第 10 話。 同時に進める事が出来るのか。
「あの~、源三郎様にお会いしたいのですが。」
大手門の門番は、源三郎と言われても、さっぱり分からない。
門番も、菊池藩の家臣では無い侍が来ている事は知って要る。
「失礼ですが、どなたですか。」
「はい、私は、ご城下の米問屋で。」
「あ~、分かりました、お入り下さい。」
前日に、高野から聴いており、城下の米問屋と、海産物問屋が来ると、その直ぐ後には、海産物
問屋も来ていた。
「どうぞ、お入り下さい、直ぐ、お呼びしますからね。」
門番は、他の者に伝え、高野に知らせる為に、大急ぎで向かい、暫くすると戻って来た。
「では、案内しますので、どうぞ。」
「はい。」
米問屋も、海産物問屋も、大変な緊張で、問屋は、番頭も、一緒に連れて来ているが、店主達も、
番頭も、何も話さずに、門番の後を付いて行く。
源三郎と、高野が待つ部屋に行く途中で、何人もの家臣達に会うが、その度に頭を下げ、大手門
からは、長い時が掛かった様に思う、彼らで有る。
「こちらのお部屋で、お待ち下さい。」
「はい、ありがとうございます。」
その時、襖が開き。
「お持ちしておりました、さぁ~、どうぞ、お入り下さい。」
彼らは、生まれて初めてのお城で、其れも、城中に入るなどとは、先日までは、夢にも思わな
かったので有る。
「はい。」
彼らは、頭を下げたままで、他に、誰が居るとも知らなかった。
「さぁ~、お座り下さい。」
「はい。」
四人は、座り。
「あの~。」
頭を上げると、其処には、ご家老様も居る、だが、彼らには、勿論、家老の顔も知らない。
「帳簿は持って来て頂けましたか。」
「はい。」
二人の店主は、源三郎の前に二冊の帳簿を差し出し、源三郎は、帳簿を簡単に見て。
「う~ん、これは、大変な利益を上げられておられますなぁ~。」
「はぁ~。」
両方の問屋は、其れ以上は言えない。
「では、今から、お話しをしますが、これから先、全ての買い付けと、売る事に関しては、今まで
とは違う事だけは、忘れては駄目ですよ、その意味は、分かって頂いて要ると思いますが、今後は、
一切の利益を上げないと言う事ですよ。」
傍で、聴いている、家老も高野達も、大変な驚きで、言葉は優しいが、言っている話しは、驚く
程厳しい内容で、一体、この両者は、今まで、どれ程の利益を上げていたのだ。
しかも、今後は、利益を上げる事は、一切許さぬとは。
「はい。」
二人の店主は、その様に返事をするだけだ。
「この帳簿は、暫くの間、預かりますのでね、高野様、この帳簿から、今まで、どれ程の利益を上
げて要るかを調べて下さい、其れと、丁稚達の給金もです。
私が見る限りでは、丁稚達の給金が、余りにも少ない様に思いますので。」
「はい、直ぐに。」
高野は、若い家臣を専属に付けた様だ、その後も、源三郎は、二人の問屋に対して、次々と指示
を出し、傍に居る、若い家臣の三名は、必死で書き留め、番頭も、必死に書いて要る。
「では、店主殿、これからは、藩の領民の為に、宜しく、お願いします。」
源三郎は、数時も話し続け、昼前にはようやく終わり、問屋達は、城を後にした。
「源三郎様、先程、申されましたが、今後は、一切、利益を上げてはならぬと。」
「二人の問屋は、今まで、余りにも高く売っており、今後、数十年間は、利益無しでも心配は有り
ませんよ、まぁ~、何れは、破産するでしょうがねぇ~、今まで、甘い汁を吸っていたのですから、
我々が何も心配する必要は有りませんよ、高野様、あの問屋を上手に使う事で、藩は、何の損害も
被りませんのでね、まぁ~、生かさず、殺さずと言う事ですかねぇ~。」
源三郎と言う男は、本当に恐ろしいと、この時、ご家老も、高野も思った。
「其れで、少しお聞きしたいのですが。」
「はい、どの様な事でも。」
「源三郎様は、昨日、問屋に対し、大量に買い付けろ申されましたが、他に、何か策でも有る様に
も思ったのですが。」
「まぁ~、その話は、帰ってからしますので。」
「えっ、帰ってからと申されますと、源三郎様は、戻られるのですか。」
「はい、え~と、確か、一里くらいだと思いますが。」
ご家老は、源三郎の言う意味が、全く、分からない。
「源三郎殿、海岸へ行かれ、何をされるのでしょうか。」
「はい、この海岸にも洞窟は有ると聴いておりますので。」
「えっ、海岸に洞窟ですか、私も、噂では聞いた事は有りますが、その洞窟で、一体、何をされる
でしょうか。」
「はい、まぁ~、簡単に申せば、洞窟を整地し、大きな倉庫を造り、その中に、穀物類や、海産物
を隠すのですよ。」
「えっ、正か、その様な事が、若しも、幕府に知られると、我が藩は、取り壊しになるのでは。」
「はい、勿論なりますよ、ですが、ご家老様、菊池藩は、今のままでは、何れ近い内に破綻し、全
てを幕府に委ねなければならず、其れに、破綻し、一番、苦しむのは領民ですよ。」
家老も、今の藩の財政状態は当然ながら知って要る。
仮に、破綻せずとも、幕府は介入して来るだろうと、その様な事にでもなれば、菊池藩は残った
としても、事実上は存在しないのと同じで有る。
「海岸の洞窟に食料を隠すと申されましたが、一体、どの様な方法で。」
「ご家老、その話は、海岸から戻り次第に、お話ししますので。」
家老は、正か、洞窟内に食料を隠すなどとは考えもしなかった。
「分かりました、では、その時には、殿も交えて。」
「はい、その時には、残られました、ご家中の皆様方にも聞いて頂かなけれなりませんので。」
「はい、承知、致しました。」
「源三郎様、その前に、お食事を取られては。」
「はい、では、高野様も、ご一緒に。」
源三郎と、高野、其れと、高野付きの若い三名も同行し、昼の食事に入り、ご家老は、今の話を
殿様に報告に行くので有る。
源三郎達の食事も終わり。
「では、高野様、参りましょうか。」
「はい、ですが、私は、海岸に行った事が有りませんので。」
「宜しいですよ、私が、知っておりますので。」
「でも、先程は。」
「あれはねぇ~、皆様が、知っておられるのか、本当に、ご存知無いかを知りたかっただけですの
でね、別に、大意は有りませんのでね。」
何と、源三郎は、知って要ると、では、あの時、行ったのだろうか、高野は余計な事を考えた。
源三郎は、知って要ると言うので、どんどんと先を歩いて行く。
「高野様、自分も、海岸に洞窟が有るのは知っておりますが。」
高野付きの家臣が、洞窟を知って要ると。
「えっ、何故、お主が知って要るのですか。」
「私が、幼い頃、父と良く海岸に行き、あの付近一帯の洞窟の中に入った事が有りましたので。」
「では、何故、先程言わなかったのだ。」
「はい、でも、私は、朝から、源三郎様のお話しを伺っておりましたが、余りの迫力に圧倒され、
つい、申し上げる機会を逃しました。」
「そうか、お主達は、源三郎様の事を全く、知らなかったのか。」
「はい、私は、あの時、初めて、源三郎様と言うお方を知りましたので。」
「そうか、いゃ~、あの源三郎様と言われるお方は、歳は若いが、とてもではないが、我が藩の者
達では、太刀打ちは出来ぬ。」
「えっ、其れは、誠ですか。」
「その通りだ、源三郎様の考えておられる事も分からないのだ、其れよりも、源三郎様は、洞窟を
整地されると申されたが、一体、どの様な方法を持って整地されるのだろうか。」
「高野様、ご城下に鍛冶屋は、何軒有るのでしょうか。」
「えっ、鍛冶屋ですか、確か、1軒有るのは、知っておりますが。」
「そうですか、では、その鍛冶屋の腕前は、如何でしょうか。」
「はい、でも、私は、知りませんので。」
「では、その鍛冶屋は近くですか。」
「はい、この辻を回ったところだと。」
「あの~、源三郎様。」
先程の若い家臣だ。
「はい。」
「私が、知っておりますので、ご案内します。」
「では、お願いします。」
「はい。」
若い家臣は、辻を回り、路地に入り、また、曲がると、鍛冶屋が有った。
「お忙しいところ恐縮ですが、此処のご主人様でしょうか。」
「はい、わしが、そうですが、何か。」
「良かったですよ、私は、源三郎と申しますが、ご主人は、鍛冶の腕前は素晴らしいとお聞きしま
したので。」
「お侍様、わしの腕前がいいってですか、まぁ~、わしも、自慢は出来ますが、其れが、何か。」
「私も、安心しましたよ。」
「で、お侍様、一体、何を作るんですか。」
「はい、実は、鏨でしてね。」
鍛冶屋は、多くても、十数本だろう思って要る。
「はい、宜しいですよが、で、何本、作れば宜しいんですか。」
「う~ん、そうですねぇ~。」
源三郎は、考えて要る、先日、見た洞窟の掘削には、最低でも数千本は必要になる、だが、この
鍛冶屋は、数本の注文だろうと思って要ると。
「では、最初に百本を作って頂きたいのですが。」
「えっ、今、百本って、聞こえましたが。」
「はい、その通りですよ、ですが、数千本は必要になりますのでね、宜しいでしょうか。」
鍛冶屋は、腰を抜かす程の本数で。
「お侍様、そんな冗談は止めて下さいよ、幾ら、わしでも、一人で、数千本の鏨を作れると思われ
るんですか。」
「ご主人、私は、何も冗談は申してはおりませんよ。」
「えっ、じゃ~、本当に、数千本作るんですか。」
「はい、勿論ですよ。」
「ですが、わし、一人ではとても無理ですよ。」
「ご主人が、頼りなので、何とか、なりませんかねぇ~、この通りです。」
源三郎は、鍛冶屋に頭を下げると。
「お侍様、わしの様な鍛冶屋に頭を下げては駄目ですよ。」
「何故ですか、私は、ご主人に、無理なお願いをして要るのですよ、無理をお願いする以上、頭を
下げるのが、当然の事だと、私は、思っておりますので。」
高野付きの若い家臣達は、驚いて要る、先程は、米問屋と、海産物問屋に対するのとは、全く、
違い、侍と言う立場では無く、一人の人間として頼み事を言っている様にも見えた。
「お侍様、わしには三人の弟子が居るんですが、その三人も腕はいいんですがね、少しでも金子が
有ると、直ぐ、飲み、打つ、買うで、今日も、まだ、来て無いんです。」
「では、その三名の弟子が、毎日、仕事をされると。」
「そら~、もう、奴らが居れば、わしなんか、あっ、来ましたよ、おい、お前ら、今頃、何を考え
て要るんだ。」
「親父さん、申し訳無い、昨日、少し飲み過ぎまして。」
「お侍様、この三人なんですが。」
「そうですか、分かりました。」
「おい、お前達、今、このお侍様から鏨を作って欲しいと言われたんだ。」
「親父さん、鏨って、何本ですか。」
「馬鹿野郎が、数千本なんだ。」
「えっ、親父さん、幾ら、オレ達が遅いって、そんな冗談は止めて下さいよ。」
「実はねぇ~、本当の話しでしてねぇ~、まぁ~、1万本近くになるとは思いますが。」
「えっ、1万本って、親父さん、オレ達が、毎日、打っても、何年掛かるか分かりませんよ。」
「其れは、私も、分かっておりますよ、でもねぇ~、この城下では、皆さんの腕前は素晴らしいと
お聞きしましてね、其れで、随分と探したのですよ。」
源三郎の大嘘には、高野達も、笑う事は出来ない。
「ですが、ご主人のお話しでは、飲む、打つ、買う、これではねぇ~、幾ら、腕の良い職人さんで
も、とても、無理ですねぇ~。」
「お侍様、奴らには、わしからも、よ~く、言って置きますので。」
「貴方方は、如何ですか、私は、最初、百本は必要なのですがねぇ~、明日の朝から打って頂けま
すか。」
