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闇の帝国    作者: 大和 武
49/288

 第 22 話。 げんたの潜水船。

 源三郎は野洲を出て、二日後の昼頃、山賀の城下に入り最初に向かったのが一善飯屋で。


「おやじさん。」


「あっ、若しや、あの時のお侍様では。」


 店の主人は覚えていた、やはり、客商売だ。


「ご主人、よ~く、忘れずに覚えてて下さいましたねぇ~。」


「其れはもう~、あの時、以来、若様達も時々来て頂けますので、わしも嬉しいですよ、でもねぇ~。」


「どうされましたか。」


「いえねぇ~、その代わりと言っては何ですが、この頃、正太の顔が見られなくなりまして。」


「えっ、其れは、何か訳が有っての事ですか。」


「ええ、まぁ~、其れよりも、お昼の。」


「はい、おやじさんに任せますので。」


「は~い、任せて下さいよ、飛び切りのお昼ご飯を用意しますので、お~い、お侍様には最高のお昼ご飯


を。」


「は~い。」


 奥から、娘の声が弾んで聞こえ、暫くして、娘が運んで来た。


「総司令、此処のご飯は美味しいですねぇ~。」


「そうですねぇ~、やはり、米所で質の良いお米が収穫出来るからだと思いますよ。」


 暫くして。


「は~い、お侍様、これは、娘が若様達の為にって、考えたご飯なんですよ。」


「えっ、其れを、私にですか、これは、また、美味しいそうで、では、早速、頂きます。」


 源三郎は一口入れると。


「う~ん、これは、最高ですよ、私もこんなに美味しいご飯は本当に久し振りですよ、本当におやじさ


ん、ありがとう。」


「いゃ~、わしは何も知りませんよ、娘が考えたんで、そうだ、実は、先日、お城で何かあったと聞いた


んですが。」


「えっ、お城で、私は何も知りませんので、おやじさん何が有ったのかご存知有りませんか。」


「この数日、正太達が来ませんので何か有ったのかなぁ~って、考えてるんですがねぇ~。」


「正太さん達が来ないと言う事なのですね。」


「はい、わしもすこし気掛かりになってるんですが、お城の事はわしらには、何も、はい。」


「分かりましたよ、では、食事が終わり次第お城に行きますので。」


「お侍様申し訳有りませんが、わしは正太達に何か大変な事でも起きたのか、其れが心配で。」


 源三郎は昼食を終えると、直ぐ、城へ向かった。


 話は、少し戻り、洞窟内で事故が起きた事を知らない竹之進と斉藤、其れに数人の窯元が城に到着し


た。


「私は、松川藩の竹之進と申しまして、松之介の兄で御座います。」


「はっ、はい、直ぐにどうぞ。」


 大手門の門番は慌てた。


「至急、殿様にお知らせ下さいませ。」


 門番から聴いた家臣は大急ぎで、若様、松之介の元へと走った。


「殿、兄上様がお着きで御座います。」


「はい、直ぐ、お通し下さい。」


「はい、今、こちらに向かわれておられますので。」


「そうですか。」


 若様は洞窟内で発見された粘土質の土が使用出来る様にとは考えて要るが、其れも、全て、窯元の判断


で決まるので有る。


「松之介。」


「兄上、お久し振りで御座います。」


「うん、其れよりも何か有ったのか、城内の動きが。」


「はい、私の不注意で洞窟の先端部分で落盤事故が発生したのです。」


「何、落盤事故だと、で、全員無事なのか。」


「はい、幸いにも数人が怪我をしておりますが、全員を無事に助け出す事が出来ました。」


「そうか、其れは、何よりも良かった、で、今、その人達は。」


「はい、城内で怪我の治療に当たっております。」


「そうか、其れで、他の人達は。」


「はい、一部の者達は、今、粘土質の土を洞窟内から空掘りへ搬出作業を行っております。」


 竹之進は一人の犠牲者が出なかった事に安堵した。


「松之介、義兄上にも文は送ったのか。」


「はい、私もこの粘土状の物が使えればと考えましたので、直ぐに送りました。」


「そうか、では数日以内に義兄上も来られるなぁ~。」


「はい、私もお待ち致しております。」


「若様。」


「正太さん、如何ですか怪我をされた方々は。」


「はい、まだ、少し、痛みは残ってますが大丈夫ですよ。」


「其れは、良かったですねぇ~、其れと、こちらは、私の兄上と松川藩の窯元さんです。」


「はい、オレは正太と言います、若様のお陰でオレ達は仕事をさせて頂いてます。」


「正太さんと申されれるのですか、これから先も、松之介を助けて下さいね、其れで、他の方々は大丈夫


なのですか。」


「はい、今、お城で休ませて頂いてます。」


 正太は、若様と同じに竹之進と言う松川の殿様も我々の事を考えて要るのが嬉しかった。


「松之介、暫くは工事は止めて、皆さんには失礼のない様にして下さいよ。」


「はい、勿論で御座います。


 正太さん達は私の大切な仲間になって頂いておりますので。」


「若様、オレ達をそんなに。」


「当たり前でしょう、私はねぇ~、正太さん達がおられなければ、何も出来ないのですから、其れに、こ


の山賀の事もですが何も知らない若様ですからねぇ~。」


 松之介はニコリとし、正太は涙が出るほど嬉しかった、其れは、自分達の様な島帰りの者達を殿様が大


切な仲間だと考えて要るからで有る。


「正太さん、これからも、大変ですが、私の為では無く、山賀の領民の為にも力を貸して下さいよ、この


通りお願いしますのでね。」


 松之介は正太達を仲間に引き入れに成功したので有る。


「兄上、少し休まれてからでも城裏に有ります洞窟にご案内しますので、窯元さんも宜しくお願い申し上


げます。」


 窯元も驚いて要る、一国の若殿が早くも多くの町民を見方に付けた、其れなあらば、何としても連岩を


作り出さなければならないと。


「殿様、わしらは、今からでも行って早くその粘土を見たいんですが。」


「宜しいのでしょうか、お疲れではと思いますが。」


「なぁ~に、こちらの、正太さん達の事を考えれば何とも有りませんよ。」


「松之介、私も早く見たいので行きましょうか。」


「でも、若様、洞窟の中が。」


「正太さん、大丈夫ですよ、多分、あれからは、だいぶ搬出も進んで要ると思いますので。」


「はい、じゃ~、オレ達も一緒に行きますんで。」


「正太さんは、少し休んで下さいよ空掘りに行くだけですからねぇ~。」


「でも、はい、分かりました。」


 松之介も正太の気持ちは分かって要る、だが、正太達を今の状態で洞窟内に行かせるのは危険だと考え


たので有る。


「正太殿、私からもお願いしますよ、今は身体を休めて下さいよ、若、私も一緒に。」


「司令官様、ありがとうございます、じゃ~、オレ達は少しだけ休ませて貰いますので。」


「はい、其れで良いと思いますよ、正太殿、まぁ~、のんびりとして下さい。」


 吉永も同行し、松之介は若手の家臣数人と竹之進達をお城の隠し部屋へと向かった。


「松之介、このお城の作りですが、松川とは全く違いますねぇ~。」


「はい、私も最初に見た時には驚きの連続で、まぁ~、兄上も驚いて下さいね。」


 松之介は子供の頃を思い出したのか、ニコニコとし、竹之進も同じ気持ちなのだろう。


「兄上、これが、このお城の隠し部屋に入る入り口で、直ぐ、裏側から空掘りに行く事が出来るので御座


いますよ。」


「お~、これは凄い、でも、一体、誰が作ったんだろうか。」


「兄上、其れは、今は誰にも分かりませぬが、此処から行けば空掘りを大回りせず洞窟内に入る事が出来


るのです。」


 隠し部屋に有る、大きな扉を開くと前の空掘りが見えた。


「何と素晴らしいんでしょうか、殿様、でも、何故、こんな物が見付かったんですか。」


 窯元達も驚いて要る。


「ええ、実はね、義兄上様が石垣の作り方が変だと申されまして。」


「えっ、では、源三郎様がですか。」


「はい、向こう側を見て下さいよ、正面の石垣の部分が他の石垣と少し違うのです。」


「う~ん、だけど、普通に見て要ると、全く分かりませんがねぇ~。」


 竹之進も窯元達も空掘りの北側を見るが分からないので有る。


「松之介、やはり、義兄上ですねぇ~、私達では全く気付かないですよ。」


「はい、其れは、私も同感ですよ、あ~、有りましたねぇ~、これが、洞窟内から搬出された粘土です


が。」


 数人の窯元が粘土状の物を手に取り見て要る。


「殿様、これは間違い無く粘土ですよ、まぁ~、少し目が粗いですが間違いは御座いません。」


「やはりでしたか、其れは良かったですよ。」


 松之介は安堵した、やはり、粘土だ、其れも、松川の釜本が証明したので間違いは無い。


「殿様、其れで、この粘土は大量に有るので御座いまいしょうか。」


「窯元さん、其れが分からないんですよ。」


 其の時、勘定方の者達、数人が桶を担いで洞窟から出て来た。


「ご苦労、この粘土は大量の有るのか。」


「其れが、全く分からないので御座います。


 殿、これは、本の一部で天井から落ちて来た土の半分も出しておりませぬ。」


「これだけの量で半分なのか。」


「はい、壁に着いていた物も、次々と落ちて来ますので、一体、どれだけ有るのか、全く、見当も付かな


いので御座います。」


 勘定方の者達は休み無く搬出作業を行なっており、空掘りには、既に、大量の粘土が積み上げられて要


る。


「そうですか、では、全てを出す様に。」


「えっ、全部出すのでしょうか。」


「はい、其れが終われば先端部分に残った粘土も搬出するです。」


