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闇の帝国    作者: 大和 武
53/288

 第 26 話。 恐怖に慄く家臣達。

「先程申しました四名の方々は今から急ぎ浜に向かって下さい。


 鈴木様と上田様が漁師の元太さんに話をされておられますので、但し、訓練は厳しいですからね、


まぁ~、其れだけは覚悟して置いて下さいよ。」


 四名の家臣の足取りは重く、だが、今更後悔したところで始まるものでは無い。


「さぁ~早く行くのです、漁師達も暇では有りませんのでねぇ~。」


 その後、四名の家臣は大急ぎで浜へと向かったが、途中の彼らは何も話さず何かを考えて要るの


だろう。


「さぁ~皆様方も明日からは本格的な訓練が開始されますが、その前に少しお話しをしますのでね、


よ~く、聴いて下さいね。」


 この後、源三郎はげんたの言った話をした。


「今、申しました話の意味ですが分かって頂けましたでしょうか。」


 家臣達はげんたの話しの意味を本当に理解出来て要るのだろうか、だが、その話を理解するのは今の家


臣達には到底無理な話で有る。


「皆様方には大変失礼だと思いますが、今のご貴殿方にはげんたの話を理解するのは、まず不可能だと申


し上げて置きます。」 


 それ程までに言われても家臣達の中からは反論の声すら上がらない。


「誰も反論はされないのですか、まぁ~ねぇ~仕方が無いと思いますがはっきりと申し上げますが、我が


藩の全員でげんたと議論をしても今のげんたに勝るお方は一人もおられませぬ、確かに先程も申されまし


たがげんたは子供ですよ、ですがねぇ~頭の中で考えて要る事は我々の想像を遥か先を考えて要るので


す。


 其れは、殿もご家老様も承知されておられます。


 我が藩で潜水船を造ったと他の上田や松川のご家中に申し上げても、先程の皆様方と同じでねぇ~全く


理解出来ない船ですからねぇ~、まぁ~全員が首を傾げる他は無いでしょうが、私がげんたに技師長と言


う称号を与えたのはげんたは並外れた能力の持ち主だと言う事です。」


「源三郎様、お聞きしたいのですが宜しいでしょうか。」


「はい、宜しいですよ、但し潜水船に関しての詳しい説明は出来ませんのでね。」


「はい、其れで技師長が考えられた潜水船ですが、中身と言うのは全て技師長の頭の中に入って要るので


しょうか、其れにどなたか補助に入られて要るのでしょうか。」


「今の質問ですが、技師長の頭の中に全て入っております。


 其れと、我が藩より一番若い二人を技師長の助手として、今は技師長の話した潜水船の中身と申しま


しょうか、技術的な内容の全てを書き取り図面に書き、其れを大工の親方と鍛冶職人の人達に渡し、職人


さん達は指示された寸法の材料を作っておられます。


 ですが、その中でも一番苦労されているのは鍛冶職人の方々でしてね、技師長の要求は時には髪の毛1


本も通すなと言う高度な技術を要求されて要ると、私も直接職人さんからお話しを聞きましたが、技師長


は恐ろしい作業内容を平気で要求しますが、技師長も自宅横の作業場で毎日その作業をされて要るので


す。


 皆様方髪の毛1本と言葉では簡単に言いましたが、これ程にも神経の使う仕事は初めてだと言われて要


るのです。」


 だが鍛冶職人にも意地が有る、鍛冶職人の親方はお前達ならば出来ると、今はその意地だけで職人達は


技師長げんたの要求に答えたいと必死で作業を行なって要るので有る。


「源三郎様、それだけ高度な技術を持たれている人達が結集して要るのですね。」


「はい、その通りですよ、私から見れば最高の腕前を持った職人さん達でさえ技師長の考えた潜水船を造


るにも一苦労、いや、連日苦労されて要るのです。」


「では、壱号船は。」


「技師長が一人で造ったのです、その壱号船で皆様方の訓練を行います。


 基本の構造は壱号船も弐号船も同じでしてね、中に設置された機械と船体が大きいのが弐号船だと言う


事です。」


 この頃になると家臣達は少し安心したのか安堵の表情を浮かべて要る。


 だが、其れは飛んでも無い間違いで、確かに基本は変わらない、問題は外気の取り入れに行うふいごの


足踏みの任務で漁師の元太も言ったが壱号船はふいご方式で弐号船は水車方式で更に、壱号船には中の空


気を抜く為の穴がまだ開けておらず、ふいごもそのまま残して有る。


「其れでこれだけは申して置きますが、漁師さん達や洞窟の掘削工事に就かれている人達に一言でも暴言


を吐いたりされたお方はどの様な理由が有ったとしましても私は許しませぬのでね、その方のお役目は変


更し山に入って頂きまして幕府軍と官軍の探索に入って頂きます。


 その方は二度とお城に戻る事は出来ないと心得て下さい。」


 何と恐ろしい事を源三郎は言った山に入り幕府軍と官軍の探索任務だと、其れは潜水船の訓練よりも遥


かに恐ろしい任務だと、この時家臣達は思ったので有る。


「源三郎、余が認めるぞ、その者達は夜明けから日没まで山の中を歩き回り、何時狼に出会うかも分から


ぬぞ、余も聞いた話しだが、大昔武士数十人が狼を退治すると申して他の者達が止めるのも聴かず山に入


り全員が狼の餌食になったと、まぁ~其れよりもじゃげんたは子供だと思って要ると大変な事になるから


覚悟する事じゃ、のぉ~源三郎。」


「はい、殿の申される通りで御座います。」


 源三郎も殿様も、更にご家老様までもが薄笑いをし、其れが余計家臣達は恐ろしく感じるので有る。


 一方、浜では元太と銀次が協力し家臣達の訓練をどの様に行うのか話し合いが終わる頃四名の家臣は何


も知らずに着いた。


「鈴木殿、上田殿、お待たせ致しました。」


「はい、では早速始めますのでこちらの壱号船にお二人で。」


「はい、私達も海を見るのも洞窟に入るのも初めてで御座います。」


「鈴木様、オラも命が欲しいですからねぇ~、其れにオラはこんな人達に命を預ける事は、例え源三郎様


の命令でも受ける事は出来ませんよ。」


「其れは私も同様ですが、源三郎様は何としても元太船長でなくてはならないと申されておられますの


で、今回だけは私達の顔を立てて頂きたいのです。


 鈴木と上田は漁師の元太に土下座をして頼み込むのだが、その姿を見た家臣達はもう驚きと言うよりも


唖然とし口も聞けない程の表情をし、其れは、鈴木、上田の大芝居で有るとは、四名の家臣達に見破る事


などは不可能で有る。


「鈴木様、分かりましたよ、でも今回だけですよ。」


 元太は表情を壊らばせているのが家臣達も分かって要る。


「元太船長、有難う御座います。


 では、今日から訓練をして頂けるのですか。」


「勿論、やりますが、鈴木様、オラも命懸けなんで優しい言葉使いは出来ませんが其れでもいいんですか


ねぇ~。」


「勿論で御座いますよ、彼を侍とは思って頂かなくても宜しいですから、どの様な言葉使いでも宜しいの


で、源三郎様もですが殿もお許しして頂けると思いますので、何卒宜しくお願い申し上げます。」


 何ともまぁ~鈴木は役者にでもなれば大成功するで有ろうと上田は思って要る。


上田も真剣な眼差しで聞いており、其れが余計家臣達には恐怖の様にも思えるので有る。


 漁師の元太はもう嫌だとは言えず、今は早く終わって欲しいと言う表情で、だが、訓練はまだ始まった


ばかりで、この先訓練が何時まで続くのかも分からず、元太は不安でいっぱいで有る。


「だったら、オラは何時でも始めますので。」


「はい、では、元太船長としてはどの様な訓練を行われるのでしょうか。」


「はい、オラが潜水鏡を見て指示しますので、その通りに行なって下さればいいんですよ。」


「では、岸壁を離れずに行われるのですか。」


「はい、その代わり入り口は閉めますので、足踏みは最初から最後までやって貰います。


 其れで無かったら中に居るオラが死にますんで、其れと、訓練は半時以上は潜ったままと同じになりま


すんで、オラは若しもの時は何処かを叩きますので其の時には入り口を開けて欲しいんです。」


