第 20 話。 連合国と言う名の闇の帝国誕生。
「上田藩のお殿様、ご家老様、ご随行の方々がお着きになられました。」
大手門には早朝から野洲の家臣達が何時もの作業着姿では無く正装し、大手門で四カ国の藩主の
到着を待ち構えている。
藩主と随行の者達全員が馬で来城するので随行の者達も少なく、他の国から見ても、正か、殿様
が馬に乗って来るとは考えておらず大手門の警戒も緩くさせて要る。
「菊池藩のお殿様、ご一行のご到着で御座います。」
「源三郎殿、久し振りじゃのぉ~。」
「お殿様にもお変わりなく。」
「今日は大変な一日になるが、宜しく頼みましたぞ。」
「はい、私の出来る限りの事をさせて頂く所存で御座います。」
「松川様、山賀様、続いての、ご到着で御座います。」
竹之進も松之介も普段着のままだ。
「ようこそ、御出で頂き、誠に有り難き幸せで御座います。」
「義兄上様、今後とも宜しくお願い申し上げます。」
「こちらこそ、私の出来る事ならばどの様な事でもさせて頂きます。」
源三郎は若き藩主に頭を下げた。
「源三郎殿、大変ですが、我らもどの様な協力でもさせて頂く所存で御座います。」
吉永は、すっかり山賀の筆頭家老の貫禄を漂わせている。
「吉永様には大変なご無理を引き受けて頂き、源三郎は感謝致しております。
さぁ~、皆様、どうぞ、こちらで御座います。」
源三郎は最後に到着した、松川と山賀の藩主と随行の家老を案内するが、今日は大変な一日に、
いや、果たして、一日で終わるのだろうか。
源三郎が山賀の問題も処理し、野洲に戻って来て数日で有り、その数日間で連合国設立に関する
文言さえも出来ずに、其れが、果たしてどの様な事になるのか、源三郎は予想すら出来ずに要る。
その頃、城下でも領民達が噂話を始めた。
「おい、大変だぜ、お城に、今まで見た事も無かったお侍様達が大勢集まって要るそうだ。」
「えっ、今まで見た事も無いお侍様って、一体、何処のお侍様なんだ。」
「オレも、初めて見る顔なんだが、みんな、馬に乗って来たぜ、其れよりも、お城のお侍様が大手
門の前にだよ正装して並んで要るんだ、これは、何か始まるんじゃないかなぁ~。」
「わしも見たよ、だけど、あの中に髷の無いお侍様も居たぜ。」
「えっ、じゃ~、野洲のお侍様かなぁ~。」
「いいや、あのお侍様は野洲のお侍様じゃないよ、だって、わしらは野洲のお侍様の殆どは知って
るからなぁ~。」
「うん、そうだよ、野洲のお侍様は何時でも作業着姿で城下に来られて要るから、オレも知ってる
よ、まぁ~其れにしても何が起きたんだろうかなぁ~。」
この様な会話が、城下のあちら、こちらで囁かれ、今日の日が来るまで野洲の城下では殆どと
言っても過言ではない程、家臣達は作業着姿で城下に入り、各問屋を始め色々な店に顔を出し今の
状態を聴きに回って要る。
その様な話が今や大発明家と言えるげんたの耳に入った。
「なぁ~、母ちゃん、お城で何か有ったみたいだよ。」
「げんた、母ちゃんも聞いたよ、だけど、源三郎様に何も無ければいいんだけどねぇ~。」
「母ちゃん、あんちゃんの事だったら心配は要らないよ。」
「だけどねぇ~、げんた、源三郎様だってお侍様なんだからね、本当に何も無ければいいんだけど
ねぇ~。」
其れは、げんたも同じで、確かに源三郎の役目も大事だと、だが、げんたは、源三郎の役目をど
れだけ知って要るのか、其れは、げんた自身も全てを理解して要るのでは無い。
「なぁ~、母ちゃん、オレ、お城に行ってくるよ。」
「でも、げんた、お城に行って、一体、どうするのよ。」
「オレ、あんちゃんにとっても大切な話が有るんだ。」
「でも、今、お城で何が起きてるのかも分からないんだよ。」
「いや、オレは絶対あんちゃんに会って話するんだ、絶対にするからね、じゃ~。」
げんたは、そう言うと表に飛び出しお城へと走って行った。
「皆様、本日はご多忙中にも関わらずお集り頂き、誠に恐悦至極に存じます、只今より。」
「源三郎殿、少し、お待ち下され。」
突然、菊池の殿様が発言し。
「はっ、はい。」
源三郎は驚いたが。
「如何なされましたので御座いましょうか。」
「源三郎殿、その前にお集りの皆様方、私は大切なご相談と申し上げるよりも、ご提案が有るので
すが、皆様方、お聞き下さいますか。」
「菊池殿、如何なされたのですかな。」
野洲の殿様も全く考えもしなかった。
「菊池殿からの提案ですか、其れは、一体、どの様なお話しでしょうかな。」
上田の殿様も知らない。
「はい、私はこの度の連合国設立に反対するものでは御座らぬ、寧ろ、大賛成です。
連合国と申せば、弱気、五つの国が一つになると言う話で御座います。」
「菊池殿、それは、皆が知っておりまするぞ。」
「はい、正しく、その通りで御座います。
上田殿、其れで、私は暫く考えておりましたが、私の提案と申しますのは、この度の連合国には、
最高指揮官と申しましょうか、最高責任者と申しましょうか、その最も重要な役職に、私は源三郎
殿を推挙したいと考えておりますが、皆様方は如何で御座いましょうか。」
「えっ、少しお待ち下さいませ、私はその様な大それた事の出来る人間では御座いませぬ。」
源三郎は大慌てで否定するのだが。
「失礼ながら、皆様方に置かれましては申し訳御座いませぬが、これは、私は菊池以外他国の事は
殆どと申し上げても良い程知らぬので御座います。
皆様方の中で、自国以外、どれ程、ご存知なのでしょうか。」
其れは、菊池の殿様の爆弾発言だ。
「う~ん、誠にその通りですなぁ~、私も正直なところ、他国の殿様とお会いするのも数度で詳し
くは存じませぬなぁ~。」
上田の殿様も野洲の殿様も、正直な処、他国の事は全く知らないと言っても良い程だと。
「私の失言をお許し願えればお互いの事を言うより、私は源三郎殿は全ての藩主は勿論の事此処に
御出でになられました、ご家老様のお顔も源三郎殿は全てご存知なのです。
更に、申せば、私は菊池の恥を申しますが、源三郎殿は菊池と言う国を救って頂いのです。
これは、紛れも無い事実なので御座います。」
源三郎が救ったのは菊池だけでは無い、五つの国全てで有る。
「私は菊池を恥じるよりも、源三郎殿と申される人物は類まれな才覚の持ち主だと確信致しており
ます。」
「菊池殿、其れは、菊池藩だけでは御座いませぬぞ、我が上田も救って頂いたのですから。」
「あの~、宜しいでしょうか。」
「どうぞ、どの様なお話しで御座いましょうか。」
「私は山賀の松之介と申します、若輩者で御座いますが、今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。
私は義兄上様が山賀の鬼を退治して頂き、今では家臣の全員と領民達が義兄上様には大変感謝を
申し上げております。」
「山賀殿、今、義兄上様と申されましたが、源三郎殿は山賀殿の兄上様なのですか。」
「はい、実は私の姉上の。」
「では、山賀殿とは義兄弟なのですか。」
「はい、私の実の兄が松川の。」
「左様でしたか、源三郎殿の奥方様でしたか。」
「菊池殿、松川藩の姫君様ならば、上田のと申しますよりも、上田の家臣達も知っておりますぞ、
其れは、もう大変、お美しいお姫様ですぞ。」
「私も一度はお目に掛かりたいものですなぁ~、ですが、その山賀の鬼とは、一体、どの様な人物
なのですか。」
「はい、山賀の鬼家老は山賀では権力を我が身と我が家族の為に使い、私腹を肥やし、其れだけに
飽き足らず、私の父に対し、松川を併合させる為に、其れはもう有りと、あらゆる手段を講じたの
で御座います。」
「何ですと、では、山賀の鬼とは家老の話で、では、藩主殿は。」
「はい、藩主とは名目上だけで、全ての実権は鬼家老が握っており、実質上の最高権力者で御座い
ました。」
「ですが、源三郎殿が何故山賀に参られる事になったのですか。」
「菊池殿、その話は、私が。」
上田の殿様が、何故、山賀の鬼を退治に行く事になったのかを出席者全員に説明すると。
「では、上田藩が実質の被害を受けられ、上田を救う為には山賀の鬼を退治しなければならないと、
其れが、結果的には山賀の鬼を退治し、山賀と松川、其れに、上田の領民達も救われたと申される