 彼ら、勘定方の者達には過酷だと思えるが、何の罪も無い人達の事を考えれば優しい作業だ。


「松之介、今のは。」


「はい、我が藩の勘定方ですが。」


「何故、勘定方の者達が粘土の搬出作業を行なって要るのですか。」


「兄上、彼らは武士として有るまじき行為を行ない、罪も無い町民を切り付け、一人が殺されたのです


が、私が直接聞きましたところ勘定方の者達が全て悪いと判明したので、罰として、洞窟内に有る先端部


分の掘削作業を命じた時に落盤事故が発生しましたので、今は、粘土の搬出作業を命じております。」


「松之介、だが、余り行き過ぎるのも困る事にもなりますので、気を付ける様に。」


「はい、承知しました。」


「殿、あの方々が入られて要るのですから大丈夫では。」


「う~ん、ですが、若しもと言う事も有りますので。」


「殿様、相談なんですが、この空掘りに陶器を焼く窯を作りたいのですが駄目でしょうか、勿論、無理だ


と申されるのも覚悟しておりますが、この粘土を松川へ運んで其処で焼くと言うのは物凄く無駄の様に思


うので御座いますが、如何で御座いましょうか。」


 なんと、空掘りに粘土を焼く為の窯を作りたいと、窯元は何と大胆な事を考えたのだと、若様も吉永も


他の者達も窯元の大胆な提案に驚きを通り越して唖然としている。


「窯元さん、其れは、幾ら何でも無茶と言うのでは。」


「はい、勿論、わしも無茶だと思いますが、若様、これに、わしは命を懸けたいんです。」


 窯元は打ち首を覚悟した顔で直訴したので有る。


「う~ん、司令官、如何でしょうか。」


「若、私が総司令の立場になりますと、う~ん。」


 吉永も直ぐには結論が出せない、だが、搬出した粘土を松川へ運び、其れから連岩を作るとなれば、数


日、いや、数十日以上も無駄な時を過ごす事になり、其れよりも、此処で連岩を作れば補強材として、直


ぐに山賀でも使え、他にも送る事が出来る、其れも、直ぐに答えが出ると言うものだ。


 しかし、お城の空掘りで焼き物の窯を作るとは前代未聞の話で、さすがの吉永も直ぐ結論を出す事は出


来ないと言うので有る。


「窯元さん、少し猶予を頂きたいのですが、今日か遅くとも、明日には総司令が着かれると思いますの


で。」


「はい、私も、今、考えますと真面な考え方では無かったと反省致しております。」


 窯元の表情は少し変わった、其れは、殿様の顔を見れば何も処罰は無いと思ったからで有る。


「いや、宜しいですよ、我らの総司令は突飛なお考えの持ち主ですから、まぁ~、其れを思えば何ともな


いですからねぇ~。」


 其の時、丁度、昼九つの鐘が鳴った。


「少し考えたいとますので皆様、お昼の食事を。」


「若、助かります、後、数時も経てば来られる様な気がしますので。」


 吉永は少しだけ安心したと言うのか、果たして、源三郎は何時山賀に来るのだろうか、松之介達が空掘


りから城内へと戻る時に大手門に源三郎が着いたので有る。


「私は、源三郎です。」


「はっ、はい、直ぐに、大変だぁ~、源三郎様がお着きになられました、源三郎様が。」


 詰所の家臣が大慌てで、殿様の部屋へ行くと。


「若、若様、えっ、若様は。」


「今洞窟の方へ向かわれておられますので。」


「はい、分かりました。」


 又も、家臣は大急ぎで隠し部屋へと向かった。


「若様は、何処に、若様。」


「何事ですか。」


「はっ、はい、今、大手門に源三郎様がお着きになられました。」


「えっ、本当ですか、あ~、これで助かった。」


 松之介も吉永も、やっと一安心したので有る。


 源三郎が来れば、もう、何も心配する事は無い。


「若、総司令が来られましたので、これで一安心で御座います。」


「はい、私も、今、何故か気が楽になりましたよ。」


「ですが、城中が騒がしくなっておりますねぇ~。」


「ええ、何故か分かりませぬが、義兄上が来られた言うだけで家中の者達も大変な緊張して要るのでしょ


うかねぇ~。」


「では、若、大広間に。」


「そうですねぇ~、まぁ~、その方が私としても皆さんに伝える必要もなくなりますので。」


「では、若は、先に。」


「いいえ、司令官、申し訳御座いませぬが、みんなが注目して要ると思いますので伝えにお願い出来ます


でしょうか。」


「はい、では、私が参りまして皆を大広間に。」


 吉永は、何故、家中の者達が注目しているのかも分かって要る。


 多分、若様の事だ、勘定方の者達が引き起こした事件を報告するで有ろうと。


「義兄上、申し訳御座いませぬお忙しいところを。」


「いいえ、私は別に宜しいですよ、で、一体、何が有ったのですか、城中が騒がしく思えるのですがねぇ


~。」


「はい、其の事も含めまして申し訳御座いませぬが、大広間に。」


「ほ~、そんなに大きな事件なのですか。」


 やはり、何か有るとは思ったがやはりその通りだと、源三郎は思ったので有る。


「はい、其れに、正太さん達の事も報告せねばなりませんので。」


「はい、分かりました、では、参りましょうか。」


 源三郎と鈴木、上田は松之介の後ろから行くが。


「あっ、源三郎様だ。」


「お~、これは、正太さんでは、一体、どうされたのですか、おやじさんがねこの数日間、顔を見せない


ので心配しておられましたよ。」


「はい、其れが。」


「正太さん、数人だけならば、大広間に連れて来て頂いても宜しいですよ。」


「はい、では、直ぐに。」


 正太は大急ぎで仲間の元へと向かった。


 暫くして、大広間に着くと家中の者達全員が集まり静かで、松川の竹之進、斉藤も座り。


「では、皆の者、今から、大事なお話しをしなければならないが、私はその前に先日、聴きました、正太


さん達の仲間が絡んだ事件の報告と総司令のご意見をお聞きしますので、暫くそのままで。


総司令、実は、先日、正太さん達の仲間から。」


 松之介は勘定方の者達が引き起こした事件の内容を報告し事件に関与した勘定方の処分を話すと、源三


郎は吉永の視線を感じたのか。


「はい、ですか、若、処分が甘すぎますよ、私ならば、即刻全員を山に連れて行き足を切断しそのまま放


置しますがねぇ~。」


「えっ、ですが、足を切断されますと、もう。」


「はい、歩けませんねぇ~、後片付けは、狼や烏、猪に任せますので、残るは、まぁ~想像だけで十分で


すが。」


「では、下手をしますと、狼達の餌食に。」


「はい、もう、其れは、大変な苦しみを味わいながら死にますが、其れは武士として有ってはならない事


件ですよ、其れに、下手をすれば城下の人達、数人が勘定方の理不尽な行いで切り殺されていたと思いま


す。


 私はねぇ~、侍に対しては、同じか、まぁ~、殆どは其れ以上の苦しみを与えなければならないと思い


ますが。」


「ですが、やはり、武士としての。」


「何を申されるのですか、その様な者達に同情などは必要ない、若が出来ないので有れば、今からでも私


が参りましょうか。」


 大広間の家臣達は鬼家老とその息子を征伐した時の事を思い出したのか、もう、全員が恐怖のどん底に


叩き込まれた表情をしており、それ程、源三郎は恐ろしいのだと、だが、吉永は、源三郎の大芝居だと分


かって要る。


 松之介に対し、侍に対しては、もっと厳しく処罰する様せよとの圧力で有る。


「総司令、少しお待ち下さい。」


「ご家老、何を待つのですか。」


「はい、今回の処分は、若としても、現場の先端部分が危険だと、その一番危険なところに勘定方を入


れ、休む時も食事も寝る時も全て洞窟内だと申されておられますので、私からも、どうか、お願い申し上


げます、若にお任せ下さいませ。」


 源三郎も分かって要る、吉永に任せれば全てが大丈夫だと。


「司令官、では、全てお任せ致しますので、但し、その勘定方の処分は最後まで続けて下さい。


 其れと、その者達のお内儀にはご家老から説明に参って下さい。


 其れで、正太さん、木こりさんと大工さんの知り合いはおられませんか。」


「木こりも、大工もおりますが。」


「其れで、お聞きしたいのですが洞窟の有る山ですが、私が見たところではこの数十年間、木こりが入っ


て間伐材の切り出しはされておりませんので木こりさんにお願いして間伐材の切り出しを、其れと、焼く


窯にも屋根が必要と思いますので大工さんに窯元さんの指示で作る様にとご家中の方々は間伐材の運び出


し、其れも、大工さんの指示でお願いします。


 正太さん、洞窟ですが、今はどの様な状況になって要るのですか。」


「今、此処にあの時、現場でいました仲間がおりますので、おい、源三郎様にお話しを。」


「うん、オレは、あの時、仲間二十人と一番奥で掘削をしてたんですが。」


「其れは、どれ程、進んでいたのですか。」


「はい、前のところからは、一町は進んでおりましたので。」


「えっ、もうあれから、一町も掘られたのですか、其れは物凄い事ですねぇ~。」


「源三郎様、実は、あの頃から土が柔らかくてもの凄い速さで掘れるんですよ。」


「正太さん、では、我々が行ったところからですか。」


「はい、其れで、オレ達はバカなもんで、これだったら、早く掘れるって、其れは、もう、物凄く楽だっ


たんです。」


「はい、じゃ~早く掘り過ぎたのですか。」


「はい、若様からは、高さも、幅も聞いていましたので若様の言われる通り掘って行ったんです。


 でも、オレ達は中に補強する事を忘れてまして、其れで、先日、天井から崩れて来たんです。」


