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闇の帝国    作者: 大和 武
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第 24 話。 源三郎に隠された事実とは。

「あんちゃん。」


「げんたか、一体どうしたのです。」


「なぁ~んだ、ねぇ~ちゃんも一緒なのか。」


「ねぇ~、げんたさんどうかしたの、浜で何か有ったの。」


「嫌だなぁ~、二人揃って同じ事を聴くんだからなぁ~。」


「そうか、其れは済まないねぇ~。」


「なぁ~、あんちゃん何か困ってる事でも起きたのか。」


 やはり、げんたは勘の鋭い子供だ、源三郎の顔を見て何かを感じたのだろうか。


「いゃ~、別に何も有りませんよ、げんた、其れよりも私は明日にでも浜に行こうかなと、今も


考えておりましてね。」


「なぁ~んだ、あんちゃんが来るんだったらオレが来る事も無かったのか。」


「げんた、何か用事でも有ったのですか。」


「うん、まぁ~、有ると言ったら有るし、別に大した用事でも無いんだ。」


「そうですか、其れでは聴きたい事が有るのですが、鍛冶屋さん達は。」


「うん、あの人達は凄いよ、オレが頼んだら暫くは考えてるんだけど、仕事に入ったら早いんだ、


其れに、物凄く丁寧に作ってくれるんだ。」


「そうですか、其れは大変良かったですねぇ~、其れとですが前に浜の元太さん達から言われた改


良部分ですがどうなったのですか。」


「うん、あんちゃん、オレは元太あんちゃんが言ってたふいごが一番大事だと思ったんだ、其れで


元太あんちゃんと話したんだ。」


「げんた、私も其れで良いと思いますよ。」


「其れで元太あんちゃんに聴いたんだ、このふいごだったら物凄く疲れるって。」


「げんた、そのふいごですが、それ程にも疲れるのですか。」


「うん、オレも船の中に入って何度も踏んだんだ、元太あんちゃんは最初はそんなにも疲れないけ


ど次第にどんなに踏んでもどんなに踏んでも駄目なんだって。」


「げんた、その駄目と言うのはどの様な事ですか。」


「元太あんちゃんが乗っても足踏み機が動かないんだ。」


「う~ん、げんた、其れはねぇ~、どうやらその足踏み機の問題では無いと思いますねぇ~。」


「やっぱり、あんちゃんもそう思うのか。」


「その足踏み機ですが、故障したのですか。」


「いいや、別に何ともないんだ、でもなぁ~、オレは何で動かないか分からないんだ。」


 げんたも、源三郎もまだ気付いていなかった、中に溜まった空気が抜けていない事に。


「其れで、げんたは足踏み機の改良に入ったのですか。」


「うん、そうなんだ元太あんちゃんが疲れるって言うから同じ様に足で踏む方法なんだけど、でも、


今度のはふいごじゃ~無いんだ。」


「ふいごでは無いと、では、一体、何を改良したのですか。」


 源三郎はげんたの発想力は素晴らしいと思って要る。


「あんちゃん、潜水船の外に有る水車を見た事が有ると思うんだ。」


「ええ、私も見ましたがねあの水車も大した物ですよ、げんたの説明を聞いても直ぐには理解が出


来ませんでしたからねぇ~。」


「まぁ~なぁ~、あんちゃんとオレとだったらの頭の中が違うんだから~仕方無いよ。」


 げんたは源三郎が考えるよりも、今はその先を行って要るのか。


「其れはげんた、私も認めますよ、でも、その水車を一体何処に使うのですか。」


 げんたは鼻を鳴らしニヤリとした。


「あんちゃん、オレが考えた水車はなぁ~、話しは簡単だけど、作るのは、もう其れこそ大変なん


だぜ。」


「げんた、水車は船の外に有りますが、其れを、えっ、正か。」


 源三郎はわざと驚いた、げんたの事だふいご方式では足踏みが大変だと聴かせれて要る。


 では、ふいご方式から変わる方法を考えなくてはならない、其れが水車方式と言う事なのか。


「あんちゃんそうなんだ、その正かなんだ、オレは水車の方法で何とか出来ると思ったんだ。」


 げんたが考える方法は誰も気付かない方法だ、だが、げんたの発想は別の所から来て要るのだと、


源三郎は思ったので有る。


「では、水車方式で何を作るのですか。」


 源三郎は頭の中で想像して要る。


「船の外に有る水車をねぇ~。」


 げんたは源三郎に詳しく説明を始め、傍で雪乃も話しを聞いて要るが、やはり源三郎が言った様


にげんたの発想力は並みの人間では考え付かないと、そして、げんたの説明は終わり。


「なっ、オレがさっきも言ったけど、オレの考えた物なんだけど今まで以上に難しいんだぜ。」


 源三郎はげんたの説明を聞いても直ぐには理解が出来ない。


「その水車方式の機械は作れたのですか。」


「あんちゃん、そんな簡単に出来るかぁ~、鍛冶屋さん達にも手伝って貰ってるんだけど、その機


械が出来ると、後は組み立てに入るだけなんだ。」


「げんた、其れでは今度は足踏み方式なのですか。」


「うん、其れで、今鍛冶屋さんに歯車を作って貰ってるんだ。」


「其れで何時頃出来るのか分かりますか。」


「う~ん、今一番難しいところなんだ、其れが、う~ん、後何日かなぁ~。」


 げんたは指折り数えるが、まだ、当分の間は掛かりそうだと源三郎は思い。


「げんた、余り無理はするなよ。」


「うん、分かってるよ。」


「ねぇ~げんたさん、先程の話ではふいごを踏んで要ると動かなくなると言われましたけれど。」


「ねぇ~ちゃん、何か分かったのか。」


「そうなの、だけど、私もその潜水船ってどの様な船か知らないのよ。」


「う~ん、そうだなぁ~、まぁ~簡単に言うと船が海の中に潜るんだ。」


「えっ、海に潜るって、沈むのでは。」


「ねぇ~ちゃん違うんだ、沈んだらもう浮き上がって来ないけど、潜水船は中に居る人が船を潜ら


せたり浮かせたりするんだ。」


 雪乃も潜水船と言われても全く理解が出来ないので有る。


「ねぇ~げんたさん、その前に何か作ったの。」


「うん、其れがね、あんちゃんが海の中でも息が出来る様な物を作れって言ったんだ。」


「ねぇ~げんたさん、私全く分からないのよ海の中でどうして息が出来るのよ。」


「うん、そうだなぁ~頭に桶を被って、顔のところだけ硝子のはめ込み、竹筒を何本も繋ぎ上から


ふいごで空気を送ってるんだ。」


 雪乃も少しづつ分かってきた。


「ねぇ~そのふいごで空気を送るって、じゃ~桶の横から泡が出なかった。」


「あっそうか、ねぇ~ちゃん有難うよ、あんちゃん、オレ分かったぜ。」


 雪乃の発言と言うのか、言った言葉で、げんたは問題を解決したが、源三郎も雪乃もまだ意味が


分からないので有る。


「げんた、何が分かったのですか。」


「あんちゃん潜水具だ、そうか、そう言う事なのか、ふ~ん、あれか。」


 げんたは腕組みしニヤニヤとしている。


「ねぇ~げんたさん、何が分かったのよ、私はさっぱり分からないのよ。」


 雪乃は源三郎の顔を見るが、源三郎も一体何が分かったのか、其れが全く分からない。


「あんちゃん、今ねぇ~ちゃんが泡って言って分かったんだ。」


「ですが、泡が出るのですか。」


「あんちゃん船に穴を開けて、其処から要らない空気を出せばいいんだ。」


「げんた分かりましたよ、潜水具の時も横から泡があれが余分な空気と言う事ですね。」


「そうなんだ、オレと元太あんちゃんが乗った時も同じだったんだ、入り口の蓋を開けるとまた元


太あんちゃんは楽になったって。」


 潜水船内の余分な空気を出す方法が無かった。


 げんたにすれば一番の問題が解決したと大喜びをしたので有る。


「げんた穴を開けると言いましたが、大きな穴を開けるのですか。」


「う~ん、オレは余り大きな穴は開けたくはないんだ。」


「ねぇ~げんたさん、その穴からは水は入って来ないの、私は飛んでも無い事を言った様に思うの


だけど。」


「ねぇ~ちゃんそんな事無いよ、だってねぇ~ちゃんが泡って言わなかったら、オレはどうしたら


いいのか分からなかったんだぜ。」


「ねぇ~げんたさん本当に大丈夫なの、私何故か心配になってきたのよ。」


「なぁ~ねぇ~ちゃん、オレ様はなぁ~大天才なんだぜ、穴を開ける事が分かったんだ、まぁ~後


はどんな大きさの穴にするかを考えるよ。」


「雪乃殿、げんたに任せましょう、げんたの事ですから大丈夫ですよ。」


「あんちゃんも前に言ってた事だけど。」


「私が前に何か言いましたか。」


「そうだよ、潜水船の事で。」


