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闇の帝国    作者: 大和 武
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第 18 話。 果たして、山賀の運命は。

 山賀の新しき藩主となった松之介は入城後、直ぐ行動を開始した。


 源三郎も参加し洞窟内の調査に入る日の早朝、松之介達は山賀の大手門前に集合し正太達を待っ


ている。


「皆様、お早う、御座います。


 本日は皆様に大変なご無理をお願いしますが、何卒宜しくお願い致します。


 其れで、今日は、最初の二町分の調査に入りますが、洞窟内は暗闇で何も見えませぬので急がず


に調べて下さい、では、宜しくお願いします。」


「若、私はもう何も申し上げる事は御座いませぬ、これからは、若の思う通りに行なって頂いても


宜しいかと存じます。」


「お~い、若様。」


 正太達が走って来た。


「正太さん、無理を申しましたねぇ~。」


「若様、今日は、オレ様の子分、いや、仲間を増やしてきたよ。」


 正太は家臣達を見回し誰かを探している様子だ。


「いゃ~、其れは、有り難いですねぇ~、大助かりですよ。」


「あれ~、あのお方は、確か。」


「そう、最初の時に。」


「あっ、そうだ、源三郎様だ、源三郎様、あの時は、ありがとうございました。


 オレ達は源三郎様って、本当にお優しいお侍様だって、みんなに話してたんですよ。」


「いいえ、その様な、でも、あの時は有り難いお話しを聴かして頂き、私も感謝しております。


まぁ~、其れよりも、今から、正太さん達の洞窟に参りましょうかねぇ~。」


「お~。」


 正太と仲間達は元気良く気勢を上げた、やはりだ、正太は仲間達にどの様な話をしたのか其れは


分からない、だが、直ぐ、これだけの人数を集めると言うのは誰にでも出来るものでは無い。


 だが、其れを、正太なら出来る、正太は彼らを纏めるだけの人物だ。


 高木達と正太の仲間が荷車を引き、正太の仲間が荷車を押し、大手門前からお城裏に有ると言う


祠を目指し動き出した。


 正太の仲間は、もう、高木達と何やら話し始め、既に、顔馴染みなのか笑い声が聞こえ、だが、


他の家臣達は何を話してよいのか分からず、話す事も無く荷車の後ろから付いて行く。


 先頭は源三郎を中心に、松之介と正太が左右で、仲間達もだが正太も嬉しそうな顔でいる。


「ねぇ~、源三郎様、今日は、大勢のお侍様ですが、何か、有るんですか。」


 源三郎も松之介もニコニコとしている。


「ええ、そうですよ、実はねぇ~、正太さん達に案内して頂きました洞窟をね、今日は詳しく調べ


る為に、ほら、見て下さいよ、これだけの道具を準備しておりましてね、其れで、正太さんに連絡


が遅れたのですよ、まぁ~、若様は正太さんも皆さん方も忘れては無かったので、どうか、私に免


じて許して下さいね、この通りですから。」


 源三郎は、正太に頭を下げた。


「そんなぁ~、ねぇ~、源三郎様、頭を上げて下さいよ、でも、本当は少しだけですけど、若様が、


忘れたのかなぁ~って、でも、今日は嬉しいですよ、だって、源三郎様に若様も一緒なんですから


なぁ~、みんな。」


「そうですよ、オレ達は決めたんですよ、源三郎様と若様にはこれからはどんな事が有っても絶対


に迷惑を掛けないってね。」


「いゃ~、其れは、本当に嬉しいですねぇ~。」


「源三郎様、まぁ~、オレ達に任せて下さいよ、其れにしても物凄い荷物ですねぇ~。」


 何と、荷車だけでも十台有り、荷車には大量の薪木が積み込まれて要る。


「若様、じゃ~、今日は奥には行かないんですか。」


「う~ん、そうですねぇ~、まぁ~、其れは、若様に任せましょうかねぇ~。」


「そうだ、ねぇ~、源三郎様、若様って本当に世間知らずなんですか。」


「正太さん、だから、若様なんですよ。」


「なぁ~んだ、源三郎も若様と同じ答えなのか、もう~嫌になるよ。」


 源三郎は何かを感じた、正太は何かを言いたいのだと、其れは、やはり。


「正太さん、何か有ったのですか。」


「源三郎様、今日、来た仲間全員が島帰りなんですよ。」


「ほ~、そうでしたか、其れで、何か都合でも悪いのですかねぇ~。」


「だって、城下じゃ、オレ達が島帰りだって言うだけで仕事も真面に無いんですよ。」


「そうでしたか、では、正太さん本気で仕事をしますかね。」


「えっ、本気で仕事をしますかって、オレ達は仕事が有れば、飯も食べられるし、其れに、お酒


だって飲めるんですからね、そりゃ~嬉しいですよ。」


「そうですか、でもねぇ~、若様と私が考えて要る仕事は、其れはもう大変厳しいですが其れでも


大丈夫ですか。」


「源三郎様、島の仕事に比べりゃ~、まぁ~、ちょっとは楽だと思うんですよ。」


「正太さん、其れは分かりませんよ、もっと、厳しいかも分かりませんからねぇ~。」


 源三郎は、正太の顔を見てニヤリとすると。


「また~、源三郎様、そんなに脅かさないで下さいよ~、本当に若様と一緒なんだからなぁ~。」


 源三郎も松之介も正太も大笑いするが、後ろの家臣達は、まだ、意味が分からず小声で何かを話


している。


 高木達と正太の仲間達はもう大きな声で騒ぎに近く、源三郎は、松之介が正太達を仲間として考


えて要ると言うのは正解だと。


 山賀の城は大きく、野洲の数倍は有り、大手門から城の裏側に有ると言う空堀までは思った以上


に距離は有るのだが、今日は早朝から賑やかで、源三郎達は、時々、大笑いしながでも何時に無く


早く着きたい気持ちなのだ。


「源三郎様、此処からがお城の空掘りですが、私は松川の掘りも知っておりますが、空掘りの幅が


思った以上に広いとは思われませんでしょうか。」


「う~ん、確かにこれは広いですねぇ~、野洲の二倍、いや、三倍は有りますねぇ~。」


 其処から、三町程行くと大きな木が三本有りその下に祠が有る。


 源三郎達は、暫く、空掘りを見ながら進んで行くがやはり思った以上に大きく、大きな三本の木


が直ぐ前に見えては要るがまだ遠くに感じる。


「源三郎様、洞窟の入り口ですが、大木の後ろなので此処からは見えないのです。」


 だが、源三郎は別のところを見て要る。


「うっ、あの石垣ですが少し変わっておりますねぇ~。」


「えっ、どれですか。」


 松之介も、先日、来た時にはわからなかっただろう。


「此処から見ると、ほら、あの下に有る岩ですが、他の石垣の岩と比べると、数倍も有り、何故か


不自然な様にも見えるのですがねぇ~。」


「う~ん、確かに本当ですねぇ~、私は前の時には、全く、見ておりませんでしたので、でも、私


は普通の石垣の様にも見えるのですが。」


 源三郎は城側の石垣とは反対側の、其れは、今、自分達が居る場所の下を見た。


「う~ん、やはり、何か有りそうですねぇ~、こちら側の、ほら、あそこですよ。」


 源三郎が指を差した方を見ると、やはり、他と比べると数倍は有る岩石が見えた。


 その岩石は祠の有る所から六間程離れたところで、空掘りの幅も広いが、長く、どうやら、祠が


中間地点と思われ、祠の有る所までは優に五町以上は有り、他の堀に比べると空掘りは異常と思え


る程にも大きく、一体、何故に此処まで大きな空掘りが必要だったのだろうか。


「源三郎様、如何されましたか。」


「若、少し調べたいと思う所が有りましてね、正太さん達と一緒に参りますが、他の人達は入り口


を入ったところを隅々まで調べて下さい。」


 高木達と家臣達は荷車から松明とかがり火用の道具、薪木を降ろし始めた。


 正太と仲間の数人が松明と提灯に火を点け、源三郎は松明を受け取り、辺りを見回して要る。


 松之介も正太も松明と仲間は提灯を持ち、正太が先頭になり洞窟に入った。


「正太さん、余り、奥に進まないで下さいね、そうですねぇ~、この場所、数か所にかがり火をお


願いします。」


 其処は入り口に近く半町ほどの中で正太達がかがり火の準備を始めたが、源三郎は松明を持ち


ゆっくりと進んでいる。


「此処か。」


 源三郎は松明の灯りを残し突然姿が消えた。


「ねぇ~、源三郎様、どこですか。」


 正太が大声で呼んだ、其処は、入り口から一町程の先で別のところに通じて要る。


「此処ですよ。」


 源三郎の声と薄明りを頼りに、松之介と正太達も松明と提灯を持ち、源三郎の向かった方へと


