですが。」
「はい、二町は有ると思うんですが。」
「えっ、二町もですか、でも幕府は知らないのですね。」
「はい、勿論ですよ、オラ達漁師と農民さん達と、其れにさっきの銀次さん達とで掘ってるんですよ。」
「ですが、何故我々に命じられなかったのでしょうか。」
「其れはオラにも分かりませんが、着きましたよ、目の前に有るのが零弐号潜水船です。」
「わぁ~何と言う大きな潜水船なんだ、ですが一体誰が造られたのですか。」
「其れなら、この中におりますよ、技師長がね。」
近藤と吉田は五十尺も有る潜水船だとは聞いていたが本物を目の前にすると想像したよりも巨大な潜水
船に暫くはただ茫然として眺めて要るだけで声も出ない。
「えっ、技師長って。」
「はい、先日も会っておられますよ、げんたと言いましてね、技師長の頭の中は全て潜水船の事ばかり
で、でも、オラ達には優しい子供なんでみんなは自分の弟の様に可愛がってますよ。」
近藤も吉田もげんたは知って要るが、正か技師長としてこの様な巨大な潜水船を造ったと聴き驚き以
外の何物でもない。
「では、少しづつ説明して行きましょうか。」
「はい、お願いします。」
「先ずは昨日乗られた時、水車の足踏みをして下さいと言いましたが、此処にその水車が有るんです。」
水車型は船体の外部に取り付けて有り、直径が二尺も有る大きな水車で有る。
「この中に入ってるんですが。」
その時、他の家臣達も到着し、誰もが皆巨大な潜水船に驚きの声を上げ唖然としている。
げんたは船内で別の工事を行なっていたが、船体の近くで大勢の声に出入り口から顔を出し。
「元太あんちゃん、大勢のお侍様だけど一体何が有ったんだ。」
「技師長、良かったら降りて下さい。」
「あ~いいよ、じゃ~直ぐに行くから。」
げんたは梯子を下りて来た。
「なぁ~元太あんちゃん、一体何が有ったんだ。」
「技師長、こちらのお侍様が弐号船を見たいと。」
「えっ、でも、まだ全部出来て無いんだぜ。」
「技師長殿、大変申し訳御座いませぬ、私は昨日元太船長の訓練を受けた近藤と申します。
そして、こちらが吉田殿と申されますが、どうしても、技師長の造られました弐号船を見学致したく参
上致しました。」
「うん、分かったよ、で、元太あんちゃんが説明するのか。」
「いゃ~其れは技師長にお願いしたいんだ。」
「うん、いいよ、じゃ~今から説明するからね。」
げんたは大勢の家臣に詳しく説明を始めた。
「まぁ~今はこんなところかなぁ~。」
「技師長、お聞きしたいのですが宜しいでしょうか。」
「うん、いいよ、何でも。」
「私はまだ潜水船に乗った事が無いのですが、目の前に有る巨大な弐号船には一体何人が乗れるのでしょ
うか。」
「オレはあんちゃんに言ったんだけど、まぁ~十人ってとこかなぁ~。」
「十人と申されますと多いのでしょうか、其れとも少ないのでしょうか。」
彼は五十尺も有る大きな潜水船に十人だけでは少ないと思って要る。
「この船は海の中に潜るんだ、その為に船の中には色んな物が有って海の上の船の様に大勢乗る事は出来
ないんだ。」
「あの~技師長殿、今申されましたが色々な物とは一体どの様な物なのでしょうか。」
「うん、そうだなぁ~、まずはこの水車を動かす機械と其れに操縦棒、其れと外から空気を入れる為の足
踏み機が有ってね其処には余計な人が入っては駄目なんだ。」
この家臣達は一体何を聴いていたのだ、げんたが詳しく説明したはずなのに。
「皆様、先程、技師長が説明されたのを聴かれたので有れば今の様な質問はされないと思います。
皆様が真剣に聴かなければ、私も含め全員の訓練は中止となります。
皆様、其れがどの様な結果になるのか理解されるように、技師長殿、大変申し訳有りません。」
近藤と吉田はげんたに頭を下げた。
