第 21 話。 積極的に動く藩主。
源三郎が提案した五か国連合の、いや、闇の帝国の話はその日の夕刻にまで及び、夕餉の後設立される
運びとなり、源三郎が最初の総責任者に任命された。
「皆様方、長い協議で御座いましたが、連合国が無事、設立の運びとなり私は皆様方に何とお礼を申し上
げて良いか分かりませぬが、皆様方、誠に有難う御座いました。」
源三郎は改めて五か国の藩主に深々と頭を下げた。
「私はこれから細部の協議に入りたく思いますので、高野様、阿波野様、斉藤様、吉永様はこのまま残っ
て頂きまして明日から入りたいと存じますが如何でしょうか。」
「源三郎殿、私も残り協議に参加したいですが宜しいでしょうか。」
「はい、私は別に宜しいのですが、皆様方は如何なされましょうか。」
「では、私も。」
上田の殿様と菊池の殿様が残ると言ったので松川の竹之進と山賀の松之介も残る事になった。
「では、明日の朝から入りたいと思います。
皆様、本日は大変長い間有難う御座いました。
雪乃殿、申し訳ないのですが皆様方をお部屋に。」
「はい、畏まりました、では、皆様方ご案内致しますので。」
雪乃と加世、すずが殿様方と部屋に向かうが、吉永だけが残り。
「吉永様。」
「総司令、大変な状況になりましたねぇ~。」
「ええ、実は、私も今回は想定外でしたが田中様からの報告で決断したのです。」
「私は良く決断されたと思います。
本来ならば幕府だけの対応だったのが、正かと思う新しい組織が現れたのですからねぇ~。」
「ええ、まぁ~、其れも、仕方が無いと言えばそれまでの事ですが、其れよりも私はげんたの考案した潜
水船と言うのが気になるので御座います。」
「私も驚きましたよ、ですが、げんたは子供ながら、今では立派になり総司令が考えられるよりも早くに
潜水船なる船を考え付いたのですからねぇ~、これは、大したものですよ。」
其の時、高野、阿波野、斉藤が戻って来た
「如何なされたのですか。」
「はい、私は明日の協議が気になりましたので。」
「高野様、明日は明日ですよ、今から余り深刻になられない様にして頂きたいのです。」
「総司令、ところで、新しい組織の事ですが、総司令はどの様に見ておられるのですか。」
「私と言うよりも領民ですねぇ~、あの人達はこの数百年間と言うもの武家社会で大変な苦しみを味わっ
たのです。」
「其れは、私も同じ意見で御座います。
多分ですが、我々の藩でも同じだったのではないでしょうか、漁民や農民は城下で商いをしている者達
との暮らしが余りにも違うと思うので御座います。」
「ええ、多分、昔は、商家は城の重役や有力な家臣に賂を渡し、そのお陰で今の様に大きな商いが出来る
様になったのではないでしょうか。」
「そうですねぇ~、まぁ~、今となっては確かめる事も出来ませんが、多分、総司令の申される通りだ
と、私は思いますが。」
「その昔には、百姓一揆が何度も有ったと聞いておりますが、野洲では幸いな事に無かったと言われてお
ります。」
「私は田中殿が良く調べられたと思います。
今、我々の住む地域は高い山が海岸まで続き、まぁ~、殆どと言っても良い程人の往来も無く、その代
わりと言っては何ですが、外部からの情報も入って来ませんので、其れに、考え方を変えれば幕府からも
新しい組織からも見放された地域の様な気がするのですがねぇ~。」
「吉永様、其れが問題なのです。
確かに、今までは吉永様の申されます通りでしてね、ですが、入り江の沖を軍艦が通過し、見張りに入
り江が多く有ると知られ、其れを報告すれば、その様なところには、必ず、敵軍が潜んで要ると見るのが
普通ですから、遅かれ早かれ数か所の入り江に侵入して来るのは間違いは無いと私は考えて要るのですが
ねぇ~。」
源三郎は近い内に入り江に軍艦が侵入し、其処に住む漁民に聴くで有ろうと考えて要る。
「総司令、では、早い時期に入り江に侵入して来ると思われるので御座いますか。」
「高野様、私が軍艦に乗って要るので有れば発見した時に入って行きますよ、軍艦にどの様な武器が搭載
されて要るのか分かりませんが、私ならば最初に調べ何も無ければ良いのですが、若しもですよ、入り江
の奥に大量の武器が隠されて要る可能性も有るのですか。」
「確かにそうですねぇ~、何も無ければ、次からは調べる必要も有りませんから。」
「私は入り江の先端に見張り所を設置する様にしなければならないと思うのです。」
源三郎の話は現実味を帯びて来た。
「先端で見張り、若しも、軍艦が入り江に向かって来るならば鏡で合図し、洞窟内に逃げ込み漁民だけは
浜に残して置きますよ。」
「では、漁民が聴かれた時には嘘話をさせるのですか。」
「勿論ですよ、何も本当の事を話す必要は何処にも有りませんのでねぇ~。」
「総司令、では洞窟は。」
「まず、見つかる事は無いと思いますがねぇ~、其れに、入り江の中に洞窟が有る事も分かりませんので
私は大丈夫だと思って要るのですが、ですが万が一の事も考えねばなりません。」
「ですが、大勢が上陸する可能性も考え無ければなりませんねぇ~。」
「阿波野様、仮に上陸して一体何処に行くのでしょうか、野洲の城までは一里以上も有り、彼らの殆どが
農民や漁民だとすれば、わざわざ、一里も歩いて探す必要が有るでしょうか、同じ調べるならば少人数で
十分ですよ、漁民が何も無いと言えば上の者は信用すると思いますがねぇ~。」
「う~ん、でも、本当に信用するでしょうか。」
「まぁ~、其れは分かりませんよ、私は何れにしても見張り所は設置しなければならないと考えておりま
すので。」
「源三郎様、失礼、総司令、私は国に戻り次第あの細い海岸の道は封鎖します。
あの細い道の崖は一里以上も有り、其れにそそり立っておりますので、仮に上ったとしても下りるのは
困難だと思いましたので。」
「其れが、良いと思いますよ、ただ、大変な危険を伴いますので、皆さん方には十分注意して事故の無い
様にお願いします。」
高野は崖の上から大量の岩石を落とせば海岸の細い道は封鎖出来ると考えたので有る。
「総司令、私は戻り次第峠の掘削を急ぎ、一刻も早く完成させる様にしたいと思うのです。」
「あの峠の掘削工事は大変な危険を伴いますので、窯元さんに依頼した連岩で補強しながら工事を進めて
下さいね。」
「はい、私は可能な限り早く完成させ、山賀に向けての隧道の掘削工事に入りたいのです。」
其れにしても、この様な話しは明日開く協議の場で出来る話しなのに、其れよりも、皆が明日と言う日
が待ち切れ無かったのだろうか。
「総司令、今、山賀では、正太が1千人を動員し祠裏の洞窟の掘削に入っておりまして。」
「へ~、1千人もですか、其れは、素晴らしいですねぇ~。」
「先日も若が中心になり、工事の進め方に付いて話し合いをしておりましたが、その中心が正太です。」
「吉永様、正太を上手に使って下さいね。」
「総司令、私は今の洞窟の掘削ですが別の方法も考えて要るのです。」
「ほ~、別の方法ですか、お聞きしたいですねぇ~。」
「はい、今、掘削中の洞窟ですが、途中から松川の海岸に向けたいのです。」
「大変、楽しそうな方法ですが、決して無理をされない様にお願い致しますね。」
「はい、其れで、松川と上田の中間点へ向けて掘り進み、何れは野洲の洞窟に直結させたいのですが、私
も大変な工事だと言う事は認識致しております。」
まぁ~、其れにしても、みんなは何と言う大胆な事を言うのだ、だが、其れも、先程、雪乃が説明した
話しが切っ掛けになったのは間違いは無いので有る。
「其れと、皆さん、お食事だけは十分にお願いします。
何時の時代でも食べ物から不満が出て来ますので、連日、過酷な作業の中で一番の楽しみは食べる事だ
と思いますので、其れとは別に、工事は三日働き一日は休みを取る事ですよ、これはとても大事ですから
ねぇ~。」
吉永達は納得した様子で全員が頷いた。
その頃、野洲の殿様はご家老様と話して要る。
「のぉ~、権三、源三郎は恐ろしいのぉ~。」
「はい、私も我が息子ながら、時々、恐ろしくなる事が御座います。
源三郎が見たと言う軍艦ですが、一体、どの様な船なのでしょうか、私もさっぱり分からのです御座い
ます。」
「うん、余も同じじゃ、だが、よ~く考えて見るとだ、源三郎は我が野洲でもじゃ、菊池や上田でも海岸
に行ったのじゃぞ、源三郎はその時に何度も見ておるのではないのかと思うのじゃ。」
「ですが、沖を行く船を軍艦だとは、私は判断出来ませぬが。」
「余も最初はその様に思ったのだが、廻船問屋の船とは全く違うとならば、我々にも判断は出来ると思う