入って行く。


「えっ、一体、此処は。」


「若、この場所は、どうやら、石垣の裏側の様ですねぇ~。」


「えっ、石垣の裏側って、では、先程、見たあの石垣の。」


「う~ん、でも、何故ですかねぇ~、此処までは下りになって要る様には見えないのですが。」


「ねぇ~、一体、何の話し何ですか、源三郎様、オレにも分かる様に説明して下さいよ~。」


 正太はさっぱり分からない、確かに、以前、来た時には全く気付かずかにいた。


「義兄上、ですが、前にも来ましたが無かったと言うよりも見付けられませんでした。」


「若、今回の調べは重要だと思いますよ。」


 松之介も、まだ、理解出来ずにいる、源三郎も、何故、此処に洞窟が有るのかも分からない。


「正太さん、かがり火をこの付近にも二か所に置きましょうか。」


「はい、おい、行くぞ。」


 正太達は外に出、かがり火の準備に入った。


「若、若しかすれば、大変な発見が有るかも知れませんよ。」


「えっ、ですが、一体、何の為にこの洞窟を掘ったのでしょうか。」


「若、一度、戻りましょうか。」


「はい。」


 その洞窟も内部は思った以上に広い。


「皆さん、集まって下さい。」


「何が有ったんだろうか。」


「うん、そうだなぁ~。」


 家臣達が集まり。


「実はですねぇ~、新しい、其れも、少し怪しげな洞窟を見付けましたので、皆さんも奥に進まず


この付近一帯の隅々まで調べて下さい。。


 特に、中央では無く、壁際をね、まぁ~、簡単に進み過ぎますと見過ごす事も有りますのでね、


出来れば、皆さん方は松明を持って数人づつ調べに入って下さいね、一人では駄目ですよ。」


「源三郎様、じゃ~、壁際に何か仕掛けでも有るんですか。」


「う~ん、そうですねぇ~、突然壁が動き正太さんの姿が消える事も有りますよ。」


 源三郎は、何故か、正太をからかって要る。


「またぁ~、何でそんな恐ろしい事を言うんだか。」


「正太さん申し訳ないですねぇ~、でも、其れを調べますので、皆さんも一人では無く数人で調べ


る様にして下さいね。」


 入り口から、一町付近一帯には、多くのかがり火が点けられ今まで以上に明るくなった。


「義兄上、下を見て下さい、これは、若しかして、荷車が通った跡では無いですか。」


「えっ、荷車が通った跡ですか。」


 源三郎は松之介の言った下を見ると、確かに、其れは轍の跡だ。


「若、これが、轍の跡だとすれば、ですが、あの入り口付近には、いゃ~、少し待って下さいよ、


若しや、この轍はこの入り口では無く別の入り口からでは。」


 源三郎は洞窟の入り口に向かった。


 正太達が数か所にかがり火を点けており、洞窟内は明るくなり、下を見ると、やはり、源三郎の


思った通りで、だが、其処には敷石が置かれ、其れが本道まで続いて要る。


「若、どうやら、本当の入り口は此処かも知れませんよ。」


「ですが、此処には入り口らしきものが見当たりませんが。」


 松之介は松明で内側を照らすと、大きな、其れも、畳、数畳分も有るだろうと思われる巨石と、


その周囲にも大小の岩石が並べられている。


「この石垣ですが、何故か不自然だとは思いませぬか。」


 源三郎が言う様に、巨石の並べ方が何故か不自然で、前面の巨石だけが奥に入り込んだ様にも見


えるので有る。


「う~ん、何かなぁ~。」


 源三郎は巨石の周囲を見ると、其れは、かすかだが、明るい筋の様なものが見えた。


「うん、これは、どうやら、外側に開くのでは無いだろうか。」


「若、表に出ましょう、正太さんと、後、数人程一緒に来て下さい。」


「ねぇ~、源三郎様、何が有ったんですか。」


「正太さんあの大きな石垣ですがねぇ~、私の想像ですがね外側に開くのではないかと思いまして


ねぇ~。」


「えっ、正か、あんなに大きな岩が開くんですか、またぁ~、脅かさないで下さいよ。」


 正太もだが、松之介も家臣達も、正か、巨石が開くとは信じていない。


 源三郎は外に出ると、その巨石の見えるところまで行き。


「正太さん縄を数本束ねて下さい。」


「でも、一体、何を、するんですか。」


 正太は源三郎のする事がさっぱり分からない。


「まぁ~、まぁ~、これはね、私の想像ですが、あの石垣の中でも特に大きな岩がね洞窟の入り口


では無いかと思って要るんですがね。」


「えっ、本当ですか。」


「私も確信が有りませんが、其れで、今から、あの大きな岩のところまで行きますので。」


「源三郎様、そんなの危ないですよ。」


「いゃ~、大丈夫ですよ、何も心配する事は有りませんので、其れよりも、皆さんで縄を持ってて


下さいね。」


「ねぇ~、若様、源三郎様って、命知らずの恐ろしい人ですねぇ~。」


 松之介も初めて見たが、確かに、源三郎は命知らずなのかも知れない、其れで無ければ此処まで


の危険を犯して領民の為には出来ないのだろうかと、やはり、この工事もだが全てが命掛けなのだ


と思うので有る。


「いゃ~、私も初めてで驚いて要るのですが、あの方は本当に恐ろしい人ですよ。」


「若様、オレも、今まで多くのお侍様を見てきましたが、源三郎様も若様も、全部、本気でやるん


ですねぇ~。」


「勿論ですよ、私も命掛けでやりますからねぇ~。」


 正太は今までの山賀を知って要るが、この二人はだけは、他の侍達とは別人の様に見えた。


 源三郎は数本に束ねた縄を身体に結ぶと石垣を下って行く。


「お~、これは、何と高いのだろうか、上から、下までは、三十間、いや、其れ以上は有る。」


 独り言を言い、其れでも少しづつ下って行く。


「お~い、ゆっくりとだ、そうだ、そう、ゆっくりと、もう少しで下に着くぞ。」


 正太は石垣の上から身を乗り出し縄を持つ仲間達に指示を出している。


「やはり、正太が中心なのか。」


 松之介は源三郎の動きとは別に正太の動きを見て要る。


 其れから暫くして、源三郎は石垣のと言うよりも、空掘りの底に下り巨岩を調べ始めた。


「うん、あれは、やはりだ、何か有る。」


 巨石の下部には、三か所、太い鉄の輪がはめ込まれている、だが、反対側の巨石を見ても、何や


ら有るのは分かるが余りにも遠く、其れが鉄の輪だとは分からない。


 源三郎は空掘りを城へと向かうと、足元が何故か固く感じ、覆われている草を除けると敷石がさ


れている。


「何かが変だ、空掘りの底に敷石が有るとは。」


 だが、その部分を外れると敷石は無く、土と小石だけで有り、その後、真向いの石垣の下に着く


と、やはり、遠くからでは見えないが巨岩の下には鉄の輪が付いて要る。


 このお城の中に隠された地下道が有るのは間違いは無い、其れだけ分かれば十分だと、それから、


源三郎は戻った。


「正太さんこの付近一帯に大木が横に置かれて要ると思いますがね、ただ、大木は朽ち果てて要る


は思います探して下さい。」


「はい、分かりました。」


 正太達が大木を探し始め、暫くすると。


「源三郎様、此処に有りますよ、其れも、大木が四本もです。」


 やはり、有ったか、源三郎は正太の呼ぶ方に行くと、確かに有った。


「う~ん、やはり、私の思った通りでしたねぇ~。」


「源三郎様、先端に何か付いてますが。」


「これは、滑車に間違いは有りませんよ、錆びてはおりますが。」


 大木の上部には頑丈な滑車が取り付けて有る。


「う~ん、これは、太くて長いですねぇ~。」


「源三郎様、正か、この大木を備え付けて縄で引き上げてたのですかねぇ~。」


「多分その通りだと思いますが、でも、縄では無理でしょうねぇ~、若、この付近に蔓のなる植物


が多く茂っておりますねぇ~、蔓を数本束ねると、相当な強さになりますよ、ですが、果たして、


引き上げる事が出来るでしょうかねぇ~、私がどの様に考えても無理が有ると思いますねぇ~。」


「源三郎様、少し短いですが数本有りますよ。」


「正太さん、其れにも滑車は付いていますか。」


「はい、上の方か、下なのか分かりませんが確かに付いてますよ。」


「正太さん、その滑車ですが取れますか。」


「はい、木が腐ってますので簡単に取れますが。」


「では、その滑車を持って帰りましょうか。」


「ですが、一体、何の為にあの様な物を作ったのでしょうか。」


「若、私も、分かりませんがね、これは大発見ですよ。」


「源三郎様、滑車を外しましたが、大きな物ですねぇ~。」