「で、今はどの様になって要るのですあ。」


「はい、源三郎様が最初に見られた大きさになってるんです。」


「では、大量の粘土が落ちて来たと考えなければなりませんねぇ~。」


 源三郎は考えた、今の勘定方の数人で粘土の全てを搬出するのは不可能だと。


「若、今、勘定方の者達だけで粘土の搬出をされて要るのですか。」


「はい。」


「正太さん、今の量を搬出するのは不可能です。


 其れで、正太さん、申し訳有りませんが数日間の休みを取り、その間に、全員を三つの班に分けて頂き


たいのです。


 其れで、四日目からになりますが三つの班を交代で粘土の搬出作業に入ります。


 若、勘定方の者達も正太さん任せて下さい。


 そして、これからが大事ですよ、正太さんは全体を見て頂かなければなりませんのでね現場には入らな


い様にして下さいね。」


「えっ、源三郎様、何でオレが現場に行けないんですか。」


「はい、正太さんは全体を管理すると言うこの現場では一番大事な仕事が有りますのでね。」


「でも、源三郎様、オレにその管理って仕事なんか無理ですよ。」


「ねぇ~、正太さん、私も無理は承知しておりますが、では、正太さんの他にどのたがおられますかねぇ


~。」


「う~ん。」


 仲間も、この仕事は、正太のだと。


「正太、オレ達が現場に行くから、お前は源三郎様の言う通りにしてくれよ。」


「う~ん、だけど。」


「なぁ~、正太、源三郎様がお前にしか出来ないって言われてるんだぜ、其れに、オレ達みんなはお前が


頼りなんだから、若様の為になっ。」


「うん。」


 正太は引き受け無ければならない状態になり。


「うん、わかったよ、源三郎様、其れで何をすればいいんですか。」


「正太さん、これで決まりですねぇ~。」


 源三郎の作戦で正太は引き受けた。


「窯元さん、其れで、焼き釜はどれ程くらい作られる予定でしょうか。」


「そうですねぇ~、出来れば空掘りには多く作りたいと思ってるんですが、其れと粘土の置き場も確保し


たいので御座います。」


「若、家臣を総動員して、窯元さんの指示で焼き釜作りに入って下さい。」


 一体、何か所の焼き釜が出来るのだろうか。


「其れで、若にも、現場の管理をお願いしますね、其れと、賄い処だけでは大変ですので腰元達も動員す


る様に。」


 やはり、源三郎が決めると早い、これで、山賀の殆ど全員が動員され焼き釜作りと、正太達は粘土の搬


出作業と決まり、その後、正太の仲間が城下へ向かい、知り合いの大工数人を城へと連れて行く。


「若殿、松川の峠はどの様になっておりますか。」


「はい、今は順調に掘削作業が進んでおりまして、現場では連岩も作り始めております。」


「そうですか、峠の掘削作業が終われば作業員は数日間の休みを取らせて下さい。


 その次は、山賀へと向かって掘削作業に入って頂く事になりますので。」


「源三郎様、今、現場では作業員の家と炊事場と大食堂の建設に入り近く完成の予定で。」


「そうですか、で、作業員の確保は。」


「はい、城下で作業員の募集を行ない、約、1千人が集まりました。」


「では、その人達の食料は確保されて要るのですか。」


「はい、米蔵も有りますので、其処には、連日、お米が運び込まれております。」


「斉藤様、これ程の大所帯になりますと、必ず、揉め事が起きますので。」


「はい、其の事に尽きましても、私が厳重に申し伝えて有ります。」


「いゃ~、私は皆さんのご協力に感謝致します。


 どの国の工事でも、一番、恐れて要るのが事故で小さな事故を見逃すと、何れは必ず大事故に繋がり、


大事故と言うのは死亡者が発生すると言う事です。


 今回、山賀の洞窟で起きた落盤事故は考え方によっては不幸中の幸いだと思って下さい。


 これから先も、一体、何が原因で事故が発生するやも知れませぬので、特に身体の不調を言われたので


有れば、どんなに本人が行くんだと申されましても、絶対に現場には行かせない、其れが、正太さんと若


の仕事です。


 我々の仲間からは一人の犠牲者も出さないのだと言う強い意志と注意が必要ですからね、お二人には現


場で働く人達の命が掛かって要るんだと思って下さい。」


 正太は大変な仕事になったと、だが、源三郎と言う人物は相手が例え島帰りの者達で有ろうと関係無く


登用して行く、其れが、源三郎のやり方なんだと改めて気を引き締めたので有る。


 其れからの数日間、正太は仲間と相談し全員を三つの班に分け、松之介と正太は吉永に報告した。


 そして、今日から作業が開始される朝。


「今、此処に山賀の家臣全員と正太さん達の仲間の1千人が集まりまして今日からは本格的な作業に入り


ますが、皆さん、どうか、事故にだけは細心の注意を払って下さい。


 では、皆さん、作業に入ります。」


「お~。」


 と、家臣達も正太達の仲間も拳を突き上げ気勢を上げ、各班事に別れ作業現場へと向かった。


 この時には、勘定方の者達は最前列で笑顔になり正太の仲間と洞窟へと入って行く。


 家臣達は木こりと城裏の森に入って行くがどの顔も以前、源三郎が来た時に比べると全く違い、今は、


全員が領民の為に、其れが、最終的には山賀の全員が生き残れるのだと言う思いなのだ。


 若様と正太は、その日から現場に行く者達に身体の調子を聴き、現場での作業に就いても支障が有るの


か、無ければ許可を出すと言う仕事に充実した様子で二人も納得して要る。


「うん、これで、山賀も大丈夫だ。」


 源三郎は松川へと向かう考えで有る。


「若殿、明日、松川へ向かいたいと思うのですが、何か、特別なご用事でも御座いますでしょうか。」


「いいえ、私は別に、それでは、丁度、良い機会ですので、松川の現場も一度見て頂ければと思うのです


が。」


「いいえ、私は先程のお話しで全て分かりましたので宜しいですよ。」


 源三郎は、別に現場を見る必要も無いと、其れよりも、義理の父を訪ねるのが大事だと思った。


「私は、義父上様にお会い出来れば、其れで宜しいのです。」


「はい、其れならば、父上も喜ばれると思います。」


「では、明日の朝、発ちたいと思いますので。」


「はい、では、明日と言う事で。」


「私は城下に入り、城下の人達の様子を見て旅籠に泊まりますので。」


「はい、承知致しました、では、明日、義兄上、旅籠は依然と同じ所でしょうか。」


「はい、私も決めておりますので。」


 源三郎と鈴木、上田の三名は城下へと向かが、そろそろ夕刻で源三郎は城下の一善飯屋に入った。


「おやじさん。」


「これは、お侍様、さぁ~、どうぞ。」


「おやじさん、一本付けて下さい、其れと、肴はお任せしますのでね。」


「はい、承知しました。」


 店主は、源三郎の顔を見て、ほっとしたのだろう優しそうな目付きで奥に入った。


「総司令、これで、山賀も大丈夫の様ですねぇ~。」


「はい、私も一安心しましたよ、でもねぇ~、まぁ~、大事故にならなかっただけでも不幸中の幸いと申


しましょうか、一人の犠牲者も出なかったのですからねぇ~。」


「総司令、これで、全てが進み始めましたが、田中様は今頃どの付近でしょうか。」


「私も今度ばかりは、何処に向かわれて要るのか分かりませんので全く見当も付きませんよ。」


「其れにしても、田中様はどの様な情報を仕入れて戻って来るのでしょうか。」


「上田様、この五か国と言う国々の有る地域ですが、まぁ~、素晴らしい特色の有る地域です。


 北は洞窟が多く有る海岸で南側は高い山々が連なり、人間を簡単には寄せ付けないのですから、特に、


冬場ともなれば、其れは物凄い積雪量で雪に慣れて要る我々でも山を越す事は不可能な地域ですから、ま


してや、大雪を知らない多くの兵士が重い荷物を持って山を越えては来ないだろうとは思いますがね、人


間と言うのは時には想像を超える事もしますので、まぁ~、油断は禁物だと言う事ですよ。」


「総司令、では、田中様の任務と言うのはいち早く知ると言う事なのですか。」


「鈴木様、勿論、其れも大事ですが、其れよりも、私は新組織の目的を知りたいのです。」


 確かに、目的の無い戦は無いとは思いますが、其れに、幕府も相当な抵抗をすると思います。」


「私は、以前、田中様から聴いた話では幕府軍と新組織の軍装備が余りにも違い過ぎだと思うのですがね


ぇ~、まぁ~、其れが、どの様な結果になるのかは分かりませんが。」


「では、幕府が予想した以上に早く戦が終わり幕府は滅亡すると。」


「そうですねぇ~、私はその様に思いますよ、過去の戦しか知らない武士の幕府が農民や町民の持つ武器


に勝てるとはどの様に考えても有り得ないのですからねぇ~。」


「総司令、やはり、武器ですか。」


「はい、あの組織が大量の鉄砲や大砲を持って要ると考えねばなりませんが、我が連合国と言うのは、過


去に大きな戦を行なっていないと言うのが現状で考えますと大変厳しい状況に有りますので、連合国で、


一体、何丁の鉄砲と何門の大砲が有るのか其れも調べねばなりませんねぇ~。」


「お侍様、お待たせ致しました。」


「ほ~、これは、美味しそうですねぇ~。」


「はい、今朝、農家の人が採れたてを持って来てくれましたので。」


「おやじさん、正太さん達は元気でしたよ、其れで、今はお城で仕事をされていましてね、其れでおやじ


さんの店に行けないと言っておられましたよ。」


「へ~、あの正太がねぇ~お城で仕事をですか、まぁ~、其れは嬉しいですねぇ~、じゃ~、其れで城下


の仲間もお城に行ったんですか。」