 源三郎は分かって要る、以前、げんたに潜水船に爆薬を積み込む話をしたので、げんたも爆薬の


話をするものだと思って要る。


「あ~、あの話しですか。」


「思い出したのか、其れでオレはねぇ~次に今よりも大きな潜水船を造りたいんだ。」


 源三郎はげんたが爆薬の話をするものと思っていたのだが違っていた、げんたは新しく今よりも


大きな潜水船を造るのだと言うので有る。


「大きな潜水船を造るのですか。」


「あんちゃんがもっと大きな潜水船が要るんだって言ってたから。」


「はい、そうでしたねぇ~、今思い出しましたよ、げんた、其れとですが今から大切な話をします


がこの話は誰にも言っては駄目ですよ。」


「えっ、あんちゃん、何か分からないけど、そんな大事な事をオレに言っても大丈夫なのか。」


 源三郎は迷っていた、幾ら、げんたを技師長に抜擢したとしても、げんたは子供だ、幕府と官軍


との戦の話をしても、果たして、子供のげんたに理解が出来るのか、だが、潜水船の建造には大工


と鍛冶屋だけで造れるものでは無い。


 源三郎はげんたの頭脳が必要だ、現実の問題として大きな戦になれば考える以上に犠牲者も多く


なるので有る。


 其れは、直接、戦に関わる者達は勿論だが、戦とは全く関係の無い農民や漁民など領民の犠牲者


も当然出て来る、其れは避ける事が出来ないので有る。


 源三郎はその事もげんたに説明しなければならない。


 だが、げんたにその話を何時すれば良いのかを思い悩んでいたので有る。


「げんたは誰が見ても子供ですよ、ですがねぇ~、戦、其れもねぇ~大きな戦になれば思う程以上


に死ぬ人が増えるのですがね、其れは分かりますよねぇ~。」


 げんたの顔付が変わった。


「なぁ~あんちゃん其れくらいはオレだって分かるよ。」


「げんたあの高い山の向こう側ではねぇ~、今大きな戦が始まって要るのです。」


「えっ、あんちゃん、其れは本当なのか。」


「はい、勿論でしてね間違いは有りませんよ、何時か忘れましたがね、私と一緒にきた侍を覚えて


いますかねぇ~。」


「うん、覚えて要るよ、で、あのお侍は何処かよその国から来たお侍だって聴いた事も。」


「そうでしたねぇ~、実は、あの侍はこの野洲から遠く離れた九州の薩摩と言う国から来た侍でね、


九州では大きな戦が始まって要ると私は聴きましてね。」


「なぁ~あんちゃん、その九州って所の戦がオレの野洲にまで来るのか。」


「ええ、其れは多分間違いは有りませんよ、但しですが、今直ぐにと言う事では有りませんがね、


げんたも知って要ると思いますが、田中様と言う侍を。」


「うん、知ってるよ、そうだ、その人って長い事見て無いけど、なぁ~あんちゃん、正か、田中って言う


お侍が死んだんじゃ無いよね。」


「田中様は今お城に居られますよ、田中様はね、私の指示を受けて、今も言いましたが九州の近く


まで行く予定でしたがね。」


 げんたは真剣な眼差しで聞いて要る。


「なぁ~あんちゃん、何でそんなに遠いところに何の用事で行くんだ。」


「げんた、高い山の向こう側では幕府の軍隊と九州薩摩の軍隊が大きな戦を始めておりましてね、


げんた、これからが一番大事な話しですからねよ~く聴いて下さいね。」


 げんたの身体は源三郎の話を聞き漏らすまいと、源三郎の近くまで乗り出した。


「うん、オレは本気で聴くから、あんちゃん何でも言ってくれよ、オレはなぁ~、どんな事が有っ


ても母ちゃん達とあんちゃんに、いや、ねぇ~ちゃんだけは守るからね。」


 げんたは子供だが考える事は野洲の家臣達でも叶わない程に大人の考え方をする。


「では、げんた、私はねぇ~げんたのお母さん、其れに浜の人達もですが農村の人達も領民を守り


たいのです。」


「あんちゃん、其れはオレも一緒だぜ。」


「私はねぇ~、げんたが造ってくれた潜水船で海から攻めて来る敵軍を負かせたいのです。」


「えっ、あんちゃんは海から幕府かその九州の何とか言う軍隊が来ると思ってるのか。」


「そうですよ、私はねぇ~、今まで何度か入り江の沖を通る軍艦を見てましてね、其の時若しもで


すがね、あの様な軍艦が何隻もこの浜を攻撃して来たら、この浜の全員と野洲の人達の大勢が死ぬ


と思ったのです。」


「あんちゃん、何で高い山の向こう側から来ないんだ、侍だったら平気だと思うんだ。」


 げんたは侍ならば狼には勝てると思って要る。


「げんた、あの高い山には恐ろしい狼の大群が居るのを知っておりますか。」


「うん、オレも其れくらいは分かるよ、でも、侍は刀を持ってるんだから狼は怖く無いと思うんだ


けどなぁ~。」


 げんたは狼の恐ろしさは知らない、ただ、領民の話で狼は恐ろしいと言うので狼は恐ろしい生き物だと


思って要るので有る。


「げんた、狼はねぇ~本当に賢い生き物ですからね、其れに侍の持って要る刀では狼に勝つ事は出


来ませんよ。」


「なんでだよ、あんちゃん刀で狼を殺せないんだ、オレだったら平気だぜ。」


「げんた、狼はねぇ~1頭や2頭では襲っては来ないのですよ、少なくとも5頭以上でしてね時に


は数十頭以上の群れで襲って来ますのでね侍の刀は全く役には立たないのですよ。」


「だけど、幕府の侍だって大勢要るんだぜ。」


「げんた、侍がねぇ~戦に行く時は今の私が着て要る上に甲冑を付けるのですよ、そうですねぇ~、


後でこのお城に有る甲冑を見ると分かりますがね、色々な物を付けますとね私でも簡単には動けな


いのですよ。」


「じゃ~、あんちゃん何十頭もの狼に襲われたら。」


「まぁ~多分殆どの侍は噛み殺されますよ、其れだけは間違いは有りませんよ。」


「え~、狼ってそんなに恐ろしいのか。」


 げんたは腕組みし考えて要る。


「げんた、其れにねぇ~狼は物凄く鼻がいいんですよ、そうですねぇ~、一町や二町位離れてても


直ぐに分かるんですよ、でも人間はそんなには無理ですかねぇ~。」


「じゃ~幕府の侍もあの山は越えて来ないのか。」


「ええ、私はその様に思っておりますよ、其れに山賀から菊池まで続く山に一体何千頭の狼が住ん


で要るのか知りませんからねぇ~。」


「其れで海から来るって言うのか。」


「そうですよ、狼も海の上までは来ませんから。」


「だからなのか、オレの頭の中に有る潜水船で幕府の奴らを懲らしめるのか。」


「げんた、その通りですよ、幕府はねぇ~今まで大勢の農民さんや漁師さん達をいじめておりまし


たのでね、其れに九州から軍艦に乗って来る兵隊も若しかすれば我々の敵かも知れないのです。」


「えっ、あんちゃんは幕府をやっつけるのか、其れに九州の奴らもオレ達の敵なのか。」


「げんた、其れはまだ分かりませんがね、私が田中様から聴いた話では戦と関係の無い人達までも


が殺されて要るのですよ。」


「あんちゃん、其れだったらこの浜の元太あんちゃんや他の漁師さん達だって殺されるかも知れな


いのか。」


 げんたは戦の恐ろしさは知らない、例え、相手が農民の姿をしていても敵だと言う事も有る。


 戦とは、殺される前に相手を殺せと言う事なので有る。


「う~ん。」


 げんたは真剣に考え始めた。


 げんたの頭の中にはどの様な潜水船が描かれて要るのだ。


 其れとも今の話しから別の潜水船を描き始めたのか、其れだけは源三郎には分からない。


「げんたは何を考えて要るのですか。」


「うん、今別の潜水船を考えて要るんだ。」


 やはり潜水船だ、だが、今は詳しい事までは分からない。


 げんたの負担を考えればこれ以上は無理にとは言えないので有る。


「あんちゃん、オレ帰るよ家で考えたいんだ。」


「そうですか、何か有れば言って下さいね。」


「うん、分かったよ、じゃ~なっ。」


 げんたは執務室を出たが、何故か後ろ姿に元気が無い。


「源三郎様、げんたさんは大丈夫でしょうか、私は何故か心配であの後ろ姿が気になるのです。


 其れに、元気が無い様に思えてならないのですが。」


 雪乃は知らなかった、げんたが腕組みし考え始めると母親でも声は掛けないので有る。


「雪乃殿、あれがげんたなのですよ、あの様に腕組みして考え始めると誰が何を言っても耳にも入


りませんのでねぇ~、まぁ~数日間はあの調子ですから。」


 源三郎も最初の頃、母親に言われるまでは知らなかったので有る。


「ですが、相当深刻な顔付で御座いますが。」


「まぁ~、余り心配される事は有りませんよ、数日間考え、纏まれば何時ものげんたに戻りますか


らねぇ~。」


「はい、承知致しました。」


「私は今から殿にお話しが有りますので。」


