第 23 話。 遂に完成か、げんたの潜水船。
源三郎達が浜へと向かうが、まぁ~げんたが居るお陰かとでも言うのか、其れはもう何時もより
ワイワイガヤガヤと騒がしく、井坂は薩摩とは何から何までが違うと戸惑いを隠せないので有る。
あの薩摩も現実ならば、今の野洲も現実なのだ、自分が生き残れるのは、果たしてどちらなのか其れが
分からない。
其れに、今頃は仲間が探して要るだろうし、若しも脱走したとなれば、一体、どの様な罪になるのだろ
うか、若し脱走兵だと決まれば処分は銃殺刑だけは間違い無いと考えて要る。
「だが、おいドンは脱走したのでは無い。
幕府軍の攻撃を受け、山に逃げ込み、道に迷い、辿り着いたところが山賀と言う今まで聴いた事の無い
国だ。
仲間三人と司令部に戻る途中、源三郎と言われる武士に会い、いや、待ち伏せされたと言うのが事実な
のだ。
二人の仲間が切り掛かったが、源三郎と言われる武士の一撃で大怪我をして、二人は放置狼の餌食とな
った。
其れに、今更どのな顔をして帰る事が出来る、隊長の事だ例え真実を話しても信用せず結果は同じで、
其れに司令部の連中の考え方には何か別の目的が有る様にも聞こえる。
其れよりも、山賀でもだが源三郎と言われる武士が理解出来ない。
何れの日が来れば敵になるとも知れない男を簡単に受け入れ、其れに、今、又、海の中に潜れる船が完
成したので一緒に見に行くと、其れにしても全く理解不能な人達の集まりだ。」
と、井坂は心の中で呟くので有る。
「井坂様、如何なされましたか。」
「えっ、はい、少し考え事をしておりました。」
「井坂様が不安を抱かれて居られるのも十分承知致しておりますよ、自分は脱走したのではない。
幕府軍と遭遇し、山に入り道に迷ったのだと。」
「はい、ですが薩摩でも聴かされとります、軍隊を脱走した兵士が捕まれば問答無用で銃殺刑になるんだ
と。」
「ですが、井坂様は脱走されたのでは無いのですから。」
「源三郎様、其れは表向きの話で司令部の奴らには通用はしませんよ。」
「何故ですか、井坂様には正当な理由が有るのですよ、司令部も上官も話を聞いて頂けると思いますがね
ぇ~。」
「源三郎様、其れは総司令部の、いゃ~おいドンの様な兵士の話しを本気で信用する様な司令部の上官達
では無いですよ、其れに部隊の見せしめじゃと言って、今まで何人も銃殺刑にさせられたと聴いておりま
す。
源三郎様の様に話しの分る様な上官達では無いのです。
今まで何人もの仲間が見せしめだと言って我々みんなの前で銃殺されたんですよ。」
「う~ん、其れは余りにも惨い、許せませんねぇ~」
「おいドンがどんなに正直に話しても、まぁ~誰も信じませんよ。」
井坂は本気で悩んでいる、官軍に発見されれば確実に脱走兵だと決めつけ直ぐ銃殺刑で殺される。
「だからと言って此処に残りたいと正直なところの結論も出せんとです。」
「まぁ~結論は何時でも出す事は出来ますよ、余り深刻にならずに野洲で過ごして下さいね。」
「あんちゃん、もう海が見える頃だから、オレみんなに知らせてくるよ。」
げんたは、突然走って行った。
「お~い、あんちゃんが来たぞ~。」
「えっ、源三郎様が来られたって、誰か洞窟にも知らせてくれよ。」
「よ~し、オラが行くよ。」
「母ちゃん、大変だ~、あんちゃんが。」
「えっ、源三郎様がどうかしたの。」
「違うよ、あんちゃんが来たんだ、なぁ~母ちゃん何を慌ててるんだ。」
「だって、げんたが大変だって言うからよ。」
「まぁ~何時もの事だからなぁ~。」
「いいよ、で、源三郎様は。」
「うん、もう浜に着くと思うよ。」
「何で其れを早く言わないのよ~。」
「母ちゃん。」
「えっ、そうだ、早く行かないと。」
何ともまぁ~、だが、其れはげんたの母親だけでは無い、浜の女達は源三郎が来ると言うだけでそわそ
わとしている。
「あんた、私も行くよ。」
「ああ、オラも直ぐに行くよ。」
やはり、其れは女達だけでは無く、浜の誰もが同じなのだ。
「源三郎様、お久し振りです。」
「やぁ~、元太さん、お久し振りですねぇ~、其れに皆さんも。」
「お~い、源三郎様が来られた~ぞ~。」
「えっ、源三郎様が来られたって。」
洞窟内でも同じだ、やはり、源三郎が浜に来たと伝わると、もう一瞬の内に浜の人達が集まり大歓声を
上げ、まるでお祭り騒ぎで有る。
井坂も少しは慣れた、源三郎が行くところは何処でも大勢の人達で溢れ返る。
其れは他の国では侍と言うのは威厳を持ったと、いや何処の国でも武士と言うのは偉そうな顔をし、農
民や町民を馬鹿にした様な態度で要る。
だが、野洲の武士は全てと言っても良い程その様な態度も言葉使いもしない、それどころか反対に漁民
や町民の方が偉そうな顔をしている様に見え、だからと言って武士に対しても余り馴れ馴れしい態度はし
ないが、源三郎に対してだけは全く違う、言葉使いは丁寧だ、それに源三郎はまるで身内の様な態度で、
源三郎も他の武士も其れに対し何も言わないと、今の井坂にとっては全く理解不能なのだ。
「ねぇ~源三郎様、一体、何処の女と会ってたのよ~。」
げんたの母親だ。
「いゃ~申し訳有りませんねぇ~、私も色々と大切なお役目が有りましてね。」
「本当なの、正か。」
「母ちゃん、あんちゃんはなぁ~。」
「そんな事、分かってるわよ、まぁ~、冗談よ、冗談なんだからね。」
浜の漁師達も何時もの冗談だと分かっており、源三郎も分かって要るが、井坂はと言うと本当だと思い
何も言えず、其れなのに浜の人達も源三郎も大笑いしている。
「源三郎様。」
「銀次さんお久し振りですねぇ~、親方もご苦労様です。」
「源三郎様、げんたさんは、いゃ~もう大天才ですよ。」
「えっ、大天才って、一体どう言う事ですか。」
「げんたさんが洞窟で船を造り始めたんでね、オレ達が補強材の組み立てをやってたんです。
其れで、げんたさんはそんな簡単なやり方だったら落盤が起これば補強したところが全部潰れるって言う
うんですよ。」
「ほ~補強したところが潰れると、其れは何故なのです、で、大工さん達は何て。」
「はい、でもオレ達も最初は大工さんの言われた通りやってたんです。
ですが、何時の間にか少しづつ楽な方法で済ませてたんです。」
「まぁ~、其れは仕方が有りませんよ、誰でも同じですからねぇ~。」
「源三郎様、ですがね、げんたさんはそんな方法だったら補強した意味が無いって、で。」
「なぁ~あんちゃん、補強って言うのは落盤した時に中の人を怪我から防ぐ為なんだろう。」
「勿論ですよ、その為の補強ですからねぇ~。」
「オレはね、1本じゃ~駄目だって言ったんだよ。」
「えっ、1本って。」
「源三郎様、オレ達は洞窟を早く掘りたかったんで添え木を1本にしたんです。
すると、げんたさんが1本だとグラつくから簡単に壊れて中の人が死ぬって。」
「其れは大変ですよ、銀次さん、添え木もですが補強を手抜きすると落盤が起きなくても補強した全部が
壊れ中の全員が死亡しますよ。」
「はい、オレ達もげんたさんに同じ事を言われたんです。
げんたさんは面倒でも補強の手抜きは駄目だって、其れからげんたさんの言われた通りにすると、今ま
でよりも早く、其れに頑丈に出来たんですよ。」
「あ~分かりましたよ、其れでげんたは大天才だと。」
「源三郎様、オラ達もですよ、今までは何も考えないで、源三郎様の言われた通りに洞窟を掘ってたんで
す。
でも、げんたさんは何も考えずに洞窟を掘削をしてると岩や土が崩れそうになってても気付かないで続
けて要ると落盤事故が起きる時も分からず、事故が起きると大勢の人達が犠牲になって全部の工事が止ま
るんだと言うんですよ。」
「げんた有難う、みんながげんたは大天才だと言われる意味が今わかりましたよ。」
「なぁ~あんちゃん、今頃気付くのは遅いんだぜ、まぁ~オレ様は生まれた時から大天才なんだからなぁ
~、ふ~んだ。」
げんたは鼻を鳴らし誇らしげな顔をしている。
「元太、オラ達行ってくるよ。」
「済まないけど頼むよ。」
「えっ、何処へ行かれるのですか。」
「源三郎様、これもげんたさんの提案なんですよ。」
げんたは何を提案したのだろうか、源三郎は船を早く見たいが、其れよりもげんたが提案したと言うの
が気になるので有る。
「げんたの提案ですか。」
「はい、オラ達は漁師なんで潮の満ち引きは知ってるんですよ。」
「ええ、私も前に元太さんから聴きましたので。」
「源三郎様、げんたさんはねぇ~、オラ達が潮の満ち引きを利用して無いって言うんですよ。」
「潮の満ち引きを利用していないと。」
「はい、源三郎様も前に入る時は引き潮の時まで待って貰ったと思いんですが。」
「ええ、其れも覚えておりますよ、あの洞窟は狭いから潮が引かないと入れないって。」
「其れでね、げんたさんは他の事も同時にすれば楽になるって。」
「えっ、他の事もですか。」
「はい、オラ達は入り江のところを見ながら洞窟に入って行くんですがね、源三郎様が幕府の大きな船に