「元太船長、分かりました、オレが入り口付近におりますので何か有れば船を叩いて下さい。


直ぐ開けますので。」


「分かりました、じゃ~どのお方からですか。」


 最初の二人が手を挙げ船内に入ると船内に灯りは無く、入り口付近に有るかがり火が薄明るく船内を照


らしているだけで有る。


「えっ、船内に灯りが有りませぬが。」


「何を言ってるんだ、オラも鈴木様も上田様も最初から灯りなんて無かったんですよ、入り口を閉めると


中は暗闇ですからね先に足踏み機と操縦棒の席に座って下さい。


 オラが蓋を閉めて鍵をしますので直ぐ足踏みを始めて下さい。」


 三人が乗り込むと銀次が蓋を閉めたが傍に居た二人は銀次の小細工には全く気付いておらず、元太も、


本当に閉めると危険だと分かったおり銀次に小細工を頼んだので有る。


 さぁ~此処から元太の大芝居の始まり、始まり~。


「さぁ~ふいごを踏んで下さいよ、止めると三人共あの世へ行きますのでね今からの言葉ですが、此処で


は承知しましたでは無く、よ~そろと言って下さい。


 では出港しま~す、潜水船をちょい下によ~そろ、前方に官軍の軍艦発見、軍艦の後ろに近付けろ。」


「軍艦の後部に接近する、よ~そろ。」


「ちょい、右、そのまま前進。」


「ちょい右、よ~そろ。」


「うっ、足踏みが足りないもっと踏み込め。」


「よ~し。」と、


 家臣は其れ以上声が出ない。


「うっ。」


「返事は。」


「よ~。」


「何だ今潜ったのにもう息切れか浮上する、何と情けない侍だ良くも其れで大きな顔で歩いて要るなぁ


~。」


「とん、とん。」


 船体に音がし銀次が蓋を開けると元太が現れた。


「元太船長。」


「鈴木様、オラがこんな言い方をすれば打ち首になるかも知れませんがねぇ~、こんなお侍はまぁ~はっ


きりと言って使いものにはなりませんよ。」


「何だと。」


「ほらね、オラを殺すんだったら早く殺して下さいよ、でもねぇ~はっきりと言って置きますがねオラ達


の協力無しでこの潜水船もですが、次の大きな潜水船だって絶対に動かす事は出来ないし、其れから、こ


れから先予定の潜水船造りも協力しませんから。」


「何だと、お前は拙者を。」


「少し待って下さいよ、元太船長がこれだけ怒ると言うのは余程の理由が無ければ怒られる様な人では有


りませんから、其れで元太船長、何が有ったのですか。」


「鈴木様、オラ達が乗った時は海の中に潜ったんですよ、でもねぇ~今日は海の中には潜らないでの訓練


ですよ。」


「はい、私も不測の事態を考え海には潜らずこの場での訓練だと、源三郎様からも申されておりましたの


で。」


「じゃ~聴きますが、今潜水船に乗り蓋をしてから長かったですか、其れとも短かったですか。」


「船長、直ぐと言っても良い程でしたねぇ~。」


「その直ぐでもお侍は我慢と言いますか、直ぐにふいごが踏めないって。」


「えっ。正か。」


「本当ですよ、其れに三人も乗ってますから直ぐに息が苦しくなってきましたので、銀次さんに蓋を開け


て貰ったんです。」


「其れは、誠なのですか、貴殿は何故その様に早く。」


「何故、拙者がこの様な屈辱的な扱いを受けねばならぬのですか、拙者は野洲の武士で御座る。


其れが、何故なのですか。」


「他の方々も同じ考えなのですか。」


 他の三名も頷き。


「何故、我々が漁師の命令を聴かねばならないのです。」


「貴殿達は何も理解しておられませんねぇ~、まぁ~仕方有りません、今からお城に戻り源三郎様に報告


いたしますがこれは大問題になりますよ。」


 鈴木も上田も元太が芝居をしているのか本気で怒って要るのか、今は何も判断が出来ない。


 一度、城に戻り源三郎の指示を仰ぐ事を考えたので有る。


「元太船長、大変申し訳有りませんでした。


 この通り私からも謝りますのでどうかお許しの程を。」


 鈴木と上田は、元太に土下座した。


「鈴木様がそんな事する必要なんか有りませんよ、どうか立って下さい。」


 元太は鈴木を起こしたが四名の家臣は全く気にしておらず、それどころかぶ然とした表情をしており、


その表情で元太の怒りは頂点に達した。


「元太船長、私も城の戻り源三郎様に報告しますので。」


「鈴木様には本当に申し訳無いと思ってますが、もうオラはお侍は信用しませんので源三郎様にも言って


欲しいんですよ、誰も来ないで下さいって。」


「はい、承知致しました、では私達はこれで失礼します。」


 鈴木と上田は四名の家臣と共に城へと戻って行く。


「上田殿、元太さんは本気で怒っておられますよ。」


「私も元太さんがあれ程にも怒られる顔を見たのは初めてで一体この先どの様になるのか其れが、心配で


御座います。」


「貴殿達は源三郎様がどれ程長い時を掛けて漁師さん達の信頼を得たのかご存知なのか。」


「いや、其れよりも、何故、拙者が。」


「まだ何も理解されておられないのですか、我が連合国の置かれている立場を。」


「拙者も連合国の立場は理解しております。」


「では、何故、潜水船が必要だと言う事も。」


「う~ん、拙者は全てを知って要る訳でもないが。」


「我が連合国の武士の人数では幕府軍も官軍の相手では無いと言う事なのです。」


「えっ、ですが、其れはどの様な意味ですか、我々では全く相手にはならないと申されるのですか。」


 四名の家臣は日頃源三郎が話して要る内容を全く理解していない、いや、それどころか聴いていないと


言う事なのだ。


「貴殿達は源三郎様のお話しを聴かれておられないのですか。」


「いいえ、聴いておりますが。」


「では、何故その様に申されるのですか、其れよりも本気で考えておられないと言う事に。」


「いや、拙者は何時も本気ですが。」


「ならば、何故で御座いますか。」


 鈴木は呆れ果てた、家臣の中には今も同じ様な考え方を持った者も多く要るのでは無いか、其れならば


根本的に考えを改めさせる必要が有ると、その後は話す事も無く城へと着いた。


「源三郎様、大変な事態になりました。」


「一体、如何されたのですかこの様に早く戻られると言うのは。」


「はい、元太さんが其れはもう大変な怒り様で収集が付かなくなりまして。」


「では、お話しをお伺いしますから、どうぞ。」


「はい、ではお話し致します。」


 鈴木は何故元太が怒ったのかを話すと。


「えっ、其れは大変な事になりましたねぇ~、う~ん。」


「はい、元太さんがあれ程怒られては何も言い返す事も出来ず、私は仕方無く戻って参りました。」


「其れは、鈴木様も上田様も大変だったのですねぇ~、其れよりも貴殿達はどの様に考えておられるので


すか。」


「源三郎様、何故、我々野洲の武士が漁師に命令されなければならないのでしょうか。」


 源三郎は今の家臣の言葉で全てを理解した。


「今何と申されましたか、何故漁師に命令されなければならないのかと、其れは貴殿が今の連合国の現状


を全く理解されておられないのか、理解しょうとも考えておられませねぇ~。」


「いや、拙者は理解しております。


 遅かれ、早かれ幕府軍か官軍が攻撃をすると言う事も。」


「では、何故潜水船が必要なのかと言う事も理解させて要るのですか。」


「はい、勿論で陸では劣勢ですが、海では潜水船を利用し、海中から敵軍艦を沈めるか、其れに近い損害


を与える事が出来ると。」


「其処まで分かって居ながら、何故訓練が出来ないのでしょうか。」


「拙者は野洲の武士で御座います。


 その武士が何故漁師に命令されなければならないのでしょうか。」


「では、お聞きしますが、貴殿は海の事をどれだけご存知なのですか。」


「拙者は海の事は知りませぬ。」


「他の方々は如何で御座いますか。」


「はい、拙者も同じで御座います。」


 他の家臣も同じ意見で。


「源三郎様、我々野洲の家臣は今からでも海の事を学べば十分かと思っておりますが。」


「貴殿達は海の事をそれ程までに簡単に理解が出来ると考えておられるのですか。」