「はい、其れよりも、まぁ~、皆さんも元気でしたから、おやじさんが心配してましたよって言いました


のでね、その内暇を見付けて来ると思いますのでその時には飲ませて下さいね。」


「はい、お侍様、で、正太達はお城でどんな仕事をしてるんですか、城下の噂では、何か大切なお仕事だ


って聴いたんですが。」


「そうですか、まぁ~、其れよりも、正太さん達が来るのを楽しみして下さいよ。」


「はい、ありがとうございます。」


 おやじさんは頭を下げ下がった。


「総司令、何の仕事か言わなくても宜しいのですか。」


「まぁ~、その内、誰かがこの店に来て話すでしょうからねぇ~。」


「其れも、そうですねぇ~、我々が無理に言う必要も有りませんから。」


「先程の武器の件ですが、調べる必要が有ると思うのですが。」


「まぁ~、まぁ~、お二人共、別に急ぐ必要も有りませんよ、工事が有る程度落ち着いてからでも遅くは


有りませんので、其れに、今は城下の人達が中心的に働いておられますので下手に騒ぐ必要も有りません


よ、私は野洲に戻ってからでもと考えておりますので。」


「では、文を。」


「いいえ、その時にはお二人にお願いする事になると思いますので。」


 二人は頷き。


「その時は隠密にと言う事なのですね。」


「はい、勿論で、その様になります。」


 三人は、其れから、暫く店で飲み旅籠に入ると。


「あっ、お侍様。」


「番頭さん、突然に申し訳有りませんねぇ~。」


「いいえ、その様な、お侍様、こちらに。」


 番頭は、一体、何を慌てて要るのか源三郎を調理場へと連れて行き。


「番頭さん、どうされたんですか。」


「お侍様、実は、つい、先程ですが、怪しい三人組のお侍が入って来ましてね。」


「怪しい、三人組ですか。」


「はい、其れが。」


 番頭は、源三郎に三人組の話をすると。


「えっ、着物では無いと。」


「はい、私も初めて見ましたが、大工が、黒い、え~っと、あれは、何と言って良いのか。」


「はい、其れで。」


 番頭は、源三郎が何時も止まる部屋の隣に入れたと、源三郎は三人組の正体は全く分からないと言うよ


り、見当も付かないので有る。


「鈴木様は、音を発てずに部屋に入って下さいね、上田様はお城に行き。」


「総司令、明日の予定が変わったと。」


「はい、お願いします。」


 鈴木は太刀を帳場に預け、二つ手前の部屋から入って行き、上田は大急ぎで城へ向かった。


「番頭さん、その三人組ですが、何か話しをしておりましたか。」


「はい、この山を越える事は出来るのかと申されましたので、私は何故かお侍様が来られる様な気がしま


したので、咄嗟に、いいえ、あの山を越えるのは無理ですと申し上げたんです。」


 番頭は長年の勘で源三郎が来る様な気がしたのだろうか。


「其れで。」


「はい、では、どこか、向こう側に抜ける道でも無いのかって聞かれましたので。」


「この山を越えるには地元の猟師でも困難ですよ、其れに、この山には狼の大群がおりますので、城下の


人達は殆ど近付かないのですと。」


「えっ、本当に狼の大群が要るのですか。」


「ええ、まぁ~、狼も居ますが猪の方が多いですから。」


「ふ~、助かりましたよ、私も狼は恐ろしいですからねぇ~。」


「其れで、私は知らぬ顔で聞いたんですよ、お侍様は何処から来られたのですかって。」


 旅籠の番頭は狼が少ないと思ったが、其れは、源三郎が番頭を安心させる為で。


「山の向こう側には間違いは無いのですが、でも、一体、何処から来たのでしょうか。」


「多分ですが、松川藩の山からだと思います。」


「ですが、松川藩とすれば山賀の城下までは相当な距離が有ると思いますがねぇ~、其れが、何故です


か。」


「はい、昔からですが、松川藩の少し手前ですが城下が見えるところが有ると聞いて要るんですが、猟師


の話では見えて要るのは、松川藩の城下では無く山賀の城下なんです。」


「えっ、でも、山は松川藩だと申されましたが。」


「はい、でも、山賀も松川藩もですが、山には熊笹が人の背丈以上の高さで、其れに、辺り一帯が熊笹に


覆われており全く前が見えないのです。


 でも、猟師は目印が有りますので間違いは無く行けるんですよ。」


「では、その三人組は道に迷ったと、いや、山に入ってから迷ったと。」


「はい、其れで、三人組の着物と申しましょうか、其れはもう熊笹でボロボロに、其れに、腕や、足、他


にも顔も傷だらけでしたよ。」


「刀傷では無いのですか。」


「私もジロジロと見る訳にも参りませんので。」


「まぁ~、其れは、当前ですよねぇ~、其れで、山の向こう側へ抜ける道は。」


「はい、この道も大変なんですが、城下からは一本道になってますので、その道に入るには大きな岩が有


りまして岩の裏側から道が急に細くなっており、でも、殆どの人は知りませんので。」


「番頭さん、その道は山の上まで行けるのですか。」


「はい、でも、其処は猟師だけが知ってる道でして、其れに、付近には狼がおりますので危険なんですよ。」


 三人組の怪しい侍が山に入って道に迷い山賀の城下に入ったと、番頭の話では三人組は侍の着物では無


く黒装束だと、この話が本当だとすれば、やはり、田中の言った新しい組織の者達で有ると考えられるの


で有る。


「番頭さん、申し訳有りませんが、鈴木様を。」


「はい、お任せ下さい。」


 番頭は鈴木の要る部屋へと向かった。


 部屋では鈴木が息を殺して耳をそばだてて要るのか、だが、一体、何処の国の言葉なのか、何を話して


いるのかも全く分からない。


「え~っと、確か、この部屋だが、おのお方はお着きになられたのかなぁ~。」


 番頭はわざと独り言を言って障子を開け。


「あら~、まだ、来られて無いのか。」


 番頭は手招きで鈴木を呼び小声で。


「お侍様がお呼びで御座います。」


 鈴木は頷き源三郎の要る帳場へと向かった。


 その頃、上田は山賀のお城に入り。


「殿様。」


「上田様、如何なされました。」


「はい、先程、旅籠に入ると。」


 上田は松川の竹之進に全てを話し。


「その様な訳で御座いますので明日の出立は無理かと存じます。」


「はい、承知致しました、ですが、義兄上がお一人で大丈夫でしょうか。」


 竹之進は源三郎が一刀流の達人とは知らない。


「殿、源三郎様ならば少しの心配もご無用かと存じます。


 あのお方は、一刀流の達人で三人くらいならば若殿が瞬きの内に終わりますよ。」


「えっ、其れは、誠ですか。」


「そうですよねぇ~、上田殿。」


「はい、斉藤様の申される通りで御座います。


 其れに、山賀での一件で山賀の家臣達も総司令の恐ろしさを目の前で見ておりましたので。」


「そうですか、ならば安心ですが、上田様、その三人組ですが。」


「はい、でも、番頭の話でも全く初めて見る着物だと、其れも、上から下まで黒装束で、ですが、話しの


最中に私は宿を出ましたので。」


「分かりました、では、義兄上には宜しくお伝え下さい。」


「では、私はこれで失礼します。」


 上田は山賀の城を出ると大急ぎで宿に向かった。


「鈴木様、何か分かりましたか。」


「ええ、其れが、私も一体何を話しているのかも全く分からないです。


 ただ、番頭さんが道をどうのこうとか。」


「お侍様、私が教えました抜け道で御座います。」


「正しく、その通りですねぇ~、では、明日、早朝の出立だと思いますねぇ~。」


「総司令、私達はどの様にすれば。」


「まぁ~、今夜のところは出立しませんので、明日の七つ半に起きても大丈夫だと思いますよ。」


「では、今度はお部屋に。」


「はい、今、着いたと話を合わせますので少しは聞こえるのも良いと思いますよ。」


「では、ご案内致しますので。」


 番頭が案内しようと源三郎達と帳場を出たところで、一人が下りて来た。


「番頭さん、後で宜しいが、明日、早いので支払いを先に。」


 源三郎達は代わりに来た丁稚の案内で部屋に入った。


「やぁ~、今度の視察は疲れますねぇ~。」


「はい、誠にその通りで、この地域と言うには高い山に囲まれておりますのでねぇ~。」


「明日は山の向こう側に行かねばなりませんが、後で番頭に聴きましょうか。」


「巡検士、明日は早立ちで。」


「はい、夕刻前に城下に入りたいので、先にお支払い済ませて下さい。」


「では、直ぐに。」


 鈴木は部屋を出、帳場に向かった、帳場では黒装束の男が番頭に支払いを済ませ部屋へ戻る途中で有


る。


「番頭さん、この山を越えたいのですが。」


 番頭も鈴木の芝居と分かり。


「はい、ではご説明しますので、こちらに。」


「はい、申し訳御座いませぬ。」


「お侍様、あの三人組は明日七つ半に宿を出ると。」


「そうですか、では、我々はその少し後に出ますがお支払いを。」


「お侍様、今回はよろしゅう御座いますので、其れよりも、怪しい三人組の事を何卒宜しくお願いしま


す。」


「番頭さん、その様な事をされましては。」


「いいえ、次の時にはたっぷと頂きますので。」


 番頭はニッコリとして頭を下げた。


「では、我々も早立ちしますので。」


「はい、承知致しました。」


 鈴木は頭を下げ部屋に戻ると。


「巡検士、山を抜ける道が有りましたので、我々は明け六つに出立すれば良いと、番頭さんが申されまし


た。」


 鈴木は手で七つ半だと合図した。


「はい、では、明日は早いので、少し疲れを取りたいので風呂に参りましょうか。」

 