のですか。」
「上田の領民達も全て源三郎殿のお陰だと。」
「野洲殿、如何でしょうか、私の話に納得して頂きましたでしょうか。」
「源三郎、如何じゃ、此処に集まりし全員が、源三郎を最高責任者にと申されておられ、余は、何
も反対は出来ぬが。」
「殿、皆様方、私は今まで、権力や権限が欲しくてお役目を務めていたのでは御座いませぬ。
全ては、領民の為、これだけの為なので御座います。」
源三郎が権力を手に入れる為に五つの国を救ったのでは無い、其れは誰もが知って要る。
例え、源三郎が権力を持ったところで、権力を前面に出す様な人物では無い事も知って要る。
「源三郎殿、仮にですよ、私が最高責任者となれば、菊池の領民からは何故源三郎殿では無く、菊池の殿
様なのだと、其れは、猛烈な反対を受けるのは誰の目から見ても明らかです。
源三郎殿ならば五か国が連合し、新しく強い連合国を任せられる事が出来るのです。
私はこの連合国をお任せし、今まで以上に領民の為にお役目を務めて頂ければ、もう、何も申し
上げる事は御座いませぬ。」
「殿は、知っておられたのですか。」
「源三郎殿、この話はどなたもご存知有りませぬ、全て私の考えで御座いますので。」
源三郎は頭が混乱して要る、自分の様な若輩者が、果たして、最高責任者となっても良いものだ
ろうか、責任は重大で全ての権限を与えられ、他人から見れば連合国の最高権力者になるのだと、
其れが、果たして、連合国の為になるのだろうか心は迷っている。
その様な時に、げんたが大手門にやって来た。
「あんちゃんは帰って来たのか。」
「げんたさん、源三郎様は戻られておられるが、今日はねぇ~大変なんだよ。」
「何が大変なんだ、オレは大事は話が有るんだからね。」
「だけど、今日は全てのお殿様とご家老様が来られて大事なお話しの最中だから、明日にでもして
欲しいんだ。」
「えっ、全てのお殿様とご家老様が集まってるって、一体、何が有ったんだ。」
「いゃ~、我々は何も分からないんだ。」
「ねぇ~、じゃ~、今、全部のお殿様達とご家老様達があんちゃんを怒ってるのか。」
げんたは何を勘違いしたのか、其れは、門番は何も聴かされておらず、その為、げんたには説明
が出来なかったので有る。
「うん、分かったよ、でも、オレの話の方が、もっと、大事なんだからね、オレは行くよ。」
げんたは、門番の制止を振り切って城内へと走って行く。
門番も直ぐ追い掛けるが、げんたの速さに負け、仕方無く、近くの家臣に話すが、げんたは走り、
何時もの様に大広間に入って行く。
「あんちゃ~ん、え~。」
げんたは、驚き止まった。
「げんた、一体、どうしたんですか。」
「あんちゃん、オレ。」
「げんた、如何したのじゃ。」
「野洲殿、この子供がげんたと申されるのですか。」
「そうです、げんただけは、私が許しまして、何時来ても良いと。」
「源三郎殿、げんた殿が来たと言う事は余程大事な話しでも有るのでしょう、私は是非とも聴きた
いのですが。」
「はい、誠に申し訳御座いませぬ。」
源三郎は菊池の殿様に頭を下げると。
「あんちゃん、オレが思い付いた事が有るんだ。」
「げんた、何も今日で無くても良かったのでは。」
「いや、其れが、駄目なんだ、其れよりも、あんちゃんがオレに海の中で息が出来る物を作れって
言ったんだ、で、オレが其れから考えた物が有るんだ。」
「一体、何を考え付いたんだ。」
「うん、あんちゃんは、人間が水の中で息が出来ないかって言ったんだ、其れでね、オレは船を海
の中に潜らせる事が出来ないかって。」
「何じゃと、海の中に船を沈めるのじゃと申すのか。」
「殿様、違うんだよ、海の中に潜らせるんだ、其れも、人間が乗り込んでなんだ。」
大広間に集まった、殿様方もご家老様方も何と聴いて良いのか分からないほど驚きの発言なのだ。
げんたは、海の中に人が乗った船を潜らせるのだと、源三郎は驚くよりもげんたの話しを聴きた
いと、源三郎は、数日前、殿様に入江に見張り所の設置を考えて要ると、だが、源三郎は海に潜る
船などは全く考え付きもしなかった。
げんたの発想が、五か国の殿様達には衝撃的にも聞こえたので有る。
「げんた殿と申されるのか。」
「うん、そうだよ。」
「今、此処には、五か国の殿様とご家老様が居られる、私はげんた殿が申される海の中に潜る船と
は一体どの様な船なのか想像も出来ない少し分かる様に説明して欲しいのだが。」
「うん、分かったよ、じゃ~、簡単に言うからね。」
殿様方もご家老様達も顔は真剣でげんたの話を聴いて要る。
「で、オレは、あんちゃんの事だから、若しかだけど、若しかして、今度はね海の中に潜らせる船
を作れって言われる様な気がしたんだ。」
「げんた、その海の中に潜る船ですが、海の中に入ると何も見えなくなりますよ。」
「なぁ~、あんちゃんは何も考えて無かったんだろうけど、オレは違うんだぜ。」
げんたは、源三郎が、まだ、考え付いていないと分かった。
「うん、そうなんだ、だけど、数日前に入江に見張り所を設けるって話しをしたなぁ~。」
「源三郎殿、入り江に見張り所とは一体どの様な話しですか、其れと、げんた殿が言う、海に潜る
船と何が関係か有りそうだと思うのですがねぇ~。」
「承知致しました、では、お話しをさせて頂きます。
皆様のお国では高い山に囲まれ外敵の侵入は殆ど無いのです。
ですが、私は高い山の向こう側が気になりましたので、私は田中様と農村から一人を連れ都と、
その周辺を調べる様にお願いをし、その二人が、先日、戻って来たのです。」
「源三郎殿は、我ら五か国以外の実情を調べられたのですか、其れで、如何な様子でしたか。」
「はい、彼らは実に詳しく調べてくれまして、其れが、今、高い山の向こう側では大きな戦が始ま
ろうとして要るのか、もう戦に突入したのか分かりませんが。」
「えっ、大きな戦ですと、では、新しい幕府が出来るのですか。」
「いいえ、其れが、新しい幕府では無く、我々の知らない全く新しい組織だと言う事だけが分かっ
ております。」
「一体、何ですか、全く新しい組織と、其れに、何故に分かったのですか。」
「はい、其れは、彼らの着ておりますのが、軍服だと。」
「軍服とは、一体、どの様な着物なのですか。」
源三郎が軍服などと言ったところで、殿様方に理解出来るものでは無い。
今までは、武士の正装と言えば袴姿で、其れが、この数百年間も続き、突然、軍服などと言われ
たところで見た事も聞いた事も無かったので有る。
「今は、その説明は後に致しますので、其れよりも、田中様が見られたのは軍隊と呼ばれ、整然と
組織化された兵士の集まりだと。」
「兵士の集まりとは、武士の軍では無いのですか。」
「はい、其れが、武士の集団と言うよりも農民や漁民、町民と言った、今まで戦の経験の無い者達
の集まりだと言うので御座います。」
「その様な者達ならば、我ら武士の方が強いのでは有りませぬか。」
「上田様、彼らは軍隊と呼ばれし組織で、戦術も、今までの様に侍同士の戦い方では無く、兵士達
の全員が鉄砲を持ち戦場に向かうのです。」
源三郎は説明に困っている、武士の戦ならば説明の必要は無い。
だが、軍隊と言う新しい集団の戦など、一体、どの様に説明すれば分かって貰えるのだろうか、
だが、それよりも大事な話が有る。
「皆様、其れよりも大事なお話しが御座います。
今、げんたの言う海の中に潜る船ですが、私も、正か、船が海の中で動くとは考えもしておりま
せんでしたが、げんたの言う、潜る船、げんたはこの船を何と呼ぶんだ。」
「う~ん、其れは、あんちゃんが言った人間が海の中で息の出来る道具が潜水具だからなぁ~、オ
レはねぇ~潜水船って呼びたいんだけど。」
「潜水船かぁ~、よ~し、其れで決まりだ、これからは、潜水船と呼ぶ、ところで、げんたはその
潜水船を一体何処で造るつもりなんだ。」
「あんちゃん、今度はオレの家では造れる物じゃないんだぜ、人間が三人も乗るんだからなぁ~。」
「では、海岸の洞窟でどうだ。」
「あんちゃん、洞窟って暗いのか。」
「まぁ~、げんたの家よりは少し暗いかなぁ~。」