「はい、其れはもう~、オレは、今日から、全部止めますよ。」
「うん、オレもだ。」
「オレも。」
三人の鍛冶職人は、今日から、酒も飲まない、博打にも行かないと言うのだが。
「私はねぇ~、約束を破る人は、どの様な言い訳をされても許せないのですよ、其れに、私は、恐
ろしいですよ。」
三人の職人は驚くが。
「はい、絶対に守ります、オレは、約束を破ったら、打ち首になっても。」
「私ねぇ~、人を殺すのが、大嫌いなのでね。」
三人は、安堵の表情だが、この後、源三郎は、恐ろしいと思うのだ。
「でもねぇ~、私とされた約束を破られた人達は、全員が、亡くなっておられますよ。」
やはり、打ち首なんだと、三人の表情が変わった。
「この城下の外に、高い山が有るでしょう。」
「はい、あの山には、昔から狼が要るって。」
「そうですよ、あの山の森に行って頂き、両足を切断し、後は、狼に処理をお願いしますのでね、
まぁ~、直ぐに死ぬ事は出来ませんが、相当、苦しいと思いますよ、私は、別のご城下でも、二人
の職人さんがね、私との約束を破られましたので、其れに、最後の片付けは、カラスなどの鳥がね
やってくれますから、其れに、猪もいると思いますのでねぇ~。」
何と、三人の職人は、怯え、今、約束した事を守らねば、山に連れて行かれ、狼の餌食にされる
と、其れも、生きたままだと、職人達は、顔色も悪く、怯えて要る。
「ご主人、毎日の仕事は、大変辛いと思いますので、如何でしょうか、数日に、一度の休みを取ら
れては。」
「はい、其れは、この三人が、仕事を真面目にやってくれるなら、わしも、休みたいですので。」
「貴方方は、如何されますか、まぁ~、直ぐに返事は出来ないと思いますが、其れと、仕事の代金
ですが、後日、別の者が参りますので。」
「はい、其れは、もう何時でも。」
「ご主人、鏨の長さですが、五寸くらいで。」
「はい。」
「では、宜しく、お願いします。」
源三郎は、三人の返事を聴く事も無く決めた。
「源三郎様、あの三人は。」
「まぁ~、何も、心配は有りませんよ、鏨の仕事が入れば、他の仕事を受ける事も出来ませんので、
此処で、仕事が有ると言う事で、約束は守りますよ、其れと、代金ですが、米問屋と、海産物問屋
から支払わせて下さい。」
やはり、高野が思った通りで、これから、一体、何が始まるのか分からないが、その代金の全て
を、米問屋と、海産物問屋から支払いをさせると言う事なのだろう。
「では、海岸に向かいましょうかねぇ~。」
「はい、其れで、源三郎様、洞窟の整地と申されましたが、今、鍛冶屋に鏨を注文され、その鏨で
洞窟内を整地するのでしょうか。」
「はい、その通りですよ、金槌と言う物は、普通の家でも有りますが、鏨と言う物は、普通の家で
は使う事は有りませんのでね。」
確かに、源三郎の言う事が本当かも知れない、金槌は使うが、鏨を使う者はいないと、その後も、
源三郎は、高野にこれから入る工事の話はするが、高野は、海岸に有ると言う洞窟を知らない。
今の、高野は、何でも聞いて来る、高野自身が必死なのだろう、他の若い三名の家臣は、源三郎
の話しを必死で書き留めて要る。
その後、暫くの時が過ぎ海岸に着き、今日も、漁は駄目だったのだろう、漁師達は、舟の傍に座
り、網の繕いを行なっている。
「あの~、三太さんと言われる漁師さんは。」
「三太さんだったら、家ですよ。」
「では、その家ですが。」
「網元さんの家だから、直ぐに分かりますよ。」
「では、三太さんと言われるのは。」
「はい、網元さんの息子さんですよ。」
そうか、あの時は、何も聴く事が出来なかったが、網元の息子だと。
「皆さん、有難う、では、網元さんの家に向かいますので。」
何処の漁村でも、網元の家は直ぐに分かる。
「どうやら、あの家の様ですねぇ~。」
「ご免下さい、私は、源三郎と申しますが、三太さんは、御在宅でしょうか。」
「は~い。」
三太が現れ。
「お侍様。」
「三太さんは、網元さんだったのですか。」
「網元は、親父ですよ。」
「では、息子さんで、私は、何も知らずに、あの時は、失礼しました。」
「いいえ、私の方こそ、其れで、今日は。」
「はい、先程、海を見ましたが。」
「分かりましたよ、洞窟行かれるのですね。」
「はい、お忙しいところ、申し訳、有りませんが。」
「はい、宜しいですよ、で、皆さんも行かれるのでしょうか。」
「はい、大勢で、申し訳、有りませんが。」
「では、この浜でも、腕のいい漁師がおりますので、行きましょうか。」
三太は、網元の息子だが、気持ちの良い漁師だ。
「三太さん、やはり、不漁なのですか。」
「はい、この頃は、さっぱりで、今日も駄目でした。」
「では、皆さんの食事も。」
「はい、みんな、苦しんでいます。」
「三太さん、余計な世話ですが、数日の内に、お米や、海産物などが届きますので、皆さんに配っ
て頂きたいのですが。」
「でも、この村にはお金が。」
「其れは、心配有りませんのでね。」
「でも。」
「宜しいのですよ、其れよりも、洞窟に入れて下さい。」
三太は、何故、食料が届けられるのか分からないのだ。
「この舟に乗って下さい。」
源三郎と、高野、他の三名は、別の舟に乗り、洞窟へと向かった。
三太も上手だと思ったが、この漁師も相当な者だと、今は引き潮で、洞窟に入るのも楽な様だ。
洞窟に入ると、数本の松明に灯りが灯され、洞窟内は薄明るく見えて来た。
「高野様、此処ですよ、この洞窟はね、沖からは全く、見えないのです。」
「えっ、源三郎様、申し訳、御座いませんが、私は、初めてで、全く、見えておりません。」
高野は、見ていないのだ、三名の若い家臣は、どうやら知っていた様で。
「高野様、其れが本当なのですよ、此処の洞窟は、余程、注意しなければ、全くと言って良い程分
かりませんのでね。」
やがて、目が慣れて来たのか。
「こんなにも大きな洞窟が有るとは。」
「三太さん、実はねぇ~、此処の洞窟を整地して、この中に、皆さんが必要な食料を保管出来る様
にと考えて要るのですがね。」
「えっ、でも、そんな事すると大変な事になりますよ。」
「はい、其れは、私も、十分に承知しておりますがね、その仕事を漁師さん達にお願いが出来ない
かと思ってるんですよ。」
「えっ、そんな事、オラ達に出来るんですか。」
「はい、十分に出来ますよ、その為に必要な大量の工具も道具も準備しますので。」
三太は、仕事と言う事を考えた、仕事が有れば、食べる事も出来ると。
「其れで、先程も、申しましたが、この村には、定期的にお米などをお届けしますので。」
「源三郎様、この洞窟を整地するのは分かりますが、其れは、オラ達だけですか。」
「はい、最初は、三太さんの漁村だけですが、他の洞窟には、農村からも来て頂く様にと、今、進
めておりますので。」
源三郎は、この一帯の工事を農村と、漁村を問わず、藩の全てを注ぎ込むつもりなのか、これが、
若しも、幕府に知られると、その為には、全てを秘密で行なう必要が有るのだ。
「源三郎様、そんな大事な話を、オラが勝手に決める事は出来ませんので、オラの親父に話して欲
しいんですよ。」
「誠に、三太さんの言われる通りですねぇ~、では、三太さんさえ良ければ、戻りましょうか。」
「はい、親父も、今は、家に居ますので。」
「高野様、その様な事になりましたので、今から戻り、網元さんに、お話ししますので。」
「はい、承知しました。」
源三郎達を乗せた二艘の舟は戻って行く。
源三郎の話は、果たして、網元の心を動かすのだろうか、暫くして、二艘の舟は海岸に着き、源
三郎達は、三太の父親の網元の家に行き。
「父ちゃん。」
「どうしたんだ、お侍様達は。」
「父ちゃん、何日か前に話しをした、源三郎様だよ。」
「其れは、其れは、さぁ~、どうぞ、汚れておりますので。」
「網元さん、どうぞ、何も、気になされないでよろしいので。」
「さぁ~、皆様、お座り下さい、三太、母ちゃんにお茶を。」
「うん。」
「私は、源三郎と、申します、其れで、こちらの方々は、菊池藩の高野様と、高野様の配下の者達
で、御座います。」
「はい、わしは、三太から、源三郎様の事を聴きましたが、三太は、源三郎様は、お侍様なのに、
オラ達、漁師に対しても、優しく、丁寧な言葉使いで、オラ達を一人の人間として話されるんで、
驚いたと、言っておりました。」
「網元さん、私は、侍が偉いと思ってはおりませんよ、ただ、私達は、侍の家で生まれ、今は、腰
に二本の刀を差しているだけで、漁師さんや、農民さんの様に、魚を獲る事も、作物も育てる事も
出来ないのです。
其れに比べ、皆さんは、どの様な苦しい時でも漁に行かれ、作物を育てる事が出来る、私は、皆
さんの、お陰で、生きて要ると思っておもりますので。」
源三郎の考え方は、侍と言う立場では考えてはおらず、人間対、人間の話しなのだ。
この様に、源三郎と話すと、網元は、嬉しくなって来る。
網元は、源三郎と言う侍は、今までの侍の基準に当てはめる事は出来ないと。
「其れで、源三郎様は、どの様な、お話しで、来られたのでしょうか。」
源三郎は、これで、話しは決まったも同然だと。
「はい、先程、三太さんにも、少し、お話しをさせて頂いたのですが、数日の内に、食料品の一部
だけですが、お届け出来る様に手配しております。」
「源三郎様、少しお待ち下さい、私の手元にも代金をお支払い出来るのは、とても無理ですが。」
「網元さんが、心配される事は有りませんよ、全ての食料品の代金は必要有りませんので。」
「えっ、では、全部が。」
「はい、全てが無償ですからね。」
網元は、全てが、無償だと聞いて、これは、何か、裏が有ると思った。
「網元さんが考えられている様な話では有りませんのでね。」
「ですが、その無償の食料品と引き換えに、何か有るんですか。」
網元は、どうしても信用が出来ないのだ、確かに、余りにも虫が良すぎる。
この漁村に食料品を無償で届けると、誰が考えても、裏が有ると思うのが、当たり前なのだ。
「網元さん、今から、本当の話しをしますので、驚かずに聴いて下さいね。」
源三郎は、網元に、今の菊池藩が置かれている事の全てを話すと、網元の表情が次第に暗くなり、
沈んで来て、 傍に居る、三太も同じで。
「網元さん、其れで、私が考えた方法ですが、三太さんに案内して頂きました、海岸の洞窟内を整
地し、収穫された、お米や、海産物、保管可能な野菜を隠すのです。」
「えっ、穀物を隠すって、そんな事が、幕府に知られたら、大変な事になりますよ。」
「勿論ですよ、ですから、全てを秘密で進めるのです。」
傍で聞いていた、高野達も初めて聴く話で、今まで、其れに、関連する様な話しも聞いた事が無
かった、だが、よ~く、考えて見れば、米問屋と、海産物問屋に対し、漁村と農村に対し、食料を
援助させ、更に、大量の買い付けをさせると、やはり、最初から、洞窟の掘削作業員を確保する為
だったのだと、源三郎は、全て、計画的に進めて要る。
「源三郎様、オラ達は、漁師ですよ。」
「三太さん、何も全員が、洞窟に入るのでは有りませんよ、毎日でも、漁に出て頂きたいのです。
其れも、少人数で、お願いしたいのですが、少人数だと、幕府の密偵が見ても分かりませんので
ね、仮にですが、他の漁民はと聴かれてもね、沖に出ていると言えば、密偵も信用しますからね、
正か、密偵が、漁民さん達全員が戻って来るまで、浜で待つ事は無いと思いますよ、何時、戻って