見つかると大変な事になるからって言ってたでしょう。」
「はい、私も幕府の軍艦にこの入り江の奥に有る洞窟が見付かれば大変な事になると思ってましたので、
何か良い方法が無いかと考えておりましたが分からなかったのですよ。」
「源三郎様、げんたさんは簡単な方法が有るって言うんですよ。」
「えっ、簡単な方法ですか。」
「なぁ~あんちゃん、オレは天才なんだぜ、オレはねぇ~元太あんちゃん達が何時も沖の入り江を見てる
んで、何で入り江を見てるんですかって聴いたんだ、すると、あの沖を幕府の軍艦が通るので此処を知ら
れると大変な事になるって聞いたんだ。」
「げんた、其れは今でも同じですよ。」
「うん、其れでね、入り江の入り口に漁師さんに舟で行く様に頼んだんだ。」
「うん、其れは分かりますがね、ですが潮の満ち引きとどの様な関係が有るのですか。」
源三郎は薄々気付いていた、げんたの方法は二つの事を一度で済ませるのだと、其れならば、げんたを
持ち上げ無ければならないと。
「やっぱりなぁ~、あんちゃんは何も分かって無いんだなぁ~。」
「げんた、私ねぇ~、げんたの様な天才では無いのですよ、この私に天才の考える事が分かると思います
かねぇ~。」
源三郎はげんたの誇らしげな顔を見るだけで十分で有る。
「あんちゃん、オレはねぇ~、元太あんちゃんが漁師だって、其れを利用したんだけなんだ。」
「漁師を利用するのですか。」
「うん、そうだよ、仮にだよ、軍艦が漁師の小舟を見て攻撃すると思うか、オレは其れを利用したんだ漁
師が軍艦を見付けた、見付けた漁師はこの洞窟が有る上の岩場のところで別の人が見張っててその見張り
に連絡するだけでいいんだ。」
げんたはどの様な方法で連絡するのか、源三郎は大よその見当は付いて要る、だが、傍で聴いて要る井
坂にはどの様な話をして要るのかもさっぱり分からずに、源三郎も知らない振りをして要る。
「げんた、だけど一体どんな方法で連絡するのですか、あの入り江からは相当な距離が有るのですよ。」
「あんちゃん、鏡なんだ。」
「えっ、鏡をですか。」
「母ちゃんも使ってる鏡を使うと直ぐ分かるんだぜ。」
「げんた、私も分かりましたよ、その鏡で岩の上に要る人に知らせるのですね。」
「あんちゃんも知ってると思うんだけど、鏡だったら簡単に出来るんだぜ。」
「其れでですか漁師さんが舟で入り口まで向かわれたのですか。」
げんたの自慢はこれだけでは終わらない。
「源三郎様は特別なんですが、オレ達もげんたさんに教えられたんですよ。」
「えっ、銀次さん達もですか、でも、銀次さん達は洞窟内で掘削工事ですよ、其れが何故なのですか。」
「はい、今までは浜から洞窟に行くのがバラバラだったんです。
でもげんたさんの提案で洞窟に行く時には揃って行く事になったんです。」
「まぁ~其れは、私も分かりますがねぇ~。」
「其れでね、げんたさんは新しい大きな舟を造ってくれって。」
「えっ、大きな舟ですか、でも此処には船大工は。」
「源三郎様、オレ達も大工の端くれですよ、げんたさんの提案で漁師さん達の舟よりも少しだけですが大
きな舟を造れば其れだけで大勢の作業員を乗せる事が出来るって。」
「えっ、ですが、浜に有る舟はと言うと今まで漁師さんが使って要るだけしか見えませんが。」
「源三郎様、今は洞窟の岸壁に有るんですよ。」
「ですが、どんな方法で銀次さん達の仲間を乗せるのですか。」
源三郎は先に洞窟から戻る作業員を乗せる為に洞窟内に係留させて要るのは分かった。
「なぁ~あんちゃん、洞窟に行くよりも戻る方を先にするんだよ、するとね、大きな舟は見付からないと
思ったんだ。」
「何と素晴らしい事を考えたのですか、さすが大天才のげんたですねぇ~。」
「あんちゃん、まぁ~それ程でもないよ~。」
げんたの鼻は大きく膨らんでいる様だ。
「では、入り江から鏡で連絡が有ると、一斉に洞窟に向かうのですね。」
「源三郎様、そろそろですよ。」
「はい、私も大変楽しみですよ。」
入り江の入り口に向かった漁師から洞窟の有るところで待機して要る銀次の仲間に連絡が入り、洞窟の
入り口に有る、大きな二枚の隠し扉が開くと1隻とも言える大きな舟が出て来る。
浜に向かった岩陰を過ぎ浜に近付くと。
「あっ、あれは。」
さすがの源三郎も驚いた、漁師達の小舟の二倍、いや、三倍は有るだろうか、其れに、漕ぎ手が四人も
要る。
「源三郎様も驚かれたでしょう、この大きな舟もげんたさんの提案なんですよ。」
「えっ、げんたがですか。」
「あんちゃん、あの舟に一体何人が乗れると思うんだ。」
「う~ん、そうですねぇ~、十五人から二十人だと思いますがねぇ~。」
「じゃ~、今までの小舟だったら何人だ。」
「まぁ~、四人、いや五人が限度ですねぇ~。」
「オレはねぇ~、一度で二十人が乗れる舟が出来ると洞窟に行く舟は二隻も有れば十分だと思ったん
だ。」
「ですが漕ぎ手が四人と言う事はですねぇ~、漕ぎ手も一回で済むと言う事なのですね。」
「うん、銀次さんに聴いたんだ、一回で何人洞窟に行くんですかって、何時も四十人前後だって聴いたん
だ、だったら大きな舟を造れば一回で済むと思って大工さんにお願いしたんだ。」
「親方、これは相当ご苦労されたと思いますが。」
「源三郎様、苦労もですが、実はですねぇ~大工の中に船大工がおりまして、舟を造るのは難しく無かっ
たんですがね、わしも長い間大工の仕事をやってますが、げんたさんの要求は、其れはもう厳しいです
よ、でもねぇ~わしら大工が驚いたのはその後なんですよ、今まであんな事を考える人なんて見た事も聴
いた事も無かったんですからねぇ~。」
「あんちゃん、まぁ~オレ様の苦労は其れ程でも無いんだぜ。」
「げんたは苦労して無かったのですか。」
「うん、そうだよ、まぁ~、何時もだけど作るのは簡単なんだ、だけど、今度はねぇ~う~ん、オレより
も母ちゃんが居てくれたんで助かったんだ。」
「えっ、げんたのお母さんですか。」
「うん、そうなんだ、オレはねぇ~何とかして舟を潜らせる方法が無いか、まぁ~、其れが、一番苦労
したと思ってるんだよ。」
「源三郎様、木で造った舟が潜ると思いますか、わしはどんなに考えても分からんですよ。」
源三郎は全く想像が出来ない、傍の鈴木も上田も、更に井坂はもうお手上げの状態なのか考える事も諦
めた様子で有る。
「親方、私も其れは分かりますよ、私もげんたが潜水船を造ると言った時にどの様な方法で海の中に潜る
のだと思いましたからねぇ~。」
「源三郎様、げんたさんはねぇ~。」
「元太あんちゃん、オレはあんちゃんと同じで簡単に考えたんだ直ぐに作れるって、だけど、オレの母ち
ゃんもだけど、元太あんちゃんの母ちゃんも、其れよりも浜のみんなが協力して造ってくれたんだぜ。」
「げんたは一体何を作ったのですか。」
もう、その頃になると鈴木も上田も諦めた表情をして要る。
「うん、これはね、母ちゃんはオレが船を潜らせる方法が、まぁ~あの時まで分からなかったんだ、だけ
ど、その時、母ちゃんが砂を入れたらどうだって。」
「えっ、砂を船に入れるのですか。」
「うん、そうだよ、でも、砂を其のままで入れるとどれだけ入れたか分からないんだ。」
其の時、丁度、舟が着き。
「まぁ~みんな話は後にして乗ってよ。」
源三郎も乗り込むと。
「あれ~漕ぎ手が。」
「源三郎様、オレ達も元太さん達に漕ぎ方を教えて貰ったんですよ。」
「ですが、大変だったのでしょうねぇ~。」
「源三郎様、銀次さん達は直ぐ覚えられましたよ。」
「其れでオレ達は順番を決めて、洞窟の往復はオレ達だけでしてるんですよ。」
「まぁ~其れは素晴らしい事ですねぇ~。」
銀次達が其処までするとは、源三郎は考えもしなかった。
「じゃ~、行きますよ。」
大きな舟に乗った源三郎達は洞窟の入り口へと近付くと。
「あれ~最初の時と違いますねぇ~。」
「源三郎様、これもげんたさんの提案なんですよ、岩の上にオレ達の仲間が居るんですが、両方の太い縄
を引くと岩付の扉が両方に動くんで中央が大きく開き大きな舟でも楽に入れるんです。」
源三郎達を乗せた大きな舟はゆっくりと洞窟の中に入って行き、みんなの目が慣れた時。
「あっ。」
「わぁ~これは一体。」
井坂が大声で叫んだ、井坂は潜水船だと聞いていたが、其れは今までに見た事も無く、井坂はその異様
さに驚きを越して要る。
「げんたこれが潜水船ですか、何と私が想像した以上の船ですねぇ~。」
「当たり前だよ、大天才のげんた様が考えた潜水船なんだぜ。」
げんたは、又も鼻を鳴らして。
「ふ~ん、どんなもんだ、え~、あんちゃん。」
「総司令、これが、げんたさんが申された潜水船と言う船なんですか。」
「鈴木のあんちゃん、こんな物で驚いてたら中には入れないぜ。」
「え~、では、中はもっと。」
「まぁ~なぁ~オレ様が作った中でも、う~ん、そうだなぁ~最高の物なんだぜ。」
