第 25 話。 イ零弐号潜水船とは。
「あんちゃん、お殿様、ご家老様、今度の潜水船で一番の特徴なんだけど、あんちゃんは分かるかなぁ
~。」
「う~ん、一番の特徴ですか、私は全く分からないですねぇ~。」
「鈴木のあんちゃん、上田のあんちゃんも分かるかなぁ~。」
「う~ん、一体、何だろうかなぁ~。」
殿様もご家老様も真剣な顔で船体を見て要るが、岸壁に係留されている壱号船とは船体が大きくなった
程度だと見て要る。
「じゃ~、今から言うからね船の横に取り付けた大きな板なんだ。」
「えっ、この板にどの様な特徴が有るのですか。」
「あっ、そうか。」
鈴木は分かったと。
「源三郎様、私と上田殿が乗った壱号船の改良点を書き出した時の事を思い出しました。」
「改良点ですか。」
「はい、あの時、私達は船の横揺れを感じておりまして、其れを改良されたと思います。」
「う~ん、やっぱりなぁ~鈴木のあんちゃんも分かったんだ、あの時、鈴木のあんちゃんも上田のあんち
ゃんも縦揺れよりも横揺れが大きいって、其れで、オレは横揺れの防止と舵の役目を同時に出来ないかっ
て考えたんだ。」
「では、その板と言うのは横揺れ防止と舵の役目もするのですか。」
「うん、そうなんだ、其れとね潜る時と浮き上がる時にも使える様出来ないかって。」
「では、この防止板は横揺れ防止と舵、其れと、潜る時浮上する時を同時に操作出来ると言う事はですね
ぇ~、え~そんなに難しい事が出来るのですか。」。」
鈴木と上田は顔を見合わせ驚いた表情をして要る。
「技師長、私の頭の中に残っております壱号船は全て消さなければ無いのですか。」
「うん、その通りなんだ、この防止板なんだけどね浜に有る漁師さん達が乗る小舟のかいと同じ形なんだ
ぜ。」
「確かに、その様に言われますと同じ様な形ですねぇ~。」
げんたの顔は自信に満ち溢れ鼻を鳴らして要る。
「其れとねぇ~、その近くに丸い物が有ると思うんだけど。」
「これは、海水を入れる物なのですか。」
「あんちゃん、今度はねぇ~、前の壱号船とは全く違うんだぜ。」
源三郎は海水の取り入れ口を見たが壱号船と殆ど変わりは無いと思うのだが、その時銀次が来た。
「源三郎様、あっ。」
銀次が驚くのも無理は無く、正かとは思っていたが。
「あの~。」
「銀次さん、お殿様とご家老様ですよ。」
「銀次、余の事は捨て置け、良いから。」
「えっ、あっ、失礼しました。」
銀次は慌てて土下座しようとしたが。
「銀次、その様な事もするで無いぞ。」
「えっ、ですが。」
「銀次さん、宜しいのですよ、此処には殿様もご家老様もおられませんのでね」
「はい、源三郎様。」
銀次は何も言えず下を向いて要ると。
「銀次さん、丁度良かったです。」
「技師長、一体何が有ったんですか。」
「うん、実はねぇ~、あんちゃん達が船に乗りたいって言うから、まぁ~、陸の上だったいいのかなぁ~
って。」
「でも、其れは。」
「其れよりも、今日は出来ないけれど、オレはねぇ~この潜水船に銀次さんの仲間に乗って欲しいんと思
ってるんだけれど。」
「えっ、そんなオレはねぇ~絶対に断りますよ、だって海の中に沈むんでしょう。」
「銀次さん沈むんじゃないんですよ、潜るんですよ、絶対に大丈夫だからね、銀次さんお願いだからねっ
銀次さんも一緒に乗って欲しいんだ。」
「技師長、オレはねぇ~絶対に乗らないからね。」
銀次は閉所恐怖症なのか、其れとも、潜水船の中は暗闇だから恐ろしいのだろうか。
「銀次さんは狭い所が怖いのか。」
「いや、そんな事は無いけど。」
だが、次第に銀次の顔は青くなってきた。
「だったら、他の人を探して欲しいんだ。」
「まぁ~ねぇ~其れだったら、みんなに聴いて見ますけどねぇ~、でもなぁ~。」
銀次の気持ちも分かる、げんたもだが銀次達も加わって造ったのだから、げんたが言う様に絶対に沈ま
ないとは分かって要る。
だが、やはり、銀次は海の中に入る事が恐ろしいのだろうか。
「まぁ~其れは後で考えてさっきの説明の続きなんだけど、あんちゃん今度はねぇ~水車の部分は外から
は見えないんだぜ。」
「う~ん、確かに外から水車は見えないですが、何故見えないのですか。」
げんたはニヤリとし、又も鼻を鳴らして要る。
「なぁ~あんちゃん、よ~く見て欲しいんだ、ほらねっこの部分が動くんだぜ。」
「えっ、動くって。」
「此処を中で動かすとね、海の水が入って来るのを止める事が出来るんだぜ。」
「と、言う事はですよ、船の進む速度も変えられると言うのですか。」
何と船体の外に取り付けた水車は海水の流入を操作出来ると言うので有る。
流入を多くする事も少なくする事も操作出来るとは。
「これは、便利ですよ。」
源三郎は意味が分かった、だが。
「のぉ~源三郎、余は何を申しておるのか、全く分からぬぞ。」
「殿、この装置が有れば、潜水船を自由に動かせる事が出来ると言う事なのです。」
「何じゃと、自由に動かせるじゃと、その様な事が可能なのか。」
「うん、出来るよ、だって、潜水船を最初に動かすのは人間なんだ、だけど少しでも動きだすとね後は勝
手に進むんだぜ。」
「げんた、余はその様な話し今まで聞いた事は無いぞ、え~、では其れを造った技師長は。」
「うん、だけどこれはねぇ~まだ簡単な方だよ、外はねこの水車とさっきの横揺れ防止なんだ、で、今度
は後の方を見ると分かるよ。」
源三郎達は潜水船の後部へと移動する。
「じゃが、何と言う大きな潜水船なのじゃ、これを技師長が考えたとは、まだ信じる事が出来ぬ。
余が理解出来ぬのか、のぉ~源三郎、其れとも理解出来ぬ程のものなのか、う~ん、余はもう頭が変に
なりそうじゃ。」
傍ではご家老様も頷いて要る。
「源三郎、技師長は飛んでも無い船を造ったと言う事なのかのぉ~。」
「はい、この様な船ならば、若しも官軍や幕府の軍艦が近付いても多分発見される事は無いと存じま
す。」
「わぁ~、何じゃこの風車の様な物は。」
「これが回ると船は前に進むんだぜ。」
「えっ、今、何と申したのじゃ、水車が回ると風車が回るとな、源三郎、余はもう頭が混乱して何も考え
る事は、いやもう爆発寸前じゃ。」
お殿様が混乱するとは、げんたが考えた潜水船とは、其れよりも初めて聴いた者には全く理解出来ない
ので有る。
水車が回るから風車も回る、一体、何を言って要るんだ其れが当たり前なんだと、げんたは鼻を鳴らし
思って要る。
「じゃ~、簡単に言うけど、鈴木のあんちゃんと上田のあんちゃん中に入って欲しいんだ。」
鈴木も上田も壱号船で経験しているとは言え、上田は最初から最後まで潜水鏡を覗き込んでおり、操作
の方法は知らない。
「技師長、私は潜水鏡を見ておりましたので。」
「うん、分かってるよ、だけど壱号船に乗ってるんだから、其れとねぇ~中には灯りも有るよ。」
「はい、分かりました。」
「オレも入って簡単に説明するからね。」
げんたと鈴木、上田の三人は大きな潜水船の中に入って行く。
「のぉ~、源三郎、余は全く理解出来ぬのじゃ、何故に木造の船が海の中に潜れるのか。」
「殿、最初にげんたから聴いた時には私も全く理解出来ませんでした。
其れは誰が聴いても同じなので御座います。
何故、木造船が海の中に潜れるのか、その様な難題をげんたは余りにも簡単に申しました。
殿、其れ程にもげんたと言う技師長は世にも恐ろしい子供なので御座います。」
「う~ん、じゃがのぉ~この様に大きな木造船が本当に海に潜れるのか、余はどの様に説明を聞いても理
解が出来ぬのじゃ、権三は分かるのか。」
ご家老様は首を横に振り全く分からないと言うので有る。
「じゃ~、お願いしますね。」
「はい、了解しました、其れで少し聴きたいのですが壱号船の時でしたが何か合言葉でも有れば良いので
はと考えて見たのですが宜しいでしょうか。」
「うん、其れは任せるよ、だってオレは乗らないんだからね。」
「はい、了解しました。」
げんたは鈴木と上田の任せると言ったが、果たしてどの様な合い言葉が生まれるのだろうか。
「あんちゃん水車のところに来てよ。」
「分かりましたよ、直ぐに参りますので。」