来るかも分からないのですからね。」
源三郎は、漁師達の生活が、少しでも改善出来ればと思って要る。
この工事が始まれば、数年、いや、他の洞窟の掘削も含めると、十年以上も掛かると考えて要る。
「源三郎様、オラ達が、漁に出ても、少ない水揚げですので、城下にお持ちする事も出来ないと思
いますが。」
「網元さん、三太さん、私はねぇ~、漁師さん達には、毎日、お食事して頂きたいのです。
その為の仕事なんですよ、私が、先程も説明させて頂きましたが、お城の殿様や、ご家老様も、
其れに、家臣達を守る為の仕事では無いのです。
この藩が幕府の直轄地になれば、お城の者達、全員が浪人となりますよ、でもね、私が、心配す
るのは、侍では無く、三太さん達や、農民さん達が幕府に苦しめられると思うからですよ。」
「えっ、では、源三郎様が、ご浪人になるのですか。」
「はい、私達、侍はねぇ~、まぁ~、簡単に言いますと、使い道が無いと言う事ですよ。」
何と言う大胆な言い方だ、自らが、侍と言う立場で言う様な話しでは無い。
「網元さん、私は、今、自分の立場で申し上げて要るのでは有りませんよ、今の幕府も、何れの時
が来れば、崩壊するとは思いますが、仮にですよ、三太さんは、その崩壊するまで待てると思いま
すか。」
「いゃ~、オラは、何時の事になるのか分からないのに待つ事なんて出来ませんよ。」
「其れは、私も、同じですよ、でもねぇ~、幕府よりも、今の菊池藩が危ないのですよ、網元さん、
私は、菊池藩を救うのでは無く、皆さんを守りたいのですよ、分かって頂けますか。」
「源三郎様、よ~く、分かりました、ただ、この話は、幾ら、網元でも、わしが勝手に決める事は
出来ませんので、数日以内に全員に話をしますので、少し待って頂きたいのですが。」
「有難う、御座います。」
源三郎は、両手を着き、頭を下げると。
「源三郎様、お侍様が、わしの様な漁師に頭を下げては困ります。」
「網元さん、私は、侍と言う立場では無く、一人の人間として、私の話を理解して頂いたと言う感
謝の気持ちで、頭を下げたのですから、網元さんは、何も、気にされる事は有りませんよ。」
高野も、配下の三名は、唖然としている。
仮に、今の立場が、自分達ならば、同じ様に頭を下げる事は出来るだろうか。
「源三郎様のお気持ちは、よ~く、分かりました。」
「網元さん、その他、何か、分からない事は有りませんか。」
「源三郎様、わしら、漁師が、その仕事に就くとしても道具が要ると思うんですが。」
「網元さん、私も、此処に来る前、城下の鍛冶屋さんに行きましてね、鏨を百本作って下さいと、
お願いをしてきましてね、皆さんのお宅には、金槌は有ると思いますが、鏨は、まず、普通のお宅
には無いと思いましたのでね。」
「はい、確かに、そうだとは思いますが。」
「他に、必要な物が有れば、書き留めて置いて下さい。」
「はい、分かりました、其れで、返事は、何時までに、すれば、よろしいのでしょうか。」
「網元さん、別に、急ぐ必要は有りませんよ、私も、他に役目が有りますので、そうですねぇ~、
十日後で、如何でしょうか。」
「はい、其れだけの日数が有れば、みんなとも話しが出来ますので。」
「網元さん、私達は、今から戻りますので、宜しく、お願いします。」
「はい、源三郎様も、お気を付けて帰って下さいませ。」
源三郎達は、網元の家を出、城に戻るので有る。
「源三郎様、大丈夫でしょうか。」
「高野様、大丈夫ですよ、網元さんは、漁師さん達が、この仕事に入れば、生き残れると理解され
ておられますよ。」
「では、網元が漁師達に理解させれば良いと。」
「はい、でも、漁師さんは、魚を獲るのが本業ですからねぇ~、まぁ~、簡単には納得されないと
思いますよ、ただ、此処の漁だけでは食べては行けないのでね、其れを、どの様に話しをして、漁
師さん達を納得させる事が出来るか、其れが、網元さんの手腕に掛かって要る事だけは確かだと言
えますねぇ~。」
源三郎が、十日間と言ったのは、網元は、苦労してでも、漁師達を納得させるだろうと、だが、
十日間の間に、源三郎は、野洲に戻らなければならない。
だが、其れとは別に、上田藩にも行かねばならないと考えて要る。
何故、上田藩にも行く必要が有るのだろうか。
「高野様、ご城下に、大工さん達は、何人くらいおられるでしょうか。」
「私は、詳しくは知らないのですが、大工さんに何か。」
「高野様、洞窟の内部を見られ、何か、気付かれた事は無かったでしょうか。」
「はい、まず、内部は、私が考えていた以上に大きいと、高さも、奥行きも。」
「はい、其れは、十分に有りますが、他には。」
「源三郎様、私は、内部の観察を忘れておりました。」
「そうですか、で、貴方方は、如何ですか。」
配下の三名も、首を横に振り。
「分かりました、では、説明しますね。」
源三郎は、何故、大工が必要なのかを詳しく説明すると。
「よ~く、分かりました、では、大工達を通じて、木こりにも参加して頂く様にすれば、宜しいの
ですね。」
「はい、其れで、山には、間伐材が放置されていると思いますので、木こりさん達の協力は大変、
重要ですよ。」
「はい。」
「高野様、出来るならば、漁師の家も建て替えて下さい、農村もです。」
「源三郎様、何故、漁師や、農民の家を建て替える必要が有るのでしょうか、新しい家を建てます
と、幕府の密偵に発見される可能性が有ると思うのですが。」
高野が思うのも当然で、苦しい生活をしている、漁民や、農民に、一体、新しい家を建てるだけ
の金子を用立てる事は不可能だと。
「高野様の思われるのも当然ですよ、でも、漁師さんや、農民さん達の全面的な協力が得られるな
らば、家の建て替えなどは安いものですよ。」
「ですが、新しい家を建て、発見された時には、どの様な言い訳を。」
「高野様、家を建て替えますと、古い家の木材が残りますね、新しい家の外壁や、他の場所にも古
い木材を新しい所に張り付ければ、どの様になりますか。」
「そうか、新しくなったところの上に、古い木材を付ければ、殆ど分からなくなりますねぇ~。」
「その通りですよ、私は、漁師さんや、農民さんの協力を得る為には、どの様な事でもしなければ
ならないと考えておりますので。」
「源三郎様、よ~く、分かりました、大工さんや、木こりさん達にも納得して頂く事で、全てが上
手く運べると、申されるのですね。」
「はい、まぁ~、そう言う事になりますかねぇ~。」
源三郎は、菊池藩の城下に住む者達の全てを工事に関わらせ様として要る。
高野は、まだ、何時頃になれば、工事に入れるのか、其れすらも分からないと思って要る。
其れよりも前から、源三郎は、最初から、考えていたのかも知れない。
「私は、今夜、城下の旅籠に泊まり、明日、出立致しますので、後は、宜しく、お願いします。」
「はい、承知、致しました。」
その後も、源三郎は、城下に入るまで、色々と話した。
「では、高野様、此処で。」
源三郎は、旅籠に入った。
高野と、配下の三名は、城へと戻って行く。
明くる日の早朝、源三郎は、我が野洲へと向かい、源三郎は、早足で、その日の夕刻前には自宅
に戻った。
「源三郎、戻ったのか。」
「父上、只今、戻りました。」
「菊池藩は、大変だったのか。」
「はい、其れは、我が藩や、上田藩処では有りませんでしたが。」
源三郎は、父で有る、家老に、菊池藩の現状を話し、菊池藩でも、洞窟の整地を行なう事を伝え。
「そうか、では、菊池藩でも始めるのか。」
「はい、私は、この三つの藩が、同じ様な境遇なので、三つの藩が協力し、全てのとは、申せませ
んが、今、工事中の我が藩の洞窟が完成すれば、後は、問題は無いと考えております。」
「よ~し、源三郎、良く分かった、で、明日は登城するのか。」
「はい、一応、殿にも、申し上げねばなりませんので。」
「まぁ~、疲れただろうから、風呂に入って、ゆっくりと眠る事だ、明日の登城は急ぐ事も無いか
らなぁ~。」
「はい、父上、では、私は。」
源三郎は、数日振りの我が家の風呂に入り、夕餉には、久し振りの酒も飲み、疲れて要るのだろ
う、早く、床に入り、直ぐ眠った。
そして、明くる日の登城は、何時もの登城時刻よりも、一時以上も遅くなったが。
「殿、昨夜、遅くなりましたが、源三郎が戻って参りました。」
「そうか、で、源三郎は。」
「はい、今日の登城は、遅くなっても良いと、申して置きましたので。」
「そうか。」
「殿様、ご家老様、源三郎様が登城され、今、こちらに向かわれておられますと。」
暫くして、源三郎が、部屋に入って来た。
「殿、源三郎、只今、戻りました。」
「源三郎、よくぞ、元気で戻った、其れで、菊池藩は。」
「はい、菊池藩は。」
源三郎は、殿様に、菊池藩の現状を説明し。
「殿、私は、菊池藩と、上田藩を我が藩に取り込みが出来ればと、考えております。」
「何じゃと、菊池と、上田を取り込むとな、だが、両藩の反発は無かったのか。」
「殿、参りましょうか。」
「うん、権三もじゃ。」
三人は、天守に上がり、源三郎が、説明を始めた。
「殿、取り込むとは、私の、言葉が間違っておりました。
私の、申し上げたいのは、我が藩が中心となり、上田、菊池の両藩に仲間として参加して頂くの
で、私は、両藩を配下になどとは、考えておりませぬので。」
「うん、そうで有ろうよ、余も、分かっておる、だが、源三郎、正直に申せ、両藩を、我が藩の配
下になればと考えたので有ろう。」
源三郎は、にやりとして。
「殿、私は、その様な考えは持ってはおりませぬ。」
源三郎が、にやりとしたのは、やはり、殿様に知られたと思った為で有る。
「源三郎が、考えるのは、余は、別に何とも思わぬが、口外はせぬ事じゃ。」
「はい、承知、致しました。」
「で、その菊池藩じゃが、海岸の洞窟から、城までの隧道は作るのか。」
「私は、隧道を掘る事は考えておりませぬ、最初の洞窟は大きく、奥までは、二町も有り、幅も半
町以上も有りますので、洞窟内の整地が最も重要だと考えております。」
「何じゃと、奥が、二町も有るのか、では。」
「はい、我が藩の二倍以上は有りますので。」
「だが、藩主は、どの様に考えておるのじゃ。」
「はい、菊池の殿様も、最初は、其れはもう、大変な驚き様で、何故、我が藩の内部に幕府の密偵
が入り込んだのかも分からず、二人の勘定方を、即刻、打ち首にせよと申されましたが、私は、打
ち首にすれば、幕府に発覚し、余計な詮索を受ける事になりますと。」
「其れは、余の時と同じで有った、余も、あの時、源三郎が、いなければ、即刻、打ち首をして
おったぞ。」
「はい、其れで、私は、お二人を、今まで通りの役目に就いて頂き、幕府にも同じ報告をさせる事
の方が、藩は存続出来ると申し上げ、ご家老様も賛同して頂き、後は、我が藩と、同じ様に致しま
した。」
「では、藩主は、源三郎が申した通りだと言うのじゃな。」
「はい、その通りで、御座います。」
殿様は、この時、源三郎が、菊池藩を取り込む事を考えたのだろうと思った。
「其れでなのか、源三郎は、両藩を取り込む事が出来ると。」
「私は、その様な事は考えてはおりませぬ。」
だが、源三郎の顔が言っている、両藩の領民達を味方に付ければ、自然と両藩は、我が藩の思い
通りになる可能性も、だが、現実は簡単には行かないだろうと。
「其れで、源三郎は、次に何を致すのじゃ。」
殿様も、分かっている。
「はい、上田に向かう予定で御座います。」