「げんた、中に入れませんか。」
「あんちゃんは駄目だよ、だって、鈴木のあんちゃんと上田のあんちゃんと、其れに、元太のあんちゃん
が乗るんだからなぁ~。」
「なぁ~げんた、その様な意地悪を言わないで。」
源三郎はげんたに手を合わせて要る。
「だって、若しもだよ、沈んで浮いてこない事も有るんだぜ。」
「えっ、げんたさん、其れは本当なのですか。」
「上田のあんちゃん、冗談、冗談だよ、だって、この船は木で造ったんだぜ、だから絶対に沈まないっ
て、潜水船だから沈むんじゃないんだ潜るんだからなっ、覚えて置いてくれよ。」
「げんた、これは一体なんですか。」
源三郎は船腹の左右に出た物が何に使われるのだろうと思った。
「あ~、これか、でもあんちゃんは乗りたいんだろう、分かったよ~、じゃ~あんちゃん、今日は特別な
んだからねその梯子で中に入れるよ。」
源三郎は嬉しくてたまらない、げんたが造った潜水船に乗れる、其れも一番にで有る、げんたも乗り込
んだ。
「げんた、一体どの様になって要るのですか。」
「じゃ~今から簡単に説明するからね、よ~く聴くんだぜ。」
「はい、承知しました。」
「じゃ~、これが。」
げんたは源三郎に詳しく説明して要る。
一方、外の鈴木や上田は。
「だけど、この船本当に海の中に潜れるんだろうか。」
「上田殿、私は乗って海の中を見たいのです。」
「勿論、私もですが、でも一体どんな方法で潜って行くんでしょうかねぇ~。」
「まぁ~今は総司令が説明を聴かれていますから、その後、私も。」
「あの~。」
「井坂殿、驚かれたでしょう。」
「いゃ~おいドンは驚くよりも、も~呆れております。」
其れが井坂の本音だろう、げんたと言う子供が潜水船を造ったと、だが、今の今でも信じる事が出来な
いので有る。
井坂は源三郎とげんたの会話を聞いて要るが、町民の子供と武士の会話では無い。
源三郎と言う人物は何処までも町民や漁民の信頼を得て要る、其れが、船を海の中に潜るらせると言う
大胆な発想を生み出して要るので有る。
今は官軍と幕府軍の戦いだが官軍が勝つ事に間違いは無い、だがその官軍とて、源三郎が引き得る連合
国と言う新たな組織に勝てると言う保証は無いと井坂は感じたので有る。
「げんた、ですが、中は意外と狭いですねぇ~。」
「其れは仕方無いよ、だって色々な物を付けて有るんだからなぁ~。」
「で、これは何に使うのですか。」
「あんちゃん、これは、まだ名前が無いんだけれど、まぁ~覗いたら分かるよ。」
「えっ、これを覗くのですか。」
源三郎はげんたの言う通りにすると。
「お~、これは素晴らしいですねぇ~、外が見えるのですか。」
「うん、まぁ~ね。」
げんた自慢の作で有る。
「なぁ~あんちゃん、潜水船は海の中に潜ると海の上が見えないんだ、其れで、オレは考えたんだ、鏡を
使って外が見える様に出来ないかなぁ~って。」
「ふ~んそうですか、で、これは。」
「あんちゃん、これが一番大事なんだ、あんちゃんも覚えて要ると思うんだけど、水の中で息が出来る方
法は無いかって。」
「あ~、思い出しましたよ潜水具ですねぇ~、ではこれが。」
「うん、そうなんだ、あの時は手でやったんだけど、今度は中に三人が入るから足で踏む様に考えたん
だ。」
「其れで二つ有るのですか、其れと、これも足で踏むのですか。」
「まぁ~これがオレ様が作った中でも傑作中の傑作だと思って要るんだ。」
「げんたの傑作中の傑作ですか、で、一体何をするのですか。」
「これはねぇ~、其れよりもまぁ~此処に座ってくれよ。」
源三郎はげんたの言う通りに座った。
「其れでね、此処に足を掛け両方で踏むと船の外に有る、まぁ~そうだなぁ~、水車が回るって思ってく
れよ。」
「えっ、その様な物が外に有ったのですか。」
「うん、其れでね、少し動き出すとその水車に水が入り、後は自分の力だけで進むんだぜ。」
「えっ、ですが、何処に有るのですかその進む為の道具は。」
「あんちゃん外に付けて有るんだ、まぁ~後で見れば分かるよ。」
げんたの苦労は並大抵の苦労では無かっただろう、それ程にもこの潜水船は素晴らしい造りなのだと、
源三郎は改めて思ったので有る。
「げんた、有難う、何て素晴らしいのですか、私は本当に驚きましたよ。」
「なぁ~あんちゃん、だけどオレは何か不満なんだ。」
「何故ですか、こんなに素晴らしい潜水船を造ったのですよ。」
「うん、だけどなぁ~オレの考えた潜水船はねこんな船じゃないんだ。」
「げんた、どの様な物でも最初からは出来ないですよ、げんたが不満だと言うのも分かりますがね其れを
次の船で改良すれば良いと、私は思いますがねぇ~。」
「うん、そうだなぁ~まぁ~オレ様は大天才なんだからね、任せなって。」
源三郎は今の潜水船でも満足しないげんたの気持ちは分かって要る。
げんた自身が満足してしないと言う事は、更に改良された潜水船を造るで有ろうと、源三郎はこの潜水
船を多く造り、菊池から松川までの洞窟に配置出来るかを考えて要る。
だが、単に潜水船だけでは何の役にも立たない、この潜水船を利用する方法を考え始めた。
「あんちゃん、また何か考えて要るんだろう。」
「うん、少しですがねぇ~。」
「まぁ~、あんちゃんの事だからなぁ~飛んでも無い事を考えてるんだろうからなぁ~。」
げんたも、この頃源三郎が何かを考えて要ると分かり出した。
「あんちゃん、まぁ~其れよりも外で説明をするよ。」
「分かりましたよ、でもこの出入り口からは水は入らないのですか。」
「うん、オレも随分と悩んだんだ、其れで鍛冶屋さんに聴いてね、これを引くと外からは水が入らないん
だ。」
「ふ~ん、そうですか、では出ましょうか。」
「源三郎様、如何ですか中は。」
「まぁ~其れはねぇ~、う~ん何と申してよいのか大変難しいですよ、この潜水船を動かすには、最低で
も三名は必要ですからねぇ~。」
「えっ、一人では無理なのですか。」
「鈴木様、この船は海の中に潜るのですよ、海上を進む漁師さんの舟と全く造りが違いますのでね、三名
の呼吸を合わせ無ければならないと、私は思いますがねぇ~。」
鈴木も上田も海上の船と同じだと思って要る、其れは仕方の無い事だ、だが、潜水船ともなれば、三名
共同で動かす事が求められ、その三名の呼吸が合わなければ潜水船としての役には立たないのだと源三郎
は考えて要る。
源三郎が船の外に出、潜水船の周りよ~く見ると台座に載って要る。
「げんた、何故、船を台座の上に載せて要るのですか。」
「あんちゃん、この船にはねぇ~、船を動かす為の装置が外に取り付けて有るんだぜ、其の装置が一番大
切なんだ、あんちゃんなら其れくらいの事は分かると思うんだけどなぁ~。」
「そうでしたねぇ~、其れで先程の水車と言うのはどれですか。」
「あんちゃん、これなんだ。」
「えっ、これは。」
源三郎は最初、見て無かったのか、其れとも、見えて無かったのか、船の横腹には被せの付いた物が有
ったがその中には水車が有るとは知らなかった。
「元太あんちゃん、中に入って足踏み機に座って漕いで欲しいんだけど。」
「うん、分かったよ。」
元太は何度も中に入って要るので、どれだか分かって要る。
「げんた、行くよ。」
「お~、いいよ。」
元太は船の中で足踏み機を踏み始めた、すると。
「あんちゃん、これだぜ、見てよ。」
「ほぉ~これは何と素晴らしいのですか、だけど、げんた何故この様な被せが要るのですか。」
「あんちゃんは何も分かって無いんだなぁ~、ほらなっ、此処から水が入ると水車が回る、だけど、此処
まで被せて無いと水が此処にも当たるんだ、すると水車が動かない、そうなったら船は動かないんだ
ぜ。」
げんたは源三郎に詳しく説明しており、鈴木達も必死で見て要るのだが、げんたの説明が果たして理解
出来て要るのだろうか。
「げんた、よ~く分かりましたよ、じゃ~、この水車が回ると。」
「うん、今度は後ろに有る風車がね。」
げんたは潜水船の後ろに行き。
「あんちゃん、これが風車なんだ。」
「へぇ~、なるほどねぇ~本当に回っていますねぇ~、では、これが回ると潜水船は前に進むのです
か。」
「うん、そうだよ、まぁ~オレ様の話が分かるのはあんちゃんくらいだと思うんだ。」
「げんた、私は全く分からない事が有るのですが。」
「うん、いいよ。」
「水車が回ると言いましたが、其れは中で足踏み機を踏まなければならないと思うのですが、今の話しな
らば動き出せば足踏み機は必要ないのですか。」
「うん、上田のあんちゃんもだけど、みんなも不思議だと思ってるはずなんだ、だけどね、最初、足踏み
機で動かして前に進むと、船は水を掻き分けて進むんだぜ、前に進むと言う事は水がこの中を通るんだ、
水が通れば水車が回り、其れで後ろの風車も回るって事なんだ。」
「う~ん。」
「まぁ~はっきり言って、天才のオレ様が説明しても簡単に分からないと思うんだ。」