「正太さん、城下の鍛冶屋さんを知っておられますか。」


「ええ、知ってますが、えっ、正か、源三郎様、これと、同じ物を作らせるんですか。」


「はい、その通りですよ、私が見たところでは、こちらには、二個は必要ですが、問題はお城の中


も調べる必要が有りますねぇ~。」


 その時、洞窟内を調べて要る家臣が


「源三郎様、中を調べておりましたところ、この様な物が見付かりました。」


 数人の家臣が持って来たのは、刀に槍、弓の矢などの他に。


「これは、鉄砲では。」


「はい、其れが、これと同じ物が、数十、いや、もっと大量に有りますが。」


「分かりました、では、案内して下さい。」


 家臣達は洞窟内で同じ様な物が別の洞窟内から出たと言う、だが、その洞窟は前だけを見ていた


のでは、まず、見つからない程にも巧妙に掘られている。


「此処は、若しか、武器庫では無いでしょうか、鉄砲や槍も、他の物も整然と並べられております


からねぇ~。」


「でも、一体、誰が何の為に作ったのでしょうか。」


 家臣達も分からないのだと。


「他にも、この様な洞窟は有るのでしょうか。」


「今、調べておりますので。」


「若、この洞窟内を詳細に図り、図面にしましょうか、皆さんで手分けしますが、まぁ~、その前


に縄に印を付けて最初から調べる事にしましょうか、入り口は多分あの石垣の有る所だと思います


ので。」


「では、こちらの入り口は。」


「まぁ~、その前に、一度、外に出て作戦を考えましょうかねぇ~。」


 全員が外に出ると、丁度、朝の四つ半を告げる鐘が鳴った。


「皆さん、その前に、丁度、お昼近くだと思いますので食事にしましょうか。」


 高木達が全員におむすびと飲み物を渡し、それぞれが好きなところで食べ始めた。


「若様、オレ達って飛んでも無い物を見付けたんですか。」


「正太さん達のお陰で、今まで誰も知らなかった洞窟の中が分かって来たんですよ。」


「だけど、あの奥って、一体、何処まで続いて要るんですかねぇ~、其れに、他にも何かが見付か


るんでしょうか。」


「正太さんあの先の奥が、一体、どの様になっているのか分かりませんがね、其れよりも、今の所


ですが、もっと詳しく探せば他にまだ何か見付かるかも知れませんよ。」


「源三郎様、じゃ~、オレ達が聞いてたお蛇様って、一体、何だったんですか。」


「まぁ~、私が思うにはですよ、多分、この洞窟で、当時、これを作られた人が誰も中に入らない


様に大蛇が住んでいると大嘘の話を作ったんだと思いますよ、その証拠に刀もですが何十丁もの


鉄砲が有ったでしょう。」


「じゃ~、この洞窟が出来たのは。」


「そうですねぇ~、この刀は、今の型と違いますので、少なくとも、百年、いや、其れよりも昔で


三百年以上前に作られたと思いますよ。」


 三百年以上も前だとすれば、世の中は完全に制定されたとは言えない時代なのか、山賀の国もだ


が菊池の国まで海側とは反対には高い山が連なり、山の向こう側からは簡単に越える事は出来な


かった、特に冬場ともなれば、山は麓まで白く雪化粧され、雪の季節には全くと言っても良い程に人々の


往来な無かった。


 其れでも、山賀の一部と菊池の海岸近くには高い所だが、峠の様な所が有り其処だけが人の往来


が可能で、その様な土地柄なのに、何故、巨大なと言って良い程大きな洞窟を造り、内部には武器


が隠されて要るのだ。


「正太さんお昼が終わればお願いが有りますので。」


「はい、で、一体、何をするんですか。」


「縄を一町の長さに伸ばして欲しいんですよ、其れで、まぁ~、四本か五本も有れば良いと思いま


すので。」


「はい、じゃ~、みんな手伝ってくれるか。」


「お~、いいよ、じゃ~、正太、お前は先を持っててくれよ、オレ達が伸ばして行くから。」


「あいよ。」


「其れと、他の方々は墨で印を付けて下さい、一尺づつで、六間のところには分かる様に三本線で


も入れて頂けますか。」


 家臣の数人が筆で数か所印を付けて行く、この作業は源三郎は最初が肝心だと松之介に伝えた。


 其れは、源三郎が山賀に長い期間は滞在は出来ないと考えたので有る。


 最初は簡単に終わるだろうと思った松之介だが、二町分の地図を作り終え外に出ると周りは薄暗


くなり暮れ六つの鐘が鳴っていた。


「若、思いの他大変ですが、先に進むよりも地道に地図を作りながら中を詳しく調べる事の方が、


後々、楽になるのですよ。」


「義兄上、松之介はよ、~く、分かりました、その先よりも、明日、今日作りました地図を数枚、


いや、十数枚作ります。」


「その方が宜しいかと、其れと、今回は二十名の方々に参加して頂きましたが、次回から人数を増


やされては如何でしょうか。」


「ですが、お城の中も調べる必要が有るのでは。」


「そうですねぇ~、其れは、ご家老と相談されては如何でしょうか。」


「はい、その様に致します。」


「若様、で、次は何時頃になるんですか。」


「正太さん少し待って頂きたいのです。


 今日、調べました事を少し日数を掛けて検討したいと思いますので。」


「オレ達は何時でも来ますよ。」


「正太さん、ありがとう、其れで、これは、少ないのですが今日の代価としてくださ。」


「えっ、こんなに大金を。」


「宜しいのです、ですが、全部、酒代に使っては駄目ですよ、次も大変ですのでね、まずは身体を


休めて下さいね。」


「はい、じゃ~、若様、源三郎様、オレ達は帰りますので。」


「皆さん、ありがとう。」


 正太達は何度も振り返りながらも手を振って帰って行く。


「若、城に着きますれば、少しお話しが有りますので。」


「はい、承知致しました。」


「皆様、本日は大変お疲れだと思いますが、これからは、山賀の領民の為、若君、いや、殿様に


協力して頂きたいのです。


 私は、明日、野洲に戻りますので、何卒宜しくお願い致します。」


「源三郎様、私は、殿、いや、山賀の領民の為に全力でお役目を果たします。」


「源三郎様、私もです。」


「源三郎様、殿には、私が付いておりますので。」


「いや、お主だけでは無い、我々、全員が付いておりますのでお任せ下さい。」


 今回の調査は大成功だと松之介は調査の中味よりも二十名の若手を見方に付ける事に成功したと、


そして、お城に着くと家老の吉永も呼び話すのだが、それは。


「本日は大成功だと、私は思っております。


 其れで、本題ですが、私は山賀と上田、菊池、松川、そして、野洲を合わせ連合なるものを作りたいと


思うのですが、如何でしょうか。」


「源三郎殿、私は大賛成で御座いますが、今、少しの時を頂きたいのです。」


 源三郎は吉永の言う意味を理解して要るが。


「何か、問題でも有るのでしょうか。」


 確かに吉永の言う通りで、他の四カ国とは違い、山賀は今まで鬼家老が実権を握っており、その


鬼家老からの恩恵を受けていた者達も多く、その家老が、突然、切腹し、前の殿様も今は隠居の身


で其れに対する不満を持って要る家臣が多い。


 更に、松川からは山賀に婿養子とは名ばかりの若君が何の前触れも無く入城し、その後、若い家


臣達を抱き込んで要ると思って要る。


 吉永は日数を掛けて納得させなければならないと考え、其れで無ければ家中で騒動が起き、やが


て、城下の者達の知るところとなり、悪く考えれば山賀は内部分裂する可能性も有る。


「殿、源三郎殿が提案されます五か国連合とは、五か国の藩主よりも家臣達が納得し参加する事に


異議が有ると言うのが前提なのです。


 確かに、藩主と筆頭家老が署名すれば、全ての事は終わると思われるでしょうが、内部でくすぶ


り続ければ、何れかの時に不満が噴出し、その為に、五か国連合は崩壊するやも知れませぬ。」


「確かに、ご家老様、果たして、ご家老様の話しに全員が納得するでしょうか。」


「殿、私は何度でも話しを致します、本人が納得するまでは。」


「私も、是非、お話しの中に入れて頂きたいのですが。」


「勿論で御座います、殿、私は松川藩で多くの事を学ばれ、山賀に着かれた日から早くも行動に移


されておられますので、私は若い家臣達は余り問題は無いと思っております。」


 やはり、問題と抱えて要るのは中堅の家臣達なのか、今日、調査に同行した家臣達は、早速、話


をして要るだろうが、中堅の家臣達はその会話の中には簡単に入らず、例え、入ったとしても、若