「げんた殿、その潜水船は海の中に潜ると聞きましたが一体どの様な船ですかな。」
「うん、オレの頭の中では形は出来上がってるんだけど、まぁ~、簡単に言うとね、二つの船を張
り合わせたと持って欲しいんですよ。」
「二つの船を張り合わせると申されると、あっ、そうか、分かりましたぞ、ですが、何処から入る
のですかな。」
「出入り口と空気の取り入れ口、其れに、これが、一番、大事なんだ、海中からね海の上をまぁ~、
そうだなぁ~、遠眼鏡だと思ってもいいと思うんだけど。」
「えっ、海の中から海の上を見れるとは、何とこれは驚きですなぁ~。」
「なぁ~、あんちゃんは直ぐに分かったと思うんだけど、筒の中に鏡を入れるんだ。」
殿様方は首を捻って考えるが、げんたの説明で理解が出来る品物では無い。
「源三郎殿、先程、申された新しい組織ですが、げんた殿が考えた潜水船なるものを持って要ると、
お考えでしょうか。」
「其れは、無いと思いますが、皆様方も戦の方法はご存知でしょうが、げんたの様な大発明家はど
の藩にもいないと、私は確信致しております。」
「えっ、あんちゃん、オレって大発明家なのか。」
「勿論ですよ、げんたの様な考え方の出来る者は連合国広しと言えども、げんた、ただ、一人です
からねぇ~。」
げんたは大喜びで、源三郎は五か国の殿様方の前で我が野洲では、一番、大切な人物だと言う。
「げんた殿、その潜水船ですが、材料は木材だと思うのですねが、木は水に浮くと思いますが一体
どの様な方法で水の中に潜るのですかなっ。」
「まぁ~、簡単に言うとね、周りに鉄の板を付けるんだ。」
「回りに鉄の板を付けるとは。」
「なぁ~、あんちゃん、オレの説明じゃ~、あんちゃん以外の人には分から無いよ。」
「殿様方に申し上げます。
私もげんたの言う説明の全てを理解出来てはおりませぬが、げんたの頭の中には既に図面が出来
上がって要るので御座います。」
「源三郎殿、私には理解は出来ないとでも申させるのですか。」
「いいえ、決して、その様な意味で申し上げて要るのでは御座いませぬ。
げんたも、説明が下手なので、でも、分かって頂きたいのです。
今日、正か、五つの国の殿様方が居られるとは考えもしなかったのです。
何時もならば、私だけなので、げんた自身が驚いて要るので御座います。
私はげんたは天才だと思っております。
今回、潜水船を考え付いたのは、げんたが私を理解して要るからで御座います。」
「天才ですか、ですが、源三郎殿は潜水船が必要になると思われるのですか。」
「はい、実は先日、我が殿とも話を致しておりましたが、先程も申しました様に新しい組織の軍艦
と思える大きな船を何度も沖を通過するのを見ております。
皆様もご存知の様に我らの国は高い山に囲まれ大勢の武士が越えるには大変な無理が有ります。
ですが、海上からで有れば大勢の兵士を乗せた軍艦が入り江の中に入り浜から上陸する事も可能
なのです。」
「源三郎殿は海から来ると考えておられるのですか。」
「はい、菊池様のご領地も上田様も松川様のご領地も全てに入江が有り、その入り江から侵入され
ますと、我らは手の打ち様も御座いませぬ。」
「野洲殿、源三郎殿が申される話が確かならば大変な事態になりまするぞ。」
「上田殿、私も源三郎も真剣に考えて要るのですが、源三郎、げんたの潜水船は。」
「はい、私は全く考えもしなかったのですが、げんたの潜水船が本当に出来るならば、我々にも勝
機が訪れると言う事になります。」
「あんちゃん、オレは絶対に潜水船を造るぜ、本当に出来るんだからなぁ~。」
「げんた、分かってるよ、其れで、げんたが要る物を言って下さいよ、全て準備するからね。」
「うん、じゃ~、腕のいい大工さんと城下の鍛冶屋さんに。」
「げんた、何も急ぐ事は無いんだよ。」
「だって、オレはあんちゃんが困ると思ってるんだ、其れで、あんちゃん、母ちゃんも一緒にいい
のか。」
「うん、いいよ、そうだ、げんたと母ちゃんの為に家を建てるから、まぁ~、家が出来るまでに考
えててもいいんだよ。」
「えっ、オレと母ちゃんの為に家を建ててくれるのか。」
「勿論ですよ、げんたには母ちゃんが必要だと思いますからねぇ~。」
「うん、そうなんだ、母ちゃんはオレが何を考えて要るのか知ってから、困った時には、母ちゃん
に話すと、母ちゃんは、オレが。」
「いいんですよ、困った時にね、傍に、母ちゃんが要るだけで安心出来るんだ、其れ、今、此処
にはね、げんたは野洲の殿様は知ってるね。」
「あんちゃん、オレを一体何処の誰と思ってるんだよ、この野洲の城下でオレがあんちゃんの弟分
で、あんちゃんの親分が、殿様なんだぜ、オレが殿様の顔を知らないとは言えないんだぜ。」
「それでね、相談なんだけど、げんた、野洲の洞窟よりも、もっと大きな洞窟が有るのですがね、
その洞窟で最初の潜水船を造って欲しいんですよ。」
「えっ、あんちゃんの洞窟じゃ~無いのか。」
「うん、其れが、菊池って国が有るんだ、其処の洞窟で潜水船を造って欲しいんだ。」
「でも、オレ、菊池って言われても一体何処に有るのかも知らないんだぜ。」
「源三郎殿、何故、我が藩が最初なのでしょうか。」
「菊池様のお国が、我が連合国の端に有り、山が海岸まで迫り最初に侵入される可能性が有るので
御座います。」
「其れならば、山賀も同じでは御座いませぬか。」
「勿論で御座いますが、山賀の海岸は幸いと申しましょうか、運が良いと申しましょうか、全てが
断崖絶壁なので余程の事が無い限り海上からの侵入は不可能なので御座います。」
「源三郎、では、最初の潜水船は菊池で造ると申すのか。」
「あんちゃん、オレは、まだ、造った事が無いんだぜ、其れに、本当を言うと、まだ、本当に海の
中に潜るのか、其れが、心配なんだ。」
「げんた、それは心配無いんだ、仮にですが潜水船が海に潜れないとしても、誰もげんたを責める
事は出来ないんですよ。」
「だって、あんちゃん、海に潜れない潜水船を造ったって、オレが嫌なんだ。」
「げんた、今、菊池の殿様が居られるけれど、殿様は決してげんたを責めないよ、仮にですが最初
の船が潜れないとなれば、その時にはみんなで考えればいいんだからね。」
「げんた殿、源三郎殿の申される通りですぞ、私が全ての責任を持ちますから、そうだ、高野をげ
んた殿に、其れで如何かな。」
「う~ん、だけど、あんちゃん、その前に此処で造らせよ、其れで、オレが納得してからにして欲
しいんだ。」
源三郎は本気で菊池に向かわせるつもりなど無い、げんたよりも、菊池や上田の出方を見ていた
ので有る。
「源三郎、げんたは何が有っても潜水船を造ると思うのじゃ、げんたの事も考えなければならぬと
思うのじゃ、げんたに今から菊池へ行けと申すのは余りにも酷と言うものだと思うのだが。」
源三郎は、内心でやったぁ~と思った、野洲の殿様の一言でげんたが野洲で潜水船を造る作業に
入れると。
「菊池様、誠に申し訳御座いませぬ、私の独断で皆様に不愉快な思いを。」
「源三郎殿、菊池が最初に侵入され攻撃されると思われるのは、私も十分承知致しております。」
「菊池様、誠に申し訳御座いませぬ。」
源三郎は菊池の殿様に頭を下げると。
「源三郎殿、誰も源三郎殿を責める者はおりませぬぞ、源三郎殿は全てを考えをなされての事なの
ですから。」
「上田様、誠に有り難きお言葉、源三郎身に染みましてで御座います。」
だが、其れは、源三郎の大芝居で、潜水船なるものを欲しいのは何も野洲だけでは無 菊池も上田も、
其れに、松川も欲しいだろう、だが、其れを決めるのは、げんたで有り、其れを、知って、源三郎はげん
たに菊池に行けと言えば、げんたの事だ1号船も造っていないので自信が無いと言うだろうし其れならば
と、野洲の殿様が野洲で最初の潜水船を造らせてはと話ををするだろうと言う作戦が的中した。
「げんた、申し訳無かった。」
源三郎はげんたに頭を下げた。
「あんちゃん、じゃ~、オレは此処で潜水船を造れるのか。」
「うん、その通りだ、げんた何も急ぐ事は無いよ。」
「うん、ありがとう、じゃ~、オレ、母ちゃんが心配だから帰るよ。」