「やはり、そうか、では、上田にも洞窟の整地を行なわせるのか。」
「はい、ですが、上田藩には、まだ、何も申しておりませんのでね、少し考えねばならないと思っ
ております。」
「では、両藩を同時進行させると言うのじゃな。」
「はい、一応は、其の予定を考えております。」
その時。
「殿。」
「吉永か、入れ。」
「吉永様、お久し振りで、御座います。」
「源三郎殿、大変、重要なお役目だと聞いておりましたが、お身体には、十分、気を付けて頂きた
いと思っております。」
今では、源三郎の片腕として、源三郎の行なっている指示の殆どを吉永が出している。
「源三郎殿、ご相談が有るのですが。」
「どの様な事でしょうか。」
「はい、実は、城内で加工を行なっている大工さんの事で。」
「はい、」
「今、大工さんが五人になり、それなりの加工は進んではおりますが、其れでも、大工さんの人数
が少ないと思っております。」
源三郎は、大工の増員だと分かったが、城下から、全ての大工を連れて来る事は出来ない。
「私も、少ないとは思いますが、吉永様は、どの様にされるのでしょうか。」
「はい、其れで、私は、今、洞窟内掘削工事に就いて頂いております人達の中で、以前、大工さん
の仕事をされてた、お方はおられないだろうかと。」
そうか、洞窟内の作業には、九十名が入って要る、その内の数人でも、大工の仕事に入って貰う
事で、加工作業も随分と捗るだろうと。
「其れで、何人くらいおられましたか。」
「はい、私も、数人でも、おられると、加工作業が随分と捗ると思ったのですが、でも、其れが、
十五人もの人達が名乗られましたので、私も、驚いております。
ですが、一応、源三郎殿のお許しを得てからだと思い、お待ち申しておりました。」
「吉永様、大助かりですねぇ~、では、直ぐに手配して頂いても宜しいので、お願いします。
其れと、今後は、私の、許しが無くても、吉永様の判断で行なって頂いても宜しいので。」
「いいえ、其れは、なりませぬ、この工事の総責任者は、源三郎殿で、御座います。
私が、独断で行なう事は出来ませぬので。」
「はい、分かりました、では、この様に致しましょうか、私も、他に役目が有り、藩を離れる事が
有りますので、その時には、ご家老様から許しを得て下されば、宜しいかと。」
「吉永、余も、源三郎の申す通りだと思うぞ、源三郎は、忙しく、我が藩を離れる事も多いから、
のぉ~、権三、其れで、良いなぁ~。」
「はい、私に、異存は、御座いませぬ、ただ、吉永殿、後日、源三郎への報告も必要となると思う
ので、書面を出して頂ければ、宜しいかと。」
「はい、承知、致しました。」
「吉永様、其れで、お聞きしたいのですが、漁師さんも、洞窟内で工事に入られて要ると思うので
すが、その人達の休みですが、吉永様に、何か、良い方法でも、御座いませんでしょうか。」
「えっ、休みですか。」
吉永は、源三郎の問に答える事が出来ず、 殿様も、ご家老様も驚いて要る。
「源三郎、一体、如何致したのじゃ、突然、休みの話しを持ち出して。」
「はい、実は、この数日考えておりまして、農民さんも、漁師さんも、休みを取る必要は無いと申
されましたが、其れでは、この工事中に事故が起きるやも知れないと思ったので、御座います。」
「うん、じゃがのぉ~、休みは要らぬと、申しておるのじゃぞ。」
「はい、其れは、私も、十分、承知、致しておりますが、私も、時には、お酒を飲みたいと思う事
が御座います。
ですが、明日の事も考えますと、飲むお酒も、美味しくは無いのです。
吉永様も、時には酔うほどに、お酒を飲みたいと思われて要ると、私は、思いますが。」
「拙者は、その様には思っておりませぬ。」
だが、吉永の本心は、時には、酔う程に、お酒を飲みたいと。
「其れは、吉永様の本心では有りませんよ、殿様も、ご家老も、ですが、我々以上に現場で苦しい
作業をされて要る人達は、お酒に酔いたいのです、其れで、私は、考えました。」
「源三郎は、一体、何を考えたのじゃ。」
「はい、誰も、休まないと言うので有れば、休みを取る理由を付ければ良いのです。」
「源三郎の申しておる事の意味は、余には理解出来ぬ。」
「殿、工事には事故が付き物で御座います。
其れは、現場の事を知らない者達が、休みを取らせずに働かせるからで、御座います。」
「うん、其れは、余にも分かるが、理由とは、一体、何じゃ。」
「私は、お酒を飲んだ翌日を休みにすると、皆が安心して、お酒を飲む事が出来ると考えたので、
御座います。」
「そうか、なるほど、例え、深酒したと思ってもじゃ、目が覚めた当日は休みだと申すのか。」
「はい、その様な理由を付ければ、漁師さんも、農民さんも、其れに、洞窟内で作業されて要る人
達も気兼ね無く、お酒を飲む事が出来ますので。」
「じゃが、全員が休みになるのか。」
「いいえ、私は、全員を三日働き、一日は休むと、言う方法で、漁師さんも、農民さんも、其れに、
洞窟内で作業されて要る人達を、三つの班に分けたいと考えております。」
「何じゃと、何故に三つの班に分けるのか。」
「はい、その様に致せば、少なくとも、二つの班は、仕事に就いており、かえって、仕事の効率が
上がるのではないかと考えました。」
「其れで、作業効率も上がるのか、権三、余は、考えもしなかったぞ。」
「はい、私も、今、初めて聴く話で、驚いて要るので、御座います。
だが、源三郎、そのお酒だが。」
「父上、城下の酒問屋が御座います、酒問屋にも話は付けて有りますので、其れに、酒問屋も、他
の地より仕入れると申しておりますので。」
「何だ、全て、手配済みと言う事なのか。」
「はい、申し訳、御座いませぬ。」
「源三郎、だが、一体、何処で飲ませるのじゃ。」
「はい、一応、網元さんにお願いが出来ればと思っておりますが。」
「権三、余も、相談が有るのじゃ。」
殿様は、一体、何を考えて要る、正かと、ご家老は思ったが。
「殿、一体、何事で、御座いますか。」
「源三郎の申す通りになるとだ、城内の家臣達にも出来ぬか。」
ご家老の思った通りで、家臣達も、三日働き、一日を休みにと。
「殿、正か、家臣達にも同じ様にされる、おつもりでは。」
「うん、その通りじゃ、但しじゃ、余が考えたのは、源三郎の考えにじゃ、家臣達も加え、同じ所
で、飲んではどうかと思ったのだが、どうだろうか。」
まぁ~、この殿様と言うのは、時には突飛な考え方を言うので、ご家老様も驚かされる。
「殿、ですが、仮にも、家臣達が行ったとしましましても、網元の家には大勢入れませぬ。」
「源三郎、何も、網元の家で無くてもよかろう。」
「えっ、では、一体、何処で、御座いますか。」
「源三郎、此処に有るぞ。」
「えっ、此処にと申されますと、正か。」
「源三郎、そう、その正かじゃ、此処には大勢が入る場所も有る、そしてじゃ、休みの前の漁師や、
農民の家族も招くのじゃ、余は、もう、気持ちが、ぞくぞくとしておるぞ。」
何と、お殿様は、お城に、漁師や、農民の家族も招き入れ、大宴会を行ないたいと言うのだ。
「のぉ~、源三郎、その様に致せば、家臣達と漁師、農民も、同じ場で飲み、家臣達も、漁師や、
農民達の本心が聴けると言うものじゃ。」
何と、恐ろしい殿様だ、漁師の家族も、農民達の家族も一緒に宴会をするとは、前代未聞の話で、
其れを、一番、楽しみにして要るのはどうやら、お殿様の様なのだ、其れにしても、大変な事に
なった、漁師や、農民達の家族を含めると、一体、何人の人達が城に来るのだろうか、源三郎は、
最初は簡単に考えており、現場で厳しい仕事をしている者達だけの慰労が出来れば良いと考えたが、
殿様は、家族も含め、このお城で、大宴会をすると言った為に、源三郎が考えていた予定が狂った。
傍の、吉永も、困った顔をしている、其れは、若しかすれば、大宴会の準備を命ぜられるやも知
れぬと、其れは、源三郎は、余りにも忙し過ぎ、宴会までは、手が回らない為なのだ。
「吉永、如何じゃ、お主が、手配してくれぬか、今の、源三郎に、其れまでをやれとは、余も言え
ぬのじゃ。」
「はい、承知、致しましたが、何時頃の予定でしょうか。」
「吉永、其れは、源三郎次第じゃ、のぉ~、源三郎。」
源三郎は、予定どころか、現場の人達には、何も、伝えておらず、話しは、これからなのだ。
「殿、今の話は、まだ、誰にも、伝えておりませぬので、これからの話になりますが。」
「何じゃと、では、現場の者達は、誰も知らぬと申すのか。」
「はい、私は、これから、浜に向かい、話しをするつもりでしたので。」
「よし、分かった、源三郎、今日とは申さぬが、なるべく、早い方が良いぞ。」
殿様は、今日か、遅くとも、明後日にでも出来るものと思って要るので、少し、落胆した。
「殿、洞窟に向かい、全員に話をしますので。」
「分かった、源三郎、早く致せよ。」
「はい、承知、致しました。」
「源三郎、話は変わるが、先程、申しておった、上田と、菊池両藩の藩主に、余が、出向いて話を
致す必要は無いのか。」
「私は、まだ、先だと考えております。
両藩共、何時頃から工事に入れるのか、其れも、今は、明確では、御座いませぬので。」
「何時頃から工事に入るのじゃ。」
「上田も、菊池もですが、道具類を作らなければなりませぬので、十日、二十日、いや、三十日後
には、工事に入れるのではと、私は、考えておりますが、ただ、我が藩とは違いますので、私は、
余り、介入したくは無いのです。」
「だがのぉ~、源三郎が、考えておる、上田と、菊池を抱き込むには、全面的に介入せねばなるま
いと思うのじゃが。」
「殿、私は、両藩から要請が有れば、参る所存でございますが、今は、まだ、土台作りを致してお
るので、御座いますので。」
やはり、源三郎は、上田と、菊池の両藩を抱き込むつもりなのだ。
今は、最初の段階なので、上田の阿波野、菊池の高野が、どの様な手腕を発揮するのか、暫くは
様子を見る必要が有るのだと。
「源三郎は、両藩の様子を暫く見ようと考えておるのか。」
「はい、私は、この二~三日の内に、上田に出向き、どの様になって要るのかを見たいので、御座
います。」
「では、上田の様子を見た後は、我が藩で、暫くはのんびりと出来るのか。」
「はい、一応は、そのつもりなのですが、十日後くらいに向かう事になっておりますので、其れが、
終われば、当分の間は、我が藩に居る事が出来ますので。」
「菊池で、何が有ると、申すのじゃ。」
「網元の返事を聴く事になっておりますので。」
「何じゃと、返事を聴くだけならば、菊池藩の者に聴かせればよいではないのか。」
「殿の、申される事は分かるのですが、網元や、漁師達は、菊池藩の侍達には不信感を持っており、
網元は、まだ、信用が出来ないと、申しておるので、御座います。」
「では、源三郎は、信頼を得たと申すのか。」
「私は、その様に思っております。
先日の時もですが、菊池の藩士は、まだ、何処か、高圧的な態度が現れておりましたが、私は、
その前に、三太と言う、漁師との話で信用されております。
その三太と言う漁師は、網元の息子だとは知らずにおりまして、三太が、父親に、私の事を話さ
れたのが良かったと思っております。」
「そうか、では、当分の間は、駄目だと申すのじゃな。」
「はい、申し訳、御座いませぬ。」
「のぉ~、権三、源三郎の仕事だが、少し減らす事は出来ぬのか。」
「殿も、ご存知の様に、源三郎が、受けたお役目で御座います。