「私は出来ると確信しておりますが。」


 源三郎はこれ以上彼らに何を話しても無駄で有ると考え。


「貴殿らに新しき任務をお願いします。」


「えっ、新しき任務と申されますと、私は潜水船の訓練は。」


「はい、必要無いと考えましたので。」


 四名の顔が安堵した表情に変わり、だが、源三郎は更なる厳しい役目を伝えるので有る。


「貴殿達には菊池から山賀に至るまでの山に入り、幕府軍と官軍の動向を探って頂きたいのですが如何で


御座いますか。」


「はい、拙者承知致しました。」


 他の三名も頷き、この四名は新たな任務に就く事になり、これで楽になると言う様な表情で有る。


「幕府軍と官軍の兵士が山に登って来た時には問答無用で殺して下さいね。」


「はい、拙者にお任せ下さい。」


「貴殿達はこの野洲の城に戻られる必要は御座いませぬので、其れと私から各国に書状送って置きますの


でね、其れと報告も必要御座いませぬので。」


 源三郎の言葉は優しいが事実は野洲から追放されたと同じで、家臣達は一体何を勘違いしているのか表


情が緩み、だが其れよりも連合国の山には狼の大群が要る。


 其れに幕府軍と官軍が何時山に登って来るのか、其れも全く分からないので有る。


 彼らはこの任務が普通の簡単な任務だと考えて要る。


「源三郎様、相手が幕府軍でも官軍でも関係は無いのでしょうか。」


「はい、其れは全く関係御座いませぬ、但し相手方も鉄砲を持って要る可能性が有りますのでね貴殿達の


命も危険だと考えて下さい。」


「はい、承知致しました。」


「では、貴殿達は早速向かって下さい。」


 四名の家臣は一体何を考えて要る、本当の相手は狼の方だと言う事も理解して要るのか、幕府軍も官軍


も今のところは山に登って来る様子は無い。


 四名の家臣は今度のお役目が気に要ったのだろうか。


「鈴木様、上田様、其れで元太さんは本気だったのでしょうか。」


「私は本気の様に思えたので御座います。」


「でも、確かに元太さんの申される事は本当だと思います。


 潜って直ぐに浮上するので有れば何の為の潜水船でしょうか。」


 源三郎は鈴木と上田を伴い大広間に向かった。


 大広間では家臣達が真剣な顔付で議論の最中で中には喧嘩腰でやり取りをして要る。


「皆様方如何でしょうか、本気で訓練に入られる覚悟はなされましたでしょうか、先程訓練に向かわれま


した四名の方々ですが漁師の元太さんを本気で怒らせてしまいました。


 元太さんは我が野洲の家臣は必要無いと申されたそうで、皆様方はこの意味がお分かりでしょうか。」


 家臣達に衝撃が走った、一体どの様な訳が有って元太を怒らせたのか知らない家臣達は困惑している。


「鈴木様から聴きましたが、潜水船の蓋を閉め潜ったと仮定した状況下での訓練ですが、直ぐ蓋を開けた


そうです。」


「源三郎様、何故元太殿が怒られたのでしょうか。」


「源三郎様、私が説明を致しますが、宜しいでしょうか。」


「はい、承知致しました、ではお願いします。」


「はい、では説明させて頂きますので、皆様方元太さんが怒られた理由ですが、元太さんは上手下手を言


われて要るのでは無いのです。


 彼らは全くやる気も見せず、相手が漁師でその漁師に何故命令されなければならないのだと言う事なの


です。


 確かに、元太さんは漁師で、ですが漁師さん達の仕事と言うのは、我々侍が日々命懸けだと申されます


が漁師さん達の仕事は本当の意味で命懸けだと言う事なのです。


 其れに、漁師さんもですが農民さん達も先祖代々から伝えられてきた空模様を見る目には間違いは無い


と言う事なのです。


 あの人達はその日の天気で漁師さんは小舟で沖に向かい、農村では何時の時期になれば種を蒔くのか、


その全てが天気次第と言う事で我々にとっては単なる雨でも、漁に出、海が荒れておれば小舟は転覆し、


其れで漁師さんの命は無いのです。


 私と上田殿は元太さんと一緒にイ零壱号船に乗り沖に出ましたが、元太さんは最初から最後まで足踏み


を続けられ、私と上田殿は何事も無く洞窟に戻って来られました。


 ですが、本日参りました四名の方々は最初から言葉は適当では御座いませぬが、其れこそ岸壁に係留さ


れているので潜る必要も無いと適当に足踏み機を踏まれ、その結果銀次さんがいなければ潜水船の中の三


名は死亡しておりました。


 皆様、元太さんは我々野洲の侍は信用出来ぬと申されました。」


 鈴木は全て野洲の家臣が悪いと言ったが、残った家臣達はまだ理解が足りないと思い。


「潜水船の操作が出来なければ、我々の住む野洲の浜から軍艦に乗り込んだ大勢の兵士、其れは幕府軍な


のか官軍か分かりませぬが押し寄せて来る事は間違いは有りませぬ、その時になって皆様は一体どの様に


して野洲を守られるおつもりなのですか。」


「鈴木殿、元太殿の怒りを治める方法は有りませぬか。」


「今の私に一体何を期待されておられるのですか、私は元太さんに土下座をし謝りましたが、反対に四名


の方々はぶ然とした態度で余計火に油を注いだのですよ、この意味が分かりますか。」


「私達、全員が浜に行き元太さんに謝る他に策は無いのでしょうか、源三郎様。」


「私はねぇ~元太さんの気持ちも分かりますよ、何時も侍は偉そうな態度で来るが、侍とは名ばかりで実


は何も知らない何も出来ない、其れすらも知らずに態度と言葉使いだけは一向に変わらないのだとね。」


「源三郎様、若しも、若しもですが浜の人達の協力が無ければ一体どの様な事になるのでしょうか。」


「う~ん、其れはねぇ~多分ですが、浜だけでは終わらないと思いますよ、大工さん達も鍛冶職人さん達


も怒られますからねぇ~、その人達の協力が無ければ次の潜水船を造る事も訓練も出来なければ、先程、


鈴木様が申された通り幕府軍か官軍が浜に上陸し、我が野洲もですが連合国は簡単に滅亡すると思います


よ。」


「えっ、正か。」


「わぁ~、これは大変な事に。」


 大広間の家臣達が騒ぎ出した。


「まぁ~皆さん静かにして下さい。」


 家臣達は源三郎の思惑通りに騒ぎ出した。


 僅か百人程の侍だけで、数千、いや、数万の大軍を相手に戦を行なえば簡単に勝敗は付く。


 その様な事は誰が考えても分かるので有る。


「私が申した事は間違いは無く起きると考えて下さい。


 皆様方は確かに優秀な侍に間違いは御座いませんが、相手が数千、いや、数万の大軍ともなれば野洲は


数日間で滅亡し、連合国は良く持ったとしても十日間で完全に制圧され、後はどの様になるか、其れは皆


様方が想像して頂いても宜しいですが、では我々に出来る事はと申せばどの様な方策が有ると思われます


か。」


 この時になり要約家臣達は気付き始めたので有る。


「そうだ、源三郎様は我々は百人だが我々には潜水船と言う幕府も官軍も知らない秘密兵器が有ると申さ


れるのですね。」


「はい、その通りですよ、勿論皆様方もまだ見た事の無い特殊な船ですが、この潜水船で幕府軍か官軍の


軍艦か其れは今のところ分かりませぬが沖合を通過する時に海中から忍び寄り爆薬を付け、爆発させる事


が出来るのです。」


「源三郎様、潜水船を操り何れかの軍艦を撃沈する事が我々の生き残れる道なのですか。」


「私もこの先どの様になるのか、今は何も確信は有りませぬが当面は大丈夫だと考えております。


 ですが訓練を拒否されるお方もおられると思いますが、その様なお方は我が野洲、いや、連合国には必


要は御座いませんので山に入って頂き、幕府軍、若しくは、官軍の兵士と戦に入って頂く事になります。


 但しですが、そのお方は二度と野洲の城にも他国の城にも入る事は許しませぬので、其れだけは覚悟し


た頂きます。」


「総司令、其れは、追放だと申されるのですか。」


「鈴木様、私は追放とは申してはおりませぬが、まぁ~事実上の追放だと言う事だけ思って頂いても宜し


いですよ。」


 源三郎は先の四名に対しても追放と言う言葉は使用しなかったが、城に戻る必要は無いと言う事が追放