「気を付けて帰って下さいよ、私は当分野洲に居ますからね。」
「うん、分かったよ、じゃ~な。」
げんたは、機嫌良くお城を後にした。
源三郎はげんたの為に当分の間は野洲に要ると言ったのも、他の四つの殿様に野洲を離れる事は出来な
いと理解させる為でも有った。
「源三郎殿、話は戻りますが、私が提案した話は如何でしょうか。」
菊池の殿様は何としても、源三郎に引き受けて欲しいので有る。
「う~ん、ですが。」
「源三郎殿、私も同様ですぞ、今のげんた殿が提案した潜水船の話も、げんた殿も源三郎殿が決定
権を持って要ると思われて要るのではないでしょうか。」
上田の殿様もげんたが考えた潜水船を建造するには、源三郎に相談し、源三郎の許可を受けなけ
れば建造する事は出来ないと、だが、げんたは大人が思う程考えて要るのだろうか、げんたは、た
だ、源三郎に話しを聞いて欲しかっただけなのかも知れない。
「義兄上、私も、菊池様、上田様と同じで御座います。
私も松之介も若輩者ですが、今までの動きから考えれば、私は義兄上が最高指揮官となられまし
ても宜しいのではないでしょうか。
菊池様が申されました通り五か国の内情をご存知なのは、義兄上だけなのです。
義兄上は、全ては領民の為だと申されておられ、仮に、義兄上が幾ら拒否されようと五か国の領
民が望むならば引き受けて頂けなければ領民が納得されないと思うのですが、如何で御座いますで
しょうか。」
源三郎は確かに各藩の家臣達よりも領民達が望む人物だ、だからと言って、最高責任者と言う役
職を望んでいたのだろうか。
「のぉ~、源三郎、菊池殿も上田殿も我が身を捨てて藩を救ったと言う事実だけでも源三郎を称賛
されて要るのだ、のぉ~、源三郎、責任は我々が取る。
源三郎の申す新しい組織が我々の見方なのか、其れとも、敵方なのか、それすら、今の段階では
誰も分からないのじゃ、各藩がバラバラの軍隊を組織するよりも、源三郎が中心となり新しい組織
を作り、幕府と新組織に対抗して欲しいと皆様方の希望だと思うのじゃ、もう、今の源三郎が拒否
する理由が無いと思うのだが。」
其れから、暫くの沈黙が続き。
「皆様方の誠に有り難きお言葉、源三郎はどの様に御礼を申し上げて良いのか分かりませぬ。
私はこれから先、どの様な事態になりましょうとも領民の為に命を捧げます。」
やっと、源三郎が最高責任者と言う役職を受諾し、菊池、上田の殿様は安堵の表情を浮かべた。
さぁ~、今からだ連合国を成立させる為の署名が控えて要る。
「野洲様、菊池様、そして、松川様、山賀様、今、源三郎殿が最高責任者を受諾され、普通ならば、
此処で連合国成立の署名が控えておりますが、私は源三郎殿が最高責任者となって頂いた、其れ自
体が連合国の成立では無いでしょうか。
私は別に署名は必要ないと、今、思ったので御座いますが、皆様方如何でしょうか。」
「うん、上田様、素晴らしいお話しで御座います。
源三郎殿は五か国連合の最高責任者に決定したしのですから、もう、我々には何も障害も御座い
ませぬ、源三郎殿がその証だと私も思いますが。」
「うん、私も大賛成で御座います。
これからは、源三郎と言う最高責任者を補助し、支援する事の方が大事だと思います。」
野洲の殿様も大賛成だ、其れに、源三郎も一安心した。
源三郎は文言を考える事も出来ずに時だけが過ぎ、気持ちが落ち着かず、だが、其れも、源三郎
が連合国最高責任者を受諾したと言う事で署名の必要性が無くなり、内心ほっとしている。
そして、源三郎は以前から考えて要る事が有り、今、連合国となったがこの地を知る者は少なく、
殆どと言っても良い程知られてはおらず、源三郎はこの名も無き連合国を闇の帝国なるものを考え
ていた。
「皆様方、実は、私が以前より考えておりました事が有るのですが宜しいしょうか。」
「源三郎、また、突飛でも無い事を考えて要るのでは無かろうなぁ~。」
さすがに、野洲の殿様だ、それは、今までの経緯を考えれば直ぐに分かる話で、最初は野洲の海岸に、
其れからは、上田、菊池と続き、松川、山賀までもが幕府には秘密の洞窟と隧道を作り始めたので有る。
「はい、私はこの五か国連合が幕府の中でも一部の密偵と上層部の者だけが知り、新しい組織に至って
は、多分ですが、全くと申しても良い程知られぬ存在だと思って要るのです。」
「義兄上、では、我らは、この地を新たな帝国の様な国家を作られるおつもりなのですか。」
さすがだ、松之介は勘が鋭い、源三郎は、まだ、新しい帝国とは一言も言っていない、何故、松
之介に分かったのだろうか。
「う~ん、新しい帝国ですか、でも、私は幕府も知らない、新組織も知らないので有れば、我々は、
闇の帝国では無いでしょうか。」
ついに出た、だが、何時頃から、源三郎は闇の帝国を考えていたのだろうか。
「えっ、闇の国ですと、何故、闇の国なのですか、今まで、我々は幕府に上納金を納めておりまし
たのですよ。」
「菊池様、其れを知る者は幕府の中でも一部の者達だけなのです。
其れが、我々の存在が知られない理由となったおります。」
「源三郎、だが、一部の旅人だけでも知って要るとなれば、何れ、発覚するのではないのか。」
「其れは、勿論、承知致しております。
菊池藩の海岸には引き潮の時にだけ通る事が出来ます道が有ります。
ですが、若しも、若しもですが、崖崩れが起これば海岸の細い道も通れなくなります。」
何と言う事だ、源三郎は菊池藩に有る細い道に崖崩れを起こし、封鎖しようと考えて要るのか。
「源三郎殿、正か、あの崖を。」
「私は自然は恐ろしいと知っております。
ただ、人間が軽く手を出せば、外部からも内部からも通行が出来なくなるのではと考えただけなので御
座います。」
「ですが、その様な事になれば、我々の五か国連合は孤立するのでは御座いませぬか。」
「菊池様、我々は孤立するのでは無く、外部から敵の侵入を防ぐのです。
外部の敵が陸から攻撃出来なければ、当然、海上からだと思いますが、その時までには、げんたの考案
した潜水船が数隻完成して要ると私は考えております。」
殿様方は余りにも大胆過ぎる源三郎に恐れをなして要る、だが、問題は有る。
「源三郎殿、潜水船が完成したと考えましても、一体、どの様にして攻撃するのですか、正か、数人で大
勢乗って要る敵の軍艦を攻撃するとでも申されるのでは有るまいなぁ~。」
源三郎は薄笑いをしている、何故だ、何故、それ程の余裕が有るのだ、武器も持たない潜水船で一体何
をしようと考えて要るだ。
「殿様、今は火薬と言う物が有るのです。」
「何、火薬じゃと、だが、火薬を一体どの様にして使うのじゃ。」
「はい、鉄砲と同じで、爆発させれば船の下の方に大きな穴が開き、その穴から海水が入れば幾ら
大きな船でも沈むと思うのですが。」
源三郎は何時もの様に簡単に話をするが大きな船に近付かなければ爆薬を付ける事も出来ない。
「では、潜水船で近付き船の下に爆薬を付け爆発させるのですか。」
「はい、その通りで実に簡単だと思いますが。」
「ですがねぇ~、大きな船に近付くには、あっ、そうか、分かりましたよ、正か、船が海の中に潜って来
るとは、誰も考えはしないですからねぇ~。」
「上田様、正しくその通りで御座います。
我々もですが、船の上からは近付いて来る海上の船は探しますが、正か、海の中に潜り近付いて来ると
は、一体、何処の誰が想像出来るでしょうか、私もげんたの話を聴くまでは船が海の中に潜るなどとは考
えもしなかったのです。」
「義兄上、ですが、発見される可能性は無いのでしょうか。」
「若様、若しも、若しもですが、若様が船の乗られますと、一体、何処を見られますか。」
「う~ん、そうですねぇ~、私ならばやはり遠くを見ますが。」
「ですが、その遠くから来る海中の潜水船を発見するのは至難の業で御座いますよ、高野様、あの
海岸に行きましたが、高野様は何処を見ておられましたか。」
「そうですねぇ~、やはり、私も遠くを見ており、近くの、ましてや、海の中を見るなどとは考え
てはおりませんでした。」
「若様、今、我々だけが潜水船なるものを知って要るのです。