「いゃ~げんた、確かに簡単には理解出来ませんよ。」
「源三郎様、げんたさんには大変失礼だとおいドンは思うのですが、でも、一体木で造った船をどんな方
法で海の中に潜るのですか、おいドンには全く分からんですが。」
其れは、井坂だけでは無い、鈴木も上田も、まだ、全く理解出来ていないので有る。
「元太あんちゃん足踏み機から降りて、後ろの操縦棒を動かして欲しいんだ。」
「はいよ、直ぐに。」
元太は潜水船で何度か操縦棒を動かして要る。
「では、行きますよ。」
すると、船の横腹に着いて有る板が動き。
「あんちゃん、これで潜る事も浮き上がる事も出来るんだぜ、其れとねぇ~、この船は木造船だから此処
を見てよ、この線まで沈める必要が有るんだ。」
「げんた、だけど大人が三名くらい乗っても此処までは沈みませんよ。」
「なぁ~あんちゃん、オレはこの浜の母ちゃん達に感謝してるって、さっきも言ったと思うんだけど、其
れがこれなんだ。」
傍には、砂袋が数十袋が置いて有る。
「げんた、この袋は何に使うのですか。」
「あんちゃんもみんなもだけど、オレ見たいな子供でも大きい人も小さな人もいるんだぜ、鈴木のあんち
ゃんと上田のあんちゃんが乗ってもこの線までは沈まないんだ、だけどこの船にはどうしても三人が要る
んだ。」
げんたは漁師の元太にも乗って欲しいと考えて要る。
「オラが乗りますよ、オラはこの中に何度も入ってますので足踏み機の。」
「なぁ~あんちゃん、これからが大変なんだ。」
「げんた、大変って。」
「うん、其れよりも、この潜水船を今から海の上に出すんだけど此処の大工さん達が作ってくれたんだ
ぜ。」
「源三郎様、まぁ~見てて下さいよ、じゃ~みんな頼みますよ。」
大工の親方は岸壁の上に船台を作り、げんたの指示で潜水船を完成させた。
げんたは船腹の水車や後部の風車作りから取り付け、其れに船内の装置を一人で作り上げた。
船台に載った潜水船は数十人の男達が船首と船尾に結んで有る太い縄をゆっくりと引くと、太い原木の
先端には滑車が付いており船台から潜水船が浮いた。
船台から浮いた潜水船を、今度は岸壁から海の上に降ろすのだが、原木の角度を調整すると船は岸壁を
離れ海に。
「よ~し、今度はゆっくりと縄を緩めて下さいよ、そうだ、ゆっくりと、うん、そうだ、ゆっくりとだ、
よ~し、その調子だ、後、少しで水の上ですよ。」
そして、遂に、潜水船は海に着水した。
鈴木も上田も、其れに井坂も唖然とした表情をして要る。
「さぁ~、あんちゃん、誰を乗せるんだ。」
「う~ん、やはり、鈴木、上田、そして、元太さんですかねぇ~。」
「総司令、正直申しまして私は。」
鈴木の緊張感は源三郎にも伝わり、源三郎は鈴木や上田が緊張する訳は分かって要る。
船と言う物は元来上が開放されており誰でも平気な顔で乗り込むが、だが、潜水船の中に入れば外は全
く見えないので有る。
「さぁ~入ってよ、何も怖くは無いからね。」
「げんたさん、私も気持ちでは分かっておりますが。」
「じゃ~あんちゃんが乗るか、オレは誰でもいいんだぜ。」
他の者達も緊張して要るのか、洞窟内の作業員達も息を殺し、見守って要る。
「鈴木様、私が乗りましょうか。」
「いいえ、私が行きまので。」
源三郎はわざと言ったのだ、源三郎自身も岸壁の上に有る時は何も考えなかった、やはり、海の上の有
ると言うだけなのか少し緊張して要る。
鈴木が乗り込むと、上田と元太が続いて乗り込んだ。
「あんちゃん、此処を見てよ、三人が乗っても、ね、此処までしか行かないんだ、其れで、今から砂袋入
れて行くんだ、オレは小さいから誰かこの砂袋を渡して欲しいん。」
「じゃ~オレが。」
「よ~しオレもだ。」
数人が砂袋を次々と元太に渡して行き、元太は砂袋の置く場所を聴いており順番に置いて行く。
五、十袋と積み込んで行くと、げんたが付けた目印に少しづつ近付いて行く。
「まだ、まだだよ、もっと入れて。」
げんたは船腹を見ながら袋を積み込ませ、二十個を超えた。
「う~ん、もう、1個入れて。」
元太は船内の床の下に入れ、そして、二十五個が入ると。
「よ~し、これで、いいですよ。」
「げんた、この砂袋には。」
「う~ん、元太あんちゃんに一貫目で頼んだんだ。」「では、全ての袋は一貫目なのですか、では何袋有
るのですか。」
「う~ん、多分、五十は有ると思うんだけどなぁ~。」
「では、其れを浜の奥さん達が作ってくれたのですか。」
「うん、みんな家に有る残った布でね、其れも全部三重に縫って有るんだぜ。」
漁師の奥さん方が家に残った布を利用して作ってくれた、全ての袋が継ぎ接ぎだらけで、この袋は奥さ
ん方の汗の結晶だと、源三郎は心の中で手を合わせた。
「鈴木のあんちゃん、誰が操縦するの。」
「一応、私がしますので、元太さんは足踏みをしてくれますので、上田殿には、え~っと、これは何と呼
べば宜しいでしょうか。」
「う~ん、じゃ~、潜水鏡って。」
「はい、では、上田殿には潜水鏡をお願いします。」
「上田様、如何ですか。」
「はい、私も初めてなのでどの様に表現すれば良いのか分からないのですが、洞窟の入り口がよ~く見え
ております。」
「上田のあんちゃん、この船で入り口を出る事が出来るけど、船を動かすのは上田のあんちゃんが言うん
だぜ。」
「えっ、私がですか。」
「だって、鈴木のあんちゃんも元太のあんちゃんも外は全然見えないんだぜ、上田のあんちゃんがその潜
水鏡で見て方向を言うんだ。」
いゃ~これは大変な事になった、上田の指示で潜水船が動く、其れは船長と言う役目で有る。
元太は岸壁の上で足踏みをしていたが、さ~て一体どうなるのだろうか。
「まだ、蓋はしないでゆっくりと足踏みをしてね。」
げんたは潜水船の上に乗り指示を出している。
「お~い、げんたさん行ってもいいのか。」
「うん、いいけど、上田のあんちゃん洞窟の入り口が見えたら言ってよ。」
「分かりました。」
「源三郎様、大変な事になりましたがオレ達も舟の乗って行きますので。」
「銀次さん、私も行きますのでね。」
洞窟内に有る舟には作業員が次々と乗り込み、洞窟を出て行く。
「じゃ~、いいよ、ゆっくりとだよ。」
「分かったよ。」
元太は大変だ手に汗を搔いて要る。
「元太さんゆっくりと行きましょうか。」
「鈴木様、オラは大変な船に乗ってますよ、だって何も見えないんですからねぇ~。」
「元太さん私も一緒ですよ、其れに、もう手が汗で、上田殿、宜しくお願いしますよ。」
「鈴木殿、私はもう心の臓が爆発寸前ですよ。」
潜水船に乗った、三名は今までに無かった緊張感を味わって要る。
「では、行きますよ。」
元太はゆっくりと足踏みを始めた、果たして潜水船は動くのか、船内には水車の棒が有り、その棒が回
り始めた。
「お~、動き始めたぞ~。」
「お~、これは何と大変な事ですよ、げんた潜水船が動き始めましたよ。」
げんたは全く聞こえていないのか、返事も出来ない程に集中しおり、潜水船の動きをじ~っと見て要
る。
「元太のあんちゃん、足踏みを止めて。」
「分かった、今止めたよ。」
潜水船は止まらずに動いて要る、上から見ても海中は見えない、其れでも潜水船はゆっくりと進んで行
く。
「源三郎様、足踏みを止めたのに、何故潜水船は動いて要るのでしょうか。」
銀次も分からないが、潜水船はゆっくりとだが洞窟の入り口へと向かって要る。
「上田のあんちゃんと鈴木のあんちゃん、洞窟を出たら蓋をするからね。」
「分かりました、其れで次は。」
「うん、外に出たら鈴木のあんちゃんは操縦棒を前に押して、ゆっくりとだよ、上田のあんちゃんは波が
見えたら言って欲しいんだ操縦棒を戻せって。」
「分かりました、では。」
「元太のあんちゃんは横に有るふいごを踏んで欲しいんだ、其れで、外から空気が入って来るからね。」
「うん、分かったよ。」
さぁ~いよいよだ洞窟の外の出ると、げんたは源三郎の乗った舟の飛び乗り、潜水船の動きをじ~っと
見て要る。
其れでも潜水船はゆっくりと進んで要る。
「さぁ~潜りますよ、上田殿宜しく頼みます。」
「分かりました、ですが、これは慣れるまでは大変ですよ、はい、今海中に入りました。」
「元太さん、大丈夫ですか。」
「いゃ~オラはもっと楽だと思ったんですが。」
「はい、戻して下さい、はい、其のままで。」
「げんた潜りましたよ。」
「あ~、オレこんなにも大変だとは思わなかったんだ、なぁ~あんちゃん、一体何処の誰なんだこんな潜
水船を考えて造った奴は。」
「げんた、貴方が考えて造ったのですよ。」
「あ~、そうか、オレか。」
げんたは自慢げに鼻を鳴らして要る
「源三郎様、あの二本の筒だけが海の上に出てますよ。」
「銀次さん大変な船ですよ、うん。」
源三郎は横をゆっくりと進む潜水船を見て何かを考えて要る。
「げんた、この船は上からは見えるのですか。」
「なぁ~あんちゃん、オレが知る訳ないだろう。」