 源三郎は殿様のところへ向かった。


「げんたにあの様な話しをしたが、本当に大丈夫なのか。」


 源三郎はげんたに大きな戦が始まり潜水船が必要だと言ったが、果たして、源三郎の思惑通りの


潜水船は完成するのだろうか、源三郎は出来る事ならば幕府軍と官軍だけの戦争に留めて欲しいと、


だが、罷り間違っても連合国に対しての攻撃だけは避けて欲しい、今は其れだけを願うので有る。


「殿。」


「お~、源三郎か如何致したのじゃ。」


「はい、先程田中様から詳しい話を伺い、殿にもお耳にと思いましたので。」


「源三郎、余は出来るならば聞きたくは無いのじゃ。」


「しかし、殿が何も知らないと言う事になれば。」


「のぉ~源三郎、今は全て源三郎の胸の中に留めて欲しいのじゃ、じゃが余は何も逃げて要るので


は無い。


 其れよりも源三郎が連合国の最高司令官となったのじゃ、博識から考えても、もう余は出る幕で


は無いと思っておるのじゃ。」


 殿様は悟ったのだろうか、確かに殿様の言う通りかも知れない。


 源三郎が連合国の最高司令官となり、以前ならば全ての決定権は殿様が握っていた。


 だが、連合国となり、松川も山賀も世代が代わり、新しい殿様が、其れは司令官と言う意味なの


か分からないが、特に松川と山賀に関しては若い者に代わった、何れ近い内に上田も菊池も代わる


で有ろうと源三郎も考えてはいたが、正か、野洲の殿様がこの時期に伝え無ければならないとは、


源三郎も予想外で有った。


「殿、その様に大事なお話しを突然申されましても私は困るので御座います。」


「何故じゃ、余はもう十分じゃ、これからは別宅で。」


「えっ、殿に別宅は御座いましたでしょうか。」


「あっ、そうか、余は今の今まで別宅と言うのも行った事が、え~と言うよりもじゃ、余には別宅


は無かったのじゃのぉ~、まぁ~何か良い、う~ん。」


「殿に別宅は御座いましたでしょうか。」


「あっ、そうか、う~ん。」


 殿様の声が急に小さくなり。


「殿、何をブツブツと独り言を申されておられるのですか。」


「う~ん、いや何も無い、うん、何も無いぞ。」


「殿。」


「お~権三か、うん良いところに、いゃ~助かったのぉ~、うん、良かったのぉ~。」


 ご家老様は殿様の独り言の意味がさっぱり分からず首を捻って要る。


「殿、一体何が有ったので御座いますか、私は。」


「いや、何も無い、何も無いぞ、のぉ~源三郎。」


「父上、殿が急に隠居されると申され、私は困って要るのです。」


「何、殿が隠居されると、殿、何処かお身体が悪いので御座いますか。」


「権三、余は元気じゃ、何処も悪くは無いぞ。」


「では、何故で御座いますか、隠居などと。」


「う~ん。」


「父上、私は今大事なお話しが御座いまして来たのですが、もう話しは聞きたくは無いと申されま


して私は困って要るので御座います。」


「源三郎、何か有ったのか。」


「はい、先程、田中様から驚くべき報告が有りましたので。」


「殿、話しだけでも聴かれては如何で御座いますか、私も聴きたいと思いますので。」


「う~ん、まぁ~仕方無いのぉ~、では、話しだけだぞ、良いな源三郎。」


「はい、では田中様の報告をさせて頂きます。」


 源三郎は田中からの報告をすると。


「何じゃと、官軍の軍艦じゃと、して、その軍艦は野洲を攻撃するとでも申すのか。」


 殿様の早合点で有る。


「殿、私は官軍が攻撃するとは申してはおりませぬ、ただ、軍艦と言うだけで詳しい事は何も分


かってはおりませぬ。」


「分かった、だがのぉ~権三、源三郎、余が思うにはじゃ、その官軍の兵士と申すのは末端の兵士


だと思うのじゃが、何故、その様な事までも知っておるのかと言う事なのじゃ。


 今の野洲では当然の事かも知れぬが、他国でも同じ様に末端の家臣まで詳しく話すと思うか如何


じゃ。」


「殿、確かにその通りで御座います。


 私は田中様の報告を聞いた時も同じ様に思ったので御座います。


 これには何か裏が有るのではないかと。」


「源三郎、今城に井坂と言う官軍の武士がおるが、何をさせて要るのだ。」


「父上、今は官軍の装備と兵力を思い出しながらと言う事で書き出しておられます。」


「装備か、だが、その者達が持っていた連発銃と言うのが一体何丁有るのか、其れを知りたいとは


思わないのか。」


「父上、井坂殿に寄りますと殆どの兵士が持って要ると。」


「殿、これは由々しき問題で御座いますぞ。」


「権三、如何すれば良いのじゃ、若し官軍とやらが我が野洲に攻めて来ればその連発銃に勝てると


でも申すのか。」


 殿様は深刻な表情になってきた。


「殿、この野洲もですが、我が連合国に御座います、あの高い山を大勢の兵士が、其れも完全武装


した兵士が越えて来るとは私は考えてはおりませぬ。」


「源三郎、何故じゃ、何故、その様に断言出来るのじゃ。」「殿、高い山には、我々の背丈以上も有る熊


笹が辺り一面に覆い茂っております。


 其れに、菊池から山賀まで続く山には人間が簡単に入れる様な所は御座いませぬ。」


「何故じゃ、何故、入れぬと申すのじゃ。」


「はい、殿もご存知だと思いますが、あの山には狼の大群が潜んでおりまして、数百、いや、数千


頭は要ると思いますが兵士が重い装備を持ち山に入れば敵軍以上に恐ろしい狼が待ち受けておるの


で御座います。」


「う~ん、じゃがのぉ~官軍には連発銃が有るでは無いか。」


 殿様も官軍の持つ連発銃が有れば、狼は簡単に殺せると思って要る。


 だが、相手は野生の狼だ音も立てずに忍び寄って来る、その様な相手に猟師でも無い兵士が簡単


に殺せるとでも思うのだろうか。


「殿、兵士と申しましても町民が殆どだと田中様は申されておられます。


 猟師の様な特別な人達は別としましても、兵士が狼を簡単に撃ち殺す事などは不可能では無いで


しょうか。」


「源三郎はどの様に考えて要るのじゃ。」


「私は井坂殿の言葉を考えますと、官軍はこの海を利用し何処かに向かうのでは無いかと思うで


御座いますが。」


「だが、軍艦で一体何処に向かうのじゃ。」


「はい、私ならば軍艦を利用すれば一度に大量の武器と大勢の兵士を乗せる事が出来ますので、幕


府の本陣を直接攻めるのでは無く、一度別の所に着き其処から本陣へと攻め込む事に致します。」


「では、その軍艦が我が野洲を攻めるのでは無いと申すのか。」


「殿、攻撃するのは幕府の本陣だとしましても大勢の兵士には食料と飲み水は必要です。


 山賀は別としましても松川から菊池までには長い海岸線が有り、多くの漁村が御座います。」


「何じゃと、では、官軍は漁村から食料と水を奪うと申すのか。」


「私は、可能性が有ると考えて要るので御座います。」


 何と官軍の軍艦は松川から菊池の漁村から食料と飲み水を奪うと言う略奪行為が有ると。


「じゃが、何故、我々の連合国なのじゃ。」


「殿、別に官軍だけとは限りませぬ、幕府軍とて同じで、幕府は高い山を越えれば領地が有る事も


知っており、私は官軍よりも幕府の軍艦が来襲するのでは、ですが、これも私の推測で確信が有る


訳でも御座いませぬので。」


「源三郎としては、幕府軍と官軍何れの軍艦が来襲したとしても反撃すると申すのか。」


「はい、ですが、今の我々には軍艦と言う大きな船が無いのです。


 其れが、今一番の悩みの種で御座いまして、私としては何とかしたいと思うですが。」


 源三郎が本当に必要として要るのは軍艦では無く潜水船で有る。


 その潜水船は簡単に造れるものでは無く、其れを一番良く知って要るのはげんたで有り、現場の


大工や鍛冶屋で有る。


 例え、潜水船が完成したとしても、大きく頑丈な軍艦に対して一体どの様な攻撃を加えれば良い


のか、其れを源三郎は必死で考えるので有る。


「う~ん、確かに源三郎の申す通りじゃ、して、源三郎は何か策でも考えておるのか。」


「殿、幾ら考えましても、軍艦を造るとなれば専用の場所と軍艦を造る専門の職人が必要になりま


すが、今の連合国にはその様な専門の職人もおりませぬ。」


「源三郎、菊池から松川までに大きな船を持って要る藩は無いのか。」


「父上、何れの藩にも大きな船も御座いませぬ、全てが漁村なので専門の職人もいないです。」


「源三郎、潜水船はどうなのじゃ、げんたに次には大きな潜水船を考えてくれと。」


「殿、潜水船を造れと簡単には申せませぬ、げんたも今はイ零壱号船の改良に取り組んでおり、其


れに潜水船を考えられるのはげんただけなので御座います。