 源三郎達は風呂に部屋では出来ない話が有ると、源三郎達は風呂で話を済ませ部屋に戻ると隣は静かで


早くも寝て要るのだろうか。


「さぁ~、我々も明日が早いので寝る事にしますか。」


 源三郎達は三人組が宿を出ると直ぐ後に続くと話し終わって要る。


 そして、明くる日の早朝、空はまだ暗い、やがて、七つ告げる鐘が鳴ると隣は慌ただしく出立の準備を


し、七つ半頃宿を出た、源三郎達は確認すると番頭から教えられた別の道を通り、三人組よりも早く目印


の大きな岩を過ぎ森の中で待ち伏せた。


 やがて空が明るくなる頃、三人組が上がって来たが、怪我をしている様子で近付いて来る。


 森に近付くと辺りは薄暗くなり黒装束の侍達の姿が見ずらい。


「あの~、少しお待ち下さい。」


「えっ、誰だ。」


 男達が身構え。


「少しお聞きしたいが、お主達は何れのご家中か。」


「何だと、我々は。」


 二人は早くも刀を抜き、切り掛かろうとしているが、源三郎はこの者達は、一応、武士だ。


「まぁ~、まぁ~、私はお主達が何処から来られたのか、何処に向かわれるのかを知りたいだけですので


ね。」


 彼は返答に困っている。


「何故、名乗れないのですか、何か不都合でも有るのか。」


 其の時、突然、二人が刀を振りかざし襲い掛かって来た、源三郎は身体を反転させ、二人の両手首を討


った瞬間、足首にも木剣で打ち据えられ二人はうめき声を上げ転倒した。


 もう一人は刀を抜かず茫然と見て要る。


「鈴木様、上田様、二人の着て要る物を脱がせて下さい。」


 二人は、倒れて要る黒装束の男達から着て要る物を脱がした。


「さぁ~、貴殿は如何されますか、この二人はこの間々放置しますからね、まぁ~、直ぐ、狼が来るでし


ょうからねぇ~。」


 二人はうめき声を上げるが、両手首は折れ足首も折れて立ち上がる事さえも出来ない。


「狼だと。」


「ええ、まぁ~、仕方無いでしょうねぇ~狼の餌食に、後は山の烏が綺麗に後始末しますのでね、一体、


何処の誰なのかも知られる事も有りませんからねぇ~。」


「えっ。」


「此処にはねぇ~、狼の大群がいましてねぇ~、地元の人達でも近付かないんですよ。」


「あの番頭は。」


「まぁ~、其れよりも、この場から早く逃げないと狼が来ておりますよ。」


「えっ。」


 黒装束の男は驚きの連続と狼の大群が要ると聴くだけで顔は恐怖で青ざめ身体は震えて要る。


「まぁ~、少し下がりましょうか。」


 男は何も言わず、源三郎の後ろを付いて行き、暫くすると、突然。


「ぎゃ~。」


 叫び声がし。


「誰か、助けてくれ~。」


 その後、叫び声も暫く続くが、その声も聞こえなくなり。


「まぁ~、直ぐに死ぬ事は有りませんよ。」


 男の身体は震えが止まらない。


「此処ならば、多分、大丈夫でしょう、狼も今は二人を食べて要る頃だと思いますよ、其れで、ご貴殿の


返答次第ですからねぇ~、狼の餌食になるか、私の質問に正直に答えるか、其れで、運命が決まると思い


ますが、如何なされますか。」


 男は既に観念した様子で。


「おいドンは、薩摩から来ました。」


「えっ、薩摩と申されると。」


「九州の薩摩です。」


 さすがの源三郎もこの閉鎖された地方で生活をしていると九州の薩摩と言われても、全くと言っても良


い程知らないので有る。


「其れで、何の目的で我が領地に来られたのですか。」


「我々は幕府を倒す為に長州と連合を組、江戸へと進軍して要る軍隊で途中幕府軍と小さな戦闘に会い、


おいドン達、三人が逃げ込んだ山で道に迷ったんだ。」


「そうですか、で、その戦闘は何処で。」


「備州の国だ。」


「備州ですか、其れで。」


 源三郎達が備州と聴いても、一体、何処に有るのかも分からない、だが、源三郎は知った振りをして要


る。


「備州で幕府軍と遭遇し、激しい戦闘になり、おいドン達は敵から逃げる為の山に入ったんだ。」


「そうですか、其れで、貴殿達は何と呼ばれているのですか。」


「おいドン達は官軍だ。」


「えっ、官軍と申しますと。」


「おいドン達には、この世で一番大切な方がおられ、幕府を倒し新しい日本を作る為に戦を。」


「新しい日本を作るのですか、其れで、貴殿達が官軍と呼んで要る組織の武器は。」


「これだ、これが、最新式の連発銃だ。」


 男は片方に持っていた銃を見せると、其れは、源三郎達の知って要る火縄銃では無い。


「ほ~、これが、最新式の連発銃ですか、其れで、その威力は。」


「幕府の火縄銃の数十丁分で、この一丁と、これだけの弾が有れば、幕府軍、五十人以上でも勝てるん


だ。」


 男は腰に付けた弾倉帯から弾薬の入った革製の入れ物を見せた。


 中には数十発の弾薬が入って要るが、源三郎が初めて見る物で、これだけで五十人以上と戦えるとは、


一体、この最新式の連発銃とはどの様な銃なのか。


「では、あの二人も持って要るのですか。」


「弾薬は、さっきの軍服に付けて有る、連発銃は多分傍に有ると。」


「鈴木様、上田様、今はまだ危険ですので、後、暫くしてから行って頂けますか。」


「はい、承知致しました。」


「ところで、貴殿はこの山を一人で行かれるのですか。」


「う~ん。」


 男は考え込んでいる。


「この先ですが、一町も行けばその先に道は無いですよ、身の丈以上の熊笹に覆われていますから、方角


は全く分からなくなり、狼に襲われる事になりますが、其れでも行かれるので有れば、私は何も止めませ


んがねぇ~。」


「おいドンは、一体、どうすればいいんだ。」


 源三郎はこの男が官軍と言う組織でどの様な位置に有るのか、其れよりも、この男を利用する策を考え


て要る。


「まぁ~、あの二人の様になりたければ、どうぞ、ですが、命が欲しいと言われるので有れば私と一緒に


来ませんか。」


「えっ、一体、何処に。」


「私は貴殿を殺すとは申しておりませんよ、多分、多分ですが、貴殿のお仲間は探されてはいないと思い


ますよ。」


 源三郎は命を助けるので全てを話せと言ったので有る


「分かり申した、おいドンも命が欲しい、殺さないと言うのを信じて何処にでも。」


「そうですか、では、鈴木様と上田様は連発銃が有れば持って山賀のお城に。」


「はい、一応、付近も探して見まして、其れから向かいますので。」


「では、お願いしますね、参りましょうかねぇ~。」


 源三郎は前を行き、男は力の無い歩き方で山賀のお城へと向かった。


 途中、城下を通るが町民は男の着て要る物が珍しいのだろうかジロジロと見て要る。


「あっ、源三郎様だ、誰かお知らせして下さい。」


 源三郎と男は城内に入り、若様、松之介の要る部屋へと向かった。


 一方、松之介も予想はしていたのだろうか、別に驚く事も無く源三郎が待っている部屋に入ると。


「義兄上。」


「若、大丈夫ですよ、このお方が、この藩の藩主ですよ。」


 男は静かになり松之介に頭を下げた。


 大手門からの連絡で吉永を初め、松永、伊藤、加納、井出も部屋に要る。


「さぁ~、気軽にして下さね、若、この人物は九州の薩摩から幕府打倒の為に、他の二人と来られたので


すねが、二人は既に死亡しておりこの人物だけが生き残ったのです。」


「義兄上、その人の着物と申しますか。」


「これは、軍服と申しまして、他の二人も着用しておりまして、其れで、貴殿の名は。」


「おいドンは、井坂辰之助と申します。」


「で、貴殿は、何用で来られたのですか。」


 井坂は考えて要る、全てを話すか、其れとも狼の餌食になるのか。


「おいドンは軍隊でも司令部に所属し、戦闘には殆ど参加していません。」


 これは、新しい情報だ、だが、司令部とは一体どの様なところなのだろうか、源三郎も初めて聴く名称


で有る。


「今、貴殿が申された司令部とは、一体どの様なところなのですか。」


「司令部とは軍隊の中でも一番大事な部署で、作戦を練り各部隊からの情報が集まり作戦を命令するとこ


ろです。」


 やはり、男は全てを話す気持ちになったのだろう、その後、質問の全てに応え、殆どが、源三郎が初め


て聴く事ばかりで驚きの連続で有る。


「貴殿はこれからどの様にされたいのですか、私も先程申しましたがね、高い山を越えるのは多分、無理


だと思いますがねぇ~。」


 井坂と言う人物は、源三郎が言った山を越えるのは不可能だと思って要る。


 だが、この地に留まる事は今の現状では考えられず、だからと言って猟師を案内人として帰らせる必要


も無い。


 其の時、鈴木と上田が戻って来た。


「総司令、有りました。」


「そうですか、其れで、弾薬は。」


「はい、この人の申された通りで、其れと、二人ですが、狼に食べられた後、烏が死体に群がっておりま


した。」


「えっ、では。」


「はい、もう、殆どが骨で、誰なのか見分けは尽きませんでした。」


「今、聴かれた通りで、私もあのお二人を死なせるつもりは無かったのですがね、まぁ~、行き掛


かり上仕方が無かったのですよ。」


 井坂は身体の力が一度の抜けたのかガクンと落ちた様子で。


「まぁ~、私は貴殿を拘束しませんから、自由にして頂いても宜しいですよ。」


 仲間の二人は狼の餌食になり今は骨だけだと、だが、拘束はしないと言われたが、一体、どうすれば良


いのか迷って要る。


「でも、おいドンは、一体、どうすればいいんです。」


「貴殿が生きたければ、この地に残れますよ。」


「えっ、では、おいドンは自由なので。」


「はい、先程も申しましたが山を越す事は無理ですからねぇ~、まぁ~、のんびりとしてから答えを出さ