「ですが、此処からは少し見えますねぇ~。」
「其れは仕方が無いよ、こんなにも近いんだかなぁ~。」
「銀次さん少しづつですが離れて欲しいですよ。」
「はい、分かりました。」
銀次は小舟を少しづつ離して行く、源三郎は何処まで行けば海中から見えて要る二本の筒が見えなくな
るのかを見ていたが。
「う~ん、はい宜しいですよ、戻って下さい。」
潜水船は入り江の中を進んで行く、洞窟内では全く波は無いが、幾ら、入り江の中だと言っても波は立
つ、空気の取り入れ口はげんたが考えたのだろう、先端部分は後ろを向いており波でも海水が入らない様
に工夫されて要る。
「源三郎様、一体何処まで行くんでしょうか。」
「私も分かりませんが、まぁ~最初なので少し心配にはなりますが、あれ~私の見間違いでしょうかねぇ
~潜水船の速度が。」
「あんちゃん、あれがねこの潜水船の凄いところなんだぜ。」
「えっ、げんた、其れはどの様な意味ですか。」
「うん、船が進むと海水の入る量が多くなるんだ、すると、風車早く回るんだ、すると、船も早くなる、
これの繰り返しで段々と早くなるんだぜ。」
「中の三名は知って要るのですか。」
「いゃ~、多分、全然知らないと思うんだ。」
「げんた、止めさせましょう、これ以上早くなれば危険な事になりますからねぇ~。」
「うん、だけどこの舟からは聞こえないんだ。」
「う~ん、では一体どうすればいいのですか。」
源三郎はげんたも止める方法を考えていたなかっただろうかと思ったので有る。
「鈴木殿、上に出ましょう、まだ先ですが海岸にぶつかりますので。」
「はい、では浮上しますよ。」
潜水船が浮上を開始した。
「源三郎様、上がってきます。」
「本当ですねぇ~、其れにしても何か有ったのでしょうかねぇ~。」
「う~ん、やっぱりなぁ~外の空気は美味しいなぁ~。」
「何か有ったのでしょうかねぇ~。」
「あっ、源三郎様、いえ、別に何も有りませんが前に岸が見えましたので。」
「えっ、わぁ~。」
上田が驚くのも無理は無かった、潜水船の処女航海で入り江の入り口近くまで来たのだ。
「わぁ~、こんなにも来ていたとは。」
「さぁ~、戻りましょうか。」
「鈴木殿、戻りますよ。」
「はい、でも、どうすればいいんですか。」
「鈴木様、片方の手をどちらかに動かし、片方は反対に動かし。」
何と鈴木は方向転換の方法を聴いて無かった。
潜水船は少しづつだが方向を換えて行く。
「はい、今丁度ですよ。」
元太は足踏みをして要るのか。
「元太さん、今、足踏みはされていますか。」
「いいえ、オラは何もしてませんよ、でも船は少しづつですが動いて要るんですよ。」
源三郎の思った通りでこの潜水船は一度動き出すと止まる事が出来ない。
「げんた、この船は止まれないのですか。」
「うん、オレも考えて要る最中なんだ。」
「そうですか、何かの形で止まれる方法を考えなくてはなりませんねぇ~。」
「うん、でもオレも少し疲れたよ、だから、今、直ぐには無理だけど、これから考えるよ。」
「そうですねぇ~、げんたは大変な活躍だったのですから、何日間はのんびりとして下さい。」
「あんちゃん、でも止めるのがそんなに大事なのか。」
「私はそうだと思いますよ、洞窟の岸壁に繋ぐ時には殆ど止まった状態で無ければ船は岸壁に衝突して壊
れますよ。」
「そうか、オレは岸壁に繋ぐ事は考えて無かったんだ、じゃ~オレは大天才では無いなぁ~、う~ん、で
もなぁ~大天才だから、まぁ~心配するなって、絶対にオレ様が考えるからなっ。」
潜水船は入り江の奥に有る洞窟を目指してゆっくりと進んで行く。
蓋は開けた状態なので元太は足踏みもせずに半時程掛かって洞窟まで戻って来た。
岸壁では作業員達が数本の縄を投げ、船首は元太が船尾は上田がゆっくりと引き寄せると潜水船は接岸
し、鈴木達三名が岸壁に上がって来た。
「皆さん、ご苦労様でした。」
「総司令、私はこんなにも凄いとは思っておりませんでした。」
「まぁ~その前に皆さん、座りましょうか。」
「総司令、私は最初簡単に考えておりました。
ですが、実際、中に入り蓋を閉め海中に入りますと、上田殿だけが頼りで私の考えが甘かったと、今は
反省しております。」
「鈴木様、誰でも最初は同じですよ、其れよりも使い勝ってを聴けせて頂きたいのです。」
「はい、私自身何の心配も無く、私は海の中で操縦棒と申しますかあれは大した道具です。
私が押せば船は下に向いて進み、引けば上に進んで行くと、まぁ~あの時の事をどの様に表現して良い
のか分かりませぬが少し練習をすれば慣れると思います。」
「そうですか、其れで上田様は如何でしたでしょうか。」
「はい、私は海の中からあの様な光景が見えるとは思いませんでした。
潜水鏡も時々波を被りますが、其れ以外は何も支障が御座いませんでした。」
「そうですか、其れとげんたの話では潜水鏡ですが動く事を知っておられましたか。」
「えっ、私はその様な事は知りませんでしたので。」
「そうだと思いましたよ、其れも仕方が有りませんねぇ~、今まで誰も見た事が無い光景を見れば興奮も
するでしょうから、其れよりも驚きの連続で操作する事など忘れるのも当然だと思いますからねぇ~。」
源三郎は鈴木と上田が経験した事が一番だと考えて要る。
「ですが、元太さんが一番大変だったと思いますが如何でしたか。」
「オラはこの岸壁の上で何度も練習したんです。
でも、考えた以上に大変ですよ、特に足踏みふいごはねぇ~。」
「そんなにも大変だったのですか。」
「源三郎様、オラは真剣に足踏みするんですが、海の中に居る間は止める事が出来ませんのでね、これは
一人では無理が有ると思うんです。」
「う~ん、三人のお話しを聞いて改良点が多く見付かったと思いますが、今後は私達みんなで考える事し
ましょうか、げんた一人に任せた私が悪いのです。」
「なぁ~あんちゃん、オレは別に何とも思って無いよ、だってさっきもあんちゃんが言ったんだぜ、最初
から完全な物は出来ないって、オレは本当の事を言うとなっ、今ほっとしてるんだぜ。」
「げんた、何故ですか。」
「だって、今も見たけど中に海水が入って無かったんだ、だからオレの考えた方法に間違いは無かったっ
て事なんだ、あんちゃん、オレはなぁ~次の事を考えてるんだ。」
「えっ、げんたはもう次の事を考えて要るのですか。」
「なぁ~あんちゃん、オレ様はなぁ~大天才なんだぜ。」
げんたは全くめげてはいない、其れ処か早くも次の潜水船は改良するんだと、其れは源三郎にとっては
楽しみが増えたと言う事なので有る。
「ですが、私はげんたが造ったこの潜水船を使って練習したいと思うのですがね、皆さんは如何でしょう
かねぇ~。」
「源三郎様、その練習って、オレ達だけがするんですか。」
銀次は洞窟の作業員だけで行うものだと思って要る。
「いいえ、私はねぇ~野洲の家臣達にも参加させたいと考えて要るのですよ。」
「えっ、じゃ~オレ達は。」
「銀次さん、この洞窟内の主力は皆さん方ですよ、まぁ~此処だけの話しですがね、野洲の家臣達にも皆
さん方の苦労を知らせる必要が有ると思いましてね。」
源三郎はにやりとするが。
「総司令、一体何を考えておられるのですか、正かとは思いますが。」
「鈴木様、この洞窟の掘削工事で元太さんや農村の方々、其れに、銀次さん達がどれ程苦労されて要るの
か私は知って要るつもりですよ、皆さんにはこの潜水船の練習に入って頂きましてね家臣達には掘削工事
を始めて頂こうかなと考えて要るのです。」
源三郎の考えて要る事は恐ろしい、普通で考えるならば、家臣達に潜水船の練習、いや、家臣達には訓
練をさせるのだが。
「えっ、其れでは家臣達からは反発を買いますよ。」
「ええ、私はね其れが目的なんですよ。」
「オレには源三郎様の言ってる意味が分かりませんよ。」
「銀次さん、私はねぇ~銀次さん達と元太さん達には練習と言っても、暫くは潜水船でまぁ~遊んで欲し
いと思って要るんですよ。」
何とも大胆な発言だ、源三郎は銀次達や元太達に潜水船で海中散歩する様にと考えて要る。
「総司令、それでは、家臣達には厳しい訓練が待っておりますよと言われるのですか。」
「えっ、厳しい訓練ですか、でも、何故、厳しい訓練が必要なのですか。」
「上田様も鈴木様もよ~く考えて下さいね、井坂様がおられた官軍は強力な軍隊ですよ、ですが、我々連
合国はこの数百年間と言う長い間、戦らしい、戦は経験していないのです。
銀次さん達は領民ですよ、上田様は領民を戦場に送り出すのですか、私はねぇ~今の状態ならば全員が
戦死する事は間違いは無いと思っておりますよ。」
「源三郎様、オラ達も戦に行くんですか。」
元太の心配は当然だ、野洲もこの数百年間、戦の経験が無い、まして、漁民や農民達は戦とは、全く無
縁なので有る。
「元太さん、私達武士と言う者達は領民を守るのが本来の役目だと考えて要るのです。
でも、私は戦争をしたいとは思っておりません。