 確かに、げんたは潜水船を考え造り完成させましたが、其れでも我々の考えが及ばぬ世界で御座


いまして、今はこれ以上げんたに無理は申せませぬ。」


「そうか、それ程にも潜水船を造ると言うのは困難だと申すのか。」


「はい、私も出来るならばと考えますが、私の考える遥か先をげんたは考えイ零壱号船を造ったので御座


います。


 殿も一度御覧に頂けますれば、私が話す以上の驚きでこの様な船を一体誰が想像出来ると思われ


ますでしょう。」


「のぉ~源三郎、相談じゃが。」


 殿様は源三郎の話を聴き、どうしても潜水船を見たいと思ったので無いか。


 源三郎は殿様が潜水船を見れば、若しかすれば隠居する事を断念するだろうと考えたので有る。


「殿、どうしても潜水船を御覧になりたいのでは御座いませぬか。」


「源三郎、余の頭の中を見るで無い、じゃがのぉ~正しくその通りじゃ、余はげんたが造ったと申


す潜水船をどうしても見たいのじゃ、のぉ~源三郎、頼む余にも見せてはくれぬか。」


 殿様は源三郎に頭を下げると。


「殿、その代わりと申しても何ですが、先程申されました隠居すると言うお話しで御座いますが、


撤回して頂きたいので御座いますが。」


「えっ、何じゃと、源三郎は余を脅すのか。」


「いいえ、正か、その様な事は考えてはおりませぬ。


 私は潜水船を御覧になれば殿が隠居される事は出来ないと申し上げて要るので御座います。」


「何故じゃ、何故隠居出来ぬと申すのじゃ。」


「殿、あの潜水船は我が連合国の中でも最高機密で御座います。


 殿が最高機密をご覧になったと言う事は、其れからは後戻りは出来ませぬと申し上げて要るので


御座います。」


「う~ん、最高機密か、う~ん。」


 殿様は今までにない程深刻に考え。


「源三郎、余は誰にも話さぬぞ。」


「殿、其れが甘いので御座いますよ、今幕府軍と官軍は戦争状態で御座います。


  若しも、若しもですが何れかの軍がこの野洲に攻め入り、殿を拉致したとお考え下さい。


 何れの藩でも、殿様と言うのは藩の全てをご存知なので御座います。


 その殿様が軍の拷問に耐えられるとでも思われるので御座いますか。」


 源三郎は何時もながら殿様を脅迫するので有る。


「う~ん、じゃが、余は何も話さぬぞ、絶対にじゃ。」


 殿様は奉行所で行なわれている自白させる為の拷問も知らないので有る。


「殿、ではお聞きしますが、奉行所での攻めをご存知で御座いましょうか。」


「いいや、余は何も知らぬぞ。」


「その拷問は何とも凄まじく、殆どの者達は耐える事は出来ない程の激しいもので御座います。」


「では、我が藩の奉行所でも行われて要るのか。」


「はい、盗人仲間が潜んで要る場所も仲間の名も吐かせる為で、私が知る限りでは今までに耐え抜


いた者はいないと。」


「では、若しもじゃ、余が拉致されればその攻めに耐えられずに全てを話すと申すのか。」


「はい、正しくその通りで御座います。」


 源三郎の顔は恐ろしい程で殿様は迷っており、源三郎の言う話は脅しでは無い。


「う~ん。」


「殿、如何なされますか。」


「源三郎、分かった余も覚悟致す。」


「左様で御座いますか、ですが浜に参られる時にはそのお着物は着替えて頂きます。」


「うん、余はのぉ~この着物は好きになれぬのじゃ、余ものぉ~これからは皆と同じ侍の着物を着


たいのじゃ。」


「分かりました、其れと浜へは殿も歩いて行って頂きます。」


「源三郎、何故籠では駄目なのだ、わしも参りたいのだ。」


「父上も歩いて頂けるならば、其れとお供は出来る限り少なくお願い致します。」


「うん、余もその方が気が楽になるぞ。」


 源三郎は色々と殿様に注文するのは今でも野洲の領内に幕府の密偵が潜んで要る事も考えて要る。


 幕府軍と官軍の戦争では必ずしも官軍が勝つと言う保証も無く。


 若しも、幕府軍が勝つ事にでもなれば、潜んで要る密偵に野洲の浜に殿様が大勢のお供と共に訪


れていたと言う事が発覚すれば、幕府の事だ必ず調査に来るだろうと考えたので有る。


「でじゃ、源三郎、何時参るのじゃ。」


「私は、何時でも宜しいので御座いますが。」


「よし、権三、明日の朝此処を出るぞ。」


「えっ、明日の朝で御座いますか。」


 何と殿様は気の早い、明日の朝お城を出ると言う。


「そうじゃ、余は一人でも参るぞ。」


「はい、承知致しました。」


「源三郎も参るのか。」


「勿論で御座います、父上、ですが少しお待ち下さい。


 明日か明後日には、森田、飯田、上田の三名が戻って来ますので。」


「何故じゃ。」


「殿、今、お城には数人の家臣だけで御座います。


 若しもの事を考えますとこの三名は必要かと存じます。」


「源三郎、雪乃がおるでは無いか、雪乃に男の装束をさせるのじゃ雪乃も喜ぶと思うぞ。」


 殿様は雪乃を連れて行くと、雪乃は抜刀術の達人でその雪乃と源三郎の二人だけでも十分だと


思って要るので有る。


「ですが、雪乃殿にも聴かぬ訳には。」


「源三郎、雪乃に聴いても同じじゃ、雪乃はのぉ~源三郎の傍に居る事が出来るならば戦にでも参


るぞ。」


 源三郎も雪乃の事だ必ず行くと言うだろうと思って要る。


「殿、では四名で参るので御座いますか。」


「まぁ~良いでは無いか、権三も参るのじゃ、まぁ~余は何も出来ぬがのぉ~。」


 殿様一人が喜びに溢れ、源三郎も浜に行く途中には何も無いと知った上での事で有る。


「分かりました、では私から雪乃殿に話を致しますので。」


「よ~し、決まったぞ、権三、余は誠嬉しいのじゃ。」


 殿様はこの数十年間と言うもの、お城の外に出た事も無く、勿論、浜にもでそれどころか源三郎


の話で海と言うものも見たいと其ればかりが頭の中を過ぎるので有る。


「では、私は雪乃殿に話を。」


「源三郎待て、雪乃ならば其処におるぞ。」


「えっ。」


 源三郎が振り返ると雪乃が手を付き頭を下げた。


「源三郎様、私は喜んでお供をさせて頂きます。」


「あっ、殿にしてやられた。」


 だが、時既に遅く雪乃は話を聴いており、雪乃は微笑みを浮かべ。


「私も源三郎様の申されておられます、潜水船と言う船を見たく存じます。」


 では、殿が言った隠居に入ると言うのは芝居だったのか、殿様は源三郎の顔を見てニヤリと。


「あ~私とした事が殿の芝居に騙された。」


 何と言う不覚を取ってしまったのだと、だが、其れよりも、源三郎は殿様の大芝居を見抜けな


かった事が悔しかったので有る。


「源三郎様、申し訳御座いませぬ。


 私も殿より数日前にお話しが御座いまして、私も参加させて頂く事が条件で。」


「そうでしたか、では、殿と雪乃殿の芝居に、私が。」


「源三郎、雪乃を責めるで無いぞ。」


「はい、勿論、承知致しておりますので。」


 そして、明くる日の朝、四つの鐘が鳴る頃、殿様とご家老様、源三郎、其れに、男装束に雪乃は


身を隠し大手門を出たが大手門の門番はあっけに取られて要る。


「なぁ~今のは正かと思うけど、お殿様では。」


「うん、わしもそう思ったが、正か殿様が出るはずが無いよ。」


「まぁ~源三郎様がおられるんだから、其れよりも源三郎様の後ろのお方は。」


「いゃ~、初めて見るお顔だよ。」


「う~ん、まぁ~、いいか、源三郎様がご一緒だからなぁ~。」


 門番は城内で何が起きたのだと思うが、その後、暫くは静かだったが。


「誰か殿とご家老様を見なかったか。」


「いゃ~、拙者もお探ししているんだ。」


「若しや何時もの賄い処では。」


 城内では殿様が消えたともう大騒ぎになって要る、その頃。


「権三、余は満足じゃ。」


「殿、実は私もで御座いまして、この様にして殿と外に出ますのは何十年振りかで御座います。」


「うん、あの頃は実に楽しかったのぉ~、で、城に戻ると何時も父上から大目玉じゃ。」


「はい、私もあの頃、よく殿様から叱られました。


 権三、お前がおりながら、何故、栄三郎を止めないのだと。」


「うん、そうだったのぉ~、じゃがのぉ~、余は海と言うものを見た事が無いのじゃ。」


「殿、今のお話しは誠で御座いますか。」


「うん、余は幼き頃から父上に厳しく教えられ、確かあれは元服の数年前だったと思うが、権三が、


余のお目付と、いや、まぁ~友となってくれたのじゃ。」


「では、父上は殿が、まだお若い時からなのですか。」


「源三郎が生まれる前の話で、殿様から当時の若のお目付を仰せつかり、其れから今まで殿のお傍