げんたは船の上から説明を始めた。
「じゃ~鈴木のあんちゃん、ゆっくりと漕いでね。」
鈴木は足でゆっくりと漕ぎ出した、すると。
「お~、これは何と素晴らしい。」
船体の外側に取り付けられた水車が回り出し、水の取り入れ口が少しづつ開いて行く。
「げんた、これが先程説明された部分ですか。」
「うん、そうなんだ、最初に漕ぎ出すとその入り口が開いて海水が入って来るんだ、あんちゃん、そのま
ま後ろの風車のところにも行ったら風車も回ってるよ。」
源三郎達は直ぐ後部に行くと。
「殿、風車が回っております。」
「のぉ~技師長、何故じゃ前が動くと後ろの風車も回るのじゃ。」
「其れはねぇ~、中で前と後ろが繋がる部分を連結してるんだ。」
「では、最初から最後まで人間が動かすのか。」
「いゃ~其れが少し違うんだ、潜水船が進み出すと海水が勝手に水車の取り入れ口に入るから人間が動か
すのは最初だけなんだ。」
「ふ~ん。」
お殿様もご家老様も分かった様で全く分からないと言う顔をして要る。
「じゃ~あんちゃんも中を説明するから、入ってくれるか。」
源三郎も初めて見る潜水船の内部で何故か胸がわくわくとして要る。
「お~、これは何と凄いですねぇ~、ですがげんた内部が思った以上に狭く感じるのですが。」
「あんちゃん、中にはねぇ~色々な装置が有るんだぜ。」
内部は源三郎が思った以上に狭く感じて要る。
外から空気を取り入れる為に足踏み機、海上を見る為の潜水鏡、其れに、今、鈴木が座って要る水車の
足踏み機などがところ狭しと取り付けられて要る。
「あんちゃん、お殿様、ご家老様、上田のあんちゃんが見てるのが海の中から外を見る為の潜水鏡なん
だ。」
「源三郎様、一度覗いて見て下さい。」
「ありがとう。」
源三郎が潜水鏡から見ると、洞窟のかがり火が見えた。
「上田様、壱号船の時も外を見られた思うのですが、よ~く見えるのですか。」
「はい、船内は暗闇ですが、此処から外を見ると何か変な気分になります。」
「上田、どの様に見えたのじゃ。」
「殿、其れが説明が難しいので御座いまして、自分達は海の中の潜水船に乗っておりますが、此処から外
を見ますと海の上が見えるので御座います。
その先は入り江の入り口までが見え、其れで海の中から外が見えると言う事に私も頭が混乱しておるの
で御座います。」
「殿も見られますと少しは分かると思いますので。」
「うん、分かった、では。」
殿様も潜水鏡を覗くと。
「うん、何じゃ、かがり火が見えるでは無いか、これが海の中から見えるのじゃと、まぁ~何とも理解し
がたいのぉ~。」
「技師長、潜水鏡は前だけが見えるのですか。」
「いいや、本当はねぇ~後ろも見える様に出来ればいいんだけど、其れが出来ないんだ、まぁ~もう少し
待ってて欲しいんだ何か有ると思うからねぇ~。」
やはりげんたも考えて要る、今の潜水鏡は前方だけが見える、げんたは何としても後ろも見える様に出
来ないかと考えて要る。
「あんちゃん、今、鈴木のあんちゃんが座って持ってる物がこの船を動かせるところなんだぜ。」
「では、人間で言うところの心の臓と言うものですか。」
「うん、手で持ってるのが大事な棒でね引くと船は浮上し押すと潜るんだ、其れでね、右手を引き、左手
を押すと右に曲がるんだぜ。」
「えっ、では左右どちらにでも向かうのですか。」
「うん、そうだよ、沖を通る大きな船の舵と同じなんだ。」
「何ともまぁ~素晴らしいのですか、其れならば海の中を自由に動けると言うのですね。」
「うん、だけど、今は余り深くは潜れ無いんだ、空気の取り入れ口は何時でも海の上に出て無いと困るん
だ。」
其れでも壱号船と比べると大幅な改良がされ、潜水船は左右どちらの方向にも動ける。
但し、其れが出来るのは空気の取り入れ口を海中に入れないと言うのが条件で、その目安は潜水鏡が海
中に入らなければ大丈夫なのだとげんた言うので有る。
潜水鏡は船体の上部から五尺も出ており、空気の取り入れ口が五尺半も有る、余程深く潜らなければ海
中に沈む事は無い。
「あんちゃん、これが一番大事な空気の取り入れ口なんだ、まぁ~なぁ~、これが一番難しかったんだ
ぜ。」
「ではこの足踏み機は最初から漕ぐのですか。」
「うん、みんなが中にはいったら直ぐに漕がないと駄目なんだ、まぁ~足踏み機に座って漕ぐ人が、この
潜水船の中で一番大事な人なんだ。」
「では、一番、大変なところなのですか。」
「うん、オレはねぇ~この潜水船を動かす中で一番体力が要ると思ってるんだ、だから此処には一人では
駄目なんだ。」
では、一体何人が必要なのだ。
「げんた、ではこの船の指揮を執る人は何処に要るのですか。」
「其れはねぇ~、上田のあんちゃんのところなんだ。
海の上だったら、何人も海の上を見る事は出来るけど、潜水船では一人だけなんだ、此処に要る人が、
まぁ~船長さんになると思うんだ。」
「船長がですか、新しい名前ですねぇ~。」
「船長か良い名じゃのぉ~。」
げんたが付けたのでは無く、自然と言っただけだったが、その後、潜水船では船長と言う名称が固定化
されたので有る。
「技師長、ではその船長の指示で操縦するのですね。」
「うん、オレはそう思ってるんだ、だって、船長が潜水船から海の上を見てるんだから。」
げんたは単純に考えたのでは無く、潜水鏡で海上を見ながらどちらの方向に向かうのか決定する為で有
る。
「上田船長、今、海中に要ると思って頂き、どの様な事でも宜しいですから、指示を出して欲しいのです
が。」
「えっ、今からですか、う~ん。」
「余もどの様に指示、いや、どの様に指揮を執れば良いのか聴いて見たいのじゃ。」
これは困った、上田は急に言われても何を目標にすれば良いのか分からなかったが。
「はい、では少しお待ち下さい。
私は今までに無かった方法で指示を出して見たいのですが、其れでも宜しいでしょうか。」
「はい、宜しいと思いますよ、潜水船は特殊な船ですから、今までの様な指示では何か不都合が有ると私
も思いますので。」
「はい、では前方に幕府の軍艦が進んで要ると想定します。
よ~そろ、ちょい右、よ~そろ、よ~し、ちょい左、よ~し、前進せよ、ゆっくりと、そうだ、
ゆっくりと、よ~そろ。」
上田は一体何を考えてこの様な方法を取ったのだろうか、源三郎も初めて聴く指示だが何故か新鮮な気
持ちで聞いていた。
「上田船長、中々楽し気な指示の出し方ですが、何か根拠でも有るのですか。」
「いいえ、何も御座いませんが、陸では全てを見る事が出来るのですが、潜水鏡を見ると前方の其れも少
ししか見えませんので侍言葉では伝わらないと、私が勝手に思ったものですから。」
「でも、私は何か新鮮な気持ちと、今の伝え方はよ~く分かりますが、鈴木操縦士はどの様に聞こえまし
たか。」
「源三郎、今、何と申した、鈴木操縦士と聞こえた様に思うのじゃが。」
「はい、私も上田船長同様で海の上では船頭と言う呼ばれておりましたが、今何と無く操縦士と申したの
ですが如何で御座いましょうか。」
「源三郎、余はその呼び名が良いと思うのじゃ。」
「殿、私も同感で、船長と言う呼び名も操縦士と言う呼び名も潜水船と言う新しい船には相応しいのでは
と思うので御座います。」
殿様もご家老様も新しい呼び名に満足した様子で有る。
「私も何故か新鮮な気持ちで、よ~そろと言うのと、ちょい右が気に要りましたよ、少し右よりも、良い
のでは無いかと思いますねぇ~。」
鈴木も聴きやすいのか、其れとも、今までの様な侍言葉でも無く、かと言って、町民が使う言葉でも無
い。
「では、これからはその呼び名と、新しい、そのちょいと、よ~そろで参りましょうかねぇ~。」
上田も鈴木も自然と笑みが零れた。
「なぁ~あんちゃん、お殿様が一番嬉しそうな顔をしてるよ。」
「げんた、私も同じですよ、でもよくもまぁ~この様に大きな潜水船を造りましたねぇ~。」
源三郎はもう呆れて要る、それ程にも潜水船とは素晴らしい船だと思うので有る。
「でもなぁ~、オレ何か分からないんだけど、まだ満足出来ないんだ。」