その我々も、まだ、本物は見ておりませんが、げんたの事です、我々が期待する以上の潜水船を
造ると思うので御座います。」
「源三郎殿、先程、爆薬を付けると申されましたが、海で、しかも、波も有ると思うのですが、果
たして、爆発するのでしょうか。」
「う~ん、私も、まだ、確信は有りませぬが、一個だけでは不発と言う事も考えなければなりませ
ぬので、数個を船の横腹に付け、点火し、直ぐ潜るのですから、敵は潜水船に気付く前に爆発する
とは思うので御座いますが。」
高野は松之介の言う新しい帝国と言う響きに何やら強烈なものを感じたので有る。
「源三郎様、先程、山賀の殿様が申されましたが、源三郎様は帝国を造られるのですか。」
「う~ん、帝国ですか。」
源三郎は考えていた、げんたの言う潜水船が完成すれば、菊池から松川に至るまでの海岸に有る洞窟を
利用し、多数の潜水船基地を構築出来れば新たな組織とも対抗出来ると、だが、基地の構築が遅ければ
新しい組織からの攻撃に対し防御の方法が無い。
「高野様、私は新しい組織が一体どの様な組織なのかも分からないのです。
我々が生き残る為には、防御態勢を一刻も早く作り上げねばならないのです。
その為にも、今、海岸と山賀から松川に至る隧道の完成が待たれるのです。」
「では、防御の為に必要な武器は。」
「私は、これからの戦では刀や槍の時代では無く、鉄砲や大砲の時代が来ると思って要るので御座
います。」
「えっ、鉄砲と大砲の時代ですか。」
高野も予想はしていた、菊池の海岸近くでは、時々、火薬の爆発する音が聞こえて来る、今まで
の戦では武士が刀での戦が中心に行われていた。
だが、これからの戦では強い武士では無く、一般の其れは平民が主流となり兵士の数と兵器の数
で戦の勝敗が決定すると言っても過言では無い。
「では、鉄砲が多くなるのですか。」
「はい、私は田中様からの報告では武士では無く、姿からは平民が鉄砲を使って要ると聞いており
ますので。」
「源三郎殿、では、我々もその鉄砲を作らねばなりますまい。」
「上田様の申される通りだと思いますが、問題はこの地に大量に必要な鉄の材料が有るかと言う事
なのですが。」
「義兄上、我が松川では昔から砂鉄が豊富に取れる川が有るのですが。」
「えっ、松川で砂鉄が取れるのですか。」
「はい、今も大量に取れておりますが、我が藩では今まで余り必要としておりませんでしたので保
管を申します事は出来ずに放置しております。」
「うん、大量の砂鉄が取れれば武器もですが、げんたの潜水船にも応用が出来ると考えます。」
「義兄上、では、松川は砂鉄の回収を。」
「はい、其れも重要ですが、以前、窯元にもお願いしております連岩の製造も有りますので大変だと思い
ますよ。」
「義兄上、私から直接領民にお願いをしますので。」
「其れは、大助かりです。」
「松川殿、人手が必要ならば、上田からも送りますので。」
「上田様、有難う御座います。
私は出来る事ならば、我が領民だけで回収作業を行なって行きたいと考えております。」
上田の殿様も頷き。
「源三郎、一体、何を考えておるのじゃ。」
「はい、私は五か国が団結すれば今の幕府は勿論の事、如何なる組織が誕生し、攻撃に来たとしても、決
して劣るものでは無いと考えております。」
「其れは、誰しもが同じ考えなのじゃ、だが、源三郎は別の事を考えておるくらいは、余も分かっておる
のじゃ、正直に話をする方が良いと思うが。」
「はい、皆様方は驚かずに聞いて頂きたいのです。
私は闇の帝国なるものを考えておりました。」
「えっ、今、何と申されましたか、私は闇の帝国と聞こえたのですが。」
ついに、源三郎が言った闇の帝国と、だが、何故、闇の帝国なのだ、闇と言うのでは有れば全てを隠す
必要が有る。
「源三郎、何故に、闇の帝国なのじゃ。」
「はい、げんたの考案しました潜水船から考え付きました。」
「だが、それだけでは有るまい。」
野洲の殿様は、何故、源三郎が闇の帝国と言った意味が他に別の意味が有ると思ったので有る。
「海の中は暗闇で洞窟の中も松明やかがり火が無ければ暗闇の世界なのです。
私はこの洞窟を利用すれば領民の避難場所としては最高の場所だと考えております。」
「源三郎殿は菊池から山賀に至るまでの洞窟に領民が避難出来ると、ですが、全ての領民を収容するだけ
の場所を確保しなければならないのでは御座いませぬか。」
「はい、今、その洞窟を確保して頂く為に各所で掘削工事を行なって頂いて要るのです。」
「う~ん、闇の帝国か、だが、源三郎は確信が有っての工事なのか。」
「私も当初は幕府に対抗する為に食料の備蓄だけを考えておりましたが、田中様の報告を聴けば総合的に
考えても、今の幕府が何時まで維持出来るのか分かりませぬ、その幕府よりも強大な力を持った組織が誕
生する事は間違いは御座いませぬ。」
「其れで、方針を転換すると申されるのですか。」
「上田様、今がその決断の時だと私は確信致しておりまして、其れが、連合国として生き残る為なので御
座います。」
源三郎は各藩の殿様方に決断を迫るが、藩主達は、今、聴かされた為に即断は出来ず、何と決断して良
いのか迷い暫くの沈黙が続き源三郎も考えて要るので有る。
今、この機会を逃せば、連合国家、闇の帝国を誕生させる事は不可能になる。
そして、源三郎は大きな決断をし思い切った行動に出た。
「源三郎、早まるで無い。」
源三郎は脇差を抜くと、殿様方は慌てた、正か、切腹などとは考えて要るのかと、野洲と菊池の殿様が
立とうとした瞬間、源三郎は自らで髷を切り落とした。
「何と、言う早まった事を。」
「私は皆様方より総責任者になれと申され、私はこれで侍の身分を終えました。」
「何じゃと、では、侍を辞めると申すのか。」
「はい、今から、総責任者として新たな役目に就かせて頂きます。」
源三郎は侍を辞め、新たに総責任者としての仕事に就くと言うので有る。
「殿様方に申し上げます。
私は侍では御座いませんので、どなた様からも、まぁ~、言い方は悪いですが干渉される事無く物事を
進めて参りますので、何卒宜しくお願い申し上げます。」
「何じゃと、誰からも干渉させないと申すのか。」
「はい、私は新組織の軍事力に対抗する為の方策も考え実行に移して参ります。」
源三郎は大胆にも自らが侍を辞退する事で殿様方からの干渉を受けず、軍事力を増す為に新たな
方策を考えて要ると、慌て、野洲の殿様も少し時が経つと。
「う~ん、源三郎、お前は最初から髷を落とすつもりで有ったのだろう。」
やはり、野洲の殿様は理解するのが早い。
侍ならば、幾ら、総責任者だと言っても、野洲の殿様の様に自由にさせては貰えない、其れならば、一
層の事、髷を落とし侍を辞めたとすれば、他の藩主はどの様に考えるだろうかと以前から考えていたので
有る。
「私には今からこの脇差も不要となりますので。」
源三郎は脇差を抜き前に置いた。
「源三郎殿、ですが、領民は果たして納得するでしょうか。」
「私の話は簡単で御座います。
生き残りたいと思う者は、私の指示に従って欲しいと、其れに、私は各藩のご家中の皆様方にも同じ話
をさせて頂きます。
仮に、反対だと申されるので有れば、私はそのお方を守る必要は御座いませぬで死にたければお好きに
して頂いても宜しいですよ、ですが、私は命を懸けて仲間を守りますので、その覚悟だけは忘れぬ様に願
いたいので御座います。」
源三郎は反対するも良し、だが、反対だからと言って、源三郎の仲間を襲うと言うので有れば、例え、
相手が誰で有ろうと命懸けで抵抗すると、源三郎は太刀は持たないが何時も木剣を持つ一刀流の達人で有
り、源三郎を襲うなどと考える者は果たして要るのだろうか。
「源三郎様、私もお仲間に入りたいと存じます。」
阿波野も脇差を抜くと。
「阿波野様、今、暫くのご辛抱を願います。」
「源三郎様、何故で御座いますか、私は源三郎様に命を預けます。」
「はい、其れは、大変嬉しいのですが、今は、少しお待ち願いたいので御座います。」
「何故で御座いますか、私は。」
「今は、私だけで宜しいのです。
阿波野様にも、何れ、お願い致したく時がやって来ますので、其の時までご辛抱の程を。」