に居らせて頂いて要るのだ。」


 何と言う話だ、殿様とご家老様は野洲では一番長い付き合いで、その為か殿様とご家老様の話を


聴いて要ると、まるで兄弟が話をしている様だと思って要る。


「源三郎、余は奥にはのぉ~申し訳無く思っておるのじゃ。」


「何故で御座いますか。」


「源三郎も知っての通り、余には子供がおらぬ、奥は赤子の夢を見ると言うのじゃ、余はのぉ~、


この城では世継ぎがおらぬのじゃ。」


 殿様に子供が出来なかったと言う事は何処からか養子を貰うしかないのだ。


「だが、その時、権三に子供が生まれた、其れが源三郎なのじゃ、余は権三に頼んだ、源三郎を


養子に欲しいと。」


「えっ、では私を養子にですか。」


 源三郎は衝撃を受けた、今まで聞いた事が無かった話で有る。


「ですが、私も初めて聞きました。」


「じゃが、権三は絶対に駄目だと申してな、いずこかに連れ出したのじゃ。」


「うん、あれは源三郎が、まだ四歳の頃だったと思う、わしの父上と高橋道場の先先代とは幼馴染


で心良くお前を預かると申されて母上と一緒に高橋道場に行かせたのだ。」


「ですが、父上、私は母上からは何も伺っておりませぬ。」


「其れはなぁ~、母上も大変苦しかったと思うぞ、幼子を一度手放したと同じで、何も言えなかっ


たのだ、実はこのわしも高橋道場に預けられ剣の修行と高橋先生に世の中の事から始まり、色々な


事を教わったのだ。」


「ですが、大先生は何も申されませんでした、それどころか父も母も恨むで無いと、其れは、日に


数回は申されておられました。」


「源三郎、余を許せ、余は権三に何度も怒られたのじゃ、その様な事ばかり続けて要ると子には恵


まれないと。」


「えっ、父上が、何故その様な事を。」


 源三郎の幼き頃よりの話が次々と解明されて行く。


 雪乃は涙を堪え、其れは源三郎は幼き頃より測り知れぬ苦労をして要るのだと。


「実はのぉ~、余は権三の制止を振り切って馬に乗ったのじゃ、多分、馬は余が余りにも荒れた様


子なので暴れ、余は落馬し長い病床から起き上がる事が出来なかったのじゃ、まぁ~其れが原因か


知らぬが余には子種が無かったと言う事なのだ。」


 何と驚きの話で殿様には子種が無かったのだと。


「じゃが、其れから暫く何も出来ず十数年経って源三郎が戻って来たのじゃ、余は其れまでも権三


と話し合って源三郎を余の養子にと頼んのじゃ。」


 正か、源三郎は野洲の殿様ではと雪乃は話しを聴くのが恐ろしくなってきた。


「権三とお前の母と余の奥と、其れは何度か分からぬが野洲の為に引き受けてくれと。」


「ですが、私の氏名は。」


「そのままじゃ、幕府には正式に届けて有る。


 生野田源三郎が野洲の藩主だとな。」


「えっ、その様な大事な話は今初めてお聞きしましたが、では、殿は。」


「余か、表向きでは、余はもう、この世にはおらぬその写しも残して有る。


 のぉ~権三、お主が一番苦しかったと思うのじゃ、だがあの当時は仕方が無かったのじゃ、だが、


この話を知る者は、余と権三、余の奥と源三郎の母上だけなのじゃ。」


 其れでは、今の今まで源三郎は知らされていなかったと言う事になるのでは無いか、源三郎が実


は野洲の藩主だと今初めて聞かされたので有る。


「では、私は一体。」


 源三郎は混乱して要る、其れは当然の話でこの野洲では誰も知らない、殿様夫婦と父と母上の四


人だけの秘密で有る。


 源三郎よりも雪乃は頭が混乱し、今は何をどの様に考えて良いのかも分からないので有る。


「のぉ~源三郎、仮にじゃ今の幕府が官軍との戦に勝てばじゃ、幕府は存続し勿論野洲も残るの


じゃ、その時は源三郎が野洲の藩主として領民の為に尽くせ、若しも幕府が敗れる様な事になれば


じゃ、お主の好きな様に致せば良い、じゃがのぉ~源三郎が常に申しておる、全ては領民の為、こ


れだけは何としても成功させて欲しいのじゃ、余の言う事は其れだけなのじゃ。」


 幕府が存続するする、しないは別として、殿様から源三郎には領民の為に尽くせと申された。


 源三郎の心は少し和らいだ、だが余りにも衝撃的な話で浜に行ったしても果たして平常心で話し


が出来るのだろうか、だが、今の状況下で源三郎の置かれた立場では何時までも引きずる訳にも行


かず、その様な話しをして要ると浜が見えて来たので有る。


「お~これが、海なのか、のぉ~権三、何と素晴らしい風景なのじゃ。」「殿、私も数十年振りに海を見


ましたが、あの当時のままで何と美しい景色で私は若い頃を思い出


しました。」


「そうか、其れは良かったのぉ~。」


「殿、あの右側が漁村で左側と右側にも大きな洞窟が御座います。」


「うっ、何故じゃ、源三郎、浜に誰もおらぬぞ。」


「殿、漁師さん達は一日中浜にはおられません。


 朝は夜明け前から漁に向かわれ、少し休まれてからも色々と仕事が有るので御座います。」


 殿様は浜の漁師達の仕事は全く知らず、浜には何時も漁師達が居るものと思って要る。


「そうか、余は何も知らぬ、今日は色々と教えを頼むぞ。」


「あれ~あれは源三郎様だ、だけど何だか知らないお侍様も一緒に来られたぞ。」


「お~い、元太さんは。」


「何~んだ、やっぱりなぁ~源三郎様だ。」


「お~い、源三郎様~。」


 浜の漁師達が駆け寄って来た。


「あっ、お殿様だ、元太、大変だ早く来てくれよ~、大変なんだから。」


「どうしたんだ、何か有ったのか。」


 元太も走って来た。


「おっ、お殿様、えっ、何でお殿様が。」


「お~、元太殿か、久しいのぉ~。」


「お殿様、一体どうされたんですか。」


「元太さん、まぁ~ゆっくりとして下さいね。」


 源三郎は浜の漁師達と元太の顔を見て少し落ち着いたのか。


「源三郎様、あのお方は。」


「あ~、私の父ですよ。」


「えっ、ご家老様で。」


「元太さん、何時も源三郎が無理を申して皆に迷惑を掛けており誠に申し訳無い。」


 ご家老様は漁師達に頭を下げた。


「ご家老様、頭を上げて下さいませ、オラ達は源三郎様のお陰で、今は楽しくやってますので、


本当に源三郎様は。」


「そうですか、ですが、これからも皆さん方で源三郎を助けて下さいね。」


「オラ達が源三郎様をお助けするなんて、そんな事よりオラ達の方が何時も源三郎様に助けて貰っ


てますので。」


 浜の漁師達は驚いて要る、其れは、殿様もご家老様も何時もと変わらぬ態度で接してくれるから


なのだ。


「あの~源三郎様、後ろのお若いお侍様は。」


「元太さん、その様な事を雪乃殿が聴かれますと怒られますよ。」


「えっ、奥方様で、あ~やっぱりだ、よ~く見ると雪乃様だ、雪乃様、お久し振りで御座います


ねぇ~。」


「元太さん、皆様方、何時も源三郎様をお助け頂き私は感謝致しております。」


 雪乃も深々と頭を下げた。


「う~ん、やっぱり綺麗な人は何を着てもよ~く似合うなぁ~。」


「お前にそんな事が分かるのか。」


「元太、雪乃様は何をされても、何を着られてもお綺麗なんだぜ、元太こそ本当に分かってるの


か。」


「まぁ~なっ、オラは何度も雪乃様にお会いしてるんだからなぁ~。」


「じゃ~、何でさっきは直ぐに分からなかったんだ。」


「う~ん、其れは、う~ん。」


「まぁ~まぁ~、元太さんも、其れに皆さんも私の事は別にして下さいね、其れよりも、殿様は


ねぇ~今日初めて海を見られたのですよ。」


「えっ、正か、お殿様本当なんで御座いますか。」


「元太、誠じゃ、今はのぉ~あの恐ろしい源三郎と雪乃が余を何処にも行かせてくれぬじゃ、誠恐


ろしい二人なのじゃぞ。」


「お殿様って本当は可哀想なんだなぁ~、源三郎様は何処にでも行けるんでしょう。」


「はい、勿論ですよ、私は鳥と同じでしてね自由に何処でも行けますよ。」


「じゃ~、お殿様は何処にも行けないんですか。」


「元太さん、殿様と言うのはねぇ~、城中の人達と領民の為には、其れはもう大変なご苦労をされ


るお仕事なのですよ。」


「其れじゃ~、源三郎様は絶対にお殿様には無理だねぇ~。」


「ありがとう、私もねぇ~、殿様よりも何時でも何処にでも行ける今の方が良いですよ、だって、


殿様になったらこの浜にも来れなくなりそうなのでねぇ~。」


「源三郎様、そんな事に成ったらオラ達も困りますよ、オラ達も源三郎様が来られるのを待ってる


んですからねぇ~。」


 殿様は改めて、源三郎が漁民の中にまで信頼を得て要ると思ったので有る。


「元太さん、今日はねぇ~殿様に潜水船を見て頂きたいと思いましてね。」