「げんたはまだ何か考えて要るのですか。」
「なぁ~あんちゃん其れが分からないんだ、オレは小間物を作ってる時もだったんだけど他に何か無いか
って考えてたんだけど、今、潜水船を造って、また、考える様になったんだ。」
げんたの探求心が続く限りまた別の潜水船を造り出すだろうと源三郎は思い、げんたは今源三郎以上に
探求心が強い事に間違いは無い。
「源三郎、わしも今思ったんだが、この船長と操縦士との呼吸が合う事が大切な様に思うのだが、どうだ
ろうか。」
「あんちゃん、ご家老様ってやっぱり凄いよ、オレも同じなんだ、でもねぇ~まだ有るんだけどなぁ
~。」
「えっ、げんたまだ何か有るのか。」
げんたは次に何を言い出すのか皆の注目が集まって要る。
「あんちゃん、オレはねぇ~船長と操縦士も大事なんだけど、外に取り付けた水車が有る海水の取り入れ
口なんだ。」
「えっ、海水の取り入れ口ですか。」
「うん、そうなんだ、なぁ~あんちゃんこの船を止める方法って分かるか。」
「止める方法ですか、う~ん、ですが一体何処に有るのですか。」
「鈴木のあんちゃんも上田のあんちゃんも壱号船の時に止める方法って無かったと思うんだ。」
「あの時は初めてで必死で操縦棒を握っておりましたので、何も覚えていないのですが。」
「はい、私も潜水鏡を見ておりましたので。」
「うん、まぁ~其れが普通なんだけど、あの時って運が良かったと思うんだ。」
「技師長、運が良かったとは。」
「壱号船も弐号船も外に有る水車が回るから後ろの風車が回るんだ、でもねぇ~船が前に進むとどうして
も海水が取り入れ口に入るんだ。」
「では、川の流れに取り入れ口が有るのと一緒だと言う事に。」
「うん、そうなんだ、あんちゃん、川って水が有れば流れてると思うんだ。」
「はい、其れは私も分かりますよ。」
「其れと反対がこの潜水船なんだぜ。」
「何じゃと、では潜水船が前に進む限り海水が入ると言う事はじゃと、其れでは潜水船が進む限り止まら
ぬでは無いのか。」
「やっぱりお殿様だ、あんちゃん、お殿様の言う通りなんだ、だったら海水を入れなくなる方法を考えれ
ばいいと思ったんだ。」
「技師長、海水を止めるのか、じゃがのぉ~海の中だぞ。」
「お殿様、その下に有る棒を押すと取り入れ口が閉まるんだ。」
「えっ、これなのか。」
「うん、そうだよ、其れでね引くと入り口が開くんだ。」
「何じゃと、では海水の取り入れ口をこの棒で操作出来ると申すのか。」
「うん、その通りなんだよ、其れとね、取り入れ口の蓋を大きく開けたり小さくする事で船の進む速さも
変えられるんだぜ。」
「何じゃと、速さも調整出来るだと、源三郎、もう、余は呆れて何も驚かぬなったぞ、技師長は誠飛んで
も無い物を造ったとしか説明のしようがないわ。」
殿様は最初から聴いていた、最初は何も分からない状態で聞いていたので全く理解出来ずにいた、其れ
が中に入って色々な装置の説明を受けると一体何が起きたのだろうかと思う程の大きな衝撃を受けたので
有る。
「のぉ~源三郎、この潜水船は考え方を変えれば我々には秘密兵器ともなるぞ。」
源三郎も同じ潜水船が、五隻、いや、十隻も出来れば、例え相手が官軍の軍艦と言えど、敵方にすれば
大変な脅威となる事に間違いは無いと思うので有る。
「はい、私も同じ様に思っております。」
「なぁ~あんちゃん、この潜水船って何隻要るんだ。」
「う~ん、ですがねぇ~これは直ぐには答えは出せないですよ。」
「でも、五隻じゃ少ないんだろう。」
「う~ん。」
げんたは源三郎が人を殺す為には使わないと言う言葉を信じて要る。
だが、源三郎は少し違ってきた、確かに船の舵を壊せば航行不能となり、其れに冬場ともなれば、海は
絶えず荒れ、若しも冬場の海に落下すれば冷たい海水の為直ぐ死亡する事は間違いは無い。
潜水船は隠密で行動する、例え海上に付き出して要る空気の取り入れ口が発見されても直近に来た潜水
船を大砲で狙い撃ちしたところで絶対に当たず、更に後ろから近づく為に誰にも気付かれず進む事が出来
る。
軍艦と言えど後ろの舵を壊せば良い、舵に爆薬を付け、火を点け、後は、軍艦から離れれば潜水船に被
害が及ぶ事も無い。
「あんちゃん、軍艦の舵を壊すだけなんだろう。」
「うん、そうなんだ、だけど幕府と官軍が一体何隻の軍艦を造ったのかも知らないんですよ。」
「なぁ~あんちゃん、其れだったら多い方がいいと思うんだ、まぁ~後はオレが考えるから、あんちゃ
ん、だけどその前に砂袋を頼むよ、其れが無かったら船を出せないんだ。」
「分かりましたよ、其れは手配しますので。」
「のぉ~技師長、質問じゃが、何故船長が後ろで操縦士が前に居るのじゃ。」
「やっぱりお殿様は目の付け所が違うなぁ~、其れはねぇ~船長も操縦士も前を見てるんだけなんだど、
船長は潜水鏡を覗きながら指示を出すからなんだ、まぁ~簡単に言うと後ろの操縦士後ろを向いて言う事
になると海の上から目を離す事になるんだ、潜水船は進み続けるから海の上から目を離すと危ないと思っ
たんだ、まぁ~其れだけの話しなんだ。」
「なるほど、何と素晴らしい考え方なのじゃ、さすが源三郎が見込んだ事だけは有るのぉ~。」
「じゃ~お殿様、砂袋は一体何処に置いて有ると思う。」
「う~ん、その様な場所は無いと思うのじゃが。」
「其れはねぇ~、お殿様の足元なんだ。」
「えっ、何じゃと、この下に置くと申すのか。」
「うん、そうだよ、砂袋を前から後ろまで、それこそ隙間無く並べて置くんだ。」
「其れならば、石でも良いと思うのじゃが。」
「うん、誰でも最初は同じ事を言うんだけど、お殿様、石を置くとね物凄く隙間が出来てその分だけ余計
な高さにもなるんだ。」
「だが、取るのも簡単では無いのか。」
「お殿様、石は全部重さが違うし其れに形も違うから砂袋の様に隙間無くは置けないんだ。」
「なるほどのぉ~、では人間は。」
「うん、乗組員はね、この端から順番に板を乗せるって言うか、まぁ~被せると考えて綺麗に平均に置け
るから、板を置いてその上に乗ってもぐらつく事も無いから大丈夫なんだ。」
「殿、もう我々の考える域を越えておりまするぞ、この潜水船の事で今の技師長に勝る者など我が国には
おりませんなぁ~。」
ご家老様も完全に兜を脱いだので有る。
今のげんたに何を聴いても説明の意味が分からない、余りにも成熟した考えの為に今の野洲では太刀打
ち出来る者はいないと言う事なのかも知れないので有る。
「だが、この話し菊池や上田にも松川へはどの様に話を持って行くのじゃ。」
「殿、其れはまだ当分の間は秘密と言う事で。」
「う~ん、同じ連合国の一員として早く見せたいと思うのじゃがのぉ~。」
「はい、ですが、今潜水船を見せてもどの様にもなりませぬ。
他国には、まだ洞窟の掘削が開始されたばかりで、今急に潜水船の話しを致しましても、他国では何も
出来ませぬので、其れよりも技師長に任せ、我々は技師長の考えた方法で訓練に入るのが良いかと、私は
考えております。」
「あんちゃん、オレはこの潜水船を造るけど、オレが勝手に造り変えてもいいのか。」
「其れは全て技師長に任せる、大きさも全て技師長の考えた通りに造って下さい。」
何ともまぁ~何時もながら大胆な発言だがげんたは何とも思っていない、げんたには自由に造り変えて
も良いと、其れは源三郎だけがげんたを知っており、下手な注文を付けるよりも自由な発想で自由に造
り、変更させる方が結果的には良い方向へと向かうのだと考えたので有る。
げんたも源三郎を理解しており、幾ら自由に造り変えても良いと言われても、げんた自身は決して無茶
はしない。
「そうだ、あんちゃん、大事な事を忘れてたよ、ちょっと来てくれるか。」
げんたは、船外に出、源三郎も出ると。
「あんちゃん、此処の大工さん達はねぇ~物凄い物を作ってくれたんだぜ、其れが何か分かるかなぁ
~。」
げんたは大工さん達のお陰で潜水船を造れたと思って要る。
「う~ん、私は分かりませんねぇ~。」
「お殿様もご家老様も分かるかなぁ~。」