れては如何でしょうかねぇ~。」


 井坂は源三郎と言う人物が分からなくなってきた、言葉は優しいが目の前で二人を打ちのめし、二人を


狼の餌食にした恐ろしい男だ、其れに、捕虜では無いと自由に出来る、だからと言って、山を一人で越え


るのも不可能だと言うので有る。


「このお城でも城下の旅籠でも宜しいですよ。」


「えっ、あの旅籠に。」


「ええ、そうですよ、ですが、番頭さんを責めないで頂きたいのです。


 番頭さんは、何も悪気が有って貴殿達に道を教えたのでは無いのですからね。」


 この城の城主は、一体、何を考えて要る、果たして、本当に信用して良いのだろうかと。


「若、井坂殿と申されるお方ですが、城内では自由に出来ないので旅籠まで送ります。」


「はい、総司令にお任せ致せします。」


「では、参りましょうか。」


 井坂は源三郎の勧めと言うのか、昨日、泊まった旅籠へと行こうとすると。


「お侍様、おいドンは他に行っては駄目ですか。」


「いいえ、別に宜しいですよ、何故ですか。」


「はい、このご城下には余り居たく無いので。」


 井坂は仲間二人が狼に食い殺さた土地から一刻も早く逃げ出したいのだろうと、源三郎は思い、なら


ば、野洲に連れ帰る事にした。


「では、支度が終わり次第、野洲に帰りましょうかねぇ~。」


「はい、承知致しました。」


 源三郎達は松之介に訳を話し、その足で野洲へと向かうので有る。


「おいドンは、一体、どうなるのですか。」


「私達の国へ参りましょうかねぇ~。」


「遠いのですか。」


「まぁ~、のんびりと参りましょうか。」


「はぁ~。」


 井坂は源三郎の言う国へと向かうのだが内心は穏やかでは無い、かと言って、今更、何処に行けば良い


のかも分からないので有る。


 野洲へ向かう途中何度も高い山の方角を見て要るが、山は何処までも連なり、一体、何処まで続いて要


るのだと思うので有る。


 街道を歩いて要るが旅人の姿は殆ど見ない、其れよりも、驚くのは通り過ぎる農民達の殆どが源三郎に


会釈して行く、何故だ、我が薩摩では全く有り得ない光景で、しかも、源三郎は気軽に農民達に向かって


声を掛けている。


「う~ん、其れにしても理解に苦しむ、さっきのお城では、藩主が敬語を使い、あの国の人物だと思った


が違い総司令と呼ばれて要る。


 一体、この人物は、何者なのだ。」


 井坂が幾ら考えても理解は不可能だ、藩主が敬語を使い、農民達からは気軽に声が掛かる、その様な人


物が他の国に要るだろうか。


「井坂殿と申されましたが、司令部と言われるところで作戦を練るとは、一体、どの様な仕組になって要


るのですか、宜しければお聞かせ願いたいのですがねぇ~。」


「はい、司令部とは軍の全てを統括するところで司令部から全ての命令を出すのです。」


「軍と言うのは。」


「はい、軍隊は大勢の人間がおりますが、全員に階級が付いて要るのです。」


「えっ、階級ですか、では、今までの様に武士だけでは無いのですか。」


「はい、武士よりも殆どが農民や町民で、侍達よりもその人達の方が多いです。」


「では、強制的だと。」


「う~ん、知らないお方から見れば強制的ですが、今回の戦争は新しい日本を築くのが目的でして今まで


苦しめられて来た農民や漁民は命を投げ打って参加しています。」


「其れは、領民の為と言う事なのでしょうか。」


「まぁ~、少し違いますが、数百年も続いた武家社会を壊し、庶民の為の政府を作るのが、一番の目的で


す。」


 庶民の為と言う戦争が、今、行われている。


 だが、司令部の者達は武士と言われる者達が握って要る事に間違いは無い。


 源三郎が推し進めて要る工事は家臣達が中心では無い、寧ろ、反対で、げんたの様な子供でも中


心的な存在の者達が多く、漁師や農民が、更に、島帰りの者達までもが中心となって要る。


 確かに、教育を受けた侍が中心になる事には否定はしない、だが、源三郎は農民や猟師、町民が積極的


に参加する事に意義を見出して要る。


「井坂殿、これから、私を源三郎と呼んで頂いても宜しいですよ。」


「えっ、ですが、おいドンは。」


「いゃ~、宜しいのです、私の国でも他の国でもですが、私を源三郎と呼びますので、嘘と思うならば、


その二人に聴いて頂いても宜しいですよ。」


 井坂が振り向くと。


「この地方では、農民も町民も侍達の誰でもが、源三郎様と呼ばれておりますから。」


 鈴木はニコリとし、上田も頷き、その日の夕刻、松川の旅籠に着き。


「あっ、源三郎様。」


「番頭さん、何も有りませんよ、今夜は、宜しくお願いしますね。」


「はい、で、源三郎様、お部屋は何時もの。」


「はい、空いておりますれば、宜しくお願いしますね。」


「は~い、勿論で、お~い、誰か、源三郎様がお着きですよ。」


「は~い、わぁ~、源三郎様お久し振りですねぇ~。」


「はい、今夜、宜しくね。」


「は~い。」


 番頭も女中達もが源三郎と呼び、果たして、源三郎と呼ばれる人物は、どれ程の大物なのか井坂は考え


るが、この地方では普通で、其れが、井坂に理解出来るとは当然無理で有る。


「あの~、おいドンは。」


「はい、勿論、別の部屋を頼みましたよ。」


「いいえ、其れは、出来ればこちらのお二人のお部屋で。」


 多分、井坂は鈴木と上田に色々と聴きたいのだろうと源三郎は思い。


「鈴木様も上田様も其れで宜しいでしょうか。」


「はい、私達は別に宜しいですが。」


「では、その様にお願いしますね、私は先に風呂に入りますので先に食事を頂いても宜しいですよ、其れ


と、お酒も頼んで下さいね。」


 源三郎はニコッとして部屋を出た。


「あの、源三郎様と言われるお方ですがお偉いお方なのでしょうか。」


「う~ん、其れはどうですかねぇ~、あの方が偉いと言われる訳は分かりませぬが。」


 源三郎が偉いのでは無く、其れよりも、誰からも一番信頼される人物で有る。


 鈴木や上田が源三郎と言う人物をどの様に表現して良いのか分からないので有る。


「まずですねぇ~、源三郎様は、相手が誰で有ろうと侍言葉では無く、まぁ~、敬語を使われますからね


ぇ~。」


「そうですねぇ~、あのげんたさんに対しもですからねぇ~。」


「えっ、そのげんたさんと言うのは。」


「ええ、普通の子供ですよ、ですが、源三郎様は相手が子供でも農民さんでも、其れはもう、我々も何と


かしたいと思いますが、全ての人に対しても差別はされませんねぇ~。」


 井坂は思い出していた、あの時がそうだった、侍の命令調では無く、平民が使う普通の言葉で話し掛け


て来たので有る。


「そう言えば、あの時も我々に対して命令調では。」


「ですから、我が藩では家臣達全員が侍口調では無く、普通の言葉で会話をする様に心掛けて要るんです


よ。」


「おいドンは司令部におりましたが、侍と言うのはどうしても命令口調、特に、兵士に対しては侍が上だ


と今でも変わらんですよ。」


「まぁ~、我々も努力はしているんですがねぇ~、其れが、大変、難しいんですよ、家臣達は其れはもう


苦労していますがね、別に源三郎様に言われたのでは無いのでねぇ~。」


「おいドンも出来ますか。」


 鈴木も上田もこの薩摩の侍は我々の仲間の入りたいのだろうと、二人はニッコリとし。


「其れは、勿論ですよ、まぁ~、我々のよりも我が藩に来られたら、其れは、驚きますよ。」



「えっ、何故、驚くのでしょうか、おいドンも今日は驚きの連続でしたので。」


「あれは、まだまだ序の口ですよ、其れは、まぁ~城下に入れば大変な騒ぎになりますからねぇ~、今か


ら覚悟する事ですねぇ~。」


 井坂は首を傾げて要る、野洲の城下に入れば大騒ぎになるとは、一体、何が起きると言うのだ。


「では、おいドンが行くからですか。」


「井坂殿、我が城下では源三郎様の人気は、其れは、もうもの凄いですよ、まぁ~、これは秘密ですか


ら。」


「はい、誰にも。」


「いゃ~、そうでは無いのですよ、この話しはと言うよりも野洲の城下では知らない者は一人もいないと


言う話しでしてね。」


 其の時、源三郎が隣の部屋に入り。


「貴方方、お風呂は。」


「は~い、行きま~す。」


 鈴木の声が変わった、其れは、薩摩の井坂が色々と話し、鈴木は井坂が仲間に入ったと言う合図で有


る。


「あの~、宜しいでしょうか。」


「はい、どうぞ。」


 源三郎はニコリとし、井坂は頭を下げ。


「有難う御座いました。」


「まぁ~、まぁ~、そんなに固くならなくても宜しいですよ、其れよりも、さぁ~、お風呂に入ら


れては如何でしょうか。」


「はい、では。」


 井坂の顔は山賀の山中で見た時とは違い何かが取れた様子で有る。


「源三郎様失礼します、先程の黒装束のお着物を着られましたお侍様ですが、あのお着物では目立ちます


ので、宜しければ新しいお着物を持って参りましょうか。」


「はい、其れは、大変有り難いですねぇ~、私も考えておりましたので、私も大助かりです。」


「いいえ、その様な事は有りませんので、其れで、お着物は。」


「番頭さん、申し訳有りませんが、何か包む物が御座いましたらお貸し願いたいのですが、宜しいでしょ


うか。」


「はい、勿論で、直ぐ、御持ち致しますので、では、私は。」


「番頭さん、先程の侍の事は。」


「はい、勿論で、店の者にも申し付けて置きましたので、ご心配無く。」


 番頭も分かって要る、源三郎が侍姿では無く、黒装束の侍を連れて来たのは、何か、特別の訳が有る


と。


 野洲のげんたは悩んでいた。


 其れは、潜水船を造ると言ったその日からで有る。