「源三郎様、じゃ~オラ達が行きますので、そうだ、誰かげんたさんを呼んでほしいんだ。」


「よ~し、オラが行ってくるよ。」


 げんたは作業場で考え事をして要る。


「お~い、げんたさんは、居るかねぇ~。」


「あ~、作業場におりますよ。」


「何だ。」


 げんたは直ぐに出て来た。


「源三郎様が、あっ、そうだ、お殿様とご家老様に雪乃様も一緒に来られてるんだよ。」


「えっ、ねぇ~ちゃんも一緒なのか。」


 げんたは殿様やご家老様よりも雪乃に会いたかったのだろうか。


「お~い、あんちゃん、ねぇ~ちゃ~ん。」


「げんた、洞窟に行きますよ。」


 げんたは何時もの様に元気で走って来た。


「なぁ~あんちゃん、何で殿様にご家老様が一緒なんだ。」


「げんた、済まぬ、余が無理に申したのじゃ、其れにじゃ余は海を見るのも初めてなのじゃ。」


「えっ、本当なのか。」


「誠じゃ、海とは何と美しい事よのぉ~。」


「あんちゃん、あれから鍛冶屋さんに頼んで、今作って貰ってるんだぜ。」


「其れは、水車方式と言った様に思いますが。」


「うん、其れが出来て試してよかったら、次に、あっ、これはまだなんだ。」


「元太、舟の用意が出来たぞ~。」


「よ~し、分かった、源三郎様。」


「分かりました、では、殿と父上は元太さんの舟に、私と雪乃殿とげんたは別の舟に乗りますので


ね。」


「お殿様、気を付けて下さいね。」


「元太、済まぬのぉ~。」


「じゃ~、ご家老様も、どうぞ。」


「うん、ありがとう。」


「舟に乗ったら座って下さいね、では、行きますので。」


 殿様とご家老様、源三郎と雪乃、そして、げんたも乗った小舟はゆっくりと浜を離れ岩場を抜け


洞窟の入り口へと、今度は最初の時の様に頭を下げる事も無く洞窟へと入って行く。


 小舟に灯りが灯されゆっくりと進み一番奥へと着いた。


「元太、洞窟の中は思ったよりも明るいのぉ~。」


「はい、かがり火を多くして有りますので、さぁ~着きました。


 お殿様、危ないですから、ゆっくりと上がって下さい。」


 源三郎達が上がると銀次達がやってきた。


「源三郎様。」


「銀次さん、お元気そうで、皆さんも。」


「源三郎様、オレ達はみんな元気ですよ、今は毎日が楽しくさせて貰ってますので。」


「そうですか、其れは、良かったです。」


「あの~、源三郎様。」


「銀次さん、殿とご家老と雪乃殿ですよ。」


「あ~やっぱりでしたか、一度何処かでと思ったんですが、正か奥方様が若侍のお姿とは気付きま


せんでしたので済みません。」


「銀次さん、其れに、皆様方、何時も源三郎様のご無理を聴いて頂き誠に有難う御座います。」


 此処でも雪乃は銀次達に頭を下げると。


「奥方様、そんな事は有りませんよ、オレ達は源三郎様を命の恩人だと思ってますから、ですから


オレ達は源三郎様の為だったら何でもしますよ。」


「でも、ご無理だけはされない様にお願いしますね。」


「何てお優しいんですか、オレ達は今までそんなお優しい言葉なんか源三郎様以外に言われた事が


無いんですよ、奥方様、本当に有難う御座います。」


「銀次さん、ところで今は。」


「はい、今は相当奥まで進んでおりますが、何処までかちょっと分からないんです。


 其れに、オレ達は大工さん達が作ってくれた補強材を使いながら進んでいますから、何でしたら、


源三郎様も一番奥まで行かれますか。」


「はい、勿論ですよ、行かせて頂きますので。」


「源三郎、余も参るぞ。」


「殿は残って下さいませ。」


「何故じゃ、銀次殿達が掘った洞窟じゃ、余は何も心配しておらぬは、のぉ~、銀次殿。」


「ですが。」


「源三郎、銀次殿達が危険を犯してまで掘ったのじゃ、補強もされておる、余は銀次達を信頼して


おるのじゃ、さぁ~参るぞ。」


 銀次達は唖然として要るが、殿様とご家老様は、どんどんと奥へと進んで行く。


「源三郎様、殿様は何か楽し気な顔をされておられますねぇ~。」


「はい、その様で私も殿が一番喜ばれておられると思います。


 あの話が終わり、何故か開放された様なお顔で私も一安心しましたよ。」


「では、私も参りますので。」


「えっ、雪乃殿も行かれるのですか。」


「勿論で御座います。」


 雪乃は源三郎を置いてさっさと奥へ向かって行く。


「なぁ~あんちゃん、今日の殿様って何か変だぜ。」


 やはりだ、げんたも気付いたのか、だが他の者は少し緊張した様子で有る。


「ほぉ~これは凄いぞ、一体何処まで続いておるのじゃ。」


「はい、残り二町程でお城に着きます。」


「何じゃと、もう、其処まで掘ったのか。」


「殿、銀次さん達のお陰で御座います。」


「のぉ~銀次、大変じゃがこれからの方が危険と思うのじゃ、余り無理をせずに致せよ。」


「お殿様までがオレ達の事を心配して下さってるって。」


「源三郎、余は今思ったのじゃ、この洞窟と申すのか隧道と申すのか城まで通じたならば、銀次達


も大工達も、其れに元太達漁師達全員の労を労は無ければならぬのぉ~。」


「殿、有り難きお言葉、私も考えておりましたので。」


「うん、では頼むぞ、では戻るか。」


「はい、殿、げんたの潜水船で御座いますが、今改良の最中で岸壁に上がております。」


「何処に置いて有るのじゃ、余は見なかったぞ。」


 殿様は見なかったと、だが、潜水船は入り口付近に有る為、殿様が見逃したので有る。


「殿、あれで御座います。」


「お~、これがげんたが考え造ったと言う潜水船なのか。」


「あんちゃん、今中に入ってもふいごが無いから海には入れないんだ。」


「いや、余はこれで十分じゃ、で少し聴いても良いか。」


「うん、何でも聴いていいよ。」


「この潜水船じゃが、どの様にして海の中に潜るのじゃ。」


「オレが簡単に言うけれど、オレの話は少し難しいんだ、殿様に分かるかなぁ~。」


「う~ん、其れは何とも言えぬ、じゃが聴かなければ何時までも知らぬままになる、じゃがのぉ~、


余は何としても理解せねばならぬのじゃ。」


「うん、じゃ~説明するよ。」


 げんたはゆっくりと説明を始めた。


 其れは、殿様だけでなくご家老様にも雪乃にも分かる様に話し、殿様もご家老様も何度も頷き、


何度も首を傾げ、其れでも少しは分かって来たのだろう、げんたの説明が終わった。


「今の話しでも分からないと思うんだけど、今、オレの頭の中には次の潜水船を考えてる最中なん


だ。」


「えっ、何故じゃ、何故に次の潜水船まで考える事が出来るのじゃ。」


「殿様、オレの頭はねぇ~、まぁ~次から次へと浮かんで来るんだ、其れに、この潜水船はオレの


頭の中では完成してるんだ。


 其れと付属の機械を改良する事になったんだ、だから、この船はオレの中では試しに造っただけ


なんだ。」


 げんたはイ零壱号船を試しに造ったと言う、だが、殿様は試しの意味が理解出来ないのか、理解


よりも、何故現物の潜水船を完成させないのだと思って要る。


「余は理解出来ぬぞ、げんたの言う頭の中では完成して要ると言う意味が。」


「殿様、オレの説明が悪かったんだ、だけど、今の潜水船の船体は完成し悪いところも無かったん


だ、あんちゃん、オレは城下で小間物屋で作ってる時でもそうだったんだけど、次々と改良する事


は小間物でもこの潜水船でも一緒なんだ、分かるか。」


「殿、げんたの言う意味ですが、潜水すると言う事は船体は考えた通りの物が出来れば水漏れが無


いと言うのが一番大切なので御座います。


 若しもですが、海の中に潜った、ですが、その時に水漏れ事故が有れば中に乗って居る人は水死


するので御座います。


 げんたが完成して要ると言うのは、一番大事な船体部分に不良が無いと言う事だと思います。」


「ふ~んなるほど、げんた、済まぬ、余は全てが出来て初めて完成だと思ったのじゃ。」


「殿様、オレはこの潜水船が試しだと言ったのは、元太あんちゃんが鈴木のあんちゃん、其れに、


上田のあんちゃんが初めて海の中に潜って分かったんだ、オレだって殿様の言う事は分かってるん


だ、だけど、あんちゃんが名付けたイ零壱号船はオレに取っては試しで次からの潜水船が本物にな


るって事んだ、殿様分かって欲しいんだ。」


 げんたは殿様を説教して要る様にも聞こえるが、殿様も次第に分かってきたのだろうか。


「うん、よ~く分かったぞ、げんたの言う意味が少しづつ分かってきたぞ、最初から完成品は出来


ない、だが一番大事なところは見事に完成し、残る機械に関しては実際に潜らなければ良いのか、