「えっ、何じゃと、潜水船を見ても、う~ん、余は全く分からぬが権三如何じゃ。」
「殿、拙者にその様な事を聴かれましても全く分かりませぬ。」
「あんちゃん、大工さん達はねぇ~オレが今度造る潜水船の大きさを言ったんだ、するとねぇ~、潜水船
専用の台を作ってくれたんだぜ。」
「えっ、では、この台が潜水船専用の台ですか、まぁ~其れにしても実に頑丈に作られておりますねぇ
~。」
「うん、そうなんだ、大工さんが付けた名前が船の台で船台って、実に簡単な名前だけど、オレは船台の
お陰でこんな大きな潜水船を造る事が出来たと思ってるんだ。」
「此処の大工さん達は本当に素晴らしい腕前の持ち主だと言う事なのですねぇ~。」
「うん、そうなんだ、其れにねぇ~銀次さん達もだよ。」
「銀次さん達と言われますと。」
「あんちゃん、岸壁だけど船台の後ろだけが少し下がって要ると思わないか。」
源三郎達は改めて岸壁を見ると、岸壁が少し傾斜し完成した潜水船が傾斜したところを滑る様に作られ
ており自然な動きで海面へと滑り出すので有る。
「では、完成した潜水船はこの傾斜を利用して海面へと滑り出すのですか。」
「うん、そうなんだ、其れにこの潜水船だけど、オレが考えた通りの船になったんだぜ、それも全部大工
さん達や鍛冶屋さん達、其れに銀次さん達のお陰なんだ、まぁ~オレよりもあの人達が居なかったら、今
度の潜水船もだけど次から造る船も出来ないと思うんだ。」
げんたは自分の事よりも今浜に要る人達のお陰だと、その人達が居なければ潜水船は完成しなかったと
言うので有る。
「技師長、よ~く分かりましたよ、何故技師長が浜の人達が大切だと言うのもね。」
「なぁ~あんちゃん、オレよりも浜の人達に礼を言って欲しいんだ、だって、オレは考えるだけで、船を
造ったのは大工さん達で岸壁を専用に造ったのが銀次さん達で、其れに水車や風車なんかの難しい物を作
ってくれたのが鍛冶屋さん達なんだ、其れはねぇ~もうオレよりも大変だったと思うんだ。」
「技師長、余は今感激しておるのじゃ、其れはのぉ~この浜の人達全員にじゃ、自分達の手柄だとは誰も
申してはおらぬ、のぉ~権三、我ら侍は何時の世でも何としても手柄を我が身の為にと申すが、浜の人達
は誰も自分達が作ったとは申さぬ、この様な話に感激せぬ方が余程悲しいと思うのじゃがのぉ~。」
「殿、私も今改めて考えさせられました。
げんたと言う技師長に全員が結集して造られたのが潜水船と言うのですから、浜の人達とは何と言う素
晴らしい人間の集まりなのか、私は何と申してよいか分かりませぬ。」
ご家老様も改めて考え直したので有る。
その頃、浜の母ちゃん達は特製の雑炊を作って要る。
何時もならば元太が要るはずで、だが、漁に出て要る。
「ねぇ~あんた、源三郎様が来られてるんだよ、其れにあのお方はお殿様だと思うんだけど。」
「えっ、お殿様が、でも何でお殿様が来られてるんだ。」
「そんな事私に分かる訳が無いでしょう、其れよりもみんなを呼びに行ってよ、早く。」
「うん、分かったよ、其れで源三郎様は。」
「多分、洞窟だと思うのよ。」
「よし、じゃ~行ってくるよ。」
元太は他の漁師達に声を掛け全ての小舟を出し洞窟へ向かった。
今日の海は穏やかで、何故か何時も以上に小魚が獲れた、其れにお母さん達は小さいながらも畑を作り
野菜も作り、その野菜も雑炊に入って要る。
「お~い。」
「あれ~、元太あんちゃんだ、そうか、今日は元太あんちゃんが漁に行ってたんだ、元太あんちゃ~
ん。」
「源三郎様~。」
洞窟の中に次々と小舟が入って来た。
「やぁ~、元太さんお元気そうで何よりです。」
「源三郎様も、あっ、お殿様。」
「元太、久しいのぉ~。」
「はい、お殿様もお元気で今浜で浜特製の雑炊を作ってますので、さぁ~皆さん舟に乗って下さい。」
「何、雑炊じゃと。」
「はい、今日は久し振りに、まぁ~大漁とは行きませんが、何時もより多く獲れましたので浜の母ちゃん
達が雑炊を作っていますので。」
「そうか、源三郎、浜の雑炊が楽しみじゃ、権三参るぞ。」
お殿様はさっさと元太の舟に乗り込んだ。
洞窟からは銀次達や大工達を乗せた舟が出て行く。
浜の雑炊が美味しいと評判になったのは、銀次、元太達が山向こうの農民を救い出し野洲に戻った時に
作った雑炊で、其れからはお殿様もご家老様も一度は食べて見たいと思っており、其れが、以前、実現し
今回が二度目で有る。
洞窟を出た小舟は暫くして次々と浜に着き。
お殿様とご家老様、源三郎が一緒に座り、今か今かと待っている。
「さぁ~お殿様、浜の雑炊で御座います、熱いから気を付けて下さいね、ご家老様も。」
げんたの母親お清がニコニコとしながら雑炊の入ったお椀を運んでいる。
「なぁ~母ちゃん一体どうしたんだ。」
「えっ、何が。」
「何がって、何でニコニコとして要るんだ。」
「そんな事当たり前だろう、お殿様やご家老様が来られて要るんだから。」
「いゃ~、其れは違うなぁ~。」
「何、言ってるのよ、げんた。」
お殿様もニコニコとして要る。
げんたが言う浜の人達はみんな優しいと、周りの母さん達もニコニコとし雑炊を入れたお椀を渡して要
る。
「あっう~。」
「だから言ったでしょう、熱いから気を付けてって。」
「おぉ~済まぬ、じゃが本当に美味じゃ、権三、余は城に戻りたくは無いぞ。」
「殿、私もで御座います、まぁ~言い方は悪いですがこの様に美味しい物を食べられている浜の人達が羨
ましいですなぁ~。」
「殿、戻りたくないとその様な事を申されますと浜の人達が迷惑しますので。」
「源三郎、硬い事を申すな、城で食するよりもこの浜で食したいのじゃ。」
源三郎も殿様の冗談だと分かって要る。
「えっ、お殿様が此処で私は嫌だよ、だってお殿様は毎日お城で美味しい物を食べられてるんでしょうか
らねぇ~。」
「いや、其れがね違うんですよ、殿はね、何時もお一人で食事を取られているので寂しいのです。
でもこの浜では、皆さんが楽しそうにされておられるのが、まぁ~何と言って良いか分かりませんがお
殿様は羨ましいのです。」
「えっ、お殿様って、何時もお一人で食べられてるんですか。」
「そうなのじゃ~、あの広い所で一人で食べると楽しくは無いぞ。」
「お殿様って、本当は可哀想なんですねぇ~。」
「そうなのじゃ、分かってくれるのか。」
「はい、分かりますけど、オラ達から見れば、お殿様は何時も美味しい物を食べてるから、凄く羨ましか
ったんですよ。」
「いゃ~、其れが全く違うのじゃ、余はのぉ~これだけ楽しく食するのが夢なのじゃ。」
まぁ~何とも寂しい限りの話でそれ程にもお城での食事は寂しいと、だが、今の殿様は賄い処での食事
を楽しまれて要る。
「あっ、そうだ、母ちゃん砂袋今何枚か有るか。」
「あ~、其れなら有るわよ。」
「じゃ~、持って来てよ。」
「げんた、何で要るのよ。」
「うん、今度の潜水船の砂袋を作って貰う為になんだ。」
「えっ、だけど一体誰が作るのよ。」
「お城の人達にお願いしようと思ってるんだ。」
「今、母ちゃんが作ってるから。」
「母ちゃん、今度は物凄く沢山要るんだぜ。」
「ねぇ~げんた一体何枚要るんだ。」
「まぁ~そうだなぁ~、千枚以上かなぁ~。」
「何で千枚も要るのよ~。」
「だって、潜水船の大きさはなぁ~母ちゃんの家よりも大きいんだぜ、だから母ちゃんが一人で作ってた
んじゃ駄目なんだ。」
「じゃ~持って来るけど。」
げんたの母親も潜水船を見た事が無い、只、げんたが言った様に家よりも大きいとなれば、幾ら、何で
も母親一人で作るとは無理が有る。
更に、端切れも大量に必要となり、其れだけの物を浜で準備するにも無理が有る。
「あんちゃん、砂袋なんだけど布切れは三重にして欲しいんだ中で破れない様にする為になっ。」
「なぁ~げんた、弐号船は仕方無いとしてもですよ、参号船からは少し方法を変えては如何でしょうかね
ぇ~。
私は素人なので分かりませんが、最初は岩石を並べ板を敷き、最後の調整は砂袋で行なうと言う方法で
すがねぇ~。」
「うん、分かったよ、じゃ~今の弐号船からやって見るよ、岩なら銀次さんに頼むから。」