其れに、源三郎も、お役目を減らせとは申さぬと、私は、其れよりも、今の工事が軌道乗れば、
源三郎のお役目も自然と減るのではないかと、其れまでは、多分無理だと、私は、考えるので、御
座いますが、源三郎は、どの様に考えて要るのだ。」
「はい、今、ご家老が、申されました通りで、我が藩と、上田、菊池の両藩の工事が有る程度起動
に乗るまでは、今のままで行きたいと思っております。」
「じゃが、其れまでは、源三郎は、休みも取れないと申すのか。」
「殿、大変な、ご心配をお掛けし、誠に、申し訳無く思っておりますが、私も、色々なところで気
分転換をしておりますので。」
「そうか、其れならば良いが。」
「殿、色々と、ご心配をお掛けし、申し訳、御座いませぬ、ですが、源三郎は、全てを納得し、全
ての工事が完了するまでは、安心して休みを取る様な男では無いと、私も、日頃から、どの様な事
が有ったとしても、今回のお役目に関しては、休みは取れぬと申しておりますので。」
「うん、分かった、だがのぉ~、源三郎は、我が藩には、一番、大事な者なのじゃ、源三郎に申し
て置くぞ、決して無理はするで無いぞ、少しでも、身体を休ませるのじゃ、分かったか。」
「はい、承知、致しました。」
「では、下がるとするか。」
殿様達は、天守を降りて行く。
そして、明くる朝、源三郎は、浜に向かった、我が藩の浜に向かうのは何日振りだろうか。
「お~い、源三郎様が、来られたぞ~。」
漁民達も久し振りなのか、大勢が集まり。
「源三郎様は、一体、何処に行ってたんだ。」
「私ですか、これでも結構忙しかったのですが、皆さんには、ご心配を掛けました。」
「いいや、源三郎様は、何処かに女の人でも出来たんじゃないかって、みんなが言うんですよ。」
「私に、女性がですか、今の、私に、その様な暇は有りませんよ。」
「いいや、源三郎様は、男前だし、其れに、人の気持ちも分かるんだから、女の人が離さなかった
んじゃないですか。」
「元太さん、私は。」
漁民達は、本気では無い、だが、それ程にまで、思ってくれているのだと、源三郎は、思った。
「で、今日は。」
「はい、今日は、皆さんに相談が有りましてね。」
「えっ、また、何か始めるんですか。」
「元太さん、実はねぇ~、皆さんに休みを取って頂きたいと思いましてね、其れで、今日、相談に
寄せて頂いたのですが。」
「オラ達に休みですか、一体、何で、休みを取るんですか。」
「其れはねぇ~。」
源三郎は、何故、休みが必要なのかを説明すると。
「オラは、源三郎様の言われる事は分かりますよ、でも、オラ達は、休むと。」
「元太さん、其れは、お食事の事ですね。」
「うん、そうだ、オラ達は、休むと、ご飯が食べられないと、昔から言われてきてるんですよ、だ
から、オラ達は、休みたくても、休めないんですよ。」
元太は、漁師は、海が荒れると漁に行けないが、その時でも仕事は有ると。
「元太さんも、皆さんも、よ~く、聴いて下さいね、私が、先程も説明しましたが、人間は、無理
をすると、必ず、何処かで事故に会うと言われております。
私は、皆さんには事故に会って欲しく無いのです。
私は、以前、元太さんに申しましたね、この掘削工事は、直ぐに中止して下さいと、あれも、考
え方を返れば、洞窟が、今の工事を止めないと、大きな事故が起きますよと、まぁ~、暫くは休み
を取りなさいと、言われた様に思うのです。」
「源三郎様は、無理をするなと、其れは、オラも、分かりますが。」
「では、皆さん、話しは少し変わりますがね、皆さんは、お酒は飲まれるのですか。」
「源三郎様、オラは、毎日でも飲みたいですよ、でも、お酒を買う事なんか出来ないですよ、だっ
て、お金なんか無いんだから。」
「そうでしょう、皆さんは、お酒は飲みたいと、では、働いていても、何も、楽しみが無いと思う
のですがねぇ~。」
漁民や、農民、其れに、洞窟内で掘削工事を行なって要る、あの男達の目の色が変わった。
「其れでね、皆さんが、酔ったと思える程、お酒を用意しようと思うのですが、皆さんは、如何で
しょうかねぇ~。」
「源三郎様、オラ達に、お酒を飲ませてくれるんですか。」
「はい、その通りですよ、但しですが、休みを取りますと言う条件ですが。」
「じゃ~、オラ達が、休みますって言えば、お酒が飲めるんですね。」
「はい、その通りですよ、皆さんは、如何でしょうかねぇ~、休みの前にお酒が飲めるんですよ、
文句は無いと思うのですがねぇ~。」
元太達も、洞窟内で掘削工事に入って要る男達の表情が俄然変わって行く。
「源三郎様、オラは、休みの前にお酒が飲みたいですよ。」
「うん、オラもだ、だって、源三郎様が言われたんだから、絶対に間違いは無いんだ。」
「源三郎様、オレ達も宜しいんでしょうか。」
「はい、勿論ですよ、其れで、私は、皆さんに相談に来たのですから。」
「お~い、みんな、オラ達は、休みを取っていいんだなぁ~。」
「うん、オラも、賛成だ。」
「其れでね、皆さんに相談と言うのは、この現場で仕事をされておられる皆さんを、三つの班に分
けたいと思うのですが。」
「オラ、源三郎様の言ってる意味が分からないんですが。」
「私も分かりますよ、其れでは、私が、詳しく説明しますのでね。」
源三郎は、漁師、農民、其れと、洞窟内の九十人を各三班に分け、三日働き、一日は休みを取る
と言う方法を話すと。
「其れでね、この方法で行きますと、最低でも、各二班が工事に入られておりますので、何も心配
する事も無く、お酒が飲めるのですよ。」
「でも、源三郎様、そんな大勢の人は、オラの家でも無理ですよ。」
元太は、我が家で、飲み会を行なうと思ったので有る。
「元太さん、宜しいですか、これからが、大事な話しでしてね、皆さんも、よ~く、聴いて下さい。
私が、この飲み会の話を、殿に申し上げたのです。」
「源三郎様、オレ達の飲み会を何で、殿様に言ったんですか、殿様には、何の関係も無いと思いま
すが。」
「はい、勿論、その通りですがね、私の立場上、一応、殿には報告せねばなりませんので、まぁ~、
其れよりも、大変な話しを、我が殿が申されたのですがね、驚かれない下さいよ。」
「源三郎様、正か、飲み会なんて駄目だとか。」
「いいえ、其れよりも大変ですよ、皆さんと、皆さんの、ご家族の全員をお招きしたいと。」
彼らは、驚くと言うよりも、開いた口が塞がらない程に唖然としている。
農民が、漁師が、お城の殿様から招待を受けるとは聞いた事が無い。
「源三郎様、オラ達は、農民ですよ、そんな農民が、お城に入るなんて、オラは、聴いた事が無い
ですよ。」
「ですがね、この話は、本当なのですよ、私が、何故、皆さんに嘘を言う必要が有りますか。」
「う~ん、だけど、オラ達は、お城に着て行く着物なんて、無いんですよ、其れに、オラのかあ
ちゃんも、子供も。」
「皆さんは、何時もの着物で宜しいのですよ。」
源三郎は、彼らの気持ちも分かって要る。
飲み会をお城で、其れも、お殿様直々の招待だと、その為か、着て行く着物が無いと言って断り
たいのだろう。
「だって、オラ達が、お城に行きますと、お城が汚れますよ。」
「皆さんは、その様な事を心配しないでも宜しいのですよ。
本当の話をしますとね、殿様が、一番、楽しみにされておられましてねぇ~。」
「じゃ~、お殿様も、お酒を飲まれるのですから。」
「元太さん、我が殿様はね、皆さんが、楽しまれておられるのを邪魔される様な、殿では有りませ
んよ、其れでも、殿が、一番、喜んでおられるのですからねぇ~。」
「だけど、う~ん。」
「私は、初め、皆さんと、この浜で、私も入って飲み会をと考えたんですよ、ですが、殿は、我が
藩の領民が、苦しい洞窟内で掘削工事をしている、だけど、殿様は、何も出来ないと、其れでは、
皆さんを招き、大宴会をお城でと。」
「源三郎様、じゃ~、オラ達の中で、休み前の者は、家族と一緒にお城で、オラ達は、お酒で、か
あちゃんや、子供達は食べるんですか。」
「はい、その通りですよ、実は、私が、一番、驚きましてね、でも、よ~く、考えて見ると、殿様
は、皆さんを、皆さんは、殿様の姿も知らないのです。
ですからね、その日は、私の悪口も、殿様の悪口も言っても良いと、私は、思ってるんです。」
「えっ、誰が、源三郎様の悪口を言うんですか、源三郎様は、オラ達の為にって、一生懸命にされ
て要るんですよ、オラは、源三郎様の悪口を言った、やつには、オラが、許さないから。」
元太は、息巻いている、元太も、源三郎が領民の為にと必死なのを知って要る。
「元太さん、有難う、では、皆さん、宜しいのですね。」
「まぁ~、仕方無いよ、だって、源三郎様の頼みじゃなぁ~、オラは、飲みに行ってやるから。」
「何を言ってるんだ、お前が、一番に飲みたいって言ったんだ。」
「あっ、そうか、まぁ~、そんな事よりも、源三郎様、みんなが行くって。」
「よ~し、オレも行くぜ、殿様の為じゃないんだぜ、オレは、源三郎様の顔を潰す訳にも行かない
からなぁ~。」
「何を言っているんだよ~、お前が、一番、源三郎様の顔を潰すんだぜ、分かってるのか。」
「オレがか、まぁ~、其れも、そうだ。」
漁師達も、男達も大笑いをした。
「では、皆さん、これで、決まりましたね、其れで、私の希望なのですが、元太さんは、網元さん
とご家族で。」
「えっ、何で、オラが最初なんですか。」
「其れはね、元太さんは、漁師さん達を纏めておられますのでね、其れと、農民さんは、貴方です、
ご家族と一緒にね。」
えいじは、何も言わず、頷いた。
「其れと、貴男は。」
「源三郎様、オレは、銀次と言います。」
「銀次さんですか、よい、お名前ですねぇ~、では、銀次さんも、最初に入って下さい。」
「源三郎様、オレ達の全員が独り身なんで。」
「はい、其れは、知っておりますので、其れと、銀次さんもですが、今後は、過去の事は、全て関
係は有りませんからね。」
銀次は、これ程、嬉しい事は無い、今まで、悪い事ばかりだったが、今後は過去は関係は無く。
これからが大事なのだと、源三郎は言うので有る。
「其れで、銀次さんは、問題は有りませんが、元太さんと、えいじさんは、分ける時には注意して
下さいね、其れと、皆さんの、ご両親も一緒に参加して頂きたいのですが、足が弱って要る方がお
られましたら、お二人は、早めに知らせて下さいね、籠の手配も有りますのでね、最後に当日は、
昼の八には仕事を終わり、遅くとも八半には、各自、お城に向かって下さいね、其れで、他に、何
か聴く事は有るでしょうか。」
「源三郎様、其れで、最初の人達は何時行けばよろしいのですか。」
「はい、今日を含めて、三日目ですよ。」
さぁ~、話しは決まった、元太、えいじ、銀次の三名は、仲間に話し、銀次のところは簡単に決
まったのだが、元太と、えいじのところは、簡単には決まらず、当時の昼過ぎになり、やっと、決
まった。
そして、いよいよ、三日目には、お城に向かうので有る。
「お~い、みんな、聴いて欲しいんだ、今日は、飲み会だけど、飲み過ぎてくだを蒔くなよ、特に、
お侍様にはな。」
「何だって、お侍様にくだを蒔くなって、だって、お侍様は、源三郎様だけなんだろう、誰が、源
三郎様にくだを蒔くかよ。」
「そうだったなぁ~、源三郎様が相手じゃなぁ~、お~、何と、恐ろしい事を言うんだよ~。」
「なぁ~、銀次、もう、酔ってるのか。」