改良しなければならないのが分からないと、そうで有ろう、のぉ~げんた。」


「殿様、その通りなんだ、やっぱりお殿様だぜ、オレの言った事を理解してくれたよ、なぁ~あん


ちゃん。」


 源三郎はニコッとして頷き。


「げんた、じゃが決して無理はするなよ。」


「うん、分かってるよ、だけど、あんちゃん、オレはねぇ~、今鍛冶屋さんにに作って貰ってる物


が出来て船に取り付けてから、もう一回試して欲しいんだ。」


「げんた、では今度は私が乗りますよ。」


「えっ、何であんちゃんが乗るんだ。」


「私では、駄目ですかねぇ~。」


「そんなのって、当たり前に決まってるよ。」


「げんた、余では駄目かのぉ~。」


「殿様が、そんなのもっと駄目だよ、だって最初から覚えるんだぜ、あんちゃん、オレはなぁ~、


元太あんちゃんと。」


「げんた、分かりましたよ、鈴木様と上田様ですね。」


「さすが、オレのあんちゃんだ、オレはあの人達に乗って貰わないと、いいのか、悪いのかが分か


らないんだ。」


「分かりましたよ、私から伝えて置きますからね。」


「さすが、オレのあんちゃんだ、うん、頼むよ、だけど鍛冶屋さんも大変なんだぜ、オレは言うだ


けなんだけど、作るのは鍛冶屋さん何だからなぁ~。」


「では、全ては鍛冶屋さん次第だと言う事になるのですね。」


「うん、そうなんだ、オレも今度だけは我慢してるんだ。」


「分かりましたよ、まぁ~のんびりと作る様にして下さいね。」


「うん、オレも分かってるよ。」


 源三郎は弐号船を早く完成させて欲しい、だがげんたの話を聴くと今までに無かった物を作って


要るのだと、其れが完成しなければ潜水船は完成出来ないのだと言うので有る。


「其れで聴きたいのですが、さっき言った次の船と言うのはどの様な船になるのですか。」


「う~ん、其れなんだけど、オレの頭の中ではまぁ~少し大きくなって五十尺の船を考えて要るん


だけど。」


「えっ、今何と申したのじゃ、余の聞き違いか、余は五十尺と聞こえたのじゃが。」


「うん、そうだよ、まぁ~今の三倍にはなると思うんだ。」


「なぁ~げんた、本当に大丈夫なのか、そんなに大きな潜水船を造って。」


「まぁ~なぁ~、オレが考えたんだから、別にど~って事は無いよ。」


「余は何故にその様な大きな潜水船が造れるのかが分からぬぞ。」


 殿様は五十尺もの巨大な潜水船が造れるはずが無いと思って要るのだが。


「あんちゃんも殿様も何も分かって無いんだなぁ~、じゃ~あんちゃん聴くけど、オレと母ちゃん


が住んでた前の家を知ってるよなぁ~。」「はい、勿論ですよ。」


「じゃ~、中川屋さんや伊勢屋さん、其れに大川屋さんの家はどうなんだ、オレの家の三倍以上も


有るんだぜ、なぁ~あんちゃん、家が出来て何で船だったら出来ないと思うんだ。」


「ですがねぇ~げんた、家は全部土の上ですよ、でも潜水船は海の中ですよ。」


「だから、あんちゃんは何も分かって無いんだ、オレがさっき言ったと思うけど船体は出来たんだ、


其れが一番大事なんだぜ、この潜水船だって見えないところに補強材が入ってるんだ。


 船は小さいけれど、強さは、う~ん、そうだなぁ~中川屋さんの家と同じくらいも有るんだぜ、


だけど、今度の潜水船はそうはいかないんだ、オレは大工さん達に相談するけど、あんちゃんの家、


いや、お城くらいの強い船になると思うんだ。」


「では、今度の潜水船は船体の大きさは中川屋さんの家で、強さはお城くらいになると言うのです


か。」


「うん、そうだよ、大工さん達も分かってくれてるんだ、だけど、イ壱号船の水車型と歯車の組み


合わせが出来たら、まぁ~其れだけじゃ無いんだ、次の潜水船は違うところがいっぱい有るんだ


ぜ。」


「げんた、鈴木様達が此処は改良が必要だと言われたところですか。」


「うん、其れも有るし、まぁ~他にもまだ有るからねぇ~。」


「源三郎、げんたは天才じゃ、余は尊敬するぞ。」


「殿、私の独断でげんたを技師長にさせたいのです。」


「うん、そうか、其れは良い事じゃ、ではこれからは技師長と呼ぶぞ、其れで良いか。」


「あんちゃん、殿様、有難う、オレ最高に嬉しいよ、其れでねぇ~ちゃんに頼みが有るんだけれど


いいかなぁ~。」


「私にですか、其れで、げんたさん、私は何をすれば宜しいのですか。」


「うん、ねぇ~ちゃん、オレの母ちゃんやこの浜の母ちゃん達が砂袋を作ってくれたんだ。」


「えっ、砂袋をですか。」


「うん、そうなんだ、潜水船に乗る人達と船を潜らせる時の為に砂袋が要るんだ。」


「分かりましたけど、其れで何枚くらいが要るのですか。」


「ねぇ~ちゃん、オレにそんな事分かると思うのか、人の重さは全部違うんだぜ、この船の此処に


線を引いたと思うんだ、潜水船に人が乗っても潜る前には此処までは海の中に沈めるんだから。」


「えっ、正か、こんなところまで沈めるのですか、でも何故ですか、若しも沈む事にでも。」


 雪乃は下手をすれば潜水船は沈むと思って要る。


「ねぇ~ちゃん、沈めるんじゃ無いんだぜ、潜水船は海の中に潜るんだからなぁ~、その為にはど


うしても砂袋が要るんだ、そんなの人間だけの重さだけじゃ無理なんだぜ。」


 げんたは雪乃に砂袋を作って欲しいと、だが、雪乃は簡単に考えており、数枚か多くても十数枚


程だと、其れが大間違いで有る。


「げんたさん、じゃ~数枚作ればいいのね。」


「ねぇ~ちゃん、そんなのじゃとても足りないよ、百枚か、いや二百枚は要るんだぜ。」


「えっ、そんなに要るの。」


「だって、この船に三人が乗っても少ししか沈まなかったんだ、其れで、あの時には、え~っと、


何個だったかなぁ~、まぁ~最終的には二十個以上は入れたと思うんだけど、そんな事オレは忘れ


たよ。」


「其れで、げんたさん、大きさなんだけど。」


「其れだったら、母ちゃん達が知ってるよ。」


「其れならば、大丈夫よね。」


「ねぇ~ちゃん、其れが大間違いなんだ、ねぇ~ちゃんは簡単に考えてるけど砂袋って簡単に考え


てると大変だぜ。」


「でも、布袋を作るだけでしょう。」


「ねぇ~ちゃん、砂は浜の砂を使うけど細かいんだ、其れに砂を入れた時に砂袋が硬くても、柔ら


か過ぎても駄目なんだ。」


「ねぇ~、げんたさん、何故なの。」


「ねぇ~ちゃん、まぁ~その前にオレと船の中に入ろうか。」


「いいわよ。」


「では、私も一緒に。」


「え~、あんちゃんも来るのか。」


「げんた、私は中がどの様になって要るのかも知りませんのでねぇ~。」


「そうかまぁ~仕方無いか。」


 げんたは源三郎と雪乃と一緒に潜水船の中に入り。


「ねぇ~ちゃん、砂袋が何処に有るのか分かるか、あんちゃんも見てよ。」


「そうねぇ~、この下に有るの。」


「じゃ~、板を外すからね。」


 げんたが床板を一枚外すと、その下は砂袋がびっしりと敷き詰めまれて要る。


「わぁ~物凄い。」


 雪乃が驚くのも無理は無く、雪乃が想像した以上に砂袋が敷き詰められて有る。


「ねぇ~ちゃん、分かったか。」


「げんたさん、分かったはよ砂袋を隙間無く敷き詰めるのね。」


「うん、そうなんだ、これが石だと隙間が出来るんだ。」


「まぁ~、なんと素晴らしいわねぇ~、じゃ~この砂袋をお母さん達が作ってくれたのね。」


「うん、オレがさっき言ったと思うけど、砂を入れた袋の硬さが丁度いいんだ。」


「じゃ~、げんたさんのお母さんによ~く聴いて、私がお城の女性達に頼みますから。」


「雪乃殿、砂袋ですが、細かく縫い合わせて有りますねぇ~。」


「はい、袋ですが、三重に縫われておりますので縫い合わせも大変ですが、でも、浜のお母さん達


ですが、最初は相当苦労されたと袋を見れば分かりますので。」


「ねぇ~ちゃん、今度の潜水船は五十尺なんだ、まぁ~この船の三倍は有るからなぁ~、砂袋も三


倍以上は要るんだ。」


「げんたさん、分かったわ、其れで何時まで作ればいいの。」


 雪乃はさりげなく弐号船の完成時期を聴いたが。


「ねぇ~ちゃん、そんな事は分からないよ。」


「雪乃殿、何も急ぐ事は無いと思いますよ、城内の古切れを大量に集めて頂き、其れからでも宜し


いと思いますので。」


「はい、では、其れも私が手配しますので。」


 三人は外に出た。


「なぁ~、げんた、ところで弐号船ですが何処で造るのですか。」


「うん、其れなんだ、あんちゃん、今度の船は大きいし重たいんだ、こんな小さな船でも大変だっ


たんだからなぁ~。」