ぞ、其れにじゃ、田中が集めた情報も源三郎が申した闇の帝国とは、何かの関係が有ると思うが、闇の帝
国とは、一体、どの様な国なのじゃ。」
殿様は源三郎が行った説明よりも闇の帝国と言う訳の分の分からない帝国の方が余程気になる様子で有
る。
「殿、私も初めて聞きましたが、一番の問題はげんたが考案したと言う潜水船では御座いませぬでしょう
か。」
「うん、余もその様に思うのじゃ、余は、海の中がどの様になって要るのかは知らぬ、其れにじゃ、洞窟
の中も松明やかがり火が無ければ暗闇じゃ、そうか、権三、分かったぞ、源三郎が闇と申したのは洞窟の
中と海の中を意味すると思うのじゃがのぉ~、如何じゃ。」
「その様ですなぁ~、すると、これからは、海岸に有る洞窟を最大限に利用すると言うのかも知れませぬ
ぞ、う~ん、これは大変な事態になりましたなぁ~。」
「そうか、其れで、納得出来たぞ、源三郎の申した闇の帝国の意味が。」
やっと、殿様も闇の帝国と言う意味が分かったので有る。
「では、げんたの潜水船なるものが、今後の運命を握って要ると申しても過言では無いのか。」
「ですが、げんたは、まだ、子供で御座いますので、我々が口も出さず全て源三郎に任せては如何で御座
いましょうか。」
「うん、その通りじゃ、全て源三郎に任せ、余は何も申さぬぞ。」
「はい、私も何も申しませんので。」
殿様もご家老様も源三郎に任せると決め、そして、明くる日の朝、殿様方は集まったのだが、源三郎達
はと言うと昨夜遅くまで話し合ったのか、まだ、誰も現れない。
「其れにしても、源三郎殿は遅いですなぁ~。」
「其れに、他の者達も一体何を考えて要るのだ。」
菊池の殿様も上田の殿様も高野や阿波野まで来ていないのが不思議でならなかった、だが、暫くして、
源三郎が、其れから、吉永達も集まり全員が座ったので有る。
「皆様、遅くなり申し訳御座いませぬ、実は、昨夜、高野様を初め皆様方が来られ、本日、協議の予定の
変更と申しましょうか、昨夜の話し合いになりまして、申し訳御座いませぬ。」
「何じゃと、では、我々を抜きで話し合ったと申すのか。」
野洲の殿様は分かっていた、だが、殿様は知らぬ振りで恍けた。
「はい、一応の筋道だけなのですが。」
「源三郎殿、では、その内容をお話し下されますか。」
「はい、承知致しました。」
源三郎殿は昨夜の協議の内容を話すので有る。
「ほ~、では、各藩が何を先行するのか分かって要るのですか。」
「はい、私もですが、皆様は何が重要で、何を急ぐのかも、全てをご承知なので、実に簡単に話は終わり
ました。」
「其れでは、皆が帰り次第始めると申されるのですか。」
「左様で御座います。
其れで、菊池様にお願いが御座います。」
源三郎は昨夜の話では出来なかった事を思い出した。
「お聞きしますが、どの様な事で。」
「はい、高野様は戻り次第、海岸の通り道を閉鎖すると申されましたが、その前に調べて頂きたい事が御
座います。」
源三郎は、一体、何を調べろと言うのだ。
「源三郎殿、いや、総司令、何を調べれば宜しいでしょうか。」
「実は、海岸の通り道ですが、菊池側では無く向こう側を調べて頂きたいので御座います。」
「えっ、山の向こう側をですか。」
「はい、調べ方ですが、一里四方に集落が無い事、其れと、付近一帯に大木が多い事、まぁ~、簡単に申
せば、菊池側から出入りが出来る抜け道で御座います。」
「えっ、抜け道を作ると申されるのですか。」
「はい、菊池側は出来るだけなだらかな所で掘り出した土は斜面の使いたいので御座います。」
何と言う話しだ、菊池の海岸の通り道は塞ぎ、新たに長い隧道を作れと、だが、一体、何の為に必要だ
と言うのだ。
「総司令、その抜け道ですが、一体、何の為に作るのですか。」
「目的は緊急の為にで御座いまして、向こう側は大木と茂みが有れば、直ぐに発見される事は御座いませ
んので。」
「緊急の為と申されますと、買い付けなどに使うのですか。」
「まぁ~、そうですねぇ~、買い出しに向かう先は遠くになりますが、緊急ですから明るい日中は避け夜
中に通り抜けるので御座います。」
「他の者に発見されない為にですか、でも、その隧道の長さは一里以上になると思いますが。」
源三郎は簡単に長さ一里以上の隧道を作ると言うので有る。
「では、大きさと言うのは人間と荷車が通れれば良いのですか。」
「はい、内部の高さも、幅も、十尺も有れば十分ですので、其れと、斉藤様、窯元さんには他の人達にも
参加して頂く様にお話しをして頂きたいのです。」
「人数は多い程良いのでしょうか。」
「はい、正しくその通りでして、松川の窯元さん達に連岩の増産をお願いして頂きたいので御座いま
す。」
「はい、承知致しました、其れで、優先的にはどちらなのでしょうか。」
「まぁ~、松川の峠と菊池の隧道ですが、まぁ~、そうですねぇ~、最初ですので、半分と言う事でお願
いします、後は、先程、申しました通りで御座います。」
源三郎は一気に話を進めた。
「では、我々は、国に戻り次第、家臣達に説明を始めれば宜しいのですね。」
「はい、皆様方には大変重要なお役目だと思いますが、何卒宜しくお願いします。」
源三郎は藩主と高野達に改めて頭を下げた。
さぁ~、いよいよ作戦の開始で有る。
各藩主達も今までの様にのんびりとは出来ないと納得したので有る。
工事に入る事も大事で有る、だが家臣達が理解出来るまで何度も説明を行う必要が有り、家臣達の理解
が終われば今度は領民を対象に説明を行うが、其れは、家臣達の役目をなるので有る。
全ての話しが終わると、藩主は次々と野洲を後にし国へと帰って行く。
「源三郎、我が野洲は何時から始めるのじゃ。」
「私は何時でも宜しいのですが、私よりも、殿が先に話される方が宜しいのでは御座いませんでしょう
か。」
「う~ん、じゃがのぉ~、余が話すよりも。」
「殿が話されました後は、私が説明に入れば皆様方も理解して頂けるとは思いますので。」
「権三、余は、簡単に話すぞ。」
「はい、詳しい説明は、源三郎にお任せ下されば宜しいかと存じます。」
「よし、源三郎、最初は皆が居る賄い処じゃ。」
「はい、では、ご一緒させて頂きます。」
殿様とご家老様、そして、源三郎は賄い処へと向かうが、途中で何人もの家臣が源三郎の姿を見て驚い
て要る。
「あっ。」
源三郎もだが、殿様もご家老様も平然とした顔で歩いて行く。
「吉田、皆はおるのか。」
「はい、えっ。」
賄い処の吉田は女中達から聴いていたが、源三郎本人を見ると思わず声を出たので有る。
「賄い処の皆の者、集まれ~い、今から大切な話が有る。」
賄い処の女中達が集まり、皆が源三郎を見て要る。
「吉田、全員揃ったのか。」
「え~っと、はい、全員で御座います。」
「よし、今から我が野洲にとっては大事な話をするので、皆、よ~く、聴くのじゃ。」
殿様は源三郎が髷を落とした事から、五か国を統合して連合国となった事を簡単に話し。
「皆の者、今までの話で分からない事が有れば、源三郎が、いや、今は総司令官と申す新しい任務に就い
たのじゃ、今から、総司令官となった源三郎が詳しく説明するするのでよ~く聴くのじゃぞ、総司令官、
後は頼むぞ。」
「はい、承知しました。」
その後、源三郎は半時程掛けて説明を行うが、余りにも突然な話しで女中達は理解するどころか、唖然
としている。
「源三郎様、私は余りにも突然なお話しなので、今は頭の中が混乱致しております。」
「はい、貴女の申される通りですよ、実は、この話し、昨日、各殿様方と随行の方々に申しましたが、此
処に居られる皆様方と同じでしてね理解するよりも唖然とされておられましたがね、まぁ~、今のお話し
はこれからは、何度も説明させて頂きますのでね、どうか、皆様、安心して頂きたいのです。」
源三郎は女中達が直ぐに理解するなどとは思ってもいない、五回、十回と説明が必要だと思うので有
る。
「源三郎様、お聞きしたいのですが。」
「はい、どの様な事でも。」
「先程のお話しの中で、これからの時代は侍も町民も関係が無くなると申されましたが、其れでは、私達
のお役目も無くなるのでしょうか。」
「いいえ、今はその様な事までは考えてはおりませんが、まぁ~、簡単に申しますと、今の我々が生きて
要る間は無くなるとは思いませぬ、ですが、何れ近い将来には無くなるのでは無いかとは考えてはおりま
すよ。」
「じゃ~、私達も今まで通り賄い処でのお役目に就いても宜しいのですか。」
「はい、其れは、大丈夫ですよ、ですが、何れ、皆様方も好むと好まざるに関係無く仕事が増えるのでは