「オレか、オレは、今日、起きた時から酔っ払ってるよ~だ。」
「まぁ~、だけど、オレ達は、源三郎様がおられたお陰で、今は、人生最高なんだ、オレはよ~、
これからも、源三郎様の為に命を懸けてやるぜ。」
「うん、オレだって、同じだぜ、オレ達は、みんな、源三郎様は、命の恩人だと思ってるんだから
なぁ~。」
「さぁ~、銀次、オレは、酔い潰れるぞ。」
「お前、酔い潰れて、此処まで帰るつもりなのか。」
「あっ、そうだったなぁ~、まぁ~、適当に酔い潰れるとするかなぁ~。」
「お前は、酔うのに、適当な酔い方が有るのか。」
「え~、無かったかなぁ~。」
男達は、大笑いしながら、お城へと向かい、浜で、元太達と合流した。
「元太さん、今日は、一緒に飲みましょうね。」
「はい、オラで良かったら。」
「オレ達、みんなは、元太さん達が優しくて、嬉しいんですよ、其れに、おかみさん達が作ってく
れた、あの雑炊は、最高に旨かったんだ、オレ達は、この世に、こんなにも旨い物が有るなんて
知らなかったんだ、おかみさん、有難う。」
「いいえ、私達に出来る事をしただけで、そんな物を喜んでくれて、私は、嬉しいですよ、ねぇ~、
あんた。」
「うん、銀次さん、オラ達は、漁師なんで、魚を使う雑炊しか知らないんですよ。」
「おかみさん、これからも、宜しく、頼みます。」
銀次は、島帰りだ、だが、源三郎が、この男はと見込んだので有る。
「ねぇ~、あんた、子供達が騒ぐんじゃないかねぇ~。」
「そうだなぁ~、よ~し、皆さん、聴いて欲しいんだ、子供には、お城で、余り騒がない様に言っ
て欲しいだ、其れと、酔って、源三郎様に迷惑を掛けないように頼むよ。」
「オラ達は、源三郎様には、絶対に迷惑は掛けないよ。」
「何を、お前が、一番、危ないんだから、飲み過ぎるなよ、お前を背負って、此処までは帰れない
からなぁ~。」
「分かったよ~、じゃ~、少しだけ酔うとするか。」
「なぁ~、お前、酔うのに、少しだけって有るのか、そんな話し、オラは聞いた事が無いよ。」
「え~、そうかなぁ~、だけど、オラは、酔うと、直ぐ眠って。」
「だから酔うなって、言ってるんだ。」
「でも、源三郎様は、酔うまで飲んで下さいって。」
「お前って、そんな事も分からないのか、其れが、源三郎様なんだ、あのお方は、オラ達の事を
知ってなさるから言われたんだ、だからって、本当に、酔うと、源三郎様に迷惑が掛かるんだよ、
分かったのか。」
漁師達も、男達も、源三郎の事を考えて要るので有る。
そして、ワイワイ、ガヤガヤと、賑やかに話しながらでも、みんなが楽しみにしている様子で、
お城近くになる頃、農民達の一行とも合流し、全員が東門から入って行く。
その頃、賄い処では、大戦争の最中だ。
「お酒の準備は出来たの。」
「は~い、でも、殿様が、樽のままで良いと。」
「じゃ~、運んで言っても。」
その時、家臣達が、作業着の姿で現れ。
「我々に、お手伝い出来る事が有れば、申し付け下さい。」
「あ~、丁度、良かったです、樽を運ぶところでしたので。」
「では、我々が、で、何樽有るのですか。」
「はい、殿が、十樽は必要だと申されまして。」
「えっ、十樽も有るのですか、では、我々が全部運びますので。」
「じゃ~、お願いします。」
作業着姿の家臣達も、何か、楽しそうな顔付きで運んで行く。
「源三郎様だぁ~。」
源三郎は、東門を入ったとこで、みんなを出迎えた。
「やぁ~、皆さん、よ~く来てくれましたねぇ~。」
「源三郎様、今日は、本当に、酔っ払ってもいいんですか。」
「はい、勿論ですよ、今日はねぇ~、全員が酔っ払って帰れなかったとしても宜しいですよ。」
「えっ、じゃ~、オラ達は、お城で。」
「は~い、その通りで、今日は、食べて、飲んで、思いっきり騒ぎましょうかねぇ~。」
「でも、源三郎様に迷惑が。」
「何を、言ってるんですか、私もねぇ~、今日は、大騒ぎしますからね、私は、お酒は強いですか
らねぇ~、皆さん、覚悟して下さいよ。」
「あの~。」
「はい、何ですか。」
「オラ達は、農民なんで、足が汚れて要るんですが。」
「そうですか、私の、身体も汚れていますが、今日はねぇ~、そんな事なんか、何も、考えないで、
さぁ~、皆さん、行きましょうか。」
源三郎は、大人から、子供まで、百数十人を、お城でも、一番大きな広間へと案内して行く。
「あんちゃん。」
「お~、げんたか、良く、来てくれたなぁ~。」
「うん、あんちゃん、母ちゃんも一緒だよ。」
げんたの傍には、母親も居る。
「お母さんも、今日は、食べて、飲んで下さいよ。」
「あんちゃん、母ちゃんに飲ませると、大変な事になるんだぜ。」
「えっ、大変な事に、一体、どの様になるのですか。」
「あんちゃん、母ちゃんが酔うとねぇ~。」
「げんた、余計な事は言わないでよ。」
「だって、本当なんだぜ、母ちゃんが酔うとねぇ~、絡みついて来るんだぜ、そりゃ~、櫃恋んだ
から、なぁ~、母ちゃん。」
「まぁ~、げんた、今日はねぇ~、日頃、私が、無理をお願いしている人達ばかりですからねぇ~、
其れくらいは覚悟しておりますよ。」
源三郎は、げんたの母親の顔を見て、ニコリとした。
「皆さん、申し訳ないのですがね、大人用と、子供用の食事を準備しましたので、まぁ~、適当に
座って下さいね。」
大広間に入った、漁師や、農民達とが、席に座るまで、ワイワイ、ガヤガヤと、其れは、もう、
お祭り騒ぎで、宴会が始まれば、一体、どんな騒ぎになるのか、誰にも想像が出来ない。
其れでも、ようやく、全員が座ると。
「皆さん、日頃は、大変なご無理をお願いし、私は、申し訳無く思っております、其れと、申し訳
無いのですが、今日は、食べて、飲んで、思いっきり騒いで下さいね。」
「源三郎様、本当にいいんですか。」
「はい、私は、嘘は申しませんよ、其れと、子供さんは、お城の中は、広いですので、一人では行
かせない欲しいのですが、まぁ~、其れよりも、我々の仲間が、お子さんを連れて、お城の中を案
内しますので、食べる方がいいのか、先に、お城の中を見たいのか、子供さん達に聴きたいと思う
のですが。」
「お兄ちゃ~ん、オラは、先に、お城の中を見たいんだ。」
「オラもだ。」
子供達は、次々と、お城の中の見物が先だと。
「分かりました、では、我々の仲間が案内しますので、横の廊下に集まって下さい。」
源三郎が、合図をすると、廊下の襖が開き、作業着姿の家臣達がニコヤカな顔付で待っている。
「わぁ~い。」
子供達は、もう、大騒ぎで飛び出して行く。
「では、宜しく、お願いします。」
家臣達は、一人で、数人の子供を連れ、城内を案内する為に、各所に向かって行った。
「では、皆さん、お隣同士で、お酒を注いで下さい。」
誰もが、初めての大宴会だが、お酒を互いに注いで行き、暫くすると、静かになり。
「皆さん、注ぎ終わりましたでしょうか。」
「源三郎様、何時、飲ませてくれるんですか。」
「分かりました、では、大変、お疲れ様でした、では。」
源三郎が、杯を上げると、全員が続き。
「では、ご苦労様でした。」
これが、乾杯なのだろうか、其れが、終わると、まぁ~、飲むわ、飲むわで、賄い処からは次々
とお酒が運ばれ来る。
腰元達も、普段の着物では動き辛いと、賄い処の女中達と同じ着物姿で、動き回って要るが、忙
しさの中でも、腰元達も、女中達も、普段は見せない笑顔で動いている。
暫くすると、あちら、こちらで、席の移動が始まった。
特に、源三郎の周りは、大変な事になって要る。
「ねぇ~、源三郎様、私、今夜、空いているのよ。」
やはり、げんたの母親で、げんたの言った通りだ。
「なっ、あんちゃん、オレの言った通りになっただぜ、もう、こうなったら、オレは知らないから
なぁ~。」
「うん、分かりましたよ、お母さん、私はねぇ~、今夜も、明日の空いておりません、申し訳無い
ですねぇ~。」
「何よ、じゃ~、源三郎様、あの腰元さんか、あの人は美しいものねぇ~。」
げんたの母親が言った腰元は、特別目立つ美しい腰元なのだ。
「そうですか、私はねぇ~。」
「何よ~、一体、どの腰元なのさぁ~、源三郎様の浮気者が。」
「う~ん、これは、困りましたねぇ~。」
「母ちゃん、源三郎様はなぁ~、オレのあんちゃんなんだから。」
「分かってるわよ~、だけど、本当にいい男だよ。」
「あの~、源三郎様、よろしいでしょうか。」
農家の女性が、何かを言いたいのだろうか。
「はい、何か。」
「源三郎様、オラの、父ちゃんは、今、洞窟行ってるんだけど。」
「はい、其れは、私も、皆さんに感謝をしておりますので。」
「うん、でも、私は、他の話しなんで。」
「他の話って、聴かせて頂けますか。」
「うん、オラの家は、お米を作ってるんですが、今年も、余り良く出来なかったんです。」
「はい、其れは、我々にも責任が有ると思っております。」
「源三郎様、オラは、農民だけど、オラ達も色々な事を考えて要るんですよ、其れで、オラは家の
周りに畑を作って、野菜を作ってるんですがね、其れがね以外と良く出来るんで、オラも、驚いて
るんです。」
農婦は、一体、何を言いたいのだろうか、源三郎も、少し酔いが回ってきている。
「其れは、良かったですねぇ~、其れで。」
「はい、オラも、考えたんですが、其れで、オラは、父ちゃんに内緒で、田を耕し、畑に換え様と、
其れでね、野菜の其れも、漬け物用にと思って、大根の種をたくさん蒔いてるんです。」
そうなのか、お米が不作ならば、畑に換えて、野菜を作る、だが、稲を育てる田と、野菜を育て
る畑では、其れでも、この農婦は、必死で耕したのだろう。
「其れで、大根は、如何でしたか。」
「はい、其れがね、オラも、何故だか分からないんですがね、大根がすくすくと育ってるんで。」
「えっ、其れは、本当何ですか。」
「源三郎様、オラが、一番、驚いて要るんですよ、其れに、オラが考えたって分からないし、で、
この話しは、まだ、父ちゃんには言って無いんですよ。」
源三郎は、暫く考え込んでいる、まだ、時期としては、遅くは無い、今の農婦が言った、大根が
大量に出来るので有れば、今からでも、農夫達に大根の栽培に入る事は出来ないだろうか。
「有難う、奥さん、私も、皆さんに相談したいと思いますので。」
「源三郎様、でも、オラが勝手にしてるんで。」
「はい、勿論、承知していますからね、何も、心配される事は有りませんよ、まぁ~、其れよりも、
食べて下さいね。」
「母ちゃん、お城の中って、物凄いんだ、大きなお部屋がいっぱい有ってね。」
「ふ~ん、そうなのかい、良かったねぇ~。」
「母ちゃん、オラ、お腹が減ったよ。」
大勢の子供達は、次々と部屋に入り、父親や、母親に話すので有る。
子供達も、お城の中を色々と探検したのだろうか、子供達の目は輝かせ、自慢している。
農夫も、漁民も、其れに、あの男達も満足そうにしている様子を、殿様は、別のところから襖を
少し開け覗いて要る。
「うん、これで、良いのじゃ、其れにしても、源三郎と言う家臣は人気が有るのぉ~、其れに、家
臣達も、女中達もだが、普段は見せぬ笑顔になっておる、これが、次の役目に就いても生かされる
のならば、余も、少しは考え方を変えねばならぬのぉ~。」
殿様は、独り言を言っている。
「源三郎様、あのお侍様達にも飲ませていいのか。」
源三郎は、待っていた。
「はい、勿論ですよ、侍達も、本当は、飲みたいと思っておりますかね、皆さんで、飲ませて上げ
て下さいね。」