となる。


「皆様、今潜水船を造る事が出来るのは野洲の技師長だけです。


 技師長は子供では有りませんよ、浜の人達の全員が協力しておられるのです。


 皆様がどの様に考えて頂いても宜しいですが、今の我々に取っては浜の人達の協力無しでまぁ~潜水船


を造る事も動かす事も出来ないと言う事でしてね、元太さん達は漁師さんでは無く潜水船の船長だと思っ


て頂きたいのです。


 ですから、漁師と言う仕事は潜水船の船長だと知れない為の隠れ蓑だと解釈して頂ければ全てが納得出


来ると思いますが。」


 源三郎は漁師の姿は見方も敵も欺く為の手段だと解釈すれば良いと。


「源三郎様、拙者今要約分かりました。


 浜の漁師姿は敵軍をも欺く姿で本当の姿は潜水船の船長だと申されるのですね。」


「はい、其れが皆様方の為になると、私は思いますがねぇ~。」


 源三郎の解釈で家臣達は納得したので有る。


「総司令、ですが元太さんを納得させる方法が見付からないのです。」


「まぁ~其れは、に任せて下さいね、今回は私も腹を括って元太さんを説得に参りますので心配される事


は有りませんよ。」


 源三郎は腹を括って元太を納得させると言うが、一体どの様な方法を使うのだろうか。


「鈴木様、上田様、私は明日浜に向かい、何としても元太さんを納得させますのでお付き合い願います


か。」


「はい、承知致しました。」


 鈴木も上田も源三郎がどの様な手段を持って解決するのか、全く見当も付かない。


 そして、明くる日の朝。


「源三郎様。」


 大手門の門番が源三郎が白装束で登城したので大変な驚き様で有る。


「わぁ~大変だ、源三郎様が大変だぁ~。」


「一体、何事だ。」


 詰所の家臣が表に出ると。


「えっ、正か、源三郎様。」


 家臣も大慌てで、殿様に伝えるべき走って行く。


「源三郎様が大変だぁ~。」


 城中に要る家臣達が大手門に向かうと、何と源三郎は白装束に身を包み平然とした顔付きで執務室に向


かった。


「さぁ~参りましょうかねぇ~。」


「えっ、総司令、正か。」


 鈴木も上田も唖然とし、執務室に要る家臣達は一斉に立ち上がり。


「源三郎様、一体。」


 其れ以上は、言葉にならず。


「馬で参りますので鈴木様と上田様は太刀を。」


「総司令、正か、お腹を召されるおつもりでは。」


「はい、私は当然の覚悟で参りますのでね。」


 正か、源三郎は切腹するのでは。


「総司令、幾ら何でも、総司令が。」


「お二人共、私はその覚悟が無ければ潜水船を動かす事は出来ないと結論を出したのです。


 では、参りましょうか。」


 源三郎は馬に乗り、大手門に近付くと。


「源三郎、何故じゃ、何故、お前が腹を召さねばならぬのじゃ。」


「殿、私は元太さんが納得されなければ腹を切ります。


 父上、後の事はお願いします。」


「よし、分かった、お前の好きにせよ。」


 家臣達の殆どが集まり、源三郎が大手門を出て行くのを見て要る。


「おい、これは我々の責任だ、どの様な事が有っても源三郎様に腹を切らせるな、行くぞ。」


 家臣達の殆どが、源三郎を追った。


 雪乃は何も言わず、ただ、静かに大手門からでて行く源三郎を見送ったので有る。


「権三、何とかならぬのか。」


「源三郎は死を覚悟で浜に向かったのです。


 私は源三郎を誇りに思います。」


 だが、ご家老様は何かを感じていた、源三郎の事だ何か考えが有っての白装束なのだ。


「源三郎様、お待ち下さいませ。」


 家臣達は大声を上げ必死で源三郎を追い掛けて行く。


 武士が白装束を纏い向かうと言うのは切腹すると言う意味で、源三郎は今正に切腹覚悟で浜へと向かっ


て要る。


 源三郎は馬を飛ばすでも無く、かと言って家臣達が追い付く速さでは無く、其れでも馬で行くと早く暫


くして浜に着いた。


「元太さんは。」


「あっ、源三郎様。」


 浜の人達も源三郎の白装束姿を見て、其れは大変な驚き様で浜は蜂の巣を突いた大騒ぎで有る。


「お~い、元太、源三郎様が。」


「えっ、あっ、源三郎様、一体どうしたんですか。」


 元太も直ぐに分かった。


 源三郎はゆっくりと馬を降り元太の前に座ると。


「元太さん、私の説明不足で元太さんに多大なご迷惑をお掛けしました。」


「源三郎様、お待ち下さいませ。」


 家臣達が浜に着いた。


「源三郎様、どうか、腹を召されるのだけはお辞め下さい。」


「私は決めたのです、元太さん私の命と引き換えに家臣達のご無礼をお許し下さい。」


 源三郎は元太に土下座し頭を下げた。


「お~い、みんな、源三郎様が大変だ、早く来てくれ。」


「えっ、源三郎様が一体どうしたんだ。」


 浜の人達が次々と集まり家の中に居た女性も浜に来た。


「源三郎様、オラは何ともないですよ、其れよりも一体どうしたんですかそんな白い着物を着て。」


「元太さんあの四人が元太さんに暴言を吐いたのは自分の責任だと申され、切腹を。」


 鈴木も上田も何をして良いのか分からずうろたえて要る。


「えっ、何で源三郎様が切腹するんですか、オラは源三郎様には何も。」


「いいえ、元太さん家臣が暴言を言ったのは事実です。


 其れは全て私の説明不足が原因なのです。」


「源三郎様、オラはもう何とも思ってませんので切腹だけは止めて下さい、お願いします。」


「源三郎様、我々が理解しなかったのが全ての原因で御座います。


 昨日のお話しで我々は本当に納得したので御座います。」


 洞窟からも銀次達が次々と浜に着き。


「源三郎様、オレ達は源三郎様が命の恩人なんですよ、源三郎様、何とか止めて下さい。」


 其れでも、源三郎は聴く必要は無いと言う態度で。


「鈴木様、介錯をお願いします。」


「総司令、私は出来ませぬ、誰が何と申され様とこれだけは、引き受ける訳には参りませぬ、私は。」


「あんちゃん。」


 源三郎の救世主となるのか、げんたが現れた。


「技師長、総司令が。」


「あんちゃん。」


「げんたか短い間だったが世話になった。」


「鈴木のあんちゃん、なんで、あんちゃんが白い着物を着て座ってるんだ。」


「技師長、実は。」


 鈴木は源三郎が切腹すると言う理由を話すと。


「でも、何であんちゃんが腹を切るんだ、オレはあんちゃんの為に頑張ってるんだぜ、其れに浜の人達も


なんだぜ。」


「げんた、武士には許される事と許されない事が有ります。


 私の説明不足で元太さんや他の皆さんに大変な迷惑を掛けました。


 そのお詫びに、私が腹を切る事で許して頂きたいのです。」


「なぁ~元太のあんちゃんオレは絶対に嫌だよ、だって、今まであんちゃんはオレ達の為にってやってく


れたんだぜ、何でその四人の為にあんちゃんが腹を切るんだ、なぁ~お侍ってそんな馬鹿な事をするの


か。」


 家臣達は何も言えずに要る。


「げんた、私は総司令官ですよ、全ての責任は総司令官の私に有るのです。


 げんた、侍として言ってるのでは有りませんよ、これが上に立つ者の責任の取り方なのですからね。」


「じゃ~あんちゃん、潜水船はどうするんだよ、オレはこれから先一体誰に相談すればいいんだ、なぁ~


あんちゃん。」


「う~ん。」


「あんちゃんが死んだら、オレは此処の潜水船に火を点けて、オレも一緒に死んでやるからなぁ~、


あんちゃん分かってるのか。」


 げんたは泣きながらも必死に訴え浜の人達も涙は止まらない。


「技師長。」


「何だよ~あんた達ってお侍は大嫌いだ、オレのあんちゃんを殺したってみんなに言ってやるからな


~、オレは絶対に許してやらないかなぁ~覚えて置くんだぜ。」


「げんた、ありがとう、ですが、私の事よりも他の人達の事を考えて下さいね。」


「じゃ~あんちゃんは他の人達のを考えてるのか、あんちゃんが死んだらみんなが喜ぶとでも思ってるの


か。」


 源三郎はげんたが激しくなじるのをただ黙って聞いて要る。


「なぁ~あんちゃん、オレの頼みだ今参号船を考えてるんだその相談は誰にするんだ、其れに一番悲しむ