ないかと思うのですが、でも、其れが、何時だと聴かれましても、今の私では知り得る事が出来ないので
御座います。」
「源三郎殿、では、賄い処も多種多様になると申されるのですか。」
「はい、其れは、有り得る話しだと思いますよ、まぁ~、皆様、今から余り深刻に考えずに何れは時が解
決してくれると思って頂きたいのです。」
其れでも、源三郎は一抹の不安を抱いて要る。
女中達には何度でも説明するとは言ったが、其れよりも、家臣達に話をし理解させなければならないと
思うので有る。
家臣達も直ぐには理解出来ないだろうが、その家臣が手分けし領民に説明しなければならず、家臣達が
早く理解して貰わなければ、時だけが過ぎ本来の目的も達成出来ない可能性も有る。
「では、皆様、のんびりと考えて下さいね、私は他にも行かなければなりませぬので。」
源三郎は雪乃が補助に就いて欲しいと、この時に思ったので有る。
昨日の雪乃の話し方で竹之進も松之介も、其れに、菊池と上田の殿様も理解したので有る。
「雪乃は、居らぬか。」
「殿、奥方様は、今、腰元達のお部屋だと思いますが。」
殿様は、源三郎には雪乃が必要だと昨日の話で分かっていた。
「源三郎、雪乃を補助に付けよ、源三郎の説明は別に悪くは無い。
だが、余は雪乃が話しで分かったのじゃ、源三郎に雪乃が付けば千人力と言うものじゃ。」
「はい、実は、私も今同じ事を考えておりました。
確かに私の話は余りにも直線的なので直ぐ理解して下さいと申しましても、やはり、雪乃殿が居られま
すと、私としましても鬼に金棒で御座います。」
「では、今から腰元達の部屋に向かうぞ。」
殿様は、果たして、全てを理解出来て要るのだろうか、だが、殿様は源三郎が要ると言うだけでも安心
だと考えて要る。
「雪乃、腰元達は理解出来るのかのぉ~。」
「其れは、私も分かりませぬが、失礼ながら、源三郎様のお話しを理解出来るお方はいないと、私は思う
ので御座います。」
「うん、何故じゃ、何故、理解が出来ぬのじゃ。」
「殿、この武家社会は数百年間と言う長き間続いて要るので御座います。
良くも悪くも先祖から受け継いで来たのです。
其れが、突然、全く、別の考え方に変えなさいと申されましても誰もが直ぐに理解出来るとは思えない
ので御座います。」
「では、何故、雪乃は理解出来たのじゃ。」
「私は、全く別の考え方をしたので御座います。」
「全く、別の考え方じゃと、一体、どの様な意味なのじゃ。」
「私は、今まで何度となく源三郎様のお考えを聴いて参りました。
でも、最初の頃は、全く何を申されておられるのかも分かりませんでしたが、源三郎様が全ては領民の
為と申され、昨日、髷を落とされ、其れは、長く続いた武家社会と決別し、新しい国を作るのだと申され
たと、私は理解したので御座います。
私は源三郎様が新しい国作りには農民も漁民も武士も関係は無く、全て白紙に戻すのだと申されまし
た。
ですが、全てが、その様にはならぬと思うので御座います。
戦の全く知らない農民や町民に戦に出る覚悟をして欲しいと申されましても余りにも猪突なお話しで、
ですが、この度の戦では我が身と我が家族を守る為だと申されて要ると、私は思うので御座います。」
「う~ん、その通りじゃ、源三郎、正しく雪乃の申す通りじゃのぉ~。」
「説明不足は直さなければならないのですが、相手が農民や漁民ならば説明の仕方も変えるのですが、私
は何処かにこれくらい話しは理解して欲しいと甘えが有るのですねぇ~。」
「私は別に源三郎様の説明が間違って要るとは思いませぬが、やはり、余りにも突然に今までとは全く違
う話をされますと確かに誰でも混乱するのは間違いは御座いませぬ。
でも、野洲の武士ならば其れくらいの話が直ぐ理解出来ないので有れば、私は、はっきりと申します、
腹を召されよと。」
雪乃は過激なのか、顔に似合わず恐ろしい事を平気で言うと殿様は思ったので有る。
「武士と言う者は幼き頃より色々な事を学んできたので御座います。
無学ならば其れも仕方が無いとは思いますが、但し、一度で全てを理解せよと、これは少し無理だとは
思いますが、二度の説明で分からなけれ野洲のご家臣だとは申せませぬ。」
雪乃は侍に対しては大変厳しい考え方を持って要るので有る。
「源三郎様、お願いが御座いますが宜しゅう御座いますでしょうか。」
この時、源三郎は雪乃が何を考えて要るのか直ぐ分かった。
「はい、勿論で宜しいですよ。」
「源三郎様には誠に申し訳御座いませぬが、腰元と賄い処のお女中達の説明なのですが、私にお任せ出来
ないでしょうか。」
やはりだ、源三郎の思った通りで、腰元達にも家臣同様の説明では理解させるのは難しいと言うより
も、其れは、まず無理だろう、此処は一番雪乃に任せる方が最善だと思ったので有る。
「はい、其れは、私も大助かりですので宜しくお願いします。」
「うん、うん、女同士じゃ、雪乃に任せる方が得策じゃ、のぉ~源三郎。」
其の時、丁度、腰元達が戻って来た。
「えっ、何故、殿様が。」
「良いのじゃ、其れよりも、皆の者、今から我が藩の事もじゃが、その方達も知って要ると思うが、昨
日、五か国の殿様が集まり連合国を設立する事になったのじゃ、其れで、その話を詳しく総司令官の任務
に就いた源三郎が行なうのが良いと思ったのじゃ、だが、源三郎の話しは固い、其れでじゃ、今から、雪
乃が代わって説明をするのでよ~く聴くのじゃ、では、雪乃頼むぞ。」
「はい、承知致しました、では、皆様、今からお話しをさせて頂きますので。」
雪乃は、この後、腰元達が理解出来る様にと簡単に説明した。
「奥方様。」
「雪乃と呼んで下さいね、私は殿様の奥方様では御座いませんのでね。」
雪乃は水を得た魚の様にニコニコとしながらも話を続けて行く。
「はい、では、雪乃様、今、申されました、総司令官とは殿様よりも。」
「まぁ~、何て素晴らしいんでしょうか、私は今の質問を待っていたのですよ。」
「雪乃、何故じゃ。」
「殿、この野洲と言う国は他の国では考えられない程、誰でも疑問に思って要る事が聴けるのです。
私はこれ程素晴らしい国は無いと思って要るので御座います。
あ~ら、御免なさいね、話しが其れて、其れで、今の質問ですが、はっきりと申しますが、総司令官と
はお殿様の上ですよ。」
雪乃は、源三郎が五か国連合では最高司令官だと腰元達に認識させる必要が有ると思ったのだろうが、
其れにしても、源三郎と言い、雪乃といい、突飛な発言と言うよりも過激な発言をする。
「えっ、では、殿は。」
「殿様は、一応、将軍と名乗りますが、簡単にもうしますとね、殿様は飾りだと思って下さい。」
「えっ、殿が、飾りなのですか。」
腰元達は雪乃の答えが余りにも過激なのか唖然とし、殿様はニヤりとした。
源三郎が進めて来た連合国では各国の司令官が最高責任者で有ると認識させなければならないので有
る。
「雪乃様、何故、殿様が飾りなのでしょうか。」
「皆様、今までお国の政では、ご家老様やご重役方が殆どの事を決められ、最後の決定は殿様でしたね、
でも、殿様と言うのは、国の内情を殆ど知っておられないと言っても過言では御座いませぬ、ですが、野
洲の殿様は別と申しても良いと思います。
でもね、実情を一番に知っておられるのが現場の方々だと、私は思います。」雪乃は、この後も腰元達
に詳しく説明するのだが。
「でも、皆様、今から余り深刻に考えないで頂きたいのです。
何もかもが急な話しでね皆様も混乱されて要ると思います。
でもね、我々の殿様はご理解されておれますのでね、皆様は何もご心配される必要は無いと思います
よ。」
その後、暫く待っても腰元達からの質問も無く。
「何か御座いますれば私に申し付けて下さいね。」
雪乃は、ニコッとした。
「では、皆の者、これからは大変じゃが、源三郎は皆の事も考えておる、其れにじゃ、雪乃は皆の見方な
のなのじゃ、何も心配せずとも良いぞ、では、源三郎、参るぞ。」
殿様は腰元達の詰所を後にした。
「やはり、雪乃が居ると、源三郎も安心じゃのぉ~。」
「はい、私は何も申す事は御座いませぬ。」
「源三郎様、私の説明ですが、あれで、良かったのでしょうか。」
「はい、勿論ですよ、私の説明は堅苦しいと分かって要るのですがねぇ~。」
「源三郎、其れは、お主の責任では無いのじゃ、余が、難題を全て源三郎に押し付けたのが原因なのじ
ゃ、其れに、武士足るものが源三郎の説明を理解出来ぬとは、余りにもその方が問題では無いのか、のぉ
~、雪乃、如何じゃ。」
「はい、でも、少しは柔らかさも必要では無いでしょうか、源三郎様は農民さんや漁民さんに話される時