「其れで一度試して下さいね、その方法が上手く行く様ならば参号船からは岩石を主にすれば、げんたの
お母さんや浜のお母さん達にも余りご無理をお願いする事も無くなると思いますので。」
「うん、じゃ~直ぐにやって見るよ。」
げんたは意外と素直に聴き入れた。
これから先も潜水船を造るとなれば重さを調整する必要が有り、だが、大きな潜水船に砂袋だけで重量
調整するならば、1隻に千個、いや、2千個も必要になり、その全てを女性達に袋を作って貰う訳にも行
かず、女性達の負担を軽くする事も大事だ、だが、其れだけ大量の布切れが果たしてお城にも城下にも有
るのだろうか、げんたも分かって要るはずだ、だが、他の方法が浮かず要る、
其れで源三郎の提案を受け入れ、げんたも砂袋は出来るならば少ない方が良いと。
その時、丁度、銀次達と大工の親方が来た。
「源三郎様。」
「銀次さんに親方大変ご無理を申し上げました。」
「いいえ、わしらはげんたの言う通りに造っただけなんですよ。」
「ですが本当に素晴らしい出来栄えで、私が想像した以上で何も申す事が出来ません。
誠に有難う御座いました。」
源三郎は改めて親方や銀次達に頭を下げた。
「まぁ~其れよりもげんたの頭の中は物凄いですよ、よくもまぁ~あれだけの事を考えるものだと感心
して要るんですよ。」
「ですが、親方達はげんたの言う通りに造って頂いたのですから。」
「源三郎様、別に造る事は難しくは無いんですが、まぁ~其れよりも其れまでの打ち合わせの方が大変で
したよ。」
「はい、私もよ~く分かりますよ、其れで親方これから先の事なんですが。」
「源三郎様、分かってますよ、げんたの事だから、まぁ~これで終わりと引き下がる様な奴では無いです
からねぇ~、源三郎様、じゃ~わしらもお願いが有るんですが。」
「はい、私に出来る事ならば。」
「じゃ~まずですねぇ~銀次さん、山に行き材料の原木をお願い出来ないでしょうか。」
「はい、勿論ですよ、ですがその前に、源三郎様、多分、多分ですが、後、少しでお城まで通じると思う
んですが。」
「其れは本当ですか、私も一番嬉しいお話しを聞きました。
では、家臣を此処に配属し最後のところをさせましょうか。」
「源三郎様、其れはオレ達にさせて下さい。
オレは別にいいんですが、でも仲間は今まで頑張ってきたんで、最後の貫通までさせて最高の喜びを味
わせてやりたいんです。」
「銀次さん、私が何も考えずにおり申し訳有りません。
お仲間には最高の喜びを味合わせて上げて下さい。
家臣達には大木の切り出しをさせますので。」
「源三郎様、オレの勝手で申し訳有りません。」
源三郎も分かって要る、銀次に今の言葉を言わせたかったので有る。
「じゃ~親方大木の切り出しですが、木こりさん達との事前の打ち合わせが必要になりますねぇ~。」
「はい、其れでわしが直接木こりの親方に話しをしてどの木を切り倒すか、決めていきますので。」
「親方、有難う、では宜しくお願いしますね、其れと銀次さんにお願いが有るのですが。」
「源三郎様、何でも聞きますよ。」
銀次は源三郎が何を頼むのかも知らないが大木の切り出し作業が無くなったのが余程嬉しかったのだろ
う。
「実はですねぇ~、弐号船の事なんですがね、この洞窟に有る岩石を積み込む事になりまして。」
「其れをオレ達がやるんですか。」
「はい、そうなんですよ、これが意外と大変な作業になると思いましてねぇ~。」
この後、源三郎は銀次に詳しく話すと。
「えっ、そんなに大変だとは思って無かったんですよ、オレは単純に石を並べればいいと。」
銀次の言う事も間違いは無い、ただ、並べ方が大変で全てを平均に並べなければならない。
「源三郎様、オレ達の仲間に元石屋が数人おりますので奴らに話して見ます。」
「親方にも少しお手伝いをお願いしたいのですが。」
「はい、多分、厚めの板を作ればいいんですね。」
「はい、其れを上下分でお願いしますね。」
親方は話しが来るだろうと思っており、銀次に話をしている時には考えが纏まっていた。
「銀次さん、わしが今考えたんですがね、下に並べる石は動かなければいいんですよ、動くとすれば岸壁
の上に有りますが船を海面に降ろしてからですからねぇ~。」
「まぁ~銀次さん、余り今から深刻に考えないで行なって下さいね。」
「源三郎様、簡単に言われますが、オレは今考えるだけでも大変な仕事だと思って要るんです。」
「銀次さん、全部オレが悪いんだ、オレは何も考えないで砂袋を作ればいいと思ったんだ、ごめんなさ
い。」
「いいんですよ、誰も技師長を責めませんよ、だってオレ達だったら一体どうするんだって思うだけで前
には進みませんからねぇ~。」
「ありがとう、銀次さん。」
げんたは銀次に深々と頭を下げた、傍で話しを聞いて要るお殿様もご家老様も浜で仕事をして要る人達
はお互いが助け合って要るのだと、だからこの様な時にはみんなで協力して出来るのだと、考えさせられ
たので有る。
「銀次さん、一つ提案しましょうか。」
「はい、是非お願いします。」
「簡単に考えて下さいね、まず石ですが、余り大きいと運ぶのが大変ですから、其処は適当な大きさの石
で、其れも出来る事ならば四角い石が有れば宜しいのですがねその石を並べるでしょう、此処で木の楔を
打って行くんですよ。」
「源三郎様、その楔ですが別に木の破片でも宜しいのですか。」
「はい、親方、楔も大、中、小と、まぁ~適当に有ればどの様にでもなりますからねぇ~、其れでね船体
の底に当たるところは船体と石の間にこれも適当な木片を当てると、まぁ~簡単には動かないと思います
よ。」
「銀次さん、オレ達が適当に楔を作り、楔を打ち込むのはねぇ~オレ達大工の方が上手ですよ。」
「親方、オレは何と言っていいのか分からないですよ。」
「銀次さん、其れよりも石の方は頼みましたよ。」
「分かりました、直ぐ、話しますので。」
銀次は仲間のところへと行った。
「源三郎、これが浜の人達の協力なのじゃな。」
「はい、何か有れば直ぐみんなと相談し、良い解決策を見付けますので、只、今回の潜水船は特別でした
が、これが良い経験になり次の参号船になればもっと楽になると、私は思っております。」
この浜では何か有ると多くの仲間に相談する事が出来、其れが良くも悪くも結果が出ると言う訳で有
る。
「あんちゃん、じゃ~弐号船は当分の間動けないなぁ~。」
「まぁ~その様になりますねぇ~、その間技師長は。」
「う~ん、あっ、そうだ、オレ壱号船の改良をして見るよ、だって一番大切なところを作り変えれば其れ
でいいと思うんだ。」
「そうですねぇ~、ですが、銀次さん達は無理ですよ。」
「うん、分かってるよ、あんちゃん、其れでオレの考えなんだけど漁師さんを必ず一人は入れて欲しいん
だ。」
源三郎はげんたの考えは理解出来た、漁師は海の事を一番良く知って要る。
漁師一人要れば海の状態は直ぐ分かると言うもので、だが、げんたは漁師を何処に配置するつもりなの
だろうか。
「其れは良い事だと思いますよ、漁師さんならば海の事は知っておられますので、技師長、ですが、漁師
さんは何処に入って頂くのですか。」
「あんちゃん、当然、船長だぜ、漁師さんなら潜水鏡で見ても直ぐに判断出来ると思うんだ。」
源三郎の考えた通りで有る。
「私も賛成ですよ、技師長は先に壱号船の改良に入って下さい。
私は家臣に話をしますのでね。」
「源三郎、漁師が船長になり、我が家臣達が船長の指示で動くのか。」
「はい、其れが、今のところ最善の方法だと、私は考えております。」
「じゃがのぉ~、家臣達の中には。」
「殿、今、此処で見られた光景を家臣達に話して頂きたいのです。
殿、其れに、家臣だけでこの潜水船を上手に操れるとでも思われるので御座いますか、この浜の大工さ
ん達も銀次さん達の誰もが、げんたに協力して要るので御座います。
其れは、浜の人達は幕府軍か官軍か其れは分かりませんが攻めて来た自分達の家族が無残な姿になり、
今までは何も出来なかった、ですが、これからは自分達が仲間と家族を守る為にと立ち上がりこの潜水船