「う~ん、オレはあんちゃんに簡単には言ったけど、舟を海の中に潜らせるって、でも、どうすればいい


んだ。」


 げんたは、源三郎に潜水船を造ると言った。


 舟を造る事は出来る、だが、どんな方法で海の中の潜らせるんだと連日考え込んで要る。


「げんた、一体、どうしたのよ。」


「なぁ~、母ちゃん、オレ、自信が無くなったきたんだ。」


「えっ、なんでよ。」


「うん、舟は大工さんに頼めば造れるんだ、だけど、舟は木で造るから、絶対に沈まないしなぁ~木だか


ら浮くんだ。」


「げんた、あんたは本当にバカだよ、そんな事初めから分かってる事なんだよ。」


「うん、其れは、オレも分かって要るんだ、だけど、オレ、あんちゃんに。」


「げんた、今頃になって出来ませんって源三郎様に言うのかい。」


「母ちゃん、オレがそんな事言える訳が無いよ、だけど、う~ん、困ったなぁ~。」


「げんた、木は浮くんだよ、じゃ~、あの潜水具の時は。」


「うん、あの時は、岩を身体に付けて。」


「だったら、舟にも着ければいいんじゃないのか。」


「其れは、オレも分かって要るんだ、だけどなぁ~。」


「だけど、どうしたのよ~。」


「何処に着けるか、其れが、分からないんだ。」


「母ちゃんも分からないけど、舟の外には。」


「うん、其れも考えたんだ。」


「じゃ~、どうするのよ、出来ないんだったらもう諦めなさいよ。」


「嫌だ、其れだけは嫌だ、絶対に嫌だ。」


 やはり、母親だ、我が子の事は一番良く知って要る。


「げんた、じゃ~、舟の中は。」


「舟の中に岩を入れるのか、だけどなぁ~、岩だったら、嵩張るからなぁ~、其れに重さの調整も出来な


いんだぜ。」


 げんたも母親も真剣に考えて要る、だが、誰が考えても不思議だ木造の舟を沈めるのでは無く、海の中


に潜らせる事自体を思い付く事の方が難しい。


「そうだ、なぁ~、げんた、砂は、砂だったらね舟に入れるのも簡単に出来るよ。」


「砂かぁ~、だけどなぁ~。」


 げんたは砂を其のままで要れる物だと、この時は思っていた。


「まぁ~なぁ~、砂だったら、調整も出来るからなぁ~、だけど、やっぱり、オレの母ちゃんだぜ、オレ


は砂なんか考えもしなかったよ。」


「何を今頃言ってるのよ、当たり前でしょう、でもねぇ~、源三郎様は何時頃帰って来るんだろうかねぇ


~。」


「うん、オレもあんちゃんが心配なんだ。」


「ねぇ~、げんた、そんな事より、早く、その、何て言うのよ。」


「潜水船かぁ~。」


「うん、早々、その潜水船を早く造らないと間に合わないよ。」「うん、分かってよ、じゃ~、明日から


行くよ、其れでなぁ~、母ちゃんも一緒に行く事になってるんだぜ。」


「えっ、母ちゃんもって、母ちゃんと何処に行くのよ。」


「何処にって、浜にだよ。」


「げんた、何で母ちゃんも一緒に行く必要が有るのよ~。」


「なぁ~、母ちゃん、オレもだけど、母ちゃんはオレが居ないと寂しいんだから。」


「何を言ってるのよ、母ちゃんは大丈夫なんだからねぇ~。」


「でも、オレは心配なんだ、母ちゃんを一人にすると。」


「なぁ~んだ、やっぱりね、げんたは何だ勘だって言っても、母ちゃんが。」


「なぁ~、母ちゃん、オレ、母ちゃんが居ないと食べる物も。」


「そうか、そうだったはねぇ~、だけど、浜に行っても家が。」


「なぁ~、母ちゃん、其れだったら心配は要らないんだ、あんちゃんが大工さんに頼んで、オレと母ちゃ


んの為にって家を建ててくれてるんだ。」


「えっ、じゃ~、母ちゃんも一緒に行けるんだねぇ~。」


「うん、そうだよ、だから、明日にでも行こうよ。」


「そうだねぇ~、じゃ~、母ちゃんも用意するよ。」


「うん、オレも手伝うよ。」


 げんたと母親は浜に新しく建てられた家に住む事になり、明くるの朝、二人は浜へと。


 源三郎達もその数日後、野洲の城下に入った。


「お~い、源三郎様が帰って来られたぞ~。」


「わぁ~、本当だ、えっ、でも、知らない人が一緒だ。」


「源三郎様、お帰り、一体、何処に行ってられたんですか、こんな長い事。」


 源三郎達が城下に入ると大勢の町民が出迎え、誰もが、源三郎が無事野洲に戻って来た事を喜んで要


る。


「お~い、誰か、お城に。」


「もう、行ったよ。」


「皆さん、有難う無事に戻って参りましたよ。」


「ねぇ~、源三郎様、当分の間、野洲に居るんですか。」


「はい、勿論で当分の間おりますが。」


「お前、そんな事当たり前に決まってるんだ、源三郎様には奥方様が要るんだぜ、其れも、とびっきり美


人の奥方様なんだから、そりゃ~、心配になるよ、ねぇ~、源三郎様。」


「そんな事、心配するなって、とびっきり美人の奥方様がだよ、お前なんか相手にすると思うのか、まぁ


~、オレも駄目だけどなぁ~。」


「まぁ~、其れも、そうだなぁ~、奥方様は源三郎様が一番なんだからなぁ~。」


「なぁ~、お前そんな事今頃分かったのか、馬鹿だなぁ~そんな事最初から決まってる事なんだから、ね


ぇ~、源三郎様、そうですねぇ~。」


 みんなは何時もの会話で大笑いするので、井坂は鈴木が言った事を思い出した。


「野洲に帰ると、大騒ぎになりますよ。」


 其れにしても、源三郎と言う人物は不思議だと。


「皆さん、その内、また、大宴会をしませんか、お城で。」


「ねぇ~、源三郎様、何時ですか。」


「お前は本当にバカだなぁ~、今、その内って、ねぇ~、源三郎様が言われたんだ、で、何時ですかねぇ


~。」


 又も大爆笑になり。


「まぁ~、その内ですからねぇ~。」


「は~い、分かりました。」


「では、私達は城に行きますのでね。」


「源三郎様、早く、大宴会をしましょうよねぇ~。」


「はい、分かりました、では。」


 源三郎は手を振りお城へと向かった、その少し前。


「源三郎様が戻って来られましたよ。」


 大手門の門番に伝えると。


「えっ、本当に、わぁ~これは大変だ、直ぐ、殿様に。」


 門番は大慌てで詰所の家臣に伝えると家臣も大慌てで。


「みんなぁ~、源三郎様が戻られますよ~。」


 家臣は大声で城内に触れ回ると城内の家臣達も騒ぎだした。


「源三郎様が戻られますぞ~。」


「殿、源三郎様が戻って来られました。」


「そうか、無事で何よりじゃ、して、今、何処なのじゃ。」


「はい、あっ、そうでした、でも、城下だと。」


「やはりのぉ~、源三郎の事じゃ、城下の者達が先じゃからのぉ~。」


 其れから、暫くして。


「源三郎様、ご無事でお帰りなさいませ。」


 大手門の門番も今度は間違いは無く、源三郎が戻って来たと確信したが、傍には見慣れない人物が一緒


だ、其れに、鈴木と上田が鉄砲を持って要る。


 源三郎達は殿様の部屋へと向かうが、城中では井坂を初めて見た家臣達はその後ろの鈴木と上田が持つ


鉄砲を見て要る。


「殿。」


「お~、源三郎、良くぞ無事で戻って参ったのぉ~。」


「はい、何事も無くと申し上げたいので御座いますが、殿、このお方は九州の薩摩の井坂様と申されま


す。」


 傍の井坂はと言うと、其れはもう大変な緊張をして要る。


 薩摩では考えられない事で一国の殿様に拝謁するなどとは初めての経験で有る。


「何じゃと、九州の薩摩じゃと、一体、何の話じゃ、源三郎、詳しく話せ。」


「はい、其れよりも、鈴木様、上田様、其れを、殿にお見せ下さい。」


 鈴木と上田が連発銃を殿様の前に差し出すと。


「何じゃ、源三郎、鉄砲では無いか、一体、どうしたと申すのじゃ。」


「はい、では、ご説明いたします。」


 源三郎は、その後、一時以上も掛けて殿様に詳しく説明するが、殿様は別に驚く事も無く聞いて要るが


目の前に有る連発銃には驚きの表情をしている。


「のぉ~、源三郎、この連発銃をだ、この様な物がその官軍が持って要るならば、我々もだが、幕府が旧


式の鉄砲で戦を始めても誰が考えても勝つ事は無理じゃのぉ~」




「はい、私もその様に思います、其れも、農民や町民が持って要るのですから、幾ら、侍だと申しまして


も、所詮、勝ち目は御座いませぬ。」


「其れで、話は変わるが井坂と申されたが、これから、一体、どうするのじゃ、源三郎からも聞いておる


と思うが、あの高い山を越えるのは、まず、無理じゃぞ。」


 井坂の心の中では既に官軍に戻るのを諦めて要る。


「殿様、おいドンは別に官軍に戻れるとは考えておりません。


 おいドンは、源三郎様に全てをお話ししたいと思いますので、どうか、この地に残して頂きたいので御


座います。」


 井坂は殿様が決定するものと思っていたが、其れが、全く違い全ての決定権は源三郎が握って要るとは


考えもしなかったので有る。


「殿、私は井坂様が野洲に残りたいと申されるので有れば、何も反対は致しませぬ。」


「うん、分かった、でじゃ、今後はどの様に致すのじゃ。」


「其れは、私が決める事では御座いませぬ、全て井坂様に任せますので。」


「えっ、おいドンが決めるとですか。」


「はい、そうですよ、私はねぇ~、この野洲でもあの山賀でも同じで本人次第だと考えておりますので


ね、出来ないものを無理にとは申しませんのでね。」


 何とこの野洲では自由だと、あの官軍でも表向きは自由だと言いながら、実のところは殆どが強制的で


有る。


「では、おいドンは残らせて頂きます。」


「其れで、宜しいですよ、もう、井坂様は我々の仲間となられましたのですからね、何も心配される事も


御座いませんよ。」


「源三郎、其れとじゃが、げんたの事じゃが、あの日、以来、城にも来ぬが。」