のはねぇ~ちゃんだぜ、あんちゃんはねぇ~ちゃんを悲しませるのかよ~、なぁ~あんちゃん、もう、侍


なんか辞めてこの浜でねぇ~ちゃんと一緒にオレ達と。」


「げんた、本当にありがとう。」


 源三郎が本気なのか、だが、少しづつ様子が変わってきた。


「源三郎様、オラ達の為にお願いします、オラは源三郎様を本当の兄貴を思ってるんです。


 今、源三郎様に死なれたら、オラ達はこれから先一体どうしたらいいんですか、げんたも銀次さん達も


この浜の人達は一体誰を頼りにすればいいんですか。」


「ねぇ~源三郎様、オレ達は何でもします、お願いですから切腹だけは辞めて下さい。」


 浜の人達全員が源三郎を取り囲み涙を流し訴えて要る。


 其の時、源三郎が小刀を構えた瞬間、げんたが源三郎の胸に飛び込み。


「あんちゃん。」


 すると、一斉に鈴木も上田も銀次も飛び込み源三郎から小刀を取り上げ。


「げんた、よ~く分かりましたよ、私の命は浜の人達に預けますのでね、宜しいですか。」


「わぁ~。」


 げんたが源三郎の胸で大声で泣き出した。


「あんちゃん、もう絶対に嫌だよ、オレは。」


「うん、分かりました、二度と致しませんからね。」


「源三郎様、私が間違っておりました。


 今から心を入れ替え船長の訓練をを受けます。」


「私もです申し訳御座いませぬ。」


「拙者も心を入れ替えて潜水船の訓練を受けさせて頂きます。」


 源三郎はげんたを抱きしめ。


「げんた、もう泣くな。」


「うん、あんちゃん、オレは。」


「分かっていますよ、何も言わないで宜しいですからね。」


 あ~良かった、一時は一体どうなる事かと思われたが要約騒ぎは収まった。


 だが、果たして源三郎は本気だったのか、其れとも、いや源三郎は本気で有る。


「皆様、これからは浜の人達と共に訓練に入って頂けますか。」


「我々は今後一致団結し潜水船の訓練に励みます。」


「鈴木様、有難う。」


「総司令、私からのお願いですが、今後、二度とこの様な。」


「分かりました、皆さん大変申し訳有りませんでした。


 私はこれからも皆さんの為に一生を捧げますので、何卒宜しくお願いします。」


「元太船長、我々が間違っておりました。


 今後、訓練でどの様に申されましても我慢しますので我々をお許し願います。」


「源三郎様、オラ達は源三郎様の為なら何でもします。


 オラ達も潜水船の訓練を真剣にしますので、お侍様、宜しくお願いします。」


 家臣達全員が土下座し、元太と浜の人達に頭を下げた。


「お侍様がそんな事をしては駄目だ。」


「いいえ、私は侍では無く、これからは皆さんの為に命を捧げるつもりで侍では無く皆さんのお仲間に加


えて頂きたいのです。」


 何と言う事だ野洲の家臣が侍と言うのでは無く浜の人達の仲間に入れて欲しいと、源三郎は心の中でニ


ヤリとし、これで良かったのだ思うので有る。


「あんちゃん、オレ、何だか急に腹が減って来たよ。」


「私もですよ、でも切腹したらお腹も減りませんねぇ~。」


「あんちゃん、死んだら何も無くなるって、あんちゃんが言ったんだぜ。」


「そうか、では切腹しては駄目ですねぇ~。」


「源三郎様、朝、獲れた小魚が有りますから。」


「あんた、今から大急ぎで雑炊を作るよ。」


「うん、頼むよ。」


「じゃ~みんなも手伝って。」


 女性達は大急ぎで浜の特別雑炊作りに掛かった。


 これで源三郎が仕掛けたと言っても良い大騒ぎは一応収まり、半時程で浜の特製の雑炊が出来上がり。


「さぁ~出来たよ、源三郎様、はい、どうぞ。」


「お~ありがとう、美味しそうですねぇ~。」


「当たり前でしょう、私が源三郎様の為にって心を込めて作ったんだからねぇ~。」


「おい、そんな事を奥方様が聴いたら怒られるぞ。」


「あんたも本当に馬鹿だねぇ~、雪乃様はねぇ~、私達みんなの憧れの奥様なんだよ、雪乃様が私を相手


にすると思うの、そんなの間違っても無いわよ。」


「うん、そりゃ~そうだ、雪乃様はオラ達にとっても大切な奥方様なんだから。」


「何よ~、あんた、雪乃様に。」


「お前も本当にバカだなぁ~、あのお美しい雪乃様がオラを相手にすると思う方が大間違いんだよ、そう


ですよねぇ~源三郎様。」


「いいえ、分かりませんよ元太さんならば。」


「えっ、本当ですか。」


「あんた、源三郎様がおられるんだから、まぁ~仮にだよ、そんな事はお天頭様が反対から上がっても絶


対に無いよ。」


「其れは、うん、そうだ、あれ~お天頭様が。」


 浜に集まった全員が大笑いをして要る。


「げんた許して下さいね、其れで、先程話しておりました参号船ですが、もう造り始めて要るのです


か。」


「いゃ~今は頭の中に有るんだけど、オレは一番大事な所を何とか出来ないか、其れを今考えて要るん


だ。」


「一番大事な所ですか。」


「うん、足踏み機なんだけど。」


 げんたは足踏み機を改良するつもりらしいが。


「げんた、何を一体改良するのですか。」


「あんちゃん、其れが分かったら何も考える事なんか無いよ、其れが分からないからオレは考えてるんだ


ぜ、あんちゃんってそんな事も分からないって本当にバカだなぁ~。」


「そうですよ、私はげんたの様に頭が動きませんからねぇ~。」


「技師長、足踏み機の改良ですか。」


「うん、だけど今度は何から考えればいいのか、其れがさっぱり分からないんだ。」


 げんたの事だその様に言いながらも改良部分は分かって要るはずだ、一番大事な所の問題点は分かって


要るはずでその部分をどの様に作り変えるかを考えて要る、其れさえ分かれば早い。


「げんた、私は一度城に戻りますので。」


「なぁ~あんちゃん何か有ったら、浜に来てみんなと騒げばいいんだぜ。」


「分かりましたよ、では皆さん本当にありがとうこれからも宜しく頼みますね。」


「源三郎様、オラ達が付いて要るからね。」


「元太さん、大変ご迷惑をお掛けしましたが、今後とも宜しく頼みますね。」


「源三郎様、お元気で今度は奥方様と一緒に来て下さいねぇ~。」


「はい、その様にしますので、ではこれで。」


 源三郎は暫くの間浜の人達に手を振りながら戻って行く。


「総司令、私の不徳の致すところです。」


「鈴木様、上田様、お二人にも大変な迷惑を掛けまして、私も今反省致しております。」


「いいえ、其れは、私もで私と上田殿と二人がもっと理解出来る様にご家中の皆様に説明をすれば、総司


令にご迷惑をお掛けする事も無かったと私も反省致しております。」


「源三郎様、私は源三郎様がどれ程ご苦労されておられるか、其れを理解出来なかったので御座います。


 今後は真剣に考えて参りますので何卒宜しくお願いします。」


「はい、皆様も大変だと思いますが、海岸の洞窟を掘削しているのは野洲だけでは御座いません。


 山賀以外は全て掘削工事を行なっております。


 技師長と大工さん、鍛冶屋さん達が参号船、四号船と造り、山賀以外の洞窟に配備し、幕府若しくは、


官軍の軍艦を迎え撃ち撃沈しなければ、我々連合国の生き残れる道は御座いませぬ。


 ですが野洲以外の配備するのは当分先の話で、仮に潜水船が完成しても訓練を行わなければなりません


ので、私は其れまでに両軍が浜に上陸せぬ様に願って要るのです。」


「源三郎様、我々が率先して訓練に励み、其れを他国の方々に学んで頂く様にすれば良いのですね。」


「はい、その通りで、後は皆様が一刻も早く習得される事を願っております。」


 一方、お城では雪乃は静かに源三郎の無事を祈って要る。


「う~ん、遅い、全く持って遅過ぎる浜からは何も言って来ぬのか。」


「はい、今だ何も伝わっておりませぬ、殿、ですが源三郎の事です、必ずや戻って参ります。」


 殿様は一人イライラとしながら部屋の中を歩き回って要る。


「権三、お主、よくも落ち着いて折れるのぉ~、余はもう心配で、心配で何も考えられぬわ。」


「私も心配はしておりますが、今は何も出来ませぬ、後暫く辛抱で御座います。」