が完成したので御座います。
其れを、殿が一番に理解されたと、私は思って要るので御座います。」
「う~ん。」
お殿様も実は分かって要る、だが、家臣達は武士だ、武士には武士の誇りが有り其れが邪魔になるので
は無いかと考えて要るので有る。
「殿、武士にも誇りが有る様に、漁師には漁師の誇りが有るので御座います。
其れは、漁師だけが知って要る海なので御座います。
海の事ならば浜の子供達も素晴らしいのです、我が家臣だけで小舟を操り沖に向かう事は不可能です
が、漁師は海面と空を見るだけで、この先何時頃から荒れるのか、其れとも穏やかな海面が続くのか、全
て身を持って経験して要るので御座います。
その他にも彼らは先祖代々から伝えられた事が今でも守り続けて要るので御座います。
我らが武士と申しましても腰に弐本の刀を差し、読み書きが出来るだけで、其れ以上一体何が出来ると
思われますか、私は家臣の中でその様な気持ちで訓練に、いや実戦に就く者がおりますれば、その者には
我が国から追放するやも知れませぬ。」
源三郎は今までに無い強い姿勢で家臣達に向き合うのだ言うので有る。
「源三郎、余が家臣達に直接話す、これから先は武士としての誇りも有るならば、与えられた任務を全う
せよと、其れでも不満が有るならば、余が直接聴くと。」
お殿様は源三郎の迫力に圧倒されたのだろうか、いやそうでは無い、お殿様は浜の人達に向け、改めて
源三郎は一番の見方だと信じて欲しかったのだ。
源三郎とお殿様の話しで改めて浜の人達は信頼されて要る。
其れならば、尚、一層浜の人達も源三郎を信じ、これから先もあらゆる困難を克服して行くのだと思っ
て要る。
「お~い、みんなオレ達はこれからも浜の人達とお殿様と源三郎様をお助けするんだからなぁ~みんなも
頼んだぜ。」
「お~。」
「あれ~、銀次さんって浜の人になったのか。」
「技師長、オレ達全員この浜の人間になったんですよ、だってオレ達は浜を追い出されたら行く所が無い
ですからねぇ~。」
「いいえ、銀次さん達はねぇ~浜と言うよりも洞窟の人間になられたのですよ。」
「えっ、源三郎様、オレは洞窟人ですか、そんなぁ~余りにも酷いですよ。」
浜の人達は大笑いして要る。
「銀次さん、その証拠にね、銀次さん達にはねぇ~次の洞窟もお願いしたいのですが。」
「あ~ぁ、やっぱりだ、オレは何か有ると思ったんですよ。」
「はい、申し訳有りませんが、銀次さんは浜では無く洞窟人と言う事でね。」
「其れで、その洞窟人に次は何処を掘削するんですか。」
「まぁ~暫くはのんびりとして頂いて、この浜に有る洞窟を繋げて欲しいのです。」
「えっ、この浜に有る洞窟全部ですか。」
「其れは、調べてからになると思いますが、元太さんの協力も必要になりますので。」
「銀次さん、入り江だけでも大きな洞窟が幾つも有りますよ。」
「元太さんは全部の洞窟を知ってるんですか。」
「まぁ~オラ達漁師は全部知ってますよ。」
「元太さん一体どれくらい有るんですか。」
「まぁ~そうですねぇ~、大きな洞窟だけでも二十個は有りますよ。」
「えっ、そんなに有るんですか、じゃ~オレは一生洞窟人で浜の人間には成れないって事になるんですか
ねぇ~。」
「はい、其れは仕方有りませんよ、だって源三郎様に頼まれたら嫌だとは言えませんから。」
「まぁ~銀次さん、時々は浜に上がって雑炊でも食べてよ、私達が待ってるからね。」
浜のお母さん達は何と優しい人達なのか、銀次達は一生洞窟の掘削に携わると言うのにだ、だが、其れ
がこの浜の人達なので有る。
「源三郎様、お願いが有るんですが。」
「何ですか。」
「オレ達は岩の加工を知らない者が多いんですが誰か専門の人はおられませんか。」
銀次の仲間に石工は要るが其れだけでは少ないと考えたのだろう。
「おられますよ、私も城下の石屋さんにお願いしようと考えておりますので。」
「そうですか、オレの仲間の石工ですが少ないので少しでも助けて頂ければと思ったんで。」
「はい、承知しましたよ。」
「有難う御座います、じゃ~オレ達は洞窟人に戻って、岩の加工する者と掘削工事に入る者を分けて作業
に入りますので。」
「そうですか、では銀次さん宜しくお願いしますね。」
「源三郎様、わしらも次の潜水船の為の仕事が有りますので。」
「親方、申し訳御座いませんが、何卒宜しくお願いしますね。」
大工さん達も洞窟へと元太の仲間が総出で洞窟に送り届けて行く。
「殿、我々も戻りましょうか。」
「そうじゃのぉ~。」
「皆さん、有難う、美味しかったです、ご馳走様でした。」
「源三郎様、今度は何時頃来られるんですか。」
「う~ん、そうですねぇ~私もお役目が多くなりましてねぇ~。」
「まぁ~そんな事言わないで、私達が待ってるんですから、お殿様もご家老様も来て下さいよ、みんなで
お待ちしていますので。」
「余が来ても迷惑にならぬのか。」
「いいえ、そんな事は無いですよ、だって私達のお殿様ですものねぇ~そうでしょう源三郎様。」
「はい、その通りで、では皆さん何れ近い内に来ますので。」
「お殿様、気を付けて下さいね。」
殿様もご家老様も上機嫌で帰って行く。
「のぉ~、源三郎、先程の話じゃが。」
「殿、どの様な話しで御座いますか。」
「船長の話じゃ。」
「はい、其れが、何か。」
「余はのぉ~、今回の人選じゃが、皆の中から志願させようと考えておるのじゃ。」
「志願制で御座いますか、私も賛成で御座います。」
「余は実のところを申すとじゃ、あの潜水船に乗り海に潜ると言うのが恐ろしいのじゃ。」
「何故で御座いますか。」
「あの様な大きな潜水船じゃが、中に入ると狭く感じ、其れが恐怖となって中で混乱するやも知れぬから
なのじゃ。」
「私は何としても乗りとう御座いますが、鈴木様は如何で御座いますか。」
「はい、源三郎様、私も実のところ申しますと、余り乗りたくは御座いませぬ。」
何と鈴木は壱号船に最初に乗ったのだが、其れが今は乗りたくは無いと、一体何が原因なのだろうか。
「上田様も同じですか。」
「はい、源三郎様、大変申し訳御座いませぬが、私も出来るならば外して頂きたく存じます。」
「一体、何故なのですか。」
「余も聴きたいのじゃ、お主達二人は最初に乗り、改良が必要だとげんた技師長に提言したのではないの
か、其れが何故なのじゃ。」
「はい、あの時は潜水船と言う船に興味が沸き、一度は経験して見たいとの思いで乗ったので御座います
が、やはり。」
「何じゃ、はっきりと申せ。」
「はい、では、私は出入り口が閉められた時船内が暗闇となり、其れはもうあれは経験した者にしか分か
らないと思うので御座います。
上田殿は潜水鏡で少しですが海上を見ておられ、私は別に上田殿がどうのと申して要るのでは御座いま
せぬ。
ですが、あの暗闇の中であの機械を操作すると言うのは、もう必死で行ないましたが、やはり、私は潜
水船の乗組員から外して頂きたく存じます。」
「源三郎様、私もです、鈴木殿の申される通り、私は少しですが海の上を見ておりましたので少しは我慢
が出来たのですが、其れでもあの暗闇は恐ろしいので御座います。」
鈴木も上田も潜水船の船内は暗闇となり、其れが恐ろしいと、だが、元太は何も言って無かった。
「源三郎には分からぬが、余が船内に入った時、確かに提灯の灯りで気持ちも少しは楽で有ったが、其れ
はのぉ~皆の顔で見えるからでは無いのか。」
「源三郎様、私も、あの時上田殿や元太さんの声は聞こえておりましたので少しは安心出来たのですが、
そうかと言って、私は別に潜水船を否定しているのでは御座いませぬ。
私自身、この潜水船が有れば幕府軍も官軍の軍艦も恐ろしいとは考えておりません。
ただ、船内の暗闇が恐ろしいだけなので御座います。」
「う~ん、そうですか、私は暗闇がねぇ~。」
源三郎は言葉に困った。
「源三郎は恐ろしいとは思わぬのか、他の者にとってはあの狭い所に入り、其れが海に潜ると、う~ん、
余ものぉ~。」
「あの中で提灯の灯りが。」