「げんたですか、多分、今頃は浜の家で必死になって考えて要ると思います。


 私は明日にでも浜に行って見ます。」


「うん、其れが良い、余も心配じゃ、げんたの事じゃ、何を考えて要るのか分からぬでのぉ~。」


「はい、承知致しました。」


 その頃、げんたにも源三郎が帰ってきたと言う連絡が入った。


「母ちゃん、大変だ。」


「えっ、又、何かやったのか。」


「いゃ~、違うんだよあんちゃんが帰って来たんだよ~。」


「えっ、源三郎様が。」


「うん、オレ、今からお城に行ってくるよ。」


「えっ、今からってお昼ご飯は。」


「帰ってからにするよ、じゃ~、なっ。」


 源三郎が帰って来たと、これは、大変な事になると、げんたは、何も考えず走って行く。


「井坂様、まぁ~、当分の間はのんびりとして下さいね。」


「えっ、ですが。」


「宜しいですよ、井坂様も残れる可能性が有りますのでね。」


「源三郎様、其の前にお話しが。」


 源三郎は坂が他にも情報を持って要ると、だが、今は無理に聴こうとするのでは無く、のんびりとする


様にと持って行けば、其の前に話すだろうと考えたが、やはり、早く話しをしたいのだろと、其れに、何


かしらの不安が有るのだろうか思ったので有る。


「どの様なお話しですか。」


「はい、おいドンは司令部で有る計画を練って要るのを知って要るのです。」


「有る計画とは、何処かで戦を始めるのですか。」


「其れが、この連発銃が大量に入って来るので。」


「連発銃が大量に入ると申されましても、この高い山を越える事は無理ですよ。」


 源三郎は陸路で運ぶのだと考えた、だが、幾ら、猟師の案内で山を越せたとしても、其れは人間だけで


大量の連発銃を持って山を越す事は無理で有ると。


「いや、おいドンが聴いた計画では、其れも、幕府から奪った船が有り、その幕府の船に載せて運ぶ計画


で御座います。」


「えっ、官軍が幕府の船を奪ったんですか。」


「はい、そうです、でも、大きな損傷が見つかり、今、修理中で御座います。」


「ですが、何故、官軍の船を使わないのですかねぇ~、其れならば、兵隊も大勢乗せる事が出来ると、私


は思うのですが。」


「其れは、おいドンも分かって要るんですが、上層部の司令部からの命令で拿捕した幕府の船で運べと、


其れに、今の我々の力では到底無理でして、我々には漁民の小舟しか有りませんので、おいドンも、其れ


は、分かって要るのですが。」


「でも、その武器を満載した船ですが、何時、何処を通るのでしょうか。」


「其れが、こちらの方角でして。」


「えっ、こちらとは、北の海をですか。」


「はい、南は駄目だと上層部からの命令で。」


「う~ん、大量の武器、其れも、連発銃がねぇ~。」


 源三郎は、今、どの様な策を練っても入り江の外に出て幕府の大型船に攻撃出来る船は無い。


 一体、どの様にすればいいんだと、だが、源三郎が悩んだところで解決出来る問題では無い。


「あんちゃんが帰って来たって。」


「うん、そうだよ、今、お殿様のところだと思うけれど。」


「じゃ~、行ってくるよ。」


「げんた、何か有ったのか。」


「いいや、何も無いけど、あんちゃんの顔が見たくなったんだ。」


「いいよ、早く行って。」


 門番も久し振りにげんたが来たのだ、何か有ったのだろうと、だが、本当はげんたの話から急展開する


事になるとは誰も考えはしなかった。


「あんちゃん。」


「げんたが来たぞ、源三郎、覚悟は良いか。」


 鈴木や上田は分かって要るが、井坂に理解が不可能な言葉を殿様が言った。


「げんた、久し振りですねぇ~、一体、どうしたのですか。」


「何を言ってるんだよ、オレがあんちゃんの事を心配するとでも思ってるのか、ねぇ~、そうでしょう,



殿様、鈴木のあんちゃんも上田のあんちゃんもそう思うでしょう。」


 もう、井坂は理解不可能で、こんな、子供が、其れに、どう見ても町民だその町民が、突然、城に、其


れも、殿様の部屋に入って来て、殿様を友達の様な馴れ馴れしい言葉の使い方をするとは聴いた事が無


い。


「う~ん、げんた、余は何も知らぬぞ。」


 殿様も久し振りに元気なげんたの顔を見てほっとし、ニコッとした。


「なぁ~、あんちゃん、あれは、何だよ~。」


「あれって、どれですか。」


「殿様の前に有る鉄の棒だ。」


「あれですか、あれが、連発銃ですよ。」


「あんちゃん、何だその連発銃ってのは。」


 げんたも初めて見る連発銃で知って要るはずも無かった。


「げんた、鉄砲ですよ。」


「えっ、鉄砲って、オレ、初めて見るんだからなっ、連発銃が鉄砲だって言われても。」


「まぁ~、其れは、次の時に話しますかね、其れよりも何か話しが有るのでは。」


「あっ、そうだ、オレ、すっかり忘れてたよ、あんちゃん、出来るぜ。」


「えっ、何が出来るのですか。」


「もう、あんちゃんは忘れたのか、殿様でも覚えてるんだぜ。」


「げんた、正か。」


「うん、そうだよ、だって、オレ様はなぁ~天才なんだぜ。」


 源三郎も、正か、本当に出来るとは考えもしなかった。


「源三郎、やはり、げんたは天才じゃのぉ~。」


 げんたは鼻を鳴らして要るが傍で会話を聞いて要る井坂は耳を疑って要る、先程からげんたと言う子供


は源三郎をあんちゃんと呼び、殿様は友達だと言う態度に、その殿様も、げんたに対しても平等に扱い鈴


木も上田も笑って要るだけで有る。


「何と言う国だ、正かとは思うが、大手門を素通り出来るとは。」


 井坂の頭は混乱している。


「げんた、私は嬉しいですよ。」


「何でだよ~、オレ様は天才なんだぜ、天才のオレ様が造るって言ったんだからなっ、絶対に間違いは無


いんだから。」


「げんた、見れるのですか。」


「あんちゃんに見せ様と思って、だから、オレは海から来たんだぜ。」


「其れは、素晴らしいですねぇ~、では、でも、げんた、お昼ご飯は。」


「だって、そんなの食べてる暇も無かったんだ、必死で走ったんだから。」


「では、賄い処に参りましょうか、井坂様もご一緒に如何ですか。」


「えっですが、おいドンは。」


「まぁ~、まぁ~、宜しいのでは有りませんか。」


「はい、では、お言葉に甘えまして。」


「なぁ~、あんちゃん、このお侍は。」


「この人ですか、九州の薩摩から来られましてね山を越えたいと。」


「なぁ~、あんちゃん、そんなの無茶だよ、あの山を越すのは無理だって、狼の大群が要るんだからなぁ


~。」


「井坂様、分かって頂きました、この地方では高い山を越えて向こう側には行けないのですよ。」


「はい、もう、十分に理解しましてので、其れで、源三郎様、一体、何が出来たのですか。」


「井坂様、潜水船ですよ。」


「えっ、何ですか、その潜水船って。」


「船がね、海の中に潜るんですよ。」


「えっ、其れは、絶対に無理ですよ、おいドンも海は知っていますが、船が海に中に潜るって。」


「其れがね、げんたが考えて造ったのですよ、其の前に、我々の仲間はね海の中でも仕事をして要るので


すよ。」


 井坂は海の中で仕事をする事は絶対に無理だと思って要る、だが、現実には、げんたが潜水具を作り、


岸壁の海中に潜り、余計な岩を取り除く作業を行なって要る。


 源三郎は潜水船が完成すれが最初に乗りたいと思って要る。


「げんた、潜水船には何人乗り込めるのですか。」


「う~ん、三人かなぁ~。」


「ほ~、三人も乗り込めるのですか。」


 源三郎は、これで、潜水船に乗れると思ったのだが、其れは、源三郎の思い違いで有る。


「うん、一人は空気を取り入れるんだ。」


「私も乗りたいのですからねぇ~。」


「そんなのオレは知らない事だぜ。」


「総司令、私が最初に試しに乗りますので。」


「え~、では、私はまた駄目ですか。」


「勿論ですよ、総司令に若しもの事が有れば。」


「えっ今、何て言ったんだよ~、オレが造ったんだぜ、その若しもって、一体、どう言う意味何だよ~、


なぁ~、鈴木のあんちゃん。」


 鈴木は頭を下げ。


「元太殿、総司令は前も駄目言われたので、今度はどんな事が有っても乗りたいのです。


 私が若しもと言ったのは三人でしょう、私と上田殿と浜の元太さん、これで、三名です。


 若しも、総司令が試しに乗られると、他の者が乗れませんのでね、其れに、総司令の事ですから、必


ず、沖へ向かえと申されると思いましたので。」


「あんちゃん、潜水船に乗れるのは三人だぜ、鈴木のあんちゃんの言うが本当だ、だから、あんちゃんは


駄目だぜ、乗ったら次は造らないからなぁ~。」


 この野洲で源三郎に強いのは、げんた、只一人で有る。


 源三郎も乗れない事は分かって要る、其れに、鈴木と上田、更に、漁師の元太、やはり、今回もこの三


名に決定しそうだ。


「あの~、源三郎様、げんたさんには何も言われないのですか。」


「いゃ~、げんたはね私の弟分なので、やはり、兄貴分としては、其れに、下手に反論しますとね後が恐


ろしいですからねぇ~。」


 源三郎も鈴木も上田も大笑いしている。


 何と言う事だ、最初は源三郎と言われる人物がこの藩を動かして要ると思ったが、上には上が要る者


で、げんたと言う子供だ、げんたはと言うより、源三郎はげんたを本当の意味で認めて要る。


 さぁ~、げんたが造ったと言う潜水船は、一体、どの様な船なのか、源三郎が思い描いた船なのだろう


か、其れとも、予想を超えた船なのか、源三郎は一刻も早く見たいのだと思ったので有る。







       

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