「はい、分かりました、ですが、う~ん。」
阿波野は納得していない。
「源三郎様、では、私は何時までお待ちすれば宜しいでしょうか。」
「高野様も私から連絡を入れますので。」
どうやら、この二人も源三郎の下に加わるのは確実なようだ。
菊池と上田の殿様は何も言わすに要る。
「義兄上、私も家臣共々参加させて頂きたく存じます。」
「竹之進様は工事が完了するまでは我慢が必要です、松之介様もで御座いますよ。」
源三郎は二人を止めた。
「義兄上、ですが、正太さん達、1千人はあの日から洞窟の掘削工事に入っておりますが、山賀から松川
までは十里も有るので何年掛かるやも知れないのです。」
「若、勿論、私も知っておりますが、正太さん達だけに任せるのですか、その様な事をすれば、若様とし
ての信頼を無くし、正太さん達もですが領民が離れて行くのは目に見えておりますよ。」
源三郎は松之介の気持ちも分かるが、其れよりも、領民の信頼を無くす事の方が余程苦しい立場になる
と言うので有る。
「源三郎、よ~く、分かったぞ、今は止めても無駄な様じゃなぁ~。」
「はい、私は総責任者として、これからは、闇の帝国を築き上げ、幕府なのか、其れとも、新組織か分か
りませぬ、最小で最大の防御態勢を築き上げたく命を掛けて参ります。」
「如何でしょうか、私は源三郎殿の申される、闇の帝国に参加すべきだと考えるのですが。」
菊池の殿様も闇の帝国に菊池藩も参加すると言い出した。
「菊池殿、私もこれから先、一体、どの様なるのかは誰にも予測は出来ないのです。
相手が幕府になるのか新しい組織になるのか分かりませぬが防御態勢を固める必要が有ると思うの御座
います。」
「私も、上田殿の申される通りだと思います。
源三郎は、最初、我が野洲だけで行なっておりました改革が、今では、菊池、上田、松川、山賀
と五か国で実施され幕府への上納金も減らせると思ったのですが、我々の中で源三郎だけが新組織の軍艦
とやらを見、防御態勢が必要だと申しておりますが、源三郎は嘘を言う様な人物では無い事は、私が一番
良く知っております。
考え方は必ずしも戦闘的では有りませぬが、時には牙を剝く恐ろしい野獣になりますが、其れも全て領
民の為と申しております。」
「ご家老様、私はこれから先、全面的に源三郎殿を支援させて頂きますので、どうか、ご安心下さいま
せ。」
「菊池様、有り難きお言葉、息子、源三郎になり替わりまして御礼を申し上げます。」
源三郎の父は殿様方に深々と頭を下げた。
「源三郎、して、今後は、どの様に致すのじゃ。」
「はい、これからですが、今の藩は無くし、菊池隊と名称を改めて司令官を置きます。」
「源三郎殿、その司令官とは、一体、どの様な役目なのですか。」
「はい、高野様には菊池隊の司令官に、この司令官こそが軍隊の最高指揮官となります。
殿様には、大将と言う名称で呼ばせて頂きますので、菊池の大将と言えば、元の殿様で司令官は、
その下で軍の総指揮を致すので御座います。」
「う~ん、何か分かりませぬ、何しろ初めて聴く名称ですので。」
「其れで、上田様には阿波野様が司令官に、松川では斉藤様が、山賀では吉永様に司令官の任に入って頂
きたく思います。」
「源三郎殿、では、私は今まで通りのお役目では無くなるのですか。」
「殿様と言うお役目は無くなりますが、大将の呼び名を変え将軍と致しましょうか、将軍と言う任務です
が、最後の決定権を持ちますので、其れで有れば今まで通りなのです。」
源三郎は飛んでも無い話を始め、殿様の名称は無くし大将だと、其れも、これからは、将軍と呼ばれる
のだと、殿様方は一体どの様な意味なのかも全く理解出来ないので有る。
この数百年間と言うものを、殿様と呼ばれ、また、ご家老様と呼ばれ、其れが、突然、司令官だの、将軍
だのと言われても、一体、どうなるのか、其れさえも分からないので有る。
殿様方は源三郎を総責任者に最も相応しいと人物に間違いは無いが、其れが、突然の話で違和感を覚え
るので有る。
「のぉ~、源三郎、お主の申しておる、司令官だの、大将だの、将軍と言われてもじゃ、一体、どの様な
意味なのじゃ。」
「はい、では、今から説明させて頂きます。
私の申しております、司令官や将軍と申しますのは、全て、軍人の名称で野洲の国の最高責任者が、即
ち、将軍で、今までは殿様と呼ばれておりました。」
この後、源三郎は時を掛けて説明して行くが、殿様方も一度や二度の説明を聞いただけでは全てが理解
出来ると言うものでは無い。
「殿様方も、直ぐに、お分かりになるのは無理で御座いますが、私はこの数年間考えておりまして、其れ
が、今回、新しい組織と幕府の、何れ、大きな戦闘になると思われ、今がお話しする良い機会だと思った
だけの事なので御座います。」
「源三郎殿、今、申されました、幕府軍と新組織の軍隊は、必ずや、戦になると。」
「はい、其れは、間違い無いと考えます。」
「源三郎様、先程のお話しですが、司令官の役目とは一体どの様なお役目なのですか。」
「高野様、私が書き上げた書き物が有りますので、後日、その書き物を皆様方に届けさせて頂きますの
で、其れを読んで頂ければ宜しいかと存じます。」
「源三郎、何時、その様な物を書いたのだ。」
「父上、私が、殿から今回のお役目を命ぜられました時からで御座います。」
「お前にその様な余裕が有ったとは思えぬが。」
「はい、全てを書き出すまでには無理ですが、私も上田藩や菊池藩、其れに、松川藩や山賀藩に向
かい、其処で少しでも考え付いた事が有ればと思い少しづつ纏めておりました。」
「私は、源三郎様にその様な余裕が有ったとも思えませぬが。」
「阿波野様、各国では全て事情が違い、良いところ、悪いところを書き出して行きましたが、今までの様
な藩と言う小さな器で物事を進めていては幕府に対抗は出来ないと考えたのが始まりなのです。」
「えっ、では、最初から連合国を造るのが目的では無かったのですか。」
「はい、最初は、我が野洲だけの問題だけで直ぐに終わったのです。
其れが、次第に上田へ菊池へと広がり、松川と山賀まで行く様になり、其れでは、この五つの国を統一
すれば幕府に対抗出来る軍隊が出来ると、まぁ~、其れからですねぇ~、ですが、本格的に考え始めたの
は山賀に入ってからですがねぇ~。」
何と言う事だ山賀に行った事が最終的な決断へと進んだと言う事なのか、だが、源三郎はその前から田
中を都周辺に向かわせていた、あれは自分の考え方を最終的に纏める為の方策だったのか。
「私は、田中様に都周辺の調査をお願い致しましたが、あれは、その前、野洲の沖を進む軍艦らしき船影
を見たからで、その船影を見ていなければ、田中様に調査をお願いする事も無かったので御座います。」
「源三郎殿、先程、げんた殿が考案した潜水船で最後の決断をされた思うのですが。」
「はい、上田様の申されました通りで、げんたが考案した潜水船、これで、私は決断し髷を落としたの
は、これからの戦は武士と言う肩書では無く、軍人として領民を守らなければならないと覚悟したので御
座います。」
「では、軍隊と言う組織には武士だけが参加するのでは無いと申すされるのか。」
「はい、今までの戦は全て武士と武士でしたが、田中様の報告では明らかに農民や町民と言う人達が鉄砲
を持って要ると、私はその話を聴いて考え方を変えたのです。」
「源三郎、では、我が家臣達だけが戦に行くのでは無いと申すのか。」
「殿、確かに、今までの戦では武士だけでしたが、其れは、武士だけの戦でしてこれからの戦には武士も
町民も関係が無い時代になると、私は思って要るのです。
その証拠に武士は鉄砲を担いではおりませんでした。」
「では、戦の方法も変わると申されるのですか。」
「菊池様、私は武士だけでは戦は出来ないと、戦闘に直接加わる事が無かったとしても、後方では食事の
準備をする者達も必要になるのではと。」
「では、女性もと申されるのか。」
「私は、今のところ其処までは考えてはおりませぬが、これからは、男性が食事を作ると言う専門の役目
も有るのでは御座いませぬか。」
「何じゃと、男が賄いをじゃと。」