「別にいいよ、だって潜水船の説明を一度聞いただけで全部を知る事なんか出来ないんだ。
でもねぇ~本気で聴くのが嫌だったらみんな帰っていいよ、その変わり二度と話もしないし、今、近藤
さんが言ったけど訓練はこの浜の人達と銀次さん達以外は出来ないよ、だって、此処の浜ではねぇ~、お
侍様達が思ってる以上にみんなもっと深い絆で結ばれているんだからね、まぁ~其れだけははっきりと覚
えてて欲しいんだ、じゃ~次に聴きたいと思う人は。」
げんたの発言は家臣達に衝撃を与えた、こんな子供にと家臣達は思って要るが、だが、今の家臣達に反
論出来る余地は無い。
暫くの沈黙が続き。
「あの~技師長、大きな潜水船ですが、一体どれだけ長く海中に潜って要る事が出来るのでしょうか。」
「う~ん其れがね、今一番の問題なんだ、オレが今何とかしたいと思ってるんだけど。」
「えっ、技師長、其れは一体何が問題なのでしょうか。」
「うん、其れなんだ、一番の問題が空気の取り入れに今は人間の力だけでやってるんだ、だけど、人間が
ず~っと足踏み機を続けるのは無理なんだ、で、オレは何とかしたいと思ってるんだ。」
げんたは人間が動かせるのは最初だけで潜水船が動き始めると機械に出来る様に出来ないか、其れを今
考えて要るので有る。
「では、その機械が完成すると長く潜って要る事が出来ると申されるのですか。」
「うん、壱号船は小型だからいいんだけど、この弐号船は大きいからなぁ~ず~っと人間の力だけでは駄
目なんだ。」
今、話しを聞いて要る家臣達に新しい機械の事を説明しても全く理解出来ないだろうと、げんたは思っ
て要る。
「まぁ~其れはオレが考えて作るから、みんなが弐号船に乗るまでには完成させるから、まぁ~心配しな
くても大丈夫だよ。」
「はい、承知致しました。」
「技師長殿、私は昨日元太船長が申された中で少し気になる事が有るのですが、宜しいでしょうか。」
「うん、いいよ、オレだって全部は分かって無いんだ、壱号船でも弐号船でもまだまだ改良して行きたい
んだ。」
「はい、其れで私は機械の事は全く理解出来ないのですが、其れよりも元太船長が潜水鏡を覗いておられ
まして、其れで見れる所が前方だけだと申されたのが少し気になったのですが。」
「うん、其れはオレも知ってるんだ、前にも上田のあんちゃんに言われたんだけど、潜水鏡が回ればもっ
と別の所も見れるって、だけど、回す所には必ず隙間が出来て、其処から海の水が入って来るんだ。」
「技師長殿、では、其れを作れるだけの材料が無いと申されるのですか。」
「うん、そうなんだ、だって、隙間を埋めると回らないんだ、オレも今まで色々な物で試したんだけど、
今は作れないんだ、其れでお侍も何かこんな物が有ったら言って欲しいんだ。」
だが、一体、何を使えば水が漏れ出さない様に出来るのか、家臣達考えて要るが、果たして提案が得ら
れるのだろうか。
「其れと、中はねぇ~ごちゃごちゃとしてるから入れないんだ。」
「技師長殿、我々は大きな弐号潜水船を見せて頂いただけでも大感激ですので。」
「ご免ね。」
「あの~、技師長、今のお話しですが。」
「えっ、今の話って。」
「はい、空気の取り入れ口の話しですが。」
「何か思い付いたんだったら言って欲しいんだ。」
「でも、私の考えは。」
「何でもいいんだ、其れが出来るのか出来ないかじゃないんだ、だって、何時もオレ一人が考えてるんで
分からない事も有るんだ。」
「お話しをさせて頂きますが、私は船内がどの様になって要るのか分からないので怒らないで下さい。」
「うん、オレは絶対に怒らないから。」
「技師長、この水車ですが、空気の取り入れ専用の水車を取り付けるのは無理でしょうか。」
「えっ、空気の取り入れ専用って事はもう一個水車を増やすのか、う~ん。」