い殿様の事だ直ぐ飽きて放り出すだろうと、其れくらいの考えなのかも知れない。


 此処は、一番、松之介と言う若い殿様が、どれ程の情熱を持って要るのか、其れを全員に知らせ


なければならないので有る。


 そして、明くる日の早朝、源三郎は鈴木と上田を伴い野洲へと戻って行く。


 山賀の城下を出た頃お城から全員登城の大太鼓が鳴り響いた。


「源三郎様、山賀もいよいよ始まるのですねぇ~。」


「はい、山賀は野洲とは全く違いますので、吉永様も大変だと思いますが、吉永様の事ですから、


お若い殿様を引き上げられると思いますよ。」


「はい、私も山賀藩が全面的に参加されると思っております。」


「さぁ~、急ぎましょうか。」


「源三郎様、奥方様は。」


「あっ、そうでした、私は完全に忘れておりましたよ、お二人は、決して、雪乃殿には言わないで


下さいね、私は雪乃殿が、この世で一番恐ろしいのでしてねぇ~。」


 源三郎は笑って要る。


「えっ、源三郎様にも恐ろしいと思われる、お方が居られるのですか。」


 三人は大笑いし松川へと向かった。


 源三郎が野洲へと帰った山賀では、早速、家臣全員に対する説明が始まった。


「皆の者、静まれ~い。」


 ご家老の一喝で大広間は静まり。


「本日、只今より、殿から全員に大切なお話しが有る、皆は、よ~く聴く様に、では、殿、お願い


申し上げます。」


「皆様、今、ご家老様が申されました様に、我が山賀藩に取って一大事とも言うべき内容をお話し


致しますので、よ~く、聴いて下さい。


 昨日まで野洲藩の源三郎様が居られましたのは、皆様方、全員がご存知だと思います。


 源三郎様の目的と申されますのは、我が山賀藩を含め、松川、上田、菊池、そして、野洲の各藩


を合体させ、連合国を設立させるべく重大なお役目を受けられ、我が山賀が最後の国となったので


御座います。


 皆様、合体し連合国ともなれば、山賀の名は消滅するやも知れませぬが、新しい組織の中で我々が一員


となれば、殿様と言う名も無くなり、勿論、ご家老様と言う役職も無くなると思います。」


「えっ。」


「そんなぁ~、何故だ。」


 大広間の家臣達は溜息を着くもの、諦め顔をする者、何かを考え込む者など、暫くの間、騒ぎは


収まる事も無く、其れでも、松之介も吉永も何も言わず、やがて、其れも、静まり。


「ですが、我々の国の農民だけは残ります、いや、残らなければならないのです。


 私とご家老様は全てを承諾し連合国に参加するつもりですが、この件に関して、皆様方からの、


ご意見を聴きたいと思いますので、意見を述べられるお方は手を挙げて下さい。」


「はい。」


「どうぞ、お聞かせ下さい。」


「今、殿が申されました合併と言うのは、我が山賀藩が中心なのでしょうか。」


「いいえ、その様な事は有りませんが、何故ですか。」


「何故でしょうか、先程、申されました国の中では、我が山賀藩が一番大きいと思いますが、大き


い国が小さな国を吸収するのが普通では御座いませぬか。」


 家臣が言う事は最もな話しで、彼の発言にも一理は有る。


 だが、其れは、山賀の国が他の国と同じ条件下で有れば、当然、山賀の国が主導権を握る可能性


としては有る。


 当初、山賀が入るだとは、源三郎も他の国の藩主の考えてはおらず、まして、山賀藩には特別な


事情が有り、今の山賀が主導権を握るなどとは他の四カ国の藩主も考えてはいない。


「貴殿は、何か勘違いをなされて要るのでは無いでしょうか。」


「殿、私は何も勘違いなどしておりませぬ、私は山賀の国が好きなのです。


 私は山賀の為ならばと思って要るので御座います。」


「貴殿の考え方は、私も理解は出来ますが、では、その前に少し皆様方にお聞きしたい。


 この国で、何故、最近まで鬼家老と申される人物が全ての実権を握っていたのか、その訳を聴き


たいが、どなたか答えを言えるお方は居られませぬか。」


 松之介は話しの内容を変えた。


 其れは、今も切腹した鬼家老の意向が存在して要るのか、其れとも、他に何が有るのか、松之介


の質問に対し、家中の者達の中で誰一人として返答が出来ない。


「何故、黙って要るのか、先程質問した貴殿は返答が出来ぬのか、貴殿は前の鬼家老から賄賂を受


け取っていたのか、いないのか、はっきりと申せ。」


 今までは言葉使いが優し過ぎたのか、いや、そうでは無い、彼は鬼家老から賂を受け取った家臣


だが、源三郎が処分の対象にはせずに、其れが、悪かったのだ。


「この中で鬼家老から賂を受け取っていた者は名乗り出よ、直ぐにだ。」


 さっきまでの、優しい言葉使いでは無い。


「私は義兄上様から話を聴いて要る、だが、今回は許さぬ貴殿は前に出よ。」


 松之介は刀を抜き肩に担いだ。


「私は抜刀術などは使わぬ、この場で打ち首に致す覚悟せよ。」


 何と、あの優しい、松之介が恐ろしい顔付で今にも刀を振り降ろす寸前だ。


「殿、少しお待ち下され。」


「何故だ、何故、待てと申されるのですか、この者は、義兄上様が、何故に、許されたのかも考え


ず、今だあの鬼家老から受けた甘い汁が忘れないのです。


 鬼から賂を受けた者は早く前に出よ、出なけば全員と見なしこの大広間を血の海にする。


 私は絶対に許す事は出来ぬ。」


 大広間に集まった家臣達は、最初、優しい言葉使いで若い殿様などは怖く無いと思ったのだろう


が、其れが甘かった、余りにもの迫力に何も言えず後ずさりして要る。


「殿、暫く、暫く、お待ち下さいませ。」


 吉永は家老してで無く、松之介の後見人として止めたので有る。


「殿、私が話をしますので、暫く、お待ち下さい。」


「分かりました、お願いします。」


 だが、松之介は刀を鞘に入れず肩に担いだままだ。


「山賀の家中の者達、よ~く聴け、源三郎殿も私もこの山賀と言う国が幕府によって取り壊された


としても何の関係も無いと思って要る。


 だが、此処の農民達が隣の上田の城下でお米が安く売り出されて要ると聴いた、其れで、大勢の


農民や領民が押し寄せて来たので有る。


 だが、上田では、源三郎殿の命で農民から代価は取らぬ方針でその為か知らぬが、予想以上のお


米が出、其れで、調べたところ、殆どの農民が山賀から来たと分かり、その原因を作ったのが、こ


の山賀の鬼家老だと分かった。


 源三郎殿は日頃から農民や漁民を一番大事にせねばならぬと申され、山賀の農民からは代価は取


らず、お主達の見方で有った鬼家老の意向など私も殿にも全く関係が無い。


 山賀の家臣全員が改める気持ちが無いと言うので有れば、拙者も殿も山賀を去り、幕府の密偵に


報告する、其れで、山賀は直ぐ潰され家中の全員が浪人者となるが其れでも良いのか、はっきりと


返答せよ。」


 吉永の口調も今までとは違い、次第に恐ろしさを増して来ると感じた家臣達は下を向き返事も出


来ずに要る。


「殿、申し訳御座いませぬが、松川にお戻り下され、私も野洲に帰りますので、山賀を出、松川の


城下におります密偵には山賀は家中の者達が城下で商いする者達から賂を取り、私腹を肥やしてお


りますと密書を届けますので。」


「吉永様、では、今、直ぐ帰りましょうか、後は、我々の知らぬ事で、ですが、農民さんには可哀


そうな事をしますが、城下でも、そうだ、私は正太さん達に伝えます。


 正太さん達は島帰りで何も怖いものは無いと、正太さん達は直ぐに千人は集められると。」


「では、参りますか、松永さん達も帰りましょう、では、後は皆さんでお好きな様に。」


 松之介と吉永、そして、松永達が一斉に大広間を出ようとした。


「殿、お待ち下さいませ、私が悪う御座いました。」


 先程の家臣が切腹する動作に入るが。


「切腹ですか、どうぞ、どうぞ、お好きな様に、もう、我々には関係は無いのでね。」


「待て、早まるな。」


 他の家臣が止めに入った。


「何故、止めるのだ。」


「切腹するのは勝手だ、だが、お主は本当に理解して要るのか、他の者はどうだ、其れよりもだ、


お主達はこの城下を無事に通り抜けるとでも思って要るのか、仮に通り抜けたとしてだ、一体、何


処に行けると思うのだ、山には狼の大群、そして、海だ、まぁ~、何処まで行けるのか分からない


が頑張って行けるところまで行く事だなぁ~。」 


 吉永も脅しているのか、やはり、本気なのか、松之介が大広間を出ると。

 