但しですよ、官軍が我々連合国に対して攻撃を加えると言うので有れば、私はねぇ~皆さんを守る為に
全力で戦いますよ。」
源三郎は領民の為ならば、例え相手が幕府で有ろうと官軍で有ろうと全力で戦うと言うので有る。
「元太さん、私が何故家臣達には厳しく訓練するかと言ったのは、家臣達には領民を守る為には自らの命
を捧げると言う気持ちを持って欲しいのです。」
「源三郎様、オラも家族の為だったらオラは戦で死んでもいいんですよ。」
「元太さん有難う、鈴木様、上田様も今の元太さんが言われた様に家臣達には藩の為では無く、領民の為
に命さえも投げ出す覚悟が必要だと言う事なのです。
その為には、厳しい訓練が必要だと申し上げて要るのです。」
源三郎は銀次や元太に少しづつだが連合国が何故必要なのかを聴かせて要る。
家中の者達には直接的な話も出来るが領民達には間接的な話し方で少しづつ理解させる方法しか無いと
考えて要る。
「源三郎様、オレ達だって遊びでは練習しませんよ、だって幕府の奴らねぇ~、相手が侍だろうが、オレ
達見たいな野郎でも平気で殺すんですよ。」
「私も知っておりますよ、ですが銀次さん達が戦に行かれて、一体どうなると思いますか、戦と言うのは
殺し合いですよ、敵を殺さなければ我が身の命が危ないのですよ子供の喧嘩では有りませんのでね。」
「源三郎様、じゃ~オレ達は何も出来ないんですか。」
「銀次さん、皆さんを守るのが私の役目です。
銀次さん達はこの洞窟を完成させて頂ければ、私は其れだけで十分だと思っております。」
「源三郎様、オレ達はこれからも必死でやりますよ、なぁ~、みんな。」
「お~、そうだよ、源三郎様、オレもやりますよ。」
銀次達は源三郎の言葉に満足した様子で有る。
「源三郎様、オラもやりますよ、其れに浜のみんなも分かってますから。」
「元太、オラ達もやるよ、なぁ~みんな。」
「お~そうだ任せて下さいよ、源三郎様。」
元太達、漁師も理解してくれた、何と言う話しだ、源三郎は簡単にこの人達の心を掴んだと井坂は思っ
たので有る。
「源三郎様、おいドンに出来る事が有れば何でもしますから。」
「井坂様、有り難いです。」
「源三郎様、オレ達もやりますよ。」
「親方、有難う、私は嬉しいですよ、こんなにも皆さんが協力して頂けるのですから。」
「あんちゃん、で、この潜水船って一体どれだけ造ればいいんだ。」
「う~ん、其れがね。」
源三郎はげんたには余り負担を掛けたく無いと考えて要る。
げんたが幾ら造ると言っても、やはり子供だ。
「なぁ~あんちゃんオレは造るよ、お侍がこの船で訓練するんだったらもっと要ると思うんだ。」
「げんたさん、潜水船を造るのは大工に任せて、げんたさんは別の事を考えて欲しいんだ。」
「えっ、別の事って。」
「げんたさんは大天才だからね、さっき漁師の元太さんが言ってたけど、あのふいごなんだ、オレ達には
考えられないけれど、げんたさんだったら出来ると思うんだよ。」
大工は船を造るので、げんたは改良する事を考えて欲しいと。
「うん分かったよ、じゃ~オレも考えるよ、なぁ~あんちゃん其れだったらいいんだろう。」
「そうですねぇ~、げんたが考え其れをみんなで造る、私はその方法が良いと思いますが。」
「よ~し、オレもやるぜ。」
「鈴木様と上田様は改良するところが有れば書いて下さい。
其れと先程漁師の元太さんが言われた事もですよ。」
「はい、では、もう一度中に入って調べて見たいのですが。」
「はい、其れでお願いします。
元太さん足踏み機で何か改良して欲しいところが有れば、二人に言って下さいね。」
「はい、じゃ~オラも中に入って考えて見ます。」
「其れで宜しいですよ、親方、私からのお願いですが宜しいでしょうか。」
「はい、お任せ下さい。」
「この台座の事で。」
源三郎は台座と吊り上げる方法の改良を頼んだんだ。
「源三郎様、オレもみんなと相談して直して行きますよ。」
「何時もご無理ばかりをお願いして申し訳有りませんが、宜しくお願いします。」
「いゃ~、そんな事は有りませんよ。」
「では、宜しくお願いします。」
鈴木と上田、其れに、漁師の元太は潜水船の中に入り早くも始めた。
「では、皆さん宜しくお願いしますね、私は城に戻り殿に報告しますので。」
「あんちゃんは当分の間此処に居るのか。」
「勿論ですよ、私も色々と考え無ければなりませんのでね。」
「うん、分かったよじゃ~なぁ~。」
源三郎は井坂だけを連れ城へと戻るので有る。
「源三郎様、あの潜水船ですがおいドンは恐ろしい武器になると思うのですが。」
「そうですねぇ~、確かにその通りですよ、官軍だけで無く幕府の船でも全くと言って良い程海中は警戒
しておりませんからねぇ~。」
源三郎は井坂が何を考えて要るのか其れを探り出す必要が有ると考えた。
「源三郎様、潜水船の改良ですが、この船で何とか軍艦に近付け無いかと考えて要るのですが。」
「えっ、軍艦に近付くと申されますと。」
「はい、おいドンも海の中から攻撃されるとは誰も考えていないと思うんです。」
「井坂様、海の中から攻撃するとは、でも、どの様な方法が有るのでしょうか。」
「はい、其れを先程から考えて要るんですが。」
源三郎も大胆な事を考えるが、その源三郎でさえも海の中から攻撃出来るとは考えもしない。
確かに海の中から攻撃出来れば、敵は一体何処から攻撃されたのかも分からず大混乱に陥る。
だが、井坂が考えた方法はその時は完成する事は無かった。
「井坂様、今の潜水船では不可能では御座いませぬか。」
「はい、今申されますとおいドンは。」
「ですが、井坂様も大胆な発想をされますねぇ~。」
井坂も苦笑している。
「でも、おいドンは此処の人達が源三郎様を信頼されて要るのがよ~く分かりました。」
「いいえ、私は今の武家社会が崩壊すると以前から思っておりました。
ただ、それが何時になるのか分からなかっただけで、でも、井坂様が申されました様にもう近しと思い
ます。」
「はい、其れは間違いは有りませんが、ただ、次に出来る政府がどの様な方法で政を行うのか其れは分か
らんです。
ただ、問題は一部の者達が間違い無く暴走すると思います。」
何時の時代でも同じ事が言え、真に改革を行なうには必ずと言っても良い程、多くの犠牲を伴う。
現在の武家社会の全てが悪いとは限らない、又、新しい幕府か政府が全て良いとも限ら無い。
源三郎は何れの時になったとしても、領民、其れは農民で有り漁民達領民が一番苦労を味わう事だけは
避けたいので有る。
その象徴的とも言うべきなのが山賀の鬼家老で有り、鬼家老は自らの権力を使い多額の蓄財をし、そし
て、最終的には罪を認め腹を切ったので有る。
「井坂様、私はねぇ~何も蓄財が悪いとは思いませぬ、其れが正当な蓄財で有ればです。
ですが、私の知る限りですが今までの殆どが不正な蓄財なのです。
今まで暴き出した不正蓄財は多くの農民と漁民や町民を犠牲にしたもので、私はその人達に少しでも還
元出来ればと考えて要るのです。」
「源三郎様の申されます事はおいドンも理解出来ますが、でも大変では無いですか。」
「はい、勿論、全てが出来るとは考えてはおりませぬ、少しでも国の上層部が理解し不正蓄財をさせぬ様
に、其れが私の務めなのでして、私は連合国の領民が少しでも豊かになる事を望んで要るので御座いま
す。」
源三郎の考え方は終始一貫して要ると井坂は思い、其れならばと考えを巡らせて要るが、今の官軍には
連発銃もだが、幕府軍よりも強力な大砲が戦闘地域に必ずと言っても良い程配備されており圧倒的な武力
で幕府軍を撃退して要る。
だが、先日の山賀でもこの野洲でも旧式の鉄砲すら見当たらない、と、言う事は大砲などは皆無に等し
いと見て間違いは無い。
「源三郎様、付かぬ事をお聞きしたいのですが、野洲には火薬は有るのでしょうか。」
「はい、有りますが、其れが何か。」
「はい、おいドンは司令部に配属される前には大砲に使う火薬の調合を少しだけですが行なっていまして
その火薬で爆弾を作れ無いかと考えたのですが。」
「えっ、爆弾ですか、でも、火薬の調合だけで爆弾は作れるのでしょうか。」
「おいドンが考えて見ますので、源三郎様、今の敵軍は幕府じゃ無いと思っとります。
ですが、おいドンは爆弾で幕府の軍艦を沈めたいんです。」
「えっ、爆弾で幕府の軍艦を沈めると申されるのですか。」
井坂も相当今の幕府に対して憎しみを持って要る。
「爆弾で幕府の軍艦を沈めると言う事は1隻の軍艦には武器が大量に積み込まれておりますので、火薬や
大砲に、其れと鉄砲が使い物にならない様に出来るでは無いでしょうか。」
今の井坂は官軍の井坂では無い、野洲の其れも源三郎の言葉に共感し、何としても幕府を壊滅させたい
と考える様になり、源三郎に一度で大きな損害を与える方法を進言して要る。
だが、源三郎は火薬が有るとは言ったが、どれだけの量が有るとは言っておらず、源三郎も爆弾は作り