には、誰が聴いても直ぐ分かる様にご説明されておられますので。」
「雪乃殿、私も、これからは少しでも柔らかくなる様に努力致しますので。」
「まぁ~、まぁ~、で、源三郎、家臣達は。」
「はい、私は皆様には早く理解して頂く必要が有ると思うので御座います。」
「よ~し、分かったぞ、では、今から参るぞ。」
殿様は何時に無く張り切って要る様にも見える、其れよりも、下手をすれば、これからは、殿様と言う
今までの地位が無くなるかも知れないと考えねばならないので有る。
だが、野洲の殿様はその様な事など一切眼中に無い様にも見えるので有る。
暫く行くと、家臣達の詰所と言う所に来た。
「皆の者、大儀じゃ。」
「えっ、殿が、何故、此処に。」
「まぁ~、良いでは無いか、別に気にせずとも良い、其れよりもじゃ、今、此処に居る者だけでも話しを
するが、皆の者、我が野洲は昨日連合国の一員となった、連合国と申すのは、我が野洲、菊池、上田、松
川、山賀の五か国が合体したのじゃ、其れで、今から、源三郎が、いや、総司令官に説明して頂くので、
皆はよ~く聴くのじゃ。」
だが、其れよりも家臣達が驚いたのは、源三郎の頭から髷が無くなって要るので有る。
「源三郎様、如何なされたのですか、髷が。」
源三郎はニコッとして
「はい、其れも、含めまして今から皆様にご説明を致しますのでね。」
「まぁ~、其れよりもじゃ、これからは、源三郎では無いのじゃ、源三郎は五か国連合の総司令官とな
り、我が野洲を離れ、連合国最高司令官となった、皆もよ~く理解するのじゃぞ。」
「今、殿が申されました事も今から説明致しますので。」
この後、源三郎は雪乃に言われた様に少し柔らかく説明を始めた。
家臣達は、時々、頷き、首を傾げ、そして、又、頷く、これを何度も繰り返すので有る。
勿論、一度だけの説明で理解は出来るとは、源三郎も思っていない、其れよりも、家臣達には、更に、
大きな問題が残って要る。
「皆様方は大変だと思いますが全ては領民の為なのです。
其れで、皆様方にはご城下に出向き領民の人達に説明して頂かなければなりませぬ、ですが、皆様がご
理解出来なければ、領民はもっと理解に苦しむと思いますので分からない事が有れば私にお聞き頂ければ
宜しいかと思います。
では、今までの内容で分からぬ事が御座いますれば、今お聞き致しますので。」
「総司令官、先程も申されされましたが今の幕府が滅亡する事は間違い無いのでしょうか。」
「はい、まず、間違いは御座いませぬ、問題は新しい組織と言うのがどの様な組織なのか、今のところま
だはっきりと分からないのです。」
「では、我ら連合国は幕府とその組織との両方を注視しなけらばならないのでしょうか。」
「はい、当分の間は、其れが一番重要だと私は考えております。」
そして、暫くの沈黙が続き。
「私は今のところ出掛ける予定も有りませんので個別でも宜しいのでお聞き下さい。」
「源三郎、では、これくらいで。」
「はい、では、皆様、宜しくお願いします、其れと、田中様は。」
「はい。」
田中は、次の任務が有ると考え、髭も頭も整えてはいなかった。
「田中様は、私と一緒に来て下さい。」
「はい、承知致しました。」
「では、皆様、私はこれで。」
殿様と源三郎は家臣達の詰所を出、田中を執務室に連れて行く。
「田中様、まぁ~、お座り下さい。」
田中は次の任務がどの様なものなのかを考えていた。
「総司令、私の任務ですが。」
「やはり、分かりましたか、では、簡単に申し上げますと、先程も申し上げましたが新しい組織が、一
体、どの様な組織なのかを調べて頂きたいのです。」
やはり、田中の考えて要る通りで有る。
「はい、其れで、何処までを調べれば宜しいでしょうか。」
「そうですねぇ~、まずは、軍隊と言う新しい軍の人数は無理でしょうから、武器と人員の構成ですねぇ
~、私は人員の構成は大事だと考えて要るのです。」
「はい、其れは私も同感ですが、前の時は農民と申しますか、軍の大半が一般人と申しましょうか
町民と農民が主力で武士の人数は少なかったと。」
「はい、其れも大体のところは分かって要るのです。
問題は我々の存在が何処まで知られて要るのかですねぇ~、我々の領地は高い山に囲まれております
が、今まで幕府の関係者と時々の旅人ですが、私は幕府では無く今度の相手はその組織では無いかと考え
て要るのです。」
「では、我々連合国としても、軍隊と言う組織を設立されるのでしょうか。」
「はい、ですが、余り知られると困りますので全てを隠密にしたいのです。」
「全てを隠密にとなれば影の様な軍と申されるのでしょうか。」
田中も知りたいのだ、源三郎がどの様な軍隊を作ろうとして要るのだろうか。
「う~ん、大変、難しいですねぇ~、私はどちらかと言えば、影では無く全てを闇の中に入れたいと思っ
て要るのです。」
「全てを闇の中に入れるとは、連合国を闇の中に入れるのですか。」
「はい、其れで、私は特に軍艦の数を知りたいのですよ、大変だとは思いますが。」
「総司令、私が考えておりました事と同じで御座います。
海上を移動出来れば大量の武器と物資人員も多く運ぶ事が出来ますので、其れでは、今回は別の方法で
探りを入れて見ます。」
田中もこれからは海上輸送が多くなると理解して要る。
だが、果たしてどの様な方法で調べるのだろうか、だが源三郎は聴く必要も無いと、調べる方法は全て
田中に任せて要るので有る。
「総司令、私の準備も終わっておりますので、直ぐに出立致します。」
「では、勘定方に言って、必要な金子を。」
「はい、其れと、今回も三太さんを伴いたいと思うのですが。」
「其れも、全てお任せしますのでね、宜しくお願い致します。」
「はい、では、早々に出立します。」
田中はその日の内に野洲を離れたので有る。
一方で、各国に戻った藩主の動きも早く、山賀では吉永が中心となり、家臣達に説明を開始し、藩主の
松之介は正太達に説明を始めたので有る。
「正太さん、少しお話しが有るのですが宜しいでしょうか。」
「若様、一体、どうしたんですか、何か有ったんですか。」
「う~ん、其れがねぇ~、この話は大切なんでねぇ~、正太さん、最初、一善飯屋でお会いした時のお仲
間を呼んで欲しいんですが宜しいでしょうか。」
「若様、分かりましたが、一体、何が有ったんですか。」
「まぁ~、其れは直ぐに話をしますので。」
正太は空掘りに入り
「お~い、若様から大切なお話しが有るんだ、集まってくれよ。」
「お~、いいけど、若様に何か有ったのかなぁ~。」
「まぁ~、其れよりも聴いて見る方が先だぜ。」
山賀では正太が仲間を集め、1千人で洞窟を掘り進めている。
「若様、一応、集まりましたので。」
「そうですか、今から皆さん話すのは、我々侍よりも、みんなの為の話なのでよ~く聴いて頂きたいので
す。」
「若様、オレ達は、若様の為だったら何でもするぜ。」
「ありがとう、では、今から説明しますね。」
この後、松之介は正太とその仲間達に話し始めると。
「え~、そりゃ~大変だ、で、一体、どうすればいいんですか。」
「正太さんもみんなも知って要ると思いますが、私と最初に城下の一善飯屋での話を聴いたお侍が源三郎
様でしてね、この国の鬼を退治されたんです。」
「若様、源三郎様って、そんなにお偉い人なんですか。」
「う~ん、偉いか其れは私も分かりませんがね、その源三郎様が今の山賀と隣の松川、上田、野洲、菊池
を合体して連合国を設立されたんですよ。」
「若様、その連合国って、あの幕府に勝つ為の国なんですか。」
「まぁ~、最初はね幕府が相手だったんですが、其れが、源三郎様に入った情報では新しい組織と言うの
が幕府を倒そうとして要るらしいんですよ。」
「じゃ~、幕府が倒れたら、一体、オレ達はどうなるんですか。」
「正太さん、其れを今からお話ししますのでね。」
松之介は正太達に対し説明するが、相手は町民で武士の様に物事を学んでいない、その為に大変な混乱
をしている。
やはり、源三郎の言った通りで、正太達でも理解するまでには、一体、どれ程の説明を行なえば良いの
か分からないので有る。
「其れでね、私はねぇ~正太さん達に全てを理解して頂くまで、何回でもお話しは致しますが。」
「ねぇ~、若様、オレ達も真剣に聴きますんで、一度に全部じゃ無く、少しづつでもいいですから話をし
て欲しいんですよ。」
やはり、正太の言う通りだ、源三郎は言った様に少しづつでも話を続けるので有る。
「申し訳有りませんでしたねぇ~、では、最初に戻りましょうか。」