源三郎は一度試しに提灯を使い足踏み機で空気を送っても大丈夫なのか、だが、若しも船内の空気が不
足すれば大変な事態なる、其れでも試さなければ問題は解決はしないと考えたので有る。
「源三郎、わしも潜水船は最強の武器になると思う、今の世の中で正か海中から攻撃を受けるとはお天と
う様でも気が付かないと思うのだ、お前の事だから潜水船の能力を最大限に生かせる方法を考えて要ると
思うのだ、だが、今、殿や鈴木が申した様に暗闇に入った人間がだ、果たして、どれ程の時を耐える事が
出来るのか、其れが問題だと思うんだ、同じ暗闇でも野原や山の中での暗闇とは全く違うのだ。
わしも、正直、暗闇は恐ろしいと思う、提灯の灯りが有れば何とか耐える事が出来るので有れば、解決
策として今の内に一度お前も試してはどうだろうか。」
「はい、私も今同じ事を考えておりましたので数日以内に浜で試して見ます。」
正か暗闇が落とし穴だとは、さすがの源三郎も気付かずにいた、陸に有る時は大きく見える、だが、潜
水船の中に一体何人が乗り込むのだろうか、鍛冶職人も言ってたが、げんたは外に取り付ける水車型、風
車型の機械と言うよりも空気の取り入れ口に取り付ける機械作りには相当な神経を使ったと、其れは髪の
毛1本の隙間が有ってはならないと言う厳しい考え方なのだ。
「問題は空気の取り入れ口ですねぇ~、其れさえ思い通りに作動すれば提灯壱個の灯りは確保出来ると思
うのですが。」
「源三郎様、弐号船には二カ所取り付けておりましたが。」
「私は弐号船に乗組員が何人なのか、其れが少し気になるのです。」
「技師長の話では十人は乗れると申されておられましたが。」
「其れでは、二カ所の取り入れ口だけでは不足する様に思うのです。」
「源三郎、余はその足踏み機の事は良くは知らぬのじゃ、話しでは相当な重労働だと思うのじゃがのぉ
~。」
「はい、外の水車型や風車型は相手は水ですから少しは許されるのですが、内部の足踏み機は乗組員が生
きる為の空気を取り入れますので少しの間違いが有ってはならないので御座います。」
「では、踏み続け無ければならないと、これが一番大変な仕事じゃのぉ~。」
「はい、船長の指示が間違って浮く事も有りますが、足踏み機では疲れたからと言って休む事は出来ませ
ぬので。」
「では、一人では無理では無いのか。」
「私は今其れを考えておりました。
他の装置は一人でも宜しいのですが、足踏み機には必ず交代する者が必要となります。」
「では、家臣にはどの様に話せば良いのじゃ。」
「私は全てを正直に話す方が良いと思います。
殿が心配されておられます、船長の人選ですが、私は漁師全員に試して頂き、その中から選べば良いの
です。
ですが、足踏み機の担当になる者は船長の指示とは関係無く、絶えず動いていなければなりませんの
で、其れこそ、殿が申されました様に志願して頂く方法だけだと考えております。」
その様な話をしていると、丁度、大手門に着いた。
「誰でも良い大至急登城の合図をするのじゃ。」
慌てたのは大手門の詰所の家臣だ。
「ど~ん、どんどん、ど~ん、どどど~ん。」
数回、一斉登城の大太鼓が鳴り響き、家臣達は一体何事が起きたのか、誰もが急ぎ足で登城し、暫くし
て全ての家臣が大広間に集まり。
「皆の者、静まれ~い。」
ご家老様の一言で静まり。
「皆の者、只今より、殿が大切な話しをされる、これは我が野洲と言うよりも、連合国の生き残りを掛け
たお話しだ、皆はよ~く聴くのだ、では、殿。」
「うん、今、家老からも申されたが、皆は我が野洲では大変大掛かりな工事を行なって要る事は存じて要
ると思う。
洞窟の掘削だが、先程、聴いた話しでは後少しでこの野洲の城まで到達する。」
「お~。」
家臣の全員が知っており、大喜びと言うよりも良くぞやったと言う様子だ。
「だが、其れは問題では無いのじゃ、この洞窟で我が藩の技師長で有る、げんたが潜水船を造り上げたの
じゃ。」
「えっ。」
「潜水船とは。」
家臣達には初めて伝えられたので驚くよりも前に潜水船とは一体何だと言う声がした。
「まぁ~皆の者、よ~く聴くのじゃ、余と家老と先程潜水船なるものを初めて見たが三十尺以上も有る大
きな船なのじゃ。」
「殿、その潜水船とは一体どの様な船なので御座いましょうか、私も今初めて聞きましたので全く想像が
出来ないので御座います。」
「うん、其れが誠なのじゃ、まぁ~簡単に申せば船が海の中へ潜るのじゃ。」
「えっ、船が海の中に潜るって、そんな馬鹿なぁ~。」
大広間に集まった家臣達は全く理解が出来ない、其れも当然で誰が考えても船が海の中に潜ると言われ
る殿様は悪い夢でも見て要るのだろうと思うので有る。
「船が海に潜るとは、船が沈むと言う事の間違いでは無いのか。」
家臣達もお殿様が最初に聞いた時と同じで有る。
「そうじゃ、まぁ~簡単に申せば船の上に別の船をひっくり返して乗せたと思え、其れが海の中へ潜るの
じゃ、その壱号船に鈴木と上田が乗り込み我が野洲の海で試したのじゃ。
鈴木、上田、その方達が説明するのじゃ、余では説明出来ぬわ。」
鈴木と上田はご家老様の傍に座り。
「はい、では皆様方も良くご存知だと思いますが、げんたと言う今は技師長となり、弐号船も完成させ参
号船の建造に入られておられます。
私達が乗り込みましたのは最初のイ零壱号潜水船と申しまして、乗り込んだのは私と上田殿、其れと漁
師の元太さんです。」
「鈴木殿、その潜水船と申されます船は、誠、海の中に潜ったので御座いますか。」
「はい、其れは間違いは御座いませぬ、各自の役目ですが私は船の操縦で上田殿が潜水鏡で海上を覗き指
示を出し、漁師の元太さんは足踏み機で海上の空気を入れると言う重要な役目でして、これが三人の役目
で洞窟を出た直後に海中へと潜りました。」
「上田殿はその何と申されましたか。」
「潜水鏡ですか。」
「はい、その潜水鏡で海の上を見ておられたのですか。」
「はい、鈴木殿の操縦で潜水船はゆっくりと確実に海中へと潜りました。」
「その時の様子ですが如何でしたか。」
「まぁ~どうにもこうにも、私も生まれて初めて海の中に潜ったのですが、潜水鏡からは前方の入り江の
入り口が見え、直ぐ下には海面が見えまして、何と表現して良いのか分からない程不思議な光景で御座い
ました。」
「上田殿、鈴木殿、その潜水船を本当にげんたが造ったのですか、げんたはまだ子供では。」
「今、申したのは誰じゃ。」
一人の家臣が手を挙げた。
「その方は今何と申した、げんたは子供だから潜水船などは造れぬと申したのか、この大馬鹿者が、皆も
じゃ、よ~く聞けよ、お前達の中で潜水船と聴き直ぐに分かった者は居るのか、おるならば手を挙げて見
よ。」
お殿様は大広間の家臣達を見回したが、一人も手を挙げる者はおらず。
「誰もおらぬのか、其れが何よりの証拠じゃ、この源三郎でさえも潜水船と聞き直ぐに分かったのでは無
い。
じゃが、技師長は誠潜水船を造ったのじゃ、其れは余も家老も現に見ておるのじゃ、更にじゃ、お前達
如きに技師長の説明を聴いても、まぁ~絶対に申しても良い理解は不可能じゃ、お前はその場を離れよ、
直ぐにじゃ。」
「殿、少しお待ち下さいませ、私に良い考えが御座います。」
「何じゃと、余はこの者達を許せぬのじゃ。」
「殿、私もで御座いますが、先程、殿が申されましたお話しですが、私は撤回して頂きまして全員に訓練
を受けさせては、如何かと思うのですが。」
「そうか、その手が有ったのぉ~、さすが源三郎じゃ、余も大賛成じゃ。」
お殿様は含み笑いをし、其れがどれ程恐ろしい話に成るとはこの時家臣達は思いもしなかったので有
る。
「総司令、撤回と申されますと志願では無く強制的だと申されるのでしょうか。」
大変な事になった、お殿様もご家老様も最初は志願させるつもりだったが、家臣達がげんたを馬鹿にし
た様な発言に、お殿様の怒りは収まらない。
「皆の者、よ~く聴くのじゃ、今技師長が壱号船の改良に入って要る。
この改良が終われば、この席におる全員に潜水船の訓練を受けさせる、これは、余の決定じゃ、覚悟せ
ねばならぬぞ。」