「若様、お待ち下さいませ。」


 洞窟へ同行した、二十名の家臣が飛び出し手を付いた。


「貴方方には申し訳有りませぬが他の家中は何も理解出来ておりませぬ、後は皆さんが協力して下


さいね、では。」


「若様、私達が他の者達に話をしますので、其れでも、やはりと申されるので有れば仕方は御座い


ませぬ、我ら二十名は領民の為に何も出来ぬので申し訳御座いませぬと、城下で腹を。」


「分かりました、吉永様、如何致しましょうか。」


「私が判断する事では御座いませんので。」


「では、暫く、待つ事にしょうかねぇ~。」


「では、私もお供しますので。」


 松之介は吉永と松永達と何処かに消えた。


 さぁ~、一体、山賀はどうなるのだ、松之介は本気なのか、吉永も芝居をしたのか。


「若、どちらへ。」


「私ですか、少し見て頂きたいところが有りましてねぇ~。」


「洞窟ですね。」


「はい、私は何故か分かりませんが、あの洞窟がどの様な訳で作られたのか、其れが、知りたくな


りましてね。」


「若が其処まで解明したいと思われるのですから、まぁ~、余程、興味を持たせる洞窟なのでしょ


うかねぇ~。」


「吉永様、其れは中は物凄いですよ、祠の傍に有る入り口は小さいですがね、其れよりも、中には


鉄砲や刀、槍などが大量に有りましてねぇ~、義兄上は武器庫の跡だと申されておられます。」


「へぇ~、武器庫の跡ですか、私も、是非、見たいものですなぁ~。


 其れよりも、先程の件ですが。」


「あ~、あれですか、少し脅しが効き過ぎましたかねぇ~。」


 松之介は舌をペロッと出し、お道化て見せ、やはり、脅かしで有った。


「ですが、皆は大変な驚きでしたよ、私も驚きましたよ、正か、抜き身を肩に担ぐとはねぇ~、私


は思っておりませんでしたので。」


「まぁ~、あれくらいはねぇ~、一度、見せるのも、大事かなぁ~って、ですが、ご家老様のあれ


は本気なのでは。」


「勿論ですよ、でも、久し振りでしたのでねぇ~。」


 だが、松永達は本気だと思っていた。


「えっ、ご家老様も芝居をされたのですか。」


「松永殿、まぁ~、若様の失礼しました。」


「いいんですよ、だって、この名前はね正太さんが付けてくれましてね、私も今は一番気に要って


おりますのでね。」


 松之介は正太が名付けた若様が余程、嬉しいのか、ニコニコとしている。


「そうでしたか、では、松永殿は若様が本気だと思ったのですか。」


「いゃ~、あれだけは本気だと思いましたよ、今まで、多くの人達を見てきましたが抜き身を担ぎ、


ドカンと、胡坐で座られた、あの姿は、もう、殿様では御座いませぬので。」


「う~ん、ですが、あの様な姿を姉上様に知られますと、其れは、もう、大変な事になりますので、


決して、姉上様には。」


「はい、私は何も見てはおりませんで。」


 松永達が両手で目を隠したので全員が大笑いした。


「でも、今頃、城中では、皆が喧嘩腰になっての協議を行なって要ると思いますが。」


「伊藤様、其れで有れば、皆がやっと本気になったと言う事では無いでしょうか、今までが甘い体


質の中にいたのですからねぇ~。」


「はい、私もその様に思いますが、やはり、原因は前の殿様でしょうか。」


「はい、そうだと思いますよ、松川でも最後の決断は、殿で有る父上がされましたが、家老も他の


重役方も、其れはもう、喧嘩をしている様で、私が子供の頃には大人にはなりたくないと兄上と話


し合っておりました程で。」


「其れが、本来の姿だと私も思いますよ、野洲でもご家老は重役方と大きな問題が発生すると、其


れは、まるで子供の喧嘩の様ですよ。」


「では、今でもなのでしょうか。」


「いいえ、今は源三郎殿が、父のご家老を初めとする重役方とは協議されずに全てが現場第一と言


う名目で家臣に任せられ、其れからは、重役方も、まぁ~、のんびりとされておられますよ。」


「えっ、では、源三郎様が権力を握られて要るのですか。」


「其れは、一切御座いませぬ、源三郎殿に権力は似合わないと思いますからねぇ~。」


「義兄上に権力は必要ないと。」


「そうですよ、其れに、今頃は、多分、五か国連合の事だけを考えておられると思います。


 其れが、源三郎殿なのですよ、其れに、反対に、源三郎殿が権力を持てば農民や漁民があの時、


あれだけ駆け付けて来るでしょうかねぇ~。」


「あの時と申されますと。」


「そうか、若はご存知無かったと思いますが、源三郎殿と今の奥方様の事でね其れは、もう、城中


で大騒ぎになりましてねぇ~。」


「城中で大騒ぎですか。」


「ええ、我が殿は源三郎殿に当時の雪姫様を嫁に取れと申され、源三郎殿は相手がお姫様だとその


時初めてに知られ、決断出来ずにおられたのですがね、この後、げんたと言う、まぁ~、げんたは、別に


特別では無いのですがね何時でもお城へは自由に出入りが出来るのですよ、そのげんたと言う


子供がね源三郎殿を脅かしたとのです。」


 吉永は思い出し笑いをして要る。


「えっ、義兄上が、子供に脅されたと言われましたが、其れで、義兄上は。」


「まぁ~、其れがね、あの時程、困った顔を見た事は無かったですが、其れよりも、源三郎殿が、


今の奥方様と一緒になられると分かってからは、もう、連日、連夜漁民や農民、其れに、城下の者


達が押し寄せ、大宴会が続きましたからねぇ~、其れは、もう、大変な騒ぎでしたよ。」


「義兄上に権力は必要は無いと言われました事は分かりますが、権力を持つ様な人物ならば、その


様な事は無いと申されるのですか。」


「吉永様、今のお話しですが、本当なのですか、どうも、私は何かの間違いでは無いかと。」


「私が松永殿の立場ならば同じ様に思いますが、其れがね全て本当の話でしてね、若も、奥方様と


何かの時、会われる事が有れば聴かれれば分かりますよ。」


「先程のお話しの中で、野洲では農民や城下の者達がお城に入れると言われましたが。」


「はい、野洲では城下の者達ならば誰でも自由に入って来れますよ、野洲の門番は城下の全員を


知っておりますのでね、門番さえ許可すれば良いのですから。」


「へ~、私も何故だか分かりませんが、理想の様な気持ちですねぇ~。」


「若、分かりますよ、まぁ~、其れも、今、喧嘩の最中でしょうから、後が楽しみですねぇ~。」


「其れが、理想で、私も今では源三郎殿と同じ考え方になりましたよ、家老だからと言って全ての


権限を持つと、あの鬼家老の様にどの様な問題でも権限で収まると錯覚し、如何にも自分には権力


が有るのだと思い込み、其れが、際限なく行くと権力と言う刀を振り回す事になると思うのです。


 源三郎殿は、今は何が大事なのか、今、一番、重要な問題は何か、其れを見付ける為に現場に行


かれるのです。


 其れが、現場第一とし、現場の農民や漁民、城下の人達の意見を聴かれるので源三郎殿には権力


は必要無いと言う事なのです。」


「私は藩に戻れば、今、伺いましたお話しを忘れずお役目に。」


「えっ、伊藤様は戻られるおつもりなのですか。」


「えっ、ですが、先程は。」


「伊藤殿、若が本気で松川に戻られるならば、今頃、洞窟に向かう必要は有りませんよ。」


「はい、確かにその通りで御座いますねぇ~、私の理解不足で御座います。」


「まぁ~、考え方を変えれば、伊藤様まで私が本気だと思わせたのですから、まぁ~私の芝居も大


したものですねぇ~。」


 松之介は最初から二度と松川へは戻る気持ちは無い。


「ご家老様、着きましたよ、此処ですが、私は洞窟よりも、お城と外側の石垣を注目して頂きたい


のです。


 もう少し行きますと祠が有り、三本の大木の裏側に入り口が有るのですが、問題は洞窟では無く、


あっ、見えてきましたよ、空掘りの底の方ですが他の岩よりも数倍大きな岩が見えると思いますが、


ほら、あの岩です。」


 松之介がお城側の石垣の底を指差すと。


「ほぉ~、確かに、大きいですねぇ。」


「其れと、同じ様な岩がこちら側にも有りますよ。」


 松之介は祠を過ぎ、空掘りの中程近くまで行き。


「この真下に有るのが見えると思いますが。」


「お~、これは、はっきりと分かりますねぇ~、若、これが、問題なのですか。」


「はい、入り口に松明と提灯を置いて有りますので参りましょうか。」


 松之介は最初から吉永を洞窟に案内するつもりだったのか、火打石までも有る。


 松永達が火を起こし、松明と提灯に火を点けた。


「さぁ~、参りましょうか。」


 松之介が先頭になり入って行く。


「吉永様、私がこの洞窟に興味が有るかと申しますと、今の入り口から入ったとしても、中に有る


武器は簡単には見付ける事が出来ない程、実に巧妙な作りになって要るのです。」


「う~ん、確かに、その様に言われれば中に入っても分かりませぬが。」


 松之介が一町程進み。


「此処を曲がりますと。」


「あっ、何と別の洞窟が。」


 松永達が驚いた、其れは、洞窟内を見ずに前だけに進むとこの洞窟は発見出来ずにいる。


 源三郎は壁側を見ながら進んだ結果、別の洞窟を発見したので有る。


「ご家老、此処がこの洞窟の最初のところだと思いますが、其れよりも、この岩を見て下さい。


何か不自然だとは思われませぬか。」


「う~ん、確かに、その様に申されますと、うっ、この石に轍の跡が。」


「ご家老様、其れなんですよ、義兄上が見付けられ、其れで義兄上が空掘りの底に行かれ、其処か


らお城の岩のところまで敷石が並べて有ると申されておられました。」


「では、城の内部に抜け穴が有ると。」


「はい、私もその様に思っておりましたので、早急に城の内部も調査に入るつもりでした。」


「そうでしたか、まぁ~、何れにしても家臣達の結論は今日中には無理でしょうから。」


「私も同じですが、私は家臣達が何と言おうとこの洞窟だけは調べたいのです。」


「若、正か。」


「はい、ご家老様の思われる通りで、私は今から城下に向かいますので。」


「では、私も参ります、その正太と言う人物にも会いたいですからねぇ~。」


「ご家老様だけが、参られるのですか、私達もご一緒に参らせて頂きます。」


「勿論ですよ、では、参りましょうか、其れで、今から行くところでは。」


「はい、承知しております、若様ですね。」


 吉永は何故か急に楽し気な顔付になった、大手門を過ぎ暫く進むと城下に入り、城下の人達は何


時もの様に忙しそうに動き回り、その時、昼九つの鐘が鳴った。


「はい、此処ですよ。」