松之介は最初から丁寧に説明を始めた、すると、正太達も少しづつ分かり始めたので有る。
「皆さん、今までのところで何か分からない事が有れば聴いて下さいね。」
「あの~、若様、一体、どうなるんですか、今の話しじゃオレは若様が心配なんですよ。」
「う~ん、これは難しいですねぇ~、我が山賀の司令官に任命された、お人が吉永様と申されましてね、
源三郎様の、いや、総司令官の片腕のお人なんですよ。」
「じゃ~、若様は。」
「はい、一応、名目上で将軍となるのですが。」
「若様、ちょっと待って下さいよ、若様が将軍って事は。」
松之介はしまったと思ったが、時、既に遅かった。
「申し訳有りません、実は私はこの山賀藩の藩主なのですよ。」
「えっ、若様が藩主って、お殿様って事は、えっ、本当なんですか。」
「誠に申し訳ない、私は別に隠すつもりは無かったんですが、でも、あの時、正太さん達が若様と呼ぶっ
て言われましてね、私もつい嬉しくなりましてね言い出せなかったのですよ、許して下さいよ、この通り
ですから。」
松之介は頭を下げたが。
「なぁ~、みんな若様が別に悪いんじゃないんだ、オレ達が勝ってに若様って言ったんだ、だけど、若
様、いや、お殿様。」
「正太さん今まで通りでいいですよ、本当は殿様って呼ばれる様な人間じゃ~無いんでね、私は、これか
らも、みんなと一緒になって工事にも入りますからね。」
「でも、其れじゃ~、司令官と呼ばれる人から。」
「吉永様ですか、あの人なら何も心配無いですよ、お城の中でも、私を若と呼んで頂いてますからね、其
れよりも、さっきの続きですが、私は一応名目上将軍となるのですが、将軍と言うのはですねぇ~。」
松之介は説明を始め、その話が一時程掛かったが。
「皆さん、今までのところで分からない事は。」
「は~い、若様、じゃ~オレ達はこの仕事を続けれるんですね。」
「其れは、勿論ですよ、其れにねぇ~、源三郎様は我々山賀の領民、特に皆さん方をね一番褒めて下さっ
たんですよ。」
「えっ、源三郎様が何でオレ達をですか。」
「源三郎様は山賀から松川までの隧道が完成すれば、大量の物と大勢の人達が助かるって言われま
してね、其れには、正太さん達が一番頼りになるって。」
松之介の大芝居が始まった、確かに、山賀から松川までの隧道が完成すれば山賀の領民から犠牲者を出
す事も無く、松川まで避難させる事が出来るので有る。
山賀にとっては最大の難関とも言える隧道の早期開通を願って要る事に間違いは無い。
「え~、オレ達の事を知ってられるんですか。」
「何で私が嘘を言う必要が有りますかねぇ~。」
「まぁ~、其れもそうだよなぁ~、だってなぁ~、あの時も、私は良いお話しを聴かせて頂き誠に有難う
って言って下さったんだ、じゃ~、若様、オレ達が一生懸命に働いて早く完成させたら源三郎様から何か
ご褒美でも頂けるんですかねぇ~。」
正太の仲間はお道化た表情で言ったのだが。
「何だ、お前はご褒美が欲しいから工事に来たのか。」
正太も本気では無い、其れに、みんなも笑って要る。
「まぁ~、一応なぁ~、でも本当は、みんな若様の、いや、殿様には恥を搔かせる事だけは出来ないんだ
から、オレは若様の為にやるぜ。」
「おい、正太、オレ達もだよ、だって、こんな殿様って、今まで聴いた事が無いよ、オレ達の様な男にだ
ぜ頭を下げるんだからなぁ~。」
「よ~し、決まったオレ達は若様の為にだなぁ~、そうだ、若様、オレ達も考えてる事が有るんだけどな
ぁ~。」
「えっ、一体、何を考えられたんですか。」
「若様、オレ達の中に少しだけど特技を持ってる仲間が要るんだ。」
「特技って、なんですか。」
「奴に野山を走らせると、まぁ~、奴らに勝てる奴なんていないんだ、其れで、奴らをあの山で見張りに
付け様と思うんだけど、いいかなぁ~。」
「えっ、見張りをですか。」
「そうだよ、だって若様、何時、山賀に攻めて来るか分からないんだぜ、奴らを見張りをさせれば、その
何とか言う組か分からないけど、見付けて早く知らせる事が出来ると思うんだけどなぁ~。」
「ですが、何時、来るのかも分からないんですよ。」
「若様って何も分かって無いんだなぁ~、何時、来るか分からないから行くんだぜ、その何とか言うのが
大勢来る前に分かれば、若様だって助かると思うんだけどなぁ~。」
松之介も分かっては要るが、其れには、山賀の司令官吉永に相談する必要が有る。
「う~ん。」
「なぁ~若様、この付近の山の事だったらオレ達が一番知ってるんだぜ、若様、だからオレ達に任せてく
れよ、司令官様には若様から其処はまぁ~適当に言って欲しいんだ。」
「正太さん分かりましたよ、では、お願いしますね、だけど、決して無理だけはしないで下さいよ、お願
いですからね。」
「は~い、分かりました、お~い、一平、一平は何処だ。」
「正太、任せろ、だけど、毎日だからなぁ~、一人じゃ、無理だぜ。」
「よ~し、一平に任せるから、後は、一平に任せるが、絶対に敵には見付かるなよ、若様の為にな、頼む
ぜ。」
「まぁ~、オレ達は猿と同じでなんだ、其れに、オレ達を見付ける事はどんな奴らでも無理だからよ
~。」
「よ~し、其れで、何かが起きたら。」
「お~、オレが若様に知らせるから心配するなって。」
「では、これからは、一平さん達を猿軍団と呼びましょうかね、其れと、大手門の門番には猿が来たと言
って下されば、私に伝わる様にして置きますのでね。」
「じゃ~、若様、猿は今から行きますので。」
「ですが、食事は。」
「あっ、そうか、猿も食べないと動けないですよねぇ~。」
まぁ~、其れにしても何とも気の早い連中だ、一平は猿の真似をし、松之介達は大笑いした。
「ね、腹が減っては戦は出来ませんから、その準備も必要ですから、私は正太さん達のお気持ちは嬉しい
のです。
ですが、どの様な時でも準備がね、私は今から城に戻り司令官に相談をしますので、今日のところは何
時もの作業と猿軍団は仲間を集め、私と城に来て下さい、正太さんも一緒にですよ。」
松之介は最初の問題を解決し、正太達は城へと向かった。
一方、吉永も家臣達に説明を始めた。
「ご家老のお話しでは、我が山賀も大きな組織から攻撃を受ける可能性も有ると聞こえるのですが、何か
方策でも有るのでしょうか。」
「其れは、我が山賀の国が五か国の端に有るからですよ。」
「では、上田や野洲は大丈夫だと申されるのですか。」
「いや、そうでは無いのです。
その昔には山賀は他国からは米の買い付けで多くの商人が高い山の峠を越えて来ており、其れは、幕府
にも知られています。
其れに、隣の松川藩も同じ条件でしてね最初に通過する国と言えば、山賀なのですよ、ですから、私は
他国よりも山賀が最初に攻撃を受ける可能性が有ると申して要るのです。」
「ご家老様、其れで、今、我が藩としての対策ですが、どの様に考えておられるのですか。」
「皆様もご存知の様に空掘りに有る入り口を利用して洞窟を掘り進めて要るのです。」
其の時、若様と正太達が大広間に現れた。
「若、如何なされたのですか。」
「司令官、ご家中の皆様、ご議論の最中に大変申し訳御座いませぬが、今、洞窟の掘削を行なっておりま
す正太さんからの提案をお聞きして頂きたいのですが、如何でしょうか。」
「若、今も洞窟の掘削に付いて話が出て参りましたので、丁度、良かったです。
其れで、正太殿の提案と申されるのは、どの様な。」
「司令官様、オレ達は戦の事は全く知らないんです。
ですが、オレ達の中にはこの山に詳しい奴らが要るんです。
其れで、若様にお願いしましてその仲間を敵の動きの見張りに就けて欲しいんです。」
「正太殿、その敵と申される軍勢の正体も、まだ、はっきりと分からないのですよ。」
「司令官様、正か、一人や二人では来ないでしょう、来るんだったら大勢で来ると思うんです。
峠で見張るよりも他で見張るところが有りますのでオレ達に任せて欲しいんです。」
「う~ん、ですが、何時、来るのかも知れないのですよ。」
「だからいいんですよ、オレ達の仲間は誰よりもこの山の事を知ってますので若様には絶対に迷惑は掛け
ませんから、ねぇ~、お願いします、この通りです。」
正太は土下座し頭を下げた。
「ご家中の方々、正太さん達は確かに島帰りの人達です。
でもねぇ~、今の私はご家中の方々には申し訳有りませぬが、私は山賀では一番頼りになる仲間だと思
っております。」
「司令官、正太さん達に私は全てをお話しする事が出来ませんでしたが、正太さん達に余計な話は無用な
ので御座います。
彼らは今も毎日命懸けで洞窟の掘削を続けて要るのです。
どうか、お許しの程を私からもお願い申し上げます。」