「一体、何時まで辛抱せよと申すのじゃ。」


 ご家老様も分かって要る、源三郎が本気で腹を切るつもりならば何故浜に行く必要が有る。


 源三郎の事だ今回は全員を巻き込み、其れで家中の者達を納得させる事が出来れば何事も無かった様な


顔で帰って来る。


 其れは、今までも源三郎の突飛な行動は多く、今に始まった事では無い。


 幼い頃からも突飛な行動で何度も悩まされており、今回も策を考えての事だと。


「殿、まぁ~少し落ち着いて下さいませ、その内に何事も無かった様な顔をして戻って参りますので。」


「権三、何を悠長な事を申しておる、今この時に、あ~其れにしても本当に遅いわ、誰か大手門に行って


参れ。」


 若い家臣も落ち着いてはいられず大急ぎで大手門に向かった。


「まだ、見えないのか。」


「うん、まだだ本当に遅いなぁ~。」


 大手門の家臣も源三郎の帰りを今か、今かと待って要る。


「まだ、見えませぬか。」


「はい、今だお見えになりません。」


「う~ん、えっ、あっ、あれは若しや。」


「源三郎様では間違いは御座いませぬ。」


 若い家臣が大手門に着いた直後、大手門に向かって来る源三郎の馬上姿が目に入った。


「殿、殿様。」


 家臣は殿様の部屋に向かう途中大声で叫び声を上げ走って行く。


「殿、源三郎様が戻って来られました。」


 だが、殿様の部屋まではまだ先で聞こえるはずは無い。


 其れでも若い家臣は叫ばざるを得ず、それ程にも大事件なのだ、その少し前。


「加世、雪乃は如何致しておるのじゃ。」


「はい、源三郎様が大手門を出られた時からお部屋に入られた切り、お姿は。」


「何じゃと、部屋から一歩も出ぬと申すのか。」


「はい、お食事も取られず、只、只管に耐えておられるかの様に。」


「何と、源三郎を只じ~っと待って要ると申すのか。」


「はい、私も雪乃様が心配で時々お声掛けをしますと、私は心配御座いませぬと。」


 やはり、雪乃は源三郎を相当心配して要る、だが声だけは判断出来ない。


「う~ん、だが、余は何も出来ぬ、加世、雪乃を頼むぞ。」


「はい、承知致しておりまする。」


 加世が雪乃が居る部屋に向かう、その時。


「源三郎様が戻って来られました。」


 家臣の大声に、加世は急ぎ雪乃の部屋に向かうが城内はもう大騒ぎとなって要る。


「雪乃様、源三郎様が。」


「はい、私も今聞こえました。」


「では、お迎えに。」


「いいえ、私は此処で源三郎様をお待ち致します。」


 雪乃は源三郎が無事に戻って来たとの知らせで安堵したので有る。


「源三郎様。」


「えっ、皆様如何なされたのですか。」


 源三郎はあえて恍けた。


「何を申されておられるのですか、殿やご家老様がどれ程ご心配されました事か、其れよりも雪乃様


が。」


「はい、其れは申し訳御座いませぬ。」


 源三郎はニコニコとした表情だが。


「源三郎。」


「殿。」


「殿では無いわ、一体何が有ったと申すのじゃ。」


「はい、此処では。」


「分かった、其れよりも雪乃じゃ。」


「はい、直ぐに参りますので。」


「のぉ~権三、何故、源三郎はニコニコとしておるのじゃ、余は全く理解が出来ぬわ。」


「はい、まぁ~其れよりも。」


「お~そうじゃのぉ~、此処では何かと。」


 殿様も分かって要る、源三郎が何故白装束になり浜に行ったのか其れだけを知れば良いので有ると。


「雪乃殿。」


「源三郎様、お帰りなさいませ。」


 雪乃は源三郎の表情を見て全てが解決したと思った。


「雪乃殿、ご心配をお掛けし申し訳御座いませぬ。」


「いいえ、私は何も心配致しておりませぬ。」


「私もこれからは雪乃殿には心配を掛けぬ様に致しますので。」


「はい、其の前に御着替えを。」


「そうでしたねぇ~、私はどうも着物が窮屈で、やはり何時もの作業着が楽です。」


 源三郎は久し振りに着物を長く着たのが余程苦しかったのか、作業着に着替えほっとした表情で有る。


「私も近頃、源三郎様の作業着姿が当たり前の思えておりましたので、お着物を着られた源三郎様のお姿


に違和感を感じておりまする。」


「雪乃殿、数日の内に二人で浜に参りませぬか。」


「はい、私は喜んでお供させて頂きます。」


 雪乃の表情が明るくなった。


「浜の人達はどうも私よりも雪乃殿に会いたいと申されておられますので。」


「はい、私は何時でも。」


「そうですか、其れを聴きまして私も一安心です。


 雪乃殿、申し訳有りませんが。」


「はい、承知致しておりますので。」


「そうですか、では今日は早く帰りましょうか。」


「はい、お待ち申し上げております。」


 雪乃は嬉しかった、別に何も無いが久し振りに、二人で浜に行くのだと、其れよりも、今日は早く帰る


と、この言葉が一番嬉しいので有る。


「殿。」


「源三郎、まぁ~座れ、で一体何が有ったのじゃ。」


「はい、実は潜水船の訓練に入りましたところ。」


 源三郎は四名の家臣が招いた言動と態度を詳しく話し、其れが原因で浜の全員が今後は一切協力出来な


いと、其れを解決する為の白装束だと説明した。


「何じゃと、で、その四名の家臣は如何致したのじゃ。」


「はい、表向きは山に入り、幕府軍と官軍の兵士が登って来たならば切り殺せと申し上げ、直ぐ山に向か


わせました。」


「何じゃと、その表向きと申すのは。」


「はい、この処置は他の家臣の手前野洲を追放したとは申せませんので、ですが、他の者達にははっきり


と事実上の追放だと申し上げて置きました。」


「じゃが、四名の家臣は知っておるのか。」


「いいえ、多分理解はされておられないと、ですが彼らの家族には何ら関係は御座いませぬので。」


「よし、分かった、其れで浜の方も全て解決出来たのか。」


「はい、元太さん達も納得して頂き、其れと残られた家中の者達全員が納得致しました。」


「では、源三郎の大芝居に全員が騙されたのか。」


「父上、何と申されます、私は芝居などは。」


「分かった、分かった、其れで雪乃は。」


「はい、雪乃殿は何も申されませんが全て承知して要ると思います。」


 何と源三郎の大芝居だと、その大芝居に家中の者達全員と浜の人達までも騙されたので有る。


「源三郎は、余までも騙したのか。」


「殿、騙したとは人聞きの悪い事を申されては、源三郎が困りますのでね。」


「何を申しておる、一番悪いのは、源三郎、お主も悪よのぉ~、よくぞ余を騙したのぉ~。」


 殿様は怒るよりも大笑いし殿様も騙されたと分かった、余りのも見事な芝居に怒る気も無くなったので


有る。


「源三郎の大胆な行動には何時もひやひやとさせられるのぉ~。」


「殿、申し訳御座いませぬ、ですがこれで家中の者達は浜の人達の協力無しでは何も前に進まないとだけ


は、はっきりと分かったと思うので御座います。」


「其れは、余も分かる、じゃが同じ事は二度目は出来ぬぞ。」


「はい、私も二度とは致しませぬ、其れと、げんた、いや技師長が参号船の構想を持って要ると申してお


りました。


 私も聴きましたが、其れが分からないから考えて要るのだと、私も技師長が一体何を考えて要るのかま


では測りかねます。」


「何じゃと、源三郎でも分からぬと申すのか。」


「はい、げんたを技師長に抜擢してからと言うもの、今までにない発想力を発揮しおり、今では私が考え


る遥か先を考えておりますので。」


「では、今までの様なげんたでは無いと申すのか。」


「はい、もう技師長として立派な役目を果たしております。」


「う~ん、じゃが少し可哀想じゃのぉ~。」


「はい、私も時々その様に思いますが、げんたは不満も無いと申しております。


 其れに、今では漁師の元太さんや銀次さん達に大工の親方達がげんたの親でも有り、兄貴分として接し


てくれており、私の出る幕も無くなるのでは無いかと思えるのです。」


「そうか、分かった、其れでじゃ、源三郎今日は早く帰るが良いぞ。」


「はい、私も早く帰り雪乃殿と。」