「よ~し、みんな、あのお侍様達にも飲ませようぜ。」
「よ~し、じゃ~、みんなで行こう。」
農夫や、漁師達が、一斉に廊下近くに居る、家臣達に向かって行き、お酒を勧められても、最初
は、断っていた家臣達も、漁民や、農民が、どの様に話をしたのか、定かではないが、全員が、源
三郎を見ている、源三郎は、飲んで下さいと言う様な合図を送ったのか分からないが、最初に吉永、
が飲むと、他の家臣達も、次々と飲み、家臣達は、返杯を始め、一人が始めると、その後は、返杯
が続き、彼らの周辺では、大声で笑い、飲み、食べ、その頃になると、この大きな部屋の中に居る、
賄い処の女中達も、腰元までが、農村や漁村の女性達の中に入り、どの場所でも、大声で笑い、飲
み、食べ、そして、また、大声で笑い転げるのだ。
ご家老様も、部屋の外から見ているが、源三郎が、時を掛け、漁民や、農民までが見方に付き、
今、この場に居る、全ての家臣までが一緒になり、これで、工事は成功する事は間違いは無い。
漁民や、農民達の中には、酔いが回り、一人、また、一人と眠り始めた。
「うん、これで、いいんだ、子供達も満足したのかなぁ~。」
源三郎は、独り言を言って、周りを見ると、やはり、満足そうに眠って要る。
家臣達と、漁民、農民、其れに別の男達は、まだ、続いている。
源三郎の周りには、十人程が、まだ、話しの続きをしている。
「ねぇ~、源三郎様。」
「はい。」
「私、寂しいのよ。」
「ご主人は。」
「今、お侍様と飲んでるのよ。」
「ご主人に叱られますよ。」
「う~ん、源三郎様の意地悪。」
「まぁ~、怒らないで下さいね、私も、大変、辛い立場でしてね。」
「ふ~んだ。」
漁師の奥さん達は、何人も、源三郎に誘いを掛けるが、源三郎は、言葉巧みに断って要る。
その様な、源三郎の姿を目で追っている腰元が居る、勿論、源三郎も腰元の動きは知って要る。
「源三郎様。」
元太が、一升枡、二つ持って来た、枡には、並々とお酒が入って要る。
「源三郎様、どうぞ。」
「わぁ~、これは、一升枡ですか。」
「そうですよ、オラの酒を飲んで下さい。」
元太は、お酒には相当強いのだろう。
「勿論、頂きますよ。」
源三郎は、元太が持ってきた、一升枡を受け取り、ごくん、ごくんと、喉を鳴らしながら飲むと、
元太も、同じ様に喉を鳴らしている。
「源三郎様、オラ達は、これから、どうなるんですか。」
「そうですねぇ~、今の洞窟が、完成するまでは、まだ、数年掛かると思いますので、当分の間は、
この仕事が続くと思いますのでねぇ~。」
源三郎は、洞窟から、お城までの隧道が、何時、完成するのかも分からない。
源三郎は、今の洞窟内の整地が終わると、次の洞窟に取り掛かり、其れは、接続した隧道を、上
田、菊池の両藩を隧道で繋げる計画までを、頭の中で描いており、その為には、我が藩の隧道と、
洞窟の整地を早く終わりたいので有る。
「じゃ~、オラ達にも仕事は有るんですか。」
元太は、仕事が無くなると考えていた。
「元太さん、何も、心配は有りませんよ、私の、頭の中にはねぇ~。」
まだ、はっきりと決まった訳でも無いが。
「そうですか、オラ達の仲間がね、この仕事が続ければ、おまんまがって。」
何故、この海で、魚が獲れなくなったんだろうか、源三郎は、海の知識は無いが、漁に出れば、
何時でも、魚は獲れると思っており、其れは、上田も、菊池の漁師達も同じ事を言っている。
其れでも、漁師達が食べるだけの魚は獲れる、だが、年中、魚ばかりを食べる訳にも行かない。
主食のお米が豊作になっても、不漁の為に魚を城下で売る事も出来ず、お米を買う、お金も無い
のだと、だから、工事が当分の間続くので有れば、食べる事も出来るので有る。
「元太さん、大漁とは、申しませんが、皆さんが食べるだけの魚は確保して頂きたいのです。」
「オラ達にですか。」
「はい、其れと、洞窟で掘削工事に入っておられる人達の分だけでもと。」
「だから、手分けして、漁に行くのですか。」
「はい、其れには、他の訳も有りましてね、例えば、幕府の密偵が、この浜に来ても、漁師達は、
沖に漁に行くが、不漁だと分かれば、我々の工事を知られる事は無いのですが、若しもですよ、誰
も、漁に行かずに、其れでも、食べて要ると分かれば、裏に何か有ると、疑われれば、付近に何か
有ると考え、調べられる可能性も有り、其れが原因で知られると、大変な事になりますので。」
「源三郎様、じゃ~、オラ達は、お芝居で漁に行くんですか。」
「まぁ~、その様になりますねぇ~。」
この頃になると、あの騒がしかった、漁師や、農民、其れに家臣達も、酔いからだろう、殆どが
その場で眠りに入っており、女中達も、腰元達も、寝息を立てて要る。
源三郎も、相当飲んでいるので、少し、足元がふら付いて要る。
「源三郎様、大丈夫ですか。」
あの腰元だ、何と、美しい女性だろうかと、源三郎は、胸が少し時めいた。
「はい、私は、大丈夫ですから。」
「どちらに。」
「はい、私は、部屋に戻りたく、思って要るのですが、無理の様ですねぇ~。」
「私で。」
腰元は、声を止め、確かに、今、この付近の者達の殆どが、お酒の酔いで眠って要る。
だが、これ以上は言えなかった。
「貴女は、以前から、このお城に。」
「私は、まだ、最近で、御座います。」
この腰元は、何故か、気品が有り、普通の出では無いだろう、何か、特別な事情でも有るのだろ
うかと、源三郎は、思っては要るが、源三郎は知らない。
実は、名を雪乃と言って、上田藩の隣に有る、松川藩、藩主の娘で、お姫様なのだ、有る事情で、
今は、野洲藩で腰元に身を隠している。
今は、何も聴ける様な状態では無い、お酒の酔いも手伝ってなのか、足元がふら付き、頭は、少
しぼ~としている。
「申し訳有りませんが、私は、このままで宜しいので、有難う、御座いました。」
源三郎は、その場に座り込んでしまった。
「あっ、源三郎様。」
雪乃は、源三郎を支え様とした弾みに、二人は倒れ、源三郎は、雪乃の身体の上に乗った。
源三郎は、慌てて雪乃の身体が滑り下りた、だが、何故か、雪乃はニコリとして。
「源三郎様、大丈夫でしょうか。」
「はい、誠に、申し訳、御座いませぬ。」
頭を下げたつもりが、今度は、源三郎の顔が、雪乃の顔に、再び、源三郎は離れたのだが、何故
か、雪乃の顔は赤く染まり、雪乃も慌てて起き。
「源三郎様、知りませぬ。」
と、雪乃は、反対を向いては要るが、何故が、胸がドキドキとして要る。
「申し訳、有りません。」
頭を下げた、源三郎も、何故か、心臓がドキドキと踊り、今まで、この様な経験無く、初めてだ。
「なんだ、心の臓が、ドキドキとしている。」
と、源三郎も、思った。
雪乃の、顔は赤く染まり、身体中の血が騒いでいる、雪乃は、そのまま、何も言わず、走り去っ
て行く。
「幾ら、酔っているとは言え、あの腰元を押し倒し、正かと言える事まで、どの様な顔をして許し
を得れば良いのか、う~ん、これは、本当に困った、一体、どうすればいいのだ。」
源三郎は、何時の間にか、お酒の酔いで眠ってしまった。
そして、明くる日の朝、広間で眠っていた、漁民や、農民、その他の者達も、次々と起きてきた。
「お早う、あ~、よ~く、眠ったわよ。」
「うん、オラもだ。」
「わぁ~あ、母ちゃん、みんな要るよ。」
「あ~ら、本当だ、あれ、私、何時、眠ったのかしらねぇ~。」
「母ちゃん、今頃、何を言ってるんだ、あんちゃんが困ってたよ、あんなに絡み就いて。」
「えっ、本当なの、母ちゃんは、何も、覚えて無いんだもの。」
「まぁ~、よくもそんな事を、オレだって、聴いてられなかったんだぜ、よくも、あんな事言える
よ、子供の前で。」
「げんた、母ちゃんは、一体、何を言ったの。」
「オレが、そんな事言えるかぁ~、あんちゃんに聴いて見ろよ。」
「そんなに酷い事を言ったの。」
「酷い処の騒ぎじゃ無いよ、でも、あんちゃんは、何も言わないよ。」
「ねぇ~、げんた、一体、どうしたらいいのよ~、ねぇ~ってば。」
「オレは、知らないよ、母ちゃんは、これから、一生、お酒を飲まない事だね。」
「うん、分かったわよ。」
げんたの母親は、下を向き、大人達は、誰もが、何時もより多く飲んだが、誰も、二日酔いだと
言う様な者も居らず、殆どの者達が起きた頃。
「さぁ~、皆さん、朝ご飯ですよ~。」
「え~、朝ご飯付きか、凄いなぁ~。」
「皆さん、起きて下さいよ~。」
「私達も、お手伝いしますので。」
「有難う、じゃ~、私と、一緒に来て下さい。」
「は~い。」
農村と、漁村の女性達が、女中の後に就いて行く、暫く行くと、賄い処に入った。
「わぁ~、凄い、私は、初めて見たわ。」
農民や、漁民が、お城の中に入る事も聞いた事が無い、更に、女性達が、賄い処に入る事など、
他の藩では考えられないので有る。
「急がないでいいのよ、ゆっくりとね。」
「はい。」
日頃、食事の用意は出来ても、今まで、これ程、大勢の食事を運ぶ事など初めてで、其れでも、
やはり、主婦だ、慣れると早い。
「さぁ~、其処をどきなさいよ。」
「お~、怖いよ。」
農夫はお道化、傍で聞いて要る家臣達は、笑っている。
「さぁ~、みんな、食べていいわよ。」
「は~い。」
子供達は、朝から元気良く食べ始めた。
「なぁ~、父ちゃん、お城は、毎日、こんなに美味しい物を作ってるのか。」
「う~ん、父ちゃんも初めてだから、知らないよ、お侍様に聴いてみな。」
「うん。」
「昨日と、今日の朝は特別なんだよ、侍もね、みんな、自分の家で食べるんだ、だから。」
「ふ~ん、じゃ~、今日の朝も、オラ達の為に。」
「うん、そうだよ、我々、侍はねぇ~、君達のお父さんや、お母さんが作られた、お米や、野菜を
食べさせて頂いてるんだ、だけど、今日は、特別に、我々、侍も食べる事が出来るんだよ。」
「ふ~ん、じゃ~、源三郎様もだね。」
「う~ん、源三郎様か、あの人だけは特別だと思うんだ、だけど、我々も知らないんだ。」
「ふ~ん、あっ、そうだ、源三郎様は。」
「そうだ、源三郎様は、何処に。」
みんなが探したが、何処にも居ない、一体、何処に隠れて要るんだ。
「源三郎様~。」
「あんちゃん、何処に居るんだ。」
暫くすると、広間の隅に避けられていた屏風の裏側から出てきた。
「あ~、よ~く、寝たよ。」
「あんなところから出てきたよ。」
「あんちゃ~ん。」
「お~、げんた、どうしたんだ。」
「あんちゃん、何、言ってるんだ、あんちゃんが消えたって、みんなが心配してたんだぜ。」
「其れは、皆さん、申し訳、有りません。」
「な~んだ、オラはてっきり。」
「あんた、其れ以上は。」
「うん。」
「何ですか、私も、昨夜は良く飲みましたので、殆ど、覚えておりませんので。」
「えっ、何だって、あの腰元さんと、お話しをしてたんですよ。」
「本当に、何も、覚えておりませんので。」
「なぁ~んだ、じゃ~、面白くないよ、オラは、あの後、どうなったのか、気になったんで。」
しまった、見られてしまったのか、え~い、この際だ、最後まで、知らぬ、存ぜぬで通すしか方
法が無いと、源三郎は思い。
「本当なんですよ、今、目が覚めて、何で、あそこで眠ったのかも覚えておりませんので。」
「さぁ~、さぁ~、其処の、源三郎様、早く座って下さいよ。」
「はい、済みませぬ。」
賄い処の女中達も、腰元達も、昨日、大宴会が始まるまでとは全く違い、誰もが、ニコヤカな顔
で配膳している。