「お~、此処は、一膳飯屋では。」


「はい、ですが、夕刻からは、お酒も。」


「私は初めてなので。」


「松永様、まぁ~、私に任せて下さいよ、此処のおやじさんは、私も知っておりますので。」


 松之介は元気に。


「おやじさん、空いてますか。」


「これは、これは、若様で。」


「正太さん達は。」


「もう来ますので、さぁ~、さぁ~奥へ、正太も同席で宜しいでしょうか。」


「はい、其れで、お願いしますね、で、食事はと、まぁ~、おやじさんに全部任せますので。」


「はい、承知しましたよ、お~い、若様が来られたぞ~。」


「は~い。」


 奥から、娘の元気な声がし、おやじさんも、ニコニコとしている。


「おやじ。」


 正太達が来た。


「正太、若様が来られてるぞ。」


「えっ、若様が。」


「正太さぁ~ん、此処ですよ。」


「若様、一体、どうしたんですか。」


「まぁ~、まぁ~、皆さんも座って、おやじさん、正太さん達の分も頼みますよ。」


 まぁ~、何と元気の良い殿様だ、お城の中で見せる表情とは全く違い、まるで別人の様だと松永


も思ったので有る。


「其れで、正太さん、鍛冶屋さんに渡して頂けましたか。」


「はい、あれから直ぐに、でも、少し日数が掛かるって言ってましたよ。」


「若様、さぁ~、出来ましたよ。」


 娘は松之介が来ると途端に元気になり、松之介のご飯を一番先に運んで来た。


「おかよ、オレ達は。」


「あんたは、一番、最後だよ~だ。」


「ほら、またねぇ~、若様、おかよはねぇ~。」


「いっちゃダメ、言ったら、頭から水を掛けるからね。」


「お~、こわ~、もう言わないからね。」


「そうだよ、正太さん、約束だかね。」


 正太はおかよが松之介が好きになったと、松之介も今の会話で分かったが。


「正太さん、今度、行く時には大木を切り倒して。」


「えっ、大木を切り倒すって、じゃ~、あの下に有る大きな岩を動かすんですか。」


「うん、私は何とかしたいと思ってね、で、木こりさんを知っておられますか。」


「若様、こいつは、元は木こりですから。」


「其れは、大助かりですねぇ~。」


「若様、徳三って、言いますので。」


「徳三さんですか、あの付近で同じ様な太さと、長さの大木を切り倒して欲しいのですが。」


「若様、分かりましたが、その前に見て置きたいんです。


 オレ達は、あの時、何も考えて無かったので、なぁ~、正太、それで、人手が要るんだ。」


「分かった、で、何人くらいだ。」


「そうだなぁ~、まぁ~、二十人で。」


「分かった、で、若様、何時から切り倒すんですか。」


「正太さん、少し待って下さいよ、私も準備が有りますのでね。」


「分かりました、じゃ~、決まったら、おやじに。」


「はい、承知しましたよ。」


「は~い、これは、お侍様達のだからね。」


 おかよは、其れから次々と運んで来た。


「さぁ~、皆さん、食べましょうか。」


 だが、先程から正太も仲間達も松永達の頭をチラ、チラと見て要る、やはり、気になるのだろう。


「正太さん、四人の方々が気になるのですねぇ~。」


「はい、お侍様には申し訳有りませんが。」


「いゃ~、我々は、何も気にしておりませんよ、実はねぇ~、我々、四人は、悪い事をしまして、


源三郎様の、まぁ~、其れもあっと言う間の事でしてね。」


 松永に伊藤、其れに、加納も井出も頷いて要る。


「悪い事だったら、オレ達だって、ほら。」


 正太は島帰りだと言う入れ墨を見せると。


「では、我々と同じですねぇ~。」


「え~、だけど、何でオレ達の事知ってるんですか。」


「勿論ですよ、まぁ~、我々も、今は、心を入れ替えておりますのでね、他の人達から見られても、


何とも有りませんよ。」


「ねっ、正太さん、何時までも島帰りだって事を気にしないで、私の仕事を手伝って下さいよねっ


皆さんもですよ。」


「若様、有り難いですよ、なぁ~、みんな、オレ達には若様が付いてるんだ、そのだ、あの日から


何ですがね、奉行所の役人がやけに優しくなったんですが、オレ達は反対に気持ちが悪いんですよ、


だって、それまでは、オレ達の事を目の仇にしてたんですよ、何か有るとオレ達じゃ無いかって調


べるんですよ、其れがね、今は反対なんで、お~、気味が悪いですよ。」


 吉永の差し金で、松之介が城下の正太達は工事の為には大切な人材だと言ってからで。


「そうですか、まぁ~、これからは大丈夫ですよ、其れよりも、さっきの話しですがね、大木の上


にあの滑車を取り付けるんですが、どなたか。」


「若様、オレ達に任せて下さいよ。」


「そうですか、では、お任せしますよ、で、今、何か足りない物は有りませんか。」


「今は別に無いと思いますが、まぁ~、オレ達はおまんまとお酒が有れば十分で。」


「其れでは、私からお願いが有るんですが、宜しいでしょうか。」


「若様のお願いって、何だか恐ろしいなぁ~、でも、其れは大切な事なんですか。」


「はい、私は一番大事だと思いますよ。」


「分かりましたよ、で、若様が、一番、大事な事だって言うんでしたら、聴きますがね、で、一体、


何をですか。」


「う~ん、其れはねぇ~。」


 松之介も少し考えだした、松之介は正太達に何を頼むのか。


「ねぇ~、若様、何でも聴きますからね、言って下さいよ。」


「そうですか、では、正太さん達が一番好きなお酒なんですがね。」


「えっ、お酒がどうかしたんですか。」


「其れがね、今、お願いしました、大木を切り倒し滑車の取り付けが終わるまでは、お酒を我慢し


て欲しいのですが、駄目でしょうかねぇ~。」


「えっ、お酒を我慢するって、そんなぁ~、オレ達は一日の仕事が終わっておやじのところでお酒


を飲む事だけが楽しみなんですよ、其れを駄目だって言われると。」


「正太さん、私はねぇ~正太さん達が大切なんですよ、私も正太さんの気持ちは、よ~く分かりま


すよ、でもね、お酒は、夜、眠っただけでは抜けないんです。


 其れに、今度はね大木の切り倒しと、他にも大木の枝打ちからと色々な作業には大きな鉈にのこ


ぎりなどの刃物を使うんです。


 確かに、今までは事故も無かったと思いますよ、でも、若しも、若しもですよ、身体の調子の悪


い時にお酒を飲んだ、その明くる日もお酒は残って要る、そんな時、正太さんやお仲間に大きな事


故が起きて、正太さんやお仲間が怪我や、若しも、死んだとしたら、私はこれから一体誰に頼めば


いいんですか、其れよりもですよ、そんな姿の正太さんやお仲間の姿を見て、私が喜ぶとでも思う


のですか、私はねぇ~、正太さん達だけが頼りなんですからね。」


 正太達は食事の手も止まり、下を向いて要る。


「正太殿、今、若様が申された通りですぞ、あの日、お城で若様は正太殿達は信頼できる人物だと、


其れは、もう、大喜びをされておられましたから、若様は決してお酒をやめろとは申されてはおりません


よ、危険な現場ですから少し辛抱して下さいと申されておられるのです。」


「若様はそんなにもオレ達の事を心配してくれるのか、う~ん、わかったよ、オレは辛抱するぜ、


みんなはどうだ、若様の悲しむ顔は見たくないと思うんだったら、オレは少しだけでも辛抱しよう


と思うんだ。」


「正太、オレも若様の悲しむ顔だけは見たくないからなぁ~辛抱するぜ。」


「よ~し、オレもだ辛抱するぜ。」


「皆さん、有難う、でも、仕事が一段落すればおもっきり飲んで下さいよ。」


「なぁ~、若様、オレは一段落じゃ~、駄目なんだ、だから、何か方法を考えて欲しいんだ、お酒


が楽しく飲める方法を。」


「分かりましたよ、ではねぇ~、実に簡単な方法が有るんですがね。」


「また~、若様って、一体何を考えてるんですか、オレ、もう、分からなくなってきたよ。」


 正太は苦笑いし仲間は唖然としている。


「あのねぇ~、仮にですよ、仮に、三日働いて、一日は休むって、其れでその休みの前だけお酒が


飲めるってのはどうですか。」


「えっ、三日休んで、一日だけ仕事を。」


 正太は笑いながらで。


「正太、お前、わざと。」


「分かってるよ、三日働いて、一日休むって、その前の日にお酒が飲めるって事はお酒が旨いって


事になるのか、うん、其れなら、オレだって我慢が出来る、うん、よ~し決めたぜ。」


 正太は満足だと喜び、仲間も喜びが溢れて要る。


「よ~し、若様、オレはその方法で決めた~と。」


 正太の顔が生き生きととして要る、今までは満足な仕事も無く、お酒ばかり飲む毎日が続いてい


たのだろう、だが、これからは違う、美味しいお酒が飲めるんだと大喜びで有る。


「うん、やっぱり、若様だオレの見込んだ通りだ、で、何時から始めるんだ。」


「正太さん、その前に祠の近くに適当な大木を見付ける事からですよ、其れに、鍛冶屋さんに頼ん


だ物が何時頃出来上がるのか、其れも聴かなければなりませんからねぇ~。」


「正太、まぁ~、急ぐなって、若様が言われてるんだぜ、其れよりもだ、今からでも大木を探しに


行くか。」


「正太さん、徳三さん、お願いしますよ、私は今から戻りますのでね。」


「はいよ、じゃ~、若様、オレ達は大木を見に行きますので。」


「では、宜しく頼みましたよ。」


 正太達は機嫌よく飯屋を出て行った。


「おやじさ~ん。」


「は~い。」


 おやじさんよりも娘が飛んできた。


「お勘定を、あっ慌てて出て来たので、忘れて来た、ご免なさい。」


「若様、いいんですよ。」


 おやじさんはニコニコとしている。


「若様、前に頂きました分が、まだ、残ってますので。」


「ですが、それでは。」


「宜しいんですよ、本当に、まだ、十分ですから。」


「おやじさん、申し訳ない有難う。」


 松之介はおやじさんに頭を下げたが。


「いゃ~、若様、お礼を言うのは、私なんですよ。」


「えっ、何故ですか。」


「な~にね、正太の事なんですがね、あいつらは、人はいいんですがね、お酒を飲み過ぎるんでね、


私も今まで何度も注意したんですが、全くあいつらは聴く耳を持って無かったんです。


 でも、今日、若様から仕事の前には飲むなって言われて、あいつら、本気で若様の事を大切なお


侍様だと思ったんでしょうねぇ~、若様、そんな訳ですから、今日のお代は入りませんので、私の


気持ちなんですから。」


「おやじさん、有難う、でも、嬉しいですよ、正太さん達の気持ちが。」


「若様はわしらにとっても大切なお人ですから、今日はわしの顔を立てて下さいな。」