たいとは思っては要る。
果たして、爆弾だけで大きな軍艦を沈める事が出来るのだろうか考えるので有る。
「私は幕府の軍艦がどれ程大きいのかも知らないのですよ、其れに爆弾だけで大きな軍艦を沈める事が出
来るのか、其れとも動けない様に出来るのか何も分からないのです。」
だが、其れよりも仮にも幕府の軍艦に一体どの様な方法で爆弾を付けるのか、其れが全く分からないの
で有る。
源三郎は潜水船を今日初めて動かしたと言うよりも、初めて人間が乗り込み少しだが動き、其れなのに
幕府の軍艦に爆弾を付けるとは、さすがの源三郎でも考えはしなかった。
「井坂様、先程、初めて潜水船に人間が乗り込み船が動いたのです。
井坂様のお考えは、私も理解は出来ますが、今少しお待ち願いたいと思うのですが。」
余りにも突然な話しでも理解は出来る、だが其の前にする事が有ると。
「源三郎様、おいドンも少し急ぎ過ぎだと分かっています。
ですが、今からでも考えないと遅いと思うのです。
おいドンは官軍の攻め方は知っており、官軍は少しでも弱みを見せると、其処から其れはもう波状攻撃
で徹底的に攻撃を加え、相手が完全に戦意を喪失するまで攻撃を止めないのです。」
官軍と言うのはそれ程にも攻撃するとは、だが、今の幕府とて同じだろう、幕府軍も生き残りを考えれ
ば同じ戦法を使う。
「井坂様、私も真剣に考える様に致しますので、有難う御座いました。」
「源三郎様、おいドンの行き過ぎを。」
「井坂様、その様な心配はご無用です、せっかく井坂様に進言を頂いのですから必ず何かのお役に立てた
いと考えております。」
井坂は幕府もだが、今の官軍は余りにも理不尽なところが多く、最初の理念などは全く関係が無いと言
わんばかりの行動が目立つ様になって来たと、井坂の心の中には相当な不満が溜まり、今頃、噴出してき
たのだろう。
しかし、この野洲で潜水船が完成したと言う事は幕府は勿論の事、官軍さえも知らない。
井坂は官軍の暴走を止めたいのだろうと、源三郎は考えて要る。
源三郎が洞窟を離れる少し前頃から、鈴木、上田、そして、元太の三人は何としても改良出来ればと思
われる箇所を潜水船の中で話し合って要る。
「元太さん足踏み機ですが、大変ご苦労様でした、大変だったと思いますが。」
「鈴木様、オラが足踏みを止めると空気が無くなるんですよ、其れでオラはもう必死で踏むんですが、と
ても一人で踏み続けるのは無理だと思うんです。」
「う~ん、確かにねぇ~最初のうちは身体も元気ですが、上田殿は何か考え付きませぬか。」
「ええ、今思ったのですが、この潜水船で一番重要なのは空気を絶えず入れなければならないと言う事な
んですよねぇ~、其れで船の外に付いて要る水車の様な物には出来ないかなぁ~と考えたんですがねぇ~
無理でしょうか。」
「うん、其れは、一度、げんたさんに相談して見ましょうか、上から入れるんですから下から出してはど
うか聴きますので。」
「そうだ、今から蓋を閉めてやって見ませんか、元太さんがどれだけ苦しいのか、あの時、我々、二人は
別の事をしていましたので。」
「そうですよねぇ~、元太さん如何でしょうか。」
「はい、オラもやって見たいですよ」
「じゃ~蓋を閉めますよ。」
鈴木は岸壁に着けた状態で、もう一度、元太に足踏みをさせるので有る。
「さぁ~、元太さんお願いします。」
「はい、では、行きますよ。」
元太の足踏みが始まった、確かに最初の内は快調に踏んで要る。
だが、少しづつ踏むと言うよりも体重を乗せる様になり、途中からは体重を乗せてもふいごは動かなくな
ってきた。
「元太さん、宜しいですよ、やはり私の思った通りでしたよ。」
「えっ、一体何が原因なんですか、オラは何故か分かりませんが急に楽になったんですが。」
「上田殿、原因はねぇ~、元太さんの足踏み機では無いのです。
上から入るばかりで、この潜水船には余分な空気が外に出る隙間が無いので、其れで足踏み機が動かな
くなったんですよ。」
鈴木は原因を突き止めた、だが、何処に隙間を作るのか、其れはげんたに聴かなければならない。
「元太さん、私はげんたさんに相談して見ます、げんたさんならば直ぐに分かると思いますよ。」
空気を入れるばかりで逃げ道が無い、その為、元太が幾ら足踏みをしようともふいごは動かなかったの
で有る。
「よ~し、これで一番大事な問題は解決出来ると思いますねぇ~。」
「あ~良かったですよ、オラも分かったんで少しは楽になりました。」
「元太さんが苦労されたのが最初で良かったと思いますよ。」
「鈴木様、オラが最初この船に乗った時なんですが、この、え~っと何て言うのか忘れたんですが。」
「分かりますよ、座って漕いだ水車の事ですね。」
「はい、若しもですが、これと同じ様な物でふいご見たいな物は出来ないですかねぇ~。」
元太は外の水車と同じ様な物が出来ると、もっと楽になると考えたので有る。
鈴木、上田、元太の三名は浜のげんたの家に向かった。
その頃、源三郎と井坂は城に戻って来た。
「殿。」
「お~源三郎か如何で有ったのじゃ、その潜水船と言うのは。」
「はい、其れが何と申しましょうか、私が想像しておりました船よりも遥かに素晴らしい船でして、私は
今までにない衝撃を受けたので御座います。」
「何じゃと、源三郎が衝撃を受けたじゃと、余は初めてじゃぞ源三郎が衝撃を受けたとは。」
「殿、私も最初げんたから聴かされた時には、正か船が海の中に潜るとは、正直申しまして信じてはおり
ませんのでした。」
「余も同じじゃ、げんたはやはり子供じゃ、子供の戯言じゃと思っておったのじゃ。」
「はい、ですが、先程浜に参り潜水船を見た時には、この様な船が海に潜る事が本当に出来るのかと思っ
ておりました。」
やはり、源三郎もげんたの戯言だ、子供の夢物語だと思っていたので有る。
大人でも夢は見る、だがその夢が現実になる事など決しては無いと思うのが普通の考え方で有る。
だが、げんたはその夢の様な話しを現実に作り、そして、海の中に潜らせたので有る。
「源三郎、これからは、げんたの言う夢の様な話は夢では無く、げんたならば必ず作ると考えねばなるま
いのぉ~。」
「はい、私も今回はその様に思いました。
私が以前、げんたに水の中で息が出来る物を作って欲しいと申しました時には、げんたは夢だとは申さ
ずに真剣に考え作った事を思い出しました。」
「う~ん、余は源三郎の考えは少しは理解出来る、じゃが、あのげんたの考え方だけは全く理解が出来ぬ
のじゃ。」
「殿、其れは私も同感で、げんたはもう次の事を考えておりますが、何を造るのか、私は今げんたに説明
されましても全く理解出来ないので御座います。」
「源三郎、これからは、げんたをもっと大切にせねばならぬのぉ~。」
「はい、私も肝に命じて置きます。」
殿様はげんたは普通の子供では無い事は知って要る。
だが、今回、造った潜水船はと言うと、誰もが想像、いや夢にも見なかった船で、仮に船体は完成し
た、だがその船体を海の中に潜らせた、この様な話を聴かせたとしても、一体、誰が信用するだろうか、
其れこそ野洲の殿様は気が狂った、頭が変になり、遂には船が海の中に潜ったと夢物語まで始めたと悪い
噂が流されるに違い無いとそれ程までにも衝撃的な話しなので有る。
「源三郎、して、如何じゃったのじゃその潜水船と申す船と言うのは。」
「殿、想像して頂きたいのですが、殿の前に小舟を合わせた船を。」
「うん、其れならば余も出来る。」
「その様な物ならば造る事が出来ましょうが、これだけは船は動きませぬ。」
「うん、其れは当然じゃ、して、どの様にすれば動くのじゃ。」
殿様は目を瞑り、源三郎の話しを聴くが。
「源三郎、小舟を合わせる事は余も理解は出来る、じゃがその後の話を聴いても、余はのぉ~全く理解出
来ぬのじゃ。」
「殿、其れが普通なので御座います。
でも、私は潜水船の中でげんたの話を聴いており、理解せねばと思うのですが、全く次元の違う話を聴
いて要る様で直ぐには理解出来ませんでした。」
源三郎は現物の潜水船の中でげんたの説明を聞いても直ぐには理解出来ないと、其れを、殿様には想像
せよと、その様な無理を言われても殿様は怒るどころか半ば諦めの状態に近いので有る。
「源三郎は潜水船の中でげんたの説明が直ぐ理解出来ぬと申しておるのじゃ、余が想像出来ぬ物を一体ど
の様に理解出来ると申すのじゃ、余はもう諦めたぞ、余が理解する事などは不可能な船なのじゃ。」
「殿、それ程にもこの潜水船と言う船が理解しがたい船だと、私は思うので御座います。」
「う~ん全くその通りじゃのぉ~、この話しを上田や菊池の者達にすれば、野洲の殿様は気が狂ったと思
われるのは間違いは無いのぉ~。」
殿様は本気とも思える話をし、笑った、だが、殿様が言った他の国の者達にも何れの時が来れば話をし
なければならないと源三郎は考えて要るので有る。