松之介は吉永に対し深々と頭を下げた。
「若、頭を上げて下さい、そのお話しは若の判断にお任せしますので。」
「正太さん良かったですねぇ~、司令官から許可を得ましたよ、其れでねぇ~食事の事なのですがね如何
でしょうか、司令官、見張り所近くに食事を作るところが欲しいのですが。」
「ねぇ~、若様、オレ達の事は心配要りませんよ。」
「えっ、何故ですか高い山に登るのですよ。」
「なっ、正太、だから、若様なんだ、若様さっきも言ったでしょ、オレ達はこの山を知ってるってね、だ
から、若様は何も心配する事は無いんですよ。」
「ええ、聴きましたが、でもねぇ~。」
「若様、オレ達には秘密の山小屋が有るんですよ、まぁ~、その小屋を見付けるのは無理なんでね、其れ
に、その小屋にはね鍋も有りますんでね。」
「えっ、私は意味が分からないですが。」
「へへ~、若様、オレ達はねぇ~、元々が炭焼きが本職でしてねぇ~。」
「炭焼きの職人さんでしたか、其れは初めてお聞きしましたねぇ~。」
「ええ、其れで、この一帯の山は全部知ってるんですよ。」
松之介はまだ、理解が出来ないところが有る。
「でも、炭焼きって、何時も山の中に入って要るのでしょう。」
「ねぇ~、若様、余り詳しく聴かないで下さいよ、まぁ~、其れよりも、オレ達には特別の道が有りまし
てね、その道は木こりと猟師だけが知ってまして里に下る時もその道を使うんですよ。」
「其れで、正太さんが言われた意味が分かりましたが、でも、食べ物は。」
「はい、何時もお米と味噌は置いて有りますよ。」
「でも、他の人も使うのですから、お米も無くなるのでは。」
「オレ達にはね暗黙の了解ってのが有って、猟師は獲って来た獲物を、木こり達はお米や味噌をまぁ~適
当に補っていますんでね。」
「じゃ~、今度、私も一緒に連れて行って下さい。」
「いや、其れは出来ませんよ、だって、オレ達にも約束事が有りましてね、絶対に他の人は入れるなって
ね。」
「まぁ~、その様に固い事を言わずに、ね、お願いしますよ。」
松之介は手を合わせて頼むと。
「まぁ~、仕方ないか、若様だけですよ、でも司令官様でも駄目すからね。」
松之介はにっこりとして、吉永を見ると吉永も分かり頷いたので有る。
「ありがとう、其れで、一平さん達は全部の山に仲間が要るのですか。」
「ええ、山賀からあの端まで知ってますよ。」
「あの端までって、菊池の山までですか。」
「ええ、其れが、何か。」
一平もだが、正太達も意味が分からず首を傾げて要る。
「司令官、今の話しは大変重要な情報ですよ。」
「若、これは素晴らしいですよ、山を知り尽くして要れば、我々が山に入って迷う事も有りませんのでね
ぇ~。」
「ねぇ~、若様、オレ達が手分けして山の木こりと猟師達に話して見ましょうか。」
「司令官、如何でしょうか、私は独断で決める事も出来ない重要な情報だと思いますが。」
「いいえ、若が決めて頂いても宜しいですよ、私から総司令に連絡を入れますので。」
「あの~、その総司令って、正か。」
「その正かでしてね、源三郎様ですよ。」
「えっ、あの源三郎様って、そんなにお偉い人だったんですか。」
「まぁ~、偉いと言うのでしょうか、我々連合国では最高司令官ですから、でも、源三郎様と言うお方は
ねぇ~何も変わってはおられませんよ。」
「あ~良かった、オレ達はそんなに偉い人だとは知らなかったんで。」
吉永も笑って要る。
「正太さん、源三郎殿は前のままですからね、何も心配は要りませんよ、其れよりも、先程の話しですが
もう少し詳しく聴かせて下さい。」
「はい、じゃ~、でも、其の前に若様、オレ達は島帰りなんですが、みんな山賀の奴らに恨みを持って
るんですよ、だって、こいつは炭焼きですが、有る時、喧嘩を止めに入って、その侍を殺したんですよ、
だけど山賀の役人は何も聴かず、こいつを島送りにしたんですよ。」
「その話は本当ですか。」
「若様、オレが嘘を言っても仕方無いですよ、其れに、あの時、何人も町の人が見てたんですからねぇ
~、役人は最初からこいつらが悪いって決めつけて話しなんか聴かないんですよ。」
「そうですか、ご家中の中にその時の事を知って要る者はおりませぬか。」
暫くして、一人の侍が。
「あの~、私もその場におりまして。」
「で、その役人とは、今も奉行所に要るのですか。」
「はい。」
「では、その殺された侍とは、一体、誰なのですか。」
再び、沈黙が続き。
「一体、誰ですか、何も言えないと言う事は家中の者は知って要るのかはっきりと答えよ。」
正太達は驚いた、松之介が、いや、若様が殺された侍が一体誰なのか知る為に殿様の言葉使いになっ
た、だが、其れでも返事は無く。
「分かった、今、直ぐ、奉行を呼べ、私が直々に真相を究明し、関係者を厳重に処罰する、話しによって
は腹を切らせる、私は絶対に許さぬ、覚悟する事だ。
其れで、正太さん、その時の事を覚えていますか。」
「若様、でも、もう済んだ事ですから。」
「いいえ、其れは、許せませんよ、誰が考えても侍が悪い、正太さん、私はねぇ~どんな事が有ったとし
ても許す事は出来ないのです。」
「でも、若様。」
「正太さんの仲間が、其の時、下手をすれば打ち首か張り付けになったのですよ、其れに、この話が総司
令の耳にでも入れば大変ですよ、関係者は切腹なんて簡単な処罰では許しては貰えませんよ、総司令を怒
らせると、まぁ~、山賀の家臣全員でも止める事は出来ないですからねぇ~。」
「えっ、そんなに恐ろしい人なんですか。」
「正太さん、総司令と言うお方はね、普段は、もう、本当に優しいお方でね農民や漁民、其れに、町民
を、其れは、とても大事にされるお方ですからねぇ~、ですから、尚更、この問題を先に解決しましょ
う。」
其れから、暫くして、お奉行が飛んできた。
「殿。」
大広間は水を打った様に静まり返って要る。
「お奉行、少し前の話ですが、是非ともお聞きしたい事件が有ります。」
「はい、其れは、どの様な事件でしょうか。」
「実は、この人達は炭焼き職人さんでね。」
松之介は、その後、奉行に詳しく話すと。
「はい、実は、あの時、ご家老から呼び出しを受け、その者は張り付けにせよと申されまして。」
「ええ、其れで。」
「私も与力や同心から聴いたのですが、この件は誰が見ても侍が悪いと判断し、彼らを張り付けには出来
ませぬので数年間の島送りと言う事に結論を出したのですが、でも、ご家老は直ぐには納得せずでした
が、私は、何としても張り付けだけは避けたく、其れで、やっと、納得して頂きまして、私は、その者達
には二度と山賀には戻るなと申し付けたのですが、其れが何か。」
「お奉行、其れで、その者達は、今、此処におりますか。」
「ええ、先程も見て驚いたのです。」
「其れで、家老からその後は何か申し付けは有ったのですか。」
「はい、次は私を処罰すると申されましたが、私も奉行としての立場上、全て侍が良いとは思っておりま
せんでしたので、家老から処罰は甘んじて受けるつもりでおりました。」
「では、その者達は一体、誰なのですか。」
「はい、確か、勘定方の方々と伺っておりましたが、私も詳しくは伺ってはおりませんでした。」
「この中に勘定方は要るのですか。」
「若、勘定方は全員、詰所で御座います。」
「では、直ぐ、全員を呼んで下さい。」
「はい、誰か、勘定方に出向き全員を此処に来る様に。」
さぁ~、一体、誰なのだ、勘定方の全員なのか、其れとも、他の者も入って要るのか、傍に要る正太達
も一体どうなるのか心配になってきたので有る。
「お奉行、殺された侍と言うのは一体誰なのですか。」
「はい、確か、ご重役のご子息だと伺っておりますが。」
「えっ、では、その重役から家老に対して報告に入ったと言われるのですか。」
「はい、ご子息を殺した町民を絶対に許す事は出来ないと、ご家老に直訴されたと、私は伺っております
が。」
其の時、勘定方の全員が入ってきた。
「貴方方の中でお酒に酔って町民に切り付けた者は一体誰ですか。」
「殿、一体、何事で御座いましょうか。」
「貴殿は、勘定方の重役ですね、貴殿のご子息が殺されたのですか。」
「はい、息子は町民になぶり殺しになったと聴いております。」
「へ~、其れは、また、私が聴いた話とは全く違いますがねぇ~、其の時、一緒に居た者は。」
勘定方の一人を除き、全員が名乗り上げた。
「貴方方はお酒に酔って刀を振り回し多くの町民が怪我をしたと聞いているが、其れは、誠か。」
「いいえ、私は刀は抜いてはおりませぬ。」
「貴方は刀を抜いていないと、では、何をされたのですか。」