「げんた、オレ達が考えた方法なんだけど。」


 やはり大工さん達だ新しい方法を考えて要る。


「どんな方法なの。」


「わしはこの岸壁の広さを利用して専用の台を作ろうと思ったんだ。」


「専用の台って。」


「そうなんだ、此処になっ。」


 大工の親方はげんたに詳しく説明した。


「へぇ~、だったら出来た船は滑って海に。」


「うん、其れで新しい木材で作るけどなぁ~、専用の台は頑丈に作るから少し掛かるんだ、其れで


もいいのか。」


「うん、いいよ、ありがとう。」


 傍で二人の会話を聞いて要る、殿様もご家老様も一体何を話しているのか全く分からないと言う


表情をして要る。


「其れで銀次さん、原木が要りますので、何人か。」


「親方、何人でもいいですよ。」


「助かりますよ、今度は原木を選びますのでね。」


「うん、分かりましたよ。」


「のぉ~権三、この現場では皆が協力し、源三郎よりもげんたの考えた通りに動いて要ると思うの


じゃがのぉ~。」


「はい、私も全く同感でして、皆が次に何をなすべきか、其れを考えて要るので話しも早いと言う


事ですねぇ~。」


「うん、誠に素晴らしいのぉ~、源三郎が何も言わずとも皆が知って要ると言う事じゃ。」


「はい、誠で御座いますなぁ~。」


「じゃが、よくも此処まで持って来たと思うぞ、源三郎は。」


「はい、私も感心しております、殿、野洲では私のお役目は無くなりましたなぁ~。」


「権三、何を申すか、其れは余の事じゃ、この浜では、まぁ~余もご家老様も何の役にも立たぬと


言う事じゃのぉ~、源三郎。」


「はい、私は嬉しいのか寂しいのかどちらとも申せませぬ。」


「うん、余も同感じゃ、のぉ~権三、余はこれからは出来るだけ何も申さぬぞ、その方が皆の為な


のじゃ、うん、余はもう口出しはせぬ。」


 殿様とご家老様は小声で話して要るが、傍の源三郎も雪乃も聞いて要る。


「お~い、みんな浜に来てくれ~。」


 別の小舟で入って来た漁師が叫んで要る。


「何か、有ったのか。」


「いや、今母ちゃん達が雑炊を作ってるんだ。」


「わぁ~、久し振りだなぁ~、みんな行くぞ~。」


 銀次の声が掛かると。


「お~。」


 洞窟内では大勢の男達が雄叫びを上げ。


「さぁ~、殿様もご家老様も浜で雑炊を食べましょうか。」


「元太さん、私も久し振りですよ。」


「源三郎、余は初めてじゃが、何と申した、その雑炊とは。」


「お殿様、此処の母ちゃん達が作る雑炊は其れはもう最高に美味しいですよ。」


 銀次も久し振りでごくんと喉を鳴らして要る。


「では、参ろうか。」


 洞窟からは次々と小舟が出、浜へと向かって行く。


 浜のお母さん達は其れはもう大忙しで、大きな鍋からは美味しそうな匂いが漂い、辺り一面が湯


気に包まれ、浜の子供達はもう大騒ぎで浜を走り回って要る。

 

 暫くして殿様達を乗せた小舟が浜に着いた。


「さぁ~、さぁ~、ほれ、みんな座ってよ。」


 浜のお母さん達はお椀に雑炊を入れ。


「さぁ~お殿様、熱いですからね、気を付けて下さいね、はい、ご家老様も。」


 げんたの母親もだが、浜の女性達はニコニコとして要る。


「はい、源三郎様もげんたも手伝ってよ。」


「はいよ。」


「はい、ねぇ~ちゃん。」


「う~ん、何て美味しそうな匂いなの、私も初めてなのよ。」


「奥方様、熱いですからね、気を付けて下さいね。」


「あっ、あつ~。」


「だから、言ったでしょう、お殿様、舌が火傷するからね。」


「申し訳ない、じゃが、これは何と言う美味なのじゃ、余も初めてじゃが、う~ん。」


 お城では殿様に、其れも湯気が出て要る熱々の雑炊が出る事は無い。


「のぉ~権三、城でも時々は食べたいのぉ~。」


「う~ん、ですが多分無理で御座いましょうなぁ~。」


「雪乃は。」


「殿、私もこの様に美味しい食べ物が有るとは知りませんでした。」


「ねぇ~ちゃん、オレはこの雑炊が、其れも浜の母ちゃん達が作った雑炊が一番美味しいし大好き


なんだ。」


「源三郎様、私もお母さん達に作り方を教えて頂きます。」


「そうですねぇ~、私も時々は頂きたいのでお願いします。」


 殿様もご家老様も初めての雑炊を実に美味しそうに食べて要る。


「お殿様。」


「お~、元太殿、今日は申し訳無かったのぉ~。」


「いいえ、オラ達は嬉しいんですよ、正か、こんなところにお殿様やご家老様が来られるとは思っ


ても無かったんで。」


「実はのぉ~、源三郎が浜には行くなと申すのじゃ。」


「えっ、源三郎様がですか。」


「そうなのじゃ、余はあの城を出る事などは無理なのじゃ。」


「オラ達はお殿様が一番偉いから何処に行くのも自由だと思ってましたが。」


「元太殿、其れが大間違いじゃ、特に我が城では源三郎が恐ろしいのじゃ。」


 源三郎は傍でニコニコとして要る。


「じゃ~、源三郎様って、お城で一番の。」


「いいや、まだおるぞ、雪乃じゃ、雪乃はのぉ~源三郎以上に恐ろしいのじゃぞ。」


 お殿様は何時に無く嬉しそうな顔をしている。


「殿、何と仰せらます、その様な事を申されましては私は困ります。」


「雪乃、済まぬのぉ~、許してくれよ、冗談じゃ。」


 殿様の冗談話を元太も浜の漁師達は本当だと思って要る。


「じゃ~、源三郎様も奥方様が恐ろしいんですか。」


「元太さん、私はその様な女では御座いませぬので。」


「元太さん、殿様の冗談ですよ、本気にしてはなりませんよ。」


「えっ、今の話しって全部冗談なんですか、なぁ~んだ本気だと思ったのに。」


 殿様もご家老様も笑って要るが浜の漁師達は殿様の冗談に呆れて要る。


「元太殿、済まぬ、許せよ、許せ、余計な事を申して、全て余の冗談じゃからのぉ~。」


「もう~、お殿様、オラ達は本当だと思いましたよ。」


 浜の漁師達もお母さん達も大笑いをし、まぁ~其れにしても何と賑やかな食事風景なのだ。 


 殿様もご家老様も上機嫌で、殿様は旨い、旨いを連発しお代わりをして要る。


「のぉ~権三、余は大満足じゃ、この様な美味しいのは生まれて初めてじゃからのぉ~。」


「お殿様、其れで今日は特別に。」


「うん、何じゃ、その特別とは。」


「お殿様、あれですよ。」


「あれとは、一体何じゃ。」


「お殿様の大好きな、片。」


「お~、あれか、元太殿、良いのか。」


 お殿様の顔付きが一瞬で変わった、一体何が。


「今日は特別ですから、其れに大量に獲れましたので。」


「う~ん、そうか、元太殿、済まぬのぉ~、余は帰ったら直ぐに、そうで有ろう元太殿。」


「オラは其処までは知らないです、じゃ~後でお持ちしますので。」


「殿、元太殿は、何を。」


「権三も食すか。」


「はい、勿論で御座いますよ。」


 ご家老様も嬉しそうな顔付になった。


「源三郎様、元太さんは一体何を殿に。」


「殿、よろしゅう御座いましたなぁ~。」


「雪乃、これは美味じゃぞ。」


 もう殿様の顔は子供の様にニコニコとして要る。


「私は全く何を話されて要るのか分かりませぬが。」


「うん、そうじゃろう、うん、うん、源三郎、じゃが今日余は浜に来て良かったぞ、これ程にも皆


が協力し同じ目標に向かっておる事が分かったのだからのぉ~、うん、余は大満足じゃ。」


「ですが、殿はまた来たいのでは御座いませぬか。」


「う~ん、余は毎日でも来たいが、余が来ると皆に迷惑が掛かると、う~ん、じゃが時々ならばよ


いで有ろう、のぉ~源三郎。」


 実は、これは源三郎の作戦で、以前、殿様は源三郎と雪乃の祝宴をお城で大宴会をし、漁民や農


民達が大勢集まり、その時、殿様と顔を合わせて要る者も多く、其れに源三郎と雪乃の祝宴では城


下の殆どの人達がお城に着ており、殿様は今大満足で有る。


「殿、そろそろ戻りませんと、今頃はお城では大騒ぎになっておりまするぞ。」


「う~ん仕方無いか、権三また来るぞ、元太殿、銀次殿、親方殿も宜しく頼むぞ。」


「はい、オラ達に任せて下さい、ありがとう御座いました。」


「技師長も、宜しく頼みましたぞ。」


「うん、任せてくれよ、まぁ~オレ様が最高の潜水船を造って、殿様を乗せてやるよ。」


「うん、そうか、有り難いのぉ~、では、参るとするか。」


 お殿様とご家老様、其れに源三郎と雪乃は浜の人達に手を振りお城へと戻って行く。


 だが、源三郎は何かを考えて要る。



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