げんたは今の水車を利用出来ないかを考えていた、だが、空気の取り入れ専用の水車を取り付けるまで
は考えていなかった。
「お侍様、有難う、そうか新しく水車を取り付けるのか、其れは空気の取り入れ専用にすればいいんだ、よ~し、元太あんちゃん、オレ中に入って考えるからねお侍様の言われた方法で解決出来ると思うんだ
じゃ~ね悪いけど。」
げんたの顔色が変わり、元気良く梯子を上りあっと言う間に船内に消えた。
「元太船長、今の話で技師長は解決出来ると申されましたが。」
「はい、オラ達も技師長から色々な事を相談される事が有るんですが、浜の者は技師長一人では問題が解
決しないと分かった時には全員で考えるんですよ、其れで良い悪いは別にして誰かが言った事で解決出来
る事も有るんです。
今、お侍様が言われた事が技師長を悩ましていた問題の解決になると思うんです。」
「船長、其れはどの様な内容でも良いのですか。」
「はい、オラ達は難しい事は分からないから簡単に言うんですよ、技師長もその方が楽になるって。」
「では、今の提言は役に立つのでしょうか。」
「オラは大変嬉しかったですよ、お侍様も一緒になって考えてくれましたんで。」
そうか、内容よりも考えた事を話す方が大事なのだ、出来る、出来ないは別の問題だと。
「皆様、我々もこれから真剣に考えて行きましょう、考えた本人が決めるのではなく、考えた内容を伝え
るその方が問題の解決に役立つかも知れないと言う事だと思いますので。」
「ですが、私の言ったのは別に深くは考えておりませんでしたので。」
「お侍様、オラ達もですよ、オラ達の頭で難しく考えるよりも簡単に考えた方法が良い事も有りま
すので。」
「えっ、そんな簡単に。」
「お侍様、技師長は日頃から、考えても、考えても、其れでも分からない事も有るんです。
お侍様が簡単だと言われても其れで解決するんですから、後は技師長の腕の見せどころですから、何も
心配は要りませんよ。」
元太も今まで何度も提言している、其れで問題の解決に繋がった事も有ると言うので有る。
「まぁ~余り心配しなくてもいいですよ、技師長の事ですからねぇ~。」
元太は家臣の提案を待って要るのだ。
「では、今日、此処に来た事は我々にとっても大収穫だと言う事ですねぇ~、皆様、これから訓練に入っ
て頂きますが、ただ、訓練を行うのでは無く色々な事を考えて頂きたいと思います。」
近藤と吉田は昨日の訓練が終わってからは今までとは別人の様に変わり、特に潜水船に関しては積極的
な発言と行動を行なうようになってきた。
げんたが船内に入り、元太が質問を受ける様になり。
「元太船長、今日、訓練を受ける四名ですが、まだ、話しが続いて要る様に思うのですが。」
「はい、吉田様、オラの仲間も熱を帯びた様に言ってるんじゃないですか、オラと同じ様には出来ません
が、其れでも今日と同じ海は二度と有りませんので、オラがさっき此処に入る時見てたんですが、昨日よ
りも少し風が有りますから海の上よりも海の中の方が楽なんです。」
「あの~、元太船長、宜しいでしょうか。」
「はい、オラの知って事だったら何でもいいですよ。」
「今、申されましたが、風の有る時は海の上よりも海の中の方が安全だと其れは何故なのでしょうか。」
「海の上は風によって波が出来て、波と風の両方の影響を受けるんですが、海の中だと波の影響を受ける
だけで、だから、風が強くなれば誰も海には出ないんです。
これくらいの風と波だったら潜水船ですから多分大丈夫だと思います。
でも、仲間は潜水船が無事に洞窟を出ても、無事、洞窟に帰って来れるか、其れを先に調べてから決め
ると思います。」
家臣達は全く気付いていなかったが、其れが漁師で有り危険を犯してまで出る事は無いと。