野洲の殿様は男が賄いをする事に対し強い反感を持って要る様だ。
「殿、我がお城では殆どと言って良い程、男が賄いをする事は御座いませぬが、城下に参り一善飯屋と
申す様な処や旅籠に参りますと殆どと言って良い程調理人は男で御座います。」
「何じゃと、では、城下では賄いを男が行なって要ると申すのか。」
「はい、私は菊池や上田、松川と参り、旅籠以外のところで食事を取りましたが、その多くで賄いは男の
仕事の様な気が致しました。」
「う~ん。」
他の殿様方も信じられぬと言う顔をし、其れは、殿様方もお城以外での食事は無く、お城での賄いが普
通だと思って要る。
「義兄上、そう言えば山賀でお昼を頂いた一善飯屋ですが、夕刻に参りました時ですが店の主人が賄いを
作っておられました。」
「若様も御覧になられた其れが普通なのです。」
「では、賄は男が中心となるのか。」
「殿様方、私も、正か、女性を戦に行かせるなどとは申せませぬ、当然、戦の中心は男が行ないますが、
其れよりも女性方には針仕事が大切では無いかと。」
源三郎の話は段々と現実に近付き、源三郎は今までの様な固定観念から脱却しようと考えて要る。
「私は何も今までの事を否定して要るのでは御座いませぬ、ですが、幕府に対抗する新しい組織と言うも
のが武家社会を否定し、武士も町民も関係も無くなると言う様に変わって要るのでます。
私は、田中様には申し訳が無いのですが、再度、偵察に行って頂く事を考えております。」
「源三郎様、その役目は大切だと思うのですが、他の者では駄目なのでしょうか。」
「高野様、偵察と言う任務は誰にでも出来ると言う様な任務では無いと私は思います。」
「何故なのですか、私は他の者でも役に立つ様に思うのですが。」
「確かに、其れは分かりますが、田中と言う人物は忍びの心得も有り、私の仲間でも田中様にしか出来な
い任務なのです。」
「源三郎殿、其の偵察と申される役目ですが一体何を調べられるのですか。」
「総合的な任務なので、目的は新しい組織がどの様な目的を持って要るのか、其れと、一番に大事なの
が、何時、どの様な戦を始めるのか、其れと、軍隊の人数ですねぇ~、其れに、武器の種類も大切です
が、でも、私は田中様がどの様な情報を得られるのかは、其れには、現地に行かなければ分かりませんの
で。」
「では、その任務は長期間を要するのでしょうか。」
「いいえ、田中様が戻れらるまでは何も分かりませぬ。」
「何故じゃ、途中で文が届け、お主も少しは分かるはずでは無いのか。」
「殿、私が知りたいと思う内容を文で送る必要は無いのです。
十日前後、いや、三十日後に田中様から直接お話しを聴く事の方が大切だと、若しもですが、田中様が
送られた文が何かの理由で幕府か若しくは新組織にでも知られる様な事にでもなれば我々の存在が明らか
となり、どちらからの陣営が攻撃に入ると言う事にでもなれば、今の我々では防ぎ様が無いので御座いま
す。」
源三郎は、今の軍勢では、仮に、幕府軍からの攻撃を受ければ壊滅的な損害を受け、領民からも大量の
犠牲者が出ると判断したので有る。
「何故ですか、我々が結集すれば幕府軍は防げると思いますが。」
「ですが、その幕府軍が一体何処から来るのか、其れと、軍勢ですが、数百なのか、数万人なのか我々の
勢力を全て投入しても、今の段階では数日間持ち応えれば良いと、更に、高い山を越え一気に雪崩れ込む
可能性も有り得るのです。」
やはり、殿様方は世の中の動きを全く知らないのだと、源三郎は改めて知らされたので有る。
「う~ん、これは、大きな問題になったぞ。」
「皆様、今は殆ど知られていない我々の存在が一通の文により全てが知られると、今までの努力が全て水
の泡となるのは目に見えております。」
「源三郎殿、では、これから先も秘密に進めて参られるおつもりなのですか。」
「上田様、新しい組織の実態が分からぬ以上、我々としましては、領民の為にと、ですが、新しい組織と
言うものが、我々に取って不利益では無いとはっきり確認出来るまでは全てを秘密にして置くべきかと存
じます。」
源三郎の意識の中で新しい組織と言うものが、特に、農民や漁民に対して利益になるとは今までの経緯
を考えても多分と言うよりも無いと考えて要る。
田中の報告では鉄砲を持った兵士が先頭で進んでいたと、其れに、戦闘にでもなれば最初の犠牲者を出
すのは間違いなく鉄砲を持った農民や町民では無いのか、だとすると、今までの武士は一体、何処に要る
のだ。
幾ら、訓練を受けた兵士と言えど戦などを経験した事が無い町民が実戦に果たして何処まで訓練通りの
成果が発揮されると言うのだ。
武士も同じで、今まで、何度となく殺し合いをした者でも相手が数人をと言う小規模な戦に、だが、大
勢の兵士が鉄砲を持って要るとすれば、今度の相手は、数千、いや、数万となり、幾ら、腕の立つ源三郎
でも鉄砲を持つ町民には勝つ事は出来ない。
それ程にも大きな軍隊を相手にする事になる可能性が高いと源三郎は考えて要る。
だが、領民に説明を行うのは大変だ、町民や農民は思うだろう、何故、我々が戦争に行かねばならない
のだと、其れを、理解させなければならないので有る。
「私は農民さんを始め、多くの領民に理解して頂く前に家中の者達に説明し、理解を得る事の方が先決だ
と考えて要るのです。
ですが、この私も、まだ、野洲の家中には説明も行なっておりませぬ。」
源三郎が説明出来なかったのではない、今日の今まで、その様な説明する機会さえも無かったと言うの
が本当で有る。
「源三郎、では、その説明は何時から始めるのじゃ。」
「殿、余り急ぐ事も御座いませぬ。
明日か、明後日か、其れは、私が決めるのではなく、殿、いや、将軍が決めて頂く事の方が良いと考え
ております。」
「何じゃと、余が決めると申すのか。」
「はい、私は連合国の総責任者を任ぜられましたが、私の気持ちの中では野洲一国の者では無く、連合国
の人間として考えて行かねばなりませぬので、将軍がお決め下されば、私が直接説明を致しますので。」
「そうか、分かった、では、う~ん、やはり直ぐにとは行かぬのぉ~。」
其れから、暫くの沈黙が続き。
「源三郎殿、其れは、我が国でも同じ事なのですか。」
「はい、菊池様も上田様も、そして、松川様、山賀様も同様で御座います。
私がご家中の皆様に説明させて頂きますが、その前にご重役方には将軍から説明して頂く事が大事なの
です。」
とは言っても、各国の殿様方、いや、将軍が、果たして、何処まで理解しているのか、其れが、一番大
事なのだ。
源三郎が、今まで話した内容を将軍達が理解出来ねば重役方に説明などはとてもでは無いが無理と言う
もので有る。
各国の将軍となった殿様方は深刻な表情で考えて要る。
だが、その中で、吉永、一人だけは、全てを理解した顔付で要る。
「総司令殿、私は、これから、源三郎殿では無く、総司令殿と呼ばせて頂きます。」
吉永だけが理解したのだ、源三郎を責任者と呼ぶのではなく、総司令と呼ぶ事で各国の将軍達の考え方
も変わると判断したので有る。
「吉永様、いや、司令官殿は全てを理解して頂いたと感じておりますが。」
「はい、私も、以前より今の幕府に対抗する為には、今までの様な固定観念を捨てなければならないと感
じておりましたが、今回、総司令のご発言で、私の考え方は間違っていなかったと、今、確信致しまし
た。」
「では、吉永司令官殿から山賀の家中に説明して頂けますか。」
「総司令、私は喜んで説明させて頂きます。」
よ~し、これで、山賀は安心して吉永に任せられると、だが、後の野洲は源三郎が、だが残る三カ国は
今回と言う機会を逃すと次の機会にとは行かないので有る。
「菊池様と上田様、其れと、松川様、誠に、失礼な聴き方で申し訳御座いませぬが、私の説明をご理解頂
けましたでしょうか。」
「私は気持ちでは理解したいと思っておりますが、何せ急なお話しなので今は頭の中が混乱致しておりま
す。」
「上田様も菊池様も、全て、承知致しておられますが、今回の様に全ての殿様方がお集りになられるの事
は、何時になるのか分からない状態で有りましたので、どうか、お許しを願いたいので御座います。」