「うん、其れが、良いぞ、うん、良い事じゃ。」


 殿様は何を思ったのかニヤリとし。


 「では、私はこれで。」


 源三郎はその後雪乃とお城を後にしたので有る。


 その少し前、洞窟内ではげんたが元太と何やら話し合って要る。


「元太あんちゃん、オレはこの船を少し改良したいんだ。」


「何処を改良するんだ。」


「元太あんちゃんが最初に乗った時、足踏み機が途中で動かなくなったって。」


「うん、オラの力ではどうにも出来なかったんだ。」


「オレはねぇ~其れで良かったと思ってるんだ。」


「でも、あの時、鈴木様も上田様も途中から苦しくなったって。」


「元太あんちゃんが力を入れても足踏み機は動かないで、鈴木のあんちゃんも上田のあんちゃんも中に居


ると息苦しいって。」


「だけど、あの時蓋を開けるとまた動く様になったんだ。」


「う~ん。」


 げんたは暫く考え。


「そうだ、この船に穴を開けて見ようか。」


「えっ、穴を開けるってそんな事をすれば海の水が入るよ。」


「あんちゃん、多分大丈夫だと思うんだ、だって、蓋を開けたらまた足踏み機が動いたんだ、 だけど、


う~ん、何処に開けようかなぁ~。」


 げんたの頭の中には穴を開ければ余計な空気が抜け足踏み機が動くと考えたのだが、問題は一体何処に


穴を開けるかで迷って要る。


「ねぇ~あんちゃん、足踏み機に乗ってくれるか。」


「うん、いいよ。」


 元太は足踏み機に乗り、踏んだ。


「なぁ~あんちゃん、その手だけど。」


「オレの手が何か。」


「うん、手は何もする事が無いんだねぇ~。」


「うん、そうだよ、オラは此処を持って足だけを動かしているから。」


「じゃ~、手の近くに小さな穴を開けてもいいんだ。」


「だけど、此処から海の水は入らないのか。」


「オレは大丈夫だと思ってるんだ、其れでその穴には何か棒でも入れて、潜ってから棒を抜くと、うん、


そうだこれで行けるよ。」


「じゃ~、親方に頼んで穴を開けて貰うか。」


「うん、其れで駄目だったら、また考えるよ。」


「じゃ~、オラが呼んでくるよ。」


 元太は船を出て親方を呼びに。


「う~ん、此処に穴を開けて海に潜ってから棒を抜くと余分な空気が出るから、足踏みが続けられると、


そうか。」


 げんたは弐号船でも同じ方法で穴を開ける事を考えた。


「げんた、船に穴を開けるんだって。」


「うん、親方、穴を開ければ余分な空気が出るから、足踏みは続けられると思うんだ。」


「よ~し、分かった、だけど大きな穴は駄目だぞ、小さな穴から大きな穴は作れるが、反対は出来ないか


らなぁ~。」


「うん、じゃ~お願いします。」


「よ~し、そうだなぁ~、最初だから小指の太さの穴を開けるよ。」


 親方は慣れたもので元太の手元に小指程の穴を開けた。


「後でこれに入る棒を作って持って来るからなぁ~。」


「はい、親方、ありがとう。」


 げんたは此処ではみんなの協力で潜水船が造れると言う、浜や洞窟内ではどんなに忙しかったとして


も、げんたが呼ぶと誰でも直ぐに来てくれる、これが浜では暗黙の了解と言う事で有る。


「あんちゃん、蓋を閉めるよ。」


「うん、いいよ。」


 げんた、蓋を閉め、元太が足踏み機を動かせると中から空気が出るのが分かり。


「お~、これは凄いよ、う~ん、だけど少し重くなってきたなぁ~。」


「あんちゃん、重いって。」


「うん、オレは力いっぱい踏んでるんだ。」


「う~ん、そうか、じゃ~もう少し大きな穴が要るかなぁ~。」


「うん、だけど少しだけ力を抜くと、また軽くなったよ。」


「だけど、あんちゃん、オレはこの中に灯りを点けたいんだ。」


「えっ、灯りって、そんな事。」


「うん、オレも分かってるんだ、だけど鈴木のあんちゃんも上田のあんちゃんも今まで本当の暗闇は経験


した事が無いと思うんだ、本当はオレも知らないんだ、其れで提灯の灯りでも有れば気持ちも変わるか


なぁ~って思ったんだ。」


「じゃ~もう少し大きくなれば、足踏みが軽くなって、オラも楽になるんだなぁ~。」


「うん、オレは何とかしたいんだ。」


「げんた、分かったよ、じゃ~オラは提灯を持ってくるよ。」


「うん、じゃ~オレが親方の所に行ってくるよ。」


「親方、やはり、穴が小さいと思うんだ。」


「そうか、分かった、じゃ~別の道具を持って行くから。」


「うん、ありがとう。」


「げんた、今度は弐号船にも穴を開けるとなれば、う~ん、あの船は大きいからなぁ~、まぁ~其れより


もこっちを先に片付けるか。」


 親方は数種類の工具を持ち壱号船の中に入った。


「げんた、今度は倍の大きさでいいのか。」


「うん、そうだよ。」


「そうだ、げんた、大きな一個の穴を開けるよりも同じ大きさの穴を数個開けるんだ。」


「そうか、数個も有れば重くなれば全部開けて、軽くなれば穴を塞ぐんだ、うん、これで行けると思うん


だ。」


「じゃ~この穴を少し大きくして、これと同じ穴を近くに開けるぞ。」


 日頃はげんたと親方や鍛冶屋、元太達とこの様なやり取りをしながら、潜水船を造って要るのだろう


が、こんな光景は源三郎も知らない。


「よ~し、げんた、開いたよ。」


「提灯を持って来たよ。」


「じゃ~点けて、あんちゃん頼むよ。」


 元太が提灯に火を点け、蓋を閉め足踏み機を動かし始めた。


「お~、これは軽いよ。」


「うん、げんた、これで大丈夫だよ、其れで元太さん栓にする棒だけど持ち手は太い方がいいのか。」


「そうですねぇ~、オレだったら太さは一寸も有れば大丈夫ですよ。」


「じゃ~後で持ってくるよ。」


「親方、ありがとう。」


「いや、いいんだ、此処じゃ~げんたがわしらを信頼しれくれてるから、わしらもやりがいが有るんだ


じゃ~なっ。」


 親方は今参号船の建造に向けて船台造りに入って要る。


 この船台もげんたが潜水船の大きさを言えば、後は親方に任せるだけで良い。


「げんた、これだったら、うん、軽いよ。」


「うん、でも、まだ何か欲しいなぁ~。」


「なぁ~げんた、何を考えてるんだ。」


「うん、オレは参号船の改良するところを探して要るんだ。」


「其れだったら、この機械を改良して欲しいんだ。」


「えっ、改良って。」


「オラ達だったら、少々の事だったら大丈夫なんだ、だけど、今度はお侍だから弐号船のところも改良出


来ればいいんだ。」


「そうか、元太あんちゃん達だったら出来るけど、あの侍じゃ~なぁ~無理だって事か。」


「うん、オラ達は子供の頃から小舟に乗ってるから何とも無いんだ。」


 元太の言う改良とは一体どの様なものなのか。


「なぁ~げんた、この船もだけど弐号船も外側に水車を付けるんだ、オラはあの水車を利用する事は出来


ないかなぁ~って思ったんだ。」


「えっ、水車を利用するって。」


 元太が提案したのは水車型を利用して風車型の様に出来ないかと言う事で、この元太の提案が参号船に


生かせる事が出来るのか、これからがげんたの考える仕事なのだ。


「あっ、そうか、外側の水車をもう一個作ればいいんだ、そうか、分かったぞ、元太のあんちゃん、オレ


やっと分かったよ、これが出来れば、うん、そうだ、人間は必要無いんだ、そうか、なぁ~んだ、こんな


事も分からなかったのか、オレ様も修行が足りないなぁ~、あ~ぁ。」


「なぁ~げんた一体何が分かったんだ、オラにはさっぱり分からないよ。」


「元太のあんちゃんが言ってくれたんで、やっと分かったんだ。」


「なぁ~オラにも分かる様に説明してくれよ。」


「うん、これはね簡単なんだ、あんちゃんが足踏み機を改良してくれって言ったでしょう、其れで弐号船


は同じ足踏み機でも歯車を利用したんだ、だけど、さっき、あんちゃんが、改良してくれって言った時、


オレはあんちゃんが言ってくれた水車型と風車型を利用する事が分からなかったんだ。


 でも、あんちゃんが水車型と風車型を利用出来ないかって言った時に全部分かったんだ、あんちゃん、