「えっ、ですが、私の感じでは海は穏やかな様に見えたのですが。」
「お侍様、海は何時も同じじゃないんですよ、オラ達はその海に行って魚を獲りますが、オラ達は命の方
が大事なんですよ、ですから今まで以上に調べるんです。
空も突然変わる事が有るんですが、オラ達には分かりますのです、後は行くか行かないか其れはオラが
決める事じゃ~無いんです。」
「はい、よ~く分かりました、別に訓練は今日出来なかったとしても明日が有ると言う事なのですね。」
「はい、その通りで、命が有れば明日でも明後日でも出来ますので、近藤様、吉田様、其れと今の提案で
多分この弐号船は改良出来て皆様が乗られ訓練をなされる頃には大丈夫だと思います。」
「元太船長、その訓練ですが、全員が終わり次第、弐号船で開始されるのでしょうか。」
「オラはそのつもりですが、でもその前に一度源三郎様に聴かないと分からないんです。」
「はい、私もその様に思いますが、私から先に総司令に伺いを立てて見ましょうか。」
「はい、其れだったらオラも助かりますので。」
「では、今日戻り次第、総司令にお伺い致しますので。」
「近藤様、源三郎様はどんな事が有っても潜水船を利用したいと言ってられましたので。」
この時点で元太は源三郎の言う潜水船を利用すると言う意味を薄々気付いていた。
元太はどんな事が有っても幕府か官軍か其れは関係無く、この浜にだけは上陸させたくは無いと考えて
要る。
「では、船長、我々は一度城に戻りまして、元太船長と技師長が申されました話を確認したく思いま
すので、失礼します。」
「近藤様、吉田様、有難う御座いました。
あの四人のお侍様はまだ続きが有りますので、其れと明日からは天気が悪くなりますので暫くは潜水船
での訓練は出来ませんが宜しいでしょうか。」
「はい、勿論、承知しておりますが、私としましては船長さん達のお話しを聞けるだけでも有り難いので
すが其れならば宜しいでしょうか。」
「分かりました、其れだった十人くらいのお侍様で来て下さい、余り多いと話しが進みませんので。」
「はい、其れも総司令にお伝えします、では失礼します。」
「はい、お~いお侍様達がお城に帰られるから浜に戻ってくれないか。」
「お~、何時でもいいぞ。」
浜の漁師達が手分けし、四名を残し全員が城へと戻って行く。
そして、数日経った頃。
「元太あんちゃん、出来たぜ。」
「えっ、本当に出来たのか。」
「うん、其れとなぁ~今度は取り入れ口を四つにしたんだ。」
「其れにしても凄いなぁ~こんなにも早く出来て。」
「うん、本当はオレも同じ方法を考えてたんだ、だから、この中で作ってたんだ、其れをまだ考えてるっ
て、まぁ~お侍に花を持たせたんだ。」
げんたは久し振りに鼻を鳴らした。
「なぁ~んだ出来てたのか、オラは本当に心配してたんだから、だって、中に入れないから中の事が全然
分からないんだからなぁ~。」
「元太あんちゃん、ご免な、あんちゃんまぁ~中に入って見てよ。」
元太が潜水船に入ると。
「わぁ~これは凄いなぁ~、これが水車の。」
「うん、そうなんだ、三本有るんだけど、真ん中が水車と直結して其れを歯車で伝えるから取り入れ口は
下に有るんだ。」
げんたは既に取り付けに掛かっていたと、だから早く完成したので有る。
「元太あんちゃん、これで何時でも訓練に入る事は出来るけど、その前にあんちゃんと殿様に見せたいん
だけど。」
「うん、オラも大賛成だよ。」
「だったら、明日、あんちゃんのところに行ってくるよ。」
「分かったよ。」
げんたも考えていた、だが、若い家臣の提案だと言えば家臣達も積極的になるだろうと考えたのだ。
イ零弐号潜水船が遂に完成し、明日、源三郎に報告するのだと。
そして、げんたは新たにイ零参号潜水船の建造に取り掛かるので有る。