殿様の怒りは、源三郎の提案で少しは収まった、だが、家臣達は何故か恐れをなしたので有る。
今日の今初めて聞いた潜水船なるものの訓練を家臣の全員が受けるのだと。
「源三郎様、私は狭い所が苦手なのですが。」
「私にその様な話をされても私は承諾は出来ませぬ。」
「えっ、何故で御座いますか。」
「貴殿は先程げんたを馬鹿にした発言をされたのです。
皆様方に申しますがげんたは確かに子供です。
ですがねぇ~技師長は最初に私が申しました海の中で息が出来るものを作って欲しいと、只、其れだけ
で潜水具を作ったのです。
皆様方に想像が出来ますか、潜水具から潜水船を、確かに潜水具は私が頼みましたよ、ですが、潜水船
は技師長が考え造ったのは事実なのです。
私もねぇ~技師長に潜水船と言われた時には潜水具の事を知っておりましたので、直ぐに分かりません
でしたが、其れでも潜水船が海の中に潜る事が出来るなどとは全く信じておりませんでしたよ、でもねぇ
~技師長の頭の中は我々野洲の全員が集まっても全く理解出来ない物を作り出すのです。
はっきりと申し上げて置きますがね壱号船は狭いですよ、その中に三名が入り船長は潜水鏡から見ただ
けで上下左右と指示を出し、その指示で操縦する者は操縦棒を操るのですからねぇ~、其れに海中では空
気が有りませんので外の空気を船内に取り入れるのですが、まぁ~この足踏みは最初から最後に潜水船が
海面に浮上するまで踏み続けなければなりませんのでねぇ~、其れはもう大変ですよ、まぁ~皆様は覚悟
して置いて下さい。」
源三郎はニヤリとし、お殿様の顔を見ると、やはり同じ様にニヤリと頷いて要る。
「源三郎様、何故、我々全員が訓練を、其れもこやつの為に他の者達が迷惑しております。」
「やはりですか、貴殿もその様な考え方を持っておられるのですか、他の皆様方も同じ考え方なのでしょ
うかねぇ~。」
家臣達は下手な発言をすれば、次にどの様な事態に発展するのか、其れが恐ろしく何も言えないので有
る。
「すこし、待って下さいね。」
源三郎は鈴木と上田に何やら耳打ちをした。
「えっ、はい。」
鈴木と上田の表情が一瞬変わった、果ては、源三郎は飛んでも無い事を告げたのか、家臣の表情は段々
とこわばって行く。
「では、お願いしますね。」
「はい、直ぐに。」
二人は、大急ぎで何処へやら向かった。
「では、皆様方、早速ですが今から訓練に入ります。」
「えっ、何故で御座いすか、急に。」
「はい、訓練と言うのは早ければ早い方が良いのです。
そうですねぇ~今日から、毎日、午前中に四名、午後からも四名で行ないますのでね。」
「源三郎、何故に少ないのじゃ。」
「殿、この訓練は一人では出来ませぬ。
最低でも二人が乗り込まなければなりませぬので仕方が御座いませぬ。」
「何じゃと、二人じゃと、だが、壱号船は三名のはずじゃ。」
「はい、三名ですが、船長は漁師の元太さんにお願いする様にと、今、鈴木様に伝えました。」
「そうなのか、では、今回の訓練は漁師の元太殿が指揮を執るのじゃな。」
「はい、其れで足踏み機と操縦棒をご家中の皆様方に受け持って頂きますが、二人が乗り込みますので、
二人は途中で交代して頂きます。」
「うん、良し分かったぞ。」
「其れで皆様方には潜水船の中で最低でも半時程、いや、一時以上は訓練を続けて頂きますので、宜しく
お願い致します。」
「源三郎様、宜しいでしょうか、何故に漁師が船長のなるのですか。」
「よい、質問ですねぇ~、では皆様方にお聞きしますが、漁師さんの仕事をご存知でしょうかねぇ~、皆
様方が食べられて要る魚を獲る仕事なのですがねぇ~。」
その後、漁師の仕事に付いて詳しく説明し。
「皆様方も分かって頂けましたか、其れが船長になる理由です。」
「源三郎様、では我々は漁師から命令を受けるのですか。」
この家臣はまだ理解していないと言うよりも、漁師が侍に命令を出す事に対し相当な不満を持って要る
様にお殿様も源三郎も受けたので有る。
「今の発言は許せませんねぇ~、私も皆様方も侍は二本の刀を差し、多少の読み書きが出来るだけで何と
偉そうにして要るのだと、農民さんや漁師さん達は思って要るのを、貴方方は全く知らないのですか、空
の事も土の事も、更に海の恐ろしさも全く知らない貴方方に何を説明しても無駄の様ですから、先程から
発言された三名の方と今の貴方は、直ぐ浜に行きなさい。
私から漁師の元太さんには特別訓練をお願いしておりますのでね。」
「源三郎、その特別訓練とは、どの様な訓練なのじゃ。」
「殿、簡単なお話しで沖に出るだけですが漁師の元太さんや他の漁師の皆さんは暗闇にも慣れておられま
すので、まぁ~下手をすれば、この中から数人程は溺れ死ぬか、窒息死する事になりますが、まぁ~其れ
も訓練ですので、仕方が有りませぬので。」
「やはり、沖に出るのか。」
「はい、で、無ければ訓練にはなりませぬ。」
源三郎はこの四名を最初に脅かせばと良い言うよりも、この四名を生贄すれば、後は不満を言える状態
では無くなると考えたので有る。
その頃、鈴木と上田は馬を飛ばし浜に着いた。
「元太さん。」
「えっ、鈴木様に上田様、一体如何されたんですか。」
「其れがねぇ~お城で少し問題が発生しましてねぇ~。」
鈴木が元太に先程の話をし急に訓練を開始すると。
「えっ、じゃ~オラ達がお侍様を。」
「はい、宜しいですよ少しぐらいは脅かして頂いても、私も家臣の話には正直申しまして腹が立ちまして
ね、殿は大変なお怒り様で其れが原因で急になったのです。
元太さんには大変申し訳ないのですが。」
「でも、オラは。」
「元太さんのお気持ちは、私も分かりますよ、でもこれはねぇ~早く解決しなければならないのですよ、
家臣達に漁師さん達の仕事がどれ程にも厳しく恐ろしいのか其れを理解させる為なのですからお願いしま
すよ。」
「はい、鈴木様の言われる事は分かりますが。」
「元太さん、お願いが有ります。」
「オラにですか。」
「はい、多分、最初に四名が来ると思いますので本気で怒って下さい。
其れで、此処からは元太さんにお芝居をお願いしたいのです。」
上田は元太が渋るので別の話をするが、其れは家臣達もだが鈴木も全く予想していないので有る。
「オラが芝居をするんですか。」
「はい、一応、四名の訓練は厳しくして頂きまして、勿論、私達も此処におりますので、其れでね芝居と
言うのが。」
上田は元太に話すと。
「えっ、オラがそんな事を言うんですか、そんな事言ったら、オラは其れこそ無礼者って言われその場で
殺されますよ。」
上田は何と言ったのか。
「上田殿、私もおりますのでご心配なく、後で源三郎様に二人で。」
「はい、鈴木殿、申し訳有りません。」
「いゃ~いいんですよ、私も同じ家臣として先程の話を聴き情けなかったので大いにやりますよ、源三郎
様ならば許して下さいますよ、元太さん、私達二人がおりますから、其れに家中の者は刀も持たずに来ま
すのでね、上田殿の申される通りですから。」
「う~ん、だけど。」
元太は悩んでいる、当然だがその原因を作ったのも家臣で有る。
「はい、分かりました、やって見ますので、お願いします。」
「其れは有り難いですよ、其れと銀次さん達にもお願いしなければなりませんので。」
「じゃ~、オラの舟で。」
「はい、忙しい時に。」
「いゃ~いいんですよ、オラ達の事よりもげんたの事を考えると。」
「私達も同じ気持ちなんですよ、源三郎様は技師長は大事にしなければ、これから先誰が考えるのですか
と申されておられます。」
「うん、オラもですが、浜の人達の全員がげんたを子ども扱いは止めようとなったんです。」
浜の人達は仕事に関してはげんたを子ども扱いにしないと決めたのだので有る
それ程までにもげんたの存在は大きいと言う事なのだ、だが、其れにしても大変な事になったと元太は
思うので有る。
家臣達の訓練は一体どの様な方法を持って行うのか、源三郎も全く知らない。
そして、上田は元太に何と言ったのだろうか、家臣達にとっては恐ろしい訓練が待って要る事に違いは
無い。