「はい、私は皆様を止めに入ったので御座います。」
「では、貴殿は宜しいですよ、其れで、他の者は間違いは無いのですか。」
勘定方の者達は何も言わず下を向いたままだ。
「お奉行、やはり炭焼き職人の言われた通りですねぇ~。」
「殿、ですが、町民が侍をなぶり殺しにするとは、私は許せませぬ。」
「では、聴くがお酒に酔って多くの町民に切り付ける事は許されるのか。」
「其れは、ですが、我々は侍です。」
「では、侍ならば何をしても良いと申すのか、はっきりと申せ。」
「若様、オレ達は何も悪い事はしてないんですよ、炭を届けに来たんですから。」
「そうですか、分かりました、其れで、お奉行、怪我をされた人達ですが、命は。」
「はい、大怪我でしたが、全員、命だけは助かったと聞いております。」
「其れは、良かった、では、聴くがお主達は何か弁解する事でも有るのか。」
「殿、何故、今頃になってその様な事を申されるので御座いますか。」
「お前達に何を話しても無駄の様だ、お主達に処罰を下す。」
「えっ、何故、我々が。」
「黙れ、許す事は出来ぬ、侍と言うのは領民を守るのが一番のお役目、其れを、我らは侍だ、侍は、何を
しても許される、私はその様な事は絶対に許さぬ、全員、洞窟の掘削に就かせる。」
「えっ、何故ですか。」
「お主達は武士としてあるまじき所業を行ない、多くの町民を恐怖に陥れたのだ文句は言わせぬ、正太さ
ん、この者達を洞窟の先端で作業に就かせ、食事も寝るのも、全て、洞窟内で済ませて下さいね、其れ
と、私の許可が無ければ絶対に外に出してはなりませんよ。」
「はい。」
正太達はどの様に表現して良いのか分からない、若様は侍なのに町民の見方だと。
「皆の者、よ~く聴くのです、我々は領民を守る、これが一番の任務です。
この先、領民に対し今回の様に理不尽な行為が有れば、即刻、処罰致しますのでね、私は本気ですか
ら、司令官、私の独断で申し訳御座いません。」
「いゃ~、若は、まだ、甘いですよ。」
勘定方の者達の顔が引き攣った、一瞬、あの時の恐怖の光景を思い出したので有る。
「えっ、甘いとは。」
「ええ、これが、総司令ならば、この者達を山に連れ出し足を切断し、狼の餌食にされると思いますがね
ぇ~。」
「えっ、本当で御座いますか。」
「はい、総司令は皆も知っての通り、鬼家老の息子を打ち据え、樽に入れ海に沈ませ、息子は苦しんで、
苦しみ抜いて死んだと思います。」
「えっ、あの源三郎様って、そんなに恐ろしい人なんですか。」
「正太殿、総司令は領民の見方ですよ、何も無ければ、あれ程、お優しい人はおられませぬが、今回の事
件が総司令に知られると、若も処罰されますよ、若は甘いとね。」
「でも、義兄上がそれ程の事をされるとは。」
「皆も、よ~く聴け、この者達は、今回、若の処罰で命だけは助かった、だが、次は無いと考えよ、分か
ったのか、お前達は果たして何時まで洞窟内で生き延びるか知らぬぞ、そして、二度と洞窟からは出る事
は出来ぬ、其れだけは覚悟するのだ、分かったか。」
家臣達は下を向き返事も出来なかった程の恐怖を感じていた。
「はい、私も今後は気を付けます。」
松之介は話には聞いていたが、吉永から聴くと、今更ながら処罰が甘いと、だが、松之介には考えが有
った。
「司令官、この者達には洞窟の掘削作業がどれ程大変な作業なのか、身を持って知らせる必要が有ると思
いまして、其れに、先端部分は一番危険なところですので。」
「若、其れで十分だと思いますよ、其れよりも、正太殿達の事ですが。」
「そうでしたねぇ~、正太さん許して下さいね、一平さん達は、これから、炭焼きの仕事に入って頂きま
して監視の任務に就いて頂きたいのですが皆さんは如何でしょうか。」
「若様、オレ達に任せて下さいよ、オレ達が見た時には直ぐ知らせますので。」
正太達は若様が下した罰則に納得し、一平達は監視の任務を快く引き受けてくれたので有る。
「お奉行、丁度、良いところに来て頂きましたので、少しお話しを聞いて頂きたいのですが。」
「はい、承知致しました、其れで、どの様なお話しで御座いましょうか。」
「はい、では、お話ししますが、実はですねぇ~、我が山賀藩は。」
松之介はお奉行に詳しく説明すると。
「殿、実は、私も近頃、山賀を訪れる旅人の話を聴きましたが、高い山の向こう側では大きな戦が有ると
か、私もご城下でに不審な者が侵入していないか、奉行所の者達には注意する様にと申し伝えて要るので
御座います。」
やはり、山賀にも少数では有るが旅人が訪れて要ると、だが、今のところは幕府の密偵が山を越えて来
てはいないと、そして、新しい組織からも。
「其れは大変有り難い話ですねぇ~、先程も申しましたが、我々は領民を助ける為にこの城の裏側に大き
な洞窟を発見したのです。」
「其れは、若しかしまして、昔からの伝説で聞いておりますお蛇様の要る洞窟かと。」
「はい、その洞窟ですが大蛇もおらず大昔の人間が掘った洞窟ですが、正太さん、今、どれ程進んでおり
ますか。」
「はい、あれから、一町は掘り進みましたが、あっ、そうだ、若様、忘れてましたよ、この頃、粘土が多
く出る様になって来ましたので、少し掘るのが遅くなってきてるんですよ。」
「えっ、粘土ですか。」
「はい、余り柔らかいので外に出したんですが、あれは、粘土に間違いは無いですよ。」
「正太さん、其れは、危険ですので掘削を中止して下さい。」
若様は松川藩の次男で陶器に使う粘土を子供の頃から見て知っており、落盤の可能性が有ると考えたの
で有る。
「でも、止めると。」
「いいえ、いいのです、粘土は水を含んでいますので、私は何度も落盤事故を知っておりますので、誰か
行って直ぐに中止させて下さい。」
「はい、分かりました、おい、誰か行ってくれ。」
「じゃ~、オレが、行くよ。」
仲間の一人が城の裏側に走って行った。
「正太さん、知り合いに木こりさんと大工さんはおられますか。」
「はい、城下におりますが。」
「じゃ~、みんなで手分けして何人でも宜しいですから此処に呼んで下さい。」
若様、松之介はとっさに補強工事を思い付いたが。
「誰か、紙と筆を大至急にです。」
「若、松川へですね。」
「はい、松川は陶器を作っておりますので、以前、義兄上が申されておられました、連岩が此処で作れな
いかと思いましたので。」
松之介は松川の竹之進と野洲の源三郎宛てに文を認めたので有る。
「誰か、この文を松川と野洲の義兄上様に大至急届けて下さい、大至急馬で行って下さいね。」
大広間に集まっていた家臣達も正太達も一体何が起きたのも分からずに要る。
「正太さん、正かとは思いますが、直ぐ、洞窟へ家中の者達も直ぐ洞窟へ向かう様に。」
大広間の全員がお城裏の洞窟へと走って行く。
だが、その時には洞窟で掘削中に大きな落盤事故が発生し、先端に居た正太の仲間数十人が生き埋めに
なったのか、仲間達が先端部分を必死に掘り返しており、中に取り残された仲間が、一体、どうなったの
かも分からず大勢で救出活動に入って要る。
「お~い、松明をもっとだ、早くしてくれ。」
松明が数十本も点けられ、先端部分だけが少し明るくなり、数十人が必死で粘土状の土を掘り出しては
要る、だが粘土質の為に簡単には行かない。
「お~い、水を汲んできてくれ。」
「オレが行くぜ。」
「おい、どうだ。」
その内、一人、又、一人が土の中から救出されてたが、果たして、生きて要るのか、其れとも、死んで
要るのか全く分からず顔に付いた粘土を必死で拭き取って要る。
「おい、大丈夫か、返事をするんだ、おい。」
「水を持って来たぞ。」
仲間が水を含ませた布で顔を拭き。
「おい、返事するんだ、おい。」
暫くして。
「う~ん。」
「おい、大丈夫か。」
やっと、一人が息を吹き返し生き返った、だが、一体、何人が土の中に居るんだ。
「おい、一体、おい、大丈夫か。」
正太が飛んで来た。
「正太、大変なんだ、天井が崩れて下に、其れで。」
「うん、で、何人が埋まってるんだ。」
「お~い、鍬を持って来い、道具の無い奴は手で掘るんだ、早く、早く、ちくしょう、何で。」
正太は気が狂った様に粘土質の土を掘り出すが、天井から大量に落ちたのか、幾ら、掘っても、仲間の
姿が見えず、気が狂った様になって要る。
「ちくしょう、何で、こんな事に、オレが、オレが全部悪いんだ、ちくしょう。」
正太も仲間も必死だ、他の者達も必死で掘って要る。
「手の空いて要る者は城に戻り桶に水を入れ此処まで運べ、其れと、新しい布が大量に要るから大至急、
城へ向かえ。」
松之介が指示で、家臣達は走って城へと行く。