「源三郎、余も、同じじゃ、じゃが、その前に、少し休みを入れぬか。」
「はい、承知致しました。」
「誰か、居らぬか。」
「はい。」
若い家臣が入ってきて。
「あっ。」
と、思わず叫んだ、其れは、源三郎の姿を見て驚いた、源三郎の頭に髷が無い、一体、何が起きたのだ
ろうか、いや、これは、大変な事態が起きたのだと。
「何を見ておるのじゃ、あ~、源三郎を見て驚いておるのか、では、申して置くぞ、もう、野洲の源三郎
では無い、今日からは総司令官としての任務に就くが、まぁ~、その話は、後日、総司令官から説明が有
る、まぁ~、源三郎の髷が無い事を言っても良いが、其れよりも、今、何時じゃ。」
「はい、先程、昼の九つが鳴りました。」
「何じゃと、もう、その様な時刻なのか、で、昼餉は。」
「はい、先程、賄い処の吉田様が、何時、お運びして良いか聴く様にと申されまして。」
「よし、では、直ぐに持って参れと伝えるのじゃ。」
「はい、畏まりました。」
家臣は、大急ぎで賄い処に向かった。
「一体、何が、有ったのだろうか、だけど、言っても良いのだろうか、いや、駄目だ。」
家臣は独り言を言いながらも賄い処に向かった。
「吉田様、殿が、直ぐにお持ちせよと申されておられます。」
「承知致した、さぁ~、みんな、運んで下さいよ。」
賄い処の女中達は一斉に昼餉を運んで行く、その中には雪乃もおり、雪乃が先頭になり殿様方のおられ
る部屋へと入り、最初に、菊池の殿様へ、其れからは、腰元達が次々と殿様方の前に食事を運んで行く。
「あっ。」
突然、他の腰元が叫んだ。
源三郎の髷が無い、腰元達は驚くのも無理は無い、だが、源三郎は平然として要る。
「源三郎様、如何なされたのでしょうか。」
雪乃は少し驚くが。
「雪乃殿、別に大した事では御座いませぬ。
私は、先程、野洲を離れ、我らの大切な任務の為に髷を私が切り落としたのです。」
「はい、分かりました。」
雪乃は、これ以上聴く事はしなかった、源三郎が今まで行なって来た以上に大きな役目の為に髷を切り
落とさなければならなかったのだと。
「雪乃にも、後で参加して欲しじゃ。」
「えっ、何故、私がで御座いますか。」
「それはじゃ、雪乃は源三郎の奥方じゃが、その前に松川、山賀の将軍の姉上として聞いて貰いたいのじ
ゃ良いか分かったな。」
「えっ、将軍。」、
「まぁ~、その話は、後で致す故。」
「はい、畏まりました。」
雪乃は下がり、賄い処へと戻って行く。
その頃、賄い処では、もう、大変な騒ぎになって要る。
「吉田様、もう、大変で御座います。」
「一体、どうしたと言うのですか、みんな、少し静かにして下さいよ、其れで、何が有ったのですか。」
「はい、其れが、源三郎様の髷が。」
「髷が、どうしたのです。」
「源三郎様の髷が切り落とされて無いのです。」
「えっ、其れは誠ですか。」
「吉田様、見たのは私だけでは御座いませぬ皆様もです。」
女中や腰元達は頷いて要る、其処へ、雪乃が戻って来た。
「雪乃様。」
「吉田様、如何なされたので御座いますか。」
「雪乃様、如何ですと、今、話しを聞いたのですが源三郎様の髷が無いと。」
「はい、私も聴きましたが、其れが何か。」
「雪乃様、其れが何かでは御座いませぬぞ、武士が髷を落とすと言う事はですなぁ~。」
吉田は慌てて要る、其れは、当然だ、武士が髷を落とすと言う事は、其れは、大変な事で大失態でもを
起こしたのか、其れとも、切腹に近い大失言でも言ったのか、吉田達は、一瞬の不安を覚えたので有る。
「私は、源三郎様から、先程、野洲を離れ、我らの大切な任務の為に髷を落としたと伺いました。
私は他の殿様方のお顔を拝見致しましたが、源三郎様が失態を起こしたとは到底思えないので御座いま
す。」
「今、野洲を離れ、我らの大切な任務と申されましたが、一体、どの様なお話しをされて要るのかご存知
なのですか。」
「いいえ、私は何も伺ってはおりませぬが、源三郎様から申されましただけで、菊池様も上田様もです
が、私の弟二人も何時もと変わらぬ顔をしておりましたので、其れに、源三郎様自らが髷を切られたと申
されました。」
「う~ん、それにしても、一体、何が、有ったのだろうか。」
吉田は可なり深刻な顔付をしている。
「吉田様、今、殿から、私も来る様にと申されましたので。」
「そうですか、余程、大切なお話しをされて要る様ですなぁ~。」
「はい、私もその様に思いますが、でも、殿様方は余り深刻なお顔では御座いませぬので私も一安心致し
ております。」
とは、言ったものの、一番、不安に思って要る雪乃で有る。
半時程して腰元達が昼餉を下げに向かい、雪乃だけが残った。
「雪乃、今から大切な話をするが驚くで無いぞ。」
「はい、畏まりました。」
「うん、では。」
と、野洲の殿様が朝から始まった協議の内容を話した。
「はい、承知致しました。」
雪乃は顔色も変えず聴いて要る。
「源三郎様、私に出来る事が御座いますればどの様な事でも致しますので、どうか、申し付けを。」
雪乃は、改めて源三郎に頭をさげた。
「雪乃殿、まぁ~、今は何もする事は有りませんのでね。」
「はい、その前に少しだけ、竹之進、松之介、二人は源三郎様の申されておられますお話しを理解して要
るのですか。」
やはり来たか、竹之進も松之介に取ってはこの世で一番恐ろしい姉上で有る。
「はっ、はい、全てでは御座いませぬが。」
「何を申して要るのですか、竹之進も松之介もよ~く聴く事です。」
其れから、雪乃は二人に対し話すので有る。
源三郎の説明では無く、雪乃自身が解釈しての話しなので二人は要約理解したのだろう。
「義兄上、申し訳御座いませぬ、私の理解不足で御座いました。」
「いゃ~、奥方、私もよ~く分かりました。」
「菊池様、私は何も。」
「いや、私が源三郎殿の説明を理解出来なかったのです。」
「雪乃殿、私が悪かったのです。
私だけが分かっておりその説明が不足しておりました。
これからは、十分に気を付けますので。」
源三郎は雪乃が説明する様な方法をこれからは大事にせねばと思ったので有る。
「源三郎様、この二人が、本気でお話しを伺っていなかったので御座います。
竹之進、松之介は源三郎様が何故に髷を切り落とすまでに行われ様とされる意味が分かって無かったの
で御座います。
貴方方は藩主を受諾したと言う事がどれだけ大変なお役目かをしっかりと考える事です。
源三郎様は二人を若輩者では無く、藩主に話されたのです。
源三郎様が申されたお話しを全て理解出来ないので有れば、今、この場で、腹を切りなさい。
私は幼い頃から貴方方二人には一を聴いて、十では無く百を知らなければならないと申し上げいたはず
ですよ、源三郎様、どうかお許し下さいませ、二人に対する教育が行き届けませず皆様方にも大変、迷惑
をお掛け致しました。」
雪乃は菊池、上田の殿様にも頭を下げた。
「奥方様、私は反省致します、今のお話し誠骨身に答えました。」
「私の出過ぎた真似をお許し下さいませ。」
「う~ん、さすがじゃ、雪乃の説明で、余も、全て理解したぞ、源三郎、申し訳ない、この通りじゃ、許
してくれ。」
野洲の殿様は源三郎に頭を下げると。
「殿、そして、皆様方、私の説明不足で御座います。
これからは、改める様に致しますので、どうかお許し下さいませ。」
源三郎は全員に対し手を付き頭を下げた。
「菊池殿、上田殿、今の話で全て分かりました。
これからは、まず、全ての家臣に説明致さなければなりませぬが。」
「野洲殿、私は何度でも説明する様に致し、家臣の全員が理解したところで、家臣の全員で領民に対し説
明に入れればと考えております。」
「皆様、有り難き事で御座います。
私は野洲の領民に対して説明を始めますので。」
この様にして、源三郎が提案した五か国連合は正式に設立され、そして、闇の帝国は、だが、その前
に、各藩主が家臣達に説明し全ての家臣が納得した後、手分けし領民達にも説明しなければならないので
有る。
果たして、闇の帝国は出来るのか、例え、出来るにしても、この先も長く苦難の道を歩む事になるので
有ろうか、今は誰も分からないので有る。