 おやじさんは頭を下げた、松永は源三郎と良く似て要ると、だが、其れは、真似の出来るもので


は無い。


「若様、オレ達も知ってるんですよ、正太達が本気で、若様の事が一番大切だって、それにね、今


じゃ~、この城下で若様の事を知らない者はおりませんよ。」


 奥に居た馴染みの客だ。


「まぁ~、そう言う訳ですからね、若様、正太達の事を宜しく頼みますよ。」


「おやじさん、有難う、私が責任を持ちますから、では、皆さんも有難う。」


「若様、お気を付けて下さいよ。」


 松之介は嬉しかった、正太が本気を出して仕事に就いてくれる事に。


「若、本当に、よう御座いましたなぁ~、拙者も嬉しいですよ、城中の者達は、正か、城下でこの


様な人気者になるとは考えもしていないと思いますからねぇ~。」


「う~ん、でも、大変な責任を感じますよ。」


「若様、これで良かったのでは御座いませぬか、家中の者達がどの様に思うか知れませぬが、私も、


驚きましたよ、城下の人達は若様の味方なのですから。」


「そうですねぇ~、これからが本当の戦いになりますねぇ~。」


「若、何も心配なさる事は御座いませぬぞ、我々も、其れに、源三郎殿が居られますのでね、其れ


よりも、若は、今、苦しい思いをされておられますが、この問題が解決出来れば後々楽しくなると


思って下さい。」


「そうですねぇ~、じゃ~、城に戻りますかねぇ~。」


 松之介達はのんびりと城へと向かった。


 話は、少し戻り、松之介達がお城を出た後、大広間では二十名の家臣が話を始めた。


「鬼家老から賂を受けた者に聴きたい。


 お主達は、それ程、あの鬼家老が大切なのか、いや、そうでは有るまい、鬼家老から受け取る賂


が大切だったのだ、その賂の出所を知って要るのか、いや、本当のところは、何も知るまいなぁ~、


それ程、お主達は無知だと言う事だよ、よ~く聴けよ、お主達はあの鬼家老に利用されていただけ


で、其れが、分からないのか、え~、一体、どうなんだ。」


「まぁ~、まぁ~、そんな話をしてもこやつらに理解出来る訳が無いぞ、こやつらの頭の中はなっ


金子だけなのだから、お主達は何よりも金子が大事だと思って要るだろうがなぁ~、若様に同行し


た、正太と仲間達はなぁ~金子が目的では無い。


 正太も言っておったが、若様の為だと、その若様はなぁ~、全ては、領民の為だと申されておら


れるのだ。


 源三郎様が申されて要る五か国連合と言うのは五か国の領民の為にと申されて要るのだ。


 其れは、お互い弱い国が手を合わせ、強大な幕府に戦をするのではなく、武士は力の弱い農民や


漁民を助け、其れが、領民を守る、最後には領民と一体となり生き残る為にだと、だが、そんな事


は出来る訳が無いと、お主達は思って要るだろうから、朝、若様やご家老様が申された様にもう山


賀とは関係の無い国へ戻ると。


 今、我々が若様やご家老様、そして、源三郎様に見放されるとこの山賀は直ぐ崩壊するだろうか


らなぁ~、拙者は家族と共に松川へ行き若殿にお頼みする。」


「そうか、では、私も同行するぞ、もう、こやつらの山賀とは縁を切っても良い。


 今後は松川から山賀の領民を守る為に命を捧げる事にしたよ。」


 切腹を、いや、髷を切らずにいた、家臣達は何も反論出来ずに要る。


「まぁ~、其れよりも、お主達少しは本気で考えないか。」


 二十名の家臣は必死で訴えた。


 松之介が一体、どの様な気持ちで山賀の国に来たのか、松之介は野心家では無い。


 松川では斉藤から剣術と人間としての役目を教わり、雪乃と竹之進も、全く、野心が無い、だが、


何が大切か、其れは、藩主を父に持つ者だけにしか分からないかも知れない。


 雪乃は、美しく、頭も良く、大きな国の奥方様となっても申し分の無い女性で有り、竹之進も松


川藩の藩主として学んだのではない。


 斉藤と言う人物は、それ程までにも素晴らしい武士なのだ。


 山賀の鬼家老が雪乃に目を付けなければ、山賀以外の四カ国連合は容易に合意に達していた。


 その後、暫くの間、沈黙が続き、其れは、突然の事で。


「皆様、大変、申し訳御座いませぬ、拙者の考え方が間違っておりました。


 先程、申されました、正太さん達は金子が目的だは無く、殿が申されました、領民の為にだと洞


窟の調査に参加され、そのお話しに拙者は何と浅はかな人間だと気が付きました。


「拙者は、今後、領民の為に一生を捧げるつもりで御座います。」


「やっと、分かって頂けましたか、其れでこそ山賀の武士です。」


「私もで近藤殿と同じ気持ちで御座います。」


 その後は、次々と反省した家臣達は理解し納得したのは間違いは無かった。


「では、山賀の家臣全員、連合国に参加する事に異議は御座いませぬか。」


「お~。」


 全員が拳を突き上げ気勢を上げた。


「殿は、一体、何処に居られるのだろうか。」


「う~ん、其れが、心配だ。」


「皆さん、私は殿の事ですから山賀を本気で見捨てはされないと思っておりますので。」


「うん、そうだ、多分、今頃は。」


 その頃、松之介達はのんびりと、大きな声で笑いながら大手門を入って行く。


「お~い、殿が、お戻りになられたぞ~。」


「そうか、其れは何よりも良かった、みんな、有難う。」


 山賀の腰元達も一時はどの様になるのか心配だったが、大手門を通り城内を笑顔で歩く若様の姿


を見て安堵の表情を浮かべて要る。


「殿、お帰りをお待ち申し上げておりました。」


「そうでしたか、其れで如何でしたか。」


「殿、もう、大丈夫で御座います。」


「そうですか。」


 若様、松之介とご家老様、松永達が大広間に入ると家臣の全員が手を付き頭を下げた。


「皆様、如何なされましたか。」


「殿、私達、山賀の家臣全員が殿の申されます連合国に参加に賛同し、一刻も早くお仲間にして頂


く所存で御座います。」


「そうですか、皆さん、本当に有難う、これから先、大変な事が続くと思いますが、山賀の武士と


して恥じる事無く、全員で領民の為に全力を注いで頂きたく思います。」


「若様、よう御座いましたなぁ~。」


「私は最初から皆様を信じておりましたので、何も心配はしておりませんでしたよ。」


 家臣達は自然と顔がほころんでいる。


「さぁ~て、皆さんの心が一致したところで、早速、大きな仕事が有るのですがね、皆さんは覚悟


して下さいよ。」


 松之介はニヤリとしたので。


「若、余り驚かさないで下さい、私は心の臓が弱い者ですから。」


「えっ、今、何と申されましたか、皆さん、ご家老様は心の臓が弱いそうですから今日からはお役


目を解きまして自宅療養に入って頂きましょうかねぇ~。」


「えっ、ご家老様は心の臓が弱かったのですか。」


 松永達も笑いながらで。


「若、私を外されるのですか。」


「ですが、今、心の臓が弱いと申されましたのでね。」


 松之介は笑いを堪えているが、他の家臣達は腹を抱えて大笑いをしている。


「若、其れでは、余りにも私が可哀そうでは御座いませぬか。」


「そうでしたね、私もご家老様が外れますと困りますので、では、ご家老様には、これからも、何


卒宜しくお願い申し上げます。」


「はい、有り難きお言葉を。」


「まぁ~、皆さん、冗談は終わりにしまして、一度、全員に空掘りに行って頂く必要が御座います


ので。」


「若様、やはり、あの大きな岩をですか。」


「はい、先程も正太さん達にもお願いしましてね、其れよりも、皆さんの中でこの城に隠し部屋が


有るのをご存知無いですか。」


「えっ、隠し部屋って。」


「殿、隠し部屋で御座いますか、う~ん。」


「はい、其れも空掘りに通じる部屋ですが。」


「う~ん、拙者は聴いた事が無いなぁ~。」


「うん、私もだ、この城に隠し部屋が有ったとは知らなかったなぁ~。」


 その後も、家臣達は今まで無く真剣に考えては要るが、隠し部屋を知る者はおらず、其れも、仕


方が無い数百年も前の話では誰も知るはずが無い。


 松之介は何としても隠し部屋を見付けたいと、だが、誰も知らないと、やはり、無理なのか半ば


諦め掛けた時だ。


「あの~、宜しいでしょうか。」


 其れは、若い家臣で。


「何でも、宜しいですよ。」


「はい、私は以前、まだ、幼い頃祖父から、このお城には空掘りに出る隠し部屋に通じる秘密の扉


が有ると聞いた事が有るのですが。」


「えっ。」


 家臣達は若い家臣の方を見た。


「おい、其れは、一体、何処なんだ。」


「はい。」


 声が小さく松之介には聞こえない。


「貴方ですか、前に出て下さい。」


「はい。」


 声が小さい、何か心配そうな顔で他の者達の間を抜け、一番、前に座った。


「今、申された秘密の扉ですが、何処に有るのか聴いておられますか。」


「其れが、私の幼い頃の話なので、祖父から聴いた様にも思うのですが、え~っと、確か、北側の


地下に有るとか。」


「そうですか、では、今から私を案内して下さい。」


「殿、このお城には数か所も地下倉庫が御座いますが。」


「其れでは、皆さん、手分けして探しましょうか、でも、簡単には見付かるとは思いませんので


ねぇ~。」


 家臣達は提灯や蝋燭立てなどの用具を用意し、地下へと向かったが数百年もの時を経ており何処


に隠し扉が有るのかさえも分からない。


「う~ん、一体、何処にそんな仕掛けが有るんだろうか。」


 家臣の誰もが同じ疑問を持ちながらも、数か所も有る地下へと入って行く。


 今まで、全く入った事の無い地下倉庫も有り、倉庫の中には何が有るのかさえも分からない。


 松之介は若い家臣の案内で目的の地下倉庫と言われる部屋に入ったが、その部屋は小さく、壁の


隅々まで手で押して調べたが、全く反応が無い。


「う~ん、此処は違う様ですねぇ~。」


「殿、申し訳御座いません。」


「何も、貴殿が誤る事は有りませんよ、貴殿が地下に部屋が有ると申され、皆が探す切っ掛けに


なったのですから。」


「はい、でも。」


「何も気にする事は有りませんからね。」


 だが、数か所と思われていた地下倉庫だが、実際には二十か所以上も有り、全ての部屋を探すだ


けでも困難を極めた。


「殿、一応、全てと思われます所を探しましたが、見つかりませんでした。」


「そうですか、では、皆さん、一度、外に出ましょうか、他に何か忘れて要るところが有るやも


知れませぬので。」


 地下から次々と家臣が上がって来る、だが、一体、何処に有るのだろうか、あの石垣に通じると