掘って行くと、やがて、最先端部分と思われる空間が見つかり。
「お~い、誰か、要るのか。」
「お~い、正太、みんな生きてるぞ。」
「よ~し、みんな掘れ、掘るんだ、さぁ~、早く、早く掘るんだ。」
数百人の仲間は有るだけの道具で粘土質の土を取り除いて行く。
「誰か、松明だ、早くだ、早く持って来い。」
正太は、先頭になり必死で掘っており、やがて、空間は大きくなり。
「お~い、生きてるぞ。」
一人が出て来ると。
「やった、やったぞ、生きてるぞ。」
仲間は喜ぶが。
「みんな静かにしてくれ、声が聞こえないんだ。」
一瞬で、静まり、中からは一人、又、一人と出て来る。
「よ~し、もう、大丈夫だ、誰か、運んでくれ。」
松之介は正太に任せ、ドロドロの粘土を被った仲間達に手を貸し離れた場所に連れて行く。
「大丈夫ですか。」
「うん。」
「良かった、申し訳有りません。」
「若様。」
「誰か、この人を外に運んで下さい。」
家臣達は彼を外に運んで行き、又、一人が出て来た。
「大丈夫か。」
「うん、大丈夫だ。」
家臣達は次々と出て来る仲間を外に運び、新しい布を水で濡らし顔を拭いて要る。
「お~い、全部で、何人なんだ。」
「う~ん、全部で、二十人かなぁ~。」
「なぁ~、はっきりしてくれよ。」
「うん、二十人に間違い無い、うん、二十人だ、全員だ、誰か、他には。」
「いや、今、十八人だ、えっ、じゃ~、二人足りないぞ。」
正太は、飛び込んだ。
「おい、さっき、何人だった。」
「二人だ。」
「よし、これで、二十人だ、正太、全員助かったぞ~。」
正太が出て来た。
「本当か、で、みんな、怪我は無いのか。」
「うん、オレ達は、全員、生きてるぜ。」
「あ~、良かったなぁ~、みんな助かったんだ。」
正太は急に力が抜けたのか、その場にへたりこんだので有る。
「皆さん、申し訳有りません、全て、私が。」
若様は土下座して頭を下げると。
「若様、何も若様が、ねぇ~頭を上げて下さいよ、何も考えずに無理して掘った、オレ達が悪いんです
よ、だって、若様の。」
「いいえ、私が無理をお願いしたのです。」
「若様、もう、いいんですよ、悪いのはオレ達で、オレ達は若様の喜ぶ顔が見たくて。」
其れでも、松之介は立たず。
「うん、そうだよ、なぁ~、若様、全員助かったんだから、ねぇ~お願いですから、若様。」
松之介もやっとの事で立つが付近の家臣達は松之介の行動には何も言えず。
「正太さん、私がもっと早く知って要れば此処が粘土質だと。」
「何も若様の責任じゃ無いですよ、ねぇ~、其れよりも、これから、一体、どうすんですか。」
「若様、水を持って来ました。」
「ありがとう、皆さん汚れを落として、顔も洗って下さいね、其れよりも、皆さん、一度外に
出ましょうか。」
「若、今度、事故が起きれば死人が出ると思われますが。」
「司令官、其れでも私は強行しますよ、先程の勘定方の者はこの粘土を全て外に運び出すのです。
全てですからね。」
若様の気持ちは収まって無かったので有る。
「殿、全部ですか。」
「そうだ、文句は聴かぬ、全て運び出せ。」
「ですが、今、事故が起きたばかりですが。」
「そうです、だから全て運び出すのです、其れに、事故は奥の天井ですから、今から直ぐに始めよ、正太
さん、申し訳有りませんが、どなたでも宜しいのでこの者達の監視の為に数人付けて下さい。
お主達、この現場からは逃げる事は許さぬ、絶対にだ、其れだけは覚悟致せ。」
松之介は事故現場の復旧作業に入ったので有る。
「若様、オレ達は。」
「皆さん、城に行き湯殿で汚れを落として下さい、誰か城に行き新しい着物を。」
「若、用意は出来ておりますので。」
さすがに、吉永だ手回しと言うのか、早い。
「司令官、ありがとう、正太さん、話は城でね。」
松之介と正太達は城へと戻った。
「何故、我々だけが、この様に不当な扱いを受けなければならないのだ。」
「そうだ、我々が悪いのではない、元はと言えば、全て、あっ、そうだ、重役の息子が、重役、何か言っ
たら如何ですか、貴殿の息子の為に我々は被害者なのだ。」
「だが、お主達も悪いのではないか、私はお主達の話を全て信用しご家老に申し入れたのだ、だが、町民
の話は全く違うでは無いか、其れを、一体、どの様に釈明するつもりなのだ。」
どうやら、勘定方の者達が嘘の報告をしたのだろう、最初の話とは全く違い町民が被害者で有り、其れ
を、彼らが殿様に直訴したと、この重役は全てを諦めた様子で有る。
その後、正太の仲間で有る一平と仲間達の炭焼き職人が隣の松川の山に入り、炭焼き仲間と猟師達と木
こり達に話をすると、誰もが反対する事も無く不審者を見付ける為の見張りに就いた。
其れが切っ掛けとなり、上田へ野洲へと最後の菊池の猟師達や木こり達へと通じ、これで、山賀から菊
池まで山で働く人達が高い山向こう側の動きを監視出来る様になったので有る。
松川では松之介から送られて文を見た竹之進と斉藤が窯元数人を連れ山賀へと向かった。
一方、菊池では高野が先頭になり、農民は下から漁師達は山に登り頂上から向こう側を見て要る。
漁師達の目は町民とは違い遠くまで見れると言うので漁師達が山に登ったので有る。
「高野様、此処から見ても、一里、いや、二里以内に集落は有りませんよ。」
「ですが、少し変ですよ、これだけの土地に集落が無いと言うには。」
「高野様、オラ達、漁師の間では、この山の向こう側の五里は鬼門だと聞いた事が有るんで。」
「えっ、鬼門ですか、其れは、言い伝えですか。」
「はい、昔から数軒の家が建つと、その年の冬は大雪になり全員が凍えて死ぬって、で、其れからは誰も
住まないんですよ。」
「ですが、菊池では何も起きておりませんが。」
「オラも詳しい事は知りませんが、大昔からの言い伝えなんですよ。」
「そうですか、ありがとう、分かりました、じゃ~、下を見て何か隠れる場所は、特に大木が数本、そう
ですねぇ~、五本くらいが密集した所を探して下さい。」
漁師達は、暫く、下を見回し。
「え~っと、高野様、あれは、どうですか。」
「ほ~、丁度ですねぇ~、じゃ~、反対側に行きましょうか。」
高野達は山の反対側に行き。
「此処に目印となると、う~ん、有りましたよ、丁度、良いのが。」
其れは、枯れた大木だ、其処から少し離れた菊池側に行くと菊池の漁村が見え。
「う~ん、此処が、丁度、良いところですねぇ~。」
枯れた大木の直線上には浜の大きな岩が見える。
「うん、此処で決まりですねぇ~。」
「高野様、じゃ~、この真下から、あの枯れた大木に向かって掘るんですか。」
「其れで、行きましょうか。」
まぁ~、何と言う簡単な決め方だ、其れから、高野達は頂上を海側へと下った。
この調査が終われば、頂上から大小の岩石を海へと投げ込み海岸の細い道を封鎖する事になって要る。
「総司令、この度、山賀に向かわれますご用件とは。」
「鈴木様、山賀の若は松川の生まれ育ちでしてねぇ~、其れで、松川と言えば。」
「はい、松川は。」
「総司令、松川は陶器ですが、あっ、そうか、分かりましたよ、ですが、山賀には陶器を作る様な所は無
いと聞いておりますが。」
「上田様、其れがね、山賀の洞窟で大変な発見が有ったのです。
若様から文が届きましてね、その内容ですがねぇ~。」
「大変な発見と申されますと、正か、粘土の山が発見されたとか。」
「はい、実にその通りでしてね、洞窟を掘り進んで行くと、突然、粘土質の土が出たと、其れで、松川の
窯元にも来て頂きたいと、松川へ文を出されたのです。」
「総司令、では、上手くに行きますと、洞窟内の補強材として使用出来る可能性も出て来たのでしょう
か。」
「う~ん、まぁ~、其れは、窯元の判断に任せるとして、ですが、若しもですよ利用出来るので有れば松
川から専門の職人を呼ばなければなりませんのでねぇ~。」
「ですが、何としても使える様にして欲しいものです。」
鈴木も上田も思わぬ話で、其れが、実現すれば松川で焼いた連岩を他に回せると考えたので有る。
「はい、私も其れを望んでおりますが、山賀の若が松川へ文を出したと言う事は、多分、若の勘でこの粘
土は使えると判断されたのではないでしょうか。」
源三郎は山賀で発見された粘土が連岩に使えるので有れば、山賀でも大量に生産出来るだろうと、その
連岩で各藩の洞窟内で補強材と使用出来るならば安全が保たれると考えたので有る。
だが、その粘土がどれだけの量が有るのか、其れも調べ無ければならないが、其れよりも、粘土が使え
るのか、全ては窯元の判断に任せる他は無い、其れから、二日後に山賀に到着したので有る。