其れに、家臣達も、何時もは、堅苦しい顔付なのに、今朝は、全く違い、漁民や、農民達の間に
入り、何か話しながら楽しく食べて要る。
その様子を、殿様は、昨夜と同じ所から見て微笑み、朝食も終わる頃。
「なぁ~、みんな、聴いて欲しいんだ、オラ達は、何て、素晴らしい仲間が、こんなに大勢いるん
だと、昨日の夜、思ったんだ、其れで、みんな、明日からは、お城のお殿様の為、源三郎様の為に、
今まで以上に頑張って行きたいんだけれど、みんなは、どうだ。」
「元太、オラも同じだ、オラも、みんなも、源三郎様を助けるんだ。」
「よ~し、オラもだ。」
「よ~し、オレ達もやるぜ、まぁ~、オレ達に任せなよ、オレ達は、源三郎様に命を預けるぜ。」
「よ~し、オレもだ。」
「わしもだ。」
何と、集まった、領民は、源三郎様の為にだと、この様な光景が、他の藩で有るだろうか、いや、
聴いた事も無い。
「皆さん、本当に、有難う、でも、決して無理だけは駄目ですよ、事故だけは起こさないで、下さ
いよね。」
「源三郎様、みんなも分かってますよ、なぁ~、みんな。」
「お~、そうだよ、任せなって。」
「源三郎様、明日からも元気で、仕事に入りますよ。」
「そうですか、皆さん、有難う。」
「じゃ~、みんな、帰ろうか。」
「うん。」
「お侍様、有難う、御座いました。
今度、オラの村にも来て下さいね、まぁ~、このお城よりも、少し小さいですが、オラのお城で
すからね。」
「はい、必ず、行きますので。」
「じゃ~、お姉ちゃん、さようなら。」
子供達も、腰元達や、女中達に手を振って帰って行く。
その後ろ姿に、家臣達も、手を振って要る。
「源三郎。」
「殿、有難う、御座いました。
殿のお陰で、私が、考えておりました以上の成果が得られました。」
「うん、余も、嬉しく思っておる、昨夜も良かったが、何と、家臣達が漁民や、農民達の間に入り、
一緒に朝餉を頂くとは、余も、全く、考えておらなんだぞ。」
「はい、私も、本当に、驚きました、これで、これからの仕事も楽になると思います。」
「源三郎、まだ、残っておるぞ、全てが満足出きたとなれば、余もと言うより、漁民も、農民も大
満足してくれると思うのじゃ。」
「はい、私も、その様に思っております。
其れで、私は、少し休みを取り、直ぐ、上田に向かいます。」
「源三郎、何故、その様に急ぐのじゃ。」
「はい、私は、今が、勝負だと感じております。」
源三郎は、何故か、一気呵成に行くつもりで有る。
「そうか、菊池と同様に行うのか。」
「はい、でも、私は、今で無ければ、後では、何故か、分かりませぬが、後悔する様な気がしてお
りますので。」
「よし、分かった、もう、何も言わぬ、源三郎の思い通りに致せ。」
「はい、有り難き、幸せで、御座います。
では、私も、準備も御座いますので。」
「そうか。」
源三郎は、殿様に頭を下げ、急ぎ、自室に戻り、旅支度に入るが、その後ろ姿をそっと見て要る、
一人の腰元が居る、だが、源三郎は、全く、気付いていない。
源三郎は、上田が、洞窟の掘削工事に入らせる為の策を考えながらの準備だが直ぐ終わり、大手
門に向かう、その時、寂しそうな顔をし、廊下の端から見る、一人の腰元。
殿様も、その腰元を見て要る、だが、今は、声を掛けぬ方が良いと、だが、果たして、源三郎は、
知って要るのか、当の源三郎の頭の中は、上田藩の殿様や、ご家老達に、どの様に話を進めれば、
良いのかと方策を考えながら、大手門を出て行く。
その時、朝、五つの鐘が鳴った。
「朝、五つか、急いで行けば、夕刻には、上田の城下に入る、よし。」
源三郎は、急ぎ足で、上田に向かい、そして、予定通り、夕刻に上田の城下に入った。
城下は、以前と変わらず、城下の人達も、何ら、変りも無く、旅籠も以前と同じ所に入った。
「あっ、お侍様、以前も、私達のところに、お泊まり頂いた様に思うので、御座いますが。」
やはり、宿屋の番頭だ、特に、侍の顔立ちは覚えて要る。
「はい、よ~く、覚えて頂き、私も、有り難いです。」
「お侍様、明日は。」
「はい、お城の方に用事が有りまして。」
「左様で、御座いましたか、近頃、お城のお侍様が、よく、城下に来られ、何か、忙しくされてお
られる様子でして。」
「そうですか、では、お城で何か有ったのでしょうか。」
「いいえ、私は、何も分かりませんが、で、お侍様、以前のお部屋で宜しいでしょうか。」
「はい、其れで、十分ですよ。」
「はい、では、私が、ご案内致しますので。」
「番頭さん、忙しいのですから、宜しいですよ。」
「いいえ、私は、何故か、分かりませんが、以前、お侍様が、お泊りに頂いてからですが、急に、
ご城下が慌ただしくなり、大勢の人達が、お泊り頂ける様になりましたので、お侍様は、福の神で、
御座いますよ。」
「大勢の人達が、ご城下に来られるとは、その人達は、私の様な侍なのですか。」
「いいえ、殆どが、商人でしてね、色々な物を売り買いにだと思いますが、私も、余り、詳しくは
聴けませんので。」
「確かに、そうですねぇ~、私も、其れは、よ~く、分かりますよ。」
「では、このお部屋で、御座いますので、其れで、先にお風呂になさいますか、其れとも。」
「そうですねぇ~、では、先に、お風呂に入りますので、其れで、番頭さん、一本、付けて頂けま
すか。」
「は~い、勿論で、御座います、では。」
番頭は、戻って行った、番頭の話しでは、大勢の商人だと言ったが、果たして、商人だろうか、
其れに、急に忙しくなるとは、やはり、幕府の密偵が動いて要るのか、この部屋に入れば、丁度、
旅籠の出入りも良く分かる。
源三郎が、半時ばかり、外を見て要ると、やはり、番頭の言う通りで、前の道を旅姿の人達の往
来が多い、誰もが、旅慣れて要る様にも見える。
「うん、あの歩き方は商人では無い。
源三郎は、大急ぎで、店を出、その男の後を付けて行く、一体、何処に向かうのか、その男は、
足早に、城下を過ぎ、隣の藩へと向かって行く。
「何故、上田を通り過ぎて行く、さては、隣の藩に向かうのか、まぁ~、何れ分かるだろう。」
源三郎は、独り言を言って部屋に戻り、お風呂に入りながら考えていた。
「何故、多くの商人が集まるのか、どう考えても、分からない。」
あれ程、静かな城下が、源三郎の知らない内に賑やかな城下へと変わった。
源三郎が、米問屋と、海産物問屋に下した、穀物類と、海産物を安く売り出せと、其れが、噂と
なり、直近の松川藩から、買い出しに来る、その中には、松川藩の米問屋も来ている。
だが、源三郎は、まだ、知らない、そして、明くる日の朝、源三郎は、上田藩の大手門で。
「私は、源三郎と申しますが、阿波野様に、お会い致したく、お願い申します。」
大手門の門番は、源三郎を覚えていた。
「はい、直ぐに、お取次ぎ、致します。」
上田藩の阿波野は、何時、源三郎が来るかも知れないが、源三郎が来れば、直ぐ連絡する様にと、
門番に伝えていた。
暫くして、阿波野が作業着で走って来た。
「源三郎様、お久し振りで、御座います。」
「阿波野様も、お元気で何よりで、御座います。」
「源三郎様、こちらへ。」
阿波野は、源三郎を、家臣達の休み処となっている部屋に案内した。
「皆さん、源三郎様が、来られました。」
「源三郎です、皆様、お久し振りで、御座います。」
「源三郎様のお元気な姿拝見し、我々、一同も安心、致しました。」
「有難う、御座います、どうぞ、皆様、お役目を続けて下さい。」
「はい、では。」
家臣達との挨拶も簡単に済ませ。
「阿波野様、昨日、ご城下に入りましたが、大変な賑わいで、私は、驚いて要るのですが、何故、
あの様になったのですか。」
「はい、源三郎様が、米問屋などに、城下では安く売れと申されました結果、あの後、暫くしてか
ら、近隣から、上田のご城下に行けば、お米などが安く手に入るとの噂が流れ、連日、あの様に大
勢の人達が、買い付けに参りますので、城下は大いに栄出したのです。」
「では、漁民や、農民に食料は届けられて要るのでしょうか。」
「はい、其れは、今も、定期的に届けておりますが、問屋の方でも正かと思ったのでしょう、今で
は、買い付けた食料は、漁民や、農民へ先に届け、残りを城下に持って帰ると言う様に変えており
ますので。」
「そうですか、其れをお聞きし、私も、一安心しました。」
「源三郎様、今日は。」
「はい、でも、その前に、昨日、こちらに着き、宿から見ておりますと、一人の怪しげな人物が宿
の前を通りましたので、私は、一応、念の為にと、その人物の後を付けましたところ、上田のご城
下を通り過ぎたのですが、隣のお国は、一体、どの様な国なのですか。」
源三郎は、雪乃の父親が、松川藩の藩主だとは、この時は、分からずで、正か、三藩で、推し進
めて要る工事が、この時、松川藩にまで、及ぶとは、全く、考えもしなかったので有る。
「はい、隣は、松川藩と申しまして、我が上田藩同様、漁業も農業も不振が続いていると聞いてお
ります。」
「其れは、誠でしょうか。」
「はい、私も、城下で、商人から聴きました。
漁業も、農業も細々としており、其れで、我が藩にまで来て、買い付けして要ると、ですが、あ
の国では陶器物の生産で、今も生き残って要るのだと聞きましたが、我が藩でも、松川藩に行き、
陶器物を買い入れております。」
「私も、初めて聞きましたが、その陶器ですが、一国を潤すだけの売り上げが有るのですか。」
「多分だと思いますが、源三郎様のお国でも、食器類に関しては、松川藩まで出向かれ買い入れて
おられると思います。」
其れが、原因なのか、あの不審な人物は、一体、何を目的に、松川藩に入って行ったのだ。
「阿波野様、陶器だけで、一国を潤うだけの売り上げが有れば、当然、幕府からも上納金の上乗せ
の書状が届いて要ると思うのですが。」
「私は、詳しくは存じませんが、噂では、今の、倍を要求されて要ると。」
「今の、倍を出せと、では、藩主殿も大変、困られておられますなぁ~。」
「その様に、私も、思いますが、今の窮状を救うべきか、我が藩にも要請が有ったと聞いておりま
すが、我が藩も、其れだけの余裕も無く、別の、お国にお願いをされて要る様なのですが。」
「一国を救えるだけの財力を持つ国が有るのでしょうか。」
「源三郎様、実はですねぇ~、悪い噂が有りまして。」
「悪い噂ですか、其れは、松川藩のでしょうか。」
「はい。」
上田藩の阿波野が言う、松川藩の悪い噂とは、一体、どの様な噂なのか、源三郎は、何の為に、
上田藩に来たのだ、だが、あの不審な人物は、上田藩に入る前に、野洲藩の城下にも、いや、菊池
の城下にも入った考えなければならない。
其れにしても、あの人物は、一体、何者なのか、やはり、幕府の密偵なのか、これは、松川藩の
問題だと見過ごす訳にも行かず、源三郎は、困った。
「う~ん、一体、どの様にすれば良いのだ。」
「源三郎様、城下に、毎日、どれだけの人達が、訪れて要るのか、今の状態では、我々も調べる事
も出来ず、正直、困っております。」
「確かに、阿波野様の申される通りで、御座います。
私は、急ぎ、戻り、少し調べて、何れかの日に参りますので。」
源三郎は、直ぐ、上田藩を後にし、源三郎の取った方法が間違っていたのか、いや、自国では、
何も問題として起きてはいない、だが、松川藩の問題だとは、簡単には行かない状態になりつつあ
る事は間違いは無い。
果たして、どの様な解決方法が有るのだ、源三郎は、最大の危機を迎えようとして要る。