言われる隠し部屋は、その後、二日掛けて他のところも探すが、一行にその様なところも見付ける


事も出来なかった。


 だが、其れは、突然、発見される事に皆が疲れ座りだした時で有る。


若い家臣が地下では無く、今まで使われていなかった部屋の隅に座った途端に奥の壁が開き。


「わぁ~。」


 大声を発した、若い家臣は開いた部屋に転げ込んだ。


「殿、殿、有りましたよ、有りましたよ、隠し扉が。」


 若い家臣は大声で叫ぶと家臣達が一斉に集まった、何とその部屋は実際は部屋では無く、皆が使


う廊下の隅に、畳、二丈分のへこみが作られ、誰もが見ていたところで有った。


「えっ、これが、隠し扉で中に隠し部屋が有るのか。」


「う~ん、でも、今まで、何度も見ていたが、正か、この様なところに有るとはなぁ~。」


「うん、本当だ我々が何時も此処を歩いていたのに。」


「殿が申されました様に、これでは、簡単に見付からないはずだ。」


 暫くして、松之介が来た。


「殿、この様なところに、私達も毎日見ておりましたが、正かと思いました。」


「では、中に入りましょうかねぇ~。」


 提灯を持った数人が先に入ると。


「殿、此処に階段が。」


「そうか、この階段で下まで行くのか。」


 家臣達は静かに入って行く、その階段は狭く急な上り下りとなって要る。


「お~い、一体、何処まで続いて要るんだ。」


「まだ、まだ、で~す。」


 隠し扉の有った廊下は、お城の二階で其処からはお城の一番下まで続いて要る。


「わぁ~、何て大きな部屋なんだ。」


 どうやら、此処が石垣の様らしい、だが、こんな狭く急で、しかも、長い階段だけでは大勢の侍


が往来するのは困難だ、其れに、地下の隠し部屋も隠し扉が有るのではないか。


「みんな、聴いて欲しんだ、この部屋の何処かに隠し扉が有ると思うんだ、手分けして探して欲し


いんですよ。」


「よ~し、探すとするか、今度は絶対に見付けるぞ。」


 家臣達は隠し扉を探し始めた。


「う~ん、これは関係ないか、いや、何か変だぞ。」


 一人の家臣が独り言を言いながらも、その場所には不釣り合いなと思える取っ手を引くと。


「お~い、みんな見てくれ、これは、凄いぞ。」


 何と、畳、三丈以上は有る、木製の壁が大きく開いた。


「よ~し、中に入って見ようか。」


 数人が提灯を持ち中に入ると、其処には、あの大きな岩が有り、周囲は石垣が有る。


「若様は。」


「よ~し、拙者が。」


 後ろを振り向くと。


「分かりましたか。」


「はい、やはり、大きな岩が其処は石垣のところだと思われますねぇ~。」


「殿、ですが、この部屋に外から入ると、あっ。」


 家臣が木製の壁を押すと少し開いた。


「誰か、手伝ってくれ。」


 数人が、力、いっぱい押すと木製の壁はゆっくりと開いた。


「お~、これは、何と言う事だ目の前にあれは東門では。」


「えっ、東門ですと。」


 松之介は外に出ると、やはり、東門が直ぐ前に見えた。


 家臣達も次々と外に出、振り返ると石垣の中央付近で。


「殿、この扉と申しましょうか、内側は木製ですが、外側は石を薄く切り、張り付けております


ねぇ~。」


「一度、閉めて下さい。」


 数人掛かりで扉を押すと閉まり、其れは、石垣で少し離れたところから見ると石垣としか見えず、


更に、何故かこの付近だけに東門まで大量の敷石が置かれ轍の跡が残って要る。


「まぁ~、其れにしても、何と言う作りですか、これでは東門から見ても石垣ですねぇ~。」


「殿、では、あの部屋の大きな岩ですが。」


「そうですねぇ~、ですが、その前にこの扉を少しだけ開けて置いて下さい。


 其れと数人で東門付近の見張りをお願いします。」


 松之介は扉を少し開けるだけで部屋は明るくなると思ったのだろう、部屋の内部は外からの明か


りで、部屋の隅々まで調べる事が出来ると考えたので有る。


「はい、では、私が東門に参ります。」


「よ~し、拙者も参ります。」


 数人が東門付近に向かった。


「さぁ~、皆さん内部を調べましょうか、何時、不審者が現れ、この扉を発見するやも分かりませ


んので。」


 外に出ていた家臣も中に戻り調査は開始された。


「う~ん、これは、一体。」


 部屋の隅には太く長い蔓を捩った物が有った。


「殿、これは、一体、何の為に有るのでしょうか。」


「多分、この岩の上部に太い鉄の輪が有りましたのであの鉄の輪に通して。」


 数人の家臣が岩を見て。


「殿、大きな岩ですが、まっすぐに立てて有る様に見えるのですが。」


「じゃ~、岩を何かで押すと外側に開くと思われますがねぇ~。」


 更に、別の家臣が。


「殿、この太い木ですが、数本有りますから、これで、上の方を押したと思われますが、一度、試


しては如何でしょうか。」


「いや、少し待って下さいよ、この蔓の束ねた長い紐ですがね長い間放置されていた様ですから、


何時、切れるか分かりませんよ、これと同じ物を数本作り、その後、開けて見ますので、多分、目


の前には空掘りが有り、向かい側の大木が見えると思いますよ。」


 ついに、発見した、この入り口から向かい側の洞窟に荷車で運んで行く為の秘密の通路だ。


 これならば、何も大回りせずに洞窟に運ぶ事が出来る。


「皆さん、一度、大広間に集まって下さい。


 その扉も閉める様に、其れと東門付近の人達も呼んで下さいね、私は先に戻り、ご家老様と話を


しますのでね。」


 松之介は家臣達に命じた後、大広間へと向かい。


「よ~し、これで、洞窟の内部調査が終われば掘り進む事が可能になった。


 今、発見した事を義兄上に報告する為に野洲に行くぞ、これで、山賀で収穫した穀物は空掘りの


洞窟に運ぶ事が楽になった、うん、これでよし。」


 独り言をつぶやきながら、家老の部屋に向かった。


 その頃、吉永も考え事をしている。


「山賀の家臣全員が連合国に参加すると賛成し、あとは、藩主、松之介様と筆頭家老が野洲に向か


うだけだ、うん、よし、これで決まりだ。」


「ご家老様は。」


 廊下で呼ぶ声がした。


「若、如何なされましたか。」


「ご家老様、今、大変な発見を致しましたぞ。」


 松之介は興奮した様子で城裏へと続く城内の地下通路を発見したと話すと。


「若、其れは、大変、重要な発見となりますねぇ~、これで、収穫された穀物は誰にも見付からず


に洞窟に運ぶ事が出来る様になりますからねぇ~。」


「はい、其れで、今から、皆に話すのですが、私は山賀の家臣全員が連合国に参加する意思が決ま


りましたと報告する為に、ご家老様と一緒に野洲に参りたいと思うのですが。」


「私も、今、同じ事を考えておりましたので、勿論、ご一緒させて頂きます。」


 吉永の思った通りだ。


「其れで、今から全員には今後に付いて話をしたいので、大広間に。」


「はい、承知致しました。」


 家臣達は廊下で大騒ぎだ、今まで誰も知らなかった秘密の地下通路、外から見れば石垣で内側か


らは東門から空掘りに通じるので有る。


 その発見に家臣達が興奮し、騒ぐのも無理は無い。


 大広間に集まっても興奮は収まらず、暫く続いたが。


「皆の者、静まれ~い。」


 ご家老の声に全員が我に返った。


「皆さん、ご苦労様でしたねぇ~、先程は、大変、重要な物を発見し、皆さんも興奮されて要るお


気持ちは、私もよ~く分かりますよ、ですが、これで終わりでは有りません。


 地下の隠し部屋と申しますか、あの大きな岩を外側に向ける作業が残っております。


 私は城下の正太さん達にお願いし、祠の有る洞窟に通じる石扉を開ける為に必要な大木を切り倒


しと加工を頼みました。


 其れで、この作業は同時に行は無ければならないだろうと考えており、皆さんで手分けし長い蔓


を束ねる作業に入って欲しいのです。


 正太さん達の加工作業が終わり次第、城側と祠側で同時に開けますが、急ぐと危険なので、束ね


た蔓を数本必要で、其れが、出来れば、城下の一善飯屋に行き、正太さんと連絡を取りたいと思い


ますが、如何でしょうか。」


「殿、其れで、正太さん達の加工ですが何時頃終わるのでしょうか。」


「其れは、分かりません、木こりさん達にも頼みますが直ぐには完成出来ないと思います。」


「では、我々が蔓を束ねが終わり次第、城下の一膳飯屋に知らせれば良いのでは。」


「はい、その通りですが、正太さんの顔を知って要るのは松永様達だけですのでね連絡は松永様に


お願いします。」


 松永はニコッとし手を付き。


「はい、承知致しました。」


 松之介は吉永を伴い、野洲に行く事も決めていたのだ。


「其れで、私とご家老様で野洲に参ります。


 連合国に参加する為と先程の大発見を報告せねばなりませんので。」


「殿、では、我が山賀も連合国の一員となるのですか。」


「はい、私は勿論希望しておりますので。」


 家臣達の中には、早くも、気持ちは連合国の一員になったと大喜びする者、静かに思いを寄せる


者と色々な表情で表現している。


「私は数日間、山賀を離れますが、祠側に有る洞窟の調べも終わっておりませんので、其れを調べ


て頂きたいのですが。


「殿、我々が参りますのでご安心下さい。」


 あの二十名の一人だ。


「そうですか、ですが、中の様子が分かりませんので、十分、気を付けて下さいね。」


「若、野洲には、何時、ご出立のご予定で御座いますか。」


「そうですねぇ~、明日にでも、ご家老様、私はその前に松川に行き、父上にも、いや、兄上にも


伝えたい事が有りますので。」


「若様、明日では行列の準備が。」


「私は行列では参りませぬ、馬で。」


「ですが、お着物も。」


「この着物で十分ですよ、その様な無駄は省きます。」


「では、私も同じ着物で参りますので。」


「はい、お願いします、では、皆さん、協力をお願いします。」


 松之介は其れだけを言うと、何処かに消え、残った家臣達は、早速、話し合いを始めた。


 松之介は大広間を出ると賄い処に向かい、この数日以内に大きな仕事を家臣は城で、正太達は、


祠側で行なうと伝え、賄い処で配る様に手配し。


 そして、明くる日の早朝、松之介と吉永は馬に乗り松川へと向かった。

         

          

            


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