今外に付いてる水車をもう一個付けるんだ、その歯車を利用して空気の取り入れ口の水車を回すんだ。」


「そうか、オラも少し分かったよ、船が進むと水車が回る、水車が回ると空気の取り入れ口の水車も回る


そうですよねぇ~。」


「うん、そうなんだ、水車を回す為の足踏みも要らないって事になるんだ。」


 元太の提案が参号船に取り付ける空気の取り入れ口の水車に取り付ければ、船は進むだけで取り入れ口


の水車が回ると言う事なので有る。


「だったら、取り入れ口を四カ所にも出来るんだ、よ~し、これで決まったぞ、後は。」


 げんたは、大きな問題が解決しほっとしたのか元気が出て来たので有る。


「元太あんちゃんありがとう、オレ本当に助かったよ、だって、さっきまで全然分からなかったんだから


なぁ~。」


「いいんだ、オラが言った事でげんたの悩みを解消したんだから、でも、良かったなぁ~。」


「これで、明日からの訓練も楽になるよ。」


「オラも思ったんだ、其れで明日からは沖に出ようと思うんだ。」


「あんちゃんそんな事急に言ったらお侍はびっくりするよ、其れよりも、元太あんちゃんはお侍をいじめ


るのが楽しくなってきたんだねぇ~。」


「うん、今度からは源三郎様が思いっきりいじめて下さいって。」


「えっ、だったら、あんちゃんだけがやるのか。」


「いいや、今からみんなでね相談するんだ。」


「オレも行きたいなぁ~。」


「げんたは次の船を考えるんだから、まぁ~オラ達に任せて、正か本当に沖に出るとは思って無いから、


オラは提灯の灯りでお侍の顔を見るのが楽しみになってきたよ。」


「ふ~ん、だったら後で聴かせてよ。」


「うん、いいよ、其れでみんなと大笑いするんだ。」


 今から楽しみが増えて来たと元太も笑いが止まらないので有る。


 元太は最初洞窟内での訓練を考えていたが、潜水船に空気抜きが出来、これで沖に出る事も可能になっ


たので有る。


 そして、明くる日の早朝家臣達は大広間に集まり。


「皆様、本日より浜で潜水船の訓練に入りますが、どの様な事態になりましても、決して船長に暴言を吐


く事だけはなされない様にして下さい。


 今度浜の人達を怒らせる様な事が有れば、私は絶対に許しませんのでねそれだけは覚悟して下さい。」


 家臣達は緊張した様子で其れも家臣達の多くは海が初めてだと言う者も多く、元太達の訓練がどの様な


方法で行なうのかも全く分からず其れが余計に緊張させるのだろうか。


「本日は初日ですので全員で参ります。


 私はどの様な方法で訓練が行われるのかも全く知りませんので皆様も覚悟をして下さい。


 では、皆様、参ります。」


 源三郎が先頭になり大手門を出て行く。


 一方、浜でも。


「みんな聴いてくれ、今日からお城のお侍が潜水船の訓練に来るんだ、其れで昨日技師長が改良してくれ


たから沖に出る事にしたんだ。」


「なぁ~、元太一体何処まで行くんだ。」


「うん、其れなんだけどこの洞窟を出て岬の手前で浮上し、帰りは別の人と交代してこの洞窟まで戻って


来るんだ。」


「だけど、本当に大丈夫なのか。」


「うん、まぁ~若しも沈んだらオラ達だけでも助かればいいんだ。」


 元太は城の侍は死んでも仕方が無いと言ったが。


「なぁ~元太、若しもそんな事になったら源三郎様が。」


「大丈夫だって、オラが聴いたんだ若しも潜水船が沈んだら、オラ達は一体どうなるんですかって、源三


郎様は訓練は遊びでは無い犠牲者が出たとしても其れは仕方が無いと、但し、漁師は必ず生き残れって、


だから何も心配する事は無いんだ、其れとオラ達は船長だけど言葉使いだけは気を付けて欲しいんだ。」


「よ~し、じゃ~オラ達はお侍に命令出来るんだ。」


「うん、だけど命令は誰が聴いても納得する命令で言ってくれよ、例えば今から潜水開始、浮上せよ、


ちょい左とか、ちょい右とか、其れだけで十分だから。」


「其れで、お侍からの返事は。」


「うん、其れは、よ~そろ、これで終わりなんだ。」


「なぁ~さっきのちょい左って誰が言ったんだ、正か元太お前なのか。」


「其れが違うんだ、オラと鈴木様、上田様が最初に乗って沖に出た時、上田様が突然言われたんだ。」


「でも、何だか面白いなぁ~、そのちょいってのが。」


「うん、源三郎様も言われたよ、侍言葉でも無いし町民やオラ達の言葉でも無いって、これからは、この


言葉を使いましょうってね。」


「じゃ~オラ達がちょい左って言うと、お侍がよ~そろって返事するのか、でも何か子供の頃に帰った


見たいで楽しそうだなぁ~。」


「其れで、オラ達は潜水鏡を見て言うんだ、あの岬に向かうから。」


「だけど、随分と長く潜るんだなぁ~。」


「いや、大した事は無いよ、直ぐに着くから、其れでオラ達は船長だからなぁ~、船長らしくして欲しい


んだ。」


「なぁ~元太、船長ってそんなに偉いのか。」


「オラも知らないけど、源三郎様はお城のお殿様と同じなんだって。」


「じゃ~オラ達はお殿様か、うん、オラ、お殿様の気分でやるぞ。」


「だけど、絶対に無理はするなって、源三郎様が言われてたから。」


「よ~し、みんな、お侍をいじめるぞ。」


「お~。」


「お~い、間違っても言うなよ、オラ達はお侍をいじめるんだって。」


「誰が、そんな事言うか。」


「よ~し、みんな、楽しくなっ。」


「お~。」


 漁師達の段取りは実に簡単に終わり、後は家臣達の到着を待つばかりとなった。


 一方で。


「総司令、後ろの皆様方は静かですが。」


「そうですねぇ~、彼らの中には海と言うものを全く知らない人もおられますのでその方々は何としても


やらねばならぬと言う緊張感と不安が混じって要るのでは御座いませんか。」


 家臣達は大手門を出てからは言葉少なく何かを考えながら歩いて要る。


「総司令、元太さん達も訓練の方法を考えておられるのでしょうか。」


「私も分かりませんが、多分、考えて要ると思いますよ。」


「では、入り江の出口の岬まで行くのでしょうか。」


「ええ、私ならば少しは出ますが。」


「でも、壱号船を使うならば少し問題が有るのですが。」


「例の空気の取り入れ口でしょうか。」


「はい、私と鈴木殿、元太さんと沖に出た時、元太さんは途中で足踏み機が重く動かないと言われ緊急浮


上したのですが。」


「私は何も心配しておりませんよ、最初の日から数日経っておりますので、技師長が何か対策を講じて要


ると思いますよ。」


「其れならば宜しいのですが、最初のままで有れば入り江に入る事も出来ないと思うのです。」


 上田は余計な言えば語弊が有るかも知れないが、少し考え過ぎでは無いかと源三郎は思った。


「まぁ~上田様、余り深刻に考え過ぎない事ですよ、私は其れよりも元太さん達に訓練の為に漁に出られ


ないではと其ればかりを考えております。」


「はい、あの人達は漁師で魚を獲るのが仕事なので負担ばかりを掛けて要るのも考えものだと思うので御


座います。」


「其れは言えるでしょうが、元太さんの事ですから其れ以上に訓練と言っても、今は壱号船の1隻ですが


殆ど影響は無いと思いますよ。」


 鈴木と上田は一体何を心配しているのだ、訓練するにも一隻の潜水船で何人が入れると言うのだ。


 げんたは弐号船も改良するだろうから二隻になれば事情も変わって来る。


「今日は全員が来ておりますが、まぁ~二人か三人の訓練が出来れば良いと思いますよ、其れにしても後


ろの方々は本当に静かですねぇ~。」


「はい、先程からどなたも話をされておられません。」


「私達、二人は最初に経験しておりますので、少しは気が楽ですが。」


 鈴木と上田は最初に乗って要るが、今日からの訓練は実戦方式だとは誰も知らない。


 果たして、元太達はどの様な訓練方法を行なうのか源三郎も興味を持って要る。


 話をしていると浜が見え家臣達の緊張感は頂点に高まり中には身震いする者も要る。




          


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