「其れでじゃ、源三郎、潜水船には乗ったのか。」
「殿、其れが、げんたの猛反対に有ったので、私では無く、鈴木と上田、其れに、漁師の元太が乗り込ん
だので御座います。」
「何とげんたの拒否に有ったと申すのか、うん、其れは愉快じゃ、さすがの源三郎もげんたには勝てぬと
申すのか、これは誠に愉快じゃ、うん本当に愉快じゃ、余は嬉しいぞ。」
殿様は大笑いするが。
「殿、私は愉快では御座いませぬ。」
だが、源三郎も苦笑いをして要る。
「まぁ~源三郎、げんたの気持ちも分からぬではないぞ、造った本人も多分何処か不安でも有るのじゃか
らのぉ~。」
「はい、私もその様に思いましたので、直ぐ諦めましたが。」
「で、その三名が乗って潜ったのか。」
「はい、左様で、洞窟内で乗り込み洞窟を出たところから潜り始めました。」
「のぉ~源三郎、余も想像しておるのじゃ、船が沈むのは分かるが、海の中に潜ると言うのがどの様に考
えても理解出来ぬのじゃ。」
「殿、勿論、私も同じで、あの時も潜るのでは無く私は沈んで行く様に見えたのです。」
源三郎もだが、あの時、海の上で小舟に乗っていた銀次達も同じだったと想像出来る。
「ですが、殿、潜って行くのが、私もこの様な事を言うのかと思いました。」
「う~ん、一体どの様にして潜って行ったのじゃ。」
「はい、殿、沈むとは、その場に動かずに行く事だと思います。
ですが、潜水船は前に進みながら少しづつ潜って行くので御座います。」
「う~ん、分かった様で全く分からぬわ。」
殿様も苦笑いの連続で有る。
「じゃが、中の鈴木達は大丈夫なのか。」
「殿、其れが私は全く分からないのです。
海の上には、まぁ~そうですねぇ~、二本の筒の様な物が出ておりまして、一本は船の中から外が見
え。」
「何と申したのじゃ、船の中から外が見えると申すのか。」
「はい、げんたは名付けて潜水鏡だと申しておりまして、げんたの話では筒の両端に鏡を付けて要ると、
で、後から、上田の話を聴きますとよ~く見えたと申しておりました。」
「ふ~ん、そうか、で、もう一本は。」
「はい、其れが空気の取り入れ口で船の中で漁師の元太がふいごを踏み外の空気を入れるので御座いま
す。」
「では、鈴木は何をしておるのじゃ。」
「はい、鈴木は操縦棒を握って要ると。」
「何じゃ、その操縦棒と申す物は。」
「潜水船を潜らせたり、浮き上がらせたりする装置で御座います。」
「では、鈴木が一番大事な役目だと申すのか。」
「私もその様に思いましたが、上田が一番大事な役目だとげんたは申しておりました。」
「何故じゃ、上田は、その何じゃ潜水鏡を見ておるだけでは無いのか。」
「殿の申される通りなのですが、潜水船の中で外を見て要るのが上田で鈴木も元太も全く外の風景と申し
ましょうか、景色と申しますか其れが見えませぬので、上田の指示で鈴木が操縦棒を押し、引くと言う動
きを行なったと。」
「では、その潜水鏡を見る者が動きを決めると申すのか。」
「はい、私はその様に思いました、ですが、何も分からなければ操縦棒を握る者が大事だと思うでしょう
から。」
「ふ~ん、で、一体どの辺りまで行ったのじゃ。」
「殿、其れが驚いた事に入り江の入り口近くまで行き、其れから上がって来ました。」
「ふ~ん、で、三名は何か申しておったのか。」
「はい、私よりもげんたが気にしておりましたので、三名には残り改良が必要なところを探し出し、
げんたと相談する様にと申し付け、私と井坂様は戻って参りました。」
「そうか、まずは皆が無事で何よりじゃ。」
殿様は事故も無く、三名が無事に戻ったので安堵した表情を浮かべた。
「殿、げんたには暫くのんびりとする様に申したのですが、げんたの事です、鈴木達から改良出来ないか
相談を受ければ、次の船に生かすと思うので御座いますが。」
「何じゃと、げんたはもう次の船の事まで考えておるのか。」
「はい、其れはもう、浜の元太や銀次達がげんたは天才だと褒めるものですから。」
「うん、其れは余も思うぞ、源三郎ですら考えも付かなかった潜水船なる船を造ったのじゃから、やは
り、げんたは天才と申しても過言では無いぞ。」
「其れは私も認めております、其れで私は鍛冶屋のおやじさんにお願いし、若手を連れ浜で専門的に作ら
せようと考えて要るのですが。」
「じゃが、鍛冶屋のおやじと言うのは承知するのか。」
「其れは私も分かりませぬが、城下で作るよりも浜の現場に作業小屋を作り其処で作る方がげんたに致し
ましても、鍛冶屋に致しても少しは楽になるのでは無いかと考えたので御座います。」
「まぁ~其れは、源三郎に任せる、でじゃ、余は今思い付いたのだが菊池と上田、松川にも知らせてはど
うじゃ。」
「はい、私もその様に考えておりますが、改良点が見つかり、次の船で生かされてからでも遅くは無いと
考えて要るので御座いますが。」
源三郎は改良が終わらなければ今の潜水船では無理が有ると、その時になれば、高野や阿波野、其れに
大工や鍛冶屋も呼び作り方を教え大量に造りたいと、だが。
「源三郎、何か考えておるのか。」
「はい、少し気になる事が有るものですから。」
「何じゃ、その気になると申す事は。」
「はい、帰る途中なのですが、井坂様がこの潜水船を利用すれば、幕府軍も官軍の軍艦にも大損害を与え
る事が出来ると申しまして。」
「なんじゃ、潜水船を利用すればじゃと、じゃが潜水船に一体何をさせると申すのじゃ。」
「井坂様は爆弾を積み込み、幕府の軍艦に爆弾を付け爆発させれば多大な損害を与える事が出来ると申さ
れております。」
「源三郎、井坂は何故その様な事を考え付いたのじゃ。」
殿様は潜水船が海に潜ったと聞いただけでも大変な驚きなのに、潜水船に爆弾を積み込み、幕府の軍艦
を爆沈させると聞き大きな衝撃を受けた。
だが、今日初めて試された潜水船に爆弾を積み込む余裕は無いと源三郎も考えて要る。
「井坂様は幕府軍も官軍も正か船が潜って要るとは誰も考えていないと申され。」
「うん、そうで有ろう、余は正直申して、源三郎の話を聴いても今だに信じる事が出来ぬのじゃ、のぉ~
我々ですらこの様な状態なのじゃから幕府の者達にすれば一体何処に隠れて要るのか、余で有れば船内を
調べさせるがのぉ~。」
「はい、私も立場が違えば、殿と同じ行動を取りますが、でも。」
「源三郎、でもとは何じゃ、でもとは。」
「はい、例え、爆弾を積み込むにしましても、今の潜水船にその様な空間は御座いませぬ。」
「うん、其れはそうで有ろう、げんたもその様な事も考えて造ったので無いと思うのじゃ。」
「はい、私もげんたは子供でその様な事を考えで潜水船を造ったのではないと、私は思っております。」
「じゃが、源三郎、その井坂は突飛な考え方では無いぞ、げんたが考えた潜水船の方が余程突飛な考え方
だと思うのじゃがのぉ~。」
殿様もげんたが造った潜水船が完成した事で井坂が思い付いたのだと考えたので有る。
「はい、私もその様に思いますが、私も少し考えては如何ではと思っております。」
「源三郎、じゃが余りげんたに負担を掛けるで無いぞ。」
「はい、其れは私も承知致しておりますので。」
「うん、其れで良い。」
「殿、其れで。」
「何じゃ、まだ何か有るのか。」
「はい、私はこの潜水船に名称を付けたいのですが。」
「何、名称を付けたいとな、で、一体どの様な名称を考えたのじゃ。」
「実は、私は今思い付きましたので。」
「源三郎、早う申せ、名は何と申すのじゃ。」
「はい、では、イ零壱と名付けたいのですが。」
「何じゃ、そのイ零壱とは、何か意味でも有るのか。」
「はい、イとは最初の文字がイロハから始まりますので、そして次の零壱が番号で。」
「では、第壱号ではどうなのじゃ。」
「ですが、第壱号と言う意味で、最初ですので号を付けるのが良いのか迷っておりまして。」
「う~ん、余はイ零壱号で良いと思うのじゃが。」
「では、殿の申されます、イ零壱号と名付けます。」
「おい、おい、源三郎、その零とは一体何故必要なのじゃ。」
殿様は、其れ以外にも名称を真剣に考えて要ると。
「私はこの潜水船が改良されれば大量に造りたいと考えておりまして、其れで零壱と。」
「では、その零は、拾を越えればイ拾何号となるのか。」
「殿、私は其処まで真剣には考えておりませぬ。」
「何じゃと、名称は真剣に考えねばならぬぞ、源三郎と言う名と同じじゃぞ。」
「う~ん。」
源三郎は腕組みし考え始め、暫くして。
「殿、やはり、イ零壱号と決定します。」
「よ~し、其れで良いぞ次からは潜水船とは呼ばず、イ零壱号と呼ぶ事にするぞ。」
「はい、承知致しました。」
そして、遂に決まった、最初の潜水船はイ零壱号と名付けられた。
次の潜水船は何時から建造が始まるのか、殿様も楽しみにして要る。
だが、其れも、げんたが鈴木達の話を聴いてどの様に改良し、建造に入るのか、次の潜水船は、イ零弐
号と名付けたいと源三郎は早くも考えて要る。